雨だって笑わせる
●喜劇役者の笑わない日
階段を降りた、舞台の下。
街に暮らす人なら誰もが知る劇場の地下で、声が響く。
「お主の望みを麿は知っておるぞ、|風道《かぜみち》・のらり」
柱や配管が張り巡らされた薄暗い空間で、芸名を呼ばれた男は生唾を飲んだ。
錆びた鎖の巻かれた、金属で造られている小さな祠。鎖に貼られた札が、扉の発する振動で上下する。
肩を竦め、のらりは調子のいい返答をした。
「……何のことでしょう? 私はただのしがない芸人。今の暮らしに不満なんて——」
「死んだ相棒に会いたいと、思ったことはないかの?」
長年抱えていた望みを言い当てられ、のらりが硬直する。くくっ、と相手から笑い声が返った。
「憧れの舞台に立つ前日、不幸にもこの世を去ったお主の相棒……その一席を果たせぬことが、お主は心残りであったのだろう? 麿ならば、お主の望みを叶えられよう」
「ははっ、ご冗談を! そんなもの、どうやって」
「麿がお主の相棒を蘇らせて進ぜよう」
夢のような言葉だった。瞬きを繰り返すのらりに、声は続ける。
「麿の封印を崩せ。さすれば、お主の望みを叶えてやろう。言うておくが、麿の気は長くは持たんぞ。お主も馬鹿ではないだろう?」
誘う手が、伸びていたようだった。緊張が解れ、倒れるみたく前に足を突き出す。
のらりの手は、力強く鎖を掴んでいた。
●星詠み曰く
顎に手を添え、ジャック・ハートレス(錻力の従者・h01640)はメモを殴り書いた紙に目を落とす。
「どの世界にも、不幸な別れはあるものだな。そして、それを狙う悪しき者も」
事件の発生は√妖怪百鬼夜行。
思い悩む人が古妖に誘われ、その封印が解かれて復活する。何か思うところがあるのかジャックは何度も首を捻っていたが、思考を続けた果てにコクリと頷き、事件についての説明を始めた。
「今回封印を解いたのは風道・のらり。この世界で喜劇役者や司会者として活動するコメディアン……いや、芸人といった方がいいのか」
メモの裏から、新聞の切り抜きを√能力者へ突き出す。舞台の公演を知らせる記事で、大きな番組を何本か持つことも顔写真付きの人物紹介の欄に書かれていた。齢五十ほどのベテランで、そこそこの大御所らしい。
「今では立派な地位にいるようだが、誰だってかつては駆け出しだ。のらりにもそうした時代があったわけだが、最初から独りで活動していたのではない。組んでいた者がいたようだ」
さらにもう一枚、新聞の切り抜きがジャックから差し出された。色褪せ、年月の経過を感じる。
若かりし頃ののらりの隣にもう一人、マイクを挟んで男が立っている。
名前は、風道・くらり。
「漫才師『風道・のらりくらり』。飄々としたボケののらりと、刺すようなツッコミのくらりのコンビ……すまない、これはどういう意味だ?」
首を傾げるジャックに対応しつつ、√能力者は話を進めた。
「なるほど。二人組の話芸なのか。ならば、納得だな。これが古妖の語る、相棒か」
理解を深めるジャックを差し置いて、√能力者たちは記事を読む。よく見れば、内容は追悼記事だ。漫才大会の決勝に出場する前夜、事故により風道・くらりは死亡。
憧れの舞台への道は閉ざされ、のらりは相棒をも失った。その執念を糧に芸能界を登り詰めた今、古妖が囁いた。胸を焦がしていた情念は、彼の中で未だに生きていた。
顛末を推し量って、√能力者たちはその心中を察する。それに添うように、ジャックは再び語り出す。
「古妖は相棒を蘇らせると言ったが、そう虫のいい話があるだろうか? どうにもきな臭い……そもそも、古妖とやらが復活して良い事態に転ぶとも思えん。既に古妖の封印は解かれたが、再び鎮めるためにも風道・のらりに接触して動向を探ってくれ」
言うと、ジャックはメモを√能力者へ投げ渡した。
「のらりが普段から通う歓待店の住所だ。店の種類は……ショーパブ、というのか。人も妖も入り混じる、怪しい場所だが……少なくとも戦いの気配はない。楽しみながらでもいい、彼について探り、可能ならこちら側に引き入れてほしい」
店は出演する芸人の芸を売りにした酒場とのこと。披露される芸は漫才・漫談やコント、大道芸などから歌やダンスまで幅広い。店内をうろつくキャストもいて、歓談を楽しめる場所でもあるようだ。もちろん飲食可能で、成年ならば飲酒もできる。
「軽く聞いた限り、のらりはこのところ注意が散漫として話芸に乱れがあるそうだ。おそらく、迷っているのだろう。反応によるが、説得すれば協力してくれる可能性は高い」
軽く息を吐き、ジャックは√能力者に向き直る。
「たとえ何十年が経とうと、友を思う気持ちは薄れない。私にもわかることだ。その感情を敵に利用されたままではいけない……頼んだぞ」
ジャックの言葉に頷いて、√能力者はメモに記された住所に向かう。
マスターより

どうも、堀戸珈琲です。
終わらせましょう。(悲しい過去への情念を)
●最終目的
協力者の心残りを解き、復活した古妖を打ち倒す。
●シナリオ構成
第1章・日常『不思議な歓待店』
第2章・冒険『???』
or
集団戦『???』
第3章・ボス戦『???』
第2章は第1章での結果によって分岐します。
・蘇った相棒(?)と対峙する方向に向かう場合⇒冒険
・古妖たちとより積極的に戦う方向に向かう場合⇒集団戦 へと分岐します。
●NPC
|風道《かぜみち》・のらり。齢は五十ほど。劇団主宰や司会者として活動するベテランの芸人で、この世界の人ならまぁ見聞きはするくらいのレベルです。戦えません。
衝動的に古妖の手を取ってしまいましたが、何やら迷いがあるようです。
●プレイング受付
各章、追加後に送信をお願いします。
プレイングは基本的に制限なく受け付けますが、状況によってはプレイング受付に締切を設けます。締切はマスターページやタグにて随時お知らせします。
それでは、みなさまのプレイングをお待ちしております。
32
第1章 日常 『不思議な歓待店』

POW
素敵なキャスト。話が上手で見目麗しい
SPD
美味しい飲食物。こんなもの食べた事が無い
WIZ
特別な見世物。なんてすばらしい光景だ
√妖怪百鬼夜行 普通5 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
●迷い人
扉をくぐると、妖しげな照明の光が√能力者たちの目に飛び込んだ。
いくつもの椅子とテーブルの置かれた観客席、その中央には幕の付いた舞台。今も見世物の最中のようで、衣装を着こんだ妖怪たちがマイクを挟んで小噺をしている。ボケが炸裂する度に観客席がどっと湧き上がるが、一方で塞ぎ込んでいる人物もいた。
最奥の席に座り、酒の注がれたグラスを揺らす。礼服に身を包み、仕事終わりに若手を見ながら一杯。
優雅にすら思える出世人——風道・のらりの表情は、笑いを生業にする者とは思えないほどに暗い。
「本当に、これでよかったのだろうか……しかし……」
古妖に手を貸す。それが何を意味するのかは、この世界の住人であるのらりも理解するところ。だが、たとえ世界を天秤にかけても、果たしたい思いがあった。
「会わねば、あの時の蹴りがつけられん……」
深い息を吐く様が、遠くから眺める√能力者からもうかがえた。
さて、どうやって彼に接触しよう。
素直に近づくもよし、キャストや見世物の芸人として取り入るもよし。必要なら(個人的に注文したいだけであっても)、歓待店の料理に舌鼓を打つのもいいだろう。
音楽の鳴り止まない楽しげな店内へ、√能力者は足を踏み入れる。

死者への未練ねえ…。…他人に心を置くから、そういうことになるんだよ。
とはいえこの状況…説得に成功しても、この先もずうっと心残りを抱き続けることになりそうだなあ。…だったらいっそ、現実を見せてあげてもいいのかもね。
魔術迷彩服の形状をユニセックスなデザインへ変え、女性とも思える姿へ[変装]。
カウンターで酒を2杯、肴1品を注文。それらを持ってのらりの元へ、相席を打診する。
当たり障りのない話をしながら少しずつ[魅了]し、のらりの憂いの根を引き出す。
そう…迷ってるんだね、本当に会ってもいいものか。
良いじゃん、会ってみなよ。その蘇った相棒とやらに。そんな苦しい気持ちには、何処かで区切りをつけないとね。

「ヨオ旦那、表情が暗えじゃねェか!
どうしたんだい?良かったらこのオレに話してみなよ!」
てな感じで気安く接触
それで心を開いてくれるって雰囲気でもなさそうだが…ここでオレの√能力の出番だ!
”オレの故郷では今日はエイプリルフールに該当する『ウソをついても良い日』である”
という設定をデッチあげ、
「そういうワケだから、聴かせてくれよ!あんたのホラ話を!」
と呼び水を向ける
首尾良く件の話を語ってくれたら心の距離が縮まった証拠!
満を持してアタックだ!
「OK相棒、これもウソだが、オレぁそういうトラブルを解決するプロでね!
コトを円満に収めるためにも、ひとつ協力しちゃくれねェか?
強力な協力ってヤツをよ、ガハハ!!」

エェーのらりセンセじゃん!
おれ超ファンなんスよ! 握手、握手して!! あとサインとかほしい!!
一杯だけ隣で飲ませテ!!
例え話みたいな感じでセンセのお悩み聞き出したい
暗い顔してるけどなんかあったノ? 言いにくけりゃぼかした形でも良いから聞かせてヨ
おれ的にはそうネー。じゃあ会えばいいんじゃネ? とは思うカナー
そりゃネ、古今東西死んだ人との再会なんて取引はなんか裏があるサネ
ただまー、そうは言っても会いたくなるのは残された人のサガってなモンで
どの道例え話の人はやっちゃったんショ? ならそこはゴメンナサイするにせ、懐かしい人への用事は済ますべきだ
なーにダイジョブよ。世の中、案外そういうの何とかなるもんサ

◎
あらあらまあまあ!
風道のらりさんと言えば有名な方ではございませんか!
いつも話芸で楽しませていただいておりますが
なるほど、人間誰しも過去に影があるものでございますね
是非ともお話を…とは思いますが古妖の動向も気になります
事前に店の外に拠点を用意して妖怪猫さんに調べてもらいましょう
この地域に残る古妖の伝承
本当に死人を蘇らせるほどの力を持っているのかどうか
噓八百だった場合、それもきっと説得の材料になるでしょう
その間にわたくしめはのらりさんへお声掛けを
美味しいお料理を前に浮かないお顔、どうされました?
まるで妖怪に化かされたようではありませんか
あなたをそこまで悩ませるものが、本当に正しいと思いますか?
●ホラと例えと真実と
店内を流れる緩やかな音楽が、訪れた客に安らぎをもたらす。
舞台から離れた奥まった席。クラシカルなボックス型のソファーに腰を下ろした風道・のらりへ、ある人物が声をかけた。
「どうも。こちら、ご一緒させてもらっても?」
身体をすっぽりと覆うような黒装束。余らせた袖でくすりと笑う口許を隠し、妖艶に笑う。長く伸びた黒髪とその顔立ちも相まって、男か女かは判別がつかない。
自身が纏うノクティス・ヴェイルの形状をユニセックスなデザインに変化させ、ルメル・グリザイユ(半人半妖の|古代語魔術師《ブラックウィザード》・h01485)は普段から若干雰囲気を変えていた。装いをわずかに弄っただけだが、妖しげな魅力は店の空気感とも合致している。
片手に持った盆の上にはグラスが二杯、アーモンドとチーズを載せた皿が一枚。カウンターで調達した品だ。ちょうどグラスの空いたのらりには好都合な誘いだったが、彼は俯いて目を逸らした。
「悪いが……他をあたってくれ。今は気分じゃなくてな」
「そう仰らないで。さっきからため息ばっかりでしょ~?」
「君には関係のない話だ」
「こんな酒の席でそれはねぇってもんだぜ、旦那!」
突然、後ろからのらりの肩が叩かれる。そのままぐらぐら肩を揺すられてから、のらりは背後へ首を向けた。
「なっ、なんだ君は!?」
「ちょっとは明るい顔になったな! 芸人ならそうじゃねぇと!」
手を離し、満塁・一発(|逆転!一発男《たたかえイッパツマン》・h04601)は歯を覗かせる。見るからにワイルドな態度の男を前に困惑していると、隣でどさっと音がした。
ルメルが真横へと滑り込んできていた。グラスを傾け、静かに酒を楽しんでいる。
「おい、相席していいとは言ってないぞ!」
「まぁまぁ。こういう場は無礼講ってものだよ」
「それは私次第であって——」
「エェー!? のらりセンセじゃん!」
寂しさは崩され、だんだんと喧しさが踏み荒らしていく。
向かいから飛んだ声にのらりは前を見た。男と女が一人ずつ、のらりのテーブルへと近づいてくる。
テーブルに飛びつくように駆け寄った煙谷・セン(フカシの・h00751)はまじまじとのらりの顔を見つめてから、またしても歓喜の声を発した。
「おれ超ファンなんスよ! テレビでいっつも見てて、ここで会えて嬉しいッス! 握手、握手して!!」
「は、はぁ……」
「それとあと、サインとかほしい!!」
「う、うむ……」
熱烈なファンの登場に、のらりも圧されながら応対する。喜ぶ気持ちは無下にできず、差し出された手には握手をし、どこからともなく出てきた色紙にはセットのペンでサインを書いた。
「ひゃー! ホントにありがとうございまス! 大事にしまス!」
「喜んでくれるならいいんだ……いいんだが……」
「あらあらまあまあ! お顔を見かけて来てみれば、本当に風道・のらりさんとは! いつも話芸で楽しませていただいております!」
色紙を掲げるセンの脇から顔を覗かせたのは鉤尾・えの(根無し狗尾草・h01781)。にこやかな笑みと柔らかな仕草に、振り回されっぱなしだったのらりは安堵感を抱く。
だが、相変わらず顔つきは硬い。ふと、えのは卓上に目を落とした。食事を兼ねてつまんでいたらしき小皿はほとんど手がつけられていない。日頃見かける笑みの絶えない姿からは想像もつかないが、なるほど人間誰しも過去に影があるものだ。
「美味しいお料理を前に浮かないお顔、どうされました? あまり召し上がっていないようですが」
「……頼んだはいいが、あいにく満腹でね」
「嘘だよね、それ。だったら最初から頼まない。バレバレだよ、悪いけど」
カランとグラスの氷を鳴らし、ルメルは囁く。
目を見開いたのらりの背中側から、ずいっと一発が身体を寄せた。
「オレたちで良ければ話してみなよ、旦那! 一体何があったんだい? このまんま暗い表情だと、飯も酒もマズいままだぜ?」
「それは……できん」
「なぁ、のらりセンセ。お悩みがあるってんならおれも力にならせテ! おれに話してくれてセンセがスッとするならファンとしてめっちゃ嬉しいから! 言いにくけりゃ、ぼかした形でも良いから聞かせてヨ」
ぱんっと手を合わせたセンにすら、のらりは唇を噤む。見れば、かすかに震えているのがわかる。断固として拒絶しているわけではなく、何かしらが引っかかりになっているようだ。
その様子を見て取って、一発はパチンと指を鳴らした。
「よし、じゃあこうしよう! 実はな——今日はオレの故郷だと『ウソをついてもいい日』なんだ! エイプリルフールと同じなんだよ!」
「はぁ……?」
自信満々に言い放った一発に、のらりは何度も瞬きする。そんな都合のいい日が世の中に何度もあるのか。喉元まで出かかった芸人特有のツッコミは、すさまじい勢いに飲み込まれる。
「そういうワケだから、聴かせてくれよ! あんたのホラ話を!」
「そ、そんな理由にもなってない理由で——」
「いいんじゃないの、ホラに吹かれちゃっても」
最後の最後、のらりが振り絞った反論は、ルメルによって優しく潰される。いつの間にか心を侵食していた艶っぽい声色に、のらりは沈黙させられた。
重ねるように、えのが呼びかける。
「のらりさん。わたくしたちはあなたを糾弾しようだなんて心積もりはございません。むしろ、逆です。あなたを苦しめるものから解き放ちたい……その一心で、寄り添っているのです。それでも、話していただけませんか」
えのの言葉に、のらりは目を瞑って大きく息を吐いた。背もたれに身を預け、力なく頷く。
「わかった。これはホラ話で、例え話だ。あるとき、劇場で不気味な声を聞いて——」
「あ、その前に……隣、いいスか!?」
「……あぁ」
「やった! すみません、グラスお願いしまス!」
うきうきと隣に座るセンに、のらりが今度は小さな息を吐いた。
ホラ話で例え話。二重の前提を重ねたのらりは、さも体験したように語り出した。
事の発端は仕事で訪れた劇場。不気味な声に誘われて地下に降りれば、金属で造られた祠があった。声の主は古妖を名乗り、すぐに引き返そうとした矢先——。
『死んだ相棒に会いたいと、思ったことはないかの?』
古妖はすべてを見抜いていた。そして取引を持ちかけてきた。
自分を蘇らせれば、その相棒も蘇らせてやる、と。
「古妖に手を貸すのが何を意味をするのか……件の人物も、わかっていないわけじゃない。だが、この機を逃せば……きっと、悔いを残して死んでいく。そう思うんだ」
手で顔を覆い、のらりは訥々と語る。元の体裁はもはや守れていなかったが、√能力者たちは黙って話を聞いていた。
アーモンドを噛み砕き、耳にした話についてルメルは考える。
死者への未練。他人に心を置くから、そういった面倒くさいことになる。
頭の中で人知れず毒を吐きながらも、その心中を察せないわけではない。仮に説得に成功しても、この先も永遠に心残りを抱き続けるだろう。
ならばいっそ、現実を見せてあげてもいいのかもしれない。
残酷な想像をするルメルの隣、ソファーに座ったえのの足元で、一匹の猫が「にゃあ」と鳴いた。ぴょんと膝に飛び乗った猫は、探偵業を手伝ってくれる妖怪猫だ。喉を撫でてから、えのは背中に取り付けられた冊子を猫から外した。
「ありがとうございます。さて、調査の結果は如何ほどでしょう」
えのがのらりへ接触を図っている間、店の外に拠点を用意して妖怪猫に調査を依頼していた。
調査の対象は、この地域に伝わる古妖の伝承について。
冊子を捲ったえのは、飛び出した情報に口を開いた。
「……のらりさん。あなたの話に登場する古妖は、公家口調が特徴なのでございましょう?」
「あぁ……そうだが」
「であれば、あなたは妖怪に化かされています」
冊子の中身をのらりへと向ける。
古い紙には、着物を着た太った男と、その男から分裂するスズメの画が描かれていた。
「食物を食らい尽くし、人々を絶望に陥れるスズメの群れ……古妖の正体は、それです。飯を食らって餓えた人の苦しみが、この古妖の好物なのです」
「なんだと……!?」
「そして死人を蘇らせる力については、記述がどこにもございません」
告げられた事実に、のらりの顔が青褪めていく。
「まさか! 奴は私と約束したんだぞ! あいつを蘇らせてくれると!」
「それこそ、古妖の罠なのでございます。第一、あなたをそこまで悩ませるものが、本当に正しいと思いますか?」
えのの言葉を受け、のらりは自身の髪を掴んだ。情緒を処理できなくなり、荒い呼吸をする。時間を置いて、ようやくのらりは返事をした。
「そうだな……嘘だというなら、私も踏ん切りがつく。迷いがあるのは負い目があるからだ。ここはやはり、あいつとは会わずに——」
「良いじゃん、会ってみなよ」
転がるように零されたルメルの一言に、のらりが振り向く。
「な、何を言って……」
「本当に会っていいのか、真剣に迷ってたのに違いはないでしょ? だったら、会ってみなよ。その蘇った相棒とやらに。そんな苦しい気持ちには、何処かで区切りをつけないとね」
「おれ的にも、それには賛成カナー」
グラスの酒を呑みつつ、センもルメルの意見に同調した。
「その話が出なくても、この話が怪しいのは変わらんヨ。そりゃネ、古今東西死んだ人との再会なんて取引はなんか裏があるサネ。ただまー、そうは言っても会いたくなるのは残された人のサガってなモンで」
くしゃりと笑って、センはのらりの顔を覗き込む。
「どの道、例え話の人はやっちゃったんショ? ならそこはゴメンナサイするにせ、懐かしい人への用事は済ますべきだ」
「しかし……相手は古妖だぞ? どう立ち回れと?」
「なぁに、その心配ならいらねぇぜ!」
ソファーに移った一発が、歯を輝かせてグッと親指を立てる。
でっち上げの設定に乗って件の話を交わし合い、会いに行くという方向に全体方針は纏まりつつある。心の距離が縮まった他でもない証拠だ。
であればここは、満を持してのアタックを決行。
「OK相棒、これもウソだが——オレぁそういうトラブルを解決するプロでね! 古妖だろうがコヨーテだろうが吹っ飛ばしてやるよ! だから、お前はお前の心残りを晴らしにいきな!」
「本当に、君に任せていいのか?」
「本当だよ、ウソだけどな! ま、何も考えなくて大丈夫だ! その代わり、コトを円満に収めるためにも、ひとつ協力しちゃくれねェか?」
「協力……?」
「応よ。頼んだぜ、強力な協力ってヤツをよ、ガハハ!!」
豪快に言い放つ一発に、のらりは怪訝な目を向ける。やはり怪しさは残るが、ここまでの自信家がいるなら任せるべきなのだろうか。
思い悩むのらりに、笑みを保ったままのえのが呼びかける。
「その人に会うのだとしても、決して取り込まれぬようお気を付けて。わたくしたちも傍におりますが……古妖があなたを嵌めようとしていたのは間違いございません」
「……承知した」
「なーに、ダイジョブよ」
重くなりかけた空気を、センの軽妙な声が崩す。
「世の中、案外そういうの何とかなるもんサ」
「うん。割と運命って、決断した人には優しいし」
見抜いたようなルメルの言葉に、のらりは俯きがちだった顔を意識的に上へ向ける。
彼が意思を固めていく最中、辺りからは温かな笑いが響いていた。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功

アドリブ連携歓迎
・心情
違う√の飲食店!
うちの食堂でも夜にショーとかやれば宿泊客さんも増えるかな?
ショーパブは初めてだし後学のためにも色々楽しんでいこっと
お酒は弱いからオススメを一杯だけ、ね
・SPD
一通り見て食べて楽しんでからのらりさんに接触するよ
先に来た仲間が色々話してくれてるだろうから、私は敢えて事情を聞いたりはしない
「ここって素敵なお店ですよね。お客さんは皆楽しそうで、芸人さん達も一生懸命で皆キラキラしてる。私気に入っちゃいました!でも出来れば、あなたがキラキラしてる所も見てみたいんです。相方さんもきっとそう望んでるんじゃないかな?」
知ったような口だけど酔った勢いで素直な気持ちをぶつけるよ
●今夜は無礼講
歴史の重みを感じる木造の内部構造に柔らかな絨毯。
客をもてなす席の正面には舞台があり、空間全体が柔らかな賑わいに包まれている。
「ここが……違う√の飲食店! うちの食堂でも夜にショーとかやれば宿泊客さんも増えるかな?」
その光景に目を輝かせて、太曜・なのか(彼女は太陽なのか・h02984)はきょろきょろと辺りを見渡した。
「ショーパブは初めてだし、後学のためにもいろいろ楽しんでいこっと」
店内を歩く。レトロな雰囲気だが堅苦しさはなく、初めて来たのにどこか落ち着きを覚える。カウンターまで来て、棚に並ぶ酒瓶に圧倒されつつも声を発した。
「すみません、飲み物一つください! ……あ、私お酒弱いんですけど、何かオススメあります?」
カウンターに寄りかかり、バーテンに尋ねる。フルーティな飲み口のビールを薦めてくれたので飲み物をそれに決めて、追加で料理も何品か注文してみた。
サーバーから注がれる黄金色の液体。しゅわしゅわ綺麗に泡立つビールのグラスを手渡しされ、テーブルへ。ソファーに背を任せ、まずはぐびっと一口。
「ぷは~っ! 美味しっ!」
苦みを抑えた、甘みの香る後味が鼻先を抜ける。
一気に気が抜けていくなのかの視界で、舞台がライトで照らされた。
注目していると、拍手で迎えられた二人組がセンターマイクの前に立つ。ジャケットと蝶ネクタイで着飾った一ツ目と唐傘のコンビだ。
「妖怪の芸人さんだ……どんなネタやるんだろ」
興味津々で眺めるなのか。始まったネタはオーソドックスな漫才で、小気味のいいボケとツッコミが続く。最高潮に達したとき、唐傘ががばっと開いてダイナミックなツッコミを入れた。
どんっと跳ねる客席。あまりの勢いになのかも噴き出す。
「なんでっ!? ……あははっ!」
長尺らしく、まだまだネタは続く。料理も届き、堪能すればビールも進む。
美味しいお酒に食事に、楽しい見世物。この空間の笑い声と、だんだん一体になっていく。そうしてビールの残量もどんどん減っていった。
のらりを見つけ、なのかはボックスソファーの裏側から彼に近づく。
「どうしたんですか、塞ぎ込んじゃって」
のらりの表情は弱々しい。先に仲間が来て、いろいろと聞き出していたのをなのかは知っている。情報交換の上で、まだ相棒に会うか意思が固まり切っていないのだろう。
だから、自分はあえて何も聞かない。
代わりに、ここで体験したすべてを伝える。
「ここって素敵なお店ですよね。お客さんは皆楽しそうで、芸人さん達も一生懸命で皆キラキラしてる。私気に入っちゃいました!」
「そうかい。君は……ここは初めてか。なら、よかったよ」
「でもできれば、あなたがキラキラしてるところも見てみたいんです」
意表を突かれ、のらりは後ろを振り返る。少し赤い顔で、なのかは笑いかけた。
「たぶん、あなただってキラキラした人だから。相方さんもきっとそう望んでるんじゃないかな?」
それでは、と告げてなのかは立ち去る。知ったような口だと自分でも思う。
けれど、愚直なくらい正直な気持ちが救いになることだってなるはずだ。酔った勢いならそれをぶつけられる。この場はやり切ったと、ふぅと息をして自分の席へ。
遠くなる後ろ姿に、のらりは呟く。
「キラキラ、か……自分の願いを叶えることばかり考えて、忘れてたのかもな……」
吐き出した思いは、しっかりと響いていた。
🔵🔵🔵 大成功

◎
人の古傷につけこむたぁ、やっぱり古妖ってのは性質が悪いね
一角の人物でも、いやなればこそ拭えぬ傷がどっかにあるもんだしね
ただまぁ、あれだけの芸を積んだ御仁に対して私みたいな小娘が講釈垂れるのも筋が違う
巫女らしく旦那の陰気を払うとしよう
龍笛を手にして舞台に上がる。そして、高下駄で舞台を踏み付け、甲高い音を鳴らして演奏開始。祭囃子の拍子に龍笛を吹き、時折高下駄で床を蹴って音を加えて陽気な神楽を舞う
陰気が満ちれば気も塞ぐ。一時でも全部忘れて頭の中を空にして欲しい、って心持ちだね
笑わせる稼業の人が、いつまでもそんな顔してるもんじゃないよ
●熱風吹き荒れる
「人の古傷につけこむたぁ、やっぱり古妖ってのは性質が悪いね」
幕の下りた舞台で、鬼龍・葵(人間(√EDEN)の|載霊禍祓士《さいれいまがばらいし》・h03834)は呟く。音のないこの場所で出番を待っていれば、幕の向こうの賑わいが厭でも耳に飛び込んでくる。
観客席に、葵はのらりの姿を想像した。一角の人物でも、拭えぬ傷はどこかにある。
「ただまぁ、あれだけの芸を積んだ御仁に対して、私みたいな小娘が講釈垂れるのも筋が違うしねぇ」
ブザーが鳴る。近づく開演に、葵は大きく伸びをした。
「巫女らしく、旦那の陰気を払うとしよう!」
威勢よく意気込み、薄闇の中で口許に龍笛”双葉”を添える。
幕が開く。照明が点灯し、舞台の上が観客に晒された。
龍笛を構えた葵を中心に、楽器を手にした妖怪の奏者が並ぶ。
「ハアッ!」
声を張る。観客の意識を惹きつけたところで、思いきり高下駄で舞台を踏みつけた。甲高い音が、葵の舞に合わせて連続で打ち鳴らされる。
掴んだ心を離さぬうちに葵は龍笛に息を吹き込んだ。心地よい響きが店内へと広がる。
見れば心晴れ晴れ、踊り舞うは陽気な神楽。
「陰気を払うには、これが一番ってもんさ!」
開演した舞台を飾るように、妖怪たちが祭囃子を奏でる。銅鑼や太鼓、柏木が柔らかな音の重なりを作り出す中で、透いた笛の音がそれらを纏め上げていた。
龍笛を吹きながら、流れる拍子に乗せて葵は神楽を踊る。羽織った巫女羽織をはためかせ、時折高下駄で床を蹴る。張りのある音を挟めば、観客たちの表情も弾む。
くるり回って、活気に溢れる笑顔を葵は見せた。次の踊りを期待する観客たちに視線を飛ばし、のらりの姿を探す。
少しして、見つける。最奥のボックスソファー、やや気の抜けた様子ののらりが力なく座っていた。踊る葵に顔を向け、身体を動かしている。
「腑抜けた顔になっちまって——でも!」
のらりの方向に身体を向け、衝撃を飛ばすように高下駄を鳴らす。
「一旦忘れられたら、楽になれるってね!」
音を浴びせられ、のらりは目を丸くした。そのまま圧倒するように、神楽の舞と音楽を盛り立てていく。
陰気が満ちれば気も塞ぐ。その陰気を一時でも忘れて、頭の中を空にしてもらいたい。
切り裂くみたく、龍笛の音が場内に渡る。重ねるように叩かれた高下駄が、のらりの暗い表情を剥がしていく。
刻みつけるように、苛烈に神楽を舞う。
踊り切って、葵は笛から口を離した。
「笑わせる稼業の人が、いつまでもそんな顔してるもんじゃないよ」
万雷の拍手に隠すように言葉を零す。舞台袖へ行く間際、葵はのらりの方を一瞥した。
憑き物が落ちたような、先ほどよりいくらか身軽そうな顔で拍手をしている。
選択そのものに迷いはするだろう。ただその足取りは軽いはずだと、葵は礼をして舞台から捌けた。
🔵🔵🔵 大成功

有理くんと参加(h03785)
√能力者でもない者が、正しく生き返ることはないわよね
本人も分かっているのでしょうけれど、それでも得たい答えがあるのね
少しだけ羨ましいわ
そうまでして求めるものがあるってことが
接触する前に有理くんと協力し、くらりに関する情報を探偵も使って徹底的に集める
遺品とかあれば最高
サイコメトリーで彼の性格や口調口癖、のらりに対する気持ち、「あの時のけり」が何なのかを知りたい
可能な限りくらりの雰囲気を真似をできる程度にしてから接触
くらりに近い口調や口癖を真似しつつコンビ芸人を装って「しけた顔してるけれど、どうしたの先輩?」という風で話しかけ、サイコメトリーも交えて彼の内心を引き出す

カンナさん(h03261)と参加。
欠けた記憶があるし、少しだけ気持ちがわかるが。
その天秤を揺らすなら、今回は躊躇えない。
接触前に協力して風道・のらりとコンビの風道・のらりくらりについて調べる。
過去記事を洗い、人に聞き、可能な限り情報を。
どんな苦難を歩んだかを、コンビだった頃の話し方を。
その上であえて若い頃ののらりのような、苦難を知る前の雰囲気を出し。
「オレにも分かるくらいの顔と喋りしてるよ、大先輩」
といった感じで芸人を装い話しかける。
昔の貴方のような若手を見て、それでも天秤を揺らすのか。
自分と同じように苦難を与えるのか?
竜漿魔眼を使い「隙」を見逃さず、カンナさんが彼の内心を引き出すフォローを。
●過去が喋って動き出す
豪奢な入口を構える歓待店、その脇にて。
「有理くん、そっちの準備は大丈夫?」
「問題ないよ、カンナさん。一通り、触れられる情報源には触れてきた」
「こっちもよ。何十年も前に死んだ人のことだから、少し手こずったけど」
言いながら、カンナ・ゲルプロート(陽だまりを求めて・h03261)は袋から一本の万年筆を取り出した。傷のある筆記具を握り、目を瞑る。
所有者の記憶へ潜ろうとするカンナを、隣で杉森・有理(踏み出す一歩と導入の空白・h03785)も見守る。
カンナの持つ万年筆は、かつて風道・くらりが使っていた品だ。のらりが所属する事務所に預けられていたものを、彼には内緒で持ち出させてもらった。現地の探偵を使って得た情報から交渉を仕掛けたが、なかなか上手くいった。
古妖に縋ってまで蘇らせようとする、風道・くらりとは如何なる人物なのか。√能力者でもない者が、正しく生き返ることはない。それはのらりも重々承知のはずだが、なおも得たい答えがあるのだろう。
「少しだけ羨ましいわ。そうまでして求めるものがあるってことが」
呟くカンナに、所有者の記憶が再生される。
机とノートに向き合う日々。若い頃ののらりとの、繰り返される掛け合い。
『俺たちで全員ぶっ飛ばそうぜ!』
見知らぬ声にのらりが笑った瞬間、映像は途切れた。
「……思ったより、情熱的な人だったのね」
「あぁ。オレが聞き回った限りでもそうだったらしい。しっかりコンビを支えながら、野心に燃える芸人だったって」
頷く有理も、手許でメモの束をぱらぱら捲る。過去記事を洗い、人を頼って聞いた情報の集まり。すべて、過去ののらりとコンビ時代についてのものだ。
「二人で下積みを重ねて、少しずつ漫才師として腕を磨いていった。ファンからも熱望される中、いよいよ大会の決勝に立つと思ったら……事故がすべてを狂わせた」
その執念からのらりは出世人に。未だ消えないでいる感情については、有理も少しだけ気持ちがわかる。ぽっかり空いた欠けた記憶の淵をなぞるように、そう思考する。
しかし、世界との天秤を揺らすのであれば——今回は躊躇えない。
「カンナさん、オレが送った映像は見た?」
「そりゃ、擦り込むほどにね。今見た記憶でピースが埋まったわ」
「ならよかったよ。オレも何度も見返して、身体に馴染ませた」
「それじゃ、行きましょ。私たちの舞台に」
カンナの言葉に有理は首を縦に振り、二人は揃って歓待店の内部へと進んでいった。
ボックスソファーに背を預け、のらりは天井を仰いでいた。
訪ねてきた彼らに従うなら、かつての相棒には会いに行くべきだろう。だが彼らを連れてとなると、最後にはその相棒を祓うような事態になると簡単に予想できた。
熱のある言葉や演舞に背を押され、枷は外れつつある。最後に自身の脚を阻むのは、その懸念だ。
考え込むのらりの耳に、遠くから騒々しい掛け合いが飛び込む。
「まったく……そっちを待ってたら楽屋に入るのも遅れたじゃない!」
「まぁまぁ、間に合ったしもう許してよ。何飲む?」
「しれっと誤魔化すな!」
カノンが放つツッコミを有理が飄々と躱す。そのやり取り、声のトーンやツッコミの間を捉え、のらりは懐かしさを覚える。
かつての自分たち——風道・のらりくらりにそっくりだと。
のらりが見惚れている前を通り過ぎようとして、有理が「あっ」と声を零した。
「これはこれは、どうものらりさん。今はオフ?」
「ちょっと、失礼すぎるでしょ! すみません、うちの相方が……」
「いや、いいんだよ。君ら、芸人かい?」
「はい。ここにも舞台で来てて……それより大先輩、一ついいですか?」
顔に笑顔を留めたまま、有理がさらりと問いかけた。
「最近、妖怪に憑かれました?」
「はぁ……?」
「いやだって、それくらいキレ悪くなってますよ最近。オレにもわかるくらいの顔と喋りしてますもん」
「あなたねぇ……!? そういうキャラだからって何言ってもいいわけじゃないわよ!?」
「はは、いいんだ。若手にも見抜かれるくらい、隠せてなかったかい。そっちの君も、思ってはいるんだろ?」
「い、いやー……でもそうですね、なんだかしけた顔……じゃなかった、元気がない顔だから、どうかしたのかなーとは……」
目を泳がせながら、カンナは答える。その慌てぶりに、のらりは小さく笑う。
毒の強い台詞をさらっと言ってのける。それを捌くようにツッコミを入れるが、いざ自分に振られたら対応に追われる様。何もかもが、いつしかの自分たちのようだ。目を細め、のらりは口を開く。
「少し悩みがあってね。答えは出かかってるんだが、決めきれなくて」
全容をぼかして話し出したのらりを、有理はまじまじと見つめた。
右目に竜漿が集中し、瞳が密かに燃え上がる。掴んだ『隙』を突くように、彼に問う。
「なんで決められないんです?」
「直接来るね……! 何か、大事なものを失いそうな気がするんだ」
「それ、本当に大事なんですかね?」
有理から飛んできた言葉に、のらりは身体を震わせる。それを狙い、カンナが彼に近づいた。
「震えてますよ。飲み過ぎてないですか?」
「いや、大丈夫だ……すまない」
自然と手を取り、のらりの指輪に触れる。吐き出さない内心へ、カンナは辿り着く。
——自分が今更相棒と過ごすことに意味はあるのか。本当に大事なのは、今ある世界を守ることではないのか?
のらりが辿り着いた答えに、カンナは安堵する。彼から離れ、有理にだけ聞こえるように囁く。
「この人は大丈夫。きっと私たちに味方してくれる」
報告を聞き、有理も小さく息を吐いた。
自分たちと同じような苦難を若手に与えようとするほど、血迷ってはいなかった。
「それでは、オレたちは出番なんで」
「あ……けど、無理はしないで。もうお帰りになられてもいいと思います」
「そうしようかな。……ありがとうね」
立ち上がるのらりを見送る二人は、心の中で確信する。
もはや彼は惑わされない、と。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功
第2章 冒険 『友のいない世界』

POW
熱い言葉で正気に戻す
SPD
巧みな話術で気持ちを整理させる
WIZ
理路整然と説得する
√妖怪百鬼夜行 普通7 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
●待ち人
この場所へ来るように。
歓待店を発ったのらりから連絡を受け取った√能力者たちは、ある建物へと辿り着く。
他でもない、のらりが古妖の封印を解いた劇場だった。
内部へ入り、舞台へ赴く。舞台裏から回るようにして袖に立つと、そこにはのらりが立っていた。
「来たか。うん? 君は……そうか。君たちも、そうだったんだな」
舞台に立っていた者や身分を明かさずに接触した者を見て、のらりは何度か頷く。これだけ多くの人が自分を導こうとしていたその温かみを、静かに体感していた。
のらり曰く、蘇った相棒はこの劇場に現れるという。時を待ちながら、のらりは√能力者に告げる。
「君たちの言葉で、迷いはなくなった。私はここで、あいつと再会する。ただ、それだけだ。そこで綺麗に未練を絶って、過去と別れを言い渡す。引き込まれるつもりは、毛頭ない」
力強く言い切ったその背後で、足音が鳴った。
振り返り、のらりは口を開きっ放しにした。
『おい、のらり。早く出るぞ』
前触れもなく、その人物はいた。√能力者の意識たちをもすり抜け、目と鼻の先に。
風道・くらり。過去の記事と瓜二つ。
姿も声も喋り方、何も変わらない。調査によって得られた情報と比べても、どこが違うのかわからないほどだ。
数十年ぶりに再会して、のらりは混線する感情を整理できずに硬直した。
『もうじき舞台だ。皆が待ってる』
「くらり。お前は……本物なのか?」
『はぁ? 何を言ってるんだ?』
固めたくらりの拳が、のらりの胸を小突いた。
『昨日言っただろ。俺たちで全員ぶっ飛ばそうぜ、って。我ながら、熱くなりすぎだよなー……』
はにかみ、頬を掻く。些細な挙動に、のらりは目許を覆った。
こいつは、くらりだ。おそらく違うのだろうが、自分には違いがわからない。ならば本物だと定めても、何の支障もありはしない。
だから、彼とはここで別れねばならない。
「ずっと、申し訳のなさを抱えてた。昔に置いてきちまったような、そういうやるせなさがあったんだ。でも、今日でそれは消える。お前のおかげで、また前に行ける。お前と、ここで会えてよかったよ」
たどたどしくなりながらも、のらりは言葉を吐き出していく。残る感情を清算するように、絞り出していく。
何も言えなくなって、離れるために踵を返そうとした。
その腕を、くらりに掴まれた。
『どうして来てくれないんだ? 言っただろ、皆が待ってるって』
もう一度、のらりはくらりの方を見た。景色は一変していた。
舞台袖から見える光景。それはまるでテレビのセットのようで、電飾に覆われた装置にいつの間にか囲まれていた。空席だった舞台の席はすべて埋まっていて、審査員のような豪華な席も見える。
中央にはセンターマイク。思い描いた夢の舞台が、どうしてか顕在していた。
「何が起きているんだ……!?」
勢いよく、のらりはくらりの腕を振り払う。そうして、気付く。
自分の腕が若返っていることに。
設置された鏡が在りし日ののらりの姿を映す。髪型も衣装もあの頃に戻っている。
理解の追いつかないのらりに、くらりが手を差し出した。
『行こうぜ、のらり。俺たちで夢を見ようじゃないか』
立ち会っている√能力者も、情景の変化に巻き込まれる。自分たちの姿はそのままに、幻のようなこの空間にそのまま引きずり込まれていた。
これが何なのか、その正体は掴めない。似たような√能力があったような気もする。とにかく、くらりに似た彼は何が何でものらりを逃がしたくないようだ。
この空間を打ち払い、のらりを引き戻す。
それしか脱出する方法はないだろう。

アドリブ連携歓迎
「せっかく相方さんに再会できたのに、こんなのってないよ⋯⋯」
自分が今からするのは親友を引き剥がす行為
紛い物だと分かっていても、自分に嫌悪を抱かずにいられない
でも、やらなきゃいけないんだ
・SPD
「あなたこそ邪魔しないで! 皆が待ってるのは今ののらりさんなんだから!」
くらりの手を弾いてのらりさんから引き剥がす
きっとのらりさんは大切な人の手を振り払えない
だから汚れ役は厚顔無恥な私が引き受けるよ
くらりさんにも声をかける
「人にはそれぞれ輝ける場所がある。でも気づいてるんでしょ。それは過去の夢の中なんかじゃないって、今を一生懸命生きている人こそがいっちばんキラキラで格好いいんだって!」

◎
男同士の友情と夢を利用しようたあ、とんだ悪党もいたモンだぜ!
この満塁一発さまは、そういう外道を許しちゃおけねえ|性質《タチ》でね……
のらりの旦那にゃ悪ィが、荒療法といかせてもらうぜ!
具体的にどうするかって?
決まってるじゃねェか!悪党の目を覚ますには、今も昔もどの√も|鉄拳制裁《コレ》が一番!
てなワケでルートブレイカーでくらりの頬をブン殴るぜ!!
見なよ、岩をも砕くオレさまの拳を喰らって、無事どころか傷ひとつねえ…つまりコイツぁ正真正銘のバケモノってこったぜ!
言うが早いか、オラよッもうイッパツ!!
そろそろ化けの皮が剥がれて来るのと違うかい? ガハハ!
●この世は舞台
発生した現象を目の当たりにして、太曜・なのか(彼女は太陽なのか・h02984)は震えた声で呟く。
「せっかく相方さんに再会できたのに、こんなのってないよ……」
微笑を浮かべ、くらりに似た何かはのらりへと手を伸ばす。
一瞬で変異した情景と自身の肉体。相手が人智を超えた存在なのは間違いない。それはのらりにもわかりきっていた。
しかし、掴みかけた夢舞台に晒されて、のらりの身体は前へと動く。
「違う……! これは私の意思では……!」
『来いよ、のらり。本当は、そう思ってるんだろ?』
楽しげな言葉に、のらりの腕が上がる。
近づいてきた手を、くらりが取ろうとする寸前——。
二人の間になのかが割り込み、くらりの手を弾いた。
「させない。のらりさんは決めたの。そっちには戻らないって」
『君に何がわかる? 俺たちの邪魔をするな』
「あなたこそ邪魔しないで! 皆が待ってるのは今ののらりさんなんだから!」
のらりの胸に手を添え、軽く力を籠めて後ろへ押した。呆然とした顔のまま、のらりは後退りする。たしかに生じた距離に、なのかは奥歯を噛み締めた。
これは、曲がりなりにも親友を引き剥がす行為だ。紛い物だと理解していても、非道な選択を取る自分に嫌悪を抱かずにいられない。
でも、やらなきゃいけないんだ。
虫唾の走る気持ちを喉奥にしまい込んで、突き放す言葉を吐き出す。
「ここは、憧れの場所だったんだと思う。こんなに眩しいし。だけど私は、今ののらりさんがキラキラしてるところが見たい。だから、あなたたちを引き裂く」
相棒をあんなに想うのらりは、きっと大切な人の手を振り払えない。
ならば汚れ役は、厚顔無恥な私が引き受ける。
覚悟を胸に、なのかはくらりに立ちはだかった。
『君に何がわかると……言っているんだ!』
叫び、くらりがなのかに迫る。振り上げられた手に、なのかは目を見張った。
その視界に被さる、大柄な背。
直後。がら空きだったくらりの頬に、強烈な拳が叩き込まれた。顔面を歪め、くらりが床を転がって吹き飛ばされる。
「そういう役回りをするってんなら、オレも付き合うぜ!」
くらりを殴り飛ばした拳を握り直し、満塁・一発(|逆転!一発男《たたかえイッパツマン》・h04601)は背後に向かって親指を立てる。覗かせた白い歯に、なのかとのらりが瞬きした。
「男同士の友情と夢を利用しようたあ、とんだ悪党もいたモンだぜ! この満塁・一発さまは、そういう外道を許しちゃおけねえ|性質《タチ》でね……先制イッパツ、いただきだ」
「すごいけど……大丈夫かな、くらりさん」
「むしろ、大丈夫なのが問題だな」
案じるなのかに、一発が正面を指さす。
けろりとした表情で、くらりは立ち上がる。もう一度こちらに歩み寄ろうとしていた。
「見なよ、岩をも砕くオレさまの拳を喰らって、無事どころか傷一つねえ……つまりコイツぁ正真正銘のバケモノってこったぜ!」
残酷な証明に、のらりの顔が引き攣った。その光景からのらりが目を逸らしたのを一瞥しながらも、一発は再び拳を握り締める。
「悪ィな、のらりの旦那。残酷なモンを見せちまって……だが、こうなりゃ相手方を荒治療するしかねぇのよ!」
右の拳を中心に、空間を歪めるように渦が形成される。これは、ただの拳ではない。
可能性を砕く拳——ルートブレイカー。
「悪党の目を覚ますには、今も昔もどの√も|鉄拳制裁《コレ》が一番!」
ある程度の距離を詰めたくらりが走り出す。
接近するくらりを真正面から受け止めるように、一発は大きく腕を引いた。
「言うが早いか、オラよッもうイッパツ!!」
今度は腹に、一発の拳が突き刺さる。何かを焼却するような音が立ち、再放送のようにくらりを吹っ飛ばす。しかし素早く受身を取り、時間を置かずにまたくらりが起き上がる。のらりへ手を伸ばし、追い縋ろうとする。それを払うように、またも一発の拳が振るわれた。
何度殴られようと、くらりは執拗にのらりを求める。痛ましさを感じながらも、なのかはそこに尋常でない執着を見出す。
「ある意味で、本物なのかも」
蘇った本人ではない。だが、精密な模倣品だからこそ、通じる部分があるのかもしれない。
ならば、届く。
「くらりさん!」
声を張る。のらりを求めて前を睨むくらりと、目が合った。
伝わるはずだ。自分の相棒が、今どこにいるべきなのか。
「人にはそれぞれ輝ける場所がある。ここも、輝ける場所だと思う。でも気づいてるんでしょ。のらりさんが一番輝く場所。それは過去の夢の中なんかじゃないって!」
刺すようなくらりの眼光から逃げたくなる。目を瞑りたくなる。
それでも、逃げない。目を合わせたまま、言葉をぶつける。
「今を一生懸命生きている人こそがいっちばんキラキラで格好いいんだって!」
光に満ちた純粋な言葉。
相棒の活躍を願うくらりに、それが響く。走り寄るくらりの表情が一瞬だけ緩んだ。
そこを一発は逃さない。
「わかったら……安心して眠ってくれよなァ!」
空間を揺する、直球直線の右ストレート。全力で眉間を殴り抜く。
脱力した瞬間に刺さった一撃は、くらりを遠く打ち上げた。
サングラス越しに、一発は相手の挙動をうかがう。ハッ、と思わず声を漏らした。
「まだ立つか。でもよ……そろそろ化けの皮が剥がれて来るのと違うかい? ガハハ!」
またしてもくらりは立ち上がっていたが、その顔には破れ目が生じていた。亀裂からいくつものスズメが瞳を覗かせ、すぐにくらりは傷を塞ぐ。
舞台上には役者が揃う。閉演にはまだ遠い。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功

有理くん(h03785)と参加
何はともあれルートブレイカーで接触し、この世界を壊すか弱めることができないか試す
その後は只管説得するしかないわね
独りになった後も、芸人の高みを目指したのは何故?
芸人の頂点は、一番稼いでいる人でも一番有名な人でもない
一番、多くの誰かを笑わせた人。それこそが頂点だと私は思う
私は今のあなたの芸も素敵だと思う
あなたの芸で笑顔になっている皆を不幸にする、あんな奴に騙されないで
くらりさんの言葉を借りるなら、あんな弱みに付け込む奴『全員ぶっ飛ばそうぜ』よ
傷から生まれた芸だとしても…その傷を奪わせないで
だってあなたはあらゆるものを――それこそ、雨だって笑わせるかもしれないのだから

カンナさん(h03261)と参加
調べ上げた情報と今ののらりさんを元に竜漿魔眼で隙を探す。
違和感を、必要な要素を探せ。
昔のままで今ののらりさんと息が合うか?
今までの積み重ねがあるから差が出るはず。
逆に合うなら本人ではない。
今を知らないのにどうして合わせられる?
傷を抉るような説得に謝罪しなければいけない。
でも「前に行ける」と言ってくれた貴方には、
今の芸で笑顔になって応援する人達がいる。
そう調べ上げた情報が言っている。
カンナさんの言う通り。
利用するような奴『俺達で全員ぶっ飛ばそうぜ!』
貴方はきっと、風だって笑わせるかもしれない人なんだ。
え? そこは合わせろってカンナさん?
いやあ、雨にも風にも的な?
●サウイフモノニ、ワタシハナリタイ
『どうしてそいつらの側に立つ!? もうじき出番が来るんだぞ!』
傷ついた顔を手で覆い、くらりは叫ぶ。
悲痛な相棒の表情に、断ち切ると言い放ったのらりも目を離せなくなっていた。
その瞳の前で手が振られる。手は空間を波立たせ、のらりの視界に映るくらりを歪ませた。
「これはそういう幻よ。わかってると思うけど」
しっかり者の後輩から一転、素に戻ったカンナ・ゲルプロート(陽だまりを求めて・h03261)は語気を強めてのらりに呼びかける。
右掌に籠めたルートブレイカーの力は、この空間の作用をたしかに弱めていた。一振りで情景そのものを壊すとまではいかずとも、のらりの目を彼から遠ざけることには役立つだろう。
「……すまない。何から何まで」
「いいのよ。有理くん、そっちはどう?」
「『隙』らしいものは……まだ、見えないな」
カンナの隣で眼鏡を押し上げ、杉森・有理(踏み出す一歩と導入の空白・h03785)がくらりを凝視する。竜漿魔眼で眺めても、相手に『隙』は生じていない。本物ならただの人間でしかないはずなのに。
揺さぶりをかけよう。そう思い立ち、有理はくらりに話を振った。
「なぁ、くらりさん。あなたが本当にのらりさんの相方なら、一つ掛け合いをしてみたらどうだろう」
『掛け合い……?』
「即興でちょっと話せばいい。素人じゃないんだろ?」
意図を掴み、くらりは頷く。のらりと視線を合わせると、唐突に口を開いた。
『なぁのらり、お前の方は今まで何してたんだ?』
「別に、大したことはしてないさ」
突拍子もなく始まった会話に、のらりは冷や汗を垂らしたまま柔軟に対応する。
「ちょっと河原で石積みを」
『お前が死んでんじゃねぇか!』
間を置かずしてツッコミが入り、聞いていただけのカンナと有理も感嘆する。手応えを覚えて話題を広げようとするくらりを、のらりは片手で制した。
「もうわかった。お前は……くらりじゃない」
『どうしてそんなことを……!?』
「あいつはな、アドリブに弱いんだよ」
その情報が飛び出して、そこに有理も続く。
「くらりさんのことは俺たちも調べていてね。ネタを作り込むのは得意だけど、即興には弱い……それに比べたら、随分と腕を上げたな」
今ののらりは、昔ののらりとは違う。芸能の世界で何十年と戦った、歴戦の戦士だ。
その積み重ねもないのに肩を並べられるわけがない。
「息が合うなら、逆に本人じゃない」
『何を……俺たちはコンビだ! 時が経っても息が合って当然だ!』
「今を知らないのにどうして合わせられる?」
有理から飛んだ問いに、くらりは口許を歪めて沈黙した。
その姿に、竜漿の集合する右目が『隙』を知らせる。
のらりを引き戻すなら、今。
有理の示した合図に反応して、カンナが動く。
「のらりさん、教えて。独りになった後も、芸人の高みを目指したのは何故?」
「な、何故ってそれは——」
「誰かを笑わせたいからじゃないの?」
カンナの発した言葉に、のらりが瞬きする。違わないのだと察して、カンナ自身が代わりに言葉を紡ぐ。
「芸人の頂点は、一番稼いでいる人でも一番有名な人でもない。一番、多くの誰かを笑わせた人。それこそが頂点だと私は思う」
真正面に立ち、カンナはのらりを見上げた。幼い少女にしか見えない外見に、異様な威厳が宿る。
「あなたはたくさんの人を笑わせてる。だから、私は今のあなたの芸も素敵だと思う」
「のらりさんがたくさんの人を笑わせてるっていうのは、一つの事実でもある」
差し込むように、有理は冊子をのらりに手渡した。
スクラップボード。情報収集のついでに作った、新聞の切り抜き集。
のらりが冊子を開くと、中は溢れるほどの記事で満ちていた。
満員御礼。お茶の間人気。憧れの芸人……。
記事の数々が、観客たちの笑顔を映したかのようにのらりの目に飛び込んだ。
「昔と比べて、なんてのは傷を抉ることかもしれない。それは申し訳ない。でも、強く背を押したいんだ」
ページを捲るのらりの瞳に、悲しみは見えない。
有理は、彼に温かな声をかける。
「『前に行ける』と言ってくれたあなたには、今の芸で笑顔になって応援する人たちがいる。そう、調べ上げた情報が言っている」
「そんな皆を、きっとあいつは不幸にする。あんな奴に騙されないで。くらりさんの言葉を借りるなら、弱みに付け込む奴なんて——」
「ああ、利用するような奴なんて——」
カンナと有理が揃えた言葉が重なって、のらりは懐かしい声を耳に聞いた。
『俺たちで全員ぶっ飛ばそうぜ!』
驚き、のらりは目を見開く。正面に見据えたくらりは口を動かしていない。
ならば、この声は。
不可思議な現象に浸りながら、またしても空間が揺れる。
ルートブレイカーで偽りの夢を歪めながら、視界の外からカンナは語りかけた。
「傷から生まれた芸だとしても……その傷を奪わせないで」
この歪は、いつも内側にあった。外に漏れ出るなどありえない。
そのことにさえ気付けば、あとは早い。緩く右手を振り終えて、締めの言葉へ。
「だってあなたはあらゆるものを——それこそ、雨だって笑わせるかもしれないのだから」
「そうだな。あなたは、風だって笑わせるかもしれない人なんだ」
「……はっ?」
予定が崩れ、カンナは有理をじっと見つめた。
「ちょっと有理くん!? いいところだったんだから合わせなさいよ!」
「え? いやあ、でもこれも言うだろう? 雨にも風にも的な?」
「何よそれ……せっかく今なにか回収した気がしたのに!」
わいわい言い合う二人に、のらりがふっと笑みを零す。
救い出す当人にすら笑われて、カンナは大きくため息をつく。
「とにかく……まずは過去に負けないでね、のらりさん」
呼びかけられ、のらりは正面を見た。
いつか憧れた夢舞台が、何故か遠く感じられた。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功

なるほど、のらりの旦那の迷いが消えたんで慌ててやがるな
中々に大掛かりな術だが、こいつで何とかできるなら最初からそうしていた筈だ
必ず綻びはある
「迷わされるなのろりの旦那! あんたの答えはもう出てるだろ!!」
一喝し、旦那にきちんと前を見据えてもらう
迷いを振り切ったなら、大事なのはきちんと見据える事だ。魔は厄介だが、迷いのない者に付け入る事は非常に難しいのだ
「旦那の答えはもう出ている。お前さんは、ただ未練がましいだけさね」
左目の浄眼を輝かせ、旦那の決意に揺れる空間の何処かを見定め、霊力を籠めた抜刀術でその空間を斬り祓う
※居合、切断、破魔、霊力攻撃

此れは…心に焦がれたあの日の情景を再現している、ってことかな。
此処ではキミたちが物語の主人公、ってわけね。……くだらない。
ね~えのらりくん。さっき『未練を絶って、別れを告げる』って、そう言わなかった?
キミの覚悟ってその程度のものだったんだ?
…じゃあもういいよ。キミごと一緒に消してあげる。虚像の相棒とずうっと一緒に居られるよ。これで満足?
このままのらりが古妖へ引き込まれるようであれば、くらり諸共容赦なく切り掛かる。
けれどのらりが再び現実を受け止める覚悟を持った場合は、全力で彼のサポートを。
古妖からのらりを庇うように立ち回り、彼自身と彼の決意を守る。
……ふふ、そうこなくっちゃ。頑張る人は好きだよ。

失う悲しみ、というのは正直に申し上げてよく分かりません
これはわたくしめを、わたくしめたらしめる欠落でしょう
だから理解しようとは思いません
そんなわたくしめだからこそ目の前にいるくらりさんが
あなたを害する存在であると断言できますから
未練ゆえにここで彼の手を振り払わないのは
本物のくらりさんの死を冒涜する行いであるということを
あなたは知らなければなりません
彼の命の価値を、貶めたくはないでしょう?
説得しつつ√能力を使用
さあ、ウルタールの猫さん方
舞台に上がり込んだお客様にお帰りいただきますよ
召喚した猫へくらりさんとの融合を指示して消滅まで見届けましょう
乱暴な解決ですが、目の前で消えた方が諦めもつきますよね
●夢の終わり
偽物という確信を得つつあるのらりは、少しずつくらりから遠ざかっていく。
『待て! どうして行くんだ! 俺は此処にしかいないんだぞ!』
「無駄だよ、お前さん」
のらりとくらりを結ぶ線を絶つように、鬼龍・葵(人間(√EDEN)の|載霊禍祓士《さいれいまがばらいし》・h03834)は二人の間に立った。鞘に収まった刀を肩に担ぎ、くらりを睨む。
「だいぶと、慌ててんだろう?」
『何を言って……!?』
「しかも慌てたのは最初からだ。のらりの旦那の迷いが消えたからだろうよ。大誤算ってところかい?」
葵が天井を仰ぐ。照明に照らされ、舞台は煌めく。素人なら現実と見違えてしまうほど精巧な、人を閉じ込めるための夢。
「中々に大掛かりな術だが、こいつで何とかできるなら最初からそうしていたはずだ。必ず綻びはある」
「なるほどねぇ。でも、ぱっと見じゃ掴めそうにないなぁ」
にこやかに笑みを浮かべ、ルメル・グリザイユ(半人半妖の|古代語魔術師《ブラックウィザード》・h01485)は肩を竦める。その細めた目で、幻惑の舞台を隅々まで見渡した。
電飾とセンターマイク。揃いの衣装で決めた二人。
まるで青春の渦中。
「此れは……心に焦がれたあの日の情景を再現している、ってことかな」
語られずともわかる。
此処ではキミたちが物語の主人公。
甘酸っぱくて吐き気がするほどの景色に笑って——。
「……くだらない」
ルメルは、冷淡に呟いた。
そのやや後方で、同じように微笑む人物が一人。
口許に添えた袖で笑みを隠し、鉤尾・えの(根無し狗尾草・h01781)は状況の観察に徹していた。
「これが、喪う悲しみでございますか」
発してみても、まるで共感はできない。
それが彼女を、彼女たらしめる欠落だから。険しい表情をしたのらりの横顔を見ても、あれがどういった感情なのか掴めはしない。
だから、理解しようとは思わない。
にまにまと笑みを保ったまま、えのはのらりの隣に移る。
何一つ悲しみを心得ない自分だからこそ、目の前にいるくらりがのらりを害する存在だと断言できるから。
「のらりさん」
優しい声色で、えのはのらりに語りかける。
「早く離れましょう。取り込まれると、わかっていますでしょう?」
「あぁ、だが……」
「まさか、まだ迷っていると?」
問われ、のらりの身体が揺れる。目を泳がせ、観念するように声を絞り出した。
「離れるだけでいいならできるさ。でも、見捨てる真似をする必要なんざ……!」
「おやおや~? そんな甘い話だと思ってたの~?」
震えるのらりの肩を、後ろからルメルが掴む。手は首へと動いていき、ルメルは腕を彼の首へと絡ませた。肩を組むような格好で囁く。
「ね~え、のらりくん。さっき『未練を絶って、別れを告げる』って、そう言わなかった?」
「言った、言ったが——」
「だったら、早く見切りをつけなよ」
ルメルの言葉に促されるが、のらりは一向にくらりから視線を外さない。
「できないの? キミの覚悟ってその程度のものだったんだ?」
「違う、そうでは」
「……じゃあもういいよ」
冷めた声を吐いた直後。
絡めた手の親指を立て、ルメルの爪がのらりの首筋に突き刺さる。
「キミごと一緒に消してあげる。虚像の相棒とずうっと一緒に居られるよ。これで満足?」
脅迫めいた行動に、のらりの顔が引き攣った。
脅して無理やり、なんてことはルメル自身も意図するところではない。これはあくまで本音を引き出すための刺激に過ぎない。
永遠の夢に囚われるなど、今の彼は望んでいないのだから。
それを推し量って、重ねるようにえのも言葉を投げかける。
「のらりさん。あなたも彼を本物とは思っていないのでしょう?」
拘束されたまま、のらりは目を動かしてえのを見た。
相変わらずの微笑がそこにあった。
「それでも離れられないのは、最後の未練故——でも、ここで彼の手を振り払わないのは、冒涜でございます」
「冒涜……?」
「えぇ。このまま立ち止まるのは、本物のくらりさんの死を冒涜する行いであるということを……あなたは知らなければなりません」
偽りを偽りと断じない。
甘え、許すのは、存在したはずの本物を蔑ろにする行為である。
言葉の裏に故人の尊厳を潜め、えのは尋ねる。
「彼の命の価値を、貶めたくはないでしょう?」
「あ、あ……」
「今更惑わされてんじゃねぇ、のらりの旦那!」
瞳を震わせるのらりに、葵の一喝が響く。
鋭い目つきで彼の動揺しきった精神を正して、葵は声を張る。
「あんたは今、何処に生きてる? 散々ぱら背を押されて、応援されてる今を思い出したばっかりだろう? わかってるはずさ……あんたの答えはもう出てるだろ!!」
空気を貫くような大声に、のらりは圧倒された。
前を見据えさせる。迷いを振り切ったなら、大切なのは往くべき方向を見据えることだ。
魔は厄介だ。厄介だが、迷いのない者に付け入るのは非常に難しい。
行先さえ定まれば、あとは大丈夫。
「さぁ、あんたはどうしたい?」
「私は——」
何度も重なる問いに、のらりは目を瞑る。
脅され、紐解かれ、喝を入れられ……揺ら動いていた心は、一点に定まる。
開いた目に、今度こそ迷いはなかった。
「思い出を、ここに置いていく。だから、帰してくれ」
『何を言ってるんだ!? 乗せられるな、のらり!』
「乗せられてなんていない。これが、私の意思だ」
「……ふふ、そうこなくっちゃ」
笑みを零し、ルメルが絡めていた腕を解く。
「頑張る人は好きだよ」
わざとらしい笑いは消え、自然な微笑が顔に漏れていた。
『ふざけるな! 俺はずっとここで待っていたんだぞ!』
虚像を拒絶したのらりへ、くらりが駆け寄ろうとする。手を伸ばした。
その腕が、ずたずたに切り裂かれる。刃は腕を伝って、肩と胴をも深く切り開く。
『があっ……!?』
「それじゃ、そういうことだから。邪魔だよ」
片手に握った短剣をちらつかせ、ルメルは満面の笑みを浮かべる。迎え撃つように飛び出し、処理に動いたのだ。
刃に血液が一つも付着しなかったのを一瞥してから、ルメルはくらりの容態を注視する。
「なんであろうと容赦はしないけど……何者なのさ、キミ」
裂かれた身体から、大量のスズメが露出する。鳴き声が統合され、くらりの声を真似てそれは話す。
『助けてくれ、のらり……!』
「あらあら、正体はスズメさんでしたか。なら、わたくしめとしては好都合でございますね」
くすくすと、口許を袖で隠してえのは笑う。
そんな彼女の背後から、何匹もの猫が頭を覗かせた。
「さあ、ウルタールの猫さん方。舞台に上がり込んだお客様にお帰りいただきますよ」
にゃあにゃあと鳴く猫が飛び出し、膝をついたくらりに駆け寄っていく。猫たちは裂けたくらりの内側に潜り込み、スズメを散らしながら彼と一体となる。脚を絡め、尾を絡め、纏わりつく重量が勝手に増す。
そうしていると、くらりの身体が末端から消えかかっていった。
『あぁっ、消える! 消えるッ!』
「乱暴な解決ですが、目の前で消えた方が諦めもつきますよね」
悶えるくらりを眺め、えのはくすりと頬を緩めた。
たしかに足を止めた相棒——に似た何かの最期を、のらりは息を呑んで見つめる。
叫びはもはや誰にも届かない。
『のらり、手を取れ! 俺が消えたら漫才ができなくなるぞ!』
「無駄だよ、お前さん」
肩に担いだ刀を下ろし、葵が言い放つ。左目に添えた手を外すと、その瞳は煌々と燃え上がっていた。
「旦那の答えはもう出ている。何を言ったって響きゃしねぇさ」
猫に絡まれ這いつくばった彼から視線を外し、探す。のらりの決意、それから主たる存在の負傷によって、この空間にも綻びが生まれているはずだ。瞬きをすると、宙に不自然な裂け目を見つけた。
スポットライトが照らす光の中。幕の継ぎ目のような亀裂の向こうに、暗闇が控えていた。
柄を、葵は握り締める。刀を抜く直前、言葉を漏らした。
「お前さんは、ただ未練がましいだけさね」
白を弾いて振られた刀が空間を切断する。
幻を見せていた幕が外れ、なし崩しに景色が壊れていく。セットの倒れる音、スズメと猫の鳴き声、相棒の叫び声。
夢の終わりは、新しい舞台の幕開けでもあった。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功
第3章 ボス戦 『入内雀・藤原実方』

POW
こうなれば人も物も全て喰らいつくすでおじゃる
インビジブルの群れ(どこにでもいる)に自身を喰わせ死亡すると、無敵獣【雀妖化異人】が出現する。攻撃・回復問わず外部からのあらゆる干渉を完全無効化し、自身が生前に指定した敵を【無限雀喰らい】で遠距離攻撃するが、動きは鈍い。
インビジブルの群れ(どこにでもいる)に自身を喰わせ死亡すると、無敵獣【雀妖化異人】が出現する。攻撃・回復問わず外部からのあらゆる干渉を完全無効化し、自身が生前に指定した敵を【無限雀喰らい】で遠距離攻撃するが、動きは鈍い。
SPD
出ておじゃれ!不埒者を殺すでおじゃる
事前に招集しておいた12体の【雀戦闘員】(レベルは自身の半分)を指揮する。ただし帰投させるまで、自身と[雀戦闘員]全員の反応速度が半減する。
事前に招集しておいた12体の【雀戦闘員】(レベルは自身の半分)を指揮する。ただし帰投させるまで、自身と[雀戦闘員]全員の反応速度が半減する。
WIZ
恋和歌かくとだに
「【心を燃やす情熱的な歌】」を歌う。歌声をリアルタイムで聞いた全ての非√能力者の傍らに【無謀な恋に溺れさせる悪霊】が出現し、成功率が1%以上ある全ての行動の成功率が100%になる。
「【心を燃やす情熱的な歌】」を歌う。歌声をリアルタイムで聞いた全ての非√能力者の傍らに【無謀な恋に溺れさせる悪霊】が出現し、成功率が1%以上ある全ての行動の成功率が100%になる。
●笑み人
「つまらんのぅ」
幻を脱した√能力者たちが声を聞く。
気付けば情景は劇場に戻っている。薄暗い照明しか光源のない舞台から、声を発した人物を探す。
頬杖を突いて、黄金衣の太った男が客席に座っていた。
「まったく、芸人を名乗っておいてこの体たらく。舞い踊って最期にはすべてを鳥に喰われる……哀れな道化の芸で麿を笑わせるのが、お主の役目でおじゃろう?」
扇を開き、悠々と男は欠伸をした。
名は、藤原・実方。スズメに化けて都の飯を喰らい尽くした、古来からの存在。√能力者が調査した古妖と、容姿言動は一致していた。
「此処は元々麿の土地ぞ? そこに建った舞台で主役が如く振る舞いおって。麿を楽しませるかと思うたが、この程度か。おまけに、余計な賊まで招きよって」
実方の身体の端から、スズメの大群が羽ばたく。
戦闘に備えて√能力者たちは武器を構えたが、ふと違和感を覚えた。
のらりは一体どこに?
『随分と下賤なものを好むんですなぁ。食の嗜み方とまるで同じだ』
舞台の最後方、マイクに乗せたのらりの声が響く。
突然浴びせられた毒のある言葉に、実方は顔に青筋を立てた。
「なにを……っ!」
『それにしても、あなたの術も大したことないとお見受けする。一人で烏合の衆をやっているだけはありますなぁ』
「烏合はカラスでおじゃろう! あんな下品な鳥と麿を一緒にするでない!」
『あ、そうでしたか。私も何分、鳥目なもんで。お揃いですね』
「こいつ……殺す!」
冷静さを失い、実方の身体から次々とスズメが飛び立つ。統制はもはや取れているとはいえない。
スタンドマイクを口許から離し、のらりは√能力者に向けて話す。姿も元に戻り、老獪で矜持のある芸人として立ち振る舞う。
「高貴を気取った奴ほど冗談に弱いんだ。ここまで世話になった礼だよ。私は芸人、戦えん。しかし舌なら……ある程度は抗える。邪魔ならすぐ袖に逃げ込むから、後始末は任せたよ」
完全復活、本領発揮。
そんな彼と笑みを交わして、隙だらけの実方へと√能力者は向き合う。

◎
ンッ?オマエ今「つまらん」とかヌカしやがったな?
ンなら見せてやろうじゃねェか、満塁一発さま流のドツキ漫才ってヤツをよォ!
雀妖化異人だと?ホホーッ面白ェモン出すじゃねェか!
で何?「攻撃・回復問わず外部からのあらゆる干渉を完全無効化」だって?
ハハッ、冗談はよせよ!世の中に「完全」なんてモンはねェんだぜ?
例えばこう、目にも止まらぬスピードでタコ殴りにすればどうだい!?
せっかくテメエの方から鈍くなってくれたんだ、遠慮なく利用させて貰うぜ!
ご自慢のタフネスも「あらゆる干渉を『何度でも』完全無効化」するってワケじゃねェよなァ~~~ッッ!?
あ?言ってる事が無茶苦茶だって?ハハッ、細けぇこたぁイイんだよ!!
●ボケ殺し
「ンッ? オマエ今『つまらん』とかヌカしやがったな?」
実方の言葉を咎めるように、満塁・一発(|逆転!一発男《たたかえイッパツマン》・h04601)はサングラスに隠した瞳で実方を睨む。
険しい表情から一転。パシンと拳を合わせ、にやついてみせた。
「ンなら見せてやろうじゃねェか、満塁・一発さま流のドツキ漫才ってヤツをよォ!」
「なんでおじゃるか貴様は! そこをどけ! あやつが殺せぬ!」
客席で怒気を爆発させる実方の肉体が、端から喰らい尽くされる。鳥のインビジブルに食い裂かれて現れたのは、スズメの群体。
雀妖化異人——群れは一体の巨大な鳥のように纏まるが、微妙に崩れかけてもいた。
「ホホーッ、面白ェモン出すじゃねェか!」
興奮のまま、舞台から一発が飛び出す。柔らかな座席を踏みつけ弾み、握り締めた拳を容赦なく振るう。迎撃するように化異人も飛翔。どこからか実方の声が響く。
「無駄でおじゃる! こやつに攻撃など効かぬわ! 完全なる存在ぞ!」
拳が鳥群へ突っ込んだ途端、化異人の体が散る。一発を飲み込むように飛び、群れは喰らい尽くそうとする。
しかし、猛烈な勢いで振られたフックがそれを吹き飛ばす。
鳥群という、塊ごと。
「あがぁっ!?」
「ハハッ、冗談はよせよ! 世の中に『完全』なんてモンはねェんだぜ?」
妙な自信を溢れさせ、一発は客席間の通路に着地する。床に落下した化異人が起き上がったところへ、隙を与えず接近した。
「効かねェつっても限界あるだろ? ご自慢のタフネスも『何度でも』完全無効化するってワケじゃねェよなァ~~~ッッ!?」
デタラメな論理を展開しながら繰り出すは、目にも止まらぬ拳のラッシュ。思考停止した化異人を滅多打ちにする。
まるで、言葉の隙間に打ち込んだ楔を殴りつけ、亀裂を広げていくように。
文字通りのボケ殺し。撲殺上等なツッコミの応酬。論理は徐々に化異人へと浸透し、ダメージとして蓄積される。抵抗しようにも、荒ぶったままの鳥群では太刀打ちできない。
「せっかくテメエの方から鈍くなってくれたんだ、遠慮なく利用させてもらうぜ!」
「い、言ってることが無茶苦茶……!」
「なんでテメエがツッコミしてんだこのボケ野郎!」
「ぬぐわっ!?」
化異人を一発が張り倒す。強烈な張り手が化異人を叩き飛ばし、体の一部が小鳥に分裂する。
這いつくばった鳥の塊へ、叩いた方の手をぶらぶら振りながら一発は近づく。その手を掲げ、今しがた起きている理不尽を笑った。
「ハハッ、細けぇこたぁイイんだよ!! そっちの方が面白ェだろ?」
手を握り固め、再び拳へ。
一跳びで肉薄して、構えた拳を大きく引いた。
「ほらよッ、くれてやるぜ! テメエが望んだ馬鹿みてェな笑いをよォ!」
叫び、突き抜けるような拳が化異人を殴り抜く。
滑稽なドタバタ劇のように、無敵を謳う怪物が宙を飛んだ。
🔵🔵🔵 大成功

ふむ…6回、ってとこかな。それだけあれば十分。
ねえねえのらりくん。あの雀達が、一斉に僕に突っ込んでくるように仕向けることって出来る~? …ま、ダメならダメで、自分で何とかするけどね。
あ、それとさっきはごめんねえ。首、大丈夫~?
√能力の発動を終え次第、間髪入れずに[ダッシュ]で本体目掛けて走り出す。
進行を阻害する雀は[高速・多重詠唱]した[爆破]魔術で軌道を逸らし、本体到達までは[ジャンプ]等で極力回避。間に合わないと判断した場合は、出来るだけ多くの雀を巻き添える位置にて自爆。
本体に辿り着いたら、蘇生可能なギリギリの回数まで何度でも[捨て身の一撃]を。
さあて…キミはあと、何回耐えられるかなあ…?
●笑い爆ぜる
舞台から仄暗い客席を眺め、ルメル・グリザイユ(半人半妖の|古代語魔術師《ブラックウィザード》・h01485)は思考を巡らせる。
いち、にぃと指を折り、もう一度小指が立った。
「ふむ……6回、ってとこかな。それだけあれば十分」
ぺろりと舌を覗かせ、マイクを握るのらりへとルメルは向き直る。
「ねえねえのらりくん。あのスズメたちが、一斉に僕に突っ込んでくるように仕向けることってできる~?」
「……上手く言葉を弄れば、できなくはないはずだが。いいのかい?」
「まあね。僕としてはそっちの方が好都合だよお」
緩い笑顔を咲かせたルメルに頭を傾けつつ、のらりは頷く。
あ、と一呼吸置いて、ルメルは首に手を置いた。
「それとさっきはごめんねえ。首、大丈夫~?」
「なに、いい気つけになったさ。おかげで舌も軽くなった」
「ふふ、ならよかった」
くすくす笑うルメルの背後で、座席を掴んで実方が立ち上がる。敵を捉え、のらりが再度マイクを構えた。
『やはり、大した術ではございませんなぁ』
「貴様……! よくも麿にそんな口を……!」
『なにせ、こちらにおわしますは本物の魔術師! 彼がいる限り、私は安泰でございます!』
「舐めた口を抜かすなァ!」
服の袖から鳥群が飛び出し、複数体の巨大なスズメとなって客席に降り立つ。
口角を上げ、ルメルは舞台を飛び降り走り出した。
「釣れたねえ」
通路に入り、本体たる実方へと一直線。
「不埒者を殺すでおじゃる!」
のらりの言葉に誘導され、スズメたちがルメルへと接近する。翼を広げ、爪や|嘴《くちばし》で切り裂かんと飛びかかってきた。
嘲笑うようにルメルが手を開く。
「鳥なら花火が嫌いでしょ?」
爆発が虚空で生じる。劇場を揺らす空気振動に、接近を試みたスズメが退避行動に出た。辛うじて翼で殴りかかろうとする動きをルメルは易々と跳んで躱し、座席ごと飛び越えて実方への距離を詰める。
「何をしておるかァ!?」
実方の激昂が響く。一方で、スズメは天井近くを跳び回るばかり。
怒りでまともな連携も取れない中、実方の顔面に手が被さった。
「捕まえたあ」
顔を鷲掴みにして、ルメルが笑う。
晴れ晴れしいまでの笑顔は割れ、閃光と爆音が飛び出した。
|Detonatio Humani《デトナティオ・ヒュマニ》——爆発そのものと融合し、自身を『人間爆弾』へと変貌させる。
謂わば、自爆の魔法。
「はあッ——!?」
理解の追いつかぬまま、実方が爆発に巻き込まれる。熱に身体を焦がして、座席に激しく叩きつけられた。身体の端から死んだスズメを零し、それでも目を開く。
その光景に唖然とした。
砕けた肉体を再生しながら、ルメルが歩み寄る。徐々に形作られていく口が三日月のように歪んだ。
「一回で終わりなんて、そんなつまんないことはしないよお!」
「まさか……!? や、やめるでおじゃる!」
「さあて……キミはあと、何回耐えられるかなあ……?」
またしても、実方の頭が掴まれる。
6回。ルメルが数えた回数分、爆発と悲鳴が劇場に轟いた。
🔵🔵🔵 大成功

※アドリブ連携歓迎
調子が出て来たね、のらりの旦那
うんうんそうじゃなけりゃあね!
激昂した実方の注意がそちらを向いたのを幸いに、引き抜いた霊刀を媒介にして九頭竜大神から八雷神の神威を降ろす
刀身に神威を漲らせ、弓を引くような霞の構えを取り、のらりの旦那に迫る雀を切り祓って回って盾になりたい
※霊的防護、衝撃波
「言ってやりな! 奴さん効いてるぜ!」
のらりの言葉で奴がより前のめりになったら、一息に踏み込んで逆撃。神威漲る霊刀で奴を攻撃しよう
※霊力攻撃、切断、切込み、破魔、空中ダッシュ

アドリブ連携歓迎
・心情
役者が揃った?
違うね、あんたなんてお呼びじゃない
のらりさんの夢を踏み躙ったあんたを私は絶対許さない!
「あなたの最期、予報します!」
・戦闘
髪から雲型のヘアバッジを外しドライバーに装填
「変身!」
‐ Whethelier,it’s going to be Cloudy-
反応速度が落ちるなら雷を纏う忍者戦士クラウディフレームで翻弄
槍型に変形させたフォーキャスターで反撃だ!
「のらりさん、あなたの想いも力に変えるから」
途中でのらりと合流し、その意思をブランクバッジで受け止める
仲間がいれば彼等にも
そうして生み出したWFバッジと私のバッジをバズーカに装填
「想いよ、空に届け!ファイヤー!」

◎
さすがのらりさん!
舌戦となっては古妖ですら形無しですね
わたくしめも最後までお手伝いいたしましょう!
√能力で再度ウルタールの猫さん方を召喚します
相手は雀の群れですから、こちらも群れで対抗しますよ
敵が雀妖化異人を呼び出したら[逃げ足]で回避に徹し
猫さん方にはお味方の回復を指示します
わたくしめは正面から戦うのは不得手ですので
拳銃で[援護射撃]、接近が叶う場面があれば[零距離射撃]を
叩き込みましょう
決定打は与えられずとも気を引くぐらいはいたします
泣いても笑ってもこれが最後
…いえ、せっかくなので笑い話にしちゃいましょう
漫才師『風道・のらりくらり』が目指した景色には
大勢の観客の笑顔があった筈ですからね!
●大団円は近く
『自分が道化になる気分はどうですかな? 術師より、そちらの方が向いていそうだ』
「この減らず口が……!」
√能力者の攻撃を受け、傷を負った実方に浴びせられるジョーク。
マイクを掴んで声を張るのらりに、鉤尾・えの(根無し狗尾草・h01781)は拍手を飛ばしてにこにこと笑う。
「さすがのらりさん! 舌戦となっては古妖ですら形無しですね!」
「調子が出てきたね、のらりの旦那」
刀身を剥き出しにした霊刀を携え、鬼龍・葵(人間(√EDEN)の|載霊禍祓士《さいれいまがばらいし》・h03834)も頷く。
未だ実方の意識はのらりに集中している。相手のプライドを裂くように冗談を浴びせるのらりの表情は、苦悩していたとは思えないほど晴れやかだ。
「うんうん、笑わせる稼業の人はそうじゃなけりゃあね!」
そんなのらりとは対照的な、怒りを募らせた顔つき。真っ黒な唇を歪め、実方が叫ぶ。
「これが芝居なら、主役は麿でおじゃろう!? 早う麿の機嫌を取らぬか、端役どもめ!」
「違うね、あんたなんてお呼びじゃない」
激しい怒号が切り払われる。照明の灯った舞台上で、太曜・なのか(彼女は太陽なのか・h02984)は堂々と実方に立ち向かう。
「のらりさんの夢を踏み躙ったあんたを、私は絶対許さない!」
眩しい笑顔を底に押し込み、黒幕を睨む。
力強い宣言に同意するように、えのは懐から取り出した拳銃を、葵は握った刀を実方に向けた。
「わたくしめも最後までお手伝いいたしましょう! 最終盤は賑やかなのが定番ですもの!」
「踊る気がねぇなら早いとこ帰んな。これ以上、あんたの出る幕はねぇってさ」
「おのれら……揃って麿を愚弄するか!?」
歯を軋ませる実方の中心から、嘴が突き出す。続々と、泡が沸き立つように。
「こうなれば人も物もすべて喰らいつくすでおじゃる!」
鳥の群れが巨大な塊となり、一羽のスズメとして形成される。
翼を広げ、雀妖化異人から放出された鳥群が舞台を狙って解き放たれた。
起こった現象から目を逸らさず、なのかは髪に留めたヘアバッジへ手を伸ばす。
「あなたの最期、予報します!」
曇りを表した雲のバッジを腰のウェザリエドライバーに装填。
『——Whethelier,it’s going to be Cloudy——』
プラズマが、なのかの身体を駆け抜ける。
「変身!」
厚い雲のような靄の内側、光が弾けた。
バチバチと雷を纏った忍者戦士、クラウディフレーム。
構えた武器の先端が鋭い刃へと変化するのを一瞥して、なのかは鳥群に自ら突っ込んだ。
「こんな鳥、撃ち落せばいいだけだ!」
槍型のフォーキャスターが群れの隙間に割って入る。
本日の天気は、荒ぶる雷雲。
雷撃が煌めく。スズメを感電させ、伝播によって次から次へと黒く焦がしていく。
「スズメさんといえど、雷には勝てませんね。悪天候を飛ぶのは不得手のようです」
墜ちるスズメたちを眺め、えのは手を打ち鳴らす。
「ですからわたくしめも、もう一度天敵をお呼びしましょう」
舞台のそこかしこから、ウルタールの猫が再び現れる。天井を染め上げるほどのスズメの群れに驚きつつも、猫たちはえのの足元に集う。
「相手はスズメの群れですから、こちらも群れで対抗しますよ。といっても、正面から戦いはしませんが。誰にでも不得手があるものですね」
拳銃を両手で握って、こちらに飛来するスズメに目を丸くする。銃弾を放って何羽かを狙撃してから、猫と一緒にステップを踏むように軌道上から飛び退いた。
のらりを狙って飛ぶスズメ。その方向を見て、えのは笑みを零す。
「守りは任せましたよ」
食い裂かんとするスズメの向かう先。
刀を掲げ、切先は前へ。柄を両手に握り、腰を落とす。
弓を引くような霞の構えを、葵は取った。のらりの前で盾となる彼女の刀身に、神威は宿る。
「国津の大神、九頭の大蛇、その分け身たる八雷神を降ろしたもう」
唱える間も鳥群は接近。
穿つように突撃するスズメ——それより速く、葵が動いた。
「|九頭竜降神『八雷神』《ヤクサノイカズチガミ》」
スズメの隙間を走り抜け、刀が振るわれる。高速の斬撃が鳥を斬り祓い、衝撃波となって刀の届かない範囲をも貫く。
神威を漲らせた得物を振り回し、止まない雨のようなスズメの群れを斬って回った。
「のらりの旦那、無事かい!?」
「ああ……だが、君が……!」
「こんなの痛くねぇさ!」
歯を覗かせ、葵はのらりに振り返る。
しかし、まったくの無傷ではなかった。八雷神の神威があれど、物量には厳しいものがある。相手が放出する鳥は尽きそうにない。
しかも、微かに和歌のようなものまで聞こえる。釣られて現れた悪霊がスズメの行動を助けているらしい。今のところは速度で上回り対処できていたが、接触するスズメにより葵の身体は傷ついていた。
そしてそれは、攻め入ったなのかも同じ。歯を食いしばり、雷の速度で鳥群を割って雀妖化異人への接近を試みるが、やはり数に押されていた。
フォーキャスターを握り締め、負った頬の傷をなのかは撫でる。
「絶対に、負けたくなんかない……! のらりさんの想いは、ずっと本物だったんだ!」
決意を込めて、声を張る。
彼女の頬を、ざらざらした猫の舌が舐めた。
「ひゃあっ!?」
「ふふ、深刻になりすぎてはいけませんよ」
笑い声を零し、えのは緩い表情でなのかに言う。なのかの肩や足元にウルタールの猫が纏わりつき、身体を擦り付けた箇所の傷が癒える。
同様の効果は葵にも。霞の構えを取った一瞬、猫が飛びかかって傷に覆い被さる。無言で猫を見つめてから、葵は唇を尖らせた。
「なーんか……面白い格好になっちまったけど……」
「泣いても笑ってもこれが最後。なら、せっかくなので笑い話にしちゃいましょう。あなたもそうしたいでしょう、のらりさん?」
口角を上げて尋ねるえのの身体が、面白がるように傾く。
「漫才師『風道・のらりくらり』が目指した景色には大勢の観客の笑顔があったはず。笑いはいつだってあなたの武器で生き様だった。今宵の舞台も、皆で笑って頭を下げません?」
えのの言葉に、のらりは広がる客席を見渡した。
空っぽの座席に客の姿が見える。身体を揺らす姿が見える。
耳元で、笑いが蘇った。
マイクを握る手に力が入る。反面、口は軽妙で。
『大団円は近いようです。傲慢な貴族は大衆に敗れる。世の常ですな』
「まだ言うか、貴様!」
『言いますとも。あなたがスズメでも、私の舌は斬れないでしょう?』
「ははっ! 言ってやりな! 奴さん効いてるぜ!」
笑って葵が煽り立てる。
その声を聞きながら、えのは銃を構えた。
「隙間さえ作れば、あとは崩すだけでございます」
引き金を、静かに引いた。
突然の銃撃に放出されたばかりの鳥群が揺れる。
たった一発。それだけでいい。
それだけで、隙は生まれる。
「終わるってんなら、オチをつけねぇとな!」
意図を汲み、猫を振り払って葵が飛び出す。漂う神威が軌跡となって客席の通路に刻み込まれる。
走りながら、水で満ちた杯を想像する。一滴も零さず、最大容量を一点へ撒く。
スズメの集合体へと詰め寄って、刀を振り上げた。
「霊妙剣・鳴神——!」
存在を斬る一撃。刃を振り切り、雀妖化異人を切り裂く。
「がっ……!?」
「残念ですが、いつ終わらせるかはわたくしたちの裁量ですので」
傷つけられた雀妖化異人に肉薄し、えのが直接銃口を突きつけた。
残弾が尽きるまで、零距離射撃を連発。雀妖化異人を構成するスズメが次々と逃げ出し、姿形は大きく崩れた。仕事は果たしたと、えのは素早く離れる。
繰り広げられる攻撃の連続に、のらりは目を見張った。
「のらりさん!」
彼の意識を、客席から飛んだ声が叩く。
個性のないバッジを掌に乗せ、なのかはのらりへ腕を伸ばす。
「キラキラもモヤモヤも、全部が篭ってあなたの笑いになるんだと思います。それ、私に託してください。あなたの想いも力に変えるから!」
「……できるのかい、君に」
「はい!」
自信満々に答えたなのかに、のらりは目を細めた。
「だったら、笑い飛ばしてくれ。何もかも吹き飛ばすくらい、盛大に」
「もちろんです」
頷き、なのかは手を握り固める。手の中でバッジが変形していくのがわかる。
ブランクバッジは形のないバッジ。感情を変換して、空模様として映し出す。
そのやり取りを捉えた葵とえのもそちらへ振り向く。
「私からも頼んだ! 派手にぱーっとやっちまおうぜ!」
「えぇ。鬱屈の原因など、ふぅと飛ばしてしまいましょう」
仲間からの想いも受け取って、バッジが膨らむ。
形状が固定されたそのとき、暗い天井からバズーカ砲が降ってきた。転送されてきた武装を手にして、バッジをセットする。
一方はなのかの装備するクラウディフレームバッジ。
もう一方はブランクバッジの変化した——台風を模したバッジ。
想いを装填し、なのかはバズーカを担ぐ。
「想いよ、空に届け! ファイヤー!」
虹色の砲撃が、暴風とともに吹き荒れた。
空間を突き抜けるように飛んで、纏まりのない鳥群に直撃する。
「これは……ぐぬっ——わあああっ!?」
炸裂した笑い。根源となる複雑な想い。
具現化したそれは鳥の大群を巻き上げ、壁や床に散らして暴れ回るのだった。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功

有理くん(h03785)と参加
確か実方雀って、左遷された悲しみと怨恨の中、おくたばりあそばされた人の怨霊とか言われている奴よね
「あっは☆ しょーもない口論で感情的になった挙句、左遷されるってどういう気持ち?
そういう経験ないから分からないの。宜しければどんな惨めな気持ちで余生を過ごしたのか教えて下さらない?」
適当なことを言いつつ蝙蝠と黒猫達を放ち、死角と音声をフォロー
影技と影装で中距離から牽制攻撃しつつ、無敵獣や戦闘員の攻撃を右掌とかで武器受けしながら機会を待つ
「雀になって都のご飯を漁ったって…つまり高貴な乞食って…こと!?」
意識を私に向けさせ、有理くんにだけ見えるように影で文字を書いたりして、連携とフォローを意識
「下劣で下賤で下品なのはあなたの性根ってことよね。こんなのが王カッコワライってんじゃ雀に同情するわ。つまらんのぅ」
隙を突いて意識の外から瞬動術で突っ込み、ルートブレイカーでぶん殴る
能力は厄介だけれど、それに偏った戦い方過ぎるわ
左遷されてお暇な時間に、訓練でもしてればよかったのにね

カンナさん(h03261)と参加
燃ゆる思ひをだったか。燃えているね、オレの心も。
絆を利用しやがった事への、怒りの炎でだがなッ!
合図、文字を見逃さず連携重視でカードの絵柄や配置で意思疎通。
言葉は鋭いが同意するよカンナさん。
ある程度? いやのらりさん、全力を言葉に乗せていいと思う。
勿論危険だと思ったら下がってほしいが。
相方に聞こえるよう何度でも叫ぼう、今回はちょっと違うけれど。
コイツを『俺達全員でぶっ飛ばそうぜ!』
炎を纏え、怒りを喰らい咲き誇れ花発嘩!
消えぬ絆に法灯を、悪しき雀に鉄槌を!
増える雀を巻き込んで、いつも以上に綺麗な花が咲くだろう。
そして炎の光は更なる影を、闇を色濃くする。
花発嘩の牽制として投げつける攻撃用カード達で花道を彩れ。
揺らぐ風、すれ違う音、残る影、貴方に捧ぐ、死の花畑。
さあ爆ぜろ指向性散弾。ここ一番を作り出せ鳳仙花!
一発ガツンと熱いのよろしくカンナさん!
能力だけで芸を磨かなければこんなものか。
それが熟練の芸術で冷静さを失えば、なあ?
今度は純粋に芸術的な笑いを楽しみたいね。
●言霊
肩で息をして、実方が舞台を睨む。身を糧にした無敵獣も鳥群も、√能力者には太刀打ちできないでいる。彼らに囲われたのらりを捉え、客席から叫ぶ。
「この卑怯者が! 守られて貴様は下らん言葉を吐くだけでおじゃるか!」
「あのさぁ。それ、どの口が言ってるわけ?」
実方を遮り、カンナ・ゲルプロート(陽だまりを求めて・h03261)はわざとらしく言った。
煽り立てるのがこの場では効果的らしい。実際に相手が歯をひん剥いたのを見て、嘲りの含んだ声を飛ばした。
「あなたも全然自分で戦ってないじゃない。こういうのなんていうんだっけ? お山の大将? 田舎に飛ばされて、そのままおくたばりあそばされたあなたにはぴったりね」
「なっ……!? 貴様、麿の怒りを買いたいのか!?」
「もちろんよ。私だって、あなた以上に怒ってるから」
言い切ったカンナの隣で、杉森・有理(踏み出す一歩と導入の空白・h03785)も静かに頷いた。言葉は激しいが、意思は同じだ。
和歌を巡って口論を起こした実方は左遷され、実方は悲しみと怨念の中で息絶えた。死後、スズメの群れとして都を襲撃。これを実方雀という。
そうした彼が遺した、恋慕の歌を有理は知っている。
「燃ゆる思ひを、だったか。燃えているね、オレの心も」
感情が強まるほど心は燃え上がると、彼なら理解しているだろう。
ならば伝わるはずだ。自分がどれほどの激情に駆られているか。
「絆を利用しやがったことへの、怒りの炎でだがなッ!」
カードを掌に揃え、構える。相手の勝手な憤怒など知ったことか。燃える思いを瞳に潜め、有理もまた実方と対峙する。
自身の前に立つ√能力者たちを、のらりは心強く感じていた。できれば彼らを支えられるよう、立ち回っていきたいが……と思っていたところで、声をかけられた。
「のらりさん。ある程度なんて遠慮はいらない。全力を言葉に乗せていいと思う。その方がオレたちも自由に動けるはずだ」
危険だと思ったら下がってほしいが、と付け足しつつ、有理は握った拳を掲げる。振り返らないまま、熱の籠った声を届ける。
届ける相手はのらりに限らない。どこかにいる相方に聞こえるように。いつもの言葉は、今回はちょっと違うけれど。
「コイツを——『俺たち全員でぶっ飛ばそうぜ!』」
「……なかなか巧いじゃないか」
微笑を零し、のらりはマイクを握り直した。
「貴様らッ! 麿の面前でそれ以上笑うでないッ!」
激昂とともに、実方が鳥群を放つ。膨らんだ両袖から飛び立つ小鳥の群れが塊となり、複数体の大きなスズメとして舞台に迫る。
実方の近衛兵、といったところか。一瞥して、カンナは息を吐く。腰に手を置いた彼女の姿をスポットライトが照らし、真っ黒な影が伸びる。
「そういうところよ、あなたの全部の欠点」
飛行するスズメと影が重なる瞬間。
突如、影が天井へと突き上がる。縄のようにスズメたちを絡め取り、乱雑に客席へと投げ捨てた。轟音に実方が戦慄する一方で、カンナは思いきり噴き出す。
「あっは☆ しょーもない口論で感情的になった挙句、左遷されるってどういう気持ち? そういう経験ないからわからないの。よろしければどんな惨めな気持ちで余生を過ごしたのか、教えてくださらない?」
「……は? 今、何と——」
「答えられないならいいの。あなたはチュンチュン鳴くことしかできない、ただの鳥だものね!」
カンナから流れるような罵声を浴びせられ、あまりの量に停止した実方の思考が再び動き出す。
白粉で塗られた顔面も真っ赤になるほどの激怒を伴って。
「殺す殺す殺す! 絶対に殺す!」
怨嗟を発する実方に鳥のインビジブルが集合し、その肉体をずたずたに引き裂く。
内部から顕現するは、近衛よりも一回り巨大なスズメの怪物——雀妖化異人。奇声を上げ、投げられたばかりの近衛とともに突っ込んできた。
「ほんっと、わかりやすいなぁ」
カンナが身構える。影に手を入れて黒に染まった鎌を取り出し、足元で揺れる影を操って迎撃の姿勢を取った。
踏み出した足先で影から喚び出すのは、蝙蝠と黒猫たち。蝙蝠は空へ散り、黒猫は地上の隙間に潜り込む。死角と音の聞き漏らしを潰して、改めて状況を俯瞰視する。
これだけ用意を徹底しても数と執拗さは相手が上だ。けれど大丈夫。実力者ならこちらにもいる。影の端を伸ばして、幕へと投映した。
同じように構えていた有理が、不自然に伸びた影を目で追いかける。
幕には文字のように変形した影が映っていた。
『デカいのをやる。他は任せた』
意図を汲み、有理は相手に悟られないよう小さく首を縦に振る。
「了解だ、カンナさん」
突き出した一枚のカード、絵柄は『○』。
意思疎通を済ませ、カンナは口角を上げた。
「ところで、昔のお話も聞きたいのだけど? スズメになって都のご飯を漁ったって……つまり、高貴な乞食って……こと!?」
カンナの煽りに乗せられ、雀妖化異人が怪音を発して鳥群を放つ。本体の動きは鈍く、到達までは遅い。
鎌を回転させ、飛来する鳥をカンナは弾く。影も使って吹き飛ばし、正面を向く。
差し迫ったスズメの近衛兵に、焔が降り注いだ。
「炎を纏え、怒りを喰らい咲き誇れ——|花発嘩《ハナハッカ》!」
有理が脚を振り上げ、その軌跡に火炎が灯る。蹴り出された炎弾は舞台上から燃え上がり、客席までをも巻き込んだ。
「消えぬ絆に法灯を、悪しき雀に鉄槌を!」
弾け、炎の花が咲く。鳥の羽根へと移り、百花繚乱。苦しむスズメの声が劇場に響く。
膨れ上がった鳥群を燃料に、いつも以上に綺麗な花が咲いていた。
極楽と地獄の曼荼羅を合わせたような光景が展開される中で、慌てたスズメが地面からの離脱を試みた。
しかし、この火の手からは逃れられない。いや、逃がさない。
狩るように投擲されたカードが、近衛兵の翼を貫く。
「お前たちには燃えてもらう。でなければ、罰の意味がない」
カードを手に、有理は敵を睨む。退避しようとする敵を狙ってカードを投げ、斬られたスズメが床へと落下する。
札の表面には的のような記号。
焼かれるスズメを、影が横殴りにする。
炎の光を受けて影と闇は一層色濃くなり——さらには炎すらも纏って敵へと襲いかかった。影を暴れさせながら、カンナが声を張る。
「このまま小さい方は焼き鳥にしちゃいましょうか!」
「ああ、この調子なら……カンナさん、気をつけて!」
翼を広げ、舞台に登った雀妖化異人がカンナに殴りかかった。
とうとうここまで来たか。舌打ちし、カンナは握り締めた右掌で殴打を受け止める。ルートブレイカーの作用が威力を軽減させるが、相手は無敵の怪物。衝撃を食らい、大きく弾かれた。
自分やカンナに追撃を重ねようとする近衛をカードで牽制しつつ、有理は状況を整理する。花発嘩による炎の中を堂々歩いているのを見ると、やはり攻撃は通りそうにない。
だが、言葉ならば。
「のらりさん!」
名人の名を呼ぶ。
マイクがハウリングする。何度見ても見慣れない怪物を前に、のらりが声を吹き込む。
『飛んで火に入るとはこのことですな? ついに喰らうに飽いて、喰われる側に回るのですか?』
雀妖化異人の瞳がのらりへ移る。散々カンナに煽られていても振り向いてしまうのは、声色の使い方だろうか。
「なぜ貴様は……麿をここまでコケにする……!?」
どこからか発せられた実方の言葉は憎しみまみれで。雀妖化異人の内側に実方その人がいるのを有理は捉える。
戦いから意識が逸れた。実方はそんな顔をしていた。
その隙を、有理が突く。
「揺らぐ風、すれ違う音、残る影——」
実方が殺意をのらりに向ける最中、詠唱する。
戦闘で撒き散らしたカードから芽が生じ、花を次々と咲かせていく。自身が花畑の中心にいると雀妖化異人、もとい実方が気付いたときには既に手遅れ。
「貴方に捧ぐ、死の花畑」
華々しい花弁が、過激に炸裂する。
「さあ爆ぜろ、指向性散弾。ここ一番を作り出せ、鳳仙花!」
有理の命を受けたかのように、全方向から弾丸が弾け飛ぶ。隙間のない弾幕が雀妖化異人に浴びせられたが、すり抜けられる。それでいい。
狙うべき相手は捕捉済みだ。
「がっ!? だっ!? ぐはあっ!?」
雀妖化異人の内側にいる実方に散弾が浴びせられ続ける。逃げようにも逃げ出す間がない。弾丸に拘束され、実方がその場に固定された。
「一発ガツンと熱いのよろしく、カンナさん!」
「オッケー……! ——ぶっ飛ばしてあげる」
有理の声に応じ、カンナが踏み込む。あまりの速度に身体が前へ跳び、生じた瞬発力で距離を詰める。瞬間移動のような挙動、|瞬動術《ブリッツトリット》。その一瞬で右掌を握り固めた。
ルートブレイカーの力が渦巻く。重なるように、花発嘩の炎が拳に宿る。
近くで生じた音に実方が反応したときには、カンナの右掌が繰り出されていた。
「ぬうっ!? ぐううっ!?」
怪物の顔にカンナの拳が突き刺さる。鳥群で構成された肉体が歪み、スズメが弾け飛ぶ。とうとう雀妖化異人の身体が破壊され、剥き身の実方に拳が直撃した。
「麿が、麿がこの程度で……!」
「自分が上じゃなきゃ気が済まない、下劣で下賤で下品なあなたの性根。存分に利用させてもらったわよ。こんなのが王|(笑)《カッコワライ》ってんじゃスズメに同情するわ」
「貴様……貴様ッ!」
「そういうの、もういいから」
ギリ、と拳を捻じり、さらに力を籠めた。
「つまらんのぅ」
腕を振り抜く。実方を殴り飛ばし、舞台から叩き出す。
恨み言を撒き散らしながら実方は客席の壁に打ちつけられ、靄となって消えていった。
能力は厄介だが、相手はあまりにそれに偏っていた。傲慢だったのは戦い方もだったと総括して、カンナはやれやれと息を吐く。
「左遷されてお暇な時間に、訓練でもしてればよかったのにね」
「芸を磨かなければこんなもの、か。それが熟練の芸術で冷静さを失えば、なぁ?」
その先は言わずもがな。ともあれ仕事は終わったと、有理は後ろを振り向く。
戦いを見届けたのらりが、戦場となった劇場を眺めていた。黒幕は倒され、長年募らせていた思いにも決着をつけた。寂しげだが、やはり顔は晴れやかだ。
「……今度は純粋に、芸術的な笑いを楽しみたいね」
「そうね。舞台でののらりさん、見せてもらいましょう」
有理とカンナが見つめる先で、のらりが動く。
微笑みをたたえ、彼は劇場と√能力者たちへと頭を下げた。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功