『CASUALBAR ◆EA◆』は臨時休業
店内には、囁き声で会話する客も邪魔しない程度の音量でBGMが流れていた。
その穏やかな音に耳を傾けながら、アダムス・オールナイター(愛の薬・h06030)はグラスを拭いていた。
ここは繁華街の地下にある、アダムスが経営するBAR、その名も『CASUALBAR ◆EA◆』である。時間は日が沈む頃、まだ店内に客はいない。
カラン、という小さな音とともにドアが開き、アダムスはそちらを振り返って、
「いらっしゃい」
と、声をかけた。
「邪魔をする」
「いえいえ。どうぞ、よければカウンター席へ」
やってきたのは綾咲・アンジェリカ(誇り高きWZ搭乗者・h02516)であった。彼女は勧められるままにアダムスの正面に腰掛け、店内を軽く見渡した。
「雰囲気の良い店だな、ここは」
カジュアルな雰囲気だが、内装といいBGMといい、なによりアダムスの立ち居振る舞いといい、「騒がしすぎなくてよい」とアンジェリカは言った。
「そう言ってくれると嬉しいですね。
ご注文は? お酒にしますか?」
「いや」
苦笑するアンジェリカ。
「母国では多少は嗜んでいたが……ここは日本だからな、その法に従おう。
紅茶を……」
と、言いかけたアンジェリカだったが、「ふむ」と何やら考え込んだ。
「なにか? いろいろと銘柄も取り揃えていますが」
「いやなに、せっかくBARに来たのだからな。やはりカクテルを頼みたいと思ってな」
「ふむ……紅茶、ですか」
短く整えられた顎髭に手を当て、首を傾げること、しばし。
「そうだ、これならどうでしょう?」
アダムスは冷蔵庫からアイスティーを取り出して、氷の入ったグラスに注いだ。そしてメジャーカップから注いだ「何か」とともにステアする。
レモンのスライスを飾ったアダムスは、スッとカウンターにそれを置いた。
紅茶の風味、そして甘味と酸味が口腔を満たし、鼻に抜けていく。
「美味い。あれは、グレナデンシロップだったのか」
「えぇ」
満足げに飲み干すアンジェリカを見て、アダムスも目を細める。
「早足で歩いてきたらしいから、冷たい物が、ね。
ご来店は嬉しいですが、どうやらそれだけじゃなさそうですね。依頼ですか?」
アダムスが片目をつぶり、肩をすくめる。するとアンジェリカは笑った。
「どうやら、今日はお客ひとりだけで店じまいらしいですね」
アダムスも笑って、空いたグラスをシンクに落とした。
🔵🔵🔵🔵🔴🔴 成功