逢瀬はふたたび
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私はアリア。ただのアリアだ。
家名は捨てた。
もう一〇年以上も前の話だ。
昔の私は、所謂、名家の令嬢だった。
その特権を当然のものとして享受する、贅沢な暮らしを送っていた。
幸福な日々が脆くも崩れ去ったのは、私が一〇歳の時だ。
父親が事業に失敗した挙句に、裏稼業の人間から金銭を借りてしまって――後の顛末は想像の通り。
債務が債務を呼ぶという負の連鎖。我が家は、あっという間に没落してしまった。
それ以来、私は両親とも離れ離れ。
借金の抵当として、少女趣味の変態の元に売り払われた。
そこで男を悦ばせることで、日銭を稼ぐ術を仕込まれた私は、今では冒険者の酒場の片隅で春を|鬻《ひさ》いでいる。
正直なところ、私は娼婦の中では特別に人気があるという訳ではない。
|醜女《しこめ》という訳ではないが、娼婦として大成する程に、愛想よく振る舞うことが出来ないでいる。
毎日、違う男と閨を共にするのは億劫であるとさえ思っている。
時折、愛想のない娼婦に対して、物好きにも声を掛けてくるような男と寝ることで、暫くの間、食べるのに困らない程度の金銭を手に入れる。
そんな灰色の日々が、この先も、ずっと続くのだと思っていた。
その客――パトリシア・バークリーとの出逢いは偶然だった。
私に声を掛けてきた物好きな客の内の一人――それも女だ。
年齢は、二三歳の私よりも下のように感じた。
物怖じせずに私に話し掛けてくる、奔放な遊び人という印象だっただろうか――私が、彼女と同じぐらいの年齢だった時、どのような日々を送っていただろうか。
少なくとも、あんな風に、何の苦労も知らないような屈託な笑みを浮かべる余裕はなかっただろう。
無性に腹が立ったので、相場よりも遥かに高い金額を提示してやった。
だというのに、気にした風もなく私を買うと言ったものだ。
悔しくはあったが、私から提示した金額であるし、支払ってくれるというのであれば否やはない。
その夜、私は、パトリシアと一夜を共にした。
正直に言おう――私は、自分でも恥ずかしいと思える程に、年下の少女の愛撫に悶え狂わされてしまった。
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「あぁぁっ! あっ! あっ! あっ!」
思考が真白に染まると同時に、ただ気持ち良いという感想だけが身体中を走り抜ける。
私の噴いた潮が、パトリシアの美しい裸身を穢していく。
「また潮を噴いた。前よりもイきやすくなってるよね。アリアさん」
「あ、あぁぁーっ!」
絶頂の余韻が、まだ引かない内に、尖りきった肉芽を指先で摘ままれる。
ただ、それだけで、私の身体は官能の炎に焼かれてしまう。
前よりも果てやすくなっている――それも、当然だ。
私の身体は既に、目の前の少女、パトリシア・バークリーの愛撫に屈服している。
ただ一夜だけの客との逢瀬――その筈だったのに。
これまで、男との行為では味わったことのない肉体の刺激。私の常識の外にある想像を絶する快楽は、私という女の在り様を、完全に変えてしまった。
一晩だけの行為が脳裏に焼きついて、離れてくれなくて――何度も、狂ったように自慰に耽った。
客との交わり方も変わったと思う――これまでは|寝台《ベッド》の上で、ただ男が果てるまで、人形のように、じっとしているだけだったのに。
最近は男のモノを自分から貪るように口に含み、あまつさえ、自ら腰の上に跨って尻をふってもいる。
自慰が、性行為が、気持ち良い。
汗に塗れて、蜜を溢れさせて、獣のように声を上げることが、こんなにも気持ち良いだなんて。
そして今日――私は、再び巡り合ったのだ。
パトリシア・バークリーに。
私の中の|雌《おんな》を目覚めさせた――魔性の少女に。
「あはっ。凄いね。数日前とは、まるで別人みたい。ううん。濡れやすいのは変わっていないかな――ねぇ、アリアさん? この反応……自分でしてるよね? こっちを使って」
パトリシアの指が、私の菊門の窄まりを探る。
どうして判ってしまうの――私が、そちらでの、不浄の穴での自慰行為を覚えてしまったことに。
この少女に自分の全てを見透かされているようで恥ずかしくなる――今日で、まだ二日目だと言うのに。
こんな生活を、あと五日も続けていたら、私は、本当に戻れなくなる。
――パトリシア・バークリーが、私を、実に一週間もの間に渡り買い受けたいと申し出た時。私を平静を装いながらも、秘部をしとどに濡らしてしまっていた。
また、あの快感が味わえる――今度は一週間もの間。そのように、軽く考えていた二日前の私の頬に、平手打ちをくれてやりたい。
許して、イカせて、舐めさせて、もっとして、お願いします――これらの台詞を、もう何度、口にしたかも覚えていない。
食事と、排泄と、入浴と、交合と――ただ、それだけを繰り返す、地獄のように淫らで退廃的な一週間が幕を開けた。
条件は、ただ二つ。
常に裸でいること。
そして、常にお互いが見える位置でいること。
私の顔、唇、首筋、乳房、脇腹、腹部、腕、指、足――そして|女陰《ほと》と肛門。一日どころか一時間も経たない間に、私の身体のあらゆる箇所に、パトリシアの唇が触れて、指先が撫でた。
それは私も――私の指が、パトリシアの身体を快感の絶頂に導いた時。私の心は深い感動と充足感に満たされていた。
それでも、やはり主導権を握り続けているのがパトリシアの方で。
「あ、あぁっ、あぁぁーっ! ゆ、許してぇっ! またイクっ! あぁ、あぁぁっ! こ、このままだと、漏れちゃうぅ……!」
「またお漏らし? アリアさん、本当にエッチになったよね。どうする? 恥ずかしいのなら御手洗に行かせてあげてもいいけど――指、止めちゃっていいの?」
「あっ! あぁーっ! 止めないで! もっとしてぇっ! あぁ、でも、駄目っ! 恥ずかしいっ! 私、またっ! また、お漏らししちゃうのぉっ!」
そう、また。
もう、私の全てはパトリシアに見られてしまっている。
恥ずかしいと思う気持ちは残っているが、その状況に、異様な興奮を覚えている自分も確かに存在していた。
だから――。
「あ、あぁぁぁぁっ……! あ、ひぁぁぁぁぁぁぅ……!」
こうして、子供のように失禁しながらも、パトリシアの指で可愛がられていることが、気持ち良くてたまらない。
もう、何をされても良いかなとさえ思う。
そもそも最初の一日目で、貴女のことが忘れられずに、毎日、自慰行為に耽っていますなんていう、恥ずかしい秘密を暴かれたのだ。
しかも、そのまま、お互いの自慰行為を見せ合うなどということまでやってのけた。
明日は多分――何となくだが、パトリシアの考えつきそうなことが分かってきた。
きっと適当な男を捕まえて、三人で――もしかしたら四人とか五人とかで――激しく乱れるに違いない。
それは、とても気持ちの良い、素敵なことだと思った。
私は、きっとパトリシアの前で、男たちの肉棒を夢中で頬張りながら、犯して欲しいと懇願してしまうのだろう。
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私は――アリア・ベレスフォードは幸福だ。
パトリシア・バークリーと出逢い、自分の中に、長い間、眠ったままの女を解放することが出来たのだから。
こうして彼女の傍にあって、幾人もの彼女の恋人たちと一緒に抱かれながら――心から、そう思っている。
「ようこそ、アリアさん! あたしの快楽の園へ!」
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴 成功