ハレルヤ・コーラス

レナの生まれを示唆するエピソードをお願いします。
文章量は適当に調節してください。
・シチュエーション
機械兵団から都市を奪還した直後。
都市の状況や設備を確認している最中。
ある研究施設を捜索している兵士たち。
見取り図を制作する兵士たち。
その中で、ある兵士が見取り図の不自然な空白に気づく。
何かが隠蔽されていると判断する兵士たち。
壁を破壊し、隠し部屋の発見に成功する。
そこで見つけた物は、誰かの遺体と手記。
そして、二人の|培養槽で眠る子供《フラスコチャイルド》。
禁忌を冒すことへの苦悩。
軍事利用されるだろう子供達への謝罪。
子供への愛情。
機械への憎悪。
想定される特性と運用。
機械達の侵攻を受けての対応。
仲間も自分も犠牲にした作戦と、その顛末。
二人しか守れなかったことへの悔恨。
二人の名前。
そうした情報を手記から読み取り、兵士たちは決意する。
その遺志は、無駄にはしないと。
・子供たちの特性
|電気を発し、電気を操る超能力《エレクトロキネシス》。
その力を持つ超能力者を参考に、|遺伝子を設計《デザイン》されている。
主な用途は、電磁波の送受信。
機械達の情報を傍受できれば、情報戦で優位に立てるだろう。
鍛錬次第では、誤情報を送信することもできるかもしれない。
行きつくところまで行けば、機械を支配することも――
・|父《製作者》
リチャード・マイヤー。
遺伝子工学を専門とする研究員。
子供を作れない事情があり、鬱屈とした日々を過ごしていた。
機械兵団の侵略により、|禁忌を冒す《我が子を製造する》機会を得てしまう。
様々な苦悩と困難を乗り越え、完成間近までこぎつけたものの…
機会兵団の手が届くまでには、間に合わないと判断。
突貫工事で培養槽を維持可能な隠し部屋を作成し、そこに子供を隠す。
最終的に、部屋の内外から壁を溶接して完全に部屋を密閉。
機械を欺き、子供たちを守ることに成功する。
我が子を抱き上げるという夢は、生きている間に叶わなかった。
金色の月は天蓋の如く頭上に架けられた複雑なアーチ群に遮られ、それでも無機質な蒼白い光が氾濫するビル群は、精緻な万華鏡のように輝いていた。
不気味な静寂に包まれた街並み。その至る所から硝煙と鉄、ガソリンの焦げる臭気が漂って来る。
この日、人類の軍隊は勝利を収め、ひとつの都市を奪還した。
奪還とは詰まる所、この街が過去において、完全に敵の手に落ちた事を指す。
そこからの経緯はどうあれ──此処√ウォーゾーンにおいて、それは住民の生存が限りなく絶望的であるという事実を暗に示すものに違いなかった。
往来で立ち働く兵士達の任務は、僅かに残存する敵戦力の駆逐。そして都市の状況と設備の確認である。彼等の顔に勝利の喜びの色は薄く、淡々と街の奥へ向けて作業を進めていた。
ゆっくりと奇怪な鋼の建物が傾き、地響きを立ててビルの海へと倒壊。そのまま上がる粉塵の中へと溶けるように消えていく。
あちらこちらで立ち昇る黒煙の柱は時間を経るごとに白みを帯び、死者への哀悼を示すかのように夜空へと拡散していった。
そうした光景を遠くに望みながら、とある小隊が、都市の中枢部にある、重要ポイントへと侵入を果たす。
そこは、研究施設だった。
照明は落ちていた。真っ暗なロビーで兵士達がそれぞれライトのスイッチを入れる。たちまち走った白い光の列が、倒れた本棚から派手に床へとぶちまけられた大量の書類やカルテを照らし出す。
すぐに間取り図を見つける事は難しかった。そこで小隊は数組に分かれると、細く枝分かれした通路や階段を通じて、各々散開する。
それまで静かだった施設内を、コツコツと反響する足音と、トランシーバーの連絡音が満たし始める。
薬品の液溜まりが出来た保管室。へし折れたベッド。壁に残る銃弾の痕。そして、少なからぬ数の犠牲者。
破壊の痕跡は至る所にあった。それらを含んだ情報が、ロビーに残った兵士達の元に集まって来る。彼等はその中から間取りに関する情報を拾い上げつつ、一枚の紙を迅速に地図へと書き換えていく。
見取り図が出来上がる。
それをぼんやりと眺めていた兵士が、ふと、とある一点を指差した。
ラボ全体の大きさを考えれば明らかに不自然な空白。
マスク越しに頷き合う兵士達。
互いに連絡を取り合い、目的地へと集結する。
そこは一見、通路の突き当りにも見える場所だった。三方を囲むのは壁。だが確かに地図と照らし合わせると、問題の一方向からは違和感が漂って来る。
壁に目を凝らす。そこには、よく見なければわからない程度の、人工的な繋ぎ目があった。
巧妙に隠された隠し扉だ。押しても動かない。隙間から複数の溶接跡を確認する。
そのうちの一つは内側から施されていた。おそらくは自動で外から行われたものと比べて、明らかに均一ではない仕事ぶりだった。
──これだけが人力。ならば導き出される結論は一つ。
この扉は人の手によって内側から閉じられたのだ。それも暗闇の中、まるで何者かに急かされてそうしたかのような危険な状況下で。
連絡を受け、ジャラジャラと工具を鳴らしながら、派遣された工兵が全速力で駆けてくる。設置型の大型カッターを壁へと取り付け、騒音を響かせながら作業を続ける事、数分。
がちん、と腹に響く金属音と共に全ての溶接が絶たれ、ズズズ、と重々しい音を立てて扉が開いた。
そして奥にある空間へと、一斉に兵士達が雪崩れ込んだ。
彼等を迎えたのは、夢のような曖昧な時間。
部屋全体を包む厳かな薄闇。
眠るように響く深い機械の唸り声に、こぽりこぽり、と歌うような泡音が交差する。
さぁ、と一斉に部屋の外に流れ出る大気中の埃を、闇を照らす淡い光源が、きらりきらりと輝かせた。
部屋の最奥。そこにあったのは、二つの培養槽。中では、二人の子供が健やかな表情で眠りについている。
フラスコチャイルド。
遺伝子操作によって人間そのものを、その生のスタート地点から、軍事利用という一点へと研ぎ澄まし、ごく短期間で戦場へと叩き込む。
この世界にあってさえ──いや、戦いに満ちた世界であればこそ、本来は非道に分類されるべき禁忌の技術。この場に居る兵士達の中にも、その存在を初めて目の当たりにした者が少なく無かった。
「……」
何かに気付いた兵士が部屋の隅へと駆け寄り、テーブルの陰へと屈み込むも、すぐにかぶりを振った。
そこには事切れて長い時間を経た、白衣の男性の亡骸が横たわっていた。
近くの壁には溶接機が立てかけられている。どうやら彼自身の手でこの部屋は封じられたらしい。
机の上には一揃えの手記が置いてある。
読み進める兵士達。その内容は、言葉を失うに十分なものだった。
──リチャード・マイヤー。
彼には一つの悩みがあった。
それは子供を遺せない事。
他の大多数の人々とは違い、彼は自らの意思に反し、遺伝子を次世代に伝えるという、人並みの幸福を得る自由が無かった。
苦悩の種としては十分なもので、事実、彼は鬱屈した毎日を過ごしていた。
そんなある日、都市に滅びの兆候が現れた。
機械兵団の侵攻が迫り始めたのだ。騒がしさを増していく都市の中で、彼はひとり考えていた。
自身の専門は遺伝子工学。
元より平時など存在しないに等しい。この考えが彼の脳裏に浮かばなかった訳ではない。
だがそこへ急遽、研究の為に資材の山が集中投下される。普段は容易に押さえ付ける事が出来ていた筈の彼の考えは、気付いた時には実行が可能となっていた。
明らかに人類そのものが、彼に対し禁忌を冒す事を望んでいたに違いなかった。
動機、機会、正当化。
この3つが揃った時、人は簡単に道を踏み外す。
悪を弑すには悪こそ善かれ。結果は手段を正当化する。そうした転倒した論理は大義へと姿を変え、あるいは彼にとっての個人的な光明となった──少なくとも、その時には。
抵抗も虚しく、戦況は悪化の一途を辿る。
漂い始めた敗色の中で、彼は研究に没頭していった。
我が子らの『製造』。
鍵は電気。彼はそう考えた。
全ての機械のウィークポイントであり、生体とも深く関係するこの自然現象を、意のままに操る事が出来ればどうなるか。
同様の力を持つ超能力者──いわゆるエレクトロキネシスの使い手は古来より存在していたし、今も存在している。だがそうしたケースは自然発生を待たねばならず、また能力の度合いも個々でまちまちとなる。
ならば彼等の情報を総合し、洗練させ、最高のものを遺伝子レベルで一からデザインし直せば、どうか。
その成果として考えられるのは、電磁波の送受信能力。
これにより、機械兵団の通信を片っ端から傍受する事が出来るだろう。
鍛錬次第では応用が可能となる。つまり、こちらから誤情報を送信する事も出来るかも知れない。もしそうなれば、情報戦で圧倒的な優位に立つ事が出来るに違いない。
ならば、と彼は想像を進める。この能力が行きつくところまで行ったとすればどうなるか。
答えは機械兵団の操作。
強力な個体のみならず、軍隊そのものの支配すらも、理論上は可能だと。
世界のために。人類のために。
そうした情熱は研究の助けとなった一方で、同時に彼が模範的な研究者に相応しい倫理を備えていた事が、次第に仇となり始めた。
ある日、培養槽を眺めた時に、ふと気づいた。
子供達があまりに愛らしい容姿を備えていた事にである。
その瞬間、彼の胸中に悔恨が溢れ出た。
ガラス越しに何度も詫びた。
愛情もたくさん伝えた。
無慈悲な世界を恨み、多くの人達を守れなかった事を悔いた。
そして何よりも、己の無力を悔いた。
──何故に科学はこれを禁忌としていたか? まさに目の前の如く、輝かしい子供達の未来を狭め、奪う為に他ならないからでは無かったか。
隠し部屋を突貫工事で作らせる一方、彼自身は何かに憑かれたように研究を加速させる。
その一方で戦況は絶望的なまでに悪化していく。既に市街地の至る所で拠点が陥落し、機械兵団は街の中枢に対する包囲をじりじりと狭めていた。
脱出不可能。時間切れ。研究は完成間近まで迫っていたが、もはや二人の秘密兵器が投入されたところで、戦況は覆らなくなっていた。
──やがて機械兵団が研究所に乗り込んだ時、既に『子供達』の身柄は此処に移されていた。
危うい所で彼は扉を内外から溶接する。壁の向こう側からは微かに殺戮の音が聞こえていたが、やがてそれも聞こえなくなった。
物理的に遮断されたこの部屋を機械兵団は見つけ出す事が出来なかった。それは彼自身が己と仲間の生存と引き換えに手を尽くした結果である。
我が子を抱き上げるという夢は、遂に叶わなかった。
それでも息絶える寸前で、彼は研究を完成させた。
遺体は何も語らない。
培養槽は仄かな明かりを放っている。
両者の間で、兵士達は長い時間を立ち尽くしていた。
最後に一人の兵士が紙の裏をめくる。
そこには二人の名前が記されていた。
遺志は受け継がれた。
兵士達は頷き合うと、何も言わずに隠し部屋を出る。
彼等の背中を見送ったのは、子供達だけ。
再び訪れる静寂──それを破るように。
二人のうち片方から、こぽり、と泡音が上がった。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴 成功