奇祭!|漢憤怒士《おとこふんどし》仁王立ち!
●√妖怪百鬼夜行のとある下町
人通りの少ない細い通りに、一人の老人妖怪が佇んでいた。
老人の視線の先にはいるのは妖怪スマホを操作しながらダラダラと歩く若者妖怪。若者は、老人のジトリとした眼差しに気づくことなく路地を抜け、往来の中へ姿を消していった。(※歩き妖怪スマホはやめよう)
そして老人妖怪はその背中を見送ると、通りに響き渡るほど大きく溜息を零した。
「ああ、嘆かわしい。近頃の若いもんときたら⋯⋯」
いつの時代も老人は若者の変化を憂うもの。そしてそれは世界が異なっても同様らしい。
「昔は若者もこの町もこんなんじゃなかったわい! 連日連夜、若い衆が集まって飲めや歌えや! 祭りだ喧嘩だ! 大騒ぎの大賑わいじゃったというのに」
かつてはこの町にもチャキチャキの若衆が集まり賑わっていた時期もあったのだろう。しかし時の流れは残酷で、今ではそんな下町情緒は過去のもの。
すっかり寂れた通りを眺めて、老人妖怪はかけていた小さな丸眼鏡を外し、目頭を押さえた。
瞼の裏に蘇るのは、年に一度の地鎮祭。1年で最も騒がしく荒々しく、そして皆が盛大に楽しんだ祭りの景色だ。
「そういえば、そろそろあの祭りの時期じゃったのう。今ではすっかり後を継ぐ奴もいなくなったが⋯⋯はひゃあっ!?」
そして老人妖怪が目を開いた時、眼の前の景色はガラリと変わっていた。
さっきまでの寂れた下町はどこへやら。眼の前に広がっているのは古びた神社の境内のような場所。
いや見紛うはずもない。ここはかつて、あの祭りが行われていた神社だ。
いつの間にこんな場所まで来てしまったのだろうか。
とその時、仰天しキョロキョロと周囲を見渡す老人の耳に、ずしりと重々しい声が響いた。
「お前の情念、憂い。手に取るように分かるぞ」
低く雄々しく、それでいてどこか優しさを感じる声音。
老人は姿が見えないにも関わらず、その声の主になぜか無性に親しみを感じていた。
まるで、その昔に街を取り仕切っていた大親分に再会したような、そんな気分に。
「お前の望みを叶えてやろう。ほれ、言うてみい?」
「へ、へい! どうか、どうか祭りを、祭りを復活させてくだせい!」
「|漢憤怒士祭り《おとこふんどしまつり》を!!」
●なのか! あれを見てみろ!
「ええええええええええええええええええええええ!!!!」
集まった√能力者達を前にして、新米星詠み―太曜・なのか (彼女は太陽なのか・h02984)が大絶叫を上げる。
「って、|予知《ビジョン》を見た時、思わずそう叫んじゃったんですよ。食堂の接客中だったのに! お陰で赤っ恥ですよ。信じられます!?」
鼻息荒く捲し立てるなのか。
信じるも何も説明しなきゃ分からんだろうに、という冷めた視線が彼女に突き刺さる。
「え、リアクションはいいからさっさと説明しろって? はーい⋯⋯」
不貞腐れんな。
「えー、私が見たのはぁ⋯⋯」
爪弄りながら喋んな。
「⋯⋯ごほん! 私が予知したのは√妖怪百鬼夜行で行われているお祭りの様子です。その名も|漢憤怒士祭り《おとこふんどしまつり》! 褌一丁の筋骨隆々の男妖怪たちが通りをひしめき合って乱痴気騒ぎするお祭りです!」
頬を紅潮させ、ふんすふんすと語気を強めるなのか。
そういうのが好きなの?
「人の趣味嗜好に茶々いれないでください! でもでも、それはただのお祭りじゃなくて、古妖が不思議な力で一般妖怪を操って現代に無理やり蘇らせた物なんです。操られた町の人達は老いも若きも全員ムキムキになって、祭りを楽しむことしか考えられなくなっているんですよ! 早く助けてあげないと、いずれ疲労でぶっ倒れちゃいますって!」
そう、事態は思ったよりも深刻だ。
このまま祭りを放置すれば、多くの罪なき人々に被害が及ぶのは想像に難くない。そして終いには、倒れた人々の命を食らって古妖が完全に復活してしまうかもしれないのだ。
だが、どうすれば祭りを止められるのか。
「それは|漢憤怒士祭り《おとこふんどしまつり》を復活させたいって願った張本人、|祭田《まつりだ》さんに聞くしか無いね。過去に|漢憤怒士祭り《おとこふんどしまつり》に参加してその詳細を知っているお爺ちゃんは、今ではこの人だけになっているみたい。だから皆にはまず観客として|漢憤怒士祭り《おとこふんどしまつり》に潜入して、祭田さんを探し出して祭りの止め方を聞き出してほしいの」
一生分の|漢憤怒士祭り《おとこふんどしまつり》を連呼しながら、なのかは状況を説明する。
あと、そんなに|漢憤怒士祭り《おとこふんどしまつり》を連呼しなくていいよ。聞く度に部屋が汗臭くなってくる気がするから。
「ただ、祭田さんは漢ふんど⋯⋯この祭りの(お気遣いありがとう)復活を心から願ってたみたい。だから祭りを止めるつもりだって勘づかれると口を閉ざしちゃうかもしれないから注意が必要だよ。もしくは祭田さんを説得することが出来たら、もっと詳しく止め方を教えてくれるかもしれないね」
祭りの止め方を教えてもらった後は、その情報を信じて行動あるのみだ。
しかし、もし情報収集に時間がかかってしまったら、|君たち《√能力者》の潜入に気づいた古妖が手先を差し向けてくるかもしれない。そうなれば手先との戦闘になり、一般人に危害が及ぶ可能性がある。
手先を撃退すれば古妖が自ら出てきて直接戦闘を仕掛ける事ができるようになるが、それは祭りを止める事ができた時も同じ。
一般人に危害が及ぶことを善しとしないならば、急ぎ祭田を探したほうが懸命だろう。
「あ! 一応言っておくけど、あくまで皆には見物客として祭りに潜入してもらうだけだから、褌一丁になる必要はないよ。だから男性だけじゃなく女性も堂々参加OK! でもどうしても祭りに参加したいのなら、褌は私が今から手配するね! 何着必要!? 色は希望とかあるかな!?」
そして急に身を乗り出し、集まった男性√能力者に熱い視線を向けるなのか。
やっぱり好きなの?
「ぎくっ、ノーコメントです! はいそれでは皆さんいってらっしゃい! 無事帰ってきたら私がまかない料理でお祝いしますからねー!」
●褌締めて
人っぽさを美徳とし、人間社会の流行りを取り入れ加速度的に変化してきた√妖怪百鬼夜行。
しかし古き良き伝統も捨てたもんじゃない。
「ソイヤ! ソイヤ! ソイヤ! ソイヤ!」
下町のお世辞にも広いとは言えない通りを埋め尽くす筋肉の群れ。
景気をつけろ。塩まいておくれ。
沿道からは裸若衆に向けて喝采が飛び交う。
「ソイヤ! ソイヤ! ソイヤ! ソイヤ!」
そして目を血走らせた漢達は、たくましい筋肉をぶつけ合わせながら、ただ一点を見つめ行軍していく。
その中には今回の事件の発端である祭田の姿もあるのだろう。
だが漢衆の中に老人の姿は見えない。おそらく彼も祭りの影響で、筋骨隆々な在りし日の姿に若返っているのだろう。
「ソイヤ! ソイヤ! ソイヤ! ソイヤ!」
どうやって彼を探すのか。そして、どのようにして彼から情報を聞き出すのか。
それは√能力者達の手腕にかかっている。
もうお腹いっぱいかもしれないが、ここからが本番だ。
君たちの健闘を祈る。
「ソイヤァ!!!!!!!!」
マスターより

MSのNaranjiと申します。
はじめましての方ははじめまして。
ご贔屓にしてくださっている皆様片に置かれましてはご機嫌麗しゅう。
特撮大好きMSのNaranjiと申します。
どうぞよろしくお願いいたします。
さて、トンチキシナリオですね。
今シナリオは祭りの会場に到着する所からスタートいたします。
第1章では下町の通りで裸若の中から祭田を探し出し情報収集。
第2章は第1章での皆様のプレイングやその結果により変化します。
Aルート→規定🔴内で情報収集が成功した場合は祭りを止める儀式へ。
Bルート→🔴が規定数を超えてしまった場合は雑兵との戦闘へ。
第3章は今回の事件の黒幕との決戦。
という流れになっております。
お察しの通りのコメディシナリオです。
戦闘以外のシナリオフレームでは否応なくコメディタッチな内容になるかと思われますし、戦闘でもコメディによる可能性が大いにありますので、クールやシリアスを保ちたい場合はご注意の上ご参加くださいますようお願いします。
お手間でなければ、プレイングにて『コメデ☓』などご一報の程いただけますと幸いです。
また公序良俗に反すると判断されるようなプレイングに関しては、採用を見送らせていただく場合がありますのでご注意ください。
それでは皆さまの闘志と希望と筋肉とソイヤにあふれたプレイングをお待ちしております!
17
第1章 冒険 『野生のふんどしの群れが表れた!』

POW
気合いとパワーで乗り切れ!ソイヤッ!
SPD
素早く巧みに身を躱せ!ハァッ!
WIZ
賢く流れを読んでやりすごせ!アドッコイショ!
√妖怪百鬼夜行 普通7 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴

…………は?
キミ達頭でもイカれたの?もしくは首と体が分かたれでもしたのかい?
っと、すまない。なんだかあまりにもトンチキで現実味が無いというか、不思議が過ぎて最早不思議しかない祭りなのさ。
とりあえずは一般客に混じって、祭田という人物を探そうとは思うけど、こうも人やふんどしが多くちゃ、それも難しそうだね。
WIS及び√能力で、抜け道や祭田を知るインビジブルでも探してみるさ。ボクは賢いから、無駄な力を使ったり、闇雲に逃げ回ったりなんて事はしないよ。メアリー・アンが居なくとも、1人で任務は遂行してみせるのさ。
……それよりも、野生のふんどしってなんなのさ。ただの洗濯物じゃ無いのかい?
(アドリブ・絡みOK)

まぁはだか祭とかあるから別にふんどし祭があってもおかしくはない。
世界は広いからトンチキな祭りがあってもおかしくはない…そこは否定しない。
問題は…バレンタインの時期になんでだよ!ってことだ。ふんどしの日ってのがあるらしいけど…
まぁいいや。とりあえず現地到着したらやることは情報収集なんだけど、郷に入りては郷に従えっていうし?むしろ混ざりに行くか。多分流れを呼んだり身を躱してもうねりには逃れられなさそうだし…なら自分から突っ込んでったほうがいいでしょ。
まぁ格好に関しては流石に配慮してもらうけどね
●2/14 奇跡のカーニバル開演
√妖怪百鬼夜行に熱い冬がやってきた。
寒さも雪もなんのその。立ち込める熱気は道に張った氷を瞬く間に溶かしてゆく。
漢達の頭上に立ち込める靄は溶けた氷が蒸発したものか、はたまた漢達自身から出たものか。
「ソイヤ! ソイヤ! ソイヤ!」
下町の狭い通りに密集した褌一丁の漢達は威勢の良い声を上げながら行進し、区画の境目にたどり着くと、そこで円陣を組むように隊列を組み直した。
「よっ! 上の町の来福祈願に、我ら服脱ぎゃ神の風吹く!」
「「「そーれぃ! ソイヤッサ! ソイヤッサ! ソイヤッサ!」」」
そして号令に合わせ漢達は一斉に円陣の中心に向けて殺到すると、高らかに声を上げながら勢いよく肌と肌をぶつけ合わせ始めた。
沿道の観客たちはその|超筋肉的押しくら饅頭《えんぎもの》に大歓声を上げ、中には手を合わせありがたやと拝む老婆の姿すらも見て取れる。
「⋯⋯⋯⋯は?」
そして、そんな光景を前に、兎の人妖少年―クルス・ホワイトラビット(夢と鏡とシロウサギ・h02054)は腹の底から気の抜けた声を漏らした。
「キミ達頭でもイカれたの? もしくは首と体が分かたれでもしたのかい?」
まだ年若いクルスにとって、これほどまでにフィジカルでトラディショナルでフェティッシュな祭事を目の当たりにするのは初めてのことであった。そして恐らくこの先もない。
強いカルチャーショックのあまり、思わず口が悪くなってしまうのも仕方ない。そう、仕方のないことなのだ。
「しっ! 観客に聞かれたら心象が悪くなってしまうよ。ここは冷静に」
そんなクルスを石動・悠希(ベルセルクマシンの戦線工兵・h00642)はそっと嗜める。
元々がベルセルクマシンなだけあって、彼女はこのような場面においても冷静だった。
「っと、すまない。なんだかあまりにもトンチキで現実味が無いというか、不思議が過ぎて、最早不思議しかない祭りなのさ」
「まぁ裸祭りとかあるから別にふんどし祭があってもおかしくはない。世界は広いからトンチキな祭りがあってもおかしくはない⋯⋯そこは否定しない」
素直な感想を口にするクルスに対し、悠希は自らの知識と照らし合わせ、機械的に状況を分析する。
そう、√EDENの日本でも、くっそ寒い冬にわざわざ褌一丁で行水をしたり、雪道を練り歩くような祭りは他にも何件か存在する。ここまでは特別おかしな事ではないのだ。
「問題は…⋯」
しかし、ただ、ただ一つ彼女の胸に引っかかって飲み込めないことは。
「バレンタインになんでだよ! ってことだ!」
あ、冷静さないなった。
「ちょっと離れた大通りはバレンタイン一色に盛り上がってるのに、この通りに入った瞬間に見渡す限りの筋肉、筋肉、筋肉。ああ、エラーを起こしそうだ⋯⋯」
片や甘い香りを放つ亜麻色のチョコレート。片や汗臭い肌色の群れ。この世の対極とも言える光景を立て続けに受信した悠希の生体視覚デバイスは、早くもオーバーヒート寸前であった。
「確かに2月14日は⋯⋯ふんどしの日ってのがあるらしいけど⋯⋯」
そして自身を納得させるように悠希は弱々しくつぶやき肩を落とす。
ちなみに同時刻、星詠みは心の中のボタンをへぇへぇと連打していた。ふんどしの日とか全く知らなかったよ。偶然ってすごいね。
「気は済んだかい? とりあえずボクは一般客に混じって、祭田という人物を探そうとは思うけど」
そんな悠希に対して、クルスは少しだけ背伸びをして、落ち込んだ肩にぽふり、と手を置く。やや冷たい口ぶりだが、これが彼なりの励ましであり優しさでもあった。
「うん、ありがと。そうだね⋯⋯まぁ、郷に入りては郷に従えっていうし? むしろ混ざりに行くかな。多分流れを読んだり身を躱しても、あのうねりには逃れられなさそうだし」
そう言う彼女の視線の先では、漢達の|押しくら饅頭《ヨイヤサ!》は更にヒートアップし続けている。
さしもの悠希であっても隙を読み切るのは困難であると判断するほどに、漢達の熱量には鬼気迫る物があった。
「なら自分から突っ込んでったほうがいいでしょ!」
そして悠希は鋼鉄製の手のひらに拳をガチリと打ち付け覚悟を決めると、沿道を飛び出し褌の群れへと果敢に向かっていった。
たとえ姿はうら若き女子であっても、彼女の実態は歴戦の実力を持つベルセルクマシン。その怪力は如何に相手がムキムキマッチョであろうと、一般人とは比べるべくもない。
悠希の渾身の突撃は筋肉の群れを貫き通し、後に続く者に道を残すのであった。
「い、命知らずだね。ボクには難しそうだ」
一方のクルスはそんな頼もしい仲間の背中を見送りつつ、ゆっくりとその場を後退していた。そんな彼の肩には、いつの間にか怪しげな鱗粉を纏う蝶が止まっている。
「うん、見つかったみたいだね。ボクは賢いから、無駄な力を使ったり、闇雲に逃げ回ったりなんて事はしないよ。メアリー・アンが居なくとも、1人で任務は遂行してみせるのさ」
軽い足取りでクルスが向かうのは沿道からわずかに離れた脇道。
そこには彼が使役するモルフォ蝶が群れをなして飛び交っていた。更に蝶々の中心には一体の半透明な魚―インビジブルが揺蕩っている。
そしてクルスはインビジブルに歩み寄ると指をタクトのようにさっと一振し、√能力|不思議の花壇で歌う花《ゴールデン・アフタヌーン》を発動した。
「蝶々の口付けをキミへ」
クルスの指揮に合わせモルフォ蝶がインビジブルに殺到し、鱗粉がそのシルエットを覆い隠す。そして鱗粉の緞帳が上がった先に現れたのは一輪の可憐な花。
「そいや! そいや! そいや!」
「君も祭りの気に当てられてるのか⋯⋯。まあ、いいや。君は祭田という人物を知っているだろう。彼のことを教えてくれないかい?」
あらかじめモルフォ蝶達に祭田をしっている人物のインビジブルを探し出すよう指示を出していたクルスは、端的に質問を投げかける。
「てやんでいべらぼうめぇ! 祭田といやぁ|『野生のふんどし』《ワイルド・フンドサー》の異名を誇る偉丈夫にして、丸眼鏡の似合う色男よう! オレっちはあいつに色恋沙汰でなんども辛酸を」
「あ、もういいよ。お疲れ様」
「えっ」
再びフイっと指を振って、花をインビジブルの姿に戻すクルス。タイムイズマネー。白ウサギは時間に厳しいのだ。
「なるほど、祭田という人物は若い頃から丸眼鏡をかけていたんだね。ぱっと見た所メガネを掛けている褌は見えないし、彼を探す重要な手がかりになりそうだ」
そして迅速に仕事を済ませたクルスは後から合流する仲間に情報を共有しようと、その場を離れるのであった。
「……それよりも、野生のふんどしってなんなのさ。ただの洗濯物じゃ無いのかい?」
そんな彼の問いに応えるものは誰もいない。
聞こえるのは一際大きなソイヤと、彼方で奮闘する悠希のフルスロットルな駆動音のみであった。
🔵🔵🔵🔵🔴🔴 成功

コメディ大歓迎&共闘、アドリブ歓迎
「わぁっしょい! わぁっしょい!」
お祭りと聞いて血湧き肉躍るね。もう。六尺褌に肌色の下着に半被を重ねて。完全お祭りモードだよ!(ちゃんと見えないようになってるよ! 青年誌レベルだよ!) もみくちゃになりつつも前に進んでいくよ。素早くかわせればいいけどある程度の接触は仕方ないのかなぁ。うわぁ汗が……。汗でハッピが貼り付くよう……。
祭田さんについては事前にゴーストトークで情報収集……お祭りで死んだ男の人……? やっぱり褌だぁ……!

漢憤怒士祭りで筋肉と褌がフィーバーだと!?
なんて素晴ら……違う。怖ろしい祭りなんだ
古妖の企みを潰すためにもこの事件、首を突っ込むか
やはり祭りに飛び込んでいくしかないだろう
私もこの鍛え上げた肉体を武器に!
褌一丁……は恥ずかしいから、さらしとか羽織で上はある程度、な
帽子も被るけど……
素晴らしい筋肉を間近で堪能しつつ祭田さん探しだな
きっと一番テンションも高くて筋肉もバチバチだろう
聞き込みしつつ、手当たり次第に行ってみよう
見つけたなら祭りの流れや終わり方を聞く感じで行きつつ
出来れば納得して止めてもらいたいものだ
こんな方法での復活ではなく、ちゃんと正規の方法で素晴らしい祭りを復活させるべきだと説得だな

お祭りは楽しいですが、人様に迷惑はダメですっ!
捜査は足が基本ですっ!
祭田さんはお祭りの中心地にいると思うので、必要なら聞き込みしつつ
流れに乗ってそこを目指します
中心地に到着後、目立つ人、特に熱苦しい、じゃなく熱心な人を中心に
祭田さんか聞き込みですっ!
祭田さんを発見できたら、“このお祭りはどうやって1番が決まるんですか?“
という聞き方から入ります、こういうお祭りなら皆さん拘りそうですからっ!
もし決め方の様な物があったら、そこから、お祭りの終わり方へと話を誘導します
基本行動中は戦闘中のつもりで巻き込まれないよう素早い行動を心掛けて
身を躱すことに気をつけますっ!
がんばりますっ!ソイヤっ!
●燃えつきろ! 芸人・警官・名探偵!
「ソイヤ! ソイヤ! ソイヤ! ハァッ!」
「ソイヤ! ソイヤ! ソイヤ! アドッコイショ!」
「わぁっしょい! わぁっしょい!」
なおも続く筋肉の祭典。
肉が跳ね、汗が舞い、叫声が響く。
⋯⋯ん? 今なんか違う人いなかった? カメラさんちょっと戻って。
「わぁっしょい! わぁっしょい!」
あ、見つけた。
褌姿の若衆に混じり満面の笑みで飛び跳ねている彼女の名は長峰・モカ((売れない)(自称)イタズラ女芸人・h02774)。
ロケ慣れしたモカにしてみれば、いかに奇祭といえど面白い画が撮れるステージの一つでしかないのだろう。自前の六尺褌に半被を羽織り完全武装となった彼女は、意気揚々と漢憤怒士祭りの最前線にカチコミをかける。
「やっぱりお祭りは血湧き肉躍るね。完全お祭りモードだよ!」
その姿は正に稀代のお祭り女。ベテランお笑い芸人ここにありといった貫禄で笑顔を弾けさせながら、モカは筋肉の海を掻き分けていくのであった。(※ベテランだからといって売れているわけではない)
ちなみに褌の下には肌色の下着を着用済み。このシナリオは全年齢対象ですのでお子様でも安心してご覧いただけます。いやほんと。
一方でそんな祭り会場に続々と駆けつける√能力者達。
その一人であるリディア・ポートフラグ(竜のお巡りさん・h01707)はキャップのつばに指を食い込ませながら、眼の前の光景を真剣な眼差しで睨みつけていた。
「漢憤怒士祭りで筋肉と褌がフィーバーだと!? なんて素晴ら……違う。怖ろしい祭りなんだ。古妖の企みを潰すためにもこの事件、首を突っ込むか」
奇祭を前にしても毅然とした態度を崩さない姿は警察官の鑑。
すごいぞ竜のお巡りさん。がんばれ僕らのお巡りさん。口元の涎は吹いたほうが良いぞお巡りさん。
「ええ、捜査は足が基本ですからねっ! お祭りは楽しいですが、人様に迷惑はダメですっ!」
そんなリディアの邪心を知ってか知らずか、爽やかな風を背に現れた玉響・刻(探偵志望の大正娘・h05240)もまた、気合十分といった様子で眼の前の褌集団に立ち向かう。
二人の行動理念は同じ。恐れず漢衆に飛び込み祭田を見つけ出す。つまりは|足で稼ぐ《ステレオタイプ》作戦だ。
「おっと、ちょっと待ってくれ。やはり礼状もなく立ち入るに当たっては礼節を失してはいけない。ここは正装に着替えるべきだろう」
そう言ってリディアが取り出したのは背中に大きく『祭』と印字された羽織。
そして刻が目を覆う目の前でバッと制服を脱ぎ捨てれば、その下に着用されていたのは祭りの場に相応しい気っ風の良いさらし姿。
仕上げにトレードマークのキャップを被り直せば、リディアお祭りフォームの完成だ。このお巡りさん、気合の入り方が違う。
「さ、流石です。私もそこまでの準備はしていませんでした。でも、やる気なら負けませんよっ! ソイヤっ! ソイヤっ!」
「ああ、鍛え上げたこの肉体はこの日の為に。待ってろ筋肉! 行くぞっソイヤァッ!」
こうして微妙に心持ちが違う警官と探偵の迷コンビもまた、漢憤怒士祭りの渦中に飛び込んで行くのであった。
場面は戻り、祭りの最前線で奮闘しているモカはというと。
「わぁっしょい! わぁっしょい!」
変わらず元気だ。芸人すげえや。
しかし彼女も何も考えず祭りを楽しんでいた訳ではない。
素早い身のこなしで筋肉達を躱しながら、祭田の容姿に合致する人物を探し回っていたのだ。
先行組が調べた情報によると、祭田は若い頃から丸眼鏡をかけており、それに加えて色男だったらしい。
更にモカ自身もお祭り気分に当てられて周囲を飛び回っていたインビジブルから情報を得ていた。
それを可能にしたのが√能力『ゴーストトーク』。インビジブルに一時的に生前の姿を与え交渉する事ができるゴーストトーカーの基本能力である。
「わぁっしょい! ねえわぁっしょい! あなた祭田さんって人知ってわぁっしょい!」
律儀に掛け声を上げつつ、呼び出したインビジブルに生前の姿を与えるモカ。
能力により人の姿となったインビジブルは鍛え上げられた尻筋を張り手でパァン! と弾きながら快活そうに笑みを返した。
「祭田さんと言えば、この祭りの号令頭を任されるほどの筋金入りのお祭り漢でい! あの朗々たる謳い文句を聞けば、おぼこ女はイチコロってもんよ!」
まるで自分のことのように誇らしげに語る褌姿の偉丈夫。
(わあ、祭りに集まってくるインビジブルもやっぱり褌だぁ⋯⋯!)
謎の感動を覚えつつも、そんなこんなでしっかりと情報を確保していたモカ。
そのような経緯があり、モカは祭りの最前線の位置をキープしながら号令が上がる時を待っていた。その号令の主こそが祭田であるとインビジブルが教えてくれたからだ。
そしてリディアと刻が祭りに飛び込んでから数分後。
裸若衆は区画の境目にたどり着くと叫声を潜め、黙々と隊列を円陣の形に組み直す。
そしておもむろに円陣の中央に進み出る一人の漢。
パァン!!!
高らかに響き渡る柏手の音。
静寂が下町を包み込む中、漢は一際大きな声で朗々と口上を謳い上げる。
「よっ! 下の町の来福祈願に、折しも我らにゃ|然《さ》しもなしぃ!」
「「「そーれぃ! ソイヤッサ! ソイヤッサ! ソイヤッサ!」」」
その号令を合図に、円陣の中央に向かって一斉に殺到し、自慢の筋肉をぶつけ合わせる裸若衆。
これこそが漢憤怒士祭りの見せ場、『超筋肉的押しくら饅頭』である。
「号令頭、見つけたぁ!」
「一番テンションが高くて筋肉もバチバチ、あの人こそ祭田氏に違いない!」
「目立つ人、特に熱苦しい⋯⋯じゃなく熱心な人。あの人に聞き込みですっ!」
三者三様。それでいて確りと的を射た推理の元に行動していた3人は、期せずして同じ人物に狙いを定める。
しかし目指す先は筋肉ひしめき合う押しくら饅頭の中心部。
ちょっとやそっと踏ん張った程度では人垣に体を捩じ込ませることすら叶わない。
だがその時、神風が吹いた。
『先陣ロマンチカ』― 刻が伴っていた爽やかな風がつむじ風となり、巻き上がる砂埃が漢達の目を晦ませたのだ。
「皆さん、今ですっ!」
刻の声を合図にモカとリディアは全身に力を込めて人垣をこじ開ける。そして爽やかな風に背中を押されながら、3人の√能力者達は褌の間を一気に駆け抜けた。
「うわぁ汗が⋯⋯。汗でハッピが貼り付くよう⋯⋯」
ただし密集する漢達の間を通り抜けるのだから当然こうなる。特に薄着で臨んでいたモカの姿はそろそろファミリーシナリオには刺激が強すぎる見た目になってきた。
過酷な戦いには代償はつきものである。あカメラさん、モカちゃんを映す時はピントややボカシでお願いしますね。
「ふぅっ! 良い筋肉だ!」
一方のリディアはというと、零距離で触れ合う筋肉の祭典にすっかり上機嫌のご様子。こいつおまわりさんです。
そんな四苦八苦の末にやっとの事でたどり着いた円陣の中心部。そこにあったのは迫真の仁王立ちで裸若衆を満足気に眺める丸眼鏡の偉丈夫の姿。
「あなたが号令頭の祭田さん、だよね」
確信を持って問いかけるモカに対し、丸眼鏡の男―祭田はギロリと睨みを効かせた。
「おうおう! なんだってこんな所に女っ子がいるんだぁ? 怪我しねえ内に|帰《けえ》んな!」
「えっと、私達はこのお祭りのことを聞きに来たんですっ。このお祭りはどうやったら1番が決まるんですか?」
モカの質問を引き継いで前に歩み出たのは刻だ。
この祭りはただ筋肉を見せつけ行進するだけの催しではない、との推理から来る発言だったが⋯⋯。
「ほう、廃れて久しいこの祭りの『裏祭り』の事まで知ってるとは、お前タダもんじゃねえな?」
その読みはどうやら正解だったらしい。
片眉をクイッと持ち上げて愉快そうに笑みを浮かべる祭田。しかしその表情はすぐに険しい物に変わった。
「だがこれ以上は教えられねえし、裏祭りをやるつもりもねえ。俺はこのまま憤怒士の行進を続けるだけで十分だ」
「えっ! どうしてですかっ!」
「裏祭りなんていかにも盛り上がりそうなイベントなのに!」
まさかの反応に声を上げる刻とモカ。
特に半ばロケ気分で参加していたモカは、画変わりのしない祭りほど盛り上がらないものはないと大憤慨である。
「裏祭りは今年の年男を決める真剣勝負。そして年男が決まっちまったら、そこから先はただ宴会。祭りはそれで|終《し》めえなのよ。⋯⋯俺ぁよ、この夢から覚めたかねえんだ」
「あ⋯⋯」
そう言う祭田の表情からは若々しい風貌に似合わない老境の寂しさが滲んでいた。
輝かしき時代に返り咲く夢を手放せというのはある種、何よりも残酷な申し出なのかもしれない。そう思い至ってしまったからこそ、刻とモカは一瞬言葉に詰まってしまった。
「ならば、私からも頼む」
だが、ここには人情だけでは立ち行かぬ世界に生きている者がいる。
リディアは若い2人の前に進み出ると、祭田を静かに見据えた。
「なっ、その帽子、お前警官か? お巡りがなんの用だってんだ!」
祭田はリディアの帽子の紋章に気づくと、寂しげな表情を一転して鬼の形相に変えて食って掛かる。
「まさか俺をしょっぴいて祭りを解散させようって魂胆じゃねえだろうなぁ!」
「まさか。逮捕などするつもりはない。見ての通り満喫もさせてもらっているしな」
そう言って僅かに頬をほころばせ、おどけたように羽織の両襟を摘むリディア。
「だが後半は正解だ。この祭りは古妖の呪力で人々を操って復活させたもの。そんな方法での復活ではなく、ちゃんと正規の方法でこの素晴らしい祭りを復活させるべきだ」
「ぐっ⋯⋯知った口を⋯⋯」
そう、祭りを心の底から堪能したからこそ、リディアには今のこの祭りを許すことが出来なかった。
操られた偽りの筋肉ではない、本当の漢憤怒士祭りを味わってみたい。そんなリディアの熱い想い(と書いて私利私欲と読む)が祭田の胸を強かに打った。
「それに気づいているか? お前の褌、泣いているじゃないか」
いや、それは普通に汗染みだと思う。
「俺は⋯⋯。儂は⋯⋯」
しかし、祭田は自らの褌を握りしめ、苦悶の声を上げている。
リディアの説得は確かに祭田の心に届いたようだ。
お祭り男の執念を解きほぐすまで、もうあと一歩。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功

ぅー、右見ても左見ても褌褌ふんどし、うら若い乙女にはほんま目の毒やわ
あ、でもイケメンさんのなら……ってあかんあかんはしたないでうち!(きゃーって顔覆って恥ずかしげ顔ぶんぶん)
ほんま乙女にこんなん見せるクソボッコの黒幕、見付けてくらっしゃげんと!
……ともあれまずは祭田の爺ちゃん探して話聞かんとやね
爺ちゃん婆ちゃんの相手は地元でよぉしてたし、祭りに乗じて仲良くなって話聞いてみよかぁ(コミュ力、魅了、情報収集)
ただ、この人ごみの中うち一人で探すんは埒明かんし……一先ず人海戦術と行こか
(小豆袋取り出しぽんと小豆の粒ばら撒けば兵隊子狸に変化し)
手分けして捜索頼むで、狸の兵隊っ(変身、集団戦術、野生の勘)

ソイヤッ!ソイヤァッ!ッとォ
チョイと軒をお借りしやして屋根の上から拍子木鳴らし、幻影の紙吹雪でも散らして盛り上げやしょうか
ついでに予め(√能力で)ご近所さん(インビジブル)から人相を聞き取りしといた祭田の旦那サンを屋根の上からお探ししてッと
紫煙入道と合わせりゃ目玉は4つ
見つけて見つからねェってこともありやせんでしょ
イヤァ祭りッてェのは楽しいもんでございやすね
アタシも祭りは大好きってモンでして
でもねェ
だからこそでございやすよ
楽しい祭りは“やらせ”ちゃならねェ
年に一度の楽しみも神サマに捧げる心持も
無理やりじゃア張りぼてになっちまう
本当にお祭りが好きなアンタ様なら分からねェ話じゃございやせんでしょ?
●(噺が)上手い椿と乙女の狸
リディア達が祭田に説得を続ける間にも、漢憤怒士祭りは滞りなく続く。
円陣を組んで押しくら饅頭をしていた男たちは、再び列を成して行進を始める。そして祭田は迷いを振り払うように頭を振って、再び隊列の中に紛れて行ってしまった。
「これは後一押しってとこやね」
その様子を屋根の上から眺めていた屋島・かむろ(半人半妖の御伽使い・h05842)は、被り傘をクイと持ち上げ道行く褌の群れを凝視する。
祭田の後を急ぎ追おうかとも思ったが、無策で飛び込んだ所で人の波に押し流されるのがオチだろう。
「それにしても⋯⋯ぅー、右見ても左見ても褌褌ふんどし、うら若い乙女にはほんま目の毒やわ」
ストールで口元を隠しているが、かむろの顔は今にも燃え上がりそうなほど真っ赤に染まっていた。
霊験あらたかな血筋に生まれ修行を積んだエリート化け狸といえど、彼女はまだまだ花の15歳。√EDENなら義務教育も終えていない年頃の女の子にとって、この光景は刺激が強すぎたのだ。
「あ、でもイケメンさんのなら……ってあかんあかんはしたないでうち!」
とはいえ若いなりに異性の好みもあるようで、かむろは更に熱くなる頬に手を当てブンブンと顔を振った。
この多感な時期にマッチョな褌イケメンに魅了されてしまっては性癖が拗れるなんてレベルではない。今頃草葉の陰ではおじいちゃんが心配そうに見守っていることだろう。
「ソイヤッ! ソイヤァッ! ッとォ」
そしてそんな思春期の危機を知ってか知らずか、かむろの隣で上機嫌にお祭り見物をしているのは二代目海石榴屋・侘助(胡乱な紙芝居屋さん・h01536)。
今日は祭りだ無礼講。ちょいと軒上お借りして、拍子木鳴らせばカンカカン。春待ち焦がれる如月の町にヨイヤサ花が舞う。
侘助が景気付けにと色とりどりの紙吹雪の幻影を振らせれば、見物客はフロアバク湧き。手を打ち鳴らして歓声を上げた。
「いやァ、打てば響くッてのは気分がいいもんでございやすねェ。普段の紙芝居でもこれぐらい盛り上がッてくれたら甲斐もあるッてもんでやすが、ねえ?」
カラカラと笑いながら隣に揺蕩う死霊―紫煙入道に目を向けるが、煙の旦那は目をかっぴらいて祭田の背を追うことに集中している。暗に、折角見つけたんだから見失わない内にさっさと行け、と言われているような気がして、侘助はひょいと肩をすくめた。
「はいはい、そろそろ見物は終いにしときましょ。皆さんもありがとうございやした」
そう言って侘助は手に持った紙芝居に声を掛ける。√能力『真相劇場・天知ル地知ルワレガ知ル』。紙芝居の登場人物として実体化していたインビジブル達は祭田探しに大いに役立ってくれた。
いいってことよと吹き出しを残して祭りの空に戻っていくインビジブルを見送り、侘助は隣で依然顔を振っているかむろの様子を窺い見る。
「ってなわけで、アタシはそろそろ行きますがね?」
「はぁー⋯⋯だいじょぶ。だいぶ落ち着いた。あんたのおかげで楽に祭田の爺ちゃんを見つけることが出来たし、今度はうちの番やけんね。ただ今から降りて追いかけるっちゅーとまた見失いそう。そうなったら、うちら2人で探すんは埒明かんし……一先ず人海戦術と行こか」
両頬をパンと張って気合を入れ直すかむろ。そして懐から巾着袋を取り出せば、その中から小豆を一握り通りの上にばらまいた。
「さあ手分けして捜索頼むで、狸の兵隊っ!」
そこから更に印を結べば、道に散らばった小豆がむくむくと肥大化。瞬く間に現れた子狸の一団が裸若衆の足元を縫って駆けていく。
「あの子達が祭田の爺ちゃんを見つけてくれるはずや。ほな行こか!」
「はいなァ!」
「ソイヤ! ソイヤ! ソイヤ!」
所変わってここは祭りの最前線。祭田は必死に声を張り上げ、並び立つ漢達と肌と肌をぶつけ合わせながら行軍していた。
しかしその姿にはこれまでのような覇気が籠もっていない。
先程投げかけられた言葉がどうにも胸に引っかかるのだ。
「儂は祭りを復活させたかった。その願いに曇りはない。だから今、最高に言い気分なんじゃ⋯⋯」
自分に言い聞かせるように呟く祭田。
だが心が後ろ向きなってしまえば自然と視線は下を向くもので⋯⋯そこでようやく祭田は、自分の足元に子狸の群れが擦り寄って来ていた事に気がついた。
「な、なんだぁ!?」
祭田は仰天し思わず足を止める。行進中に一人が急に立ち止まれば、当然、周囲の者はぶつからないようにと距離を置く。そうして彼を中心にわずかな空間が出来上がった。
「本当にそうですかねい?」
「気分がいいって顔には見えへんけどな⋯⋯ひゅいっ!?」
そこに足を踏み入れたのは侘助とかむろ。
先導する子狸を追ってなんとか彼のもとに追いついた2人であったが、瞬間、かむろが素っ頓狂な声を上げた。
遠目には気づかなかったが、若返った祭田は丸眼鏡が似合うなかなかの色男。そして物憂げな雰囲気に引き締まった筋肉、したたる汗、そして何より褌姿。いろいろな情報が綯い交ぜになって、今の祭田は属性過多な異次元の色気を発していた。
そりゃあ当然イケメン好きのかむろには刺激が強い。強すぎる。性癖が壊れないよう直視を避けるのが精一杯になるのも無理はないというものだ。
そんな連れの様子に気づいた侘助はかむろの視線を断つように前に進み出ると、世間話しでも始めるかのような気安さで祭田に話しかけた。
「イヤァ祭りッてェのは楽しいもんでございやすね。アタシも祭りは大好きってモンでして」
「あんたら、さっきの奴の仲間か? 俺に祭りの止め方を聞き出そうって、そういう魂胆だろ!」
唐突に現れた2人に対し警戒感をむき出す祭田。
しかし侘助はそんなことお構いなしに軽快に話し続ける。
「でもねェ、だからこそでございやすよ。楽しい祭りは“やらせ”ちゃならねェ。年に一度の楽しみも神サマに捧げる心持ちも、無理やりじゃア張りぼてになっちまう」
「ぐっ⋯⋯おめえも知ったような口を」
しかしそれは祭田もとうに気づき始めていた図星であり、それをピタリと言い当てられて思わず口をつぐんでしまう。
そして眼の前の噺家風の女は気づけばじわじわとこちらに歩み寄ってきていて、柔和に細められた目の間からうっすら覗く瞳は、まるで自分の心を見透かしてくるかのよう。
そして目と鼻の先まで迫った所で女は足を止め、トドメの一言を言い放った。
「本当にお祭りが好きなアンタ様なら、分からねェ話じゃございやせんでしょ?」
「⋯⋯ああ、ああ! そんなこたぁ全部、全部気づいていたさ!」
観念したように息を吐き出し、声を荒げる祭田。
「でももう祭りは始めちまったんだ。そしてやめたら二度と戻らねえ。この夢が覚めちまったら俺はただの爺で、この気っ風のいい下町も若衆も元に戻っちまう。俺はそれが、怖いっ⋯⋯」
度重なる説得によって、祭田は己の本心に気づいてしまっていた。だからこそどうしようもないジレンマを振り払えないでいたのだ。
だが、どんな苦労や苦難でも笑い話に変えてみせるのが紙芝居屋の生業だ。
「なら、夢の続きを探せばいいんですよォ。幸いなことにアンタ様はこの祭りの生き字引。若い世代に引き継がせるためのあれこれは全部ココに入ってるんでしょう?」
そう言って自分のこめかみをコツコツと叩き、笑みを浮かべる侘助。
そして更にその笑みを悪戯っぽいものに変えて。
「それにほら、若い子にもウケるッてのはアタシの連れが証明してくれてるし、ねェ」
「ここでうちに話し振らんといてくれへんかなぁ!?」
侘助の背からひょいと顔を出し苦情を入れるかむろ。だが強く反論することも出来ず何とももどかしいといった様子で、ぐぬぐぬと口元を戦慄かせた。
「はあ⋯⋯まあええわ。なあ爺ちゃん、うちからも頼むけん。この祭りの止め方を教えてくれへんか?」
「⋯⋯ああ、分かった。案内しよう。⋯⋯漢憤怒士祭りーー!! 二の幕――!!」
「「「ソォレイ! ヨーイヤサー! ヨーイヤサー! ヨーイヤサー!」」」
孫世代からの真っ直ぐな頼みを無下に断れる老人などそういない。
今度こそ√能力者達の説得を聞き入れた祭田は、男衆に高らかに号令を入れる。
そして仰々しい筋肉の躍動と共に方向転換をした彼等を先導すると、祭田はどこかへと向けて行進を再開させた。
「さて二の幕とは一体何が待ッてるんでございやしょうか! 紙芝居のいいネタになるならこれ幸いッてなァもんで」
「ほんま乙女にこんなん見せるクソボッコの黒幕、見付けてくらっしゃげんと!」
そして2人の√能力者は、片や期待に胸を膨らませ、片やまだ見ぬ黒幕への怒りを闘志に変えながら次なる舞台へと歩を進めるのであった。
漢憤怒士祭り一の幕、これにて暫しのお暇。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功
第2章 冒険 『裏賭場で勝負』

POW
負けても諦めず粘りに粘って勝つ
SPD
イカサマを駆使して華麗に勝つ
WIZ
相手の言動から手を読みクレバーに勝つ
√妖怪百鬼夜行 普通7 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
●益荒男大博打
「「「ソイヤッ! ソイヤッ! ソイヤッ!」」」
時刻は夕暮れ時。
茜色に染まった下町を奥へ奥へと突き進み、祭田率いる裸若衆がたどり着いたのはとある大階段の前。
そして雄々しい掛け声とともに登っていけば、その先に待っていたのは寂れた神社の境内。
そう、祭田が古妖に誑かされたあの神社である。
「ここが二の幕、裏祭りの会場だ。その名も『益荒男大博打』! 俺達はここで賭け事をして今年の年男を競うのさ」
褌一丁で腕組みをし、かつての郷愁にふける祭田。
その向こうでは同じく褌一丁の集団が神社の蔵から、何やら古めかしい道具をあれこれ持ち出しては地面に並べている。
おそらくこれが大博打とやらに使う祭具なのだろう。花札やトランプといった絵札、雀卓、中にはひと抱えもある巨大なサイコロまで、その種類は様々だ。
果ては寺にあるような釣り鐘といった何に使うか分からない代物まで並んで、神社の境内はあっという間にカオスな空間に変わっていった。
「男の中の男は勝負事にも強いはずってなもんで、これで運の強さを競い合うのさ。まあ昔は喧嘩祭りだったらしいが、怪我のせいで明日から働けなくなったらおっかさんにドヤされるしな。てなわけで、俺の爺様の世代から運否天賦の強さで年男を決めようってなったんだい」
その様子を眺めながら祭田は尚も自慢げに益荒男大賭博の由来を語る。
そうこうしている間にも暗くなり始めた境内に松明が灯され、いよいよ準備は万端といった様子だ。
「んで、お前さんらにはその年男になってもらいてぇ。多分だが、ここで俺か古妖に操られた誰かが年男になったら漢憤怒士祭りは終わらねえ。そのまま延々と同じことの繰り返しだ」
祭りに未練がないといえば嘘になる。しかし皆の説得の甲斐あり、祭田はまた新たに祭りを復活させる決意を固めたのだ。
そしてそのためには、古妖に支配された今の祭りは終わらせなければならない。
「勝ち残ってくれるなら男でも女でも構わねえ。どうか勝ち残って年男年女になってくれ! 頼む、気張ってくんな!」
※博打は複数種類あるので、お好きな物を選んでプレイングをお書きください。
・筋肉丁半:金属製のクソデカサイコロを釣り鐘の中に放り投げ奇数偶数を当てる。壺(鐘)振りは自身で行い、同着の場合は鐘を振った時の音の大小で優劣が決まる。
・筋チロリン:金属製のクソデカサイコロを用いるチンチロリン。サイコロを3つ同時に投げる筋力がなければ参加すら不可能。
・筋肉こいこい:ルールは花札のこいこいだが、絵柄の花や動物である部分が様々なポージングを決めたマッチョメンになっている。役名は『肉見で一杯』など。みんなでオリジナル役を作ろう。
・筋肉衰弱:クソデカトランプを用いた神経衰弱。数字が揃ったら対戦相手の筋肉が衰弱し萎んでいく。相手が立てなくなったら勝ち。怖すぎ。
・その他、自由に筋肉的な博打を創作しプレイングを寄せていただいても大歓迎です。

なんというか……この祭り筋肉ネタ絡めな死ぬん?
……気にしたら負けなんやろなー
まあ、筋肉はさて置き要は賭博
狸で賭博いうたらやっぱりアレ……『狸賽』やろ
まーオチまで落語通りやったら最後天神さん降臨してまうんやけど、流石にそんなヘマは勘弁……化け狸の面目躍如、しっかり化かしたらんとねぇ
当然参加するのは筋チロリン
√能力で呼んだ狸の内三匹が賽子、残りは野次馬に化け(幻影使い、変身、正体を隠す)サポート役とし野次等で場の雰囲気をコントロール(集団戦術、野生の勘)
狸の化けた賽子で出目を操作、幻術も併用し更に愛嬌も振り撒き誤魔化しつつ(コミュ力)、さも金属製巨大賽子を振ってるかのように見せかけ博打を勝ち抜く
●令和狸合戦チンチロ
「なんというか……この祭り筋肉ネタ絡めな死ぬん? ……気にしたら負けなんやろなー」
粛々と準備が進められる大賭博会場の一角にて、屋島・かむろ(半人半妖の御伽使い・h05842)は諦観の息を吐き出した。
祭田から教えられた賭博はどれも筋肉を絡めたものばかり。
『何事もしかたないねという妥協の心が大切』とは昔の偉い人が残した金言であるが、この状況は少しばかり度が過ぎる気がして流石のかむろも頬が引きつった。
(にしても筋チロリンってひっどいネーミングやな⋯⋯)
それはこの祭りに参加する誰しもが思っていて、それでいて誰もが敢えて口に出していないセリフ。
ちなみにこのシナリオはファミリー向けだから、この章の章題と元ネタを交互に何度も唱えてはいけないよ。事故が起こったら、あっ、ってなるからね。
「まあ、筋肉はさて置き要は賭博。狸で賭博いうたらやっぱりアレ……|『狸賽』《たぬさい》やろ」
|『狸賽』《たぬさい》と言えば落語に語られる化け狸を用いた賭博黙示録。人間に助けてもらったたぬたぬが得意の変化で恩返ししようとする、聞くも涙語るも涙の努力奮闘物語である。
「まーオチまで落語通りやったら最後天神さん降臨してまうんやけど⋯⋯」
失敬、聞くも涙のくだりは盛りすぎたね。
かむろの言う通り話しのオチを端的に解説すると、物分かりの悪いたぬたぬが人間の合図を勘違いしてぽやたぬするという笑い話し。
気になった人は調べよう。ウェルカム・トゥ・落語の世界。
「まあ流石にうちはそんなヘマは勘弁……化け狸の面目躍如、しっかり化かしたらんとねぇ」
どうやら彼女なかで作戦は固まったようだ。
かむろが意気揚々と向かうのは当然筋チロリンの席。
とその前に、彼女は先ほど用いた巾着袋から小豆を数粒取り出すと、誰にも見られていないことを確認してから足元にひょいと放る。
すると小豆は見る見る内に子たぬたぬに変化し、礼儀正しく整列して親分たるかむろを見上げた。
「ええか、よく聞くんやでー。1号から3号はあそこのでっかいサイコロに化けてうちの合図に合わせて出目を出すんや。間違っても天神さんに化けたらあかんよ。んで他は褌男達に化けてうちを盛り上げるんや。盛り上がっとったら勢いに乗ってイカサマもバレづらくなるけんね」
純真無垢な子狸達に対し、極めてこすい事を吹き込むかむろ。
しかしこれも厳しい勝負の世界。子狸達は『ほんまにそんなことしてええのん?』とでも言うように親分を見上げるが、最後には皆一様にビシッと敬礼を返して会場に散っていった。
「すまんのう、すまんのう。うちが子分たちにイカサマを仕込まざるを得んも全部元凶のせいやわー。許せへんわー。おーいおいおい」
そんな子分たちをかむろは涙を飲んで送り出す。
流石は四国讃岐に名だたる化け狸。狸芝居もお手の物である。
そんなこんなで到着した筋チロリンの一席。
弱冠15歳の少女がどでかいサイコロを放ってみせようというのだから、周囲にはなんだなんだと見物の褌達が集まってくる。
「よっ嬢ちゃん! そんな細腕で賽が触れるのかい!」
「運があっても筋がなきゃ博打は出来ねえぜい!」
「うるっさいわ! 目ん玉ひん剥いてよく見ときぃ! そもそも博打に筋肉求めるほうがおかしいやろが!」
かむろは単身会場に飛び込んで、飛び交う野次にキレ気味にキレキレのツッコミを返す。
ここまでの道中で一緒に行進してきたこともあり、褌一丁の男達に取り囲まれるという刺激の強い光景にもだいぶ慣れたようだ。
男子三日会わずして刮目してみよというが、少女の成長はその比ではないのだろう。イッツ・ア・成長コンテンツ。
「ほな行くで!!」
そしてかむろは地面に置かれたサイコロに軽く目配せすると、ポポンのポンとそれらを蹴り上げ、お手玉でもするかのように軽々と宙に浮かべてみせた。
「な、なんだってー!」
「こいつぁたまげた!」
「おったまげーしょんフェスティバル2025冬の陣!」
褌たちの驚嘆に合わせて、彼等の中に紛れている子狸たちも声を上げて会場の盛り上がりに拍車をかける。
(最後に声上げたやつは減給やなー)
そんなことを思いつつかむろはサイコロのお手玉を更に加速させ、おりゃあと一息に狸賽を放り投げる。
「ピンピンピンとへその穴! 賭場に嵐を呼ぶ女! 屋島・かむろとはうちのことよー!」
そして景気の良い一声が合図となって、地面に落ちたサイコロはころころと転がって皆一様に真っ赤なへそを空へと向けた。
|1のゾロ目《ピンゾロ》、所謂アラシ。チンチロにおいて最高得点となる出目を叩き出し、会場は静寂に包まれる。
そして一瞬の間をおいて。
「で、でたーーー!! アラシだー!!」
「すっげえ~! すげえぜ嬢ちゃん!」
「いよっ! 筋チロリン界のトップスター!」
「上半期筋チロリンゲスト大賞受賞!」
「いえーい! みんなー! 応援おおきにー! おまえ2ヶ月減給ー!」
一斉に湧き上がる会場。
その中心でかむろはアイドルの如く愛嬌を振りまくのだった。
🔵🔵🔵 大成功

……茶番劇もここまで来ると立派なお茶会に見えてくるから不思議だよ。
脳味噌だって筋肉なのにね。廃れた文化が何故廃れたかを考える頭を持たないのは悲しいことなのさ。伝統と時代の歩み寄りが出来ない、つまり進化が無いものは消えていくのが世界が誕生した時からの真であり理だ。
ま、この場の勝負には従ってあげるよ。
ボクは優しいからね。
【Rule・Of・Rose】
悪いけど熱過ぎるお茶を頂くつもりは無いよ。ここではボクがルールだ。全ての攻撃が必中になるこの空間、ここでの攻撃は即ち絶対に勝てる手札を意味しているのさ。イカサマだって?言っただろう?脳味噌だって筋肉なのさ。
さて、もう結果はおわかりだね。
チェックメイトだ。

いよいよ始まる裏祭り……!! まさかの大博打とは、私はこのまま参加しても良いのか……?
いや、ここまで来たら突撃あるのみ!! 事件解決のためだ、イケイケー!!
なるほど、筋肉と運の強さを試す博打か。古来より、筋肉の張り、艶、浮き出た血管の模様などで吉兆を占うこともあったとか聞いたことある気がするから、その流れもくんでいるのだろう!?
ふふふ、素晴らしい筋肉の躍動を見つつ運も試せるとはな……。素晴らしすぎるじゃないか、この祭り……。
いざ、私はわかりやすく丁半でいこう!
この筋肉と怪力を持ってすれば出目など自在に……大きく鐘を振って!! うぉおおぉぉ、筋肉万歳!!
半で勝負だ! いけるところまで行くぞっ
●両極端は名コンビ!?
「いよいよ始まる裏祭り……!! まさかの大博打とは、私はこのまま参加しても良いのか……?」
大博打が始まった境内にて、リディア・ポートフラグ(竜のお巡りさん・h01707)は目を輝かせながら周囲を見回していた。
見てくださいあの目! 筋肉を見ながら次に見る筋肉のことを考えているあの目!
場所が場所なら逆に通報されそうな表情と挙動のリディアであるが残念ながら(?)彼女は警察官。頭に汚職の文字がつくタイプであるが、列記としたお巡りさんである。
そんなリディアは何も怖くなかった。
「⋯⋯茶番劇もここまで来ると立派なお茶会に見えてくるから不思議だよ。まさかお巡りさんまであのお茶会に嬉々として混ざろうなんて⋯⋯思ってないよね?」
「ぎくっ!」
ただ|同行者《クルス》の眼差しが怖かった。
「脳味噌だって筋肉なのにね。廃れた文化が何故廃れたかを考える頭を持たないのは悲しいことなのさ」
リディアと正反対に、冷めた表情で辺りを眺めているのはクルス・ホワイトラビット(夢と鏡とシロウサギ・h02054)。
彼にとって漢憤怒士祭りは既に一度滅びた文化。時代遅れな物に興味はないと言わんばかりに、クルスは場に立ち込める漢達の熱気を手団扇で跳ね除ける。
だが祭りの復活に、いや筋肉そのものに並々ならぬ思いを寄せているリディアの意見はクルスと相反するものだ。
「ふっふっふ、分かっていないな少年くん。温故知新さ! 筋肉と運の強さを試す博打。古来より、筋肉の張り、艶、浮き出た血管の模様などで吉兆を占うこともあったとか聞いたことある気がするから、その流れもくんでいるのだろう!?」
「古きを温ねて新しきを知るにしても素っ頓狂がすぎるって気づかないかなぁ。あと多分それ亀甲占いの話しだよね?」
「ふふふ、素晴らしい筋肉の躍動を見つつ運も試せるとはな⋯⋯。素晴らしすぎるじゃないか、この祭り……」
「あぁ、可哀想に。この人脳味噌まで筋肉なんだ、筋繊維の方の」
爆裂に高いテンションで早口にまくしたてるリディアに思わずツッコミの鋭さがますクルス。
さながらマグマとツンドラが並び立っているかのような2人。
祭りの余興の漫才と思われたか、もしくは今どきの十代少年に熱く語る三十路間近の女警官という図に危機感を覚えられたか。2人の周囲には俄に人だかりも出来始める。
「おっと、行間であまり目立ちすぎるのもよくない、か。ま、この場の勝負には従ってあげるよ。ボクは優しいからね」
「分かってくれたか! そう、ここまで来たら突撃あるのみ!! 事件解決のためだ、イケイケー!!」
旗色が悪いと見て、兎にも角にも行動しよう。そしてさっさと終わらせよう、とクルスは足早に賭場へと向かう。
そんなクルスの真意を知ってか知らずか(十中八九知らない)リディアもまた彼と連れ立って事件の渦中に飛び込んでいくのだった。
そうして2人がやってきたのは筋肉丁半の会場。
逆さまに置かれた巨大な釣り鐘と、横に置かれたこれまた巨大な鉄製のサイコロ。異様な雰囲気に満ちているその場所では、今正に一人の褌が丁半に挑もうとしていた。
「ぬぅうううううおおおおおおお!! うぬうううううううんん!」
雄叫びを上げながら2つのサイコロを釣り鐘の中に放り投げる男。
更に釣り鐘の下に指をかけると、膝を震わせながら男はそれを辛うじて持ち上げた。
「おんどりゃあああああ!! ちょおおおおおおおう!!」
そして全身を揺さぶりながら鐘と共に大跳躍! 飛び散る汗! 弾ける筋肉!
ガランガランと音を立てながら男は鐘をひっくり返し、勢いよく地面に突き刺す。
「ぜぇ、はぁ⋯⋯結果は⋯⋯⋯⋯ちっくしょおおおおお!!」
しかし、鐘の下のサイコロの出目は惜しくも2・5の半。
男は慟哭を上げ、膝をプルプルと震わせながら壇上を後にした。
「素晴らしい! ナイスファイト! ナイスマッソー!」
そんな男の背を万雷の拍手で見送るリディア。
そして熱くなった目頭を拭い、次は自分の番だと意気込んで壇上へ意気揚々と登っていく。
「この筋肉と怪力を持ってすれば出目など自在だ! 見ていてくれよ少年くん!」
羽織を脱ぎ捨て、晒布越しに鍛え上げられた筋肉を披露するリディア。
女だからと高をくくっていた観客たちも、その見事な上腕二頭筋と、くっきりと割れた腹筋には思わず溜息を漏らさざるを得なかった。
「はいはーい、見てるよー」
一方のクルスはというと壇上の横であいも変わらず冷めた目でリディアとギャラリー達を見つめている。
違う点があるとすれば、いつの間にか彼の周囲に真っ赤な薔薇を咲かせた蔓が生い茂っていることだろうか。
「呼んで字の通りの|餞《はなむけ》と言ったところだな! 君の激励しかと受け取ったよ! ぜぇい! とあぁっ!」
鍛えている人はポジティブとはよく言ったもので、全てを肯定的に受け入れるリディアはクルスが作り出す薔薇のオブジェを背負いながら、気合の声と共にサイコロを釣り鐘にイン!
そして深く腰を落とし、力いっぱいに釣り鐘を持ち上げた。
「うぉおおぉぉ、筋肉万歳!!」
地面を踏みしめ、歯を食いしばり、ゆっくりと釣り鐘を左右に揺するリディア。
鐘の中ではガラン、ガランとサイコロが転がり。
「ぐっ! よぉ! はっ! せいっ!」
ガラン⋯⋯ガラン、ガランガランガラガラガラガラ!!!
遂には釣り鐘とサイコロは、まるで元より一つの楽器だったかのように高らかに音を奏で始める。
「う、嘘だろ!?」
「すげえ⋯⋯一体どんな鍛え方したらあんな音が出せるんだ!」
それはいかなる寺社仏閣でも聞くことの叶わない荘厳な音の調べ。正にマッスルミュージカル。
「そして、ここからが⋯⋯とうっ!」
観客たちを魅了する筋肉と音の祭典。それはリディアの跳躍と共に終焉を迎える。
だが祭りは終わらない。
そう、ここからが、|リディアの真骨頂《マグマ》なのだ。
「やあああああああい!」
裂帛の掛け声と共に、遠い異国の大聖堂の鐘を思わせる音を響かせてリディアは鐘を地面に叩きつける。
「はぁあああんっ!!!!!」
そして勢いよく鐘を持ち上げれば、その下にあったサイコロの出目は1と2。
即ち半!
「うおおおお! 当てやがったあああ!」
「アンコール! アンコール!」
「アンコール! アンコール!」
瞬間、沸き立つ観客達。
自らの手番など忘れ、リディアの再演を望み手拍子を打ち鳴らす。
「っしゃあ! 行けるところまでいくぞ!」
そしてリディアはそのアンコールを快く受け入れ、再度マッスルミュージカルは幕を開けるのだった。
何度でも何度でも。彼女が賽の目を外すまで。
「まあ、ボクが望む限り外れることはないんだけどね」
そんな大熱狂の会場を前にしてもやはりクルスのクールは崩れていなかった。
いや、むしろリディアよりも誇らしげな表情を浮かべているようにも見える。
「悪いけど熱過ぎるお茶を頂くつもりは無いよ。ここではボクがルールだ。全ての攻撃が必中になるこの空間、ここでの攻撃は即ち絶対に勝てる手札を意味しているのさ」
そう、クルスの言う通り、彼が望む限りリディアの目は的中し続ける。
そのトリックは彼が生み出した薔薇の裁判所―『Rule・Of・Rose』にあった。
薔薇の裁判所の中ではクルスこそが傲慢なる女王様。
主役が望むように舞台は周り、サイコロの出目程度の単純な事象は全て思うがまま。
「だから何もそこまで派手にパフォーマンスしなくたっていいっていいのに。あの人も物好きだよね」
嘆息するクルスの視線の先では、尚も笑顔と筋肉を弾けさせるリディアの姿。
その姿にどこか眩しい物を感じる⋯⋯ような気がしなくもなくもないような気がして、クルスはそこで思考を止めた。
「まあいいさ。言っただろう。脳味噌だって筋肉なのさ。このバクチはボクの筋肉の勝ちってことで」
そうしてクルスはもう付き合う事もないと、不敵に笑みを浮かべながらその場を後にするのだった。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功

選択【SPD】
祭の次が博打って…うん、気にしたら負けだね。
…まぁ博打、つまりギャンブル…そう、カジノだね。負債がたまり過ぎて地下労働される債務者とか色々あるけども。
この手の場合って正攻法でやっても胴元が仕込んでたら乗せるだけ乗せて一気に搾り取るのが世の常なので…バレなきゃイカサマじゃなないんだぜってことで
堂々とイカサマします。具体的には【早業】【パフォーマンス】を駆使し…トランプの札の入れ替え…あとついでにベルセルクマシンだし機械的なイカサマしても見た目人間だしばれへんばれへん。
胴元が土下座するまで搾り取ろうか。多分場所が場所なら出禁レベルになりそうだけど

ちょっと予想外の展開ですねー
でも止める為に頑張らないとっ!
(SPDで行動)
とはいえ、この中で私ができそうなのは筋肉衰弱でしょうか
それにしても大きなトランプですね…(ピコン)
これだけ大きいなら側面に傷をつけて目印にできないでしょうか?
具体的に
上の部分に4本の傷、これで1〜4
横の部分に4本の傷、こっちは5〜8
(横の傷1あるカードは5、傷2なら6という感じです、上はそのまま)
これだけ確保できれば、残りは記憶力勝負ですっ!
少々ずるいかもしれませんがしょうがないですっ!
清濁合わせ呑むのが名探偵という物ですっ!!
…多分
●|奇跡《イカサマ》 切り札は自分だぜ
「祭の次が博打って…⋯うん、気にしたら負けだね」
「確かにちょっと予想外の展開ですねー。でも止める為に頑張らないとっ!」
√能力者達が各所で活躍をする一方で、この状況に面食らう者がここに2人。
石動・悠希(ベルセルクマシンの戦線工兵・h00642)と玉響・刻(探偵志望の大正娘・h05240)は顔を見合わせ、苦笑いを浮かべていた。
とは言え祭りが褌姿で街を練り歩くパレードから一転、筋肉に物を言わせる博打大会へと変貌したのだから困惑するのは無理もない。
いい感性じゃないか。守っておやり。
「まぁ博打、つまりギャンブル⋯⋯そう、カジノだね。負債がたまり過ぎて地下労働される債務者とか色々あるけども」
おっと悠希の方は若干博打のイメージに偏りがある様子。
ここは参加者の顎と鼻が尖ってたり、ざわ⋯⋯ざわ⋯⋯するタイプの賭博場ではないのでご安心を。
ただしイカサマがまかり通るという意味では、そのイメージは間違ってはいないのかもしれない。
「とはいえ、この中で私ができそうなのは筋肉衰弱だけでしょうか。それにしても大きなトランプですね⋯⋯あ!」
瞬間、刻の頭上にピコンと灯る豆電球。(ステレオタイプ! イイネ!)
この子、かわいい顔して何やらイカサマを思いついたご様子。
「これだけ大きいなら、トランプの側面に傷をつけて目印にできないでしょうか?」
刻はカチカチッと紐を引いて電球の明かりを抑え、例えば⋯⋯と地面に木の枝で図形を書き始める。
「トランプの上の部分、長方形の辺が短い方ですね。こちらに1本から4本の傷をつけるんです。これで数字の1〜4の目印になります。そして数字の5~8のカードには、カードの横辺に同じように1本から4本の傷をつけるんです。こうすれば1から8までの数字のカードは直ぐに見分けられますよっ!」
自身の思いついた名案を誇らしげに語り、笑顔をほころばせる刻。
しかし対する悠希はというと。
「では、9から13のカードはどうするんだ?」
「あうあう、それは⋯⋯あとは記憶力で勝負ですっ! 1から8まで分かるなら、あとは連続で当てる内に相手の筋肉は衰弱して勝てるはずですよっ!」
「なるほど。だが、いつカードの数字を確認して傷をつける?」
「あうあうあう⋯⋯」
推理の穴を浸かれ途端にしどろもどろになる刻。頭上の豆電球も常夜灯サイズまで小さくなってしまった。
仄かなオレンジ色の明かりに照らされ俯くその表情はなんとも可愛らし⋯⋯ではなく、居た堪れない。
「⋯⋯ふっ、なんてな。意地悪を言ってすまなかった。実は悠希も正攻法では勝てないと思っていたところだ」
だがどうやら悠希にも考えがあるようで、刻のアイデアを元にさらなる作戦を思いつくと、そっと彼女に耳打ちをする。
「⋯⋯と、こんな感じなのだが、ここは任せてもらおうか?」
刻の耳元から口を離し、悠希は軽くウインクを一つ。
すると途端に刻の豆電球が煌々とした光を取り戻した。
「わあ、それ明暗ですっ! 確かにこれは悠希さんにお任せすべきですね」
「ああ、バレなきゃイカサマじゃないんだぜってことで。ひとつやってみるか。あとそれ眩しいから消してね」
「あう⋯⋯」
そして、しばらく後。
筋肉衰弱の舞台にて、勝負は既に決しようとしていた。
「くっ、はぁ⋯⋯はぁ⋯⋯」
武舞台に膝を着いているのは悠希。
彼女の手元には既に数枚の組札があり、対戦者である褌の若衆もまた筋肉に衰弱の跡が見られる。
この勝負、両者の獲得した組札の枚数上ではほぼ互角と言えた。
しかし悠希が融合している素体は16歳の少女。そのため悠希の方が相対的に筋肉量は少なく、結果として先に悠希が膝をつくこととなったのだ。
「へ、へっへっへ。俺様の勝ちだ⋯⋯!」
そういって男は勝利宣言をし、腕を天に突き上げる。
瞬間、萎縮していた筋肉はみるみる復活し、ギャラリー達は喝采を上げて勝者である男を持て囃し始めた。
「流石ぁトランプ名人のタカちゃん!」
「筋肉ムキムキマッチョマンで記憶力まであるなんて!」
「お前に出来ないことなんてあるのかい!」
鼻高々と言った様子で勝ち誇る男ーもといタカちゃん。
このまま勝利し続けて今年の年男となるべく武舞台に居座り続けるタカちゃんの前に、次なる挑戦者が現れた。
「よ、よろしくおねがいしますっ!」
そう、他ならぬ刻である。
「おいおい、さっきの子より更に筋肉量が少なそうな子が来ちゃったぜ。流石に女子供をいたぶる趣味はねえんだがよう」
「心配ご無用、です。だって、私が勝ちますからっ!」
相手の挑発に更に挑発を返す刻。
その瞳にはかつて無いほどの闘志がみなぎっていた。
「ほう、なら見せてもらおうじゃねえの。だがハンデはくれてやる。最初はお前からでいいぜ」
「⋯⋯では、遠慮なく!」
そうして刻は地面に敷かれた巨大トランプの中を巡り歩き、まずは一枚をオープン。
そして続けざまにもう一枚をめくりあげると。
「2と2。これで1ポイントっ!」
「なに!? ⋯⋯ぐぅ!」
1ポイント分の筋萎縮を受け、僅かにふらつくタカちゃん。
更に相手が動揺を抑えるまもなく刻は次なるカードをめくりあげ。
「7と7ですっ! 次は5と5!」
「ぐ、ぐおぉぉぉ⋯⋯ま、待て待て待て! なんでっ、そんなに!」
「13と13っ!」
「むわああああぁぁぁぁ!!!」
容赦のない連続ヒットにタカちゃんの自慢の筋肉はみるみる内に萎んでいく。
「ふふ、気づいたかな? 残念だったね、トリックだよ。ただし気づいたところで証拠を見つけ出すのは困難だがね」
そして悠希はその光景を武舞台の下から満足気に見上げていた。
そう、これはトリック。
悠希は先の勝負で負けるふりをしながら密かにカードに印をつけていたのだ。
しかもの印は、彼女の腕の生体武装『フュージョン・ウェポン』を一時的に分割し数字の形を型どりながらカードに同化させた物。
これにより1から8までの数字しかマーキングできないという弱点を克服し、更に刻が近づいた時のみ『フュージョン・ウェポン』がアピールをするため他の者にバレる事もない。
正にベルセルクマシンでなければ再現不可能な超精密技工のイカサマだ。
ついでに言うなら、肉体の殆どを義鎧で補っている悠希にとっては少しくらいの筋萎縮など物の数ではない。
つまりはここに至るまでの全てがイカサマを成立させ、刻を勝利に導くためのブラフだったのだ。
「さあ、このまま次の挑戦者も土下座するまで搾り取ろうか。多分場所が場所なら出禁レベルになりそうだけど」
そして遂にタカちゃんは一度もカードをめくる間もなく倒れ伏す。
タカちゃんを運び出す男たちが訝しげに刻とカードを見つめるが、当然ながらイカサマらしい証拠はどこにも発見することは出来ず、筋肉衰弱は此処から先も刻の独壇場となるのだった。
「少々ずるいかもしれませんがしょうがないですっ! 清濁合わせ呑むのが名探偵という物ですっ!! ⋯⋯多分」
そして勝利を確信した刻はというと。
(あれ、これってどちらかというと完全犯罪を達成した悪人の思考なんじゃ⋯⋯? あわ、あわわわわ)
勝利の代償として、名探偵としての自覚を衰弱させていくのだった。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功

「モカさーん!」手を振りながらモカさん(h02774)と合流します。
初めての漢憤怒士祭り。正直緊張していますが、モカさんの手前、堂々とします。
モカさんの口上のあと
「志那都彦神に請い願う。少しばかり力を貸してください!いざゆかん!」
志那都彦神の力を借りて鐘を振ります!中に反射板を設置して振る動作の補助にしつつ勢いを付けて豪快に!
鐘を開く瞬間、目で合図
(今です!)
モカさんが気を引くと同時、反射板を再設置。反射の具合を調整して他の面が見えるようにしてイカサマを
「おやぁ?存外大した事ありませんねぇ」
イカサマがばれそうになったらササッと鐘を回収してばれるのを防ぎます。

「お、バイトく……和田くんこっちこっちー!」
うちでバイトしている和田君(h02649)と合流するよ。
「さぁさぁ、博徒の兄さん方、|こいつ《筋肉丁半》で黙らしてみぃや!」
|√能力《リアルタイムどろんチェンジ》で女博徒に変化、派手な着物姿に肩を出して相手を煽りまくるよ。こういう博打は精神力の勝負、相手の集中力を削れればいいかな。
(おっけ、行くね)
和田君のイカサマ前、少し胸元をはだけさせ。
「おうおう、そんなもんかぃ? あっしを黙らせてくれる兄さん方はいねえのかい!?」
煽りと色気でイカサマに視線がいかないようにするよ。
●財布の底まで張ってGO
「くぅう! みんな頑張ってるねー!」
益荒男大博打は今や最高潮を迎えていた。
大勝負に挑む男達の感嘆と悲鳴が交差し、舞台は既に阿鼻叫喚。
それに混じって、各所で活躍している|√能力者《仲間たち》の噂まで漏れ聞こえてくれば、お祭り好きの長峰・モカ((売れない)(自称)イタズラ女芸人・h02774)はもう居ても立っても居られない。
しかし彼女がまだ動き出していないのには理由があった。
「モカさーん!」
そこに駆けつけたのは和田・辰巳(三神の霊剣士・h02649)。
モカが雇われ店長をしているライブハウス『ロフト√1』のアルバイトである。
ちなみに辰巳はまだ13歳。ライブハウス勤務はわりかしアウトな気がするが⋯⋯なんか訳あり? 話しきこか?
「お、バイトく……和田くんこっちこっちー!」
そんな彼にモカは軽く手を上げ、階段の上にて辰巳と合流する。
これがモカが我先にと大賭博に参加しなかった理由。彼女は助っ人―辰巳の到着を待っていたのだ。
「お待たせしました! 急に出張バイトを頼むだなんて、どうしたんですか?」
長い階段を息も切らさずに駆け上り、晴れやかな笑みを向けてくる辰巳。
そんな辰巳に、これが若さか、と一瞬だけ羨望と嫉妬の情を抱いたモカだったが、まずは雇用者として責任を果たすのが先だろう。
「ああ、ちょっとお祭りの手伝いをしてほしくてね。さあ和田くん⋯⋯あれを見てみろ!」
「ええええええええええええ!!」
モカの指差す先。そこは筋肉丁半の大舞台。
筋骨隆々な褌一丁の漢達が振り壺代わりに巨大な釣り鐘を持ち上げ、どでかいサイコロで出目を占う。
そんな奇妙奇天烈な光景に、辰巳は思わず絶叫を上げた。
「⋯⋯まあ、もう見えてましたけどねー」
「やりたかったよねー。ロケ番組の夢だよねー」
目を見合わせて、ヘヘヘと笑い合う辰巳とモカ。
お笑いロケを愛好する者の夢を叶えてくれてありがとう。
辰巳に至ってはいつの間にかハチマキなんかもしてくれていて、若いのにノリは上々。将来が楽しみだね。
「とまあ、そんな訳でわたしは今からアレに挑もうと思うんだけど、せっかくの丁半なのに壺振りの発破が無いのは寂しいでしょ? だからわたしが盛り上げ役をするから、和田くんには壺振りをやってほしいんだ。策も考えてあるよー」
待ち時間の間に考えていた作戦をそっと耳打ちするモカ。
あれをあーしてこーして⋯⋯と思いついた悪戯を楽しそうに語る姿はまるで少女のように生き生きとしている。
「ふんふん、なるほど⋯⋯わ、分かりました。やってみます!」
対する辰巳はやや緊張の面持ちだ。
彼が担うのはモカの悪戯の根幹。しかも壺振りなど当然生まれて初めてなわけで、思わず表情がこわばるのも無理はない。
「まあまあ、これはお祭り。楽しんだもん勝ちだ⋯⋯よっと!」
そんな辰巳の緊張を解すようにモカはその場でくるっと一回転。
するとモカの衣装は瞬く間に晒の上に華美な着物を纏った女博徒風のものに変化した。
これが彼女の得意技、リアルタイムどろんチェンジの早着替え。
衣装代も着替えの時間も節約できちゃうから、売れない女芸人にはお大助かりの優れ技だ。
「さあ、笑顔で帰ろー!」
そうして辰巳を連れ立って、丁半の舞台に意気揚々と向かっていくモカ。
ひしめき合う褌を掻き分て舞台の上に躍り出れば、その気っ風のいい姿に男たちの視線が集まった。
「さぁさぁ、博徒の兄さん方、|こいつ《筋肉丁半》で黙らしてみぃや!」
着物から肩を出して煽れば、漢達の熱気は更に膨れ上がる。
こういう博打は精神力の勝負。相手の集中力を削れればいい、というモカの思惑通り、彼女の派手な格好と威勢は博徒達の集中力を一声でかき乱していった。
「志那都彦神に請い願う。少しばかり力を貸してください!」
続いて辰巳も√能力を解放。
『二重招来:志那都彦神』の力でその身に神を宿し、その姿は半透明な狩衣を纏った姿に早変わり。
更に変身と同時に出現する新武器『反射板』を、素早く鐘の中に仕込めば準備は完了だ。
「さあさ皆の衆! わたし達の出す出目を当てられるか、勝負と行こうか!」
「いざゆかん!」
モカの威勢に負けじと辰巳も声を張り上げて、鉄製のサイコロを釣り鐘の中に放り込み、豪快に鐘を振っていく。
「おいおいまじかよ!」
「あの坊主すげえぞ!」
妖怪の大男でも至難のその所業をまだ年若い少年が軽々とやってみせたのだから、博徒達の驚きも当然だ。
その堂々たる振る舞いは先ほどまで緊張していたのが嘘のよう。
世話になっているモカの役に立つべく、辰巳は一層豪快に釣り鐘を天高く掲げ、振り壺をひっくり返し舞台に叩きつけた。
「いよぉっ! はぁっ!!」
「さー張った張った!」
そんな辰巳の姿に感心しつつも、モカは今度は自分の番と博徒達に更に発破をかける。
次々に上がる丁半の声。
それを聞き分けつつ、モカは最も多い掛け声を割り出すと。
(丁3割、半7割ってところかな。⋯⋯おっけ、和田くん、行くね!)
モカは視線のみで辰巳に合図を送り、着物の胸元をはだけさせて晒に覆われた膨らみを僅かに男たちに覗かせた。
「おうおう、そんなもんかぃ? あっしを黙らせてくれる兄さん方はいねえのかい!?」
瞬間、男たちは更にヒートアップ。
その隙を逃さず辰巳は反射板を転移させ、光を屈折させながら鐘を勢いよく持ち上げた。
「⋯⋯4・5の丁!」
途端に半に掛けていた男たちから上がる絶叫。
だが実際のところ、辰巳が出した出目は3・3の半であった。
しかし彼が設置した反射板が舞台とその下との間の光を屈折させているお陰で、舞台の下からはサイコロの出目は間違いなく4と5に見えている。
これが辰巳のライブハウス仕込みのレフ板マジック。
光で盛れば虚も実になる魔法のようなスゴ技だ。
「おやぁ? 存外大した事ありませんねぇ」
不正をお首にも出さず堂々と勝ち誇れば、最早辰巳を疑うものなどいない。
「さあさ! これで終わりなわけねえよなあ! 我こそはという漢の中の漢はもう一局張った張った!」
そしてモカの場を温める手腕が博徒達に降りるという選択肢を与えない。
2人の見事な連携が織りなす必勝法により、その後も男たちは次々と搾り取られていくのだった。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功

喧嘩代わりに博打たァ粋ですねェ
そンじゃ筋肉こいこいで
時にこんなお話知ってやすかい?
むかァし昔
名うての博徒がいたそうで
賭場を荒らしに荒らしてすわイカサマかって睨まれたがどうも手目を上げられねェ
抱え切れねェ勝ち分届けに行ってみりゃ博徒の家じゃア座敷童がケサランパサランと戯れてたと
作り話にしたって出来過ぎたお話でさぁねェ
おっと筋(たん)
それから肉(かす)ッと
こいこいでございやすよ
さっきッからアタシばっかり札もらってごめんなさいね
お
今度ァ速筋(青短)遅筋(赤短)でピンク筋と来たモンだ
こいこいですよ
サテ
柳に小野マチョ風、桐にサイドチェスト、速筋遅筋で頂戴した光札と合わせて黒光りで勝負ッと
さ、続けやしょ
●静かなるタン
「喧嘩代わりに博打たァ粋ですねェ」
一層の賑わいを見せる益荒男大博打の会場をぶらからと歩き回る二代目海石榴屋・侘助(胡乱な紙芝居屋さん・h01536)。
宵越しの銭は持たねえと言わんばかりの勢いで賭け事に興じる男たちの生き様は正に粋で|鯔背《いなせ》。
更にそいつで祭りが盛り上がるってんだから、|寿ぎ《ことほぎ》甚だしい。
「さァて、アタシもそろそろ始めますかね。ふむ⋯⋯そンじゃ筋肉こいこいで」
一通りの博打を見て回り、侘助は一番肌に合うと感じた花札の会場へ足を伸ばす。
他の博打会場は豪勢な舞台が組まれ観客たちの歓声が飛び交っているのに比べ、花札の会場は簡素なものだ。
境内の端に茣蓙を敷き、その上では胡座をかいた褌姿の男たちが向かい合って黙々と札をめくっている。
侘助はそんな中へヒョイと立ち入ると、ちょうど対局が終わったばかりの男を一人見繕った。
「お兄さん、気持ちの良い勝ちッぷりだったねェ。どれ、次はアタシと一局どうだい?」
「おう! いいじゃねえの。言っとくが俺っちは今のところ負けなしよぅ。おもしれえ勝負にしてくれるんだろうなあ」
威勢の良い男に笑みを返しつつ、侘助は持参の座布団を茣蓙の上に敷いて座り込む。もんぺの皺を正しながら膝を折り、煙管を置くその振る舞いは名だたる噺家のようであった。
「えー、まァ、皆さん真剣に興じてらッしゃる最中で御座いますがね。今日は折角のお祭りだ。アタシもほんの少しでも賑わいを提供できたらと思いやして」
札を切り8枚ずつ相手と交互に配り、いざ対局だというタイミングで、侘助は藪から棒にそんな事を申し出る。
そして僅かに声量を強め、周りで札を囲んでいる男たちにも一声。
「対局の片手間、ちょいとお耳を傾けてくださいな」
そして侘助が深々と頭を下げた瞬間。
周囲の空気が俄に変わった。
「時にこんなお話知ってやすかい?」
表情は穏やかに。されど細められた目から覗く瞳はまたもや怪しい輝きを放ち。
侘助は札を出しながら、静かに語り始める。
「むかァし昔。名うての博徒がいたそうで、賭場を荒らしに荒らしてすわイカサマかって睨まれたがどうも手目を上げられねェ。抱え切れねェ勝ち分届けに行ってみりゃ博徒の家じゃア座敷童がケサランパサランと戯れてたと」
対局相手も周囲の男たちも思わず聞き惚れる程の淀みない語り口に、よく通る声。
おっといけねえ、と相手の男が自分の札と場に出た札とを睨みつけ、僅かに思考してから鹿肉の札で紅葉のカスをさらっていく。
負け無しと謳っているからには、男は自分の引きに自身があるのだろう。相手方は猪鹿マッチョ狙いだろうかと侘助は思案しつつ、それでもこの勝負が既に決している事はお首にも出さない。
⋯⋯なぜなら、彼女はもう語り終えてしまったのだから。
「作り話にしたって出来過ぎたお話でさぁねェ。おっと|筋《たん》。それから|肉《かす》ッと。こいこいでございやすよ」
場から出た札で次々と札を拾い上げ、早くも役を完成させる侘助。
反面、男が引く札はどれも捨て札ばかり。
早くも局面はワンサイドゲームの様相を呈していた。
「なっ、俺っちの引きが⋯⋯。いや、こんな下振れよくあるこった。こいこいした事を後悔させてやるぜ!」
「さっきッからアタシばっかり札もらってごめんなさいね。こっちは逆に上振れの反動が怖いってなもんで。おッ、今度ァ|速筋《青短》|遅筋《赤短》でピンク筋と来たモンだ。こいこいですよ」
「なにいいぃっ!?」
男の絶叫などどこ吹く風。侘助はこともなげに再び役を成立させ、上機嫌に煙管に火を付けた。
彼女の√能力『再演・海石榴屋十八番』の演目世界に囚われている内は相手に勝ちの目などないのだが、当然能力者でない男にはそんなこと分かるはずもなく。
「サテ、柳に小野マチョ風、桐にサイドチェスト、速筋遅筋で頂戴した光札と合わせて『黒光り』で勝負ッと」
先に拾い上げた札が全て役に繋がるのではという勢いで、続々と役を成立させていけば最早点差は絶望的。
それでもあがりにしないのは、男に僅かな希望を見せつけて勝負を降りさせない手腕である。
「さ、続けやしょ」
ここらで一つ下振れが怖い、などと笑いのたまって見せても、そんな未来はあるはずもなく。
男の掛け金は既に蝋燭に灯る種火の如く、吹けば消えゆく定めなのであった。
「ふっ!」
ああ消えちゃった。
おあとがよろしいようで。
🔵🔵🔵 大成功

◆賽 SPD/アド絡み◯
闇の蜥蜴が褌を締めるベリソーシュールな姿で参戦。勿論法被も着ているぞ。尻尾避けて締めンの中々難しいンだぜ?
豪快に酒かっ食らう神鳥に「クッソ呑むぢゃん。」と気持ちの良い飲みっぷりに爆笑しつつ参戦。
半(奇数)を張る者は壺振りの側に座る、だったか。ンーじゃ、早速。壺の中は闇の中。神鳥の振るう壺に一部を振り分け潜ませて、賽子が奇数を示せば良し。示さなければ着地直前運搬能力応用して傾けゴロリと動かす。
流石に何度も同じ手使えば怪しまれるから適度に適正に。半丁移動しつつ調整して行くぜェ
「はっはァ!やるじゃねェの!」
やんややんやと祭りを楽しみ手前が振るなら尾を使うぜ

◆賽 連携&アドリブ大歓迎
ごくッッッごくッッッごくッッッ…ぷはぁ〜///
にゃはは〜♪酒とバカ騒ぎは祭りの華ってねぇ〜!!祭り好きのアイカちゃん登場だーーーい♪
(一石サイズ(180㍑)の酒瓶を肩に担ぎ、豪快に呑みながら、サラシに祭り法被姿で裏祭りに乱入)
参加するなら『筋肉丁半』!
何笑ってんの?小さい嬢ちゃんがサイコロ持てるかって?壺振り無理だろうって?
ボクを舐めてもらっちゃ困るんだなぁ
ようござんすか?ようござんすね!
聞いて驚け、見て笑えー!コレがボクの壺振りじゃい!
高らかにサイコロをぶん投げ、片手で持ち上げた鐘で器用にキャッチして、ぎゅるんぎゅるんとぶん回します
勝敗二の次、楽しんだもの勝ちってね
●大賭博の落日/大蜥蜴と岩飛流
日もすっかり落ちて、益荒男大博打はいよいよ大詰め。
負けが越して既に年男競争から降りた者たちが談笑しながらやけ酒をかっくらったり、観戦に周って野次を飛ばしたりと各々に楽しみ始めた頃。
宴も|酣《たけなわ》にはまだ早いと、新たな参戦者たちが裏祭りの会場に足を踏み入れた。
「ごくッッッごくッッッごくッッッ⋯⋯ぷはぁ〜!!!」
境内の階段を登ってきた者達を見て、雑談に耽っていた者たちはぎょっと目を剥き無言で彼等を見送る。
そんな彼等のうちの一人、酒瓶から豪快に日本酒を飲み下しながら現れたのは神鳥・アイカ(邪霊を殴り祓う系・h01875)。
小柄な体型に不釣り合いな超巨大な瓶を持参した彼女は嫌が応にも人目を引いた。
なにせ彼女が持っている瓶のサイズは一石。その内容量はなんと180L。そんなのほぼ浴槽じゃん! 市販してんのそれ!? ⋯⋯っへ~、すげぇや√妖怪百鬼夜行。
「クッソ呑むぢゃん」
そして彼女に向けてゲラゲラ、とこれまた豪快に笑うのはアイカの相方(爆笑ギャグです笑ってください)であるウィズ・ザー(闇蜥蜴・h01379)。
闇蜥蜴の異名の通り、彼の見た目は闇色の鱗に包まれた身の丈5mの大蜥蜴。
そんなウィズが法被を引っ掛け、律儀に褌まで締めているのだから、その容姿はシュール極まりない。
どっちかというと人目を引いているのは彼の方なんじゃ?
「尻尾避けて締めンの中々難しいンだぜ?」
逆にどうやって褌を回したのか気になりすぎて夜も眠れないです。
「にゃはは〜♪ 酒とバカ騒ぎは祭りの華ってねぇ〜!! 祭り好きのアイカちゃん登場だーーーい♪」
一方、高らかに名乗りを上げるアイカは既に|上機嫌《できあがっている》。
晒に法被姿の女性が酒精に頬を染めている姿は実になんとも色っぽい。のだが、やはりその装備品が全てを持っていく。
周囲で屯していた者たちもなんだなんだと顔を見合わせ、興味本位で彼等の後についていけば、気づけばふたりは行列の最前線。
そんなこんなでギャラリーを引き連れて裏祭りを練り歩くアイカとウィズがたどり着いたのは筋肉丁半の会場だ。
「何笑ってんの? 小さい嬢ちゃんがサイコロ持てるかって? 壺振り無理だろうって?」
言ってない言ってない。
そんなドでかい酒瓶引きずって歩ける女性に非力なんてイメージ持つ奴ぁいない。
「ボクを舐めてもらっちゃ困るんだなぁ」
観客たちの否定も虚しく意気揚々と壇上に登っていくアイカ。そしてウィズにウインクを飛ばしつつサイコロに手をかけると、その重みを確かめニヤリと笑みを浮かべた。
そして合図を受けたウィズは、巨体を蠢かせながら密集した観客たちの間を器用に移動していく。
「半を張る者は壺振りの側に座る、だったか。ンーじゃ、早速」
相方の出す出目に賭けつつ、自身の足元から小型の分体を生み出すウィズ。
分体は夜闇に紛れて移動すると、釣り鐘の裏のより暗い闇に張り付き同化した。
「ようござんすか? ようござんすね!」
一方のアイカはというと、ウィズの仕込みが終わるまでの間、観客たちを煽って注意を引き付けていた。
「「「ようござんす!!」」」
可憐かつ豪快なお祭り女の立ち姿に、褌一丁の偉丈夫達も渾身のポージングを返す。
酒の勢いか、はたまたこれが素か。会場が一体になって、大賭博はこの日一番とも言える盛り上がりをみせていた。
「聞いて驚け、見て笑えー! コレがボクの壺振りじゃい!」
場は温まり、御膳立ても上々。
アイカは満を持してサイコロを持ち上げると、爽やかな風を背に受けて高らかに宙へと放り投げる。
更には岩飛流の流麗な動きを応用し、片手で釣り鐘を持ち上げるという離れ業まで披露すれば、観客は大いに沸きあがった。
「よっ! ほっ! いっくぞー!!」
そして落ちてきたサイコロを釣り鐘でキャッチすると、アイカはそのまま鐘をギュルギュルと回し始める。
グワングワングワングワンッ!!
勢いに乗って縦横無尽に跳ね回るサイコロが高らかに鐘の音を鳴らす。
イテッ! イテッ!
ついでに中に潜んだウィズの分体が小さく苦悶を漏らす。
「ァー⋯⋯振られてる間のことは考えてなかったわ。わり♪」
分体である闇顎にテヘペロと詫びを入れるウィズ。
ただ奴の仕事はこの後。それまでは耐え忍んでくれと願いながら、ウィズはアイカの人間離れした壺振りに感嘆を漏らした。
「はっはァ! やるじゃねェの!」
アイカの剛腕っぷりを知っているウィズですら息をつくほど。ならば当然、観客たちは大盛り上がりで。
「あの人間もすげえぞ!」
「最近の若いやつも捨てたもんじゃねえな!」
「よっ! 酒呑童子!」
「酒にプロテイン混ぜてんのかい!」
などと、口々に威勢の良いコールを飛ばしていく。
だがどんな祭りにも終わりの時はやってくるものだ。
「ウィズさん見てるー!? ラスト行くよっ! ソーーイヤーーー!!」
アイカは裂帛の掛け声と共に鐘をひっくり返し、壇上に勢いよく叩きつけた。その衝撃は凄まじく、舞台に深々と亀裂が走るほど。
「よォしッ。今だぜ!」
すかさずウィズが司令を飛ばせば、闇顎は目を回しながらも辛うじてサイコロをゴロンと転がし再び闇に溶けていった。
「いざ、勝負!」
そしてアイカが釣り鐘を持ち上げれば、現れたサイコロの目は5と4。即ち半!
「よっしゃあァ! 俺の勝ちィ! 年男は今年から年蜥蜴に改名じゃン!」
イカサマがバレないようにと、尻尾をビタンビタンと振り回して大げさに喜びをアピるウィズ。
あ、マッチョが何人か巻きこみ事故起こしてる。こういう時なんて言うんだっけ?
「すっごい痛そう」
⋯⋯そうだね。
そしてそんな喜び様を見せるウィズを確認し、アイカは再び彼にウインクを送るのだった。
(ボクは|絡め手《術》は得意じゃないから、ウィズさんに任せて正解だったね。やっぱりボクはこっちが性に合ってる⋯⋯!)
「勝敗二の次、楽しんだもの勝ちってね♪」
こうして一番人気であった筋肉丁半の舞台も無事(?)破壊され、それが合図となり、裏祭りは大盛況の内に幕を閉じた。
勝負の結果がどうなったのか。それは次回を座して待て。
益荒男大博打、暫しのお暇。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功
第3章 ボス戦 『隠神刑部』

POW
刑部百十二変化
10÷レベル秒念じると好きな姿に変身でき、今より小さくなると回避・隠密・機動力、大きくなると命中・威力・驚かせ力が上昇する。ちなみに【十二神将】【巨大化九十九神】【えっちなおねえさん】への変身が得意。
10÷レベル秒念じると好きな姿に変身でき、今より小さくなると回避・隠密・機動力、大きくなると命中・威力・驚かせ力が上昇する。ちなみに【十二神将】【巨大化九十九神】【えっちなおねえさん】への変身が得意。
SPD
変幻百鬼夜行
「全員がシナリオで獲得した🔵」と同数の【化術の得意な配下の化け狸達】を召喚する。[化術の得意な配下の化け狸達]は自身の半分のレベルを持つ。
「全員がシナリオで獲得した🔵」と同数の【化術の得意な配下の化け狸達】を召喚する。[化術の得意な配下の化け狸達]は自身の半分のレベルを持つ。
WIZ
忌まわしき神通力
【強力な神通力】により、視界内の敵1体を「周辺にある最も殺傷力の高い物体」で攻撃し、ダメージと状態異常【周囲のものが別のものに見える化かされ状態】(18日間回避率低下/効果累積)を与える。
【強力な神通力】により、視界内の敵1体を「周辺にある最も殺傷力の高い物体」で攻撃し、ダメージと状態異常【周囲のものが別のものに見える化かされ状態】(18日間回避率低下/効果累積)を与える。
√妖怪百鬼夜行 普通11 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴
●祭りのあと
斯くして益荒男大博打は終焉を迎えた。
賭博に参加した√能力者達の活躍により、裸若衆からの勝ち上がり者はゼロ。また√能力者同士での決着戦はもとより本計画に入っていない。
よって今年の年男(年女)は参加した√能力者全員という形で決着した。
「ああ、祭りが終わる。儂の夢も⋯⋯」
無事に祭りを終えた事で呪縛が解け、次々と元の姿に戻っていく褌姿の男達。
事件の発端である祭田もまた気づけば元の老人の姿に戻っていた。
後悔が全くないと言えば嘘になる。
しかし、駆けつけた彼等が教えてくれた。祭りが終わったのなら、また蘇らせればいいと。若者達にもう一度伝えていけばいいのだと。
果たしてそれがどれほど時間の掛かる事かは分からないが⋯⋯。
「う~ん、さっきまでのアレ、夢、じゃないよな?」
「ああ、だって俺らこんな格好でここにいるし」
「でもさでもさ、褌って案外めちゃ着心地良くない!?」
「だよな! それに祭りも超楽しかった! ソイヤーってさ!」
いや、存外祭田の夢はすぐ叶うのかもしれない。
祭りの余韻を思い出し心と筋肉を熱くさせる町民達を眺めつつ、√能力者達はふとそう思うのだった。
だが気を抜いている者は一人もいない。
なぜなら彼等にとっての祭りの本番は、ここからなのだから。
●|漢憤怒士《おとこふんどし》仁王立ち!
「まったく、役に立たぬ盆暗だわい⋯⋯」
突如として開け放たれた本殿の扉。その奥から響く重々しい声。
町民たちを下がらせながら本殿の奥へと目を向ければ、そこにふんぞり返っていたのは一匹の大狸。
奴こそが四国は伊予国に伝わる悪しき化け狸の総大将―古妖『隠神刑部』その人である。
人々を化かし生命力を吸い上げることでようやく実体化するまでに至ったが、未だその力は不完全。ならば奴が次にしようとする事は自明の理。
手ずから町民たちを殺め、完全復活を目指すことに他ならないだろう。
「儂の神通力を祭りだ筋肉だと、阿呆臭い事に使いおって⋯⋯ああ! 忌々しい! ならばその首を掻っ捌いて、生き血を啜ってやるほかあるまいなぁ!」
本殿の奥からのしのしと歩み出てきた隠神刑部は、すくみ上がる祭田を睨めつけると柏手を一つ打ち鳴らす。
するとどこからともなく無数の化け狸達が現れ、隠神刑部の周囲を取り囲んだ。
そしてもう一度柏手を鳴らせば⋯⋯。
「ソイヤー!」
「ヨイヤサー!」
「アードッコイショッ!」
配下の化け狸達は一斉にその姿を筋骨隆々な大男に変化させる。
もちろん容姿は褌一丁だ。もちろん。
「おうおう、そんな格好をさせてすまんのう。だが奴も思い焦がれた憤怒士祭りに殺されるなら本望だろう。さあ、くだらない願いを抱いた罰を受けるがいいわ!」
「「「ソイヤー!!!」」」
⋯⋯あれ、化け狸さん達ってば存外楽しんでらっしゃる?
なにはともあれ、褌をはためかせながら飛び出した化け狸、もとい漢衆。
更にその奥から向かってくるは海千山千の大妖怪、隠神刑部。
立ち向かうは各世界から集まった精鋭ぞろいの√能力者。
今ここに漢憤怒士祭りの真の姿、『仁王立ち喧嘩祭り』が幕を開けるのであった。
※補足
POW、SPD、WIZの全ての選択肢において褌軍団は登場します。
褌と戦いたいのにSPDが苦手だから選択肢が選べない、という事態にはなりませんのでご安心ください。
POWとWIZの場合は攻撃力のない妨害や賑やかし。SPDでは純粋戦闘となります。いずれも褌をうまく躱し、もしくは巻き込みながら隠神刑部を攻撃するようなプレイングには戦闘ボーナスを付与します。
逆に褌と戦いたくないという方がいらっしゃれば、POWもしくはWIZを選んだ上で「褌NG」など一言添えていただけたら幸いです。
二度と書かない日本語だと思うのでこの貴重な機会に書いてみるのも一興ですね。(リプレイに登場しなくてもプレイングに褌の文字が残るという巧妙な罠)

褌リプレイ大歓迎・性格は褌大好きおやじです
「祭りがあると聞いてやって来たのですが、少し遅かったようですね」とちょっと残念がりながらやって来ます。
√能力で作った前袋に「祭」と描かれた六尺褌を締めて用意していたのに。(その褌は他の√能力用にも用意してます)
攻撃は自身である「長きに渡り受け継がれた褌」をムチの様に使い技能「乱れ撃ち」と√能力褌で追加した「2回攻撃」、褌好きになる「精神汚染」と「呪詛」を込め敵を褌好きにします。
これで敵は周囲が褌だらけのこの状況では冷静な判断が出来なくなるでしょう。
√能力褌が消えるとポロリしてしまうので、その時は急いで褌の姿に戻りポロリを回避します。(√能力者相手にも)
●来たぞ我らのフンドシキング
遂に始まった『仁王立ち喧嘩祭り』。
襲い来る褌集団を√能力者達が迎え撃つ。
「えっほえっほ!」
そんな最中、彼等の後方から新たな褌姿の男が階段を駆け上り本殿の前に姿を現した。
後衛で立ち回っていた者たちが、しまった挟撃かと勢いよく背後を振り向くが、しかし、そこにいたのは愛嬌のある笑みを浮かべた恰幅の良い老人。化け狸が変じたにしては随分と雰囲気が違う彼を前に、√能力者達は小首を傾げる。
「祭りがあると聞いてやって来たのですが、少し遅かったようですね」
そんな彼等の困惑など露知らず、褌姿の老人――高柳・源五郎(不思議な褌屋「高柳褌店」の主人・h06243)は実に残念そうな表情を浮かべながら周囲を見回した。
そして直ぐ様状況を理解すると。
「いや、祭りはまだまだこれからのようですね! でしたらこの高柳・源五郎。褌には一日の長ありというところを見せてご覧に入れましょう!」
前掛けに大きく『祭』と書かれた六尺褌をたなびかせ、源五郎は深く腰を落とす。その両手に握られているのは、彼が着用している物と同じ祭印の特注褌と、褌の付喪神である彼の本体『長きに渡り受け継がれた褌』。
「いざ!」
そして源五郎は老体とは思えぬ勢いで駆け出すと、隠神刑部に向けて鞭のようにしなる褌を叩きつけた。そこへすかさず男衆がその間に割って入り、その身を盾に総大将を庇い立てる。
「なんだこの老いぼれは! 貴様も祭田と同じ褌狂いの盆暗か!」
「志を同じくする者という意味合いならそれで結構!」
本命には届かずとも源五郎の勢いは止まらない。情熱を乗せた凄まじい連続攻撃が次々と男たちを弾き飛ばした。
「だがねぇ、あなたのような若造に一笑に付されるほどコイツの歴史は軽くはない。褌の良さを現代に伝えたいというその想い! 私が支えずして誰が支えるというのです!」
√能力『お試し褌サービス』によって生み出された祭印の褌が熱い熱を帯び、源五郎の力を増大させる。そして繰り出される痛烈な鞭撃が、今度こそ隠神刑部を強かに打ち付けた。
「名刺代わりに、この褌はサービスです!」
「ぐっ、む!? ぐぐぉぉぉ⋯⋯!?」
瞬間、隠神刑部の心から湧き上がる褌への淡い想い。まだ刑部が子狸だった頃、褌姿で魚を追い、仲間と共に睦まじく語らい合った⋯⋯そんな存在しない郷愁が脳裏に溢れ出した。
「⋯⋯巫山戯るな! 儂は狸ぞ! 褌への愛着などないわ!」
だが郷愁に飲み込まれる寸でところで隠神刑部はカッと目を見開くと、精神汚染もろとも源五郎を神通力で弾き飛ばした。
「くっ、そうは言っておりますが随分とキレの無い反撃でしたね。そのまま彼等のように褌愛に目覚めてくれてもいいのですよ」
吹き飛ばされ体制を立て直しながらも不敵な笑みを浮かべる源五郎。
その視線の先にあったのは、先程隠神刑部を身を挺してかばった男衆が自らの褌に頬ずりしている光景。まるでマタタビを嗅いだ猫のかのように、大の男が生尻突き出して地面に転がる様はなんとも醜悪で。
隠神刑部は自分もそうなる可能性があったという事実に、冷たい汗を流すのであった。
🔵🔵🔴 成功

……|褌《ソレ》を着る必要がどこにあるのさ。
まぁいいや。範囲ギリギリからの【高速詠唱】と【範囲攻撃】を組み合わせた攻撃(wiz)で漢衆とやらを一掃させて貰うよ。雑魚は任せておくれ。
ボクは無駄は嫌いだけども、戦う【覚悟】の無い腑抜けでは無いからね。子どもだからと侮るなかれ。無礼者には【全力魔法】をお見舞いだよ。
さて、クリケットの球になりたい奴はどいつかな。
【Alice・in・Heaven】
祭田さんや他の村人は、下手に動き回られるのも厄介だからまとめて眠って貰うよ。在りし日の幸せでも夢に見な。温故知新だっけ?夢の中でそれを思い出したのなら、これからに繋がる何かを探すのさ。それこそ気合いを入れてね。

来ましたねっ、ここからは剣士としてお相手しますっ!
基本戦術は「胡蝶乱舞」をまず使用しての速さによる撹乱ですっ
行きますっ!
あと祭田さんがいるなら安全確保は忘れずに避難して貰います
最初は強化された移動速度を活用して囲まれないように気をつけながら
配下の皆さんを引き付けが目的です
十分に引き付けられたら、ここから攻撃ですっ!
狙いは配下の皆さんの褌ですっ
憤怒士祭りの参加者に化けているなら、きっと影響が
有るはずですっ
日本刀の居合で褌を斬って、隙が出来たら更に攻撃ですっ
隠神刑部を攻撃できそうになったら
走術と居合の合わせ技「閃刃・告死蝶」で攻撃していきますっ!
お祭りは楽しむ物、悪用するなんてめっ、ですよっ!

いよいよ今回の騒動の元凶が出てきたか……!
たぬきは好きだが、悪さをする化け狸ならば懲らしめるしかない
いざ! 貴様も筋肉と褌を称えるたぬきに改心させてやろう!!
戦いが始まったなら真面目に! ちょっとくらい配下どもの筋肉や褌姿に目を奪われてしまうかもしれないが、大真面目に!! 私の筋肉の方が上だぁ!
寄ってくる配下どもを蹴散らし、途中で褌奪って、刑部に叩きつけてやろう
褌締めて体鍛えなおしてくるがいい!!
接近戦に持ち込んで警棒で二回攻撃などでボディを叩きつつ、相手が回避を狙うならブレスを交えて広範囲を攻撃
竜漿切れの気絶には気を付けつつ突撃だ
味方とも声を掛け合って連携しつつ、ガンガン攻め込んでいこう
●竜・剣・爆睡! 奴らがやらねば誰がやる
「……|褌《ソレ》を着る必要がどこにあるのさ」
また褌かと眉間を抑えるクルス・ホワイトラビット(夢と鏡とシロウサギ・h02054)。ここに来てから嫌と言うほど目にしてきたそれを前にして、年若い兎は呆れかえってしまったご様子。
「来ましたねっ、ここからは剣士としてお相手しますっ!」
その隣では、思考を切り替えた玉響・刻(探偵志望の大正娘・h05240)は既に戦闘モードに入っていた。探偵を目指してはいるが彼女の生来の本分は剣士。いざ死合となればそれまでのほんわかした雰囲気は形を隠し、その眼には鋭い眼が灯る。
「いよいよ今回の騒動の元凶が出てきたか……! たぬきは好きだが、悪さをする化け狸ならば懲らしめるしかない」
そしてこれまで散々筋肉賛歌に酔いしれていたリディア・ポートフラグ(竜のお巡りさん・h01707)も、ここぞという場面においては表情を引き締めていた。曲がりなりにも彼女は市民を守るお巡りさん。悪しき存在を前にして私情に耽けるような醜態を晒したりはしない。
「いざ! 貴様も筋肉と褌を称えるたぬきに改心させてやろう!!」
あっ違う! この人まだ私情バリバリだ!
そんな三者三様の意気込みで対峙する彼等であったが、刻には一つ気がかりがあった。
「祭田さんや町民の皆さんの安全確保もしなきゃですよね。私、先に避難誘導へ行ってきますっ!」
言うや否や刻は風よりも速く駆け出し、町民達の元へ急ぐ。化け狸達が迫りくる前に、何としても彼等を逃げおおせさせなければ。
「下手に動き回られたら厄介だから、ボクが眠らせたほうが手っ取り早いと思うんだけどな」
と不満げに口を尖らせるクルス。確かに彼の守護と眠りを与える√能力であれば一般人を即座に眠らせることなど造作もないだろう。しかし町民はあくまで非√能力者。たとえ防御10倍と回復の加護があっても、無防備なまま戦場に放置するには些か不安が残るのも事実だ。
「ここは刻に任せよう。少年は私の援護を頼む」
「仕方ない。言われなくてもそのつもりさ。雑魚は任せておくれ」
その小さな手の中に集めた眠りの魔力を破壊の力に変え、クルスは褌集団へ改めて意識を集中させる。そしてリディアが走り出すと同時に、全力の魔力の本流を解き放った。
「ボクは無駄は嫌いだけども、戦う覚悟の無い腑抜けでは無いからね。やるべきことは果たすさ」
扇状に薙ぎ払われたクルスの魔法攻撃が男衆を次々と打ち抜いていき、その余波が境内にもうもうと土埃を巻き上げる。それにより後続の男衆も思わず足を止め、途切れた視界の先から襲い来るクルスの第二撃を警戒した。
しかしいつまで経ってもその攻撃は飛んでこない。変わりに聞こえてきたのは地鳴りのような重々しい唸り声。
「グルルル⋯⋯間近に見て落胆したぞ。お前たちの筋肉は変化による紛い物。そんな木偶の坊に私が負ける道理はない」
瞬間、褌男の一人が吹き飛ばされた。また、ある者は鈍い打撃音と共に崩れ落ち、ある者は風を切る音と共に地面に転がされる。
そして奇襲者――リディアは土埃を突き破り姿を現すと、|真竜《トゥルードラゴン》となったその体躯を見せつけ空高く咆哮を上げた。
「私の筋肉の方が上だぁ!」
ああ、本来の姿になってもアピールポイントは筋肉なのね。
だがリディアが言う通り、全身から突き出した刃のような鱗や丸太のような尾もさることながら、竜化したことで最も強化されたのはその全身の筋肉だろう。『ドラゴンプロトコル・イグニッション』によって一回り以上も巨大化したリディアは、圧倒的暴力により次々と男たちを蹴散らしていく。
更には数人の褌をむんずと引っ張り上げると、そのまま隠神刑部に向けて突進した。
「ぬおおおおおりゃああああ!!」
そしてリディアは褌男をフレイルのように振り回すと、隠神刑部に向けて思い切り叩きつける。しかし、その攻撃は突如として現れた巨大な爪によって受け止められた。
「ふん! その程度で剛力自慢か? 儂の変化を小童どもの見掛け倒しと一緒にするでないわぁ!」
これぞ隠神刑部の秘技『刑部百十二変化』。十二神将は白虎の姿に変じた隠神刑部の怪力はリディアの攻撃を軽々と弾き飛ばし、反撃に繰り出したもう一方の爪の一振りが彼女の鱗の装甲に赤い軌跡を穿った。
「ぐあっ! くぅ、いい筋肉をしているじゃないか!」
まるで屏風絵の中から飛び出してきたかのような見事な筋肉の膨らみを持つ白虎の姿に思わず見惚れるリディア。ダメージそっちのけで感嘆を漏らす彼女は、ある意味ダメージ以上に重傷かもしれなかった。
一方、リディアを援護しようと魔力を貯めていたクルスも、周囲を取り囲む男衆の妨害に苦しめられていた。
「ソイヤ!」
「ソイヤソイヤ!」
「ああもう、邪魔ばかり! 上手く魔力を集中できない」
四方八方から過剰な筋肉アピールを見せつけられ、退路を塞がれたクルス。このまま筋肉に埋もれてしまうのかと思われた、正にその時。
一陣の風と共に閃いた銀色がクルスと男たちの間を駆け抜けた。そして一瞬遅れて、キンッ! と鍔鳴りの音が響けば、空に無数の白褌が舞う。
「今宵の羽風は一味違います」
いつの間にそこに立っていたのだろうか。護刀『羽風』の鞘に手を添え、彼等の背後で刻が静かに呟く。
瞬間、ボフンというファンシーな煙と共に地面に転がっていた化け狸達。裸若衆の魂たる褌を斬り飛ばされ、変化を保てなくなった狸たちは蜘蛛の子を散らすようにその場から逃げていった。
「町民の皆さんは無事に避難し終えました。ここからは私も戦いますっ!」
「⋯⋯遅いよ、まったく」
先程までの張り詰めた雰囲気から一変し、朗らかな笑みを浮かべる刻。一方のクルスは間一髪の所を救われたバツの悪さから顔を背けるが。
「あっ! なんですかその態度っ! こういう時は先にお礼を言うべきじゃないですかっ!」
「ああもう五月蝿いな。⋯⋯助かったよ、ほら向こうのお姉さんも随分苦戦しているみたいだ速く行こう!」
これがこまっしゃくれた少年なりの精一杯の感謝の示し方なのだろう。早口に巻くし立て走り出すクルスの背中を微笑ましく想いながら、刻も表情を引き締め直して彼の後を追い地を蹴るのだった。
場面は戻り、隠神刑部を相手に孤軍奮闘するリディアは、その巨躯に無数の傷を負いながらも未だ倒れることなく敵を睨みつけていた。
「いいぞ! 次はもっと躍動感のあるしなりを見せてくれ!」
睨みつけているのか、熱い眼差しを送っているのか判断が付きづらい所だが、兎にも角にも彼女の闘志は未だ健在だ。余裕さえ感じる。
「しぶとい蜥蜴もどきめ。ならば望み通りにしてくれる!」
対する隠神刑部は今度こそリディアにトドメを刺さんと、白虎の鋭い牙をリディアの首筋めがけて突き立てようと飛びかかる。
「おやすみ。誰一人傷付く事ないしあわせな夢を」
しかし、その牙がリディアに届くことはなかった。突如として現れた檻がリディアの体を包みこみ彼女を守ったのだ。更に檻に囚われたリディアの傷は瞬く間に塞がっていき、その温もりは彼女に幸福な微睡みをもたらす。
「手こずらせてくれたね」
『Alice・in・Heaven』。これはクルスが初めて覚醒した呪いの力。
それをクルスは初めて誰かを守るために使用した。あのお巡りさんならきっと幸福な夢の誘惑にも打ち勝ってくれると信じて。
「さて、クリケットの球になりたい奴はどいつかな」
そしてクルスはリディアを守るように立ち塞がると、高速詠唱による連続魔法を次々と解き放つ。
それにより白虎に変化した隠神刑部の鋼のような体毛に無数の赤い染みが浮かび上がるが、それでも致命傷には程遠い。
だがクルスにはそれで十分だった。なぜなら、鉄を切り裂く役目は剣士のもの、と物語の相場は決まっているのだから。
「お祭りは楽しむ物、悪用するなんてめっ、ですよっ!」
淡い光が空を駆ける。
それが超高速で走る刻と、彼女の周囲を飛び回る霊蝶が残す軌跡であると隠神刑部が気づく間もなく、彼奴の体には深々と斬撃の跡が刻まれた。
「なにぃいいい! ⋯⋯見えん! この儂に見えなかっただと!」
夥しい血しぶきを上げのたうち回る白虎。その姿は見る見る内に萎み、元の隠神刑部の姿に戻っていく。
「閃刃・告死蝶っ! 磨き上げたこの居合、田舎剣術だと舐めたら痛い目を見ますよっ!」
『胡蝶乱舞』による加速の力、そして刻が磨き上げた走術と居合術が織りなす三位一体の必殺剣『閃刃・告死蝶』。その剣筋の前に十二神将白虎は一撃にして敗れ去ったのだ。
「ああ、残念だ。折角なら私が筋肉勝負で打ち負かしたかったのだが」
そして不意に響くリディアの不敵な声。
『Alice・in・Heaven』の檻をこじ開け這い出てきたリディアの体と竜漿は万全の状態にまで回復していた。更には楽しかった漢憤怒士祭りを夢に見返した事でやる気も再充填。最早、萎みきった古狸に負ける道理など微塵もしない。
そしてリディアは胸に込み上がる熱い思いを炎に変えて、。
「褌締めて体を鍛えなおしてくるがいい!!」
「ぐぎぎゃああああああああああ!!」
吐き出された灼熱のドラゴンブレスが瞬く間に隠神刑部を飲み込み焼き払うのであった。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功

和田君、「できるだけ長い時間ふんどし連中を麻痺させてくれ」だなんて。まぁ秘策があるっぽいから任せようか。……信用してるよ、|和田君《相棒》?
「ヤァヤァ若い衆! ここは私がお相手しよう!」
法被に褌、粋に、それ以上にセクシーに。もちろん見えないけど、もしかしたら見えるかも?のギリギリ感と朗々たる前口上で男衆の視線を集めつつ。
「だるまさんが……転んだ!」
|√能力《チョコラテ・イングレス》で男衆を麻痺させる。睨み合いの中、徐々に体力が削られる。あ、もうだめだ……。意識を失い、目を閉じたその瞬間。和田君が助けてくれるはず。お姫様抱っこだと……!? あれ、|和田君《バイト君》こんなかっこよかったっけ……?

モカさんが麻痺させてる間に和田がざっくばらんにする
「……という作戦はどうでしょうか」
|モカさん《相棒》と戦闘準備に入ります。いや、無茶はしなくていいんですからね???
「決まりですね。それじゃあいつら蹴散らして来ます」
【蛇の式神】をモカさんに付けて護衛させながら【チョコラテ・イングレス】の発動タイミングに間に合うように暗闇を駆ける。敵の死角へ
「こっちも負けてられないな」
【チョコラテ・イングレス】が発動したら死角を縫って全力ダッシュ。狙うは『隠神刑部』ただ一人。接敵し√能力の発動。
『御影封尽、海淵に帰す』
霊剣士/暗殺者の本領発揮。拘束し超高圧水流による不可避の必殺攻撃を行う。
「腕の一本はいただくぞ」
デコイを盾に霊剣による追加攻撃。
「モカさん!」
モカさんの異常を察知して急行。
追加の【呪影業】で化け狸達の妨害をしつつ、|モカさん《気になる存在》をお姫様抱っこで抱えて戦線離脱。
【忘れようとする力】でモカさんの傷を癒しながら声をかけます。
「モカさん!しっかりしてください!」
目覚めるまで必ず守ります。
●ここから始まる|物語《ワインディングロード》
「⋯⋯と、こういう作戦はどうでしょうか?」
既に戦闘が始まっている境内。その木陰にて和田・辰巳(三神の霊剣士・h02649)が自身の作戦を語る。しかし彼の表情はどこか暗い。
「つまりは、私ができるだけ長い時間ふんどし連中を麻痺させて、その間に和田君が蹴りを付けてくれるわけだな。よし、任せてくれ!」
そして辰巳の語った作戦を、長峰・モカ((売れない)(自称)イタズラ女芸人・h02774)はざっくばらんに噛み砕く。端的に言うと彼女に与えられた役割は囮であり、モカ自身にも相応の危険がある物。
辰巳の不安げな表情の理由がこれだ。だがそれを理解して尚、モカは事も無げに二つ返事で了承した。
「ええ、ですが無理はしないでください。もし危険だと判断したら直ぐに退避を⋯⋯」
しかしそんなモカの威勢の良い返答を聞いても辰巳の心は晴れなかった。
確実に隠神刑部に致命打をいれるためとはいえ、尊敬するモカの身を危険に晒さなければならないこの作戦を実行して良いものか、とそんな疑念が辰巳の中に積もっていく。
モカの実力は信用している。だがそれと同じくらい彼女の身を案じずにはいられない。
当然だ。なぜなら彼女は⋯⋯。
「まぁ、でも秘策があるんだろ? 和田君が出来ると言うならなら大丈夫さ」
そんな辰巳の肩をモカはコツンと叩く。私は大丈夫だから力抜いていけよ、という激励を込めて屈託なく笑えば、辰巳もまた今度こそ決意を固め、深く頷いた。
「……信用してるよ相棒」
「はい⋯⋯決まりですね。それじゃあいつら蹴散らして来ます」
覚悟は決まった。
今自分がすべきは|モカ《相棒》を信じ、役割を全うすることだけ。そう腹を括り、辰巳は夜の闇の中を駆け出した。
影に溶けあっという間に見えなくなった辰巳の背中を見送り、モカは肩を竦める。
(和田君だってこれから敵の首級とタイマン張るってのに私の心配ばっかり⋯⋯気を使い過ぎだよね)
そんな事を思いつつも、しかしモカの表情はどこか嬉しげだ。
まだ未熟だと思っていた後輩が自ら死地に赴くほど成長し、自分を信じて後を託してくれた。その事実が何故か非常にこそばゆい。
(ならば私は大人の責任を果たし、その期待に応えようじゃないか!)
そうモカは奮起すると、茂みから勢いよく飛び出した。
「ヤァヤァ若い衆! ここは私がお相手しよう!」
広場は今も戦闘の真っ只中。そのど真ん中まで一足で躍り出ると、モカは大きく声を張って褌衆の視線を集める。
そしておもむろに恥じらいを感じさせる表情と仕草で法被の胸をはだけさせ、羽織の下の褌が見えるか見えないかのギリギリのラインまで裾を持ち上げた。しかし当然だが本当に見せる気など毛頭ない。これもモカのスキルの一つ。深夜バラエティのロケバイトで|先輩芸人《お姉様方》から教わったお色気テクニックだ。
だが、あらわになったモカの健康的な太ももと谷間は、男たちの視線を否応なしに惹きつける。
モカはその時を待っていた。
「だるまさんが⋯⋯転んだ!」
瞬間、男たちの体が金縛りにあったかのようにピクリとも動かなくなった。
『チョコラテ・イングレス』。視界内のすべての対象を麻痺させる強力な√能力だ。しかし代償として使用者の体力は急速に消耗され、使用中は目を閉じることも許されない。もし力尽きてしまえば、その瞬間、モカは男衆によってあっという間に血祭りにあげられてしまうだろう。
(頼んだよ⋯⋯相棒!)
そしてモカは、今は口を開く体力も惜しい、と静かに辰巳の武運を祈るのだった。
此処から先は時間との戦いだ。
辰巳は敵の死角を縫って隠神刑部の背後へと回り込む。幸いなことにモカが男たちの眼を引き付け誘導してくれたお陰で彼奴への道は開けていた。
(いや、モカさんのことだ。そこまで計算して位置取りしてくれたに決まってる)
胸中で感謝を述べながら駆け抜ければ、既に隠神刑部の背はすぐそこだ。
「なんじゃ!? 何をグズグズしている!」
対する隠神刑部は突如として動きを止めた化け狸達に困惑している様子。
やるならこの時を持って他にない。
「御影封尽、海淵に帰す」
霊剣士にして暗殺者たる辰巳の本領は今ここに。
辰巳の足元から伸びた影が隠神刑部の大きな影に重なり、その動きを縛り上げる。そして続けざまに、不可避の距離から放たれた水流が隠神刑部の体を貫いた。
「ぐぎっ!?」
声にならない叫びを上げる隠神刑部。理解の外から食らった一撃に動転しながらも瞬時に背後を振り向けば、そこにあったのは深く暗い海の色。
辰巳の手の中に生じた空間の歪み。その先にあるマリアナ海溝深海数千mの海水が冷たく隠神刑部に笑いかけていた。
「腕の一本はいただくぞ」
そして海よりも冷たい辰巳の声が響けば、超高水圧から一気にゼロ気圧へと解き放たれた水が刃となって隠神刑部の体を切り刻んでいく。
「ぐががっ! この儂相手に水遊びとは、舐めた真似を!」
しかし隠神刑部も名だたる大妖怪の一角。ただでは倒れぬ気迫を見せつけると、その身を切り裂かれながらも、口から吐き出す狸火で辰巳を迎え撃った。
対する辰巳は迫りくる火炎を咄嗟に霊剣を構えて防ぐ。
(今の不意打ちでも倒れないのか⋯⋯こうなったら、このまま接近戦で!)
炎の熱に当てられ次第に熱くなっていく思考。しかし辰巳は不意に視界の端に違和感を覚えた。
瞬間、手足の先からさーっと血の気が引いていく。
(褌の男たちが動き出している⋯⋯っ!)
「モカさん!」
そこからの辰巳の動きは迅速だった。
炎の受け止めた態勢のままデコイを生み出し、自身は再び闇に身を溶かして一心不乱に走り出す。背後からデコイが炎に飲み込まれる音と隠神刑部の勝ち誇った声が聞こえるが、それすらも今はどうでもいい。
今はただ、モカを、大切にしたいと思える人を守らなくては。その一心で辰巳は再び夜闇を駆け戻るのだった。
(やっばいなぁ。そろそろ、限界、かも)
チョコラテ・イングレスを発動してからどれくらいの時間が経っただろうか。
もう何分も経過したような気もするし、数秒しか経っていないような気もする。そんな時間間隔も失うほどにモカは体力を消耗しきっていた。
だが辰巳の勝負はまだ決していない、ここで倒れるわけにはいかない、とモカは能力の反動に滲む視界を気力だけでこじ開ける。
だが残酷にもその時はやってきてしまった。
(あ、もうだめだ……)
足元からフッと力が抜け、意識が宙に溶けていく。
かすれゆく意識の中で、モカが最後に聞いたのは男達の怒声と自身に殺到する地鳴りのような足音。
(和田君、勝ったかな? いつもみたいに、笑顔で、迎えてあげた、かった、な⋯⋯)
思い浮かぶのはロフト√1で見せてくれる彼の幼さの残るあどけない笑顔。そして先程の、自分を信頼し頷いてくれた決意の面持ち。
そんな幸せな余韻を噛み締めながら、モカの意識はプツンと途切れた。
「モカさん! しっかりしてください!」
だが、その意識は急速に引き戻される。
気づけばモカは辰巳の胸に抱え上げられ、暗い茂みの中を疾走していた。
(お、おおお、お姫様抱っこ、だと……!?)
しかも男たちを煽るために露出した体には辰巳の羽織が掛けられ、誰の眼にも触れないよう守られている。
そんな自身の置かれた状況を理解し、モカは急速に顔が熱くなっていくのを感じていた。
「モカさん? よかった、目を覚ましたんですね⋯⋯」
一方の辰巳は彼女の体を抱えながらも、『忘れようとする力』で必死にモカの体を癒やしていた。幸いなことにモカの外傷は倒れた時に頭をぶつけた程度。能力の反動による消耗は『忘れようとする力』で治癒することが出来ないが、この調子ならあと数分もすれば自力で帰還できるくらいまで持ち直してくれるだろう。
「ごめんなさい。僕、敵を倒すことが出来ませんでした。モカさんが命がけで作ってくれたチャンスだったのに⋯⋯」
モカが意識を取り戻し緊張が緩んだのか。ほころんだ心から溢れ出したのは、そんな言葉。
間一髪の所で迫りくる褌男達からモカを救い出すことに成功したものの、あのまま攻め続けていたら隠神刑部を倒し切ることができたかもしれない。いや、もっと自分に力があれば最初の一撃でとどめを刺せたはず。そんな後悔が辰巳の胸をぐちゃぐちゃにかき乱す。
「僕、もっと強くなります⋯⋯あなたにもう二度と、こんな思いをさせないために」
だが、モカの眼にはそんな彼もまた勇ましく見えた。
そして、必死に前を向いて成長を誓う少年のひたむきな姿に胸を揺さぶられる自分がいることに、困惑もしていた。
(あれ、|和田《バイト》君こんなかっこよかったっけ⋯⋯? ああ、顔あっつ⋯⋯。喋れるようになったらなんて言葉をかけたらいいんだ? そもそも今までどんな態度で接してたんだっけ?)
そんなそれぞれの揺れ動く感情を乗せて、2人は夜の闇の中へと消えていくのであった。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功

◆賽 SPD/アド絡み◯法被褌姿継続
「ほら、敵さん来たぜ。」
酔いどれ神鳥に始終ゲラゲラ爆笑。飲んで無いくせに素面で酔える笑上戸な俺。神鳥の肩には闇顎のチビ水蜥蜴が居たりする
「アイカの気の所為だって〜」
酔拳なんて名前もあンだからどーせ大丈夫だ…ろ…って褌奪い始めた?!?!マジかよソレは予想してなかったわぶはははは!やるじゃねェのさっすが!
まー、元は狸だもんなァ、そりゃそうなるわ。
「あァ、お触り禁止でお願いシマース。」
反撃に来た褌マッチョは尾でホームラン、敵ダヌキへストライク!…あれ🎳⚾️
「良いねェ、酒で煮て、醤油と味醂、砂糖ですき焼き風味だ。」
刻爪刃240本で打ち据え闇顎フィニッシュ!

◆賽
んくっんくっんくっ…ぷはぁぁ〜…
あ~あ~~空っぽ〜
なんなのら〜たぬきだと思ったら、褌一丁のヘンタイがいっぱいらぁぁ〜ケラケラ♪
はいはい〜わかってま〜す、お仕事ですね~
あれ?ウィズち…兄弟いた?
気の所為?ケラケラ♪
ん~~…ねぇ?
あのさぁ〜化術で化けた程度で…酒を飲んだ程度で…
ボクが止まるとでも?
流れるような手つきで右手+グラップル
迫る漢の褌をムンズと掴み軽々と上空に放り投げて見せ
空中でルートブレイカーの効果が効いたのか、【ポンっ!?】と股間を押さえた狸の姿に戻り地面に転がり悶絶…
さてと…潰されたくなかったら道を開けな??
でも喧嘩祭りだしね
掛かってくるなら容赦しないよ♪
酒のツマミに狸鍋狸鍋〜♪
●ケモノの牙と鬼|才《賽》の銘拳
「んくっんくっんくっ⋯⋯ぷはぁぁ⋯⋯あ~あ~~空っぽ〜」
のらりくらりと胡乱な足運びで神鳥・アイカ(邪霊を殴り祓う系・h01875)が夜を往く。
手に持った一石瓶は何度振っても中身はもう一滴も残っていない。どう見てもアイカの小柄な体に対して消費した量が釣り合わないのだが、そこを突っ込み始めたらファンタジーは成り立たない。(メタ)
困った時は皆で叫ぼう。すごいね√妖怪百鬼夜行。
「ソイヤ! ソイヤソイヤ!」
「ソソイ! ソイヤッサー!」
ほら、褌一丁の漢たちもそうだそうだと同意してくれています。
ありがとう心優しい狸たち。君たち今からやられます。(メメタァ)
「なんなのら〜たぬきだと思ったら、褌一丁のヘンタイがいっぱいらぁぁ〜ケラケラ♪」
そんな褌一派を見回してケラケラと笑うアイカ。ちゃんと酔っ払ってくれているのは、アイカなりの最後の人間アピールか。
そんな気持ちよさそうにトロンと瞳を潤ませるアイカを、ウィズ・ザー(闇蜥蜴・h01379)がゲラゲラと笑いながら尻尾の先で小突いた。
「ほら、敵さん来たぜ」
「はいはい〜わかってま〜す、お仕事ですね~。ん、あれ? ウィズち⋯⋯兄弟いた?」
小突かれた肩先にアイカがふと目を向ければ、そこにいたのはウィズを10回りほど小さくしたサイズの水蜥蜴。
「い~やァ一人ッ子だぜ?」
「あっれ~私の気の所為? ケラケラ♪」
「あァ、気の所為気の所為。でも小さい時は弟がほしいって親によくねだったもんさ。まァ今にして思えば姉ちゃんの方が欲しいな。でもよでもよ、包容力があってあらあらウフフな感じの姉ちゃんって実在すんのかね? ゲラゲラ♪」
そんな実のない会話を交わしながらケラケラゲラゲラと笑い合う2人。
なお、このやり取りは全て脊椎会話なので本当はウィズには兄弟がいるかもしれないし、あらあらウフフなお姉ちゃんも実在するかもしれない。全ては世界の謎である。
「イヤサカサッサー!」
とかなんとか言っている内に、2人がたどり着いたのは|最前線《エネミー・ライン》。褌男の一人が、いつまで談笑に花を咲かせとるんじゃいと言わんばかりに殴りかかってくる。狙うは当然へべれけのアイカだ。(だって初手で5m級の蜥蜴を狙うとか怖すぎるし)
しかしいくら喧嘩を売る相手を日和ったとはいえ、相手は異世界侵略者の1体。その剛腕は風を斬り、凄まじい破壊力を持ってアイカの顔面めがけて突き出された。
「ん~~⋯⋯ねぇ? あのさぁ〜化術で化けた程度で、酒を飲んだ程度で⋯⋯ボクが止まるとでも?」
しかし、その拳はアイカに傷一つつけることも叶わなかった。
ズシン⋯⋯ッ! と音を立て、彼女の背後に放り捨てられた酒瓶が突き刺さる。
「これ人間アピール終了のお知らせね」
解説のウィズさん、わざわざカメラ目線でありがとうございます。
そんなウィズの頭の向こうには、アイカにベアクローを食らわされ、腕の力のみで宙吊りにされた漢の姿がフレームイン。
漢はなんとか逃れようと足をばたつかせてはいるが、アイカの指は漢の顔面にめり込んだままビクともしない。ただ褌の前掛けがバサバサと力なく揺れるのみだ。
「止まるとでもー?」
更にアイカは鬱陶しくなったのか眼前で揺れる前掛けを左手で握りしめると、両腕をそれぞれ上下逆方向に力を加え、漢の体を引き伸ばしにかかる。
「ソッ⋯⋯ソソソソソソ!!」
「止まるとでもーーーー!?」
「ソイッ!!」
そして暴力的コール&レスポンスの果てに、漢の体は褌からスポンッとキャストオフ。スッポンポンになって空に射出された漢は上空で『ポンっ!?』と煙を上げ狸の姿に戻り、そのまま地面に突き刺さった。
「あー、なるほどねー。|褌《これ》も体の一部だから、脱げたら変化が維持できなくなるわけ」
左手に残った褌をまじまじと見つめ、ニヤリ⋯⋯と悪い笑みを浮かべるアイカ。その手に宿った√能力『ルートブレイカー』の力で褌は狸の毛に還元され、手の内からハラハラと落ちていく。
「んじゃまあ⋯⋯潰されたくなかったら道を開けな? でも喧嘩祭りだしね。掛かってくるなら容赦しないよ♪」
そしてアイカは次なる獲物に狙いを定めると、強引に褌をひん剥いては次々に漢達を空へと放り投げていく。
さながら往年のレスリング動画の早回しのような力強い手さばきは、見る者に懐かしさすら感じさせた。(伝われ)
「ギャハハハッ! マジかよソレは予想してなかったわぶはははは! やるじゃねェのさっすが!」
そんな相方の様子を笑い転げながら見守るウィズ。彼は酒を飲んでいないはずだが、素面でも無限に笑えてしまうのが笑い上戸のオトクなところ。
だが曲がりなりにもここは戦場ど真ん中だ。女の方も強いと分かれば、当然こちらに向かってくる奴もいるわけで、いつまでも笑ってるわけにもいくまいとウィズはヒーヒーと荒い息を整える。
「あァ、お触り禁止でお願いシマース」
そして樫の丸太のような黒く太い尾を一振りし、迫る褌軍団を一撃で吹き飛ばした。
「あァん? だらしねえな、それで攻撃して来てるつもりかィ? ほれもう一発!」
更に追加と尾を薙ぎ払えば、男たちはゴロンゴロンと地を滑り、苦虫を噛み潰した顔で配下たちの体たらくを見つめる隠神刑部に向けて転がっていく。
「なんという⋯⋯儂が封印されている間に化け狸はここまで腑抜けたか!?」
しかし流石にその一撃は決定打にはならず、隠神刑部に足蹴にされて蹴り飛ばされる化け狸。上司を選べないってのはちゅらいね。
「ちぇっ、ガーターかよ⋯⋯」
「まだまだ甘いねウィズちー。さて、そろそろ酔いも冷めてきたし」
「本気でやるか?」
「さっさと終わらせて飲み直すに決まってるでしょ。酒のツマミに狸鍋狸鍋〜♪」
「良いねェ、酒で煮て、醤油と味醂、砂糖ですき焼き風味だ」
まるで漫才のように淀み無く無駄話しを続けるアイカとウィズ。
見れば既にアイカの手によって褌一派は粗方片付けられ、辺りは狸畑になっていた。揃いも揃って局所周りの毛がごっそり毟り取られてるからモザイク処理が大変だこれ。
「じゃァ⋯⋯まずは捌くとこから始めねえとな」
と、不意にウィズの口端に殺気が宿った。
吐息と共に漏れ出た殺気は揺蕩う黒い霧となり、張り詰めた空気が辺りの熱を奪っていく。そして霧は次第に半実体の刃となってウィズの周囲を旋回し始めた。
「せっかくの鍋が獣臭くちゃいけねえ。血抜き|内蔵《モツ》抜きは丁寧にってなァ!」
そうして物騒な物言いと共に撃ち出されたのは『刻爪刃』。ウィズが使役する虚無の精霊が生み出すその御業が隠神刑部に殺到した。
「くっ! 雑魚どもと儂を同列にするでない。この化け狸の総大将、隠神刑部の変化術を舐めるなあ!」
対する隠神刑部もその身を十二神将へと変化させる。
山のような体躯に巌のような甲羅。その姿を北の守護神玄武のものに変化させた隠神刑部は、甲羅の中に手足を収め無数の刃の嵐を凌ぎ切る。
「って、狸鍋がすっぽん鍋に変わっただけじゃろがい! お前もスッポンポンにしてやるよー!」
そこに飛び込んでいくアイカ。滑るような巧みな足運びで刃の中を掻い潜りながら、アイカは再びその手にルートブレイカーを纏わせる。
そして一足で玄武の甲羅の頂点まで飛び上がると、その中心に渾身の発剄を叩き込んだ。
瞬間、玄武の甲羅に巨大な亀裂が走り、隠神刑部の√能力が無効化されていく。
流石にスッポンポンにはならなかったが、アイカによって地面に転がされ無防備という意味では親分も子分も結局のところ大差は無かった。
「スペアはいただき!」
更に待ってましたとばかりにウィズが叫べば、アイカの体にへばりついていた『闇顎』がここぞというタイミングで飛び出して隠神刑部に喉笛に噛みついた。
「味見は任せたぜェ闇顎」
「感想次第じゃマジで食べるからねー」
「ぐぎゃっ! や,やめ⋯⋯」
そしてそんな呻きなど聞こえぬとばかりに再び談笑を始めるアイカとウィズ。
そんな2人を尻目に、闇顎の鋭い牙が一足お先とばかりに隠神刑部の肉を食いちぎるのだった。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功

かーッ
ここまでの賑わい、術が解けてなお残る熱を目にしておいて阿呆臭いくだらないとずいぶんな言い草
祭田の旦那が盆暗ならアンタ様は野暮の野暮助野暮天神ってとこでございやすかねェ
けどもこッから息吹き返す「漢憤怒士祭り」の客寄せ前座としちゃアお見事な働きぶり!
アタシらも負けてられねェってンで
紫煙入道(期間限定褌姿)!
お前さんの仁王立ち篤と見せておあげな!
ッと、モクモク膨れた紫煙入 道に狸褌連中の目を向けさせるうちに瞑想は済ませちまいやして、と
サァテ紫煙入道、ついでに狸の旦那も前座ご苦労
今宵アタシが語らせていただきやすのは祭りに懸けた漢の情念
「漢・祭田 憤怒士祭りに仁王立ちのこと」
ねェ旦那、本日の号令頭のお仕事ときたら、まッこと見事な語り草ッてェもんでございやして
こいつを紙芝居にしねェテはありませんやね
サァ、褌の男衆はまァだここに残っておりやすよ!
立ち絵姿と言えど号令頭が呆けてらっしゃる場合じゃございやせんでしょ!
神通力?化かされ状態?
アタシみてェな端役がどうなろうが大したこっちゃアございやせんよ

黒幕おどれかぁぁ!?
…ついおらんで(叫んで)もた
いや、やけどこなな褌筋肉祭り仕組んだ黒幕が狸…しかも四国の、大爺ちゃん級の大物…ふうが悪い(はずかしい)にも程があるやん(クソデカ溜息)
…こうなりゃ同郷の狸の誼、ウチが責任持ってくらっしゃげる…乙女にあんなモン見せた報いも受けぇや
構えや刑部…伊予と讃岐、四国狸同士の化け術勝負や…大爺ちゃんの名にかけて引導渡したる!
√能力使用。大爺ちゃん直伝の幻術により戦場を一ノ谷の戦い、鵯越えの断崖絶壁へと変え、化け術で『太夫黒』を駆る義経へと変化
手下狸の化け術を掻い潜りつつ崖を駆け下りて跳躍…からの…空中八艘飛びでの二段跳躍攻撃で褌のくそぼっこ諸共一網打尽や!

なぁ…これ配下も褌装備って親玉も想定外なんじゃないかな…
まぁ泡沫の夢の終わりは新たな夢の始まりだし祭の後は片付けだよね。
こんだけ祭りに人が来て…(一部多分本来の任務そっちのけで)祭りを楽しんでたわけだし?最後に一つ大きな花火でもあげようか。回りも巻き込んだ√能力式褌祭でも。
要は√能力による連撃に祭の神輿担ぎのようにソイヤソイヤと暴れまわるだけなんだけど。
●漢憤怒士祭り 大団円!
「ぜぇ、ぜぇ⋯⋯おのれ。おのれオノレオノレ!」
並み居る√能力者達の猛攻により幾度も致命傷を負った隠神刑部。
その度に不滅の存在たる御業により回復を果たしてきたが、それも遂に限界を迎えつつあった。その消耗が焦燥となり、威厳をすり減らした隠神刑部は今や一匹の荒れ狂う獣。
「何が褌だ! なにが祭りだ! なにが博打だ! こんな阿呆臭い事に手を出したのが間違いじゃったわ!」
鐘楼を力任せに殴り砕いても、怒りは一向に収まらない。それどころか次から次に溢れ出してくる。
しかし、怒りに燃える者は隠神刑部だけではなかった。
「かーッ! ここまでの賑わい、術が解けてなお残る熱を目にしておいて阿呆臭いくだらないとずいぶんな言い草。祭田の旦那が盆暗ならアンタ様は野暮の野暮助野暮天神ッてとこでございやすかねェ!」
これまで常に柔和な笑みを崩さなかった二代目海石榴屋・侘助(胡乱な紙芝居屋さん・h01536)が、ここに至って遂にその表情を変える。
細められていた眼をガンと見開き、喧々諤々と語るその姿は、一瞬ではあるが隠神刑部を圧倒して見せた。
「けどもこッから息吹き返す『漢憤怒士祭り』の客寄せ前座としちゃアお見事な働きぶり! アタシらも負けてられねェってンで⋯⋯」
そして侘助は左手に握った煙管を力強く手のひらに打ち付ける。すると煙管の先からモクモクと紫がかった煙が立ち上り、その形を巨大な人型へと変じていった。
「さぁさ紫煙入道! お前さんの仁王立ち篤と見せておあげな!」
そして更には『紫煙延々埒もなし』――煙管を通して侘助がフーっと息を吹き込めば、紫煙入道の体はあれよあれよと言う間に膨れ上がり、京都は仁和寺の金剛力士像に勝るとも劣らない屈強な肉体に様変わり。いつの間にか腰には立派な六尺褌まで据え付けて、今ここに日本一のお祭り煙が誕生した。
「さすがは紫煙入道大先生! その六尺褌、お前さんにゃよく似合うッてずッと思っていやしたよ! さあ、アタシらと祭田さんの怒りを思い知らせてやりやしょう!」
これまで朗々とした語り口とは打って変わり、語気に熱がこもる侘助。
彼女と共にこの祭りに参加した屋島・かむろ(半人半妖の御伽使い・h05842)もまた侘助の怒り様に内心驚いていた。
しかしそんな驚き以上に、かむろ自身の内から湧き上がる怒りが勝って。
「黒幕おどれかぁぁ!?」
思わず腹の底から響いた怒声にこれまた隠神刑部は圧倒され、ついでに周囲の褌姿の男衆はきゃんと泣いて竦み上がる。
「こなな褌筋肉祭り仕組んだ黒幕が狸⋯⋯しかも四国の、大爺ちゃん級の大物⋯⋯|ふうが悪い《はずかしい》にも程があるやん⋯⋯!」
大きく、大きくため息を吐き出し、肩で息をするかむろ。
かむろが尊敬する化け狸の大爺ちゃんとはさぞや尊敬に値する人物、いやポン物なのだろう。
それなのに、そんな爺ちゃんと比肩する名だたる化け狸がまさかこんな事をしでかすなんて。まるで四国の化け狸の地位そのものが一段も二段も落とされたような気がして、かむろは怒りと共に悲しみさえ覚えていた。ああ、赤らめた頬に涙が伝ってる。
「『こなな』褌筋肉祭り⋯⋯? アタシゃあ、|四国《そちら》のお国言葉は詳しくないんですが、もしかして、貶されました?」
しかし、そこで聞き捨てならないと首をギギギ⋯⋯と傾げる侘助。
ガラス細工のように冷たい瞳に射抜かれ、かむろはまた別の意味で泣きそうになった。
「ひゅいっ!? え、あ、こななってーのはな⋯⋯ええい! こうなりゃ同郷の狸の|誼《よしみ》、ウチが責任持ってくらっしゃげる! ちいと待っとれ!」
あ、誤魔化した。
言うやいなや、かむろはぴゅーっと風のようにその場を走り去り、あとに残された侘助と紫煙入道は気を取り直して隠神刑部と対峙する。
「好き勝手言いおって⋯⋯。儂の屈辱を、この身を切り刻まれ永きに渡り封じられてきた無念を貴様ら小童のちゃちな怒りと比べられてたまるか! 化け狸郎党! 薙ぎ払え!」
対する隠神刑部も怒りは一入。唾を撒き散らしながら発した号令を皮切りに、褌衆が一斉に侘助と紫煙入道に殺到する。
紫煙入道はその強化された体を盾に侘助を庇うも、如何せん煙はやはり煙。紫煙入道自身に攻撃力は無く、出来ることと言えば筋骨隆々な見た目を活かした|威嚇《ポージング》と煙の体をぶつける目眩ましが関の山。
しかしここで心強い助っ人が現れた。
「泡沫の夢の終わりは新たな夢の始まり。祭の後は片付けだよね」
鋼の義脚を唸らせながら駆けつけたのは石動・悠希(ベルセルクマシンの戦線工兵・h00642)。
恐れること無く褌連中の中に飛び込んだ悠希は、その手に握った巨大なパイルバンカー『鉄杭』で次々と男たちを弾き飛ばしていく。更には紫煙入道の巨体を目眩ましに、その煙の体を突き破りながら鉄杭を突き出すという即興の連携技まで繰り出して、その経験値の高さを見せつけた。
高い攻撃力を持つ彼女の登場は侘助にとっても願ったり叶ったりだ。なにせその分時間を稼げる。新たな演目をひねり出すための、その時間が。
「サァテ紫煙入道、ついでに狸の旦那も前座ご苦労。機械のお姉さんも助太刀感謝でございますよと」
果たして、侘助の頭の中に練上がりましたるは、出来立てホヤホヤの即興芝居。
「今宵アタシが語らせていただきやすのは祭りに懸けた漢の情念。『漢・祭田 憤怒士祭りに仁王立ちのこと』! ねェ旦那、本日の号令頭のお仕事ときたら、まッこと見事な語り草ッてェもんでございやして、こいつを紙芝居にしねェテはありませんやね」
どこかで聞いていてくれていると信じ、祭田の親分に向けて声を投げかける侘助。
いや聞いてくれていなくたって構わない。ならば嫌でも聞こえるくらい大きく朗々と語ってみせるのが胡乱な紙芝居屋さんのお仕事だ。
「サァサみな様ご照覧。此度お目々に入れていただきますはいつか、どこかの……否サ ただ今、この場の御話でございます」
そうして始まる『開演・海石榴屋芝居』。
侘助の熱の入った語りに合わせ、世界が、舞台が形を変えていく。そして気づけば彼女の隣には祭田の姿があった。しかも老いぼれた現在の姿ではなく、祭りの最前線を仕切っていた若かりし頃の姿で、だ。
「ほぉう⋯⋯お前も幻術の使い手か。だがこの儂相手に化かし合いを挑もうなど、身の程知らずにも程があるわい」
隠神刑部の言う通り化け術は隠神刑部の十八番。しかし侘助はこれ以外に戦う術を知らず、そして年季で劣ろうとも力で負けるとも思っていない。
そしてそれは彼女にとっても同じだった。
「待たせたなぁ! 準備完了やでクソ爺!」
威風堂々風を背に受け、現れたるは屋島・かむろ。
隠神刑部の土俵で彼奴を打ち負かすにはそんじょそこらの幻術では太刀打ちできないと判断したかむろは、これまで影に身を潜めじっと怒りを堪え、精神を集中させていた。
ここから先は化かす側と化かされる側の精神力の勝負。かむろは自身の勝利を強く思い描きながら隠神刑部をじっと『見下ろした』。
「なっ!? なんだここは!」
瞬間、隠神刑部の表情が驚愕に染まる。
気づけばその場所は神社の境内ではなくなっていた。彼等が立っていたのは遥か見上げるほどの高さの断崖絶壁の麓。
かむろはその頂上にて、こちらも幻術で生み出した名馬『太夫黒』の背に跨りながら隠神刑部を睨みつけた。
これこそが大爺直伝の奥義、|鵯越え逆落とし及び八艘跳び《ヨシツネ・オールコンボ》。一ノ谷の戦い、鵯越えの断崖絶壁を再現する大幻術だ。
「構えや刑部⋯⋯伊予と讃岐、四国狸同士の化け術勝負や⋯⋯大爺ちゃんの名にかけて引導渡したる!」
「ぐ⋯⋯わっぱが偉そうに四国狸を語るなやぁ! 儂に勝てる狸など、いてたまるかあ!」
かむろの幻術を跳ね除けるように声を張り上げる隠神刑部。しかし彼奴の配下の中にかむろが生み出した幻術を打ち破れる程の猛者はいない。
右往左往する配下達を眼にして、侘助は勝利を確信し静かに笑みを浮かべた。
「サァ、褌の男衆はまァだここに残っておりやすよ! 立ち絵姿と言えど号令頭が呆けてらっしゃる場合じゃございやせんでしょ!」
そして景気よく祭田に発破をかけると、侘助は手に拍子木を持ち、カンカカンと空高く打ち鳴らす。
「漢憤怒士祭りーー!! 陣形―!!」
侘助に答え号令を上げる祭田。
その声は褌姿に化けた狸達の脳を揺さぶり、その魂をも支配していく。
自分達はお祭り漢だ。号令に応じて、|弥栄《いやさか》を唱え福を呼ぶ。それが自分たちの役目なのだと。
「よっ! 上の町の来福祈願に、我ら服脱ぎゃ神の風吹く!」
「「「「ソォレイ! ヨーイヤサー! ヨーイヤサー! ヨーイヤサー!」」」」
祭田の号令に答え一斉に円陣を組み、その中心――隠神刑部に向けて突進する裸若衆。突然の出来事にたまらず群衆に飲み込まれる隠神刑部に、悠希も思わず呆れを通り越して笑みをこぼした。
「はっは。これは親玉も想定外なんじゃないかな。じゃあ最後に自分も一つ大きな花火でもあげようか。回りも巻き込んだ√能力式褌祭だ!」
そうして悠希が発動したのは『LINK-AGE』。
自身と味方のあらゆる行動を√能力化して連結させる概念系能力。これにより並み居る褌男たちの突進は全て一秒たりとも隙のない√能力の連撃として威力が発揮される。
「これが自分なりの神輿担ぎだ。さあ煙くんも祭田さんも往くよ! ソイヤソイヤー!」
更に褌衆の中に悠希自身も加わって連撃の密度を高めれば、いよいよ隠神刑部は身動き一つとれなくなる。
そして蜂団子を思わせる過密地帯に最後に飛び込むのは、義経と化したかむろだ。大黒夫を駆って崖を猛スピードで下り大跳躍。更に空中に出現した船軍を八艘飛びで飛び越えながら更に加速。
正に今のかむろは、神の風を体現する者となっていた。
「乙女にあんなモン見せた報いも受けぇや! レディーィィィ⋯⋯|八艘《ハッソー》!!」
そうして叩き込まれた渾身の飛び蹴りは、一箇所に集約された化け狸達をもろとも巻き込んで大地を抉り進み。
「ぐうううううおおおおおおおお!! 認めん!! この儂は褌などに! 筋肉などに敗れるなどぉぉおおおぉぉぉ!!」
「この化かし合い、うちらの⋯⋯勝ちや!」
勝利の雄叫びと共に、かむろの体が隠神刑部を蹴り貫くのだった。
東の空は次第に明るくなってきた。
長かった祭りの夜が終わり、また新しい朝がやってくる。
祭りの後はどうしてこうも寂しいのだろう。
そしてどうしてこんなにも清々しいのだろう。
「そんなの、決まっていやすよ」
「また新しい祭りをするため?」
「え~、うちはもう懲り懲りなんやけど⋯⋯」
「何をいってらっしゃるんです。祭田さんも町の人達もあんなに乗り気だったじゃないですか。ここはアタシも一肌脱いで、各地でこの演目の宣伝を」
「はいはい、頑張ってね。それじゃ自分はここで」
「待ちぃやー。星詠みさんがまかない作って待っとるけん、一緒に食べにいこ?」
「⋯⋯ん。じゃあ、お言葉に甘えて」
口々に言葉を交わしながら、戦いの地を後にする√能力者達。
彼等が再びこの場所に戻ってくることがあるのか。それは誰にもわからない。
ただ、次の2月14日。再びあの声を聞きたくなる者がいたのなら、その時はきっと。
「また⋯⋯また来年!」
『奇祭! 漢憤怒士祭り!』
これにて暫しのお暇。
「「「「「「ソイヤァ!!!!!」」」」」
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功