機械の眼すらも魅了する

作者：lulu

　肩に載せている｜機械《レギオン》のせいだろうか？ そのレギオンへ頬を寄せ微笑む少女が人工物ではないことが些か不思議に思えてしまう。
　画廊の主人によるならば、これは人間の少女だと言う。それを告げられて、そう、と返した僕の言葉は何処か気の抜けた響きをして、消えた。驚きを声や言葉にすることに気が向かない程度には瞳を奪われていたから仕方ない。自然の内にこの造形と色彩が成るなんて、俄かには信じられない、納得が行かない様な気がした。
　例えばこの少女が｜少女人形《レプリノイド》だと言われた方が何処か腑に落ちた様な気がする。そうすれば僕は、強度のことはさておいて、たとえば彼女の肌はボーンチャイナの類で、髪と瞳はコバルトスピネルで出来ているのだと解釈をして納得をすることが出来ていただろうから。でも、光に透けてしまいそうな趣は、何も纏う色彩によるものだけでなく、化粧けのない……嗚呼、違うなぁ。化粧すら必要としないほどに透明感のある可憐な面差しの資するところも、大きすぎるから。首から上の唯一の飾り気はサイドバングのヘアピンで、曲線的ではない金色が一抹の硬質さを添えている。それは例えば熟練のシェフがとっておきのひと皿の仕上げに添えるすこしの香草の様に、或いは削り落としてふわりと載せたトリュフの様に仄かなものでありながら、欠かせない様に思われた。この青い宝石の彩にもしも地金を添えるなら銀や白金より確かにこの色だ、そう考えてから、この金飾が一層彼女自身を宝石めいて彩っているのだと、思う。
　彼女が纏う制服は、華やぎと品行方正さとを兼ね備えている。当世の制服と言うものに僕は知見がある訳ではないけれど、これは何処かの由緒正しいボーディングスクールの制服だと言われたら、成る程と頷く他にない。デコルテに切り替えのあるクラシカルなAラインのワンピースは細身の仕立てで彼女の華奢さ可憐さを引き立てながら、上品なモスグリーンが格調高い趣を添えていた。着崩すことなく折り目正しく纏いつつスカートばかりは膝の見える丈、でも、何ら品位を損なわないのは厚すぎず薄すぎずの黒いタイツを合わせて居るからなのかもしれない。シアー感はないけれど野暮にならない絶妙な厚さの黒は少女らしい細い脚線美を、正しく線を際立てていて、目を奪う。例えばこのタイツのデニールが10から20違うだけでも、この洗練と清楚の両立は難しいような気がした。この少女の楚々とした美しさは、全てこうした絶妙な均衡の上に成り立っているのだと思う。それはちょうど、少女性そのものが揺らぎの上にあるみたいに。
　視線を戻して、レギオンを見た。機械に感情が宿るのか、僕には正直解らない。宿ったところで、表情筋を持たない彼らがそれを表すことはないと言うことももちろん理解している。だからこれは何処までも僕の先入観であり願望なのかもしれないけれど、それでも、この少女が肩に載せているレギオンは彼女となにか友情めいた絆を築いているのではないかと言う気がする。それは一人と一体の所作や距離感、と、言うよりも、これだけの名画を描き出す画家の先生がこうして空気感に織り込んで居るのだから、存外、僕の思い込みとばかりも言い切れないかもしれないね。
　嗚呼でも、事実そうかも。機械であれどこのレギオンは瞳を持っている。だから、その瞳でこの少女を映して、そうすれば心惹かれて、絆を築いたとして何の不思議もないのかも。
　そうだとしたらなんて素晴らしいことだろう、この絵は益々美しいものになる。僕は眦が下がるのを禁じ得ない。

【今日の名画】
レナ・マイヤーの全身イラスト（2024年12月23日納品）