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晴嵐~明日に伸びゆく帰り路

#√妖怪百鬼夜行 #ノベル

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 これは余談か、はたまた本筋か。
 √妖怪百鬼夜行にて化け狸の仕置きに居合わせた人と妖、二人の縁に今暫くのお付き合い――とまあ、そう申したところで大立ち回りは済ませた後ですから、人も妖も残すは各々、居所へと戻るだけの話にございます。
「……おや、坊ちゃん。お帰りは此方で?」
「という事はそっちも?」
 尋ね返した|尾崎《おざき》・|光《こう》(晴天の月・h00115)に、|野分《のわけ》・|時雨《しぐれ》(初嵐・h00536)はニィと口元を歪めて頷きます。その眼差しはまるで|獲物《玩具》を見つけた|獣《子》の如く、けれども気安く絡んでくる割には距離感を誤らない男だと踏んで、光が特に気にする事もなく帰途につくと、視界の端にはひょいと角が並びました。
 古妖と争った店から続く路地を抜けても、歓楽街は未だ賑やか。何を言わずとも気まずさを覚えるような静寂は訪れませんが、しかし口を閉ざしたまま歩くのも据わりが悪いというものですから、光は探るように初手を放ちます。
「そういえば」
「はい?」
「切り飛ばした尻尾って一緒に封印したっけ?」
 ふと思い出した事を光は言ったまでですが、角頭は腰の後ろに揺らぐものをひしと掴んで、懐に抱え込むようにしてから答えます。
「したはず、ですけどねぃ」
「そっか。襟巻に出来なくて残念だったね」
「もしや、坊ちゃんは動物の毛でお洒落する派閥です?」
「入った覚えはないし、暖かければそれでいいけど……」
 そこまで言ってから隣をちらりと見やり、光が内心で「ああ」と合点するのと、時雨が口を開くのは同じ頃。
「ぼくをやると牛も狸も黙っちゃいませんけども」
「やらないよ。でも、気を付けた方がいいのかな」
「それが穏やかに長生きする秘訣ってもんでしょうねぃ」
 暴れ回った後の帰り道に、また思っても居なさそうな台詞を吐くものだ……と、時雨に向けた目をあちこちに彷徨わせてみれば、光の視界には様々な種族が映ります。
 そもそもが人と妖の入り混じる|√《世界》であれば、隣人を慮りすぎて困るという事もありますまい。とはいえ、光には一つ引っ掛かる点もございました。
「きみ、タヌキ鍋って」
「……あぁ……」
 あの時ばかりは慌てたが故に、そんな事も口走ったような。
 狼狽の理由が女人ではさすがに格好がつかないと苦笑する時雨に、光は前を向いたまま続けます。
「きみ、ああいう造形が崩れているのは全部鍋って印象なの?」
「鍋というか雑炊ですかねぃ。栄養一番手間暇二番。腹に入れば皆同じ。それなら端から一纏め、と」
「……成程」
 つまり時雨は花より団子系男子なのだと光が理解を深めたところで、ようやく花街の賑わいも途切れました。そこから分かれる三叉の道の一つへと曲がって進めば、その先にはこの辺りで活動する異能者によく知られた|楽園《√EDEN》への抜け道が。
「さー終わり終わり! お疲れさんっした! じゃ、達者で!」
 此処までと決め打ちして時雨が言えば、坊ちゃんは表情こそ変えぬままに首傾げ。
「あれ、そっちなの?」
「……ええ、楽園はアチラですが?」
 角頭も坊ちゃんの鏡と相成って、顔を斜めに傾けます。
 やはり何事も口にしてみなければ分からないもの。時雨は坊ちゃんが曲がって進むと、光は牛角が曲がらずに進むと、そう思っていたのでしょう。
「もしや、お住まいはこちらで?」
「そうだよ。出身は|楽園《√EDEN》だけど、こっちの水が合うみたいでね」
「はぁ~。物好きですねぃ」
「まだ日は浅いけど。案外、不自由はしないね」
 それに同じ|√《世界》なら帰り道を探す必要がなくて楽だと、再び歩き始めた坊ちゃんの後に時雨もまた続きます。
(「……不自由しないって、そりゃ容赦なく尻尾落とすくらいですからねぃ」)
 思い出せばぞわりとはしますが、時雨はそれよりも坊ちゃんに面白さを感じているところ。何せ第一印象の優男評から、あれやこれやでがらりと変わったものですから。
 遠慮のない視線で横顔を窺えば、見られた方も気付きはすれど咎めはしません。
「きみもここが拠点だよね?」
「仰る通り。ぼくは生まれよりこちらで」
「それじゃ、何かあれば|頼らせてもらおう《巻き込んじゃおう》かな――」
 なんて言ってみたところで、二人はようやくそれを思い出します。
 ええ、古妖との戦いから此処まで、他愛のない話は散々しましたが、未だに互いの名前を知りません。まさかいつまでも「坊ちゃん」「牛角」なんてまだるっこしい呼び名で通す訳にも参りませんから、牛角頭の方が先に仰々しく自らを明かします。
「雨降る町にある、古物屋の下働き。野分の時雨と申します。どうぞ御贔屓に」
「ぼくは尾崎光。|偽刺青《メヘンディ》を描いているけど……」
 名刺代わりと見せるにしても、今日の持ち合わせは使い切ってすっからかん。
 それを両手拡げて訴えれば、別に疑う事でもなしと時雨も頷いてから口を開きます。
「また面白いモン扱うんですねぃ。刺青ではなく、偽刺青。成程、それで」
「それで?」
「それで狸の尻尾も『すぱん!』と。ははぁ、いずれ見せてくださいね」
「……ん? いやいや、|あれ《・・》は偽刺青じゃないよ」
「なんと」
「気づかなかった? じゃあ、種明かしはまた今度だね」
 どこまで本気で驚いてみせたのかという時雨に、光は言って続けます。
「古物屋さんにも興味あるな。その内お邪魔させて貰うね」
「それはもう、ご縁があれば是非」
 いつでもどうぞと歓迎を示せば、さすがにそろそろ別れの気配も漂うもの。
 二人の歩みはとうとう一つから二つに変わり、それぞれの行くべき方へと向かったそれは――すぐに止まる事となりました。
 まだ互いの存在も窺えるくらいです。そうして一瞬ばかり佇んでいれば、否が応でも詳らかになる事実が一つ。はい、この二人どうも、すぐ近くに住んでいるようで。 
 向こう三軒両隣なんて申しますが、まあそこまで行かなくともご近所さんには違いなく。となれば、その歩みが再び交わる日も、きっとそう遠くはないのでしょう。
 なにせ、今日初めて言葉を交わした間柄だというのに、気付けば『いずれ』や『また今度』などと口走って、明日に道を繋ごうとしていたのですから。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​ 成功

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