首刈ウサギの恩返し?(をエサにした好き勝手三昧?)
(「クソッタレ……いったいいつまで、オレサマは、ここでこうしていなきゃいけねぇんだ?」)
√汎神解剖機関世界の人里離れた山中。そこに、ほとんど朽ち果てたような小さな神社…というか祠がある。昔は「稲刈り兎の茶勒さま」と呼ばれ、稲荷神のお使いウサギ(キツネではない)が祭られているということで地元農民の参拝もそこそこあったらしいが、時代の流れとともにすっかり忘れ去られて荒れ放題になっている。
そして、この神社に封印されている凶悪無類な獣妖「|兎面首刈邪勒菩薩《とめんくびかりじゃろくぼさつ》(自称)」にとって、神社が忘れ去られ荒れ果てていること自体は、必ずしも悪いことではない。参拝者がいて神主が定められた儀式をきちんと行っていた頃は強力な封印のため意識そのものが封じられていたが、存在が忘れ去られて封印強化の儀式も行われなくなったので、どのくらい前のことかはわからないが、現在は意識が戻っている。しかし、かろうじて意識が戻っても妖力まではなかなか戻らず、身体……といってもここにあるのはミイラ化した左手だけなのだが……を動かすこともできないので、ぐちぐちと声にもならない愚痴を漏らす以外に何もできない。左手のミイラと形代の「|兎面首刈邪勒菩薩《とめんくびかりじゃろくぼさつ》像」を収めた石箱は祠の床下に埋めてられているので、祠が完全に朽ちて崩れ、埋めた場所の上に置かれた重しの要石が何かの弾みで転がり落ち、強い雨でも降って覆っている土が完全に流れるとことまで行けば、それまでに溜めた妖力をフル動員して何とか石箱の蓋を開いて出られるかどうか、という、年月と偶然の重なりを願うしかないどうにも頼りないというか情けない状況である。
ところが。
「ここが、古代人が財宝を埋めたという伝承がある神社跡か。まあ、どうせとっくの昔に朽ち果ててるとか、誰かが先に掘り出してるとかだろうけど、万が一にも金属製の剣とか鏡とか|玉《ぎょく》とか残ってたら凄いよね」
なんだか凄くお気楽極楽な思考が獣妖の耳に届き、そして誰かがためらいもせずに崩れかかった祠を無雑作に崩し、腐った床板を割り崩すのが感じられる。
(「これは……盗掘者か? もしかして、ここから出られる?」)
封印されて以来……いや、もしかすると強大な獣妖として好き勝手放題に暴れまわっていた頃にも感じたことのない「期待」「希望」「トキメキ」のようなものが獣妖の意識の中に生まれる。そして、重しの要石が動かされ、ざくざくと土を掘るスコップが石箱にカチンと当たった時。
「この不届き者め、こんな所で何をしている! 許さんぞ!」
「う、うわあ! 出たあ!」
明らかに人間のものではない怒声が響き、盗掘者らしき者が魂消た叫びをあげる。人間ではないモノが何なのかはわからないが、このまま放置しておいたら出られなくなる恐れが高い、と獣妖は野生の勘(?)で判断した。
「この好機、逃すものかあっ!」
意識が戻ってからどのくらいの年月が経ったか、その間、ちまちまと溜め込んでいた乏しくも貴重な妖力を一気に解放し、獣妖は石箱の蓋を弾き飛ばして外に飛び出る。そして、怒声を放ったモノ……後で考えると衰え果てた山神か何かだったかもしれない……に向かって、左手のミイラを強引に振るって首を飛ばす。とはいえ、ミイラを掴んで振るう身体は存在しない(形代の像の手足は動かない)ので、もしかすると妖力が念動力っぽく発動したのだろうか。
「一閃!」
「ぐわあああああああああっ!」
これを幸いと言っていいのかどうか知らないが、ミイラ化した左手による一撃は確かに効いたらしく、盗掘者を襲おうとしていたよくわからないモノは絶叫とともに煙と化す。同時に獣妖が形代にしていた「|兎面首刈邪勒菩薩《とめんくびかりじゃろくぼさつ》像」もボロボロと砕けて崩れる。
「あ、相討ち? もしかして、おいら漁夫の利?」
「違うわい!」
盗掘者(?)を怒鳴りつけ、獣妖はすぐさま左手のミイラに自分の意識を移し込む。もともと自分の身体だけあって収まりはよく、消耗した妖力もある程度回復し、獣妖は姿を変えて童子仏(兎耳付き)のような形態を取る。
「我こそは世に名高い|兎面首刈邪勒菩薩《とめんくびかりじゃろくぼさつ》である。邪神の罠にかかってここに封印されていたが、そなたのお陰で解放されたのだ」
主観的にはともかく客観的にはいけしゃあしゃあと嘘八百を述べ立てる獣妖(兎耳童子仏形態)を盗掘者はじろじろと無遠慮に見やる。
「そ、そうっすか。菩薩さまですかぁ……で、解放してさしあげたお礼に何かご利益いただけますかぁ?」
「そうであるな……」
まったくとんだ強欲者だが、そういうのはあながち嫌いではない、と、獣妖(兎耳童子仏形態)は内心呟く。長年封印されているうちに、世の中がどうなっているかもわからないし、ここは一つ舌先三寸で利用してやろう。
「残念ながら、我の身体はバラバラにされてあちこちに封印されており、現在の力でできることは、妖怪を消し飛ばす程度である。しかし、身体が全部揃って力が戻った暁には、そなたが望むなら不老不死でも世界の覇権でも何でも叶えてやろうぞ」
「ほ、ホントっすか!! じゃあ、おいらの動画配信がむちゃくちゃバズってナンバーワンインフルエンサーと讃えられるとかもありっすか!!」
興奮して叫ぶ盗掘者(?)に獣妖(兎耳童子仏形態)はにっこりと笑ってうなずく。
「お安い御用である。ただし、それは我の身体が全部揃ったらの話だ」
「わかりました! そんじゃおいらも、菩薩様の身体パーツ探しに全面協力するっす!」
こう見えても、怪しい情報探しには定評があるっす、と、盗掘者(?)は勢い込んで告げる。
「まずは、山を降りて情報を集められる場所へ行くっす! 菩薩様、おいらの着替えでよければ着てください!」
「うむ、苦しゅうない」
盗掘者(?)が背負っている大きなリュックから取り出したオレンジのつなぎを纏い、獣妖はにっこり笑う。
「似合う?」
「似合うっす! さすが菩薩様、萌え萌えー!」
そして二人は暴かれた祠を放置して下山する。ほど近い場所にランドクルーザーを駐めていた盗掘者(?)は、自分は動画配信者だと言い、オカルトトレジャーハンター系(?)の動画配信ではそれなりに有名だと自称する。もちろん獣妖は動画配信などとは何のことなのか最初は全然さっぱりわからなかったが、盗掘系配信者が百聞は一見に如かずですよとか適当なことを言ってさまざまな動画配信を見放題に見せたので、すっかりヘンなハマり方をしてしまった。
「やっぱ、このスタイルだと堅苦しいのとか、ダメだよねー。もっとハッピーフレンドリーに行かないとねー」
だいぶ崩れた口調で獣妖が告げると、盗掘系配信者は運転しながら軽くうなずく。
「そうっすね。いちいち菩薩様というのも堅苦しいから、邪勒ちゃん? いや、字面が悪いな。あの神社では何と言ってたっけ、稲刈り兎の茶勒ちゃん?」
「それだ! |畜生院・茶勒《ちくしょういん🐰ちゃろく》でキマリー!」
キャハハハハハ、と獣妖…いや茶勒は愉快そうに笑うが、盗掘系配信者は首を傾げる。
「畜生院っすか……ちょっとストレートすぎやしませんかね?」
っていうか、アンタホントに菩薩っすか、と、盗掘系配信者は口に出しかかったが、配信者の勘(?)が働いてそれは止める。
すると茶勒は笑いながら告げる。
「いーの、いーの、お高くとまったってしょーがないじゃない。権威に弱い金持ち騙してアブク銭毟ろうってんならエラソーにするのもいいけどさぁ、こっちが欲しいのは情報、それもとびっきり胡散臭い情報だもん。そーゆーの知ってそうな胡散臭い連中にウケるように持って行くのが早道なのさ」
「……なるほど、恐れ入りましたっす」
この時初めて盗掘系配信者は、もしかして自分はトンデモナイ怪物の封印を解いてしまったのではないかと(やっと!)感じてゾッとしたが、それならそれでトコトン怪物に付き合うしかないと、かなり安易に腹を決める。
(「古代中国の成語に「騎虎の勢い」ってのがある。今では単に「物凄い勢い」という意味で使われるけど、本来は違う。もしも虎に乗るようなことがあったら、虎が自然に止まる前に降りようとしたり無理に止めようとしたりしてはいけない。そんなことをしたら必ず命取りになる。制御できないものは無理に制御せず、成り行きに任せた方が安全なんだ」)
この場合は「騎兎の勢い」ってことになるのかねぇ、と、盗掘系配信者は言葉には出さずに呟く。
すると茶勒が、可愛らしくにっこりと笑って口ずさむ。
「毒食わば、皿まで舐めよホトトギス、カッと血を吐き転ぶ時まで」
「……めでたくもあり、めでたくもなし」
ちょっと複雑な表情で返すと、盗掘系配信者は茶勒に訊ねる。
「それ、連歌っすか?」
「んー、ただの聞き覚え。いつの時代の話かとか、茶勒ちゃん、難しいことはわかんないのー」
ケラケラケララ、と、何も知らずに聞けば無邪気そのもの、しかし何か知った上で聞けば邪気そのものの笑い声をあげると、茶勒は再び多種多様な動画配信を再生して熱心に見入る。
そして盗掘系配信者は、ランドクルーザーの運転に専念しながら言葉には出さずに呟く。
(「よし、おいらもその手でいくとしよう。騎兎の勢い、成り行き任せ、この先どうなるか、茶勒ちゃんの身体が全部揃ったら何が起こるか、とかなんとか聞かれても、難しいこととか仮定の話とかは、一切わかんないのー!」)
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