甘やかな贈り物
寝不足の朝は、ガラス越しの朝日が目に染みる。
昨夜は隠神刑部がなんのかんの話しかけてきて、それもちょっと面白い話だったものだから、翌日が休みなのを良いことに、つい夜更かしをしてしまった。
目を覚ますためにコーヒーでも……|溝渕・浩輝《みぞぶち・ひろき》がそう思ったところにインターフォンが鳴る。
「お荷物のお届けでーす」
朝早くの宅配を寝ぼけまなこで受け取り、差出人を見た途端、浩輝の眠気は吹っ飛んだ。
――そこにはかわいいかわいい妹2人の名前が並んで書かれていた。
受け取った荷物を両手に抱きかかえ、リビングへとダッシュすると、テーブルの上に細心の注意を払って荷物を置いた。
いつもならべりべりと無造作にテープをはがすところだが、この荷物はぞんざいには扱えない。浩輝はカッターを使用してテープを慎重にカットする。
箱を開いてみると、中には綺麗にラッピングされた包みが2つ。
結ばれたリボンの先には、真っ赤なハートのオーナメント。
そう、今日はバレンタインデー。
実家に暮らす妹たちがバレンタインチョコを贈ってくれたのだ。
そういえばこの間実家に帰ったとき、2月14日には家にいるかと、妹たちから何度も確認されたんだった。
彼女がいるかどうかが気になるのかと思い、絶対一人で家にいると断言したのだが、このためだったとは。
「天使かよ」
逸る気持ちで包みを開ける……その前に。
箱に入った状態の写真をパシャリ。
箱から出したチョコの包みを並べてもう1枚。それぞれのアップもカメラに収めて。
ではいざ開封……いいやまだ早い!
リボンに手を掛けて1枚、解いて1枚。
開けるときのワクワクが、写真として残るようにと。
上の妹が贈ってくれたのはチョコレートケーキ。しっとりと焼き上がったケーキの上にはホワイトチョコで、
「お兄ちゃん だいすき」
のメッセージが。
下の妹からはカップチョコ。小さなアルミカップに流し込んだチョコの上には、溢れんばかりのデコレーション。シュガースプレー、アラザン、ミニミニハートにお星さま。
添えられたメッセージカードには、
「お兄ちゃんへ 愛をこめて」
「くぅぅ……っ」
あまりの尊さに目が潰れそうで、浩輝は呻く。
「なんや、朝から騒々しいのう」
浩輝の様子が普段と違うのに気づいて、隠神刑部が鬱陶しそうに声をあげる。
だがもちろんそんなのに構っている場合ではないから、浩輝は構わず、チョコを様々な構図で撮るのに集中した。
ひとしきり写真を撮り終えたが、食べるのは勿体無さすぎる。なんせ、妹たちからの愛がこもっているのだ。
飾っておく方法はないかと浩輝はチョコの保管方法を検索するが、
「手作りは長期保存は出来ない……だと……!? クソ……! すぐにホイホイ食えるわけねぇだろ!」
残酷な事実を目にして、昨年同様に打ちのめされる。そう、これは毎年恒例の行事と化しているのだ。
「そんなに嬉しいものなのかね」
隠神刑部は浮かれる浩輝に呆れつつも、さぞや美味に違いないと、チョコには興味津々。
「儂もちょこれーととやらを食べたいんだが!」
「そういうと思った」
想定内とばかりに、浩輝は板チョコを取り出した。
「仕方がねぇから用意してやったぞ。有り難く食いやがれ」
「やるではないか、小僧!」
チョコを貰えただけで、バレンタインも悪くない、なんて思ってしまうあたり、隠神刑部も意外とちょろい。
「これに酒も付いていれば文句無しだがのう」
そんな隠神刑部の要求を、
「酒は週一の約束だろうが! クソ狸様よォ!」
妹たちからのチョコのことで頭がいっぱいの浩輝は、ばっさりと切り捨てたのだった。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴 成功