その力は持続可能か、否か
ーーチャイムがなる。
始業を告げる時間だ。
そう、学校なのだから、当然だ。
ーーチャイムがなる。
最終下校時間だ。
部活で残っていた生徒たちも帰っていく。当然だ。
ーーチャイムがなる。
今は何の時間だ?誰も彼も帰ったこの時間に?
震える足で、見回りに向かう。
調子の外れた音で、尚もチャイムがなる。
鳴り止まない。鳴り止まない。鳴り止まない。
チャイムが、鳴り止まない。
真っ暗がりの向こう側。
ライトのその向こうにいるのは。
ーー誰何の声は、出なかった。
その夜。中学校から守衛がひとり、消えた。
●
「学校の怪談かにゃ!七不思議かにゃ!緊急の案件にゃ!」
三角帽子の錨のチャームを揺らし。
大変さを伝えようとぴょこぴょこ跳ね回っているのは、星詠みの瀬堀・秋沙だ。
「みんなはクヴァリフとか、クヴァリフの仔とか、聞いたことあるかにゃ?」
仔産みの女神『クヴァリフ』。
√ 汎神解剖機関にてその姿が度々目撃される、邪神の一柱だ。
「そいつがにゃ、『仔』と呼ばれる怪異の召喚手法を部下に授けていることがわかったにゃ!」
秋沙が語るには、その『仔』とやらはぶよぶよとした触手状の怪物で。
それ自体はさしたる戦闘力を持たないものの、他の怪異や√能力者と融合することで宿主の戦闘能力を大きく増幅するという。
「で、その『仔』から得られる力を|連邦怪異収容局《れんぽーかいいしゅーよーきょく》?も、狙ってるにゃ!いや、この場では、狙ってたにゃ?」
なぜ過去形?と問うひとりの√能力者に、星詠みはあっさりと『取り込まれたにゃ。』とだけ答えた。
「で、だにゃ!みんなにはこの『仔』を奪取してほしいにゃ!」
彼女の語る作戦は、こうだ。
まず、第一に。
皆には件の中学校に、夜に潜入し、『クヴァリフの仔の入手』を目論む者たちの痕跡」を探してもらいたい。
第二に。
狂信者と化した、連邦怪異収容局職員との戦いだ。
『仔』を呼び出したは良いものの、手に負えずに敗走し、あまつさえ敵の手に堕ちたようだ。
怪異と化した彼らが元に戻る事はない。
引導を渡してやってほしい。
第三に。
怪異の群れへの対処だ。
現れる怪異たちは、既に触手状の『クヴァリフの仔』と融合して通常以上の戦闘能力を獲得している。
全て駆逐し、可能な限り多くの個体から『クヴァリフの仔』を生きたまま摘出し、汎神解剖機関へ持ち帰ってほしい。
「範囲攻撃は、当たりどころが悪いと『仔』も死んじゃうから気を付けてにゃ!
摘出する時は斬り取ったり、ぶちぶちーって引っぺがしてもOKにゃ!」
「『仔』からは、人類の延命に利用可能な|新物質《ニューパワー》を得られる可能性は大きいというけどにゃ?
『必要なものを必要な分だけ』って、|猫《わたし》は|島《ボニン》で教えられてきたにゃ。」
ーー仮にクヴァリフがいなくなっても、持続可能なエネルギーなのかにゃ?これ。
星詠みの少女は首を傾げながら、√能力者たちの背中を見送った。
マスターより

皆さま、6度目まして。多馬です。
今回は時限ネタ!時事ネタのお話です。
●第1章
皆様には夜の中学校に潜入して貰います。
連邦怪異収容局の皆さんは既に潜入しており、何かやらかしてることでしょう。
なお、オープニングにもある通り、守衛さん以外は『誰も彼も帰っています』。
チャイムが鳴れば、守衛さんも勇気を振り絞って見回りに来ると思いますので、何らかの対処をしてあげてください。
●第2章
怪異と化した連邦怪異収容局の皆さまです。
やらかした上に、さらにやらかしてくれました。
もう、戻りませんので安らかに眠らせてあげてください。
●第3章
呼び出された怪異とクヴァリフの仔が合体!
秋沙が言っていたように、範囲攻撃の場合は『仔』の生存判定にマイナスの影響があります。
範囲攻撃をする場合には、何らかの工夫をすることで、クヴァリフの仔を生きて回収する事ができるでしょう。
宿主を殲滅することで、シナリオクリアとなります。
●進行・プレイング受付について。
断章執筆したら、募集・執筆開始の予定です。
また、今回はちゃきちゃき回させていただくつもりです。
採用は先着順ではありませんので、ご承知おきください。
以上です。
皆様のご参加を心よりお待ちしております。
39
第1章 冒険 『学校に潜む怪異』

POW
運動場や体育館を調査
SPD
美術室や理科室を調査
WIZ
教室や部室を調査
√汎神解剖機関 普通7 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ーー夜の学校は、何処か不気味だ。
立ち入りが禁じられるからこそ、魅力的で、不気味で、興味を唆られるのだろうか。
などと、浸っている時間はない。
早速、連邦怪異収容局の痕跡を探さねば…!
√能力者たちは守衛の目を掻い潜り、夜の中学校に潜入した!

学舎で何をしているのかね彼等
仔に教鞭をとるどころか失態を晒すなど
言っても遅いか
守衛の安全を確保しつつ校内を探れと
アッハッハ任せたまえわたくしは『怪人』だ一般人を捕らえる事は得意…
語弊があるか?
さて彼が向かってくるなら守衛所あたりからか
【戦線術式・人工意識】
自傷し増えよ。索敵だ
集団戦術は得意でね
「処理」するまで守衛の居そうな方向へは行くなよ
出会った場合その姿をもって引き返させろ
接敵したなら己の体を思い出せ
とびきりの毒薬だ
わたくし自身は放送室あたりへ向かおう
チャイムを鳴らしているのは誰だ
守衛が来たなら恐怖を与え催眠術で安全な所に避難して頂こう
帰れ帰れ
欲張りは禁物
一つでも役割を果たせたならそれで良し

怪異の対処に慣れているはずの収容局の方々が容易く取り込まれてしまう程の怪異……気を引き締めねばなりません。
ひとまず守衛さんの対処を。身の安全の為にも校内を見回りされてしまう前に接触します。
守衛室にいらっしゃるでしょうか?家族の忘れ物を取りきた保護者のふりをして尋ねます。
当然、夜分ですので追い返されてしまうでしょうが、その前に√能力を使って守衛さんに呪いを……ほ、ほんのちょっぴりです!
ただ、異変が起きても見回りに出る気が起きない程度の体調不良が発生する……はずです。
守衛さんを介抱した後で、探索に向かいます。
このような手段しか思いつかず本当に申し訳なく……。
ですがこれで校内の探索に集中できます。

〇教室や部室を調査
事前にHPで学校の見取り図を確認
印刷して地図として活用
暗闇に対しては暗視スコープと念のために腰にLEDのランタン
霊感や感受性を研ぎ澄ませながら教室や部室を1階から順番に調査
違和感を探す
少女分隊を使うことで、効率よく手分けして探す
バックアップ素体は、自分と同じ容姿と装備
ただ、サングラスをかけることで当人の見分けと同じ顔の違和感を隠す
この能力を使うことで反応速度が半減する難点があるので、参加者にフォローしてもらう
一人では対処できない案件が発生すれば撤退又は一緒に参加した仲間と協力して対処
個人的に放送室のある教室が怪しいと思ってるが、さてさて
アドリブ等あればお任せします
ーー学舎で何をしているのかね彼等。
「仔に教鞭をとるどころか失態を晒すなど。……言っても遅いか。」
かつり。水銀のヘビが巻き付いた杖でもって地を突き。
呆れた様に語る男の姿は、人の様であり、異形でもあった。
【ヘルメスの翼】と呼ばれる、無数の翼によって構成された、その身体。天使とは似て非なる、その姿。
ディー・コンセンテス・メルクリウス・アルケー・ディオスクロイ(辰砂の血液・h05644)は、元・悪の組織の幹部怪人の一柱である。
「怪異の対処に慣れているはずの収容局の方々が容易く取り込まれてしまう程の怪異……気を引き締めねばなりません。」
異形の怪人の傍で、艶やかな黒髪を夜風に揺らし。
巫女装束に身を包んだその姿で、静まり返った校舎を見上げるのは、|篠宮・詩乃《しのみや・しの》(魔血ノ巫女・h05394)。
彼女は現代まで続く一族の退魔士であるが。その身は人間とは似て非なるモノ。
|取り替え子《チェンジリング》、がその正体である。
とはいえ、魔に連なるモノとはいえその性根は善良。
ディーと同じく、今回の騒動解決の力となるだろう。
「ああ、手練れが敗走するとは、容易ならざる事態だ。油断せずにいかなくてはな。」
こちらもまた、姿形こそヒトではあるが、似て非なる者。
|星野・優輝《ほしの・ゆうき》(重巡洋艦の|青年人形《レプリノイド》の霊能力者・h05529)は重巡洋艦の|少女人形《レプリノイド》だ。
とはいえ、彼はあまり見かける事の無い、男性型。
√ウォーゾーンに生まれながら、√EDENで喫茶店を開き、コーヒーや全国のグルメを愛好している趣味人という側面を持つ。
生まれ同様に、少し変わり者なのかもしれない。
「ひとまず、守衛さんの身の安全の為にも、対処をしなければなりませんね。」
「アッハッハ!任せたまえ、わたくしは『怪人』だ。
一般人を捕らえる事は得意……語弊があるか?」
さて。予知で見えた中で被害に遭った、守衛への対処を重視したのが詩乃とディーだ。
同行者2名に、少しばかり冷ややかな目を向けられた気がする程度には語弊があったが、その身の安全の確保と探索を両立する策を練っていた。
「なら、このデータが役に立つだろう。2人とも、持っておくといい。」
その一方で、探索に重きを置いたのが優輝だ。
前もって、彼は自治体などのデータにアクセスし、学校の見取り図を確認していた。
万一の霊障でスマホなどが使用不可となっても問題がない様、紙媒体に印刷しておくという念の入れようである。
暗視スコープと、念のためにと装備したハンズフリーのLEDランタンがあれば、いざという時の戦闘にも耐えられるだろう。
こうして、情報の共有を済ませると。
「大いに活用させて頂くとしよう。ではーー」
「ああ。行こう。」
「自傷し増えよ。索敵だ。……集団戦術は得意でね。」
ーー【戦線術式・人工意識】
「 暁の水平線に勝利を刻むぞ!」
ーー【少女分隊】
それぞれの√能力で戦闘員たちとバックアップたちを呼び出し、突入の準備を整えて、詩乃の首尾を待つ。
ーー警備員室に呼び鈴が鳴る。
「こんな時間に、保護者かな?」
異常があれば、震える足でも巡視に行く、真面目で学生たちにも人気な守衛である。
声は若い女性のものだし、窓の向こうに見えるあの姿は、学生の姉かもしれない。
ーーはい、どうされました?
守衛室の窓ががらりと開いて。果たしてそこに居たーー
真っ白い、怪人。
「そこでモニターでも監視していたまえ。何があっても、だ。」
コンセンテスの催眠術が直撃した。
そう、当初は詩乃が守衛を昏倒させる予定だったのだが。
「√能力を使って守衛さんに呪いを……」
「待ちたまえ、死に至る呪いの気配を感じるが?」
「ほ、ほんのちょっぴりです!
ただ、異変が起きても見回りに出る気が起きない程度の体調不良が発生する……はずです。」
「はず、では危険な気がするな!」
などの3人のやり取りがあり。
見た目というリスクを除けば最も安全な、怪人の催眠術作戦が採用されたわけである。
「このような手段しか思いつかず本当に申し訳なく……。」
しょんぼりと肩を落とす詩乃に、それぞれが『得手不得手はある』、と慰めて。
「そうですね。これで校内の探索に集中できます。」
そう立ち直った頃には、戦闘員たちと12人の兵士が分隊を組み、校内に突入していった。
分隊と戦闘員という異色のチームながら、人数の多さは探索効率に直結する。
優輝の地図には、異常無しのマークが次々と記されていく。
情報をまとめながら、彼ら3人が目指すのは、1階、職員室の隣。
ディーと優輝の2人が怪しいと目している、放送室だ。
ーーそして。チャイムが鳴る。
ーー調子の外れた、チャイムが鳴る。
ーーチャイムがただ只管に、鳴り続ける。
「……何も、いない……?」
放送室に着いた3人は、顔を見合わせた。
放送機材といえば、放送室だが…
見たところ怪しい気配も、狂った様に動く機材も見当たらない。
ーーこれは、どうしたことだろうか。
そこで、詩乃が『あっ』と声を上げた。
「いえ、もう一つ、放送が行える可能性のある…
儀式を行えるであろう、広さを持つ場所があります。ーー体育館、です。」
そう、体育館は、有事の際の一時避難場所としての機能を持つ。
その一環として、放送設備を持っている場合があるのである。
それに応じる様に、優輝とディーが緊迫した面持ちを見せた。
「ーービンゴだ。体育館に向かった班が接敵した。」
「ああ、君たちの反応は鈍くなっている。分隊員の撤退フォローは任せたまえ。
ーー今、毒を撒いた。暫し時間が稼げるはずだ。」
「急ぎましょう。星野さんのフォローは、私たちで。」
チャイムが鳴り響く中、体育館へと向かう3人の足音が、夜の校舎に木霊するーー
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功
第2章 集団戦 『狂信者達』

POW
狂信の斧槍
自身を攻撃しようとした対象を、装備する【狂信の斧槍】の射程まで跳躍した後先制攻撃する。その後、自身は【怪異への狂信により得た魔力】を纏い隠密状態になる(この一連の動作は行動を消費しない)。
自身を攻撃しようとした対象を、装備する【狂信の斧槍】の射程まで跳躍した後先制攻撃する。その後、自身は【怪異への狂信により得た魔力】を纏い隠密状態になる(この一連の動作は行動を消費しない)。
SPD
狂信の旗印
事前に招集しておいた12体の【狂信者達】(レベルは自身の半分)を指揮する。ただし帰投させるまで、自身と[狂信者達]全員の反応速度が半減する。
事前に招集しておいた12体の【狂信者達】(レベルは自身の半分)を指揮する。ただし帰投させるまで、自身と[狂信者達]全員の反応速度が半減する。
WIZ
狂信の炎
【教主】から承認が下りた場合のみ、現場に【魔力砲『信仰の炎』】が輸送される。発動には複数の√能力者が必要となる代わり、直線上の全員に「発動人数×2倍(最大18倍)」のダメージを与える。
【教主】から承認が下りた場合のみ、現場に【魔力砲『信仰の炎』】が輸送される。発動には複数の√能力者が必要となる代わり、直線上の全員に「発動人数×2倍(最大18倍)」のダメージを与える。
√汎神解剖機関 普通11 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ーー体育館前。
√能力者たちが辿り着いた体育館は、既にグラウンドに向けて扉が開け放たれていた。
其処には、とある√能力者が呼び出したモノが応戦したであろう、グラウンドが灼けたような痕と、スーツを纏ったヒトガタの亡骸。
その亡骸と同じ衣服を纏った者たちが、体育館の扉から次から次へと湧き出してくる。
彼らは連邦怪異収容局職員。ーーだったモノたちだ。
一部はスーツや顔に、鋭い何かで切り裂かれたような痕が残っているが…それを気にする素振りは見えない。
既に、怪異たちの手により、怪異を讃える以外の自我を喪っているのだろう。救える見込みはない。
結果として、彼らが見積もりを誤った訳ではあるが。
彼らを越えねば、事件の解決はない。
最早抜け殻も同然となった身ではあろうが、引導を渡してやろう!ーー

アドリブ&野良連携歓迎。
身長200㎝の鉄十字怪人モードで事に当たる。
「返事はない、只の亡骸のようだ、か。」
しっかり止めを刺してやろう。
√能力《静寂なる殺神機》で、自律浮遊砲台ゴルディオン1~3号機(アイテムです)を操り、的確に攻撃していく。
空中を浮遊するゴルディオンたちが、彼らが何かをする前に先制攻撃して沈黙させ、闇に消える。
それを繰り返す。
いわゆる全方位攻撃(オールレン〇・アタック)である。
止めは、よく弾道計算されたブラスターライフルの一撃。
仕事人のように的確に。
「それにしても。最近になってクヴァリフ関連の事件が激増したな。嫌な予感がする」

彼らとは対立する間柄ではありましたが、それでもこのような姿を見るのは忍びないものです。
せめてこの手で引導を。その役に相応しいかはわかりませんが……。
√能力【双禍】による範囲攻撃でまとめて倒します。ただ薙刀で薙ぐだけの、単純な攻撃です。
我が内にある魔性が無ければの話ですが。私は私がつくづく恐ろしい。
彼らが強力な攻撃を仕掛けてくる前に倒しきるのが好ましいですが、そう上手くいくとも限りません。
『信仰の炎』は直線的な攻撃なので回避は比較的容易かと思いますが、もしもの場合は|魔性《陰》の力をオーラ防御として展開して防ぎます。
あるいは味方の盾となりかばう事も厭いません。誰かのお役に立てるのならば喜んで。

闘技場以外での実戦はこう見えて初めてだが、仲間を信じて勝利を目指すだけだ
助けれる命なら良かったが…俺たちで引導を渡す
後方支援は俺に任せてくれ
これより攻撃を援護します
次弾装填、砲撃開始!
決戦気象兵器「レイン」と叫び、レーザー光線を発射
複数の敵を巻き込むよう攻撃
敵からの直線的な射線には気をつける立ち回りと同時に仲間に注意を促す
俺は接近戦があまり得意ではない
距離をとって斧槍の射程の餌食にならないよう気をつける
上記以外にも仲間(戦友)と声を掛け合うなど連携しながら戦闘を行う
アドリブ等あればお任せします

愚か〜。(指さしながら)
失礼本音が。いやはや信じるものは選ぶべきだな、ああなりたくなければ
然し集団相手ならばやる事は然程変わらず
ヒトの姿をした『ぬけがら』だ
苦しむような姿も見せんだろう 構わんな?
【戦線術式・人工意識】――諸君!毒に巻き込まれたくなければ、距離を確と取りたまえ
姿を消そうと、足で立っているなら水音は消せぬ
毒液を撒き散らしてやれ、増えろ、索敵しろ 移動すれば毒液も揺らぐ
後は……集団戦術は囲んで叩いて殴って連携してこそなのでな!
……語弊?今更!
さあわたくしはあまり働かないぞ。こちらに来る者の相手はしよう――アルゴスの眼で狙い打とう
直接的な戦闘はあまり得意ではなくてね!アッハッハ!
「愚か〜。失礼、本音が。」
怪人が、怪異と化した連邦怪異収容局職員たちを指差し|嘲笑《わら》う。
全身が白の翼で覆われた、ディー・コンセンテス・メルクリウス・アルケー・ディオスクロイ(辰砂の血液・h05644)だ。
あまりの態度ではあるが、彼にもそうするだけの理由はある。
「いやはや信じるものは選ぶべきだな、ああなりたくなければ。」
彼は双子の弟を人質に取られ改造された、元幹部怪人。
ヒーローの助けもあり、自身を改造した組織の壊滅を果たしてなお、意識の戻らぬ弟のために戦っている。
そう、彼は自らの意思で、信じるものを決めた男なのである。
唯諾々と上官の指示に従う道を選び、あまつさえ己を喪った怪異たちを憐れむ様な真似はしない。
「アレらは、ヒトの姿をした『ぬけがら』だ。
苦しむような姿も見せんだろう。…構わんな?」
己が身の毒を撒かんと、水銀の蛇が巻き付いた杖を振るい。
「彼らとは対立する間柄ではありましたが。
それでもこのような姿を見るのは忍びないものです。」
スーツ姿の怪異と成り果てた者たちのため、祈るように瞑目するのは|篠宮・詩乃《しのみや・しの》
(魔血ノ巫女・h05394)だ。
魔の者に連なる|取り替え子《チェンジリング》の彼女であるが。
退魔巫衣に袖を通す退魔師であり、巫女だ。
例え対立する存在であろうと、その存在の死を悼む心は忘れない。
「早く、楽にしてあげましょう。」
彼らを介錯するべく、数多の怪異を屠る事で【神薙】の名を得た薙刀、【神薙・幽月】を下段に構える。
「助けれる命なら良かったが…俺たちで引導を渡す。」
既に戦闘体勢を整えているのは、|星野・優輝《ほしの・ゆうき》(|重巡洋艦の青年人形《レプリノイド》の霊能力者・h05529)だ。
彼にとって、闘技場以外での…現場での命のやり取りとなる実戦は、初めてとなる。
しかし、初陣を前に、その黒い瞳に恐れの色も必要以上の昂りの色もない。
「仲間を信じて勝利を目指すだけだ。」
そう、この現場に居合わせた者たちを信じているからだ。
ーーそして、新たにもう1人。
2mは有ろうかという鋼の巨躯が、夜の学校に影を落とす。
「返事はない、只の亡骸のようだ、か。」
その鋼鉄、重甲の躯体に見えるのは、十字の紋章。
|明星・暁子《あけぼし・るしふぇる》(鉄十字怪人・h00367)。
彼女もまた、正義の心に目覚めた怪人。その名も【鉄十字怪人】である。
同じ怪人であるディーと同じく、彼女もまた組織を離反したクチではあるが。
俗な性質で、『遊んでなかったから』と日常を全力で謳歌している彼に対し、暁子は何をしていいのかと、日常を持て余し気味なようだ。
これは、人それぞれ、怪人それぞれなのかもしれない。
ーーチャイムが鳴る。調子の外れた音で、鳴り響く。
ーーチャイムとともに、4人の√能力者と、つい先刻までヒトだったモノたちの戦いが始まった。
「まとめて引導を渡させていただきます!」
詩乃の肉体の中で、|魔性《陰》の力が荒ぶる。
次の瞬間、幽月が薙いだ軌跡とともに、スーツ姿の怪異たちの上半身が纏めて宙を舞った。
「……私は、私がつくづく恐ろしい。」
ーー【双禍】
詩乃の陰気で【肉体】を超強化し、通常攻撃の威力を跳ね上げる。
彼女曰く、ただ薙刀で薙ぐだけの、単純な攻撃を放つための√能力である。
しかし、その単純さが必殺の一撃にまで昇華し得るのだから、かなり使い勝手は良いだろう。
彼女は内なる魔性を恐れている。
あの明るく小さな|妹《ちさ》に恐れられることを、恐れている。
が、前線を預かる者として、これほど頼りになる力を持つ退魔師は居ないだろう。
「しっかり、トドメをさしてやろう。」
鉄のように冷静に、冷徹に。
浮遊砲台【ゴルディオン】3基を手足のように操り砲撃を加え、己の√能力で瞬間移動を繰り返しているのが暁子だ。
彼女の√能力は、己に攻撃を仕掛けてきた者に対し、【ゴルディオン】の射程内の任意地点に移動して闇に紛れ、先制攻撃を行うというもの。
2mの鉄の塊の意外なまでの小回りに、怪異たちに自我が残っていたならば、舌を巻いていたことだろう。
ゴルディオンによって痛手を被った者は、ブラスターライフルで次々と処理されてゆく。
――諸君!毒に巻き込まれたくなければ、距離を確と取りたまえ。
|翼の怪人《ディー》が号令を飛ばす。その利便性と危険性は、探索の際に目の当たりにした詩乃と優輝の2名が、よく知っている。
巫女が怪異の得物を避ける為に身を翻せば、その代わりに得物に向かって飛び込む戦闘員。
容易く弾けて消える……が。
その泡沫を浴びた怪異が、その両腕で虚空を掻いて、斃れた。
その陰で、複数に分かれて起き上がる、戦闘員。
ーー【|戦線術式・人工意識《オペレーション・メルクリウス》】
ディーの本領とも言える、万能の√能力である。
19体の、攻撃を受けると分裂する、毒液製の戦闘員を放ち、索敵の他、噴出する毒液による弱い攻撃を行う事ができる。
攻撃受ければ受けるほど分裂して増える上に、無視できない毒を撒き散らしていく。
これ程悪辣な能力は、中々無いだろう。
毒を浴び、動きが止まったヒトだったモノに。
「どうか、安らかに…。」
また一閃、詩乃の慈悲の一撃が贈られる。
「これより攻撃を援護します!砲撃用ォー意!!」
そして、その戦闘員の特性を最大限に利用したのが、優輝だ。
彼は、自身が前線に不向きである事を正確に自覚している。故に。
「さあわたくしはあまり働かないぞ。……語弊?今更!
直接的な戦闘はあまり得意ではなくてね!アッハッハ!」
と、高みの見物を決め込んでいる翼の怪人とともに。
後方支援に徹していた彼が、ここぞとばかりに声を張り上げる。
ーー次弾装填!【決戦気象兵器「レイン」】!
ーー撃ちィーかた始めッ!!
彼の√能力は、指定範囲内に多量のレーザーの雨を降らせるというもの。
そのレーザーの雨が降り始めた、その指定範囲には。
「ほう、私の戦闘員をその様に遣うか!面白い!」
ディーの放った、戦闘員たちがいる。
光線に穿たれ、絶命していく怪異たちとともに。
雨に打たれる度、弾けて増える、戦闘員たち。
「先ほど、分隊員を助けてもらった顔を撃つのは忍びないが。」
「いいや?最高の使い方だとも!これで何十人?何百人に増えた?
…集団戦術は囲んで叩いて殴って連携してこそなのでな!」
|青年人形《レプリノイド》と十二神怪人が頷きあった。
「前線も随分と味方が増えましたね。これなら一気呵成に追い込め…ーーッ!?」
戦闘員たちに守られながら薙刀を振い、勇戦していた詩乃が息を呑む。
ーー【魔力砲『信仰の炎』】
怪異たちが持ち込んでいた切り札が目に入ったためだ。
発動に数人がかりとなる代わりに、絶大な威力を誇る魔力砲に呑まれては、一溜まりもない。
しかし、既に9人の怪異による魔力注入が始まっており、この距離では阻止する術もない。
退避を呼びかけるディーと優輝の声が聞こえるが。
自身のオーラで、後衛を庇う覚悟を決めた。
ーーその時。
ーーその必要はない。私がいる!
黒鉄に覆われた、くぐもった声が詩乃の耳に届き。
「ゴルディオン全機、撃ち貫け!!」
魔力砲が、3基の浮遊砲台の斉射により撃ち貫かれ、火を吹き。
魔力注入を行っていた連邦怪異収容局職員たちとともに、爆炎に呑まれていく姿が見えた。
ーー【|静寂なる殺神機《サイレント・キラー》】
この√能力こそが、暁子の瞬間移動の正体である。
彼女が操る浮遊砲台【ゴルディオン】3基による、絶対先制攻撃。
今にも『信仰の炎』が撃たれんとした時。
暁子は故意にその射程に入り、√能力の発動条件を満たした。
「人事は尽くしていたからな。あとは知恵と勇気が武器だ。」
闇に紛れたその声からは、少し得意げな色が見え隠れしていた。
こうして切り札を奪ったならば、敗残の怪異を掃討するのみだ。
「姿を消そうと、足で立っているなら水音は消せぬ
増えろ、索敵しろ 移動すれば毒液も揺らぐ。」
ディーが索敵し、詩乃が斬り祓い、優輝がレーザーの雨を降らせ、暁子が撃ち抜く。
数の優位も切り札も、そして己をも喪った連邦怪異収容局職員たちは、全てその命の緒を刈り取られたのだった。
●
「それにしても。最近になって、クヴァリフ関連の事件が激増したな。嫌な予感がする。」
暁子が時事、そしてこの事件の行く末を気に掛ける中。
開け放たれた体育館の扉の奥から、夥しい怪異の気配がある。
強化されたことにより、連邦怪異収容局職員を返り討ちにした者たちだ。
その上、クヴァリフの仔を可能な限り殺さずに確保するという難題まで待ち受けている。
ーー調子の外れたチャイムとともに。事件は佳境へと差し掛かる。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功
第3章 集団戦 『シュレディンガーのねこ』

POW
無限の猫爪
敵に攻撃されてから3秒以内に【猫の爪】による反撃を命中させると、反撃ダメージを与えたうえで、敵から先程受けたダメージ等の効果を全回復する。
敵に攻撃されてから3秒以内に【猫の爪】による反撃を命中させると、反撃ダメージを与えたうえで、敵から先程受けたダメージ等の効果を全回復する。
SPD
猫は死ぬのか死なぬのか
半径レベルm内の敵以外全て(無機物含む)の【生命力】を増幅する。これを受けた対象は、死なない限り、外部から受けたあらゆる負傷・破壊・状態異常が、10分以内に全快する。
半径レベルm内の敵以外全て(無機物含む)の【生命力】を増幅する。これを受けた対象は、死なない限り、外部から受けたあらゆる負傷・破壊・状態異常が、10分以内に全快する。
WIZ
シュレディンガーの鳴き声
【長い猫の鳴き声】を放ち、半径レベルm内の指定した全対象にのみ、最大で震度7相当の震動を与え続ける(生物、非生物問わず/震度は対象ごとに変更可能)。
【長い猫の鳴き声】を放ち、半径レベルm内の指定した全対象にのみ、最大で震度7相当の震動を与え続ける(生物、非生物問わず/震度は対象ごとに変更可能)。
√汎神解剖機関 普通11 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ーーチャイムが鳴る。調子の外れた音で、チャイムが鳴る。
体育館に突入した√能力者たちを出迎えたのは。
まさに猫の集会中といった体の、猫たち。
一斉に向けられた猫の光る目、目、目。
現れた獲物を甚振り、先の連邦怪異収容局職員たちのように玩具にせんと、吟味してくる。
ーー彼らには今、力がある。
その背中に癒着した、触手の生えたナマコのような、ぶよぶよとしたモノ…
「クヴァリフの仔」から齎される、絶大な力だ。
この猫の怪異たちを殲滅し、生きたまま「クヴァリフの仔」を確保するには、相当の困難を伴うだろう。
しかし、それでもやらねばならない…ーー!!
ーーこの事件の最後の局面を告げる、チャイムが鳴った。
※Caution!!
秋沙が言っていたように、範囲攻撃の場合は『仔』の生存判定にマイナスの影響があります。
範囲攻撃をする場合には、何らかの工夫をすることで、クヴァリフの仔を生きて回収する事ができるでしょう。
また、切除するなり、回収するなりしたクヴァリフの仔は、打ち捨てておいて構いません。
逃げ出したりはしませんが、敵の攻撃に巻き込まれたり、踏んだりしないようには、気を付けてあげましょう。

アドリブ&野良連携歓迎
身長200㎝の鉄十字怪人モードで事に当たる。
「クヴァリフの仔を引き剝がせ、か。飛び道具では上手くいかぬかも知れぬ」
「やむを得ぬ。原始的な手法で行こう」
まず【ダッシュ】で素早く猫怪異に近づき。
【恐怖を与える】と【威圧】で、「パーーーンッ!!」両手を激しく撃って猫だましを行う。
猫の感覚が鋭いほど、効果は高まる技だ。
猫怪異が一瞬動きを止めたところで、クヴァリフの仔を【怪力】でブチブチと引き剥がす。
以上の行為を√能力《疾風怒濤》で、3倍の能力と3倍の技能で行う。
「ふん。引き剥がした仔を踏まないように注意しないとな」

猫は苦手だ。むしってくる。わたくしを鳩か何かと思って!顎を擦り付けるだけならまだしも……
こほん。
――よろしい!『仔』をなるべく生かせ、そう言ったな?
ではたまにはわたくしも、戦闘員に任せず動いてみるかね
奴らでは加減が分からん!
【狙撃式執刀・無言歌】――『アルゴスの眼』を用いて
レーザー射撃だ。電気メスとでも思えわたくしにとっては相当な手加減だぞ!
猫どもの肉体と『仔』が癒着する境目を狙い、切り離せ
万一当たっても構わん!その能力を封じろ、多少は戦いやすくなろうよ
|他人《仲間》が『処理する』時、楽になる!
只々、傷つけてくれるな |俺《・》の役割は『無力化手術』だ
……ああ、そうだ。猫は苦手だ
弟が好きだった

並みの怪異とは比べ物にならない、ただならぬ邪気を感じます。
これ以上犠牲者を出さぬためにも、必ず滅します!
√能力により我が内なる魔を解き放ちます。この戦いに勝利する為に必要な事ならば、躊躇う理由はありません。
猫は敏捷い生き物ですが、空間を引き寄せれば容易に薙刀の間合いに入れる事ができます。
それにいくら生命力を増したとて、一度に致死量のダメージを与えれば倒せぬ道理はありません。
「クヴァリフの仔」は接合面の切断。あるいは念動力で無理やり引き剝がすのも手でしょうか。
痛いですか? ですがこれも人に仇をなした報い。己のした事を悔いながら|消滅《きえ》なさい。

クヴァリフの仔を今後の進展の為にできる限り生きて回収したい所だな
分析等するのはそういう分野に長けた人にお願いする事になるだろうけど
無理は禁物だが、自分の出来る限りの最善を尽くそう
全体回復かつ全快をもつ相手なら攻撃の拡散はジリ貧になる|可能性《リスク》がある
仲間と連携し、各個撃破で確実に仕留める方針にシフト
後方支援攻撃は俺に任せてくれ
次弾装填、砲撃開始!
霊能波と叫び、肉体を覆う精神エネルギーを片手に集中させて霊波を放つ
攻撃した相手からの猫の爪による反撃に注意
振動による妨害に対しては、狙撃手のようにうつ伏せになる事で対処
精神を集中させる事でブレを修正しながら狙いを定める
アドリブ等あればお任せします
――並みの怪異とは比べ物にならない、ただならぬ邪気を感じます。
尋常ならざる魔の気配に、|篠宮・詩乃《しのみや・しの》(魔血ノ巫女・h05394)は、己の口を真一文字に引き結ぶ。
彼女たち闖入者を値踏みするかのような、猫たちの瞳は。
どれもこれもが、己に宿った力に酔ったかのよう。
何しろ、詩乃たちが相手取った、あれだけの数の連邦怪異収容局職員たちを退けたのだ。
その上、猫たちは手練れの怪異専門職たちを一方的に玩具にしたのだろう。目立った傷跡が見られない。
これで自信を持たぬ方がおかしいというものだ。
「これ以上犠牲者を出さぬためにも、必ず滅します!」
歴戦の退魔師は、己の艶やかな黒髪を揺らしながら。その得物を下段に構えた。
「クヴァリフの仔を今後の進展の為、できる限り生きて回収したい所だな。」
|星野・優輝《ほしの・ゆうき》(|重巡洋艦の青年人形《レプリノイド》の霊能力者・h05529)は、作戦の要点を今一度確認した。
初陣からの連戦で、自身が果たすべき責任、己の得意分野も少しずつ見え始めている。
そしてこのチームで現場を見たからこそ、自身をどの立ち位置に置くべきかも冷静に分析ができた。
如何に強化された猫たちであろうと、獲物を甚振ろうという幾十、幾百の目が向けられたとしても。
仲間と共にあれば、恐れるほどの物でもない。
「無理は禁物だが、各自の出来る限りの最善を尽くそう。」
暁の水平線に勝利を刻むため、青年人形の眦に力が籠る。
――猫は苦手だ。
白き翼の怪人、ディー・コンセンテス・メルクリウス・アルケー・ディオスクロイ
(辰砂の血液・h05644)は苦々しげに、そして忌々しげに呟き、猫たちの瞳を睨め付け返す。
「過去に、何かあったのか?」
それは猫たちに負けぬ程の、尋常ならざる圧。思わず、優輝が問えば。
「むしってくる。」
――は?
返って来た言葉に、むしる、とは?と、一同が目を丸くした。
「わたくしを鳩か何かと思って!顎を擦り付けるだけならまだしも……」
どこまで行っても炸裂するディーのマイペースさだが。
こほん、と咳ばらいをすれば、皆の必要以上に張り詰めた気配も緩むものがある。
「――よろしい!『仔』をなるべく生かせ、そう言ったな?」
神の名を騙る組織の元幹部にして一柱、【錬金賢者・メルクリウス】が杖の石突でかつりと床を付き。
悠然、超然と笑って見せた。
「クヴァリフの仔を引き剝がせ、か。」
黒鉄のマスクの下、くぐもった声で作戦を復唱するのは、もう一人の怪人にして、鉄巨人。
|明星・暁子《あけぼし・るしふぇる》(鉄十字怪人・h00367)だ。
強化された猫たちの爪は、己の重甲をも貫くだろうか。
相手の機動力は如何ほどであろうか。
厳めしい、その2mはあろうかという巨躯で、細やかに相手を見定める。
「飛び道具では、上手くいかぬかも知れぬ。
やむを得ぬ。原始的な手法で行こう。」
一言、鉄十字の兵がその巨拳を握り、固め。前線に立つ事を告げた。
――チャイムが鳴る。調子の外れた音で、チャイムが鳴る。
――狂った音色を止めるため、4人の即席チーム最後の仕事が始まる。
「初手にて奥義、仕る。」
「後方支援攻撃は、俺に任せてくれ!レイン砲台、撃ちィかたはじめ!」
開戦の狼煙を挙げたのは、優輝のレイン砲台による支援砲撃。
降り注ぐレーザー粒子。それを猫たちは嘲る様に易々と避けていく。
しかし、これはあくまで支援砲撃。次手への布石である。
「良い支援だ。礼を言う。」
もうもうと湧き上がる、観測射による粉塵を突き破り。
鉄の巨人が猫の一匹に、猛然と肉薄する。
この超高速機動を可能にしたのは、暁子の√能力、【疾風怒濤】だ。
事件の開始から事に当たれば、全ての能力が3倍になるという、『奥義』と暁子が呼ぶに相応しい、単純にして強力無比なバフである。
――パーーーンッ!!!!!!
そして、体育館を揺らさんばかりに響く大音量。
ただ、両手を激しく打ち鳴らしただけ。
古典的にして、しかし相手の感覚が鋭いからこそ効果は高まる技。
その名もまさに、『猫だまし』が炸裂したのだ。
巨躯の威圧感も相まって、その身が竦んだ触手付きの猫の身をむんずと掴み上げ。
「これが、『クヴァリフの仔』か。頂くぞ。」
言葉少なに、その触手の伸びたナマコの様な物体と、猫の身を巨躯に見合った怪力で、引き剥がしにかかる。
その巨腕に爪を突き立て必死に抵抗し、ブチリブチリと音が鳴る度に、猫の怪異の絶叫が体育館中に響き渡る。
その様に猫たちは恐怖し、耳を畳み、尻尾を膨らませ。
ただただ、その惨劇を見守る事しかできない。
――不意に。その爪の力が弱まるのを、暁子は感じた。
仔によるブーストが解けた…つまり、一匹の引き剥がしに成功したのだ。
引き剝がされた『仔』は、宿主を求める様に、触手を蠢かせている。生きている。
「ふん。引き剥がした仔を踏まないように注意しないとな。」
未だ弱弱しい力で爪を立てる怪異を握り潰し、仔を捨て置いた暁子は次の敵へ向かう。
――恐怖を与える事が、怪人の本懐なれば。いい仕事をするではないか。
「では、たまにはわたくしも、戦闘員に任せず動いてみるかね。
奴らでは加減が分からん!」
暁子が与えた強烈な恐怖により、猫たちの動きは明らかに鈍っている。
舐めていた筈の目の前の存在たちが、自分たちを殺しうる存在だと。
その本能で認識すると同時に、自身に憑いたモノへの自信が揺らいでいる。
それを見逃す『|神《ディー》』ではない。
「猫どもの肉体と『仔』が癒着する境目を狙い、切り離せ。」
彼の周りを浮遊する、|百眼の巨人《アルゴス》の名を冠した銀目の眼球が獲物たちをその眼に映し。
「騒ぐな、騒ぐな猫共。静粛に。『手術中』だ。」
瞬間。閃光が奔った。
如何な敏捷な猫とて、光の速さは超えられない。
――【狙撃式執刀・無言歌】
『本来、それはわたくしの専門分野ではない』、そう怪人は嘯くが。
レーザー射撃が命中した部位を切断するか、20分間は使用不能にするという、この現場においては最適解ともいえる√能力の一つである。
「万一当たっても構わん!その能力を封じろ、多少は戦いやすくなろうよ。
|他人《仲間》が『処理する』時、楽になる!」
『仔』を切り離されてしまえば、或いは|増幅器《ブースター》を無力化されてしまえば。
強力な怪異と化していたシュレディンガーのねこも、最早通常のソレと変わらない。
「只々、傷つけてくれるな。|俺《・》の役割は、『無力化手術』だ。」
その|命令《オーダー》を完遂すべく。
床に転がり落ちた『仔』を避ける様に光線が奔り、猫たちの首が落ちてゆく。
――猫は敏捷い生き物ですが。
恐怖に竦んだ己を鼓舞するように、そして相手を嘲笑うように、触手を揺らし。
詩乃の間合いの内外を歩いていた猫がいる。
――何度でも、この覚悟が折れぬ限り。
詩乃の呟きと共に。ざわり、退魔巫女の空気が揺らぐ。
猫が異変を感じた時には、もう遅い。体育館の床を掻く。爪を立てる。
それでなお、甲斐は無く。詩乃の元へ引き寄せられていく。
そう、『空間ごと』猫を引き寄せているのだ。
――【輪廻】
それは、詩乃が恐れる【内なる魔性】と完全融合することで発動される√能力。
人としての在り方を忘れ、この魔の力に溺れれば。その時は、彼女自身の姿すら失いかねない。
退魔師が姿かたち…そして、心までも魔の者と化しかねない、彼女にとっての禁じ手だ。
「この戦いに勝利する為に必要な事ならば、躊躇う理由はありません。」
しかし、今ひと時は己の身に纏わる様々な恐れを忘れ、その力を振るう。
逃げることが叶わぬならばと振るわれる凶爪を受けてなお、退魔師は怯まない。
ぶん、と【神薙・幽月】で一薙ぎすれば。
触手を揺らしながら、猫の背からぽろりと落ちる『クヴァリフの仔』。
返す刃で、薙刀の切っ先が猫の頭蓋を穿ち、貫く。
「生命力を増したとて、一度に致死量のダメージを与えれば倒せぬ道理はありません。」
魔の力の行使を躊躇わぬ退魔師が、その黒い瞳で次の獲物を見定める。
勿論、『仔』の回収がならぬ猫もいる。
その様な撃ち漏らしを的確に仕留めていくのが、重巡洋艦の力を宿した|青年人形《レプリノイド》だ。
「次弾装填、照準よろし!【霊能波】!」
視界に収めた猫の怪異を、眼に見えぬ力の砲弾が弾き飛ばす。
もちろん、只でやられてやる猫ばかりではない。
せめて、一人でも道連れにせんと、鳴き声を上げる。
――ぅなぁぁぁぁおおおおぉぉぉぉぉ!!!!
途端、優輝の足元が大きく揺れ出した。その震度は7はあろうか。
常人の身なれば、立つことはおろか、身動きすら取れぬその揺れの中。
しかし。体育館の緞帳は揺れていない。優輝の足元だけが揺れている。
――それは、【シュレディンガーの鳴き声】と呼ばれる。
鳴き声を放つことで、半径レベルm内の指定した全対象に最大で震度7相当の震動を与えるという、味方の戦闘にも大いに支障を来す√能力だ。
「次弾装填。」
その揺れが何するものぞと、初陣を越えたばかりとは思えぬ、落ち着いた声が響く。
既に、優輝はその身を床に伏せていた。幾ら視界が揺れようと。
彼の不可視の砲弾は『視界に収めてさえいれば』届く。
「|撃《テ》ェッ!!」
また一匹。【霊能波】の効力射の着弾で、声を上げんとした猫が吹き飛んだ。
――……ああ、そうだ。猫は苦手だ。弟が好きだった。
白い翼の怪人の小さな述懐、その向こう。
――ぉぉあぁぁぁぁぁぁ……!!
詩乃の念動力で宙に浮いた猫が、耳を畳み、命乞いをするように悲鳴を上げる。
ぶちり、ぶちりと、その|奢りの元《クヴァリフの仔》が剝がれてゆく。
「痛いですか? ですがこれも人に仇をなした報い。」
『仔』が離れてしまった今。
待ち受ける未来は、あれだけいた仲間たちの、その末路と同じ。物言わぬ骸だ。
「己のした事を悔いながら|消滅《きえ》なさ――」
魔の力に呑まれかけた、退魔巫女がその手で猫を縊り殺すより、早く。
――お前が、その身を堕とすことはない。
――あとは我々、『怪人』に任せたまえ。
銀の眼が猫の身を撃ち貫き。黒鉄の巨腕が最後の一匹を叩き潰した。
――チャイムはもう、狂った調子で鳴る事は、ない。
●エピローグ
「わたくしにはわかりかねますが。
汎神解剖機関は、この『クヴァリフの仔』をどの様に扱うのでしょうね。」
回収した『仔』たちを詰めた容器の山を各々が背負い。
その中の一人、金の瞳を持つ、暗い目つきの女学生が誰にともなく問う。
怪人の姿を解いた、暁子だ。
「私もお役目を果たすのみですので、行く末の見通しは専門家の方にお任せします…!
しかし、連邦怪異収容局の方たちとの争奪戦は、まだ続くのでしょうね。」
夜明けの空の明るさに目を細めながら、詩乃は更なる戦いに思いを馳せ。
「分析等するのは、そういう分野に長けた人にお願いする事になるだろうけど。
こいつらを機関に届けたら、どうだい。俺の店で一杯、コーヒーでも。
サービスするよ。」
「ふむ、コーヒーか!わたくしはちと、味にはうるさいぞ?」
初陣を勝利で飾った優輝が晴れやかに笑い、ディーは大げさにその提案を歓迎する。
これからも、連邦怪異収容局、女邪神クヴァリフ、そして√能力者たちの思惑が交錯し、事態は進んでいくのだろう。
今回得た『クヴァリフの仔』が機関によってどのように扱われるかは、まだ知る由もないが。
少なくとも、この√能力者の手に落ちた、この力が。
何者になるかもわからない、大いなる『力』が。
『正しきこと』に使われることを切に願うものである。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功