シナリオ逆転
何方が先だったのか。
この世に未練などないと、この命に興味などないと、私は絶望していた。この絶望感は胎よりこぼれ出た瞬間からの友であり、私が唯一抱えている真実である。知っている。私は、私が何処までも醜悪である事を知っている。自他ともに認めるほどの醜悪なのだから、玩具としての『まと』にされる現実だって、仕方のない事だ。誰かの悪態が、誰かの暴力が、誰かの、顔の無い嗤いが――装飾品のように纏わり憑いてくる。おい、ブス、なんで学校に来てんだよ。昨日、オマエの弁当に消しゴム入っていた理由も忘れちまったのか？ ああ、君。今日の仕事なんだけど、残ってくれないか。俺？ 俺は大事な用事があるからさ、頼むよ。いや、大丈夫。君は座っているだけで良いからね……。なんで『こんな』ことも出来ないんだ。なんとか謂ったらどうなんだ？ ええ？ もう、私は、私自身の顔すらも認識出来なくなっていた。凸凹としている『もの』を撫でる。撫でる。撫でる……。チクショウ……。何処かに行ってしまいたい。何処かに消えてしまいたい。何処か、別のところに……！
ねえ、そこの君。顔色が悪いけれども、大丈夫かい？ いつの間にか私は、私の知らない道を歩んでいたようだ。声を掛けられたと『わかる』まで数秒、くるりと、身体を半回転させる。其処には『男』がいた。私のような醜悪な人間とは真逆の、莫迦みたいに美しい、悪魔のような『男』……。話を聞かせてくんない？ 君は、君が思っている以上に可能性を孕んでいるのだよ。孕んでいる……？ いや、そういう意味ではない。おそらくは比喩だ。何せ私には――そういう経験など欠片としてないのだから。だが、しかし。もしも。もしも私が子供を育てるとするならば……私は、私の遺伝子を抹消しなくてはならない。成程ねェ。それなら、君には『これ』を……。スパイスだ。ひとつまみのスパイスだ。粉微塵にされた赤……『これ』を……私は、わけがわからないまま、服用する。咽喉の奥……臓腑……熱が降りてくる……。効果は君次第、それじゃあ、良い人生を……。
私は腹を抱えて笑ってみせた。私は胎を抱えて嗤ってみせた。そう、文字通りに胎を抱えているのだ。卵のように熱を発している、大きな胎の露出、摘出……。中の赤子の性別や姿形は不明だけれども、私は生きる希望を掲げているのだ。何より、この仔はきっと私には似ていない。私のような醜悪ではない……。
🔵🔵🔵🔵🔴🔴 成功