シナリオ

出会いも別れも笑えたならば

#√EDEN #√妖怪百鬼夜行 #卒業

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 #√EDEN
 #√妖怪百鬼夜行
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●ふわ、ふわわ
 くらげがたゆたゆと。
 漂っていました。
 くらげに目はありません。けれど、見ていました。くらげはインビジブルです。自身の姿は只人には映りません。けれど、ずっと見ています。見つめていました。
 じっと、見つめていたのは、
 学生服の、少年。
 眦を怒らせたその少年は、すうっと壁を抜け、学校の中に入っていきます。
 彼もまた、|幽霊《インビジブル》なのです。
 けれど、その表情の険しさ、放っておくとどうなってしまうか……想像もつきません。
 キュゥ、とくらげが、誰にも聞こえない声で鳴きました。
 そのままふよふよと、少年とは別の方向へ漂います。
 ——『インビジブル・クローク』は、|√能力者《だれか》を探して、漂います。

●自販機は見た
「お飲み物はいかがですか?」
 どういう状況なのだろう、とあなたたちは思ったことでしょう。あるいは、普通に飲み物を買おうか物色し始めたかもしれません。
 星詠みに呼ばれて来たはずが、鎮座するのは自動販売機だったのですから。その自販機も、音声案内の合成女性音声で平然と飲み物を勧めたりするので、いよいよ本題は何処に、となることでしょう。
 すると、不意に咳払い。合成音声のものです。機械なのですから、咳払いなんて必要ないでしょうに、と思われるかもしれませんが、何を隠そう、この自販機こそ、星詠みなのです。
「はじめましての方が多いことでしょうから、はじめまして。私は『アクジキジハンキ』という怪異のような妖怪です。以後お見知り置きを」
 一応、食神・深雪という名もございますが、私はアクジキジハンキという名の方が好きですので、こちらを名乗りますね、と前置き、自販機は続けます。
「インビジブル・クロークというのをご存知ですか? 私は横文字に明るくないため、意味はよくわからないのですが……くらげのような形をしているとか。そのくらげどんにまつわる依頼となります」
 インビジブル・クロークをくらげどんと呼ぶのはなかなかいないのではないでしょうか。けれど、この名が出たということは、任務地は√EDENのようです。
「√EDENのとある学校に、くらげどんがたむろしております。学生を喰うといった悪事ははたらいておりませんが、√能力者を見つけると、やたらと絡むようですね。私も絡まれました」
 現場検証をしたのですよ、と自販機は言います。
「わかったことは二つ。まず、くらげどんは私たちに何か訴えたいことがあるということ。これをどうにか汲み取ることができそうな方がいらしたら嬉しいですね。そのまま和睦とはいかないでしょうから、普通に戦っていただいてもかまいませんが。
 二つ目。現場に古妖の気配を感じました。√妖怪百鬼夜行から、√EDENに|√《みち》が開かれてしまったのでしょう。くらげどんはただ古妖の気配に惹かれている可能性が高い」
 しかし、何かを訴えかけている、と聞いて、気にならないという者の方が少ないでしょう。アクジキジハンキはさっぱりとした様子で続けます。
「くらげどんの扱いはお任せ致します。過程はどうあれ、古妖を退けることができればいいのですから。
 健闘をお祈り致します」

マスターより

九JACK
 九JACKです。
 やっと√妖怪百鬼夜行のシナリオに手をつけられました。
 アクジキジハンキは結構愉快な自販機なので、見かけたらよろしくです。
 オープニングを読みつつ、みなさまらしいプレイングを送っていただけたらと思います。断章はありますが、いつも通り、オープニングにちょっと色をつける程度のフレーバーなので、気にせずプレイング送ってください! いつもの短期間募集です。
 一章受付はオープニング公開から翌日15時までとなります。
 それでは、楽しい√旅を。
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よろしいですか?

第1章 集団戦 『インビジブル・クローク』


POW クロークテンタクル
半径レベルm内にレベル体の【クラゲ型インビジブル】を放ち、【接触】による索敵か、【痛みをもたらす触手】による弱い攻撃を行う。
SPD 溶解針
自身の【触手】を、視界内の対象1体にのみダメージ2倍+状態異常【溶解毒】を付与する【毒針】に変形する。
WIZ ライフスクイーズ
敵に攻撃されてから3秒以内に【触手】による反撃を命中させると、反撃ダメージを与えたうえで、敵から先程受けたダメージ等の効果を全回復する。
√EDEN 普通11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

●肉体言語かな?
 案内されたのはとある公立高校。まだ蕾もつけていない冬の桜が立ち並んでいます。
 一見すると、花が咲いているように見えなくもないふわふわが、枝の付近を漂っています。それが「|インビジブル・クローク《くらげどん》」です。
 くらげどんが、こちらに気がつきました。あなたたちが身構えたのを見て、知性があるのか、近づいてきます。何かを訴えかけるように、突進してきます。
 主な攻撃手段である触手を使わないあたり、何か意図がありそうです。
 さて、彼らが伝えたいこととは一体……?

●マスターより
 くらげどんとコミュニケーションが取れなくても章は進みますのでご安心ください。
アガーテ・デア・フライシュッツ
※アドリブ歓迎、共闘希望

WIZ判定

【作戦】
インビジブルたちを√能力で拘束した後に、
仲間内にゴーストトーカーみたいな能力持ちが居ないか探す。
居なかったら、渋々身振り手振りで返事をするように持ちかけて
彼ら?から伝えたいことを聞き出す。

【心情】
はーい、痛くないからじっとしててねー
(『聖銃メギド』から光弾が放たれ、命中した相手を光殻シェルターに閉じ込める)
それでさー、キミたちコッチの言ってることわかる?
なにか伝えたいことが有るなら聞くからさ、
おーい誰か幽霊と話せる人って居る?

仕方ない、居ないなら面倒だけどフィーリングでやってみるかー
キミ「はい」なら手を上げて「いいえ」なら手を振るってできる?
エルンスト・ハルツェンブッシュ
くらげに、絡まれた。自販機さんが?
ちょっと見てみたかったや、その光景。良い写真になりそう!

たむろしてる。勝手に近づいて……くるね?
友好的みたいだけど、一応【|制止《ダメ》】を構えておくよ
大人しくしてたら可愛いね、結構
じゃあ触手で、「はい」と「いいえ」で答えてくれる?頷くとか、振るとかさ。首みたいに

えっと。お友達と喧嘩した?
その木もきっと関係あるよね。だってみんな、そこに集まってるんだ
その桜、咲いたら絶対綺麗だよね!
……今、卒業シーズンだけど、これはどう?

当てずっぽうだけど……ボク、『|子供《少女》』でね。
卒業に良い思い出、あんまりないんだ。
君たちや、お友達は……どうかな
教えて。力になりたいんだ
シンシア・ウォーカー
[アドリブ/連携歓迎][WIZ]
歩いてるだけでクラゲに絡まれたのですが!随分血の気が多いんですね?
いいですよ、こちらだって√能力者ですからお相手しましょう。|雑用インビジブル《私のクラゲ》を呼び出して盾代わりにしつつ、相手がひるんだ隙に【全力魔法】を叩き込――ん?もしや彼らがジハンキ様の仰っていた例のインビジブル・クローク!
一旦攻撃中止。√能力ゴーストトークで対話を試みます。
意思疎通できなさそうなら普通に攻撃しますが!

私、ゴーストトーカーでして。
……インビジブルパシリ屋って言ったの聞こえましたよ。余計なことを言うな雑用。

生憎古妖の類はさっぱり知識がありませんが、私がお力になれることがあれば。
クラウス・イーザリー
人に危害を加えないのなら無理矢理敵対する必要も無い
まずは意思を汲み取れるように努力してみよう
※星詠みにつられて、インビジブル・クロークのことは『くらげどん』と呼ぶ

突進をもふっと(むにゅっと?)受け止めて防ぎながら√能力『穏やかな対話』を発動
インビジブルに話を聞く能力だからくらげどん相手に効果があるのかはわからないけど、ものは試しだね
「少し、話を聞いてもいいかな」
上手く効果を発揮したら何を訴えたいのか真摯に聞き届けるよ

意思疎通ができなかったら仕方なく戦闘で追い払うけど
できればちゃんと話を聞いてあげたいな
……くらげどん、大人しくしていればちょっと可愛いかもしれない(?)

※アドリブ、連携歓迎です
青木・緋翠
クラゲさんからお話を聞けばよいのですね
スマートグラスでクラゲさんの動きや周辺を観測しながら、お話ししましょう
「青木緋翠と申します。何か訴えたいことがあると伺いました。筆談は可能ですか?」
タブレットと、それ用のペンをお渡しします
持てないようであれば動きに従って代筆しましょう

もし難しそうであれば、どこかへ案内したいようであれば着いて行きます
異常があればスマートグラスで検知できるでしょう

言いたいことが分かった後は、クラゲさんがこちらや周囲を攻撃しないのであれば、人を襲わないようお願いしてそれ以上は何もしません
インビジブルが悪というわけではないですからね
襲ってくるようであれば、√能力で戦います
渡瀬・香月
自販機で何が買えるのかがまずは気になっちまうけど…それは置いといてくらげどんだな。

クラゲって言ったらやっぱ中華料理だよなー。
キュウリと一緒にごま油や酢なんかで味付けしたやつ。あれ美味いんだわ。
ってくらげどんめっちゃ突進して来んじゃん!?
そんだけ必死って事はきっと何かを訴えたい…のか?
ちょっとどうだかわかんねーけど教えてくらげどん!
ゴーストトーク!!!

俺、平和的なインビジブルは嫌いじゃないんだよな。むしろ友達だと思ってる。
仲良くしてくれると嬉しいんだけどなー。
とりあえず用が済んだら√妖怪百鬼夜行にお帰り願えんか?
むしろそっちの√案内してくれよ。今流行りのものとか料理とか。
…料理食うんかな。
開口・味味
くらげどんの訴えたいことなど、今のボクにわかるはずもなし。
いや、妖怪探偵の面目もない。誰かインビジブルと|疎通《こみゅ》が取れる人はいませんかね?
どちらにせよ、ボクなりに対応してはみますけど。

「聞こえているなら応えて欲しい」「何処か、ボクらを連れていきたい場所でもあるのか?」

あるならそちらに誘導してくれ、という話。
まあ、聞いてくれるにしても無理にしても。

「探偵に頼み事をするなら、依頼料です」「ああ、一口で構いませんよ」

【怪異解剖執刀術】。触手を包丁で捌いてぺろり。
――あちらも突進してくるワケですし、お相子ですよね?

あとはほら、強さを示すとかそんな感じで。食べたかっただけではないですよ?
尾崎・光
学校かあ。
とりあえずOB顔して堂々と入ればまだ年齢的に問題ないかな。

雀とかなら冬の風物詩で済むけど
くらげが木に鎮座してるのはまた異様だよね。
妙に綺麗で面白いけど。
絡まれたの具体的な内容を聞いてくれば良かったかな。
まあいっか。

念のため護霊符に反撃なしのただの防護を仕込んでから近づこうか。

もう僕以外の誰かも試してそうだけど、
情報は多い方が良いだろうしね。
という訳で可能な範囲でおしゃべりして貰おうか。
事と次第では協力できるかもしれないよ?
何なら道案内してくれてもいいよ。
※絡み、アドリブ歓迎

●くらげどんの主張
「くらげに、絡まれた。自販機さんが?」
 学校の敷地に足を踏み入れながら、エルンスト・ハルツェンブッシュ(あまいろの契約・h02972)はその大きな瞳をきらきらとさせていました。
「ちょっと見てみたかったや、その光景。良い写真になりそう!」
 普通、自販機がくらげに絡まれることなどあり得ません。自販機は陸にあるもので、くらげは海洋生物、それ以前に自販機は通常、非生物です。そもそも出会うはずのない組み合わせです。
 あり得ない組み合わせ。それが奇天烈であればあるほど、人は想像を掻き立てられ、夢見るものです。くらげに絡まれる自販機、なんて字面からしてあからさまにシュールなのに、何故でしょう、「見たことがない」というだけで、見てみたくなってしまいます。
 エルンストは写真が好きなので、珍しいものを撮ってみたいと思ったようですね。淡紅色のくらげどんはわりと綺麗ですし、なかなかいい絵になったのではないでしょうか。
 そんな脇で、渡瀬・香月(ギメル・h01183)も星詠みの話を振り返ります。
「俺は自販機で何が買えるのかがまずは気になっちまうけどなぁ」
 今時の自販機は色々置いています。それに、料理好きの香月からすると、ジュースも立派な調味料の一つです。塊肉を調理する際に、コーラを使うと肉が柔らかくなったり、香辛料の香りがついたりなどありますからね。
 それはさておき。
「とにもかくにも、くらげどんだな」
「そうだね」
 敷地の中に入ると、くらげどんがふよふよ桜の木のあたりを漂っておりました。異様な光景ではありますが、どこか綺麗で儚い雰囲気がある気もします。くらげってなんだかそういうところがありますよね。
 エルンストや香月より先に、敷地に踏み入れている者もいました。しかし、残念ながら、開口・味味(『舌先探偵』・h02588)はゴーストトーカーではありません。
「くらげどんの訴えたいことなど、今のボクにわかるはずもなし。いや、妖怪探偵の面目もない」
 少し肩を竦めつつ、味味は話せないなりにコミュニケーションを図ります。攻撃ではないなりにこちらにアタック(物理)してくるのです。何か訴えたいことがあるのはわかりました。
 ちょいちょい、と触手をつついてみます。ふにゅっとしながら振り向くくらげどん。
 味味は問いかけました。
「聞こえているなら応えて欲しい。何処か、ボクらを連れていきたい場所でもあるのか?」
「——! ——!」
 くらげどんに言葉を介する能力があるのかは不明ですが、味味の言葉に何やら身振り手振りで答え始めます。まあ、彼らにあるのは触手ですが、あまり細かいことは気にせず行きましょう。
 どこかを指差しているように見えます。エルンストがそれを見て、ぽんと手を突きました。
「えっと。お友達と喧嘩した? その木もきっと関係あるよね。だってみんな、そこに集まってるんだ。その桜、咲いたら絶対綺麗だよね!」
 当てずっぽうだけど、と言いつつ、考えを並べていきます。味味と香月はくらげどんを観察していました。
 くらげどんはというと、触手をばしばしとしています。エルンストが右手で触れて【|制止《ダメ》】をしているので、毒針が出たりはしませんが。否定か肯定かはいまいちわかりません。
「クラゲって言ったらやっぱ中華料理だよなー。キュウリと一緒にごま油や酢なんかで味付けしたやつ。あれ美味いんだわ」
「お、それ、ボクも好きです」
「!?!?!?」
 くらげどんを眺めながら雑談をし始めた香月と味味、その話の内容に、命の危険を感じたらしいくらげどんたちが、一斉に二人にタックルを決めます。ふよんとしていて押しには欠けますが、一瞬の隙を作るにはじゅうぶん。
「一口ください。依頼料に」
 ではありませんでした。
 味味のメスが閃き、くらげどんの触手を一つ切断します。誰かが口を挟む暇もなく、味味はぺろり。
(く、食ったーーーーーーー!?!?!?)
 知れず、香月とエルンストの思考がリンクします。まあ、【怪異執刀術】によるものなのですが。
「あぁ、食べたかったわけじゃないですよ? ボクは探偵ですから、種族はどうあれ、依頼料はいただきませんと」
 それに、力量の差を見せることで、素直になっていただく、というのも、交渉術でございますゆえ。
 くらげどんは、声が出たならば「ぴきゃーーーーーーーー!!」とでも叫んだんじゃないかと思えるほど、勢いよく逃げようとしますが、それを香月が止めます。
 触手を掴まれて、困惑するくらげどんでしたが、その姿はみるみる、ランドセルを背負った女の子のものに変わっていきます。
 エルンストと味味はびっくりしました。
(この人、ゴーストトーカーだったんだ)
 最初からこうしてくれればよかったのでは? とも思いましたが、まあ、あれです。エルンストが一所懸命コミュニケーション取ろうとしていましたし、それに応じようと必死な様子のくらげどんの間に挟まるのもあれでしたからね。
 料理好きの香月と実はグルメな味味が揃ってしまったから、あんな会話になってしまっただけなので。本当に食す気はないのですよ?
「俺、平和的なインビジブルは嫌いじゃないんだよな。むしろ友達だと思ってる。仲良くしてくれると嬉しいんだけどなー。んで、何を伝えたかったんだ?」
「え、ええと、えっと」
 女の子は緊張した様子で、黄色い帽子を目深にかぶります。香月は目線を合わせるようにしゃがみましたが、小学生の内気そうな女の子からすると、大きいお兄さんは少し怖いのかもしれません。
 代わりに、エルンストもしゃがんで話しかけます。
「ボク、『|子供《少女》』でね」
 場の全員の頭上に疑問符が並びます。エルンストは確かに少女と表しても問題のない見目をしていますが、少年です。声とか、口調とかでなんとなくわかります。あからさまというほどではないですが。
 まあ、多様性の言葉であらゆることを許容する令和のこの時代、性自認についてあれこれ言うのは野暮でしょう。エルンストの事情は性自認とかそういう次元ではありませんが、くらげどんだった女の子も含め、深く考えるのはやめました。
 エルンストは少し、困ったような、苦笑いのような顔をして、女の子に話します。
「卒業に良い思い出、あんまりないんだ。君たちや、お友達は……どうかな。教えてほしい。力になりたいんだ」
 お友達と喧嘩しちゃったなら悲しいし、卒業に寂しい思い出があるのなら、寄り添いたいよ、と。
 なるほど「|少女《おんなのこ》」らしい、真綿のような優しさです。
 女の子は、エルンストを見ました。揺らめく目で、ラピスラズリみたいなエルンストの目を見つめます。
「……こっち」
 やがて、空気に溶けるような小さい声ではありましたが、女の子は口を開き、エルンストの手を取って、歩き始めました。
 すっと指差しで示された先には、体育館があります。

●どうどうどう
「歩いてるだけでクラゲに絡まれたのですが! 随分血の気が多いんですね? 痛——くはないですけど」
 『インビジブル・クローク』からの猛アタック(物理)を受け、少しカッカッと気が立ってきたセレスティアルの淑女がおりました。シンシア・ウォーカー(放浪淑女・h01919)です。
「いいですよ、こちらだって√能力者ですからお相手しましょう。|雑用インビジブル《私のクラゲ》を呼び出して盾代わりにしつつ、相手がひるんだ隙に【全力魔法】を叩き込」
「待った待った!!」
 咄嗟に制止したのはアガーテ・デア・フライシュッツ(双極の弾丸・h05890)。シンシアと同じセレスティアルです。『聖銃メギド』から光弾を放ち、インビジブル・クロークを【|天使のたまご《エンジェリック・エッグ》】で保護します。
 なるほどその手が、と思ったシンシアですが、同時に気づきました。
「あ、もしかして彼らがジハンキ様の仰っていた『インビジブル・クローク』ですか!」
「そうみたい。ほら、アタックはしてくるけど、毒針とか、√能力での攻撃はないじゃん?」
「そういえばそうですね」
 アタック(物理)を受けてはいましたが、シンシアには傷一つついていません。敢えて言うなら服が少しくしゃっとなったくらいです。
 『インビジブル・クローク』は通常、|外套《クローク》のように覆い被さり、人間を連れ去る凶悪なインビジブルです。毒針を出す攻撃や痛みをもたらす触手の攻撃など、厄介な能力を持っているのです。が、それらを使う様子はありませんでした。
「インビジブルだから、喋れないんだろうね。ゴーストトーカーがいればいいんだけど」
「あの、私、ゴーストトーカーです」
 シンシアの名乗りにアガーテが驚きます。
『インビジブルパシリ屋』
「聞こえていますよ、雑用」
 呼び出されていた攻性インビジブルたちがぼそっと一言。シンシアは鋭い視線を向けました。くらげの形をした雑用インビジブルたちは、素知らぬふりをしてぷかぷかとその辺を漂いました。
「よかったー。ゴーストトーカーがいなかったら、ジェスチャーとかで意思疎通できないか試そうと思ってたけど、相手はインビジブルだからね。やっぱり専門家に任せるのが一番」
「ふふ、お役に立てそうでよかった。では」
 降霊の祈りが捧げられます。セレスティアルが祈りを捧げている姿は、神聖さが増していて、とても効果が高そうですね。それに応じて、卵型シェルターに閉じ込められたくらげどんが姿を変えていきます。
「ワン!」
「「犬っ?」」
 二人の声が揃いました。
 【ゴーストトーク】が失敗したわけではありません。確かに、インビジブル・クロークは【生前の姿】に戻ったのです。人間じゃなかっただけで。
 けれど、人間じゃないからといって、知性がないわけではありません。元々、犬は訓練を受ければ警察犬として活躍できるほどの賢い生き物です。
 ハッハッと息を繰り返す犬に、アガーテがコミュニケーションを試みます。
「コッチの言ってることわかる? わかるなら手を挙げて」
 ぴっと犬は前足を挙げます。おお、と二人は感嘆しました。
「じゃあ、質問するから、『はい』なら『おて』、『いいえ』なら『おかわり』できる?」
 おて。
「滅茶苦茶賢いな……これが【ゴーストトーク】の力」
「それもあるでしょうけれど、元々賢いワンちゃんなのかもしれませんね。ほら、もしかしたら飼い主さん絡みで何か起こってるとか」
 おて。
「えっ」
「飼い犬だったの?」
 おかわり。
 どういうことか、と二人は顔を見合わせました。けれど、閃きます。
「飼い主じゃないけど、お世話になった人が大変、とか?」
 おて。
「な、なんか滅茶苦茶賢いですね!」
「本当ね。飼い主さんはここにいるの?」
 おて。
「案内してもらえますか? 古妖には詳しくないですが、お力になれることがあるかもしれません」
「あたしも同じ気持ちだよ。キミの大事な人を助けよう」
 おて!

●穏やかな対話
「雀とかなら冬の風物詩で済むけど、くらげが木に鎮座してるのはまた異様だよね。妙に綺麗で面白いけど」
 淡紅色のくらげどんたちがぷかぷかと浮かぶ様を見て、そう呟いたのは尾崎・光(晴天の月・h00115)でした。星詠みの自販機に絡まれたときの具体的な内容を聞いてくればよかったかな、と思いつつ、光はぱちん、と指を鳴らします。
 くらげどんたちの姿がぱっと切り替わりました。ひばりの姿です。ピルピルと鳴きながら、何かを歌っています。
 光の【ひばりのおしゃべり】です。生前の姿にすることもできますが、春も近いので、ひばりが並んでいるのも風情があって良いのではないですかね。それに、ひばりたちの声が、光に色々教えてくれます。
「体育館に、不良少年が? 彼が心配で足取りを追ってきたと。ふむ」
「春の鳥がもういると思ったら、そういう√能力なんですね」
 鳥たちと会話していた光のところに、青木・緋翠(ほんわかパソコン・h00827)が声をかけました。スマートグラスをかけ、タブレットとペンを用意したりと、彼なりにくらげどんとの交流を図るつもりだったのが伺えます。
 春は近いですがまだ肌寒さは残っています。そんな中、春の鳥であるひばりの声がしたものですから、思わず寄ってきたのです。
「彼らは何と証言していましたか?」
「人を追って、ここに来たようだね。それぞれ事情は異なるみたいだけど、その人……少年とは生前、何らかの関わりがあったくらげたちみたいだよ。少年が良くない気配を抱えていたから、心配になったんだって」
「健気なくらげさんたちですね」
 情報としてはじゅうぶんですが、欲を言うならもっと仔細を知りたいところ……と思っていると、一人、黒衣の少年がこちらに向かって歩いてきています。なんだかずいぶんとくらげどんたちに懐かれている様子で、ふにふにとくらげどんが二匹ほどまとわりついているのはクラウス・イーザリー(希望を忘れた兵士・h05015)です。
 ひばりに変化していなかったくらげどんが新たに何匹か、クラウスに突進していきます。敵意や害意がないので、抵抗なく、クラウスはそのふにゅっとした体を受け止めました。
「ずいぶん懐かれていますね」
「ええ。敵意や害意がないとは聞いていたので、わざわざ攻撃したりはしないけど……どうやら、くらげどんたちが追ってきた子と、俺の年頃とか、背格好が近いみたいで」
 ふにふにとくらげどんを撫でながら、クラウスが後ろを振り向きます。クラウスの背から、ひょこっと顔を出したのは、目の大きい男の子。少しばかり小柄なようですが、学生服を纏っているので、中学生か高校生くらいなのでしょう。
 ふんわりと笑う様子はくらげどんを彷彿とさせなくもありません。生前の姿に戻った血色のいい肌。頬は嬉しそうに緩んで、ほんのりと朱が射しております。
「こんにちは。おにいさんたちも、ダイキくんを助けてくれるの?」
「ダイキ?」
「この子をはじめとした、くらげどんたちが心配してる少年の名前だよ。不良少年だったみたいだけど、心優しい一面もあったんだって」
「そうなの! ダイキくんはすぐ手が出るタイプだから、喧嘩とかして、先生に怒られてたけど、いじめられてるぼくを助けてくれたんだ」
 他にも泣いている女の子には飴玉やチョコをあげて話を聞いたり、雨の日に段ボールに捨てられた子犬を見つけたら、傘を差してあげたり……と、クラウスの連れてきたくらげどんの証言に、三人はぼんやり思いました。
 今時そんなテンプレートな不良少年いるんですね……。

●行こう、くらげどんのために
 そうして、それぞれ、くらげどんから情報を得た√能力者たちは、体育館前に集まりました。
「なるほど、そのような事情があったのですね」
「いい子なら、助けてあげたいね」
 シンシアとアガーテは、案内してくれた犬を撫でながら、うんうんと頷きます。きっとこの犬は、ダイキに助けられたおかげで、ここまで立派に育ったのでしょう。天寿をまっとうしてこの姿になったのなら、それはきっといいことなのです。
「子どもが何かに巻き込まれてるなら、見過ごすわけにはいかないな。もう既に|亡い人《インビジブル》だとしても」
 香月の言葉に、√能力者たちは同意します。くらげどんたちからの証言で、少年が亡くなっていることは聞きました。
 どうやら、古妖が√EDENに侵攻するための依り代にされてしまっているようです。
「情念に漬け込むのは|古妖《アレら》のよくやる手口。妖怪探偵として、しっかり務めを果たしましょう。依頼料もいただきましたし」
 ランドセルの女の子が「依頼料」という味味の言葉にびくっとしましたが、味味は「もう食べませんよ」とハンズアップをして微笑みました。ほっと小さく胸を撫で下ろす女の子。
「ダイキくんは、卒業式の前の日に死んじゃったんだ。ちょっと粗暴でぶっきらぼうだったけど、ダイキくんが本当は優しい子だってわかってる子もたくさんいたから、一緒に卒業できるのを、楽しみにしてた。……ダイキくんも、楽しみにしてたんだ」
 小柄な男の子がほんのり切なげな表情をしました。
 利用されるとしたら、「卒業式を迎えたかった」という願い。情念。死者の無念を利用し、誑かすなど、許されざる悪しき行いです。
 けれど、その前に。利用されているダイキを助け、依り代から解放する必要があります。それは同時に、古妖を弱体化させることにも繋がりますからね。
 ダイキと縁あるくらげどんたちが、各々の姿、眼差しで、√能力者たちを見つめました。
 代表して、小柄な少年が言います。
「どうか、ダイキくんをお願いします」
「はい。どうか、あなたたちは元の姿に戻っても、人を襲わないで過ごしてくださいね」
 添えられた緋翠の言葉に頷くと、彼らはくらげどんの姿に戻っていきました。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

第2章 冒険 『〇〇からの卒業』


POW 拳で語り合って撃退する
SPD 正論でぶち当たり撃退する
WIZ 想いを語り愛を教え撃退する
√EDEN 普通7 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

●ただ願っただけだった
『若くして死んでしまったのか。無念であろう。何か思い残したことはなかったか? 我が叶えてやろう。代わりに少し、手伝ってもらいたいことがある』
 荘厳な声。雄々しい……あれは鹿でしょうか。漂っていたダイキはぼうっと目を細めてから、ぱちぱち、とソレを見つめました。
 甘言。普段ならダイキは、そんなものに簡単に靡いたりはしません。けれど、ちょうど、自分が死んだ時期が近づいており、彼は死んだ当時の無念を思い返すことが多くなっておりました。
 不良として、怖がられ、一匹狼を気取って、人とつるまないようにしていたダイキですが、人が嫌いだったわけではありません。自分は確かに少し、悪いことをするけれど、それは犯罪には至らない程度で、当たり前を享受することは許されるはずだ、と。
 そう、彼は、当たり前にみんなと、卒業式を迎えたかっただけでした。それができなかったのは、交通事故に遭ったから。
 道路に飛び出てしまった、怪我をした猫を助けたのです。助けたことをダイキは後悔していませんし、その猫を逆恨みするなんてもってのほかです。
 それでも、卒業式には、出たかったなあ、とぼんやり思うのです。人と馴染めなくとも、どうにか生きていけるものなのだと。
 だから、頷いてしまいました。この無念を、心の滓を、どうにかしてくれるのなら、と。
 邪悪な存在なんて知らず、気づきもせずに。

 体育館に入ると、学ランを着た短髪の少年が立っていました。
「やンのか?」
 √能力者を認めるなり、彼は拳を構えます。
「卒業式、終わってたよ。ホント、クソみてぇな騙し方しやがる」
 黒い右目から、つう、と涙が零れます。左目は淀んで、光を返しません。
 依り代にされて、乗っ取られかけているのでしょう。微かに残った意思が、結局迎えられなかった「卒業式」への無念に、涙を流しているのでしょうか。
「かかってこいよ。全部殴って、蹴り飛ばして……せめてすっきりしてから、消えてやる」
 操られているからなのか、彼の本音か。判然としませんが、彼は【喧嘩殺法】で挑んでくるようです。
 何か言葉をかけるより、拳で語り合った方が、ダイキには届くかもしれません。
クラウス・イーザリー
「それで君がすっきりするなら、構わないよ」
古妖の支配から逃れる方法なんて、妖怪に詳しくない俺にはわからないけど
拳で語り合えばどうにかなるんじゃないかと信じて

武器を使わず、こっちも喧嘩殺法でダイキの喧嘩に応じる
あまり攻撃はせず受け流しを主体に彼の攻撃を捌く
思い切り殴られて彼が満足するならそれも吝かじゃないけど、多分そういう暴力的な人じゃないと思うし
隙を見てカウンター気味に拳を入れて、衝撃で正気に戻そうと試みるよ

正気に戻ったら穏やかな対話も使って話す
いろんな『ひと』達が君のことを心配していたよ、とまず伝えて
それから彼を唆した古妖のことを聞こう

大丈夫、悪いやつは俺達が倒すから
君は何も心配しなくていい
青木・緋翠
はい、では卒業式をしましょう。俺、学校行ったことないんですよね。だから見てみたいです。必要な物は3Dプリンタで作れます。大きいモノでも大丈夫ですよ。

くらげさ……くらげどん?にも参加してもらってみんなで卒業したら良いのです。縁者が多いということはダイキくんもこの学校の生徒でしょうか。場所を聞いて教卓に√能力を使い、先生の記憶に卒業式を行ってもらうよう交渉します。ダイキくんが抵抗するなら、先生に叱ってもらいましょう。応報のフロッピーディスクからお説教を再生します。3倍効きますよ。

俺はいつか入学してから卒業したいので、今回は準備係 兼 保護者ということで。
開口・味味
古妖は生者どころか、死人の都合も考えやしない。
わかっているコトだけど――胸が悪くて食えたものじゃないな。

喧嘩殺法に探偵刀で正面から[切り込み]。[元気]で張り合う。

「殴って蹴り飛ばすだけですっきり? そんなので消えて満足か?」
「操られてるのか捨て鉢か知らないが、そんな奴に[元気]で負けるかよ」
「言い返したいならやってみろ」

終わったら、【ようこそ探偵事務所へ】。
卒業証書とか、文集とか、そういうのが取り寄せられるか試してみよう。

下手な慰めなのはわかってる。
モノが欲しいんじゃなく、『卒業式がしたかった』んだろうし。
でも、もう過ぎてしまったコトだから。ボクに手向けできるのはそれくらいだ。
尾崎・光
君がダイキくん?
さっきのクラゲたち、連れてくれば良かったね。
いじめられているのを助けた子とか
今でもきみを慕ってる子たちが沢山いるよ。
君だけの卒業式も、やろうと思えば今から準備できるけどどう?
幻影で彼らを呼び出す事も出来るし
……あ、もう他人を信じられない感じ?
荒事は苦手なんだけど、仕方ないなあ。
避けられるものは避けて、避けられないものは√能力で。
√能力からのダメージは極力抑えないと……
そうだね、一瞬しびれてちょっとだけ足が止まる程度に。
そのうえで背後から彼の背を悪いものを焼却する霊力攻撃を乗せて思い切り叩いておこうか。お祓いみたいなものだよ。
シンシア・ウォーカー
[アドリブ/連携歓迎]
卒業式、か。いくらやんちゃ少年だったとしても、学友達との晴れ舞台に参加できなかった無念は如何程のものか、察するに余りあるもの。

殴り合い?……こちらが女性とか気にしない感じ?
いいでしょう、その若さ受け止めます。手袋を脱ぐのは礼儀ということでひとつ。立会人が必要なら雑用インビジブルに。
ダンジョンの魔物との戦闘で鍛えられた【激痛耐性】で耐えつつ、気が済むまでお相手を。魔法は使わずこちらも拳で……痛って。
満足しました?終わったらノーサイドです、こちらも淑女ですから。√能力で怪我は治します。

なるほど、話を持ち掛けてきたのが妖ということでしょうか。人の弱みに漬け込むなどなんと悪辣な。
渡瀬・香月
騙された悲しさも、やりたい事がもう出来ねぇって悔しさも分かるけどそこに付け込まれてるって気づかんのは残念だな。

手痛めたくねぇし普段は拳で殴り合うとか絶対やんないけどその喧嘩買ってやんよ。
俺らは怪我してもぶっちゃけ大丈夫だし、すっきり成仏してくれるんならそれに越したことはねぇから。
でもやっぱ怪我は困るからな、あれだ、怪我の事は忘れとこう、一応な、うん、痛いのヤダし。
卒業ってのは一つの業を終える事らしいぞ。つまり自分がやり切ったって思ったらそこで卒業なんだ。
つまり、これがお前の卒業式だ!

殴り合いをします。

それから猫はお前に感謝してると思うよ。
人と馴染めないとかあったかもだけどお前いいやつじゃん?
エルンスト・ハルツェンブッシュ
やあ。君がダイキくん?
待って、やンないよボクは
でもやりたいなら、ボクは|子供《少年》だ、相手になるよ!
霊的防護はちょっと意識!
一方的にボコされそうだけど。殴り合うの苦手なんだよ〜!

……強い心残りだ
ボクの卒業写真、隅の楕円のやつ。卒業式も出てない。色々あって
それに今は、写真を見ても皆、それがボクだってわからない
撮られてないようなもの

ねえ、だからさ、卒業写真を撮らない?お友達も皆で!
ボクのカメラならたぶん映る
|いわくつき《汎神解剖機関》のものなんだ。
降霊/撮影/インビジブル制御でどうかな
現像は時間がかかるけど
映ってたら、また会いに来たい
ダメかな。遅い?
ボクは。遅すぎるものなんて何一つないって、思う
アガーテ・デア・フライシュッツ
※アドリブ歓迎

POW判定

【作戦】
√能力で立ち続け、二丁拳銃を構えるが銃把の『オプションブレード』や
「グラップル」のみの格闘戦をしてダイキの鬱憤晴らしに付き合う
(手に持った魔銃がAnkerのため視界に入り続ける)

【心情】
こういう面倒くさいことに付き合わされるのは
勘弁してほしいんだけど……
でもまぁ、必要ならやるしか無いか
来なよ、スッキリするまでボコボコにしてあげる

【演出】
手に持った銃から禍々しいオーラが発せられて全身を包み
いくらダメージを受けても動きが鈍らない感じ
「あたしも気がついたら記憶喪失で
角やら尻尾やら生えた状態で街に立ってたんだけど。
結構楽しくやってるよ、だから余り思い詰めること無いって」

●きみへの激励
「それで君がすっきりするなら、構わないよ」
 そうして前に出たのはクラウス・イーザリー(希望を忘れた兵士・h05015)でした。
 するりと喧嘩の申し出を受け入れ、拳を構えるクラウスに、ダイキは躊躇いなく飛び込みます。
 少し身を低くしてワンツー、そこからのフック。クラウスは上手く流して、打撃をいなしました。
 そんな中不意に、クラウスが横跳び。ダイキは追い縋ろうとしますが、素早い判断で、正面から切り込んできた開口・味味(『舌先探偵』・h02588)を受け止めました。
 ダイキ自身は人の姿を保っている点以外は特に特別なことのない幽霊です。√能力者でもありません。荒削りな独学の体術を使うのみ。けれど、味味は探偵刀が確かに肉に食い込むのを感じました。
 依り代にされているせいなのでしょう。インビジブルなのに、確かな肉体があるのです。
 だからこそ、肉弾戦を挑んでくるのでしょうが……
(ああ、不愉快)
 苦虫を噛み潰したような胸糞の悪さが、味味の中に込み上げます。
(古妖は生者どころか、死人の都合も考えやしない。わかっているコトだけど――胸が悪くて食えたものじゃないな)
 まあ、背後にいる鹿とやらのことは後でいいでしょう。まずは何やらなげやりな様子のダイキをどうにかせねばなりません。
 あやかしを美味しくいただくにしても、後味が悪くては、かないませんからね。
「殴って蹴り飛ばすだけですっきり? そんなので消えて満足か?」
 立ち込めた胸糞の悪さなど微塵も滲ませず、味味は元気に煽り始めました。意気揚々とさえ感じられます。
「操られてるのか捨て鉢か知らないが、そんな奴に【元気】で負けるかよ」
 乱雑に味味の刀を薙ぎ払うダイキ。味味はちゃき、と探偵刀を返し、峰打ちを狙います。
 ダイキは腕を入れて衝撃の緩和を狙ったようですが、痛みをはっきり感じているようで、その顔は大きく苦痛に歪みました。
 よたよたと後ろに下がりますと、他に集う√能力者たちに三白眼を向けます。
「あ、こちらが女性とか気にしない感じですか?」
 目が合ったシンシア・ウォーカー(放浪淑女・h01919)がダイキの目付きの悪さを受け、手袋を脱ぎ始めました。
 いいでしょう、とそのほっそりとした手で拳を固め、ファイティングポーズ。
「その若さ、受け止めましょう」
(推定高校生に若いというほどの年嵩でもないのでは?)
 口にこそ出しませんでしたが、シンシアと面識のある尾崎・光(晴天の月・h00115)はほんのりそんなことを思いました。女性の年齢は数えてはいけませんが、確かシンシアは二十歳そこそこ。ダイキの享年が高校生であることを踏まえると、さして年の差はないでしょう。
 が、年上として、毅然と振る舞う姿にわざわざ水を射す必要はありません。それに、今はダイキの心を救い、依り代にしている古妖を退けることが先決。
「君がダイキくん?」
 光の穏やかな声音に、ダイキの目線がギロリと光に向きます。
 なんだか敵意が強いなあ、と思いつつ、光は続けました。
「いじめられているのを助けた子とか、今でもきみを慕ってる子たちが沢山いるよ。君だけの卒業式も、やろうと思えば今から準備できるけどどう?」
 くらげどんたちを連れて来られればよかったですが、幻影を見せることもできますし、ここには幸い、ゴーストトーカーが集っています。もう一度くらげどんたちを集めることも可能でしょう。
 シンシアも賛同するように微笑みました。
「そうですね。いくらやんちゃ少年だったとしても、学友達との晴れ舞台に参加できなかった無念は如何程のものか、察するに余りあるもの。けれど、死後もあなたを想ってくれる素敵な友達がたくさんいるようですから、彼らと共に、卒業式をすることはできるでしょう」
 それはとても素敵なことではありませんか? とシンシアはシルバーグリーンの眼差しを注ぎます。
 けれど、その提案に返ってきたのは、回し蹴り。
「おっと、もう他人を信じられない感じ?」
 光が【|鑿心抄 第肆連《イレカワリ》】で素早く回避、そのまま突っ込んでしまったダイキは光と入れ替わったインビジブルにぶつかってしまいます。
 光の配慮で威力が弱められておりましたが、動きを止めざるを得なかったダイキ。それでも握られたままの拳をほどくように、シンシアが払いました。
「うーん、まあ、騙されたのと同じ内容の提案じゃ、頷こうにも頷けねえか」
 そう口にしたのは渡瀬・香月(ギメル・h01183)です。手は痛めたくないし、拳で殴り合うとか普段はしねえけどさ、と前置きつつ、しっかり拳を構える香月。
「その喧嘩、受けるぜ」
 ダイキの目が、揺れました。
「……おれは」
「ん?」
 何かを言いかけるダイキ。ん、と香月たちは耳を傾けようとしますが、ダイキは続く言葉もなく、香月に肉薄。
「不意討ち?」
 そんな疑問を口にしながら、アガーテ・デア・フライシュッツ(双極の弾丸・h05890)が立ち塞がります。拳銃から立ち上る禍々しいオーラに包まれたアガーテは、ダイキの拳にびくともしません。
 殴り返すことはせず、Ankerである二丁拳銃を持つことで、【|真名隠し《マナ・コンシール》】によるある種の無敵状態をキープしていました。無敵といっても、不死なだけですが。
(殴り返す必要はないな。相手は√能力者じゃないし、これは殺し合いじゃない。念のため【|真名隠し《マナ・コンシール》】を発動させて、受け止めるのに専念。ぼこぼこにするのは……)
 アガーテは頭を巡らし、他の面々の様子を確認しました。
 憐れな少年幽霊相手に、本気の殺し合いなんて考えている者はいません。ただ、立ち居振舞いから、少年の憂さ晴らしに付き合うだけが目的ではない御仁もいる様子。
 別の目的のある人物の補助をしつつ、ダイキの憂さ晴らしに付き合う、その形式をアガーテは選びました。
「んじゃあ、殴り合いをします」
 香月の言葉で、ダイキが大きく踏み込む。大振りな一撃を香月は首を傾けて回避、カウンターの拳を入れます。香月の拳はダイキの左頬にクリーンヒット。確かな手応えです。
 頬を腫らすダイキでしたが、目を見開きます。——痛みが思ったよりない?
「痛いのはやだからな。忘れよう」
 そう言って、香月が展開したのは【忘れようとする力】です。死なない限り、全快できる回復系√能力。ただ、ダイキは敵である古妖が「混じっている」判定なのか、十全には効かないようですが。
 けれど、その痛みが功を奏したのでしょう。ただ目付きの悪さだけが強調されていたダイキの瞳に、光が射します。
 香月は続けて、ダイキに踏み込み、二撃目。連続で食らいはしないとダイキは体勢を低くし、その流れで足癖悪く足掛け。どうにか跳んで避けた香月と入れ替わるように身を滑り込ませたのはアガーテ。
 グラップルで組み合い、純粋な力比べと洒落込みます。が、ダイキは不意に左腕の力だけ抜き、アガーテを受け流しました。アガーテは銃把のオプションブレードで対処しようとしますが、ダイキは抜けるだけでアガーテに拳を向けることはしません。
 代わり、新たに接近してきたクラウスの方へ駆け、膝蹴りを繰り出します。クラウスは緩衝材代わりに腕を入れ、衝撃を緩和、香月の【忘れようとする力】がはたらいて痛みが和らいだところで、続けざまに飛んできた拳に合わせ、カウンターを入れました。
 それと同時、唯一背後に回っていた光が、霊力攻撃を乗せた手刀で少し強めに叩きます。くらり、とダイキの体が傾ぎました。
 さすがに何人もで囲う感じになってしまった状況を鑑み、見守りに回っていたシンシアが少し不安そうな顔をします。が、ダイキはゆらりと顔を上げました。
 ぼーっとした様子でしたが、再び顔を上げたダイキは……相変わらずの三白眼で、目付きが鋭すぎることは否めませんでしたが、両の目に確りと光を宿し、憑き物の落ちた様子。
「……おれは、あ、普通に動ける……」
 目の光が確りとした代わり、体の輪郭がぼやけ始めたダイキですが、光の霊力攻撃やクラウスの与えた拳の衝撃などが効いたようです。
「目が覚めたか?」
「ああ」
 香月の言葉に、少し戸惑いを見せつつも、ダイキが応じる。
「では、卒業式をしましょう」
「えっ?」

 √能力者たちに連れられ、体育館を後にしたダイキは、教室に連れて行かれました。
「ダイキくんはこの学校の出なんですか?」
 卒業式を提案した張本人である青木・緋翠(ほんわかパソコン・h00827)が尋ねます。ダイキはまだ飲み込みきれていないような顔で、ああ、と頷きました。
 教室の場所を聞かれ、三階の……と案内を始めます。三年生の卒業式が終わった学校はがらんとしていました。たぶん、休校日か何かなのでしょう。
「俺、学校行ったことないんですよね。だから、卒業式、見てみたいです」
「っつっても、おれ以外いねえけど」
「くらげさん……くらげどん? に参加してもらえばいいのです」
「くらげどん?」
「俺たちはくらげどんに導かれて、きみのことを知ったようなものだから。……きみのことを慕っている、たくさんの『ひと』がきみを心配して集まっていたんだよ」
「あ、まだあそこにたむろしていますね。おーい」
 クラウスやシンシアが補足をし、まだ桜の木の辺りをぷかぷかとしていた|インビジブル・クローク《くらげどん》に呼びかけました。ダイキがひょこ、と窓から覗くと、くらげどんたちは瞬く間にこちらへタックル、勢いのままにダイキに飛びつきます。
 たぶん、インビジブルでなければ、ダイキは死んでいました。それくらいの勢いです。
 穏やかな対話ができるように、というクラウスの|√能力《こころくばり》により、再び姿を得るくらげどんたち。小柄な男の子と犬と、小学生の女の子。ダイキも正常に生前の姿に戻され、犬に顔をべろべろ舐められたり、小柄な子に抱きつかれたりしておりました。ランドセルの子が控えめな笑みを向けるのに、ダイキはそっと手を伸ばし、帽子ごと頭を撫でます。
 その男の子らしい骨張った手を見やり、シンシアが問いました。
「【"Be a lady."】は効いていますか? 渡瀬さんの能力は効きが悪かったようですが」
「ああ。もう痛くない。……でもなんで?」
 ダイキもいまいちよくわかっていないようです。
 【忘れようとする力】も【"Be a lady."】も何かしらの力を高め、非生物すら回復するものですが、その対象に【敵】は含まれません。依り代にされ、敵に憑かれていたダイキは【敵】判定だったのでしょう。けれど、明確に敵と断じるには中途半端な存在として、ちょっとだけ回復した、という感じですかね。
 ダイキは√能力者ではないので、細かいことはよくわかりませんが「まあ、そんなものか」とスルーしました。スルースキルが高いのは、√EDEN出身者の強みですね。
「ふふ、みんな、また会えてよかったね」
 ダイキにじゃれつくくらげどん一同をエルンスト・ハルツェンブッシュ(あまいろの契約・h02972)が微笑ましく見つめました。ダイキに「やンのか?」と睨まれたときは、荒事が苦手なのでどうなることかとヒヤヒヤしていたエルンストですが、事が円満な終息に向かっているようで、ほっとしています。
 ランドセルの子が顔を綻ばせます。エルンストは、ダイキくんが無事でよかったね、と語りかけました。女の子はうん、とにっこにこです。
「卒業式に必要なもの、何かありますか? 大抵のものは3Dプリンターで作れますよ」
「すごーい!」
「それなら、やっぱりお花の飾りは必要だよね」
 ランドセルの子が言います。お胸につけるやつ! 六年生のおにいさんおねえさんがしてたよ、とのこと。
「ああ、卒業おめでとうって書いてあるブローチだね。確かに卒業式といえばあれだ」
 要望に応え、緋翠は卒業式のブローチを3Dプリンターで生成しました。くらげどんだった男の子と女の子の分も作り、胸元につけてあげます。
 【因果応報】で教卓に触れ、教師に呼びかけて、簡易的ではありますが、卒業式を執り行う段取りをつけました。
 一通り終わったところで、味味がダイキの肩をぽん、と叩きます。その手には卒業証書の黒筒と、卒業文集がありました。
「卒業おめでとう」
「ありがとう」
 【ようこそ、探偵事務所へ】で取り寄せたものです。味味は気慰めにもならないかな、と思っていましたが、√能力者たちの協力で卒業式が開かれた今、これを渡すことに大きな意味があると思いました。無力な慰めではなくなったのです。
「ねえ、ダイキくん」
 卒業証書を受け取って、感無量となっているダイキに、エルンストが声をかけました。
「一緒に、卒業写真撮ろうよ」
「でも、おれは写らないだろ」
「ボクのカメラならたぶん映るよ。|いわくつき《汎神解剖機関》のものなんだ」
 それに、とエルンストは続けます。
「ボクの卒業写真、隅の楕円のやつ。卒業式も出てない。色々あって……それに今は、写真を見ても皆、それがボクだってわからない。そんなの、撮られてないようなものだよ」
 だから少し寂しい、卒業がいい思い出じゃない理由だよ、としっとりした声で語ります。
「でも、今更撮ったって……」
「そう? 確かに現像とか時間かかっちゃうけど……ボクは。遅すぎるものなんて、何一つないって、思う」
 だから、きみが映ってたら、また会いにくるよ、とエルンストはほわりと笑ってみせるのでした。

「なるほど、話を持ち掛けてきたのが妖ということでしょうか。人の弱みに漬け込むなどなんと悪辣な」
「本当にね。どう調理してやろうか」
 ダイキから話を聞いた√能力者たちが憤然としたり、考え込んだり。ダイキは少し気まずそうに、斜め下を向いていました。
 その様子に、クラウスが大丈夫、と優しい声音で諭します。
「悪いやつは俺達が倒すから。君は何も心配しなくていい」
「あたしは気がついたら記憶喪失で角やら尻尾やら生えた状態で街に立ってたんだ。状況は違うかもしれないけど、結構楽しくやってるよ、だから余り思い詰めること無いって」
 アガーテが気軽な様子で声をかけました。
 √能力者それぞれからの激励に、ダイキは今一度、ありがとう、と口にし、深く、頭を下げます。
 その足元を白い猫がするりと抜けました。インビジブルではない、生きている猫です。
 ダイキが微かに目を見開いたのを見、√能力者たちはなんとなく察します。……きっと、この猫もダイキのことが心配で、寄ってきたのでしょう、なんて。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

第3章 ボス戦 『安志の伊佐々王』


POW 七叉の鉾角
自身の【角】を【神通力で青色】に輝く【七又に分かれた巨大角】に変形させ、攻撃回数と移動速度を4倍、受けるダメージを2倍にする。この効果は最低でも60秒続く。
SPD 大地闊歩
事前に招集しておいた12体の【配下の鹿妖】(レベルは自身の半分)を指揮する。ただし帰投させるまで、自身と[配下の鹿妖]全員の反応速度が半減する。
WIZ 狂乱の神角
【角から神通力】を放ち、半径レベルm内の自分含む全員の【混乱】に対する抵抗力を10分の1にする。
√妖怪百鬼夜行 普通11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

●風が抜ける
 体育館裏、一日のほとんどが日陰となるそこは、少し苔むしておりました。
 その中で悠然と佇むは、緑の牡鹿。
「やはり現れたか、√能力者どもよ」
 荘厳な声が空気を震わせます。
 その牡鹿、名を『安志の伊佐々王』。
「ははは、ずいぶんと世話好きな者どもだ。くらげと戯れ、ご丁寧に我を手引きした少年を介抱するとはな。
 だが、我の行く道を塞ぐのなら、打ち倒すのみ」
 どれだけ、神秘に映っても、荘厳さを纏っていても、この牡鹿は悪辣な古妖。子どもの心を弄び、利用したことに変わりはありません。
 さあ、戦いのときです。
尾崎・光
癒せるものは癒した方が後腐れは無いし
臭いの元は断たないとダメだしね。
そして正体は播磨の古妖か。
随分恨みはあったようだから復活するのも納得だけど
今回は見た目の威容より行動のせこさの方が勝ってるよね……。

打たれ強くは無いから防護は予め仕込んで置いて
言い伝えの通り手下付きなら僕も真似しようかな。
護符に霊力を乗せ、この場の√能力者の幻影作って惑わせる。
蝶を招いて適当にいなしている内にアラベスク状の偽刺青に霊力を通し、彼らの足元にひっそり這わせておこう。
本体含めてあらかた網に掛けられる状態になったら
具現化して捕縛し、焼却の呪力を乗せた霊力攻撃。
間髪を入れずに√能力で攻撃。

※絡み、アドリブ歓迎
エルンスト・ハルツェンブッシュ
【子供】たちに、ひどいことしてくれたね
何を思ってるか知る由もないけどさ
ただ、許せない

悪い子への接し方、教えてあげる

【祈り手】
宣言しよう
|私たち《・・・》は、|君たち《√能力者》の『母』。

戦線の一番前へ。盾となりましょう!
安心して。私は、何度でも生まれなおす
『王』と鹿妖の群れを水流をもって引き寄せます!
我が子らがより自由に動けるよう
この『楽園』に荒らせる大地は無いの

お仕置きといえばデコピンです
それとも角を掴み揺さぶりましょうか?
どれも嫌?そうね、痛いもの
ならばこの『手』で、あなたを抱きしめましょう

こんな行いからは、卒業しないと
皆卒業したの
良い子も悪い子も平等
あなただけ卒業しないなんて、許しません
クラウス・イーザリー
「それは、俺達も同じだよ」
問答は不要、打ち倒すのみだ
それに、ダイキの想いを利用したことも許す訳にはいかない

初手は鹿妖達に向けて秘伝の弾丸を使用
敵を纏めて攻撃しながら仲間達を強化して支援
以降はダッシュで囲まれないように距離を取りながら、弾道計算+スナイパーで敵の数を減らしていく

鹿妖が居なくなったら伊佐々王を直接射撃
味方の攻撃の直前に牽制射撃を合わせて支援したり、味方の攻撃でできた隙に射撃を差し込んだりと連携を意識しながら追い詰めていくよ

古妖にだって復活したいという望みはあるんだろうけど、だからと言って何をしても良いって訳じゃない
何より、俺は人の想いを利用する奴が一番嫌いだ

※アドリブ、連携歓迎です
シンシア・ウォーカー
[アドリブ/連携歓迎][SPD]
例え幽霊であろうと、困っている人を助けるのは当然のこと。
悪い妖はここで退治しないといけませんね。

さーて。レイピア構えて一戦交えるとしますか。
……頭数で来るタイプですか?これまた厄介な。他の方を援護するためにも一旦配下の鹿妖の処理に回りましょうか。
魔術師とて剣術の心得のひとつやふたつ……あっこれ魔法も使えるタイプの剣だ。さっきまで拳で語ろうとしていたからかつい頭が物理に。

隙を見て、【特攻】も活用しながら√能力東式縮地法で一気に牡鹿本体との距離を詰めます。一撃喰らわせ幻影を纏った後は、敵の背後からもう一突きを狙いましょう。……無理そうなら【逃げ足】で逃げますが。
渡瀬・香月
これは立派な牡鹿!ジビエ!!
安志の伊佐々王か、王様名乗るぐらいだから偉いんだろうな。いや、偉いと思ってるんだろうな。
でも子供の心に付け込んで悪さを働こうってのはちょっと考えが小者すぎねぇか?
引導を渡してやんのが俺らの優しさだわ。

ダイキの物となった卒業証書を借りて武装化記憶を発動。
代わりに一発殴ってくるわ。
おぉっめっちゃ居るじゃん。これは…鹿のロースト何人前だろう?
相手の反応速度が半減している隙にたたみかける。
鹿の角には注意を払い受け流しで対応。
防御しながらなるべく安志の伊佐々王に攻撃をしかけ体力を削っていく。

ダイキは最後ぐらいちょっとは幸せな記憶持って行ったかな?
だったらいいな。
アガーテ・デア・フライシュッツ
※アドリブ歓迎

WIZ判定

【作戦】
√能力【魔弾の鋳造】を使用してAnkerの『魔銃ザミエル』に宿る悪魔を身に纏う
憑依した悪魔に身を任せることで敵の狂気に対抗する(技能「狂気耐性、オーラ防御」)

【戦闘】
上昇したスピードを活かして
敵の側面に回り込み蹴り足や角振りに巻き込まれないよう近づく
肉の薄いアバラや角の付け根、眉間などを狙って銃口を押し付け
「零距離射撃」で攻撃をする

【心情】
シンプルに迷惑
アンタのことなんて誰も求めてないから
祠だか社まで戻って寝ててくれない?
嫌だって言っても無理やり寝かしつけるけどねっ!
(魔銃から立ち上る昏いオーラが全身に宿る)
青木・緋翠
道、ですか。目的地は存じませんが、その道行きで誰かが悲しむなら、俺はその進行を妨害させていただきます。

復活したばかりとはいえ、古妖となれば油断はできません。他の方と連携し、攻撃しましょう。敵から妨害されない位置へフロッピーディスクを放ち、古妖にのみ震度7の振動を与え続けます。味方には効果はありませんし、地面ではなく本人……本妖?のみ揺れますので、例え飛び跳ねたとて揺れから逃げられはしません。
直接攻撃は他の方にお任せし、俺は足止めと防衛に専念します。ダイキさんやくらげどん、ネコさんに攻撃が向くようであれば、電磁バリアでお護りします。これ以上、誰も傷つけさせませんよ。
開口・味味
へえ――こいつはまた喰いでのありそうな相手じゃないか。
|料理《仕置》しがいがある。

「子どもの心を食い物にした外道の古妖」「今度はおまえが喰われる番だ」

まずは【呪の穂先】で配下の鹿妖ごと巻き込んで|呪い《のろい》を撃ち込む。
|インビジブル《おばけ》の思いを踏み躙ったんだ、呪いはよく効くだろう?

ダメージと敵√能力の反動で反応速度が遅れている間に、|お呪い《おまじない》の強化を受けて敵陣に[切り込み]。
親玉の肉を骨透包丁で捌いて[切断]、深手を狙おうか。
ついでに[捕食]。悪党古妖の肉はいい、喰っても心が咎めない。

「元の√に戻るんだな」「何処で悪さしようが、妖怪探偵はやって来るけども」

●卒業しましょう
「それは、俺達も同じだよ」
 問答は不要、打ち倒すのみ。伊佐々王の威厳ある声に圧される様子もなく、銃を構えるクラウス・イーザリー(希望を忘れた兵士・h05015)。伊佐々王も問答は不要と判断したのでしょう。√能力により配下の鹿妖たちを呼び出します。
「播磨の古妖か。しかも言い伝え通り手下つきときた」
「言い伝えはよく知らねえけど、立派な牡鹿! ジビエだジビエ!」
 正体を晒した古妖を知識と照らし合わせる静かな対処の尾崎・光(晴天の月・h00115)とは対照的に、料理好きな渡瀬・香月(ギメル・h01183)は少し興奮気味に言います。
 伊佐々王は少し不快そうに鼻を鳴らしました。
「ジビエだと? 我を食い物扱いするとは、身の程を弁えぬ輩よ」
「身の程を弁えていない妖に、弁える礼儀もないだろうさ」
 開口・味味(『舌先探偵』・h02588)がすう、と目を細めて嗤います。
 妖怪を捌いて食べたら美味かった、と語る味味は、この肉付きのいい牡鹿をどう食らってやろうかと、思考を巡らします。
「雄々しい牡鹿だ。喰いでのありそうな相手じゃないか。|料理《仕置》しがいがある」
「鹿肉ならロースト、何人前だ? ジビエの処理で大事なのは血抜きなんだ。ちゃんと血抜きしねえと、臭くて食えたもんじゃねえ」
 からからと笑う香月の手元を見ると、そこには卒業証書。卒業式を行ったことでダイキのものとなったものです。【|武装化記憶《サイコメトリック・ジオキシス》】にて、ダイキの記憶と交渉します。
 ダイキが【卒業】というものに抱いていた想い。それを踏みにじった偉そうな鹿妖を許すわけにはいきません。【サイコメトリック・オーラソード】が具現化しました。

『あいつをぎゃふんと言わせてくれ』

 ダイキの声がします。
(ぎゃふんって。今時まだ言うやついるんだな)
 なんか安心したわ、と香月はくつくつ笑って、伊佐々王に向かいました。
「さて、悪い妖はここで退治しないといけませんね」
 レイピアを構えたのはシンシア・ウォーカー(放浪淑女・h01919)です。ぞろりと増えた鹿妖を見て、足を止めます。
「頭数で来るタイプですか? これまた厄介な」
 他の仲間たちのために、十二体ぞろぞろと沸いた鹿妖の処理に回ることにし、シンシアは伊佐々王ではなく、配下の鹿妖と向き合いました。
 魔術一辺倒だったシンシアに学友がくれたレイピア。フェンシング部の彼らと共に突き詰め、編み出した、爆発的な加速力を生かす一撃。
 【東式縮地法】とシンシアは呼びました。幻影を纏い、一撃離脱。武術と魔術の絶妙なミックスです。
 鋭い突きに、鹿妖は声ともつかぬ声で鳴きます。擬音で表現しきれない耳障りなそれに、ちゃき、と魔銃が宛がわれました。
「シンプルに迷惑」
 そうばっさり切ると、アガーテ・デア・フライシュッツ(双極の弾丸・h05890)は体から昏いオーラを立ち上らせ、配下鹿妖の眉間に零距離射撃を見舞います。
 伊佐々王の角から放たれる神通力にはオーラ防御と狂気耐性を駆使して対応。【|魔弾の鋳造《ザミエル・ポゼッション》】で上がった速度で鹿妖を翻弄していきます。
 そこに、二つの弾丸が飛びました。一つはクラウスの【紫電の弾丸】、もう一つは味味の【|呪《ホサク》の穂先】です。
「な、くだらぬ呪いと、電撃だと!?」
「くだらなくはないと思いますけど」
 青木・緋翠(ほんわかパソコン・h00827)がおまじないの加護を受けつつ、フロッピーディスクを取り出しました。
 おまじないの効果で、緋翠をはじめとした√能力者たちの姿を上手く捉えることのできない伊佐々王。緋翠はそれをいいことに、妨害されない位置取りにフロッピーディスクを放ちます。
 【広域震動】。配下の鹿妖が十二もいるので、ついでに対象に致しましょう、と緋翠はふんわり笑みました。
 感電攻撃、呪いによる過負荷。そこに震度七相当の震動。雄々しい角で攻撃しようにも、立っていられません。無理に立ち続けようとすると、ぷるぷると足が震えます。
「生まれたての小鹿のようだね」
 聞き心地の良い声が、耳朶をすうっと撫でていきました。伊佐々王がそちらを見ると、美しい【少女】がいました。いいえ、少年です。エルンスト・ハルツェンブッシュ(あまいろの契約・h02972)は少年です。【少女】と定義付けられただけの。
 常なら穏和そうな顔立ちをしている彼ですが、その青い目は笑っていません。怒っています。
「【子供】たちに、ひどいことしてくれたね
何を思ってるか知る由もないけどさ。ただ、許せない」
 今、【彼】はエルンスト・ハルツェンブッシュではありませんでした。断言すると語弊になりますが……彼の怒りに満ちた声音はただ怒っているというよりは、母親のよう。
 護霊「母の偶像」。彼はそれと完全融合しておりました。
「宣言しよう。|私たち《・・・》は、|君たち《√能力者》の『母』。戦線の一番前へ。盾となりましょう!」
 喧嘩が苦手だと。殴り合いより話し合いや趣味の写真の話をしていたエルンスト。そんな彼が怒りを露にし、戦場の最前線へと向かうのです。
 それは堂々として、子らの導たる母のよう。
「『王』と鹿妖の群れを水流をもって引き寄せます! 我が子らがより自由に動けるよう。この『楽園』に荒らせる大地は無いの」
 ——【|祈り手《プレイング・ハンズ》】。
 エルンストか、【母の偶像】か。どちらかわからない声が高らかに告げ、【母の手】と水流でもって、悪さする子を引き寄せます。咎めるように、止めるように。
 バチン、と電気が弾け、水流に呑まれる鹿妖。水流に抗おうとしても、震動が邪魔をするし、呪いを受けた体では、踏ん張りが効かない。
 そうして牛や豚よりも鈍重となった鹿妖に、アガーテが【|魔銃術・零射《マギ・ゼロショット》】を、シンシアが【東式縮地法】を、香月が【サイコメトリック・オーラソード】を繰り出します。幾重にも折り重なった√能力が配下鹿妖を吹き飛ばします。
 伊佐々王はぎょっとしました。前述の三人と弾丸のおまじないを受けた味味とクラウスの攻撃。倒れた鹿妖は十二体全部。数え間違いとするには、数が違いすぎます。
 あらゆるバッドステータス付与により、目がおかしくなったのかと思いました。だって、場の√能力者全員が、二人になって見えたんですもの。
 それは、時間稼ぎのために光が仕組んだ幻影でした。頭数が必要なのなら、増えているように見せかけるのもいいと考えたのです。
 自分で放った混乱への抵抗力を下げる【狂乱の神角】のために、自分が混乱に陥っているのですから、愉快きわまりありません。
「やってることが小物なんだよ」
 静かに、諭すように、光は告げます。
 護符で作り出した幻影は、元々時間かせぎのためのものでした。【大木のやうに倒れろ】はチャージに60秒必要です。
 まあ、みなさんお強いので、幻影を生み出す必要もなさそうでしたが、と思いつつ、光は霊力による焼却攻撃を放ちます。
 緋翠の【広域震動】で動けない伊佐々王はわざわざ捕縛しなくとも、いい的となってくれました。
「ぐ、態勢を立て直」
「させない」
 伊佐々王の巨躯を【|祈り手《プレイング・ハンズ》】が引き寄せ、掬い上げます。
 シンシアの【東式縮地法】によるレイピアの一撃。
「例え幽霊であろうと、困っている人を助けるのは当然のことです。それを利用し、弄ぶなど言語道断」
 【魔銃の悪魔「ザミエル」】との融合で得たアガーテの【|魔銃術・零射《マギ・ゼロショット》】が火を吹きます。
「アンタのことなんて誰も求めてないから。祠だか社まで戻って寝ててくれない? 嫌だって言っても無理やり寝かしつけるけどねっ!」
 香月のオーラソードによる袈裟斬り。王様名乗るぐらいだから偉いんだろうな。いや、偉いと思ってるんだろうな。
「でも子供の心に付け込んで悪さを働こうってのはちょっと考えが小者すぎねぇ?」
 味味の骨透包丁による【切断】。呪いがじんわりと蝕んで滲み、切断された肉を味味はぺろりとわざとらしいくらいの仕草で食べてみせました。
「悪党古妖の肉はいい、喰っても心が咎めない」
 チャージの完了した光の【大木のやうに倒れろ】。その衝撃波に伊佐々王は立ち上がれなくなります。
「随分恨みはあったようだから復活するのも納得だけど、今回は見た目の威容より行動のせこさの方が勝ってるよね……」
 √EDENへ侵攻する古妖というのは珍しくありませんし、古妖は人の情念を利用し、復活します。それは見るも語るも醜き所業でございますが、今回の伊佐々王のそれは、小物感が拭えません。
 少年の切なる願いを誑かし、利用する。けれど、古妖だというのなら、播磨の地を揺るがした伝承のある大妖というのなら、もう少し騙し方があったでしょう。
 卒業式が終わっていた、だけなんて、なんともお粗末です。
 お粗末だろうがなんだろうが、人の心に浸け入り、弄んだ事実もその悪辣さも変わりません。
 手が伸びます。祈り手の祈る手。母なる腕のうちに、子どもを咎めようと、エルンストが瀕死の伊佐々王を抱き寄せました。
「こんな行いからは、卒業しないと。皆卒業したの。良い子も悪い子も平等。
 ——あなただけ卒業しないなんて、許しません」
 お仕置きの定番はデコピンね。
 それともその象徴的な立派な角を掴んで、ぐらぐら、ぐらぐらと揺さぶってあげましょうか?
 どれも嫌? そうね、痛いもの——優しい母親の眼差しで、エルンストは言います。
 提案のどれを具現することもなく、エルンストは鹿の大妖を引き寄せました。
 最後の仕置きは、あなたに。
 エルンストのそばから援護射撃をしていたクラウスが、静かな、とても静かな眼差しを伊佐々王に向けます。
 とても静かですけれど、彼は。
「俺は、人の想いを利用するやつが一番嫌いだ」
 タァン!
 静かな眼差しで、怒っていました。
 あるはずだった未来を得られなかった悔しさを、クラウスはよく知っていたのです。未来を奪われ、親友を失い、絶望もしなくなったけれど、希望を失ってしまいました。彼が「希望」を抱くことは今後一生ありません。けれど、希望がどれだけひとの支えになるかを知っています。
 だから、希望をちらつかせるだけちらつかせて、心を踏みにじる古妖のやり方をクラウスは許せませんでした。
 他の√能力者も同様です。
「伊佐々王、あなたの目的地は存じませんが、その道行きで誰かが悲しむなら、俺はその進行を妨害させていただきます。何度でも」
 消えゆく牡鹿の骸に、緋翠がそう宣告します。誰もが同じ気持ちでした。

 誰も悲しまぬように。それは無理かもしれませんが、願わずにはいられません。
 死してなお、捨てきれぬ願いをひとは抱えます。古妖はそれを利用する。けれど、今回のように、死してなお、捨てきれぬ情念が、友愛が、ひとを助けることがあるのです。
「ダイキは最後ぐらいちょっとは幸せな記憶持って行ったかな? だったらいいな」
 香月の呟きが空に溶けます。
 まだ桜の木から見つめていたくらげどんが、ぷわっと消えました。
 梢にはまだ小さいですが、蕾がありました。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

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挿絵イラスト