シナリオ

ひみつのきちと、わんわんのかみさま

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 それは彼女が、じーちゃんの家に遊びに行った時の話。
 じーちゃんの家は山手の方で、土地がとても広い。
 そしてそこに、山もあった。
 そんな山を、何もない退屈な場所だと思うか。それとも、未知なるわくわくがいっぱい溢れている場所だと思うか。
 それはその人それぞれに感じるものであるだろうが。
 元気いっぱいな女の子である獅猩鴉馬・かろん(大神憑き・h02154)にとっては、山の中は後者――様々な生き物たちに出会えたりだとか、興味をそそるような自然に溢れた、わくわく楽しい遊び場であった。
 同じような年頃の女の子でも、外で走り回るよりも部屋でお絵描きをしたり人形遊びやおままごとをするのが好きな子だっているだろう。かろんだって、ガチャガチャを回して出た色々なフィギュアの動物を集めては、ずらりと並べて遊ぶのだってもちろん好きなのだけれど。
 でも、山の中を気ままに探検するのも、とても楽しいと思う|性質《たち》だから。
 じーちゃんの家に行っても、遊ぶ場所には困ったことはなくて。
 あまり難しいこともわからないし、深く考えてなども当然、かろんはないから。
 山で迷子になるのではだとか、怖い目にあうかもしれない可能性だとか。
 そんな考えに至ることももちろんなく、これまでも普通にふらりと問題なく帰ってこられていたのもあって。
 じーちゃんもそんな彼女に何か言うことも特になかったから、かろんも自由気侭に方々を自由に遊びまわっていたのである。
 いや、山の中は彼女の興味をひいたり、好奇心をくすぐるようなものがとても多いから。だから正確にいえば、それゆえに何かをみつけては夢中になるから、意外と歩みを止めてじっとしている時間も意外と多く、子どもの足ということもあって、山の奥深くにまで入るにいたらないのだ。
 たとえば、山のいたるところに転がっているような石ころ。
 見る人が見れば、それは何の変哲もないもので。転がっていても特に意識もしなければ気づかないことの方が多いし。むしろ、目につくようなものは、邪魔な存在だと思わることもしばしば。
 でも、かろんからすれば、ひとつひとつ大きさやかたちや色、全部違ったそれらを見つけては、じいと屈んでみつめてみて。
「このいし、へんなかたちしてるなー! こっちのは、くろくてごつごつしてて、なんかかっけー!」
 そう気になる石を拾っては、せっせと集めてみたり。
 それを、なんとなくちいさい順だったり気のままランダムに並べてみたり、似た色のもので分けてみたりだとか、謎にどれだけ重ねられるかチャレンジしてみたり等々して飽きるまで遊んだ後。特にお気に入りのものは、宝物にしてポケットに入れて持ち帰ったりとかして。
 他の人にとっては気にも留めないようなただの石ころだけで、ずっと遊べたし。
 この時のかろんはまだ普通の人間のおこさまだったから。
 きっと誰か大人が一緒だったら、危ないからと止められていただろうような。
 果敢に木登りをしてみたりだとか、川の中にじゃぶじゃぶと入ってみたりだとか、木と岩の間を潜ってみたりだとか、身体をいっぱいに使った冒険も楽しくて。
 かろんにとって山は、下手な公園なんかよりもずっと、天然の遊具で溢れていたし。
 そんな冒険のお供はやはり、気に入って拾った木の棒。
 小さな枝や実なんかを集めて、大きな葉っぱを見つければ。
「じーちゃんのかお! こっちは、かろん! これは、ちょーかっけーおおかみ!」
 組み合わせて顔を作っては、キャッキャしたり、ひとりげらげら笑ったり。
 かろんにとって山は遊び場であり、そこらじゅうに落ちている小枝や小石やなんでもおもちゃにしては、いくらでも自然と遊びを思いつけたし。
「きゃー! でけーむし! にげろー!」
 ぶーんといきなり飛んできた虫にびっくりしてきゃあきゃあと楽しく逃げたり、逆に追いかけてつかまえてみたり、ぞろぞろ餌を抱えた小さなアリたちの行列を見つければ、どこまでいくのか辿って一緒についていってみたり。
「いちご! はむっ……すっぱ!?」
 野イチゴだって、昔じーちゃんが食べられるものだって教えてくれたから。
 見つければ口に躊躇なくはむりと入れてみて、まだ熟れてないすっぱいものに大当たりしちゃえば、思わず顔を顰めてふるふるとしてしまったりも。
 とはいえ当然おこさまだから、ついさっきまでは楽しく夢中になって遊んでいても、いきなり飽きることだって少なくなかったけれど。
 そうなっても次のなにかをすぐに見つけられたし、疲れたり完全に飽きれば、さっさと山からおりてじーちゃんの家に帰っていた。
 まさに特に何も考えていない軽いノリと勢いで、思ったままにあっちにこっちにと元気に駆けては、好きに遊び回る。
 かろんはそんな、おこさまらしい元気な、ごく普通の活発な女の子であった。
 いや、今だって基本、それは変わらないのだ。
 だけど……かろん本人は、やはりあまり気にはしてはいない様子だけれど。
 でも今の彼女は、普通の人間の女の子ではないのだ。
 あの日あの時、いつも遊んでいる山の中で、『大神』と出会ってから。

 いつもキャッキャ楽しそうではあるかろんだけれど。
 この日は、いつもよりもちょっぴり彼女は上機嫌であった。
 とても気に入った、イイ感じの木の枝を見つけたから。
 それをふりふり、得意気に振り回しながら、いつもどおりに山を探検していれば。
「あっ、りす? うさぎかなー?」
 何だか、草むらをがさごそ動く小動物のような存在を見つけるかろん。
 動物が好きな彼女は、もちろんすぐにわくわくと興味をそそられて。
 その姿を自分の目で見て、正体を確認したくて、やはり特に何も考えずにそれをすたたっと追いかけ始めたのだ。
 でもなぜか、すぐ近くにいるのに、その姿をはっきり見ることができなくて。
 そうなれば尚のこと、その動物がなんなのかを知りたくなって。
 木々の間を潜り抜け、道からもいつのまにか外れて、上へ上へと山をのぼっていく。
 そして、どのくらい追いかけただろうか。
 結局その動物っぽいものがなんだったのか、正体はこの時はわからないままであったかろんだけれど。
 でも、あれだけ興味をひいてわくわくと追いかけてきた謎の動物のことも、彼女は一瞬で忘れたのである。
 動物っぽいものががさごそ草を揺らさなくなったと思って、きょろりと巡らせていた視線の先に、朽ちた祠を見つけて。
 太い木々に囲まれた祠は、朽ちてなお神秘的な雰囲気を漂わせている。
 いつからあったのか、何故ここにあるのか。
 もちろん、そんなことを考えるような思考は、かろんにはなくて。
 神秘的で神聖的な空気感を何だか醸しだしている祠に全く臆することもなく、すたたっと傍まで駆け寄れば、見つめるその瞳をキラキラ。
「ひみつきちにいいな!」
 でもちょっとぼろくて、それにもっと気に入るような基地にしたいって思ったから。
 格好良いって思うたくさんの枝や、大きな葉っぱ、花だったりまつぼっくりみたいな実だったり、大きな石だったりなどなど。
 おこさまの入手できる範囲で集めた素材で、祠を魔改造!
 かろんの思う「すげーかっけーひみつきち」にいそいそと仕立て上げる。
 いや、そんな彼女の行為は、大人から見たら慌てて止めるような不敬にあたることかもしれない。
 一体この祠には何が祀られているのか、それが良いものなのか、もしかしたら悪いものかもしれないなんて、もちろんかろんがそんな考えにいたるなんてことはなかったし。
 山の中で見つけた自分だけの秘密基地作りに、ただうきうきとしていたのである。
 そして――その結果、かろんは気に入られたのであった。
『娘、この我の祠が気に入ったのか?』
「ん? だれー?」
『この祠で、あとは静かに消滅を待つだけのモノだ』
 祠の中にいた、大神に。
 けれどそんなことを言われても、全然かろんにはピンとこなくて。
「なんもわからん! しらん!」
 そう大きく首を傾ければ、祠の扉がギィと微か開いたかと思った瞬間。
 説明するよりも見せた方が早いと思ったのか、彼女の前に姿を現す大神。
 そしてそんな大神が姿を見せれば、かろんは瞳をよりいっそう輝かせてしまう。
 だって、眼前に現れたのは、狼の神。
「! ちょーかっけーな!」
 動物好きなかろんが特に大好きなのは、格好良い狼なのだから。
 それから、自分の姿を見て、格好良いと瞳を輝かせる彼女の反応に、どこか得意気に大きく尻尾をふりふり揺らしながら。
 すっかりおこさまの手で魔改造された自分の祠をちらりと見れば、大神は意外と満更でもなさそうに、さらに尻尾をゆらゆら。
『この祠が欲しいか?』
「うん、ほしい! ひみつきち!」
 そう無邪気にこくりと頷くかろんの姿を見れば、こう持ち掛ける。
『祠をお前にやれば、我の住処がなくなる。そこでだ、この祠をやる代わりに、お前の体に住まわせろ』
 威厳たっぷりな物言いで、そんな交換条件を出してきたのだった。
 そしてそんな大神の言葉に、すぐにこくこくと頷くかろん。
「いーよー!」
 わくわく山の中で見つけて、自分の好きなように一生懸命せっかく魔改造した秘密基地は、とても気に入っているし。
 でも確かに、ここがこのすげーかっけー狼さんが今までずっといた場所であるならば、自分が秘密基地にしちゃったら、狼さんのおうちがなくなってしまうことはわかるし。
 それに、大神が持ち掛けてきたことがなんなのか、ちゃんと知っているのだ。 
「かろんしってる! ぶつぶつこーかんってやつだろ!」
 ということで――ぶつぶつこうかん成立!
 刹那、何かが身体の中に入ってきたような感覚をおぼえるも。
 この時はもちろん、以降も特に体の不調などもなくて。
 むしろ、自分の身体がこの格好良い狼さんのおうちになるということに対して。
「でっけーいぬかうのっておかねもちみてーな!」
 完全に軽いノリで、口に出すのはそんな能天気な感想。
 いや、当然ながら、詳しいことは理解していないかろんなのだけれど。
 元々普通の人間だった女の子が、この一件で、大神憑きになったのである。
 そしてかろんは知らないけれど、威厳を感じる大神は、かつてこの山を統べていた狼の神様で。本人も言っていたように、あとは静かに消え去るのを待つだけであった。
 それに気難しい神であれば不敬だと怒ったかもしれないかろんの行動に対して、子供好きな様子の大神に芽生えたのは母性本能のような思いであって。
 初対面で抱いたのは、元気な子供で微笑ましい、という好印象であったのだ。
 それに、かろんの手によって魔改造された祠も、実はなかなか気に入っているし。
 というかむしろ、母性ではなくて……かろんのことは保護対象ぐらいに思っている、要するに、おばあちゃんぐらいの立ち位置だと思っている大神であった。
 どのみち、この山の中にずっといたところで、祠と共に朽ちてゆくだけ。
 ならば、この子供と一緒に山を下りるのもいいかもしれないと、そう思ったのだ。
 ……という、いきさつで。
 ひょんなことから、祠に祭られていた大神を体に宿すことになったかろん。
 さらに、多分あの時、がさごそ動いていた動物っぽいものの正体だったかもしれない大神の眷属も一緒についてきたものだから、かろん的には、おとく!
 大神ともなんとなく意思疎通はできるっぽいし、普通の人間ではなくなってはしまったし、彼女曰く「あとはなんもわからん!」のだけれど。
 でも――お互いなんだかんだ、今も一緒に、楽しくやっているのである。
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