添削
盲信している者の――存在の――途方もない美学については、最早、常人では暴けないものだ。たとえば、常人が、己の生涯の全てを捧げたとしても彼等彼女等の境地に至る事は出来ない。常人が妥協し、此処こそが到達点なのだと、至高天なのだと、口を酸っぱくした場合は別なのだろうが、それでも『真理』に身投げする事など到底出来ないし、赦されない。一部の天才の脳髄には『あたりまえ』にソレが蓄えられているのだから、溜め込まれているのだから、成程、秀才のラインでは絶対に不可能な筈である。気が付いたら√を跨いでいるのと、自らの意志で、意思で√を渡るのではまったく天と地ほどの差なのだ。出来ると思った事を呼吸のようにしてしまう。この肺臓こそが、この脳髄こそが、吸血鬼としての振る舞い方と考えられよう。今日は……ああ、そうだ。カタツムリの殻を倣った容器にプリン液を注いでみようかな。いつ、あの子が来るのかもわからないし、優雅な一日には下準備が重要だからね。楽園に楽園は在るのだから、このマトリョーシカ、堪能しなくては勿体ない。一粒でも、一滴でもこぼしてしまったらプリンの妖精か何かに怒られるのかもしれない。そういえば、あの時は『タルト』だったけれども、今回は滑らかさを優先したいからシンプルなものにしようかな。プリンを作るのには……固めるのには……たっぷりとした時間が必要だ。マスターは今、留守だから……何かを頼む事も出来ないし……折角だから、昨日買っておいた本でも読んで待とうかな。取り出した本のタイトルは『聖なる夜』。表紙に描かれているのは何かを掲げている少年だ。少年は神に祈りを捧げており、何かを待っているかのような様子だ。……こういう、敬虔な人もけっこう好きなんだ。この少年の結末が『めでたし』だったら素敵なんだけど……。ぺらりと、最初の頁に指を這わせる。目次に並んでいるのは中々、物騒な章タイトル……少年の旅立ち……犬との出会い……犬とのわかれ……戦争……聖戦……? いやいや、ここで読むのをやめるなんて選択肢は、僕にはないさ。戦争も人の心がはじめたもの。僕が否を唱えるだなんて、そんな筈がないだろう……。ペラペラと、文字を、文章を目の玉で追っていく。キャンディのように粘ついて、執心するかの如くに物語の中へと這入っていく……。少年が孤独になったところで、ぴたりと、思考が揺れる。これは……あまり『めでたし』で終わってくれそうに、ないかな……。
√汎神解剖機関――とある国――の隅っこ、少年は絶望的な現実に眩暈を覚える他なかった。自分の笑い声が周囲の嗤う声に重なって、掻っ攫われて、ああ、蹲る事しか赦されない。これが、戦争。これが、血で血を洗う戦争。絨毯のように斃れていく人、人の群れ。彼方の兵士が勝利を謳えば、別の兵士が『それ』を葬る。繰り返しだ。戦争とは、反芻そのものだ。誰が何を討ち斃したところで、今度は英雄が悪鬼の類として的となる。そうして、少年は気づくのだ。気づいてしまうのだ。僕は傍観者ではない、と。僕は確かに孤独だが、僕は確かに僕ひとりだが、巻き込まれてしまったのだから、悉くへの仲間入りを果たしてしまったのである。ぐっと握り締めたのは一本の槍だ。手足の如くに扱う事は不可能だが、だとしても、振り回されるよりはマシである。僕は戦うしかない。僕は続くしかない。僕は、僕が生き残る為にも――殺すしかない。決意をした瞬間だ。少年が兵士となった刹那の事だ。煙のように、霧のように、最果てより――影は出現した。
それは『群』であった。それは『軍』であった。槍と盾を構えた、未曾有の『もの』であった。影は魔王の如くに――邪悪そのものとして――戦争そのものに宣告した。我等は『悪魔』である。我等が主の命により、我等が主の『嗜好』により、これから、この戦争を終わらせる! この争いを終幕させると共に、この物語を『有耶無耶』にするのだ。最早、貴様等には『絶望』も『希望』もない。あらゆる痛みも、あらゆる苦痛も、我等の列に加わるのだ。さあ、聖戦だ。聖戦を始めよう。我等、主の無意識の奴隷、我等、我等、我等……!
少年は死んだ。死んでしまったが、それは、物語が幕を下ろした後の沙汰だ。悪魔の群れが、悪魔の軍勢が文字を、文章を――兵士を、戦争を――何もかもを蹂躙していく。串に刺された彼等の顔は映らない。ごうごうと、燃え盛る人の肉など、それこそ、だ。嗚呼、戦争は良くない。争うだなんて、そんな、不毛な事はしなくてもいい。だからこそ……吸血鬼。不毛の大地までは|読む必要がない《●●●●●●●》のだ……。
プリン……そろそろ、固まったかな。
元√能力名:霊能波
√能力名:盲神礼讃(アーク・レギオン)
「――我等、主の無意識の奴隷」
他√を「自身の現在地と同じ場所」から観察し、視界内の1体に【悪魔の軍勢による】ダメージを与える。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴 成功