虧月のきみに、かたる夜
それが、嘘か本当かどうかなんて。
「やあやあ、初めまして。ええと、お話を聞かせてほしいんだったかな」
そうへらりとわらう雨夜・氷月(壊月・h00493)には、ほんの些細などうでもいいことで。それよりも彼にとって大事なのは、そう。
「うんうん、いいとも、今日はとても気分がいいからね」
今の自分の気分なのだから。
そして今日は、お話してもいいかなってくらいには、気分が良いから。
「アンタにとって面白くも何ともないと思うけれど」
――面白かったらいっぱい笑ってね? って。
氷月はやっぱりわらって、かたりはじめる。
「俺の名前は「雨夜・氷月」っていうんだけど……これ、ニンゲンの保護者がつけた名前なんだよね」
氷月と名付けられた彼は、ニンゲンの男女の元で育てられたのだという。
二人の子供として、ニンゲンの子供として。
「でも、正直その頃って何もかもがよく分かってなかったから。しばらくは俺自身人間だと思ってた」
彼自身も自分は人間だと思っていたくらいだったのだけれど。
……でも、違ったんだよね、って。
自分はそうじゃないとわかったのは、いなくなったから。
「それを知ったのは二人が死んでから」
自分の父と母であると、そう言っていたニンゲンの男女が死んだのだ。
いや、それがただの死に方であれば、もしかしたらずっと氷月は、自分は人間だと思っていたかもしれない。
そして思わず、何で? なんて言葉が漏れ聞こえれば。
「二人が何で死んだかって? ははっ、何だと思う?」
氷月は楽し気に、その答え合わせをする。
「答えは……ある日、突然欠けた月みたいに身体が無くなっちゃったんだ」
不思議だね、とても不思議だね――そうかたる姿は、まるで悪戯した幼子のように無邪気で。
そして、善悪の区別もつかぬ災厄そのもの。
いや、まだ「それまで」は、氷月だって自分は人間だと思えていたくらいなのだ。
「どうしてそうなったかはね、実は俺もわかってないんだ。その直後から少しの時間、俺が何をしてたか覚えてなくてさ」
今だって不思議だし、ちょっぴり何でだか忘れている事がある気はするのだけれど。
「気がついたら人目のつかない場所で目が覚めて、手に握ってたのがこの『煌石』。鉱石みたいで綺麗でしょう?」
……明滅するさまがランプのようでしょう? って。
刹那、瞳に飛び込んできたのは――彼がふいに翳した、きらりと輝く宝物。
「これを手にした時から全てが変わったんだ」
――俺が願えば世界が紅く、蒼く、自在に煌めいて。
――人が生きる様が|愛おしく《憎く》 なって。
「それから、キラキラ輝く|世界《悲鳴》を求めてやまないんだ」
その後も宝物がきらりと輝けば、近くにいたニンゲンが、欠けた月みたいに身体が無くなっちゃったりもしたし。
狂人、善悪の区別もつかぬ獣、厄災……そんなレッテルを貼られ続けたりもしたけれど。
でも氷月自身、「その時」に自分でもわかったのだ。
「俺が普通のニンゲンじゃないって自覚したのはその辺りじゃないかな」
けれどでも、そうやって|破壊する《遊ぶ》のも、結構楽しいなって思ったし。
善も悪も敵も味方も、やっぱりそんなものは彼にとってはどうでもよいことで。
「普通は反応できないようなものを知覚できると気づいたのも多分その頃じゃないかな」
大事なのは、己が満足するかどうか。
だって、その時にわかっちゃったのだから――今を楽しめなくては『生き続ける意味』もない、って。
というわけで、何が本当で何が嘘か、そんなことは些細なことなのだけれど。
これは、ほんと。
「そんなこんなで、心霊テロリストのできあがり!」
――でも。
「どうかな、面白かった? 支離滅裂だった? まるで話のつながりが見えなかった? オチが弱い?」
何せ今日の彼は、気分がいいのだ。
破壊する遊びを色々と繰り返してきて、でも、どうにも飽きてしまっていて。
ちょうど、違った遊びを模索中だったのだから。
だから、特別に今日は見せてあげたのだ。
――「私を見て、私を聴いて、私を感じて」 って。
きらりと輝く宝物を、話をきいてくれたきみにも。
でもやっぱり、ちょっぴり残念かなって、そう思ったのは。
「そっかー、まあそんなこともあるよね。仕方ないね、俺は語り部にも騙り部にも向いてはないし」
いっぱい質問してみたこたえが、ひとつも聞けなかったこと。
だって――もうきみも、欠けた月みたいに身体が無くなっちゃったから。
でもそれだって、彼には正直、どうだっていいこと。
「うん? 作り話? 本当のことは入ってるかって?」
さあ……どうだろうね? なんて。
もう月のかけらさえも残っていないきみに、わらう。
色々とかたった今、それなりに暇潰しくらいには、楽しかった気がするから。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴 成功