ボトルノア・ガール
―――神様は、存在するのですか?―――
存在するとその宇宙の人々は答えることが出来た。ナノ・クォーク。|三つの世界《ウォーゾーン・汎神解剖機関・ドラゴンファンタジー》によって作り出された新物質。
加速器の中で、極小の粒子と粒子がぶつかり合うのは、まさにごくごくミクロの世界のビックバン。
その宇宙において、『実験開始』という言葉は『光あれ』という言葉と同義である。
極々微小の宇宙が出来ていた事を実験者達が知ったのは、実験開始がなされてから僅か10分後の事だった。あまりに微細なナノ・クォークは観測が困難。にも拘わらず、観測器が受容する情報量が爆増した。それにともない、ナノ・クォークの観測も完了。
研究者たちは自分たちの実験の成功に沸いたが、次の瞬間、顔を青ざめさせた。何せ、その爆増した情報量の原因が、未知の、何らかの言語体系を以て行われた”交信”によるものだったからだ。
出所は、加速器の中。つまり、科学者たちは加速器の中でナノ・クォークによる何か『生命』が誕生したという事を、この時はっきりと認識したのだ。
制御できない。全くどういったものかわからない生命の誕生を、科学者たちは恐れた。神になるつもりはもとよりないのだ。『人』を外れる恐怖のあまり、凶行に走ったのは一体誰だったか?もはやわからない。
だた、誰かが加速器を爆破したという事だけが、ただ一つの真実だった。
そして、ナノ・クォークにとっては破滅的な事態が引き起こされる1ナノ秒前、
「そろそろ『審判の日』か」
「そうね。そして出航日でもあるわ」
|ナノ・クォーク《フラスコ》の中の宇宙にて、とある二人の科学者たちが話をしていた。彼らの宇宙は特殊であった。そもそも電子以下の世界の生きる彼らは、ビックバンの瞬間から、宇宙の特性として量子の揺らぎを、あらゆる生命が感覚的に把握できた。
すなわち、|あらゆる可能性の観測《・・・・・・・・・・》が、彼らの宇宙の中において限定だが、可能だったのだ。
すべての可能性が見れるなら、争う必要がない。彼らは猿から進化するのも早かったし、宇宙に出て、全宇宙が平和的に団結すること可能だった。宇宙が平和。ならば何をするか。彼らは、『自分たちがどうして存在するのか』という哲学的な探求を行う事になり、そして『神々』の存在も認識するに至る。
そして彼らが、自分達を破壊しようとしてることも。
それを、防御する手段はあった。だが、彼らはそれをしなかった。何故か、自分たちの認識できる宇宙限定であらゆる可能性を観測できる彼らは、もはや緩やかに滅びるしかなかったからだ。
『何故?自分たちが生まれたのか』という究極的な命題にすら一定の答えを得てしまった彼らは、ある種生きる気力を無くしているとも言えた。
だからこその、この計画なのだ。
彼ら研究者が見据えるのは、三つのポット。それぞれが、この宇宙の生きた証として、彼らの歴史・風俗・科学技術、全てをナノ単位の情報として鋳込まれた、宇宙|外《・》移民船なのだ。
彼女たちは外の世界の人々とコミュニケーションが取りやすいように、人型をしている。
「楽しみだな」
「ええ、楽しみね」
なにせ、彼女たちは外の、|既知のない《・・・・・》、未知の世界へとこぎだすのだから。
それを見ることが出来ないのは残念だが、この悲しみや悔しさもまた、久しく感じてなかったと二人の科学者は、笑った。
ボタンを押す。これで、形成された量子トンネルと、この宇宙が崩壊する力を使って彼女たちは宇宙の外にはじき出されるはずだ。
その航海を幸福を祈って、二人の科学者は微笑みを浮かべた。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴 成功