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きっと五月の薔薇よりも

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 神様にも抜群に機嫌と調子の良い日と言うのがあるんだろうね。絵画の中で微笑む貴公子を見て、僕が最初に考えたのはそんなことだ。
 きっとこの彼を創り給うた日、神様はとても機嫌が麗しかったから、思いつく限りの美しいものを彼に与えたのに違いない。そうしてその日の神様は飛び切り調子も良かったから、それは最高の形で結実したんだと思う。
 自分自身の肖像に対してそう思えるのはきっと物凄く幸せなことだね。造物主たる神様と、これを描いた画家の先生と言う神様のどちらにも僕がこの上もなく愛されているのは間違いがない。
 母上譲りのピジョンブラッドのアーモンドアイは僕の容姿の中でも取り分け好きなパーツだけれど、飛び切りの綺羅星を宿した瞬間を描いて貰ったみたい。何処かの王族が冠に戴くルビーだって、この優雅な輝きには敵わないんじゃないかと思う。この瞳が見つめる世界が美しくない筈がない、この瞳が映すなら何でも美しくなるに違いない、掛け値も無しにそう思える。そんな瞳だ。
 月の光を縒ったかの様な髪にも息を飲む。満月の夜に薄雲に淡く濾されて空を満たした月の光の豊かさと奔放さで流れる髪のこの美しさ、思わず手を触れたくなる様な、けれど触れてはいけない様な。自分の肩を見下ろして、同じ煌めきがあることに思わず唇が綻ぶ。僕は今、僕の美しさを再発見した。
 それから、鏡を見るの以上にうっとりと僕はこの絵に見入ってしまうのだけれど、それにはひとつ訳がある。画家の先生が少しアドバイスをしてくれたこの日の化粧と装いがとにかく好きなんだ。
 肖像を描いて貰うに際して、当然、とっておきのお気に入りの品々を身につけようと思った。でも、僕のお気に入りは正直言って服も靴も宝飾も何もかもどれもなかなか主張が強いから、久しぶりにコーディネートを悩んでいたのが正直なところ。そうしたら、全てとっておきを身につけながらも彩り同士が喧嘩をしない様な取り合わせを先生が考えてくれて解決した。
 結果、僕は僕のお気に入りたちを予定より多く身につけて、いつもより少しだけ濃い口紅を引いて、絵画の中で微笑むに至る。
 このトータルのコーディネートそのものが、極上の着物の柄みたいだなんて思う。例えばそう、いつか見た手書き友禅の色打掛。色んな花に流水、波、雲、羽根を広げた鶴なんかまで華やかで素敵なものを思いつく限り全部取り入れて、金箔と金駒刺繍で彩って……ってこうして言葉で並べ立てるとどう考えても派手になり過ぎそうなものなのに、職人が全てを計算し尽くした意匠は恐ろしいほどに整然と調和がとれていた。寸分違わず「もうこれ以外にあり得ない」と確信出来る調和と華やぎの完成の形。このコーディネートはそういう類のものだ。
 でも、すごいよね。この華やかさを伴いながら全く引けをとることもなく、僕の顔かたちがとにかく美しい。一番美しい表情を捉えて頂いた、とも思う。ただ、この辺りは僕が言葉を尽くしても、きっと僕の余生をかけてすら満足の行く表現を出来る気があまりしないから、色んなことは考えないで、ただ、眺めるのが良いんだろうね。
 何度目だろう、溜息が漏れた。
 今の僕の溜息はきっと、五月の薔薇の色をしている。

【今日の名画】
マスティマ・トランクィロの全身イラスト(2024年12月19日納品)
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​ 成功

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