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√大鍋の蓋『アシェット・デセールは終わらない』

#√EDEN #ノベル #バレンタイン2025

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 スイーツビュッフェ。
 スイーツとは食後に食べるデザートである。その性質から言って最後のお楽しみでもあるだろう。
 甘いものは腹だけではなく心も満たされる。
 それだけではない。
 スイーツは高カロリー食である。その主成分である糖分は吸収が速い。となれば、当然胃の満腹中枢は直ぐ様にギブアップするだろう。
 だからこそ、食事に最後にデザートを人は食するのだ。
 フルコースにもちゃんとした意味があるのである。

 だが、本日六人の√能力者たちが√EDENのとあるスイーツビュッフェに集ったのは、まさしくそんな前菜やスープ、主菜、口休め、甘味、食後のお茶と言った慣例をデザート一本という剛腕によってねじ伏せた食べ放題なのだ!
 しかも時はバレンタインデー。
 となれば、当然、ビュッフェスタイルにはチョコレートに因んだスイーツが立ち並ぶであろう。
 美味しいものを求めてやってきた六人は意気揚々たる佇まいであった。
 まず、顔立ちからして違う。
「この日のために、晩御飯から抜いてきました」
 そう言う茶治・レモン(魔女代行・h00071)はあまりにも覚悟の決まった男の顔をしていた。
「昨日から! レモンちゃん、めっちゃ気合い入ってんね!」
「ひなもね、朝ご飯抜いてきたのねー!」
 八卜・邏傳(ハトではない・h00142)は、その言葉に目を見開いて驚愕した。
 更に驚くべきことに幼い少女である春日・陽菜(宙の星を見る・h00131)もまたそうなのだと元気よく挙手していた
「って、ひなちゃんも??」
 大丈夫か?
 二人共食べ盛りであろうに、と邏傳は心配になった。
 いや、年齢的なことを言うのならば彼も大概であったが。しかしながら、この日をどれだけ楽しみにしていたのかなど言うまでもない。

「レモンも陽菜もご飯抜いてくるとか気合入ってる~!」
 そんな二人の肩を抱き、薄羽・ヒバリ(alauda・h00458)は体を揺すって、そのテンションの高さを示すようだった。
「私もカロリー爆弾に備えて朝は低糖質レーションにしちゃった」
「ヒバリんも準備万端じゃんね」
「これでもう怖いものなしっ!」
「いっぱい食べます!」
 ピース、とヒバリはご機嫌だった。レモンも同じようにピースして邏傳にアピールしている。
「ひなもー!」
 三人揃ってトリプルピースであった。
 非常に画になるなぁ、と邏傳は思ったかも知れない。
 いや、むしろ写真は撮るべきであった。
 何せ、スイーツビュッフェの店内はそこかしこがキラキラしていたのだ。
「すげ……この空間、キラキラしちょんよ……?」
「きらきらしてるのね、甘いものいっぱーい!」
 陽菜は鼻腔に香ってくる甘い香りに元気いっぱいに笑った。
 釣られて邏傳も笑顔が浮かぶ。
「じゃあ、目指すは全種類制覇ー☆ といこうか!」
「いえーい、なのねー!」
 二人は一斉に駆け出す。早いもの勝ちだ!

「なんとも賑やかですねい」
「いやぁ、だって食べ放題なんだし。それに皆でご飯を食べられるっていうのは嬉しいし楽しいよ」
 野分・時雨(初嵐・h00536)は、緇・カナト(hellhound・h02325)の言葉に頷いた。
 確かにそうかもしれない。
 彼にとって食事というのは栄養補給であった。
 けれど、一人ではないということは存外に味覚というものに影響を及ぼすものだということも、彼は理解していたことだろう。
「もう予約は取ってあるから、早速ご飯タイムと行こうか~」
 カナトは我先にと己の腹の減り具合に鳴くお腹の虫を宥めるために、皿を手に取った。
 隣には時雨もいる。

「ふっふっふー、どのスイーツにしようかな~……あっ、カナトさんと時雨さんはいきなりご飯?」
 ヒバリは二人が持つ皿に装われようとしていたものを認めて首を傾げる。
 そう、時雨とカナトはテーブルの殆どを埋め尽くしているスイーツではなく、カレーの入った鍋と数種類のパスタが並べられた大皿の前に立っていたのだ。
 てっきり彼らもスイーツを、それこそばかすか食べるものだと思っていたから、意外だったのだ。
 ある種の邪道ではないか?
 答えは否である。
「まあ、まずはね。パスタうまそうなんだよ。いや、もちろんカレーも。こういうところんカレーってさ、なんだか拘りっていうか、特色が出るような気がしてさ、気になっちまうんだよね」
「そういうことです。まあ、甘すぎるのも、ちょいと苦手でして」
 甘味事態は好ましいのだけれど、と時雨は弁明するようだった。
「二人らしいけど、そんなに食べたら甘いもの入らなくない?」
「うふふ。ヒバリちゃんの疑問はごもっともですが。それにデザートっていうものは、ほら、やはり最後に取っておく主義なものでして」
 そういうもの? とヒバリは首を傾げたが、要らぬ心配であるとも思ったようだった。

「時雨君、やばいぞ。ここ。パスタだけでも六種類もある! カレーも三種類……!」
「それは重畳ですねい」
 いざ、と二人は皿にパスタやらカレーやらを取り分けていく。
 そして時雨はレモンを見やる。
 彼らのいた√は、ハッキリ言って食糧事情に困窮している√だ。
 だからこそ、時雨はレモンの言動が気になっていた。
 食べ盛りであるというのに、昨日から食事を抜いていた? いくら楽しみだからといっても、それは捨て置けないことだった。
 確かにレモンも甘いものをたくさん食べようと意気込んでいる。
 が、成長する時期であるのならば、食事のバランスというものは大切だ。

「食べ盛りのレモンくん、まずはカレーを食べましょうね。ほどほどに身長伸びるよう食べてくださいね。ほどほどに」
「わぁ、美味しそうな……カレー!?」
 え、とレモンはビクとする。
 なんかだか妙な反応だな、と時雨は思っただろう。
 それもそのはずだ。
 レモンの身につけたものは全てが白いものだ。
 カレーが一つ跳ねただけでも致命的なのだ。だが、レモンは微笑んだ。
 時雨は確かに揶揄するような物言いだったが、こちらの食糧事情を汲んでの発言だということがわかるのだ。
「ふふ、明日には時雨さんより背が伸びている気がします」
「ほどほどにね、願いますよって」
 茶化して返してくれてよかった、と時雨は思ったかも知れない。
「陽菜チャンもカレー食います?」
 二人のやり取りを見ていた陽菜の皿を見やり、時雨はおたまを掲げて見せる。

「うんん、でもね、ひな、カレーは甘いのしか食べられないの……」 
 子供の舌にはカレーの刺激は時として刺さるようなものだっただろう。
「時雨さん、甘いのありますか、なの?」
「甘口もありますよって。お皿、こっちが席に運んで起きますから、スイーツ選んでおいでね」
「えへへ、甘いカレーは大好き。ありがとうなの、時雨さん」
 にっこり笑顔の陽菜がパタパタとスイーツの方へと走っていく。

 そんな陽菜を迎えたのは、邏傳とヒバリであった。
「ひなちゃん! 見てみて。このカップケーキ、くまちゃんの形になっちょるよ♡」
「えっ、ヤバ! ちょー可愛いんですけどっ」
「くま!? 邏傳さん、今くまっていったのね!?」
 わあ、と邏傳の言葉に陽菜とヒバリのテンションはぶち上がっていた。
 バレンタインデーらしく、チョコのカップケーキにホイップとチョコペンでもってクマのお顔が描かれているのだ。
「すごいの、カップケーキがくまさんなの!」
 ひょいひょいとトングを使って陽菜はクマのカップケーキをいくつも取っていた。また、はいどうぞ、とヒバリと邏傳の皿の上にもお裾分けするのだ。
「陽菜ありがとー!」
「やったオソロくまちゃん~」
 三人は互いに顔を見合わせて笑む。

 彼女たちが取ってあった席にやってきた時、先んじて食事をしていた三人はすでにカレーを一皿食べきっていた。
「あ、もう食べちゃったの?」
「全部美味かった」
 カナトの言葉にヒバリは、パスタもありだな、と思ったのだ。
 彼女の手にした皿の上には、ホイップクリームとチョコソース、そしてナッツでデコレーションされたクロワッサンを押しつぶしたような見た目をしたスイーツが乗せられていた。隣には陽菜が選んだクマのカップケーキ。
「それ、気になってたんだよね。えっと、くるんじ? だっけ? バターの香りがテンションながるんよ」
「ふっふーそうでしょー私のおすすめね」
「へぇ、それってどんなのなんですかい?」
「クルンジっていうの。ザクザク食感とバターの香りがすんごいの。そこにチョコが加わるともう口の中が」
「天国なの!」
「そうなの!」
 陽菜とヒバリの二人の声がかなさって、だよねーとニッコリ微笑みあう。
「ヒバリさんのおすすめなの。ひなね、ヒバリさんみたいになりたいから、絶対知りたいっておもったの」
「もー陽菜ってば可愛いんだから!」
「だからね、おそろいなのー!」
 ほら、と陽菜の皿の上もヒバリと同じようにデコレーションされたクルンジがまるでアートのように絵描かれていたのだ。

「でも、カナトさんのパスタ……気になるの」
「オススメは明太クリームとバジルのヤツかな。後二皿くらいは取りに行ってもいいかなって思ったよ」
 カナトはすでにカレーも食していた。
 次はシーフードだな、と思っているようでもあった。
「なるほど、明太クリームとバジルですね」
 レモンはカナトと時雨が軽食メニューをメインで食べているのを見て、ならば、自分もおすすめを出さねばと思ったのだろう。
 ささーとテーブルに近寄って、ヒバリおすすめのクルンジを取る。
 さらにアンバターオムレットをいくつか皿に取り分けて戻って来る。

「僕のおすすめはこれです! バタークリームとあんこをですね、オムレット生地で包んだものなんです。ふわふわですよ!」
 それに、とレモンの皿の上にはぷちカップケーキとぷちシュークリームが鎮座していた。
「わ、レモンさんのお皿、賑やかなの!」
「これは作戦なんですよ。小さくすることで、たくさんの味が楽しめるんです。はい、陽菜さんにもお裾分け」
「すごい作戦なの! ありがとうなのー」
「……って、ヒバリさん、それは!」
「ふっふーん、アイスシューだって。クリームじゃあなくって、アイスが入ってるよ。あっちにはクロワッサンに挟んだのもあったよ!」
「えっ! 食べます! 行きます!」
 レモンはヒバリの言葉にテーブルを行ったり来たり忙しない。

「それにしても邏傳もレモンも全然ペースが落ちないの、さすが男の子って感じ?」
 その言葉に邏傳は頷く。
「まだまだ食べ盛りだかんね!」
 ビッ! とヒバリにサムズアップして見せる。
 その眼の前の皿には、スープやパスタが並べられているし、サンドイッチのタワーが出来上がっている。
「なにそれ、ジェンガみたいになってるねぇ?」
 カナトはちょっとびっくりしていた。
 が、驚きよりも食欲が勝る。
「カナトちゃん、一緒にこのサンドイッチタワーに挑戦しちゃわないかい!」
「それは望むところ。絶妙なバランスタワーだけど、大丈夫かな?」
「だいじょうぶだって。卵サンドうんまいんだよね~」
 二人の様子を見ていた陽菜は、思わず、わ~と口をあんぐりと開けるばかりであった。

「ふふ、陽菜さん。見てご覧よ。これ、フルーツサンドなんだけど、切り口お花みたいになっているよ~」
「あ、確かにそのフルーツサンド、可愛くて陽菜ちゃんにぴったりだと思ってたんだよね☆」
「まって、まって。ひなこんなに食べられるかな」
「コーヒーゼリーもあるよ~」
「……苦くないの?」
「ちょっぴり大人の味だよ~|」
 カナトと邏傳の言葉に食べられないかも知れないと思っていた陽菜も意を決したようだった。

「邏傳くん、それはそうとこの前食べた激まずマカロン、トラウマになってやしませんか?」
 時雨は思い出したように、スイーツビュッフェにはつきもののマカロンを指差す。
 その言葉に邏傳は思わず目を逸らしていた。
「や、その、今日はマカロン、見る専で、いいかな」
「あれま。これはまた相当根が深いようですね。あーんしたお詫びにこちらをどうぞ」
「あれ、これは?」
「わ、真っ黒なの!」
 陽菜が時雨の持ってきた皿を覗き込んで目を丸くする。
 そう、それは食事とは思えない色合いであった。

 真っ黒、一色。
 そうイカスミを使ったパスタであった。
「……めちゃ黒いん。だいじょうぶなのん、これ?」
「大丈夫でしょ。僕はこのアイス風ポテトサラダ、交換でいただきますね」
「なんちゃってバニラアイスだよね、色合い的に見てもさ。じゃあ、ちょっと頂くね……んっ!」
「ど、どうなの? 邏傳さん」
「……想像以上に美味しいんよ!」
「意外といけますでしょう?」
 うんうん、と首を縦に振る邏傳に陽菜も興味津々だった。
 二人揃って、いや、三人そろって笑えば、お互いの歯が真っ黒になっているのを指さして笑い合う。

「あ、そうだ。今回は俺から時雨ちゃんに、あーん♡」
「お断りするわけないです」
 あーん、とありがたく時雨は手ずからポテトサラダを頂いて、うんと頷く。
「陽菜もー!」
「はい、あーん♡」
 食べさせあいっこも、もうなれたものである。
 そんな三人をよそにカナトはメインにしていた軽食を食べ終わり、スイーツを盛り合わせていく。
 珈琲クリームをあわせたチョコケーキにぶちショコラ。
 皿だけみたらバレンタインデーそのものだ。
 
「カナトさん、スイーツも特盛すぎない……!? それ全部食べ……ても太らなそうなところとかホント羨ましいっ」
 ヒバリの言葉にカナトは笑う。
 本当にそうなのだ。カナトはこれだけ食べるのも今日が特別なわっけではないのだ。
「およ、カナトさん、珈琲クリームのそれ、美味しかったですか? ぼくお腹いっぱいで動けないんですよ。取ってきてほしいな~」
「はいどうぞ」
 年上にはナメた態度を取る時雨。
 けれど、それは不器用な甘え方だったのだ。
 どすん、とおかれたのはカラフル激甘チョコスイーツであった。お裾分けである。
「ぜひ感想聞かせてねぇ?」
「甘すぎないの食べたいって聞こえてました? ねえ」

「邏傳さん、あっちにチョコファウンテンありましたよ! 一緒にやりたいっておっしゃっていた!」 
 レモンがびっくりした顔で指差す先には、チョコの滝。
 その光景にヒバリと陽菜のテンションがぶち上がっていた。
「マ!?」
「チョコファウンテンがひなを呼んでるのよ」
 ガタ、と三人は立ち上がっていた。
「行く行くー! ふふ、みんなでマシュマロくるくるしよっ!」
 きっと動画に収めれば、それだけで映えて、バズってしまうことだろう。
「ほら、カナトちゃんも時雨ちゃんも」
「行きましょう!」
「しゃーねーですねっ」
「行かないでか、だよ~」
 レモンの声に時雨たちも立ち上がる。
 スイーツビュッフェは、お祭りだ。
 大人も子供も、おおはしゃぎで流れるチョコの滝の前で楽しげに笑う。
 なら、それが大正解花丸なのだ――。
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