不思議ふしぎなチョコかまど
不思議かまど。普段はとってもあっちっちな、われたちの憩いの場。
陶芸品と土偶を焼くための、大事なかまどですけれど。
──今日だけは一般開放!
「チョコケーキ焼くのに使っていいよ ですわ!」
高らかに宣言し、ひとびとを呼び込むのはテラコッタ・|俑偶煉陶《よーぐれっと》。セピア色の肌がほんのりチョコを思わせる、立派な土偶の付喪神。
どなたさまもご遠慮なく。なぜなら今日は。
「バレンタインでありますゆえ」
|陶芸家《オーナー》の許可は取ったのかなんて、無粋な詮索はお呼びでない。テラコッタと仲間の土偶たちは、チョコケーキに場所をお譲りするため、懐を深くしてかまどを開けたのだから。
ここはぜひ、燃えるような熱い想いを、ケーキに込めてばーにんぐ。
「って、燃えちゃったら困るんだけど!?」
呼ばれて集まってきた女子たちが一斉に取り乱すが、テラコッタは余裕綽々。
「いえいえご心配なく ですわ。われたちのかまどは不思議なかまど」
不思議な炎が加減を間違うことはないし、更には手厚いフォローをお約束。
「火に強いわれたちがー」
「かまどの中でじっくりと」
「見守るよー」
土偶たちも息を合わせてヒーローポーズ。普通に動いて喋っているが、気にしない気にさせない。締めはもちろん、真ん中に躍り出たテラコッタがきゅぴーんと決めて。
「こまめに様子を見て完璧な仕上がりにするの ですわ!」
おおー!
いつの間にか、周囲には人だかりができていた。盛大な拍手が飛んできて、テラコッタたちはご満悦。
「お菓子作りと陶芸体験をしたい方、カモンカモーン! ですわ!」
この機を逃さず売り込めば、期待と気合の高まった乙女たちが列を成す。
ブラウニーにフォンダンショコラ、ナッツケーキにベリーのケーキ。かまどの中に鎮座する、さまざまなガトー・オ・ショコラたち。細かい温度の調整もカスタムメイドでお応えし、一品一品手をかけて。乙女たちも大喜び。
ただ、これは不思議かまどの不思議の一つ。
入れたケーキの分量は、ちょっとだけ、減る。
「かるーく味見をするのはかまどの主人としてとーぜんの権利ですので?」
口についたチョコがバレにくいのも、土偶の特権ゆえ。
テラコッタはニヒヒと悪い笑み。
ただ、綺麗な焼き目のチョコケーキは、乙女に力を与えたらしい。
恋を叶える不思議な土偶と不思議なかまどの噂が巷をめぐり、陶芸家が頭を抱えたのは、もう少しだけ後のこと。
🔵🔵🔵🔵🔴🔴 成功