シナリオ

仮面よ、野望を抱け

#√マスクド・ヒーロー #わるもの組織ヘルプレス

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 #√マスクド・ヒーロー
 #わるもの組織ヘルプレス

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『本日はご当地グルメフェスにお越しいただき、誠にありがとうございます』

 聞き心地の良い女性のアナウンスが、屋外の大きなイベント会場に響く。地元のデパートが主導するこのイベントは√マスクド・ヒーローの日本のみならず、世界各国のご当地グルメを集めた食の祭典だ。所狭しと並んだブースの中にはそれぞれ調理スペースが設けられ、次々と自慢のご当地グルメ商品を手掛けている。ソースの香り、スパイスの香り。出汁の香りや、フルーツの香りまで。ありとあらゆる〝美味しい〟が集まる場所となっていた。一般客はその中でも自分好みの香りに誘われてブースを訪れる。中には今まで食べたことのないメニューと運命的な出会いを果たす者もいるだろう。
 そんな人と食の出会いの場に、不粋な声が混ざる。

「イィ~ヒッヒッヒ! うちの特産デーツを食べるツタンよぉ~!」

 ……お分かりいただけただろうか。もう一度聞いていただこう。

「日本語で言うところの|棗椰子《ナツメヤシ》ツタンねぇ~!」

 グルメフェス会場の一画を陣取ったその集団は、皆一様に全身を包帯で覆っている。|木乃伊《ミイラ》を彷彿とさせるその姿で一般客へ声を掛ける様子は、グルメフェスというよりもハロウィンのそれのようだ。彼らはそれぞれ器に山盛りにしたドライフルーツを手にして、一般客へ強めの……ほぼ無理強いとも言える宣伝を行なっていた。

「ドライデーツを山ほど売り捌いて、組織に大貢献するツタンよぉ~!」



「√マスクド・ヒーローの日本で、ご当地グルメフェスを開催してるのですよ。良いですよね、なんとなくあの世界らしいというか」

 数々の脅威はありつつも前向きに生きようとする、かの世界らしい催し物に星詠みの鉤尾・えの(根無し狗尾草・h01781)も好意的な反応を示す。ただ、このグルメフェスの会場で秘密結社プラグマ──それに連なる末端組織が不穏な動きを見せているという予知を得たのだという。

「わるもの組織ヘルプレス、というのですが……まあ名前の通りそう強い集団ではないのですよ。ただ、意外にも外部組織とのパイプがあるようでして。今回は悪の派遣組織から人員を大幅に借りて活動しているようです」

 曰く、ヘルプレスは他組織から派遣された怪人をご当地グルメフェスへ送り込み、ドライデーツを売り捌いているという。デーツ自体はごく普通の商品であり、ドライフルーツ特有の凝縮された甘みを堪能できるものだ。
 問題はその売り方である。今回派遣された怪人は揃って古代エジプトを想起させる外見をしているようで、まずはそこで一般客の視線を集めている。興味を抱いて近づいてきた者にドライデーツを売り込むわけだが、そのセールストークが強引なのだ。ドライフルーツが苦手と言って離れようものなら無理やり口に押し込まれ、買わないと言えば会計へと引っ張られる。普通に食べれば美味しいものを取り扱っているというのに、何とも商売が下手くそなのだ。

「そういうわけで、皆様にはヒーローとして彼らにお灸を据えてやっていただきたいのです。無理強いは良くありませんからね」

 えのが言うには、すぐに戦闘を始めようにも現場に人が集まりすぎているのだという。相手が人目を惹く集団なので仕方無いだろう。まずは、集まりすぎた一般客をヘルプレスのブースから離れさせる必要がある。

「郷に入っては郷に従え、とも申します。皆様にはまず、何らかのご当地グルメを紹介していただくのがよろしいかと!」

 √マスクド・ヒーローの世界も広いが、自分達はそこから更に別の√をも渡り歩く。各世界、各土地の名産品の知識が只人より多い者もいるだろう。その知識を活かして、フェス参加者を装ってご当地グルメの紹介を行い、一般客の興味をそちらへ向けさせるのが第一段階、ということだ。

「幸い、かなり大規模なフェスな上に皆さん気持ちが大盛り上がりですからね。客引きのお手伝いをすると申し出れば、どのブースもノリノリでご承諾くださるでしょう。紹介するものは飲食物に限られていますので、その点だけご注意くださいね」

 一般客を遠ざけることに成功すれば、敵もこちらに気付いて何らかの動きを見せる筈だ。とりあえず現地で最初に為すべきことを把握した√能力者達は、頷くことで了承の意を示した。

「それでは、健闘をお祈りしております。……あ、良いお土産ありましたらよろしくお願いしますね!」

 えのの見送りを背に、√能力者達は各々の知る道順で√マスクド・ヒーローへと向かう。異世界と異世界、その境を曖昧に繋げるポイントを踏み越えれば、そこはもうヒーローが悪と戦う世界だ。
 一歩、また一歩と目的地へ向けて足を進める。街の喧騒と食欲を刺激する香りが、新たな|√能力者《ヒーロー》の来訪を歓迎していた。

マスターより

マシロウ
 閲覧ありがとうございます、マシロウと申します。
 今回は√マスクド・ヒーローでの事件をお届けいたします。「ご当地グルメフェスで強引な商売をする悪の組織を退治する」のが目的となります。終始ご愉快な雰囲気のシナリオです。
 参加をご検討いただく際、MSページもご一読ください。

●第一章:冒険
 なんだかんだで一般客はミイラ集団とドライデーツに興味津々です。野次馬根性で近づいた結果、後悔する人が後を絶ちません。まずは彼らを遠ざけるためにも別のご当地特産品の宣伝をして興味を引きましょう。紹介するものは飲食物に限られますが、日本に限らず世界各国の名産品、果ては架空の料理まで何でもご紹介いただけます。判定選択肢については、あまり深く考えずとも構いません。

●第二章:集団戦orボス戦
 第一章のご当地特産品の宣伝で敵と同じくエジプトの名産品を紹介する方がいらっしゃった場合、営業妨害だと認識されて派遣怪人との集団戦となります。
 上記の条件を満たさなかった場合、幹部怪人とのボス戦となります。

●第三章:ボス戦
 わるもの組織ヘルプレスに派遣された、ボス級の派遣怪人とのボス戦です。

 オープニング公開後、断章を投稿した後にプレイング受付を開始いたします。受付終了のタイミングは、タグやMSページで告知いたします。
 皆様のご参加を心よりお待ちしております。
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第1章 冒険 『俺とご当地特産品紹介で勝負だ!』


POW 熱い気持ちでご当地特産品紹介をする
SPD 美味しくご当地特産品を振る舞って紹介する
WIZ ご当地アイドルなどになってご当地特産品紹介をする
√マスクド・ヒーロー 普通7 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

 ご当地グルメフェスの会場は、音楽フェスに負けず劣らずといった広大な敷地で催されている。等間隔に並ぶブースではそれぞれ持ち寄った名産品を販売しており、会場を歩いているだけでも目移りしてしまいそうだ。
 目に楽しい、香りも最高。活気溢れる呼び込みは聞いているだけで胸が高揚する。そんなグルメフェスの雰囲気を堪能する√能力者達の耳に、異様に浮いた雰囲気の声が届いた。

「イィ~ヒッヒッヒ! 特産ドライデーツはいかがツタンかぁ~!」
「食物繊維たっぷり! ミネラルやビタミンも豊富ツタンよぉ~!」

 それは、事前に聞いていた通りの光景だった。包帯で全身を巻いた|木乃伊《ミイラ》集団が、美味しそうなドライデーツを売っている。周囲の店とあまりにも雰囲気が違いすぎるそのブースから目が離せない人々が多く立ち止まっていた。

「そこのお客さん、試食してみるツタンよぉ~」
「あ……俺、ドライフルーツ苦手で」
「好き嫌いは良くないツタンよぉ~!」

 試食を断ろうとする男性に、|木乃伊《ミイラ》怪人が掴み掛かる。戸惑う男性をよそにその口へドライデーツを流し込む様子は、墓荒らしへ逆襲する|木乃伊《ミイラ》といった風情だ。だが今は襲われているのは一般人であり、怪人の強引な商法の被害者である。
 他の怪人も、通行人を捕まえてはデーツを無理やり食べさせたり、強引に買わせたりを繰り返している様子だ。組織の資金調達のためなのだろうが、決して誉められた手法ではなかった。
 まずは一般客を遠ざけるのが先決だ。√能力者達はそれぞれに馴染みの名産品に目星をつけ、客引きの準備を開始した。
シエル・シュートハート
POW
「ご当地グルメフェスなんてのんきな事、でも楽しそうだしやりまーす」
最初は何を宣伝しようかなとブースを見繕っていたシエル
しかし悪の組織の余りの商売下手くそさに段々とムカつき、押し売りするミイラを思わずどつく
「アホ! 素人! そんなんじゃ幾ら美味しくても不味く見えるし周りの空気も冷える! ちょっとお貸し!」
と何故か指導し始める
「いい事? 強引に買わせたり食べさせるなんて以ての外! 興味のある人たちに何気なく一口どうですか?とか押し付けずに声をかけて向こうから来てもらうのよ!」
そして終わってから気づくのであった、コイツ等の邪魔しに来たのでは?と
「まあ…強引なのは防げたし……結果オーライ?」

 √マスクド・ヒーローとは活気に溢れた世界だ。ご当地グルメフェス会場もさぞや賑わっていることだろうと予想していたが、まさに予想通り──ともすれば予想以上と言えた。

「ご当地グルメフェスなんてのんきな事……でも楽しそうだしやりまーす」

 シエル・シュートハート(銀翼のアサルトエンジェル・h05256)もその活気に当てられた一人だ。勿論、わるもの組織ヘルプレスの野望を阻むという目的は理解している。だからこそ、一般客としてではなく販売者側の手伝いとして参加しようとブースを見て回っているのだ。一部が鋼と化している翼を通行人の邪魔にならないよう畳みつつ、シエルはどの店を手伝おうかと辺りを見回した。

「何故買わないツタン!? こんなに美味しいデーツを!?」
「い、いや……今日は他に目的があって……」
「後でも行けるツタンよ~! 良いから騙されたと思ってデーツを食うツタンよ~!」

 |木乃伊《ミイラ》怪人に左右から迫られた男性が、その圧に負けそうになっている。接客業とは、時には多少の押しの強さも必要なのだろう。だが、彼らは明らかに度を越している上に、周囲の人々も遠巻きにその様子を見てはひそひそと小声で恐怖を口にしている。
 せっかくの楽しいイベントがこれでは台無しだ。何よりも、そう。彼らの商売は、あまりにも下手すぎる……! シエルは頭の中でぶちり、と何かが千切れるような音を聞いた。

「アホ! 素人! そんなんじゃ幾ら美味しくても不味く見えるし周りの空気も冷える!」

 怒鳴りながらシエルが近づいて来るのに気づいて、怪人は男性への押し売りを止めて「ひぃ!」と身を縮こまらせる。その隙に男性は逃げ出すが、シエルの怒りはこの程度では収まらなかった。

「ちょっとお貸し!」
「ああっ、我らのデーツに何するツタンかぁ~!」

 シエルは近くにいた怪人からドライデーツを盛った器を取り上げる。間近で見ると、本当に美味しそうなデーツだ。そう思うとより一層、彼らは勿体ないことをしている。

「いいこと? 強引に買わせたり食べさせるなんて以ての外! 興味のある人たちに何気なく「一口どうですか」とか、押し付けずに声をかけて向こうから来てもらうのよ!」

 見てなさい、と言い含めてシエルはブースの前に立つ。にこやかな笑顔を崩さず、時折売り文句を高らかに読み上げながら通行人がこちらへ興味を持つのを待った。ふと、ブースの近くを歩いていた女性が足を止め、デーツの説明書きへと視線を落とす。

「あ、レーズンかプルーンだと思ったら違うんだ」
「はい! デーツっていうんですけど、こちらも甘くて美味しいですよ! 良かったらおひとついかがですか?」

 シエルはそう言って、爪楊枝でドライデーツをひとつ刺して女性へ差し出す。女性は何の抵抗もなくそれを受け取ると、ぱくりと一口で食べてしまった。その間にも、シエルはお勧めの食べ方などを紹介する。そんなセールストークを頷きながら聞いていた女性が、販売用のデーツを一袋手に取った。

「子どものおやつにも良さそう。これ、一袋ください」
「ありがとうございます~!」

 何のトラブルも無く一袋売れ、後ろで見守っていた|木乃伊《ミイラ》怪人が歓声を上げる。会計と商品の受け渡しを済ませて女性を見送ると、シエルは改めて怪人達へ向き直った。

「こうやるの、分かった!?」
「し、師匠~~~!」

 シエルの接客に感銘を受けた怪人達は、まずは基本方針をブースからの声掛けへ切り替えた。先程までは一般客が怪し気に彼らの様子を眺めていたが、今は少しだけ空気も落ち着いている。売り方を変えたためか、怪人達のブースに集まる人も増えている気がする。

(……あれ? そもそもあたし、コイツ等の邪魔しに来たのでは?)

 当初の目的は一般人を遠ざけること──だった筈。逆に賑わせてしまったので、今後の動き方を考え直さなければならないかもしれない。

「まあ、強引なのは防げたし……結果オーライ?」

 押し売りさえしなければ、美味しいだけの商品だ。多少のイレギュラーは大きな問題にはならないだろう。シエルはそう判断して、時が来るまで彼らの販売手腕を見守った。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

レア・マーテル
あちら側のなんちゃってエジプトブースに対抗すべくこちらもエジプト特産品で攻めてみましょうか。何より、競合他社は、より優れた方が淘汰されるべきものです。エジプトの特産グルメを多種多様に用意してみましょう。

砂漠の国の魅力的なグルメといえば、コシャリですね。
エジプトの国民食としても人気が高い一品です。併せて、飲料にハイビスカスティーもご飲食くださいませ。

勿論、他にも各種、デーツも取り揃えております。

あとは、あちら側は、特徴的な語尾を発しているようですし、ツタンに因んで、ブルーロータスの花で出店ブースを飾りつけでもしておきましょうか。

 宣伝というものは顧客の心を掴むための最初の一歩だ。如何にして顧客に強い興味を抱いてもらうか。そのためにはファーストインプレッションというものが大切だと、レア・マーテル(PR会社『オリュンポス』の|万能神官冥土秘書《スーパーエリートメイド》・h04368)も理解している。そういう意味では敵も上手くそこを利用できているとも言えるが、それでも詰めが甘い。例えば、同じジャンルの商品を他社から対抗馬としてぶつけられた時、彼らがそれに対処しきれるとは到底思えなかった。

「あちら側のなんちゃってエジプトブースに対抗すべく、こちらもエジプト特産品で攻めてみましょうか」

 幸い、エスニック料理を扱うブースは多くある。レアはそのうちの一店と早々に話をつけると、メインで取り扱うメニューに目星をつけた。

「砂漠の国の魅力的なグルメといえば、コシャリですね」

 エジプトで好まれる家庭料理として一般的なコシャリは、米を使う場合もあるので日本人にとっては馴染みやすい。無論、米の種類は異なるがそこは各種スパイスや一緒に混ぜ込むヒヨコ豆等の存在によって『日本人が知るものとは全く違う米料理』として客の目には新鮮に映る筈だ。他にも米ではなくショートパスタを使ったものを用意すれば、更に広い客層を対象とできるだろう。

「当店ではエジプト料理、コシャリを扱っております。エジプトの国民食としても人気が高い一品です」

 レアは道行く一般客へ声を掛けつつ、興味を示してくれた相手には試食を勧める。傍らで用意していたハイビスカスティーを小さな紙コップへ注ぐと、果物のような香りが湯気に乗って人々を楽しませた。コシャリだけでなくドライデーツも取り揃えているので、ハイビスカスティーと合うお茶請けを探している客に紹介すればそれも飛ぶように売れていった。怪人達の商売を妨害するという目的こそあれど、訪れた顧客に喜んでもらえるのは|冥土《メイド》のレアにとっても喜ばしいことだった。

「あ、綺麗な花」
「ほんとだ。蓮っぽいけど青いね。紫のもある」

 ハイビスカスティーの試飲をしながら二人の若い女性客が話している。二人はレアがブースに飾ったブルーロータスを眺めながら、その美しさに感嘆の息を零していた。

「こちらはブルーロータスというお花です。蓮の一種ですが、エジプトでは神の花とも呼ばれております」
「へえ、エジプトだと普通なんですか?」
「そうですね。かのツタンカーメン王も愛用していた花とも言われておりますので。毒性があるので飲食には不向きですが、香油等は今も流通しておりますよ」

 レアの解説を聞いて、二人は「へえ~」と興味津々な様子で花を眺めている。料理だけでなく異国情緒溢れる雰囲気も重要視したおかげで、彼女らのように若い女性が興味を抱いて立ち止まる姿が多く見受けられた。
 コシャリの売れ行きも上々だ。その場で出来立てを買って広場の飲食スペースで食べる者もいれば、自宅で簡単に同じ味が楽しめるインスタント版をまとめて買ってゆく者も多い。ブースの店主も、予想外の忙しさに嬉しい悲鳴を上げている。

(これだけ集客できれば、あちらの店は客足が遠退いている頃でしょう)

 競合他社とは、より優れたものが現れたのなら淘汰されるもの。日頃からひとつの企業を支える者として、レアはそんな社会の摂理をよく理解していた。
 遠くから特徴的な語尾の悲鳴が聞こえる。距離があるので姿こそ見えないが、きっとデーツが売れなくなってきた|木乃伊《ミイラ》怪人達の慟哭であろうことが窺えた。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

戦術具・名無
《信念》【SPD】みちる(h00035)と一緒に行動
フェスといえば様々なものが並ぶところ。みちるの知見を広めるにはもってこい、ですね。
美味しいものに触れつつ、学びを得られるなら重畳でしょう。情報収集も兼ねて。
……これだけ集めるのもそれなりな苦労が見受けられます。無事に事は済ませましょう。

……みちる。みちる?ちゃんとすること覚えてます?食べて終わりじゃないですよ。
ほら、あそこの人だかり。件の怪人の場所らしいですよ。ちゃんとすることはしないと。
離れさせて……うん、そうなるにはなって……ます?先ほどよりは効率化ですか。
想定とは違う方針ですが、いいでしょう。結果になればそれはそれで。
神元・みちる
《信念》【POW】名無(h03727)と一緒だぞ!
グルメフェスってあれだろ?なんか美味しいものいっぱいあるやつ!
ならとりあえず食べ回ってみよ!ひゃくぶんはなんとやらって言うしさ。
人多いとこ回れば人気なとこは回れるんじゃないか?お土産もありそうだし?

んー!これ美味しーぞ!……ん?何か忘れてるような気がする。
あそこもあそこで人多いな!……どらいふるーつ?じゃあ試食ってことで。
んお!これも美味しい!お土産用ってある?他にもいいとこあったしお土産いっぱいだ。
フェスが終わる前に皆も周った方がいいぞー。あ、これ試食おかわりできる?
これだけ美味しいなら食べてもらって知ってもらった方がいいな!

「グルメフェスってあれだろ? なんか美味しいものいっぱいあるやつ!」

 若さ特有の輝きを瞳いっぱいに湛えながら、神元・みちる(大きい動機 okey-dokey・h00035)はグルメフェスの会場へ足を踏み入れる。多くの人で賑わっているのは当然ながら、あちらこちらから食欲をそそる香りが漂ってきて、みちるは居ても立っても居られない様子だ。
 そしてそんな彼女が携えている鍔無しの刀、戦術具・名無(Anker・h03727)はというと、会場に並ぶブースの数に関心を示していた。

(みちるの知見を広めるにはもってこい、ですね。美味しいものに触れつつ、学びを得られるなら重畳でしょう)

 食というものは地域の特徴が色濃く出る。美味しい料理を通して他国について知ることも、みちるにとって良い経験になるだろうと名無は踏んでいた。

「なら、とりあえず食べ回ってみよ! ひゃくぶんはなんとやらって言うしさ」
「そうですね。情報収集も兼ねて、見回ってみましょう」

 何せ会場は広大であり、ブースも限りないと感じるほど多い。敵情視察も兼ねていると思えば、一箇所でぼんやりしているような暇は無かった。

「……これだけ集めるのもそれなりな苦労が見受けられます。無事に事は済ませましょう」
「人多いとこ回れば人気なとこは回れるんじゃないか? お土産もありそうだし?」
「いえ、そういうことを心配しているのではなく……」

 名無が認識のずれを修正するのも待たずに、みちるは手近なブースへ駆け寄って行く。イタリアの料理を扱っているというその店のメニューを覗けば、食べやすいミニサイズのピッツァの写真が数種類並んでいた。みちるは早速マルゲリータとペスカトーレの二種類を注文すると、熱々のそれを頬張りながら次のブースを目指す。それぞれトマトソースがベースとなっているので程良い酸味が爽やかでありつつ、マルゲリータは水牛モッツァレラのコク、ペスカトーレは貝類を中心とした魚介の旨味が堪能できた。

「んー! これ美味しーぞ!」
「……みちる。みちる? ちゃんとすること覚えてます? 食べて終わりじゃないですよ」

 不安になった名無は想念体を浮かべ、ミニピッツァに舌鼓を打つみちるの袖を引く。満面の笑みでピッツァを平らげたみちるも、名無に言われてようやく何か目的があったことを思い出した。

「……ん? 何か忘れてるような気がする」
「はぁ……やっぱり忘れてる。ほら、あそこの人だかり。件の怪人の場所らしいですよ。ちゃんとすることはしないと」
「あそこもあそこで人多いな!」

 名無が示した先は、例の|木乃伊《ミイラ》怪人達が営むブースだ。今は少しだけ客引きは控えめになっているようだが、その光景が異様なことには変わりない。その第一印象に目を惹かれて思わず立ち止まる客もまだ多いようだった。

「イィ~ッヒッヒッヒ! デーツいかがツタンかぁ~? ドライフルーツ好きには堪らない逸品ツタンよぉ~」
「……どらいふるーつ? じゃあ試食ってことで」

 みちるは迷い無くブースに近づき、試食用のドライデーツを手に取る。名無が制止しようとするも間に合わず、ドライデーツを口に放り込んだみちるはその味を確かめるように暫し咀嚼を繰り返した。

「んお! これも美味しい! お土産用ってある?」
「あるツタンよぉ~。一袋500gからツタンよぉ~」

 怪人がブース奥から出した持ち帰り用のデーツを一袋、みちるは何の躊躇いも無く購入する。その様子を見ていた他の客も興味をそそられたのか、何人かが同じくデーツを買って行く姿が見受けられた。名無は開いた口が塞がらないといった様子で、既に事の成り行きを見守るしかできないでいる。

「他にもいいとこあったし、お土産いっぱいだ。フェスが終わる前に皆も回った方がいいぞー」

 お土産を買って大満足なみちるは、同じブースに居合わせた客へ声を掛ける。人見知りしない彼女の呼び掛けに警戒するような人間はこの場におらず、誰もが「確かに」と納得の反応を示した。

「そうね、一日あっても回り切れないかもしれないし」
「俺もこのデーツ買ったら次行こう。東アジアコーナーも興味あるんだよなー」

 怪人のブースに集まっていた一般客の群れは徐々に数を減らしてゆく。おかげでブース前の通路の通りがスムーズになり、人々はより多くの店に目を通しやすくなった筈だ。

(離れさせて……うん、そうなるにはなって……ます?)

 人だかりが解けてゆくのを見て、名無は戸惑いながらも己を納得させようとする。第一の目的は、人々をこの後の戦闘に巻き込まないよう離れさせること。普通に怪人達のブースで買い物をした点はさておいて、結果に繋がったと思えば問題は無い……と思いたかった。
 怪人達は接客をしながら、徐々に薄れてゆく人だかりの壁を見ている。デーツが売れたのは喜ばしいが、人が減ってゆくのはどこか寂しい……そんな哀愁を漂わせていた。

「あ、これ試食おかわりできる?」
「……! おかわり自由ツタンよぉ~!」

 未だブースに留まっていたみちるが声を掛ければ、怪人は嬉しそうにデーツを盛った器と爪楊枝を差し出す。みちるはお礼を言って再びデーツを数粒、口へ放り込む。噛めば噛むほど、凝縮されたフルーツの甘みが口内を満たしていった。

「これだけ美味しいなら、食べてもらって知ってもらった方がいいな!」

 みちるはそう言って、お土産用のデーツを追加で購入する。母へのお土産だけを買えば充分だと思っていたが、学校の友人達にもお裾分けしよう。打算も何も無い、ただそれだけの行動だ。結果的に怪人達をも助けているような気もするが、今の名無にみちるの行動を咎める気はなんとなく起きなかった。

「……想定とは違う方針ですが、いいでしょう。結果になればそれはそれで」
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

赤星・勇太郎
POWアドリブ絡みOK
変身してフェスに参加。
お手伝いするのは沖縄のブース。
「めんそ~~れ~~♪ さあさあ皆様、こちら沖縄ブースではご当地グルメの紅芋サーターアンダーギーや海ぶどうパフェと南国気分がお買い得♪ 沖縄そばでかなさんどー!
ちむどんどんな沖縄グルメをかめ~かめ~♪」
と明るく情熱的に沖縄方言も交えて宣伝し接客します。

「ママ、見て! あのおみせ、ヒーローがやってるー!」

 グルメフェス会場の一画で、幼い少年が目を輝かせながら母親の手を引いている。ここは日本の名産品コーナー、九州エリアのそのまた隣。沖縄の名産品を並べたブースの前で、ひとりのヒーローが朗々と宣伝文句を歌っている。彼こそが、最近新設された妖怪ヒーロー戦隊ヨウカイジャーの赤き龍。ヨウカイレッドこと赤星・勇太郎(ヨウカイレッド・h01359)だった。

「めんそ~~れ~~♪」

 陽気な三線の音色に合わせて勇太郎が声を上げれば、周囲に集まった親子連れが同じく沖縄流の挨拶を口々に返してくれる。ヒーローショーの一環のように思っているのかもしれない。そう思えば、やはりヨウカイレッドに変身して参加するという方針は正解だったようだ。

「さあさあ、皆様! こちら沖縄ブースではご当地グルメの紅芋サーターアンダーギーや海ぶどうパフェと南国気分がお買い得♪ 沖縄そばでかなさんどー!」

 勇太郎がそのように商品を紹介すると、ブースの店主が待ってましたと言わんばかりに試食の小皿を並べる。一口サイズに切ったサーターアンダギーは生地に紅芋が練り込んであるものは勿論、プレーンなものも取り揃えている。海ぶどうのほんのり塩味がアクセントになったパフェも変わり種として人々の興味を惹いた。沖縄そばとソーキそば、同じように見えるがトッピングに使用される肉に大きな違いがあるというこのメニューも沖縄料理の代表と呼べるだろう。

「おいしい~! おかあさん、サーターアンダギー買って~!」
「仕方ないわねぇ、夕飯前に食べ過ぎないでよ?」

 目新しい料理を試食した少年少女が歓声を上げる。保護者も特別なイベントで気分が高揚しているのか、財布の紐が緩んでいるようだ。子どもに強請られて、ついつい予定外のものを買ってしまっている。それも含めて良い思い出にするため、勇太郎もファンサービスは惜しまなかった。

(よしよし、だいぶ賑わってきたっすね。怪人のブースの方も人が減ってきた頃か?)

 エジプトグルメも珍しくて目を惹くだろうが、沖縄も負けてはいない。日本人にとって身近な土地でありながらも、かつては琉球王国という全く異なる国を興していた歴史から不思議と異国情緒も感じられる稀有な場所だ。
 勇太郎がうちなーぐちを交えて宣伝するのを、子ども達が面白がって真似をする。まだ沖縄について深く知らない子ども達にとって、これは良い経験になるようにも思えた。

「ちむどんどんな沖縄グルメをかめ~かめ~♪」
「かめ~って亀~?」
「いっぱい食べろ~ってことっすよ~!」

 親子連れの客が次々と沖縄グルメを手に取り、購入してゆく。ちんすこうや持ち帰り用ラフテーといった定番メニューも次々と売れていった。
 客の波を捌ききる頃、店主の男性が勇太郎へ上機嫌な声を飛ばした。

「お疲れさん、ヒーロー! お礼に沖縄そば食っていきな!」
「えっ、良いんすか? ありがとうございます!」

 ブースのカウンター越しから出来立ての沖縄そばが差し出される。これから始まる戦いのことを思えば、労働後の腹ごしらえは有難い。勇太郎は店主の厚意に素直に甘え、濛々と湯気を上げる沖縄そばの器を受け取った。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

テラコッタ・俑偶煉陶
デーツもいいけどパパイヤもね!
われたち(一人称)の背負った植木鉢「はちまる」に植えた植物は猛成長するの ですわ
……そうして育てたこいつを見てくれ! わお! ですわ!
パパイヤは甘くて美味しいスーパーフード!とっても栄養豊富なのよ。
でも今回われたちがごしょーかいしたいのは熟れる前の青パパイヤ。タイとか沖縄では定番のご当地グルメらしい ですわ
ほら、ソムタムとパパイヤチャンプルーを作ってみたわ。味見してみてね!
へいへいそこのお客さん、こっちにいらっしゃい。 試食だけでもしてかないかしらー?

ふう…常夏フルーツに対抗するなら常夏フルーツよね。これで少しでもお客の興味を分散できたら御の字ってわけ ですわ!

 怪人達のブースから少し離れた場所に、そのブースはあった。東南アジアの食べ物を扱う店が集まる一画で、テラコッタ・俑偶煉陶(はにわじゃないよ・h00791)は背負っていた|土師器《はじき》とも呼ばれる植木鉢をおもむろに地面へ下ろす。

「われたちの背負った植木鉢『はちまる』に植えた植物は猛成長するの ですわ」

 そう言って取り出したのはたくさんの黒い粒……よく見ればそれは種のようだ。パパイヤの身をまるごと食べたことのある者ならば、その断面にたくさん固まっているあの種と同じものだと分かるだろう。テラコッタは陶器の小さな手に乗せたそれを、はちまるへ放り込む。中は既にふわふわの土で満たされているため、パパイヤが成長するための環境は完璧に整っていると言えた。

「……そうして育てたこいつを見てくれ! わお! ですわ!」

 テラコッタの声を合図にパパイヤが急成長を始める。周囲で物珍しそうに眺めていた一般客が驚きの声を上げると、それに釣られるようにして新たな人々が足を止めた。
 パパイヤの種は一瞬で芽を伸ばし、根を下ろす。不思議な形の五枚葉をたくさん付けると、降り注ぐ日の光を一身に受けて天を目指すように茎を伸ばしてゆく。茎はやがて幹になり、苗から立派な木へ。土台となっているはちまるがはち切れるのでは、と心配になるぐらいの大きさに成長したパパイヤの木には、気付けば立派な果実が実ろうとしていた。ものの三十秒ほどで育ちきってしまいそうなパパイヤを、一般客はこぞって写真や動画に収めている。

「パパイヤは甘くて美味しいスーパーフード! とっても栄養豊富なのよ」

 テラコッタはそう解説しながらも、まだ青い実を優先的に収穫してゆく。完熟パパイヤも是非味わってほしいところだが、今回はこの熟す前の青パパイヤの魅力を伝えたかった。青パパイヤは未成熟なのでアク抜きの手間が必要ではあるが、酵素が多く含まれていることから完熟に負けない栄養を持っており、タイや沖縄では野菜としてごく一般的に料理に使用されている。
 テラコッタは収穫した青パパイヤをブースの店主に渡すと、それらはあっという間に美味しいエスニック料理に早変わり! タイで親しまれる青パパイヤのピリ辛サラダ・ソムタムや、沖縄の定番料理・チャンプルーが出来上がるとテラコッタはそれを更に小さな小皿へと分けて、集まった一般客へ試食品として振舞った。

「へいへいそこのお客さん、こっちにいらっしゃい。試食だけでもしてかないかしらー?」

 パパイヤの成長を見守っていた客に声を掛ければ、誰もが興味津々でソムタムやパパイヤチャンプルーを受け取る。温かいうちにそれらを口にすると、彼らは口々に感想を伝え合った。

「意外とシャキシャキした食感なんだな」
「ほんとだ。これは本当に野菜感覚で使えるわね」
「もっと青臭いかんじを想像してたけど、殆どクセも無いし食べやすいじゃん」

 これで栄養も豊富だというのだから完璧だ。試食を終えた一般客は、こぞって青パパイヤの実を購入する。一玉まるごと売れることもあれば、シロップに加工したものも売れていった。その売れ行きを見守りながら、怪人達のデーツと同じく南国フルーツのパパイヤで対抗したのは正解だった、とテラコッタは確信する。

「これで少しでもお客の興味を分散できたら御の字ってわけ ですわ!」

 怪人達のブースはそろそろ閑古鳥が鳴き始める頃。残りの接客は店主とバトンタッチして、テラコッタはやがて始まる戦いに備えて準備運動を始めた。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

第2章 集団戦 『ミニマスケ』


POW 武装合体ミニ終末兵器
【現場の指揮官 】から承認が下りた場合のみ、現場に【武装合体ドゥームズデイデバイス】が輸送される。発動には複数の√能力者が必要となる代わり、直線上の全員に「発動人数×2倍(最大18倍)」のダメージを与える。
SPD ミニマスケ大作戦
あらかじめ、数日前から「【打ち上げの宴会準備 】作戦」を実行しておく。それにより、何らかの因果関係により、視界内の敵1体の行動を一度だけ必ず失敗させる。
WIZ ミニアポカリプス
【津波のようなミニマスケの大群 】を召喚し、攻撃技「【ミニマスケ総攻撃】」か回復技「【痛いの痛いの飛んでいけ】」、あるいは「敵との融合」を指示できる。融合された敵はダメージの代わりに行動力が低下し、0になると[津波のようなミニマスケの大群 ]と共に消滅死亡する。
√マスクド・ヒーロー 普通11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

「営業妨害! 営業妨害!」

 わるもの組織ヘルプレスのブースから、何やら甲高くもまろい声が響く。√能力者達が駆け付けると、そこに現れていたのは二頭身の小さな怪人の群れだった。

「うちと同じエジプトグルメで客を横取りする不届き者がいるツタンよぉ~! ミニマスケ軍団、やっちまうツタンよぉ~!」

 |木乃伊《ミイラ》怪人の号令に合わせて、小さな怪人──ミニマスケ達はぴょこぴょこと跳ねながらブースの外へ散開する。それぞれに意気込みを口にしており、やる気に満ち溢れていた!

「まかせろ! 負かすぞ!」
「けちょんけちょんにする!」

 √能力者達の働きによって、怪人達のブース周辺から一般客は遠退いている。今ならば多少暴れても一般人を巻き込むことも無いだろう。だが、それはそれとしてミニマスケ軍団は次々とその数を増やしてグルメフェス会場内で散り散りになろうとしている。彼らが他のブースへ迷惑を掛ける前にご退場願う他無さそうだ。
 √能力者達はそれぞれに戦闘態勢に入り、怪人達へ次なる灸を据えるべく動き出した。
テラコッタ・俑偶煉陶
よーし、準備運動終わりっ……うわあ! めちゃくちゃたくさん来た ですわ!
よーし、それじゃこっちも物量で勝負なのよ!

われたちは陶器といえど物理衝撃にはある程度強いんですけど、融合されるのはかなりまずい気がしますわ……
なので土偶ともぐらの穴ぼこコンビを派遣してミニマスケたちを押さえつけてもらいます。お前たち!ふんじばっておしまい!それたちがデーツ持ってたら食べちゃっていいよ! ですわ!
あとは頑丈ボディのわれたち自身が突っ込んでラリアットしてマスケ狩りしてやります!テラコッタボンバー! ですわ!

…大人しく商売してればいいのになんで暴れ始めちゃうのかしらね? これだから怪人って……ですわ…

「よーし、準備運動終わりっ……うわあ! めちゃくちゃたくさん来た ですわ!」

 準備運動を終え、いざ戦場へ……というタイミングで湧いてきたミニマスケの群れに、テラコッタ・俑偶煉陶(はにわじゃないよ・h00791)は思わず声を上げる。悪の組織らしいといえばそうなのだが物量による攻撃は地味に厄介であり、テラコッタを始めとするマスクド・ヒーロー達はこれを乗り越えるのに地味に苦労するのである。
 ふと、波のように押し寄せるミニマスケの動きに違和感を覚えた。統制が取れすぎている。

「融合! It's your go!」

 一部流暢な英語で叫ぶミニマスケの言葉が気にかかる。融合、というわりにミニマスケ同士が合体する様子は無かった。となると、彼らはテラコッタと融合するのが狙いなのかもしれない。如何に修復可能な陶器の体とはいえ、敵に融合されるのは非常にまずい。

「よーし、それじゃこっちも物量で勝負なのよ! ヘイカモン、あれたちそれたち!」

 テラコッタが小さな手をぱちぱちと叩く。直後、|何処《いずこ》からか現れたのは二十体にも及ぶ土偶ともぐらの群れだった。ミニマスケ軍団の小ささも相まって、何処からが敵で何処からが味方なのやら分からない光景になるが、テラコッタはその混乱すらも好機と踏んで土偶ともぐら達に指示を出す。

「お前たち! ふんじばっておしまい! それたちがデーツ持ってたら食べちゃっていいよ! ですわ!」

 その指示に目を輝かせたのは主にもぐら達だった。彼らはアスファルト舗装された地面だろうと構わずドリルのように穴を空けて地中へ潜る。地中を泳ぐように移動したその先は、ミニマスケ軍団の足下だ。アッパーカットを繰り出す要領で飛び出せば、その勢いでミニマスケ達は宙へと投げ出される。

「ふわっと吹っ飛び!? まずいまずい~!」

 ミニマスケ達は地面に投げ出される前に受け身を取ろうと短い手足をジタバタさせる。が、その丸い体が地面に叩き付けられることはない。彼らを下から吹っ飛ばしたもぐらと、地上で待機していた土偶達によって次々と捕獲され、縄で動きを封じられてしまったのだから。

「しまった~! しっかり縛られ……!」

 慌てたミニマスケ軍団が全てを言い終えるよりも前に、テラコッタは持ち得る全速力で駆け出す。テラコッタの体は陶器だが、普通の土偶とはわけが違う。頑丈に作ってもらった体を活かして全力のラリアットを繰り出せば、如何な怪人とて無傷では済まないのだ。

「うおおおおテラコッタボンバー! ですわ!」
「ぐえー!」

 もぐらと土偶達が捕獲したミニマスケ軍団を、テラコッタは次々とそのラリアットで沈めてゆく。ここがリングの上だったのなら、3カウントすら不要だっただろう。相手の体が小さいのとテラコッタの腕が少し長めなことから、一撃で数体巻き込めるのは幸運だった。
 ふと、力尽きたミニマスケにもぐら達が近寄ったかと思えば、その懐に大事にしまわれていたドライデーツを抜き取って無慈悲に食べ始める。彼らにとって、これは働きに対する正当な報酬。恨むのならデーツを守りきれなかった己を恨め。もぐら達の目はそう語っているようにも見えた。気のせいかもしれないが。

「大人しく商売してればいいのになんで暴れ始めちゃうのかしらね? これだから怪人って……ですわ……」

 目の前に立ち塞がっていたミニマスケを粗方沈めたテラコッタは、埃を払いながら呆れたように言う。悪の組織としては大人しく暗躍、というだけでは満足できないのだろうか。その点は微塵も共感できない。だが、普通に商売をする分には良いものを扱っているのだから、それを思えば残念な事件とも言えた。
 テラコッタは倒したミニマスケ達を道の隅に積み上げると、もぐらと土偶達を率いて次なる敵の対処をすべく駆け出した。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

赤星・勇太郎
SPDアドリブ絡み歓迎。
「数が多いな、なら身内を頼らせてもらうか」
√能力能力の百鬼夜行を使用。
実家の龍宮に仕えている蟹や魚の妖怪の兵士達を召喚。
「奴らを追い市民の皆さんに危害を加えないように邪魔して追い返してくれ、出来れば
広くて被害が出ないあたりに行くように頼む」
とミニマスケ達が一般の方々の所へ行くなら守らせる。

「がんばれ、がんばれ! 宴会のため! えいえいおー!」

 √能力者達の抵抗によって数を減らし始めたミニマスケ軍団だが、未だその勢いは衰えない。この後、打ち上げの予定でも入っているのだろうか。幹事役と思しき個体が周囲を鼓舞すると、ミニマスケ達は甲高い気合の雄叫びを上げた。
 その様子を遠目に眺めながら、既にヨウカイレッドへの変身を果たしている赤星・勇太郎(ヨウカイレッド・h01359)は敵との数の差がネックだと感じていた。一匹一匹は強くなくとも、士気が高い集団というのはそれだけで一定の強さを持つものだ。

「数が多いな……なら、身内を頼らせてもらうか」

 そう呟いた勇太郎が召喚したのはヨウカイジャーのメンバー……ではなく、空を泳いで地上へ舞い降りる海の生物の大群だ。彼らは勇太郎の親にあたる赤龍、その住まいである龍宮に仕える妖怪達であり、立派な兵士でもある。主人の子息である勇太郎の呼び掛けに応えて現れた妖怪達は、出撃の号令を待つように勇太郎の傍に|侍《はべ》った。

「奴らを追い、市民の皆さんに危害を加えないように邪魔して追い返してくれ。出来れば広くて、被害が出ないあたりに行くように頼む」

 勇太郎の指示を受けると、妖怪の大群の中から大きな法螺貝が飛び出す。まるで開戦を報せるような低い音を辺りに轟かせると、それを合図に他の妖怪達はこぞってミニマスケ軍団へ向けて攻撃を開始した。
 周囲の人払いをしているとはいえ、ここがグルメフェスの会場であることに変わりは無い。騒ぎに気付いて戸惑っている一般客を狙うミニマスケが現れれば、すかさず巨大な蟹の妖怪──蟹坊主がその鋏でミニマスケ達を拘束する。妖怪達の数が多いことから、一般人への被害は出さずに済みそうだった。
 拘束された味方を救助しようと別方向からミニマスケの別個体が襲い掛かる。蟹坊主はそれらも捕獲しようと空いたもう片方の鋏を振り下ろそうとするが、そこに割り込んでくる影がひとつ現れた。

「お~い、そこの小さいお客さん達~! 今夜の宴会の予約、人数教えてもらってないよ~!」

 絶対にこの戦いとは全く関係が無いであろう、居酒屋の店員と思しき中年男性の姿がそこに在る。ミニマスケ軍団が今夜の打ち上げ会場として予約を入れたのだろうか。それはそれとして、ここに飛び込まれては戦いに巻き込んでしまう。

「蟹坊主! その人は巻き込むな!」

 勇太郎の咄嗟の指示を聞き届け、蟹坊主は寸でのところで巨大な鋏の軌道を変える。重力に任せて振り下ろされていた鋏はアスファルトへ叩き付けられ、轟音と共に濛々と土煙を上げた。勇太郎はその土煙に紛れて接近し、ミニマスケ達を刀で斬り伏せる。蟹坊主の復帰を待つ間、新たに群がろうとするミニマスケ達を牽制する勇太郎は、居酒屋から遥々やって来た男性をも背に庇うように勇み立った。

「おじさん、宴会はキャンセルっす!」
「えっ?!」

 何が起こったのか理解が追いつかない様子の男性は、勇太郎のキャンセルの申し出に戸惑いの声を上げる。店としては団体の予約がキャンセルになるのは痛手だろうが、こちらとしても悪の組織を勝たせるわけにはいかなかった。
 予約当日のキャンセルは、相応のキャンセル料金が発生する筈。今回はそれで手打ちとしてほしいところだった。

「キャンセル料の請求先は『わるもの組織ヘルプレス』でよろしく!」
🔵​🔵​🔵​ 大成功

シエル・シュートハート
ええい、なんかゾロゾロと迷惑な……こいつはこれはきつい仕置が必要だね!
あと誰が師匠だ! 強化外骨格展開、はっ倒すよ!

津波の如きミニマスケの大群…だがどれだけの大群でも翼とジェットを翻して【空中移動】で空高く飛べば纏わりつかれることなど無し
そしてレギオン展開! 弾幕による範囲攻撃で上から掃討するよ!

 それは戦場と呼ぶよりも乱闘という表現が近いかもしれない。次々と怪人達のブースから湧いて出るミニマスケ軍団は、立ち向かう|√能力者《ヒーロー》達の方へ我先にと群がってゆく。一体ずつの力であれば脅威にもなり得ない小さなものだが、複数集まられるのは厄介極まりなかった。

「ええい、なんかゾロゾロと迷惑な……これはきつい仕置が必要だね!」

 それまで怪人達の商売の様子を眺めるに留めていたシエル・シュートハート(銀翼のアサルトエンジェル・h05256)もさすがに黙ってはいられず、畳んでいた翼を広げる。

「師匠、危ないツタンよぉ~! ミニマスケ軍団が見境なく融合しようと暴れ回ってるから下がってるツタン~!」
「誰が師匠だ! はっ倒すよ!」

 確かに我慢できずに接客指導までしてしまったが、シエルは本来この戦闘で力を貸すためにグルメフェスを訪れたのだ。止めようとする|木乃伊《ミイラ》怪人に向けて否定の声を投げながら、シエルは強化外骨格『エクスシア』を展開する。同時に地を蹴れば、鋼で補強された翼と取り付けられたジェットが力強く風を捉え、一瞬でシエルの体を会場の上空にまで届けた。

「どれだけの大群でも、ここまで飛べば纏わりつかれることなど無し」

 シエルの見立て通り、ミニマスケ達は重なり合ってはぴょこぴょこと跳ねるを繰り返すばかりで、飛翔するような気配は無い。上空からであれば一方的な攻撃が可能だと確信する。

「よし……レギオン展開!」

 合図と同時に、シエルの翼の陰から十八体もの小型無人兵器レギオンが飛び出す。ドローンにも似た形状であるそれはシエルを守るように周囲を飛び回り、やがて飛翔しながらひとつの陣形を成した。機体の下部から姿を現した小さな鉄の筒は小型ミサイルの発射機であり、それらは全て地上で騒ぎ立てるミニマスケ達に向けられていた。

「全機、照準よし! 発射!」

 シエルが号令を告げ、指で地上を示す。レギオンによって一斉に放たれた小型ミサイルは火の尾を引きながら迷いなくミニマスケ達が固まっている座標へ飛ぶ。触れるだけで着弾とみなされるのか、逃げ惑うミニマスケの体に接触したものから次々と爆発していった。

「ばかなー! 爆発オチなんてー!」
「ハデだけど歯がゆいオチー!」

 ミサイルひとつひとつの爆発は小規模なものだが、ひとつが爆発すれば誘爆が起こる。結果としてひとつの大きな炎の塊となった爆発を見て最初に思ったことは、人払いが済んでいて本当に良かったということだろうか。

「まあ、まとめて掃討できたから結果オーライでしょ。ちょっと演出が派手なヒーローショーってことで、お偉いさんに上手く誤魔化してもらおう!」

 そのように己の中で結論を固め、シエルは翼を翻して旋回する。地上では火だるまになったミニマスケ達に、|木乃伊《ミイラ》怪人が慌てて水をかけてやっている様子が見えた。再起不能に陥らせるには、もう少し火力が必要なようだ。
 彼らが復帰するよりも先に徹底的な殲滅を。シエルは飛行高度を落とし、多数のレギオンを引き連れて次の弾幕の発射準備へ移行した。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

レア・マーテル
二頭身の何処かのご当地マスコットのような方々ですね。
この戦闘員たちだけみたら、エジプトとか関係ありませんよね?
作戦的に、ミイラよりも、彼らをメインで出店した方が、案外、集客は良かったかもしれませんよ。

さて、兎にも角にも、お相手はして差し上げなければなりませんね。
この無駄に数の多いのは厄介極まりない。
仕方ありません…こちらもそれ相応の数でおもてなしして差し上げましょう。

『黄泉冥土』を召喚し、津波のような数のミニマスケたちに襲い掛からせます。
こちらも奉仕のプロですので、それなりの数の相手はしますよ。

*:アドリブ連携等歓迎。

 √能力者達の猛攻によって押され気味になっているミニマスケ軍団だが、未だ撤退する気配を見せない。|何処《いずこ》かのご当地マスコットキャラクターを彷彿とさせる見た目も相まって、何度でも立ち向かってくる姿は健気ですらあった。

(……この戦闘員たちだけ見たら、エジプトとか関係ありませんよね?)

 遠目にミニマスケ軍団を観察しながら、レア・マーテル(PR会社『オリュンポス』の|万能神官冥土秘書《スーパーエリートメイド》・h04368)は首を傾げる。てっきりあの|木乃伊《ミイラ》怪人が相手になるのだとばかり思っていたが、蓋を開けてみれば現れたのは可愛らしい二頭身の生物だ。敵とはいえキャラクターとしての完成度は高いように思える。ともすれば、ミニマスケをメインに出店した方が集客率は良かったのではないか、と考えてしまうほどに。

「さて──兎にも角にも、お相手はして差し上げなければなりませんね」

 自分達の目的はあくまでも、怪人達の無茶な商売を止めさせること。武力で抵抗してくるというのなら、こちらも力を以て相手をしなければならない。難点を挙げるとすれば、ミニマスケ軍団の数が非常に多いという点だ。

「仕方ありません……こちらもそれ相応の数でおもてなしして差し上げましょう」

 こちらへ押し寄せるミニマスケ達にも構わず、レアは楚々とした佇まいを崩さない。空からはまだ光が差す時間帯だというのに、彼女の背後や足下から墨のような闇が滲み出した。闇の中からは生温い風が、地を這うような声を伴って吹き抜けてくる。
 ずるり、と闇の奥から姿を現したのはメイド……のように見えた。だが、それはあくまでも服装の話。今にも腐り落ちそうな肉で覆われた死体、というのが最初の印象だろう。それでも〝彼女〟らは己の脚で立ち、日の光の下へと歩み出て来た。唸り声を洩らす口からは夥しい数の牙が覗き、顔を覆い隠すほど長い前髪の隙間からは天を衝くような角が伸びていた。

「わっ、わっ、わっ! 指揮官、指揮官ー! 承認求むー!」

 レアが呼び出した鬼女達に怖れをなしたか、ミニマスケ軍団は慌てて後退すると同時に通信端末のようなものに向けて何やら叫ぶ。その向こう側からの声は残念ながら聞き取れなかったが、承認とやらが下りたのだろう。何処からともなく飛来した小型のドローンが、ミニマスケ達の頭上から次々と武装のようなものを落としては去ってゆく。

「来たー! 合体だ!」
「合点だ! ガッチャンコだ!」

 どうやら合体するタイプの武装のようだが合体前にそれを口にしてしまうあたり、守秘義務に関する教育が不充分なようだ。レアは武装を拾い上げるミニマスケ軍団を指し示し、鬼女達へ号令をかける。

「さあ、おもてなしの時間です」

 それを聞くや否や、鬼女達はその見目からは想像し難い勢いで駆け出す。ミニマスケの数の対して相応の数の鬼女が攻撃を開始したことで、ミニマスケ達は甲高い悲鳴を上げた。恐怖に打ち克てなかった者は武装を捨てて逃げ惑い、果敢にも挑もうとする者は次々に鬼女達によって捕食されてゆく。まさに阿鼻叫喚図だ。|木乃伊《ミイラ》怪人など、自分達も死体がモチーフであるというのに戦場の隅で震え上がっている。
 だが、この場で何よりも異質なのはレアという佳人の存在だろう。悲鳴が轟く|最中《さなか》に在りながら、その慈母のような笑みを崩さない。一切の光を通さない黒い瞳が眼前の惨状を見守っている。鬼女達が渡ってきた闇よりもなお濃く深い、混沌と深淵の色だった。

「私も、彼女たちも奉仕のプロです。どれだけお客様の数が多かろうと、一人も余さずお相手いたします」
🔵​🔵​🔵​ 大成功

戦術具・名無
《信念》【SPD】みちる(h00035)と一緒に行動
結果としては見ますが、組織への通りも……目を瞑りましょう。
ほら、みちる。食べ呆けてないで。次の動きがあったみたいです。
お土産?今はそんなことを話している場合ではありません。残念ながら。

相手の数はそれなりな様子。果てなく湧いて出ませんから焦らずに。
とはいえ今のみちるだと……想像の斜め上の案ですね。わたしは止めないですよ。
こういう時のみちるは止めない方がいいですし、わたしはわたしでできることを。
相手も武器としての動きは読めないでしょう。見た目はみちる1人ですからね。
どうしましょうか。お土産案の助言をする体にしておきます?
神元・みちる
《信念》【SPD】名無(h03727)と一緒だぞ!
……けぷ。ちょっと食べすぎたぞ。晩御飯のこと考えてなかった。
ん-。美味しいには美味しいけど、甘いやつじゃないのも……。
でもここには甘いやつしか無さそうだし、他を探す……
うん?なんだなんだ?騒がしいな?……ん?こいつらなんだ?
そっか、食後の運動ってやつだな!おっけー!

名無!相手ってこれだけか?他の人もいるなら大丈夫そうだ!
でもちっさいなー!狙いをつけるのも……すばしっこい!
単体じゃなくて大体の場所で……よっし、なんとなく分かった!
こーゆー時はやってみてから考える!止まってても、しょーがない!

「……けぷ。ちょっと食べすぎたぞ。晩御飯のこと考えてなかった」

 グルメフェスを堪能した神元・みちる(大きい動機 okey-dokey・h00035)は膨れた胃のあたりを擦りながら食べたものを思い返し、その数を数える。如何な育ち盛りの学生とはいえさすがに食べ過ぎた。夕飯の時刻までまだ余裕はあるが、果たしてそれまでに消化は進むだろうか。その食べっぷりも結果的に怪人達を喜ばせていたような気はするし、戦術具・名無(Anker・h03727)は痛む頭を押さえたくなるような心地がした。無論、実体が無いので痛む頭も無いのだが。

「ほら、みちる。食べ呆けてないで。次の動きがあったみたいです」
「えーでもまだお土産が……ここには甘いやつしか無さそうだし、他を探す……」
「お土産? 今はそんなことを話している場合ではありません。残念ながら」

 一般人を遠ざけるという結果は出したのだから、名無は一旦、みちるの危機感の無さに目を瞑ることにする。それよりも優先すべき出来事が起こった、とも言えた。名無はみちるの袖を強く引くと、次々と溢れてくるミニマスケ軍団を指す。

「うん? なんだなんだ? 騒がしいな? ……ん? こいつらなんだ?」
「敵ですよ。事前に話を聞いていたでしょう?」
「あー、そういえばそんな話聞いたな。……そっか、食後の運動ってやつだな! おっけー!」

 美味しいものを入れすぎた胃は重いが、動けないほどではない。みちるが名無を──鍔無しの戦術具を鞘より引き抜くと、その刀身が日の光を受けて鋭く輝いた。
 ミニマスケ軍団の数はまだ多いものの、√能力者達の攻撃により満身創痍といった様相だ。だが、どんな生き物も瀕死の状態が一番手強いもの。次々と飛び掛かってくるミニマスケを名無でいなしながら、みちるは個ではなく群としての彼らをまとめて斬り伏せられる点を探る。

「名無! 相手ってこれだけか?」
「数はそれなりな様子。果てなくは湧いて出ませんから、焦らずに」
「そりゃ無限じゃないんだろうけど……ちっさいなー! 狙いをつけるのも……すばしっこい!」

 みちるの刀に対抗してか、先の丸い小さな刃物を振り回すミニマスケの攻撃を寸でのところでかわす。反撃の一閃を見舞っても、その小さな体に当てるだけでも一苦労だ。

「打ち上げのため! うちたおす!」

 既に活動限界を超えていそうなミニマスケだが、その目には闘志が宿っている。何が彼らをここまでさせるのか……と思えば、どうやら打ち上げが楽しみらしい。確実に当てたと思った斬撃をも回避してみせたことから、打ち上げに対する並々ならぬ熱意が感じられた。打ち上げが催される時、それは即ち彼らが√能力者達に勝利した時だ。残念ながら、それを認めるわけにはいかない。
 ミニマスケは鞠のように跳ねながらみちるの攻撃をかわすが、みちるは決して攻撃の手を緩めない。彼らは確かにすばしっこいが、全く読めない動きではない。正確無比にではなく、大まかな動きを把握していけば倒せない相手ではないと感覚的に理解した。

「こーゆー時はやってみてから考える! 止まってても、しょーがない!」

 そして名無は、みちるがこうなったら止まらないことも知っている。ここは敢えてみちるの方針に乗り、己の力を貸した方が早く済むということも。

「……みちる。お勧めのお土産ですが、エジプトのクレープと呼ばれるものがあるそうですよ」
「えっ、何だよいきなり。それに甘いもの以外ってさっき言っただろー!」

 みちるに一蹴されることを想定した助言だ。これが聞き入れられなかった時、名無は一時的に√能力者と相違ない力を得ることができる。想念体のままではあるがこの場においては好都合。敵は名無の姿を視認できない状態で、実質ふたりを相手取ることとなるのだから。

「みちる、合わせますよ!」
「お。急にやる気だな、名無! 任せろー!」

 狙うは一点。散り散りに動くミニマスケ達が、ほんの一瞬だけ塊になるタイミング。一秒にも満たないその瞬間、一度鞘へ戻した刃を滑らせた。抜刀と同時に敵を斬る居合術。そこへ一時的に力を得た名無の能力が加われば、威力は想定以上のものとなる。それこそ薙刀のように、一箇所に固まったミニマスケ達をまとめて薙ぎ払うぐらい、今のみちると名無には容易なことだった。

「いっけーーー!!」

 増幅された力の放出は局所的な嵐のようでもあった。斬られるどころか吹き飛ばされたミニマスケ軍団は、奇しくも怪人達のブースの奥へと次々に転がってゆく。普段の彼らであればそこから奮起して戦線へ戻ってきそうなものだが、既に体力の限界なのだろうか。そこから再戦を挑んでくる者は、誰一人として現れなかった。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

第3章 ボス戦 『ツタンマスケ』


POW ファラオ・メゥト
【全てを腐食化させる呪腕】による近接攻撃で1.5倍のダメージを与える。この攻撃が外れた場合、外れた地点から半径レベルm内は【呪われた死の大地】となり、自身以外の全員の行動成功率が半減する(これは累積しない)。
SPD ファラオ・マアト
【ミイラの群れ召喚】による牽制、【伸縮自在の強靭な包帯】による捕縛、【審判の呪棺】による強撃の連続攻撃を与える。
WIZ ファラオ・カムシーン
【対象の視界を妨げる呪われし砂嵐】により、視界内の敵1体を「周辺にある最も殺傷力の高い物体」で攻撃し、ダメージと状態異常【ファラオの呪い】(18日間回避率低下/効果累積)を与える。
√マスクド・ヒーロー 普通11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

 こてんぱんにされたミニマスケ達は、各々捨て台詞を吐きながら撤退してゆく。最後まで敵対姿勢を崩さないところは怪人の鑑とも言えるだろう。
 そんなあさってな感心をする者もいたかもしれない中、突如、辺りに地響きが起こる。地震というレベルではないが、周囲のブースの展示品がうっかり落ちてしまいそうな強い揺れだ。まるで、大きな生物が一歩ずつ、地面を踏み締めて迫ってくるような……。

「我ハ偉大ナルファラオォォォ!」

 獣が吼えるような低い声が轟いた。その声は見えない波を生み、びりびりと辺りの物質を震わせる。同時に、すぐ近くのビルの陰から現れたのは筋骨隆々な大男だった。全身を包帯で多い、砂漠の情緒を感じるマスクで顔を覆っている。

「我コソ古代王国ノ王ニシテ、悪ノ派遣組織『仮面武闘バルマスケ』ヨリ派遣サレシ即戦力ゥゥゥ! 愚カナ墓荒ラシ共ヨ、ファラオノ呪イデ朽チ果テルガヨイィィィ!」

 マスクの目元から、機械的且つ大袈裟な効果音と共に強い光が放たれる。ただの演出のようだが、とにかくやる気が感じられた。面接に来たら気圧されて、思わず採用してしまうかもしれないほどに。古代王国の王が今は派遣社員なのかと思うと涙が出てくる話ではあるが、今は彼の設定について想いを馳せる場面ではない。
 癖が強い見た目でこそあるが、この場にいる怪人の中でも彼がトップクラスの強さを持つことは明白だ。この巨大な|木乃伊《ミイラ》怪人──『ツタンマスケ』を倒せば、配下の怪人達がグルメフェス会場から撤退するであろうことも予想できる。
 そうと分かれば、あとはお帰りいただくだけだ。√能力者達はそれぞれに戦闘態勢を整えると、最後の戦いの場へと身を投じた。
セラフィナ・リュミエール
【ソロ希望】【アドリブ歓迎】【SPD判定】
確かにデーツは美味しいですけれど無理やり食べさせて買わせるのはダメですわ
まずは【オーラ防御】を展開して守りつつ60秒間敵の攻撃をガードしつつクレオパトラを語る歌を歌って歌いきったら【英雄の栄光】でクレオパトラを実現化させて毒蛇の群れで攻撃をしかけますわ
ですがその後は無防備になってしまいミイラの群れをなんとかかわしますけれど包帯で拘束されて呪棺による審判をうけてしまいそうですわ
でもセフィが死んでもあとは他の√能力者に任せますわ

 ツタンマスケが現れたことで怪人達の士気が大きく上昇するのが目に見える。彼らは口々にツタンマスケを崇めながら、ドライデーツを盛った器を掲げて喜びを全身で表現していた。

「ヒュ~! リーダー級|木乃伊《ミイラ》が来てくれたからにはこっちの勝ちツタンよぉ~!」
「敵にも片っ端からデーツを食わせてまとめ買いさせるツタンねぇ~!」

 既に勝った気でいる|木乃伊《ミイラ》怪人達の野望はささやかでありながらも、なかなかの迷惑行為だ。セラフィナ・リュミエール(変幻自在の歌劇熾天使・h00968)は、常は穏やかな表情を湛えるその眉根を寄せ、彼らへ苦言を呈する。

「確かにデーツは美味しいですけれど、無理やり食べさせて買わせるのはダメですわ」
「我ガ意向ニ背ク者ニハ死ヲォォォ!」

 セラフィナの言葉は至って正論だが、彼らは悪の組織。聞き入れられる筈もなく、ツタンマスケの号令と共に大勢の|木乃伊《ミイラ》がこちらを取り押さえようと迫って来た。ホラー映画もかくや、という光景にセラフィナは思わず身を震わせたが「怯えている場合ではない」という意識が働き、すぐに戦闘態勢へと移行する。
 セラフィナの口から零れる歌声が見えない波紋を生み、空気を揺らす。それはセラフィナ自身を覆うように広がると、群がる|木乃伊《ミイラ》の手を弾く防御壁へと変じた。

「戦うのなら聴いていただきますわ。いくつもの国を揺るがせた、砂漠の女王の物語を」

 傍らを飛ぶディーヴァズマイクに歌声を吹き込めば、スピーカーも無いのにセラフィナの歌声は辺りに響き渡る。歌って聴かせるのは、その美しさで英雄達を狂わせ、多くの破滅を招いたクレオパトラの物語。最後は夫と共にオクタウィアヌス軍を相手に大敗を喫し、自らを毒蛇に咬ませて死亡した女王。常に激動の渦中にいた彼女の生涯をまとめた歌に、|木乃伊《ミイラ》怪人達が思わず動きを鈍らせる場面もあった。
 全てを歌い上げる頃、セラフィナの目の前にはひとりの女の姿が浮かんでいる。美しい歌声をそのまま形にしたような、女神と見紛う美女の姿。例え彼女が何ひとつ言葉を発さずとも、彼女こそが世界三大美女のひとり、クレオパトラ7世その人であると誰もが確信できた。

「さあ、女王陛下。あなたと、あなたの御子息の王位を脅かす砂漠の民へ制裁を下す時ですわ」

 セラフィナの言葉を受けて、クレオパトラは|木乃伊《ミイラ》怪人へ向けて白魚のような手を翳す。いつの間にかその腕に絡みついていた何匹もの毒蛇が牙を剥く。蛇は全身を使った跳躍で女王の腕から離れると、次々と敵をその牙で屠っていった。
 クレオパトラによる毒蛇の群れのおかげで|木乃伊《ミイラ》怪人を遠ざけることが叶うものの、歌っている間に受けたダメージはセラフィナの判断力を鈍らせる。一瞬の隙をついて放たれたツタンマスケの包帯がセラフィナの小さな体を捕らえ、その動きを封じてしまった。

「オノレェェェ! 我ノミナラズ、全テノファラオヲ愚弄スル行イ、許スマジィィィ!」
「セフィは彼女のありのままの人生を歌っただけですわ……!」
「ファラオトハ、神ト同列ノ存在。軽々シク扱ッテ良イ存在デハナイィィィ!」

 セラフィナの体を縛り上げていた包帯がひとりでに動き出し、何処かへ引き摺られる。その先にあるのは棺だった。蓋が開いたその中からは禍々しい呪いの気配が溢れており、棺の中へ閉じ込められること自体が危険であると窺える。特にセレスティアルであるセラフィナにはどのような悪影響が出るか……想像するだに怖ろしい。
 だが、そんな状況に追い込まれても、セラフィナは足掻きもしなければ助けを求めることもしなかった。

「セフィが死んでも、まだ戦いは終わりません。後のことは他の√能力者に任せますわ」

 微笑みと共に零した言葉と同時に、セラフィナの体は完全に棺の中へ引き摺り込まれる。激しい音を立てて閉じられた蓋の下で、呪いがじわじわと体を蝕むのを感じながらも、セラフィナは自分達の勝利を信じて疑わなかった。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

シエル・シュートハート
王様も今や使い走りとは諸行無常、栄華は儚いねえ
ブラスターキャノンフルバーストモード移行、アンカーで設置固定、こちらの攻撃を防ぐ為に呪腕で殴ってくるがレギオンで防ぐよ。
そして…近づいてきたのが運の尽き! 零距離射撃なら必中必殺! ファイヤ!

「我ガ臣下達ヨォォォ! ファラオノ威光ヲ世ニ示セェェェ!」

 怪人・ツタンマスケは、あくまでも〝己は古代王国の王である〟という設定を一貫して主張している。徹底するのは良いことかもしれないが、やはり派遣怪人である自分と王である自分は分けておいた方が良かったのではないだろうか。

「王様も今や使い走りとは……諸行無常、栄華は儚いねえ」

 上空からツタンマスケの口上を聞いていたシエル・シュートハート(銀翼のアサルトエンジェル・h05256)がしみじみと零す。こういった悲哀の言葉は彼が最も求めていないものだろうから、やはり設定もしくは口上の見直しが必要そうだ。
 地上で戦闘が開始されたのを確認したシエルは、気を取り直して降下する。ツタンマスケから距離を取った先にあったのは噴水だ。五段設けられた階段を上った先にあるおかげで、戦場を少しだけ俯瞰して見ることができる場所だった。

「さーて! ブラスターキャノン・フルバーストモード移行!」

 召喚し、その場に構えたのは超重量型のヘビーライフルだ。ともすれば人間ひとりよりも大型と言えるそれは数基現れると、下部が展開して土台となるアンカーが組み上がり、その上に鎮座する。浮遊している時よりも更に安定した照準は、シエルが視線の先で捉えるツタンマスケへと向けられていた。
 一斉発射までのチャージ時間はほんの数秒だ。だが、その気配を察知したツタンマスケがシエルに次の動きを取らせまいと巨大な腕を振り翳した。

「遠距離ナラバ倒セルト思ウタカ、愚カ者メェェェ!」

 ツタンマスケはその巨体に見合わぬ速度でシエルとの距離を詰める。振り翳した拳は強い呪いの気配を孕んでおり、直撃を受ければ重傷は免れないであろうことが予想できた。回避したところであの拳が他に当たれば、それは巡り巡ってシエルに不利を齎すようにも見える。

「レギオン!!」

 シエルの呼び掛けに応じて光輪が光を放ち、翼の陰からレギオンが飛び立つ。機械的な動きでありながらランダムに飛翔するレギオンは不規則な陣形を成し、シエルを庇う形でツタンマスケの眼前に立ちはだかった。
 振るわれた拳が風を生み、シエルの前髪を揺らす。激しい破壊音と共にレギオンが破砕され、地に落ちる。レギオンの消費は痛いが、これによって生じた時間のおかげでブラスターキャノンのチャージが完了した。

「近づいてきたのが運の尽き! 零距離射撃なら必中必殺!」
「ヌゥ……! シマッタ!」

 ブラスターキャノンの銃口の奥から光が溢れる。それを間近で見たツタンマスケは、己がシエルの術中に陥っていたことに一拍遅れて気付いたようだ。

「ブラスターキャノン・フルバースト! ファイヤ!!」

 固定されたブラスターキャノンが光の柱を噴く。複数の砲撃を、それも至近距離から放たれたツタンマスケは回避の|術《すべ》も無く全身で受け止めることとなる。ファラオの威光をも焼き払う砲撃に耐えようとするものの、地を踏み締めていた足すらも圧され始めていた。

「ヌゥゥゥゥ! 我ハ、偉大ナルファラオ! コレシキノ炎デェェェ……!!」

 だが、その攻防も終わりがやって来る。遂にブラスターキャノンの砲撃に耐え切れなくなったツタンマスケはその巨体を押し返され、遠くへ吹き飛ばされてしまう。暫しの時間の後、瓦礫の中からレーザーに焼かれた体を辛うじて起こすものの、その身に受けたダメージが大きいことは明白だった。

「まだ立てるんだ、さーすが王様。いいよ、何度でもぶっ放してあげるから」

 シエルは不敵に笑って再度、複数のブラスターキャノンの銃口をツタンマスケへ向ける。彼が強い呪いを扱うことが分かった。そして倒せない敵ではないことも分かった。それだけ分かれば充分だ。
 ツタンマスケと周囲を囲む怪人達が動き出すより先に、シエルは次の軌道計算と修正を終えてブラスターキャノンのチャージを開始した。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

レア・マーテル
色々と突っ込みどころが多い王様なのですね。定年退職した後でも、いつまでも会社時代が抜けきれないリーマンを思わせます。しかし、それ以上に、あの怪人が身に纏う呪いの力は、厄介極まりないでしょうね。

なるほど、敵の攻撃は、様々な呪いを軸にしたもの。これは、呪われた腕ですか。当たれば、全てを腐らせる力。外れても死気が漂う呪われた地と化しますか。
あぁ、でも服が傷むのは容認できませんね。

ですので、本当の『呪い』と『死』が何なのか…私が教えて差し上げましょう

『呪怨布都御魂』の力を解放し、異常な移動速度と攻撃の手数を活かし、布都御魂鉾槍に宿った√能力を断ち切る呪いで、その腕や大地ごと切り裂いて差し上げます。

 派遣怪人と古代王国の王。ふたつの『自分』を主張するツタンマスケの奇妙な言動は、所謂ボケとツッコミで言うボケなのだろうか。大抵のことは受け流せるレア・マーテル(PR会社『オリュンポス』の|万能神官冥土秘書《スーパーエリートメイド》・h04368)がそう思ってしまうぐらい、ツタンマスケという怪人には突っ込みどころが多く見受けられた。どことなく抱く既視感は恐らく、定年退職後も会社員時代の感覚が抜けきらないサラリーマンの姿から来るものだろう。

(しかし……それ以上にあの怪人が身に纏う呪いの力は、厄介極まりないでしょうね)

 他の√能力者達と交戦する様子を見ているだけでも、ツタンマスケが繰り出す攻撃に込められた呪いが非常に強力なものであることが窺えた。万物を腐食させる呪いを拳に纏わせ、殴りつける。ただそれだけのシンプルな攻撃だが、当たれば生きながら体を腐らせるという惨事に見舞われることとなる。また、その拳を回避すれば呪腕は地面を舗装するアスファルトへ叩きつけられる。粉々に砕け散ったアスファルトと、その下から覗く古い土。それらが一瞬で腐り落ち、一帯が死の大地と化す場面も、レアの瞳にしっかりと映っていた。
 レアからすれば〝それだけのもの〟だ。彼女にとって死と腐敗は再生への過程でしかなく、怖れるほどの|現象《もの》ではない。

「あぁ、でも服が傷むのは容認できませんね」

 己の身体より、気にかかるのはそれぐらいだった。メイド服と修道服を融合させたような清潔で瀟洒な服ばかりは、腐らせるのは忍びない。となれば、そうなるよりも先に敵を倒す他に道は無さそうだ。
 もてなしのため、常に手を空けていたレアの手中にいつの間にか得物が現れる。ハルバードにも似た形状の鉾槍は一瞬、耳鳴りにも似た音を放つと、レアの瞳と同じ色の輝きを零した。

「では──本当の『呪い』と『死』が何なのか……私が教えて差し上げましょう」

 淑やかな声から温度が消える。同時にレアの姿がその場より消失する──否、消えたのではない。禍々しい気配を纏い、ツタンマスケ目掛けて駆けるその影はきっとレアなのだろう。断言できないのは、あまりにもその速度が速すぎるということ──そして、その影がまるで獣のように四足を地につけて這うように駆けていたせいだ。

「ヌゥ……貴様ァ! 冥界ノ力ヲ行使スルハ、ファラオノ特権デアルゾォォォ!」

 レアの接近を察知したツタンマスケはそれを迎え撃つように立つ。拳を構えればそこに腐敗の呪いが纏わりつき、次なる標的へ放たれるのを今か今かと待ち侘びているようだった。
 死の拳が振るわれる。間近まで迫っていたレアを確実に捉える一撃だった──筈である。

「まあ、なんて可愛らしい」

 そんな声と共にレアの影が消え、そして知らぬ間に側面に現れる。その手に確と握られている布都御魂鉾槍が漆黒の光を放ったかと思えば、次の瞬間にはツタンマスケの拳を、そこに宿った呪いごと穿つ一撃が見舞われていた。

「オオオオオォォォォ……ッ!!」

 呪いを打ち消され、拳を貫かれたツタンマスケの巨体が傾ぐ。それを追撃するように布都御魂鉾槍の切先が煌めいた。腐り果てた死の大地と化している地面を抉るように、下から上へ薙ぐ。ツタンマスケの胴体を逆向きに袈裟斬りするような斬撃は、彼へ致命的ダメージを与えるだけでなく大地への呪いすらも断ち切った。

「呪いとは、更に強い呪いによって打ち消せること。そして『死』は只の行き止まりとは限らないこと。これからも王を名乗ると仰るなら、是非覚えてくださいませ」

 そう告げながら、痛みに悶えるツタンマスケの目の前に立つ。そこに在るのは|冥土《メイド》であり秘書であるレアの楚々とした微笑みであり、黄泉の国より追い縋る『死』の気配は既に何処にも無かった。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

戦術具・名無
《信念》【POW】みちる(h00035)と一緒に行動
連戦。どうやら休憩の時間はないようです。
先程より今度は大きいですね。間合いに入らせてくれるでしょうか。
質量が大きければそれだけ威力もでます。みちる、油断しないよう。
力には力で対抗する?……やめましょう?戦いとは効率よく動くことが重要です。

サイズ差の良し悪しはありますが、やれないことはありませんね。
振動に気を付けながら当てられるところに逐一やっていきましょう。
塵も積もればといいます。……もう少しだけみちるをなだめておけるでしょうか。
勢いも大事ですが、少しばかりは目を瞑ることも……?
神元・みちる
《信念》【POW】名無(h03727)と一緒だぞ!
すげー!さっきのと逆ででっけーやつが来たぞ!
身体も暖まってきたし、お腹もなんとかなってきた!
これで終わりってやつだな!分かりやすいのはすげー助かる!

大きい分、攻撃も大振りっぽいかー?そうでもないかー?
……こういうのはあれだろ?弱点探してそこ叩くやーつ!
でもいちいち反応見てるのも大変そうだ。じゃあいつもと同じでいいか?

でけー声には同じぐらいで対抗してこ!
避けたら危ないか?じゃあ受け流せばいいってことだな?
名無が怒りそうだから鞘を使えば……おっけ、それでいこっか。
ぎりぎりの際、ミスったらやばいけど、それはそれで楽しそうじゃん?

「すげー! さっきのと逆ででっけーやつが来たぞ!」

 神元・みちる(大きい動機 okey-dokey・h00035)の声は、佳境を迎えた戦場には不釣り合いなほどに明るいものだった。大きな瞳を輝かせてツタンマスケを見上げる姿は、テーマパークへやって来た少年少女のように無垢である。
 反して、彼女の武器である戦術具・名無(Anker・h03727)の表情は張り詰めている。真打として現れたツタンマスケの動きをよくよく観察しながら、みちるの傍らに控えた。

「どうやら休憩の時間はないようです」
「うん、でも身体も暖まってきたし、お腹もなんとかなってきた! これで終わりってやつだな! 分かりやすいのはすげー助かる!」

 名無は変わらず警戒するが、みちるは肩をぐるぐると大きく回してストレッチする気楽さを見せる。これが最終戦、というのは確かに間違いない。そこを理解しているのなら今は良しとしよう、と名無は妥協点を定めた。
 改めてみちるは名無の本体である刀を携え、巨大な|木乃伊《ミイラ》怪人・ツタンマスケ目掛けて駆ける。何は無くともまずは一撃を見舞い、相手の動きを見定めなければならない。居合が届く距離に来ると同時に、鞘に納まる刀に手を掛ける。だが、それよりも先にツタンマスケの拳が眼前を掠め、みちるは反射的に跳び退って回避した。巨体である分のリーチが広く、容易に懐へ飛び込むことは許してくれない様子だ。

「これは……間合いに入らせてくれるでしょうか……」
「大きい分、攻撃も大振りっぽいかー? そうでもないかー?」

 敵の動きはついて行けないほど速い、というわけでもない。サイズによるリーチ差も、動きを予測できれば絶対的なアドバンテージとはならない。決して倒せない相手ではないだろう。問題は、その拳に宿る呪いの力だ。あれが生き物に当たれば生きたままに体が腐り、地面に当たれば死の大地となる。何としてでもあの拳を掻い潜り、呪いを受ける前に倒す必要があった。

「……こういうのはあれだろ? 弱点探してそこ叩くやーつ!」
「そうですね、まずはそれが無難だと思いますよ。勝つためには、まず敵を知ることが肝要です」
「でも、いちいち反応見てるのも大変そうだ。じゃあいつもと同じでいいか?」
「み、みちる。自分で言ったことを急に覆すのはどうかと」

 相手によって戦い方を変えるのもまた戦術。名無はみちるにそういったことも学んでほしいと常々思っているが、みちるは難しく考えることを嫌う。結局いつも得意の真っ向勝負に走ってしまうのだ。今回もそうなりそうな予感がして、名無はちらりとみちるの顔を窺う。

「でけー声には同じぐらいの力で対抗してこ!」
「……やめましょう? 戦いとは効率よく動くことが重要です」
「よーし、やるぞー!」
「みちるーーー!」

 名無の制止も虚しく、みちるは搦め手など一切考慮せず真正面からツタンマスケへ斬り込む。大きく振りかぶって放たれた敵の拳は、やはり悍ましい呪いの力を纏っている。みちるはそれを回避するのではなく、刀の鞘で受けた上で勢いを無関係の方角へいなした。

「名無、あんまり長引かせると周りがヤバそうだからさ! 手っ取り早くやっちゃお!」
「うう……仕方ありません」

 みちるに促され、名無も渋々と参戦する。ツタンマスケの攻撃を受け流す瞬間に抜刀し、岩のような拳を斬りつける。敵の拳を空振りさせるのを前提とした戦いだ。鞘で受けているとはいえその都度、刀へ衝撃が僅かに伝わっている。刃や柄にダメージが出る前に早々に片付けたかった。

「いけそういけそう! ちょっとずつだけど斬れてんじゃん!」
「そうですね、塵も積もればといいます」

 斬撃と拳の応酬は次第に間隔を狭めている。激化するにつれて、みちるの感情が高揚しているのを名無は強く感じていた。戦いにはリズムがあり、それに乗る勢いというものも確かに大切だが、今のみちるは徐々に視野が狭まっているようにも思えた。名無がある程度は宥めるものの、それも無限には叶わない。

「みちる、けりを付けますよ」
「オッケー!」

 こちらの言葉がみちるの耳に入るうちに決着を促す。それを受けたみちるはツタンマスケと距離を取ると、刀を鞘へ戻して居合の構えに入った。

「オノレ、小癪ナァァァ!」

 ツタンマスケもそれを迎え撃とうと肉弾戦の構えを取る。常人の目には留まらぬ刹那に、双方の武器が同時に振り抜かれた。全てを腐敗させる死の呪い、その向こう側に見える一点。〝そこを斬れば倒せる〟と確信できる箇所を、みちると名無はその視界に捉えた。
 死の殴打へ向けての一閃。刃の煌めきはツタンマスケの拳に触れると、電流のように迸った。とても握り込んではいられない衝撃に、ツタンマスケは唸り声を上げて後退る。一点しか触れていないというのにその片腕は肩に至るまでが裂傷で覆われており、とても拳を使い続けられる状態ではなかった。

「よし、腕一本もらい! そのパンチ危ないからなー」

 みちるはまるでゲームで得点を取った時のようにガッツポーズで笑む。その余裕は、戦いに必要な勘が確かに培われている証左とも言えた。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

テラコッタ・俑偶煉陶
まあ! とても強そうなミイラさんだこと!
なるほど、だからドライフルーツを売ってましたのね。納得 ですわ!
だけどわれたちの前に姿を現したのが失敗でしたね……ですわ! 

われたちは土偶…腐ったりはしないのよ?
それでも直接あの腕に触るのは怖いので……|土師器埋雛玖《ハジキマスク》を被って【霊的防護】をブースト!
マスクのオーラで防御力を上げてマスクドヒーローとしてお相手 ですわ!

相手の攻撃を耐えつつ近づけたら、はちまるで成長させたお野菜武器による【土師器菜園涅粒子大豊作祭】でやっつけます!
そのカラカラに乾いたお肌にビタミンの潤いを与えてさしあげます! ですわ!

「まあ! とても強そうなミイラさんだこと!」

 その|木乃伊《ミイラ》は高身長にして筋骨隆々。見た目の印象に違わず、他の√能力者達を前にして未だ立っていられる強者だ。他の怪人達を率いる立場の者がこの姿なのだから、ブースでデーツを販売していた点も妙に納得できた。テラコッタ・俑偶煉陶(はにわじゃないよ・h00791)は、傷を負いながらも目の前に立ちはだかるツタンマスケの姿に素直な感動を述べる。

「だけどわれたちの前に姿を現したのが失敗でしたね……ですわ!」

 勝つのはあくまでもこちら側。それを改めて宣言したテラコッタは、背に負ったはちまるへ種を放り投げた。相手がはちまるの性質を知っているのかは定かではない。だがテラコッタが攻撃の姿勢に入るのだと理解したのか、ツタンマスケは潰された利き腕ではなく辛うじて無事だったもう片方の腕で拳を作った。

「オノレェェェ、王墓ニ供サレル人形風情ガァァァ……!」
「それは埴輪! われたちは土偶! ですわ!」

 しっかりと訂正は入れつつ、振り下ろされたツタンマスケの拳を回避する。テラコッタは土偶だ。呪いを帯びた拳を受けたところで肉体が腐敗することは無い。周囲の者や地面にさえ気を遣っていれば、テラコッタ自身は呪いのダメージを考慮せずとも良いだろう。
 ただ、相手は単純な膂力もある。あの拳が当たれば、焼き物であるテラコッタの体はひとたまりも無いだろう。それに、如何に腐敗知らずとはいえ呪われた拳に直接触れるのは抵抗があった。

「こんな時こそマスクド・ヒーローの出番ってわけ ですわ! ヘイカモン、|土師器埋雛玖《ハジキマスク》!」

 テラコッタの顔が別の|土師器《ハジキ》で覆われる。大きな角を戴くシカを象ったそれは邪悪なものを遠ざける力を持ち、そしてテラコッタをひとりのマスクド・ヒーローへと仕上げるものだ。土の体が霊的な加護によって守られる。これで暫くはツタンマスケの呪いも凌ぐことができるだろう。

「貴様、マスクド・ヒーローダトォォォ! 焼キ物 on 焼キ物デ嵩張ルデハナイカァァァ!」
「余計なお世話! ですわ!」

 ツタンマスケが拳を振り抜く。利き腕が使えないとは思えない体捌きであり、的が小さいテラコッタに確実に当てようと狙いを澄ましてくる。テラコッタがそれを寸でのところで回避すると、体に掠めた拳から寒気が這い上がってくるような心地がした。やはり呪いは健在。素早く倒してしまうに越したことはない。

「さあさあ、はちまる! そろそろお時間 ですわ!」

 テラコッタの呼び掛けで、はちまるを満たす土から急速に緑が伸びる。それらは全て野菜、しかしただの野菜に非ず。テラコッタがあらゆる距離に対応して戦えるよう育ったお野菜武器である!
 最初に土を離れたオクラは両手で抱えるほどの大きさだ。テラコッタはそれを肩に担ぎ、そしてヘタを吹き飛ばす。ちょうど断面が見える形になったオクラは、中に詰まった種が砲弾のようにも見えた。

「オクラバズーカ、発射! ですわ!」

 否、それは本当に砲弾だ。テラコッタの号令に合わせて飛び出した種は、ねばねばの糸を引きながらも高速でツタンマスケのもとへ飛んでゆく。全てが着弾すると同時にツタンマスケの巨体はオクラ特有のねばねばに覆われ、あっという間に身動きが取れなくなってしまった。
 その隙にテラコッタは全速力でツタンマスケへ接近する。その手にはナックル……もとい、ニガ菜ックルがしっかりと装備されていた。

「そのカラカラに乾いたお肌にビタミンの潤いを与えてさしあげます! ですわ!」

 ツタンマスケがその言葉の意味を理解するより先に、大きな衝撃が全身に走る。ニガ菜ックルを装備した上で繰り出されるテラコッタのパンチは、信じられないほどに痛い。野菜ではなく絶対に鋼鉄製だと思うほどに痛い。ツタンマスケは連続で打ち込まれるパンチに成す術も無く体が傾ぐ。これが本当に葉野菜から繰り出される攻撃だというのか……!?

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ! ですわ!」

 最後の一撃は胴体ではなく、ツタンマスケの口の中へ。ニガ菜ックルだけを残してテラコッタが腕を引っ込めれば、ツタンマスケは反射的にその口を閉じてしまう。そうなれば当然、口の中に残されたニガ菜ックルを咀嚼することになる。
 さく……むしゃ……。先程の打撃からは想像できないほど軽やかな咀嚼音。その直後、ツタンマスケの眼窩から滂沱の如く涙が溢れた。

「苦ァァァァァァアアアアアイ!!」

 全身に負ったダメージに、強烈な苦味。彼が戦意を喪失するのも仕方が無い結末だった。

「栄養たっぷりなのに失礼しちゃう ですわ!」
🔵​🔵​🔵​ 大成功



「オオォォ……馬鹿ナ……ッ我ハ、我ハ偉大ナルファラオォォ……」

 最後の一撃をその身に受けたツタンマスケは巨体を傾ぎ、地に膝をつく。既に立ち上がる力さえ残っていないのか、徐々にその身に宿す呪いの力さえ弱ってゆくのが目に見えた。|木乃伊《ミイラ》怪人やミニマスケ達はその周辺でオロオロと心配そうにしている。

「まさかツタンマスケニキがやられるなんて……想定外ツタンよ……!」
「一体どうしてこんなことになったツタン……!?」

 慌てふためく怪人達は、どうやらイレギュラーな場面に弱いらしい。指示を仰ぐ上司もおらず、どうしたら良いか分からないままに狼狽えている。

「そもそも対面販売がいけなかったツタンかねぇ……?」

 |木乃伊《ミイラ》怪人のひとりが、ぽつりと呟く。彼らの目的はデーツを売り捌き、組織の活動に必要な費用を調達すること。そのために躍起になって接客したところ星詠みを始めとする√能力者の目に留まり、こうして妨害されることとなったのだ。

「も、もしかして……ネット販売の方が向いてたツタンか……?」
「あっ、でも確かにその方が実店舗も要らないし、送料もある程度までなら客の負担でやれるツタン……!」

 こそこそ、ひそひそ。彼らは内密な話をしているのだろうが、まあまあこちらまで筒抜けだ。これはまだ懲りていないな……と、√能力者達が次なる灸を据えようとした、その時だ。|木乃伊《ミイラ》怪人達は一糸乱れぬ動きで立ち上がると、力尽きたツタンマスケを胴上げの要領で抱え上げる。
 そして、√能力者達へ向けてこう叫ぶのだ。

「覚えてろよォーーーーー!」

 彼らは目にも留まらぬ速さでその場から駆け出す。抱えたツタンマスケを取り落とすことなく、そして誰一人とて仲間を置いて行くこともなく。気付けば、グルメフェスに出展していたブースですら跡形もなく消え失せてしまっていた。

 かくして、グルメフェスの平穏は保たれた。数日後、√マスクド・ヒーローのインターネット上で『砂漠の恵み・奇跡のデーツ』という名前でドライデーツを販売する通販サイトが立ち上がるのだが、それはまた別の話である。

挿絵申請あり!

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挿絵イラスト