あまさがとける
ゆらゆらちかちか、提灯お化けの群れが頭上で遊んでいるのを放置して、おれはあくびをする。色とりどりにも程があるわたあめの山が、必要以上にもこもこにならないように割り箸で絡めとっていく。
「はぁ……」
どうしたって、思わずため息をついてしまう。親戚の頼みでわたあめ屋を手伝っているが、なんでおれがこんなことをしなきゃいけないんだか。
本当なら、学校で気になっているあの娘を誘ってデートに行きたい。まぁ、華やかでクラスのカースト上位の女子相手にそんな勇気もないけど。
ちらほらと訪れる家族連れや友人同士の客を相手するのはいいとしても、食べきれるかわからないなどとほざく彼女を甘やかしている男の姿を見てしまえばげんなりとした気持ちになった。
そんな馬鹿げた客に対応する時は、なるべく感情を無にして。
「悪い、しばらく一人で対応頼めるか?」
「あ、はい……」
スマートフォンを耳に当て、慌てた様子のいかつい親戚が屋台を離れる。そうしてぽつんとファンシーすぎる店構えの屋台のなか、おれは一人になっていた。
「……」
途端、雪崩れてくるように訪れるカップルの群れ。わたあめなんぞ要らないだろうと思えるほどに甘ったるい雰囲気を纏って、浴衣姿の恋人共がやってくる。
――ああくそ、うんざりだ。おれだってあの娘と一緒に!
とはいえ、客は客。無視をしたり追い出すわけにもいかず、上っ面の笑顔を浮かべて、代金と引き換えにふわふわのわたあめを押しつけていく。
これが終われば十分なバイト代が貰えるのだからと自分に言い聞かせ、おれはにこにこと仕事をこなす。
ふいに怒涛のような客の波が去って、祭の喧騒と共に店先の通行人を眺めるだけの時間が続く。
目に留まったのは、いつのまにかひとりで道の端に佇むちいさな女の子だった。
「あ……、」
ぱっと見、小学生くらいだろうか。それにしては着ている浴衣が、シックな色の古典柄。何処かやわらかくて儚いその表情は年頃のわりに静かで、黒い椿の髪飾りと帯留めが印象的だった。
惹きつけられたように魅入っていたのは、その娘の目があんまりにも綺麗だったからだ。まっかな眸の色はずっと心配そうに揺れていて、思わず声をかけようとした途端。
「あれ、君どうしたの? 迷子?」
「可愛いね、誰か探してんならオレらも一緒にさがそーか」
おれの気になる女子に釣り合いそうな、いかにもカースト上位のいけ好かない男子が二人。軽々と彼女に話しかける様子に、先を越されたような心地がした。
けど、その娘は戸惑った様子を見せている。そうだよな、こんな奴らに声を掛けられたらこわいに決まってる。
だから、おれは勇気を出して今度こそ声をあげようとして――、
「おい」
落ち着いた声が聞こえて、浮かれた男子達がそっちを見る。おれもつられて視線を向けると、そこには黒のジャケットを羽織った彼岸花の浴衣を着こなす男が立っていた。
「ひっ」
「俺の連れになにか用か?」
「なっなんでもないです……!」
男の問いにそれだけ答えて、男子達は逃げるように立ち去っていく。女の子は男を見上げて、口を開く。
「|零壱《れーち》……」
「悪い、しばらく一人にさせたな」
ううん、とちいさく首を横に振って、かすかにその表情がやわらぐ。ああ、きっとこの娘にとって、彼は随分と大切な人なのだろう。
「腹減ってないか?」
ひょいっと女の子を抱きあげて、男は彼女に尋ねる。サングラスをかけていて明らかにカタギではなさそうな見た目の彼と、女の子のかわいさで頭がどうにかなりそうだった。
「……えと。わたあめ、食べていい? ……ですか?」
そっとこちらの看板を指さした彼女に頷いて、男がこちらへと歩いてくる。
結局のところ、さっきの男子みたいな奴らが出会いを勝ち取るし、こういう男が頼りになるんだ。
おれはなんの勇気もないままに、こうしてその娘のためにもこもこのわたあめをつくることしかできなかった。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴 成功