シナリオ

|生きる《死なぬ》理由を考えろ

#√ドラゴンファンタジー #喰竜教団

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●どうしてなんてきかないで
 小さな頃は、こんな気持ちを抱くことはなかった。きっかけは何だったか。たぶん、ひとり残されたこと。
 お友達とは仲良くしなさいね。母の言葉を守って、喧嘩なんてしないように。
 強い子になるんだよ。父の言葉にならって、おれは剣を握った。
 なあ、守ってくれよ。友達の言葉は、ずっと耳に残っていた。

 何匹も何人も切り捨てた。悪いものは除かなければならないから。友達を、民を守らなければならない。家族はもういない。おれの側に立ってくれる彼らを守り、彼らと共に戦うことを選んだ。
 強い人になって……もっと強く。強く、強く。
 ――そんな言いつけを守っても、おれはちっとも満たされなかった。
 名声は相応に。食うのにも寝るのにも困らない。けれど「孤高だな」と友に言われて、ああ、ではこいつはもう、『友達』ではないのだと、思ってしまった。

 希死念慮。
 現代の医療ではどうしようもないそれ。欠落。薬で多少は誤魔化せても、脳に植わったそれを取り除くことは、出来はしない。

 尾を振る、打ち砕く、翼を広げる、矢を受ける。角を掴む腕を自分の角ごと両断した。うらまれるのは慣れていた。「もとは、だれかの大切な、だれか」を斬ることだってあったから。
 おれを羨むもの、恨むもの。どうだっていい。何かのために、誰かのためになれるなら。おれはどうなっても良かったんだ。

 戦っている間だけ……おれは、おれであれる。死への衝動が、僅かながらに満たされる。戦うこと、強くあること、存在理由がそこにある以上、おれは生きていられる、ここで死ぬなら本望だと思える。

 ――噂話を聞いた。最近同族が――ドラゴンプロトコルが消えているそうじゃないか。
 街を襲い、竜を狩るものたち。
 ああ、そうか、そうだね、おれが向かうに相応しい。ダンジョンに潜り、獲物を狩るおれと変わらない。
 おれのような「死に損ない」でも、彼らは満足するだろうか。おれは満足するだろうか。「守りきって死ぬ」望みは果たせるか。この街を、守れるだろうか。

「……ええ、ええ――歓迎します!」
 歓喜。よろこび。指を組み。傷付きぼろぼろの体で、それでも立ち続ける彼の前に傅くは、ドラゴンストーカー。

 だが彼は知らない。
 逃げ遅れた、同族たちがいることを。
 自分を殺した後、その女が、同族たちを喰らい尽くしてしまうことを。

「強き竜よ、感謝します。わたくしどものために、死んでくださって」
 彼は結局、利用される。一人で立ち向かい、己の『死』への渇望ゆえ、守るべきものを守りきれず。
 生きながらに喰らわれていく同族たちの悲鳴は、彼には届かなかった。

●おつかれさま。
「……あんまりだ。あんまりだよ、こんなの」
 はじめて、星を詠んだ。ゾディアック・サインが降りた。『|少女《少年》』はぼろぼろと涙を溢しながら、その袖を濡らしている。エルンスト・ハルツェンブッシュ(あまいろの契約・h02972)だ。少女じみた様相で肩を振るわせ泣いている。相当に、おそろしい予知を観たようである。
 だが泣いてばかりではいられない。泣き腫らした顔を袖で拭って、√能力者達に向き直る。

「……『おつかれさま』、みんな。……喰竜教団に関する事件だ」
 震える声で切り出すは、予知の内容。ドラゴンプロトコルを狩るために街を狙う喰竜教団と、街を守るために死ぬ冒険者。

「手練れの冒険者が、ある街を守ろうとしてる。この地域では名の知れた人みたい」
 そう言って|彼女《彼》はその顔写真と、情報が記された書類を出す。名はコンラッド。金髪に褐色肌の青年。ギルドから提供を受けたその書類には、これまでの名声、その記録がいくつも並んでいた。

「……ひとりで首謀に立ち向かおうとしてるんだ。でも正直に言う。彼ひとりじゃ無理だ。手練れだっていっても限界がある。きみたちより強いわけじゃないんだ。……彼だけじゃあ、一般人を守りきれない」
 唇を噛む。……相手は、狡猾だ。強き竜たる彼、コンラッドではなく、街中で震える一般人を狙っているのだ。『比較的厄介』な相手を仕留めた後、ゆっくりと一般人を喰らうつもりだ。
 他にもいくらかの冒険者たちが街の防衛に回っているが、彼らでも喰竜教団の信徒たちには歯が立たない。だが……一般人たちは、冒険者が自分たちを守ってくれるはずだと。きっと安全だ。そう考えてしまっている。

「彼を手伝いつつ、一般人といっしょにそれとなく避難させてくれないかな。……ドラゴンプロトコル、同族たちを守ることを優先するように誘導して。そうしたら、彼が直接あの「教祖」と対峙することはなくなるはずだよ」
 そうすれば……あんな、悲しい結末にはならない。闇夜の惨劇、皆殺し、そのようなことには。
 現在、「彼」は事件が起こる街の冒険者ギルドで情報を聞いた後、近辺で装備などの準備を整えているようだ。今なら、間に合う。

「まともに教祖と対峙してしまえば……彼は自分を犠牲にして、一般人を守ろうとする。でも、それは無駄死になんだ。それを教えるかどうかは……任せるけど」
 けれど、もしも。彼がこの事件の解決に、積極的に協力してくれるのなら……頼りになる味方となってくれるだろう。
 心を開かせるには、一苦労するだろうけれど。

「お願い。止めてきて。……彼らには、何の罪もないんだ……」
 |彼女《彼》の眼から落ちる涙。
 罪なきものを守るために。死なぬ理由を与えるために。訪え。

マスターより

R-E
 おはようございます、親愛なる皆様!
 R-Eと申します。
 こちら『喰竜教団』に関する事件です。チョット・難易度・高め。
 冒険者たちが街を守ろうとしていますが、予知は悲惨な結末を示しています。

●1章
 護衛として街を守ろうとしている冒険者、あるいは標的となる一般人に接触し、事件の解決のために働きかけましょう。
 冒険者のひとりは放っておくと予知にある通り、先陣を切り首謀に特攻していってしまいます。
 共に護衛として動いたり、心を開かせるのも手でしょう。
 一般人にも避難や警戒を呼びかけることが出来ます。
 彼らについては基本、『冒険者たち』に対して素直に応対してくれます。言いくるめて避難させるなどで、比較的簡単に避難を促すことができます。

●2章以降
 基本的には分岐しません。1章で何かが起きない限り、なんとかなるはずです。
 3章は確定で、喰竜教団教祖『ドラゴンストーカー』との戦闘になります。

 それでは、生きましょう。
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第1章 日常 『護衛のお仕事』


POW 情報収集やアイテムの準備・整備、親しくなる等、体力・気合・豪胆等を活かして解決する
SPD 情報収集や作戦立て、親しくなる等、器用さ・機転・緻密等を活かして解決する
WIZ 情報収集や情報整理、親しくなる等、賢さ・ひらめき・華やかさ等を活かして解決する
√ドラゴンファンタジー 普通5 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

夜縹・熾火
連携&アドリブ歓迎
◆行動◆
熾火は冒険者コンラッドとの接触を図る。幼少期からの積み重ねを覆す事は難しいので死に時もしくは命の使い方について改めて考えさせる方針に舵を切らせてみよう。
◆心情◆
やぁ、キミが噂の?意外と凛々しいね。ごめん、自己紹介がまだだったね、熾火だよ。今回の護衛依頼、私も請け負ったのさ。おっと、そんなに先行しては守れる物も取りこぼしてしまうよ?やれやれ、その様子を見てると弱きを守る善人っていうより死に場所を求めて彷徨う亡霊のような出で立ちに思えてくるよ。いや、守って死ぬのは構わないさ。だけど、本当に守れたって言える?戯言は止してくれ。死を受け入れた瞬間、全てを諦める事になるんだ。死を臨むには過ぎたる物だったからってね。分かるかい?じゃあキミが守るべき物は?死に値する物は何処にあるんだろうね?

断言しよう。キミがこの答えを見出せない内は渇きも癒えず、望みも叶わない。それに薄々、気が付いている筈だよ。奴等がキミと同じなら、現状に満足せず、キミが死んだ後も変わらず殺し続けると。

「――やぁ、キミが噂の? 意外と凛々しいね」
 切り出された言葉に振り返るは片角の青年。露天の品を膝を付き屈み見ていた彼は、店主に軽く手を上げ挨拶をし、立ち上がる。
 ――ドラゴンプロトコルの冒険者、コンラッド。突然話しかけられたからか、少しばかり警戒している様子で、夜縹・熾火(|精神汚染源《Walker》・h00245)を見た。

「おれを知っているのか」
「まあね。夜縹・熾火だよ」
「……なら、自己紹介は今更だな」
 視線を戻したコンラッド。熾火は、彼が物色していた品を見る。何やら薬品類のようだが、ラベルがなく詳細は分からない。
 このような状況だ、露天商に聞けばその間に「彼」が立ち去る可能性もある。早々に話を切り出すべきだろう。
「今回の護衛依頼、私も請け負ったのさ」
「そう、同業者か。助かるよ。だが手を組みたいなら、申し訳ないけど他所を当たってくれ」
 やれやれ情報通り。孤高だと言われただけはある。幼少期からの積み重ね、孤独と希死念慮に満ち溢れた人生とやら。
 それを覆せるだけの手段は熾火には無いし、そもそも、そういうアプローチで彼の心を揺さぶるなんて事は考えていない。

「おっと、そんなに先行しては守れる物も取りこぼしてしまうよ?」
 緑の眼が瞬きの後、横目で熾火を射抜く。
「その様子を見てると、弱きを守る善人っていうより、『死に場所を求めて彷徨う亡霊』のような出で立ちに思えてくるよ」
「……そうだね、否定しない」
 確かにまるで幽鬼のよう。纏う雰囲気は常人のそれではなく、汚れ仕事も請け負ってきたのだろうと分かる出で立ちである。

「守って死ぬのは構わないさ」
 彼の瞼が動いた。――自分がこれから、どうするか。それを見抜かれていると察したのだ。
 もとより個人主義、仲間を守るためと先陣を切り、安全を確保しようとする。そのような戦い方をする男だ。だからこそ。
「だけど、本当に守れたって言える?」
 それが、本質だ。守れたのなら、守りきれたのなら――今回も、彼は名声を得ることが出来ただろう。だが此度の襲撃はまったく異なる。圧倒的なまでの力を持った蹂躙者が、この街へと迫ってきているのだから。
 あるいは既に忍び込み、油断しきっている住民たちを観察し、嘲笑っているのかもしれない。
「……言える。全力を尽くし、死ぬのならば、それは名誉だ」
「戯言は止してくれ」
 それが名誉だとするのなら、この世の『死』は大抵が名誉の死になってしまう。
「死を受け入れた瞬間、全てを諦める事になるんだ。死を臨むには過ぎたる物だったからってね」
 分かるかい?
 ……諦めるのなら、もっとまともな諦め方をしろ。

「じゃあキミが守るべき物は?」
 死に値する物は、何処にある。何を守り死ぬべきか。
 聡いキミは、本当は理解しているのだろう? 直視したくないだけだろう?
 見つめてしまえば。眼の前に経つ「それ」と向き合ってしまえば、自分という存在が。アイデンティティを失ってしまうのではないかと、恐れているのではないか?
 前線に立ち、人々を守る。言いつけ通りの人生。それを繰り返すことに、安心しているのではないか。

「――断言しよう。キミがこの答えを見出せない内は渇きも癒えず、望みも叶わない」
 思考の隅で凝り固まった希死念慮。からからの器の底、へばりついたそれを潤し薄めるには……名誉や名声なんかでは、足りない。
 それに薄々、気が付いている筈だ。
「奴等がキミと同じなら、現状に満足せず、キミが死んだ後も――変わらず、殺し続ける」
 その数多の|生命《いのち》と後悔を背負って、キミは生きていくつもりかい。
「キミの命の使い方は、それでいいのかい?」
 唇を固くむすんだコンラッド。険しい顔をして、露天に並ぶ瓶をひとつ手にとり、店主へと硬貨を手渡し。背を向け歩きはじめた。

「……『やってみなければ、分からない』。冒険者どもの好きな言葉だよ」
 未踏の地に踏み入れる時も、凶悪なモンスターと対峙した時も。そのようにして、乗り切っていく。

 ――さて頑固な竜が去った後、熾火は店主へと声をかける。
「この薬品類は?」
「……ええ、このような場所で売っているのです、察していただければ」
「キミ、誤魔化せるとは思うなよ」
 鼻を鳴らす熾火に困ったように息を吐く店主。どうにも歯切れが悪いが、結局彼はその瓶の正体を口にした。
「ただのポーションですよ。どっかでは|鎮痛剤《ペインキラー》と呼ぶようで」

 ……綻びは確かに、生まれた。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​ 成功

峰・千早
丁寧口調の大柄な好青年です

今回はコンラッドに接触しましょう。
解決方法はPOW判定。

【コミュ力】を発揮してコンラッドに声をかける。
「そこの方、鎧のメンテナンスを依頼したいのですが、この辺りは初めてで。いい所を知りませんか?」
霊石鎧の補修にコンラッドを付き合わせてお話など。
「最近街が襲われると聞き、何かできないかと思いまして。ここの住人を避難させるにはどう備えたらよいでしょう。人質を取られると厄介ですし、なるべく多くの住人を逃がさないと。……コンラッドさん、一緒に対処しませんか!」
避難計画にも付き合わせて
「ありがとうございます。私は峰・千早、実はヒーローなんです。次は必ず、あなたを助けに参ります」

「そこの方、少し良いですか?」
 声をかけられ立ち止まらないような男ではない。とはいえ先程ある場所から足早に立ち去った後だ。今度は何だと視線を向けてくる青年が峰・千早(ヒーロー「ウラノアール」/獣妖「巨猴」・h00951)の姿を認める。
「何か?」
「鎧のメンテナンスを依頼したいのですが、この辺りは初めてで。いい所を知りませんか?」
 ――成る程冒険者らしい大柄な姿の青年である。少し警戒を解いたか、僅かに笑みを浮かべたコンラッドが返答する。
「腕の良い奴を知ってる。地図はあるか」
「それが、急ぎと聞き用意できず……」
 頬を掻く千早。事実周辺の情報は聞いたものの、詳細な地図などの用意はしていない。素直に、誠実に応対する彼にコンラッドはふむと小さく鼻を鳴らす。目的を同じくする『仲間』のようだ。ならば……面倒を見るのも悪くはない。
「案内しよう。あまり時間は無いが、良いか?」
「ええ、こちらも似た状況ですので」
 歩き始めた青年の後ろへ続く千早。何故とは聞かない、街の現状を知っているのなら不要だ。しばらく歩き、街角にある鍛冶屋へと到着する。
 彼は顔見知りらしい壮年の男と二、三言会話をすると、千早を見て「どうぞ」とでも言うかのように一歩下がった。

「最近街が襲われると聞き、何かできないかと思いまして」
「あの噂か。きみも「ここだ」と睨んで訪れたのか?」
 ――霊石鎧。見慣れぬそれを興味深そうに鍛冶屋があれこれ観察している様を見ながら、ちらりと千早の様子を窺う青年。
「ここの住人を避難させるにはどう備えたらよいでしょう。人質を取られると厄介ですし、なるべく多くの住人を逃がさないと」
「……そうだね」
 ――覚悟の決まり切った言葉。肯定する、それだけではない重みがある。自らの命を犠牲にしてでも、彼はこの街を守ろうと、未だ決心している。

「……コンラッドさん、一緒に対処しませんか!」
 爽やかな千早の呼びかけ。瞬きを数度して、コンラッドは困った様子で眉根を寄せた。

「すまない。おれは、一人のほうが都合が良い戦い方をするんだ」
 ――猪突猛進。先陣を切り真っ先に司令塔を狙う。それに他人を巻き込むわけにはいかないと。
「では、戦い以外ならどうですか? コンラッドさんが声をかけて回れば、きっと、いざという時に適切な対応をしてくれると思うんです」
 千早の言葉に、青年は顎を揉む。戦う事以外不得手だと思い込んでいるのだ。自分の呼びかけで誰かの気が変わるなんてことを経験して来なかった。
 だが目の前の男は、自分に戦闘以外の何かを期待しているらしい。

「おれがついていったところで、どうにかなるか?」
「とんでもない! 頼りになる人が声をかけてくれたら、心強いはずです」
 あえて彼自身の名声については触れない。千早の目的はあくまで、彼が住民を意識して動いてくれるように考えてのことである。

「……数件になるが、良いか」
 ――折れた。深く頷く千早。彼と共に、家々を回る。
 彼の顔を知るもの、知らぬもの。皆、柔和に対応し、彼らの言葉を素直に受け取ってくれた。
 まさか自分が避難や警戒を呼びかける側になるとは。青年は人々の態度に、どうにもむず痒さを感じているようだった。

「ありがとうございます。――私は峰・千早、実は『ヒーロー』なんです」
 別れ際、千早の言葉に首を傾げるコンラッド。

「次は必ず、あなたを助けに参ります」
 それこそが、ヒーローのつとめ。聞き慣れぬ響きを残し歩き去るその背を見て、コンラッドはまた、歩き始める。
 時間を食ったが、まだ……やるべきことが残っている。
🔵​🔵​🔴​ 成功

クラウス・イーザリー
希死念慮、誰かのためになりたいという想い、そのまま死ねたらいいと願う心
理解はできてしまう
(あいつみたいに、誰かを守って死ねたら……)
どんなに理想的だろう
そう思うからこそ、コンラッドの死に場所はここじゃないと思う

冒険者としてコンラッドに声を掛け、共闘を要請
「教団の連中から街を護ろうとしてくれているのは、君かな」
話を聞いてくれそうなら『教祖と一度戦ったことがある』と伝えて、一人では敵わない相手だということを伝えよう

「……死に場所を探しているのなら、ここじゃないと思うよ」
希死念慮は否定しない
無理矢理踏み込むこともしない
だけど、生命を使う場所はここじゃない、今じゃないということをどうにか伝えたいと思う

 誰かのためになりたい。そのためなら、死んだってかまわない。
 希死念慮への同調。ある種似た者同士だ。出会い方さえ違えば、もしかすれば、普通に語り合える相手だったかもしれない。
 クラウス・イーザリー(希望を忘れた兵士・h05015)は天を仰ぐ。雲のない、澄んだ青。

「(あいつみたいに、誰かを守って死ねたら……)」
 陽光はどこまでも、自分の背をついてまわる。自分の影を遠く、遠くまで伸ばしてしまう。振り返ってその手を取れるならば良かった。だが光が背にある以上、振り返ろうとも視界は変わらない。影が、伸びるのみ。
 コンラッドはどうだ。守って、死んで、誰かの背で。彼は陽の光として輝けるのか。否だ。放っておけばその『誰かの背』すら、ここで絶やされてしまう。
 だからこそ、声をかけよう。

「教団の連中から街を護ろうとしてくれているのは、君かな」
 ――今日で何人目だろうか。やたらと声をかけられる。それだけ冒険者が多いのかと、緑の目が瞬きをする。
「そう聞くからには、きみもか。随分と集まっているようだね。何か用かな」
 さほど、興味のない様子で。肩から下げた大きな鞄。何かしら買い出しにでも行っていたのだろう。立ち去ろうとする気配はなく、話を聞く気はあるようだ。

「……教祖と一度、戦ったことがある」
 その言葉に、コンラッドの視線が鋭くなった。明らかに不機嫌さを滲ませ、ふんと鼻を鳴らす。
「――死んでも蘇るクソどもが」
 素は、こちらだろうか。悪態をつく彼の様子を見ながら、クラウスは続ける。
「一人では敵わない。俺も、仲間と協力して倒した。そうでもしないと、命の危険がある相手だよ」
 コンラッドは機嫌の悪そうな表情を変えることなく。それでもクラウスの言葉を遮らず、彼の話を静かに聞いている。そうして――ふと、クラウスから視線を外した。
 命の危険など今更だ、死と隣り合わせに生きている。今までも、きっと、これからも。その瞬間がすぐ先にあるとしても構わない。『のぞむところ』だ。
 ただ「そうか」と小さく返答し、歩き始めようとするコンラッドの背に、クラウスは言葉を投げかける。

「……死に場所を探しているのなら、ここじゃないと思うよ」
 ――青年が、立ち止まった。
「……ああ、そうだ、おれもそう思ってる。だが――命をかけるには、十分な理由がある」
「だろうね。それでも」
「死ぬな。なんて言うのか? きみも」
 振り向いたコンラッドに、クラウスは――静かに首を振る。無責任な言葉を彼にかけることなど、しない。意外だったようだ。青年はやや幼い、きょとんとした表情でクラウスを見つめていた。

「ただ、今じゃない。それだけだよ」
 そう、今ではない。自分も、彼も。この命の使い方は、これでいいのか? それは先延ばしにしていい『命題』だ。
 今じゃない。ただそれだけ。

 僅かに笑むクラウスに。コンラッドは――ふと、笑い声を漏らした。
「初めてだよ。そんな事を言うやつ。変わり者だ」
「変わり者でいいよ。……あとで、合流していいかな」
「勝手にしたらいい。巻き込まれてくれるなよ」
 ん、と。突き出される彼の拳に、こつんと、自らの拳をぶつけて。
 クラウスとコンラッドは、その場を後にする。
🔵​🔵​🔴​ 成功

夜白・青
…いなくなった人の記憶は、鎖になりうるのかねい。

…さて。
オレはコンラッドさんに接触して、心を開かせるよりこの戦いにおけるコンラッドさんの重要性を伝えることにするねい。
相手は手練れのコンラッドさんを先に排除して、次に一般人のドラゴンプロトコルを狙うつもり…つまりコンラッドさんが生きている限り、相手は自由に動けない。協力して戦えばイニシアチブはこっちにあることになるわけだねい。
後は、喰竜教団についても実体験込みで話すねい。あいつらドラゴンプロトコルと見ると誰でも襲おうとするやばい連中でさあ…口ではなんかいい事を言ってても街一つくらいなら普通に壊滅させようとするんだよねい。

共闘・アドリブ歓迎だよう。

 さて『居なくなった者』の記憶は鎖になり得るか。彼に聞けば是と答えることだろう。
 コンラッドにとっては、記憶とは己を雁字搦めに拘束し続ける鎖である。
 その鎖を解こうなど、夜白・青(語り騙りの社神・h01020)は初めから考えてはいなかった。ひとつ解こうと次の鎖が。もうひとつ解けば次は縄が。手間暇をかければ緩むだろう。しかし「善は急げ」という段階、時間をかけてはいられない。

 先に情報を得ている。それゆえ彼の姿を見つけることは容易かった。
 町の広場、夕暮れが近づく空の下で休んでいる青年へと近づく青。その気配に反応して、コンラッドは顔を上げる。
 同じドラゴンプロトコル。だが纏う衣類や雰囲気から、青のことを一般人ではなく冒険者であると認識したらしい。

「挨拶は……いいか?」
「そうだねい、簡単にしておこう。夜白・青だよう」
「青か。コンラッドだ、よろしく。……きみも街の防衛に?」
 頷く青。「重要な話をしにきたよう」と。そう続いた言葉に、コンラッドは訝しげな表情を浮かべた。

「相手は手練れのコンラッドさんを先に排除して、次に一般人のドラゴンプロトコルを狙うつもりだねい」
「……何故分かる?」
「実体験込み、だよう」
 扇子を広げ、口元を隠し。コンラッドを見る青の視線は鋭いものだ。どこかで惨劇が起きた。|彼《青》は、それから生き残った者。
 となれば冒険者として喰竜教団を撃退したか、逃げ延びてきたかのどちらかだ――。それを見極めようとしているらしい。腕を組み、青に「それで」と話の続きを促してきた。

「あいつらはドラゴンプロトコルと見ると、誰でも襲おうとするやばい連中でさあ……口ではなんかいい事を言ってても、街ひとつくらいなら普通に壊滅させようとするんだよねい」
 竜を崇めるなどと云いつつ竜を喰らう。それが喰竜教団。
 弱き竜を狙い、強き竜には傅いてみせるが、襲撃を止めることなどしない。竜を崇め称えながらも、狩り尽くすためにその刃を振るうのだ。

「つまりコンラッドさんが生きている限り、相手は自由に動けない」
「――おれを仕留めようと躍起になってもらう、ということか?」
 頷く青。だがこれだけでは、猪突猛進な彼のことだ。勘違いしてひとり先走られては困る。ぱたりと扇子を閉じ、青は話を続ける。
「協力して戦えば、イニシアチブはこっちにあることになるわけだねい」
 相手――喰竜教団にとって、今脅威と認識できている存在はコンラッドのみ。他にも√能力者が存在し、各々が街の防衛に動いていることは、彼らも理解していることだろう。しかし教祖たるドラゴンストーカーは、目前に現れた彼の始末を優先し、その後、街の蹂躙へと加わった。
 ――つまり彼らは今回、星詠みの予知と強力な√能力者の加勢を、考慮していない。

「この街に集まる奴らは皆、そういうことを言う」
 青年は困ったように笑う。誰も彼も、自分の心配をするものだから。少し、面白くなってきてしまった。
 立ち上がる青年。伸びをするように翼と尾を動かして、ふうと息を吐く。
「どれにしろ、おれは戦わなければならない。戦場で会ったなら、その時は……頼もうか」
 ――どうやら随分と、『仲間』がいるようだから。

 青年の残したその言葉。|我々《√能力者たち》の存在に、思惑に勘付いている。
 だがそれでいい。彼を含む、この街の住人たちの無事を、喰竜教団の凶行を阻止するためには、存分に勘付いてもらって構わない――。
🔵​🔵​🔴​ 成功

オピウム・ラ・トラヴィアータ
さっさと一般人を逃がせばいいのね?なら簡単よ

本物が来る前にわたしが【変身魔法】で教祖に変身
さらに適当な動物を[魅了]してオークやスライムにでも変身させて
即席モンスター軍団と一緒に街を襲撃すれば皆逃げ出すでしょう

ついでに噂の死にたがりの顔も見れそうね
戦いを挑んできたら適当に相手をするわ
こういうタイプは戦場のほうが話しやすそうだし

…ずいぶん贅沢な望みね
ヒトの好きな言葉でしょう?「かけがえのない命」って
あなたがどんなに命を賭けたって、他人の命の代わりになんてならないわよ

からかって隙あらば戯れに唇を奪って[誘惑]
遊び飽きたら鳥に変身して撤退

…恋の味も知らない坊やが、悟ったような顔をするものじゃないわよ

 日が暮れる。夜が迫る。暗がりに紛れ込むはひとつの影。オピウム・ラ・トラヴィアータ(放浪の|魅魔《サキュバス》・h06159)はふうん、と声をひとつ。
 簡単なことだ。相手は一般人。自分たち√能力者にとっても、喰竜教団の連中にとっても――言い方は悪いが。『手のひらの上で、転がせてしまう命』である。
 それならば相応に。目を閉じ念じる、すがたを変える。|変身魔法《シェイプチェンジ》――つくりあげる形は、『襲撃者』。ドラゴンストーカーの姿。
 ――本物より先に動き、奴らの獲物を逃してしまえばいいのだ。
「ほらおいで、手伝いなさいな」
 柔らかな声で囁かれてしまえば、獣も簡単に魅了されてしまう。眷属と化した小動物を次々|怪物《モンスター》へと変身させていくその様は、迷宮の主人と呼ぶに相応しい。

 悲鳴が聞こえる、怯え逃げる音がする。
 蹂躙によく似た威嚇。オークやスライムといったモンスターへと変身させた動物たち。それを家屋へ向かわせ、住民を外へと追いやり、安全を確保できる位置へと誘導する。
 同じ予知を聞いた√能力者であれば、これらのモンスターは本物ではない、他の√能力者により生み出された無害なものだとすぐに察しがつくが……では、そうではない者はどうだろうか。

 ――死にたがりは思惑通り、現れた。
 路地を走り抜け植え込みを突っ切り、そのままオピウムを両断しようと大剣を振り抜いてくる男。力任せな一撃が空を切る。
 さらりと避けてみせた『ドラゴンストーカー』の姿に、青年が歯噛みをする。

「あら、こんばんは。挨拶にしては派手ね?」
「……」
 返答はない。ただ敵意を剥き出しにし、己の得物を握り、オピウムの出方を窺っている。

 だが成る程、実力差はあきらかだ。反応速度、その威力。オピウム自身を基準としても、ひとまわりほどの差がある。
 一般的な冒険者としてなら十二分に戦えるが、例の教祖へ単騎で挑むとなれば――下手をせずとも、なぶり殺しにされるだろう。

「ひとりで来るなんて無謀ね。死にたがりさん?」
「――黙れ。無駄話をするつもりはない!」
 怒声と共に勢いのまま斬りつけてくるコンラッド。その斬撃をかわしながら、オピウムは考える。……ずいぶん贅沢な望みだ。己の希死念慮と欠落を満たすために、他人を守って死のうとするなど。

「ヒトの好きな言葉でしょう?「かけがえのない命」って」
 彼女にとっては、そんな言葉は軽いもの。それこそ軽率。優雅に、戯れるように攻撃を避け、青年へと声をかける。
「あなたがどんなに命を賭けたって、他人の命の代わりになんてならないわよ」
 今までもそうだったでしょう。自分が奪ってきた命のことを忘れただなんて、言わせはしない。

 笑う彼女に激昂したか、再度突っ込んで来ようとする青年。だがオピウムはその腕を掴み受け流し――す、と顔を近付ける。
「――!?」
 一瞬唇に触れる感覚にびくりと顔を引くコンラッド。遮られた視線、その先にはドラゴンストーカーの姿は既にない。
 少し遠くに立つ、魅魔の姿だけ。
「なっ……お前……!」
 どうやら彼女は標的ではない。ようやく気付いたかと首を傾げてみせるオピウム。鳥に変身して飛び立つ彼女。唖然とした様子で見上げる青年の顔を見て、彼女はくすりと笑い声を洩らした。

「(……恋の味も知らない坊やが、悟ったような顔をするものじゃないわよ)」

 夜の闇に溶ける鳥の姿。
 ――さて、襲撃の時は近い。
🔵​🔵​🔴​ 成功

第2章 集団戦 『エンジェル・フラットワーム』


POW 捕らえる
【口を大きく開いて】から【、敵を捕らえて胃袋へ放り込むための触手】を放ち、命中した敵に微弱ダメージを与える。ただし、命中した敵の耐久力が3割以下の場合、敵は【フラットワームに丸呑みにされ、全身が溶解】して死亡する。
SPD 毒を撒き散らす
指定地点から半径レベルm内を、威力100分の1の【有毒の粘液】で300回攻撃する。
WIZ 這い寄る
【薄っぺらい半透明の体を活かした襲撃】の体勢を取る。移動力と戦闘力を3分の1にする事で、肉眼以外のあらゆる探知を無効にする。嗅覚・聴覚・カメラ・魔術等、あらゆる探知が通用しない。
√ドラゴンファンタジー 普通11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

 さて、とある路地。
 大剣を立て座る『彼』の姿。金髪、褐色、緑の眼。片角の折れたドラゴンプロトコル。やや疲弊している様子だが、何があったかは定かではない。

 ……悍ましい気配が、近付いてきている。
 静かに立ち上がる青年。騒がしくなる広場――予知通りであれば、彼はこのまま騒ぎの中心へと駆け抜けていき、首謀たるドラゴンストーカーへ特攻していくはずだ。……だが。

 拳を握り走り始める。疾く行動しなければならない。
 広場から逃げてきた一般人、それを捕らえようと追う異様な影。その間へと入り、平べったいその異形を物理でもって叩き伏せる。

「……この命の使い方に、正しさなんてない」
 正しさはなくとも、確かなことはある。逃げる一般人を尻目に向き直る男。
「だが。――犬死にするより、ずっとマシな死に方があるらしい」
 笑む。どいつもこいつも、自分より他人の心配ばかり。強引なやつもいたが……今回は。
 その意を汲んでやろうじゃないか。

「――走れ! 『おれたち』が時間を稼ぐ! 逃げ遅れてくれるなよ!」
 そう声を張り上げ。広場から通りへと溢れていくエンジェル・フラットワームを牽制しつつ、後退していく。
 こちらの心配はいらない。好きに暴れてやれ!
夜白・青
無事に了解もとりつけられたところで、次は一般の人を守りきらないとねい。
コンラッドさんに啖呵を切ったからには協力して戦って、喰竜教団の思うようにはさせないよう。

たとえ肉眼以外で見つけられない√能力を持っていても、こんなに大勢いるなら探すまでもなく見つけ次第攻撃すればいいわけだねい。
御伽語り・妖妖でひたすら妖精と妖怪の幻影を生み出していくねい。
幻影は攻撃役を多く生み出して一般人を守りながら、余力があれば反射の幻影をコンラッドさんについていかせて一応の護衛をしてもらうねい。理由はわからないけど、ちょっと疲れてるみたいだからねい。

共闘、アドリブ歓迎だよう。
峰・千早
朱の面頬をつけた今はヒーロー『ウラノアール』
コンラッドの声に目を細めてから、散開して戦う。
まずは住人が避難したか確認。

さて、この生き物はぐにゃぐにゃして面妖ですね。
探知しづらくなって這いよるのが得意のようですが、私は【失せ物探し】も得意ですよ。
そして、【決戦気象兵器レイン】でどこに居ようが【レーザー射撃】できます。
生き残りは宝珠杵で攻撃し、着実に倒しましょう。
「お疲れ様、と言いたいところですが、ここからが本番ですね」

 ――『おれたち』が時間を稼ぐ。
 聞こえてきた高く響く声に目を細めるは、峰・千早(ヒーロー「ウラノアール」/獣妖「巨猴」・h00951)。どうやらコンラッドは確りと、新たな『仲間』を得たことを理解したようだ。
 その期待に応えねばならない。身につけるは朱の面頬。ヒーロー、『ウラノアール』は周囲を見回す。前もっての声掛けもあってか、逃げ遅れた住人は殆ど居ないようだ。ならば、好きに暴れても構わないだろう。

 広場から溢れ、雪崩れてくる異形は途切れることがない。夜白・青(語り騙りの社神・h01020)はウラノアールよりやや後方。詠唱により様々な妖を生み出しながら、平たい異形たちを召喚した妖精、妖怪と共に待ち構える。

「必ず助けに来ると、約束しましたからね」
「啖呵を切ったからにはねい」
 立てた誓いは当然守るべきだ。ぐにゃぐにゃとした柔らかな体をうねらせながら迫るエンジェル・フラットワームの群れ――そこへ御伽語り・妖妖、先んじて飛び出した大小さまざまな妖怪たちが激突した。鬼の腕の一振りが薙ぎ払い、足元を管狐がぐるりと結ぶ。
 攻撃を受け、半透明に変化した体。これならば召喚された妖怪や妖精、非現実の住人たちの視線からは逃れられるだろう。だが、ウラノアールと青の肉眼からの探知から逃れることは難しい。
 通りに溢れるほどの大勢力……見通しも良いとなれば、簡単なものだ。探すまでもなく、その姿をとらえることができる。問題はその数のみ。それへの対処も既にしっかりと用意している。

「どこへ逃げても悪あがきですよ!」
 攻撃の役目を終えた妖怪たちが一瞬途絶え、消えたその瞬間――ウラノアールが放った『レイン』が戦場へと降り注ぐ。石畳や瓦を割る音と共に、無数のレーザー射撃がまさしく雨のように振る中、まるで溶けるかのように形を無くすエンジェル・フラットワーム。
 豪雨を生き残ったものがウラノアールを襲撃せんと手を伸ばすが、その頭部と思わしき場所を彼の宝珠杵が勢いよく叩き潰した。

「おっと、抜けてきたようだねい」
 その後方から這い寄り不意打ちをしようとした異形も、青の生み出した妖精の一突きで息絶えた。――青を狙おうと迫る手を反射するお菊の皿、次いでざくり切り落とす鎌鼬。
 数で攻めるのならば、こちらも数。実にシンプル、かつ効率的な往なし方だ。見事戦線を押し返す。

「……お疲れ様、と言いたいところですが、ここからが本番ですね」
「喰竜教団の教祖がお待ちだからねい」
 この先……通りの奥。此度の事件の首謀者、竜を喰らうために降り立っているであろうドラゴンストーカーを思いながら、青は広げた扇子をひらりと翻す。
 小さな詠唱と共に生まれた幻影。異なる通りで応戦しているであろうコンラッドの側へと、小さな妖精が飛んでいく。たとえ届かぬとしても――彼の様子は、やや不安なものだった。何があったのかは定かではないが……彼にとってこれが、少しの足しになれば、それでいい。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

オピウム・ラ・トラヴィアータ
さっき【変身魔法】をかけた眷属が残ってるから
雑魚の相手はそいつらに任せるわね

毒に備えて散開して戦うよう指示
サキュバスに再変身させた眷属も投入し
[魅了]による同士討ちを狙う

わたしは逃げ遅れた一般人に変身して
さっきの死にたがりの様子を見に行くわ

足をくじいてしまったの…お願い、肩を貸して
(必要以上に体を密着させて[誘惑])

ねえ…わたしと一緒に逃げてしまわない?
戦いなんて忘れて、どこまでも遠くへ
わたしを守って。わたしだけを守って
命が惜しくないのなら、その命をわたしに使ってくれたって、いいでしょう?

…ふうん。それがあなたの答えね
いい暇つぶしになったわ。さ、なにを呆けているの?
まだ戦いは終わってないわよ

「――おいで」
 狂騒から逃げる小リス。目があったが最後指先くるり、愛らしいサキュバスの出来上がり。周囲を見回して、目が合ったオピウム・ラ・トラヴィアータ(放浪の|魅魔《サキュバス》・h06159)に己のすべき事を視線で問う。
「毒に気を付けて散開なさい。あなたは今、魅了する魔。存分に……」
 魅了の魔術は小リスを戦いの中へと向かわせる。正体は小さく曖昧なもの。一撃を食らえど本体は獣なのだから、大事には至らない。

 屋根の上から見る街。逃げる人々溢れる怪物、本格的な交戦が始まった。真下では竜の青年が逃げ遅れたものはいないかと声を張り上げ、じりじり後退している。雑魚相手ならばなかなかやる男だ。
 石畳に降り立つオピウム。先程逃げていった女性の姿をとり、その場に崩折れてみせる。まるで今転けてしまったという風に。

「ッ、大丈夫か!」
 お人好しめ、引っかかった。走り寄ってくるコンラッド、伸ばしてくるその腕をオピウムが掴んで引き寄せる。
 膝をついた彼に体を密着させ。耳元で囁く。誘惑を舌の上に乗せた、甘くとろける声色で。
「足をくじいてしまったの……お願い、肩を貸して」
 ――戦場だ。高ぶる闘争本能に割り込むには、相応の能力が必要。
 喉を鳴らす青年。行動は落ち着いている。彼女の足を見て触れ。変身魔法で作り上げた負傷に彼は目を細めた。

「ねえ……わたしと一緒に逃げてしまわない?」
 砂糖菓子よりも甘い。信念のないものはすぐに頷く。
「戦いなんて忘れて、どこまでも遠くへ」
 忘れることも簡単。逃れるのも悪くはない。
「わたしを守って。わたしだけを守って」
 己の中心に彼女を置く。そう決めてしまえばきっと。
「――命が惜しくないのなら、その命をわたしに使ってくれたって、いいでしょう?」
 この言葉にも頷いてしまっただろう。耳にかかる吐息。本能を擽るそれ。
 だが――。

「察せないほど、おれは鈍感じゃないよ」
 彼女へ囁く声、やや余裕の色。誘惑に彼は頷かなかった。
「興味はある。『きみたち』が教えてくれたものだから。回答は先伸ばしだ」
 少し呆れたように……だが確かに、愛しいものを見るように笑む男は、ぽん、とオピウムの背を叩き離れていく。

「……ふうん。それがあなたの答えね」
「さっきの兎娘だろう、きみ」
「あら。勘がいいのね?」
 すらり立ち上がる姿、溶ける変身。長い袖を揺らしてくるりと回る|オピウム《魅魔》の姿に困った様子で笑うコンラッド。

「いい暇つぶしになったわ」
 満足げな彼女。……その視線の先には、魔物たちが文字通り組んず解れつ雁字搦めになっている。同士討ちの結果絡まってしまったようだった。

「さ、なにを呆けているの? まだ戦いは終わってないわよ」
 ほんのちょっぴり、他人事だが。
 だいぶ揺さぶれたのだ、あともう少しだったか。
 わたしが|生きる《死なぬ》理由のひとつになれば、面白かったのに、なんて――。
🔵​🔵​🔴​ 成功

クラウス・イーザリー
(……良かった)
コンラッドの近くに駆け付けながら安心する
彼をここで失いたくはなかったし、優しい星詠みが泣いてしまうのも辛いから
少しでも何かを変えられたのなら幸いだ

「こっちは任せて、振り返らずに走って!」
逃げる一般人を促しながら、敵味方を一番巻き込める地点に向けて紫電の弾丸を使用
敵を纏めて攻撃し、コンラッドを含めた味方を強化する
もし彼と視線が合ったら微笑んで頷くよ

ライフルを構えて、弾道計算+スナイパーで弱ったワームに止めを刺していく
毒の雨は走って逃れながらエネルギーバリアで防御

本命が駆け付ける前に片付けてしまいたいね
コンラッドが危なければ守りに行くけど、彼はこのくらいの相手ならきっと大丈夫だろう

 ――良かった。
 ほんの少しでも。否、しっかりと|方向性《ベクトル》を変えられたのだ。星詠みの願いは無事に叶い、このままならば犠牲は出ないだろう。戦線を維持するコンラッドにクラウス・イーザリー(希望を忘れた兵士・h05015)が駆け寄り隣へと立つ。
「加勢は必要かな」
「――任せて良いか、一旦離脱したい」
「了解」
 すれ違いざまに声をかけあう。猪突猛進さは抑えられたか、最前線に立ち続けようとしない様子を見るに、√能力者たちへの信頼は相当に高いようだ。
「こっちは任せて、振り返らずに走って!」
 範囲、半径25m。いまだ残る一般人へ声をかけながら、クラウスは敵の中心と自分たちの立つ位置、その丁度に雷の弾丸を撃ち込んだ。
 次の瞬間、迸る雷電が一瞬視界を遮る。
 己と味方へ活力を漲らせ、敵には純粋なる雷として放たれた銃弾。焼け焦げる音を悲鳴の代わりとして、エンジェル・フラットワームたちの動きが止まった。

「毒の雨を振らせてくる、範囲外まで出て!」
「心得た! 別の通りへ向かう、どうか無事で!」
 動きの止まった今が好機だ。コンラッドが藪を抜け塀を飛び越え、次の戦場へと向かうのを見送る。視線が合った。互いに微笑んで、前へ向き直った。

 体勢を立て直した敵が次々と毒の粘液を放出する。クラウスはその範囲に入らないように走りライフルを構え、弱っている敵を次々と撃ち抜いていく。溶けるように、そこに何もなかったかのように。まるでクラゲのように溶けて消えるエンジェル・フラットワーム。
 立ち止まるその瞬間を狙ってくる粘液をエネルギーバリアで弾きながら、隣の通りから聞こえてくる声にふと意識が行く。彼の声。

 ――おれたちが死ぬのは、今、この時ではない。
 命を捨てる覚悟というにも種類がある、というわけだ。促しはしたが……彼の選択は正しかったのか。世間的に見れば『そう』だろう。クラウスにとっては――どうか。
 あれが『希望』に満ち溢れた言葉と行動なのだろうか? だとするなら、|彼《コンラッド》は、陽の光になれるだろう。

 ……このくらいの相手なら、彼はきっと大丈夫だ。誰かの助けはあっただろうが……この通りの敵の数は、もはや問題ない。
 どれにしろ、『本命』が駆け付ける前に片付けなければ。
 竜を狙う教祖の影は、きっと、すぐそこだ。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

リニエル・グリューエン(サポート)
√能力は指定した物をどれでも使用し、他の√能力者がいれば、基本は支援や回復などの様に、サポートや後方支援を優先します。
敵に隙が見えたり密集していたら、仲間を巻き込まない様に注意しながら、強烈な範囲攻撃で一掃。
仲間との連携や助け合いを重視し、後衛職としての立ち回りを重視。

教団の教皇ということで、神の威光や自信満々の様子を見せるも、おちょくられたり煽てたらチョロい可愛い女教皇。
ただし、仲間や何より神を侮辱されれば豹変。
神咲・七十
アドリブ・連携お任せ

ふにゃ……説得の方は上手くいったみたいですね
……苦手でしたので助かりました。
その分はしっかり働きましょうか

(√能力を使用。二振りの大鎌を手に突撃)

んんぅ?なんだかそこにいるはずなんですけどうまく捉え続けられませんね……
そういう力なんでしょうか……繋がれば死角もなくなるかもですが確証もありませんね
なら、ちょっと強引な手で行きましょうか

(敵の攻撃を再生力頼みにしてあえて受けて)

うん、そこですね……かなり痛いですけどこのタイミングならすぐそこにいるのが分かるので攻撃しやすいですね

(攻撃を受けた痛みから敵の位置を割り出し大鎌と呼び出した植物の両方で敵を打ち倒して)

「さあっ危機的状況と聞きました! わたしが来たからにはもーう安心☆ なにせわたしはシャリス神の代弁者、汝らを救い……って」
 駆けつけたリニエル・グリューエン(シャリス教団教皇・h06433)の目前に広がる光景。道へ溢れる平べったい怪物ども。
 それを二振りの大鎌を手に容赦なく叩きのめしている最中の神咲・七十(本日も迷子?の狂食姫・h00549)。
「な……何なのこれぇ~!?」
 だいぶ大変なことになっているのであった。確かに大変そうだとは思ったが結構に結構。ややこちらに分があるものの拮抗している戦場へと訪うこととなったのだ。
「んんぅ? なんだかそこにいるはずなんですけど、うまく捉え続けられませんね……そういう力なんでしょうか……」
 背後から聞こえてくる悲鳴は知ったことではないとばかりに。肉眼で視認できるとはいえ半透明、殴っても斬っても奥から迫るエンジェル・フラットワーム。
 ふとリニエルに気が付いた七十が「ぴっ」などと声を上げて一瞬静止した。みしらぬひとかげである。緊張するも目の前の敵を叩き伏せ、リニエルの方へとゆ~……っくりと後退してきた。

「住民の方の避難は?」
「び。微妙かもしれないです」
「ならっ! わたしに良い案があるわっ!」
「わぁ~」
 ぱちぱち、七十ちゃん。ノリの良さからすぐ慣れたか、大鎌を小脇に拍手。リニエルの|神聖竜詠唱《ドラグナーズ・アリア》にて、巨大なる|神聖竜《ホーリー・ホワイト・ドラゴン》が顕現する――!

「ではお腹が空いたのでお菓子を~……」
「待って、汝! 待ちなさい! そういうものではなくて! ……んんッ、こほん!」
 仕切り直しだ。
「――この付近に居る、逃げ遅れた一般人の方々、特にご老人や病人などを優先して、安全な場所まで連れていってちょうだい!」
 やや尊大ながらも願うことは実に真っ当、心得たとばかりにいくつかの光へ分かたれ、地上に降りる神聖竜。その光が家屋の中へと入っていく姿を見届けて、リニエルはふふんと前へと向き直る。

「全てはシャリス神のお導き……」
 指を組み祈る彼女だが、その神とはいったい何なのだろうか? 一部始終を見ていた七十は不思議そうに首を傾げる。

 だが、これで憂いは晴れた。説得や避難誘導は苦手な七十である。暴力に訴えかけてしまいかねない暴走力。
 だが今となれば、それを全力で振るえるのは目の前に溢れる|魔物《モンスター》だ。

「――ちょっと強引な手で行きましょうか」
 視認し辛い彼らの攻撃をあえて受け、その反撃として一撃を返すカウンター。|我隷我喰《ガレイガガ》によって吸収した生命力を糧としながら、自身の速度と攻撃の威力を上げる。
「うん、……かなり痛いですけど、すぐそこにいるのが分かるので攻撃しやすいですね」
 攻撃を受けた方向。群れているであろうそちらへと、大鎌を振り抜き、操る植物との挟撃で敵を次々仕留めていく。
 非常に攻撃的な戦法だ、自分が傷つくことを厭わないタイプとはいえ、それだけで前線に立ち続けるのは、一人では少々難しかったかもしれないが。
 ――おなかがすいた。こんな平べったい怪物などで、腹が膨れるわけはない。振り抜く大鎌が、エンジェル・フラットワームが伸ばしてくる手を両断した。

「簒奪者はいつもこう! いつもこう!!」
 こちらはけっこうな状況に放り込まれた半泣き教皇様、なんやかんやでうまくやる。聖書と杖を手に、視認できた敵を範囲攻撃となった魔法で打ち抜いていく。
 だがそれがちょうどよく七十の攻撃の合間を縫い、戦線を徐々に押し返していく――!
「……あっ。これは……わたし天才!?☆彡」
 その説、けっこう、アリ。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​ 成功

夜縹・熾火
連携&アドリブ歓迎
◆行動◆
コンラッドの動向&前章で見かけた鎮痛剤が気懸かりなので彼の存在を目の届く範囲に収めつつ、護衛任務を全うする。【果て無き渇欲】で魔獣を召喚、敵の足並み崩壊を目指して暴虐の限りを尽くしてもらう。触手は斬撃で切断、レーザーで焼き払う。大きく開いた口にグレネードを放り込む。彼が鎮痛剤を服用した際、揶揄うようにそれでいて事実だけを述べる為に声を掛け、取り上げて【Do you remember?】をこっそり発動。どんな反応をするか見届けた後、薬を返す。
◆心情◆
おいで、盛大にもてなしてやろう。それは露店で売っていた鎮痛剤かな?やれやれ、誰よりも死を想い、恋焦がれているのに自ら遠ざけようとするとは理解に苦しむ。死にたいんだろう?痛み無き死が贅沢品だという事も知らないのかい?こんな物に頼っているようでは真なる眠りは訪れないよ。夢破れて、妥協しているだけ。厭だと駄々をこねる子供と同じさ。ほら、薬は返そう。痛み?どこにあるって言うんだい?さぁ、行こう。休んでる暇なんて無いよ。

 佳境だ。山場だ。明らかに増援が減ってきた。息を切らし肩で呼吸をしながらも大剣を振り抜き、怪物どもを両断する青年。あと、一押し。自分自身だけではどうにもならない、理解している。
 もし運命が、変わらなかったのなら。星詠みと√能力者の介入が無かったのならば。首領へと戦いを挑んでも、これらモンスターの群れを相手取るにしても、待っていたのは敗北だろう。
 青年は『こんなもの』を人任せにしようとしていたのか、と自嘲する。自分でも手一杯だ、そこらの冒険者が立ち向かえるわけがないじゃないか――。

「や。大変そうだ」
 手の甲で汗を拭ったその横に。いつの間にか気配なく立っていたのは夜縹・熾火(|精神汚染源《Walker》・h00245)。青年は瞬きを数度して、また、前を見る。
「まだ『やってみなければ分からない』なんて言えるかい?」
 ……青年は、コンラッドは小さく、頭を振る。たったひとりで先陣を切り、道を切り拓いてきたつもりだったが。
「平和ボケしていたようだ」
 笑ってみせるも、状態は明らかだというのに、頑固者。

「ここは任せて、別の場所に」
「行くわけがないだろう?」
「はは……それもそうだ」
 わざわざ、様子を見に来るような相手に何を言っているのか。大剣を立て、睨む先。勢いは落ちたが斬っても斬ってもきりがない。
 頼るべきが誰なのか、何なのか、理解してなお、その場に立っていなければ気がすまない。どのような星の巡りであれ、彼はこうして戦地に立つことを選ぶ。それだけは変えられぬ運命。
 熾火はそれが悪あがきでしかない事を察している。自傷めいた先手必勝、それが通じるような相手はここにはいない。

 ともあれ降りかかる火の粉は払わねば。
「おいで、盛大にもてなしてやろう」
 ――|果て無き渇欲《サースト・フォー・スローター》はどこまでも。召喚されるは四つ足の魔獣。大顎が割れ、すり潰すかのように餌を噛み砕く。名状し難い姿のそれが、石畳を砕くように踏みしめ闊歩する。どちらが怪物だか分からない、否、どちらも怪物だ。どこに巣食っていたか、誰に従っているか。そして、どちらが強者であるかが異なるだけで。
「……これ、は」
 青年は目を見開き、繰り広げられる光景を確りと見る。

 指揮官を見定める目だけはあるようだ。熾火を狙うエンジェル・フラットワーム。だがそれも、口に放り込まれたグレネードにより内部から爆散する。
 迫る触手も許さない。切り捨て、焼き払い、魔獣と共に戦場を蹂躙する。
 夜のようなくらやみを纏って、食らいついたまま顎を振り肉を引きちぎり。獣はただ、喰らう、喰らう。味わうことなどせず嚥下するさまは、暴食のそれであった。

 ――止んだ。

 増援はもう来ない。散らばる残骸を魔獣の舌が舐り取っていく。骸ひとつ残さず……魔獣は夜に溶けるように、消えていった。そこにあるのは、蹂躙の痕跡だけ。

「こんなところかな」
 小首を傾げる熾火を見て。コンラッドはなんとも言えない顔をした。彼女の能力を思ってか、それとも、自らの力不足でも嘆いたか。

 ――視線を下げ、彼が自身の手のひらを見る。ひどく震えている。それからすぐ、鞄から取り出した薬瓶の蓋を開け、一息に飲み干すコンラッド。
「それは露店で売っていた鎮痛剤かな?」
 その瓶がしまわれる前に、熾火がひょい、と空き瓶を取り上げる。はっと目を見開き、そして眉根を寄せる彼に、熾火は軽く肩をすくめてみせた。

「やれやれ、誰よりも死を想い、恋焦がれているのに自ら遠ざけようとするとは理解に苦しむ」
「……遠ざけているわけじゃない。一時的な効果しかないんだ、傷も治りはしない」
 そう。興味なさそうに、冷えた声色で相槌を打つ彼女は、己の目的を忘れていない。手の震えはまだおさまらない、相応に傷を負っているのだ、疲弊している。それを鎮痛剤ごときでどうにかしようとは、まったく愚かじゃあないか。
 ――記憶の回帰。
「死にたいんだろう? 痛み無き死が贅沢品だという事も知らないのかい? こんな物に頼っているようでは真なる眠りは訪れないよ」
 結局、死は平等に訪れるのだ。皆が死ぬ。痛みも苦しみもない死など、滅多にありはしない。眠るように死ねたらいい? 何を夢見ているのだか。
 さて、竜よ、おまえはどうだ。

「……痛みを忘れられるなら、もっと前へ、立ち続けることが出来る。そうすれば、おれより先に傷つくものが減る。それでいい、それだけで……強くあれる、守れるんだ、少しは、足しに……」
 小さく、言葉を紡ぐコンラッド。自分の危険をもって、他者の憂いを払う。ファーストペンギンかな。キミは。危険を承知で先へ、先陣へ。愚かだ、好ましいかそうでないかと言えば後者。
「夢破れて、妥協しているだけだね」
 厭だと駄々をこねる子供と同じさ。
 世の中、苦痛に溢れる死に様であっても、満足だと死ぬ人間だって居る。そういうものを目指し選べばいい。甘えた考えを捨て去って。

「ほら、薬は返そう」
「……返された、ところで」
「痛むかい? どこが?」
 ――傷が、治癒していっている。驚きに目を見開くコンラッド。
「さぁ、行こう。休んでる暇なんて無いよ」
 キミが、『あれ』相手に役に立つかどうかは別として。顔くらいは見たいだろう。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

第3章 ボス戦 『喰竜教団教祖『ドラゴンストーカー』』


POW 竜骸合身の儀
自身の【身体部位一つ】を、視界内の対象1体にのみダメージ2倍+状態異常【竜化暴走】を付与する【竜化部位】に変形する。
SPD 竜骸蒐集
【大剣】が命中した部位を切断するか、レベル分間使用不能にする。また、切断された部位を食べた者は負傷が回復する。
WIZ 真竜降臨の儀
インビジブルの群れ(どこにでもいる)に自身を喰わせ死亡すると、無敵獣【真竜(トゥルードラゴン)】が出現する。攻撃・回復問わず外部からのあらゆる干渉を完全無効化し、自身が生前に指定した敵を【灼熱のブレス】で遠距離攻撃するが、動きは鈍い。
√ドラゴンファンタジー 普通11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

 不愉快だ。

 女は広場にて唇を噛む。攻め入る前から、何かが可笑しいと理解していたが、どうにも……想定以上ではないか。|ひとり《一匹》も捕らえられていない。どういうことだ。『下調べ』では、もう少し楽に数を食らえるはずだった。
 用意したモンスターは全滅。こんなことなら『量』などに頼らず、適当に配下を忍ばせていれば良かったか。

 完全に予定を狂わされた『ドラゴンストーカー』は苛立ちのまま、腹いせとばかりに大剣を振り抜き石畳を割る。
 ……ああそれでも、我が『生きる』理由を全うしよう。
 一匹だけでも喰らえれば良しとしよう。
 我らが『真竜』へ捧ぐ遺骸、寄越して頂こう――!
夜縹・熾火
連携&アドリブ歓迎
◆行動◆
敵の『生きる理由』を、彼が『望む死の形』と照らし合わせよう。その上でドラゴンストーカーに命を捧げる価値が有るか否かを彼に判断させる。ついでに敵の耳触りの良い戯言を『正しい意味へ改悪』して翻訳、噛み砕いて説明、彼に聞き届かせる。あくまで彼と対話を続け、敵には攻勢を以て応える。初手【慈悲深き灰眼卿】でブレスを2回。爆発時の煙に乗じて変身を解いて【良き隣人】発動。以降、戦闘技能を駆使して敵を滅殺する為に尽力する。
◆心情◆
聞いたかい?彼女はキミの身体に大層御執心らしい。死んでくれと心の底から願い、死した身体を供物にして死後も役に立てと言っている。けど、守る為に自分を殺し続け、死を求めて誰かの前に立ち、後ろを振り返るよりも多くの死に対面して向き合い、生き抜いたキミだからこそ違和感を抱く筈だ。彼女は死を軽く見ているのだと。ほら、言ってやりなよ。死に最も近い男として彼女が生きる理由を否定して見せてくれ。
クラウス・イーザリー
「随分お怒りの様子だね」
ダッシュで懐に踏み込んで接近戦を挑みながら呟く
目論見は上手く潰せたようで何よりだよ
序でに、その命も1回分置いていってもらおうか

コンラッドが近くに居るなら、彼に気を取られて少しはこちらへの対応が疎かになるだろうか
その隙を突いて、常に大剣の間合の内側に入ることを意識しながらマヒ攻撃で動きを鈍らせて居合で攻撃
敵からの攻撃は受け流しで凌ぎ、コンラッドが殺されそうになったら庇う
俺がここにいるからには死なせない
希死念慮を叶えさせることができないのは、申し訳ないけど

竜骸合身の儀を使われたら竜化部位に右掌で触れてルートブレイカーを発動し無効化
「お前は真竜になんてなれないよ」

 目論見は見事潰えた。目的を見失い、それでも理由を探し――出した結論は結局妥協。その悔しさたるや、彼女に大きな隙を与えている。
 石畳を割るドラゴンストーカーの一撃。その音に紛れるように、彼女へと走り迫る影がひとつ。
「随分お怒りの様子だね」
「――ッ、なっ!」
 踏み込みは深く。彼女が大剣を振るう隙がないほどの至近距離へと迫るはクラウス・イーザリー(希望を忘れた兵士・h05015)だ。不意打ちとばかりに間合いに入り込み、スタンロッドを振るい打ち付ける。ばちりと雷光が爆ぜ、ドラゴンストーカーは反撃も防御行動もできぬまま怯み、大剣を握ったまま、クラウスを見て目を見開いている。

「序でに、その命も1回分置いていってもらおうか」
「何を……ッ、ああ、そうか! お前たちが、わたくしどもの邪魔をッ!!」
 ヒステリックに叫びながら、蹴りを繰り出しクラウスとの間合いを取ろうと試みる彼女だが、麻痺の残る体はそれが叶うほど機敏には動けない。
 脚を受け流し、距離を保ったまま、クラウスはドラゴンストーカーを睨む。――ここまで、竜に執着し、それを『生きる』理由としている。喰竜教団の果てしない狂気が、彼女の瞳の奥に見えた。
「お前たちさえ居なければ! わたくしどもは、さらに『真竜』へ捧ぐ遺骸を得られたというのに――!」
 喚き散らしながらクラウスを引き剥がそうと、ようやく持ち上げた大剣を彼へと半ば殴りつけるように振るう。

 ……もはや無様と呼んで差し支えないだろう。敗者が喚いている。そのような、光景。

「――聞いたかい? 彼女はキミの身体に大層御執心らしい」
 呆れたように、あるいは興味が無いようにも聞こえる、曖昧な声色。呟く夜縹・熾火(|精神汚染源《Walker》・h00245)の背後には。

「……あれが。きみたちの言っていた」
 ドラゴンストーカーと、ドラゴンプロトコル。その視線がかち合った。瞬間、ドラゴンストーカーの目が見開かれる。竜だ。それも――上質な。間違いのない、『格下』の。

「ああ……ああ! あなたさまは……!」
 ――まさか、こんなところまで着いてくることになるとは、などと。片角の竜の青年、コンラッドは教祖を睨みつける。あれが、この街を壊滅させようと企んだ女。あれが、自分たちを、同法を喰らおうと企んだ……!
「俺を知っているのか」
 怒りのままにぐっと拳を握りしめる彼、その手の震えにすら気付かず、ドラゴンストーカーは興奮した様子で言葉を紡ぐ。
「ええ、ええ、もちろん! 街を護る、強き竜……あなたさまがここに居るということは、やはり。わたくしどもは、間違ってなどいなかった! あなたはやはり、わたくしどもに、その身を捧げに来てくださった! ええ、わたくし、『あなたがた』の生命――この身に、預かります!」
「――ッ……!!」
 クラウスを振り払い、だが青年へ駆け寄ることはなく。教祖は輝く瞳で彼を見る。狂信。狂信である。相手のことを欠片たりとも理解しない、理想の押し付け。

「……だってさ」
 ちらり、コンラッドへと視線をやる熾火。
「死んでくれと心の底から願い、死した身体を供物にして、死後も役に立てと言っている」
 それはある種、彼の望んだところであった。今となっては……そう、今のこの状況においては、愚かな行動だと思い知らされたゆえ、望むわけにはいかない。
 熾火は続ける。
「守る為に自分を殺し続けて。死を求めて誰かの前に立ち、後ろを振り返るよりも、多くの死に対面して向き合い、生き抜いた」
 そうだ。誰よりも求め、誰よりも拒み、それでも側に「それ」が居たのだ。希死念慮という「友人」が。

「そんなキミだからこそ違和感を抱く筈だ」
 |彼女《教祖》は、死を軽く見ているのだと。

 熾火は、唇をぎゅっと結んでいる青年の背をぽん、と軽く叩いて。
「ほら、言ってやりなよ」
 死に最も近い男として――彼女が|生きる《死なぬ》理由を。

 コンラッドが唇を開く。睨みつけるその金色。
「――他人の人生を喰らって、自分の一部にしたところで……」
 疾走るドラゴンストーカーが、勢いのまま大剣を振り下ろす。迫る刃を受け止めるクラウス、歯噛みし、だがコンラッドから視線を逸らさぬ女へ、彼は。

「おまえは、『生命』を背負おうともしていない。身を捧げる? それがおれの、死ぬべき理由か? 笑わせるなよ」
 震えている。だがそれは恐怖からではない。青年は――怒りのままに、吐き捨て。
「おれの肉を喰らおうと。おれのすべては、おまえのものになんてならない。――おれが死ぬべき時は、今ではない」

 ――彼女が生きる理由を、否定してみせた。

「――き……ッさまァッ!!」
 叫ぶ教祖、クラウスを振りほどき、薙ぎ払うように振るわれた大剣。本来ならその刃はコンラッドを両断し、彼の『望み』を叶えたのであろう。だが今となっては、その予知は崩れていた。
 コンラッドの抱えた希死念慮は叶わない。それに申し訳なさを感じれど、彼はここで、死ぬべきではない。大振りな動作の隙を付き、クラウスの雷撃が迸る。

 舌打ちをする女。竜に対する敬意など、もはやない。
 目の前の『竜』を屠ることだけを考えている。怒号のような唸り声を上げながら、ドラゴンストーカーのその体――青い表皮から刺々しい鱗が生まれ生え揃い、竜の形を成そうと腕の骨格が竜のそれへと変化し始めるも。
「――行かせない」
 その竜化部位に、|クラウスの右掌《ルートブレイカー》が触れた。

 冷め切った視線が彼女を射抜く。
「お前は真竜になんてなれないよ」
 俺がここにいるからには、死なせない。――|彼《・》と同じ意思である。守護者たる彼らが、ひとびとを蹂躙しようとした「それ」を、許すわけはない。

「……さ、お話はおしまいだ」
 ほんの、普段通りの仕草のように。ある種、優雅に。――熾火の周囲に、砂埃が舞い上がり渦を巻く。冷えた炎がちらつく。その一瞬だ。
 |慈悲深き灰眼卿《ティルトウェイト》。現れたるは、巨大なる髑髏蜘蛛――!
 ――逃げなよ、巻き込まれる。
 行動を察したクラウスがドラゴンストーカーへ麻痺の一撃を叩き込み、そのまま後退する。突如として目前に出現した、蒼炎に包まれた蜘蛛へと狼狽えるドラゴンストーカー。だが、これから何が起こるのかだけは確りと理解した。
 来る。

「っづ、あァッ!?」
 放たれるは凍える爆炎、冷たき炎。生ける炎の子、その権能。
 野晒しの骸、灰塗れの眼窩。キミも見たことがあるんじゃないか?

「なんっ……これ、は、いったい――!」
 困惑するコンラッドを、その強烈な衝撃波から遠ざけ庇うクラウス。まったく派手だ。種火を燃やす蜘蛛、火力を上げる、吹き飛ばされたドラゴンストーカーを、狙う。

 罪深き理外者よ、死に往く獣達よ。ああ、理外者かどうかは定かではないかな。
 ともあれ……我こそが。汝等の悍ましき業である。
「――!!」
 強烈なブレスを、二度。巻き起こる爆発と煙。その中からふっと現れた熾火は、「やあ」とばかりに手を上げて。その腕を、未だ煙の中に居るであろう教祖へと向けた。
 異形。|良き隣人《フリーク》とはよく言ったもの、きみってやつは、もしや、『トリックスター』ではないかね。
 すう、と次元が裂ける。裂け目と呼ぶにはあまりにうつくしく。だが瞬間、それらは無数に飛び出していく触腕により、切り刻まれることとなった。その勢いによって晴れる煙。
 ……周囲を触腕に囲まれている。逃げる隙すら与えられず、その肌を切り裂かれ削がれながらも、ドラゴンストーカーが声を張り上げた。
「貴様――何者だ!?」
 おやおや不思議なことを、いまさら、言って見せるなあ。小首を傾げて、肩をすくめて、両腕を上げてやれやれ、なんてやってみせて。

「隣人だよ」
 ひとびとの、良き、隣人。そうだろう?
 コンラッドへ同意を求めるように、熾火は視線を向ける。
「……ああ、良い、隣人だよ」
 青年はそう、困ったように笑った。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

夜白・青
さあて、ここまでの結果は上々だねい。相手の思惑を乗り越えて一般人もコンラッドさんも、誰も犠牲になってない。
そしてそちらさんはオレたちに倒されるから、この戦いでコンラッドさんが命を奪われる心配もなし。
命さえあれば、きっといつか再び大事なものを得ることができるはずだからねい。自分を世界につなぎとめる、大切な何かが。

使うのは御伽語り・蜃気の楼。新しいおはなしを聞かせてあげるねい。
語りでひとときだけ生み出すのは深く暗い夜の森。状態異常【幻影束縛】で相手の動きを妨害するねい。
大剣の振り回しを邪魔する木々の群れの幻影と、どこから誰が攻撃してくるかわからない恐怖を受けるといいねい。

共闘・アドリブ歓迎だねい。

「さあて、ここまでの結果は上々だねい」
 派手な立ち回りが繰り広げられたようだ。土煙だけではなく、どこか不可思議な炎の匂いが残る戦場。
 夜白・青(語り騙りの社神・h01020)は静かに戦況を分析しつつ、ふむと鼻を鳴らす。
 思惑を乗り越え、一般人も、コンラッドも、誰も犠牲になっていない。まことに完璧じゃあないかい。心を開かせる事には苦心したが、それ以降はまさしく、上々。

「そしてそちらさんはオレたちに倒される」
 だから、この戦いでコンラッドが命を奪われる心配もなし。扇子の先を向けられたドラゴンストーカーが唇を強く噛みしめる。
「ああ……あなたさまも、やはり『そちら側』なのですね。おいたわしい、惑わされて……ッ」
 血の滲む「それ」から放たれる言葉。まさか、本当にそう思ってなどはいないだろう。青は知っている。言葉巧みに油断させるのが彼らのやり方だ、返答をしてやる必要はない。

 だが、返答の代わりに、ひとつ。
「新しいおはなしを聞かせてあげるねい」
 ――優しい語り口で紡がれるのは、彼女のような呪詛めいた言葉などではない。深く暗い、夜の森。星あかりも見えず、月などなく。そこには己の体の感覚だけがある。
 深淵、漆黒、なにもかも、黒。
「……景色が――」
 目が慣れてきたか見える木々、だがその中に目当てとする竜の姿はない。わずかに聞こえた青の声を頼りに大剣を振るも、木々が邪魔をし、本人をとらえるに至らない。
 自らの身体に引っかかってくる枝葉、闇雲に剣を振ろうとも振りほどけない闇。木々。がさりと音、視線を向けるも次の瞬間には、異なる箇所から――。

 すべて、まぼろしだ。青が語る、|御伽語り・蜃気の楼《オトギガタリ・ミラージュ》による幻影。茨が刺さる、枝が肌を掻く。その感覚すらもまぼろしだ、だがドラゴンストーカーはそれを認識できぬまま、ひとり暗がりを抜けようと足掻いて、足掻いて。

「……まったく皮肉なもんだねい」
 青の呟き。探しているものが見つからない。たとえ探し当てて、見つけて、とらえても、それは一時的なものにすぎない。ただほんの少し、空腹を満たすだけ、いつかは腹が減る――。真竜を求めさまようドラゴンストーカーの行動。死に場所を求めさまようコンラッド。満たされるわけはない心と体、空腹のまま。

 だが。命さえあれば、いつか再び大事なものを得ることができるはずだ。自分を世界に繋ぎとめる、『大切な何か』が。
 それが何か、だなんて、今は誰にも分からない。
 迷えや迷え。……今は、それでいい。青は静かに、踊るようにがむしゃらに剣を振るドラゴンストーカーを眺める。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

峰・千早
貴方が痛みに満ちた生にまだ抗い立つなら、私も共に戦いましょう……ヒーロー『ウラノアール』参上!
獣の毛皮をマントのように翻し、朱の面頬から教祖を睨む。
コンラッドが狙われるか、竜骸蒐集を使われそうになったら敵の√能力を【ルートブレイカー】で止めます。
通常攻撃だとしても、【威厳】あるたたずまいと【吹き飛び耐性】による格闘で止めます。
「今です!」
敵の攻勢を止め流れを変えたら、コンラッドに声をかけます。のびのびと戦えるのも大事でしょうから。合間に殴る蹴るなど、こちらが合わせる形で、少し連携できれば嬉しいですね。
和田・辰巳
アドリブ連携OK
星詠みの声に応じ力を貸します
コンラッドさんに問いかけます
「貴方は何のために剣を振るのですか」
「僕は誰かの為になりたいから戦うんですよ」

ただの人間のまま教祖と対峙します
「幾つもの夜を越えてきた。お前の企ても、ここまでだ」

欠落が埋まり√能力が使えません。
式神と呪影業を展開。風駆けの靴で空を飛び、超圧海淵流で音速の攻撃。近接攻撃は霊剣で凌ぐ
中距離維持で三つの能力に対応。緊急時は自身に海淵流をぶつけて回避
真竜降臨の儀のモーション時に霊剣を海淵流で飛ばし、串刺しに。周辺のインビジブルを呪影業で妨害
使用されればWZ装備して相手の死角を取り続けて遠距離攻撃。時間稼ぎして他の√能力者に繋げる

「ぐっ……くそッ、何故……何故、おまえたちは……」
 疲弊した様子で唸るドラゴンストーカー。大剣を石畳へと突き立て、√能力者たちを睨むその目は、憎悪に満ち溢れている。このままではすべてを挫かれ、敗北を喫する事になるだろう。だが彼女は止まらない。止まれない。自分の信じるもののため。『生きる』理由を全うするため、立ち続けていた。

「貴方が痛みに満ちた生にまだ抗い立つなら、私も共に戦いましょう」
 立ちふさがるは峰・千早(ヒーロー「ウラノアール」/獣妖「巨猴」・h00951)――異形。だが、どこか覚えのある出で立ちに、青年は目を見開く。

「――ヒーロー『ウラノアール』参上!」
 覚えのある名。朱の面頬を身に着け、教祖を睨みつける彼。風に吹かれ揺れる獣毛、その背中。
「……きみか!」
 コンラッドが呼びかける声に頷く『ウラノアール』。
 そうして、もう一人。背後からゆっくりと歩いてくるは和田・辰巳(ただの人間・h02649)。星詠みに応え、そして、青年に応えた『人間』だった。
 突然現れた彼に驚いたか、瞬きをするコンラッド。辰巳と視線が合う。

「ッどれだけ! 新手が現れようと――我らが執念、貫き通させてもらうッ!」
 大剣を手に襲いかかるドラゴンストーカー。邪魔させぬとばかりにウラノアールがその刃を受け止め流し、喚く教祖の相手を始める。
 至近距離から放たれる彼女の蹴りを受け止め、返す拳で教祖の体を打ち留める。強靭な肉体だ、生半可な攻撃ではウラノアールを振りほどくことは難しい。

 ――ウラノアールの立ち回りを見ながら、辰巳はコンラッドへと語りかける。
「貴方は何のために剣を振るのですか」
 唇を真一文字に結ぶ青年。自分は、何のために? ……ひとのために、だ。

「僕は誰かの為になりたいから戦うんですよ」
 そうだ。誰かのために、なりたかった。始まりは――そう。
 強く。優しく。そして、護るため。その手段は、歪んでいるのだと。この一日だけで、何度。
 だが……分かっている。間違っていても、貫き通したかった。

 教祖の前。自分の目前に立つは、『ただの人間』と、『ヒーロー』の姿だ。
 ああ、そうだ。憧れ、憧れだ。誰かを守れる英雄。ただの竜でも……英雄に、なれる。
 その手段が間違っているだけで。目的だけは、同じ。

「幾つもの夜を越えてきた。お前の企ても、ここまでだ」
 展開される式神、蛇の妖が飛び、それに落ちた影を伝い呪影業がドラゴンストーカーへと向かう。脚から這い上がる影と蛇が彼女の脚を貫き絡め取り、その動きを止めた。その隙を狙いウラノアールの拳が教祖へと痛打を与える。
 宙を踏みしめ飛びあがる辰巳。放たれる音速の海流に射抜かれ、教祖が上空を見上げた。遠隔から近接へ。襲いかかる霊剣を盾のように受けとめたドラゴンストーカー、その大剣の振り上げが来る前に辰巳が距離を取る。

「このッ……このォ!! わたくしの、わたくしたちの悲願を――」
「悲願? 多くの犠牲を払ってまで、叶えたいものが、『あんな』ものなのですか」
 逆上したか。ドラゴンストーカーが翼を広げる。みるみる巨大化し、鱗を纏うそれ――だが。
 ……その翼を、海淵流によって飛ばされた霊剣が貫き。ウラノアールの手が、翼を掴み取った。途端変化が止まる翼。知った『攻撃』に歯ぎしりをする彼女に組み付くウラノアール!

「今です!」
 コンラッドへとかけられる言葉。駆け出す『竜』。ドラゴンストーカーの、開いた瞳孔。それに映るは夜空と、青年の|金色の輝き《瞳》であった。

●どうして、なんて
 鞄の中から手に取ろうとした瓶をしまい込む。
 小さな頃は、あんな気持ちを抱くことはなかった。今までは、こんな気持ちを抱くことはなかった。
 死を求める心と肉体はまだ埋まらない。それでも、今は。
 ……今はまだ、死ぬべきではない。ここは、死に場所ではない。誰かを守って死ぬこと、それへのあこがれを、希死念慮を捨てることはできない。
 自分はそのような生き方しかできない、不器用な、ただの『竜』だ。

「……なあ、きみたち」
 こんな事を言うのも、久しい気がする。いつだったかな。友人に言ったのが最後。

「酒でも飲んで、帰らないか。……奢るよ」
 少しくらい。生きる楽しみを、探して良い気がしたから。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

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