偶然(?)合体、暴食の巨大クマ戦士!
いったい、なぜそんなことになったのか、当事者の片方である「人間(√ウォーゾーン)のジェネラルレギオン × 暴食怪獣クマルゴン融合体」の天城・リタ (レベル10 女)には全然わからない。もう片方の当事者「暴食怪獣クマルゴン」の方も、どうやらわからないらしい。偶然の事故なのか、それとも誰かの企みなのか、誰も解説してくれないので、まるっきりわからないまま、リタとクマルゴンは気がついた時には合体を果たしていた。
ちなみに、異種族との合体は通常凄まじい苦痛をもたらすと言われるが、たぶん幸いなのだろう、リタもクマルゴンも特に苦痛は感じなかった。ただ、非常に強い違和感はあった。
「…は?」
「…グァ?」
一つの身体、一つの喉から、明らかに違うが同じくらい当惑した声が同時に出る。クマルゴンが合体前にどんな姿をしていたのか、それはクマルゴン自身にもよくわからない(鏡とか見ないし、だそうだ)が、少なくともリタは大幅に変化していた。一言で言えば、巨大な二足歩行白熊である。
「ちょ、ちょっと、この姿は、いろいろとまずいですね」
こんな姿でうろうろしてたら間違いなく怪獣と間違われて(?)すぐさま討伐されてしまいます、とリタは心底震え上がる。リタの一族は勇猛な戦士揃いで、そんじょそこらの怪獣には怯まない。クマルゴンがどのくらい強いかはわからないが、一族のみんなと戦うなんて真っ平御免です、とリタは身を震わせて叫ぶ。
「もとに、もとに、もとに戻って、戻してください! お願いします!」
すると、その叫びが何かに通じたか、あるいは合体後のリタ自身に秘められた力を引き出したか、瞬間、身体がすっと縮んで、合体前のリタの姿……√ウォーゾーンの少女潜水兵に戻る。しかし、よかった、助かりました、と思うより先に、凄まじいとしか言いようのない空腹感…いや、飢餓感がリタを襲う。
「な、な、何ですか、これは?」
猛烈な目眩に襲われ、リタは再び巨大クマの姿に戻ってしまったが、しかし飢餓感は収まらない。自分が何をしているかもわからないまま、巨大クマ姿のリタは近くにあった大岩に齧りつき、易易と噛み砕く。
「…少シハ、腹ノ足シニナル、カナ?」
リタの中で、明らかに異質な意志が唸る。もしかしてこれがクマルゴンさんなのでしょうか、と、リタが思うより早く、クマルゴンの意志らしきものが告げる。
「敵ダ! 食ウヨ!」
「て、敵? 食うって、あの……あーれー!」
その瞬間、何が起こったのか、リタは正確にすべてを認識することはできなかった。ただ、巨大なロボットとも鉱物塊ともつかない、強い光を放つ奇怪なモノが不意に天空から落下してきて、危うく潰されそうになったことだけは見て取った。しかし、リタである巨大クマは機敏に身を躱したらしく、具体的に何をどうしたのかはよくわからないが、潰されることなく巧みに体勢を入れ替える。そして躍りかかって勢いよく食らいつき、輝く奇怪な巨大物体を猛然とばりばり噛み砕く。食いつかれた巨大物体は巨大クマを振り払おうと激しく機動し、目まぐるしく光を明滅させるが、その動きは急速に遅くなり、やがて停止して地に墜ちる。同時に光も消え、単なる巨大な岩のようになった獲物を、巨大クマは休むことなく貪欲に喰らい続け、とうとう最後の一片まで噛み砕いて嚥下する。
「い…意外に美味しいですね、これ…」
強烈な非現実感の中ですら容赦なく身を苛んでいた飢餓感が確実に薄れていくのを感じ、リタは思わず呟く。するとクマルゴンの意志らしきものが誇らしげに応じる。
「アア、滅多ニナイ獲物ダ。オ前ガ急ニ身ヲ縮メタノデ、幻惑サレテ降リテキタヨウダネ。距離ヲ取ラレテイテハドウシヨウモナイガ、爪ト牙ガ届クトコロマデ近ヅケレバコッチノモノサ」
「……クマルゴンさんは強いんですね」
リタが素直に賛辞を送ると、クマルゴンは苦笑するような感じで応じる。
「イヤ、実ハ、アイツニ遠距離カラ不意討チサレテ、危ウク狩ラレルトコロダッタ。必死ニナッテ無茶苦茶ニ逃ゲ回ッテイルウチニ、イキナリアンタト合体シチマッタ時ニハ魂消タガ、コレハ災イ転ジテ福トイウ奴ナノカネ」
「え、え、え、えーと……」
この状態を福というのはちょっと、と思わないでもないが、しかしまあ、合体してしまったものはどうしようもない。
「この合体、解けないんでしょうか?」
「サア、アタシニハワカラナイナ。少ナクトモ、アタシニハ解ケナイ」
訊ねるリタに、クマルゴンはあっさりと答える。はあ、とリタは小さく溜息をついたが、気を取り直し再び身体を人間形態に戻せるかどうか試みる。
すると、先刻よりは意図的な感じで身体が縮んで人間形態になり、先刻のような凄まじい飢餓感も生じない。一瞬、ほっと息をついたリタだったが、そこへクマルゴンが淡々と告げる。
「コノ形態ハ、合体前ノアンタノ姿カ。正直、カナリ無理ガアルナ。エネルギー消費ガ激シイカラ、暫クスルトマタ腹ガ減ッテクルト思ウ」
「そ、そうですか……」
これは、私の身に何が起きたか一族のみんなに黙っているのは無理のようですね、と、リタは諦念の漂う口調で呟く。とにもかくにも、まずは一族の長で、潜水技術や基本的な戦闘技術をリタに教えた師でもある、お祖父さまにすべてを伝えて相談してみるしかなさそうだ。
「そうと決まれば善は急げですね。またお腹が空いて人間の姿を保てなくなる前に、お祖父さまに事の次第を伝えましょう」
「ソウダナ。アタシダッテ、アンタノ眷属ヲ、ソウト知ラズニ食ッチマッタリスルノハ避ケタイ。誰ガ味方ナノカ、示シテオイテクレルト助カル」
けっこう息の合った会話を体内で交わしながら、とりあえず外見上は合体前と変わることのない姿のリタは、祖父の家へと急いで走る。その速度は合体前よりも遥かに速かったが、すぐさまクマルゴンから警告が飛ぶ。
「コノ形態デ不用意ニ力ヲ使ウト、エネルギーノ消耗ガ更ニ大キク跳ネ上ガルヨウダ。ドウシテモトイウ時以外ハ、抑エタ方ガイイト思ウ」
「そ、そうですか。わかりました、控えます」
素直に応じてリタは歩速を緩め、クマルゴンに告げる。
「この身体をどう使うと、どのくらい消耗してしまうのか、私には全然わかりません。どうか、よろしくご指導お願いします」
「心得タ。ソシテ、ソノ代ワリト言ッテハ何ダガ、コノ地デドノヨウニ振ル舞エバ厄介事ヲ避ケラレルノカ、アタシニ教エテホシイ。コノ地ハ、アタシニハ異郷ダガ、アンタニトッテハ地元ダカラナ」
クマルゴンが応じ、リタは大きくうなずく。
「はい。私自身の知見は狭いですが、必要に応じてお祖父さまや賢い人たちの力も借りて、できる限りの配慮をいたします」
「アア、ヨロシク頼ム」
合体した当初から比べると、信じ難いほどスムーズかつ詳細に伝わるようになったクマルゴンの意志を受け、リタの口元に意識せずに笑みが浮かぶ。その頃に感じていた強い違和感も、もはやほとんど消えている。
「……もしかすると私は、得難い伴侶を得たのかもしれませんね」
リタは、違和感に代わって胸の内に溢れてくる温かい充実感を覚えながら呟く。まったく違う環境で生きてきた二つの異質な存在が、偶然出会って、離れ難い関係になり、力を合わせて困難を乗り越えていく。それは、伴侶と称するにふさわしい相手ではないだろうか。
するとクマルゴンの意志が、明らかに面白がっているような調子で告げる。
「伴侶カ。確カニソウ言ッテモイイカモシレナイガ、一ツダケ問題ガアルナ。アンタトアタシジャ、タトエ合体状態ガ解ケタトシテモ子孫ハ作レナイ。ソコントコダケハ、何トカ考エナイトネ」
「し、子孫ですか………」
さすがにそこまでは考えていませんでした、と、リタは顔を真っ赤に染めて呟く。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴 成功