星芒は楂古聿の香りに眩む
●クヴァリフ
仔産みの女神『クヴァリフ』にとって、何も知らぬ無辜の民衆もまた『仔』へと回帰する存在である。
「祝福しよう。そなたらが望むのならば、妾の『仔』を召喚する術を授けようではないか。何も難しいことはない。人と人とが出逢えば、そこに愛というものが生まれる。巷では、迫害の末に殉教した者に由来する日が近づいているのであろう?」
彼女は母性満ちる微笑みを『狂信者達』に向けた。
「迫害による殉教。それを忘れぬためだと言いながら、新たなる催事へと塗り替えてしまう。過去在りしことも、全てそうやって生まれ変わっていくのだ。何も恐れることはない」
「我らは貴女様の『仔』へと新生を果たしたい。そして、それを世の多くに、あまねく全ての人類に伝播させたいと思っております」
『狂信者達』が恭しく頭を下げ、その手に仔産みの女神『クヴァリフ』は、ぶよぶよとした触手状の怪物を落とした。
粘質な音が響く。
だが、『狂信者達』は一切の嫌悪を浮かべることなく、掲げた手の上にて跳ねる触手状の怪物『クヴァリフの仔』を一息に飲み干す。
喉を通り、食道を這いずるようにして触手が蠢く度に『狂信者達』の腹がまるで蚯蚓がのたうつように奇妙な形へと変わっていく。
「お、おおお。おおっ、おおお……!!」
彼らは皆、一様にその感触に吐き気を催したように嘔吐する。
吐瀉物は『クヴァリフの仔』ではなく、胃の内包物であった。まるで『クヴァリフの仔』が己たちの棲家には邪魔だと言うように胃より押し出したかのようであった。
呼吸もできぬほどの息苦しさであっただろうし、己が臓腑の内を別の何かが蠢いている感覚は、言うまでもないが言いようのない異物感に拒絶反応を示すものであった。
だが、『狂信者達』たちは恍惚たる表情を浮かべていた。
「……おっ、おお……これがっ、これが『クヴァリフ』様の慈愛。なんたる力。この素晴らしき|新物質《ニューパワー》こそ、人類の斜陽の救世主」
「なれば、わかっているであろう」
「はっ、仰せのままに。あまねく人類全てに、この素晴らしき回帰と忘却を――」
●星詠み
それは冷たい水面のような青い瞳だった。
黒髪が揺れて、星詠みである鍵宮・ジゼル(人間(√汎神解剖機関)の怪異解剖士・h04513)は、冷静さこそが常であるような平らな表情で集まった√能力者たちに呼びかけた。
「お集まりいただき、ありがとうございます。怪異を崇める『狂信者達』の身に融合した『クヴァリフの仔』を摘出するだけのお仕事です。それはそうと皆さんは、バレンタインデー、ご存知でしょうか」
ジゼルは特別何の感情も浮かばぬ顔でそう告げた。
バレンタインデー。
まあ、人によっては特別な意味を持つものだ。良い意味でも悪い意味でも。
主にかつて迫害された聖人に由来するっ記念日であるとされているし、地域によっては男性が女性からチョコレートを貰う日でもある。また女性が愛を伝える日でもあると言えるだろう。
そのバレンタインデーがなんなのだと、√能力者たちは思っただろう。
「ゾディアック・サインにて予知されたのは、仔産みの女神『クヴァリフ』が己の『仔』たる怪異の召喚手法を授けている、という状況なのです」
いや、全然繋がらない。
バレンタインデーと怪異。
どいうことだ、という√能力者たちにジゼルは頷く。
「古来よりチョコレートには媚薬効果があるとされてきました。無論、近年においては科学的にも否定される迷信ですが、『クヴァリフ』より齎された『クヴァリフの仔』の召喚方法の一つに、人々の繁殖欲求を高める、という手法があるようです」
それで、と未だにピンときていない√能力者にジゼルはまた頷いた。
真面目な顔をしている。
「召喚の儀式に気分を高揚させるチョコレートがばら撒かれているのです。そのため、街中にはチョコレートの香りが充満しています。一刻も早く、この状況を齎している『狂信者達』を止めねばなりません」
正直、√能力者たちは思った。
絵面は最悪だな、と。
彼女の言う街中のどこかに『狂信者達』がチョコレートをばら撒いている現場がある、ということなのだ。
「まずは、このチョコレートの香りが満ちる街中を探索いたしましょう。その後のことは……予知ではわかりかねます。どうか油断無きように。それでは、いってらっしゃいませ」
そう言ってジゼルは√能力者たちの背を見送るのだった――。
マスターより

マスターの海鶴です。どうぞよろしくお願いいたします。
今回の事件は√汎神解剖機関にて仔産みの女神『クヴァリフ』が己の『仔』たる怪異を召喚する術を『狂信者達』に授けていることが確認されました。
『クヴァリフの仔』はぶよぶよとした触手上の怪物です。
これと融合を果たした『狂信者達』は戦闘力を強化されています。
●第一章
冒険です。
儀式の手法の一つなのか、すでに街中にはチョコレートの甘ったるい香りが満ちています。
おそらく高濃度の新物質汚染地帯になっているのでしょう。
興奮効果をもたらすチョコレートの香りは、皆さんの足を止めるでしょう。
なんとか対処して街中でチョコレートをばら撒いている『狂信者達』の姿を探しましょう。
●第二章
集団戦です。
街中を進む皆さんの邪魔をするように敵が迫っています。
これを撃退して、さらに儀式の渦中へと進まねばなりません。
●第三章
前章までの結果で変化します。
状況などは断章をご確認ください。
それでは『クヴァリフの仔』を巡る戦いに挑む皆さんの物語、その√になれますように、たくさんがんばります!
126
第1章 冒険 『高濃度新物質汚染地帯を越えろ!』

POW
気合いと体力で強引に突破する!
SPD
汚染が影響するよりも速く駆け抜ける!
WIZ
魔術や最新技術で汚染対策する!
√汎神解剖機関 普通7 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴
甘ったるい香りが街中に充満していた。
人々は誰もが、そのあまりの匂いに咽るようでもあったし、また吸い込んだが最後、常人である彼らは皆一様に神経が昂りきっていた。
僅かな風一つでも肌は過敏に反応し、脳がシャットダウンするように気絶してしまうのだ。
痙攣する体。
呻く声の震動ですら、彼らには酷な刺激であったことだろう。
そんな中を√能力者たちは往かねばならない。
おそらく、この甘いチョコレートの香気こそが高濃度の|新物質《ニューパワー》なのかもしれない。
いずれにしても、この香気の中を進み、『クヴァリフの仔』を召喚するための儀式たるチョコレートのばら撒きを阻止しなければならないのだ――。

チョコレートは好きだけど、有害な添加物まみれなのは食べたくないなぁ。
ともあれ、匂いが立ちこめているだけなら、あたしは十分「元気」。元凶共を探しに行こう。
コミュ・ブレスレットを使って「情報収集」。調査対象は風向きと匂いの濃度の分布。匂いの流れてくる方がチョコレートのばらまき場所。そっちへ向かっていくよ。
倒れてどうにもならない人がいれば、「救助活動」として近くの建物の中へ入れておこう。外でこの匂いに晒されるよりはマシなはずだから。
まだ動ける人にも「魅了」する声音で屋内への避難を呼びかけておくよ。言うこと聞いてくれたら、後でいいことしてあげるかも?
そろそろ目標地点じゃないかな? 相手はどんな奴だろ?
甘い香りがあたりに充満している。
口元を覆っていてもあまり意味はないな、とパトリシア・バークリー(アースウィッシュ・h00426)は思った。
「チョコレートは好きだけど、有害な添加物まみれなのは食べたくないなぁ」
保存が効くというのならば、添加物も悪くはない。
しかしながら、この街中に満ちるチョコレートの香りは、おそらく新物質の類なのだろう。
謂わば、街一つが『狂信者達』によって儀式の場にされているのだ。
これをどうにかしなければならない。
「うう……あ、ああ……」
あちらこちらから人々の呻く声が聞こえる。
興奮作用のあるチョコレートをばら撒いている『狂信者達』たちの為す行いは、まだこれが儀式の前段階なのだ。
狂乱の儀式を行うための準備としてチョコレートをばら撒き続けている。
とは言え、過敏になった神経のために人々は動くこともできていない。
「匂いだけなら、あたしは十分元気。むしろ……」
体の奥から熱が溢れ出すようだった。
然し、実際に熱は溢れ出していない。こもるように皮膚の下、その血肉を燃え上がらせるばかりであった。
足がガクガクと震える。
皮膚に風が当たるだけでもいいようのない刺激が体中を巡っていく。
言いようのない感覚だ。
敢えて言うなら、針で全身をくまなく刺されているというのが正しいだろうか。
パトリシアは肩を抱きながら、己の腕に嵌められたブレスレットを見やる。
周囲を見やれば、そこかしこに人々が倒れ込んでいる。
重なるようであり、またチョコレートの香りが強くなるにつれて数が多くなっているようにも思える。
「んっ……匂いの強いほうが、流れてくる方角が、チョコレートのばらまき場所ってことよねっ」
体を動かすだけで身に走る刺激。
元気なのだが、こうした刺激がどうにも歯がゆいし、鬱陶しい。
やるべきこととやりたいことがまるで噛み合っていない状況なのだ。
「ううう……」
ちら、と倒れ込んだ人々を見やる。
「ああもうっ!」
捨て置くことができなかったパトリシアは、街路に倒れ込んでいた人々を近くの建物に放り込む。
手を掴んだけで互いにうめき声がでてしまう。
それでもパトリシアは走る刺激に耐えながら息を切らして彼らを建物の奥へと押し込んで扉を閉じる。
この香気から隔絶できれば、なんとかなるはずだろう。
「まったくもう。手間がかかるったらないわ」
√能力の発露なく、けれど、それでもパトリシアは香気満ちる街中へと進む。
進む度に香気が肌にまとわりつくようであったが、往かねばならない。
「目標地点はどこよ。こんな傍迷惑な香気を撒き散らしている奴は!」
パトリシアは憤慨しながら、甘い香りをかき分けて濃ゆくなっていく茶褐色の靄の中を進むのだった――。
🔵🔵🔴 成功

嘘でしょ…なんて俗っぽい|謀略《邪神の胎動》なのだ?
何でもかんでも|新物質《ニューパワー》って付け足せばそういうものなのか…?みたいな感じで納得するわけがなかろうが…なんか無性にムラムラしてくるっていくらなんでも無理が無いかなあ!?
◆調査
インビジブル融合+バーサークで体質を変化させて汚染耐性を得る。アドレナリンがバッドトリップするぞ
馬鹿なの死ぬの?一周くらい回り回って怒りしか湧いてこんわ!ボケーーーー!
ブツを配っている|売人《プッシャー》の臭いを嗅ぎ分けて探す。ソナーに感!⚡️
コイツら『仔』の変異が始まって無いパンピー狂信者か
部位獣化の猫パンチで思いっきり腹パンして無力化する
舐めんじゃねー!
高濃度の|新物質《ニューパワー》汚染地帯と成り果てた街中にはうめき声が満ちていた。
誰も彼もが道に倒れ込み、またはうずくまって立てなくなっていた。
腰砕け、というのがピッタリくる様相であったことだろうし、また絵面は最悪であった。
紅潮した頬。
汗ばむ額。
潤む瞳。
誰も彼もがそんな様子であった。老若男女問わず、だ。
ハッキリ言って、トンチキな香りがしている。否、甘い香りである。
「嘘でしょ……なんて俗っぽい|謀略《邪神の胎動》なのだ?」
二階堂・利家(ブートレッグ・h00253)は驚愕したし、正直困惑しかない。
何でもかんでも|新物質《ニューパワー》って付け足せば、そういうものかぁと納得する人間ばかりだと思われているのではないかとさえ思えてきた。
納得するわけがない。
が、しかしである。
利家は己が鼻腔をかすめる甘い香り……チョコレートの香りにムズムズとした感触を覚える。
「なんか無性にムラムラしてくるっていくらなんでも無理がないかなぁ!?」
しかし、邪神の齎した香気は凶悪であった。
香りを嗅ぐだけで肌の感覚が敏感になってしまう。神経が昂り、過敏になっているのだ。己が身にまとう着衣の衣擦れ一つとってもジリジリとした刺激が体に走り抜けてしまう。
無理がある。
チョコレートが媚薬だっていう古の迷信を頑なに信じてしまう初心さであっても、流石にこれは嘘だろうと思ってしまう。
が、事実、利家の身を刺すのは、痛みすら覚える刺激であったのだ。
「ええい、馬鹿なの死ぬの?」
インビジブルからエネルギーを引き出し、利家は激昂する。
こんなクソ下らないことにつきあわされる我が身の不憫さ。そんでもって、こんば馬鹿げた事態を引き起こした『狂信者達』への怒り。
そんないくつかの感情が激情となって綯い交ぜになってしまう。
混ぜくられた感情は発露を求めて体中に駆け巡って、利家の脳内物質をドパドパと捻出させ、さらにはバッドトリップ……つまりは、不快でもって香気のもたらす快楽を相殺してみせたのだ。
快楽が人をダメにするなら、不快をぶつけるんだよ! みたいな具合である。
プラスマイナスゼロ。
強引なやり方であたったが、利家は寧ろ感覚が感情に引っ張られて逆転していることを自覚していた。
「自覚したからって許されると思うなよ、ボケ――!!」
怒り狂うように利家は街中を走る。
風切る頬に伝わる刺激を不快で打ち消しながら、鼻を鳴らしてチョコレートをばら撒いている売人こと『狂信者達』の姿を探す。
しかし、茶褐色の靄の如き香気が彼の視界を塗りつぶす。
それを利家は獣化変化した猫の手でもって払いながら、突き進む。
「どこまで逃げようが、俺の|ソナー《嗅覚》から逃れられると思ってんじゃねー! なめんにゃよ!」
おっらぁ! と利家はアドレナリンどばどばなままに街中を走り抜け、その香気の大元たる『狂信者達』たちを追うのだった――。
🔵🔵🔵 大成功

【SPD】※アドリブ・連携歓迎
「うぅ…チョコレートは甘くて大好きだけど、ただただ甘ったるいのはちょっと苦手かも…。」
せっかく世の中が華やかなイベントムード一色なのにこんな陰鬱な事にしちゃうなんて、邪神って空気読めないのかしら?
ともあれまずは核心部分に辿り着かなきゃね。鼻や口を布で覆い、汚染された空気をなるべく吸い込まないようにしながら、技能の環境耐性等も駆使して可能な限り素早く汚染地帯を駆け抜けるわ。
でもせっかく敵地に足を踏み入れるわけだから、少しでも目につくモノがあればしっかりと視認していくわね。
それにしても『クヴァリフの仔』って何なのかしら?聖バレンタインと関係があるような代物なのかしら?
街中の至る所でチョコレートの甘い香気が満ちている。
まるで茶褐色の靄に街が沈んでいるようにさえ思えてしまう。無論、それは錯覚であろう。
しかし、事実一歩踏み出しただけでルクレツィア・サーゲイト(世界の果てを描く風の継承者・h01132)は思わず顔をしかめてしまった。
「うぅ……チョコレートは甘くて大好きだけど、ただただ甘ったるいのは、ちょっと苦手かも……」
口元を抑えて彼女は辟易するようだった。
確かにチョコレートは美味なるものだ。
好きか嫌いかで言えば、十分好きだと言えるものだた。だが、度を過ぎれば、ということだ。
街中に満ちる香気の甘ったるさは、今後一時は遠慮したくなるほどだったのだ。
それに、とルクレツィアは思う。
世はバレンタインデームードである。
イベントというのはいつだって人の心を踊らせるものだ。なのに、こんな陰鬱な事になっている。
街中には香気に当てられて、悶絶している人々が倒れ込んでいる。
誰も彼もが身動ぎするだけで、その身に刺激が走り、立つこともできぬのだ。
恐るべきことだ。
「邪神って空気が読めないのかしら?」
せっかく楽しいはずのイベントも、この香気のせいで楽しめなくなってしまうではないか。
そんなことは許してはおけない。
とは言え、このまま宛てもなく街中を歩むことは危険だ。
この香気をばらまくチョコレートを用いている『狂信者達』を探し出さねばならない。
ルクレツィアは己の鼻と口をマスクで多い、香気をなるべく吸い込まぬようにしながら、この街を包み込む異常なる環境を如何にかせんと走る。
「どこもかしこも、倒れ込んだ人ばかり……本当に嫌になるわ」
だが倒れ込み、悶絶している人々の数が多くなるのは街の中心だ。となれば、この香気が最も濃い場所が割り出せるだろう。
いつだってそうだが、このような異常現象を引き起こす者たちは、如何に効率くよく伝播させるかに腐心するものだ。
なら、とルクレツィアは街の中心へと走る。
肌が汗ばむのは、走っているからだけではないだろう。マスクで鼻と口を覆っていても香気は彼女の鼻腔に染み込んでくる。
「マズイわね。ちょっとの香気でもこれ?」
肌がピリピリとしてくる。
これほどまでの香気、正直に言えば想定外であったかもしれない。
『クヴァリフの仔』を召喚するために必要な儀式の一つかもしれないが、本当にチョコレートと関係があるのだろうか?
そして、バレンタインデーの起源となった聖バレンタインと関連があるのだろうか?
いや、とルクレツィアは頭を振る。
その関係性を探るのは今ではない。
数ある一つに過ぎないのであれば、ただこの機に乗じただけなのかもしれない。
「前に進むしかないってわけよね、どの道」
意を決してルクレツィアは熱こもる体を押して、香気満ちる街中の中心へと走るのだった――。
🔵🔵🔵 大成功

季節柄ですけど。
匂いが問題なら強風などで吹き飛ばして散らせば良いのですが
機器を準備する時間はなさそうですし、新物質の正確な効果情報が
不明なので過信は禁物。
新物質入りチョコレートを確保し後で分析したいです。
行動は迅速を持って。
現場周辺に召喚儀式が出来そうな場所がないか調べておく。
「呪詛耐性」「狂気耐性」「霊的防護」「精神抵抗」で興奮作用に
抵抗。
周囲の影響を受けている人達を観察し症状の大小を判断。緊急性の
ありそうな人のみ「医術」「救助活動」で応急処置。
チョコレートが散らばっている箇所と匂い、あらかじめ調べた
召喚儀式が出来そうな場所辺りを重点的に回り、狂信者達を探す。
可能ならチョコを密封処理し確保。
チョコレート。
それは季節柄切っても切り離せぬものであったことだろう。
男性はソワソワとしだすし、女性はワクワクするものだ。それが一般的なことであって、普遍的なことではないけれど、それでもイベントというのは人の心を豊かにするところのものであることを八辻・八重可(人間(√汎神解剖機関)・h01129)は理解していた。
とは言えである。
『クヴァリフの仔』。
これを確保することが急務。
そして、これを召喚する方法として街なかを包み込む、チョコレートの香気。
これを吸い込んだ者たちは皆、興奮作用によって感覚を鋭敏化され、少しの刺激でも脳がシャットダウンしてしまうほどの感覚を味わってしまう。
悶絶必倒というやつであろう。
それほどまでにチョコレートの香気の効果は凄まじいものだったのだ。
「匂いが問題ならば強風で吹き飛ばして散らせばよいのですが、機器を準備する時間はなさそうですね。どの道、行動は迅速を持って成さねばなりません」
そう、この街に身をおいている以上、完全に香気を遮断できないのならばためらっている時間もない。
「香気は空気を伝って伝播する。であれば、『狂信者達』は効率よく、この香気を街に広げるために如何にするか。考えれば簡単なことなのでしょう。『狂信者達』たちにとっては、儀式を邪魔立てする存在をも遠ざけるのが、この香気。であれば」
八重可は『狂信者達』が街の中心にて陣取っていることを導き出す。
であれば、自分がすべきことは一刻も早く、街の中心部へと到達することである。
彼女は防毒マスクを装着して香気濃度の濃ゆい中心部へと進む。
周囲には香気に当てられて悶絶する人々が垂れ込んでいる。
緊急性はないようだが、下手に動かせば、その刺激だけで彼らは悶絶してしまうだろう。厄介である。
「香気が薄れさえすれば、この神経の興奮状態も時間と共に薄まっていく。であれば、下手に触れないですね」
八重可は『狂信者達』が効率を重視するのならば、中心部で香気を炊くだけではないだろうと推察する。
言ってしまえば、撒き餌めいたものを周囲に残しているはずだ。
そうでなければ、周囲の環境……例えば、気象状況によって香気の効果が及ばない場所も生まれるはずだからだ。
「であれば」
彼女は路地裏へと踏み込む。
そこにはまるで置き型の撒き餌のように設置された小鍋があった。
ここからも香気が溢れている。
茶褐色の液体……いや、粘性がある。
「これがそうですね」
手早く彼女は置き型の香気を発するチャッ褐色の液体を確保し、密封処理をして確保する。
「まずは一つ確保。解析は後にしておきましょう。どうせろくなものではないでしょうが、|新物質《ニューパワー》かもしれません」
検証すべき物質は多ければ多いほどいい。
八重可は一つ頷いて、密封処理を施したサンプルと共に街の中心部へと駆け出すのだった――。
🔵🔵🔵 大成功

話に聞くだけだと「なんて阿呆な企みだ」って笑っちまうが……いや、体感するとキツイぜ。
腐っても|新物質《ニューパワー》ってトコか。考えた奴は一周回って天才だな。
……まあ、正直ブッ飛ばしてやりてェ気持ちでいっぱいだがな!
一応俺も年頃の男なもんで、こういう刺激ってのには割と敏感ではある。
正直言やァ、いっそのこと理性やら何やらかなぐり捨てて裸で走り回りたい気分だ。
だけどな……騎士の精神力をナメんなよッ……!
持ち前の〈精神抵抗〉〈環境耐性〉で衝動を抑え込んで、〈第六感〉を研ぎ澄ませてこのバカ騒ぎを引き起こしている狂信者どもを探し出すぜ。
俺を(いろいろな意味で)その気にさせた責任を取らせねェとなァ……!
チョコレートの香気による興奮作用。
それによって引き起こされる儀式。
街中を包み込む茶褐色の靄の如き香気が齎した惨状は、その前段階であるというのだ。
誰も彼もが鋭敏になった感覚にうめいている。
倒れ伏して、一つも動けない。
身を動かせば、衣擦れ一つで悶絶してしまうからだ。老若男女問わずに、そのような光景を織りなしている。
ハッキリ言って、どうしようもないほどの光景である。
「聞いた話だけでは『なんて阿呆な企みだ』って笑っちまったが……いや、これ体感すると……っ!!」
ケヴィン・ランツ・アブレイズ(“総て碧”の・h00283)は我が身を包み込む黒鉄の鎧の内側に走る感覚に、ぞわりと肌が泡立つ感覚を覚えたことだろう。
体を動かすと触れる鎧の金属の感触が言いようのない刺激となって脳天まで走り抜けるのだ。
常人では耐えられない。
腰が砕けて立つどころではないし、動くだけで刺激が体を駆け巡ってくるのだ。
どうしようもない。
これは本当に、とケヴィンは思ったことだろう。
「腐っても|新物質《ニューパワー》ってトコか。考えた奴は一周回って天才だな」
痛みや苦しみは耐えることができる。
が、こうした快感めいた感覚を一度受け入れてしまえば、人間の意志なんていうものは濁流のごとく押し流されてしまうものだ。
まるで水が上流から下流に流れていくようなものだし、下流から上流に向かって水が流れることがないように、抗えぬものなのだ。
「……まあ、正直ブッ飛ばしてやりてェ気持ちでいっぱいだがな!」
身に走る刺激を逃すために叫ぶ。
が、ケヴィンは呻く。
叫んだ振動が身に走るだけでゾワゾワとするのだ。
正直に言えば、いっそのこと理性なんてものをかなぐり捨てて走り回りたいくらいだ。
鎧が邪魔だ、と思ったのはこれが初めてかもしれない。
それくらいにこの身を突くような刺激がケヴィンの精神を毒し続けていたのだ。
だが、ケヴィンは頭を振った。
そう、己はなんだ?
「騎士だ。なら、俺は……ッ!」
一念発起。
やると決めたのならば、やり通さねばならない。
そして、人を救うと決めたのならば、どんな困難な状況であっても折れてはならない。
その意思を宿してケヴィンは街中を走る。
「騎士の精神力をナメんなよッ……!」
衝動を抑え込みながら香気の色濃き中心へと走る。
どう考えても、この馬鹿騒ぎを引き起こした張本人たちは街の中心にいる。
確証はない。
だが、己の第六感がいっているのだ。有り体にいえば、ただの勘だ。
正しくなかったのならば、潔く足を止めるしかない。だが、見つかるまで走れば、少しは体の内にこもり続ける熱も発散できようというものだ。
「俺をその気にさせた責任は取らせてやるからなァ……!!!」
そう信じてケヴィンは額に汗流しながら叫ぶのだった――。
🔵🔵🔵 大成功

うわ、甘ったるい。
スイーツは大好きだけど、ここまで濃ゆいとちょっと食傷気味にだね。
なにごとも適度がいちばん。
用法用量を守って使用しましょう、ってね(こく
とりあえずこの状況をなんとかしないと探索もままならないか。
ここは【禍祓大しばき】で【載霊無法地帯】作り出して、
チョコの匂いとか興奮とか吹き飛ばしつついくことにしようかな。
これで狂信者たちが出てきてくれればらっきー。
出てこなくても探すのは楽になるだろうしね。
ま、興奮状態のままだとしてもハイテンション探索になるだけなんだけど。
卒塔婆振り回しつつになるだろうから、周囲に被害が凄そうだけどね
でも狂信者たちも巻き込んでいくだろうから、それもありかな。
「うわ、甘ったるい」
伊和・依緒(その身に神を封ずる者・h00215)は、あまりの香気に顔をしかめた。
スイーツは好きだ。
正直に言って、人の技術の粋を集めた芸術作品であるとさえ思っている。
見て良し。
食べて良し。
食べ物というのは舌で味わうものだ。ただそれだけであったのならば、生存に必要なエネルギーを得るためだけの行為だ。
けれど、人の技術は食事をするという行為を芸術にまで昇華せしめたのだ。
見目に精緻なる細工。
舌触りに歯ざわり。
味わい。それらが織りなすハーモニー。素晴らしい。
「だけど、ここまで濃ゆいとちょっと食傷気味になるんだよね」
何事も適度がいちばん、と彼女は手にした卒塔婆を地面へと叩きつけた。
彼女の瞳が√能力の発露に輝いている。
そう、この香気が人の感覚を鋭敏にしている原因だというのならば、これを浄化すればいい。
彼女の√能力は、その卒塔婆でもって叩きつけた地面を載霊無法地帯へと変えてしまう。
つまり、彼女の身を興奮作用によって悶絶させようと目論む者たちの企みが成功する確率を半減させてしまう領域へと変貌させてしまうのだ。
「用法用量を守って使用しましょう、ってね」
ごん! とまた地面を叩く卒塔婆。
その度に彼女の周囲は載霊無法地帯へと変わっていくのだ。
「チョコの匂いで興奮とか迷信なんだけど、人は思い込むと良いことも悪いことも肉体に影響を及ぼしちゃう。これで『狂信者達』がでてきてくれればらっきーって思っていたんだけど……」
周囲を見回しても、いるのは悶絶している人々ばかりである。
彼らは香気を吸い込んでしまったがために、ああなってしまったのだろう。とは言え、彼女が生み出した載霊無法地帯によって香気は薄れている。
徐々に香気が体から抜けて、正気を取り戻すだろう。
そういう意味では、彼らの救助をしなくていいのは喜楽だった。
ぶん、ぶうんと卒塔婆を依緒は振り回しながら、香気を払う。
その視線が向かう先は、街の中心部。
どう考えても、香気が濃ゆい。
であれば、当然そこに原因がある、ということだ。
「詰めが甘いっていうよりは、効率を優先した形なんだろうね。うん。なら、このまま進んじゃおう」
彼女は手にした卒塔婆を振るう度に生まれる風と共に香気を寄せ付けぬままに街の中心部へと歩んでいく。
この先にいる『狂信者達』を必ずやしばき倒してやらねばならない。
何故なら、彼らの引き起こした事態は迷惑千万であるからだ。
何せ、世はバレンタインデー。
折角心躍るイベントだというのに、今回の惨状によって人々がチョコレートの香気にトラウマを抱くなんてことがあってはならないからだ。
だから、しばく。
しばき倒してやるのだ――!
🔵🔵🔵 大成功

いやぁ、どうにもろくなことをしねえなぁ狂信者の連中もクヴァリフだかなんだかも!!
兎に角このすんげぇ香気の中突破しろってえわけだ、しゃーねえやってやんよ!!
【WHO AM I?】
今日は差し詰め|扇風機頭《ファンヘッド》てとこか!
(強化:送風機能/武器:両腕装着式扇風機型旋回ブレード)
風起こして匂いを吹き飛ばしちまえば探索しやすくなるよなあ!!
香気を人がいない方に吹き飛ばしつつ進むこととしよう!
つーかよぉチョコってのはもっと人を幸せにすることに使うべきだよなあ!!?食べ物粗末にしてんじゃねぇぞクソッタレ!!
あーーなんか腹立ってきたわ。見つけ次第狂信者の野郎どもはぶっ飛ばす!!!
チョコレートの香気が街中を包みこんでいる。
常であったのならば、もうそんな時期かぁ……くらいに思えたことだろう。
が、街中のあちこちから人々の悶絶する声が響いている。
苦悶の声と言ってもいいだろう。
香気による興奮作用によって人々の感覚は鋭敏になっており、肌を風が撫でるだけで、その刺激は脳をシャットダウンさせてしまうほどなのだ。
故に街中の至るところで人々が倒れ込んで体を震わせているのだ。
ハッキリ言って、阿鼻叫喚の地獄絵図のようであった。
「いやぁ、どうにもろくなことをしねぇなぁ『狂信者達』ってのも、クヴァリフだかなんだかも!!」
ノーバディ・ノウズ(WHO AM I?・h00867)は呆れ果てた、とでも言うかのように、そのフルフェイスヘルメットのフェイスガード部分に浮かぶのは、顔文字であった。
辟易するぜ、と言わんばかりに彼は肩を竦めて、茶褐色の靄のような香気が満ちる街中を見つめる。
「兎に角、このすんげぇ香気の中を突破しろってえわけだ」
どうすっかな、と彼は首をひねる。
ひねった瞬間、そのフルフェイスヘルメットが、ころりと首の根元から転がり落ちたのだ。
もしも、そのさまを見た者がいたのならば首が落ちた! と目を見開くところであっただろう。
だが、幸いにして此処には彼の首が転がり落ちた様を見る者はいなかった。
フルフェイスヘルメットを受け止める腕。
「しゃーねぇやってやんよ!!」
√能力の発露と共に周囲のインビジブルの孤影が揺らめく。
彼が手にしたのは。
「今日は差し詰め、|扇風機頭《ファンヘッド》ってとこか!」
回転する扇風機めいた頭部。
すげ替えられた頭部から吹き荒れる風。
送風機とかした彼の頭は、√能力によって周囲の香気を吹き飛ばし、薄れさせていくのだ。
「ハッハッハッハ! こんなクソ香気なんてのはぁ! 吹き飛ばしちまうに限るようなぁ!!」
扇風機頭が街中を走る。
その度に香気は舞い上げられ、上空へと排出されていくのだ。
街中を包んでいた香気が徐々に薄れていくだろう。
「探索しやすくなるなぁ! 俺って実は大天才なんじゃあねえか? おい! ハハハハハッ!」
笑う扇風機男は香気を舞い上げながら走り続ける。
「つーかよぉ、チョコってのはもっと人を幸せにすることに使うべきだよなあ!!? 食べ物粗末にすんじゃねぇぞクソッタレ!!」
折角甘い香りがしているのに、やっていることはただのえげつない行為でしかない。
そんな利己的な行いを見て捨て置けることができるわけがない。
チョコレートってのは、もっとこう幸せなものでなければならない。幸福で満たされて……。
「あ――なんか腹立ってきたわ。見つけ次第ブッ飛ばしてやるから、覚悟しやがれよ――!!」
🔵🔵🔵 大成功

まぁ、チョコレート。ハイカラですね。
わたくしも甘いものは好みますけれど、これは困ってしまいます。
興奮作用のある香りの中、無防備に人の子が倒れているのなんて目にしてしまっては、獣妖の本能を抑えきれるか。
衝動的に触手が伸びないよう、人化けの術で肉体改造、下半身も人の姿で捜索をいたしましょう。
いたた……ヒリヒリいたします。
けれど、このくらいの刺激があった方が気が紛れますね。
何もないとよろしくない事を考えてしまいそうで。あ、触手が。
ついついにゅるりと出てしまう捕食用の触手を抑えながら香りの強くなる方へと向かいましょう。
信者の方たちにはお仕置きをしなければなりませんね。
鼻腔を擽る香気。
その甘い香りに御蘿・伊代(殺戮触手・h05678)は、僅かに頬をほころばせた。
「まぁ、チョコレート。ハイカラですね」
茶褐色の甘い甘い菓子。
舶来のものであるし、また彼女にとって甘いものは好ましいものであった。
だがしかし、彼女を困惑させていたのは、チョコレートの香気がもたらす興奮作用であった。
彼女の身にかかる興奮は、その身の内側に言いようのない熱をもたらすものであったことだろう。
「これは困ってしまいます」
彼女の眼前にあるのは、悶絶して倒れ伏す人々。
人間。
それも身悶えしている人間なのだ。
ぐつぐつと腹の底から湧き上がるような感覚に伊代は、己が下半身……常ならば無数の蠢く触手となっているそれを化け術でもって人のそれへと変える。
二本足で立つ、ということは伊代にっては不安定そのものだった。
ただの平坦な道も、平行棒の上を歩くのと同じであった。
集中しなければならない。
それ以上に鋭敏になった感覚は、その足裏の感触させ言いようのない刺激となって彼女の脳天まで駆け抜けていくのだ。
「いたた……ヒリヒリいたします。ですが、このくらいの刺激が合ったほうが……気が紛れますね」
そう、気が紛れる。
彼女にとって香気の興奮作用は言いようのない熱をもたらすものであった。
彼女自身が憂いていたのは、己が身ではない。
眼前に無防備に身悶えしてる人々に対して憂いを覚えていた。
頭の中を駆け巡るよろしくない考え。
無論、それは想像の中だけのものだ。
彼女の頭の外にでていくものではない。だが、現実に眼の前に人々が身悶えして悶絶している様を見れば、そこにどうしてか諸々のことを置き換えてしまうのは、正直言って無理なからぬことであった。
理性が警鐘を鳴らしている。
本能を抑え込んでいる。
額に浮かんだ汗が、頬を伝う。
あ、と思ったときには人に化けた触手がいつのまにか解除されて、ついつい捕食用の顎もたげる触手へと変貌していた。
悶絶する人々の頭上に影がかさなる。
もたげた顎は、人間なぞひとのみにしてしまえるほどの大きさであった。
だが、伊代は触手を手で掴み、ぶるぶると震える触手を引っ張り込みながら息を吐き出す。
「……信者の方たちには、お仕置きしなっければなりませんね」
どうしようもない興奮作用。
彼女の獣妖の本能が刺激されてやまぬ状況。
この状況下にあってなお、伊代は己を厳しく律していた。
並々ならぬ精神力である。だが、それは本当に精神力だけであっただろうか?
人の輝きに魅せられた者が、その輝きを潰えさせることなどあってはならない。
だからこそ、伊代は強靭なる克己心でもって本能によって暴れ狂うような触手を抑えながら、茶褐色の靄満ちる街中へと歩む足の痛みに耐えながら進むのであった――。
🔵🔵🔵 大成功

いやー、この匂いはきっついわ
|主人格《ペオーニア》ならこれすらも商機にしちゃうのかもしれないけど
私には『突破する』事しか無理ね
気合と根性とスピードで乗り切るわ
ライダー・ウィーグルに乗って移動
突っ走れば空気の対流で多少匂いもどうにかならない?
ならなくても突っ切るだけなんだけど
直感(第六感)を信じる!
あっち!
当たらなくてもウィーグルの機動力でカバーするつもり
標的を見つけたら鉄拳でちょっとお仕置きね?
大人しくしたら良し
ならなかったら、首絞めて落とすわ(グラップル)
まぁ死なないでしょ
死ぬ前に全部のカタをつけないとね
それにしても嫌な匂い
高濃度の新物質、ね?
害しかないなら遠慮なく潰すだけよ
覚悟してもらうわ
「いやー、この匂いはきっついわ」
リーリエ・エーデルシュタイン(アンダー・ザ・ローズ・h05074)は、思わず鼻をつまみそうになっていた。
それほどまでに街を包み込む香気は甘い。
匂いだけで胸焼けしてしまいそうだった。
彼女にとっては、そうかもしれないが、彼女の主人格であったのならば、これを商機と捉えて何かを企てるのかもしれない。
が、あいにくとリーリエにはそういった商才はない。
であれば、どうするか。
どの道、この香気を撒き散らしている連中をとっちめなければならないのだ。
「うん、私には『突破する』ことしか無理ね」
むしろ、そうするほうが手っ取り早くて、事態を解決するのに最も良いことであるように思えてならなかったのだ。
「うーん、正直どっちに向かえばいいのかもわからないけれど……うん、あっち!」
それは直感であったし、第六感でもあった。
なんとなくあっちが怪しい! くらいなものであった。
茶褐色の靄。
その色濃ゆい方角にこそ『狂信者達』はいるはずだ。
何故なら、こういう碌でもないことを企てる者たちというのは、いつだってそうだが、人目に憚るものである。
であれば、この茶褐色の靄にまぎれて行動を起こそうとするのはある種必然でもあったことだろう。
リーリエはライダー・ヴィーグルにまたがりエンジンを吹かす。
排気音がけたたましく鳴り響き、後輪が空転してアスファルトを切りつけた瞬間、一気に彼女は加速する。
「うっ、ヤッバ!」
空気の対流で突っ切れば多少匂いも薄まるかと思ったが、皮膚からじわじわと香気の作用が浸透してきているように思えてならない。
バイクのエンジン音。
排気音。
そのすべての振動がリーリエの体に刺激となって突き刺してくるようだった。
「ほんっと……ろくでもないことばっかりしてくれちゃってさぁ……!」
頬が熱い。
体が熱い。
汗ばむ肌が気持ち悪いし、流れ落ちる汗の感触一つとっても言いようのない刺激となって彼女の体の上を流れていくのだ。
「お仕置き確定ね、これは! 本当にもう嫌になる!!」
火照る体のままリーリエは一気に茶褐色の靄を突っ切る。
街の中心部へと向かう彼女は、クラクラとする頭を払うようにして頭を振る。
兎にも角にも鉄拳制裁してやらねばならない。そうでないなら、絞め落としてやりたい。
死なない程度にブッちめてやらねば気がすまない。
この嫌な香り。
恐らく|新物質《ニューパワー》の類なのだろうことは予想がつく。
が、害にしかならない。
「なら、この新物質とやらごと遠慮なく潰すだけよ! 覚悟してもらうわ!」
握りしめたハンドルグリップが軋む。
それはリーリエの怒りと嫌悪感と、唸るような体の熱を発露するように響くのだった――。
🔵🔵🔵 大成功

【ゼミ】アドリブ歓迎
おお!? なんと、クヴァリフの仔を召喚する方法ですと!?
実に興味深い……! 是非とも彼らに接触し、その知見を得なくては!
それにバレンタインのチョコレートに混ぜ物をする所業も、いやはや懐かしい。
黄金の蜂蜜酒をチョコで包んでボンボンとして教え子に振舞った懐かしい思い出が……。
いえ、物思いは後に。一刻も早く現地に向かわねば!
と言う訳で、我が師サイロンを伴って新物質汚染地帯へバギーで駆け付けましょう!
甘い菓子の香りは、神秘なる叡智の断片を使って汚染対策技能を上昇させて耐えてみましょう!
ええ、ええ、師よ! クヴァリフの仔を得るこの機会。逃す訳には参りませんなぁ!
ハッハァ!

【ゼミ】アドリブ歓迎
礼文のバギーに同乗して参加。
ほう。クヴァリフ。
レイブンが幾度か接触したという、仔産みの女神。
……属性は、地ではない。水か? それにしては人臭いが……いや。
神を測ることは大それたことだ。恐れ多いともいうか。
人ならざる身に転じたとはいえ、私の精神は人の領分の中にある。
線引きを見誤らないこと。それは重要なのだ。
それはそれとして、その臓腑はとても興味深いものだ。
忘却を司るとはとても面白い特性をしているな。
敬意と探求は別に分けて、かの方の仔を調べさせてもらえるのであればうむ、やぶさかではない。
レイブン。今の私は助言とささやかな呪いしか施せない状態だ。
君が主導だ。思う存分に励むといい。
インビジブルより引き出されたエネルギーによって駆動する四輪車『ゴーストバギー』が茶褐色の靄満ちる街中をひた走る。
同乗した魔術師・サイロン(ヴァラードの魔術師・h00764)は、ふむ、と小さく頷いた。
この街中を包み込む異常事態は、どうやら仔産みの女神『クヴァリフ』が関与しているらしい。
であれば、興味を惹かれるのは強いたかないことであった。
「ほう。これが『クヴァリフ』の『狂信者達』が引き起こした事態だというわけだ」
「どうやら、その『クヴァリフの仔』を召喚する方法を『狂信者達』が得たというわけですな! 実に興味深い……! 是非とも彼らに接触し、その知見を得なくては!」
るんるん気分で『ゴーストバギー』のハンドルを握る 角隈・礼文(『教授』・h00226)は、まさしく意気揚々たる佇まいであった。
「それにバレンタインのチョコレートに混ぜものをする所業も、いやはや懐かしい。黄金の蜂蜜酒をチョコで包んでボンボンとして教え子に振る舞った夏t香椎思い出が……」
「それは碌でもない思い出ではないか?」
「いやはや、そんなことはありいませぬぞ。むしろ……いえ、物思いは後に。一刻も早く現場に向かわねば!」
それはそうかもしれないな、とサイロンは助手席で頷く。
とは言え、だ。
仔産みの女神『クヴァリフ』。
礼文が幾度か接触したという女神。
話を効く限り、その属性……母なる大地というのならば、地であろうが、水にも思えてならない。
むしろ、そうした報告を読むに限って言えば、人臭いような所作を見せる気がしないでもないのだ。
「いや、人ならざる身とおて、神を測ることは恐れ多いというものか」
サイロンは確かに人ならざる身。
だが、精神は人の領分にとどまっている。
であれば、己に出来るのは線引のみ。それを見誤ることがってはならないのだ。
「そんなことおっしゃっておりますが、怪異の臓腑には興味心でございましょう?」
「たしかにな。忘却を司るとはとても面白い特性をしているな、とは思う」
「そうでありましょう。いやはや、しかしながら、この甘い菓子の香りは、神秘なる叡智の断片を持ってしても、なかなか身に応えますな!」
「言ってる場合かい。ハッキリ言っておくが、今の私は助言とささやかな呪いしか取り柄がないのだ。あまり頼りにしてくれるなよ」
「ええ、ええ、師よ! わかっておりますとも」
『ゴーストバギー』が茶褐色の靄満ちる街路を往く。
じわじわと車内にも香気が滲み出してきているような気がしてならない。
車体の振動すら、鋭敏になりはじめている神経に触るようであった。
「こんな危険極まりない状況にあっても、『クヴァリフ』の臓腑にはとても興味深いものだという認識をしてしまう。私も大概だな」
「これが『クヴァリフの仔』を得る機会でもなければ、といったところでありましょうが、生憎とUターンするつもりは毛頭ありませんとも! この絶好の機会、逃す訳には参りませんなぁ! ハッハァ!」
「無論だ。今回は君が主導だ。思う存分励むといい」
「ありがとうございますッ!」
礼文は軽やかに笑いながら、その何も移していないような艶のない黒い瞳をフロントガラスの先に向ける。
向かう先は、街の中心部。
この茶褐色の靄、香気が色濃い場所にこそ『狂信者達』はいるはずだからだ。
そのためには、理性など不要。
ただただ、叡智の源へと突っ走る胆力……否、好奇心が一つあればいいのだ。
故に礼文はサイロンを乗せた『ゴーストバギー』のアクセルを全開にし、さらに街路を突っ切って進むのだった――。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功

【六七】
俗っぽい…ですが、ある意味この時期には有効なんですよね…。
チョコは魅惑の食べ物ですし。それに有害物質まで添加されるとなると…大惨事に。
匂いの強い方向へ行くと、自然と刺激が強くなりますが…!
ええ、すみません。ここを駆け抜けねばならないので、呪詛耐性で耐え抜いていきます…!
満弥、これ耐えれますよね!?
私ですか?聞くのも野暮っていうものですよ…!

【六七】
何で俗な方向に…!?時期的なやつ!?
いえまあ、有給休暇明け、別の意味で恐ろしくなってきましたけど…!?(机の上に書類いっぱい的な意味で)
私は霊的防御で対抗しますけど…人々には…ごめんなさい。威圧でどいてもらいます!
まずは、ここを抜けなければ。匂いの強い方向は…第六感も合わせて…こっちですか!
満希、誰に聞いてるんですか!耐えられます…って、ここでも惚気の一部ですか!?
ごちそうさまですけど!!
『クヴァリフの仔』。
その召喚の儀式のために街中に撒き散らされた大量のチョコレート。発せられる香気によって街中の人々はもれなく悶絶し、絶倒していた。
さもありなん、である。
そのチョコレートの香気は人に興奮作用を与える。
興奮作用によって鋭敏になった神経は、僅かな刺激だけで通常の何倍もの感覚となって体を駆け巡るのだ。
そのあまりに凄まじい感覚に常人は脳が耐えられない。
シャットダウンするように意識が刈り取られれば、もはや倒れるしかない。
立ち上がろうにも鋭敏化した感覚は、衣擦れ一つで様に人々の腰を砕くだろう。逃げることもできない。
そんな狂乱めいた茶褐色の香気が満ちる街中に七浦・シャーグヴァーリ・ルユザ・満希(謎の歌手・h05234)と六絽・シャーグヴァーリ・ユディト・満弥(嚮導者・h05235)の二人はいた。
「何で俗な方向に……!? 時期的なやつ!?」
「俗っぽいで……ですが、ある意味この時期には有効なんですよね」
満弥の言葉に満希は頭を振る。
何故なら、チョコレートは魅惑の食べ物。
有害な物質まで添加されるとなると防ごうと思って防げるものではない。
ましてや、この香気である。
耐性を持ち得ていたとしても、香気が満ちている以上、その身の内側には熱がこもり続ける。
言いようのない感覚。
肌がチリチリとするし、ただ動くだけで身がよじれてしまうのではないかと思うほどの刺激が頭に駆け上がってくるのだ。
そんな中、満弥はこのような事態が起こっているのならば、有給明けが恐ろしくてたまらなかった。
どう考えても膨大な書類が山積みになっているだろうし、彼女が有給を取っている間に届こっていた多くの書類が事務作業が手招きをしているに違いなかったからだ。
「霊的な防御で……どうにかなるものなんですかね、これ!?」
満弥は、己と同様に見の内側から湧き上がる熱を感じているであろう満希を見やる。
彼女のまたどうにか耐えようとしているのがわかる。
が、しかしである。
これは香気なのだ。
吸い込むことによって彼女たちの体躯には変化が生まれている。
身の内側から煽るる熱。
これを発散することもなく、耐える、というのならば、それはあまりにも狂おしいものであったことだろう。
悶絶して倒れ伏している人々のうめき声からしても、これが耐え難い刺激であることは疑いようもない。
「なんとか……耐えられてはいますけどっ」
「満弥、これ耐えられますよね!?」
「誰に聞いているんですか! 耐えられます!」
赤ら顔のまま、二人は互いの顔を見やる。
どうあっても耐えなければならない。
己たちが進むべき道は、前にしかない。
この茶褐色の靄の中をただひたすらにかき分けて進む。
「くっ……!」
「まったくなんて野暮な上に俗なことをしてくれるものです……!」
「本当ですよ! まったくなんでこんな目に合わなくちゃあ……ならないんですかっ!」
本当である。
だが、それでも前に進む事はやめられない。
この先にどんな危険が待っているのかもわからない。だからこそ、二人は気を確かに保たねばならないのだ。
荒れ狂うような刺激。
身の内側に蠢くような熱。
そのいずれをも踏破しなければならない。
「こんなものっ! あの人に比べたら!」
「今、のろけます!?」
「仕方ないじゃあないですか、そうでも思わなければ耐えれないんですからっ!」
「ごちそうさまっ!!」
二人はそう叫んで、茶褐色の靄の中を進む。
香気満る先へ、その先へ。
どんなに苦しくても、香気さえ薄まればどうってことはないのだ。なら、今は進むしかないのだと、二人はよろめきながらも確実に街の中心部へと向かって歩み続けるのだった――。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功
第2章 集団戦 『さまよう眼球』

POW
かじりつく
自身の【眼球と牙】を【真っ赤】に輝く【暴食形態】に変形させ、攻撃回数と移動速度を4倍、受けるダメージを2倍にする。この効果は最低でも60秒続く。
自身の【眼球と牙】を【真っ赤】に輝く【暴食形態】に変形させ、攻撃回数と移動速度を4倍、受けるダメージを2倍にする。この効果は最低でも60秒続く。
SPD
ヒュージ・ファング
【強酸】のブレスを放つ無敵の【無数の牙の生えた巨大な口】に変身する。攻撃・回復問わず外部からのあらゆる干渉を完全無効化するが、その度に体内の【生命力】を大量消費し、枯渇すると気絶。
【強酸】のブレスを放つ無敵の【無数の牙の生えた巨大な口】に変身する。攻撃・回復問わず外部からのあらゆる干渉を完全無効化するが、その度に体内の【生命力】を大量消費し、枯渇すると気絶。
WIZ
新たなる牙
視界内のインビジブル(どこにでもいる)と自分の位置を入れ替える。入れ替わったインビジブルは10秒間【次なる「さまよう眼球」】状態となり、触れた対象にダメージを与える。
視界内のインビジブル(どこにでもいる)と自分の位置を入れ替える。入れ替わったインビジブルは10秒間【次なる「さまよう眼球」】状態となり、触れた対象にダメージを与える。
茶褐色の靄は、街の中心部に近づくに連れて濃ゆくなっていく。
となれば、当然香気も色濃くなっていく。
そんな靄の中に蠢く影がと光があった。
無数の明滅する光。
それ自体を√能力者たちは、インビジブルから引き出したエネルギーの放つ輝きであると理解できただろう。
「ゲッゲッゲッゲッゲッ!!!」
その奇怪な声と共に、その無数の光が迸る。
靄をかき分け、√能力者たちに襲い来るのは、無数の眼球と牙とが集合した肉塊であった。
若干、その体躯は黒ではなく茶褐色に染まって見えるのは、それだけこの街中に満ちた靄が色濃いという証左であろう。
「ゲゲゲゲッ!!!」
ガチンがチンと牙を打ち鳴らしながら迫るは、『さまよう眼球』とも言うべき異形の怪異。
儀式の前段階たるチョコレートの香気に毒された肉を食して、『クヴァリフの仔』らを召喚するための触媒となるべく、『さまよう眼球』たちは、一斉に香気に毒されたであろう肉体を持つ√能力者たちに襲いかかり、その道を阻むのだった――。

いかにも怪異ですって形をしてるね。それじゃあ、遠慮なくぶっ潰そうか。
護霊護国戦「ベヒモス」で、『ベヒモス』を召喚。
その体軀で「重量攻撃」して、文字通りに潰す。岩礫雪崩も付けてあげるよ。遠慮無く喰らうんだね。
あたしも、「怪力」で屠竜大剣を振るって怪異を斬り捨てていく。『ベヒモス』、岩礫雪崩で援護よろしくね。
暴走形態なんて言っても、「カウンター」で大剣を突き刺す方が速い!
『ベヒモス』の身体を上手く利用しながら、怪異の攻撃回数を減らそう。時には『ベヒモス』に踏み潰させたりして。
ここまで来たら、最後まで行かなくちゃね。食べ物にいけないことをした奴は、あたしがきっちり裁きの刃を下すよ。
茶褐色じみた奇妙な体躯が蠢いている。
香気の靄の奥に煌めく無数の眼球と牙。そのいずれもが怪異であるところを疑わせない造形であったことだろう。
本来ならおぞましさや恐ろしさというものを感じさせるはずであったが、パトリシア・バークリー(アースウィッシュ・h00426)は寧ろ見飽きたと言わんばかりであった。
「いかにもって感じね」
とは言え、敵は√能力を扱う怪異であり簒奪者である。
その無数の眼球が煌めくと同時に牙がもたげられ、暴食形態へと変貌を遂げる。
一気に迫る無数の牙。
それはパトリシアの柔肌を引き裂くには十分であったし、事実、数瞬の後には鮮血と共にパトリシアの香気によって感覚が鋭敏化した肌を貫き、その刺激だけでショック死させるものであった。
あの体躯が茶褐色であるのは、これまでそうして香気に毒された人々をくらってきたからであろうことが伺える。
「そう、来るのね。なら、遠慮なくぶっ潰そうか」
パトリシアの瞳にインビジブルの孤影が揺らめく。
引き出されたエネルギーと共に輝く瞳が、巨大なる四足獣を描き、召喚するのだ。
「地を駆ける大いなる獣の王、即ち、護霊護国戦『ベヒモス』! 浅ましき簒奪者共に報いを下せ!」
パトリシアに迫っていた『さまよう眼球』が一瞬で踏み潰される。
だが、その踏み潰した隙間から滲むように茶褐色の体躯が滑り出し、再び怪異の体躯を形成していくのだ。
「はんっ、なるほど。その体躯、不定形であるってことの強みを十分に活かしているってわけね」
「ゲッゲッゲッゲッゲッ!!」
奇怪な声と共に牙が打ち鳴らされ、パトリシアに迫る。
手にした大剣と牙が激突する。
鈍い音が響き、パトリシアは『さまよう眼球』に押し込まれる。
だが、それよりも早く『ベヒモス』の前足が振り下ろされ、岩礫の雪崩が『さまよう眼球』を襲うのだ。
雪崩落ちる岩の礫。
それらを『さまよう眼球』たちは凄まじい速度で縫うようにして体躯を変化させながら躱す。
「速いっ……でも、此処まで来たら最後まで行かなくちゃね」
振るう大剣と『ベヒモス』の岩礫の雪崩。
この波状攻撃によってパトリシアは『さまよう眼球』の攻撃を防ぎいながら、さらに奥へと怪異を押し込んでいく。
「食べ物にいけないことをした奴は、あたしがきっちり裁きの刃を下すよ」
振るう大剣が√能力の発露を受けてきらめき、『ベヒモス』の咆哮が街中に響き渡る。
それは茶褐色の靄の奥で蠢く巨大な怪物を思わせる威容であったことだろう。
パトリシアは、その『ベヒモス』の咆哮に負けじと大剣を振るい、『さまよう眼球』を相手に奮戦するのだった――。
🔵🔵🔵 大成功

ワーオチョコ色の身体した目ん玉だぁ!
いや色が気持ち悪ぃわ!!
テメェの方から挑みかかってくるなら遠慮なくぶちのめして下さいって事って受け取っていいよなあ!?
じゃアそうさせて貰うぜェ!!!
下拵えだ、扇風機から風送って新鮮な空気送ってやるぜ!!(属性攻撃:風+だまし討ち)
そんで扇風機を外して新たにつけるはジッポライター
今の俺は【Mr. Torch】!
延焼性を7、爆発力を9、燃焼速度・熱量を7の配分にして──
送り込んだ空気伝いに着火するよう炎を点火!!靄もろとも爆ぜ飛びなァ!!(属性攻撃:炎)
ハッハァ、上手に焼けましたってな!!
目玉焼きっつゥには|こんがり焼き《ウェルダン》にし過ぎたかァ!!?
蠢く異形、無数の眼球と牙を備えた肉塊の如きもの。
それが『さまよう眼球』であった。
本来であれば、その体躯は茶褐色ではなく黒一色のものであったはずだ。だが、この街中を包み込む茶褐色の靄によって『さまよう眼球』の体躯は、その靄と同じ色をしていた。
「ワーオ、チョコ色の体した目ん玉だぁ! いや、色が気持ち悪ぃわ!!」
見た目ファンシーになるじゃんね、とノーバディ・ノウズ(WHO AM I?・h00867)は、周囲の甘い香りと共にそう思った。
が、どうあってもダメであった。
やっぱりあの眼球が無数にある、というのがどうにも受け入れられないし、またチョコ色しいた体躯も、『なぜそうなったのか』を想像すると受け入れがたい。
「ゲッゲッゲッゲッゲッ!!!」
奇妙な声と共に牙を打ち鳴らして『さまよう眼球』がノーバディへと迫る。
周囲には未だ茶褐色の靄が満ちている。
この状況で傷でも負うのならば、その僅かな切り傷とて鋭敏化した感覚は、膨大な刺激となって脳を破壊してしまうだろう。
「はいそうですかって、その物騒な牙でガブガブされるわけにないかねぇんだよなぁ! おらっ、まずは下ごしらえだ。扇風機から新鮮な空気を送ってやるぜ!!」
故に彼は扇風機頭らしく、靄を風で吹き飛ばす。
そしてさらに、彼は己が頭を付け替える。
扇風機がごとりと音を立てて地面に落ちた瞬間、その頭部から「ジッ!」という何かを勢いよく擦ったような音が響く。
そして、この靄の中にて一層際立つ灯火が立ち上る。
青き炎から赤き炎へ。
それはまさしく、|Mr. Torch《ミスター・トーチ》の名を冠するに相応しい姿であった。
「今の俺は、Mr. Torch!」
そう、彼の頭は今、ジッポライターそのものであった。
立ち上る炎が揺らめき、インビジブルの魚影が照らされて輝きを放っている。
エネルギーを引き出し、今やノーバディの体躯は人間大のオイルジッポライターへと変貌したのだ。
迫る牙。
だが、それをノーバディは、躱すことをしなかった。
する必要がなかったからだ。
彼の攻撃は既に終わっている。
「熱くいこうぜ? なあに、なんにも考えなくっていいぜ? 考えるな、感じろってなぁ!」
炸裂するは、爆発。
彼の頭部に灯火が灯った瞬間、周囲に気化したオイルが満ちていた。
それは茶褐色の靄ににじみ、そして攻撃の起点すら感じさせぬ一瞬の点火であった。
なぜ、そんなことができるのか?
簡単な話だ。
彼の扇風機頭が風を送り込んだのは、靄を払うだけではない。
彼の気化したオイルを『さまよう眼球』へと送り込んでいたのだ。
なら、その気化したオイルは『さまよう眼球』の内側……臓腑にまで到達しているだろう。
点火した火花が一瞬で『さまよう眼球』を内側から爆発させ、四散させるのだ。
燃えカスのように『さまよう眼球』のバラバラになった体躯が落ちる中、ノーバディは笑う。
「ハッハァ、上手に焼けましたってな!! 目玉焼きっつゥには、|こんがり焼き《ウェルダン》にし過ぎたかァ!!?」
笑い飛ばし、ノーバディはキャップを被り直すようにヒンジにて接続されたリッドを閉じるのだった――。
🔵🔵🔵 大成功

※連携・アドリブ大歓迎
判定:POW
普段は退屈で物腰柔らかいのに見えそうだが、いざ戦うとなれば雰囲気は凛々しくなる
自分なりに事態解決に力を尽くしながら戦闘自体を楽しむ
【剣理・天狗之書】で速度を上げる
うかつに攻撃を仕掛けなく、敵の動きをちゃんと【見切り】、攻撃を回避だり【ジャストガード】だりして【カウンター】を叩き込む
まるで形が定まっていない肉の塊のようだ
剣術はあくまでも人を斬る技術、こんな敵に対してじゃどうしようもない、か
…いや、いかに姿が変わっても、物事には動き方がある
それを見極めて…斬り捨てるのみだ!
速さと重さ。
即ち力である。
であるのならば、己が振るう刀は重さを生み出し、己が体は速さを生み出す。
描く刃の軌跡は、力の顕現。
茶褐色の靄が満ちる街中にあって、柳生・友好(悠遊・h00718)は、迫る『さまよう眼球』の牙を受け止めた。
鈍い音が響く。
靄の掛かった視界は、その剣戟によって散る火花の煌きでもって切り裂かれるようでもあった。
「まるで形が定まっていない肉の塊のようだ」
友好は刀を振るいながら、超高速で迫る牙を受け流す。
まともに受け止めていては、こちらが力押しで寄り切られてしまう。
「ゲッゲッゲッゲッゲッ!!!」
奇怪な声だ。
『さまよう眼球』は無数の目でもって、此方の動きに変幻自在に追従してくる。
加えて言うなら、この街中を包み込む茶褐色の靄。
これが友好の肌を鋭敏にさせていた。
振るう刀から生まれる風切り音すら、彼の皮膚の下にある神経を刺激する。
やりづらい。
まるで真皮一枚めくられた筋膜の上を風が撫でているような、チリチリとした痛みが神経を走って脳まで届けられているようだった。
本来ならばありえないことだ。
だが、そのありえないことが起こり得るのが怪異の恐ろしいところである。
この茶褐色の靄は、怪異もたらす『狂信者達』がばら撒いたものだ。ここに至る道中にあっても、多くの人々が靄のせいで悶絶して倒れ込んでいた。
己にもその影響がでているのだ。
加えて、『さまよう眼球』の動き。
人のそれではない。
己の剣術はあくまで人を斬る技術である。このような不定形の存在を愛艇にするものではない。
が、どんなものにだって動きの起点というものが存在している。
「剣理・天狗之書……であれば、こう、か」
迫る『さまよう眼球』の膨れ上がった顎。
牙がぞろりと生え揃った顎が広がり、己を噛み砕かんとしている。
牙の切っ先が己の肌を引き裂く。
血潮以上に鋭敏になった肌から伝わる刺激が脳を揺らす。言いようのない感覚。かすり傷なのに、脳は激痛を発して、視界を明滅させる。
だが。
握りしめる柄を掴む指の力を緩め、再度握りしめる。
今の己に必要なの速さ。
一瞬の脱力の後に生まれる瞬発力。瞬発力は、一気に加速し己という体躯の重さと刀の重さを乗せて力の軌跡を描く。
広がった顎の口裂の如き端と端とを結ぶ剣閃。
一閃。
ただそれだけでよかった。
「如何に姿が変わっても、どんなものにも切り裂くべき点がある。それとそれを結ぶのなら……」
見極められる。
切り捨てることができる。
その斬撃の一撃は、茶褐色の靄すら切り裂き『さまよう眼球』の体躯を一刀両断にて斬り伏せた――。
🔵🔵🔵 大成功

このタイプの怪異、報告とデータ解析されていたでしょうか。
行動や能力など良く観察しておいて、一部でも検体として持ち
帰りたいですね。
「戦闘知識」で眼球にまつわる過去の記録を思い返し弱点など
同じ若しくは似た怪異が居なかったかを思い出しつつ、観察して
「情報収集」。
強酸のブレスは「毒耐性」と怪異防護服である程度は防げる。
「地形の利用」「ダッシュ」で適度な距離を保ちつつ【怪異解体
連射技法】で攻撃。
シリンジシューターはガトリング、連射を無効化されても攻撃し
続ければ生命力を削れる。
怪異は狩るもの、解剖して解析するもの。
データは多ければ多いほど、人類の先に繋がっていく。
倒せたなら回収し、怪異輸送車へ入れておく。
怪異『さまよえる眼球』。
その様は不定形。ただ、無数の眼球と牙とが、ぞろりと生え揃う姿はおぞましさを感じさせるには十分だったことだろう。
常人であれば、クヴァリフ器官によって忘却せねば理性保てぬ容姿である。
しかし、それを真正面から見据え、八辻・八重可(人間(√汎神解剖機関)・h01129)は己の頭脳に収められた怪異のデータを引っ張り出す。
彼女の光に照らされたレンズの奥にある瞳は、知的好奇心というよりも、ただ眼の前の事象を観察するためにこそあるものであった。
「このタイプのか良い、報告とデータ解析されていたでしょうか」
いずれにしても一部でもいいから検体として持ち帰りたいと彼女は思っていた。
どこまで行っても研究の対象でしかない。
「ゲッゲッゲッゲッゲッ!!!」
しかし、そんな彼女の思惑を知ってか知らずか、『さまよう眼球』は奇怪な声を上げて彼女へと襲いかかる。
茶褐色の体躯。
それは彼女の持つデータの中にない個体例であった。
体色が変わっているのは、突然変異か。否である。
この街中を包み込む茶褐色の靄と関連性があることは言うまでもないことだった。
「そういうことですか」
八重可は理解した。
あの体色が変わっているのは、この茶褐色の靄に冒された人間を食らったからだ。この状況が『クヴァリフの仔』を召喚する前準備であるというのならば、この『さまよう眼球』が香気を吸い込んだ人間を喰らうことで触媒となるのだろう。
「不定形。であるのならば、形も変幻自在、というわけですか」
巨大な顎をもたげ、『さまよう眼球』は強酸のブレスを八重可へと放つ。
翻した防護服である程度は防げるが、時間の問題だ。ブレスを受け付ければ、どの道彼女の体躯へと浸透し、溶かすだろう。
その時、この街中に満ちる香気によって鋭敏化した肌が受ける刺激は、額面以上のものとなることは言うまでもないことだった。
そうなるつもりなどない。
故に彼女は、シリンジシューターを構える。
幾つもの銃身が束ねられたガトリングタイプのシリンジシューターが火を吹くように、弾丸たるシリンジがばら撒かれる。
「ゲゲゲッ!?」
「一片たりとも逃しません。いえ、検体として一部分でも確保はしたいですが」
怪異解体連射技法によって放たれたシリンジは、その切っ先でもって『さまよう眼球』の不定形の体躯を切断せんとするのだ。
だが、今の『さまよう眼球』は一切の干渉を受け付けぬ形態である。
「怪異は狩るもの、解剖して解析するもの。データは多ければ多いほど、人類の先に繋がっていく」
そう、彼女の手にしたガトリングタイプのシリンジシューターは、間断なき攻撃によって形態の維持に必要な生命力を削っていくのだ。
干渉受け付けぬ無敵であるのならば、その無敵たる力の源を削る。
簡単な話だ。
「げ、ゲ、ゲ……」
「やはり干渉をはねのける力も生命力を失えば、その無敵性を喪う」
八重可は一つ頷き、シリンジシューターの銃口を『さまよう眼球』に突きつけ、その体躯を切断せしめるのだった――。
🔵🔵🔵 大成功

まあ、こういうタイプのモンスターは故郷でも見慣れてるから今更ビビるようなモンじゃねェな。
……すげームラムラしてる状態で戦わされることを除けば、だが。
――いや、むしろちょうど良かったぜ。あまりにバカバカし過ぎて、俺は今虫の居所が悪ィんだ。
半分以上八つ当たりなのはわかっちゃいるが……テメェら全部ブッ倒してやるッ!
〈ジャストガード〉〈盾受け〉〈激痛耐性〉で敵の攻撃を防ぎつつ、√能力で隙を窺って〈重量攻撃〉による反撃を確実に当てていく。状況が許すなら〈力溜め〉しながら〈なぎ払い〉だ。
あと、潰した敵から立ち上る匂いで悪影響が出ねェように【竜魂の火種】による〈焼却〉で灰になるまで燃やしておく。
不定形の異形。
それは別段珍しいものではなかった。
ダンジョンに潜れば、そこかしこに姿を認めることができるものであったし、異形であるからと恐れる理由はケヴィン・ランツ・アブレイズ(“総て碧”の・h00283)にはなかった。
戦いとはビビったら負けである。
故に怪異、『さまよう眼球』の蠢くような茶褐色の体躯が眼前に膨れ上がろうともケヴィンは己がやるべきことが変わっていないことを改めて胸に抱きなおす。
だが、である。
そう、だが、なのだ。
「……すげームラムラしてる」
そう、茶褐色の香気。
これが興奮作用を齎しているのだ。
戦いの場にあっては、高揚は常なること。だから、いつも通りと思い込めばその通りなのだ。だが、これはどうにもそういうのとは違うものであった。
身の猛りと熱。
これがどうにもケヴィンの戦いを邪魔するものであった。
「――いや、むしろ丁度良かったぜ。あまりにもバカバカしすぎて、俺は今虫の居所が悪ィんだ。半分以上八つ当たりなのは、わかっちゃいるんだが……」
ケヴィンは拳を握りしめる。
「テメェら全部ブッ倒してやるッ!」
迫る異形の牙。
受け止め盾から伝わる衝撃が、鋭敏化した感覚を責め立てるようにしてケヴィンの体に走り抜ける。
だが、それを振り払うようにして彼は盾を押し返して『さまよう眼球』を押し返す。
「ゲゲゲゲッ!」
「うるっせぇよ! 何言ってんだかわからねぇが!!」
その瞳が煌めく。
竜漿魔眼 。
その右目に血潮に流れる竜漿が集中し、眼球全体が真赤に染まる。
「ゲッゲッゲッゲッゲッ!」
茶褐色の体躯が蠢く。
撓むようにして身を縮ませ、そして跳ねるようにして飛びかかってくる。
その動きをケヴィンは竜漿満ちる瞳で見つめていた。
見える。わかる。隙だらけだ。
踏み出した足が一気に身を加速させる。
手にした黒鉄斧が横薙ぎに払われる。溜め込まれた力が一気に噴出する。それは、これまでもどかしい感覚が溜まりに溜まっていたことを開放するような一撃であった。
横一閃が『さまよう眼球』を両断する。
「そのクソみてぇな香気はァ!!」
ガチン、とケヴィンの歯が打ち鳴らされた瞬間、竜魂の火種の如き火花が散る。
その火花は炎となって両断された『さまよう眼球』の体躯を一瞬でも上がらせ、その身に宿した香気ごと焼却せしめるのだった――。
🔵🔵🔵 大成功

【六七】
抜けた先には目玉がいっぱいでした。
しかも、この時期ならではな色をしてますね…。それだけ食らったということですか…っ!
合わせましょう、満弥。私は精霊銃から…【雷霆万鈞】!
たとえ位置を入れ替えたとしても、『さまよう眼球』が増えたとしても、私たちの敵に変わりはなく。
ならば、爆発によるダメージが行きますよ。暴走していても、そちらは満弥が手を打ちますし。
そこへ、さらに雷属性の魔弾を追加で発射していきましょう。不定形だとて、関係はありません。
だって、感電するんですから。

【六七】
わあ、|警視庁異能捜査官《カミガリ》でもたまにある光景…。
…これ以上、食せないためにも。
ええ、合わせます、満希。【霊震】による振動は最大。対象はもちろん『さまよう眼球』です!
いくら暴力形態とて、揺れ続けるのなら…耐えることはできないでしょう?
位置の入れ替えなどは、満希が対処するでしょうし…。
さらにリミッター解除した御用警棒を伸ばしてますから。即座にだまし討ち兼ねて叩きますよ?
眼球なのです。殴打はさぞかし…効くでしょうね?
眼の前には蠢くような茶褐色の体躯があった。
異形である。
言うまでもなく怪異。
その蠢く体躯の内にいくつもの眼球がギョロギョロと獲物を狙うように視線を巡らせている。
怪異『さまよう眼球』の体躯は茶褐色に染まっている。
その理由は言うまでもない。
この街中の惨状が『クヴァリフの仔』の召喚儀式であるというのならば、その茶褐色の体躯は恐らく。
「香気に冒された人間を食したが故、ですね」
六絽・シャーグヴァーリ・ユディト・満弥(嚮導者・h05235)は何処か冷静だった。
彼女が警視庁異能捜査官である、ということにも起因しているからだろう。
いつでもどこでも怪異は現実に忍び込んでいる。
影から現れることもあろう。日常の片隅から溢れ出すこともあるだろう。
そういう可能性を見てきたからこそ、その結論に行き着く。
ならばこそ、この儀式は現実を侵食していく。己たちの日常を食い散らかしていく。
怪異とはそういうものであった。
「この時期ならではの色を、とはなんとも……それだけ食らったということですか……っ!」
「そういうことです。ですが、これ以上食させないためにも」
「合わせましょう、満弥」
七浦・シャーグヴァーリ・ルユザ・満希(謎の歌手・h05234)の瞳が√能力の発露によって輝く。
異形の体躯は巨大な顎の如き姿へを変貌し、あらゆる干渉を退ける。
「雷霆万鈞!」
精霊銃より放たれる雷の弾丸。
しかし、外部からの干渉をなきものとする『さまよう眼球』は、その生命力を犠牲にして、爆発を受けてなお傷一つ負っていなかった。
撓むようにして伸縮した体躯が飛び上がろうとして、そのまま大地に押さえつけられる。
「ゲゲゲゲッ!?」
「|霊震《サイコクエイク》……!」
満弥の霊能力……霊障とも言うべき力が大地を激震させ『さまよう眼球』の動きを封じているのだ。
飛びかかろうとしても、その起点となる大地が揺れ続けている限り、『さまよう眼球』は動くことができない。
その間に満希の精霊銃から放たれる雷の弾丸が爆発を巻き起こし『さまよう眼球』の体躯を打ち据え続ける。
確かに汎ゆる干渉を無効化する√能力は脅威だ。
だが、その源となっているが生命力。
言ってしまえば、生命力を消費して無敵性を維持しているだけなのだ。そして、その生命力も無限ではない。
無敵性を維持するために払う生命力はいつかは底を突く。
であるのならば、二人がしたことは『さまよう眼球』を、その場に釘付けにすることだった。
「不定形だとて、関係はありません」
「ええ、このまま押さえつけ続けます」
手にした御用警棒が音を立てて伸びる。満弥は、一歩踏み出し、押さえつけた『さまよう眼球』の、無数の眼球の内の一つへと叩き込む。
「眼球なのです。殴打はさぞかし……効くでしょうね?」
打ち据え続ける。
霊能震動波による振動。加えて満希の放つ弾丸による爆発。
「ゲゲゲゲッ……ッ!」
「容赦はしませんよ。あなたたちが喰らってきた人々の生命、贖うまでは」
振るう殴打。
ひしゃげる音が響き、『さまよう眼球』の無敵性が失われたことを示すように二人の前には、茶褐色の体躯が沈むようにアスファルトの染みへと変わっていくのだった――。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功

【SPD】※アドリブ・連携歓迎
「やっと見つけた…、よくもこんなに走らせてくれたわね…!」
まぁ、走り回ったのは無計画な自分のせいだけど、臭気のせいで普段の倍疲れたのはアイツらのせいだからここで成敗するわ!
ちまちま逃げ回るよりも、一気に距離を詰めて叩き続けてやる。どっちが先に音を上げるか勝負よ!
移動系の技能をフル活用し、【強酸】のブレスを可能な限り躱し、躱し切れない分は斧槍を具現化した竜漿兵器で払いながら接敵。
充分距離を詰めたら今度は射撃系の技能をフル活用して零距離の『おしゃべりな精霊達の輪舞曲』で攻撃!一度撃ち尽くしてもシェルポーチの斬弾も再装填して撃ち尽くす!
「うおぉぉりゃぁあーーーーッ!」
「やっと見つけた……」
息を切らして、ルクレツィア・サーゲイト(世界の果てを描く風の継承者・h01132)は、眼前に蠢く怪異『さまよう眼球』を睨めつけた。。
茶褐色の体躯。
本来は黒色であろう体躯であるが、その色に変わっているということは、この街中に満ちる香気を吸い込んだ人間を多く食らったという証明でもあった。
犠牲となった人間の数を思う。
だからこそ、ルクレツィアは怒りを迸らせる。
「よくもこんなに走らせてくれたわね……!」
走り回ったのは、すべて自分のせいである。だが、満ちる香気のせいで普段の倍以上に疲れたのは、このような状況を作り出し、『クヴァリフの仔』を召喚しようとした『狂信者達』のせいであることは言うまでもない。
無計画と言われところでなんだというのだ。
己が今、息を切らし、身にこもる熱の発散もままならぬのは、どう理屈をこね回したところで『クヴァリフの仔』を召喚しようとした『狂信者達』のせいにほかならない。
「ここで成敗するわ!」
「ゲゲゲゲッ!」
そんなルクレツィアを嘲笑うように、茶褐色の体躯が巨大な顎へと変貌する。
ぎょろりとした無数の眼球。
ぞろりと生え揃った牙。
そして、その多くから強酸のブレスが解き放たれる。
その一撃をルクレツィアはなんとか躱す。
強酸の一滴でも肌に落ちれば、香気によって鋭敏化した感覚の肌は、尋常ではない刺激となって彼女の体を走り抜けるだろう。
そうなっては、まともに動けるわけがない。
だからこそ、彼女は一気に踏み込む。
手にした斧槍でブレスを払いながらルクレツィアの瞳が√能力の発露を示すように、インビジブルの揺らめく孤影を映す。
引き出されたエネルギーは、精霊が宿った銃弾へと具現化され彼女の手の内に収まる。
握りしめた弾丸をリボルバータイプの精霊銃へと装填する。
「この地に住まう精霊達よ、我が銃弾に宿りて魔を祓う『銀の弾丸』となれ!」
彼女はちまちま逃げ回るなんて性に合っていないのだ。
|おしゃべりな精霊達の輪舞曲《ラピッドファイヤー・フルバレット》は、彼女の手にした精霊銃の銃口から放たれる。
まさしく踊るように引き金を引く度にルクレツィアの体が踊る。
しかし、『さまよう眼球』の体躯は外部からの干渉を受け付けぬ無敵性を持ち得ている。
「だったら、その無敵性が失われるまで、撃ち尽くす!」
ポーチからさらに弾丸が飛び出し、リボルバータイプである装填の手間を省くように一瞬で収まる。
まるで曲芸であった。
彼女が舞うように身をひねる度に弾倉に弾丸が装填される。
「うおぉぉりゃぁあ――ッ!!」
裂帛の気合。
その叫びと共にルクレツィアは引き金を引き続ける。
無敵性の担保になっているのは、生命力だ。なら、彼女は『さまよう眼球』の生命力が失われるまで、引き金を引き続ける。
「ゲ、ゲ、ゲ、ゲエ……」
「これで一丁上がり! さあ、次! こんな傍迷惑なことしでかしてくれた連中は、どこよ!」
ルクレツィアは怒りに燃える瞳と共に『さまよう眼球』を退け、この惨状を引き起こした者たちを追うのだった――。
🔵🔵🔵 大成功

うわぁ。いや、うわぁ。
スイーツ好きとしては……いやスイーツ好きじゃなくても
アレ見ながらじゃせっかくのチョコの香りも台無しだね。
まぁこのチョコはちょっと濃すぎるし、食べても美味しくなさそうなんだけど。
今後美味しいチョコを食べていくためにも、夢に出てきそうなオブジェにはご退場願おう。
って、食べられる予定なのはこっちか。
……食べられてあげるつもりは、まったくないけどね!
なんにせよこっちに迫ってきてくれるんだから、迎え撃つ感じでいいよね。
相手の初撃を躱して後の先をとっていくことにしよう。
攻撃を受け流したら懐に入り込んで【纏気掌】で渾身の一撃。
あんまり触りたくないし、できれば一撃で吹き飛ばしたいなぁ
「うわぁ。いや、うわぁ」
二度うめいた。
伊和・依緒(その身に神を封ずる者・h00215)は、蠢く茶褐色の異形の怪異『さまよう眼球』の体躯が、何故そのような色に染まっているのかを察したのだ。
この街中を包み込む異常事態。
茶褐色の靄は、香気。
その香気に冒された人々が『クヴァリフの仔』の召喚儀式に必要だというのならば、その役割はなんであっただろうか。
言うまでもない。
贄である。
そして、『さまよう眼球』たちの体躯が茶褐色に染まっているのは、香気に冒された人々を食らったからだろう。
彼らの体躯をして触媒として『クヴァリフの仔』たちを召喚する。
儀式は街一つを飲み込むものだったのだ。
故に、彼女はうめいたのだ。
スイーツは好きだ。勿論、チョコレートも好きだ。
なのに、このような惨状を魅せられては、満ちる甘い香気も台無しでしかない。
「まぁ、このチョコはちょっと濃すぎるし、食べても美味しくなさそうなんだけど。だけどさ、今後美味しいチョコを食べていくためにも、夢にでてきそうなオブジェにはご退場願おう」
いや、と彼女は頭を振った。
どう見ても、『さまよう眼球』たちは己を喰らうために、そのぞろりと生え揃った牙を剥いているのだ。
「ゲゲゲゲッ!!」
「あーもー、食べられる予定なのはこっちだ、とか言っているのっかな? ……食べられてあげるつもりは、まったくないけどね!」
迫る『さまよう眼球』の牙を身を翻して躱し、依緒は一気に懐に飛び込む。
掌に集まった気。
練り上げられた気は、『さまよう眼球』の不定形の体躯へと添えられる。
「破っ!」
触れたくはない。
だから、一撃で吹き飛ばすのだと言うように、放たれた|纏気掌《テンキショウ》は練り上げられた気を開放するように『さまよう眼球』の不定形の体躯を捻りあげるようにして放たれる。
ねじれ、ねじれ、その身はねじ切られる。
「ゲ、ゲ、ゲッ!?」
何が起こっているのか『さまよう眼球』にはわからなかっただろう。
ただの掌底の一撃である。
否。それは練り上げられた気の解放。それはインビジブルから引き出されたエネルギーと共に依緒の怒りを発露したのだ。
「うわぁ、やっぱり感触最悪だね」
でも、と依緒は吹き飛ばした『さまよう眼球』が地面、アスファルトに溶けていく姿を認めて、一つ頷く。
「さ、この儀式を目論んだ連中も同じように吹き飛ばしてやらなくちゃあね」
彼女はそう言って、さらに街中へと踏み出していく。
犠牲になったものたちに報いるためにも、ここにとどまってはいられないのだ――。
🔵🔵🔵 大成功

あらまぁ
こんなあからさまなの、よく今まで見つからなかったわね?
信者しかいなかったから平気だったのかしら?
ともあれ、物理で終わりそうでよかったわ
準備運動も万全……さぁ、ぶっ飛ばしましょうか!
立てば芍薬、座れば省略、戦う姿は百合の花ってね!
華麗に【花の嵐】といきましょう!
一度に1体しか相手できないけど
別に1秒に一度あれば十分よね?
確実にぶち抜いて仕留めましょう
位置の入れ替えは厄介ね
というか入れ替わる前に追いつけないかしら?
それなら殴って終わるし
でもカウンターダメージをもらっでも
気合で耐えながら、とりあえずソレを仕留めて
次殴る、ええ、繰り返して殴り続ければいつかいなくなる
自然の摂理ね?
誰が脳筋よ
街中に蠢く異形。
それが怪異『さまよう眼球』であった。
本来であれば、その体躯は漆黒。だが、今その体色は茶褐色である。
街中に満ちる香気の影響か。
「あらまぁ。こんなあからさまなの、よく今まで見つからなかったわね?」
リーリエ・エーデルシュタイン(アンダー・ザ・ローズ・h05074)は、その異形の様に嘆息した。
この街の異常事態である。
如何に異形の怪異があるのだとしても、人々は認識することすらできなかっただろう。
悶絶して倒れ伏すばかりの彼らを襲うことは容易い。
「ああ、そういうこと」
リーリエは、我が身の熱を思う。
謂わば、この街は儀式場なのだ。
人々は供物。
贄として怪異が喰らい、その異形を触媒として『クヴァリフの仔』を召喚せしめる。そういう儀式なのだ。
ならばこそ、その茶褐色の体色の意味もリーリエは理解できたのだ。
なら、遠慮はいらない。
幸いにして、その身の熱が今更準備運動など必要ないことを物語っている。
「立てば芍薬、座れば省略、戦う姿は百合の花ってね!」
インビジブルからエネルギーを引き出し、リーリエは拳を握りしめる。
その拳の硬さは言うまでもない。
身にまとう香しい花の香気は、街中に満ちる甘い香気のそれとは異なるものであった。
「そう、エーデルシュタインの百合は、華麗で陽気で、荒々しいのよ!」
「ゲッゲッゲッゲッゲッ!!!」
一斉に『さまよう眼球』は、周囲のインビジブルと位置を入れ替え、『さまよう眼球』へと変貌させる。
数。
そうか、とリーリエは思う。
数で己を圧倒しようというのか。
「だったらなんだっていうの?」
握り固めた拳が唸りを上げる。
振るう拳の一撃は、まさしく|鋼玉甲拳《コランダム》。
激烈なる拳の一撃は如何に異形の体躯とて関係ない。振るわれる拳の硬さが『さまよう眼球』をぶち抜き、その茶褐色の体躯を弾けさせるのだ。
「位置の入れ替えは厄介ね。だけど、『さまよう眼球』になる、というのなら、殴ればよいのだわ」
構わなかった。
如何に己に襲いかかるのだとしても。
己の拳がたった一つの目標しか打ち抜けのだとしても。
拳を振るう度に確実に『さまよう眼球』を弾けさせるのならば、繰り返していれば、いずれ位置を入れ替えた『さまよう眼球』の本体を殴ることができる。
「ええ、これが自然の摂理ね?」
簡単なことだ。
自明というやつだ。
「……誰が脳筋よ」
誰も何も言っていない。が、その通りであった――!
🔵🔵🔵 大成功

まぁ、信者の方たちがいらっしゃると思っておりましたけれど、儀式の準備はもう進んでおりましたか。
それでは、優しいお仕置きは必要ございませんね。
「触手眼光」を使用し、さまよう眼球たちを恐怖で身を竦ませます。
ご自身のことを捕食者だと思い込んでいるなんて、可愛らしい生き物ですね。
ですけれど、人の子の輝きまで食い尽くそうとするのは頂けません。
わたくしも今はちょっと痛めつけて追い返す気分ではございません。
ですから。
どちらが捕食者か、理解させて差し上げますね。
先端が怪物の口になった触手で暴食形態に変形した敵を逆に食い尽くします。
はぁ……クヴァリフの仔まで誤って食べてしまわないようにしなければなりませんね。
それは彼女にとって許しがたい行為であった。
輝きが失せていく。眼の前で失せていく。その光景は、彼女の中にあって筆舌に尽くしがたいものであったかもしれない。
すでに街中にあふれる怪異『さまよう眼球』は、その身を茶褐色に染め上げている。
満ちる香気による影響ではない。
その香気を吸い込み悶絶した人間たちを食らったがために、その体色が茶褐色に変わっているのだ。
『クヴァリフの仔』の召喚。
そう、街一つが儀式場なのだ。
香気に冒された人間は、贄。そして、その贄を喰らう『さまよう眼球』は触媒。
『狂信者達』は、そうやって『クヴァリフの仔』を街一つ犠牲にして大量に召喚しようと企んでいたのだ。
「優しいお仕置きは必要ございませんね」
彼女の瞳が、赤く爛々と輝く。
√能力の発露。
インビジブルより引き出されたエネルギーを、彼女の体躯は貪欲に貪るようだった。
その下半身より蠢くは無数の触手。
そして、その触手の先端が開眼する。
それは|触手眼光《テンタクル・ゲイズ》。
見るものすべてに本能的な恐怖を抱かせる視線。
例外はない。
「ゲッゲッゲッゲッゲッ……」
「わたくしの言う事、聞いて下さいね」
この場において、最も危険な生物。
それは怪異たる『さまよう眼球』ではない。そう、伊代である。
テンタクル・スローターたる彼女こそが、今この場において最も危険な生物なのだ。
「あら、震えていらっしゃるのですね。もしかして、ですが」
彼女が一歩踏み出す度に逃げなければと本能が警告している。が、体が動かない。
「まだご自身のことを捕食者だと思い込んでいるのですか? なんて、可愛らしい生物ですね」
触手で編み上げられた掌の上に『さまよう眼球』たちはいた。
さながら、前菜のように。
「ですけれど、人の子の輝きまで食い尽くそうとするのはいただけません」
微笑んですらいない。
ただ、赤い瞳だけが『さまよう眼球』たちを見つめていた。いや、見下ろしていた。
絶対的捕食者が、そこにはいた。
「わたくしも、今はちょっと痛めつけて追い返す気分ではございません。ですから」
微笑むことなく、その赤い視線が言っている。
この先にあるのは。
「どちらが捕食者か、理解させて差し上げますね」
無数の眼球が震える。
瞬き一つできぬことに恐怖するしかなかったのだ。
滴るような唾液一つなく、それは巨大な顎をもたげ『さまよう眼球』の眼前に迫る。
動けない。動けない。動けない。
「げ、ゲ、ゲ……」
それが、最後の声。
伊代は、口元を抑えて瞳を伏せた。
もう終わっていた。
眼の前にあった茶褐色の怪異たちは、須らくその姿を消え失せさせていた。
残っているのは、伊代のみ。彼女は憂うように小さく呟く。
「はぁ……『クヴァリフの仔』まで誤って食べてしまわないようにしなければなりませんね――」
🔵🔵🔵 大成功

【ゼミ】アドリブ歓迎
ふむ。クヴァリフの下に辿り着く前に障害と。
まずはこれらを突破しなければなりませんが……ううむ、これまた興味深い。
茶褐色はチョコレートの要素か。だが肉塊がチョコを食したとて、ここまで反映されるには循環が。
眼球は視覚効果があると見えるが、ふむ。果たしてどのような……。
おっと。そうですな。
まずは初志貫徹、目的を見失って寄り道しては本末転倒というもの。
さまよう眼球たちの調査はまた後日として……名残惜しいですが強行突破させていただきましょう。
バギーで特攻しつつ、ナイトゴーントたちを召喚して哨戒させます。
位置を入れ替えたところへ上空から索敵して攻撃させる手筈です。
ええ、進みましょう!

【ゼミ】アドリブ歓迎 WIZ
バギー同乗継続
番犬代わりに置かれた怪異か。
眼と牙と肉……ふむ。食欲はある、酸を吐くなら消化器も内蔵しているか。
……レイブン、考察は後にしよう。これに気を取られては、目的に到達する時間が無くなる。
ああ、この眼球たちを調べる機会はまたあるだろう。
さて、運転と対処はレイブン任せになるが……何もせず見ているだけというのも座りが悪い。
スタッフをかざして簡単な幻影を広めておこう。
インビジブルが見えないように霧を生み出しておけば、多少は阻害できるだろう。
√能力でない故、それほど効力はないが……まあ、僅かに惑わせることはできるだろう。
よし、良い調子だ。このままアクセル全開で頼むぞ。
『ゴーストバギー』に同乗していた 魔術師・サイロン(ヴァラードの魔術師・h00764)は、道を阻む怪異『さまよう眼球』たちの姿を認めて、ふむ、と首肯一つしてみせた。
「番犬代わりにおかれた怪異、か。しかし、そんな無駄なことをするかな?」
サイロンの言葉に 角隈・礼文(『教授』・h00226)は、それはそうでしょうなぁ、と他人事のようにつぶやいいた。
「確かに我々にとっては、『クヴァリフの仔』に辿り着く前の障害とも言えますな。兎にも角にも、これを突破しなければなりませんが……ううむ、これまた興味深い」
礼文の言葉にサイロンは『ゴーストバギー』の中から出ることなく頷いた。
まあ、わからないでもない。
怪異の生態系というのは、どんな時でも己たちの常識の外側にあるものだからだ。
似たようなものである、と思っていても、その効果や役割は異なる場合があるからだ。
だからこそ、あの異形の体躯。
茶褐色の体色。その変化というものが気にかかる。
「眼に牙と肉……ふむ。食欲がある、ということだな。酸を吐くというのならば、消化器も内蔵しているか」
「でありましょうなぁ。あの茶褐色はチョコレート要素と見るのは、人間側の観点でありましょうな。無意味に体色が変化する、なんてことがありましょうか? 肉塊がチョコを食したからと言って体色が代わりましょうかね。眼球は視覚効果があると見えますが、ふむ、果たしてどのような……」
彼らの推察の奥には、一つの可能性があった。
茶褐色の体躯。
それは、『さまよう眼球』が『クヴァリフの仔』を召喚するための触媒でる証明である。
そして、街中にあふれていた香気。
茶褐色の靄にすら至る濃度。
これを吸い込んだ人間たち。
であれば。
「なるほど。香気に冒された人間を食した怪異を触媒にして『クヴァリフの仔』を召喚する儀式、というわけだ。街一つを香気に満たすなど、目立ってしかたないと思ったが、なるほど。合理的であるね」
香気によって贄である人間を行動不能にする。
抵抗できぬ人間を食した怪異は、その満ちる香気を内包し、触媒に相応しいと言える。
この儀式を行おうとした『狂信者達』たちにまともな倫理観などないと見えた。
「とは言え、考察は後にしよう。我々の興味は、あの怪異の体躯にあるが、それを見分していては時間がなくなる」
「おっと、そうですな。まずは初志貫徹。目的を見失って寄り道していては本末転倒というもの」
名残惜しいですがね、と礼文は苦笑い一つせずに、その艶のない瞳を細めた。
「であれば、名残惜しいですが強行突破とさせていただきましょう」
『ゴーストバギー』が唸りを上げる。
エンジン音と共に空転したタイヤがアスファルトを切りつけながら、車体が一気に『さまよう眼球』へと飛び込むようにして疾駆する。
そのままでは『さまよう眼球』に激突して、此方の車体がひしゃげるはずだった。
だが、礼文の瞳が√能力の発露に輝く。
「旧き印に従い、我が命を果たせ、|従属せよ痩せこけた夜の魍魎《サモン・ナイトゴーント》」
放たれる夜鬼たち。
そして、サイモンは助手席に座っているだけという居心地の悪さに耐えかねたのか、己がスタッフをかざして幻影の霧を生み出す。
√能力ではない。
ただの技能である。
「おお、これは目眩ましですかな?」
「まあ、気休めだがね。おい、レイブン、ハンドル。いや、前を見ろ」
「おっと、これは失礼! では、このまま突っ切らせていただきましょう!」
アクセルを踏み込んだ礼文は、サイロンの言葉に頷いて、幻影の霧を突っ切るようにして夜鬼たちが切り拓いた進路を『ゴーストバギー』で突っ切り、さらに街の中心部へと走り、ついに到達するのだった――。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功

あれ狂信者は?もう用済みになっちゃった?(笑)それともこれって護衛のつもりなのかなあ
どちらにせよ使い捨てだよね(笑笑)つまんねーな…。
この昂った行き場の無い感情を何処にぶち撒けたらいいのかな?(爆笑)
とりあえずシネッ!
◆√戦闘
初めは大人しく成り行きを見守っていたんやが
|余《あま》りにも|隙《すき》だらけや…
そう思うと早かった
瞬
殺
ぞ
!
ダッシュ+切り込みで暴食形態に並走。怪力+ジャストガードで突進を受け流し、返す刃の重量攻撃+爆破でブラスターライフルを放ち横っ腹に風穴を開ける
追い討ちのバーサーク+乱れ撃ちで念入りに死体撃ち
このくらいしないと気が済まないよ!ハッピー・バレンタイン
DIE!
YOBBO!
街中に煙るような茶褐色の靄。
その内側にて蠢く茶褐色の体躯。
いや、違う。異形である。眼球と牙しか保たぬ蠢くなにか。
それが怪異であるところを二階堂・利家(ブートレッグ・h00253)は知っていただろう。
「あれ『狂信者達』は? もう用済みになっちゃった?」
笑いながら利家は怪異へと歩む。
満ちる香気を吸い込んだせいもあってか、どうにも思考がぐるぐると渦巻いているし、飛躍しているように思えてならない。
言ってしまえば、ハイテンションと言える状態なのだ。
「それともこれって護衛のつもりなのかなあ?」
利家の推察はハイテンション故に、突飛が過ぎていた。
護衛ではない。
これは、触媒だ。
香気に冒された人間が贄であるのならば、怪異『さまよう眼球』は触媒なのだ。
何故なら、その体色は茶褐色。
本来ならば、漆黒であったが、それが異なるというには理由があるのだ。
「まあ、間違ってようが正解だろうが、どちらにせよ使い捨てだよね。つまねーな」
利家は吐き捨てる。
この街一つを儀式場とした『狂信者達』のやり方は気に食わないという点だけが正しいことだ。
というよりも、この昂った行き場のない感情を何処にぶちまけたらいいのか、と利家は笑う。
壊れたように利家は笑い続けていた。
バッドトリップの弊害であろう。
情緒がちょっとおかしなことになっていた。
「ま、とりあえず」
怪異を殺せば良いのだ。
その右目に竜漿が集約されていく。全身の血液にある竜漿すべてを集約させた右目が見る世界は、バッドトリップした頭にあってなお、クリアな視界を示すものであった。
『さまよう眼球』。
それを彼は見つめる。
成り行きを見守ろうかと思っていた。
ちょっと脳内物質ドバドバすぎて、神経が疲弊していたこともあったからだ。
「っけどやーめた。余りにも隙だらけや……」
そう思ったら、体が動いていた。
手にした大剣が『さまよう眼球』へと振り落とされる。
まるでそれは、叩き切るというより、押しつぶす、という打ち込み方であった。
ひしゃげた体躯を踏みつけて利家はもう片方の手に持っていたブラスターライフルを『さまよう眼球』の口腔らしき場所へと叩き込んでいた。
「ここって口ですよね? 口でしょ。牙あるし。舌は……わっかんねーですけど、まあいいですよね」
引き金を引く。
放たれた弾丸が『さまよう眼球』を内側から弾けさせ、その体躯を肉片へと変えて飛び散らせる。
散った体液だかなんだかわからない染み。
それを見やり、何がおかしいのか利家は大笑いしていた。
「あはははっ! このくらいしないと気が済まないよ! ハッピー・バレンタインDIE! YOBBO!」
それはスラングだった。
あまり褒められた言い方ではない。
けれど、それくらいしなければ、利家は己の内側に溜まりに溜まった感情を捨てることができなかったのだ――。
🔵🔵🔵 大成功
第3章 集団戦 『狂信者達』

POW
狂信の斧槍
自身を攻撃しようとした対象を、装備する【狂信の斧槍】の射程まで跳躍した後先制攻撃する。その後、自身は【怪異への狂信により得た魔力】を纏い隠密状態になる(この一連の動作は行動を消費しない)。
自身を攻撃しようとした対象を、装備する【狂信の斧槍】の射程まで跳躍した後先制攻撃する。その後、自身は【怪異への狂信により得た魔力】を纏い隠密状態になる(この一連の動作は行動を消費しない)。
SPD
狂信の旗印
事前に招集しておいた12体の【狂信者達】(レベルは自身の半分)を指揮する。ただし帰投させるまで、自身と[狂信者達]全員の反応速度が半減する。
事前に招集しておいた12体の【狂信者達】(レベルは自身の半分)を指揮する。ただし帰投させるまで、自身と[狂信者達]全員の反応速度が半減する。
WIZ
狂信の炎
【教主】から承認が下りた場合のみ、現場に【魔力砲『信仰の炎』】が輸送される。発動には複数の√能力者が必要となる代わり、直線上の全員に「発動人数×2倍(最大18倍)」のダメージを与える。
【教主】から承認が下りた場合のみ、現場に【魔力砲『信仰の炎』】が輸送される。発動には複数の√能力者が必要となる代わり、直線上の全員に「発動人数×2倍(最大18倍)」のダメージを与える。
√能力者たちがたどり着いた街の中心部は、茶褐色の靄が、さらに色濃い坩堝そのものであった。
靄の中には蠢く触手があった。
それこそが『クヴァリフの仔』である。
なんとも言い難い姿である。そして、その靄の奥にある『クヴァリフの仔』が『生えて』いるのは人影であった。
まるで棘のようであった。
大地に生える棘。
それは『狂信者達』である。
「贄をたくわえた触媒たる怪異の反応がなくなったと思えば……そういうわけか」
「だが、愚かである」
「然り。我らが宿した『クヴァリフの仔』の力を、理解できぬと見て取れる」
その体躯のあちこち……穴という穴から触手の如き『クヴァリフの仔』が蠢いている。
眼窩、耳穴、鼻、口、果ては腐り落ちた臓腑が収まっていたであろう腹から臍を食い破るようにして『クヴァリフの仔』が蠢いていた。
おぞましき姿へと成り果てた『狂信者達』は、むしろ誇らしげであった。
何故なら、それこそが信仰の証であり、行き着く場所であったからだ。
√能力者たちは理解しただろう。
すでに『クヴァリフの仔』と『狂信者達』は融合を果たし、通常のそれ以上の戦闘能力を獲得しているのだ。
言うまでもないが、これをすべて駆逐しなければならない。
そして、可能な限り、多くの『狂信者達』から『クヴァリフの仔』を生きたまま摘出しなければならないのだ。
だが、出来るか?
この状況で。
「彼我の力の差も理解できぬ愚かさこそ、贄に相応しい。その身に溜め込んだ香気。それこそが『クヴァリフの仔』を呼び寄せるのだ。その骸を持って、我らが信仰の糧となるがいい!」
『狂信者達』たちは、その身より蠢く『クヴァリフの仔』に従うように√能力者たちへと襲いかかる――。

なんだやっぱり居るのか。まあいい
この手の依頼は向いてない性分だから腰が引けるところだったけど、あまりにもあんまりな案件だったから逆に助かったよね
|元来、あちこちで聖人バレンタイン伝説にちなんで、2月14日のバレンタインデーは「愛の日」だとアピールされているが、これを鵜呑みにすることはできない。意地悪を言えば、購買をそそるための神秘性と、伝統的な正当性をもって「チョコを配らなければいけない」とバイアスをかけるための巧妙な商法でもあるからだ《ガチでバレンタインを憎んでるやつだ!》。
◆√戦闘
切り込み+ダッシュで組み付き怪力で抵抗を組み伏せる
バーサーク+重量攻撃で目的の『仔』を抉り取ってあげましょう
「愚かな。それでも向かってくるか」
√能力者たる二階堂・利家(ブートレッグ・h00253)は、『狂信者達』の言葉などまるで意に介していないかのように、ずんずかとアスファルトを踏み砕くかのように直進していた。
彼我の戦力差。
だから何だというようでもあった。
むしろ、『狂信者達』がまだいたことに、なんだと思うようでもあった。
「止まらぬか。であれば」
瞬間、『狂信者達』たちのまわりに現れるのは『クヴァリフの仔』を同じく宿した『狂信者達』であった。
彼らは一斉に利家へと掴みかかるようにして飛びかかる。
そう、何も遠慮はいらない。
彼らの身体能力は、もはや人のそれを容易く凌駕している。
利家は己の腕や肩に掴みかかる手を掴み上げ、その有り余る膂力でもって投げ飛ばした。
「なっ……!?」
「いやぁ、この手の馬鹿みたいな仕事っていうのは、向いていないって自分でもよおく理解してはいるんですが」
正直に言えば腰が引けていた。
が、案外やれる。
あまりにもあんまりな案件だったのが幸いしたのか。
普段とは違うテンションに頭がついていかないのが、寧ろ逆によかったのか。
「助かったよね」
掴み上げた『狂信者達』の体躯、その足をもって利家は膂力に任せて放り投げ、その瞳を√能力の発露に輝かせる。
「元来、あちこちで聖人バレンタイン伝説にちなんで、2月14日のバレンタインデーは『愛の日』だとアピールされているが、これを鵜呑みにすることはできない」
「一体何を言っている、貴様!」
「意地悪を言えば、購買をおそそるための神秘性と、伝統的な正当性をもって『チョコをくばらなければならない』とバイアスをかけるための巧妙な商法であるからだ」
ビキビキと利家のこめかみの血管が浮かび上がっている。
その身に宿した竜漿が全身を駆け巡っているのだ。
それくらいにガチでバレンタインを憎んでいる奴にしか出せない気迫めいたものが、利家にはあったのだ。
その迫力の根源を『狂信者達』は理解できない。
理解できなくて当然である。
何せ、言っている利家本人も、深く理解しようとは思っていない。
迸るような己の怒りを具現化するように彼は一気に踏み込み、投げ飛ばした『狂信者達』の臓腑へと己が機械腕をぶち込む。
「will kill you」
短く告げた瞬間、その機械腕は『狂信者達』の臓腑から『クヴァリフの仔』たる触手を引きずり出し、切断する。
生きたまま。
そう、そうしなければならない、という事柄だけが頭の中に残っている。
であれば、まだ自分は冷静なのだと、ビキビキと音を立てる己のこめかみの血管の音を聞きながら利家は、さらなる獲物を求めて戦場を疾駆し、『狂信者達』から『クヴァリフの仔』を奪うのだった――。
🔵🔵🔵 大成功

漸く見つけたぜ、だいぶ愉快な見た目になってんなァ!!
来な『酔いどれ』!
複合属性スライムを頭に挿げる!
こっちを先制攻撃してくるならいっそ好都合だ。
敵の攻撃に乗じて色付きの水に変異した俺の粘体をぶち撒ける!
(異形化+変身+捨て身の一撃+だまし討ち+属性攻撃:水)
水も滴るイイ男にはなれたか?隠れてようと色付き水のお陰で何処にいるか丸わかりだな!
所でそんな濡れてるとよォ、冷えると凍っちまうぜェ!
(指定:氷属性抵抗1/10化)
氷の粘液をブチ撒けて攻撃!!(弾幕+属性攻撃:氷)
後は氷漬けで|冷凍保存《チルド》済みのモジャモジャを持って帰りゃいいだけってな。
……摘出面倒だしいっそコイツらごと持って帰るか?
耳目鼻といった穴から触手めいた『クヴァリフの仔』が蠢いている。
その様は狂気の産物であった。
腐り落ちた臓腑を食い破るようにして、腹に満たされている触手。
おぞましいと言う他ない。
なのに生きている。
手にした斧槍をもって『狂信者達』は、一斉に走り出す。
「我が信仰を前にして立つ者は、一切の希望を捨てよ。我が斧槍は、その生命を断ち切るであろう」
彼らの手にした斧槍の輝きは剣呑そのもの。
『クヴァリフの仔』によって戦闘力が強化されているのだ。
それをノーバディ・ノウズ(WHO AM I?・h00867)は見上げていた。
「ハッ! 漸く見つけたと思ったら、だいぶ愉快な見た目になってんなァ!! 此処はハロウィンストリートか! 違うってんなら、間違えちまったようだなァ!! 来なッ」
彼は己がジッポライターの頭部を掌底でもって弾き落とし、周囲のインビジブルよりエネルギーを引き出す。
まるで切断されたかのような首なしの体躯へと飛び込む一塊の影があった。
「|『酔いどれ』《レッグレス》!」
「今更首をすげ替えたところで、なんとするッ」
振るわれる『狂信者達』たちの斧槍の一撃。
それは狙い過たず、ノーバディの頭部へと叩き込まれた。
一塊の影。
それは、スライムであった。粘性の体。しかし、その粘性の体躯であっても『クヴァリフの仔』によって強化された斧槍の一撃は、弾けさせ、その体をぶちまけたのだ。
「容易い。この程度で……」
拭うようにしてぶちまけられた粘体めいた水を『狂信者達』は拭おうとして、ノーバディは笑う。
「よォ、どうやら水も滴るイイ男にはなれたようだなァ?」
「……何?」
『狂信者達』は驚愕する。
己たちの一撃を受けて健在であることにもそうだが、何故、己達が知覚できるのか、と。
彼らの√能力は先制の一撃を叩き込むもの。
そして、その後は身を隠し、追撃を受けぬためのものである。だが、ノーバディは己たちの姿を認識している。
「ハッ……丸見えなんだよッ!」
そう、ノーバディの頭部、弾けたスライムは色付きの水となって『狂信者達』の体に付着しているのだ。
そして。
彼の弾けたはずの頭部から再び粘液が噴出する。
それは一瞬で『狂信者達』たちの体躯を凍結させるのだ。
「濡れてるとよォ……季節柄凍っちまうのは言うまでもねェよな?」
「ば、馬鹿な……た、たった一瞬で此処まで組み立てていたというのか、戦法を!?」
「てめェらみてェなのは、どうせコソコソ逃げ出そうって算段を立てるのだけはお上手みてェだからな。だったら、氷漬けで|冷凍保存《チルド》してやろうっていうのは、今日び、ジュニアスクールのガキ共でもできちまうぜ?」
たわむようにしてノーバディの頭部が跳ねる。
「さて、と。後はこのもじゃもじゃをもって帰ればいいだけってな」
だが、『狂信者達』ごと凍結させた体躯を見てノーバディは首をひねる。
「……摘出面倒だし、いっそコイツらごと持って帰るか?」
重たそうだしなァ、とノーバディは暫し葛藤し、まだま答えが出ないというように、氷漬けの柱の如き様相となった『狂信者達』の前で唸るのだった――。
🔵🔵🔵 大成功

ああ、既に人間止めてる手合いね、これは。それなら容赦なく叩き潰すのみ。
防具を外してショーツ一枚。『|天星弓《スターボウ》』団長パトリシア・バークリー、参る。
屠竜大剣を「怪力」で振るって「重量攻撃」。奇襲してくる相手は、ガントレットレッドのワイヤーで「カウンター」をかけ、「捕縛」して首を刎ねる。怪異は頭の中に詰まってるみたいだからね。首があればいいでしょ。
こそこそ動くしか能が無いなら、こっちも相応に動くまで。敵のジャンプに、「空中ジャンプ」で対抗し、飛び上がったところを袈裟斬りに。こっちも伊達に√能力者やってるわけじゃないのよ。
それにしても、後から後から。√EDENにこんなに狂信者がいるなんて。
蠢く触手。
それが『クヴァリフの仔』であることは言うまでもない。
そして、その職種状の怪物が『狂信者達』たちの体躯に融合していることもわかる。不可逆であるということも、だ。
彼らは望んでそうなったのだ。
強制されたからではない。
この姿こそが。
「我が神の恩寵。いと尊き神の寵愛。この姿こそが人類が進むべき道を体現しているのだ」
彼らの言葉にパトリシア・バークリー(アースウィッシュ・h00426)は、おぞましさよりも先に息を吐き出す。
「ああ、人間辞めてる手合ね、これは」
そう。
人間性など彼らにはない。
あるのは信仰だけなのだ。それだけが彼らを支えているし、それ以外はない。
「なら、容赦なく叩き潰すのみよ」
「やれるというのならば、やってみるがいい背信者。貴様たちの歩む道は悪でしかない。であれば、我らの進む道こそが正道なのだ」
斧槍を振りかぶり、『狂信者達』が一斉にパトリシアへと迫る。
「だったらなによ」
パトリシアは己の身を守る防具を一息に脱ぎ捨てた。
それは『狂信者達』をして目を見張るものだった。到底正気とは思えぬ行動であったからだ。
ショーツ一枚。
その裸体のみと言って良い姿になったパトリシアは、その手に大剣を握りしめ宣言した。
「|『天星弓』《スターボウ》団長、パトリシア・バークリー、参る」
「そのような姿で凄んだところで!」
互いに跳躍する。
空中で交わる視線と視線。互いに何をしようとしているのか理解できていたのだ。故にパトリシアは頭上を取らせるのではなく、自ら近づいたのだ。
振るわれる斧槍。
その一閃は『クヴァリフの仔』によって強化された戦闘力に裏付けされた強烈な一撃であった。
だが、その一撃をパトリシアは受け止める。
軋む大剣。そして、蠢く触手が此方を見ていた。耳目鼻、そして臓腑を引き裂いて、まるで腸をそのままにぶちまけたかのような『クヴァリフの仔』が蠢いている。
「受け止めたか、だが!」
軋む体を押し込むように『狂信者達』たちは斧槍を打ち付けるままにパトリシアを大地に叩きつけんとする。
「こっちも伊達に√能力者やってるわけじゃないのよ」
「な、に!? 完全に此方が先を取ったはずだ、なのに、どうして押しきれぬッ!?」
「屠竜宣誓撃 ……アタシの一撃はここからよ!」
受け止めた斧槍を弾き、吹き飛ばしながらパトリシアは、その瞳に『狂信者達』を見据える。
弾き飛ばした『狂信者達』は空中で身動きが取れぬ。
その身へとパトリシアは飛びかかり、その手にした大剣を袈裟懸けに振るい、その体躯を寸断したのだ。
「く、『クヴァリフの仔』を、神の恩寵を受けた、このからだが、こうも、たやすく……」
「脱いだのは伊達や酔狂じゃあないのよ。趣味よ!」
己が脱ぐことは危機として行うパトリシアにとって、それは何ら恥じることではなかった。
崩れ落ちる『狂信者達』の体躯。
それを認めて、パトリシアは大剣を大地に突き立て、己が頬に飛んだ血を拭うのだった――。
🔵🔵🔵 大成功

見つけたぜェ! こんな乱痴気騒ぎを引き起こした阿呆どもはテメエらだな!
正直正視に堪えねェ姿だが、テメエの選択なら同情の余地は無ェよな。
だから「摘出」も手荒くいくぞ。歯ァ食いしばりなァ!
『クヴァリフの仔』の|恩恵《ギフト》による先制攻撃と隠密化か。まともに通すと面倒だぜ。
なんで盾を収納して《ルートブレイカー》で打ち消す。
「オマエらの敗因の一つを教えてやるよ。俺と同じ武器で、安易に勝算を掴もうとしたことだぜ……!
|斧槍《ハルバード》ってのは、こう使うんだよッ!」
〈気絶攻撃〉〈重量攻撃〉で〈なぎ払い〉、狂信者どもの意識を刈り取る。
その後『仔』がある部位を母体から引きずり出して〈切断〉し、確保だ。
身を苛む鋭敏な感覚。
茶褐色の靄の影響はどうにか薄れてきたが、ケヴィン・ランツ・アブレイズ(“総て碧”の・h00283)の瞳は怒りに燃えていた。
「見つけたぜェ! こんな乱痴気騒ぎを引き起こした阿呆どもはテメエらだな!」
「だったら何だというのだ」
『狂信者達』は『クヴァリフの仔』と融合を果たした姿でケヴィンと対峙する。
体の穴という穴から触手が蠢いている。
目も、鼻も、口も、いずれからも『クヴァリフの仔』が溢れ出しているのだ。
おぞましいというほかない。
腹を食い破るようにしてさえも、『クヴァリフの仔』は溢れ出している。
どうしてあれで生きているのだと思うほどであった。
「正直正視に堪えねェ姿だが!」
「これが我らが神の恩寵と知らぬ白痴が! この姿こそ人類が辿るべき新たな姿である!」
「それもテメエの選択なら同情なんてしねェよ! だから『摘出』も手荒くいくぞ。歯ァ食いしばりなァ!」
ケヴィンは己に飛びかかる『狂信者達』たちを見上げる。
跳躍して振り下ろされた斧槍の一撃が、一閃となってケヴィンを両断しようというのだ。
その威力は凄まじいものであろう。
立てで受け止められないだろう。
「ならよォ!」
右手を突き出す。
放たれた斧槍を支えていた√能力の発露が右手で消え失せる。
そう、ルートブレイカーの力である。
√能力を打ち消す√能力。
それによって『狂信者達』の√能力を打ち消し、その斧槍の一撃をただの大振りな一撃に変えたのだ。
「貴様っ、何をした! 我が神の恩寵を!」
「神の恩寵だろうがなんだろうがァ! オマエらの敗因の一つを教えてやるよ」
ケヴィンは斧槍の柄をつかみあげ、己が手にした黒鉄斧を振るい上げる。
「俺と同じ武器で、安易に勝算を掴もうとしたことだ……! 斧槍っていうのは、こう使うんだよッ!」
変形する黒鉄斧。
ポールアクスとハルバードに変形する無骨な斧槍が『狂信者達』の体躯へと叩き込まれ……いや、違う。
ハルバードの切っ先で『狂信者達』の体躯を引っ掛け、地面に振り落とすように叩きつけたのだ。
「ぐあっ!?」
「ただ振り回すばかりが斧槍かよ。突く、引っ掛ける、叩きつける、切り裂く。使い方がなってないんだよ!」
叩きつけられた『狂信者達』の体躯が地面に沈む。
その体躯を押さえつけてケヴィンは『クヴァリフの仔』を掴み上げる。
うねるようにして蠢くそれを、強引に引きずり出す。
まるで陸に打ち上げられた魚のように跳ねる『クヴァリフの仔』を手にケヴィンはひとまず、検体として『クヴァリフの仔』を確保したのだった――。
🔵🔵🔵 大成功

ありゃ。すでに人間やめてたか。
なんか満足そうだし、いっそこのまま全消しでも……。
って、それはダメなんだっけ。
|依頼《オーダー》は、『なるべく』生きたまま。だったもんね。
こちらも『なるべく』お応えしましょう!
言うと同時に『狂信者達』に向かってダッシュ。
【武装ジャケット】と【世界の歪み】で相手の攻撃を防ぎつつ、
敵の真ん中に飛び込んだら【攻破旋陣】で一気に攻勢に転じるよ。
狙うは穴から顔を出してるうねうね。
身体に当たっちゃったときは謝る。
っていうか先に謝っとく。ごめん!
ま、生き長らえた連中が幸せかどうかまでは、わたしの知るところではないし、
せっかくの|バレンタイン《チョコ祭り》を邪魔した罪は大きいよ。
『狂信者達』の姿はあまりにもおぞましいものだった。
目からは蠢く触手が、口からも、鼻の穴からも耳の穴からも……それこそ、腹部を食い破るようにして『クヴァリフの仔』が這い出していたのだ。
これでどうして生きているのか。
恐るべきことである。
しかも、『クヴァリフの仔』との融合によって『狂信者達』の戦闘力は増幅しているのだ。
「神の恩寵を受けた身こそ、最高の戦士としての役目! であるのならば!」
「この魔力砲『信仰の炎』で我らが教義を阻むもの共らを焼き払ってくれる!」
彼らは迫る√能力者たちを排除するために、巨大な魔力砲を携えていた。
「ありゃ。すでに人間やめてたか」
伊和・依緒(その身に神を封ずる者・h00215)は、そんな彼らの姿を認めて顔を青ざめさせる。彼らの姿があまりにもおぞましいからだ。
正直、見ていたいものではない。
このまま全部消し飛ばしいてしまいたい。だが、『クヴァリフの仔』をできるだけ『生かして』確保することを言い含められている。
本当に正直なところをいうと、無視しても良いのではないかと思う。
が、『なるべく』と言われたのだ。
『なるべく』生きたまま。
「なら、仕方ないかっ! こちらも『なるべく』お応えしましょう!」
依緒は一気に戦場を走る。
「馬鹿め! 真正面から来るとは、余程、信仰の炎に焼かれたいと見える!」
「いくぞ、お前たち!」
「我らが信仰の炎の苛烈さを知るがいい! この身が砕けようとも、信仰は失われることはないのだ!」
吹き荒れる炎。
だが、依緒は自身のジャケットで顔を覆い、その身より発せられる世界の歪みでもって迫る炎を弾き飛ばすのだ。
「わ、我らの炎が、弾かれた!?」
「攻破旋陣っ! 届かなければ、どんな攻撃だってないのとおんなじでしょ!」
気をまとおった鋼糸が『狂信者達』へと走り、その身より蠢く『クヴァリフの仔』であった。
「っていうか、先に謝っとく。ごめん。加減できないから!」
走る鋼糸は一瞬で『狂信者達』と『クヴァリフの仔』を寸断する。
もとより、『狂信者達』たちは『クヴァリフの仔』と融合している。どちらかが欠けてもその先に待つのは、死だ。
そして、彼らが√能力者であるというのならば、死後蘇生することだろう。
寸断された体躯を依緒は見やる。
生きながらえたとて、彼らが幸せであるかはわからない。
いや、奉じる神がいるのならば、そのために死せるのは本望だったのかもしれない。
が、それは依緒の知るところではない。
彼女にとって大切なことはただ一つだ。
「せっかくの|バレンタイン《チョコ祭り》を邪魔した罪は大きいよ」
ただされだけなのだ。
甘い香りも、茶褐色の魅惑も。
いずれもが、今回の事件でトラウマになってしまいそうだった。
そうであるのならば依緒は嘆息するしかないのだった――。
🔵🔵🔵 大成功

【SPD】※アドリブ・連携歓迎
「力の差が何よ。信仰が何だってのよ!…こんなの、人の在り方として間違ってるわ!」
だから私は、持てる力の全て貴方達を否定する。『クヴァリフの仔』なんて存在を、絶対に拡散させてはいけない!
多少弱体化しているとはいえ、多数を相手取るのであれば数的不利は極力避けたい。
なので、一緒のタイミングで攻撃を仕掛ける人達に合わせて狂信者達を相手取るわ。
射撃系の技能を用いて通常弾による銃撃を加えて牽制しつつ、相手をなるべく近距離に寄せるよう誘導する。
敵がある程度固まったら、エレメンタルバレット『雷霆万鈞』 で周辺諸共吹き飛ばすわ!
「人は誰かに囚われてはいけない!魂よ、解き放て!!」
「素晴らしい力だ。これこそが神の恩寵。我らは選ばれたのだ。神が力をお与えになるに相応しい存在だと。その証に我らは、さらなる贄を持って『クヴァリフの仔』を召喚しなければならないのだ」
「信仰こそが人を人たらしめる。信仰なき者を信仰の炎で照らさねば」
「それが我らの責務!」
『狂信者達』は、口々にそうのたまう。
彼らの理屈は、あまりにも利己的である。
誰かに何かを強いる。
そうした結果が、この茶褐色の靄に沈む街だ。
これが信仰だというのならば、ルクレツィア・サーゲイト(世界の果てを描く風の継承者・h01132)は許しがたいことだと思った。
「力の差が何よ。信仰が何だってのよ!」
「愚かな。我らが神の恩寵も理解できぬ不信心者めが!」
『狂信者達』が次々と集まってくるのを認め、その異形たる体躯をルクレツィアは視界に納めた。
蠢く触手。
『クヴァリフの仔』と融合を果たした体躯は、おぞましいと言うほかなかった。
「……そんなの、人の在り方として間違ってるわ!」
否定する。
己が全力を持って彼らの侵攻を否定する。
『クヴァリフの仔』を召喚するために無辜の人々の生命が奪われるというのならば、許してはおけない。
その存在を拡散あせることも、絶対にさせてはならないと彼女は、その意志宿る瞳にインビジブルの孤影を揺らめかせる。
揺らめくインビジブルよりエネルギーが引き出され、ルクレツィアは精霊銃を構える。
敵は数で此方を圧倒しようとするだろう。
ある意味必然だ。
こちらは少数。だが、あちらは『クヴァリフの仔』によって強化された『狂信者達』の群れである。
数で押し切ることができるのに、それをしない理由など彼らにはない。
ましてや、彼らは信仰によって己たちの行いを肯定しているのだ。誰も彼もが、己の行いに後ろ暗さを持っていない。
それが正しいと信じて疑わないのだ。
故にルクレツィアは彼らに追い立てられながら、街中を走る。
だが、むやみに逃げ回っているのではない。
この街中という状況を最大限に活用するために彼女は細い路地に逃げ込む。
「逃げられると思うな! 貴様は此処で!」
追い立てる『狂信者達』。
くるりとルクレツィアは振り返る。この細い路地であるのならば、己が精霊銃の射線を確保出来るうえに敵をまとめることができる。
「人は誰かに囚われてはいけない! 魂よ、解き放て!!」
放たれるはエレメンタルバレット。
装填された雷の力宿す弾丸が精霊銃より放たれ、その力を発露する。
爆発は暴風となって荒れ狂い、狭い路地に吹き荒れて『狂信者達』を吹き飛ばす。
だが、それで終わりではない。
まだ、と言うようにルクレツィアは精霊銃の引き金を引き、その弾丸を叩き込み続ける。
『クヴァリフの仔』の確保なんて考えない。
あのおぞましき怪物を残してはおけないと、その弾丸は雷鳴の如く鳴り響き『狂信者達』を打ち倒すのだった――。
🔵🔵🔵 大成功

あなた方の主張に興味ありません。
信じたいものを信じたいように信じる…お互い譲れないのです。
クヴァリフの仔は回収します。
狂信者達の内側にクヴァリフの仔がいるのは、見た目からも明らか。
表皮を切り剥ぎ削いで取り除き、クヴァリフの仔を露出させる。
数多の解剖を重ねてきた実績を生かしたい。
「ダッシュ」で一番近くにいる狂信者に寄り「先制攻撃」「切断」
「早業」「医術」で直感的にスカルペルを振るい【怪異解剖
執刀術】を使用し狂信者を攻撃。
対する相手は多いけれど、動きが鈍くも思える。
「戦闘知識」で立ち回り攻撃と回避を繰り返し、ダメージが溜まる
ならためらいなく切断したものを食して回復する。
一体でも多くの検体を得たい。
八辻・八重可(人間(√汎神解剖機関)・h01129)にとって、『狂信者達』の語る言葉に意味はなかった。
言葉の意味としては理解できる。
が、興味がわかなかった。
人の主張は自由であるべきだ。主張してはならぬべきものなどない。だが、それは他者にとっては無為なることであり、心に響くものであるかどうかはまた別の問題であると理解すべきなのだ。
故に真に人を理解しようと努めるのならば、理解し得ぬものがあるということを理解することから始めなければならなかったのだ。
「あなた方の主張に興味はありません。信じたいものを信じたいように信じる……お互い譲れないのです。『クヴァリフの仔』は回収します」
彼女の言葉に『狂信者達』は激昂した。
当然である。
己たちが奉じる神から賜った『クヴァリフの仔』を回収するといったのだ。。
「なんたる不遜! その不敬は万死に値する。我らが神が鉄槌が必ずや貴様の頭上に降り注ぐことだろう!」
「そうですか」
八重可は短く言い放った。
問答は無意味である。なら、彼女が考えるべきは『クヴァリフの仔』を如何にして摘出するか、である。
あの『狂信者達』の体躯の内側に『クヴァリフの仔』が融合していることは見た目からも明らかだ。
穴という穴から触手めいたものが蠢いているのだ。
言いようのないおぞましさであるが、八重可は特に躊躇わなかった。
表皮を切り剥ぎ、削いで取り除く。
『クヴァリフの仔』を摘出する、というのならば、一度で容易くできるとは思わない。
であれば、解剖という名の実地を数多重ねて実績として活かすしかないのだ。
「|怪異解剖執刀術《シンソクセイカクムヒ》を開始します」
八重可は、その瞳にインビジブルの孤影を揺らめかせる。
引き出されたエネルギーは、彼女の手にした鋭利なる刃、その『スカルペル』を一閃させる。
迫る『狂信者達』たちの皮膚を剥ぎ、筋繊維と真皮の間にある筋膜に蠢く『クヴァリフの仔』の触手状の体躯を露出させたのだ。
これまで彼女は多くの怪異を解剖してきた。
その執刀は、、正確無比。。
振るわれる度に『狂信者達』たちの体躯を切り刻んでいく。
「くっ……この程度、ただ薄皮一枚剥ぎ落としたところで!」
「そうですか。ですが」
動きが鈍い。
数で圧倒しようとして、逆に『狂信者達』は街中にあって動きを鈍くしているのだ。
であれば、これを切り裂くことなど容易。
躊躇いなく八重可は『狂信者達』から『クヴァリフの仔』を切除して見せるのだ。
「こちらは理解しました。その体に融合した『クヴァリフの仔』であれど、切除してしまえば、その戦闘力もまた失われるのですね」
であれば、『狂信者達』が数を増やしたのは悪手だ。
八重可の翻る刃、メスの一閃の度に彼らは動きを鈍くし、『クヴァリフの仔』によって底上げされた戦闘力を失っていくのだ。
「くっ……だが、数的優位は!」
「もはやあなた方に残っているのは数的優位のみ、です」
後は、と言うように八重可は、彼らには知覚できぬ速度で翻るメスを振るい、『狂信者達』たちを打倒して『クヴァリフの仔』の検体を一体でも多く確保するために奮戦するのだった――。
🔵🔵🔵 大成功

【ゼミ】アドリブ歓迎
バギー降車時に無形の落とし子を地面に配置して。
おお。ようやく会えましたか。
はじめまして、我輩は角隈礼文と申します。以後お見知りおきを。
ええ。クヴァリフを信仰する皆様の思い、よくわかりますとも。
ぜひ、ええ、ぜひに! その素晴らしい新物質を! 理知の外にある神秘を!
我輩にもあなた方の祭事を学ばせていただきたい!
問答で聞けるだけの話は聞かせてもらい、仔の実食や他の√能力者の方への加害を要請されたらはぐらかしまして……。
まあ、この辺りが切り上げ時と判断すれば忍ばせた落とし子で狂信者を攻撃します。
ほっほっほ。いえ、我輩はクヴァリフに興味はありますが。
別に貴方たちの味方ではないのでね?

【ゼミ】アドリブ歓迎
さて、口先はレイブンの方が得意ゆえに。
私はレイブンの後ろに控えて観察させてもらおう。
信仰の話になると揉めることになるから、静かに大人しくな。
……なるほど。人を別の種へと作り変える。新生とはよくぞ言ったものだ。
不可逆の変貌は進化ではなく、ふむ。回帰。祝福か。なるほど。
クヴァリフにとっては、この行いは善である訳だな。
忘却させることも、ともすれば……。
何にせよ、悪意ではないとなると、接し方は慎重になるだろう。
√能力者のように力で制圧できる分には問題はないが、交流するにはその価値観の差異を理解できなければなるまい。
まあ。
今回はレイブンの聞き取りと奪い取る資料で十分だろう。
すまんな。
角隈・礼文(『教授』・h00226)は、己が運転する『ゴーストバギー』から降り立つ。
同時に彼の『ゴーストバギー』の車体の下に黒いタールのようなものが落ちた。
それに『狂信者達』が気がつくことはなかった。
車内では、魔術師・サイロン(ヴァラードの魔術師・h00764)がシートに身を預け、フロントガラスから礼文の背中を見守っていた。
「口八丁手八丁は、礼文の本分だ。であれば」
任せよう。
サイロンにとって礼文は弟子である。
√能力者である領分まで己が踏み込む道理もないのだ。
それに信仰の話というのはいつだって揉め事の種になるのだから、静かにしておくのが吉というものだ。
そんなサイロンの思惑と共に礼文は『狂信者達』の前に一歩踏み出した。
「おお。ようやく会えましたか」
その言葉に『狂信者達』は警戒する耐性を崩すことはなかった。
「はじめまして、我輩は角隅・礼文と申します。以後お見知りおきを」
「礼儀があると見せているが、随分と慇懃無礼ではないか。今更何を言うつもりだ?」
「いえ、浅学の身であれど、『クヴァリフ』を信仰する皆様の思い、よくわかりますとも」
「ほう、我らの思いを解すると。で、なんだ? 我らが奉じる神『クヴァリフ』の恩寵を賜りたいとでも言うのか?」
「ぜひ、ええ、ぜひに!」
「馬鹿め。そう言って我らを謀ろうなど!」
そんな、と礼文は頭を振る。
だがまあ、しかし事実と言えば事実である。
彼らとの問答によって情報を得ようという目論見は正しいのだ。
故に彼らは礼文の態度を礼儀正しきとしながらも、決して胸筋を開くのではないと姿勢を示したのだ。
確かに、とサイロンは思う。
彼らはあくまで『クヴァリフ』の信奉者である。
「我らは『クヴァリフの仔』と融合を果たすことどえ、神の恩寵を得たのだ。これによって我らは人類の先へと一足早く踏み込んだ人類。かの『クヴァリフの仔』と同一になったのだ。それを横から掠め取ろうなど!」
許されることではない。
そう言う『狂信者達』をサイロンは、一つ頷き見やる。
「人を別の種へと作り変える。新生とはよく言ったものだ。不可逆の変貌は進化ではなく、ふむ。回帰。祝福か。なるほど」
サイロンは『狂信者達』の言葉を聞いて、また一つ頷く。
「仔産みの女神『クヴァリフ』か、確かにその神性の側に立てば、この行いはまさしく善なのだな。忘却させることも、ともすれば……」
そう感じる。
それが正しいのか正しくないのかは、また別の問題である。
これが正答である、という確信はまだなない。
サイロンにとって武力ですべてを決する、という考え方は極端な考え方であると感じるところである。
結局、他者と他者とが存在している時、起こる争いというのはいつだって価値観の相違だ。
他者と他者とが存在するから争いが生まれるのではない。
他者と己が違う、というどうしようもない事柄が争いの引き金を引くのだ。故にサイロンは知りたいと思う。
「交流とて、その手段にすぎない。価値観の差異を感じ取るためのまあ、今回はレイブンの聞き取りと奪い取る資料……即ち、検体である『クヴァリフの仔』があればいい」
乱暴な手段だ、とサイロンは思っただろう。
小さく、すまんなと彼が呟いた瞬間、礼文の『ゴーストバギー』の真下から一気に落ちた黒い染み……即ち『無形の落とし子』でもって『狂信者達』を攻撃するのだ。
たちまちのうちに彼らは、このスライムめいた形状のインビジブルによって『クヴァリフの仔』を得ようとする礼文の攻撃に晒されるのだ。
「やはり、こう来るか!」
「ほっほっほ。いえ、我輩は『クヴァリフ』には興味はありますが。別に貴方たちにのみかたではないのでね?」
「よくもまあ、いけしゃあしゃあと!」
「知的好奇心は抑えられぬのです。こればかりは、しかたのないこと! どうかご納得頂きたい!」
礼文は、手にした|神秘なる叡智の断片《テイクノーツ・グリモワールフラグメント》を見やる。
それは己がインビジブル怪物である『無形の落とし子』の制御を司るものであった。
そして礼文は『狂信者達』の身より『クヴァリフの仔』らを奪い取り、その成果を持って『ゴーストバギー』と共に街中を疾駆するのだった――。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功

あら、残念
親玉には辿り着かなかったようね?
でもまぁ儀式を一つ潰せると思えば問題ないか
あ゛ー、触手とかマジでムリ
そんな、私みたいな美少女(自称)が触手に囚われるなんて(何故かドヤ顔)
っていうか、|主人格《ペオーニア》の体に触れるんじゃないわよ(威圧)
ほんとに、こっちは『影』なんだから、さ
『ライダー・ウィーグル』に乗って振り切るわ
といっても逃げるわけじゃなくて距離を取るだけなんだけど
反転&加速&突撃!! ……の途中でジャンプ!
バイクはそのまま慣性の法則で突っ込ませて
残念、空中きりもみ回転しても覗けない特別仕様のスカートなの
派手にいくわよ、【ライダー・キック】!
まとめて……ふっとべぇぇぇぇ!!!
√能力者たちと『狂信者達』との戦いは、未だに続いていた。
何故なら、続々と『狂信者達』は這い出すようにして集まってきており、その際限はないようにさえ思えた。
少なくとも リーリエ・エーデルシュタイン(アンダー・ザ・ローズ・h05074)には、そう思えてならなかった。
「くっ、背信者共め! 我らが力を奪おうなど」
「一気呵成にこれを撃滅し、我らが神に奴らの血潮を捧げるのだ!」
咆哮の如き声が上がっている。
それを見やり、リーリエは息を吐き出す。
どうやらこの場には『クヴァリフの仔』の召喚を手動した親玉めいた存在はいないようだった。
それは彼女にとっては残念なことであった。
「でもまぁ、儀式を一つ潰せると思えば問題ないか」
とは言え、だ。
リーリエは『狂信者達』の姿を認めて思わずうめいた。
「あ゛ー、触手とかマジでムリ」
彼らの姿はおぞましい。かつて合ったであろう目、その眼窩、口、鼻、耳、そして腹部。その至る場所から『クヴァリフの仔』である触手が蠢いているのだ。
生理的に受け付けない所の話ではない。
ハッキリ言って最悪すぎる。
「我が神の恩寵を!」
謗るか、と『狂信者達』が迫る。
「恩寵って。私みたいな美少女が触手に囚われるなんて……っていうか、体に触れるんじゃないわよ。ほんとに、こっちは『影』なんだから、さ」
あんなものに囚われることになるなんてたまったもんじゃないとリーリエは、『ライダー・ヴィーグル』の後輪を回転させて迫る『狂信者達』たちから逃げるようにして引き離す。
「逃げるな!」
「逃げ得るわけじゃあないってば。距離を取るって言ってほしいんだけど!」
そう、距離を取ったのは逃げるためではない。
加速するための距離を得たかったからだ。再び後輪をすべらせて回転させて反転したリーリエの瞳には√能力の発露を示す輝きがあった。
「突撃!」
白煙を上げてアスファルトを斬りつける後輪。
弾けるように加速した車体と共にリーリエは疾駆し、一気に『狂信者達』へと迫る。
「馬鹿め、我らが体は神の恩寵によって強化されているのだ。たかがバイク程度で……」
「だと思った? 残念ね!」
リーリエが『ライダー・ヴィーグル』のシートに飛び乗り、その加速の勢いのまま跳躍する。
何故かきりもみ回転している。
それが一体どのような理屈を持って意味を為すところのものかはわからない。
が、特別仕様のスカートが翻り、リーリエは加速を得た蹴撃を持って『狂信者達』たちへと一撃を叩き込む。
「まとめて……ふっとべぇぇぇぇ!!!」
その強烈なる一撃は、その言葉通り『狂信者達』を吹き飛ばし、『クヴァリフの仔』共々これを粉砕するのだった――。
🔵🔵🔵 大成功

【六七】
何故、バレンタインという心躍る日にこういうことになってしまったのか。
わあ…この狂信者たち、行くところまで行ってしまったのですね…。
…満弥、こういう時に強いんですから…。
『クヴァリフの仔』を持って帰る…のを考えると、やはりこれなんですよね…。
【雷霆万鈞】。爆発はしますけど…狂信者というある種の『肉盾』を剥がすにはちょうどいいというか。
反応速度が半減してますし、何より…ここで一番動けるのは、満弥ですよ。
しかしこれ持って帰るの、どうしましょうかね…。

【六七】
バレンタイン、考えてることがあるのに…!
憂いなくやるためにも、この狂信者たちをどうにか!
伊達に|警視庁異能捜査官《カミガリ》やってませんよ!
さて、リミッター解除した御用警棒で殴りかかりますけど…ああ、本当に。斧槍の間合いとは厄介なものです。
第六感に頼って見切りましょうか。…許嫁と手合わせしてて助かりました。
魔力を纏って隠密になったとして。【大シバキ】で地面殴ったら…一番動けるのは、私です。
満希にも制限はかかりますが、あちらは対象だけを設定すればいいですから。
傷つけば、位置は丸わかりですよ。
…にしても。どうやって持って帰りましょうかね。
バレンタイン。
それは特別な日である。
心躍る日。
言うまでもないが、多くのことを考えねばならない日でもあったのだ。
六絽・シャーグヴァーリ・ユディト・満弥(嚮導者・h05235)にとってそうであったし、七浦・シャーグヴァーリ・ルユザ・満希(謎の歌手・h05234)にも同様のことだった。
「憂いはここで断ち切っておかねばなりません」
満弥の心には使命感が燃えていた。
警視庁異能捜査官としての矜持もあった。
だからこそ、『狂信者達』を打倒しなければならない。どこまで行っても、こればかりは譲れぬ一線であった。
彼らの体躯はおぞましき異形へと至っている。
満希にとって見れば、それは行くところまで行ったものの末路であるように思えただろう。
「神の恩寵の素晴らしさも知らぬ背信者共が。憂うというのならば、人類の斜陽、その道行きを憂うべきであろう……いや、そうか」
『狂信者達』は二人が人間ではないことに気がついたようだった。
長命であるがゆえに、人類の抱えた薄暮の如き絶望を知らぬものたちであると、彼女たちの姿を認めたのだ。
「人間でないものが、人間の行く末を語るなどというのはな!」
迫る斧槍。
『クヴァリフの仔』によって強化された一撃を満弥が御用警棒でもって受け止める。
あの長柄の間合いというのは厄介極まりないことであった。
単純に長い、ということはそれだけ一方的に此方に攻撃ができるというこっとだ。
加えて、敵は此方よりも数的優位を保っている。
であればこそ、彼女は御用警棒でもって斧槍を弾きながら敵の動きを具に見やる。
「満弥!」
その言葉と共に満希の瞳が√能力の発露に光を灯す。
放たれる雷の力を込めた弾丸が『狂信者達』を襲う。
爆発が巻き起こり、彼らの体躯に蠢く『クヴァリフの仔』たる触手が跳ねるようだった。しかし、後から後から『狂信者達』が殺到してくる。
「我らが信仰の篝火はぁ!!」
「せいやっ!」
満弥の手にした御用警棒が地面に叩きつけられる。
瞬間、周囲は一本の榁の木が生える神域へと変貌する。
「神気……いや、なんだこれは?」
「我らの姿を消す力が……かき消される?」
「ええ、そうです。この力は、あなた達を含めたすべての力に制限をかけるもの。であれば」
無数の『狂信者達』がひしめく街中。
加えて、神域。
この二つの要素によって彼らはうまく動くことができない。
であれば、満希の放つ雷の弾丸は一気に戦場を切り裂いて『狂信者達』の体躯を爆発でもって打ち据えるのだ。
苛烈なる爆発に巻き込まれながらも、満弥は御用警棒でもって『狂信者達』を打ち据える。
彼らの身に融合した『クヴァリフの仔』。
これを摘出しなければならないのだが、蠢く触手に二人はどうにもできなかった。
「これを持って帰るの、どうしましょうかね……」
「本当にどうしましょうかね……」
二人は顔を見合わせる。
出来れば触りたくない。けれど、持ち帰らなければならない。
しかも『生きたまま』である。
二人はどうしてこんな日に限って、こんな事件の解決に向かわなければならなかったのだろうと、己たちの星の巡りというものを僅かに恨んだかも知れない。
そして、二人は答えがでぬままに途方にくれ、『クヴァリフの仔』がのたうつのを見下ろすしかなかったのだった――。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功

クヴァリフには困ったものですね。
わたくしたちのような輩が濫りに介入すれば人の子の輝きは褪せてしまいます。
生まれつき大きな力を持ち、永い時を生きる。
そんな者たちのように傲りや怠惰に染まらず生きる姿をこそわたくしは愛しておりますのに。
少しだけ痛いかもしれませんけれど、クヴァリフに乗せられた皆様にも責任はございます。
反省してくださいね。
「触手連撃」を使用し、触手での攻撃、鞭のように振るう「早業」での防御、触手での攻撃、眼球の触手で「恐怖を与える」ことで畏怖させ、隠密する狂信者の場所を探り、触手で攻撃、鞭の触手での「捕縛」、触手で締め上げて攻撃、最後に刃のようになった触手で狂信者の身体を丁寧に「切断」。クヴァリフの仔の摘出手術を行います。
もし暴れるようでしたら更に「触手眼光」も使用。怪物の顎になった触手の口を開いて見せ、恐怖を煽り動きを止めます。
じっとして頂けませんと、もっと苦しくて痛い目にあいますよ?
後はこれを汎神解剖機関に持っていくのでしたね。
善き使い方をされるとよいのですけれど。
御蘿・伊代(殺戮触手・h05678)の吐息は困惑の色をしていたことだろう。
『クヴァリフ』、仔産みの女神である。
それは忘却によって彼女の仔へと回帰させる者だ。
その介入が、今まさにこの街の現状である。
「わたくしたちのような輩が濫りに介入すれば人の子の輝きは褪せてしまいます」
そう、人の輝きは決して曇らせてはならないものだ。
手を差し伸べたくなる気持ちはわからないでもない。その輝きを手に入れたいと思うのもまた、頷けるところだ。
だが、定命であることは、それだけ鮮烈なる輝きを放つものだ。
一瞬の輝きが目も眩むような光を発するのだとしても己たちが差し伸べた手でもって陰らせてはならないのだ。
「生まれつき大きな力を持ち、永い時を生きる。そんな者たちいのように傲りや怠惰に染まらず生きる姿をこそわたくしは愛しておりますのに」
彼女の言葉に『狂信者達』は寧ろ、怒りを覚えるように斧槍を掲げた。
「そのような思考こそが驕りであろう。傲慢そのものである。我らは人の先へと歩むのだ。貴様のような紛い物が!!」
『狂信者達』は、その手にした斧槍でもって伊代へと襲いかかる。
迫る斧槍の一撃は苛烈なものだった。
だが、彼女は己が下半身……その触手を鞭のようにしならせ、『狂信者達』たちの体躯を打ち据える。
先制攻撃の一撃を受けきってなお、彼女は触手を凄まじき速度で振るう。
|触手連撃《テンタクル・コンビネーション》は、その触手……しなる鞭の殴打によって『狂信者達』を打ち据える。
「ぐはっ!? だが……!」
彼らの姿が見えなくなる。
だが、それでも彼女の触手が変貌した眼球は、周囲をくまなく見回す。
「見つけました」
微笑む。
それは、絶対者としての言葉であった。
彼女にとって、これはかくれんぼ。児戯でしかないのだ。
故に彼女の振るう触手は『狂信者達』の体躯を捕縛し、締め上げ、さらに刃の切っ先を得た触手が『狂信者達』の体躯を切断していくのだ。。
「ぎゃ、ああっ!?」
「ああ、暴れないでください。少しだけ痛いかもしれませんけれど、『クヴァリフ』に乗せられた皆様にも責任はございます。その痛みは皆様の罰。反省してくださいね」
まるで自在に蠢く触手。
同じ触手である『クヴァリフの仔』を伊代は、その巧みなる触手の執刀でもって摘出手術を行っていくのだ。
悲鳴が迸る。
痛みに狂うように『狂信者達』は、その身をよじり、触手の捕縛から逃れようとする。
「やめろ! やめろやめろ! 我らが神の恩寵を、おおおおっ!!!」
「いいえ、やめません。これは罰なのですか、ね」
「貴様っ、この、っ、背信者風情、がっ、紛い物、がああああっ!!!」
「あら、じっとして頂けませんと、もっと苦しくて痛い目にあいますよ?」
ね、だから、と伊代は怪物の顎へと変貌を遂げた触手を『狂信者達』に差し向ける。
そこにあったのは深淵。
恐るべき闇であった。
また同時に逃れぬ恐怖でもあったのだ。
身動きのできぬままに、己が体躯と融合した『クヴァリフの仔』を摘出される。
その痛みと恐怖は発狂しないほうがおかしいほどの衝撃であったことだろう。
己が臓腑を生きたままに詳らかにされるように、『狂信者達』は、その恐怖と痛みに発狂し、叫び続ける。
その叫びを伊代は聞きながら、これまた罰なのだと言い含めるように触手をふるい続けた。
しばらくした後、悲鳴が掻き消え、血溜まりの中に伊代はいた。
手には無数の『クヴァリフの仔』。
蠢く触手のそれはすべて伊代の手元に収まっている。
「後はこれを汎神解剖機関に持って行くのでしたね」
伊代は、その異形を見やる。
これを如何にして活用するのかは彼女にも理解できぬところである。しかし、人の子がこれを求めているというのならば、与えるのもやぶさかではない。
彼女が出来ることは。
「善き使い方をされるとよいのですけれど」
そう祈ることだけ。
そうであってほしいし、そのように扱える人の子の元に預けられることを望むように、茶褐色の靄が晴れゆく街中から、その大量の血の痕跡と共に伊代は、まるで幻のように姿をかき消すのだった――。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功