ふうどびょう
――フランスは、とある宗教の『長女』を自負している。
それは、√汎神解剖機関のヨーロッパの歴史においても、変わらない。
南仏はプロヴァンス。カランク国立公園。
石灰岩の断崖絶壁に囲まれた、南仏屈指の景勝地である。
「はぁっ、はぁ……っ、はぁ……!」
数多のボートが浮かぶポール・ミウを横目に、その中を一人の少女が息も絶え絶えに走っていた。
今日は、楽しいハイキングだったはずなのに。突然、『化け物』たちが現れたのだ。
――そして、なんてこと!私のことを捕まえて、食べようとしてきた!
このことを、一刻も早くカシの大人に伝えて、避難してもらわないといけない。
町のみんなが、あの『化け物』に食べられてしまう前に。
彼女の名前は、アニエス。
カランクに接する港町カシに住まう、ただの少女。――だった。
今の彼女の背中には、穢れ無き、白い大きな翼が生えている。
大きな翼を背負って、純真無垢の少女が走る。
カランク通りまで、ああ、あと少し……!
●
「みんな、来てくれて|ありがっさま《ありがとう》!
天使化は聞いとるか?聞いとるな?時間がないでね、さくさく説明に移るよ!」
星詠みである作務衣姿の少年、|玖老勢・冬瑪《くろぜ・とうま》は、集まった√能力者たちを前に、事態は一刻を争うとばかりに事件の説明に移った。
――『天使化』。
それは、√汎神解剖機関のヨーロッパで発生する『風土病』だ。
老若男女問わず『善なる無私の心の持ち主のみ』が感染するとされるが、人心の荒廃した現代では既に根絶したものと思われていた、が。
|保菌者《キャリア》は人知れず残っていたという事なのだろう。
天使化に際しては、完全に天使化できた場合はなんら問題が無い。
そこに、『完全に』天使化できなかった場合が発生しうるのが、この『病』の厄介な点である。
完全に天使化できなかった場合はどうなるか。
アニエスが見た『化け物』。『オルガノン・セラフィム』と呼ばれる、天使を捕食する怪異となるのだ。
「まずは、このアニエスさんを追うオルガノン・セラフィムを撃退して欲しいんだけど。……この『化け物』の数がやたらと多いんだ。
第1陣を撃退しても、第2陣との連戦になるだろう上に、厄介なモンが彼女の捕獲を狙っとる。こいつも何とか撃退して欲しい。」
――羅紗の魔術士アマランス・フューリー。
汎神解剖機関と対立する、ヨーロッパの秘密組織『羅紗の魔術塔』に所属する√能力者だ。
彼女は自国の利益のため、|新物質《ニューパワー》の獲得源としてオルガノン・セラフィムの奴隷化を狙う他、非常に貴重な『天使』アニエスの捕獲を試みる事だろう。
「『クヴァリフの仔』の事件と違って、今回は他の相手の縄張りに踏み込んでの保護作戦だでな。
皆も色々と思う事もあるかもしれんが……丁重な扱いがされるとは、どうにも思えん。
急ぎ向かって、彼女を助けたってくれんか。」
作務衣の星詠みは、急ぎ現場に向かおうという、√能力者たちの背中に。
かちり、かちりと切り火して、送り出した。
マスターより

皆さまこんにちは、或いは初めまして。多馬でございます。
今回は時限ネタ!
天使を見せてあげましょう、な時事ネタのお話です。
●第1章
皆様には南フランスの景勝地カランク・ミウに赴いて頂き、天使化した少女アニエスを救出して頂きます。
今回は既にアニエスが敵に囲まれているため、交流する猶予はあまりないかもしれません。
第2章、第3章で守りながら戦いやすくなるよう、可能な限り信頼関係を築いてください。
●第2章
オルガノン・セラフィムの第2陣の襲撃です。
今回はアニエスを守りながら戦う体勢も整えやすいでしょう。
●第3章
羅紗の魔術士アマランス・フューリーと対峙することになります。
なんとしてでもアニエスを捕獲しようとしていますが、√能力者の撃退を優先します。
また、『捕獲』目的のため、貴重な天使であるアニエスを巻き込むような可能性は低いでしょう。
彼女を倒すことで、シナリオクリアとなります。
●進行・プレイング受付について。
断章執筆したら、募集・執筆開始の予定です。
また、まとめて執筆させて頂く場合があること、そして採用は先着順ではないことをご承知おきください。
以上です。
皆様のご参加を心よりお待ちしております。
40
第1章 集団戦 『オルガノン・セラフィム』

POW
捕食本能
【伸び縮みする爪】による牽制、【蠢くはらわた】による捕縛、【異様な開き方をする口】による強撃の連続攻撃を与える。
【伸び縮みする爪】による牽制、【蠢くはらわた】による捕縛、【異様な開き方をする口】による強撃の連続攻撃を与える。
SPD
生存本能
自身を攻撃しようとした対象を、装備する【黄金の生体機械】の射程まで跳躍した後先制攻撃する。その後、自身は【虹色の燐光】を纏い隠密状態になる(この一連の動作は行動を消費しない)。
自身を攻撃しようとした対象を、装備する【黄金の生体機械】の射程まで跳躍した後先制攻撃する。その後、自身は【虹色の燐光】を纏い隠密状態になる(この一連の動作は行動を消費しない)。
WIZ
聖者本能
半径レベルm内の敵以外全て(無機物含む)の【頭上に降り注がせた祝福】を増幅する。これを受けた対象は、死なない限り、外部から受けたあらゆる負傷・破壊・状態異常が、10分以内に全快する。
半径レベルm内の敵以外全て(無機物含む)の【頭上に降り注がせた祝福】を増幅する。これを受けた対象は、死なない限り、外部から受けたあらゆる負傷・破壊・状態異常が、10分以内に全快する。
√汎神解剖機関 普通11 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
――ポール・ミウの入り江では、細い湾の両側に所狭しとボートが並ぶ光景を楽しむことができる。
地元の少女であるアニエスにとって、サンティエ・デュ・プティプランのビーチや、ポール・パンと並んで馴染み、そして好んでいる風景だ。
が。『化け物』から逃げる、今の翼を背負ったアニエスにとって。
このカランク通りに繋がる道沿いの船たちは、無間地獄のようにすら思えていた。
一刻も、一刻も早く、大人たちに『化け物』の事を伝えなきゃいけないのに!のに!
「|Mon Dieu《なんてこと》!!」
その行く手を『化け物』たちが、阻んだ。

善き人が、天使の病を発症し、化け物に襲われる……そんな理不尽が、あってたまるものか。
星よ、星よ、力を貸して。
現場に急行し、アニエスさんを庇い守るように介入するよ。
他の√能力者がいれば、共闘を申し出るね。
……突然のことで、驚いているかもしれないけれど。
わたしは、あの『化け物』共からあなたを救いに来た騎士。
どうか、この星剣で、あなたを守らせてくれないかな。
なんて、御伽話の騎士のように守護の誓いを立てて、勇しく切り込むよ!
なるべく傍を離れないようしつつ、アニエスさんに近付く敵を優先して倒していくね。
捕食本能で口を開いたら、高速詠唱で割り込み破魔の全力魔法を叩き込む!
口が無ければ、食べられないでしょ?
――キリキリキリキリ。
肉と金属が互いに軋み合うような、歪な音が響く。
天使化した少女が『化け物』と呼ぶ、オルガノン・セラフィムたちは今や、アニエスの包囲を完成させて。その小さな天使の身を貪り喰わんと。
――がぱり。がぱり。がぱ、がぱ、がぱり。
それぞれに、異様な開き方をする大口を開けた。
――|Mon Dieu《かみさま》……!!
大人たちに、愛する町の皆に、この危機を知らせる事も出来ず、死んでしまうのか。
恐怖に思わずきゅっと目を閉じ、少女が神の名を呼んだ、その時。
明るい明るい、あまりにも疾い、流れ星。流れ流れて、アニエスの前に留まった。
思わずその明るさに惹かれる様に目を開ければ、金色に輝く外套が風に靡いて。
夜空の星を束ねたかのように輝く剣を携えた姫騎士の背中が、其処にはあった。
「Eh……|Qu’est-ce qui se passe《な、なにが起きているのかしら》......?」
金色の装束、そして鎧を纏った姫騎士は、まるで、小さな頃に読んだ御伽話のように。
アニエスが最近に読んだ、マンガのように。彼女の前に跪き、星の如く優しく微笑んで。
「……突然のことで、驚いているかもしれないけれど。
わたしは、あの『化け物』共からあなたを救いに来た騎士。
どうか、この星剣で、あなたを守らせてくれないかな。」
剣を立てて、天使の守護を誓って見せたのだった。
それは、まさに間一髪であった。
オルガノン・セラフィムたちに完全に包囲され、保護対象である天使の少女アニエスが、今にも捕食されようとしている事を確認した魔法使いの少女、ステラ・ノート(星の音の魔法使い・h02321)。
迷わず、その身に神速を付与する√能力の使用を決断した。
――聖き路を、切り拓く為に。
――煌く星々よ、我が手に剣を、我が身に騎士の鎧を授け給え。
――【|星剣の騎士《スターリィ・ナイト》】!
緊迫した状況に、レゾナンスディーヴァの|詠唱《うたごえ》が響き渡り。その身を星光の姫騎士と変じる。
そして、彼女のこの√能力は、その姿を神々しい星の騎士に変えるだけに留まらない。
攻撃回数と移動速度を4倍、受けるダメージを2倍にするという、速さと強さ、そして脆さを付与する、諸刃の剣とも言えるものである。
しかし、このアニエスの窮地という場面においては、その速さこそが大いに役立った。
――善き人が、天使の病を発症し、化け物に襲われる……そんな理不尽が、あってたまるものか。
ステラの決意と星の光を帯びた剣が、その速度で以て、今にも正面からアニエスを喰らわんとしていた成り損ないの天使を斬り斃し。
アニエスにばかり目が向いている、背後から大口を開けたオルガノン・セラフィムの命脈を、その間に割って入った流れ星の剣閃が断つ。
この迅速な判断と、神速の速攻により。今、ステラの金色の鎧の背後で、アニエスを守っているという状況を作り出すことに成功したというわけだ。
この事態はおろか、少女は助かったという状況も、深くは飲み込めてはいないようではあるが。
「Eh......|Vous m’aidez《助けてくれたのですか》?|Merci,mademoiselle《ありがとうございます》……!」
心の底から、少女がフランス語で礼を言っていることは、ステラにもわかる。
そして、未だに『化け物』に半包囲されている事態は変わっていない。
彼女が少しでも落ち着くことができる様に。話すよりも先ず、姫騎士は剣の柄を握り直す。
――キリキリ、キリキリキリキリ。
「この敵たち、あまり私を見ていない……?」
あくまで、オルガノン・セラフィムたちの狙いは『天使』であるアニエスなのだろう。
ステラが天使から付かず離れずの距離を保ちながら、一刀両断していってもなお。
敵はアニエス目掛けて半金属の身体を揺らして歩を進めようとしている。ステラは障害物として排除しようという認識に過ぎないようだ。
――がぱり。がぱり。
その|障害物《ステラ》を排除せんと、『怪物』たちが大口を開けた。
「|Attention《気を付けて》!!」
騎士様が食べられてしまってはと、彼女の身を案じたアニエスが叫ぶ中。
剣を持たぬ左手に。まるでその腕が銀河の中心となったかの様に、星の光が渦を巻いていく。
「星よ、星よ、力を貸して!」
鋭い叫びと共に、オルガノン・セラフィムたちが開けた大口の中に現れた、星の光を集めた光球。
「口が無ければ、食べられないでしょ?」
敵を睨め付けたまま、小さく呟けば。
高速詠唱で完成させた全力魔法の、破魔の輝きが。超新星爆発の様に、大きく爆ぜて。
天使を襲う怪物の頭を跡形もなく、消し飛ばしたのだった。
🔵🔵🔵 大成功

アクセルオーバーを起動し、ダッシュでアニエスとセラフィム達の間に割り込んでファミリアセントリーとレイン砲台で制圧射撃
敵を怯ませている隙にアニエスに話しかけるよ
「間に合って良かった」
「詳しく話している時間が無くて申し訳ない。俺達は君を助けに来たんだ」
事実だけを端的に伝えて戦いを続ける
回復持ちなら広く浅くダメージを与えてもキリが無いな
制圧射撃で敵を怯ませながら懐に踏み込んで、スタンロッドでの紫電一閃で一体一体確実に片付けていくよ
戦闘が落ち着いたらアニエスとしっかり話したい
……彼女は、自分の姿が変わってしまったことを自覚しているのかな
なるべくショックを与えないように話したいな
※アドリブ、連携歓迎です
――キリキリキリキリ。
√能力者の介入と勇戦により、危急の時は去った。
――いや、違う。
あまりにも、オルガノン・セラフィムの数が多い。
これではやがて、再包囲は成り。√能力者と天使化した少女アニエスも、その物量に呑まれることだろう。
「|Mon Dieu《かみさま》……」
自分のために奮戦しているひとを、どうか助けてあげて欲しい。そう、天使が願った時。
「間に合って良かった。」
ばちり、と雷が弾ける音と共に。青年の静かな声が、アニエスの耳に届く。
かしゃん、と。金属の音を立てて崩れ落ちる『化け物』を斬り斃した、ギャバンのトレンチコートを纏った小柄な背中が見える。
学徒兵、クラウス・イーザリー(希望を忘れた兵士・h05015)のポニーテールが、海風に揺れた。
「この再包囲を完成させるわけにはいかないね。」
戦況を急ぎ把握したクラウスは、再び【アクセルオーバー】により電流を纏い。
即座に浮遊砲台【ファミリアセントリー】と【レイン砲台】を起動させ、集団を薙ぎ払い、包囲を潰し、万一のアニエスの退路を確保する戦術に切り替えた。
雨の如く降り注ぐレーザーの粒子が、金属にもなれず、肉にも戻れぬ体に風穴を開け。
死に損なった『化け物』には、強化された移動力と共に瞬時に間合いを詰め。
紫電を帯びた光の刃が敵を一閃し。息の根を止める。
一つ、クラウスが呼吸を整えた、その時。背後から『Monsieur?』と、少女の声がする。
クラウスが振り返り、どうしたのかと首を捻る中。アニエスは、おずおずと言葉を続けた。
「Eh……すみません。あなたは、日本人ですか?私、日本語、わかります。マンガで、勉強したから。」
アニエスは、たどたどしくも、日本語でコミュニケーションが取れる事を伝えてきたのだ。
おそらく、クラウスが発した言葉で、そう察したのだろう。
彼は容姿こそ日本人に近しいものの、その名が示す通り実際の国籍はわからない。
しかし、日本育ちであるが故に日本語でコミュニケーションを取れるのは、大変にありがたい。
今は複雑な事情はさておき、日本人であるという事にした方が、彼女に指示を伝えやすそうだ。
「詳しく話している時間が無くて申し訳ない。俺達は君を助けに来たんだ。」
彼女が複雑な会話まで問題ないかはわからない。
クラウスは端的に目的を告げながら、敵に再び斬り込み、道を拓く。
――キリキリ、キリキリキリキリ。
(広く浅くダメージを与えてもキリが無いな。)
心中で、クラウスが独り言ちる。レイン砲台を受けた敵たちが、じわじわとその傷跡を回復させて、立ち上がって来たのだ。
【聖者本能】と呼ばれるこの自己修復能力は、10分以内に無機物有機物問わず、10分以内に状態を回復させるという、群れが使えば厄介な√能力だ。
――なら。
再び、各種射撃兵装による制圧射撃が始まり、粉塵が舞い上がる。
その煙を突き破り、成り損ないの天使に肉薄した学徒兵が、スタンロッドを押し当てた。
ばちぃ!!肉が焼ける嫌なにおいと共に、動きを止めた敵。その首にすかさず紫電を帯びた光刃剣を捻じ込み、その首を刎ねる。
そしてまた粉塵に紛れて、また一体、そしてまた一体。
そう、敵の√能力も強力ではあるが、その効果にも制限がある。それは、『死ななければ』、の話なのだ。
各個撃破、確実に命を刈り取る方針に切り替えたクラウスの手により、敵の数は更に減る事となり。
再び訪れた包囲の危機は一時的にではあるが、去ったのだった。
「……彼女は、自分の姿が変わってしまったことを自覚しているのかな。」
突如現れた√能力者たちに救援されたことで余裕を取り戻しつつあるのか、きらきらと瞳を輝かせているアニエスであるが。
必死に走り続けてきた彼女が、自身の変化を把握しているかは。クラウスは、かなり怪しいと踏んでいた。
――なるべくショックを与えないように話したいな。
クラウスは平易な日本語で、アニエスが巻き込まれた事件と。そして、アニエスの身体に起きた変化を伝えた。
背中の翼には、どうも気付いていたようではあるが。
自身の肉体が金属化しているという事実には、ハイキングのための厚着もあり、クラウスの懸念通りに気付いてはいなかったようで。
「|C'est pas vrai《うそでしょ》!?|Mon Dieu《なんてこと》!!
マンガ、みたいです!|Chouette《クールなのだわ》!!」
袖まくりをして、自身の腕がカランクの石灰岩の様に白く、そして柔らかくも硬い不思議な金属の肌になっていることを確かめて。
アニエスは本日何度目になるかわからない『なんてこと』と共に。
√能力者たちにとっては少し、予想外の反応を示したのだった。
🔵🔵🔵 大成功

ごきげんよう、可愛いお嬢さま
わたしはライラよ
怖かったでしょう?
もう大丈夫よ
美しい景色に似合わない、招かれざるお客さまには立ち去ってもらいましょう
『化け物』たちの視界から遮るように
アニエスさんの前に立ちはだかって
ディヴァインブレイドに祈りを捧げるわ
──お願い、力を貸して
ディヴァインブレイドに「陽動作戦」として
飛翔と自動攻撃をしてもらうわ
アニエスさんにはできれば目を瞑っていただけるようお願い
レイン砲台を構えて√能力を使うから
できればこれ以上非道い景色は見せたくないの
健気で優しく清らかなお嬢さま
お名前を伺ってもよろしくて?
羽を持つ者同士として──いいえ、気高き心を持つあなたを
わたしの総てで守りたいの
「ごきげんよう、可愛いお嬢さま。」
――『天使化』したアニエスにとって。真っ白な日傘を畳み、ドレスの裾を摘んで優雅に一礼するその少女は、まさに『天使』だった。
カランクの海の様な青い瞳に、大理石の様に白い肌。そして何より、純白の翼に、白のドレス。
「Eh……Bonjour,mademoiselle.お、おじょうさま。初めて、言われました。」
その衝撃に、一瞬『化け物』たちに命を狙われ、更には自身の肉体がよくわからないものに変化している事も忘れて。
どぎまぎしながら応えるアニエスに、ライラ・カメリア(白椿・h06574)は人懐こい笑みを浮かべた。
「わたしはライラよ。怖かったでしょう?もう大丈夫よ。」
その言葉と、キリキリキリ、金属の軋む音の群れに。アニエスも現実に引き戻される。
――美しい景色に似合わない、招かれざるお客さまには立ち去ってもらいましょう。
|天使《セレスティアル》は、『化け物』たちの視界から遮るように天使化した少女の前に立ちはだかり。
――お願い、力を貸して。
愛剣たる【ディヴァインブレイド】を掲げ、祈りを捧げた。
「|Comme un ange《天使さまのようなのだわ》……」
信心深いアニエスにとって。その姿はステンドグラスの中に見た、|剣持つ天使《ウリエル》のように、心強く映った事だろう。
――キリキリキリキリ。
肉と金属が擦れ合い、軋み合う、耳障りな音。
ライラとアニエスとは異なる|成り損ないの天使《オルガノン・セラフィム》たちは、√能力者たちに討たれて数を減らしてなお、天使化した少女の捕食を狙い、攻め寄せてくる。
猟犬の様に、ディヴァインブレイドを飛翔させ。自動攻撃も交えて敵を誘導しながらライラは背後を振り返り、アニエスに微笑みを向けた。
「可愛らしいあなた、できれば目を瞑っていただけるかしら?」
「Eh……|Oui,Biensur《はい、もちろんです》!」
アニエスが可愛らしく、きゅっと目を瞑った事を確認し。|白い天使《ライラ》は切り札を切る。
これを使えば命を奪われるのとはまた異なる種類の、アニエスにとっては酷な光景が広がるであろう。故の、配慮。
――できれば、これ以上非道い景色は見せたくないの。
石灰岩の入り江に突如として訪れる、時化。
【聖者本能】の再生能力も追い付かぬ、【決戦気象兵器「レイン」】から放たれた、レーザーの嵐だ。
降り注ぐ雨に、無機有機入り混じった歪な肉体を微塵に裂かれ、砕かれ。肉体を撒き散らし、絶命していく歪で哀れな天使たち。
「せめて最期に、祝福を。」
ライラが再びその手にディヴァインブレイドを掲げ持ち、祈りを捧げる頃には。
その場に立つ者は、共に戦う√能力者とアニエスを除き。何者も存在し得なかった。
「健気で優しく清らかなお嬢さま。お名前を伺ってもよろしくて?
羽を持つ者同士として――いいえ、気高き心を持つあなたをわたしの総てで守りたいの。」
活気溢れるマルセイユに負けず劣らずの港町育ち故に、お嬢様扱いに慣れておらず。
その上、ライラの美しい所作や言葉遣いにすっかり見惚れてしまっていたアニエスが、翼を羽搏かせずして舞い上がりかけ。
「Je m’appelle Eh……Non.私の名前は、アニエスです。アニエス・ヴィダルといいます。」
と、自己紹介に暫し時間が掛かったのは、また別のお話。
🔵🔵🔵 大成功

突然自分が昨日までと違う存在に変わっちゃうなんて、笑い合ってた友達に襲われるかもしれないなんて
ひどすぎるよ、そんな病気…
いけない、今は集中しなくちゃ
√幼竜の集会所を使えるだけ使用してありったけのミニドラゴンを召喚
テレパシーで意志疎通しつつ空からアニエス先輩を探してもらうね。見つけたら守ってあげて
幼竜に適宜補助してもらいながらハンマーでぶっとばして攻撃。密集してたら竜漿グレネード!
敵の攻撃はジャストガードで反らして回避。連続攻撃は幼竜に横槍入れてもらおう
…ごめんね
アニエス先輩との言語の壁は幼竜にテレパシーで仲介してもらう形でどうにか…
怖かったよね…でももう大丈夫!
あたし達が絶対助けるから安心して
――突然自分が昨日までと違う存在に変わっちゃうなんて、笑い合ってた友達に襲われるかもしれないなんて。
人の悪心の増加により根絶されたという『天使化』。
身体を神秘金属に変えてしまうという不可逆の変化の他に、変化に失敗した者を肉と金属が混ざり合った歪な存在、『天使』の捕食以外に意志を持つかも判らぬ『怪物』、オルガノン・セラフィムに変える。
「ひどすぎるよ、そんな病気……。」
善人を狙い撃ちにするというこの病理の恐ろしさに、シアニ・レンツィ(不完全な竜人フォルスドラゴン・プロトコル・h02503)は眉を顰めた。
しかし、今はそれどころではない。一刻も早く『天使化』したという少女を見付け出し、救出せねばならない。
「いけない、今は集中しなくちゃ。みんな集合ーっ!ドラゴン会議、はじめるよ!」
頭を振ったシアニは、√能力【|幼竜の集会所《サモン・ミニドラゴン》】を使用し、緑竜のユアを召喚した。
彼女の√能力で呼び出された幼竜には、テレパシーで簡単な意思疎通ができるという特徴がある。
シアニはユアに『保護対象には翼がある』という旨を簡単に伝え。
「空から探して、見つけたら守ってあげて!」
敵の群れは、程無くして見つかった。√能力者たちの剣撃や√能力の発動音。それに加えて。耳障りな、金属の擦れ合う音。
既に大きく数は減らしてはいるが、それでも鉄火場には違いない。一足先に、ユアが火球を撃ち込みながら√能力者たちとアニエスのフォローに回ることを念話で伝えてくる。
しかし。シアニが合流する頃には、オルガノン・セラフィムと奮戦していたであろうユアが敵の蠢く臓器により拘束され。
がぱり、姿に不釣り合いな大口を開けた敵に、今にも喰われんとしていたところだった。
「ユアを離せぇ!!こん……のぉ!!!!」
――めぎぃ!!!!
黒いマフラーをたなびかせて、シアニが風の様に突っ込む。
振り抜いた渾身のハンマーにより、金属がひしゃげる音と共に成り損ないの天使が吹っ飛び、そのまま二度とは動かなくなった。
「遅くなってごめんね、ユア。頑張ってくれてありがと!」
合流さえ適ってしまえば、臓腑から解放された緑竜とともに、連携攻撃も可能となる。
伸びた爪は、ハンマーによるジャストガードで打ち上げ、砕き。体勢を崩した『化け物』を縦から叩き潰し。返す鎚で、横っ面から吹っ飛ばす。
自由に飛び回るユアは火球で牽制を加え、敵を一塊に追い込んだところで、シアニの放り投げた竜漿グレネードが派手に炸裂する。
――キリ、キリキリ……キリ……
爆炎に呑まれ、臓腑を焼け爛れさせ。それでもなお、立ち上がろうとする成り損ないの天使。
『天使化』の病理に巻き込まれなければ、きっと、このひとも『善人』だったのだろう。『善人』なりの生活があったのだろう。
しかし、もう其処には決して、戻ることは出来ない。
「……ごめんね。」
どこか泣きそうな声で小さく呟いたシアニが振るう|慈悲の一撃《ハンマー》が、その命の緒を断った。
「怖かったよね……でももう大丈夫!あたし達が絶対助けるから、安心して!」
ハンマーを担ぎ、仁王立ちする青い肌の竜人の少女と、相棒の緑竜。
その背中の心強さは、訳の分からぬ事態に巻き込まれたアニエスにとって、如何ばかりであったであろうか。
――Merci,mesdemoiselles!
『天使化』した少女の安全を確保できるまで、あと一息。
🔵🔵🔵 大成功

無私の心ゆえ発病とは悪意を感じますね…
例えば魔神さんが作った病のようです
病そのものも気になりますけれども
今はアニエスさんを守ることが優先です
そし怪異へと変じてしまった方々も
可哀想に思います
元々はアニエスさんと同じく
善のお心の方々だったのですよね…
アニエスさんを喰らおうとする
ご自身を止めて欲しいと
きっと願っておいでのはずです
せめてその願いには応えてあげたいです
南仏に因んで
タンブランっぽい曲を
アコルディオン・シャトンで演奏しながら登場です
馴染みのリズムや曲で
アニエスさんのお心を勇気づけてあげたいです
…もう既に元気そうですけれど
猫の手をお貸しにきましたよ〜
そして勿論このメロディには
変える歌の力も込めています
アニエスさんに
危険感知や回避にどんどん成功していただきます
同じような√能力との戦いは以前に経験済みですよ
音撃や光の音符で攻撃する素振りで
先制攻撃を誘って
くるとわかっていますので
メロディに乗った身軽なステップで回避したり
音のバリアで防御します
そして隠れても
音やその反響から居場所はバレバレです
音撃や光の♪を叩き込んで倒します
そして音色の弾丸は広範囲に広がり
他のオルガノンさんへもダメージを与えます
狙われていないので先制攻撃出来ないでしょう
こんな感じで
アニエスさんの近くのオルガノンさん達から
倒してきます
数が多いですけれども
まだまだ私の喉も指もへっちゃらですよ♪
頑張りましょう、アニエスさん!
「無私の心ゆえに発病とは、悪意を感じますね……。
例えば、魔神さんが作った病のようです。」
南仏とはいえ冷たい海風に|帽子《シャコー》の羽を揺らしながら、|箒星・仄々
《ほうきぼし・ほのぼの》(アコーディオン弾きの黒猫ケットシー・h02251)は船が並び浮かぶ入り江を駆ける。
既に成り損ないの天使たちは大きく数を減らし、辿り着く頃が一番の踏ん張りどころであろう。黒猫はエメラルドの瞳をきりりと引き締めた。
勿論、ヨーロッパの風土病という、この病そのものも気になるが。
今は『天使化』した少女、アニエスを守ることが最優先だ。
そして、|怪異《オルガノン・セラフィム》へと変じてしまった人々にも、仄々は哀れみを覚えていた。
「元々はアニエスさんと同じく、善のお心の方々だったのですよね……。」
ならば、『天使化』した少女を喰らおうとする自身を止めて欲しい、きっとそう願っているはず。
――せめてその願いには応えてあげたいです。
黒猫は翡翠色の筐体を抱え、桜色の肉球で歩道を踏みしめて。√能力者たちが放つ音に向け、ひた走る。
「|C’est mimi《なんてかわいいの》!!」
南仏に因み、『タンブラン』のようなメロディを奏でながら現れた黒猫への、天使化した少女が発した第一声は、これであった。
翡翠色の手風琴【アコルディオン・シャトン】を抱え、桜色の肉球でボタンを弾き。
そしてメロディに合わせて|帽子《シャコー》の羽と、真っ黒な尻尾がゆらゆら揺れる。
タンブランとは、カランクを含む、プロヴァンス地方起源と言われる胴長の太鼓だが、この太鼓を用いた舞踊も『タンブラン』と呼ばれるという。
馴染みのリズムや曲でアニエスを勇気づけてあげたい、という仄々の配慮であるが。
「……もう既に元気そうですけれど。猫の手をお貸しにきましたよ〜。」
わぁっと目を輝かせるくらいに、心に余裕が出来ているのなら。これからの連戦でも√能力者たちの指示には従って貰いやすいだろう。
良い兆候だと、仄々はメロディに√能力の力を込める。
――【世界を変える歌】
この√能力は、歌声をリアルタイムで聞いた全ての非√能力者の傍らに仄々の幻影が出現し、成功率が1%以上ある全ての行動の成功率が100%になるという強力無比な効果を持つ。
肉体が変化しただけのアニエスは、どうも疑似的な√能力の様な力は使えるようではある。
が、しかし。自身の√能力の効果が発揮されたことを、術者である仄々は感じ取った。
つまり、現在のアニエスは『√能力の様な力を使えるけれど、√能力者ではない』という、不可思議な立場に置かれているという事になる。
何れにせよ、この効果が発揮されるとなれば願ったり叶ったりだ。万に一つの時の、強力なお守りとなるだろう。
「危険を感じたら、『避けて』ください。きっと、あなたの思い通りにいきますよ。」
可愛らしくも紳士的な黒猫の言葉に、『|Oui,'accord!《はい、わかったのだわ!》』と、アニエスは大きく頷いた。
――キリキリキリキリ。
オルガノン・セラフィムたちは数を大きく減らしているが。それでもなお、アニエスの捕食を諦めていない。いや、それ以外を考えていないようであった。
アニエスに迫ろうとする成り損ないの天使たちに向け、仄々は『わざと』√能力を発動しようとした。
「同じような√能力との戦いは、以前に経験済みですよ。」
――【生存本能】
これが、オルガノン・セラフィムの保有する√能力の一つである。
自身を攻撃しようとした対象を、装備する【黄金の生体機械】の射程まで跳躍した後先制攻撃する、絶対先制攻撃能力。
そう、『自身を攻撃しようとした対象』――それは、仄々以外にいない。
自動的に、狙っていたアニエスへと向かうという行動が、仄々の元へ跳躍するという行動に上書きされる事になるのである。
先制攻撃がくるとわかっていれば、黄金の生体機械による攻撃にも備える事は出来る。
タンブラン風のリズムに合わせて、尻尾と帽子の羽を揺らし。
「にゃんぱらりっ!……と、容易にはいきませんでしたか。」
桜色の肉球で華麗にステップを踏み、迫る爪たちを紙一重で回避し。回避しきれないものは音の障壁で受け止める。
その、一連の攻防が終わった時。まるで、プリズムの中に溶け込む様に。忽然と、成り損ないの天使たちは姿を消した。
そう、オルガノン・セラフィムの【生存本能】には、【虹色の燐光】を纏い隠密状態になるという厄介な追加効果がある。
しかし、先も仄々自身が口にした通り、彼は一度似たような√能力の隠密を打ち破っている。音の専門家らしい、彼ならではの対抗手段を持っている。
「それでは、第一幕のフィナーレに向けて。元気よく行きますよ〜♪」
敵の姿が見えぬにも関わらず、仄々は√能力【愉快なカーニバル】を発動させ、色とりどりの光の音符をバラまく。
いや、無差別に放っているわけでは無い。全方面に広がる音撃による、|反響定位《エコロケーション》。
今に彼は狩猟者たる猫の、その眼ではなく。音によって、プリズムに紛れた敵たちを視ている。
こうなってしまえば、隠密も何も関係はない。隠れ、アニエスに這い寄るオルガノン・セラフィムたちの頭上から、光の音符が雨霰の様に降り注ぎ。
青く澄んだ海を湛える、石灰岩の入り江に。聴くも鮮やかな、第一幕の終幕を告げる音色が響き渡った。
「まだまだ私の喉も指もへっちゃらですよ♪頑張りましょう、アニエスさん!」
「|Ah……Comme c'est mignonne《まあ、まあ、なんてかわいらしいのかしら》!!」
敵の第一陣を退け、風と波の音以外の静けさを取り戻した入り江にて。
ぱちり、と可愛らしくウィンクする仄々の姿に、アニエスはもう既にメロメロである。
そして、自分を救ってくれた√能力者たちに向き直り、深々と頭を下げた。
「|Enchanté《はじめまして》,Eh......わたしは、アニエス・ヴィダルといいます。
日本語は、Un petit peu,ちょっとだけ、しゃべれます。日本のマンガで、勉強しました。
|Je voulais encore vous remercier pour votre aide《改めて、助けてくれてありがとう》.」
彼女は当初の駆け出した目的を忘れてはいない。対岸に広がる街並みを心配そうに見遣る。
そこにはきっと、彼女の両親や友人たち、愛する光景があって。
港町の、いつも通りの日常が送られているのだろう。
「Cassisのみんなが、心配です。
猫さんが言うとおり、まだ『化け物』が来るなら。猫さん、皆さん、町を守ってください!」
駆け付け、自身を救ってくれた√能力者たちに、祈る様に両手を合わせ。
純白の神秘金属で出来た翼を揺らしながら、たどたどしい日本語で必死に訴えるのだった。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功
第2章 集団戦 『オルガノン・セラフィム』

POW
捕食本能
【伸び縮みする爪】による牽制、【蠢くはらわた】による捕縛、【異様な開き方をする口】による強撃の連続攻撃を与える。
【伸び縮みする爪】による牽制、【蠢くはらわた】による捕縛、【異様な開き方をする口】による強撃の連続攻撃を与える。
SPD
生存本能
自身を攻撃しようとした対象を、装備する【黄金の生体機械】の射程まで跳躍した後先制攻撃する。その後、自身は【虹色の燐光】を纏い隠密状態になる(この一連の動作は行動を消費しない)。
自身を攻撃しようとした対象を、装備する【黄金の生体機械】の射程まで跳躍した後先制攻撃する。その後、自身は【虹色の燐光】を纏い隠密状態になる(この一連の動作は行動を消費しない)。
WIZ
聖者本能
半径レベルm内の敵以外全て(無機物含む)の【頭上に降り注がせた祝福】を増幅する。これを受けた対象は、死なない限り、外部から受けたあらゆる負傷・破壊・状態異常が、10分以内に全快する。
半径レベルm内の敵以外全て(無機物含む)の【頭上に降り注がせた祝福】を増幅する。これを受けた対象は、死なない限り、外部から受けたあらゆる負傷・破壊・状態異常が、10分以内に全快する。
√汎神解剖機関 普通11 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
――√能力者たちが救出した『天使化』した少女は、アニエス・ヴィダルと名乗った。
彼女がたどたどしい日本語で話すには、彼女は生まれも育ちも港町カシの、ごく普通の家庭に育ったという。
今日はハイキングのつもりでカランク・ド・ポール・パンまで歩いて行き、そこで『化け物』……オルガノン・セラフィムに襲われたのだという。
おそらくは、そこでアニエスは天使化し、観光客や地元の漁師などがオルガノン・セラフィム化したのではないかと思われるが、此方は推測の域を出ない。
また、アニエスの背中には、神秘金属で出来た白い大きな翼が生えており。
その肌も質感こそ白色人種らしい人間の白い肌のように見えるが。どうもこちらも神秘金属に置き換わっているようだ。
――キリキリキリキリ。
聴き慣れてしまった、金属と肉が軋む音が近付いてくる。
『|天使《アニエス》』の気配を感じ取ったのだろう、ポール・パンの方面から。ポール・ミウの方面から。
一行を挟み撃つように、オルガノン・セラフィムたちが群がってくる。
「|Mon Dieu《なんてこと》、町の方から……!パパ、ママ、みんなが、心配です!」
――動揺するアニエスを宥め、成り損ないの天使たちから彼女を守りきらねば!
●Caution!
・この戦いでは、アニエスがスポット参戦します。
・Ankerジョブは天使×看板娘です。
・√能力者ではありませんが、疑似的な√能力らしきものを使う事が出来ます。
この一連のシナリオでのみ、神秘金属の身体を発光させ、聖なる力を放つことができるようです。
・簡単な日本語であれば、意思疎通が可能です。
・フランス語を話すことができる、または翻訳する手段を持っている場合はプレイングに盛り込んで頂ければ、スムーズに会話ができるものと判定します。
・√能力者たちの指示には従いますが、ポール・ミウの先にあるカシの町が気になり、集中力が落ちています。
・何らかの理由で安心すれば、第二章、第三章では集中して指示を受け付ける様になります。

アニエスさん、清らかな|乙女《あなた》にぴったりのお名前ね
ふふっ、そうだったわ
ここは|彼の地《フランス》
聖母と呼ばれし方の座す場所
彼女の言語、わたしにも伝わるわ
きっとあなただけの無事を誓っても
心は晴れないことでしょう
…ご家族や大切な方々が心配よね?
わたしにも故郷があるから
気持ちは痛いほど分かるわ
あなたをわたしの総てで護りたい
あなたが大切なもの総てを
誓いは決して破らないわ
|je le jure devant Dieu.《神に誓って》
√能力を使って自身を強化
ディヴァインブレイドで攻撃を繰り出す
アニエスさん、どうかわたしから離れないで
彼女を無事ご家族のもとへ帰すまで
わたしは決して|倒れ《散ら》ない!
――話は戦いの前に遡る。
√能力者たちの前で、たどたどしい日本語で必死に自己紹介をする『天使化』した少女、アニエス。
日本語でコミュニケーションを取る者が多かった故だろう、自分の話しやすさより相手の聴き取りやすさを優先したのは、『無私の心』が発症条件となる天使だから、であろうか。
――ふふっ、そうだったわ。
そんな天使の姿に、微笑む白い椿が一輪。
「ここは|彼の地《フランス》、聖母と呼ばれし方の座す場所。
貴女の|言語《フランス語》、わたしにも伝わるわ。」
アニエスとは分類される種族は違えど、同じ純白の翼を持つ|少女《セレスティアル》、ライラ・カメリア(白椿・h06574)は流暢な|母国《フランス》語で応じた。
「アニエスさん、清らかな|乙女《あなた》にぴったりのお名前ね。」
先の戦いで、アニエスが彼女との僅かなやり取りで舞い上がっていたのは記憶に新しい。
そして、白椿の花言葉は、「完全なる美しさ」、そして「申し分のない魅力」。
そんな彼女に、流暢なフランス語で褒めそやされればどうなるか。
「わ、わわ、私なんて、そんな、それほどでもなのだわ?プロヴァンス訛りで、あなたほど綺麗なフランス語じゃないし、ええと、それにそれに……。」
ヒトの常識の外にある神秘金属ともなれば、人肌の様に、感情に合わせて色も変わるのであろうか。
普段の彼女ならば『ありがとう、あなたのお名前も素敵なのだわ!』と返すところ、頬を林檎のように染めて、しどろもどろな謙遜をするのだった。
――そして、今。
「|Mon Dieu《なんてこと》……。」
故郷であるカシの町の方面から現れたオルガノン・セラフィムたちの姿に。
アニエスは先ほどまで真っ赤に染めていた顔を真っ青にし、酷く動揺していた。
無私の心を持つ『天使』の性質として、彼女は自身の事よりも、他者を優先する傾向にある。
「……大丈夫だよ。落ち着いて。」
平易な日本語で話しかけるクラウスに『|Oc《はい》……』と、日本語どころか、地元でしか使わぬ方言での返答となってしまうあたり、その深刻さの度合いが窺える。
(カシの町がどうなっているかわからないし、焦る気持ちもよくわかる。)
√ウォーゾーンで生まれ育った彼にとって、町の失陥は身近な出来事であっただろう。
生まれ故郷を機械兵団に奪われ、動揺を隠せなかった学友たちを見た事もあるかもしれない。
だからこそ、彼はその『焦る』気持ちを否定せずに寄り添い、戦闘の準備を整える。
彼女の精神面の不安は、コミュニケーションに長けるライラに任せ。物的な不安を断つのは、自身が受け持てばいい。
「まずは敵をやっつけて、それから一緒に町の無事を確かめに行こう。」
そう告げて、クラウスはいち早く√能力を起動する。
――翼、力を貸してくれ。
親友の遺品、彼の死と共に使用権を譲渡された【レイン砲台】が、|親友《クラウス》の想いに応える様に起動音を響かせて。
再び群がりつつある、成り損ないの天使たちにレーザーの雨を降らせた。
アニエスの動揺を鎮める様に、温かな手が、その震える小さな肩に置かれた。
天使が振り返ってみれば、ふわり、ふわりと白い椿の花弁が舞い散る中。剣を携えた|天使《ライラ》が、勇気付ける様に、柔らかに微笑んでいる。
「…ご家族や大切な方々が心配よね?
わたしにも故郷があるから、気持ちは痛いほど分かるわ。」
ライラの言葉に、アニエスは幾度も小さく頷く。自身が食べられてしまうよりも、町が、人々が、家族が心配である、と。
僅かな交流ではあるが、その性質はライラも把握していた。
――きっとあなただけの無事を誓っても、心は晴れないことでしょう。
だからこそ、アニエスの日常にあった、ステンドグラスの一枚絵の様に。その手に持つディヴァインブレイドの切っ先を、天に向け垂直に立てて見せた。
「あなたをわたしの総てで護りたい。
あなたが大切なもの総てを。
誓いは決して破らないわ。|je le jure devant Dieu.《神に誓って》」
セレスティアルが捧刀の礼を以て、【|Victoire《ヴィクトワール》】……勝利を誓った。
この√能力は、戦で先陣を切った際に全ての能力値と技能レベルが3倍になるという、破格の|自己強化《バフ》の効果を持つ。
その|祈り《誓い》は言葉以上にアニエスに響き、青褪めていたその顔には、血の気が戻っているのが見て取れた。
「できるだけ迅速に終わらせたいところだね。」
クラウスの目からも、アニエスの変化は感じられた。そして。
――敵の厄介な【聖者本能】を封じるべく、距離がある内にレイン砲台の攻撃対象を数体に絞り、回復する前に撃破する。
このクラウスの策が功を奏し、接近している一団は十分に数を減らしている。それで全てを押し留められるとは考えていないのも、想定通り。
「クラウスさん!」
彼の名を呼ぶライラに、クラウスは頷き返す。
――3.2.1……今!!
ディヴァインブレイドを飛翔させんと構えたライラに向け。クラウスは【レイン】と浮遊砲台【ファミリアセントリー】の砲口の照準を合わせた――
――【生存本能】
オルガノン・セラフィムの個体によっては、瞬間移動の如き跳躍を行い、絶対的な先制攻撃を加えるという√能力を保有している者がいる。
距離があろうと、距離を無視するように懐に飛び込まれてしまっては、守るべきアニエスにも危険が及ぶかもしれない。
が。裏を返せば。――【生存本能】を持つ敵を確実に誘き出し、分断する好機とも言える。
ライラが飛ばさんとしたディヴァインブレイドの【攻撃】に誘発され、彼女の元に跳躍した成り損ないの天使たち。絶対先制の神秘金属の爪が彼女を引き裂かんとした、まさにその時。
攻撃態勢に入り、無防備となっているその横っ面から。クラウスのレインとファミリアセントリーによる、制圧射撃が加えられた。
無論、ライラを巻き込む荒業ではあるが、それも2人の勝算あっての事。
今の彼女は√能力による大幅な|技能強化《バフ》で、そのオーラによる防御はより強固なものとなっているからだ。
2人の連携により、強引に後の先、更にその先を取られ。穴だらけになったオルガノン・セラフィムに、改めて振るわれる|慈悲の刃《ディヴァインブレイド》。
『化け物』の頸が、椿の様に地に墜ちた。
「|Quelle chouette《なんて、かっこいいのかしら》……!」
クラウスとライラ、2人の戦いぶりは、まるでおとぎ話や日本のアニメのよう。
縁も所縁もない私を助けてくれたその姿は、格好良くて、華麗な、まさにヒーロー。
そんな、私や町のために戦ってくれるヒーローたちを助けたい、と。アニエスは心の底からそう願う。
カランクの冷たい風に耐えるべく羽織っていたジャケットの下で。
神秘金属の腕に、アラベスクの如き複雑な紋様が奔り、光が点る。
――翼が生えたからには、私にも何かが出来るはず。あの人たちのために、何か……出来てちょうだい!
無私の心でそう願い、自然と『化け物』たちに向けて腕を翳した、その時。
――ぱぁん!!
聖なる光を放つ弾丸が、捕食者に向けて放たれ。その顔前で、眩く爆ぜた。
「……発光に聖なる力、か。まるで御伽噺に出てくる天使みたいだ。」
思わぬ援護射撃に、クラウスが刹那、目を丸くし。感覚を狂わされたのだろうか、千鳥足になった相手を即座にライフルで射抜き、トドメを刺す。
疑似的な√能力だからであろうか、威力は無いも同然ではあったが。目晦ましの様な効果はあるようだ。
今後に控える決戦において、万が一の時の自衛には役に立つかもしれない。
それでも、戦闘経験が皆無な彼女を戦力に数えるには難しいのが実情だ。
「アニエスさん、どうかわたしから離れないで。」
――キリキリキリキリ。
迫り来る敵群からアニエスを庇う様に、ライラとクラウスが獲物を構え直す。
まだまだ戦いは始まったばかり。厄介な捕食者たちは、まだまだ群がってくることだろう。
「彼女を無事、ご家族のもとへ帰すまで。わたしは決して|倒れ《散ら》ない!」
困難な戦場に立つ√能力者たち、そしてアニエスを鼓舞するように。
ライラの力強い啖呵が、無数の船が並び浮かぶカランクに響き渡る。
🔵🔵🔵 大成功

「……大丈夫だよ。落ち着いて」
「まずは敵をやっつけて、それから一緒に町の無事を確かめに行こう」
カシの町がどうなっているかわからないし、焦る気持ちもよくわかる
その気持ちを否定せず寄り添いながら戦う
できるだけ迅速に終わらせたいところだね
決戦気象兵器「レイン」を起動
数体にレーザーを集中させ、距離がある内にできるだけ落として数を減らしてしまおう
敵群が接近してきたらアニエスを庇いながらレインとファミリアセントリーで制圧射撃
弱った相手をライフルのスナイパーで射抜いてトドメを刺すよ
アニエスの力もありがたく使ってもらう
……発光に聖なる力、か
まるで御伽噺に出てくる天使みたいだ
※アドリブ、連携歓迎です
――焦りが和らいだようで、良かった。
天使化した少女アニエスを庇う様に立ちながら、クラウス・イーザリー(希望を忘れた兵士・h05015)は小さく微笑む。
仲間との連携により敵は既に分断され、アニエスは|閃光手榴弾《フラッシュバン》の様な光の弾丸を放てることが判明した。
ならば。戦力として数える事は難しいが、少しでも練度を上げておくことは、彼女自身の身を護る事にもプラスに働くだろう。
――彼女の力もありがたく使ってもらおう。
クラウスはそう判断し、アニエスに指示を飛ばす。
「アニエス、先頭の敵をまた撃ってくれるかい。」
「はい、やってみます……!」
海風に束ねた髪を揺らす青年兵の指示に何とか応えようと、アニエスが意識を集中させた。
再び、袖の下で『天使』の腕が眩く輝き、アラベスク模様の如き、複雑な紋が浮かび上がる。
きっ、と敵である『|化け物《オルガノン・セラフィム》』を見据え、クラウスの指示通り、先頭に狙いを定めて。
放った聖なる光弾は、狙いが僅かに逸れて、爆ぜた。
ヒトの形をしているものを狙うのは、つい先刻まで一般人であったアニエスには厳しい指示かもしれないが。
学徒兵であるクラウスは、|翼《しんゆう》ならどう指導しただろうと想いを馳せて。
「……大丈夫だよ、落ち着いて。大きく深呼吸して。筋がいいよ、次は必ず当たる。」
――キリキリキリ。
じわじわと攻め寄せてくるオルガノン・セラフィムに焦りを浮かべるであろうアニエスを勇気付ける様に、笑顔を浮かべ。
「もう一度、お願い。」
クラウスの指示通りに大きく深呼吸したアニエスからは、クラウスに勇気づけられたからであろうか、肩から力が抜けたのが見て取れた。
――ぱぁん!!
オルガノン・セラフィムの顔前で、今度こそ眩い光が弾けた。
「やった、当たったのだわ!クラウスさん!」
やはり効果は先ほどと同じ、千鳥足となって感覚を喪失しているように見える。
間髪入れずに、歴戦のクラウスの正確な弾道予測による狙撃が『化け物』の頭を撃ち抜き、沈黙させた。
「俺が思った通り、アニエスは筋がいいよ。もう一度、お願い。」
「はい!がんばります!」
コーチングを続け、戦場で生き延びる術を教える彼の姿は、在り方こそ違うが。
アニエスの目には、クラウスの『希望』であった|太陽《しんゆう》のように映ったことだろう。
🔵🔵🔵 大成功

アニエス先輩、思ったよりショックを受けてなさそうで安心しちゃった。ふふ、好きだなこういう子
みんなのこと心配だよね…分かるよ
せめて少しでもその不安を軽くしてあげたい
引き続き召喚したユアに頑張ってもらおう
空から敵の動きを確認してもらって、こっちに気付いてなかったり他所へ行こうとするのがいたら
遠くから火球か氷弾をぶつけてあたし達のところまで釣って来てもらうよ。近付かなくていいから、気を付けてね
それが済んだらアニエス先輩の傍で守っててあげて
あの子に化け物を連れてきてもらうからちょっと慌ただしくなるかも
怖いだろうけど、でも、ここで頑張ればそれだけ町への被害は減らせると思う
だいじょーぶ!あたし達強いから!
敵が近付いてきたら√能力で足を竜化!
高速で動き回りながらなぎ払って、ふっ飛ばして、別の敵にぶつけて数を減らしていくね
敵の動きは見切りで観察しといて、囲まれそうなら竜漿グレネードを放って仕切り直し。攻撃はジャストガードで叩き落としていくよ
アニエス先輩を不安がらせちゃうから悲しい顔見せないようにしなきゃ
――アニエス先輩、思ったよりショックを受けてなさそうで安心しちゃった。ふふ、好きだなこういう子。
何とか√能力者たちの役に立とうと、自身を捕食せんと攻め寄せるオルガノン・セラフィムの群れに向けて光弾を放ち、目晦ましをする『天使化』した少女アニエス。
シアニ・レンツィ(|不完全な竜人《フォルスドラゴン・プロトコル》・h02503)はそんなアニエスの姿を好ましいと、微笑みを浮かべて見つめていた。
シアニは年齢や戦闘経験の有無に関わらず、『先輩』と呼ぶ癖がある。そのアニエス先輩は、というと。
√能力者たちの鼓舞により落ち着きを取り戻し、『聖なる光弾』というやれる事が見つかった。
その出来る事で精一杯に、健気に支援をしてくれてはいるが。今もなお、その胸中は不安で一杯だろう。
(みんなのこと心配だよね…分かるよ。せめて少しでもその不安を軽くしてあげたい。)
青鱗の少女のハンマーを握る手に、力が籠る。
「もう少し一緒にがんばろーね、ユア!」
先の戦いから連戦にはなるが。【|幼竜の集会所《サモン・ミニドラゴン》】で呼び出された緑竜のユアが、『任せて!』と言わんばかりに一声啼いた。
「近付かなくていいから、気を付けてね。
それが済んだら、アニエス先輩の傍で守っててあげて。」
シアニの指示を受けたユアが、翼を広げてカランクの空へ舞い上がる。
緑竜の仕事は敵の偵察と、釣り出し。こちらに気付いてなかったり、他所へ行こうとするものがいれば攻撃を加え、シアニの元に誘導し、漏れなく確実に撃破するという心算だ。
「あの子に、『化け物』を連れてきてもらうから、ちょっと慌ただしくなるかも。
怖いだろうけど、でも、ここで頑張ればそれだけ町への被害は減らせると思う。」
シアニの言葉に、アニエスは緊張したのだろうか、ごくりと息を呑みこんだが。しかし。
「カシのみんなが、安全になるなら。やりましょう!」
町への被害を減らせるとあらば、天使化を発症した少女の事だ。躊躇いなく頷く。
「だいじょーぶ!あたし達強いから!」
そんなアニエスに、シアニは勇気付ける様に身の丈もあろうかというハンマーを軽々と振るって見せて、微笑んで見せるのだった。
――どん!どんっ!
ユアが炎弾を放ち、気を引いているのだろう。キリキリキリ、金属が擦れ合う耳障りな音が、徐々に近付いてくるくるのが、シアニとアニエスの耳にも届いた。
「やっぱりいたみたい。でも、ユアが見付けて連れ出してくれたから、これで町の方は心配ないと思うよ。」
こくり、安心した表情を浮かべる天使に、青鱗の竜の少女は支援を頼み。そして、己の【両脚】を【空色】に輝く【|不完全な竜《フォルスドラゴン》の脚】に変形させた。
「変身!かっこいいです!」
真竜への竜化能力が失われており、身体の一部のみしか竜体に変形させられないシアニではあるが。
目を輝かせるアニエスの声に、既に気合も十分。行ってくるね、と手を一振りして。
接近してきた成り損ないの天使に向けて、風の様に駆け出し。相手が攻撃態勢を取る前に、轢逃げる様にハンマーを振るった。
疾さも乗せたハンマーの直撃を受けたオルガノン・セラフィムは、まるで壊れた人形の様に宙を舞い。ぐしゃりと不格好に地に墜ちて、2度と動くことはない。
「さあ!こっからは先に止まった方の負けだよ!」
――【|不完全な竜は急に止まれない《フォルス・ドラグアサルト》】
シアニの脚を竜に変え、神速と高速の攻撃能力を与える√能力だ。ただし、その疾さ故に受けるダメージが倍になるというデメリットもある、諸刃の剣。
青鱗の少女は止まらない。黒いマフラーを風に靡かせて、青い稲妻が戦場を疾走する。
ハンマーを振るうたびに金属がひしゃげ、薙ぎ払われた敵が、別の敵にぶつかってボーリングのピンの様にはじけ飛び。
辛うじて伸ばされた爪も、捕縛しようと伸ばされる臓腑も、見切りで観察し、シアニの身を捉える前に武器で受けられ、叩き落され。次の瞬間には鉄塊たる、ブースター付きの戦鎚に撥ねられる。
そして。駆け抜けざまに竜漿グレネードを落としていって、背後で雷撃が爆ぜる。
アニエスを守るユアからの航空支援も、アニエスの光弾による目晦ましも、シアニの被弾を阻害する重要な役割を担った。
気を取られ、或いは感覚を奪われ、千鳥足となった半金属半肉の『化け物』を殴り飛ばし、雷撃で焼きながら、シアニは思う。
(この『ひと』たちも、アニエス先輩みたいな、いい人たちだったんだよね……。)
どこから来たのだろうか。もしかしたら、アニエス先輩と知り合いだったりしないかな。
どんな生活をしていたのだろうか。何という名前だったのだろうか。わからない。知る術もない。
当人たちの意志を鑑みることなく、この『風土病』は『優しいひと』を『化け物』に変えてしまった。
(アニエス先輩を不安がらせちゃうから、悲しい顔見せないようにしなきゃ。)
またひとり、『|化け物《やさしかったひと》』に救済の一撃を与え、叩き潰しながら。
他者を慮る、心優しい青鱗の少女は。まるで稲妻の様に、戦場を縦横無尽に駆け抜ける。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功

絶対にアニエスさんを守り抜きますよ〜
アコルディオン・シャトンというのは
フランス語なんですけれども
そう言えば
制作してくれた魔法楽器職人の方が
フランス人でした
なので少しはフランス語でお話し出来ますよ
カタコトですけれども
安心して下さい、というのも
ちょっと変ですけれども
オルガノンさん達が狙っているのは貴女
天使へと変じた貴女がターゲットです
だからご両親や街は無事です
ご自身の身を守ることを第一にされて下さいね
先程の戦いでオルガノンさん達の
動きのリズムは大凡把握しましたし
その金属めいたお体は
動く度にぎしぎしとかキンキンとか
音を鳴らしますので
猫耳で音を聞いたり
お髭で空気の振動を察知すれば
それに合わせてステップを踏むかのように
爪もはらわたも口の連撃を
回避したり間合を外したり
音撃のバリアで防いだりできますよ♪
そして再びタンブランっぽいメロディを響かせて
震度七でぶるぶるさせれば
攻撃は勿論、立っていることさえ難しいでしょう
アニエスさん、今です!
聖なる力の輝きが更に隙を生むでしょう
きっとそれは物理的な眩しさだけではなくて
輝きの源であるアニエスさんの純真な優しさを感じて
少し前までそうだった人間としてのご自身を
思い出すからではないでしょうか
その機に音や♪で倒します
戦闘後も演奏を続けて
オルガノンさん方の安らぎを祈ります
こうなるまでにお助けできず御免なさい
どうか安らかに
魔術師の襲撃に備えます
「絶対にアニエスさんを守り抜きますよ〜!」
黒猫が、えいえいおー、と桜色の肉球を天に突き上げる。
「ああ、|Mon Dieu《なんてこと》……。やっぱりかわいいのだわ……。」
その仕草に気が抜けたか、アニエスがふにゃりと気を緩めて、笑みを浮かべた。
黒猫の獣人である|箒星・仄々《ほうきぼし・ほのぼの》(アコーディオン弾きの黒猫ケットシー・h02251)が持つ、翡翠色の筐体の手風琴【アコルディオン・シャトン】や、一部の√能力にはフランス語が取り入れられている。
そして、その手風琴を制作してくれた魔法楽器職人は、フランス人であったというのだ。
そのため、彼はアニエスが何を喋っているかは、何となくわかるし、少しは話すことも出来る。
「カタコトですけれども、ね?」
ウィンクする黒猫の姿に、アニエスがくらくらと目を回したのは言うまでもない。
さて。√能力者たちの戦いも佳境に差し掛かった。ポール・ミウ側の敵はほぼほぼ排除に成功し、町側への退路は開けている。
「安心して下さい、というのもちょっと変ですけれども。」
合間の息抜きも十分、というところで黒猫は話題を切り出す。アニエスが、何事かと目を向ける中、仄々は二の句を紡いだ。
「オルガノンさん……あの『化け物』さん達が狙っているのは貴女。『天使』へと変じた貴女がターゲットです。」
その言葉に、今まで『化け物』たちが、√能力者ではなく。翼が生えた自分ばかり狙ってくることに合点がいったようだ。
彼女はその眼を閉じ、何事かを考えながら。
「じゃあ、私がここにいる限り……。」
「はい。狙いである貴女がここにいれば、ご両親や街は無事です。ご自身の身を守ることを第一にされて下さいね。」
――『ここにいる限り』。
つまり、裏を返せば。カシに戻れば、あの『化け物』たちに町や大切な人たちが襲われるかもしれなくて。
その『化け物』たちから、みんなを守る力は、私には無くて。
アニエスが再び目を開いた時には。決意の色が宿っていた。
「さあ、オルガノンさんたちを退けるまで、あと一息です。元気よくお届けします♪」
フランス人の職人に作られたという【アコルディオン・シャトン】も、所縁ある国に来たとなれば気合も違うのだろうか。
心なしか、奏でられる調べにも気合が入っているように感じられる。
――キリキリキリキリ。
オルガノン・セラフィムが動く度に、そのメロディに似合わない金属音が加えられる。
仄々は、先の戦闘経験や、成り損ないの天使たちが動く度に出す、その金属音に着目していた。
「先程の戦いで、オルガノンさん達の動きのリズムは大凡把握しました。」
ぴこり、|帽子《シャコー》の脇から出た猫の耳が金属音を捉え。
ひくり、と桃色の鼻の傍、猫の髭が駆動の成り損ないの天使たちが駆動する際の空気を捉え、揺れる。
「その金属めいたお体は、動く度にぎしぎしとかキンキンとか音を鳴らしますよね。
ですから後は、にゃんぱらりっと!」
捕食する|獲物《アニエス》の前にある障害物を排除しようと、一斉に伸ばされた爪。
それを華麗にステップを踏むかのように回避し、アニエスに射線が通っているものは音撃のバリアで弾き返す。
そして、プロヴァンスを思わせるタンブラン風のメロディに切り替われば。敵が一斉によろけだす。
それは、まるで大地震に見舞われ、立っている事もままならないようにも見えるが。
「な、何が起こっているのかしら?」
地震に縁の遠いアニエスは、突如千鳥足になったオルガノン・セラフィムたちを見て、ただただ首を捻るばかり。
いや、地震慣れの問題ではない。揺れているのは、あの『化け物』たちだけだ。
――【|たった1人のオーケストラ《オルケストル・ボッチ》】
この√能力は、仄々が【メロディや音撃】を放ち、指定した全対象に最大で震度7相当の震動を与え続けるという効果を持つ。
ダメージこそ与えられないが、強力な|行動阻害《デバフ》と言えるだろう。
「アニエスさん、今です!」
「! わかったのだわ!On y va!!」
仄々の合図に、アニエスが腕を翳し。今までの実戦の中で練習した成果もあるのだろう、『化け物』の目の前で聖なる光が弾けた。
オルガノン・セラフィムに、自我は感じられないが。
動きに乱れが起きるのは、それは物理的な眩しさだけではなく。
(輝きの源であるアニエスさんの純真な優しさを感じて、少し前まで|善良な《そうだった》人間としてのご自身を思い出すからではないでしょうか。)
仄々は僅かに残った自我が、彼らに残っているのではないか、と。そう思うのだ。
そして、2人分の行動阻害を重ね掛けられ、最早身動きの取れぬ成り損ないの天使に。
「こうなるまでにお助けできず、御免なさい。どうか安らかに。」
仄々が放った、色とりどりの音符の雨がオルガノン・セラフィムに降り注ぎ。その駆動を完全に停止させるのであった。
●
「黒猫さんは、優しいのね。」
戦闘が終わった後も演奏を続け、オルガノン・セラフィムたちへの鎮魂のメロディを奏でる仄々に、アニエスはそう語りかけた。
語りかける目には、戦いの中に点った決意の色が、確かにある。
「さっき、あなたはこう言ったのだわ。『狙いである貴女がここにいれば、ご両親や街は無事です。』って。
だから、きっと。私がここにいる限り……家に戻れば、私の大切なものを何れ危険に晒してしまう。違うかしら。」
「そう、その通り。君がいる限り、オルガノン・セラフィムたちは君という獲物を求めて現れ、殺戮の限りを尽くすだろう。
そして、我々『羅紗の魔術塔』は、カシの町と君の両親たちを守るために。
何より、人類の衰退から脱却する、『|新物質《ニューパワー》』を得るために。君の身柄を|捕獲《ほご》する必要がある。」
仄々がアニエスの言葉に答えようとする、その前に。
ふわりと、羅紗と薄布の如き装束を翻し。
『羅紗の魔術塔』に所属する魔術師『アマランス・フューリー』が、√能力者たちと、そしてアニエスの前に姿を現したのであった。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功
第3章 ボス戦 『羅紗の魔術士『アマランス・フューリー』』

POW
純白の騒霊の招来
【奴隷怪異「レムレース・アルブス」】を召喚し、攻撃技「【嘆きの光ラメントゥム】」か回復技「【聖者の涙ラクリマ・サンクティ】」、あるいは「敵との融合」を指示できる。融合された敵はダメージの代わりに行動力が低下し、0になると[奴隷怪異「レムレース・アルブス」]と共に消滅死亡する。
【奴隷怪異「レムレース・アルブス」】を召喚し、攻撃技「【嘆きの光ラメントゥム】」か回復技「【聖者の涙ラクリマ・サンクティ】」、あるいは「敵との融合」を指示できる。融合された敵はダメージの代わりに行動力が低下し、0になると[奴隷怪異「レムレース・アルブス」]と共に消滅死亡する。
SPD
輝ける深淵への誘い
【羅紗】から【輝く文字列】を放ち、命中した敵に微弱ダメージを与える。ただし、命中した敵の耐久力が3割以下の場合、敵は【頭部が破裂】して死亡する。
【羅紗】から【輝く文字列】を放ち、命中した敵に微弱ダメージを与える。ただし、命中した敵の耐久力が3割以下の場合、敵は【頭部が破裂】して死亡する。
WIZ
記憶の海の撹拌
10秒瞑想して、自身の記憶世界「【羅紗の記憶海】」から【知られざる古代の怪異】を1体召喚する。[知られざる古代の怪異]はあなたと同等の強さで得意技を使って戦い、レベル秒後に消滅する。
10秒瞑想して、自身の記憶世界「【羅紗の記憶海】」から【知られざる古代の怪異】を1体召喚する。[知られざる古代の怪異]はあなたと同等の強さで得意技を使って戦い、レベル秒後に消滅する。
√汎神解剖機関 普通11 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
「『|新物質《ニューパワー》』……?『羅紗の魔術塔』……?」
『天使化』した少女アニエスは、羅紗の魔術士『アマランス・フューリー』が口にした、聴き慣れぬ言葉に首を傾げた。
――『羅紗の魔術塔』
それは、太古の昔よりヨーロッパにて存続するという秘密結社だ。
ヨーロッパ魔術士達の記憶を織り込んだ「羅紗(らしゃ)」を身にまとい、それを媒介にして戦う『羅紗魔術士』をメインとした勢力である。
彼らもまた、米国の『連邦怪異収容局』のように、自国利益の為に汎神解剖機関と対立しているという。
目の前の魔術師は、その勢力に属している。
「ああ、『天使』となった君の身には、|天使になれなかった出来損ない《オルガノン・セラフィム》以上の|新物質《ニューパワー》の可能性を秘めている。
そう、カシの町だけではない。このEUを。全世界の人類を黄昏から救い出せる可能性があるのだ。」
おそらく、魔術師の言葉に嘘はない。穏やかな言葉の中に、詐術の類は無い。
「天使化の発症条件は、『善なる無私の心』。……ふ、偶然とは恐ろしいものだな。
『聖致命女』と同じ名を持つ君ならば。人類のために身を捧げてくれると信じているよ。」
そして、手荒なことをするつもりもないのだろう。さあ、と差し出された魔術師の手に。アニエスは。
「そうね、解らないことだらけなのだわ。突然背中に翼が生えるし、『化け物』に襲われるし。
|√能力者《ヒーロー》たちに助けて貰えたし、あなたみたいに、『君なら世界を救える可能性がある』だなんて、私を必要とする人まで現れた。
まるで、アニメなのだわ。アニメのヒロインにでもなった気分。」
――アニエスは、動かない。
差し出されたその手を取ることは、無い。
ふむ、と小首を傾げる魔術師にくるり、背を向けて。天使は√能力者たちの顔を見回す。
「あなたの言葉も信じるわ。だから、まず私は。私を助けてくれた|√能力者《ヒーロー》たちに、まず訊きたいの。私はきっと、暫くは家に帰れない。そうよね?
その上で。あなたたちは、あのひと以上に『私』の命を役に立ててくれる?」
一歩、また一歩。信じ、もし身を捧げるならば、まずはこちらから、と。√能力者たちの輪の中に、天使は納まった。
「――残念だ。少し、手荒な真似をしなくてはならないらしい。
先ずは、他人の縄張りに土足で踏み入ってくれた、|√能力者《ヒーロー》たちとやらを排除させて貰おう。」
羅紗の表面に、魔術の紋が浮かび上がる。彼女が得意とするのは、奴隷化した怪異の召喚。その魔力の大きさから、使役される怪異も一筋縄ではいかないだろう。
カランクの純白の絶壁の下、海風のそよぐ中。羅紗の魔術師と、|天使《アニエス》の身柄を懸けた決戦の火蓋が、切って落とされた。
●Caution
・この戦いでは、アニエス・ヴィダルがスポット参戦します。
・Ankerジョブは天使×看板娘です。
・√能力者ではありませんが、疑似的な√能力らしきものを使う事が出来ます。
この一連のシナリオでのみ、神秘金属の身体を発光させ、目晦ましの弾丸を放つことが出来ます。

アニエスさん
まずわたし達に訊いてくださってありがとう
|羅紗の魔術師《あのかた》は「新物質の可能性」と言うけれど…
わたしにはアニエスさんご自身が必要なの
お家に帰れないのは本当に辛いと思うけれど…
今度はわたし達が帰る場所になるから
「命を使う」だなんてとんでもないわ
けれど、どうか仲間になってほしいの
アニエスさん、どうか力を貸して下さらないかしら
そっと目を閉じて瞑想を始める
……手荒な真似を選ぶ人が
彼女を「道具」のように呼ぶ人が
アニエスさんを大事にしてくれるとは到底思えないの
相手がその気ならば応戦するまで
10秒経過したら√能力で屈強な楽園の門番を喚ぶわ
アニエスさんからは目を離さず
その手も決して離さない
カランクの白い断崖の下。√能力者たちと羅紗の魔術士アマランス・フューリーが対峙する。
――己の身で誰かを救う。
白い金属の翼と『無私の心』を持つ『天使』アニエスにとって。
その名の由来である|Agneau《いけにえ》になること自体は、実は吝かではない。しかし。
「アニエスさん。まず、わたし達に訊いてくださってありがとう。」
「|C’est pas étonnant《当然なのだわ》.だって私、あなたたちの事が好きになっているのだもの!」
自分を救ってくれた上に、√能力者の側の話を優先したことに対し。
真摯に礼を述べるライラ・カメリア(白椿・h06574)や、|√能力者《ヒーロー》たちと、魔術士を比べてしまうと。
恩の大きさも、好ましさも。どうしても、√能力者たちの方が勝るのだ。
無邪気な笑顔と共にアニエスの口から飛び出した言葉をライラもまた目を細めて受け止めて。
そして、既に話す時間は終わったとばかりに羅紗に魔力を籠め、臨戦態勢を整えたアマランス・フューリーを見遣った。
「|羅紗の魔術師《あのかた》は『|新物質《ニューパワー》の可能性』と言うけれど…わたしには、ね?」
真白い指先が、天使の手を取り。アニエスの瞳に、ライラの穏やかな微笑がはっきりと映し出される。
「アニエスさん。あなたご自身が必要なの。
『命を使う』だなんてとんでもないわ。けれど、どうか仲間になってほしいの。
アニエスさん、どうか力を貸して下さらないかしら。」
真摯な言葉に、答えなど言うまでもない。
『天使化』した少女は雑談の時のように、舞い上がらんばかりのはにかみ笑いを浮かべて。
『|Biensur!《もちろんなのだわ》』の、ただ一言。
彼女は√能力者と共に行くことを選んだ。後は、かの魔術師を撃退するのみだ。
「ふむ。答えが決まってしまったのなら、仕方がない。その答え……我らが祖国のため、力尽くで覆させて貰おう。」
アマランスは羅紗を揺らし。ライラは、そっと目を閉じ。瞑想を始めたのは、ほぼ同時。
お互いの記憶世界……カランクの碧を侵食するような「【羅紗の記憶海】」の海原と、カランクの断崖に力強く根を張る緑や鮮やかな花々を思わせる「【虹光の楽園】」の花畑……その魂に刻まれた、一族の愛おしき故郷が。
記憶、歴史、魂が、まるで鍔競り合う様に、ぶつかり合いながら展開されていく。
「見せてやろう、我が秘蔵の怪異を。」
――【記憶の海の撹拌】
アマランスの海から現れたのは、海竜が如き、【知られざる古代の怪異】。
「なら、わたしは錆びた鍵を廻しましょう。」
――【|Paradis《パラディ》】
昔々に閉じた門を開くように|Valkyrie《聖剣》を回せば、楽園の門より出でる屈強な門番。
それぞれの記憶世界から喚び出された怪異と門番が組み合い、絡み合い、ぶつかり合う。
「……手荒な真似を選ぶ人が。彼女を『道具』のように呼ぶ人が。
アニエスさんを大事にしてくれるとは、到底思えないの。」
「ふ、確かに。しかし、この停滞し、衰退しゆく世界を救うには彼女たち『天使』は貴重な|試料《サンプル》だ。
我々も『道具』の手入れは欠かさない。『|道具《どれい》』として、我々なりに大切にすることは約束しよう。」
徐々に、門番が圧されてゆく。『海』が『楽園』を侵食してゆく。
2人の√能力は、お互いの|力量《レベル》によって、強さと消滅までの時間が左右される。
正面からのぶつかり合いであれば、経験に劣るライラには不利な条件であろう。
――一対一の正面から、であったらの話だが。
魔術師と白騎士の問答を聴いていた金属の翼が、ばさりと広げられる。
「私を『大事』にする方向性は、わかったのだわ。
|魔術士《あなた》が言うとおり、この身が世界を救うというならば。
私は、私を『アニエス』として大事にしてくれる、より大きな可能性に懸けたい。そして何より……。」
すぅ、っと大きく息を吸い込んで。神秘金属と化した腕が、怪異に向けて翳される。
「黙って聞いていれば、サンプルだの、奴隷だの!聞き捨てならない言葉ばかりじゃない!!」
カランク中に響き渡るような、ありったけの憤懣を込めた叫びと共に。
放たれた聖なる光弾が、海竜の怪異の眼前で爆ぜた。
強烈な目晦ましを受け、感覚を失いよろめいた怪異。これを楽園の門番が抑え込み、押し戻し始める。
「くっ、押し負けるだと……!?何をしている、体勢を立て直せ!」
『秘蔵の怪異』が天使の横槍により、門番に押し返されたことに目を見開き。
動揺を見せ、無防備となった魔術師目掛け。
「あなたたちが、|羊《アニエス》さんを|檻に入れ《奴隷にし》ようと言うのなら。
わたしはあなたを斃してでもアニエスさんを護ってみせる。
――この剣に、誓ってみせたのだから!」
戦乙女の銘を持つ聖剣が隼のように飛翔し、咄嗟の羅紗の守りを貫き。
魔術士の身を切り裂いて、白布を鮮血で染めた。
『天使』が|√能力者《ヒーロー》たちを信じて差し出した、神秘金属と化した手。
家に両親を残していく心配もあるだろう。この状況では、別れを告げる事も出来ないかもしれない。
それでも、家に帰れぬ悲しみなら。一族の故郷を失ったライラにも、少しくらいは分かち合えるのだ。
――差し出されたその手は、決して離さない。
「お家に帰れないのは、本当に辛いと思うけれど……今度は、わたし達が帰る場所になるから。」
『仲間』の言葉に、『天使』はこくり、と小さく頷いた。
獲物を切り裂き、帰って来た戦乙女。
これを踊る様に、豪奢な白いドレスの裾を翻しながら華麗に受け止め、ぴっと一振りして血を払い。
戦いの先陣を切ったライラは、誓いと覚悟を新たに聖剣を構え直すのだった。
🔵🔵🔵 大成功

「……信じてくれて、ありがとう」
きっと何を信じていいかわからない状況の筈なのに、俺達を信じて魔術士の誘いを断ってくれた
その想いに応えるためにも、まずは敵を退けよう
アニエスが直接攻撃される心配はあまり無さそうだし、巻き込まれないように彼女から距離を取ってフレイムガンナーを起動し火炎弾で攻撃
一発撃ったら移動して集中攻撃を避けながら攻撃を重ねていく
文字での攻撃は見切りで回避、避け切れない時は霊的防護で凌ぐ
……文字が攻撃してくるなんて、魔法って不思議だな
天使の研究は本当に世界を救うのかもしれない
だけど、アニエスに身を捧げるなんてことはして欲しくないから
俺は、全力で抗うよ
※アドリブ、連携歓迎です
「……信じてくれて、ありがとう。」
「いいえ、こちらこそ。守ってくれて、ありがとう。」
クラウス・イーザリー(希望を忘れた兵士・h05015)の礼に、『天使化』した少女アニエスがたどたどしい日本語でもって礼を返す。
――きっと、何を信じていいかわからない状況の筈なのに。俺達を信じて、魔術士の誘いを断ってくれた。
突如として体に翼が生え。『化け物』の群れに襲われ。√能力者に救われ。自身を必要だという魔術士まで現れ。
愛する家族や町を危険に晒さないために、家には帰ることができないという事まで分かってしまった。
『まるでアニメ』と|彼女《アニエス》がそう口にしたとおり、この一日であまりにも多くの事が彼女の身に起こり過ぎている。
朗らかに、気丈に振る舞い。√能力者たちのためにやれることをやろうと、戦いを手伝おうとしている彼女ではあるが。
先刻まではカシの町に住む、ごく普通の町娘であったのだ。そんな彼女の混乱と恐怖、心細さは、如何ばかりであるだろう。
その上、√能力者たちが『本当に味方』なのか、魔術士の様に『道具』や『奴隷』として扱われない、という保証がない中。
交流を通して、クラウスたちは信じるに値すると、√能力者たちの輪の中に納まったのだ。
――その想いに応えるためにも、まずは|敵《アマランス》を退けよう。
幾度の戦場を越えてきた学徒兵の青年が、天使を守り切るために。
カランクの海風に、ギャバジンのトレンチコートと、一つ結びの髪を揺らして。愛用の狙撃銃に弾を込めた。
アマランス・フューリーにとって、『天使』とは。根絶され、絶滅した筈の|怪異《いきもの》であった。それが今、現に目の前に発生しているのだ。
その貴重な|試料《サンプル》である|天使《アニエス》の生体の|捕獲《ほご》は、彼女にとっての至上命題であろう。
故に、当初は穏便な手段を取った。ただ、運命の巡り合わせにより、√能力者に話の優先権を奪われてしまった。
更に魔術士と|一般人《アニエス》の価値観の齟齬により、その選択肢は完全に潰えている。
(――アニエスが直接攻撃される心配は、あまり無さそうだ。)
手荒な手段に移ったとはいえ、魔術士がアニエスに対して積極攻勢を仕掛ける可能性は低いだろうとクラウスは判断し。
血濡れになった羅紗の下、神秘の文字列を奔らせるアマランスの攻撃に巻き込まれないよう、アニエスから距離を取った。
「ほう。流石は天使が認めた『ヒーロー』だ。私が彼女に強い価値を見出していることを知りながら、人質に使おうという意図が無いとは。賞賛に値する。
――しかし、手加減は期待してくれるなよ。私はその配慮に乗じるだけだ。」
魔術士の言葉と共に、輝く文字列がクラウスを目掛けて飛び出した。
――【輝ける深淵への誘い】
【羅紗】から【輝く文字列】を放ち、命中した敵に微弱ダメージを与える、という√能力だ。
それだけならば、脅威度は低い力と言えるだろう。当たったところで、ダメージは微弱なのだから。
しかし。本当の脅威はその追加効果にある。命中した敵の耐久力が3割以下の場合、敵は【頭部が破裂】して死亡するという、必殺の効果。
ダメージが積み重なれば、猶予もなく突然の死亡と戦線離脱を余儀なくされる以上、当たらないに越したことはない。
「……文字が攻撃してくるなんて、魔法って不思議だな。」
小さく呟きながら、クラウスは狙撃銃を【火炎弾発射形態】に変形させていく。
――【フレイムガンナー】。
銃を変形させ、視界内の対象1体にのみ大ダメージと【炎上】の状態異常を付与する√能力だ。
コートによる霊的防御で文字列を弾きながら、クラウスが火炎弾を放っては戦場を駆け回る。
文字にたかられてしまっては、いつ致命的な領域にまで体力を削られてしまうかわかったものではないのだ、当たらないに越したことはない。
「|On y va《いっけぇ》!!」
そして、文字列を撃ち込まれているクラウスを、アニエスが援護しようと腕を翳し、光弾を放つ。
が、現場慣れしているアマランスにとって、クラウスに指導を受けたとはいえ、まだまだ素人の彼女では相手になりようはずもない。
その予備動作だけで容易に見切られてしまい、防ぐことも無いと躱されてしまう。
「来るとわかっている攻撃を防ぐのは容易いよ、|Mademoiselle《お嬢さん》.
……しかし、|羅紗《ぬの》に炎は厄介だな。」
魔術士が舌打ちする通り、真に厄介なのはその素人の射撃すら活かして、火炎弾を撃ち込んでくる学徒兵だ。
羅紗は炎上し、ところどころ焦げ目が刻まれ。劇的なダメージではなくとも、効果が蓄積していることをクラウスも確認している。
だからこそ、焦らず地道に攻撃を積み重ねていく。
文字列を躱しながら戦場を駆けるクラウスは、『天使』の研究は本当に世界を救うのかもしれない、と。そう思う。
|成り損ないの天使《オルガノン・セラフィム》ですら、|新物質《ニューパワー》としての価値は非常に高いという。
その完全体である天使ともなれば、その価値は如何ほどにまで跳ね上がる事であろう。
「だけど、アニエスに身を捧げるなんてことは、して欲しくないから。」
√ウォーゾーンで散った学友たちの中には、己が身を犠牲に戦線を打開しようとした者も居ただろう。その様な仲間の姿を再び見たいと、クラウスが望むはずもない。
――俺は、全力で抗うよ。
油断なく構えた銃が、その照星の中に魔術士を捉える。
与えられかけた運命に抗うと決めた主人に、応える様に。銃口が文字通り、火を噴いて。
スコープ越しに、炎弾の直撃を受けた魔術士が燃え上がるのを確かに見た。
🔵🔵🔵 大成功

あたしはさ、あなた達のことよく知らないから…
絶対に病気を治すって言ってくれたら、それもいいかなって思ってたんだ
けど、さっきからあなたは新物質、新物質ってそればかり!
不安でいっぱいなこの子のことを考えてあげてよ!
やさしかったひと達を見て、少しくらい悲しそうにしてよ!!
アニエス先輩は任せられない。ひどいことしないって信じられないから
今回も√能力で召喚したユアと一緒に行動。もうひと頑張り、お願いね
テレパシーで連携しながらお互いへ向かう攻撃を妨害するよう立ち回るね
ユアを見ているなら横っ腹にハンマーをぶち込んで、あたしを見てるなら火球を撃ち込んでもらう
倒すというより遠くに吹き飛ばすようにして、1対2以上の状況を多く作れるよう意識かな
チャンスがあれば魔力の鎖を撃ち込んでもらって、動けない所を竜化した腕でどーん!
パートナーを奴隷扱いする人にあたし達は負けないんだからっ
さっさと終わらせて、アニエス先輩の家族に事情を説明しに行こうね
寂しい思いをさせちゃうけど、どうにかする方法を全力で探すから…ごめんね
「あたしはさ、あなた達のことよく知らないから……
絶対に病気を治すって言ってくれたら、それもいいかなって思ってたんだ。」
アニエスを守る様にハンマーを担ぎ、仁王立つシアニ・レンツィ(|不完全な竜人《フォルスドラゴン・プロトコル》・h02503)の言葉に。
ようやく消火を終えた羅紗の魔術士アマランス・フューリーは、ほう、と。興味深げに目を細めた。
彼女も『だから、引き渡します』と話が進むとは思ってはいないだろう。
恐らくは、純粋に。シアニが何を思っているのか知りたいという、好奇心。続きを促す様に、魔術士は黙して語らない。
その誘いに敢えて乗る様に、シアニは二の句を紡ぐ。
「けど、さっきからあなたは|新物質《ニューパワー》、|新物質《ニューパワー》ってそればかり!
不安でいっぱいなこの子のことを考えてあげてよ!
やさしかったひと達を見て、少しくらい悲しそうにしてよ!!」
青い鱗の少女が叫ぶ。天使も、オルガノン・セラフィムも、『道具』じゃない。『奴隷』じゃない。
それにオルガノン・セラフィムも『善なる無私の心』の持ち主だったのだ。
そんな彼らを治すべき病としての研究ではなく、自国の利益のためだけに見ているアマランスが許せなかった。
「ふ、優しいな、お嬢さん。しかし、これは君たちもよく知る汎神解剖機関も行っている事だ。
捕らえた怪異を捕獲し、実験と解剖を以て彼らの臓腑から人類を延命する|新物質《ニューパワー》を得る。
彼らとて、オルガノン・セラフィムを捕えれば、既に喪失した人格など気にも留めず。
解剖し、狂気に憑かれたかの如く実験を繰り返すことだろう。そこに、我々と何の違いがある。」
精々、故国を思い、その利益を追求するか。世界を優先するかだけの違いであると。魔術士は淡々と事実を語る。
研究者としての立場を崩さないアマランスと、天使や、|成り損ないの天使《オルガノン・セラフィム》たちの人格を重んじるシアニとでは、決して意見が相容れる事は無いだろう。
「それでも。あなた達に、アニエス先輩は任せられない。ひどいことしないって、信じられないから。」
その腕を肘辺りまで竜のものに変えて。シアニは魔術士に向けて走り出した。
「もうひと頑張り、お願いね!ユア!」
駆けるシアニの頭上で緑竜のユアが翼を広げ、滑空し。『まかせて!』と言わんばかりに一声啼く。
【|幼竜の集会所《サモン・ミニドラゴン》】で呼び出されたユアは、アニエスの保護の際にも真っ先に現れ、共に戦ってきた縁がある。
緑竜なりに思う事もあるのだろう、その声には一層の気合が感じられた。
(挟み撃つよ!お互いに狙いを絞らせないように立ち回ろう!)
テレパシーを通してシアニの指示を受けたユアは、カランクの強風にも負けず弧を描くように旋回する。
「なるほど、そう来るか。ならば、私も奴隷を喚ぼう。【|レムレース・アルブス《白き影》】を。」
緑竜とシアニの挟撃に対し、アマランスも数の上での優位は取らせまいと。√能力【純白の騒霊の招来】にて、白い影の様な悪霊を喚び出した。
突撃するドラゴンプロトコルの前には魔術士が。ユアの前には騒霊が。
素人であるアニエスはアマランスに対抗する戦力たり得ない以上、数の上では2対2だ。
【嘆きの光ラメントゥム】と呼ばれる奴隷怪異の光撃を避けながら、ユアが火炎弾を放つが、それはアマランスの気を引くには至らない。
(……だったら!無理やりその状況を作り出すよ!)
「アニエス先輩!白い方をお願い!」
「|D'accord《わかったのだわ》!」
アマランスに通じなくても、古代の怪異には通じたのだ。奴隷怪異にも通じるだろう。
――不意を突けば、の話だが。
「彼女の目晦ましは厄介だな。しかし来るとわかっているなら、対処は容易い。」
奴隷怪異目掛け、アニエスの翳した腕から放たれた光弾。これをふわりと伸びた魔術士の羅紗が受け止めてしまう。悔し気に唇を噛むアニエス。
「ううん、ありがと。それでいいんだ。」
しかし、如何なることであろうか。シアニはその口元に不敵な笑みを浮かべているのである。
「――なに?」
怪訝な表情を浮かべ、身構えている魔術士の脇を。
青鱗の少女はハンマーを担いだまま、そのまま駆け抜けた。
魔術士が反応するよりも、一足早く。シアニのハンマーのブースターが火を噴いた。
「本当の狙いは、こっち!」
√能力【|不完全な竜はご近所迷惑《フォルス・ドラグスタンプバースト》】により竜化し、強化された腕力と。
更に点火したブースターにより加速した大鎚が、その横っ面に吸い込まれる様に叩きこまれ。
そのままコバルトブルーの海の向こうへと吹き飛ばしたのは。――ユアと対峙していた、騒霊。
この一撃で、奴隷怪異を倒すには至っていない。やがて、戻ってくるだろう。
しかし一時的にでも強引に作り出した、この1対3の状況でシアニには十分。
――じゃらり、とアマランスの足元から鎖の鳴る音が響き、その身体を捕縛する。緑竜が生み出した、魔力の鎖だ。
「くっ、流石に、この状況は宜しくないな。油断したつもりはないのだが。」
身を捩るも、この鎖から逃れるには僅かばかりの時間がいる。
現場慣れしている魔術士は、その僅かばかりの時間が命取りであることをよくよく知っている。
焦りの色を浮かべるその瞳に映るのは。ブースターで再加速し、一直線に突っ込んでくるシアニの姿。
「パートナーを奴隷扱いする人に、あたし達は負けないんだからっ!!どーん!!」
魔術士の細い体に叩き付けられた、渾身の一撃。
その骨が砕けゆく感触とともに、その威力に耐え切れなかったのか。
繋ぎ止めていた魔力の鎖が目一杯伸び、やがて音を立てて千切れ飛ぶ。
魔術士と奴隷の連携を、シアニと|パートナー《ユア》の絆が上回った瞬間であった。
「寂しい思いをさせちゃうけど、どうにかする方法を全力で探すから……ごめんね。」
一般人であるアニエスの家族に、怪異絡みの話を理解してもらう事は難しいだろう。
そうでなくとも、娘が突然家から離れるという事を納得するだろうか。
機関には、こういった事態に対して、何らかの備えや保護のマニュアルはあるのだろうか。
遠目によろめきながらも立ち上がるアマランス・フューリーを視界に収め、得物を構え直しながら思案するシアニに。アニエスは。
「なぜ、あやまるのですか?あなたは、私と家族のために、色々と考えてくれています。それだけで、じゅうぶんです。」
たどたどしい日本語でそう言って、優しく微笑むのだった。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功

アニエスさんは本当に
勇敢でまっすぐで心優しい方ですね
ジ◯リのヒロインのようです(ぐっ
命は大切に、ですよ
自己犠牲は周囲の方々を悲しませることになります
ご両親とかお友達とか
勿論私たちも
大切な方々の笑顔を守るため
絶対に生きてこの場を切り抜けましょう
及ばずながら猫の手をお貸しします
アコルディオン・シャトンが三度響かせるのは
タンブランっぽいメロディです
元気よく歯切れの良いリズムですけれども
それが奴隷怪異さんやアマランスさんにとっては
震度七相当の振動になりますよ
奴隷怪異さんも
それだけ揺さぶられていては
技を上手くかけれないでしょうし
光も回復も対象の狙いは定まらないでしょう
奴隷として無理やり縛り付けられているとは
お可哀想に
せめて倒すことで解放して差し上げましょう
その内部で響き渡る音が更に増幅し
音撃や光の♪となって内部から破裂させて倒します
そしてアマランスさんへの振動は
単に立てなかったり
術を上手く使えないようにさせている
だけではありません
実はアマランスさんと
身に纏う羅紗とで
揺れの周波数を微妙にずらしていました
だから羅紗がずり落ちたり外れたりします
もちろん
それで魔術的な繋がは
ゼロにはならないでしょうけれど
確実に力は弱まるでしょうし
羅紗の魔術士が
その身から羅紗が外されるたという屈辱は
焦りを生み実力を鈍らせるはずです
更にアニエスさんの放つ光に
その顔を背けた時には
音撃と♪の嵐に飲み込まれて倒れるでしょう
失礼しました
アニエスさんはヒロインではなくて
立派なヒーローですね
戦闘後
アマランスさんのインビジブルを
決意の眼差しで見つめます
アニエスさんはじめ天使さんたちを
何度でも必ず守り抜きますよ
アニエスさん
しばしこの街やご両親ともお別れです
さあ行きましょうか
「アニエスさんは本当に勇敢で、まっすぐで心優しい方ですね。」
|箒星・仄々《ほうきぼし・ほのぼの》(アコーディオン弾きの黒猫ケットシー・h02251)が、とある日本のアニメーションのヒロインを引き合いに出せば。
「確かにあのスタジオは名作揃いだけど!そこのヒロインに並べられるのは、恐れ多いのだわ!?」
日本のアニメに明るい『天使化』した少女アニエスは、恐縮したようにぶんぶんと手を振る。
しかし、です。と、心を緩ませたところで、諭すように語りかけるのもまた、仄々という黒猫だ。
「命は大切に、ですよ。世界のためとあっても、自己犠牲は周囲の方々を悲しませることになります。ご両親やお友達……勿論、私たちも。」
天使化の条件である『無私の心』の持ち主である彼女にとって、己よりも他者を優先する自己犠牲の傾向はかなり強い。
しかし、世界を救うという可能性を提示されたがために。『自己犠牲の後』、身近な人の『幸せ』への考えがどこか、薄れてしまっていた。
「Eh……そう、ね。大を救えても、小が大切でないはずがないわよね。誰かのためって難しいって、つくづく実感するのだわ。」
――ありがとう、猫さん。
新たな気付きに微笑み、礼を言うアニエスに。仄々は気にする事はありませんよ、と目を細め。
「大切な方々の笑顔を守るため、絶対にこの場を切り抜けましょう。
なに、生きてさえいれば、機会は巡ってくるものなのですから。
――及ばずながら、猫の手をお貸しします。」
カランクで開いた、天使化事変の舞台の幕。
この大詰めの舞台に、黒猫の翡翠色の手風琴が大きく息を吸い込んだ。
「まさか、天使を見付けたはいいが、私をここまで追い詰める者たちに出会ってしまうとはな。果たして運が良いのか、悪いのか。」
√能力者たちの度重なる攻撃と、その直撃を受けて。満身創痍の羅紗の魔術士『アマランス・フューリー』は、ため息交じりの苦笑を零した。
間違いなく、根絶されたと思われていた『天使』、いわば絶滅種の生体であるアニエスを発見できたことは、彼女にとっては間違いなく幸運であっただろう。
しかし、不運な事にその天使は先に√能力者たちと絆を育んでおり、説得は不首尾に終わり。
その上、|捕獲《ほご》すべく止む無く戦闘に移るも、√能力者たちの猛攻により、羅紗も肉体も最早限界に近い。
「あなたにとっては残念ながら、思惑通りには運ばなかったという事ですね。此処で諦めて退かれてはいかがでしょう。」
「ふふ。魅力的な提案だが、断らせて頂こう。此方も|新物質《ニューパワー》の貴重な|試料《サンプル》を得たいのだ。
それに、此処は我々羅紗の塔の縄張りだ。その面子に懸けても、退く謂われはない。」
仄々の提案を魔術士は丁重に辞し。焼け、千切れ、短くなった羅紗を揺らし。漸く戻って来た【奴隷怪異「レムレース・アルブス」】を侍らせた。
「そうですか。では、最後まで元気よくお届けします♪」
このカランクの地で三度奏でられる、タンブラン風のメロディ。
その元気よく歯切れの良いリズムが、仄々の√能力発動の引き金となる。
――【|たった1人のオーケストラ《オルケストル・ボッチ》】
【メロディや音撃】を放つことで最大で震度7相当の震動を与え続けるという強力な|行動阻害《デバフ》効果を持つ。
「この√能力は、厄介だな……!しかし、狙いが定まらない、√能力が上手く使用できないだろうという思惑があったなら、それは油断だったかもしれないぞ。」
震度七相当の揺れとは、立つ事はおろか、動けないほどの揺れだ。
しかし、召喚された対象が、触れるほどの至近距離にいたら?狙いを付けるまでもない。
更に言えば、羅紗とは軽い白布。揺れの周波数をずらしても、アマランスが取り落すような大きな揺れにはなり得ない。魔力を弱めるという目的を達成する事は難しいだろう。
仄々の思惑は外れ。奴隷怪異の【聖者の涙ラクリマ・サンクティ】により、折れていたアマランスの腕が回復していく。
「これはいけませんね。仲間の皆さんが削ってくれた傷を癒し切られる前に、奴隷怪異さんを一刻も早く倒す必要がありそうです。」
思惑通り、攻撃の狙いを定める事は出来なさそうだが、もしも『無傷で捕獲する』という方針を切り替えられていたら?
可能性は低いとはいえ、ゼロではないのだ。多少は傷付けても良いと、遠距離攻撃の無差別攻撃に移られていたら?
「今回のアマランスさんの、穏当な行動指針に救われましたね……。」
考えられる可能性に黒い猫耳を倒しながら、仄々は次の√能力の行使に移る。
【愉快なカーニバル】により、音色の弾丸がアマランスと奴隷怪異に降り注いだ。
――奴隷として無理やり縛り付けられているとは、お可哀想に。
幾ら人に害を為す怪異とはいえ、奴隷として使役されるのは哀れであると仄々は思う。
アマランスに結び付いた怪異であるが故に、倒したところで解放することは出来ない。しかし、一時の隷属の屈辱からは解放できるかもしれない。
そう考えて、黒猫は手風琴より追撃の音撃を放つ。
幸いだったのは、√能力者が加えた痛撃により、奴隷怪異【レムレース・アルブス】に蓄積したダメージが大きく。
またその回復を優先できないほどに、アマランスが深刻なダメージを負っていたことだろう。
対処はまだ間に合う。いや、間に合った。
色とりどりの音符に呑まれ、奴隷怪異が先に斃れ、消滅していく。
「これで、回復の手は断ちました。後は……」
「ああ、私だけではある。しかし、只でやられてはやれないな。」
仄々の言葉に応じる様に、輝く文字列が広範囲にばら撒かれた。
そのダメージそのものは微弱だが、体力が3割を切った者の頭を破裂させる√能力、【輝ける深淵への誘い】だ。
狙いが定まっている訳では無い。微弱ダメージである以上、仄々を倒すことは不可能だろう。一矢報いるため、ただそれだけの攻撃。
例えアニエスに掠ったとしても、ダメージは殆ど負わないであろうが。
「失礼しました。今のアニエスさんはヒロインではなくて、立派なヒーローですね。」
――【世界を変える歌】
今のアニエスは、非√能力者の行動成功率を100%にするという、仄々の√能力による破格のバフの影響下にある。
「今なら、仲間たちが教えてくれた戦い方と……黒猫さんのお陰で。外れる気がしないのだわ!!」
翳した右腕、そのジャケットの下。アラベスク紋様の如き光が点る。
放たれた聖なる光弾がアマランスの眼前で爆ぜ、文字列の発射も止んだ。
「……『天使』の力を体感できたのもまた、収穫なのであろうかな。
――しかし。嗚呼、惜しいな。連れ帰る事が出来れば、|新物質《ニューパワー》の知見が、更に深まっただろうに。
なに、焦りはすまいさ。この一例があれば、次の機会にも希望が持てるというものだからな。」
閃光弾の如き輝きに視覚を奪われた魔術士は、諦観の笑みを浮かべると共に、『天使』の捕獲を諦める気は無いという意思を告げ。
仄々の放った音符の嵐に呑まれていった。
「いいえ、その思惑通りには運ばせません。アニエスさんはじめ、天使さんたちを何度でも、必ず。私たちが守り抜きますよ。」
羅紗の魔術士アマランス・フューリーの最期の言葉に、黒猫は尾を揺らし。そう反駁するのだった。
●エピローグ
激戦を終えたカランクに、アニエスが見慣れた景色、そして静けさが戻ってきた。
これまでの戦いがまるで嘘のように、底まで容易に覗くことが出来るほどに澄んだコバルトブルーの海には、ボートの群れが横一列に所狭しと並んで浮かんでいる。
遠くに見えるカシの町も、いつもの賑わいのままの様に見えた。
その|風景《にちじょう》を目に焼き付け、故郷の潮風を記憶に残すために。アニエスは静かに佇んでいる。
彼女の日常の風景だけは、帰って来た。しかし、背中の翼はそのままに。神秘金属に変わってしまった身体も、日常も、元には戻らない。
魔術士が最期に遺した言葉も、彼女が日常に戻れぬことをはっきりと示唆していた。
「|Mon Dieu《なんてこと》.こんな事になるのなら、描いた絵とか、もっとしっかりと隠しておくんだったわ。」
何とか口にした冗談も、寄る辺を失った寂しさと心細さに、どうにも力が籠らない。
そんなアニエスの背中に、カシの町の無事を確認してきた√能力者たちが声を掛けた。
「アニエスさん。しばし、この街やご両親ともお別れです。さあ行きましょうか。」
新たな旅路に誘う様に、微笑みを浮かべた仄々が手招きをする。
その姿に、アニエスは彼らを困らせてはいけないと強がり。この|√能力者《ヒーロー》たちがいれば大丈夫。そう自分に言い聞かせて、笑みを返す。
「|Oc《はい》、いきましょう!どんな世界が待ってるのかしら、楽しみなのだわ!」
――|A Dieu《さようなら》.Eh……|non《いいえ》.|Au revoir,papa,maman,tout le monde《また会おうね、パパ、ママ、みんな》.
母なる海の潮騒に背中を押され。
√能力者たちと共に、カランクの『天使』が新たな|世界《ひにちじょう》へと一歩、足を踏み出した。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功