シナリオ

男四戦線〜冬ラーメンの巻〜

#√EDEN #ノベル

タグの編集

作者のみ追加・削除できます(🔒️公式タグは不可)。

 #√EDEN
 #ノベル

※あなたはタグを編集できません。


未だ底冷えの続く肌寒い冬の日
闘技場での激闘を後にする男たちが4人
未だ冷めやらぬ戦いの余韻を身体に残し
暮れゆく夜の街に繰り出して
|する《す》ことと言えば──答えはひとつ。

「へいらっしゃい!らーめん処、園楽亭だよ!」

──もちろん、熱々のラーメンを食することだ。

戦い抜いた筋肉にカロリーは必須であり、温まった体を急激に冷やしては毒というもの。ならばカロリー、温かさ、そして汗で失った塩分も補充出来るラーメンは、今の4人にうってつけのソウルフードだった。カナトから上がった提案に賛同し街をふらついて、目に入ったのがこのラーメン屋台だ。居を構えた店も良いが、外の屋台で湯気を浴びながら啜るラーメンもオツなもの。気がつくと吸い込まれるように4人が暖簾を掻き分けていた。
「肌寒い夜にラーメン、これは美味いの確定ですね!」
「僕、屋台で食べるの初めてです…!このメンバーで食べられるのも嬉しいですね」
 ウキウキとした顔で覗き込む芥多に、表情からは伺えないものの瞳はキラッキラに輝かせたレモンが続いて屋台の席に着く。
「大人数で屋台ご飯するのは初めてかもしれないなァ」
 ひとり屋台経験はあるカナトが、店主に軽く会釈をしながら更に席を埋めると、続く時雨が定員4人の最後の席を埋めようとして顔を顰めた。
「男四人で屋台に座るって……狭っ!芥多くん長い脚たたんで詰めて。」
「うお、確かに大分ぎゅうぎゅう詰め。生まれ持った長い脚とカッコ良さと色気が憎いです」
「誰も脚以外言ってませんよ、あっ君」
 ツッコミも何のそので、芥多がわざわざ高めに足を上げてからカウンター下に仕舞いこみ、ようやく屋台に全員が収まった。
「悪いね、オレたちで埋めちゃって〜。」
「なぁに、閑古鳥よかよっぽどありがてぇよ。ほれ、メニュー」
 ガハハ、と気さくな店主が年季の入ったメニューをカナトに手渡し、レモンが横から覗き込みながら尋ねる。
「カナトさん、それがメニュー表ですか?何があります?」
「えっと…あ、すごい。屋台なのにかなり色々ある。オレは醤油にしようかなァ。」
 ざっくり目を通してからレモンに渡すと、サイドから芥多と時雨も覗き込む形でメニューを眺める。そのわっちゃり集まった様子にふと笑みを浮かべ、皆の好きなモノとか知れる好機かも、と選ぶ様子にカナトが耳を傾ける。
「これは悩ましいですね。とりあえず盛っていく方向性は決めました。」
「うわ、本当です。トッピングも沢山ありますね…!」
「ぼくは鶏ガラ醤油に太麺一択。岩のり味玉追加。硬め、濃いめ、多めでお願いします。」
「はい、それでは俺は豚骨醤油でお願いします。焼豚と味玉、焼き海苔も追加よろしく。」
「皆さんの注文の仕方が通っぽい、よく利用されるんです…?えっと、じゃあ僕はみそラーメンで!野菜と味玉いっぱい下さい。あと…硬め、濃いめ、多め!」
 ほぼ悩まずに即決即注文する時雨。マイペースに自分の欲しいものを欲しいだけ頼む芥多。味とトッピングは自分で決めつつ、ちょっぴり背伸びで時雨の注文を真似るレモン。味もそれぞれハッキリと分かれていて、カナトがへぇ、と感心する。
「ラーメンの好みも個性でるよねぇ。オレはあっさり醤油味スープに、中太ちぢれ麺で。チャーシュー沢山のってると嬉しいけれど…」
「おう!追加も聞いてるけど…ま、オマケ乗せといてやるよ」
「ありがとぉ」
 ちゃっかりおねだりも通し、ひとりで4人の注文を捌く軽快な店主の動きを眺めつつ、届く迄の間は暫し雑談と洒落込む。
「レモンくんの白い服見てて怖い。汁飛ばしそう。」
「あっ、僕の服は心配無用です。汚れても魔法で、真っ白綺麗に戻ります。」
 ラーメンには不向きな服装に時雨が眉を顰めるも、ふすんと鼻を鳴らしてレモンが胸を叩く。そして初めて聞く魔法に、芥多とカナトもずいと身を乗り出してきた。──瞳に、若干怪しい光を宿して。
「……なるほど、魔法。道理で真っ白さん。匂い消しとかもできます?」
「へぇ、そんな便利機能あったんですね。因みに後学の為に聞きたいんですが、色や成分もお構いなしなんですか?」
「見た目だけ綺麗になるのかなァ?洗濯もしなくて良いとか?」
「匂いも勿論、綺麗さっぱりですよ!ですが…」
「「「…ですが?」」」
「…職業暗殺者の皆さんに、提供はしませんからね」
 じ、とレモンが疑いの色を乗せて3人を見つめると、各々がスッと素知らぬ顔で明後日を向いた。丁度そのタイミングで、後ろ暗い話はここまでと言うように、店主がドドン!とカウンターに注文のラーメンを並べる。
「はい、おまちどぉさん!」
「お、来た来たァ。いただきまぁす」
「あー、匂いだけでお腹が空く…!いただきます!」
「うわうまそ…いただきまーす」
「もうこれ待てませんね、いただきます。」
 待ってました!の快哉と共に、もう1秒も待てないとばかりに各々が箸を手に喰らいつく。

 一番手はカナトのあっさり醤油ラーメン──スープの味は、単体ではやや物足りないかも知れないさっぱり具合。しかしちぢれ麺を選んだ事が生き、油もスープもたっぷり絡めることで完璧な塩梅が完成する。さらにオマケと言うには盛りすぎな、小山になった薄切りチャーシューを食べてからスープに戻ると、脂が蕩けてまた麺とチャーシューが恋しくなると言う永久機関ぶり。
 次にレモンのみそラーメン。こちらはスープ単体は少し濃い目の仕上がりだが、たっぷり盛られた野菜、麺、そしてスープを同時に口へ運ぶことで丁度良いしょっぱさになり、喉を通り抜けるころには味噌の香りが程よく舌に残る仕様。味玉は塩であっさり目にすることでそのまま齧るもよし、味噌スープに溶かすも良しとなり、ここにも新たなループが生まれた。
 更に時雨の鶏ガラ醤油太麺。太さと濃さはメンバー随一で、あと少し踏み込めばつけ麺に近い域のラーメンだ。ガラスープで伸ばしたスープは、太麺と合わせればガツンと口の中に旨みが広がる。岩のり、味玉と味変も抜かりなく、極僅かに芯が残る太麺も小麦の香りが楽しめ、スープが染みこむ前には全て胃に収まってしまった程だ。
 最後に芥多の豚骨醤油。背脂の浮かぶスープは中々に濃厚だが、ストレートの細麺が絡める量を調節していて、口当たりは意外にも軽い。厚切りの焼豚はホロリと柔らかく、塩味の味玉に焼き海苔も、スープに合わせてよし麺を絡めてよし、最後にひたひたを食べるも良し、で最後まで楽しめる設計になっている。

 暫し無言夢中で啜る時間が続き、各々がトッピングまで一巡りした辺りで漸く鉢から顔が上がった。
「あー間違いない美味しさだ〜」
「やっぱりおみそは万能ですね!麺も野菜も味玉も合って良いです。シャキシャキもクタクタも美味しい…」
「美味すぎます。夜に屋台で皆でラーメンを食べるというシチュエーションも相まって堪らないですね!…あれ、時雨さんあっさり完食してません?」
「うまぁ…って思って気づいたらお皿の中無いんですけど。もはや食べた記憶がない。」
「…えっ、時雨さんもう食べたんですか!?早すぎでは…!」
「ぼく食べてました?お代りとかした?おかしい…記憶にない。」
「記憶なくす程おいしかったのかぁ」
「全然足りないんでぼくライスもくださ~い。」
「…え、ライス?麺のお供にライスですか!?」
 時雨の炭水化物わんぱく注文に、思わず芥多から驚きの声が飛ぶ。然し当の時雨はさも当然と寧ろ首を傾げた。
「……え?ライス付けない選択肢とかあるの?あ、でもメンマいらない。食感嫌い。カナトさんあげるね」
「お肉が足りない…あっカナトさんメンマの分、僕がチャーシュー減らしてあげますよ」
「わ〜後輩たちが自由すぎる…良いけど」
 自分の杯からヒョイヒョイ具が増えたり減ったりするのを見ながら、カナトがハハッと乾いた笑いを浮かべる。
「しかし時雨君いっぱい食べてるねぇ、オレの3、4倍は〜」
「いや、カナトさんもさり気なくめっちゃ食べてません!?替え玉してましたよね。二人とも胃袋ブラックホールじゃないですか…」
「…替え玉?えっ、僕スープも全部飲んじゃいました…!」
 替え玉を知らなかったレモンがカラの鉢を見て落とした肩を、カナトが慰めるようにポンポンと叩く。
「じゃあ替え玉は次回のお楽しみ、かな。沢山食べてすくすく育って〜目指せ芥多君を越えるナイスガイ?」
「そうそう、今後すくすく育てたらいいですね〜。ところで俺は身長180程の高身長ナイスガイなんですけど魔女代行くん今何センチ?」
 背脂のテカリもデパコスヌーディリップに変えるが如きキラメキスマイルで芥多が煽ると、レモンが出来る精一杯に胸を逸らしてアピールする。
「そうなんですよ、僕はこれからすくすく育ちますので~。あっ君はどうぞ、僕の成長期に震えて眠っていてください。その優越感に浸れるの、今だけなんで!」
 
──そして、美味しく頂いた後につきものなのはお会計。
「未成年が払うのも気は引けるし。此処は成人組で正々堂々…決闘しようか!!」
「ええ、正々堂々…殺し合いましょう、ジャンケンで!」
「ジャンケンか〜割と公平だなぁ。でも知ってる?人間て咄嗟には複雑な手の形作れないんだって」
「ぼくはグー出します。負けたら即座に拳ぶち込みます、のグー。腹いっぱいですよね?お覚悟を。」
「俺はパーを出しますよ。勿論、お手上げのパーです!」
 じゃんけんにしては怒髪が天を超えそうな殺気を纏い、職業暗殺者組が心理戦を仕掛け合う。
「レモンくんは……公正に見届け人をお願いします」
「任されました!決着がついたら、次はアイスに向かいましょう。僕はバニラが食べたいのでそちらも込みでよろしくお願いします!では、最初はグー…ジャン、ケン──!!」
 
 最後にアイス代もちゃっかり乗せられて、最早向かい合う大人気ない組は死闘の様相。勝敗は4人のみぞ知るとして、まずここは──

ラーメンご馳走様でした!
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​ 成功

挿絵申請あり!

挿絵申請がありました! 承認/却下を選んでください。

挿絵イラスト