シナリオ

二月は鬼の嘘

#√妖怪百鬼夜行

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 #√妖怪百鬼夜行

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 節分って知ってる?

 もともとは人間が持ち込んだ風習で。
 病魔とか、そういう目に見えないものを鬼と呼んで、豆をぶつけて追い払う二月の行事。
 もちろん、学校や大人は云う。
 目に見えない悪いものを鬼って呼んでるだけで、実際の鬼とは関係ないんだよ、って。
 だからお友達に鬼の子がいても、豆をぶつけたりしちゃダメだよって。
 だけど言葉通りの意味しか考えられない子供にとって、そんな説明なんて意味がない。
 だから、小学一年生のあの節分の日。
「やめろよ!」
 豆をぶつけられて泣いていたクラスメイト、鬼の人妖――|天野・鬼子《あまの・きこ》を。
 僕――人間、|大地・守《だいち・まもる》は庇ったんだ。
 やめておけば良かったのにね。
 きっと当時、ヒーローものにハマっていて、ちょっとしたヒーロー気分を味わいたかったのと。
 僕たち、人間が持ち込んだ行事だからと、責任感みたいなものも働いたのかもしれない。
 けど、まさか。いじめっ子たちを追い払った直後、助けた相手に。
「守なんて大っ嫌い!!」
 なんて、ののしられるとは思わないじゃない?
 まあ、人間が広めた行事のせいでいじめられて、しかもその人間がすぐ近くにいたら。
 嫌いにもなるだろうとは思うけどさ――。

「あたし、ほーんと守、大っ嫌い!」
「はいはい、僕もだよ!」
「お前らほんと仲いいな」
 そうして中学生になった僕たちは、顔をあわせればののしりあうという仲になってしまっていた。
 あの時鬼子をいじめていたクラスメイト。雲外鏡の人妖、|雲間・明《くもま・あきら》ともその後仲良くなって、三人で遊ぶことも多くなった。
 主に僕に突っかかる鬼子と、いい加減そんな罵声にも馴れて、それを適当にあしらう僕と。
「夫婦喧嘩はそのへんでー」
「「夫婦じゃねーし!」」
 それをなだめる明という役割が出来上がっていた。
 そして中学一年の今年の夏。

 鬼子が倒れた。

 雨が降っている。
 二月の雨だ、体が凍り付くほどの気温。
 そんな中、少年が走っている。
 裸足だ。
 少年――…守はこの一か月、毎晩走っていた。
 家から、近所の神社まで。
 お百度参り。
 何か強い願いを持つ者が、神社へ百度お参りをして祈願する祈りの祭事。
 かといって、人目がある昼日中にはできなかった。
 人に何をしているのかと聞かれたところで、説明なんて出来るわけがないから。
 だから夜だ。
 家族も寝静まった夜中、こっそりと家を出る。
 お願いします。
 お願いします。
 そう、本殿の中に、神様に願いを祈る。
「……どうか。どうかどうか、鬼子の体を治して下さい……!」
 本当は手術は失敗だったんだと……もう、長くないらしい。
 正月の三が日が過ぎた頃、明はそう云った。
 今、鬼子が入院しているのは妖怪専門医の総合病院で、人間は面会すらできない。
 だから、またお守りを託して、明にお見舞いに行って貰った。
 そこで明が会ったのは、相変わらず元気に喋り、笑顔を振りまく鬼子だった。
 でも、その帰り。
 病室の外、面会室のドアの向こうから聞こえて来たのは。
 鬼子のお母さんの鳴き声と、主治医の先生の声だったそうだ。
 バシャッ。
 99回目で転んだ。
 血塗れの足には、もう感覚は無かった。
 無性におかしくなって、笑えて来る。
 どうして、僕のことが大嫌いな女の子のために、こんなことをしているのだろう。
「……だって僕は」
 そうだ、僕は鬼子が好きなんだ。
 僕のことが大嫌いなあの子が、それでも好きだから。
 せめて出来ることがしたいんだ……!
 立ち上がる。
 足元で、雨と血と泥が混じって音を立てる。
 再び鳥居の前へ。最敬礼をすべく、神社の外へ出る。
 出た、瞬間――声を聴いた。
「子供よ。喜べ子供よ。そなたの願い、我が聞き届けようぞ――」
 ぞくりと背中を寒いものが走る。
 それはきっと、冬の寒さのせいで。
 耳に届く声は柔らかく、声音は本当の神様のように、優しい。
「……かみさま?」
「そうじゃとも。我はそなたから見れば神のようなもの――…さ、こちらへおいで」
 聞いていて気持ちがいい声。
 寒さのせいか、頭の中がぼんやりとして来て。
 声に導かれるまま神社の裏手、道なき山中を進む。

 そこは注連縄を張られた、かつては禁足地と呼ばれた場所だった。
 町に古くから住み、長き寿命を持つ妖怪なら、入ることはなかっただろう。
 そして多少なりと、漂う妖気も感じることが出来たかもしれない。
 しかし人間である守には、入るのに多少邪魔なロープに過ぎず。
 山の奥深く、紙垂を幾つも垂らした注連縄でがんじがらめにされた、その磐座を発見する。
「そなたを助けるに、一つ頼みがある。我は悪しきモノに封じられて力が出せぬ。で、あれば、そなたこの縄を切って我の封を解いておくれ。我を助けておくれ」
 声はいよいよ名調子。
 優し気でありながらも憐みを誘う声音は、まるで演技過剰な舞台俳優の如く、少年の脳裏に響く。
「そうすれば、彼女を、鬼子を助けて貰えますか」
「勿論じゃ。そなたの願いは、鬼子と長く共に在りたい、じゃろう?」
「はい!すぐにこの綱切りますから!」
 爪は割れて、指は血だらけ。
 けれど、何かに憑りつかれたかのように体は動く。
 最後には歯で噛みつくようにして綱の封を――解く。
「……よかった。これで……」
 そうして雨がやみ、朝の光が差す頃、少年は意識を失い。
「ようやった、小僧――これで晴れて自由の身じゃ!!」

 そして、朝靄の中。
 獣が牙を剥いて笑う。

「――…雨だな」
 窓の外へと視線を流して、|天國・巽《あまくに・たつみ》は呟いた。
「どちらさんもお足元の悪い中、集まってくれて有難うよ。ちょいと力を借りてェ」
 巽が云うことには。
 √妖怪百鬼夜行のとある町で、古妖が復活するという。
 その古妖、ある人間の少年を騙して封印を破らせた。
「中学生の名前は大地・守。ごく小さい頃に家族揃って、√妖怪百鬼夜行へ紛れ込んだらしいや。だが、家族揃って、ってェのが幸いしたな。なんとか世界にも慣れて普通に暮らしてた」
 だが、幼馴染が病魔に侵され、その快癒と引き換えに、古妖と取引をしてしまったのだという。
「とはいえ、相手は海千山千の古妖だ。奴らにとっちゃあ人間なんざただの餌か玩具――まともに約束を守る気があるかも怪しい。それどころか、約束なんざほうって、好きに暴れまわる可能性もある」
 また、巽の感覚的にこの星詠みはごく間近に起きる未来な気がするという。
「多分だが、お前さんたちが町に到着する頃。その守てェ子供、そのまんま山の中に倒れてる気がすンだ。助けに行かねェと死んじまう」

 やるべきことは三つ。
 守を探し、助け、事情を聞く。
 町の禁足地、磐座について調べれば、敵の正体も見えるかもしれない。
 鬼子や、二人の友人だという明について調べたり、接近してみても、何かしら有益な情報を得られる可能性もあるだろう。
「あとよゥ……これも確証がねェ話ですまねェが、今回の事件、何か嫌な予感がすンだ。ひょっとしたらお前さんたちは、見たくないような結末を見るハメになるかも知れねェ」
 すい、と真直ぐに視線を向けて龍眼の男は言う。

「だがそれでも、このヤマをほうっていいワケがねェ――…頼んだぜ、皆」

 雨が降っている。
 まるで夜の闇を、覆い隠すように。
 止む気配はまだ、ない。

マスターより

朧三太郎
 皆さまこんにちは。
 三太郎です。
 パロディではありません、リスペクトです。

 さて、今回のお話は√妖怪百鬼夜行。
 少年と少女の、悲しいお話になる予定です。
 少し後味が良くない物語になる可能性が高いので、ご参加の際はご了承をお願いします。

 なお、オープニング公開後、プレイング受付はあらためて開始の日付を切らせていただきたく思いますので、参加をご検討の方はご注意を。

●一章⛺『悪しき神は雨夜に囁く』
 【A】守を助ける/調べる。
 【B】磐座や町の禁足地について調べる。
 【C】鬼子or明について近づく/調べる。

 二章以降につきましては、一章の皆様の行動の結果で変動しますので、またのちほど断章にてご連絡いたします。

 守に囁いたのは何者なのか。
 鬼子の命は助かるのか。
 明に見えている二人の絆とは。

 どうぞ、皆さまの目を通してこの物語、語らせていただければと思います。
 宜しくお願いします。
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第1章 冒険 『彼、彼女は何故封印を解いてしまったのか』


POW 其のスタミナを活かし根気強く調査し続ける。
SPD 其の素早さを活かし走り回って調査する。
WIZ 調査は頭脳。其の頭脳を活かした堅実な調査を。
√妖怪百鬼夜行 普通7 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

エレノール・ムーンレイカー
……わかりました。たとえどんな結末になろうとも、私はこの事件の解決に全力を尽くしましょう。

町に到着したら、わたしは磐座や町の禁足地について調べます。図書館や資料館、または街の歴史を知る者たちを訪問し、歴史的資料や伝承を地道に調べます。
こういう調査とかはいままであまり縁がなかったのですが、第六感の閃きで何か閃けるかもしれません。
その後、磐座へ行き、交霊の呪法(コンタクト・オブ・インビジブル)でインビジブルにコンタクトを取り、古妖情報やこの3日間でここで何が起きたかを説明してもらいます。多分、タイミング的には、ここで起きたことを見ているはずです。

※アドリブ、連携歓迎です

●綺麗なエルフのお姉さんは好きですか?
「好きです」
「はい?」
「あ、いえ!な、なんでもありません、ごゆっくりどうぞ……」
 そそくさと去っていく司書さんを見送りながら、エレノール・ムーンレイカー(怯懦の精霊銃士・h05517)は、今のはなんだったのだろう、と、小首をかしげる。
 ちなみに美形である。
 さて、ここは今回の事件の現場となる√妖怪百鬼夜行世界は四国地方のとある町――キヌタ町。
 エレノールは町に到着後、すぐに町の図書館へと向かっていた。
 この事件、たとえどんな結末になろうとも、私は全力を尽くそう――。
 図書館内で見つけた地元の歴史書や民話をまとめたものに片っ端から目を通し、星詠みから語られた町の禁足地と磐座について調べていく。
 これまで、こういった調査系の事件とはあまり関わりが無かったエレノールだが、持ち前の真面目さと冷静さで、積み重ねた文献から有用そうなものをピックアップ、着実に資料としてまとめていく。
「ふむ……大妖の豪族、ですか」
 √妖怪百鬼夜行において古妖とは、人間をヒトとして認めるか否かという人間派、非人間派のいさかいの結果、本来は孤高の生き物であった妖怪の中で人間派が団結し、そこから排斥された妖怪たちを云う。
 それは時代的には大正より後のことであり、それより以前には妖怪たちはその凶暴性を誇り妖力を競いあい殺しあう生き物であった。
 となれば、力ある者は周辺地域の支配者層となるのが必然。
 歴史書を探ると、この町の地域は古い時代、タヌキの妖怪が統べる地域であったのだ。
「タヌキ……確かに妖怪の中でも、能く人を化かすとして有力な存在のはず」
 武士が台頭し、領主となっていく鎌倉時代より以前、この地域を支配していたタヌキの一族。
 今回の事件と関わりがあるかどうかは判らないが、エレノールの勘は何かがあると告げていた。
 約二時間の時を図書館で過ごしたのち、エレノールはさらに事件のあった禁足地へと赴く。
 守が封印を破ってから数時間、そろそろ夕暮に近い時間。
 山の中、獣道すらない茂みの奥。
 聞いていた通りにあゆみを進めれば、深い影を作る薄闇の中に崩れ落ちた磐座と、千切られた注連縄が散乱しているのを発見。
 ここに間違いはないとエレノールは確信する。
 そして、すでに他の能力者によって助けられたものか、少年――…守の姿はそこにはない。
 が、それはすでに予想していたことだ。
 彼女の思惑は別なところにあった。
「……|見えない怪物《インビジブル》たちよ、我が呼び声に応えよ」
【|交霊の呪法《コンタクト・オブ・インビジブル》】
 エレノールの力ある言葉により、周囲を揺蕩うインビジブルたちがその姿を生前のもの――獣や鳥のたぐい――へと変化させる。
「お願い、あなたたち。夕べから今朝にかけてここで起こったことを教えてちょうだい」
 エレノールが動物たちへと問いかける。
 知性を得た彼らは口ぐちに告げる。
『人の子供がやって来た』
『やって来た』
 幾多の声は木霊のように、木々の間に響いていく。
『彼は封じられていた古妖に誘われてきたようだった』
『だった』
『雨の中、彼は苦しそうだったけれど、懸命に封を解いた』
『解いた』
『その間、子供は古妖に女の子のことを話していた』
『話していた』
『名前、性格、昔話、居場所。たくさん話をした。古妖は聞いていた』
『聞いていた』
『そして夜が明ける頃、封は解けた』
『解けた』
『古妖は目覚めた』
『目覚めた』
『彼は腹が減っていて、子供を食おうとした』
『食おうとした』
『でも食わずにどこかへ行った』
『行った』
 そこまで話したところで術の効果が切れ、言葉は意味をなさない音となってほどけ、インビジブルたちは再び虚空を泳ぐ魚影となって、木々のまにまに消えていく。
「ありがとう、|インビジブル《揺蕩う魂》たち」
 訪れるはしじま。
 しかし、その静寂を破るように、夕闇に暮れる山中に強い風が吹き、彼女の銀髪を大きく乱す。
「……そうよね。封印されている間は食べるものなんてないのだから、目覚めれば当然、何か食べたいでしょうけれど……食べなかった?」
 その髪を手で押さえながら、エレノールは小さく呟く。
 真実へ続く道は着実に進んだ。

 だが、今、彼女の琥珀の瞳に映る夜の帳のように。
 事件を覆う闇はいまだ、深い。
🔵​🔵​🔴​ 成功

ファウビィ・アルメ
【B】
きれいな想いを利用するなんて…古妖のやり方は美しくないわ。
さて、その男の子を唆したであろう、美しくない相手はどんなモノかしら?

禁足地と称されるのなら、そう呼ばれてしまうだけの理由があるはずよ。
立ち寄ってはならない、つまりそこに危険な存在があるということ。
確か守くんは神社の裏手に誘われたのよね
…この町にある神社のひとから話を聞いてみたいわ。祀っている神様だとか、神社の歴史からなにかヒントが得られないかしら?
勿論『礼儀作法』は欠かさずに、教えてもらったら御礼も言わないと。

(……それにしても、見たくない結末って…?)
いえ、何が待っていても目を閉じる理由にはならないわ。

●美しきもの
「きれいな想いを利用するなんて…古妖のやり方は美しくないわ」
 エレノールと時を同じくして町にやって来たのは、ファウビィ・アルメ(継の硝守・h01469)。
 その銀髪に似合う上品な印象の帽子のつばを少し上げ、妖怪と人間が入り混じる町を見回す。
 禁足地と称されるのなら、そう呼ばれてしまうだけの理由があるはずよ。
 立ち寄ってはならない、つまりそこに危険な存在があるということ――。
 そう考えた彼女は、星詠みで語られた禁足地が神社の裏手であることに着目する。
 神社とは神の住まう神域だ。
 その中は結界であり、悪しきものは入ることすら出来ない。
 だが、その力が間近にあるのなら、かつてこの地で行われた古妖の封印にも、プラスの影響を与えているのではないか、と考えたのだ。
「…この町にある神社のひとから話を聞いてみたいわ」
 まずはやはり、現場近くのあの神社から攻めるべきだろう。
 ファウビィは、守がお百度参りをしていたかの神社を目指して歩き出した。
 訪れた神社は弐基の鳥居を持つ、小さくが歴史を感じさせる古社。
 一の鳥居を抜け、小さな石段を上って二の鳥居をくぐれば太い杉の木が生い茂る境内が露わになる。
 木漏れ日は藍色の瞳にきらきらとした輝きをもたらし、夕べの雨で、石が敷かれていない場所はややぬかるんでいるが、木々の精気が感じられる場所だった。
「やっぱり、綺麗なものはいいわね」
 そう呟きながら、境内をぐるりと一周。思索のヒントとなるようなものを探す。
 けれど、神社の名前はキヌタ神社――この町の地名と同じものとなっており、神社の来歴を記した看板を見れば、祀られている神様も、ごく一般的なものでこれというものは見つからない。
「うーん、ひょっとして読みが外れたかしら……」
 思わず弱きが口をつくがそこは持ち前のガッツを奮い立たせ、神社近隣の家を訪ねて神主さんを探すことにした。
 そうして訪ねてみれば、神社の一の鳥居、そのすぐ脇にあった民家こそ、この神社の神主さんの自宅であった。
「突然、申し訳ありません。良かったら、この神社のことを教えていただきたくて」
「このような小さな神社に珍しい。もちろん大丈夫ですよ、本殿のほうでご説明しましょうか」
 初老といったところか。
 やや白髪が混じった男性の神主さんはにこにこしながら、ファウビィを伴い、神社へ向かう。
 本殿の扉を開き、中へ通される。
 古いが綺麗に掃除された室内は人が10人も入れば一杯になりそうな広さだが、資料を広げても神主さんから説明を聞くには十分。
 聞けば、この神社は戦国時代あとくらいに竣功されたものらしい。
 そしてここで、ファウビィは気になる巻物を目にする。
「あの、この獣の妖怪と巫女さん……らしき方が描かれている巻物は……?」
「ああ、それですか。それはウチの神社の相殿神――主祭神と別に祀られている神様の一柱でして」
 神主は語る。
 かつてこの地に、荒ぶる大妖が居た。
 狸の姿をしたその妖怪は凄まじい力を誇り、この地の民を苦しめていた。
 しかしある時、とある旅の巫女がその妖怪を調伏し荒魂を沈めた。
 そうして和魂となった狸の大妖はこの地の繁栄に尽くすようになり、再び荒魂とならぬよう、この神社に祀られているのだと云う。
「美しいお話ですね」
 狸の妖怪、これは古妖を追う自分達にとって、重要な情報になる。
 そう確信した彼女はその後、神社の別宮――といっても、ごく小さな祠めいたもの――を訪ね、狛犬の代わりに小さな狸の像を御使いにする神――ヤオヤリノカミへお参りをした。
 古き時代の強力な人物を神格化し、祀るのは人間社会においてよくあること。
 そして時代の流れと共に世情は変化し、その人物は否定される。
 だが、その人物が強い力を持っていればいるほど、民は否定した後――簒奪者となった場合、殺すことが出来ないので封印という形になるわけだが――その後の祟りなどを畏れ、篤く祀り上げるのだ。
 おそらく、ヤオヤリノカミと名付けられた狸の妖怪こそ――。

「お力になれましたか?」
「ええ、とても参考になりました。それではわたしはこれで――お時間を取らせてしまい、申し訳ありませんでした」
 丁寧に神主さんにお礼を述べ、神社をあとにすれば日は傾き始めていた。
「……綺麗な空」
 神社の裏手の山を振り返る。
 おそらく、ほかの能力者によって守くんは保護されたことだろうが、その願いを利用した相手――美しさのかけらも感じられないやり口の古妖を思う。
 思わず握った拳をほどいて、ファウビィは次に目をつけていた神社へと足を向ける。
 ……それにしても、見たくない結末って…?
 首を振って前を見る。
 たとえどんな結末が待っていたとしても、彼女が目を閉じる理由にはならない。

 継がれた硝子は何かを守れる強さをも、受け継いでいるのだから。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

伊之居・槿
あァあ、畜生
お莫迦な奴ら
嘘なんざ好い結果になる訳ゃねェのに
血塗れの男は気になるけど
他の能力者が手助けすんのを信じるしかねェか
あァやれやれ手ェ掛かんなァ

【B】
禁足地について、そこの古妖について調べますか
近隣の妖の爺婆や子に聞き込みを
なァなァ、お巡りさんにちぃと教えてくんねェか
いやなに、小せェ妖の子が行方不明でね(嘘)
でもおれァ人間だ、人間は入っちゃダメとか聴いたモンで(でまかせ)
なにが居るのか、過去になにがあったのか、お巡りさんに教えちゃくれねェか

可能なら近くまで見に行きてェな
土地勘ありゃ便利かもしんねェし

息を吐くように嘘を吐く
でも不利益になりそうならあァ嘘ウソと修正もできる
アドリブ・連携お任せ

●嘘憑きの男
 キヌタ町の商店街を、一人の男が歩いている。
 いかにも胡散臭い外見、ねめつけるような視線は胡乱この上ない。
 陰鬱な印象を与えるに十分だった。
 けれども、彼の職業は警察官。
 ただし頭に汚職、がつくが。
「あァあ、畜生。お莫迦な奴らだ」
 ふらふらと力ない足取りで通りを行く。
 節くれだった指で、ぼりぼりと頭を掻く。
 嘘なんざ好い結果になる訳ゃねェのに。
 血塗れの男――中学生は気になるけど、正直、俺の出番て場面じゃねぇ。
「あァやれやれ。手ェ掛かんなァ」
 まるで絶望したかのように天を仰ぎ、心底面倒そうに声を挙げる。
 伊之居・槿(エルピス・h04721)は、嘘憑きである。

 禁足地、また封じられていた古妖について調べるべく槿がやって来たのは公民館。
 近隣の妖の爺婆や子供たちに聞き込みをしようと考えたわけだが、やはり対象となる人々が集まるのは、こういった公共施設であろうと踏んだためだ。
 さっそく、公民館前で遊んでいる妖怪の子供達数人へと声をかける。
「なァなァ、お巡りさんにちぃと教えてくんねェか」
「……誰、おじさん」
「うさんくさーい」
「偽警官っぽーい」
「いやいや、本物だぜェ?ほら、警察手帳。カッコいいだろぅ?」
「偽物じゃないのこれ」
「偽物偽物ー」
「待て待てお前ら。あー…実は小せェ妖の子が行方不明でね?お巡りさんはその捜査をしてんだよ……ほら、町の禁足地――入っちゃいけない杜に入っちまったんじゃねェかってよ」
 そこまで言って、やっと子供達の目がまともに槿の方を向く。
 いや、正確には。
 槿の背後、いい香りを周辺にまき散らす焼き芋の屋台に、釘付けとなる。
「……え」
 5分後。
「公民館のロビーなら、おっさんが万が一、変質者でも大丈夫だろ!」
 というとてもかしこいお子様の一人の言に助けられ、槿は子供たちから情報収集するのに成功していた。
 もちろんながら、子供たちは全員、ほっかほかの焼き芋に舌鼓である。
「えぇと、つまり……町の子供なら、あの杜に入っちゃいけないって云われるんだな?」
「そうそう」
「保育園や学校でも云われるよね」
「云われる云われる」
 カッパ。
 一つ目小僧。
 座敷童。
 おそらくこの子たちはそんな種族の人妖か。
 比較的人間に近いが、妖怪にさして詳しくない槿でも、おそらくは、と種族を特定できる見た目。
「んじゃあ、子供が一人で、禁足地――なんつったっけ?」
「ぼっけの杜だよ」
「あ、そうそう。ぼっけの杜。そこへ子供が行くなんて、ありえないって話だな?」
「いんや?」
「え?」
「そんな大昔の話でなあ」
「そうだよ、あそこかぶと虫捕れるし」
「お花も一杯咲いてる」
「結構、みんな、遊びに入る奴いるよな」
「俺、秘密基地作った子供がいたとか聞いた」
「えー、今度あたしたちも作ろうよー」
「そうかぁ、じゃあお巡りさんが探してる子供も、杜に入っちまったのかもしれねぇなァ」
「じゃあ早く探してあげないとね!」
 座敷童の女の子が、槿の作り話をすっかり信じているようで、真面目な顔をして云う。
「でもおれァ人間だ、人間は入っちゃダメとか聴いたモンで」
「そんなこといって。けーさつのくせに怖いんだろー」
「そうだよ、にんげんが入っちゃだめなんて聞いたことないぞ」
「でも、ぼっけだぬきのお嫁さんは人間だから、そのせいかも」
「……ぼっけだぬき?をい、その話詳しく。あの杜になにが居るのか、過去になにがあったのか、お巡りさんに教えちゃくれねェか」
「……」
 子供達がじっと槿を見つめる。
「……ん?」
 そして指を指す。
 はてなマークを頭に浮かべた槿が指された方を見やれば、そこには燦然と輝くジュースの自販機が。
「……あ、はい」
「俺、りんご味!」
「ぼく、ぶどう!」
「あたし、みかん!」
「順番に!順番にね!お巡りさん覚えられないからね!」

 暫しののち。
「おじさん、ばいばーい!」
「そーさ、頑張ってねー!」
 暗くなってきた空の底、槿は子供達と別れた。
 何度も振り返る子供達に、ぞんざいに手を振りながら槿は先ほど聞いた昔話を思い出す。
「ぼっけだぬき、ねェ……」
 さて、禁足地まで行ってみるか。
 暗くなって来ちまったが、どっかで懐中電灯でも買っていけばなんとかなるだろ。
 そう考えながら、槿は再びふらふらと町を歩く。
 冷たい北風に木々の枝が揺れ、音を立てて騒ぐ。
「――そう急くなよハストルマン」
 そのざわめきの中に、相棒の声を聞いた気がしてふと足を止める。

「お前が水底に引き摺り込む相手が出てくるのは――…まだ先だ」
 パシャッ。
 応答するかのように響いたのは水音。
 夕べの雨が作った水たまりを、雑踏をゆく誰かの足が揺らしていた。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

白兎束・ましろ
やつでお嬢様(h02043)と√妖怪百鬼夜行におでかけっす!
いやー、本物の妖怪がいるなんてびっくりっすね。
ゆっくり観光は後回しっすね、らじゃーっす!

んー、ましろちゃん的にはめっちゃアウトっすね。
倒れてる守ちゃんを放置してる時点で約束なんて守る気ゼロっすよ!

お嬢様の蜘蛛たちが調べてる間にましろちゃんもロープとか注連縄とかを調べてみるっすよ♪
どうせ封印されてたんだから悪い妖怪っすよね。
なんか再封印に役立つような情報がないかチャックするっす!

※アドリブ連携大歓迎
黒後家蜘蛛・やつで
メイドのましろ(h02900)とお出かけです
√妖怪百鬼夜行ははじめてですが、人妖まじわる不思議な地にやつでの知識欲はフル回転です
ゆっくり観光したいところですが今日はお仕事
頼まれごとの最中なので自重して、調べものといたしましょう

やつではウソの契約は嫌いです
古妖を封じたのが悪しきモノかどうかやつでには分からないので、約束通りに鬼子様を助けたのならそれなら口を挟むことはないと思うのですけれど
ましろはどう思いますか?

ましろの言葉に納得したら
【B】やつでは禁足地について蜘蛛たちと共に調べましょう
やつではウソの契約は嫌いなので、禁足地の古妖の正体を暴くため、蜘蛛たちといっしょに資料をしらみ潰しにするのです

●ぼっけだぬき
 むかしむかし、まだ人間たちがこの世にいない頃のお話だ。
 ぼっけだぬきというたぬきがいた。
 とても強い力を持つ妖怪たぬきの一人で、まだこの町が、町にもなっていない大昔。
 この土地を治める長だったんだ。
 でもほかの一族の者と違ってその性格はのんぼり、ぼんやりしていて。
 自分よりよほど力の弱い妖怪にも騙されたり、いじめられたりして、よく泣いたりしてた。
 強い妖怪が騙されたり、馬鹿にされたりしたら、怒るよね?
 怒って、昔はそれこそ、すぐに相手を殺してしまったりしていたものだ。
 でも、ぼっけだぬきは強かったけれど、すぐに相手を殺したりはしなかった。
 えへへへぇ。と笑って、おしまいにしていたんだ。
 だからぼっけ――…ポンコツとかそういう意味の、まあ悪口だね。
 そんなあだ名で呼ばれてた。
 でもぼっけだぬきには部下に、かがみの妖怪とおにの妖怪がいて。
 かがみの妖怪は真実を写す自分のかがみを使って、ぼっけだぬきがこんなに頑張ってるという姿を里のみんなにみせて。
 おにの妖怪は口がうまかったから、里の妖怪をまあまあ、となだめたりしてた。
 でもある日。
 ぼっけだぬきは村の祭りに遊びにいって、そこで綺麗な生き物と出会う。
 旅の行商人が捕えて見世物になっていたその生き物は、別の世界からやってきた――…そう、よく分かったね、人間だった。
 人間の娘と、ぼっけだぬきは仲良くなって。
 いつしか夫婦になった。
 でも、それを快く思わない奴らがいた。
 ぼっけだぬきが治めていた、里の妖怪たちだ。
 ただでさえ頼りないぼっけだぬきが嫁なんか貰ったら、この里は、他の里の妖怪たちに良いようにむしり取られてしまう。
 下手をしたら、滅ぼされてしまうんじゃないか。
 里の領民たちはそう考えた。
 そうして、領民たちは不安に駆られて、不安で、不安で。
 ぼっけだぬきの嫁となった人間の娘を、殺してしまったんだ。
 そう、可愛そうだねぇ。
 さあ、怒ったのはぼっけだぬき。
 七日七晩、泣きながら暴れまわり。
 里の妖怪たちをみんな、みぃんな。殺してしまった。
 そうして里も無くして、狸の一族にも戻れなくなったぼっけたぬきは。
 今でも、嫁を探して、泣いているという――。

「へぇー、結構面白かったっすねぇ、お嬢様」
「……」
「……お嬢様、シックスティーンのアイス溶けますよ」
「……うう。やつではダメダメなのです」
 だめだ、まだ落ち込んでる。
 さーて、どう浮上させましょうかねー。
 ここはキヌタ町、公民館のとある一室。
 畳敷きの和室に十数人の子供と、紙芝居の要領でフリップをめくって童話――いや、民話だろうか、それを子供たちへ語っていた老人たちが、二人の目のまえに、居る。
 そして、たった今終わった紙芝居集まりから、再び部屋のほうぼうへ散る子供たちの間に、ちらほらと保育士らしきエプロンを付けた大人たちがいるのを見るに、いわゆる放課後児童クラブ――公的機関が運営する、放課後児童を対象とした事業、その一環のようだった。
 そしてこの場に情報収集として潜入していたのが、我らがお嬢様、黒後家蜘蛛・やつで(畏き蜘蛛の仔スペリアー・スパイダー・h02043)と。
 お付きのメイド、この白兎束・ましろ(きらーん♪と爆破どっかーん系メイド・h02900)ちゃんってわけっすよ!
 きらーん☆という効果音付きでましろが謎のどや顔をキメる。
 出来ればバックに戦隊ものの決めポーズ宜しく爆発エフェクトを入れたいところですが、周囲に子供も多いので、それは自重しておくっす!

 さて、事情を説明しよう。
 √妖怪百鬼夜行におでかけっす!という、いつもの軽いノリで町へとやって来たましろとやつで。
 星詠みを聞いてのち歩き出し、二つ三つ、角を曲がって抜ければやって来ました、のどかな田舎町。
 駅前の案内を読めばうん、間違いない。ここは√妖怪百鬼夜行。
 周囲をうろつく人影も、基本的には人間タイプの住人が多いが、ちらほらと特徴的な身体をした妖怪たちが、ごく当たり前の顔をして行き来している。
「いやー、本物の妖怪がいるなんてびっくりっすね」
「√妖怪百鬼夜行ははじめてですが、人妖まじわる不思議な地にやつでの知識欲はフル回転です!ゆっくり観光したいところですが今日はお仕事。頼まれごとの最中なので自重して、調べものといたしましょう」
 お嬢様はおすまし顔で、こほんとひとつ咳払い。
 ドレスとトータルコーディネートした、お気に入りの日傘を回して、雨上がりの冬日にしては少しだけ強い日差しをガードしている。蜘蛛は強い光が苦手なのだ。
「ゆっくり観光は後回しっすね、らじゃーっす!それじゃあ行きましょうか!」
 意気揚々と歩き始める主従。
 とはいえ、いわゆる『ねえや』的立ち位置で、ましろがやつでの面倒を見ているという感ではあるが。
「やつではウソの契約は嫌いです。古妖が約束通りに鬼子様を助けるのなら、それなら口を挟むことはないと思うのですけれど……ましろはどう思いますか?」
「んー、ましろちゃん的にはめっちゃアウトっすね。倒れてる守ちゃんを放置してる時点で、約束なんて守る気ゼロっすよ!」
 確かに、とやつでは頷く。
 星詠みの言葉によれば、復活した古妖は約束をした少年をその場に残し、立ち去っている。
 ほぼ一晩中雨に濡れ、消耗して気絶した状態のままで、だ。
 約束通り鬼子を助け、二人が仲良く生きていけるよう力を貸すつもりがあるのであれば、死ぬかもしれないような状況に置き去りにはするまい。
 まあ、復活したばかりのその古妖が、いわゆる現代の常識的な発想――人間の体の脆弱性含め――判断が出来る状況だったのかどうかはさておき、ではあるが。
「確かにそうです。ではやつでは禁足地について蜘蛛たちと共に調べましょう。古妖の正体を暴くため、蜘蛛たちといっしょに資料をしらみ潰しにするのです」
 と、そこまで云って、やつではふと足を止める。
「?どうしたっすか、お嬢様」
 町の雑踏の中、まんまるおめめでフリーズしたやつでの姿がそこにあった。
 そう。
 蜘蛛たちと一緒に資料をしらみ潰しだと考えたものの、さて、具体的にどこへ行ってどんな資料を探すかということを、やつではすっかり失念していたのだ!

「ということで、落ち込み、止まってしまったやつでお嬢様を、なんとか宥めすかして落ち着かせ、公民館なら図書室とかあるかも!人もいるかも!とやって来て、お嬢様にアイスを与えて甘味で脳を再起動させ、そこで見かけた放課後児童クラブは読み聞かせのボランティア会へと潜り込み、まあまあ面白かった、ぼっけだぬきなる民話をひとしきり聞き終わった、そんなましろちゃんのぐっじょぶメイドムーブだったってワケっす!」
 きらーん☆とカメラ目線でポーズを決めるましろ。
「ましろはいったい、誰に何を云っているのです?」
 二人は移動し、公民館のロビー。
 アイスを食べ終えたやつでが、ゴミ箱へアイスの芯をシュート。
 どうやらお嬢様も落ち着いた様子である。
 基本、とても頭が回り、とても6歳児とは思えぬ思考能力を保持するお嬢様であるが、そうであるが故に、ちょっとした抜けやら失敗やらが起こるとそのプライドがいたく傷つき、ショックを受けてしまうのであった。
「でもまあ、ましろのぐっじょぶメイドムーブ?とやらで、意図しなかったとは言え、ひとまずこの土地に関する話も聞けました。どうもたぬきが怪しいですね、たぬき。ではあとは事件の現場へ――禁足地へ向かって色々調べてみましょうか」
 そうしてやって来たのは禁足地――通称ぼっけの杜。
「しかしお嬢様、さっきのおじいちゃんおばあちゃんたちは助かったっすね、ここへの行き方とか、ぼっけの杜と呼ばれてるとか、禁足地と云われてはいるものの、昔から子供達は入り込んでたとか色々聞かせてもらえたっす」
「そうですね。やつでは以前から、老化、弱体化した個体が、ごく普通に社会活動に参加しているのを見て疑問に思っていたのですが――…なるほど、ああして自分の得た知識を若い個体へ伝達するという仕事も請け負っているとなると、理にかなっていて勉強になります」
 そんな話をしながら二人は結界の注連縄を越え、鬱蒼と草木の茂る杜の中を進む。
 ところどころに、朽ちたロープであるとかツリーハウスだったらしき残骸を横目に、辿り着いたは封印されていたと思しき現場。

 そして杜の中。
 二人は、町の子供達が木々の中で遊ぶように、それぞれの調べものを始めた。
「さあ、みんな遠慮なく出て来なさい」
 人気もないここなら能力も使いやすい。
【|壁の下の蜘蛛の群れ《ミエザルキョウフ》】
 ざわざわとやつでの影から湧き出た蜘蛛が、みるみる紙の束に集りそれを広げる。
 やつでは公民館の図書室で見つけた資料を蜘蛛と共に調べ、ましろは注連縄や紙垂をチェックするのだ。
 なお、やつでについては公民館内で見つけた書籍を借り受けようとしたが、町の住民でもないやつでに貸し出すのは無理、と係員に云われてしまった。
 ならば仕方ない、やつでは図書室、ましろは禁足地と別行動をしようかとも検討したが――…ここでも老人会の方々が活躍。
 可哀そうだろう、コピーくらいしてやれと係員を問い詰め、見事やつでは資料のコピー束をゲットすることに成功していた。
「それにしてもましろ、古妖を封じたのが悪しきモノかどうかが気になります。もしそうなら、古妖は悪いものではないのかもしれません」
「いやー、ましろちゃんは封印を解いて欲しくて嘘ついた気がしますけどねー。封印されてたんだから悪い妖怪だと思うっすよ」
 適当な石を見つけて座り資料に目を通すやつでと、周辺の封印祭具を調べるましろ。
 そうしてしばし、杜の中も暗くなり、さすがのやつでアイも音を上げる。
「うーん、特にこれという情報はなさそうですね。そっちはどうですかましろ」
「ダメっすね、縄は切れてるしなんかぶら下がってた紙は雨でぐちゃぐちゃだし、使い物にならないっす!」
「そうなると、やっぱり古妖がもし悪いモノなら……」
「退治一択っすね!まあ、昔は√能力者がいなくて封印するしかなかったっすけど、ましろたちなら倒せますから。とはいえ、またどっかで復活するまでの時間稼ぎみたいなもんっすけどねー」
 ちょっと肩をすくめてやれやれっす、という風に首を振るましろ。
「ふむ。じゃあ一旦町に戻ってごはんを食べましょう。やつではお腹がすきました」
「それに、他の参加者のみなさんと合流して情報交換とかしたほうがいいっすね。今回、いずもさんもいましたし」
 話は決まった。
 真っ暗になってしまう前にと、移動を開始する二人。

 だが、二人は気づいていなかった。
 杜の暗がりの中でそっと光る、二人を見つめる瞳があったことに。
 そしてその瞳は、まるで鏡のように輝いていたことに。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​ 成功

九段坂・いずも
【A】SPD
天國さんが星詠みだったなんて知りませんでした
教えてくれればいいのに、ねえ?
なんて冗談です、わたくし、尽力いたしますね?

√能力、「くだんの件ですが」を使用
守さんの写真があればわたくしには《視える》はず
彼が今どこにいるか、彼のほんの少し未来の様子を掴んだら
探偵ですもの、足で稼ぐなんて当然の話です

守くん、こんばんは。
傘を忘れて行ったと聞いたので、お持ちしましたよ
わたくしは九段坂・いずも、探偵です。
わたくしも濡れてる? ……ウフフ、すみません。
自分の分を忘れてたみたいです。一緒に街まで帰りませんか?
それから、少しでいいです。君が何をしたのか……教えてもらえますか?

アドリブ、合流などおまかせ

●大地・守
 天國さんが星詠みだったなんて知りませんでした。
 教えてくれればいいのに、ねえ?
 なんて冗談です。
「さて、わたくし尽力いたしますね?」

 早朝。
 雨上がりの杜の中を黒い影が走っている。
 うっそうとして、人の手もろくに入っておらぬ木々の中だ。
 普通であればとても走れるものではない。
 けれど、その人物は飛ぶように走る。
 九段坂・いずも(洒々落々・h04626)、それが彼女の名前――…人妖「件」の妖怪探偵である。
 √を越えてこの町――キヌタ町へと入って来た直後から、彼女は走り通しであった。
【くだんの件ですが】を使い、自身のインビジブル化を促進。
 身体能力を大幅に高めて走る彼女の姿は、それこそ町中の舗装された道路であれば、一陣の風と見間違う者も多かったろう。
 長い髪が枝に絡まり、ぷつりと切れる。
 スーツの裾が藪に引っかかり、ほつれが出来た。
 それでも彼女が足を止めないのは、もちろん理由がある。
 予言の妖怪、件。
 その力を用い、守の現在の様子を未来視した彼女は、彼が今まさに低体温症で危険な状態であるのを『視た』たのだ。
「探偵ですもの、足で稼ぐなんて当然の話です」
 すでに30分は全力で走り続けている。
 息は切れ、全身は悲鳴を上げつつあったが、そう嘯いて人妖の女は己を奮い立たせる。
 そして、いまだ暗い鬱蒼とした杜の中、いずもはそこへと辿り着く。
 ぶつりと切れた注連縄、崩れ落ちた磐座――…そのすぐ脇に倒れた人の姿。
 いずもはストッキングが濡れるのもいとわず、即、守の傍へと膝をつくと脈を取る。
 大丈夫、脈はある。
 けれど、シバリングはすでに無く、体は硬直を始めており、服の下へと掌を潜らせればその腹部もだいぶ冷たい。
 すでに低体温症が中程度であると看破したいずもは、まず彼の体を近くの木陰、出来るだけ濡れていないエリアへと運び、濡れた服を脱がせ、落ち葉と小枝で少年の体を埋める。
 そして自身もそこへと潜り込み――守を抱きしめた。
 それがこの状況で彼女が出来る、ほぼ最善の手段であったろう。
 しばしの時。
 杜の中にも日が差し込み、周囲が明るくなる頃。
 守がうっすらと目を開く。
「……あなた、は」 
「守くん、こんばんは。あら、もうおはようかしら」
 ウフフ、と、恥ずかしそうにいずもが笑う。
「鬼子ちゃんでなくてごめんなさいね?わたくしは九段坂・いずも、探偵です。傘を忘れて行ったと聞いたので、お持ちしましたよ」
「そう、なんですか……すいません」
 見知らぬ他人と抱き合い。間近で話をしているというのにこの対応。
 まだ意識は朦朧としているのは明白、けれど体温は戻りつつあるし脈拍も正常――。
 密着させた己の体でそれを確認すると、いずもはほっと息をつく。
「急いで来たからろくに準備が出来なくて……守君は雨に濡れて、冷えすぎてしまったみたいなんです。ですから、もう少しこのまま居て下さいね?動けるようになったら、お家までお送りしますから」
「……はい。……ごめんなさい」
 守の口をついて出たのは、謝罪の言葉だった。
 それが意味するところは当然、かの古妖の封印を解いたことに対する謝意――…おそらく、封を解いたのちに、なんらか本能的に、禁忌を破ったという考えに至ったのだろう、探偵はそう推理した。
 そしてさらに時間が経過し、太陽が天頂を越える頃。
 なんとか動ける程度まで回復した守と、それを支えながら杜の中を進むいずもの姿があった。
「守くん、大丈夫ですか?辛かったらすぐ云って下さいね」
「はい。でもお陰様でなんとか……きっと親も心配してると思うんで、戻らないと」
「良かった。――…ところで守くん。昨夜から今朝にかけてあなたが何をしたのか、わたくしに教えてもらえませんか?」
「……!」
 守の目が見開かれ、そして逸らされた。
 それは何かを失敗してそれを親に見とがめられた時の子供の反応。
 けれど、守を見つめるいずもの目はあくまで守を気遣うもので、責めるものではない。
 ましてつい先ごろ、献身的な手当で自分の命を救ってくれた相手だ。
 それを思う守の瞳が、揺れる。
 うつむく守へ、あくまで優しくいずもが声をかける。
「少しでいいんです。ひょっとしたら、わたくしがどうしてもやらなければならないことと、関係があるかもしれないから」
「どうしてもやらなければならないこと……?」
「はい。こう見えてもわたくし探偵でして、お仕事なので判らないと困ってしまうんです」
 女は眉を下げて笑う。
 いかにも困ったように見えるその表情が、守の心にとどめを刺した。
 守は話した。
 幼馴染の女の子――…天野・鬼子のことを。

 中学に上がってすぐに、貧血だと云って休むようになって。
 でも、体育はいつも見学状態になって。
 持ち歩く薬はポケットに入る量から、すぐにポーチにも入りきらないくらいに増えて。
 日に日に悪くなっていっているのは、誰の目にも明らかだった。
 そして去年の夏休み。
 大きな手術をして、それが上手くいけば良くなるんだと、初めての浴衣姿で出かけた夏祭りで鬼子が云ったこと。
 もう一人の幼馴染――…明と二人で近所の神社でお守りを買って、遠くの病院へ出発する彼女に渡したこと。
 相変わらず自分には文句しか出なかったけど、涙を浮かべた彼女が笑顔で受け取ってくれたこと。
 そして二学期。
 彼女は金髪になっていて。
 おまけに色黒に日焼けして帰ってきた彼女は、もう見るからにギャル。
 まるで健康そのものな、元気なギャルに見えるようになっていて。
「あたしほんと、守大っ嫌いだわー。あ、ジュース買って来て、3秒で」
「おい、ほんとふざけんな。僕の心配を返せ」
 そんな彼女の嘘を信じてしまうくらいに。
 自分が、何も分かっていない大馬鹿だったことを。

「――だから。だから僕、あの声に云われるままにあの綱を」
「……ええ。ええ、もう。もう十分判りました。ありがとう守くん」
 ぼろぼろとこぼれる大粒の涙。
 それをハンカチで拭ってやりながら、いずもと守は、守の自宅へと辿り着く。
「守!……あんた一体、どこへ行ってたの」
「ごめん、お母さん……」
 守といずもはここまでの道中相談し決めていた家族への説明――守が鬼子のために神社にお祈りをしていたが、その途中足を怪我して動けなくなったところ、いずもに保護された――そんな内容を守の母に話す。
 もともと、毎晩のように家を抜け出し、足を怪我して妙な歩き方をしていれば母も気づいて当たり前。
 おそらく、夜出かけた先で何かあったのだろうと想像はしており、まして事情が事情であるということで、多少怒られたものの、一晩家を空けたこと自体はおとがめなしとして守は許される。
 そしてすっかり恐縮した守の母にぜひにと請われ、いずもは守の家のリビングへ通される。
 お茶を出され歓待されるいずも。
 守も入浴してすっかり体を温めたのち、いずもがそろそろお暇を切りだそうとした時。
 守の母が口を開く。
「あの、いずもさんは探偵さん、なんですよね?だったら一つ、お願いしたいことが……」
「あら、なんでしょう?」
「守にも伝えなきゃいけないことがあって……実はね」
 そして二人は聞く。

 絶対安静状態と云われ、集中治療室に居た鬼子が入院先の病院から消えてしまったという事実を。
 そして時を同じくして明もまた、消息を絶ってしまったという話を。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

第2章 冒険 『|推理回廊《ミステリーサーキット》』


POW 証拠を探し、証言を集める
SPD 論理を組み立て、推理を積み上げる
WIZ 直感や魔術により、真実に近づく
√妖怪百鬼夜行 普通7 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

●星のかけらを探しに行こう
「ねぇねぇ、高校生になったらさ、三人で海に行こうよ!」
「いいね。俺らの県、海ねぇもんなー」
「えー。遠いんじゃない?夏は暑いし」
「夏じゃなくたっていいのよ!冬の海もロマンチックじゃない!」
「……冬は冬で寒いでしょ。鬼子、絶対すぐ帰るって言いそう」
「あー、もう!どっちにしろその時、守は荷物持ちで絶対参加だからね!約束!」

 あの晩。
 消えてしまった二人を探して貰えないかと、守の母は云った。
 それを受けて能力者たちは、引き続き行動を続行する。
 ある者はホテルを手配して。
 またある者は、√を通ればすぐに来れるのだからと自宅から通いで。
 消えてしまった鬼子と明の捜索に従事していた。
 誰もが、二人の消息を探ることが復活した古妖の足取りを掴むことに繋がると、確信していたからだ。
 しかし二人の行方は杳として知れず、調査は難航していた。
 二日後。
 町には不穏な空気が漂い始めていた。
 曰く。
 野良犬や猫がぽつぽつと消えている。
 深夜に帰宅途中襲われそうになった、犯人は見上げるほどの巨体を持つ妖怪だった。
 作っておいた食事が、振り返ったらなくなっていた。
 そんな噂がいくつも喧伝された結果、町の住民たちの間で今を生きる伝承が生れ落ち、新たな怪異の苗床が形成されつつあった。
 つまり……ぼっけだぬきの復活だと。
 だが、この事件を追い続け√を越えて世界の裏側を知る能力者たちだけは、判っていた。
 ぼっけだぬき――またはヤオヤリノカミの名を持つ存在、その真の名を。
 卵が先か、鶏が先か。
 強力な妖怪にとって寿命など無いに等しい。
 時代を越えて存在し続けた古妖たちが、その時代ごとに違う名を持って呼ばれ畏れられるのは、なんら不思議なことではなく。
 そして、そのあまりの強大さゆえに分割され封じられた古妖は、実は生前より分霊――…神霊世界では|分け御魂《わけみたま》とも呼ばれる、同一存在を複数作り出して存在することも可能だと云われる。
 そうして時に一族とも呼ばれたコミュニティは、実は同一存在の群体構成であったのでは、という研究結果も、古妖の多くが封じられている現代ではまことしやかに囁かれているのだ。
 多分。きっと。
 ただし、そうして分かたれた存在――…分身たちは、分裂を続ける細胞が時に変質し、がん細胞を作りだしてしまうのと同じく。
 時に、その性質を大きく変化させたモノを生み出す場合もあるとも。
 ぼっけだぬき――またはヤオヤリノカミの名を持つ存在、その真の名。
 それを、隠神刑部と云った。

 キーンコーンカーンコーン。
 学校が終わった。
 結局、家に帰宅したのち、僕は体調を崩してしまった。
 鬼子や明がいなくなってしまったというのに、それを探しもしないで寝込んでしまったのは正直、情けない思いで一杯だった。
 本当なら学校なんか休んで、二人を探したい。
 けれど、さんざん心配をかけた親にも僕を助けてくれて、今も鬼子たちを探してくれている人達にも。
 あなたはいつも通りに過ごしなさい、何かあれば必ず伝えるから。
 と、云われてしまっては従うしかなかった。
 さあ、放課後だ。
 早く帰って、僕も二人を探す手伝いに行かないと――…。
「守」
 教室を出ようと、カバンに荷物を詰める僕を呼ぶ声。
 ずっとずっと昔から聞いていた、声。
 結局、数えるほどしか腕を通さなかった制服。
 金髪のツインテール。
 まるで季節外れに焼けた肌。
 おでこからちょんと生えた一本角。
「鬼子」
 放課後の教室。
 そこに鬼子がいた。

 立春を過ぎたというのに、屋上の風はまだまだ冬の気配を残していた。
「鬼子!待って!」
「あははははは!守、遅い遅ーい!」
 屋上に続く北側非常階段の柵が壊れているのは、守と明の秘密だった。
 でも、鬼子だけには教えていた。
 教室から廊下。
 廊下から、階段。
 再び廊下を渡り非常階段に続く重い扉を潜って、あの青い空の下に。
 まるで子供の頃に戻ったように笑い、走り、追いかける守の腕をすり抜けて鬼子は走って。
 そして青空の下で云った。
「ねえ、三人で旅に出よう?ここじゃないどこかへ。きっと楽しいよ」
 まるで透明な、キラキラ光るガラス細工のような笑顔で、鬼子は云った。
「なに、馬鹿なこと云ってるんだよ……おばさんたちだって心配してる。それに、それに明だって見つかってなくて!」
「明は大丈夫。……今ここには居ないけど、ちゃんとわたしと一緒にいるから」
「そうなの?じゃあ……じゃあ、早く家に帰りなよ、病院だって行かないと」
「大丈夫」
「大丈夫じゃないだろ、早く戻って来てよ鬼子」
「もう」
「え?」
「もう、戻れないの」
「……どういうこと?」
「――ね、守。約束、憶えてる?」
「……約束?」
「……ううん、いい。また来るね」
 唐突にそれだけ云うと、屋上から飛び降りて。
 鬼子は姿を消した。

「鬼子に、会いました」
 緊急招集の連絡が回り、能力者たちは守の家に集った能力者たちは放課後の顛末を聞いた。
 さらに守は続ける。
「その後です。僕のスマホにこんな連絡が」
 守が示す、スマホの画面には、トークアプリのルームが広げられて。
 雲間・明とのトークルーム、そこには一言、こう書かれていた。

「ひみつきちにいる
 たすけにきてくれ」

 と。

「秘密基地っていうのは、僕たちが小さいころによく集まっていた場所のことだと思うんです」
「それはひょっとして、ぼっけの杜と呼ばれるあの場所ですか?」
「あ、はい。大人たちはあまり寄り付かないんですが、あの杜は子供たちにはいい遊び場だったんです。……ちょっと不気味ですけど」
 確かに、あの場所は捜索の第一候補であり能力者たちも当然、そこを中心に捜索の手を広げていた。
 そして、たった二日で杜の中の一部に強力な結界が張られているのを発見していた。
 そして守の云っている秘密基地と位置を照らし合わせてみれば――それは見事に合致する。
「皆さん、お願いします!足手まといなのは重々判っていますが、どうか僕も連れていって下さい!」
 頭を下げる守に、能力者たちは逡巡する。
 当然現場には、危険が付きまとうだろう。
 だが、町に流れる不穏な空気。
 そして体調が戻るどころか、何故かいまや、屋上から飛び降りれるほどの身体能力を持つ鬼子が、守に執着しているのも明らか。
 守から離れるのも、当然危険――だからと云って、戦力を分散するのは愚の骨頂だ。
 ならば、と能力者たちは決意する。
「あ、ありがとうございます!」

 町は攻性インビジブルも増えている。
 隠神刑部の手下となる妖怪が、結界内には存在している可能性も大きい。
 だがそれは覚悟の上。
 決行は今夜とされた。
 ここまでの状況を考察、思案し|未来《さき》を読み。
 守を連れてぼっけの杜、その結界内へと踏み込んで。

 そこに、なんらかの理由で囚われているだろう明を、救出するのだ。
九段坂・いずも
あなたにそこまで頼まれて、断れるひとは一人もいませんよ
わたくしがそばにいますから、気がつくことがあればなんでも言ってください
誰にも好き勝手させたりしませんから、ね

√能力「くだんの件ですが」を使用しますが、
守くんに危険が及ばないかに意識を向け彼を守るために使うこととしましょう
鬼子ちゃんに攫われても大変ですからね 断固死守です

古い映画にありましたよね、雲外鏡は狸に通じる、なんて話
もしかすると明さんはぼっけだぬきの近縁者だったりするのかもしれません
近縁者さんを捕まえて、鬼子さんは古妖に取引を持ちかけている……のかも
想像だけならいくらでもできますが、わたくしの推理はこんなところです

アドリブ絡み歓迎

●雲間・明
「ごめんなさい、今日から面会謝絶なの」
 看護師さんに言われてあとにした病院。
「……守になんて云うかな」
 玄関を抜けて、空を見上げる。
 長い前髪がうっとうしい。
 でも、これは切れない代物。
 雲外鏡に生まれた自分にとって、両目を隠すこの前髪は自分を護る結界だから。
 見え過ぎる眼は、時に自分だけでなく人をすら傷つけてしまう。
 人が嘘で隠して秘密にしたものを暴き、記録すら出来てしまう目。
 人化が進んで、ご先祖様のように強い力こそ無くなっているが、自分の目はまだその力を有していた。
 だから見え過ぎないよう、いつも視界を塞いだ。
 それでも、見えるものがある。
 それでも、見たいものがあった。
 本当はあんなものを見たいワケじゃなかったのに――…目が、離せなかったから。
「……あーあ、どうすっかな」
 くしゃくしゃと頭をかいて、ため息一つ。
 その時。
 眼前に、降り立ったものがあった。
 見上げるように大きな姿。
 抱きかかえられたものは見まごうわけもない、大事な幼馴染の一人で。
「――」
 視線が向けられる。
 判るのは、ずっと見て来た幼馴染が攫われようとしているということ。
 そして、目の前のこの狸の妖怪が今の妖怪なんて比じゃないほどのバケモノだということ。
 それでも彼は、ためらわず告げた。
「鬼子を連れていくなら、俺も連れていってくれ!」

 と。

●くだんの女
「こんばんは」
「あら、いずもさん!こんばんは。このたびはすいません。ウチの子が無理を云ってしまって」
 もうあと小一時間ほどで出発という時間。
 いずもは守の家を訪ねた。
 守と共にぼっけの杜へと向かうことにした能力者たちは出発までの間、交代で守の周辺を警護していた。
 そしていま、いずもの番がやって来たというわけだ。
 これから一時間ののち、彼らはぼっけの杜へと向かう。
 守へ助けを求めてきたのは、幼馴染の明。
 鬼子と時期を同じくして行方を晦ました明が、いかなる理由で秘密基地へと向かい。
 そして、守に助けを求める事態となったのか。
 その答えを得るために。
 
 玄関で出迎えてくれた守の母親といずもはにこやかに挨拶を交す。
「明くん、守なら会うって云っているそうで……でも、町の噂もありますし、守も病み上がりですし、心配してたんです。でも、いずもさんたちが付き添って下さるなら」
「はい、わたくしの仕事仲間も居ますしそちらは責任をもって。鬼子ちゃんのご両親からも頼まれていますし、明くんが何か知っていれば、そちらの調査の助けにもなるので……わたくしにとっても助かっちゃいます」
 ウフフ。
 茶目っ気を感じさせる控えめな笑みを、意識していずもは浮かべる。
 そう、いずもは夕方、守の無事を確認すると、まず鬼子の両親に会っていた。
「守くんからお話は聞きました。探偵として是非協力させていただきたいです」
 さも善意の第三者という立場で意見を述べながらも、仕事という形を取ることで、自分と仲間達が今回の事件に自然と介入出来るよう取り計らっていた。

「あなたにあそこまで頼まれて、断れるひとは一人もいませんよ。秘密基地まではわたくしがそばにいますから、気がつくことがあればなんでも言ってください」
「はい。……本当に皆さんにはお礼の言いようがありません」
 守の部屋だ。
 まだ時間はあるというのにすでに上着を着込み、すっかりと外出のしたくを終えた彼は、落ち着かない様子で室内をうろつく。
 そんな彼へ、勧められたクッションの上に座ったいずもはあくまでゆったりと、余裕のある態度で話しかける。
「大丈夫。守くんも鬼子ちゃんも、明くんだって。誰にも好き勝手させたりしませんから、ね」
 だがそう微笑みながら、腹の内でいずもは考える。
 ――古い映画にありましたよね、雲外鏡は狸に通じる、なんて話。
 もしかすると明さんはぼっけだぬきの近縁者だったりするのかもしれません。
 近縁者さんを捕まえて、鬼子さんは古妖に取引を持ちかけている……のかも?
 視線を動かす。
 夜を映す窓ガラスに、黒髪の女の白い面が映っている。
 ウソとホントウを良く混ぜて。
 その中から、ワタシとあなたが気持ちよくなれる真実を作り出す。
 そんなことばかりしていたから、ほら、こんなにも■■が上手になってしまった。
 想像だけならいくらでも。ですが、わたくしの推理はこんなところで――。

「時間ですね。行きましょうか、守くん」
「はい!」
 玄関を出て、合流した仲間たちと共に杜へと向かう。
 道すがら、すうっと息を吸って力をほどく。
【|くだんの件ですが《コール・オール・ユー》】
 冬の空に、まるで自分の意識がほどけて広がっていくかのような感覚。
 陶酔にも似た一瞬の空白の内。
 彼女は、ほんの少し先の未来を視る。
 この世の全ては縁に寄るものであることを解すれば、世に不思議なるものこれ非ず――。
「……こちらです。行きましょう」
 彼女は視る。
 この事件のサポートとしてやって来てくれた他の能力者たちが、露払いを努めてくれた道筋を。
 跳梁跋扈するぼっけの杜への道程に、彼を護るに足るルートを視る。
 探偵歩かば微かに響く鈴の音。魔の纏う魔除けの小鈴は今日も凛と。

「わたくし、これしか能がないもので」
 それが九段坂・いずも――…くだんの女のチカラである。
🔵​🔵​🔴​ 成功

古久慈・硯(サポート)
硯の付喪神の不思議骨董屋店主×サイコメトラー、27歳の女です。
普段の口調は「中性的(硯、お前さん、だね、だよ、~かい?)」、戦闘中は「礼儀正しい(硯、~様、です、ます、でしょう、でしょうか?)」です。
温和鷹揚でいつも柔和な微笑みを浮かべており、滅多に声を荒げません。基本友好的に振る舞います。

√能力は指定した物をどれでも使用し、多少の怪我は厭わず積極的に行動します。他の√能力者に迷惑をかける行為はしません。また、例え依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動はしません。
あとはおまかせ。よろしくおねがいします!
御酒・善(サポート)
基本は精霊銃による援護射撃での仲間のサポートです。
仲間への攻撃を阻害したり、仲間が攻撃する隙を作るよう動きます。
属性攻撃は色々出来ますが、風が得意なのでよく使います。

√能力は『エレメンタルバレット』による敵のみをターゲットにして一斉攻撃が主体。邪魔な敵の排除に努めます。
後半であれば『百鬼夜行』で一気に畳みかける感じです。

性格は温和ですが、誰かが傷付くのが嫌いなので、仲間が傷付かない様に振る舞います。だからこそのサポート役。
技能の魅力は使いどころがあれば……で。
見た目は青年、精神は老年。どこかの探偵にはなれませんね。
リズ・ダブルエックス(サポート)
 AK47の|少女人形《レプリノイド》のレインメーカー×重甲着装者、15歳の女です。
 普段の口調は「女性的(私、あなた、~さん、なの、よ、なのね、なのよね?)」、演技時は「無口(わたし、あなた、呼び捨て、ね、わ、~よ、~の?)」です。

 √能力は指定した物をどれでも使用し、多少の怪我は厭わず積極的に行動します。他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。また、例え依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動はしません。
 あとはおまかせ。よろしくおねがいします!
神原・ミコト(サポート)
人間(√妖怪百鬼夜行)の汚職警官×|警視庁異能捜査官《カミガリ》、18歳の女です。
普段の口調は「堅苦しい口調(私、〜君、~さん、です、ます、でしょう、でしょうか?)」、たまに「関西弁(ウチ、アンタ、や、やろ、やろか?)」です。

√能力は指定した物をどれでも使用し、多少の怪我は厭わず積極的に行動します。他の√能力者に迷惑をかける行為はしません。また、例え依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動はしません。
あとはおまかせ。よろしくおねがいします!

●星詠みはかく語りき
「√妖怪百鬼夜行で、隠神刑部の脅威に晒されている町があンだ。んで、メインチームが作戦の一環として、今事件の主要人物を護衛しながら町を移動しなきゃあならねェ。よって、アンタたちにはその道程が少しでも安全なものになるよう、手分けして町に発生しつつある攻性インビジブルと、かの古妖が目覚めさせたと思われる百鬼夜行の妖怪の退治を頼みてェ」

「勿論。道具は使われてこそ価値があるものだからね」
「了解」
「はい!拝命いたしました!」
「わかりました。まあ稼がないと生きていけませんからね」

●北に玄武
 町の夜道を独り行く。
 月をお供に影一つ。
 手にするのは杖が一本。
 夜闇に溶けるような着物に羽織。
 黒い手袋、黒い足袋。
 その髪も、耳飾りも、首飾りも、その髪も。
 そしてその瞳も――まるで、何も映さぬ|空虚《ウロ》の如き黒さ。
 古久慈・硯 (硯の付喪神の不思議古道具屋店主・h02752)は独りゆく。
 町にはびこる都市伝説、曰く民話にうたわれし古妖が蘇ったと。
 そんな噂のためか、まださほどの時間でもないというのに、人っ子一人おらぬ住宅街の道を歩いて行く。
 こつ、こつ、こつ。
 孤高の杖が道を叩く音。
 そしてそのたびに、地面から染み出すように攻性インビジブルが消えていく。
 硯はゆく、まるで無人の野を往くように。
「――…通りゃんせ 通りゃんせ」
 なんとなく、口寂しくもなったか、ふと思い出した歌が口をつく。
 唸りを上げて寄生虫の如き見た目のインビジブルが牙を剥く。
 が、その牙が硯に触れることはない。
「ここはどこの 細道じゃ」
 着物の帯に束さんだ清廉な御守りがふるりと震えれば、まるで不可視の障壁にでも遮られたようにインビジブルは空中に射止められ、そして干からびるようにして消えてゆく。
 まるでその瞳には、何も映らぬかのように。
 まるで、何も映っていないかのように。
 古久慈・硯は独りゆく。
「天神さまの 細道じゃ」

 鼻歌混じりの独行業。

●東に青龍
「ふっ!」
 新緑を思わせる髪が風になびき、切られた妖怪が空に消える。
 任務達成のため、夜間パトロール中、どうやら百鬼夜行から逸れたらしき妖怪を見つけ、即、ウチガタナ「贋作」の一撃を喰らわせたのは神原・ミコト(人間(√妖怪百鬼夜行)の汚職警官・h03579)である。
「ヒャーッ!ニゲロー!」
 大根やら、提灯を思わせる小さな妖怪たちが我先にと逃げ出す。
「あっ!こら!待ちなさい!」
 着物に黒い羽織を翻し、黒い手袋に刀と警棒を二刀流にしたミコトが走る。
 商業街の一角、飲み屋の並ぶ表通りから一歩入った路地裏を、妖怪を追う警官が走る。
 しかし【先陣ロマンチカ】を用い、己が体のインビジブル化を促進したミコトの足に、そこいらの雑魚妖怪が叶うわけがない。
 そもそも、体格が違い過ぎる。
 壁を蹴って一気に跳躍、逃げる妖怪の眼前へと回り込めばすかさず贋作での牽制。
 横一文字に薙ぎを放てば、それを恐れた妖怪の足は止まる。
「チクショー!ソレモコレモ刑部がケチッテニンゲンクレナイカラ!」
「余計な口は叩かなくて結構」
 聞く耳持たないとでもいうように言い捨てるミコト。
 継戦能力は伊達ではない、ここまでの道のりを走り切り、残る妖怪はあと一匹。
「ク、クソー!コウナッタラコノムスメヲクッテヤル!」
 もはややぶれかぶれとなったか、大根型の妖怪が、宙を飛んでミコトへと襲い掛かる。
 ――が。
「これで――終わり!」
 夜闇にも目に明るい白い体が霧散し、宙へ溶けて行く。
 そして捜査官は闇を行く。
 新たな得物を狩るために。

 ちっと通して 下しゃんせ。
 御用のないもの 通しゃせぬ。

●南に朱雀
 夜空に白銀の輝きが煌めく。
 宙を舞い、逃げ惑うのは人の顔ほどの大きさの――いわゆる人魂に、人面蛇体で宙を泳ぐ妖怪だ。
「ひぃひぃ。ええい、忌々しい!一体なんなんだい、あの娘っ子は!」
 眉根をしかめ、いまにも唾棄しそうな表情で人面蛇体の妖怪が告げる。
 この子の七つの お祝いに。
 ぴきゅん。
 夜空で星が輝いた。
 そして人魂の一つが青白い光に撃たれ、燃え尽きるように宙へ消えて行く。
「一体の撃墜を確認。引き続き討伐作戦を実行する」
 夜空を舞いながらそう呟いたのはリズ・ダブルエックス(ReFake・h00646)。
 かつて人類の為に戦い、解体されたベルセルクマシンの人格を植え付けられた|少女人形《レプリノイド》である。
 大変シリアスな設定なのだが、なぜか本人は食べる。寝る。食う。ゴロゴロする。食す。
 この日々の繰り返しのために戦っている。
 だっていまも、この任務が終わったらこの近くの美味しいラーメン屋台へ行って、ラーメンを食し、それから帰還しようと、それだけを楽しみに√を越えてやって来ているのだから!
「そう、夜更けのラーメン、それも屋台のそれは格別……しかも今は春近しとはいえ、冬。冬、夜、屋台、ラーメン。これぞ私が求める『本当』その真実の一つと見ました!」
 あれぇ?なんかおかしいな。
 そしてリズは振るう。
 大型ブレードを備えたエネルギー砲。斬撃と砲撃を以て戦場を制圧する兵器を。
「LXM――…起動!」
 お札を納めに まいります。
「ひいいいいいいいい!」
 実体を持たないビーム兵器は、どこまでも、どこまでも大きく、その刃を広げていく。
 地平を越えて光るあの日輪のように。
 大空へ翼を広げる炎の鳥、朱雀の如く。
 そして、その光が夜空を切り裂いて――…。
 斬。
 行きはよいよい 帰りはこわい。
「よし!任務完了です!でも一応まだ、こちらに待機しておく必要がありますね!では、そのためにも、今のうちに腹ごしらえをしておきましょう!」
 まとめてビームの刃の露と消えた妖怪たちを後目に、リズは意気揚々と飛び去っていく――そう、彼女の真実へと向かって。
 うん、イイ感じにまとまったぞう。多分。

●西に白虎
「あー、ここの温泉いい感じですねぇ。チェックチェックと」
 夜のファミレス。
 町を覆う噂のせいか、ややお客の姿も少ない店内に、若い男が一人。
 和服を纏い、黒髪を一つに結わえた男、見た目はおそらく二十歳程度だろうか。
 御酒・善(半人半妖の不思議古美術屋店主・h01519)、それが彼の名前。
 窓辺のボックス席でのんびりと旅行雑誌を開き、ドリンクバーを嗜んでいる。
 なお、見た目は二十歳そこそこであるが、妖怪の血の影響か、その実年齢は外見とかけ離れている。
「ふむふむ、ネット評価は星三つですか。料理は――ああ、海鮮メイン。アリですねぇ」
 そして、その窓の外では。
 多くの攻性インビジブルと、それを退治する妖怪たちの姿があった。
 やはり、町に広がった噂のせいか、通りに人影はない。
 ただ、月影に照らされた路地で踊るのは、夜を泳ぐ魂たちの成れの果て――凶暴化したインビジブルと、|百鬼夜行《デモクラシィ》――そう、半人半妖である善に付き従う、妖たちである。
 そう、ただ夜のファミレスでリラックスしながらお茶しているだけに見えるこの男、実は仕事をしていた。
 攻性インビジブルを発見し、すかさず√能力【|百鬼夜行《デモクラシィ》】を発動。
 配下を呼び出せば。
「じゃああとは任せましたよ?」
「へーい」
 というやりとりののち、ファミレスへ入店したのである。
「いやあ、でもこうお客さんが少ないといいですねぇ静かで。まあ、店の人にとっては、歓迎できることではないんでしょうが――お、こっちの宿は源泉かけ流しが部屋で楽しめるんですって?」
 これはチェック。
 きゅぽんと赤ペンを取り出して雑誌に赤丸。
 ネットは手軽で評価も見れるが、こうしてアナログに雑誌を眺める時間もまた、いいものだ。
 そんなことを思いながら善は再びカップに口をつける――おや、いつの間にか飲み干していたようだ。
「こわいながらも、通りゃんせ 通りゃんせ――…と」

 配下たちの気配から、外の戦闘がそろそろ終わるのを感じながら。
 善は立ち上がり、再びドリンクバーへと向かった。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​ 成功

エレノール・ムーンレイカー
うーん……、他の人の話を総合して考えますと、どうにも鬼子ちゃんと明くんが守君を使って隠神刑部の封印を解いたっていう疑念が膨らんでくるんですよね。昔話には真実が隠されている、という話もありますし、ぼっけだぬきの部下に鏡の妖怪と鬼の妖怪がいる――。
この符合に偶然とも思い難い何かがありそうで。
ただ、計画の主体は、明くんだと思っています。この神社の結界近くに秘密基地を作ったのも、ここの神社のお守りを買ったのも、封印へ意識を向ける誘導なのではと。

もう一つ気になっているのが、守くんをなぜ食べなかったのか。わたしは「食べれなかった」と見てるんですよね。これは理由なき直感ですが、守くんにも何らかの因縁があるんじゃないかなと見ています。
――これは現場に到着したら本人に聞きましょう。
雲外鏡の彼には、「すべてを映し出す性質」があるはずですので。
「――明くん、君には、守くんや鬼子ちゃんに、何の【縁】を見たのですか」と。
黒後家蜘蛛・やつで
ましろ(h02900)といっしょにぼっけの杜に突入しましょう

やつでは皆様と情報共有をして頂いて反省しました
行先がかぶりにかぶって情報収集がぜんぜん足りてないのです

守様を食べなかったのは、言葉で交わした契約になにかしらの縛りがあるのでは
じゃあ鬼子様が元気になったのはなぜ?
タヌキは化けるそうですし、古妖が鬼子様に化けていた/いるのかも?
なら明様の役割はなんでしょう?
鬼子様の苦境を守様に伝えた明様はなにをさせたかったのか
ご本人に伺うためにも、まずは探して保護したいです

タヌキは化かすそうですから登場人物が揃っても油断しないように
よく見て守様を害する気配を探り、ましろと申し合わせて敵を見つけたら伝えます
白兎束・ましろ
やつでお嬢様(h02043)といっしょにぼっけの杜に突入っす!

うーん、けどましろちゃんにはよくわからんっす!
なんか明ちゃんも隠し事してたみたいっすけど……実は明ちゃんも鬼子ちゃんがラブラブだったとかっすかね?

うんうん、そうっすよ! お嬢様の言う通りっす!
直接話を聞いちゃうのが早いっすよね!
こんなめちゃめちゃ寒い日にお外にいたら風邪ひいちゃうっす。
鬼子ちゃんは絶対安静って話だし早く見つけてあげなきゃっすね。
ましろちゃんもうさぐるみ偵察ドローンを飛ばして広範囲を索敵するっす♪

お嬢様の索敵やドローンで手下の妖怪を見つけたら【爆弾兎の麻痺麻痺光線】で撃退してやるっす!

※アドリブ連携大歓迎

●蜘蛛と杜とうさぎ
 月をお供に夜を往く。
 能力者たちは守を連れて、無事ぼっけの杜へとやって来ていた。
 しかし此処からは敵の陣地も同然。
 一般人である守を中心に、前後を挟み、周囲への警戒を怠ることなく慎重に進む。
 藪をかき分け枝葉をくぐり、夜間の杜の中を往く。
 現在の先頭を務めるのは、黒後家蜘蛛・やつで(畏き蜘蛛の仔スペリアー・スパイダー・h02043)と、白兎束・ましろ(きらーん♪と爆破どっかーん系メイド・h02900)の主従である。
「さあ、ぼっけの杜に突入っす!守ちゃんも準備はいいっすね!」
 声を張り上げるましろと逆に、やつでは静かだった。
【|壁の下の蜘蛛の群れ《ミエザルキョウフ》】を用い、使い魔である平面の小蜘蛛を周囲9メートルへと放ち、索敵を行いながら、胸中に思考する。
 やつでは皆様と情報共有をして頂いて反省しました。
 情報収集がぜんぜん足りてないのです。
 クモオーラを刃状にして藪を掃い、時に倒木をうさぐるみファミリアセントリーで爆破しながら、一行は奥へ、奥へと進んでいく。
「しかしお嬢様。ましろちゃんにはよくわからんっす!一体なにがどうなってるんですかね?なんか明ちゃんも隠し事してたみたいっすけど……」
 守には聞こえないよう、ぼそぼそと先導する主従は話し合う。
「やつでもはっきりとした答えは出ていません。今、考えているのは……ぼっけだぬきが守様を食べなかったのは、封印が解ける前に話した内容で、なにかしらの縛りが発生したのでは、というくらいです」
 じゃあ鬼子様が元気になったのはなぜ?
 タヌキは化けるそうですし、古妖が鬼子様に化けているのかも?
 なら明様の役割はなんでしょう?
 鬼子様の苦境を守様に伝えた明様は、なにをさせたかったのか。
 そんな答えのでない疑問符が、少女の中に浮かんでは消える。
 今ここで、答えは出ないけれど、答えを出すためにやるべきことは決まっている。
「ご本人たちに伺うためにも、まずは明様を探して保護したいです」
「うんうん、そうっすよ! お嬢様の言う通りっす!直接話を聞いちゃうのが早いっすよね!」
 我が意を得たりとばかりにましろが笑顔で応えて。
 そして、彼らは結界へと辿り着く。

●Lake of Sorrow.
「やはり狸の結界といいますか……幻影で、秘密基地一帯を隠しているようですね」
 杜の一角、守たちの秘密基地があった付近。
 とある木の根元を調べていたエレノール・ムーンレイカー(怯懦の精霊銃士エレメンタルガンナー・h05517)はそう断言した。
「たぬきは化かすと申します。可能性は十分ですね」
 やつでたちもそう同意し、エレノールは幻影使いの技で破術を試みるべく準備を進める。
 その間、やつでは罠使いの技術で幻影の手薄な箇所を探り、ましろはお得意の爆破で物理的ダメージなら任せるっす、と息を巻いている。
 エレノールが目を閉じ、印を組んで精神を集中してしばし。
「ハッ!」
 気合一閃。
 何度か試みた結果、もっとも結界が薄いと見た地点へとエネルギーバリアを展開、それを中和していく。
「さらにダメ押しっす!」
 トドメとばかりにましろの爆破攻撃も決まり、周囲へ展開していた妖気がみるみる薄れ、鬱蒼と茂るばかりの木々の壁の中に一筋の獣道が現れた。
 だが、これで内部にも結界が破られたことは伝わっただろうことは、想像に難くない。
 互いに視線を交し、守へも一つ頷くと、能力者たちは獣道を進んでいく。

「いました。敵です」
 藪の影。身を潜めて呟いたのはやつで。
「ひー、ふー、み……四匹っすか。一人一殺すれば一瞬でケリっすね」
 そして守たちが秘密基地としていた、物置小屋とも見える朽ちた山小屋が、ぼんやりと目視できる距離。
 隠神刑部の配下と見える、人間よりは少し小柄の化け狸と、攻性インビジブルがうろついているのを、ましろが飛ばしたうさぐるみ偵察ドローンが発見する。
「それでは1、2の3、で行きましょうか」
「了解なのです。準備はいいですか、ましろ」
「ましろちゃんはいつでも準備オッケーですよ」
 エレノールが夜間戦闘支援用ゴーグル「オウルナイト」を装着し、水精の長銃「オンディーヌ」を構える。
 やつでがクモオーラを開放し、ましろが【|爆弾兎の麻痺麻痺光線《ドッカーン》】を発動させるべく、ファミリアセントリーを起動する。
 そして能力者たちは息をあわせて――。
「1」
「2」
「3!」

●太陽と月だけが見ていた
「明、無事!?」
 化け狸と攻性インビジブルを撃退し、秘密基地へと躍り込んだ能力者たち。
「おー、守。助かったー。サンキュー」
 続いて小屋へ張り込んだ守が声を挙げれば、部屋の奥、月を望む窓辺の近く。
 古ぼけた椅子に手足を縛られながらも、元気そうな声を挙げたのは、明だ。
 拘束されていたとはいえ、一応、身の回りの世話はして貰っていたのだろう。
 周囲には、ペットボトル飲料の容器や、食べ物が入っていただろう皿などが散乱している。
「明!良かった、無事だったんだね」
 即、明へと駆け寄ろうとする守を、止める者が居た。
 エレノールだ。
「守くん、少しだけ待って下さい」
 硬い表情と、言葉。
 エレノールは無言で、明に銃を向けた。
「エ、エレノールさん……?」
 戸惑いの表情を浮かべる守へ、エレノールは安心して下さい、とでも言いたげな表情で一つ、頷く。
「すいません、守くん。でも、わたしたちは守くんのご両親から、あなたのことを無事に戻すよう、お願いされています。――ですから、あなたを必ず無事に、ご両親の元へ返すために、どうぞご協力を」
 守に、にこりと笑いかければ、明には冷たく冴えた月のような視線を向ける。
「明さん?少しわたしの問いに答えて貰えますか」
「……」
 明は声を発しない。
 朽ちた小屋だ。
 電気など、もちろん通っていない。
 月明りだけが頼りの暗い室内で、俯き、前髪に隠された彼の表情は伺うことが出来ない。
「昔話には真実が隠されている、という話があります。ではこの町に残る民話、ぼっけだぬきの部下に鏡の妖怪と鬼の妖怪がいる――あなたと、鬼子さんと同じ種族です。そしてこの町で、ぼっけだぬきと呼ばれる古妖……隠神刑部を蘇らせたのは、あなたと鬼子ちゃんの幼馴染である守くんでした。この符合、偶然とも思い難い何かがあると思いませんか?」
「……」
 確かにそうなのだ、と、他の能力者たちも心中で頷く。
 仮に、明と鬼子に、時代を超えたぼっけだぬきの配下としての自覚があれば、その復活をもくろんだとしても納得が行く。
 磐座近くのこの場所に秘密基地を作ったのも、ほど近い神社のお守りを買ったのも、封印へ意識を向ける誘導ではないのか。
 鬼子の命が危ないと守に告げたのも、明。
 鬼子と明が失踪し守が鬼子と学校で会った直後に、明から呼び出しの連絡が来た。
 あまりに出来過ぎている。
 見る人が見れば、守を結界内へとおびき寄せるための罠としか思えないだろう。
 すでに、これらの議題は、杜へと踏み込む前に、能力者たちの間でディカッション済みであった。
 ゆえに、誰もエレノールを止めようとはしない。
「私は」
 そこで、エレノールは言葉を区切る。
 銃を持つ手が、少し震える。
 常に冷静沈着、いっそ冷徹であろうと振舞っている彼女ではあるが、その心根が弱いものだと自覚している。
 だが、この疑念を払拭しないままに事態を進めてしまったら、もしも彼女たちの危惧が的中してしまったら。
 事態は、最悪のものとなるだろう。
 だから彼女は、勇気を振り絞る。
「情報を総合して考えますと――…わたしには、鬼子ちゃんと明くんが守くんを使って隠神刑部の封印を解いたという疑念が拭えません。とはいえ、鬼子さんの病気のこともありますし、すべてが虚言だとは、わたしも思いたくないんですが……明くん、答えて下さい。あなたが、この事件を引き起こした主犯ではないですか?」
「……ええと、そうですね」
 話を聞き終えた明が少し俯いて、じっと考え込む風を見せる。
 そして、しばしののち、面を上げて云った。
「まず、ありがとうございます。守のこと、ちゃんと護ろうとしてくれて」
 ぺこり、頭を下げる。
「確かに俺も、自分で連絡しておいてなんですけど、あの連絡は怪しいなーと思ってました。でも、安心して下さい、俺は、完全に巻き込まれただけの――…部外者ですから」
「……では、証拠を見せて下さい」
「……証拠、ですか」
「ええ、雲外鏡であるあなたには、『すべてを映し出す性質』があるのでは?ならばあなたには、確たる証拠を見せられるはずです。――明くん、きみは、守くんや鬼子ちゃんに、何の【縁】を見たのですか」
「――…そこまでお見通しじゃあしょうがないですね。……本当は、守だけに見せろって云われてたけど」
 ため息一つ。
 天井を、仰ぐ。
 けれど、明の表情はまるで、憑き物が落ちたように清々としていた。

●天野・鬼子
 明の瞳から、一筋の光が放たれる。
 雲外鏡の人妖である明の能力。
 それは、目で見た存在の、隠した真実を見ることが出来ること。
 そして、その記録と再生であった。
「あいつにバレたら、殺されるな」
 拘束のあとがついた手首を撫でながら、明が云う。
 鬼子から、守にだけ見せろ、他の人には恥ずかしいから絶対見せるな!!
 と、念押しされていたという映像。
 今回の事件、その核心とも云える情報が今、小屋の壁面をスクリーンとして映し出される。
「じゃあ、始めます」

 ――…ザ。

 ……ザ、ザ。
 鬼子が居る。
 場所はこの小屋の中だろう、薄暗い中、少し緊張したような少女の顔が映し出される。
 額にちょこんと生えた一本角を見るに、この少女が鬼子なのだろう。
 ……これで。
 これでもう、撮れてるの?
 そっか。
 えーと……守、見てる?
 鬼子だよ。
 ……。
 あはは、なんか変な感じ。
 守にこうやって、あらたまって何かを云うってしたことないから、なんかキンチョーする……。
 えーと、まず。
 わたし、天野・鬼子は、もうすぐいなくなります。
 ……やっぱり、もう、無理みたいで。
 ――…死んじゃうんだって。
 どうしようもないんだって。
 どうしようも……。
 ……。
 あー……ちょっとタンマ。
 ……。
 …………。
 ええっと。
 でも、守のお陰で、ちょっとだけ希望が見えたので。
 わたしは、もうちょっとだけ、頑張ってみようと思っています。
 でも、この計画が上手くいくかどうか判らないので。
 たぬきさんにも内緒で、明にメッセージを頼むことにしました。
 わたしは、ずっと守に隠していたことがあります。
 それは、わたしの種族のことです。
 わたしは鬼の人妖だって、守は思ってるよね?
 それは本当なんだ、でも全部じゃなくて。
 ほら、守が封印解いちゃった、ぼっけだぬきのお話あるじゃない?
 あの中にも出てきてたけど、たぬきの部下の鬼っていたでしょ?
 あれ、ウチのご先祖さまなんだって。
 だから、ぼっけだぬきさんにも、あたし、良くして貰っちゃった。
 あ、話がずれた。
 でも、あのお話で、鬼の得意なことが口が上手いことっておかしいと思わなかった?
 普通、鬼っていったら、怖いとか、力が強いとか、そういうイメージじゃない?
 わたしは鬼だけど、鬼の中でも種類があって。
 わたしの種族は、天邪鬼って云います。
 まわりの友達には、協力して貰って、このことは守には絶対に秘密にして貰ってました。
 だって……。
 だって、恥ずかしかったんだもん……。
 天邪鬼って、本当のことが云えないの。
 家系とかその人にもよるけど……わたしの場合は……。
 ……。(ぼそぼそ)
 おい、聞こえねぇよ。
 うるさいな!明は!今云うよ!!

 ……わたしは、血筋のせいで。
 ……本当に好きな人には、逆のことしか云えないの……。

 ……はっずいんだけど。
 かお、あっつ。
 ……。
 ……。
 ……好きです。
 好きです。
 大地・守くん。
 あなたが好きです。
 あなたがわたしを助けてくれた、あの節分の日から。
 ずっとずっと、わたしはあなただけが好きでした。
 ……こうやって、本人を前にしなければ、ちゃんと云えるんだけどね。
 ずっとずっと、大嫌いなんて云ってゴメンね。
 でも、守に嘘つきたくなかったの。
 いつでも、本当の気持ちを、口に出していたかったの。
 伝わらなくても。
 そのくらい、ずっと好きだったの。

 だから――…ごめんね!
 私は、居なくなるけど。
 そのかわりに――…永遠に、君の心の中に住むことにしました!
 妖怪に食べられちゃった同級生、なんて。
 優しい守は、もう絶対に。

 一生忘れられないでしょう――?

 あ、でも痛いのはヤだから、丸呑みでってお願いするつもり!
 ――…バイバイ。

 ――と、思ったんだけど。
 それは一端保留します。
 本当はそうしたいの。
 そうしたら、きっと本当に、守の中でわたしは永遠になれるから。
 でも、明に怒られちゃった。
 ドン引きだって!ヒドくない?
 いや、マジドン引きだわ。
 うっさい!しゃべるな!
 ……そんなことしたら告白どころか、守に今度こそ本気で嫌われるぞって。
 まあ、冷静に考えたら、そうだよねー。
 自分のせいで友達が死んだ、なんて。
 たとえもう、死ぬのが判っててもわざと死んだなんて。
 そんな傷をつけられたらいくら守が優しくたって……絶対に許して貰えない。
 ……地獄なんて平気。
 守の前から消えて、いなくなることを考えたら、いくらでも地獄に落ちるよ。
 でも。
 ……っ……でも。
 守に嫌われるのだけは、絶対にイヤだった……!
 ……。
 ……。
 ……。
 守。
 約束を、思い出して?
 わたしはそこに居るから。
 守を待ってるから。
 守をいま、助けてくれてる人たちと一緒に、そこに来て下さい。
 そして、守を助けるために来てくれた人達。
 ありがとうございます。
 そして、わたしのために大変な思いをさせて、すいません。
 もう少しだけ、もう少しだけ。
 わたしの我儘に、付き合って下さい。
 お願いします。

 ――…。

 そして映像が終わり。
 少年二人はしばらくじっと黙り込んで、動かなかった。
「俺にはずっと見えて、聞こえてたよ。あいつが笑顔で、お前に大好きって云ってる顔が」
「……うん」
「俺はこのあと、あいつから預かった手紙を、あいつの家に届けに行くよ。今回のことは全部自分の我がままで起こしたことだから、誰のせいでもないって書いたって」
「うん」
「お前は、この人たちと行けよ」
「うん」
「逃げるなよ、守。……逃げたら、お前とはもう絶交だ」
「逃げるわけないよ。……約束、思い出したから」
「……そっか」
「明のお陰だ」
「良いってことよ」
 明が立ち上がり、能力者たちへ会釈して、小屋の外へ出る。
 それを見送って、能力者たちも動き出す。
 ――…でも、まだ謎は残っていますね。
「場所は?……なるほど、ここですか」
「隣県の海水浴場ですね。ここからだと……この時間だとタクシーしかないですね。ウフフ。深夜ドライブですか」
 守と、向かうべき場所の打ち合わせを始めたエレノールたちを横目に、やつでは考える。
 じゃあ鬼子様が元気になったのはなぜ?
 タヌキは化けるそうですし、古妖が鬼子様に化けているのかも?
 だとしたら、あの映像に映っていたのも――?
 やつでの中の蜘蛛が、そう囁く。
 けれど、首を振ってやつではそれを否定する。
 彼女の中のニンゲンが、告げていた。
 あの映像の中に嘘はないと。
 はて、とやつではそれでも首を捻る。
 どこにその根拠が?何をもってやつではそんな風に考えたのでしょう、と。
 小屋の外。
 いち早く出て来たましろは、明の背中へなんとなく、声をかけた。
「こんなめちゃめちゃ寒い日にお外にいたら風邪ひいちゃうっす。鬼子ちゃんのところにも、早く行ってあげなきゃっすね」
「ん?……あー、そうだな。そっか、お前も能力者って奴なのか、小さいのに」
 一瞬、怪訝そうな顔をしたのち、明はましろへ頭を下げる。
「あいつのこと、宜しくお願いします」
「任されたっす!ところで明ちゃん」
「な、なんだよ」
「実は明ちゃんも鬼子ちゃんがラブラブだったりします?」
「……子供が生意気言うなっての」

「……俺はずっと親友だよ。二人のな」

 明がそっと、夜空を見上げる。
 冬の空にシリウスが明るく光っている。
 それはギリシャ語で、光り輝くものを意味した。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

第3章 ボス戦 『隠神刑部』


POW 刑部百十二変化
10÷レベル秒念じると好きな姿に変身でき、今より小さくなると回避・隠密・機動力、大きくなると命中・威力・驚かせ力が上昇する。ちなみに【十二神将】【巨大化九十九神】【えっちなおねえさん】への変身が得意。
SPD 変幻百鬼夜行
「全員がシナリオで獲得した🔵」と同数の【化術の得意な配下の化け狸達】を召喚する。[化術の得意な配下の化け狸達]は自身の半分のレベルを持つ。
WIZ 忌まわしき神通力
【強力な神通力】により、視界内の敵1体を「周辺にある最も殺傷力の高い物体」で攻撃し、ダメージと状態異常【周囲のものが別のものに見える化かされ状態】(18日間回避率低下/効果累積)を与える。
イラスト 8mix
√妖怪百鬼夜行 普通11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

 季節外れの海水浴場へタクシーが着いたのは、もう深夜に近かった。
 運転手さんが、こんな時間から集まるなんて、若い人はいいねぇ、青春だ。
 なんて、ちゃかしてくるのを苦笑まじりに誤魔化して。

 浜辺へ降りれば、そこに彼女は居た。
 ちょっと大きめのコート。
 耳当てつきの毛糸の帽子。
 セーターに、ミニスカート。
 タイツに、ブーツ。
 好きな男の子との、深夜の密会。
 本当ならあり得なかったデート。
 きっとそのために、悩んで悩んで、決めたのだろうコーディネート。

「来てくれたんだ、守」
 鬼子が笑う。
「……もちろん」
 砂浜を歩いて、守が鬼子に近寄る。
 能力者たちは、それを見ている。
「鬼子のバカ、心配させて」
「ごめん、守」
 守が、鬼子を抱きしめる。
「ええと……明から、見せてもらっ……た?」
 おずおずと、鬼子が守の体に腕を回す。
「……うん、見た」 
「……そっか」
 暫く、そのまま二人は動かずにいた。
 誰の声も聞こえない。
 ただ、波の音だけが響く世界で。
 しばらくの間だけ、二人だけの世界に少女と少年は居た。
 そして鬼子が、守の体を引き離す。
 俯いて、少女は云う。
「守、わたし、これから皆さんに、テストして貰うの」
「……テスト?」
「そう。ちょっと、待ってて」
 鬼子は守を背に、能力者たちへと近づく。
 そしてチカラを、開放する――。
「鬼子さん……その姿は」
 鬼子の姿に、大きな狸の妖怪がだぶる。
 その腕と足が、二足歩行の獣のそれへと変化している。
 まさか。
 まさかこれは。
「今、わたしはぼっけだぬきさんに『憑りついて』もらっています……狸神憑きって云うんですか」
 憑依者――。
 √能力者にも存在するその能力を、当然ながら能力者たちは知っている。
 そう、それこそが鬼子が絶対安静だった病院を抜け出し、人を超えた身体能力を見せたその理由。
「たぬきさんに食べて貰おうと思ったら、そのたぬきさんが教えてくれたんです、この力のことを」
 真剣な瞳を向ける鬼子の背後、ゆらりと大狸の姿が現れる。
「儂の家臣の血を引く娘だ。……こうすればおぬし等とて文句はあるまい?この守とやらの寿命が尽きる程度の時間で良いのだ、儂がこの娘と融合しておれば命は保てる」
 それは、可能だろう、と、能力者たちは思う。
 憑依者のチカラの根源は【憑神九魂儀】だ。
 それは死んでも何度となく蘇る不死の力。
 まさに鬼子にうってつけの能力と云えた。
 守の瞳が輝く。
 まるで砂漠でオアシスを見つけた旅人のように。
 ――…だが。
「ありがと、たぬきさん。でも、ここはあたしに任せて」
「だが」
「お願い」
「……よかろう」
 大狸の姿が消える。
 そして、鬼子は云った。
「皆さん、お願いがあります。わたしをテストして下さい。わたしが皆さんと同じく、本当に能力に目覚めたなら、皆さんと戦っても、何度倒れても、あたしは死なないはずだから。これからも、守たちと生きていけるはずだから」
 鬼子は云う。
 まっすぐ、能力者たちを射すくめるほどの力を、その瞳に込めて。
 震える足を、大地に突き立てて。

 だが。
 だが。
 だが、能力者たちはもう分かっていた
 日焼けの上からでも分かる、顔色。
 戦闘前から、すでに荒い、吐息。
 海辺の寒さに震える体からは、見るだに生命力が抜け落ちていっている。
 ああ。

『あとよゥ……これも確証がねェ話ですまねェが、今回の事件、何か嫌な予感がすンだ。ひょっとしたらお前さんたちは、見たくないような結末を見るハメになるかも知れねェ』

 星詠みの言葉が、脳裏にリフレインする。
 なんて、なんて残酷な結末。
 つまりテストなんてするまでもない。

 彼女はもう、死んでいる。

 ただ、ぼっけたぬきが憑依しているから生かされているに過ぎない
 そして、√能力者でもない鬼子はいずれ隠神刑部――…ぼっけだぬきの意識に取り込まれて消えてしまうだろう。
 そして、その時には、もうどうしようもなくその手は血濡れてしまっているに違いないのだ。
 
「離れててね、守。……わたし、運命にだって勝ってみせるから。だから」
 鬼子は微笑んで、云った。
「生き残ったら初デートだよ?――…約束!」

 波頭が砕けて、月光に輝いて散る。
 そうして戦いは、否応なく始まってしまう。
 もはや、誰もがそうする他になかったから。
エレノール・ムーンレイカー
ああ、運命というのは、なんて残酷なものでしょう。できるなら何とかしてあげたい。
ですが――今でも鬼子ちゃんの無意識のうちに、すでに町には被害が出ていますし、鬼子ちゃんの意識が完全に消滅した後、隠神刑部は好きに暴れ出すでしょう。
それは、させてはなりません。可哀そうだけれど、今、ここで隠神刑部を再び鎮めなければなりません。
――たとえそれで、守君から恨まれても、致し方ありません。今は心を鬼にして、目標を打倒します。

「残念ですが、その隠神刑部を再び鎮めるのも今回の仕事の内です。だから――その願いは聞き入れられません。打倒させてもらいます」
そう宣言します。

SPDを選択。

けれども、ああは言ったものの、心の中では何とかならないのかという想いが片隅にあります。なので、他の方々が戦って倒す以外の選択肢を取ろうとするならば、話を聞いて協力はしたいと思っています。(その時は動きはアドリブになると思います)

何もなく戦闘が開始されたならば、基本は遠距離からの狙撃と援護攻撃で立ち回りつつ、敵の攻撃は第六感で躱していきます。
そして敵が変幻百鬼夜行を使って、配下の化け狸達が化術を使ってきたら、幻影使いの技で破術を試み、さらに√能力、精霊召喚を発動します。下位精霊たちを召喚し、配下の化け狸を抑えこみにかからせます。ここは何とか頑張ってほしいところですね。

そしてさらに√能力、世界樹の恩寵と精霊剣・閃光の乱舞を同時発動します。相手を聖樹の鎖で拘束し、他の方々の援護を得ながらチャージ。60秒の前に相手を引き寄せたのちに精霊剣・閃光の乱舞を放ちます。
これでまだ生きていたらあとはもう、総力戦です。

相手を倒すことができたなら、鬼子ちゃんと守君の結末を、遠くから眺めることになるでしょう。

※アドリブ、連携は大歓迎です。
ファウビィ・アルメ
(嗚呼、そういうこと…!)
……初めまして、鬼子ちゃん。さっきの服は貴女が選んだのかしら?
とても素敵ね、綺麗だわ。いいえ、恋する乙女はいつだってきれいなのよ
…ならば全力で応えましょう!貴女の決意に!

√能力を発動、わたしも本気で相手をするわ。いざ「決闘」よ!
…といっても、素直に相手してくれそうな相手じゃなさそう
隠神刑部は化術を得意とする、ならあまり視覚に頼りすぎると不意をつかれそうね
「聞き耳」でしっかり周囲の音を拾いましょう
仲間の攻撃の音に合わせて「連携攻撃」で繰り出して、なるべく突っ走らないようにするわ

…きっと恨まれてしまうわね、でもそれでいい。
あの子の美しさが穢されるより、ずっといいわ。
黒後家蜘蛛・やつで
ましろ(h02900)といっしょに見届けます

なるほど、鬼子様は守様にラブラブなのですね
やつではそういう物語も嗜んでいますが、それら物語の中ではたいてい問題が起きて簡単には上手くいきません
賢いやつでが思うには報連相が足りていないのです!

守様、答えを返すべきです。ぜんぶ
明様、言いたいことがあれば言うべきです。ぜんぶ
だって鬼子様の言いたいことは逆なのですよ?
それを聞けたらやつでは守様の願い通りにしましょう

ましろの爆弾が上手く決まるよう手伝います
死を覚悟しちゃうかもしれませんけれど、その方が正直になってくれそうです
他の方の計画があれば邪魔しません
頼まれたのは守様のことだけですので

※アドリブ連携大歓迎
白兎束・ましろ
やつでお嬢様(h02043)と一緒にやるっすよ!

うーん、うーん。お嬢様、鬼子ちゃんはちょーーっとやばそうな感じっすよ。
ましろちゃん、悪い奴をどっかーんってするのは得意っすけど、こういうのはどうすればいいかわからんっす!
お嬢様はほうれん草が足りてないって言ってるっすけど、いまさら食べてもきっと遅いっすよね。

えーい、こうなったらヤケっすよ!
【愉快犯爆弾魔】をどっかーんって爆発させてみんな正直者になっちゃうっす!
最後のお別れかもしれないから言いたいことは全部言っちゃうっす!

※アドリブ連携大歓迎
九段坂・いずも
ああ――それなら、わたくし「降り」ますね?

|妖刀「山丹正宗」《この刀》は、怪異のみを断つ刀ですので、
|ただの女の子《・・・・・・》を斬れるようにはできていませんし……
この刀がなければわたくし、何かと戦えるような女じゃありませんので

そう言って、誰より先に刀を砂浜に放って、鬼子ちゃんの方へ

こんばんは、わたくしは九段坂・いずもと言います
よく、ひとりでここまで頑張りましたね
わたくし、悪い大人ですので――あなたの味方をしますね?

全てがわかると言いませんが、この戦いの中では
避けなければいけない攻撃というものがあるはずです
わたくしはそれを教えますから、頑張って避けてみてください
√能力【くだんの件ですが】で鬼子ちゃんへの攻撃を視ます

大事な初デートを誰にも邪魔なんてさせたくないんです、わたくしは
死が二人を分かつとも、夢を見る権利は誰にだってあるでしょう

守くん、言葉を伝えるならいまのうちに
時間というのは、どんなときでも止まってはくれないものですから
悔いても仕方ありません 目の前のことから、目を逸らさないで

●彼女たちの選択
 ああ、運命というのは、なんて残酷なものでしょう。
 決死の覚悟をもって眼前に立つ少女――天野・鬼子を見つめながら、エレノール・ムーンレイカー(怯懦の|精霊銃士《エレメンタルガンナー》・h05517)は胸中に呟く。
 できるなら何とかしてあげたい。
 けれど――今ですら、鬼子ちゃんの無意識のうちに町には被害が出ていますし、鬼子ちゃんの意識が完全に消滅した後、隠神刑部は好きに暴れ出すでしょう。
 それは、させてはなりません。
 可哀そうだけれど。たとえそれで、守君から恨まれたとしても。
 ――今は心を鬼にするしかない。
「……判りました。鬼子ちゃん、もしもあなたが本当に、わたしたちと同じく√能力に目覚めていれば、確かにこれからも問題なく暮らしていけると思います」
 それはもはや、あり得ない。
 判っている。
 判っているけれど……その残酷な真実を、戦う前から今ここで突きつけることはあるまい。
 ゆえに、エレノールはあえて言葉をぼかし、鬼子の提案に乗る形でそう宣言した。
「テスト役、お受けしましょう。……皆さんも、それで大丈夫ですか?」
 エレノールが振り返れば、それにこくりと頷き返し、歩を進めたのはファウビィ・アルメ(|継の硝守《ツギガラス》・h01469)。
 嗚呼、そういうことだったのね…!
 星詠みから事件の概要を聞き、神社で聞き込みをし、他参加者との情報交換を経て、いよいよ事件の本当の姿を知ったファウビィには、この強い心持つ――いや、強くなるしかなかったのだろう少女への感動と、その期待に応えたいという思いが去来していた。
 例えそれが、彼女の願いを打ち壊す結果になったとしても、おそらく彼女もそれは覚悟の上で、この提案をしてきたのだ。
 ならば結果はどうあれ、それに応えるのが自分達の責務だと。
「……初めまして、鬼子ちゃん。わたしはファウビィ。ファウビィ・アルメ。その服は貴女が選んだのかしら?」
 彼女は鬼子へ向かい、努めて優しく微笑みかける。
「あ。……はい」
 少し驚いた様子ながら、はにかんで答える鬼子。
 そんな鬼子の様子を、ファウビィはそっと見つめる。
 ちょっと大きめのダッフルコート。
 耳当てつきの毛糸の帽子。
 セーターに、ミニスカート。
 タイツに、ブーツ。
 それは中学生らしい可愛らしさの中に、ちょっぴり背伸びしたい気持ちが隠れたコーディネート。
「とても素敵ね、綺麗だわ。いいえ、恋する乙女はいつだってきれいなのよ。…ならば全力で応えましょう!貴女の決意に!」
 鬼子の両肩に手を置いたファウビィが、しばし瞳を見つめ、そして目を伏せて。
 何かをそっと耐えるかのように声を張った。
「……はい!宜しくお願いします」
 鬼子もまた、意気に応えてくれた能力者たちへ気持ちを返す。
 そして、戦いが始まろうとした時。
 この場に居る誰もが、予想し得なかった行動を取った人物が居る。
 九段坂・いずも(洒々落々・h04626)だ。
「ああ――それなら、わたくし『降り』ますね?」
 いっそ、おっとりとした口調でそう告げると、彼女はあろうことか己の唯一の武器といってもいい刀を砂浜に放り捨てた。
 そして、ファウビィの横を通り過ぎ鬼子の隣へと、立つ。
 まるで、仲間である能力者たちと|対峙するかのように《・・・・・・・・・》。
「あの刀――妖刀『山丹正宗』は怪異のみを断つ刀ですので、|ただの女の子《・・・・・・》を斬れるようにはできていませんし……この刀がなければわたくし、何かと戦えるような女じゃありませんので」
 場が、凍り付く。
 誰もが、動きを止める。
 そんなエアーをブレイクしながら、彼女は続けて鬼子へと述べる。
「こんばんは、わたくしは九段坂・いずもと言います。よく、ひとりでここまで頑張りました、鬼子ちゃん。ところでわたくし、悪い大人ですので――これから、あなたの味方をしますね?」
 能力者として前代未聞の発言を、軽やかな笑みで宣言するいずもへ仲間たちが目を剥く。
「いずもさん!?」
「一体なにを……!」
「だって、そうじゃありませんか……皆さんも、そう思いません?」
 いずもは鬼子へ一度微笑みを向けると、ゆっくり仲間たちの元へ足を進める。
 さくり、さくりとハイヒールが砂を踏む音。
 夜の海風に黒髪が、なびく。
「大事な初デートを誰にも邪魔なんてさせたくないんです、わたくしは」
 女は告げる。
 そして仲間たちだけに聞こえるように、こう言葉を次いだ。
「死が二人を分かつとも、夢を見る権利は誰にだってあるでしょう……せめて、束の間の間だけでも」
 寄せられた眉根。
 少しだけ、震える声。
 自信たっぷりな口調と態度で覆い隠していた顔を、彼女はそっと仲間だけに覗かせていた。
 死。
 今、いずもは死と云った。
 彼女は鬼子が死ぬと判っている。
 ではなぜ、味方を裏切るような言動をとるのか。
 ああ。
 と、能力者たちは、いずもの行動を理解した。
 彼女は、対決の結果としての彼女たちのデートを、まず優先しようと云っているのだ。
 なぜならば、対決の成功報酬としてのデートが、実現することなどあり得ないから。
 それが、自分達には痛いほどに、判ってしまっているから。
「……成程、判りました」
 ここで新たなメンバーが、満を持して発言に踏み切った。
 黒後家蜘蛛・やつで(|畏き蜘蛛の仔《スペリアー・スパイダー》・h02043)である。
「なるほど、鬼子様は守様にラブラブなのですね。やつではそういう物語も嗜んでいますが、それら物語の中ではたいてい問題が起きて簡単には上手くいきません。賢いやつでが思うには……そう!報連相が足りていないのです!」
 報告!
 連絡!
 相談!
 どやぁ、と云わんばかりの顔で宣言したやつでは酷く満足そうだ。
 その様子はまさに、体は子供、頭脳は大人、その名は以下略というところ。
 いや、蜘蛛に針はないので、誰かを刺したりはしませんよ?噛みはしますけど。
 そんな名探偵よろしく、眼前へ人差し指を立てたお決まりのポーズで、向かい合う能力者たちと鬼子、守の間を行き来する。
「守様、答えを返すべきです。ぜんぶ。だって鬼子様の言いたいことは逆なのですよ?それでは健全なコミュニケーションはとても得られません。そこでましろの出番です!ましろ!」
「はい、ましろです!うーん、うーん。お嬢様はほうれん草が足りてないって言ってるっすけど、いまさら食べてもきっと遅いっすよね」
 応えたのは白兎束・ましろ(きらーん♪と爆破どっかーん系メイド・h02900)。
 けれど、いつもの勢いはやや息を潜め、少し困ったような顔で腕組をして唸っている。
 だが、唸りながらもやつでとましろは二人で考えた策があるようで「はい、少しだけ集まって下さい」と、仲間へと告げて、やつでが手を叩けば。
「あ、鬼子ちゃん、守ちゃん。ちょっとだけ待っててくださいっす!」
 ましろは二人へ言い放ち、ここまでのシリアスな空気を見事にエアブレイクして能力者たちは若い二人そっちのけ、暗い浜辺で顔を付き合わせての作戦会議に興じる。
 そして。
「……それ、試してみる価値ありですね?」
「ええ。とてもいい!そう……最後に、美しい思い出を作る時間くらい、乙女にはあっていい。いいえ、なければおかしいわ!」
「そういうことであれば、ええ、もちろん。こちらも協力します」
 口ぐちに同意するメンバーたち。
 まず戦う様子を見せていたエレノールとて、ああは言ったものの心の中には何とかならないのかという想いがあった。
 よって、他のメンバーが戦う以外の選択肢を取ろうとするならば、それは願ったりというところであったのだ。
 話は決まった。
「さて!守ちゃん、鬼子ちゃん。ここにましろのチカラで作った怪異腹腹時計というものがあるっす」
「え?う、うん」
 はい、とメイド服の少女から差し出された何かファンシーでありながら怪しいデザインの時計を思わず受け取る鬼子。
「で。こっからが本題っすけど、その時計……爆発させると『正直病』を鬼子ちゃんにデバフることができるっす!」
「……正直病?」
「そう!嘘を付こうとしても、出来なくなるっす!多分鬼子ちゃんにも効くと思うっす!」
 鬼子と守が、思わず顔を見合わせる。
「あの、これ怪我とかしない?」
 守が訪ねれば。
「ダメージ0っす!」
 ましろがオッケーサインを作りながら笑顔で云う。
「それなら……」
「……試してみる?」
「はい、いきます!皆さん、離れて離れてー?3・2・1・0!」
 どかーん!
 そう、いかなるシリアスエアーも爆発一閃破壊する。
 これが、ましろパワーであった。

●はじめてのー…チュウ?
「はい、ご注文のコンポタとおしるこ、どうぞ」
「はい、ストール!でも一枚しか用意できなかったわ!二人で仲良く使ってね!」
「あの、私の外套で良かったらどうぞひざ掛けにでも使ってください?……あ、あとこれ、わたしの携帯食の煮干しラーメン爆盛り。とても美味しくて温まりますけど」
「エレノールさん、このムードでラーメンはやめておきましょうか。ウフフ」
「やつでは糸を編んで、ベンチの周りに風よけを作りました!これで寒さが少しはしのげると思います!」
「ましろちゃんは大したもんはなかったっすけど、駄菓子は持ってたっす!そーれ、ばらばらー!」
 そして能力者たちは、二人を見守るように距離を取る。
 二人だけの時間を、邪魔しないように。
「……守くん、言葉を伝えるならいまのうちに。時間というのは、どんなときでも止まってはくれないものですから」
 少しだけ軽くなった空気のあと、夢を語った探偵は、しかし同じ赤い唇で現実を語る。
 冬の海に吹く凍てつく風は、変わりはしないのだからと。
「あとで悔いても仕方ありません。目の前のことから、どうぞ目を逸らさないで」
 冬の海。
 真夜中。
 ベンチ。
 自動販売機のあったかい飲み物。
 駄菓子はしょっぱいものからあまいものまで、それはもう色々と。
 二人でストールにくるまって。
 ひざ掛けを分け合って。
 ベンチの周りには白くて綺麗な糸で編まれた風よけが、月光にキラキラと。
 目の前で輝くハーフムーンのように、全部を仲良く半分こして。
「なんか……凄く、良くして貰っちゃったね……」 
「そうだね……あ、鬼子、寒くない?体は大丈夫?」
「うん。大丈夫……あ、ねえ、プルタブ開けてくれる?」
「あ、うん。……鬼子、昔からおしるこ好きだよね。はい」
「ありがと。うん、好き。おばあちゃんが生きてた頃、冬によく作ってくれたんだよね」
 鬼子の言葉は、素直に守に届いている。
 ああ、それだけで。
 彼女の胸は、他のなんにもいらないくらいに満たされて――…あ、ちょっと待った。
「……ねえ、守?可愛いか……かのじょが、お洒落してデートに来たら、男の子はな、なんていうの?」
「あ。ええっと――…か」
「か?」
「……可愛いよ、凄く。……世界一可愛い」
「!!あ、ありが、と……」
 結局、はじめてのデートではじめてのチュウなんて、まだまだ二人には早くて。
 そして、はじめてのデートが、そのまま最後で。
「……ぼっけたぬきさんが来た時ね。わたし、病院で死にかけてたんだ」
 そして彼女は、云えないままで終わるはずだった言葉を、素直に彼に届けはじめる。
「すごく、苦しくて。体の震えは止まらなくて。でも、誰もいなくて。機械が凄く、うるさくて」
 息を次ぐ。
 息が、出来ている。
「お父さんにも、お母さんにも。明にも、守にも。誰にも会えないまま、このまま死んじゃうんだって思った」
「……うん」
 守は短く答えを返す。
 言葉の代わりに、鬼子の手を握る。
「でもそうしたらね――…あのたぬきさんが来てくれたの。守が、またわたしを助けてくれたんだよ?」
 鬼子はそう云って、守の顔を見つめる。
 微笑みを浮かべてじっと、見つめる。
 心から、満足そうに。
「え、いや、でもほら。……僕のしたことは良くないことで」
「違うよ」
 ぎゅ、と。
 憑依されているが故の体の自由。
 憑依者であるが故のこの命。
 けれど、憑依者であるがゆえに、どうしても起きてしまう心身への苦痛。浸食の痛み。
 すでに命尽きている体への負担を噛み殺して、彼女は笑う。
 精一杯。守の手を握り返して、笑う。
「いい?守。守はなんにも悪いことなんてしてない」
 少し、疲れた。
 力いっぱい握ってるのに、守の手の感触がない。
「守は、あたしに希望を届けてくれたの。戦う力を届けてくれたの」
 手を握る、強く強く、あなたの手を握る。
「……ありがとね、守。守がぼっけたぬき様を蘇らせてくれたから――あたし、守にちゃんと気持ち、伝えられた。そうじゃなきゃ、あたし、あの部屋で一人ぼっちで、死んじゃってた」
 ねえ守、そこにいるよね?
 夜は暗くて。
 もう、良く見えないよ。
「やっぱり守は、あたしのヒーローだった」
 まるでいまにも溶けてしまいそうな砂糖細工のような笑顔で、彼女は云った。
「守。大好き」
「……僕も。僕も鬼子が、大好きだよ」
 真実の気持ちを、真実の言葉で云えた。
 守の瞳から、大粒のなみだが流れ落ちる。
 どうしてだろう、と思う。
 嫌われてると思ってた好きな子から、こんなに嬉しい言葉を云って貰えて。
 取返しのつかないことをしてしまったと悔んで、怖くて、怖くて。
 でも、それは間違いじゃなかったって云って貰えて。
 嬉しいのに。
 とても、とても、嬉しいはずなのに。
 どうして僕の目はこんなにも、涙を流しているんだろう。
「……僕はね、鬼子。この妖怪が当たり前に暮らしてる世界に来て、小さいころ凄く嫌だった。元の世界は友達も居て、安心できる世界だったのにって。なんで僕はこんな世界に来ちゃったんだって、ずっと思ってた」
 手を握って。
「でも、判った」
 少しふらふらしている鬼子の細い肩を、支えるように抱きしめて。
「どうして僕がこの世界に来たのか、今、やっと判ったよ」
 冷たい彼女の体に、自分の熱がどうか移っていってくれますようにと願いながら、守は云った。
「僕はね鬼子、君に会うためにこの世界に来たんだよ――…きっとそうだったんだ」
「……すごいね守。ほんとのヒーローみたいなこと云ってるぅ」
「うるさいな。……だって、僕はヒーローなんでしょ?鬼子の」
「うん。そう……そう」
 月が綺麗で。
 海の波音は優しくて。
 守に気持ちを伝えられて。
 守にも、好きだよって云って貰えて。
 きみに会うために世界を越えて来た、なんて。
 少女漫画も真っ青なセリフを云わせてやった。
「――…えっへっへっ、へー…」
「……なんだよ鬼子、急に変な笑いして」
「……もういいよ、たぬきさん。私はもう、充分……ありがとうー…」
「……鬼子」
「――そうか」
 ぼっけだぬきが鬼子の傍へと実体化し、憑依状態を解除する。
 鬼子の体から、ふっと何かが消える感覚。
 二人を見守る能力者たちの前に、一陣のつむじ風が砂塵と共に立ち――。
「――これで満足か。能力者」

 隠神刑部がその姿を見せていた。

●月のワルツ
 雨が、降って来ていた。
 小雨だ。
 空に半月はいまだ、出ている。
 風で流れてきた群雲が降らせる、一時だけの通り雨だろう。
 砂浜をほんの少し濡らすだけの雨。
 今にも止みそうな雨の中、能力者たちは踊る。
 古妖との月下のワルツを。

「げ!雨っすか。鬼子ちゃんは大丈夫っすかねーっと!」
 ましろが頭上へドローンを飛ばすと同時、大きく跳躍してドローンを踏み台に。
 さらに上空へと身を翻せば――隠神刑部の【忌まわしき神通力】により操られた大波が、いままで少女が居た砂浜へと襲い掛かる。
 巻き込まれていれば地面へと叩きつけられた揚げ句、海上へと攫われかねない勢い。
「悪い奴をどっかーんってする展開になったのは歓迎っすけど、こいつなかなかやるっすよ!?」
 続けて空中から【愉快犯爆弾魔】をどっかーん!
 ダメージこそないものの【変幻百鬼夜行】により召喚され、ましろの着地地点を狙っていた化け狸たちを疑心暗鬼状態に陥らせて混乱させる。
「あれっ!?お前ひょっとして敵じゃないか!?」
「なにをいう、お前こそ!」
「いやいや、拙者だって!?」
「今っす!」
「蜘蛛の糸はどこにでも繋がっているのです。だから、ちょっとやつでが糸を引くだけでこうやって飛ばせるのです。もちろん糸はあなたにも」
【|見えない蜘蛛の糸を引く《ウェブ・スイング》】
 やつでが編み込んだ糸の網を操れば、網に掬いあげられた大量の砂が狸たちの頭上から襲い掛かる。
「うおっ、ぺっぺっ!」
「目がー目がー」
 そこへ【アデュラ・フルモード】により、月宝石の加護のもと戦闘力が強化され、かつ宝晶武装「ディアマンテ」とルナ・ブレードの二刀流となったファウビィと。
 妖刀『山丹正宗』を手にしたいずもが切り込み、一息に切り捨てていく。
 変異した分体とはいえそこは隠神刑部。
 召喚直後には、計二十体もの配下を呼び出し、自身の周囲に展開。
 能力者たちもうかつに近寄れず、戦闘は半ば膠着状態となっていた。
「……お前達のような、衆生の側に立つ者はいつもそうだ」
 その腕が瞬時に巨大な大筒となって、砲弾を飛ばす。
 かろうじて直撃は受けていないものの、着弾地点には大穴が空き、巻き上げられた砂や土砂により味方のダメージは蓄積していく。
「失敗するかもしれないからと殺す。己の心の弱さを棚に上げて殺す。受け入れられぬ己が器の小ささを見もせずに殺す。皆のためだからと云って殺す……そうしてまた、ただ生きようとした、罪なき者を殺すのか」
 おそらくは、民話で語られた彼自身の過去を思い出しているのだろう。
 隠神刑部の静かなる怒りと殺意が、津波のように能力者たちに押し寄せる。
「もう、終いじゃ。あの娘はもう、助からん。お前達が振りかざす正義があの娘を殺すのだ!我が妻のように!」
 それを知るがゆえ、能力者たちから返る声は無い。
 その悲しみと怒りが理解できるがゆえに。
「悲しいヒトね。ぼっけだぬき……それにしても多少減らせたけどまだ十匹以上の配下に古妖か……なかなか厳しいわね。一対一に持ち込めればいざ決闘!皆との連携攻撃でなんとかなると思うんだけど」
 ファウビィが悔しそうに唇を噛む。
 彼女とて、ぼっけだぬきの過去を知る一人。
 同情する気持ちはある。
 けれど、それでもやらなければならないことがある。
 全は個。個は全。
 けれど、全を見た時、個はその形を朧げに変える。
 それは神ならぬ、人としての限界なのだ。
 ゆえに。
 今こうして己が足で大地を踏みしめ、ここにとどまっている。
 と、そこで彼女に声をかける者が居た。
「ここはわたしに任せて下さい……精霊達よ、我が声に応えよ!」
 叫んだのは、長銃オンディーヌを以て戦線を支えていた射手、エレノールだ。
 √能力【精霊召喚】――ここまでの戦いを経て、すでに極限まで能力を高め、この場に集った能力者たちの中でも、最もインビジブル化を促進していたエレノールは、インビジブル化の進んだ能力者の例にもれず、その姿を大幅に変えていた。
 黒を基調とした衣服は白くその色を変え、まるでドレスの如く長く変形し。
 その背にはインビジブルたちが集い、光輝く翼の如きかたちを造り出している。
 髪は長く伸び、周囲に赤、青、茶、緑という光の玉――地上の四大精霊を従えた姿は、銀髪と相まって、まるで天から舞い降りた月の精霊のように、海辺の月下に光を放つ。
「下位精霊たちになんとか少しの間、配下の化け狸を抑えこませてみせます……皆さん、お願いします。隠神刑部への道を開いていただけますか!彼を倒せるだろう一撃を、わたしが入れてみせます!」
「了解したのです。ましろ?」
「はいっすお嬢様!腹腹時計、ツールガン、ファミリアセントリー、シールドドローン、一斉展開!」
「ではわたくし、狸さんの動きを――『視て』みますね?……【|くだんの件ですが《コール・オール・ユー》】!」
「わたしの本気、魅せてあげる!」
 やつでが糸網で砂を操り固め、狸たちの足元を封じれば。
 ましろが、動きを抑えられた化け狸たちを、次々と打ち倒していく。
「ファウビィさん、右です!」
 いずもが未来視にて得た情報を開示し。
「さあ、狸さんたちどいてどいてー!幻術になんて騙されないわよ、目じゃなく、音で敵の位置を掴んで……ここ!」
 配下たちが作り出した防衛陣の一角を見事に突き崩し。
 かくして、隠神刑部への道は拓く。
「……母なる世界樹よ、貴方の大いなる力を我が身に満たし給え!」
【世界樹の恩寵】発動。
 エレノールは一つの世界を形作ると云われる伝説の世界樹と完全融合し、呼び出した聖樹の鎖――まるで蔦にも似た――にて、隠神刑部を完全に拘束、その動きを封じてゆく。
「むうううう!!こ、これは……!」
「同時発動!【精霊剣・閃光の乱舞】――!」
 そしてその時が、来る。
 一分という近接戦闘においてあまりに長いチャージの時間を、他のメンバーの援護と、聖樹の束縛により得たエレノールの、終わりを告げる一撃が、繰り出される。
「いま、四精霊の光閃き……悲しき者たちを塵へと還さん!」

 ――そして真っ白に染まった世界に、彼女は刹那の夢を見た。

 そこは、ぼっけの杜。
 夏の夕暮れだ。
 禁足地の中、秘密基地を作りあげて大喜びの子供たちが、走り家路を急いでいる。
「あれ?こんなところに……これ、お墓かなぁ?」
「おーい、守!なにやってんだよ、置いてくぞ!」
「あ、待ってよ明!鬼子ちゃん!ええと、お墓にはお供えしなくちゃいけないんだよ」
 その日のオヤツとして与えられていたせんべいを、そっと石の前に置いて。
「なむなむ」
 年端もいかない少年は、その古妖の磐座にお供えしていた。
「これでよし。……おーい、待ってってばー!」
 そして誰も居なくなった杜に声が、響く。
「え。……お前、こんな儂に、これ、くれるんか……?」
 そう、縁は結ばれていた。
 少年にとっては遠い過去に。
 あやかしにとっては、瞬きほどの過去に。
 だからこそ、声は届いたのだ。
 記憶の彼方にしまわれてしまっても。
 永き眠りの狭間に、それが消えてしまっても。
 その時、縁は、結ばれていたから。

 ……もう一つ気になっているのが、守くんをなぜ食べなかったのか。
 わたしは「食べれなかった」と見てるんですよね。
 これは理由なき直感ですが、守くんにも何らかの因縁があるんじゃないかなと見ています――。

「ああ、そうだったんですね。だからあなたはあの時――」
 錬成剣による超速の連撃により、ぼっけだぬき――隠神刑部の体は、もはや完全に分断され、分解されている。
 あとはもはや、インビジブルと消えてこの場より消え失せるのを待つばかり。
 たとえその後、世界のいずこかで再び蘇るとしても。
「……よかろう。もはやわしは消える。もはやぼっけたぬきはこの世から消え失せる」
 どこか遠くを見つめるような瞳で、ぼっけだぬきは独り言ちる。
「わしは再びただの隠神刑部、その欠片となりて本体の元へ参じ、いつか貴様ら人間を根絶やしにしてくれよう……だが。あの娘に一時の夢を見せてくれたことだけは――…感謝する」
 遠い宇宙を、星空を、虚空を見つめていた瞳が、最期の瞬間に彼女たちを捉えて。
 うっすらと、微笑んだような気がした。

●星のかけらを探しに行こうAgain
 そしてその時が来る。
「みなさん、本当に……ありがとうございました」
 戦いが終わり、能力者たちが守と鬼子のそばへと集まった。
 もはや、夜明けも近い未明の時。
 あと数時間もすれば、夜が明ける――。
「……守」
「……なに?」
 守の胸の中、抱きかかえられた鬼子が、何かを求めるように手を差し出す。
 そうすればそれは当たり前のように、守の手がしっかりと握って指を絡める。
「守……大嫌い」
「え。……ああ、さっきの爆弾、効果が切れちゃったんだね」
「ふふ。……そうだね。――…じゃあ」

 ねぇ、守。
 あたし、最後に嘘を付くよ?
 さっきも、やっと好きって、云えたけど。
 最期に。
 守にちゃんと伝わる言葉で、あたしの気持ちを――…憶えておいてほしいから。
 ね……守。

「守――…|大好き《大嫌い》」

 それだけの|言葉《嘘》を。
 彼女がどれほどの時間をかけて。
 どれほどの力を振り絞って、彼に告げたか。
 それを知るのは世界で今、この場にいる者だけだった。
 いつしか雨は止んで。
 未明は過ぎ去り、曙から、暁を経て。
 今、世界は黎明を迎える。
 ああ。
 鬼子の体から力が抜け。
 そうして朝日に照らされて。
 小さく白い、美しい魚が――…インビジブルが抜け出て行く。
 守には見えないそれが、そうっと守の頬に寄り添うのを、能力者たちは見る。
 エレノールが【|交霊の呪法《コンタクト・オブ・インビジブル》】を使おうとして――首を振ってやめる。
 果たして今、彼に彼女の姿を見せて、その声を聞かせて、一体なんになると云うのか。
 彼と彼女が永遠に別れる、その事実になんの変わりもない。

 ――羨ましい。
 ふと、胸中に浮かんだ言葉を口中に繰り返して、いずもはそんな自分に驚いた。
 ああ、そうか、と思う。
 この子は今、永遠を手に入れた。
 この男の子の心から、未来永劫、この子の姿が消えることはないだろう。
 それが彼女には、どうしようもなく羨ましく感じられたから。
 それを断ち切るように、彼女は携帯電話に手を伸ばす。
「――…あ、鬼子ちゃんのお母さんですか?九段坂です。……はい、鬼子ちゃん、見つけました。場所は――」

「さて、やつでが頼まれたのは守様のことだけでした。なんとか無事に守り切りましたね、ひと段落です」
 くあ、とやつでが小さくあくびをする。
「それにしても眠――あれ?」
 止んだと思ったのに、また雨が降ってきたのだろうか。
「ねえ?ましろ。不思議です、止んだはずなのに顔に水滴が流れてくるのです」
「――…なんででしょうね。ましろちゃんにも、それはよく分からないっすよ、お嬢様」
 ポケットから、白いハンカチを取り出して。
 メイドは、東の空から昇る太陽を見つめながら、そっとお嬢様の頬を拭った。

「…いっそ恨んでくれていい。それでも、あの子の美しさが穢されるより、ずっといいわ」
 仲間たちからそっと離れて、ファウビィは呟いた。
 だって、あの子は強かったから。
 その強さは、世界の何物をも凌駕するほどの美しさを持っていたから。
 そう、まるで今まさに世界の全てを照らし出そうとしている、あの太陽のように。

 なんて。
 なんてこの子は、強かったのだろうと思う。
 一度はその命すら失いながらも、奇跡が起こって命をつないだ。
 そうして、彼女は走り出したのだ。
 けして、後悔しないように。
 逃げず、ただ真直ぐ、正しい形で命を繋げる方法を選んだ。
 ああ、わたしも。
 わたしもいつか――…このごく普通の少女のような強さを、得ることができるのだろうか。
 己に怯懦の名を刻む臆病者の狙撃手は、心の中でそう、そっと呟いた。

「――死なないで鬼子。ねえ、また云ってよ、いつもみたいに云ってよ。ねえ……!僕のことなんて大嫌いだって。ねえ……」
 その声は。
 長い長い夜を越えた海の、あまりにも美しすぎる、光り輝くさざ波に。
 無残に打ち砕かれて、空へと消える。
 やっと向き合い、抱き合えた二人を砂浜へと残して。
 能力者たちは声もなく、ただ立ち尽くしていた。
 けれど少年と同じように。
 きっとまたこの季節には、思い出すのだろうと思った。
 この季節。

 二月は鬼の嘘を。
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