シナリオ

地獄への道は善意によって舗装され

#√マスクド・ヒーロー

タグの編集

作者のみ追加・削除できます(🔒️公式タグは不可)。

 #√マスクド・ヒーロー

※あなたはタグを編集できません。

●告げる、悪意から善意へと
 ――世界征服を成就させるには、いったいどう立ち回るべきだろうか?

 例えば、暗殺によって邪魔な連中を排除する?
 例えば、違法な物品を売り捌いて資金を搔き集める?
 例えば、権力者を篭絡し社会制度を有利に作り変える?

 ふむ、確かにどれも悪くはない。手っ取り早いし、分かりやすい、実効性が高い。それらは決して間違いではない。正しい、大いに正しい。だが、最も気をつけねばならない事を忘れてはいやしないだろうか?
 即ち、それは……。

 ――『敵』を作ることだ。

 障害となる人物がいるから殺そう。目障りな計画は潰そう。取るに足らない連中がどうなろうと知った事ではない。凡人なぞ我らにとっては無価値、虫けら塵芥なぞ踏んで進め。意見を異なる者を罵倒し、嘲笑い、愚かと切り捨てる。その時は胸がすくだろう。
 だが、それで何が得られる? それで相手が考えを改め、賛同するとでも? とんでもない。恨みというものは深く記憶に残るものだ。一つ一つは小さくとも、塵も積もれば何とやら。そうした感情は敵を作り、いずれ己に牙を剥く。

 ――だから大いなる悪事の為、日々小さな善行を積み重ねようではないか。

 よく言うだろう、『恩は三日で忘れるが、仇は一生忘れない』と。どうでも良い相手なら、わざわざ不幸を望むような労力を割く必要はあるまい。与り知らぬところで勝手に幸福を享受していろ、ぐらいが丁度良い。
 味方ではなく、敵を作らない事が手段? それじゃあ、影響力を持てないって? 良いじゃないか、忘れられても! 我々の邪魔さえしなければ十分なのだから。何かの拍子に思い出されても、それは飽くまでもポジティブなもの。プラスにはならずとも、邪魔はされまい。

 そうして空気のように、黒子のように、有象無象のように。
 誰にも気に留められることなく、我らは事を進めてゆこう。
 なに、そうすれば……誰も彼も、気が付いた時にはもう手遅れだ。

                            ――廃棄データの記録。


「……クソ野郎は分かりやすく顔に極悪人って書いておけよ、鬱陶しい」
 カラリ、と。焼け焦げたUSBを指で弾きながら、小夜鳴・チトセ(腕部強化型義体サイボーグ・h00398)は悪態を吐く。場所は√マスクド・ヒーローのとある廃工場。薄暗く埃っぽいその場所にどっかりと腰を下ろしていた少女は、他の√能力者が入って来たのに気づくと居住まいを正した。
「よう、呼びかけに答えて貰って助かるよ。さて、この世界じゃあ毎度毎度の話になるが、怪人がまた悪さを……ああいや、『偽善』をおっ始めるって星が出た」
 偽善? 以て回った言い方に眉根を顰める同胞らを一瞥しながら、チトセは気に食わんと言った様子で先を続けてゆく。
「この世界の連中は一致団結し、怪人どもに抵抗している。それに対し相手は盾突くヤツの家族を狙うことで牽制し、それを受けて社会はますます怪人に対し強硬姿勢を強める……至極当然のサイクルだが、頭の良い振りをしたバカがこう閃いたらしい。『あ、これってもしかしなくても非効率的だな』ってよ」
 トートロジーだが、悪いことは悪いことだ。それに賛同するヤツなど極少数だし、寧ろ止めようとする側が殆どだろう。一つや二つの制止を無視するのはまだ簡単だろうが、それが百や千も飛んでくれば払い除けるのに骨が折れる。
 だったら、出来る限り目立たないようにしよう。それも下手に隠蔽して痛い腹を探られるのではなく、毒にも薬にもならない存在として、空気のように馴染んでしまおう、と。
「勿論、見た目はまんま怪人だからな。変装や浸透に長けた下っ端戦闘員をあっちこっちに潜り込ませ、ごみ拾いだのボランティアだのを積極的にやってるんだと。それ自体はウラ無しで真っ当かつ真っ白に、だ」
 この方法を試している悪の組織はまだ小規模らしく、実施されている範囲も地方の中規模都市に留まっている。ただ、其処に限って言えば犯罪や事故の発生率が他の場所と比べて極めて低くなっているらしい。
「怪人どもからすれば、平和ボケ万歳ってところか。なんせ無関心どころか、住民たちは相手が悪の組織だと気付かぬまま、そういった活動に協力し始めちまってんだからな」
 しかし、彼らを責める事など出来はすまい。従事している内容そのものは掛け値なしに『善い事』なのだから。尤も、そうした平和への期待は邪悪にとっては格好の隙となってしまう。
「という訳でアンタらに先ず頼みたいのは、この偽善を推し進めている変装戦闘員の排除だ。それも住民に気付かれず、秘密裏にな。彼らからすれば、率先して社会貢献をしている人間をブっ殺したように映る……そうなりゃ、それこそ住民同士の連携が寸断されちまう」
 人目の無い場所へ誘き出して。視線の外れた一瞬を突いて。或いは事故を装って。そうして実行役を潰していけば、裏で絵を描いている首魁を引きずり出すことも可能なはずだ。
「ほんと、胸糞わりぃな。これじゃあ、どっちが怪人だか分からねぇよ。或いは、それが目的か……敵を作らず、敵を作るってな」
 そうして話を締めくくると、チトセは同胞たちを送り出すのであった。

●それは正しいが故に過ち
「ねぇ、今度の土日暇かな? 西の自然公園でゴミ拾いしようって話があって……」
「交通安全ボランティアへの協力、ありがとうございまーす」
「道案内ですか? ええ勿論、構いませんよ!」
 ちょっとした大通りを歩くだけで、そんな大小様々な声が耳朶を打つ。発している者の性別や年齢もまさに老若男女、一貫性はない。何も知らなければ、とても親切で治安の良い街だと思うだろう。事実、本当にそうなのだから質が悪い。
 よもや、それぞれの小規模な活動を主導している人物が人間に変装した戦闘員であり、そしてすべて裏で繋がっているなどとは思うまい。怪人とは、悪の組織とは字義の通りそうした善行とは無縁のはずなのだから。
 幸い、身を隠したり相手を誘い込めそうな路地や物陰には事欠かない。相手も一般人を装っている手前、戦闘員を秘かに討つのは対策さえ立てればそう難しくはないだろう。しかしその結果、住民たちの間で育まれている善行意識がどうなるのかは未知数だ。
 どっちが怪人なのか、分かったものではない。そんな星詠みの言葉を反芻しながら、√能力者たちは行動を開始するのであった。

マスターより

月見月
 どうも皆様、月見月でございます。
 今回は√マスクドヒーローが舞台。
 悪行ではなく善行を行う悪の組織を追って頂きます。
 それでは以下補足です。

●勝利条件
 悪の組織の作戦を打ち破る。

●第一章開始状況
 日本のある地方都市。人口も規模もそれなり程度であり、田舎というには発展しており、大都会と言うにはもう一歩と言った雰囲気の街です。人間に変装している戦闘員が取り留めのない善行を主導しており、住民の危機意識の鈍化や自分たちに対する無意識の信頼感を醸成しようと画策しています。
 第一章ではそうした戦闘員たちを人知れずに排除し、作戦遂行を挫く形となります。もしその過程で人々の自発性をそれとなく刺激する事で、戦闘員排除後も継続して善い行いを続けてくれるかもしれません。
 戦闘員の排除後、その損害や内容によって追加の戦闘員や指揮官クラスの敵が出現します。詳細は章移行後に適宜捕捉します。

 それではどうぞよろしくお願い致します。
26

閉じる

マスターより・プレイング・フラグメントの詳細・成功度を閉じて「読み物モード」にします。
よろしいですか?

第1章 冒険 『人々の洗脳を解け』


POW 洗脳された人を傷つけずに無力化する
SPD 洗脳された人々に紛れて怪人に接近する
WIZ 洗脳された人を治療する
√マスクド・ヒーロー 普通7 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

瑞城・雷鼓
ちょっとは頭の回るやつがいるのね
そういう工作は本職の忍者がいるってこと、思い知らせてやるわ

【隠れ身の術】で隠密化
目視対策に建物の陰に隠れて(闇に紛れる・目立たない)、公園のゴミ拾い活動を監視(情報収集)
見た目じゃ分かんないけど、意図的に主導してるのがいるわね

アンテナリボンから電磁波を出して、そいつの持つ携帯端末に干渉(ハッキング)
組織から連絡が来たと誤認させる
物陰で電話に出ようとしたところで、隠れ身の術を解いて【忍び足】で近付き、忍者刀で後ろから刺して暗殺(不意打ち・だまし討ち)

代わりに公園に戻り、〇〇さんは急な仕事が入ったんだって、とか住民を【言いくるめ】
清掃を主導して、善行の継続を促すわ

●日常の裏側にて
「はーい、それではまずこの一帯のごみ拾いから始めましょうか。軍手とごみ袋の無い方はこちらで用意しているので、遠慮せずに申し出てくださいね?」
 二月に差し掛かってもなお厳しい寒さの中、十数人程の人々が自然公園に集まっていた。今のうちからごみを拾い集め、気持ちよく春を迎えたいのだろう。三々五々に散ってゆく彼らを物陰より観察しつつ、瑞城・雷鼓(雷遁の討魔忍・h03393)は油断なく目を細める。
(悪事を隠すためにまずは真っ当な善行を、か……ちょっとは頭の回るやつがいるのね。そういう工作は本職の忍者がいるってこと、思い知らせてやるわ)
 雷鼓のような忍びもまた、此度の仕掛けと同じような計略を用いる事がしばしばあった。俗に『草』と呼ばれ、特定地域に溶け込み情報収集にあたっていたのである。つまり、同じ土俵で計略を仕掛けられたのだ。これに遅れを取っては討魔忍の名折れだろう。
 彼女は肉眼以外のあらゆる五感や探知技術から身を隠す術により、周りに気付かれることなく人々の動きを観察してゆく。ぱっと見、誰も彼も普段通りの私服で怪しいところは見受けられない。だが、専門家ならば分かる事もあった。
(見た目じゃ分かんないけど、意図的に主導してるのがいるわね。それとなく音頭を取っているあの男……ごくごく僅かにだけど、表情の動きが不自然だわ。十中八九『当たり』かしら)
 率先してごみを拾いつつ、それとなく参加者へ声をかけて回る男。年齢は三十路前後、中肉中背で印象の薄い顔立ち。特徴が無さ過ぎて、怪人が暗躍していると事前に聞かされてなければ記憶にすら残らなかっただろう。
 雷鼓は髪を結んでいるリボンに偽装したアンテナを起動させ、相手の持つ携帯端末へとハッキング電波を送信。内部システムに干渉すると、着信時の反応を再現させる。ポケットの中で震える端末に気付いた変装戦闘員はそっと周囲の人々から離れ、茂みの奥へと一人で入ってゆく。
「はい、こちら佐藤です。定時連絡の時間には早いと思いますが、いま作業中なので手短に……ん、もしもーし?」
 表面上は飽くまでも一般人を装い、万が一聞かれても問題ないように他愛もない用件のような受け答えをする男。だが、聞こえてくるのはノイズばかり。何者かの干渉とは露にも思わず、故障したのかと呼びかけ続ける変装戦闘員の背後へと、雷鼓は音もなく忍び寄り、そして。
「……存在を知られた時点で死と同義。それは忍者も工作員も変わらないでしょ?」
「ぐっ!? なに、も、の……ッ!」
 忍者刀の一刺しが相手のうなじから喉を貫いた。目を剥き言葉を絞り出す男だが、紛れもない致命傷を受けてはそれ以上できる事など無かった。ぐったりと脱力する相手の顔へ忍びが手を掛けると、ずるりと剥がれた人工皮膚の下からおどろおどろしい素顔が現れる。
「佐藤さん、どこいっちゃったのかしらねぇ……?」
 見つかっては事だと一先ず遺体を草むらの奥へ隠していると、男を探す声が茂み越しに聞こえてきた。そちらをチラとみやれば、中年の女性が二人見える。雷鼓はいま起こった事なぞおくびにも出さず、笑顔を浮かべながら歩み寄ってゆく。
「佐藤さんは急なお仕事が入ったんだって。清掃活動は気にせず続けて欲しいとも言ってたから、私たちだけで進めちゃいましょ?」
「あら、そうなの? 残念ねぇ。じゃあ人が減った分、頑張りましょうね」
 忍びの説明に特段の疑問も抱くことなく、中年女性は納得し元来た方向へと戻ってゆく。そのあとに続きながら、雷鼓もまた怪しまれぬようゴミ拾いへと従事してゆくのであった。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

クラウス・イーザリー
(上手い手段だな……)
善行すら悪行の手段にする狡猾さについ感心してしまう
世間的にはこっちが悪だし、隠れて事を起こすしか無いか

隠密用の布を被って隠の徒を起動し、目立たないように物陰に潜んで相手の通過を待つ
戦闘員が通過する瞬間に隠の徒を解いて、喧嘩殺法で腕を掴んで物陰に引きずり込んで不意打ちで一撃

敵がなかなか近くを通らない場合は、小型ドローンを目の前に飛ばして誘き寄せてから同じく引き込んで不意打ちを仕掛けるよ

周囲の戦闘員を片付けたら隠の徒で隠れて、次の襲撃し易そうなポイントに移動する
……本当に、こっちが悪の組織みたいな動きをしているね
仕方ないとはいえ複雑な気分だよ

※アドリブ、連携歓迎です

●逆転する立場
(上手い手段だな……この手の連中は良い話に見せかけて、何かしらの罠も同時に仕込むものだけど、この話だけを切り取れば単なるボランティアだ。つまり仕出かせば世間的にはこっちが悪だし、いまは隠れて事を起こすしか無いか)
 地方にしては人が多く、しかし都市と言ってもそこまでごった返している訳ではない。派手さはないが住むには丁度良い土地柄だろう。そんな穏やかな風景を眺めながら、クラウス・イーザリー(希望を忘れた兵士・h05015)は悩まし気に眉間へ皺を寄せていた。
 言うまでもないが、組織活動において世間からのイメージは重要だ。絶大な支持とまでは言わずとも、敵視されていない状態を維持するだけで十二分。人々の記憶から薄れ、前にそんな事もやったねと言われるようになったら寧ろ狙い通りである。
(ここのところ寒さも厳しいから、多少厚く着込んでいても不審がられることはまず無いだろう。後は人目につかないようにしつつ、それらしい活動を探してみようか)
 クラウスは輪郭をぼやかすように地味な外套で全身を覆うと、道行く人々に紛れて歩き始める。目標である変装した戦闘員を見つけねば始まらないが、何かしらの善行を行っている以上そう時間は掛からないだろう。
「気を付けて帰るんじゃぞぉ~?」
 そんな予想を裏付けるように、程なくして彼は手旗を持って子供たちを誘導している老婆を見つける。おそらくは登下校時の安全を見守る交通ボランティアか。やや腰が曲がっている一方、手足の動きは外見年齢に不相応なほど滑らかだ。まず間違いなく、戦闘員の変装に違いない。
 青年はチラと周囲を見渡すが、他に同じことをしている一般人は見当たらない。しかし時間帯のせいか、児童がひっきりなしに歩き回っており、暫くの間は途切れそうにもなかった。
(流石に子供たちの近くで仕掛けるのは避けたい。だけど人が掃けるのをジッと待っていたら、それこそ不審者と思われかねない……止むを得ないね。ここは誘き出させて貰おうか)
 人目に加え、万が一の被害を考えると此処は場所が悪い。なればと、クラウスは小型のドローンを取り出し飛翔させてゆく。カメラのついたソレをこれみよがしに見せつければ、きっと嫌が応にも反応するはず。
「あんれまぁ、なんじゃこのラジコンは。カメラまで付いてるでねぇでか。出歯亀の変質者かぁ? ほれ、どっかいけ!」
 果たして、老婆は蠅叩きのように手旗を振りながらドローンを追いかけ始める。と同時に皺だらけの目元が一瞬、鋭く光ったのを青年は見逃さなかった。建前上は子供たちを守る為、本音ではすわ正体がバレたのかと警戒しているのだろう。
「ったく、これで本当に単なる変質者だったらただじゃ済まさな……」
「安心しろ。幸か不幸か、もっと性質の悪い相手だ」
「ッ!?」
 そのまま狭い路地裏へと相手を誘導。通りから完全に死角となった瞬間、気配を消していたクラウスが一気に躍り掛かってゆく。戦闘員も咄嗟に老人の演技をかなぐり捨てて応戦しようとするも、不意を突かれてはどうしようもない。そのまま物陰に引きずり込まれると、あっという間に無力化されてしまった。
「取り合えずこれで一人、と。相手が怪人と分かってはいるけれど……本当に、こっちが悪の組織みたいな動きをしているね。仕方ないとはいえ、複雑な気分だよ」
 試しに相手の体に触れてみれば、明らかに通常の人間とは異なる骨格や筋肉のつき方をしている。こんな手合いが日常に溶け込み、信頼を得た頃合いを見計らって一斉に蜂起する。なんともぞっとしない話だ。
 それを防ぐために、敵と同じ手段を取らざるを得ない。そんな状況に苦々しいものを感じながらも、クラウスは次なる標的を求めてその場を後にするのであった。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

五十音・バルト
◆方針
ルート能力による現実改変で戦闘員を改心させ、組織からの脱走を誘発

◆行動
旅行客を装って、戦闘員に接触、道案内を乞おう
あとは彼の親切に大仰に喜んでみせるヨ
「素晴らしい! この世界という音楽に新たな旋律が生まれた!」
と『The World is a Music』を発動し歌唱を開始

♪おお美しき心を持つ青年よ、善意と笑顔に包まれし人
たとい世界全てを支配しようと、君が得た感謝より価値ある宝はない
悪しき軛を脱する君へ、忘れ得ぬ感謝と祝福を♪

この歌を現実化させることで、
戦闘員の世界征服の意思を弱めて、善人へと改心させ、組織からの離脱を誘発する

人目は気にしない、むしろ目立ったほうが善意の活動が残るダロウ?

●歌よ、平和よ、平穏よ
「ふむ、ふむ? 悪の組織が善い行いをねェ……そこで止まってくれれば実に平和的なのだけれど、どうやらそう単純な話ではないらしい。となれば、さてどうしようカ?」
 都市中心部にある駅の改札を出て大通りへと降り立った五十音・バルト(NoSong,NoLife・h05401)はぐるりと周囲を見渡してゆく。地方の中規模と言えども都市は都市。それなりに人が行き交い、ギターを抱えて路上ライブをする者やちょっとしたパフォーマンスでおひねりを稼いでいる辻芸人の姿がちらほら見える。
 この中から目的の変装戦闘員を探し出すのは骨が折れると思いがちだが、実はそうとも限らない。何故なら相手は人目を避ける事で自らの存在を隠蔽するのではなく、善い行いをすることで日常に溶け込もうとしているのだから。
「うーむ……ンンンン? 今いる場所がココで、だから、目的地は、と?」
 なればと、バルトは徐に懐から折り畳まれた地図を取り出すと、それを広げて縦に横にと眺め始めた。ぱっと見、彼の見た目は壮年の外国人と言った出で立ちだ。それが駅の真ん前でこれ見よがしに地図と顔を突き合わせているのである。
 その様子は誰がどう見てみても『道が分からず困っている訪日客』と考えるだろう。言い方はアレだが、善い事をしたい相手からすれば格好の標的に違いない。果たして数分ほど四苦八苦していると、横合いから声を掛けられた。
「……あのー、すみません。何かお困りでしょうか? どこか、道が分からないとかですかね?」
 そちらを見やれば、若い青年が気遣うような表情を浮かべてバルトを覗き込んでいる。傍から見れば、困った観光客を見かねた通行人が道案内を申し出たように見えるだろう。しかし、元が空想存在だからだろうか。紳士は僅かな所作から相手もまた見た目通りの若者でないことを見抜く。
「いえ、実はこのホテルに行きたいのですが、ここからどっちに向かえば良いのヤラ……」
「ああ、ここですか。確かに道が入り組んでて分かりづらいですよね!」
 だが、繰り返すようにここは駅前の大通り。人目が途切れる事はなく、かつ利用できそうな物陰にも乏しい。それに戦闘員と連絡が取れなくなれば、大元の首魁が何かしらの手を打つ可能性もある。どのみち衝突は避けられないだろうが、出来るだけ引き伸ばしたいところだ。
 故にバルトは実力手段とは異なるアプローチでこの変装戦闘員の無力化を画策していた。紳士はひとしきり道順を教えて貰った後、大仰な仕草で青年の手を取り感謝を示す。
「どうもありがとうございマス! 君の親切心は本当に素晴らしい! 嗚呼、この世界という音楽に新たな旋律が生まれた!」
「い、いえ。どういたしまして」
 相手も多少面食らってしまうが、外国人らしい感情の表現方法だと受け取ったのだろう。そんな変装工作員を尻目にバルトはその場でクルリと身を翻すや、朗々とした重低音で歌を紡ぎ始める。
「♪おお美しき心を持つ青年よ、善意と笑顔に包まれし人よ。たとい世界全てを支配しようと、君が得た感謝より価値ある宝はない。真に尊い輝きは、日常の端々にこそ見出せる。さぁ悪しき軛を脱する君へ、忘れ得ぬ感謝と祝福を♪」
 その歌詞に引っかかるフレーズがあったのか、ピクと青年の頬が僅かに歪む。しかし、それも一瞬だけだ。歌声を聞くうちに変装戦闘員の演技じみた雰囲気から険が取れ、徐々に柔和なものへと変化してゆく。
 紳士の奏でる旋律はただの音に非ず。世界を、そして聞いた者を歌の内容通りに変化させる異能である。尤も聞いての通り、そんなおどろおどろしいものではない。戦闘員の思考から邪念を取り除き、自ら改心するように促していたのだ。
(人目は気にしない、むしろ目立ったほうが善意の活動が残るダロウ? 本心がどうあれ、行動自体が善い事に変わりは無いヨ)
 斯くしてバルトはすっかり聞き惚れている戦闘員だけでなく、なんだなんだと集まって来た人々へと上機嫌に歌を届けてゆくのであった。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

ハリエット・ボーグナイン
やらない善よりやる偽善って言うけどよ。
……こりゃ確かにタチが悪い。まあ、こう言う仕事は慣れっこさ。おれの前職は殺し屋だからな。

医術を応用……するまでもないかも知れねえが、体調の不良を装って治療しようと『親切』な怪人さんが近づいてくれるようおびき寄せ、路地裏などに引き摺り込んでは怪力で押さえ付けつつ包丁で暗殺する。……こんな感じの手口で何人か怪人を密かに仕留めて相手の出方を伺ってみるとしよう。

……これから悪さするつっても現段階ではまあただのイイことしてる奴なんだよな。とはいえ……騙して悪いが、これも仕事なんでな。恨み言は地獄で聞くとするぜィ。あばよ、アミーゴ。

●善を纏う悪
 平日の昼間だというのに、繁華街の通りは賑わいを見せていた。これもまた治安の良さ故か。裏事情さえ事前に聞かされていなければ、何てことはない日常としか思えなかっただろう。
(やらない善よりやる偽善って言うけどよ……こりゃ確かにタチが悪い。悪の組織がイメージ戦略に手を出すなんざ、嗤えねぇジョークだ。まあ、こう言う仕事は慣れっこさ。おれの前職は殺し屋だからな)
 そんな光景を、電柱にもたれ掛かった少女が胡乱気な瞳で眺めている。薄汚れたモッズコートのフードを目深に被りながら、ハリエット・ボーグナイン(“ |悪食《ダーティー》ダーティー”・h00649)はそんな事を徒然と考えていた。
 厄介な内容だが、かと言って全く目新しいという訳でもない。寄付やら慈善事業に精力的な篤志家が裏であくどい事をやっていた例なぞ、探せば幾らでも出てくるものだ。尤も、悪事が先か善行が先かの違いはあるだろうが。
(さて、と。問題はどう変装した戦闘員と接触するかだが、相手は善い事をしようって手合いだ。つまり、手助けしたくなる素振りを見せれば事足りる……こちとら、血色なんざ端から死んでるしな。医術だのなんだのと小細工する必要すらねェよ)
 そうして、ハリエットは背を預けたまま蹲るように前屈みとなり、呼吸に合わせて大げさに肩を上下させてみる。微かにふらふらと状態も揺らして見せれば、具合の悪い急病人の完成だ。
 問題は標的ではない、正真正銘の善良な一般人が声を掛けてきてしまった場合だが、その時はその時。一先ずその場は素直に付き添って貰い、場所を改めて同じ事をすれば良い。搔いて困る恥も無し、である。
「……あの、随分と顔色が悪いように見えますけど、大丈夫ですか?」
 そうして演技を始めてから暫しの後、気遣うような声を掛けられた。チラと目線だけそちらへ向ければ、若い女性が心配そうにハリエットの顔を覗き込んでいる。殺し屋はゴホと咳き込みながら、掠れた声で応じてゆく。
「いや、急に体が気怠くなってな。どうにも熱っぽいし、風邪かなんかを引いたらしい。性質の悪いモンを移しちゃ悪いから、あんま近づかない方が良いぜ。なに、ちょっと休んだらすぐ帰るからよ」
「そんな、放っておけませんよ! せめて腰掛けられる場所へ移動しましょう?」
 敢えて突き放すような物言いだが、素直に受け入れるよりもその方がより食いつくと彼女は知っていた。狙い通りに言い募る相手に手応えを感じつつ、ハリエットは近くの薄暗い路地裏を指差す。
「すまねェな。じゃあ、あそこを抜けたすぐ先に公園があったから、そこまで肩を貸してくれるか?」
「ええ、もちろん!」
 そうして支えて貰いながら、路地へと向かう殺し屋と女性。その際にハリエットは嫌というほど嗅ぎなれた匂い、即ち死臭を感じ取る。一般人に似つかわしくないソレを滲ませる理由なぞ、一つしかあるまい。
「……これから悪さするつっても、現段階ではまあただのイイことしてる奴なんだよな……とは言え、放っておけばどのみちヤる事にゃ間違いない、か」
「ん、どうしましたか?」
 自嘲気味に零れ落ちたハリエットの独白を女性は訝しそうに尋ね返す。殺し屋は袖の中へ密かに忍ばせておいた三徳包丁を取り出すや、相手の肩へ回した腕を一閃。そのまま無防備な首筋を真一文字に切り裂いた。
「あ、がッ……!?」
「騙して悪いが、これも仕事なんでな。恨み言は地獄で聞くとするぜィ……あばよ、アミーゴ」
 傷口から血とは異なるドス黒い何かを噴き上げて崩れ落ちる女性、否、人間に変装した戦闘員。その末路を冷めた視線で見下ろしながら、ハリエットは次なる獲物を求めてフードを被り直すのであった。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

フィーガ・ミハイロヴナ
善い事って伝染というか伝播するって言いますよね。
誰かがやってると自分もやりたくなる…上手い作戦です

戦闘員も紛れる事が出来てしまうなら、おれもまた紛れる事が出来るかもしれません。
おれも積極的にゴミ拾いなど手伝って馴染んできます
「いやー、精が出ますね。おれも一緒に手伝わせてください!」
陽キャの演技疲れますね
さて、更なる第三の余所者が増えるのは善を行う悪の戦闘員には良い事なのか悪い事なのか…

内に加わる事で戦闘員の行動に変化が無いか客観的な情報を収集
【Мой сосед】で周りの"お隣さん"に聞いてみましょう

炙り出しが完了したら戦闘員を連れ出し毒使いでひっそり静かに始末。
ご近所迷惑は避けたいですしね~

●日常を静かに蝕むは
(善い事って伝染というか伝播するって言いますよね。誰かがやってると自分もやりたくなる……上手い作戦です。そして勧誘や洗脳は、まずそういう一見して『良い行い』から始まるものである、と)
 継ぎ接ぎだらけの相貌を晒しても|フィーガ《фига》・|ミハイロヴナ《Михайловна》(デッドマンの怪異解剖士・h01945)が指一つ差されぬのは、彼の纏う理知的な雰囲気故か。事前に聞かされた敵の戦略を脳裏で反芻しながら、青年は人の流れに沿って都市を歩いてゆく。
 言うまでもないが、悪事に誘われてホイホイと乗ってくる者は少ない。だから最初はハードルが低く、かつ聞こえの良い内容を誘い水にし、徐々に深みへと引きずり込む。悪の組織に限らず、他者を同調させる常套手段だ。
(厄介ではありますが、逆に考えれば好都合。戦闘員も紛れる事が出来てしまうなら、おれもまた紛れる事が出来るかもしれません。幸い、老若男女を問わずに何かしら善い事をしていますからね?)
 間口が広ければ、入り込むのもまた容易。扇動している変装戦闘員へ近づく為にはボランティア活動に従事するのが近道だ。斯くしてフィーガは繁華街の清掃活動を行っている一団を目敏く見つけると、それとなく近づいてゆく。
「いやー、精が出ますね。おれも一緒に手伝わせてください! 足元が汚いのは、どうにも落ち着きませんからね!」
「おや、大学生さんかい? お若いのに感心な人だねぇ」
 ゴミを拾うだけならば大仰な準備なども必要ない。努めて明るく振舞ったお陰か、特に不審がられることなく合流する事が出来た。青年はそのまま清掃活動に協力しつつ、周囲の動きを観察する。
(陽キャの演技は疲れますね。さて、更なる第三の余所者が増えるのは善を行う悪の戦闘員にとって良い事なのか悪い事なのか……ちょっと『お隣さん』に聞いてみましょうか)
 今のところ、特段変わった動きはない。なればと、彼はさりげなく捨てられていたぬいぐるみを、否、玩具へと変じさせたインビジブルを拾い上げる。状態を確かめる振りをして顔を近づけながら、何か客観的な情報は得られないかと耳を澄ます。
(音頭を取っているのは初老の男性で、参加者が増える事は寧ろ歓迎していると。周囲に好印象を与える事も目的の一つらしいから、人が増えるのは願ったり叶ったりという事かな? ただ、他の場所で起こっている異変に勘付かれたら厄介だね)
 既に街のあちこちでは先行した仲間により、一般市民に化けた戦闘員が排除されつつある。標的を炙り出せても、その情報が共有される前に仕留めねば警戒レベルが跳ね上がってしまうだろう。
 フィーガが件の人物の元へと近づいて行った時、幸か不幸か相手は今まさにポケットからスマホを取り出そうとしていた。十中八九、襲撃を報せる警告に違いない。青年は画面を見られるよりも早く声を掛け、注意を自分へと移してゆく。
「あのー、すみません。あっちの方でぬいぐるみが大量に捨てられていまして。ゴミとして捨てるには忍びないと思ったのですが、どうしたらいいでしょう……?」
「ん、そうなのかい。勿体ない事をする奴がいたもんだ。分かった、案内してくれ」
「ええ、こっちです」
 ぬいぐるみのままなインビジブルを利用し、まんまと標的を釣り出す事に成功した青年はそのまま人気のない物陰へと誘い込む。二人の姿が周囲の死角となったのは、ほんの数十秒程度だろうか。しかし次に姿を見せたのは、フィーガただ一人であった。
(叫ぶ間もなく、ひっそりと静かに始末完了……やっぱり、ご近所迷惑は避けたいですしね~)
 人々は三々五々に散って清掃活動を続けているので、暫くは男の不在に気付くまい。何度か着信を示すスマホを指で弄びながら、青年はそろそろ事態が次の段階へ進む事を直感しつつ、一先ずその場を後にするのであった。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

第2章 集団戦 『潜入工作用改造人間『スニーク・スタッフ』』


POW 『パーティータイムといこう』
指定地点から半径レベルm内を、威力100分の1の【弾幕】で300回攻撃する。
SPD 『敵勢対象と断定、沈黙させる』
全身の【動力】を【義眼】に集中すると、[義眼]が激しく燃え上がり、視界内の全員の「隙」が見えるようになる。
WIZ 『待機要員に告ぐ、ただちに集結せよ』
事前に招集しておいた12体の【プラグマの待機要員】(レベルは自身の半分)を指揮する。ただし帰投させるまで、自身と[プラグマの待機要員]全員の反応速度が半減する。
イラスト 十姉妹
√マスクド・ヒーロー 普通11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

●逆転するは悪か、善か
「都市各地に浸透させていた変装戦闘員からの定時報告が途絶えました」
「正体を看破した何者かによる排除行動と推測されます。監視カメラ映像からのピックアップを進めます」
「一般市民に対する混乱は見受けられず、治安レベルは通常を維持。計画露呈の可能性、低。どうやら狙いうちにされたようです」
 淡々と、しかして急速に、異常を知らせる報告が都市を駆け巡る。単なる偶然ではない、極めて計画的な一撃である事は悪の組織側もありありと感じられた。でなければ、ここまで裏の裏を搔く事など出来はしないだろう。
「……露呈した、と言うのも実に奇妙な話だ。だって、我々はまだ『何もしていない』のだから。ちょっとしたボランティア活動こそ幾ばくかの耳目を集めこそすれ、それ自体には何の裏も無い」
 全く以て|酷い《・・》話だ。都市の一角、ズタボロの廃屋に偽装された秘密拠点内で指揮官と思しき怪人が、まるで他人事のようにそう独り言ちる。流石は上に立つだけあって、取り乱す事も無く思考を巡らせてゆく。
「現時点でこちらはまだ純然たる『被害者』だ、これを火種に世論工作をするのも悪くはないが……ヒーローにしては動きが早い。あの手の連中は事が起こってからしか動けぬ以上、少々不可解でもある。となると、他√からの手、か」
 狙われる理由がそもそもなかった為、要らぬ勘繰りを避ける為にも警戒レベルを下げていたのが裏目に出たか。現時点ではまだ情報が乏しい。だが一方で彼らの計略は違和感を抱かれず、存在そのものを溶け込ませる事が肝。故に気付かれた時点で前提条件が破綻してしまう。
 ならばもう、こんなまどろっこしい事など止めるべきか。いま動かねば主導権を握られたままだ。しかし、後手に回り続けるのも業腹である。暫しの思案を経た後、方針を決めたのだろう。指揮官は号令を下す。
「残った戦闘員は不明勢力に対する威力偵察を実施せよ。ああ、それと変装は出来る限り解かないように。もうこの作戦は破棄せざるを得ないが、そのまま捨てるのも勿体ない。もし敗北する場合は衆人環視の前で果てるように厳命を……そう」
 ――怪人に殺される一般市民の様に、な。
 斯くして地方都市を舞台に√能力者と変装戦闘員、両者による暗闘の火蓋が切って落とされるのであった。

※マスターより
 プレイング受付は16日(日)朝8:30~より開始。
 第二章は都市各地で勃発する集団戦となります。人間に変装した状態の戦闘員が今度は逆にこちらを人目のない場所へと誘い込み、戦闘を仕掛けてきます。戦闘自体は普通ですが、相手は自らの不利を悟ると人々が居る場所へと向かい、敢えて自らの死に様を衆目に晒そうとするでしょう。
 その為、いち早く変装した戦闘員を見つけて先手を取る、或いは不利を悟って逃走される前に素早く撃破する、何かしらの防止策を予め用意するなどの対策が必要となります。
 引き続き、どうぞよろしくお願い致します
五十音・バルト
能力:WIZ、方針:逃走防止

見つかったか、仕方がナイね

敵の誘いに乗って人気のない場所へ、囲まれても問題ない
「世界という音楽を奏でるのに、銃とは実に無粋な楽器だヨ」

罠にかけたのはこちらも同じ
「ラブソングはいかがかナ? クモの少女が獲物に送った歌だ」
敵全員を射程に収めてルート能力を発動

「♪私はアナタを捕まえた、もう逃がさない、クモの糸」
この歌で範囲内を強力なクモの糸で覆って逃亡を阻止
自分の手でも糸を操って戦おう

「♪一緒に踊ろう、スパイダーダンス、アナタは操り人形、繰る糸は私のモノ」
敵の銃はクモの糸で狙いをそらす
クモの糸で敵をとらえては他の敵へぶつけるヨ

大立ち回りだが、歌唱を途切れさせはしないよ

●謀略とて逃れられぬ
(……ふむ、もう見つかったか。まぁ、目立つ場所でアレだけ派手にやったんだから仕方がナイね)
 一先ず、変装戦闘員に教えて貰った道順に沿って駅から街へと繰り出していたバルトは、いつの間にか自らを取り囲むように現れた人影に気付く。他の仲間たちとは異なり、駅前という人目のある場所で隠す事なく接触していたのだ。いの一番に目星をつけられるのも然もありなんと言ったところか。
 もしも包囲を抜け出そうとすれば、相手もすぐさま実力行使に移るだろう。一般市民が周りにいる状況で戦端を開くのは正直言って望ましくはない。故に相手の誘導に従い臆することなく進んでゆくと、ビルに囲まれた薄暗い空地へと辿り着く。立ち止まり振り返ると、出口側を塞ぐように十数名の男たちが佇んでいた。
「いまさら自己紹介なぞ不要だろう。ヒーローの手勢か、他√からの侵攻か。どちらにせよ、敵であることに変わりは無い」
「我らで対処可能であればそれで良し。敵わぬとも情報を得られれば十二分。どんな目的かは知らないが、迂闊に手を出した代価は払って貰おう」
 そう言って取り出した拳銃を構える戦闘員たち。見た目こそ平均的な成人男性だが、先ほど歌を聞かせた相手同様、肉体は常人の域を超えているはず。しかしそんな手勢を前にしながら、紳士は慇懃に帽子を脱いで相対してゆく。
「得物が銃とはネ……世界という音楽を奏でるのには、実に無粋な楽器だヨ。そんなモノよりも、平和的にラブソングはいかがかナ? クモの少女が獲物に送った歌だ。キミたちもきっと気に入るサ」
 相手が武器を握るなら、こちらは楽器を手にするのみ。バルトは流れるようにアコースティックギターを腕に抱くや、弦を爪弾き言の葉を紡ぎ始める。
「♪私はアナタを捕まえた。十重に二十重に張りつめて、もう逃がさない、クモの糸」
「ッ!?」
 旋律が流れ始めた瞬間、虚空より飛び出した粘着性の糸が紳士を中心に周囲へと張り巡らされてゆく。宣言通り戦闘員の手にした拳銃に絡みつくや、巻き取る事で奪い取り、或いは動作不良を引き起こして無力化する。
(あからさまに逃走を防ごうとすれば、当然相手にも警戒されてしまう。だからまずは火力を抑え込む為と思わせておいた方が、何かと都合も良いからネ。そう、クモの巣のようにじっくりとだ)
 不利を悟って逃走される前に仕留めたいが、なにぶん相手の頭数も多い。故に気取られぬよう、ジワジワと相手の機動力を奪わんとバルトは目論んでいたのである。尤も、そんな狙いなぞおくびにも出すことなく、彼は歌を唄い続けてゆく。
「♪一緒に踊ろう、スパイダーダンス、アナタは操り人形、繰る糸は私のモノ。注ぐ毒、浮かぶ熱が突き動かす、タランテラ」
「このようなふざけた形で敗れては、例え情報を得られても𠮟責は免れ得ぬ。損害は考慮するな、数の利を生かして確実に仕留めろ」
 武器を奪っても強靭な身体能力は依然として脅威だ。戦闘員たちは糸の妨害に構うことなくバルトへと肉薄し、演奏を止めさせんと襲い掛かる。拳打蹴撃が紳士へと打ち込まれるも、もはやこれで相手がこの場より離脱する事は叶わなくなった。
(獲物はもう雁字搦め……あとはどうにかして倒すだけだネ。大立ち回りだけれどまぁ、動きも鈍っているならやりようもある)
 糸を手繰り、身動き出来なくなった戦闘員同士を衝突させる。完全に糸で覆われた者はいったん捨て置き、残った者への対処を優先。泥臭い戦い方だが、時間経過と共に戦況は√能力者側へと傾いてゆくだろう。
 斯くしてバルトは一人、また一人と戦闘員を取り逃すことなく絡め取ってゆくのであった。
🔵​🔵​🔴​ 成功

クラウス・イーザリー
(本当にやり辛いな……)
目立ってはいけないし撃破する場面を見られてもいけない
下手をすればこの世界のヒーロー達に迷惑がかかる
全く、上手いやり方だ

隠密用の布を被って目立たないように行動
小型ドローンを飛ばして人目のない場所を探り、可能なら先に敵を発見して奇襲
敵に先に発見されたら逆らわずに応じて戦闘に移行

戦闘は騒ぎにならないように接近戦主体
グローブの2回攻撃や不意打ちで攻撃
敵から攻撃されたら先手必勝で割り込んで隠れて、ガントレットのワイヤーでの捕縛や、電撃鞭でのマヒ攻撃で自由を奪ってから止めを刺す
逃げられたらダッシュで追い付くかライフルのスナイパーで狙撃
人前に出られる前に倒し切るよ

※アドリブ連携歓迎

●暗闘は闇の中で
(本当にやり辛いな……目立ってはいけないし、撃破する場面を見られてもいけない。下手をすればこの世界のヒーロー達に迷惑がかかる。全く、上手いやり方だ。この√の人々が顔を隠して戦うのも頷ける)
 一見すると特に何かが変わったようには見えない。だが確実に緊張感とでも呼ぶべき『何か』が空気に交じり始めたと、クラウスは如実に感じ取っている。数人の戦闘員を仕留めた青年はそんな変化を察知すると、目立たぬよう再び隠密用の外套を纏って息を潜めていた。
 今頃、都市各地では戦闘員たちが血眼になってこちらを探しているのだろう。正面切っての戦闘で遅れを取るつもりなぞ毛頭ないが、しかして不用意に応じれば巡り巡って悪に抗う同胞らの不利となってしまうのが痛いところだ。
(ただ、相手も斃れる時以外は人目を避けようとしているらしいから、まずはそれらしい場所を捜索してみよう。上手くいけば、先に見つけられるかもしれない)
 である以上、受けに回るよりも先手を取りたいところである。クラウスはそれらしい場所へと小型ドローンを派遣し、様子を伺ってゆく。果たして何か所目かに偵察した路地裏で、怪しい男たちの一団を見つけた。
「では次にこの近辺の捜索を……ッ!?」
「ドローンだ、逆にこちらが見つかったぞ!」
 懐から覗き見えた拳銃から察するに彼らが件の戦闘員か。だが同時にハッと相手が振り向き、こちらを指差す様子がカメラ越しに飛び込んでくる。敵も警戒している以上、やはり目敏いらしい。青年はすぐさま身を隠していた物陰より飛び出すや、敵集団目がけて吶喊してゆく。
(銃器類は万が一の流れ弾が怖いから無しだ。先ほどと同じく、接近戦を主体にして無力化する……!)
 念のためドローンを大きく迂回させていた事が功を奏した。見当違いの方向に注意が逸れた相手の死角へと踏み込むや、握り固めた拳の一撃で瞬時に無力化。襲撃に気付いて振り返った手合いにはガントレットに内蔵されたワイヤーを射出して捕縛する。
 頭数では相手の方が上だ。故に初撃でどれだけ戦力を削れるかが肝であろう。しかし相手も先程までとは違い、本気を出している。甲高い発砲音を耳にした瞬間、クラウスは手近な戦闘員を盾代わりにして窮地を凌ぐ。
「気をつけろ、手練れだッ」
「勝利までは望むな、『役目』を果たせ!」
 青年は動かなくなった敵を放り捨てると同時に、狭い路地の壁面を蹴って跳躍。相手の直上を取るや、手斧の一撃で頭部を叩き割った。間近に迫られ、拳銃よりも徒手の方が早いと判断したのか。掴みかかってくる戦闘員に対しては電磁鞭で縛り上げ、体の自由を奪い去る。
「先手を取られたのが痛かったか……ならば」
 瞬く間に打ち倒されてゆく仲間を見た生き残りは、この場にこれ以上踏み留まっても有用な働きは出来ないと判断。躊躇なく踵を返すと、そのまま路地の外へ向けて走り出す。そこで絶命する事により、自らを被害者として社会不安と疑心暗鬼の種を撒こうという狙いなのだろう。
 当然そうなれば戦闘員は死を免れないが、その動きには一切の迷いがない。これが組織に洗脳染みた忠誠を誓った者の厄介さか。しかしそれも、手の内さえ分かっていれば問題ない。
「……路地裏は一本道で、相手はこちらに背を向けている。なら、万が一にも外す心配は無い」
「が、はッ……!?」
 タァン、と。ひときわ甲高い銃声が鳴り響く。戦闘員の拳銃ではない。クラウスが咄嗟に伏せ構えた狙撃銃による一撃だ。寸分違わず背面を撃ち抜かれ、背骨を粉砕された戦闘員は数歩だけ歩いた後、路地の出口を前にして崩れ落ちた。
 少しばかり危うかったが、それでも勝ちは勝ちだ。青年は手早く死体の隠蔽を行うと、増援がやってこないうちにその場を離れてゆくのであった。
🔵​🔵​🔴​ 成功

ハリエット・ボーグナイン
ホントに悪さするまでは連中が被害者だもんな。
けど思い通りにはさせてやんね。
おれたちがお前らにとっての悪役なら悪役らしくするまでだ。
してぇ事をさせず、やられたくねえ事をやってやる。

人気のない場所に誘い込まれるフリして相手が不利を悟るより先に棺桶を被せる。さあ、どこにも逃げ場なんかねえぞ。連射を撃ち込まれようと威力100分の1だろ。戦闘力が3分の1になろうともドーピング決め決めのゾンビが鳩の豆鉄砲でくたばるもんかい。こっちも零距離射撃だ。おまえの悲鳴はどこにも届かない。それはおれだけが聞いといてやる。

おれの寝床、少しだけ貸してやるよ。
あいにく寝心地は良くねえがな。さて、お仲間も連れてきてやろうな。

●袋小路に眠れ
(全く以ておかしな話だが、ホントに悪さするまでは確かに連中が被害者だもんな。けど、思い通りにはさせてやんね。おれたちがお前らにとっての悪役なら、お望み通り悪役らしくするまでだ)
 本当の邪悪が善人面しながら大手を振って歩き回っている。ハリエットの独白通り、異常な光景だ。だが、世間の世論やイメージを味方につけるという戦略は厄介だが正しい。それに抗うのも一手だが、彼女は寧ろ積極的に誘いへ乗ってやろうと考えていた。
 そも、彼女の生業は殺し屋なのだ。元より失って困る体裁なぞ無く、どちらかと言えば悪の組織寄りの立ち位置である。|悪どい《ダーティー》な立ち回りは望むところといった心境だろう。
(精々してぇ事をさせず、やられたくねえ事をやってやる……まぁ、最初だけは大人しく従ってやるけどな)
 しかし、ハリエットとていきなり人混みの中でドンパチし始めるつもりはない。ふらりと、それとなく陽の当たらぬ暗がりへ足を向けてゆく。追従してくる数は恐らく一人。どんなに気配を一般人と同化させようが、標的を絞り込む殺し屋の嗅覚を誤魔化すことなど出来はしなかった。
(お互い、わざわざよーいドンで始めるほどお行儀の良い性格じゃねェだろ? 隙を見せたら即開戦、ってな)
 今はまだ気付いている事を気取られたくはない。ハリエットは視線を前へ向けたまま、五感を研ぎ澄ませつつふらりふらりと薄暗い路地を進む。そうして暫し歩いた後、お誂え向きな曲がり角を見つけた瞬間、それまでとは打って変わった機敏の動きで向こう側へと姿を消す。
「ちぃ、気付かれていたか。目敏い奴だ……業腹だが、応援要請も視野に入れるべきか」
 ここまで追跡したのに見失っては元も子もないと、尾行していた戦闘員は懐から拳銃を取り出しつつ走り出す。逃げたという事は直接的な戦闘が得意ではない、と判断したのだろう。脅威度よりも撒かれる恐れを懸念しながら、念のため得物を構えてクリアリングを行い――。
「悪いが、こっから先は袋小路だ。さあ、誰も呼ばせねェし、どこにも逃げ場なんかねえぞ。お寝んねするまで付き合って貰おうか」
「ッ!?」
 刹那、ぽっかりと口を開けた『何か』に呑み込まれた。咄嗟にトリガーを引いて弾丸をばら撒くも、確たる手応えは無し。人一人分がようやく入れるほどのスペースに、光が一切入り込まない漆黒。ヘタれたクッションとその向こう側に感じられる木板の硬さにより、戦闘員は己が何に閉じ込められたのかを悟る。
「これは、棺桶、だと……! いや、こんなモノさっさと破壊してしまえばッ」
 拘束程度なら予期していたが、よもや物理的に閉じ込められるとは相手も予想すまい。一瞬面食らった戦闘員だが、幸いにも手にした拳銃はそのままだ。外から感じられる物音から√能力者の居場所に目星をつけるや、拳銃を乱射。
 弾痕に合わせて薄暗い光が射し漏れ、続けて滴り落ちた鮮血がボタリと棺を叩く音が響く。しかしやったかとほくそ笑むのも束の間、呆れたような声が上から降ってくる。
「幾ら連射を撃ち込まれようが、板越しなら威力も半減してるだろ。抑え込んで身動きが取れなくても、ドーピング決め決めのゾンビが鳩の豆鉄砲如きでくたばるもんかい」
 微かに引っ掻くような音と同時に光が遮られる。ぼんやりと浮かび上がるシルエットは、銃身を切り詰めた散弾銃か。それを間近で撃ち込まれたらどうなるか。思わず喉が引き攣り漏れ出た呻きが、戦闘員の末期の言葉だった。
「こっちも零距離射撃だ。おまえの悲鳴はどこにも届かない。せめてもの情けだ、クソ野郎。それはおれだけが聞いといてやる」
 立て続けに鳴り響いた二発の銃声。それが幕引きだった。静かになった棺からじわりと赤黒い液体が滲み出る。ハリエットは散弾銃を排莢しつつ空いた手で鎖を引っ掴むと、そのまま棺桶を引き摺ってゆく。
「おれの寝床、少しだけ貸してやるよ。あいにく寝心地は良くねえがな……さて、お仲間も連れてきてやろうな。それなら、ちったァ寂しくはなくなるだろ」
 斯くして殺し屋は、次なる犠牲者を求めて独り暗がりを征くのであった。
🔵​🔵​🔴​ 成功

瑞城・雷鼓
引き続き【目立たない】ようにあやしいやつを尾行して……
ふぅん、路地裏、ね
こっちの正体が掴めてなくても、狙われてるって分かれば対応してくるってワケ
いいじゃない、誘いに乗ってやるわ

スーツの懐から銃を取り出したのに応じて、太もものホルスターから雷霆銃を抜く
奇遇ね、私も銃使いなのよ
銃口の向きから瞬時に【弾道計算】、【ダッシュ】で射線を躱しながら雷撃弾(属性攻撃)!
十把一絡げの戦闘員が、タイマンで敵う道理もなし
待機要員を招集したら、弾幕を張られる前に【クイックドロウ】で数を減らす

逃げようったってそうはいかないわ
待機要員はあんたの専売特許じゃないのよ
撤退の予想経路に配置しておいた【雷幻身】
雷遁で黒焦げよ!
フィーガ・ミハイロヴナ
指針:誘われるまま人目の付かないところまで行き、√能力で速度を上げて一気に倒す
アドリブ、連携◯

おやおや。あちらからお誘いいただけるのは好都合ですね
誘い込まれてあげた形で一目のない所で応戦。攻撃は死霊のオーラ防御で防ぎつつ、メスで切断
…大勢で来たんだったらもっと勝つ気で来て欲しいですけどね

あーあ、逃げちゃだめですってば
【матрёшка】で速度を上げて回り込み倒しきります。
おれ自身を置き去りにするスピード、堪りません
まあ、おれ個人としては「|恐怖!全身ツギハギ男《新たな怪人の出現》」でも全然良かったんですけど
諸々絡みますしね

●浮かぶ影を切り裂きて
 都市のあちこちで同時多発的に勃発する暗闘劇。一般人に悟られぬよう闇の中で行われるそれは、徐々にだが√能力者たちへと趨勢が傾きつつあった。しかし、相手の主目的は威力偵察とそれを利用した社会不安の情勢である。下級戦闘員の損耗など被害の内に入らないのか、相手の攻勢が緩む気配はない。
(おやおや、既にこちらの面は割れていると。まぁ、印象的な顔と言う自覚はありますけれど……ともあれ、あちらからお誘いいただけるのは好都合ですね)
 そして、その魔手はフィーガの元にも届いてゆく。チラと左右を見やれば、付かず離れずの距離を保つ人影が複数。恐らく、背後にも漏れなく控えているのだろう。もし逃げる素振りでも見せればどうなるかは分からぬが、彼としてもこの状況は願ったり叶ったりである。
 さして抵抗する素振りも見せず人気の無い路地裏へ誘導されながら、そっと手荷物からメスを抜き取り袖口に忍ばせてゆく。相手も長々と前口上を述べる手合いでもあるまい。状況さえ整えば、合図もなく仕掛けてくる筈。
 果たして、周囲にシンと静寂が落ち、人は愚か鴉や野良猫の気配すらも遠退いた刹那、先を歩いていた男が不意に振り返る。スーツの懐に差し込まれた腕、その指先に拳銃が握られているのを見た瞬間、フィーガもまたメスを手に駆け出そうと身を屈め、そして。
「……ふぅん、路地裏、ね。ま、周囲を巻き添えにする心配がない分、こっちもやり易いもの。それに奇遇なもので、私も銃使いなのよ?」
「ッ!?」
 それよりも早く迸った雷光が、薄暗い路地を真白く染め上げる。正しく電光石火の一撃は銃器を抜こうとしていた変装戦闘員を撃ち抜き、一撃で絶命させてしまう。誰だとその場に居た者らが出所へ視線を走らせると、不敵な笑みを浮かべた雷鼓の姿があった。
「なるほど。こっちの正体が掴めてなくても、狙われてると分かれば対応してくるってワケ。怪しい気配の連中を見つけたから試しに追いかけて来たんだけど、ビンゴね。いいじゃない。運よくお仲間さんも居るみたいだし、誘いに乗ってやるわ!」
「標的一人に意識を先過ぎていたか……つゥッ!?」
 不意を突くつもりが、逆に奇襲を受けてしまった。裏工作を専門とする戦闘員からすれば屈辱以外の何物でもないだろう。そこで硬直せず瞬時に迎撃せんとするのは敵ながら見事だが、既に動き出していたフィーガからすればそれすらも遅すぎた。
「……複数人で取り囲んだのは、数の差で押し切る気だったのでしょう? 大勢で来たんだったら、もっと勝つ気で来て欲しいですけどね」
 戦闘員の懐へ一息に踏み込むや、手にしたメスを一閃。鋭い刃が喉元を掻き切り、血とは異なるどす黒い液体が溢れ出す。常人ならば瞬時に絶命してもおかしくない致命傷だが、相手は人の皮を被った怪人だ。逃げる余力までは無くとも、せめて一矢報いんと青年に掴み掛る、が。
「こちらもまず一人、です」
 その抵抗はトドメの一撃で呆気なく潰されてしまう。くしゃりと崩れ落ちる相手には目もくれず、フィーガは次なる敵を見据えてゆく。その背には忍者が陣取り、自然とお互いの死角をカバーし合えるよう立ち回る。
「待機中の人員も呼び出せ。ここで良いようにあしらわれては情報を得られぬ。彼奴らの手の内を一つでも明かすのだ」
「出し惜しみしないのは良いけれど、十把一絡げの戦闘員がタイマンで敵う道理もなし……このまま一気に押し切らせて貰うわよ!」
 これでは埒が明かぬと判断した戦闘員は追加戦力の投入を決定。すぐさま駆けつけてきた増援が拳銃による弾幕を形成する中、雷鼓もまた負けじと応戦。銃口の角度から射線を見切るや、カウンターショットにより着実に頭数を削る。
 仮に相手が距離を詰めたとしても、青年が瞬時に立ち位置を入れ替える事で対応。遠近両方を補完する事で数の差を物ともせずに渡り合ってゆく。戦闘員たちも何とか食らいつこうとするがこれではジリ貧だった。
「彼我戦力の差がこれ程とはな。だが、既に十分なダメージは負った」
「ならば、後はせいぜい派手に散るのみ。我らの命すらも作戦遂行の道具に過ぎん」
 既に無傷な者など居らず、全員が例外なく深手を負っている。辛うじて立っていられるのも強化された身体能力のお陰だろう。戦況は劣勢も劣勢だが、逆に条件が整ったとも言えた。即ち、衆人環視の中で無残な最期を遂げる準備が、だ。
 果たして、戦闘員たちは躊躇うことなく踵を返すや、脱兎の如くその場からの逃走を図る。この逃避行によって彼らの残り僅かな体力は完全に底を尽き、絶命するだろう。そして、その末路を見た一般市民の恐怖はきっと計り知れない。
「あーあ、逃げちゃだめですってば。おれたちならまだしも、普通の人にそれはショッキング過ぎますから」
「逃げようったってそうはいかないわ。こうなることくらい、予想済みなんだから!」
 尤も、言うまでもなくその様な事態を座視する√能力者たちではない。路地の出口はそれぞれ前後の二つ。フィーガと雷鼓もまたそれまでとは打って変わって瞬時に二手へ分かれるや、逃すまいと怪人の背を追いかけてゆく。
(名も定からぬ『誰か』さん、ごきげんよう。いやはや、おれ自身を置き去りにするスピード、なんとも堪りません)
 先ほどまではまだ本気を出していなかったのか。青年は自らの意志ではなく、眠っていた誰かに身体の主導権を明け渡す事で今まで以上の機敏さを発揮。手負いの戦闘員へ追いつくと、背後から相手の首筋へ刃を添わせる。
「まあ、おれ個人としては「|恐怖!全身ツギハギ男《新たな怪人の出現》」でも全然良かったんですけど……それをしちゃうと、諸々の事情と絡みますしね?」
 ツイ、と。触れた刃は敵自身の速度によって皮膚へめり込み肉を裂き、その下の血管までをも断ち切ってゆく。盛大に血潮を噴き上がらせながら、戦闘員は勢いのまま数歩進んだ後にクシャリと崩れ落ちていった。
「待機要員は何もあんた達の専売特許じゃないのよ! 奥の手は最後まで取っておくもの……さぁ、出番よ!」
 一方、忍者は戦闘開始前に下準備を終えていた。雷鼓が合図を出すや否や、物陰や僅かな隙間からワッと彼女に瓜二つの人影が飛び出してくる。忍者と言えば、やはり影分身は嗜みだろう。予め潜ませていた自身の幻影をここで動かしたのだ。
 その実力は本体と比べて一歩劣るが、死に体の相手を仕留めるだけならば十二分。戦闘員も文字通り決死の覚悟で突破を狙うも、それはあまりにも分の悪い賭けであり……。
「雷遁で黒焦げにしてあげる! |雷幻身《サンダーミラージュ》ッ!」
「目標の達成ならず、申しわ、け――……!」
 再び路地裏を染め上げる雷光により、一人の例外もなく討ち取られた。路地裏には静寂が戻り、斃れ伏す戦闘員に対して青年と忍びはなお健在なまま。一般人への攪乱工作も防ぎ切り、前哨戦は完全勝利と言ってよいだろう。
 だが、まだ終わっていない。此度の絵図を書いた首魁がまだ残っているのだ。斯くして√能力者たちは謀略に終止符を打つべく、気を引き締め直すのであった。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

第3章 ボス戦 『外星体『ズウォーム』』


POW ズウォームキャノン一斉発射
X基の【破壊光線砲】を召喚し一斉発射する。命中率と機動力がX分の1になるが、対象1体にXの3倍ダメージを与える。
SPD ネガ・マインド・ウェポン
触れた物品に眠る「過去の所有者の記憶」と交渉できる。交渉に成功すると、記憶から情報提供を受けた後、記憶の因縁の相手に3倍ダメージを与える【ネガ・マインド・ウェポン】が出現する。
WIZ ズウォーム・レンズアイ
自身の【蟲の如き眼球】を、視界内の対象1体にのみダメージ2倍+状態異常【無重力】を付与する【無重力ガン】に変形する。
イラスト ぎんぼし
√マスクド・ヒーロー 普通11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

●偽りの善、純なる悪
 都市各地で勃発した暗闘劇は√能力者側の勝利にて終わった。しかし相手からすれば、これは飽くまで手の内を探る為の威力偵察に過ぎない。下級戦闘員を幾ら倒そうと、此度の絵図を書いた首魁を討ち取らねば真の決着にはならぬ。
 ある者は星を詠み、ある者は敵の残した痕跡から、またある者は己の直感によって、導かれるように都市のある一点へと集ってゆく。それは打ち捨てられ、いまにも崩れ落ちそうなほど荒れ果てた廃屋だった。
 埃っぽい空気に顔を顰めつつ、軋む扉を押して慎重に中へと踏み込む√能力者たち。待ち伏せされている可能性も視野に入れていたのだが、意外にも件の怪人は擦り切れたソファに悠然と座りながら√能力者たちを出迎える。
「やぁどうも、人間の諸君。こんな侘しい場所へわざわざ足を運んで貰い恐縮だ。なにぶん小さい組織で、残念なことに懐事情も厳しい。なにせ、こんな地方都市を前に手を拱いている始末なのだからね」
 外見から察するに、異星人タイプの怪人か。立ち振る舞いは極めて慇懃だが、仕掛けていた策が策である。自らの脅威度を小さく見せようとするのも駆け引きの一つなのだろう。少なくとも、表面上の印象だけで判断すべきではない。
「さて……諸君らに問いたいのだが、我々はいったい『何か』しただろうか。ああいや、先の戦闘は含まないで頂きたい。それについて、先に手を出したのはそちら……だろう?」
 ――答えは何もない、だ。
 策が迂遠であれば、それを企図した怪人もまた食えない手合いらしい。自らの正当性を主張しつつ、遠回しにこちらの責を突いてきた。無論、相手も衝突が避けられない事は百も承知だ。矛を交える前に心理的優位を確保せんという腹積もりか。
「ただ取るに足らぬ『善行』を行っていただけ。それを一方的に阻害されたのだから、おや、これは寧ろ我々が被害者では?」
 一見すれば尤もらしい建前だ。だが、√能力者は知っている。彼らにとって『善行』は目的ではなく手段。自らが望む『悪事』を為すための隠れ蓑に過ぎない。正に偽善と言う他ないだろう。でなければ、わざわざ戦闘員が死に様を晒して社会不安を煽ろうと筈も無し。つまりは単なる詭弁だ。故にこそ、ここで退く理由などある訳もなかった。
「さて……返答は如何に?」
 表面上はさも友好そうにゆるりと差し出される手。だが、背後に隠した片手にはきっと凶器でも握っているのだろう。怪人の問い掛けに対し、なんと叩き返してやるのか。または無視して挑みかかるか。
 全ては√能力者たちの手に委ねられるのであった。

※MSより
 プレイング受付は22日(土)朝8:30~開始。
 第三章はボス戦、作戦を指揮していた怪人との戦闘になります。表面上こそ交渉じみた内容ですが、戦闘を優位にせんとする建前であり、衝突自体は不可避です。敢えて舌戦に乗って隙を突くか、問答無用で叩き潰すか。どうかご自由にお立ち回りください。
 それではどうぞよろしくお願い致します。
クラウス・イーザリー
「本当に被害者か否かは、お前自身の心に聞くといいさ」
手は取らない表面だけを見れば俺達が悪いんだろうけど、そうじゃないことはこいつ自身が一番知っているだろう
故に、手は取らない

アクセルオーバーを起動
上昇した移動速度を乗せたダッシュで距離を詰めて紫電一閃で攻撃
レンズアイで狙い辛いように、背後に回り込みながら戦うことを心がけるよ

敵からの攻撃は見切りで回避
無重力状態になってしまっても動じず、拳銃の発砲の反動で体勢を整え、壁や床を蹴って接近戦の距離を保つよ

悪行の芽は摘んでおかなくてはいけない
たとえそれが、こちらが悪いことをするような方法だったとしても
事が起こってからでは遅いんだ

※アドリブ、連携歓迎です
五十音・バルト
心情:人の情を踏みにじる相手だし、容赦はいらないネ
ワタシのやり口は例外だったようだし、舌戦と行こう

行動:
はて?ワタシは道案内のお礼に歌っただけで襲われたのだがね
「これは寧ろ私が被害者では?」と敵の言葉を借りて一煽り

『善人であれ、悪行を止めておけ』とは歌ったが、
それを『手を出した』と言うのならば語るに落ちている

やはり君は悪党サ

敵が怯んだら『彼方よりの歌声』で世界をひずませ、音響弾の要領で攻撃
ついでに埃を巻き上げて視界を奪い敵の射線を制限しよう

敵がこちらを撃つタイミングでDemon's Radioを発動、敵の背後のインビジブルと位置を入れ替えて、インビジブルと私で挟み撃ちの音響弾だ

アドリブ連携歓迎

●見える建前、見えぬ本音
(ふぅむ……人の情を踏みにじる相手だし、容赦はいらないネ。結果的にではあるもののワタシのやり口は例外だったようだし、ここは手始めに舌戦と行こうカ)
 廃屋での邂逅に際し、バルトは己の立ち回りに一つの優位性を見出していた。である以上、まずは相手の土俵に乗ってみるのも悪くはない。そうして彼が脳裏で静かに論を立て始めた横では、そんな仲間の意図を察したであろうクラウスが口火を切ってゆく。
「……本当に被害者か否かは、お前自身の心に聞くといいさ。他人の思惑なんて容易に測り知れはしないが、まさか己の認識まで自分の詭弁で塗り固めている訳ではないだろう?」
「おや、こちらはただ客観的な事実を指摘しただけなのですが」
 青年は差し出された手を一瞥しながらも、それに応じる様子はなかった。それどころか、お為ごかしは止せと遠回しに告げてやる。建前と本音には差がある事を、これまでの戦闘で嫌と言うほど見せつけられたのだ。対して、異星人は思惑ではなく行動へ論点をズラして追及を受け流す。
(手は取らない……確かにこの状況を表面だけを見ればきっと俺達が悪いんだろうけど、そうじゃないことはこいつ自身が一番知っているだろう。寧ろこういう手合いは、得てして自覚があるからこそ正当化に固執するもの。故に、手は取らない)
「はて? であればそもそも、ワタシは道案内のお礼に歌っただけで襲われたのだがねェ……おや、『これは寧ろ、私が被害者では?』」
 しかし、なればとすかさずバルトが相手の矛盾を突く。この紳士が行った内容は他の仲間たちと違い、本当に平和的なものだ。つまり、彼に関しては先に手を出された側となる。これが先ほど見出した論理的な優位性である。更には自らの言葉をそっくりそのまま返され、さしもの異星人も反論する術を失ってしまう。
「『善人であれ、悪行を止めておけ』とは歌ったが、それを『手を出した』と言うのならば語るに落ちている。例えそれがどんな内容であろうとも、暴力的手段に訴え出た時点で負けには違いないヨ」
 ――やはり、君は悪党サ。
 結びの言葉を以てバルトはそう会話を締め括る。ぐうの音も出ないとは正にこの事か。元々表情を読みにくい顔だが、異星人の目がスゥと細められてゆく。降参とばかりに両手を上げ、相手はクツクツと喉を鳴らす。
「いやはや、いやはや。全く以てその通りだ。これは一本取られたというべきか。たまさか、そんな馬鹿げた手段で対抗する手合いなぞ、想定していなかったもので、ねッ!」
 表面上は友好的だが、言うまでもなくそれは見せかけ。クルリと手首を翻したかと思うや、その手には玩具のような形状の銃器が握られていた。異技術で作られた、万有引力を乱す兵器である。会話の最中に不意を突き、そのまま主導権を握らんとするのだが、しかし。
「……どれほど外面を取り繕ったところで、一皮剝けば所詮は怪人か」
「ッ!?」
 トリガーが引かれるよりも先に電光石火が廃屋内を照らし出す。相手の動きを注視していたクラウスが、紫電を纏って瞬時に反応したのだ。彼は射線を切るように敵側面へ回り込むや、雷光を帯びた短刃を叩き込む。
「こうならないよう、敵を作らない立ち回りを心掛けていたのですがね……星を読む者が相手では思い通りにはいきませんか」
 その切っ先は異星人の青い甲殻にめり込むが、相手も間一髪で迎撃を間に合わせる。照準もロクに合わせぬまま牽制がてらに無重力弾を発射。直撃こそしなかったものの、青年を掠めた個所を中心として重力異常を発生させ、疑似的な無重力を生み出してゆく。
「直撃は避けられたけど、重心が崩れる……拳銃の反動などで調整が効くかな? 感覚を馴染ませるのに少しばかり時間がかかりそうだ」
 そのまま足が地面を離れてしまうようなことにはならないものの、身体の特定部分だけ重みが消えるというのは非常に違和感があった。白兵戦を主体とするクラウスからすれば、この感覚のズレは些細ながらも影響が大きいだろう。
 なれば、体勢を立て直される前に仕留める。そう目論む異星人だったが、そうは問屋が卸さない。仲間が雲耀の速さを為すならばこちらは音速だと言わんばかりに、バルトがスピーカーから大気を揺るがさんばかりの大音声を解き放つ。
「そうあちらこちらと目移りされるのも寂しいものだネ。穏当な手段がお望みなら、曲のリクエストでもしてくれ給えヨ。可能な限り応えさせて頂こう」
「生憎、諸君らとは感性が異なるようでね。済まないが、遠慮させて貰おうッ!」
 余りの音圧で廃屋内にあった物が吹き飛び、敵の身体をもビリビリと震わせる。単純な実体弾とは異なり、音を物理的に防ぐことは極めて困難である。何とか攻撃を止めさせようと、異星人は無重力ガンを乱射してゆく。
 結果、バルトの発する音響のせいも相まって、ただでさえ古ぼけていた廃屋内は混沌具合を加速させてしまう。半ば朽ちていた壁や床は木っ端をまき散らし、左右どころか上下も問わずしっちゃかめっちゃかに動き回るガラクタがそこらじゅうを引っ掻き回すことで、濛々と濃密な埃が立ち込め始める。
「そんなことを言われると、音楽好きの端くれとしてはますます退けないヨ? どれ、じっくりと聞けば良さが分かるというものサ。♪誰もがいつかは塵となって風に消える、せめて私の魂は歌として、ステレオにのせて流れていこう。そうすれば、いつか誰かに届くはずだから」
 まともに視界が効かなくなった状況にも関わらず、バルトは自らのスタンスを揺らがせる事なく朗々とした歌声を響かせてゆく。どこまで本気なのかは定からぬが、しめたものだと異星人は内心でほくそ笑む。
 見通しが劣悪だろうが、こんなに分かりやすく音を発していれば馬鹿でも居場所が分かるというもの。多少狙いが甘くとも、掠めでもすれば先ほどの青年同様、身動きに支障をきたす。斯くしてゆっくりと狙いを定めるや、引き金を押し込む――。
「この国では何というのでしたっけ? そう、雉も鳴かずば撃たれまいと……ッ!?」
 寸前、それまで真正面から聞こえていた歌が突如として背後から鳴り響く。いったいどうゆう事かと、思わず異星人の意識がそちらへと引き寄せられた。しかし、埃の隙間から見えたのは薄暗い空間のみ。そこから依然として旋律が奏でられているのだ。
「いったい、なにが……!?」
「なに、インビジブルと立ち位置を入れ替えただけサ。加えてもう一捻り……いや、二捻りほどしているけどネ?」
 種を明かせば、バルトは誇りに紛れて敵の背後に居たインビジブルの場所を交換。そのまま透明化する事で姿を晦ましたのである。これでインビジブルとの挟み撃ちが完成だが、紳士の狙いはもう一つあった。
「悪行の芽は摘んでおかなくてはいけない。たとえそれが、こちらが悪いことをするような方法だったとしても。いま、その必要悪こそが求められている」
「しま……ッ」
 背後に気配を感じた頃にはもう、時すでに遅し。咄嗟に振り返ってみれば、先ほどまでバルトの居た方向からクラウスが肉薄してきていた。相手の意識が完全に仲間へと向けられた隙を突き、重心の崩れた身体を物ともせずに死角へと回り込んでいたのだ。
 こうなってしまってはもう、無重力ガンによる迎撃も間に合うはずもない。バチリ、と。青年の手にした得物から紫電が迸る。先ほどは防がれてしまったが、今度は外さぬ。そんな必殺の気概と共に一閃が放たれ、そして。
「……事が起こってからでは、遅いのだから」
「ぬううううっ!」
 鮮やかなる一撃が、異星人の肉体を深々と切り裂いてゆくのであった。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

瑞城・雷鼓
善行? よく言うわね
あんたたちの善行なんて、阿片と同じ
|善行《快楽》と|悪行《破滅》の同時進行じゃないの
見せかけの善行に毒された人々は、取り上げられたら糾弾してくるだろうけど
どれだけバッシングされたって破滅の蔓延は阻止しなきゃいけない
口先でどうこうするフェイズはとっくに終わってるのよ

無重力ガンはあいつの眼球が変化したもの
つまり視線と射線が完全にイコール、ブラフを使えない
瞬時に【弾道計算】して【ダッシュ】や【スライディング】で躱す
雷霆銃で【牽制射撃】、雷撃弾の閃光は目眩しにちょうどいい
目が眩んで射撃が止んだ隙に、フルパワーの【雷轟電撃陣】!
300発の雷撃弾で滅多撃ちにしてやるわ!

●雷光は潜む悪を照らし出す
「ぐふっ……こうならないよう、先ず善行を為すことから始めたのですが。その発想自体、間違っていなかった筈だというのに」
 戦闘開始早々に強烈な一撃を叩き込まれ、堪らずよろめく異星人。深々と刻まれた傷跡を指でなぞりながら、甚だ解せないといった様子でそう独り言ちる。確かに着眼点は悪くない。邪魔さえ入らなければ、少しずつでも着実に目的を達成し得るだろう。
「善行? いけしゃあしゃあとよく言うわね……あんたたちの善行なんて、阿片と同じ。|善行《快楽》と|悪行《破滅》の同時進行じゃないの。発想が無害でも、その終着地点が地獄行きならそりゃ止めるわよ」
 だが、そんな独白を雷鼓は容赦なく切って捨てた。やらぬ善よりやる偽善とは良く言うものだが、その先が真っ黒な悪行に繋がっているのであればもはや偽善ですらない。一般人には分からずとも、彼女のような裏に長けた忍びであれば胡散臭さは一目瞭然である。
「見せかけの善行に毒された人々は取り上げられたら糾弾してくるだろうけど、どれだけバッシングされたって破滅の蔓延は阻止しなきゃいけない。まぁ、自発的に続ける分にはとやかく言うつもりはないけどね……ともあれ、口先でどうこうするフェイズはとっくに終わってるのよ」
「それは残念……いやはや、今回の作戦における欠点は一般社会への対策にばかり注力し、対√能力者の備えを怠った点、でしょうかね。精々これを糧に、次はより完成度の高い作戦を考えたいものです」
 減らず口とはこの事か。遠回しにこれ以上の問答は無用と告げる雷鼓に対し、相手はこの急場を凌いでやり直してみせると言っているのだ。巧妙に隠された、しかして明確な挑発。その一言を契機とし、会話を打ち切った両者がほぼ同時に動く。
 異星人が先ほどから引き続き、自らの複眼を変化させた無重力ガンでの射撃を狙い、対する忍者はその照準から逃れんと横へ飛ぶ。ダメージは元より、掠めただけでも重力方向を掻き乱される効果は極めて厄介だ。だがその一方、付け入る隙が無い訳でもない。
(無重力ガンはあいつの眼球が変化したもの……つまり視線と射線が完全にイコール。どこに向けて撃つのか、ブラフを使えないはずよ)
 至近距離での銃撃戦において、ただ銃口を相手に向けて撃てば良いという話ではない。身振り手振りで本来狙っている場所を誤魔化し、防御の隙を縫って必殺の弾丸を叩き込む技術が要求される。相手は自らの複眼そのものを銃器としてしまっている関係上、そうしたテクニックを活用出来ないのだ。
「逃げ回るのは良いですが、それもいつまで続きますかね?」
 飛び跳ね、床を滑り、壁を走り、天井を蹴る。忍びらしい縦横無尽さで重量弾を回避する雷鼓だが、異星人に焦る気配はない。着弾地点では重力が失われ、無重力空間と化しつつある。迂闊に踏み込めば感覚を狂わされてしまうだろう。
 しかし、忍者もまた冷静さを保つ。慌てて攻め立てれば相手の思うつぼだ。彼女はジッと隙を窺い、相手の死角を見出すや一気に仕掛けてゆく。
「はっ、そちらから来ると思っていましたよ!」
「……ええ、私もよ。まんまとこっちを見たわね?」
「なにを……ッぅ!?」
 だが、それは読んでいたと瞬時に振り返る異星人。尤も、それは雷鼓も同じこと。二丁拳銃から牽制弾を放つことにより、閃光によってまんまと相手の視界を白く塗り潰す。こうなればもう、まともに射撃を命中させることも出来まい。
 この絶好の好機を見逃すことなく、雷鼓はこれまでのお返しとばかりに二丁拳銃の銃口をぴたりと異星人へと合わせ、躊躇うことなくトリガーを引き絞る。
「雷遁! |雷轟電撃陣《サンダーストーム》!! 300発の雷撃弾で滅多撃ちにしてやるわ!」
 果たして、解き放たれた夥しい数の雷光が相手の青い甲殻を真白く染め上げてゆくのであった。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

ハリエット・ボーグナイン
ドーモ、悪人です。
ってか今更こんな問答に意味なんてあんのかい。
まあ、どうせおれに気の利いててシャレてるような答えは用意できねえから、代わりにこいつをくれてやる。(言いながら差し出された手を包丁で深々と突き刺す)

破壊光線を脳内麻薬のドーピングと俄仕込みの医術で凌ぐ。
いーんだいーんだ。包丁握る手と相手まで歩いていけるあんよさえ無事ならな。傷口から噴き出す血飛沫を迷彩代わりに暗殺の要領で接近し、おれのありったけをキメてやる。


どれだけ理性ぶろうが、どん底のどん詰まりにまで落っこちた後はな。
暴力こそがすべてを解決する。最後までフィールドに立ってたやつが正義。
……いつの時代もそれが答えだ。あばよルーザー。

●悪には悪が相応しき
「直接的な戦闘を厭うた訳ではなかった……ただ、迂遠に見える方法こそ最も効率が良いと思った故に、善行と言う手段を選んだまで。だと言うのに、こうも|正義の味方《ヒーロー》に叩きのめされては普段と変わらない。ああ、何という理不尽か」
 しゅうしゅうと、異星人の身体から煙が立ち昇る。浴びせられた無数の雷遁は着実に悪の首魁から余力を奪い去っていた。だが彼の言葉通り、決して口先ばかり達者な手合いではない。相手の策略を先んじて潰した√能力者が一枚上手だったという話だ。
「せめて、最後まで作戦のコンセプトくらいは貫きたかったところですが」
「あァ? なんだよ、ヒーローはお呼びじゃないってか? つくづく回りくどいヤツだな……ドーモ、悪人です。ってか、今更こんな問答に意味なんてあんのかい」
 愚痴の一つくらいは予想していたが、なんともピントのズレた文句だと、廃屋へ踏み込んだハリエットは呆れてみせる。あちらが善人、こちらが悪人。そんな構図が欲しければお望み通りにしてやると、つぎはぎだらけの殺し屋が引導を渡しに来たのだ。
「まあ格好つけて出てきたものの、どうせおれに気の利いててシャレてるような答えは用意できねえから……代わりにこいつをくれてやる」
 そう言ってハリエットはふらりと臆することなく相手の眼前へと踏み込むや、これが答えだと手にした三徳包丁で相手の無防備な掌を深々と突き刺す。堪らず腕を引っ込めた異星人は傷口より蛍光色の鮮血を滴らせる。言葉よりも如実な意思表示に、相手の口元にはそれまでの慇懃さとは打って変わった凶悪な笑みが浮かびゆく。
「全く、実に分かり易い。だが、これで良い。正義の味方なんぞに討たれるよりかはまだマシです。となれば、もう出し惜しむ必要も無いでしょう」
 パチリ、と。異星人が指を鳴らした瞬間、巨大な砲台が廃屋内に出現した。その数、実に五基。これだけの火力を御するとなれば自身の移動も儘ならないだろうが、この期に及んで逃げる気はないという事か。
「大口を叩いた手前、拍子抜けはさせないで貰いたいですね?」
「だから、気の利いた事なんざ言ってねぇっての!」
 斯くして、先手を取ったのは異星人側。放たれた破壊光線は線と言うよりも柱、それが五本連なればもはや壁である。まともに食らえば火葬一直線だろう。しかし、ハリエットは文字通りあらゆる手を総動員して凌ぎ切らんと試みてゆく。
(いーんだいーんだ。臓腑が吹き飛ぼうが全身まる焦げになろうが、包丁握る手と相手まで歩いていけるあんよさえ無事ならな。多少バカになろうが、元から出来の良いオツムじゃねぇ。脳内麻薬のドーピングに俄仕込みの医術。手持ちの札は全部使って、おれのありったけをキメてやる)
 モッズコートが蒸発し、その下にある肌身が消し炭と化す。常人ならばのたうち回るような激痛を無理くりねじ伏せつつ前へ、ただ前へ。傷口から零れ落ちたどす黒い血液を掌で掬い取るや、目晦まし代わりに異星人へと浴びせかける。
「っぅ、先ほどの悪役と言う言葉に偽りは無しか! それこそ、我々は手を取り合える間柄だと思いますが?」
「一緒にしてんじゃねェよ。どうせ、同族嫌悪で仲違いすんのは目に見えてんだ……どれだけ理性ぶろうが、どん底のどん詰まりにまで落っこちた後はな。暴力こそがすべてを解決する。最後までフィールドに立ってたやつが正義で、しかもそいつは大抵一人だけだ」
 視界を潰された相手は寧ろ愉快そうに叫び返すが、寝言は寝てから言えとばかりにハリエットは棺桶を投擲し捕縛。咄嗟に放たれた第二射に半身を吹き飛ばされながらも、返す刀で鉄杭を棺桶に叩き込む。こうなればもう、ちょっとやそっとの力では開くまい。
 殺し屋は残った片腕で三徳包丁を握り直す。先ほどは不意を打って掌を貫いたが、今度はそれだけで済むはずも無し。同じ悪役同士だが、明確な差を示すべく切っ先を棺桶へ宛がう。その差とは、即ち――。
「……いつの時代もそれが答えだ。あばよルーザー」
 勝者と敗者。突き立てられた刃は異星人の異形なる心臓を切り裂き、その活動を完全に停止させる。それは謀略を企てた悪の首魁としては呆気ない、しかして無害な存在に溶け込もうとした者に相応しい末路であった。

 地方都市の裏に潜む謀略は√能力者の尽力によって未然に防がれた。恐らく、異常に気付いた者は極々僅か。その一握りの者にしても、何が起こったかまではきっと理解できないだろう。だが、それで良いのだ。例え些細な事でも善い行いをしようとする気風だけが、事件の残した唯一の残滓である。
 斯くして√能力者たちは自分たちが人知れずに為した『行い』を胸に刻みながら、それぞれの√へと帰還を果たすのであった。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

挿絵申請あり!

挿絵申請がありました! 承認/却下を選んでください。

挿絵イラスト