ただ、祈る者のために
●√汎神解剖機関
欧州。古都の郊外。
朝霧に沈む石畳の路地の果て、風化した礼拝堂の奥に、ひとりの少女が佇んでいた。
それは人間でありながら、既に人間ではなかった。
白磁のように滑らかな肌、淡く金色に揺れる短い髪。
背から突き出た骨の先には、半ば毟られた鳥のような白羽が、微かな風に震えている。
「…………」
人ならざる少女は跪く。
細い指を組み、静かに瞳を閉じ、祈りを捧げる。
その祈りは己のためではない。
「……明日も、みんながおだやかに過ごせますように……」
優しい声音が静寂の中に溶けていく。
誰かが傷ついていないか。誰かが泣いていないか。
腹を空かせていないだろうか。寒さに震えていないだろうか。
少女の胸の内は、ただそれだけでいっぱいだった。
この都に生きる人々の平穏を、この世界に生きる人々の安寧を。
もはや誰にも必要とされていないような場所で、密やかに、祈る。
そんな純真無垢へと忍び寄る異変。
じわり、薄闇の隙間が波打つ。
礼拝堂の崩れた壁の向こう、砕けたステンドグラスの先から、何かが覗いていた。
それは人間でありながら、既に人間ではなかった。
暗い影。失くした瞳の名残に血の涙を流し、揺らめくように一歩、また一歩と近づく。
恰幅の良い男の姿もあれば、線の細い女の姿も、少女と同じくらいの小さな影もある。
何かを求めて彷徨うようなそれは――理不尽な死を遂げた“被害者”たち。
無念と怨嗟に沈んだ後、羅紗の魔術塔に囚われた哀れな奴隷たち。
主の命に従い、蠢く影たちは何かを囁く。
それは誰にも届かない。
縋るように伸ばした手は、もはや愛する者にも触れることができない。
彼らは飢えていた。
なればこそ、少女は微笑んで言った。
「……だいじょうぶ。こわくないよ、なにも」
●星詠みの語るところによれば
「――ま、全くもって『大丈夫』ではないんですがね」
そう言って肩をすくめたのは、|獺越《おそごえ》・|雨瀬《あませ》(流るる語り部・h05081)だ。
危機を告げるにも淡々とした口調で、彼は√能力者たちに語り掛ける。
「件の少女、名を『サリィ・ラヴィリス』と申しますが、このサリィが『天使化』してしまった事は、既に『羅紗の魔術塔』の『アマランス・フューリー』に察知されとります。礼拝堂に押しかけているのは、アマランス・フューリーが放った配下、いわば奴隷怪異という訳ですな」
奴隷怪異の正体は、何処かで何かの要因によって死亡した、一般人の『被害者』たち。
「そんなもんを平気で使役する輩が、無垢な天使を捕まえて何するかなんて知れたこと。ええ、碌な事じゃありませんとも。ですからどうにかして、皆様の力でサリィ嬢を救出していただきたいのですが」
黄昏を迎えた世界は、優しさを嘲笑うほどに険しい。
「サリィ嬢の存在は、天使のなり損ない――『オルガノン・セラフィム』にも嗅ぎつけられております」
被害者たちを退けても、善なる心を失った哀れな怪物たちがすぐに襲い来る。
「それだけで済めばいいんですがね。……いえ、星の告げるところによれば、アマランス・フューリーも乱入してきそうな気配がありまして。被害者たちを最速最短で退ければ、タッチの差で躱せるとは思いますが」
アマランス・フューリーは、天使だけでなくオルガノン・セラフィムの回収も画策している。
それを妨害しながら、サリィを守りつつ逃がす――というような、忙しない状況になる可能性もあるという訳だ。
「最終的にはアマランス・フューリーとの直接対決になるかもしれませんし、或いは……彼女が使役する別の何かが立ちはだかるかもしれません。いずれにせよ、サリィ嬢を保護したまま安全圏に辿り着くまでは、ひたすらに戦わなければならないでしょう」
雨瀬は僅かに目を伏せる。
激戦は避けられない。それでも、少女を救わんとするのであれば。
「ひとつ、皆様の力でどうにかしてやってくれませんか」
翳りを帯びた声が、祈るように響いた。
マスターより

あまかせです。よろしくお願いします。
●第1章👾『被害者』
天使サリィが居る礼拝堂に駆けつけ、『被害者』たちを退けます。
全体の成功度やプレイングによって次章が分岐します。
●第2章👾『オルガノン・セラフィム』
オルガノン・セラフィムの群れを撃退します。
場合によってはアマランス・フューリーが乱入しますが、この章で彼女を倒すことはできません。
全体の成功度やプレイングによって次章が分岐します。
●第3章👿『???』
アマランス・フューリー、または別種の敵と戦闘します。
●補足
天使『サリィ・ラヴィリス』は金髪青眼、10歳前後の少女です。
戦う力はありませんが、場合によっては√能力に似た力を行使します。
(そのような状況になった際は、断章にて説明します)
プレイングはいつでも受け付けております。
断章準備や締め切りなどは、タグでお知らせします。
ご参加お待ちしております。
51
第1章 集団戦 『被害者』

POW
ポルターガイスト現象
【怨念 】により、視界内の敵1体を「周辺にある最も殺傷力の高い物体」で攻撃し、ダメージと状態異常【怨霊憑依】(18日間回避率低下/効果累積)を与える。
【怨念 】により、視界内の敵1体を「周辺にある最も殺傷力の高い物体」で攻撃し、ダメージと状態異常【怨霊憑依】(18日間回避率低下/効果累積)を与える。
SPD
金縛り
「【来るな 】」と叫び、視界内の全対象を麻痺させ続ける。毎秒体力を消耗し、目を閉じると効果終了。再使用まで「前回の麻痺時間×2倍」の休息が必要。
「【来るな 】」と叫び、視界内の全対象を麻痺させ続ける。毎秒体力を消耗し、目を閉じると効果終了。再使用まで「前回の麻痺時間×2倍」の休息が必要。
WIZ
金切り声
【喉を張り裂くような絶叫 】を用いた通常攻撃が、2回攻撃かつ範囲攻撃(半径レベルm内の敵全てを攻撃)になる。
【喉を張り裂くような絶叫 】を用いた通常攻撃が、2回攻撃かつ範囲攻撃(半径レベルm内の敵全てを攻撃)になる。
廃れた街路の彼方に聳える礼拝堂。
かつて祈りに満ちていた静寂が、今や墓標のように揺蕩う場所。
その只中で跪く少女と、それを捉えようと押し寄せる無念の影。
嘆き、渇望し、縋るように伸ばされた腕が――ぴたりと止まる。
石畳を震わせて駆けつける者たちの気配。
張り詰める空気の中、影を見つめていた少女は、静かに細い指を組んだ。
ただ、祈る者のために。
仄かに漂う朝霧を裂いて、戦いの刻が、来たる。

*連携アドリブ歓迎
真に無私で在れたのなれば
何と稀有な娘御か
しかし、それ故に降り掛かったとなれば
祝福などと呼ぶわけには参らぬな
宙を渡りながらの、急ぎ時間稼ぎの足止めは爆ぜる呪符
娘御と感染者らの間へと降り、壁となる
逃げも恐れもせぬとは、痛々しくもあるのう
――御使いであろうが、なんであろうが
お主が犠牲となる世など、肯としてはならぬよ
そう、望まれるものに成らずともよい
最後は言葉にせず
此処は異教の祈りの場と聞いておる
無作法に破壊してしまうのは少々心苦しい
サリィ殿へと迫るものらを正面から捉え
――此方だ、怪異どもよ
視線に乗せた咒詛で躰だけを纏めて焼き払う
咽喉を焼き潰されれば叫びも放てまい

「ハロー、私と同じ名前のガール。無事でいてくれて嬉しいわぁ」
【行動】
まずは防御を考えましょ。小さなガールを巻き込むわけにはいかないわぁ。
オーラ防御、エネルギーバリアの技能を使用。隔絶結界を起動して私と、何よりもガールを守る。
しのいだなら反撃よぉ。今日のナンバーは『重奏・十重二十重に歌え聖なる日1224』。とっておきの演奏を聞かせてあげる。
楽器演奏、歌唱、全力魔法の技能を使用。
召喚した光の弾丸で『被害者』を撃ち抜くわぁ。
アンタ達に罪はない。どうか、静かに眠ってちょうだいな。
「この歌を、貴女に捧げるわぁ。小さなサリィ」
【アドリブ・連携歓迎】

連携アドリブ可
哀れに思ってやらねぇ事もねぇが、それはそれとしてだ
死んだならキレイさっぱり何も残すな
未練も憎悪も、愛すらもな
サリィを中心かつ巻き込まないように√能力を使用
【逆星】で全てを焼き尽くす
サリィに迫る被害者や金切り声は逆星の波濤を防壁にして押し返す
連中の未練も憎悪も、断末魔すら灰の一片も残さねぇように『焼却』する
味方を巻き込んじまうかもだが被害者達を最速最短で終わらせる為だ
それに√能力者はどいつも強者揃いだ
一声あればうまく合わせてくれるだろ
俺への攻撃は装備と言える程に鍛え上げた肉体で受け止め、逆星から逃げ延びた奴がいれば追撃を仕掛け最速最短で終わらせる
これを最後にして次は苦しみに迷うなよ
朝靄へと紛れるように、ゆらり。宙を舞う。
或いは揺蕩う。音もなく、自然に、廃れた礼拝堂へと流れ込んで。
投げ放つのは火種の呪符。ツェイ・ユン・ルシャーガ(御伽騙・h00224)の手から旅立ったそれは、蠢く影の合間で次々に爆ぜた。
邪気を一掃する程のものではない。
だが、構わない。耳目を集め、戦場の時を止める。
思惑通りだ。怯む怪異たちの頭上を越えて、護るべき少女のもとへと降り立てば、それに続く者も在る。
「ハロー、私と同じ名前のガール。無事でいてくれて嬉しいわぁ」
残響めいた声に六弦の音色を重ねて、真っ赤な魔女帽子のつばを軽く押さえながら目礼を送る、少女のような人間災厄。
|虚峰《ウロミネ》・サリィ(人間災厄『ウィッチ・ザ・ロマンシア』・h00411)は、天使たる|少女《サリィ》と暫し見つめ合う。
無垢なる青い双眸。未だ恋も知らないような純真。守らなければならないもの。
そう感じたのも束の間、魔女サリィの傍らで荒々しい声が響いた。
「……死んだならキレイさっぱり、何も残すな」
|禍神《カガミ》・|空悟《クウゴ》(万象炎壊の非天・h01729)が、眼光鋭く怪異を睨めつけて言う。
威圧的な台詞で押し伏せるのは、胸中に過る幾らかの憐憫。
影の如き怪異たちは確かに『被害者』なのだろう。
だが、如何なる理由があろうとも、命尽きれば其処で終わり。
それを認めず、現世への執着を残すから“羅紗の魔術士”などに利用されるのだ。
……とはいえ、それも今日限りのこと。
「後腐れねぇように一切合切、燃やし尽くしてやるぜ」
宣言の後、空悟は僅かに振り返り、また怪異たちに視線を戻す。
何を、と魔女サリィが問う暇はなかった。
何を、とツェイは問うつもりさえなかった。
戦場の中心たる天使の周囲から迸ったのは、全てを飲み乾す黒炎の波濤。
未練も憎悪も怨嗟も憤怒も、愛さえも纏めて灰燼に帰す灼焔。
幾度となく押し寄せるそれは『被害者』たちを攫い、彼岸の彼方へと葬る。
言葉の通りに全てを燃やし尽くすほど苛烈な勢いだった。
ともすれば、同じ天使の守護者たちまでも巻き込もうかと言うほどに。
「|青い《・・》のう」
「……青ぉ?」
炎は見紛うことなき黒のはず。
聞き返した魔女サリィだが、しかしツェイはそれ以上を紡がない。
まるで雲を掴むような感覚。
二の句を継いでも暖簾に腕押しかと、魔女は矛先を変えて。
「ちょっと、危ないじゃないのよぉ」
どこまで本気なのか判らない声音で訴えた。
まずは守りを。そう考えていたからこそ黒炎に反応し、自らを天使サリィと共に“隔絶結界”で保護できたが、そうでなければ奏者も舞台も観客も、十把一絡げにして燃やされていたかもしれない。
「私達もこの小さなガールを守るために来たってこと、|理解《わか》ってるわよねぇ?」
「ったりめぇだろ」
くだらない事を聞くなとばかりに吐き捨て、空悟は不敵な笑みを浮かべる。
それだけで凡そ察しはついた。彼は初めから諸々を計算の内にいれていたのだ。
「……アンタねぇ、そういうのにときめく乙女ばかりじゃないのよぉ?」
「んなこと知るか」
ささやかな意趣返しに粗雑な対応。
くく、とツェイが哂いを零せば、二人の視線が突き刺さる。
「いやなに、然しもの|サリィ《天使》殿も呆然としておるように見えてな」
垂らした袖口の先、少女は曇りなき眼で赤服の魔女と黒服の暗殺者を交互に見つめ、それぞれの裾をくいと引いた。
心配しているのだろう。本気で諍いを起こすのではないか――という事だけでなく。強烈な力の奔流を放ち、それを受け流す。当たり前のように始められた戦闘行為の中で、二人が痛苦を味わったりしていないか、と。
(「真に稀有な娘御よ」)
逃げもせず、恐れもせず、隣人を気遣い、自らに牙剥く怪異にすら慈愛を向ける。
なればこそ美しく、健気で、しかしあまりにも痛ましい。
無私とは、即ち私心の無いこと。“私の為”という心をなくすこと。
積年の果てに至る境地、悟りとさえ呼べる其れを少女が宿すに至ったのは何故か。
ツェイたちには知る由もない。だが、生来のものであろうとなかろうと、その気質ゆえに苦難が降りかかるとなれば、其れは決して祝福とは呼べない。呼ぶべきではない。
「――御使いであろうが、なんであろうが。お主が犠牲となる世など、肯としてはならぬよ」
そう、望まれるものに成らずともよい。
伝えきる前に柔らかな声は途絶えて、代わりに伸ばした掌が金の髪を撫でる。
温かな心を持つ少女の肌は、未知の金属と化したせいか冷え切っていた。
欧州の奇怪な風土病の成れ果ての一つ。癒してやることは、神仙気取りのツェイにも叶わない。
ならば、せめて護ろう。
亡者の悲嘆や、魔術士の我欲。少女を脅かす全てから遠ざけよう。
「――――!!」
どこからともなく湧き出た新たな影が、喉を引き裂くような絶叫を上げる。
礼拝堂そのものが震えて、ぱらぱらと砂礫が落ちた。
けれど、天使は魔女の揺り籠の中。かすり傷ひとつさえ負う事はない。
「しつこいんだよ、てめぇら」
鍛錬の成果たる肉体の強さだけで耐え凌ぎ、空悟が黒炎で影を薙ぐ。
その意気や良し。けれどもやはり、|青い《若い》。
(「我も勢い余って、あれこれと余計なものまで燃やしたものよの」)
遥か遠い日を哂い、空悟に背を向けたツェイは、真正面の亡者たちを見据えた。
「――こちらだ、怪異どもよ」
刹那、燃え上がる影の群れ。
妖の眼差しに乗せられた咒詛が、哀れな奴隷怪異たちの躰だけを焼き払う。
(「異教のものといえど、それを信ずる者たちの祈りの場であるからな」)
荒らすのは些か気が引ける。故に、幽世の影だけを焼く。
喉元まで熱に侵されたそれらは、もはや悲鳴すら上げることも出来ない。
「形勢逆転ねぇ」
金切り声が失せたのなら、今度は此方が奏でる番。
「この歌を、貴女に捧げるわぁ。小さなサリィ」
ウィンク一つ投げて見せ、大きなサリィの綺麗な指が弦を弾く。
真っ白なエレキギター型魔術触媒、魔導弦『ホワイトスター・トップテン』は今日もゴキゲン。
アンプとして機能する改造スマートフォン、魔導増幅機構『ハウリングバンシー』との接続も良好。
響かせるべき今日のナンバーは、|重奏・十重二十重に歌え聖なる日1224《ヘヴィーゴスペルワントゥートゥーフォー》。
「――――」
微かな|呼吸《ブレス》。震える六本の弦。鳴り渡る恋の歌。
乙女に捧ぐそれは、魔術。
そして、今一時は無念への|葬送曲《レクイエム》。
ぽつぽつと創造された光の弾丸が怪異たちを打ち抜く。
彼らもまた『被害者』であるなら、せめてその一発で終わらせて。
(「どうか、静かに眠ってちょうだいな」)
音が降り注ぐ中、黒炎と咒詛が消え去れば、残るのは僅かな影の痕。
「これを最後にして、二度と苦しみに迷うなよ」
静かに、それでもどこか鋭く、空悟が呟いた。
振り上げていた拳を下ろし、ゆっくりと肩を回す。
音の余韻も消えて、礼拝堂には静寂が戻る。
「……ふむ。一先ず片付いたかの」
ツェイは袖を軽く払うと、ふっと微かな笑みを零した。
護るべきものは無事。だが、安堵は束の間。
使役された怪異との戦いなど序章に過ぎない。
それは無私の少女でさえもが、朧げに感じ取っているだろう。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功

アンナ(h05721)と一緒に向かうわね。
真面目な人が損をするみたいな、嫌な風土病。
なんとか、助けてあげたいわね。
高い位置にある窓を蹴破って一気に突入するわ。
数が多そうだからそうね、黒鉄の拳を使ってスピードを上げたいところかしら。
なるべく大立ち回りをして敵兵をひきつけたいわね。
アンナの方に敵が行くと厄介だから、そっちに向かいそうな個体がいれば一気に飛んで先に片付けるわね。
被害者たちには申し訳ないけれど、もう、終わってしまったことだもの……。
せめて早く眠りにつけるよう、近接格闘術を駆使して1体ずつ確実に仕留めていくわ。
こんな形でしか助けられなくてごめんね。

カレン(h05077)と共闘。
最近この世界よく来るね。
わたしたちの世界(√ウォーゾーン)とは別の意味で、全体的に救いのない感じがする。
さておき、わたしはカレンが飛び出した窓に陣取って上から狙撃していくよ。
カレンの死角から攻撃しようとしている個体やサリィの方に抜けそうな個体を遊撃していくつもり。
サリィが逃げる感じでカレンの傍から離れる状況なら、サリィに追撃する個体の撃破を最優先にするよ。
カレンならまぁ大丈夫でしょ。
位置取りが悪くなってきたら他の窓の場所へ移動して、そこを破壊してポジションを取るかな。
もしほかの√能力者がいればそっちのフォローも出来ればと思うよ。
「最近、この世界によく来るね」
「そうね」
半身たるアンナ・イチノセ(狙撃手・h05721)の言葉に、カレン・イチノセ(承継者・h05077)は短く返す。
重苦しい空と陰鬱な雰囲気。
√ウォーゾーンに揺蕩う硝煙の匂いとは異なる、終末の気配。
何処を見渡しても救いのない感じがすると、アンナが下した√汎神解剖機関への評価には、カレンも頷くしかない。
それに輪をかけるのが、今回の事件だろう。
善なる無私の心によって発病する不治の病、その果てに起こる『天使化』現象。
人ならざる天使へと変貌した者は、|そうなれなかった出来損ない《オルガノン・セラフィム》や、羅紗の魔術塔なる勢力にその身を狙われる。
カレンたちが目指す礼拝堂で、今まさに一人の少女がそうなっているように。
「……嫌な風土病。なんとか、助けてあげたいわね」
「うん」
今度はカレンの呟きに、アンナが頷いて答える。
世の理不尽を我が身で知っているからこそ、二人は思うのだろう。
善き人ほど報われないような世界ではあってほしくない、と。
「――アンナ」
「ん」
石畳の路地を駆け抜け、礼拝堂へと辿り着いた二人は、阿吽の呼吸で動き出す。
目指すは外観から確認できる高所の窓。
もはや祈る者も少なく、半ば廃墟と化した建物であればこそ、取っ掛かりとなる場所を見つけるのも容易い。
二人の兵士は機敏な動きで上へと登っていく。
その“慣れ”を哀れむ者など、この場、この世界にはいるはずもなく。
「行くわよ」
言うが早いか、カレンは窓を蹴破って戦場へと飛び込んだ。
朝霧の合間にガラス片が舞って煌めく。その向こうに蠢く亡者の群れを見据えれば、革手袋に覆われた右手が固く握り込まれて。
炸裂するのは|黒鉄の拳《フォーティ・キャリバー》。
怪異など止まって見えるほどの速さで繰り出される連撃が、天使と化した少女に迫る害悪を悉く打ちのめす。
それだけではない。
「あなたたちの相手はこっちよ!」
次の標的を見定めながら声を張り上げ、意図的に敵の注意を引く。
骨肉を鋼鉄で補う身体は凡そ天使になど見られないだろうが、ひとりの少女を救うためであれば、打てる手は何でも打っておきたい。
その様子を割れた窓から眺めて、アンナは狙撃銃の引き金を引いた。
俯瞰した戦場の動きは隅々までよく見える。
敵――羅紗の魔術士とやらに使役される『被害者』たちは、天使以外には興味すらないのか、此方を見上げようともしない。
(「それならそれでいいけどね」)
思考も行動も安直な目標など、的を狙って撃つのと同じくらい簡単なこと。
優先順位は|保護対象《サリィ》に近いものから、次いでカレンの背後を狙うもの。
同時に戦場へと雪崩れ込んだ他の√能力者たちを援護してもいいだろう。
安全圏とさえ言えるような場所から撃ち続けていれば、舞台に堂々降り立って拳を振るう片割れに些か悪い気がしないでもないが。
(「……まぁ、大丈夫でしょ」)
未練や怨嗟の亡霊などに負けるようなカレンではない。
確信と共に撃ち出した弾丸が、金切り声を上げ始めた亡者の喉を貫く。
そのまま後ろ向きに倒れていく敵から目線を切ったアンナは、位置取りを改めるべく銃を上げた。
その事にカレンが気付いたのは、新たに窓ガラスの割れる音が響いてから。
敵の気を引き付けようと大立ち回りを演じ続ける最中、ちらりと送った視線の先で馴染み深い銀髪が揺れる。
其処に向かう悪意の気配はない。
ならば、眼前の脅威に全てを傾けても問題ないはずだ。
(「……申し訳ないけれど、あなたたちはもう、終わってしまったのよ」)
嘆き、呻き、次から次へと押し寄せる『被害者』たち。
その無念は悼むべきだが、しかし生者に仇なすというなら屠る以外にない。
せめて、少しでも早く安らかな眠りにつけるようにと、拳を打つ。
鋼鉄と化したそれは冷たくとも、カレンの心と体にはまだ温かな血が巡っていれば。
「――ごめんね」
貫いた怪異に、滅ぼすことでしか助けられない矛盾を詫びる。
それと想いを重ねるようにして、片割れの銃撃が弔砲の如く鳴り渡った。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功

善なる心故に発症とは何ともやりきれない
そして天使なる異形の体に変じても
他者の安寧を祈るなんて
中々できることじゃない
心優しきサリィくんを必ず守り抜こう
忍務を必ず成し遂げる
袖口から伸ばした糸を
礼拝堂の天井にくっつけて
ウェブスイングで怪異達の頭上を飛び越えて
サリィの前へ
背後に庇う
龍王剣を逆手に構えて怪異に対峙しながら
背後へ声をかける
助けにきた
必ず守る
そして今はまずは自分を大切に行動してくれ
この怪異たちは魔術で奴隷とされた存在だ
自分達の手で君を同じ境遇に落とすことを
生前の彼らは決して望まないはずだから
飛んでくる物品を回避
背後のサリィに当たるリスクがある場合は
剣で撃ち落としたり
糸や影から伸びるゲコ丸の舌で絡め取ったりする
呪を唱えて
宙に顕れた曼荼羅から龍王を召喚し
焔の息吹を放たせる
飛んでくる物品も
そして怨念そのものも
破魔の轟炎で焼却
炎に合わせて俺も斬り込み
同じく破魔の力秘めた焔纏う刃で斬り伏せていく
死してなお操られるとは可哀想に
せめて倒すことで魔術の支配から解放する
全てを倒した後も
次なる襲撃に備える
どこからともなく、礼拝堂の天井へと伸びた一本の糸。
微かに揺蕩う朝靄の間に、それは細い月光の如く儚げに煌めいて。
辿った先に覗く漆黒の袖口が、軽やかに跳び上がった。
言うなれば、糸繰りの天駆け。
蠢く怪異の頭上を越えて、不動・影丸(蒼黒の忍び・h02528)は戦場へと降り立つ。
礼拝堂を侵す怨念の騒めきを断つように、小さな着地音が響く。
「――助けに来た」
漆黒の髪に灰色の瞳を宿す忍びは、炎纏う両刃の直剣を逆手に構えながら言う。
その姿を見つめる少女の瞳が僅かに揺れた。
優しげな表情。濁りのない眼差し。そして、あまりにも清らかな気配。
故に少女は『天使』と化した。無私ゆえに人ならざる者へと変貌した。
しかし、それでも尚、彼女は祈る。己の為でなく、誰かの安寧を願って。
――それが、どれほど難しく、どれほど痛ましいことか。
たとえ黄昏に沈みゆく世界といえど、心優しき少女だけが犠牲を強いられるなど。
(「決して、許されるべきではない」)
ならば、忍びは少女の盾と成り、剣と成ろう。
「必ず、守る」
自らの忍務を定めた影丸は、視線を怪異へと戻す。
次の瞬間、礼拝堂そのものが悲鳴を上げるように軋んだ。
怨念が満ちる。
其処彼処に散らばる無機物が、まるで意志を持ったかのように動き出す。
積年の穢れを吸った十字架。ひび割れた女神像。虫食いだらけの書物。
それらが、怪異たちの意のままに宙を舞い、影丸へと殺到する。
「――!」
刃が閃く。十字架が細切れになって石造りの床を叩く。
糸が奔る。括られた女神像が彼方へと送り返される。
それでも止まらぬ怨念の奔流が、色鮮やかなガラスの破片を散弾のように少女へと差し向ける。
「ゲコ丸!」
鋭く呼び付けた刹那、影が波紋のように揺らぎ、黒蝦蟇の舌がしなった。
絡め取られた鋭い欠片は闇の中に消えて、一瞬ばかりの静寂が戦場に漂う。
「……終いか。ならば」
剣の柄を強く握り、忍びが唱えるのは呪。
「ドォマキ・サラ! ムウン! 光出でよ、汝、倶利伽羅龍王!」
宙に顕れる曼荼羅の如き魔法陣。
轟く咆哮。姿現した龍王が、焔の息吹を見舞う。
満ち満ちた怨念。飛来するがらくた。揺蕩う瘴気。迫る影。
何もかもを破魔の轟炎が喰らい尽くしていく。
そうして祓い清められた空気に、忍びは剣を携えて踏み込む。
浄炎纏う刃が怪異を断てば、羅紗の軛を解かれた亡者たちは苦しみを忘れながら朽ちていく。
そう、これは慈悲なのだ。
「……彼らは魔術で従わされている。自らの意志で君を傷つけにきたのではない」
剣戟の合間、影丸はサリィへと語り掛ける。
「君を同じ境遇に堕とすことを、生きていた頃の彼らは決して望まないはずだ」
だから――せめて、この場で解放してやりたい。
影丸の想いを受けた天使は小さく頷き、両手を組んで静かに祈る。
悲哀。慈愛。溢れ出して戦場を包み込む淡い光。
怪異すらも案じる少女の優しさは、この黄昏の世界において奇跡と等しい。
その奇跡が、死してなお操られる悲運の亡者たちへの、手向けとなることを願って。
俄かに動きを鈍らせた敵へと、影丸は剣を振るう。
刃の閃きと纏う焔で、幽世の者たちを断ち、焼き尽くす。
やがて最後の一閃が振るわれると、戦場には沈黙が訪れた。
忍びは構えを解きもせず、次なる敵に備えて四方を警戒する。
そこに。
「……ありがとう」
サリィの柔らかな声が響いた。
自分を守ってくれたことへの――いや、違う。彼女が伝えたかったのは、哀れな『被害者』たちに安らぎを与えてくれたことへの感謝だ。
どこまでも、どこまでも、己以外の何かを憂いている少女。
優しく、しかし危うい天使に目線を合わせようと膝をつき、忍びはゆっくりと希うように言う。
「君も、まず今は自分を大切に行動してくれ」
少女は僅かに目を伏せ、また一度、控えめな頷きを返した。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功

無私すげ~。
利他行の精神極まればこんなんになるんですか。ぼくには一生辿りけなさそうな域。
大丈夫っていう人ほど大丈夫じゃなくない?でも、被害者さん達にも聞いておこうかな!大丈夫?
大丈夫じゃないね。ごめんね。
ぼくは利他の精神無くとも心清らか。優しさと慈愛に満ちているため、√能力で雨雲を呼び。融合による鈍化を指示します。
怨念は霊的防護で防げれば吉ですが。天使さんに縋るほど理不尽な終わりを迎えましたか。
でも連れてっちゃダメ~。武器は絹索。鈍化した子たちを切り付け殴打して払います。
救いに飢えてるならぼくで我慢して。
ぼくが扱う五色の糸なんざ、救いにもならないでしょうけど。餞になれば幸いと!
無私。
崇高なる純粋の巓。或いは狂気と紙一重の極致。
生涯を賭しても辿り着けるとは思えず、|野分《のわけ》・|時雨《しぐれ》(初嵐・h00536)は嗤うように感嘆を零す。
その眼差しの先には両手を組み、祈りを捧げる少女が一人。
身体を未知の金属に変え、人ならざる者と化して尚、己でない誰かを想う。
利他行の精神の具現じみたそれは、しかし覚者でなく、貧相な翼の『天使』だ。
土地の病の成れ果ての一つだという。
ならば、世界が彼女に“そうあれかし”と願ったのだろうか。
真実は未だ知る由もないが――。
(「大丈夫っていう人ほど、大丈夫じゃなくない?」)
跪く少女然り、それを取り囲む数多の影然り。
本当にそうだとは信じ難い。故に蠢く亡者の顔をひょいと覗き込んで、時雨は尋ねた。
「大丈夫?」
問いかけた相手と視線が交わる。
その身は呪いに塗れ、瞳は怨みに満ちている。
「……うん。ごめんね」
愚問と詫びて身を引く。まともな言葉など返らないと解っていたこと。
不条理に命を奪われ、死後の尊厳すらも羅紗に奪い取られた『被害者』たち。
彼らのために何もかもを差し出してはやれない。
けれども、知らぬ顔をして通り過ぎるほど、冷たくもない。
「ぼくは心清らかで、優しさと慈愛に満ちているので」
調子よく言って指を一振り、空をなぞる。
忽ち天は翳り、風が騒めく。
ぽつりと落ちた雨粒は、死者と生者を分かつ“牛脊雨”の起こり。
礼拝堂に垂れ込めた雨雲が『被害者』たちを吞み込んで、動きを鈍らせる。
誰だって、曇り空に足取りを重くした覚えがあるはずだ。
それも彼らに“かつて”があったことの証明かと思えば、時雨の傍らに瓦礫が落ちた。
悪意と害意を詰め込んだ怨念の塊。唸りを上げて飛来する呪詛の弾丸。
だからこそ、あと一歩のところで時雨には届かない。
亡者の意志と無縁の無機物なら、|理外の力《霊的防護》に阻まれることもなかったのだろうが。
現実は残酷で、|もしも《if》は存在しない。礼拝堂に揺蕩う怨念は時雨を脅かすに至らず、被害者たちが失ったものを取り戻す未来もない。
いくら天使に手を伸ばしたところで、それは不変の事実。
「理不尽な終わりに泣いて縋りたくなる。そこまでは致し方なしとしましょう。でも、連れてっちゃダメ~」
嗜めるように囁き、時雨は絹索を繰る。
蜘蛛の糸のごとく四方へと伸ばされた五色の線は、緩慢な死者を切り裂き、打ち払う。
その一撃一撃に情はない。けれども、心はある。
(「まぁ、ぼくが扱う五色の糸なんざ、救いにもならないでしょうけど」)
死出の旅に戻る彼らが、今度こそ迷わぬようにと願って。
餞に送る絹索は、天使に迫る憎悪や未練を悉く断ち斬り、葬り去った。
🔵🔵🔵 大成功

√能力の少女分隊を使用!
うち2人をサリィの護衛につけるわ
いざという時は1人が時間稼ぎをしている間にもう1人が逃がしたり出来るから、2人1組の行動は基本よね
「金の髪に青い眼。私達とお揃いね」
ただし、サリィの護衛を最優先としつつも、可能な限り射撃で私達を支援すること!
私を含めた残りで敵を迎撃しましょう
少女分隊は数が多いけど、範囲攻撃を受ける人数も増える訳だから、あまり攻撃を受け続けたくはないわね…
複数の敵の攻撃範囲に重なることは避けましょう
集団戦術や制圧射撃の技能を活用しつつ、各個撃破を狙う作戦でいくわよ
「悪く思わないでよ…こっちも必死なのっ!」
被害者達の辛さは考えないようにする…終わったら考える!
航空支援要請の√能力は、回復技を優先しつつ、普段は攻撃技を指示するわ
敵との融合は、サリィが危ないとかの緊急時に使いましょう
Ankerの子が悲しむから、少女分隊や私を使い捨てにはしたくないけど、サリィを救う為に必要なら止む無しと考えるわ
サリィ、貴女が生きていてくれれば私達の勝ちなんだから…!
連携可
「――突入!」
毅然たる号令が朝靄を裂く。
その声に応じて、可憐な金獅子の群れが礼拝堂へと雪崩れ込む。
VII号戦車の|少女人形《レプリノイド》、|クーベルメ《Kuhblume》・|レーヴェ《Loewe》(余燼の魔女・h05998)に率いられた、彼女自身のバックアップ素体12体からなる|少女分隊《レプリノイド・スクワッド》。
予備ゆえに経験値は半分。並列稼働による過負荷か、反応速度は半減。
それでも、多数による制圧力は揺るぎない優位性を持つ。相手が集団であれば、なおさらだ。
閃く銃口。発砲音の重奏。霧散する怪異たち。
耳障りな金切り声が断末魔に変わる中、獅子たちは騒然たる礼拝堂を駆け抜け、無垢なる|天使《サリィ》のもとへと辿り着く。
「金の髪に青い眼。私達とお揃いね」
サリィと視線を交えながら、指揮官たるクーベルメが微笑む。
邂逅は一瞬。基本かつ最小の部隊構成である|二人一組《ツーマンセル》をひとつ、分隊から天使の護衛として張り付かせ、残りの戦力へと矢継ぎ早に指示を出せば、再び銃声が鳴り響く。
「密集を避けて、各個撃破でいくわよ!」
礼拝堂という小さな戦場。一塊となったところに被弾すれば、一網打尽になる可能性は高い。
予測は――ネガティブな想定ほど的中するものだ。怪異たちの金切り声が響く。鼓膜を抉り、直で脳髄に突き刺さるような咆哮を浴びて、1体のクーベルメが機能を停止。膝から崩れ落ちた。
「戦線を維持して!」
叫びながら、クーベルメ自身が孤立した予備機のカバーに入る。
反応速度の減衰が恨めしい。だが、それ以外の能力は損なわれてはいない。
小銃を構え、引き金を引く。3点バーストの銃弾が、亡者の胸を的確に打ち抜く。
倒れ伏す影。それは、不条理に命を散らした何某かの『被害者』だという。
云わば罪なき命。死後も羅紗の魔術士に操られる、戦いの犠牲者。
憐れみ、悼むべき存在だが、しかし彼らの辛さを思考に入れてしまえば、もう引き金は引けないだろう。
慰霊も懺悔も、全てが終わってからだ。
「悪く思わないでよ……こっちも必死なのっ!」
過るものを振り払うように吼えて、クーベルメは銃弾を散らす。
金切り声を上げていた影が、また一つ消え失せた。
それが守るべき天使と同じくらい小さかったことには、今は気付かないふりをする。
そうして機械のように向き合えば、天使を脅かす敵の数は少しずつ減っていく。
一方で、残弾も確実に尽きていく。込める弾が無ければ、突撃銃も無用の長物。
「|Штурмовик《シュトゥルモヴィーク》!!」
クーベルメの指先が天を指す。
即座に届いたのは空気の唸り。衝撃波が礼拝堂を揺さぶり、垣間見えたのは制空の守護者たち。
低空を掠めたそれは、幾つかのコンテナを投下する。
着地と同時、開封された中身は弾薬を中心とした物資の数々。
「各班毎に補給開始! 援護は絶対に切らさないで!」
指揮官として声を張り、クーベルメは戦場を見渡す。
油断はない。だが、敵も黙ってはいない。
漆黒の残響。集約する怨念。歪む空気。奇怪な浮遊音。
“それ”に気付いた時、クーベルメは即座に引き金を引いた。
けれども、銃弾は空を切り、壁を抉る。その軌道と交錯するように飛んだ十字架が、予備機の一体を深々と貫く。
ポルターガイスト現象。
量産型少女人形という科学技術の粋とは対極の、心霊による災い。
「……やってくれたわね!」
怒声と共に唸る突撃銃が仇を討つ。
さらには、補給物資の投下という大役を終えた航空部隊が、上空からの制圧攻撃に任務を切り替える。
衝撃と爆炎。瓦礫が吹き飛び、視界が煙る。
一気に混沌を深めていく戦場。
その中で――信仰を失った女神像の破片が、天使の心臓を狙っていた。
「っ!? サリィ、逃げて!」
クーベルメの叫びも虚しく、時は無常に進む。
取れる手段は、もはや一つしかなかった。
護衛に就いていた二人の片割れが、サリィの前に身を投げ出す。反応から行動までの最短を突き詰めた結果、射線に飛び込むような形になったそれは、身体を無残に抉り取られて力尽きる。
青い瞳が濁るのを、天使が身を震わせながら見つめていた。
だが、慰めの言葉をかける時間さえない。続けざま迫る亡者に、挺身で抗ったのは一対の翼。
影へと吸い込まれるように航空部隊の一機が溶けていく。鋼鉄の精神と融合した敵は、動きを鈍らせて立ち尽くす。
「もう、やらせない……!」
照準を合わせて、発砲。
異形の頭部が砕け散り、ゆっくりとその形を失っていく。
その傍ら、床に横たわる1体の少女人形は、まるで眠っているかのように動かない。
地獄の呼び声に攫われたものも、胸に墓標を突き立てられたものも、二度と立ち上がることはない。
|彼女《クーベルメ》たちは、ただ、守るべき者のために命を使い果たした。
そんな少女人形の亡骸を眺め、今にも青い目から雫を零しそうな天使を庇いつつ、クーベルメは自らにも言い聞かせるように呟く。
「サリィ、貴女が生きていてくれれば、私達の勝ちなんだから……!」
本当は誰一人として失いたくはない。
使い捨ての兵器のように扱いたくはない。
けれど、それが呼ぶ悲しみを知っていても、何かを救うならば身を擲つ。
少女人形の運命とも言うべき決意と共に、クーベルメは戦い続ける。
蠢く影を退けたその後に迫る、新たな脅威の気配を感じながら――。
🔵🔵🔵🔵🔴🔴 成功
第2章 集団戦 『オルガノン・セラフィム』

POW
捕食本能
【伸び縮みする爪】による牽制、【蠢くはらわた】による捕縛、【異様な開き方をする口】による強撃の連続攻撃を与える。
【伸び縮みする爪】による牽制、【蠢くはらわた】による捕縛、【異様な開き方をする口】による強撃の連続攻撃を与える。
SPD
生存本能
自身を攻撃しようとした対象を、装備する【黄金の生体機械】の射程まで跳躍した後先制攻撃する。その後、自身は【虹色の燐光】を纏い隠密状態になる(この一連の動作は行動を消費しない)。
自身を攻撃しようとした対象を、装備する【黄金の生体機械】の射程まで跳躍した後先制攻撃する。その後、自身は【虹色の燐光】を纏い隠密状態になる(この一連の動作は行動を消費しない)。
WIZ
聖者本能
半径レベルm内の敵以外全て(無機物含む)の【頭上に降り注がせた祝福】を増幅する。これを受けた対象は、死なない限り、外部から受けたあらゆる負傷・破壊・状態異常が、10分以内に全快する。
半径レベルm内の敵以外全て(無機物含む)の【頭上に降り注がせた祝福】を増幅する。これを受けた対象は、死なない限り、外部から受けたあらゆる負傷・破壊・状態異常が、10分以内に全快する。
影を祓い、祈りを護った。
礼拝堂に訪れたのは、祝福のような一瞬の静寂。
そう、一瞬だった。
天使と言葉を交わす暇もなく、平穏はすぐに引き裂かれる。
軋むような咆哮。濁り出す空気。
霧が濃く、重く、世界を沈めてゆく。
その合間から現れたのは、聖性と狂気を捩じり合わせた異形。
ヒトの理性と善なる心を失い、本能のままに獲物を求めて彷徨う、哀れな怪物。
それは、天使になれなかった出来損ない。
――オルガノン・セラフィム。
サリィを認めた瞬間、怪物の群れは震えるように身をよじらせた。
歓喜にも似た戦慄。
鋭く伸びる爪、蠢くはらわた。
祝福を切り裂き、奇跡を貪らんとする怪物に相対すれば、天使が悲哀を囁く。
「……あのひとたちも、くるしい……よね……?」
それは黄昏の世界に欠落した感情。
己が身をも省みず、他者の安寧を願う無私の心。
祈りと等しい言葉は、怪物たちにも安らぎが齎されるべきだと訴えている。
この場に集った√能力者たちならば、それも不可能ではないだろう。
もっとも、天使の啓示は絶対ではない。
何よりも優先すべきは、サリィの保護。
ならば群がる敵の一角を切り崩し、礼拝堂を脱して離脱を図るべきだ。
そうすれば、恐らくは“羅紗の魔術士”とも出会さずに済む。
彼女の姿はまだ見当たらない。だが、此方に向かっているのは間違いない。
礼拝堂に留まり、サリィを守りながら戦うか。
それとも、彼女を連れて逃げるための道を拓くのか。
未来は、√能力者たちの手に委ねられている。

「ハロー、哀れな怪物達(セラフィム)。同情はするけれど、容赦はできないわぁ」
【行動】
小さなサリィの頼みだもの。セラフィム達を眠らせてあげましょうか。
歌唱、楽器演奏、全力魔法の技能を使用。葬送のナンバーは『恒陣・乙女を導く超三角』
同じような技がカチ合うけれど、召喚で遠隔から仕掛けられるこっちの方が有利なはずよぉ。
エネルギーバリア、オーラ防御の技能を使用。隔絶結界を拡張して私と小さなサリィを守る防御にしましょ。
天使になれなかったことに罪はない。だからどうか、その魂が救われますように。
「優しいわねぇ、小さなサリィ。どうかその優しさを忘れないでちょうだいな」
【アドリブ・連携歓迎】
崩れかけた天井から、乾いた音を立てて砂礫がこぼれ落ちる。
小さな天使が祈りを編んでいた空間は、いまや剥き出しの殺意に包まれていた。
呻くような呼吸。蠢く肉塊の騒めき。それは涜聖と狂気が織り成す悪夢。
――オルガノン・セラフィム。
悪戯な神が創りかけのままで放り出したような、見るに堪えない天使のなり損ない。
救われなかった魂たち。歪んだ祝福の断片。
彼らと真っ向から相対するのか、それとも天使の逃げ道を作ることに注力するのか。
二つの道は、どちらも正しいけれども――。
「小さなサリィの頼みだもの。|怪物《セラフィム》達を眠らせてあげましょうか」
|人間災厄の虚峰・サリィ《ウィッチ・ザ・ロマンシア》は静かにギターを抱き直す。
短めの黒髪が微かに揺れて、六本の弦が悲哀の音色を鳴らす。
その旋律に呼応するように、天使のサリィはそっと目を閉じた。
祈りの手を重ね、ただまっすぐに、自らを狙ってきた怪物たちにすら安息を願う。
彼女を護り、その願いを叶えられるのは、ここに居る√能力者だけだ。
「ハロー、哀れな怪物《セラフィム》たち――」
真紅のレザージャケットを翻しながら、|人間災厄《サリィ》は帽子のつばを軽く持ち上げた。
傍らには、跪いて祈りを捧げる小さな|天使《サリィ》。
無私の具現化たるそれに向けて、怪物たちの咆哮が降りかかる。
異形の肉が唸りを上げ、金属の爪が鋭く伸びる。
だが――背筋の凍るような殺意は、見えざる壁によって悉く阻まれた。
「|踊り子に手を触れないで《ダンサーインザステージ》って、言われなきゃ解らないのねぇ?」
指を真白のギターのヘッドに運び、ペグをひとつ捻りながら呟く。
ともすれば無防備にさえ映るその姿は、あらゆる脅威から隔絶された結界の只中。
爪も、蠢くはらわたも、異様に開いた恐ろしい口も、何一つ届かない。
つまり、人間災厄と共にある天使にも、決して触れられない。
突きつけられた事実の前に、オルガノン・セラフィムたちは悶え、呻く。
救いを求めるように手を伸ばす。
望まずして獣に堕ちた彼らを、不憫だとは思うけれども。
「――同情はするけれど、容赦はできないわぁ」
柔らかな声音で絶対の拒絶を告げる。
指先が六弦を滑り、空間を震わせるようにして、葬送のナンバーが鳴り響く。
世界を変える音。戦いの旋律。それは魔女が奏でる祈り。
こと座の加護を借りた魔導音波が、虚しく結界を叩く金属の爪を牽制する。
はくちょう座の祝福が暴風を呼び、蠢くはらわたを巻き込んで怪物たちを打ち据える。
わし座の導きによって召喚された猛禽型の魔獣が、宙を裂き、敵を貫く。
三つの星座が織りなすのは、天空に刻まれた祈りのかたち。
|恒陣・乙女を導く超三角《リード・オブ・トライアングル》。
その旋律の傍らで、小さな天使はただ祈り続けていた。
清廉な手を組み、無垢の瞳を閉じて、救済を希うように。
「優しいわねぇ、小さなサリィ。どうか、その優しさを忘れないでちょうだいな」
魔女サリィは囁き、再び弦を弾く。
彼女もまた、望まずして成れ果てと化した罪なき怪物たちの魂が救われるようにと、|歌い《祈り》続ける。
その歌声は一つ、また一つと怪物たちを天に昇らせていく。
🔵🔵🔵 大成功

*連携アドリブ歓迎
ああ――ぬしらも、成れなんだものか
……見失うべからず
この場に於いて何より重んずべきは誰の命か
なにより己への戒めとして音と成す
脱する道へ一番近いのは何処であるか
潜入時に見下ろした地形や障害物
感染者の数、仲間の声を手掛かりに導き出す
許せとは言わぬ、呪えばよい
切り拓かせて貰う
時機は仲間に合わせ、或いは読み
目的の方向より迫る感染者たちの中央へ
数枚を纏めて、くしゃり丸め潰した符を放り
もう一度騒々しい爆破を起こす
多少なり怯めば生まれるであろう包囲の間隙へと
炎の生む暴風を吹き荒れさせ、焦がし吹き飛ばす
心痛めるであろう娘へも胸中で詫びて
あらゆる余波が及ばぬよう護りながら
ひらいた脱出路へと供を
祈りは尊いものだ。
けれど、無垢なる眼差しに絆されて、目的を見失ってはならない。
「この場に於いて、何より重んずべきは誰の命か」
ツェイが自戒の意を込めて発した音は、礼拝堂に集う√能力者たちの胸に重く響いた。
惑うことなかれ。
一つの指針となる言葉で憂いを断てば、見据えるべきは天使を救う蜘蛛の糸。
そのか細くも確かな導線を掴むべく、ツェイは哀れな怪物たちの一角へと踏み出す。
視線でなぞった世界、肌で感じる敵の気配、通り抜ける微かな風の手触り、仲間たちの言葉。
読み間違いはない。これから進む先にこそ、脱出路は拓けるはず。
立ちはだかる悪夢の産物さえ、祓うことが出来れば。
(「ああ――」)
ぬしらも、成れなんだものか。
憐憫、共感、自嘲、仁愛。様々なものが入り混じり、白群の眼が揺れる。
けれども、同情は手を引く理由にはならない。
「許せとは言わぬ、呪えばよい」
想いは口にしてこそ覚悟となり、言葉によって行いは定まる。
ツェイは懐から数枚の呪符を取り出し、手早く一纏めにして、くしゃりと丸めた。
潰したそれに押し込めるのは、言外の憂い、哀しみ、誓い、すべて。
標的は、脱出路と定めた方向で蠢く怪物たちの中核。
放つ。光が迸り、熱が爆ぜる。
騒々しい爆発音にオルガノン・セラフィムたちは怯み、動きを僅かに止める。
その頭上に降り注ぐ歪な輝きは祝福の顕れ。
成れ果ては成れ果てのままであれと迫る呪いの証。
微かに焼け焦げた怪物たちの肌が、瞬く間に癒えていく。
生半な手段では、オルガノン・セラフィムたちの包囲を打ち破ることは叶わない。
だからこそ、間隙に力を捻じ込む。
呪符を惜しまず散らした後、刹那に吹き荒れるのは炎が生む暴風。焦熱を伴う飄風。
露払いと呼ぶには苛烈なそれが、天使のなり損ないを焼き焦がしていく。
痛みに呻く声。熱に焼かれる手。
天使に縋るようなそれらは吹き飛び、もはや行く手を阻む障壁とはなりえない。
(「……すまぬ」)
振り向いて天使と対することは出来ず、ツェイは胸の内で詫びる。
無垢な祈りに、火と風をもって応じた己を、どう思われようとも構わない。
それでも護るのだと。
決めたからには、砂礫の一つさえ及ばぬようにと気を払う。
そうしてツェイの進む先には、少女を明日へと導く道が、少しずつ拓かれ始めていた。
🔵🔵🔵 大成功

おっ、さっきより厄介そうだね。
とりあえず初動の方針は変えず、上から狙撃していくよ。
サリィについてだけれど、みんなはどう判断するかな。
逃がす方針なら、わたしが護衛としてついていこうかな。
オルガノン・セラフィムにも安らぎを……ってことにするなら、能力者たちには戦ってもらうしかない気がするから猶更ね。
彼女自身が残るなら仕方ない、私は彼女のそばにポジション取りをしてそこから敵兵を狙撃していくよ。
なるべく接近を妨げられるよう足を破壊したいよね。
大丈夫、わたしはスナイパーだし、部位破壊は得意な方なんだ。
カレンや能力者のみんなには申し訳ないけれど、前衛は難しい。
だってわたしすぐ死ぬからね。

さっきよりは厄介そうね。
でもやることは変わらない、私は前衛として彼女たちの前に立ちサリィを守るために戦うわ。
近接格闘を中心に接近戦で戦うわね。
サリィの方に抜ける個体が出てきたら決死戦を使って捕縛、引き寄せてから拳で貫いてあげる。
あなたの硬そうな装甲と私の拳、どっちがより強固かしら。
あら、あなたたちも似たような技で返してくるのね。
それじゃあどっちが強いか……正面から勝負しましょうか。
サリィは守るより逃がした方が良いかなと思うんだけれど、他のみんなはどうかしらね?
ま、どっちにしても安らぎをってことらしいから……私はここでできる限りの敵兵を眠らせてあげようと思っているわ。
※連携など歓迎します
礼拝堂を囲み、天使へと迫り来る怪物の群れ。
オルガノン・セラフィム。
歪な祝福の成れの果て。押し寄せる涜聖と狂気の奔流。
その只中でも眉一つ動かさず、アンナが狙撃銃を肩に預けながら呟く。
「さっきより、ずっと厄介そうだね」
「そうね。でも、やることは変わらないわ」
並び立つカレンが応じて、周囲を素早く見渡した。
怪物たちが視線を注いでいるのは、天使の|少女《サリィ》。
彼女を護ることこそが、此処に居る者たちに課せられた最優先事項だ。
それを見誤るなと指摘する者もいれば、カレンは仲間の意見に同調して頷く。
「私も逃がした方が良いと思うわ」
アンナも異論はない。片割れがそう言うのならば、それで良い。
問題は――自分がただ一人、|只人《Anker》の兵士でしかないこと。
「わたしは護衛に就くよ。前に出たらすぐ死んじゃうからね」
「……滅多なこと言わないでよ」
カレンは窘めるように呟くが、事実は事実として受け止める以外にない。
死ねば終わり。その当たり前から外れているのは、√能力者たちの方である。
とはいえ、異能を恨めしく思う必要もない。
その力こそが、一人の無垢な少女を救わんとしているのだから。
――銃声が轟く。
天使の傍に立ったアンナは、オルガノン・セラフィムの脚を狙って引き金を引く。
先刻まで陣取っていた礼拝堂の上方ほど狙いやすくはないが、万が一の備えと引き換えであれば仕方ない。
撃ち抜かれた異形が倒れ、敵群の侵攻が僅かに遅れる。
どれだけ歪な形に変わっていても、四肢を備えて動くのならば、それは必然の帰結。
重心を支え、移動に必要不可欠な脚を破壊する。
そうと決めて放つ弾丸には僅かなブレもない。
なぜならば――アンナはスナイパーだから。
ただ一点を貫き通すことに関して、狙撃手の右に出るものはない。
しかしながら、射手は万能という訳でもなく。
殲滅力ではやや劣る。弾を一つ込める間に敵は一歩進み、一本砕く間に二本の脚が近づいてくる。
やはり前衛を務める者の存在は必要不可欠。
それが片割れというなら、これ以上に頼もしいことはないだろう。
「あなたの硬そうな装甲と私の拳、どっちがより強固かしら」
脚を失って倒れたオルガノン・セラフィムに、カレンが鉄拳を叩き込む。
肉と骨を繋ぐ機械部品が拉げて飛び散り、断末魔と震えを残して異形は天に召される。
銃弾よりも激しい殴打で破れないはずはない。
手ごたえを感じたカレンに――ふと迫り来る無音の爪撃。
「――!」
乾いた音と共に弾丸が空を裂き、大腿を貫かれたオルガノン・セラフィムが体勢を崩す。
突き刺さりかけた爪は逸れて、すかさずカレンの拳が唸る。
振り向いて「助かった」とか「さすがね」とか、そんな甘えた台詞を片割れにあげている暇はない。
敵は尽きる気配もなく湧き続ける。
それらに出来る限り、天使が望む安らぎを与えようとすれば、真っ向から殴り続けるしかない。
再び迫るオルガノン・セラフィムの爪を、拳銃の牽制射撃で凌ぐ。
次いで来た蠢くはらわたには、閃く鎖を。
絡み合う二本で結ばれた相手を見据えて、カレンは不敵に宣う。
「似たような技を使うわね」
相手の自由を奪うための二手。ならば次に繰り出されるのが、本命の一撃。
オルガノン・セラフィムが口を開く。
顔を半ばから裂くような、人ではありえない異様な動きにも動じず、カレンは拳を握り直す。
「どっちが強いか、勝負しましょうか」
言葉は返らない。返るのは、殺意だけ。
天使を貪ろうと異形が迫る。その頭に向かって拳が唸る。
接触。衝撃。
首から捥げたオルガノン・セラフィムの頭が砕け散る。
その無残な様子を遮るように、アンナは天使の前に立って、また引き金を引く。
「しっかりついてきてね」
呼びかけに天使が頷く気配がした。
そして彼女の祈りを背に、二人の少年兵は天使のなり損ないを屠っていく。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功

連携アドリブ可
……星詠みの注文はサリィの保護だ
引き受けた以上は完遂する
どんな手段を取ったとしてもな
対してサリィの『おねがい』の優先順位は低い
聞く必要もないくらいにはな
まぁ、それはそれとしてだ
注文が完遂されるならある程度自由にしていいだろ?
なら敵は皆殺し、単純な話にしちまおうぜ
真正面から接敵し体術を仕掛けながら近距離で【奔星】
敵の√能力の性質上、直撃弾は望めねぇだろう
だが問題ねぇ
狙いは黒炎の防壁を味方含めサリィに付与し、隠密で機を伺う敵ごと包囲を爆風で『焼却』し消し飛ばす事だ
もしサリィと離脱する味方がいるなら包囲の穴から離脱してもらい、俺は礼拝堂に残って殿でもやるさ
敵を一匹残らず焼き尽くすまでな
「|子供《ガキ》の『おねがい』なんか聞く必要はねぇ。星詠みの注文は、サリィの保護だ」
守るべきか攻めるべきか。
交錯する√能力者たちの意見を、空悟は切って捨てた。
その荒い物言いにハッキリと追随する者はいなかったが、しかし真理を突きつけたのは空悟だけではない。
本来の目的を見失うな。この場において優先すべきは何か。
忠言を受けた√能力者たちの天秤は、徐々に傾いていく。
そうして離脱を選ぶ者たちに背を預けながら、黒衣の暗殺者は、ひとり笑った。
「まぁ、それはそれとしてだ。注文が完遂されるなら、ある程度自由にしたっていいだろ?」
不敵な笑みの奥に滲む殲滅の意志。
逃げたい奴は勝手に逃げろ。そう言わんばかりに、空悟は戦場の対極に立つ。
仲間を逃がす最後尾。追撃を止める“|殿《しんがり》”の役割。
それを引き受けた空悟には、自己犠牲による献身などという陶酔はない。
戦術や戦略という観点からでもない。√能力者たちの中にはそういった思考の者もいたが、戦場での理屈を一笑に付した空悟は、只々覚悟を示してみせた。
「単純な話じゃねぇか。……敵は、皆殺しにすりゃいい」
害なす者が消え失せれば何を憂うこともない。
天使の保護という使命も果たされる訳だ。
(「引き受けた以上は完遂する。どんな手段を取ったとしてもな」)
オルガノン・セラフィムの群れに向かって、ゆっくりと踏み出す。
歪な祝福から生まれた殺意の咆哮を、涼しい顔で迎え撃てば。
黒い焔が、揺らぐ。
爆ぜるような加速。鋭く地を蹴り、真正面から敵に切り込んで繰り出すのは、己が肉体を武器とする一撃。
拳、肘、膝。喰らいつくように連打を浴びせかけて、昂ぶるままに吼えてみせれば。
「纏めて消し飛んじまえ――!」
黒炎の弾丸が迸る。
だが、その瞬間だった。
オルガノン・セラフィムが動く。殺意を察知した黄金の生体機械が、異音と共に世界を歪める。
後から動いて先手を取る、云わば後の先を実現する“生存本能”。
「……そう来るかよ」
深く踏み込んだはずの間合いは、気付けばオルガノン・セラフィムのもの。
黄金の生体機械が稼働し、鋭く変形する金属の肢が、斬撃と共に空悟の肩を裂く。
直撃こそ避けたものの、防御は間に合わない。
布地が裂け、血飛沫が舞った。
直後、オルガノン・セラフィムの身体は虹色の燐光に包まれる。
気配が消え、音が消えた。目視すら叶わない、完全な隠密状態。
「――で、助かるとでも思ったのか?」
その問いは、存在しない敵に向けたものではない。
そこにいると“理解っている”からこその、断言。
焔が密やかに滾る。やがて一点に集約されたそれは、今度こそ弾丸として放たれる。
逃れたはずのオルガノン・セラフィムの影が、礼拝堂の床に色濃く映った。
それを爆心地として黒炎が吹き荒れる。
空間ごと穿ち、焼き裂き、炭化させるような爆風が広がる。
それは天使を護る防壁になる一方で、彼女に仇なす全てを焼き滅ぼす。
「“殺られる前に殺る”ってのが、テメェらの本能ならよ――」
一匹残らず焼き尽くすまで、絶えることなく燃え続けるのが焔のさだめ。
それは、空悟という男の在り様を示しているようでもあった。
🔵🔵🔵 大成功

天使ちゃん優しいんだね~。
必要ない戦闘は避けたいもので。逃げれるなら天使ちゃん引っ掴んですたこらしたいのですが。無理かな。
天使ちゃんは庇いつつ、多少の攻撃は激痛耐性で我慢します。
√能力を使い、敵集団の中心を狙って一斉発射。一気に来られたらたまりませんので、戦場全体の混乱を引き起こします。その隙に絹索を使って近接戦に持ち込み、個々の敵を撃破しましょう。
なり損ないなんて可哀想に。自らの無知と欲望に囚われているに過ぎないのでしょう。なんで天使襲ってるかわかってないでしょ。
少しでも天使に近づいていたからその姿なのでしょうに。悪魔みたいで皮肉ですねぃ。
キミたちの清さは、今は執着に過ぎません。
無私を讃える言葉は、天使ほど純朴ではなく。
それでも訝しむことを知らない少女は、清廉な眼差しで此方を見つめてくる。
眩さに思わず目を逸らしてみれば、新たに見据えた先で蠢くのは、病が生み出した獣。祝福に歪められた成れの果て。
オルガノン・セラフィム――哀れな怪物の群れは、天使への殺意を募らせていた。
ひしめく彼らから逃れられるものなら、天使の首根っこを親猫の如く引っ掴んでとんずらかましたいところだが、しかし。
(「無理かな……うん、無理だな」)
どうあがいても戦いは避けられない。
ならばと腹を括り、天使の少女を矮躯で庇う。
そうして無垢の願いを背に感じつつ、機先を制して撃ち放つのは負の想念を砕き、邪気を祓う|金剛杭《プルパ》。
敵群の中心を狙って発射されたそれは、天から降る罰のように次々と炸裂していく。
朝靄に入り混じる土煙。方々から上がる断末魔と似た呻き。
戦場がより一層、混沌としていく。
その中で――尚も蠢く影へと、迷わずに一歩、踏み込む。
(「“なり損ない”だなんて、可哀想に」)
胸の内でだけ零される、冷ややかな憐憫。
望まずして堕ちたのだとしても、今の彼らは自我も理由も忘れ、天使を襲うだけの存在だ。
無知と欲望に囚われたまま、光を貪りに来る怪物でしかない。
(「……皮肉ですねぃ」)
天使の座へと押し上げられようとしていた者たちは、いまや悪魔のように映る。
彼らの醜さが天使を穢そうとするなら、阻む以外にはない。
五色の糸が唸る。群がる悪魔たちは斬り裂かれ、掃き捨てるようにして葬られる。
その最中。
咆哮に紛れ、無音で伸びる爪。
牽制の一撃とはいえ、掠めただけでも皮膚を裂くには十分な凶器。
例外でなく天使を狙ったそれに、時雨は躊躇わず己を差し出した。
身を捩り、無垢を庇って刃を腕でいなす。裂けた布の下に熱い感触が広がり、じんわりと血が滲む。
だが、時雨は顔色一つ変えない。
痛みを知らぬという訳ではない。むしろ馴染み深いものであるからこそ、断言できるのだ。この程度なら耐えられる、と。
そうして、図らずも自らの行動が無私を体現したことには、口元を歪めつつ。
目を細めて一閃。受け身から無駄のない流れで、ごく自然に絹索を走らせる。
空間に音もなく走る線が、蠢くはらわたを斬り捨てて地に堕とした。
けれど残骸には目もくれずに、次。
異様に開かれたオルガノン・セラフィムの口。
軋む顎から溢れ出た強撃の予兆を、鋭く裂いて潰す。
(「……キミたちの清さは、今は執着に過ぎません」)
糸を手繰りながら囁く。
その傍ら、事切れた怪物は現世の軛を解かれ、在るべき場所へと昇っていく。
🔵🔵🔵 大成功

留まるか、離脱するか…
サリィを護るのに違いはないし、どちらも悪い作戦じゃないわ
多数派に従いましょう
その前提で、私の意見を述べるなら…
戦術的な観点では留まることは正解じゃないかもしれない
だけど、アマランスはオルガノンの回収も目的にしてる
それは阻止したいし、サリィもオルガノンを見捨てたくないだろうから、礼拝堂に留まってサリィを守りながら戦う方を推すわ
防戦になるなら、拠点防御や継戦能力の技能を活用しつつ周囲の仲間と連携して射撃戦よ
牽制、捕縛、強撃の流れを妨害するわ
この敵を迎撃してもまだ次があるから、√能力は回復技を指示して耐えましょう
敵との融合は、サリィを護る為のここぞという時に指示するわね
連携可
いずれにしても、一戦交えなければならないのは同じ。
天使の保護という最終目的も変わらない。
それを踏まえて、礼拝堂に留まるべきか、それとも離脱を試みるべきか。
意見を交わす仲間たちの言葉に耳を傾けていたクーベルメは、ふと一人の仲間が殲滅の意志を露わにしたタイミングで、静かに口を開いた。
「――確かに、戦術的な観点なら、ここに留まることは正解じゃないかもしれないわね。でも……」
クーベルメは事前に与えられた情報を思い返す。
アマランス・フューリー。
羅紗の魔術士がこの場に介入しようとする理由は、天使の捕獲だけではない。
オルガノン・セラフィムの回収――それもまた、彼女の目的のひとつだ。
ならば天使を逃したと知った羅紗の魔術士が、そのまま手ぶらで帰るとは思い難い。
礼拝堂に取り残されたオルガノン・セラフィムは、恐らく彼女の手に落ちるだろう。
黄昏を迎え、人類同士の争いも避けられないであろうこの|世界《√》において、汎神解剖機関と反目する組織の増長に繋がる行為を見過ごせば、いずれ厄介な事態に繋がるのではないだろうか。
「|回収《それ》は阻止したいし――」
ちらり、とクーベルメは天使を見やる。
少女の姿をしたそれは無垢な眼差しを送り、√能力者たちに成れ果ての解放を願い続けている。
「……サリィのためなら、私は此処に留まって戦うわ」
言葉に迷いはない。
凛々しい決意は、黒い戦闘服の裾を揺らした。
クーベルメは突撃銃を構える。
対甲攻撃が強化されたそれは、戦闘機械群にも“一応”通用する程度のもの。
骨肉と金属の混ざりものだって貫いてみせるだろう。
弾を込め、味方の位置を検め、小さく息を吐いて――撃つ。
第一射。伸びかけた爪の根元へと撃ち込み、接近を牽制。
第二射。蠢くはらわたが這い寄るよりも一歩早く、その接近を鉛玉で捩じ伏せる。
そして、第三射。異様な大口を開けたオルガノン・セラフィムに雨あられと銃弾を浴びせ掛けてやれば、それに続いた仲間の狙撃が哀れな怪物を爆ぜるように粉砕してみせた。
その一瞬に足を動かし、クーベルメは聖歌隊席の残骸に滑り込む。
遮蔽物の影から射線を通し、敵の動きと戦場の流れを読み解いて、砕く。
拠点の防衛や|継戦能力《時間稼ぎ》なら得意分野だ。
再びオルガノン・セラフィムへと牽制射撃を仕掛けて、見据えるのはさらに先。
頭上へとサインを送り、航空部隊に物資投下を促す。
的確なタイミングでの補給を怠れば、流れはたちまち敵群のものになってしまうだろう。
もしもの時は先の“被害者”戦と同様、融合による鈍化でサリィを護らせることも考えてはいるが、やはり航空部隊の本命は戦線維持への貢献。
同じく射撃戦に挑む仲間のもとにも弾薬を届けながら、クーベルメは手榴弾を放った後に自らも弾込めを行う。
「……大丈夫」
天使のもとにはネズミ一匹だって辿り着かせない。
言葉の直後に轟く銃声。空になった薬莢が床に跳ね、澄んだ音を立てて転がる。
そのひとつひとつを覚悟の証として積み重ねながら、クーベルメは撃ち続ける。
仲間の背を支え、祈りを守るため。
黒衣の砲火は尽きることなく、怪物の侵攻を食い止める。
🔵🔵🔵 大成功

善なる心故にオルガノンに変じてしまった
彼ら彼女らはサリィくんの同輩と言えるだろう
サリィくんがあのように変じた世界も
きっとあり得た√だ
サリィくんに賛成だ
オルガノンに堕ち
更に羅紗の奴隷や実験体とされるのを
黙って見過ごすことはしない
倒すことでせめて救ってやりたい
礼拝堂に留まり守りながら戦う
この忍務、必ず成し遂げる
真言を唱えて龍王剣に焔を纏ったら
サリィくんの守りを
忍犬や忍猫、忍鴉らに任せて
瞬時に間合を詰めて
手近なオルガノンに駆け寄りざま
装甲や関節の隙間を狙い
逆手持ちの刃を一閃
斬り裂いた傷口から降魔の焔が駆け
回復する暇がないよう一撃で溶解或いは破壊
風の如く駆けながら
次々とオルガノンを一撃必殺で仕留めていく
もし途中サリィくんの危険を知らせる
忍獣の声あれば素早く戻って敵を排除する
更に真言唱えて
現れた曼荼羅から龍王を召喚
その轟炎でオルガノンのみならず祝福そのものを焼却
非道を行う異形としてありづつけることを
元々のあなた方なら決して望まないはずだ
その心に応える為にも回復は打ち止めにさせてもらう
全てのオルガノンを送る
その時まで刃を振るう
戦闘後
インビジブルとなったオルガノンらに片合掌
いつの日か真の休息が訪れることを祈っている
魔術士の襲撃に備える
本能のままに祈りを喰らわんとする怪物の群れ。
礼拝堂に押し寄せる狂気、オルガノン・セラフィム。
その異形は天使のなり損ない。祝福を受けきれなかった成れの果て。
悍ましいものだ。けれども、影丸は確りと理解している。
彼らは生まれながらの邪悪ではない。
むしろ、誰よりも崇高な善性を持つが故に捻じ曲げられてしまったのだ、と。
彼らもまた、祈りを捧げる者だった。
無私の心で誰かの痛みを分かち、誰かの悲しみを抱えようとした。
それが病を呼び、歪められ、天使を喰らおうとする怪物となった。
ともすれば、少女サリィこそがその一人となっていたかもしれない。
忍びの傍らで目を瞑り、祈る幼い娘。
ほんの少しばかり運命が悪戯をしていたら、彼女こそが討つべき敵と化した|世界《√》だってあり得たのだ。
だからこそ、天使の少女は今も祈り、願っている。
同輩ともいうべき存在の安寧を。平穏を。救済を。
そして、心の内は影丸も同じ。
望まずして歪められた者たちを、せめて此処で終わらせてやりたい。
無私の行き着いた先が、羅紗の魔術士への隷属では、あまりにも惨い。
(「……見過ごすことはできない」)
たとえ刃を押し当てられようとも、動じぬ心こそが忍びのあるべき姿。
影丸は剣を逆手に構えて、静かに誓いを立てる。
尊き無私の救済。忍務と定めた険しき使命の成就を。
(「必ず、成し遂げてみせよう」)
決意と覚悟を抱き、紡ぐのは御仏に連なる真実の言葉。
「ノーマクサーマンド! バーサラ! ダンカン!」
唱えれば刹那に迸る迦楼羅炎。
礼拝堂の空気をも震わせたそれを刃に纏い、狙うはオルガノン・セラフィムの殲滅。
「サリィくんを頼んだぞ……!」
短く告げれば、天使の周囲を獣たちが囲う。
忍犬、忍猫、忍鴉……様々な形の影は、主の命に各々の返事で応じた。
そうして後顧の憂いを断ち、影丸は疾駆する。
音もなく、風の如き速さで、滑り込むのは蠢く哀れな怪物の懐。
――斬。
逆手持ちのまま繰り出す、炎纏う刃での一閃。
肉と骨と機械の混ざり合う怪物の奥深くまでに潜り込んだそれは、背骨と思しき部位を断ち切る。
傷口からは降魔の炎が駆け抜け、一瞬にして燃え広がった。
オルガノン・セラフィムは祓い火に悶えながら崩れ落ちていく。
その燃え尽きるまでを見送る暇もなく、次へと斬りかかれば。
二つ、三つ、四つ――踊る木の葉のような身軽さで、影丸は的確に急所を突き、怪物たちを一刀のもとに斬り伏せていく。
その最中、忍獣たちが声を上げた。
鋭い咆哮。或いはそれに似た何か。全てはサリィに迫る危機を告げるもの。
影丸は瞬時に思考を切り替え、天使の影として舞い戻る。
オルガノン・セラフィムの爪が伸び、はらわたが蠢き、口が異様なまでに開かれるのが見えた。
「――――!」
閃く刃が爪を弾き、邪悪祓う焔がはらわたを焼き尽くす。
ならばと迫る怪物の顎に、合わせて繰り出す斬撃。
断末魔も残さず、オルガノン・セラフィムが裂けて散る。
ちらりと見やったサリィには傷一つない。
ならば――冥福を祈るのは彼女に任せておく。今は、まだ。
「ドォマキ・サラ! ムウン! 光出でよ、汝、倶利伽羅龍王!」
弔辞の代わりに紡ぐ新たな真言。
宙に開いた曼荼羅から顕現せし、その威容は紛れもなく、龍王。
迸る轟炎が因縁を焼き滅ぼす。不死の呪詛じみた祝福すらも焼却する。
苛烈。あまりにも苛烈なそれは、しかし罪を咎める罰ではない。
天に仇なす行いでもない。
救済。全ては天使の少女が願う通り、救いに繋がると固く信じればこそ。
(「あなた方も、そのままで在り続けることを望んではいないはずだ」)
確信と共に荒れ狂う焔が、刃一つでは成し得ない数のオルガノン・セラフィムを一纏めに滅ぼす。
やがて、燃え尽きた異形は世界から拭い去られていく。
影も形も失って消えゆく、名も知らぬ者たち。
けれども彼らの存在した証は残る。
影丸の胸に。天使の少女が今なお示す、無私の心に。
それをせめてもの慰めとして。
(「全て、葬る」)
忍びは務めを果たし終えるまで、刃を振るう手を止めない。
――そして、燃え盛る炎が鎮まった後、訪れるのは静寂。
オルガノン・セラフィムを退けた礼拝堂には、清らかなれども重苦しい空気が漂う。
影丸は刃を手にしたまま、静かに片合掌を捧げた。
いつの日か、真に安らぐ時が訪れることを祈って。
瞑目するその姿は、もはや僧のようですらある。
傍らには天使の少女が跪き、手を合わせている。
未知の金属と化した彼女の肌を、何処からか流れ込んできた風が撫でていく。
祈りを空へと連れていくように。
だが、その風は穏やかさばかりを運んではこない。
気配が変わる。空気が邪なものを伝えてくる。
――羅紗の魔術士。
影丸の身の内に、また一つ使命の焔が灯る。
守るべき者のため。祈りの跡を穢さぬため。
忍は、再び刃を構える。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功
第3章 ボス戦 『羅紗の魔術士『アマランス・フューリー』』

POW
純白の騒霊の招来
【奴隷怪異「レムレース・アルブス」】を召喚し、攻撃技「【嘆きの光ラメントゥム】」か回復技「【聖者の涙ラクリマ・サンクティ】」、あるいは「敵との融合」を指示できる。融合された敵はダメージの代わりに行動力が低下し、0になると[奴隷怪異「レムレース・アルブス」]と共に消滅死亡する。
【奴隷怪異「レムレース・アルブス」】を召喚し、攻撃技「【嘆きの光ラメントゥム】」か回復技「【聖者の涙ラクリマ・サンクティ】」、あるいは「敵との融合」を指示できる。融合された敵はダメージの代わりに行動力が低下し、0になると[奴隷怪異「レムレース・アルブス」]と共に消滅死亡する。
SPD
輝ける深淵への誘い
【羅紗】から【輝く文字列】を放ち、命中した敵に微弱ダメージを与える。ただし、命中した敵の耐久力が3割以下の場合、敵は【頭部が破裂】して死亡する。
【羅紗】から【輝く文字列】を放ち、命中した敵に微弱ダメージを与える。ただし、命中した敵の耐久力が3割以下の場合、敵は【頭部が破裂】して死亡する。
WIZ
記憶の海の撹拌
10秒瞑想して、自身の記憶世界「【羅紗の記憶海】」から【知られざる古代の怪異】を1体召喚する。[知られざる古代の怪異]はあなたと同等の強さで得意技を使って戦い、レベル秒後に消滅する。
10秒瞑想して、自身の記憶世界「【羅紗の記憶海】」から【知られざる古代の怪異】を1体召喚する。[知られざる古代の怪異]はあなたと同等の強さで得意技を使って戦い、レベル秒後に消滅する。
哀れな怪物たちの群れを退け、√能力者と天使は礼拝堂を抜け出す。
戦いの跡、かつての祈りに背を向けて。
安寧を目指そうとする一行の前に――すぐさま立ちはだかる、女の影。
アマランス・フューリー。
羅紗に込められた古き呪文にて、隷属を強いる支配の魔術士。
その瞳がまっすぐに見据えるのは、小さな天使。
「一応、聞いておこうか。それを渡す気は?」
√能力者たちは当然、応じない。
沈黙にて無音の、或いは言葉にして明確な拒絶を示す。
「……だろうな。その愚かさは嫌いではないが」
ふわりと翻る羅紗。
布地に次々と浮かび上がるのは、古の呪文。
天使を奪われるわけにはいかない。
√能力者たちは前に出る。力で以て意志を示そうとする。
その背後で、サリィがそっと手を胸に当て、小さく呟いた。
「みんなが守ってくれた。助けてくれた。次は、わたしが……」
清らかな光が滲み出る。
それは祝福のように、√能力者たちを包み込む。
――瞬間。
アマランス・フューリーの羅紗から放たれた魔術が、鋭く空を裂いた。
不意の一撃。けれども、√能力者たちは微動だにしない。
代わりに流れた一滴の赤は、祈る天使の眼から。
「……美しいな。この|世《√》もまだ、捨てたものではないか」
アマランス・フューリーは微かに口元を歪める。
再び翻る羅紗。次なる一撃はさらに強烈なものとなるだろう。
√能力者たちは各々に構える。その異能で災いを祓わんと動き出す。
ただ、祈る者のために。
===============================
今回の戦闘中に限り、√能力者たちの耐久力が上昇します。
サリィの力を√能力のように表現をすると、
『祈りを捧げている限り、レベル範囲の仲間が受けたダメージを代わりに受ける』
という感じです。
もちろん、被弾しなければ身代わり効果は発生しません。
===============================

「ハロー、魔術士(メイガス)。言葉を返すようだけど……愚か上等、音楽は理性や打算でやるもんじゃないわぁ」
【行動】
ありがとう、小さなサリィ。でもね、ガールの代わりに血を流すために私はここにいるのよ。
演奏しながらアマランスに近付くわぁ。インファイトよ魔術士。
【サリィ(天使)の能力範囲外に出て戦闘】
私はここまで手傷を負ってない。即座に爆散はしないでしょう。隔絶結界、憧憬礼装、決戦礼装の防御をフルに使って演奏の時間を稼ぐ。(オーラ防御、エネルギーバリア、激痛耐性)
チャージが終わったなら、その澄ました顔に一発くれてやるわぁ。(楽器演奏、全力魔法、歌唱)
「これは愚かじゃない、浪漫なのよ魔術士」
アドリブ歓迎
背に庇う光。
祈りは小さく繊細で、今にも音を立てて壊れてしまいそうな気がした。
だから、進まなければならない。歩み出さなければならない。
儚さの盾となり、血を流す覚悟があればこそ、この舞台に立った。
「ありがとう、小さなサリィ」
優しい。本当に優しい娘。どうかそのままで。
別れを告げるようにして、真紅に縫われた災厄は踏み込む。
天使の祈りも届かぬ場所。
世界の黄昏。迫る暗夜の裏側で蠢く者の眼前へと。
「ハロー、|魔術士《メイガス》」
始まりはいつだって歌い出すような呼びかけ。
爪弾く六弦の残響が世界の歩みを遅らせる。
その間にまた、一歩。
「気でも狂ったか、|魔女《ウィッチ》」
鋭い言葉。煌めく羅紗。
五線譜に踊る音符のように、流れた文字列が魔女を乱れ撃つ。
「愚かな。大人しくあの娘を渡してさえいれば――」
「言葉を返すようだけど」
軋む“隔絶結界”も意に介さず、さらに前へ。
「……愚か上等、音楽は理性や打算でやるもんじゃないわぁ」
証明とばかりに強大な魔力をギターへと流し込む。
響く音色。燃えて、蕩けて。奏で歌うその姿は――魔術士には理解の及ばぬもの。
「上等、と来たか。ならばそのまま死んでいけ。己の愚かさを呪うこともなく」
勢いを増す羅紗の魔術。
もはや“|踊り子に手を触れないで《ダンサーインザステージ》”と御することも叶わない。
輝く文字は舞台上に雪崩れ込み、赤の緞帳を捲り飛ばして、乙女に喝采でなく罵声を浴びせ掛ける。
けれども、演奏の手は止まらない。
痛みを感じる暇さえない。傷つくことを忘れた身体は、苦悶の代わりに歌を生む。
唸る六弦。渦巻く魔力。旋律は凍えるように冷たく、それでいてどこまでも熱い。
全ては乙女のため。
「――これは愚かじゃない、浪漫なのよ。|魔術士《メイガス》」
佳境に至る音の連なりは、|甘冷・黒のハートを捧げるこの日214《ラブリーブラックトゥーワンフォー》。
全力を込めた魔導弦が弾ぜて、極低温の冷気を纏いながら敵を打つ。
その澄ました顔に一発。叩きつけてやれば、魔術士も無事ではいられない。
輝きを一時失った羅紗と共に、弾き飛ばされるその様は――。
「無様だわぁ」
先送りにしていた痛みに耐えながら、虚峰・サリィは嘲笑う。
ただ一人に向けたワンマンショー。無茶の代償は相応。
けれど、魔術士の面を歪ませてやることが出来たなら重畳。
俯かずにギターを構えて、サリィは立つ。
誰よりも優しく祈る者のために。
🔵🔵🔵 大成功

耐久力が上昇する…って、サリィが代わりに傷ついてるじゃない!
そんなことさせたくない…けど
守ってくれるって気持ちは嬉しいし、いざという時は頼りにしてる
ダッシュの技能を活用しつつ、初手から√能力全開で攻めるわ
死んでいった者…敵も味方も自分自身も!
犠牲を増やさない為にも、シャベル突撃で勝つ!
「貴女に分かるかしら…この私の体を通して出る力が」
怪異は時間で消滅するから、3倍の速度で躱して、可能な限りアマランスを狙いましょう
アマランス・フューリー!
貴女の目的は天使を犠牲にしなければ達成できないものなの?
私は天使や皆を守りたいし、貴女だって目的も果たせず負けたくはないでしょう
戦う以外の道はないの!?
連携可

*連携アドリブ歓迎
いじらしくも危うい御使いの
その心根の根底を見るようだの
――決して甘んじてはならぬ祝福
なれど幼子の、その気概は確と受け取り
応えねばなるまいて
迅速なる決着と、特に前行く者への後押し
そして、サリィ殿への負担軽減の為
サリィ殿へ直接の被害も及ばぬよう
立ち位置を取りながら
魔術師を削り切るには及ばずとも
皆に向けられる魔術の、発動の妨害となる瞬間を狙い
強く、疾く駆けられよと
出来うる限り多くを味方を巻き込む形で加護の炎を放つ
羅紗の文字は槐の槍で迎撃するか
弾ける符を囮として回避
祝福、か
ものがたりの聖者は悲劇の内ばかりに居る
――こうして分け与えられるよりも
あの娘御のみちゆきにこそ多く降ればよいと

連携など歓迎です
その祈りはあなたを傷つけるから、やめた方が良いかもしれない。
……って言っても、聞かないよね、だからこそ、天使病に罹患したんだろうし。
それじゃあ、せめてカレンたち能力者の被弾を少なくするように、頑張ろうか。
敵の攻撃を撃ち落とすか、近接攻撃ならその部位を破壊するかのいずれかを行うべく努力しようかな。
とはいえダメージ0で終えられるほど楽観的でもないから、せめてクリーンヒットしないように攻撃を逸らせれば上出来……ってことで。
敵が大技を使いそうなら|特殊弾生成小箱《とてもだいじなもの》の銃弾を使うよ。
これ、無駄撃ちするわけにはいかないから……必ず、当てる。
私にもプライドがあるから、ね。

アンナの言うようにそんなことはしなくても大丈夫……って言いたいところだけれど、私たちにとっては助かるのも事実。
負けちゃったら元も子もないからね。
せめて負担が軽くなるように攻撃より回避を重視、初動は手数で勝負しましょうか。
とりあえず黒鉄の拳で自分の速度は上げておきたいところね。
あとはアンナの射線上に私が入らないように注意するわ。
たぶんあの子なら私が見えない部分をフォローしてくれるはず。
古代の怪異がどんなものなのかは分からないけれど、負けることはないわ。
だって相手は私だけじゃなく……もう一人いるんだもの。
もちろん隙が出来れば攻撃100%で黒鉄の拳をお見舞いするからね……覚悟しなさい!
「サリィ……!?」
血涙を流す天使へと駆け寄るクーベルメ。
無私の証を拭う彼女に続いて屈み込み、サリィと目を合わせたアンナは小さく首を振る。
けれども、返ってきたのは鏡映しの反応。
(「……そうだよね」)
その祈りはあなたを傷つけるから、と。
言われて止めるような少女でないから病に罹り、天使と化したのだ。
(「そんなことはしなくても大丈夫……って言いたいところだけれど、私たちにとっては助かるのも事実ね」)
カレンは目線をアマランス・フューリーへと移し、拳を構えながら思う。
羅紗の魔術師は間違いなく強敵。
√能力者たちが倒れてしまえば、元も子もない。
「……いざという時は頼りにしてる」
まだ微かに赤い筋が残る頬を撫でて、クーベルメは胸の内を押し殺すように言った。
サリィは控えめに、けれども強く頷く。
何ともいじらしい。そして、危うい。
天使の――否、サリィ・ラヴィリスという少女の根底を見たと、様子を窺っていたツェイが目を細める。
(「その祝福に甘んじてはならぬな」)
無私の心。他者を想い、自らを擲つ気概。確かに受け取りはした。
後は、此方が応える番だ。
「アマランス・フューリー!」
咆哮と共に地を走り抜け、一気に肉薄したクーベルメが“軍用シャベル”を振り下ろす。
土を掘るばかりがそれの使い道ではない。程よい重さと握りやすさ、金属製の鋭利な先端は力強く振るえば侮れない武器となる。
当たれば痛撃は必至。それが火を見るよりも明らかであるから、魔術士の纏う羅紗は布地と思えぬ堅牢さで猛攻を受け止める。
「あなたは天使を犠牲にして何がしたいの!?」
「教えてやれば、あの娘を引き渡すとでも言うのか?」
「そんなことは絶対にしない!」
肉体が持つ性能以上の勢いで攻めかかりながら、クーベルメは叫ぶ。
「でも、あなただって目的を果たさずに負けたくはないでしょう!」
「……ふっ……はは、はははは!」
「なにがおかしいのよ!」
「可笑しいさ。もう勝ったつもりでいるとは、随分と楽観的な物の見方をするじゃないか。お前の頭には花畑でも詰まっているのか?」
「このっ……!」
「相手のペースに巻き込まれてるわよ」
少女人形と魔術士の応酬に、カレンが割って入る。
無骨な右手と、華奢な左手。それを突き動かす信念と矜持。
黒革に覆われた両拳で嵐の如く乱れ撃てば、気圧された魔術士は一歩、二歩と退いて。
尚も手数で押していくカレン。その首を狙って回り込む羅紗――を撃ち砕く銃弾。
アンナの狙撃銃から空薬莢が飛ぶ。相棒のように勇ましくはなれないが、只人には只人の戦い方というものもある。
(「少しでも被弾を抑えられたら上出来ってことで」)
(「――とか思ってるんでしょうね、あの子」)
言葉を交わさずとも通じ合うのは、血よりも濃い絆で結ばれている証左。
射線を切らない立ち回りにだけ気を払い、後の全てをカレンは眼前に集中させる。
手ごわい相手なのは確か。だが、状況は一対多数。
拳打の合間にシャベルを捻じ込んでくるクーベルメのように、全員で挑めば必ずや――。
「――などと考えているのだろうな、お前たちは」
言葉を発さずとも読み取られたのは、誰もが天使の負担を減らそうとしているからか。
羅紗の魔術士は冷やかな表情のままで瞼を閉じ、僅かな時間、護りを厚地の織物に任せて記憶の海に潜る。
一際、深い波音を立てる其処から現れるのは、忘却の彼方に沈んだ古の怪異。
名前すらも残らぬ神話の狭間に咲く徒花。
(「あれは……?」)
長きを識るツェイが己に問いかけても、真実どころか手がかりすら得られない。
人のようであり、獣のようであり、神のようでもあり、悪魔のようでもある。
そんな怪物が――魔術士の広げる羅紗と同じように輝いた。
刹那、ツェイは咄嗟に呪符を投じる。最前に舞い飛んだそれは囮となり、幾らかの文字列を道連れにして爆ぜる。
それでも火種を通り越した一部は、アンナの迎撃をも数の力で捻じ伏せて過ぎる。
最後に立ちはだかるのは、祈り。
衝撃と閃光、爆発。それらの向こう側で、天使の眼からまた一粒、雫が落ちる。
「その美しさに護られるほどの価値が、お前たちにあるのか?」
嘲笑を帯びた魔術士の声。
答えられる者はいない。幼子に庇われたままで「然り」と言えるはずがない。
沈黙。静寂。
或いは力で応じようとする者に対して、アマランス・フューリーは言葉を継ぐ。
「解らないのか。解りたくはないのか。どちらでも構わないが……無私の心に血を流させているのは他でもない、お前たちだ」
閃く羅紗。蠢く謎の怪異。
天使が傷つくことを是としない√能力者たちの姿勢が明白であればこそ、魔術士はさらなる攻撃によって祈りを擦り減らし、守護者たちの心を圧し折りにかかる。
象徴たる生地に刻まれた数多の文字列が、溢れんばかりに輝きを増して。
「疾く、駆けよ」
波のように押し寄せるかと思われたそれを灼き祓ったのは、白群の炎。
零れ落ちた一粒に槐の槍を突き立て、その切っ先を討つべき敵へと差し向けてツェイは宣う。
強く駆けよ。天使を悲劇の聖者と同じ列に並べまいとするならば。
疾く駆けられよ。そうして切り拓いた娘御のみちゆきにこそ、数多の祝福あれ、と。
願う心は野火の如く広がって、魔術士と怪異を炙る。
苛烈に。凄烈に。そのまま葬り去るまではいかないが、しかし。
(「削り切るまではいかずとも、熱を絶やさなければ」)
奮い立つ仲間たちが、必ずや。
ツェイの想いはすぐさま形となり、崇高なる灯火に導かれたカレンの鉄拳が怪異を貫く。
「価値がどうだなんて知ったことじゃないわ。ただ、あなたには負けない。覚悟しなさい!」
「……愚か者め」
「その言葉、そっくりそのまま返すわ!」
気炎を上げて再び振り下ろされるのはクーベルメのシャベル。
「あなたに分かるかしら……この私の体を通して出る力が!」
「何……?」
「分からないでしょうね。だからそうやって、平気な顔でいられるのよ!」
鬼気迫る少女人形の姿に宿るのは散っていった者たちの想い。
魔術士の強欲に虐げられた被害者。無心ゆえに殺戮の獣と化した病の成れ果て。
そして、幾つかの|己自身《予備素体》。
全てを背負って振るう武器の重みは計り知れない。
否が応でも、アマランス・フューリーは眼前の猛攻に意識を奪われる。
だからこそ気付かない。異端の合間に隠れた常人が、その身で扱える小さな魔法に指をかけたことを。
(「…………わたしだって」)
|矜持《プライド》くらい持ち合わせているのだ。奥の手を持ち出したからには、絶対に外しはしない。
狙撃銃から飛び立つ特殊弾。恩人の忘れ形見。
アンナが射掛けたそれは、羅紗をすり抜けて魔術士の臓腑を穿ち、時を止めた。
「――っ!!」
続けざま、クーベルメが両手に握りしめたものを振り抜く。
鈍い打撃音。頭蓋への直撃が齎すものを察して、天使の視界を遮るように立ったツェイが囁いた。
「案ずるな」
羅紗の魔術士が何度立ち上がろうとも押し伏せる。
だから、もう良い。大丈夫だ。
充分すぎる祈りを捧げた、その無垢なる瞳を穢す必要はない――。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功

あら~。逃げきれなかった。
素敵なお姉様ですねぃ。素敵ついでに見逃してくれないかな。
隷属するのは得意ですが。人を選びますもので。
では、交渉は決裂で!
サリィちゃん自分大事にして~!
当事者といえど、小さな子が傷を背負う必要はありません。
距離を保ちつつ、絹索で攻撃回避を繰り返し。
ぼくの戦法は体当たり戦法なもので。サリィちゃんとは距離を保って攻撃を誘いましょう。
美しい世と感じるならば、手を出さなくとも良いのでは。
余計なことをなさっては調和を崩しますよ。
サリィちゃんから十分距離を保ち、隙が出来たら絹索をぶち込みます。
祈るものがいる。信仰はそれだけで美しいでしょうに!
張り詰めた戦場の空気に、不協和を刻む軽い足音。
素知らぬ顔で遠ざかろうとするそれは、羅紗に引き留められて舌を出す。
「……見逃してくれたり、なんてのは――」
ちらり、一瞬ばかり様子を窺う視線に冷たく返る無言。
残念無念。たとえ褒めそやしたところで、翻意する可能性は皆無だろう。
もっとも、此方にも阿る相手を選ぶ権利くらいはあるはずだ。
「交渉決裂でございますねぃ」
早々に幕引きを図る時雨の手から、ひらりと絹索が揺れる。
何気ない冗句のように軽く、けれども確かに一歩先を取る間合い。
その内に魔術士を入れて、天使の祈りは省く。
あれは確かに当事者だが、その小さな身体に無用なものを背負わせるつもりはない。
「サリィちゃん、自分を大事に」
そう言いながら矮躯を敵前に晒す己の言葉が、果たしてどれほど説得力を持つのかは、一先ず考えないことにして。
水面へと垂らす糸の如く、五色を操って煌めく羅紗を誘えば、文字列が宙を奔る。
説法にしては随分とまあ乱暴な表現方法。頭ごなしに叱りつける拳骨のようだ。
おかげで躱しやすくもある。
交錯する術と糸。
押しては引き、引いては押す。付かず離れずの攻防の最中に、時雨はふと問いかける。
「美しい世と感じるならば、手を出さなくとも良いのでは」
「可憐な花は手元に置いて愛でたいだろう?」
「だから摘み取るって訳ですか。あまり余計なことをなさっては調和を崩しますよ」
「崩れたなら積み直せば良い。黄昏を越えた先の秩序は、我が魔術塔が担おう」
「秩序、ねぇ。……その落書き塗れの厚ぼったい布地を正装にでもするんです?」
応酬の果てに飛来する光暉の文字。
言い負かせないと見るや暴力に訴えるとは。
(「魔術塔ってのは脳筋の集まりなんですかね?」)
そう言わんばかりに、視線を逸らしたままでほくそ笑んでやれば、アマランス・フューリーが放つ“輝ける深淵への誘い”は一層、時雨へと集中する。
驟雨の如く降り注ぐそれは何とも鬱陶しい。
だが、むやみやたらと力を放てば戦場での視野は狭まるばかりだ。
――頃合いだろう。護るべき天使から引き剥がした獲物の収穫期は近い。
それを為すのは、体当たり戦法とでも呼ぶべき単純明快さ。
(「祈るものがいる。信仰はそれだけで美しいでしょうに!」)
絹索が黍薙ぎ倒す嵐の如く荒ぶり、叩き込まれる。
ともすれば身を削る覚悟でさえいたが、その必要もない。
苛烈な一撃は羅紗の魔術士の傲慢を圧し折る。
そして、その悪辣さから無私の天使を遠ざけた――。
🔵🔵🔵 大成功

連携アドリブ可
守られてる自覚があるなら黙って守られてて欲しかったんだがな
だがまぁ、理由はどうあれ自分自身の意志で戦いに首を突っ込んだ気概は買うぜ
それはそれとして大人しくしててくれよ
これ以上保護対象に庇われるなんざゴメンだからな
出来ればサリィの力の範囲外に戦闘場所を移したい所なんだが
敵からすれば完品とは言えなくとも天使が手に入ればそれで良し、ってな具合だろうし乗ってはこねぇだろう
となればやっぱ被弾無しで敵を殺し切る、これしかねぇな
最速最短で敵へと接近
とはいえ距離は魔術師である向こうのモンだろう
だが問題ねぇ
どれだけ距離があろうが敵の攻撃よりも早く殺し切ればいい
敵の迎撃に合わせ【竜伐】
輝く文字列が生んだ影の闇に潜み機を伺う
隠密状態の相手への対処、俺がやれてる以上この敵が出来ねぇ理由もねぇ
だからこそ対処の瞬間、防衛ではなく攻撃に意識が傾いた間隙を狙い【竜討】を叩き込む
怪異が動く前に殺し切り『暗殺』を遂行する
お祈りも結構だが少しは自分の身も気にしてほしいモンだ
お陰で子守紛いをするハメになっちまった
少女の祈りを背に、思わず舌打ちを一度。
(「守られてる自覚があるなら、黙って守られてて欲しかったんだがな」)
余計なことを――などと少女に腹を立てている訳ではなく。
苛立ちの矛先は己に向く。守りに来たはずが、逆に守られてしまうとは。
(「|子供《ガキ》は子供らしく、|自分《てめえ》のことだけ考えてりゃいいってのによ」)
心の内で吐き捨てるように呟いてから、空悟はそれを鼻で笑った。
私心がないからこそ、彼女は天使と化したのだ。
(「……ったく」)
思わず頭を掻き、一つ息を吐く。
そして――空悟はニィと笑う。
お人好しを褒めそやすつもりはないが、自らの意志で戦いに首を突っ込んできたその意気や良し。
だが、そこまでだ。幼子の覚悟は充分に見せてもらった。
「後はもう、大人しくしててくれよ」
背中越しに告げて、羅紗の魔術士へと進み出る。
(「また庇われるなんざゴメンだからな」)
いっそ祈りの届かぬところまで引き離せれば――とは思うが、敵も易々と誘いには乗ってこないだろう。
ならば、もう一つの手段を採るしかあるまい。
(「……一発も食らわずにアイツを殺し切る」)
当たらなければ少女の祈りに守られることもない。
言うは易く行うは難し。無理、無茶、無謀――上等だ。
「やってやろうじゃねぇか――!」
狂気で顔を歪めながら地を蹴れば、漆黒纏う身体は銃弾の如く飛んでいく。
千里を瞬きの合間に駆け抜ける瞬発力。軌道は最短最速、一直線。
凡人であれば目に留めることすら叶わないだろうが、しかし。
相手もまた√能力者。羅紗の魔術塔に連なる、その名もアマランス・フューリー。
何処か茫洋としながらも真理を見透かすような眼差しで、迫る獣を捉えて両腕を挙げる。
その白い肌に垂れ下がるのは、欧州の闇に跳梁跋扈する者の証たる“羅紗”の束。
厚い布地に刻まれた不可思議な文字列が光り輝く。魔術士に仇なす敵を討つべく、宙に浮きあがったそれは大海のように流れ――。
「遅ぇんだよ」
「――っ!?」
影を浚う潮流が放たれるよりも早く、嘲笑が魔術士の首を這う。
振り向けば、其処には歯を剥いて笑う暗殺者の姿。
アマランス・フューリーの顔に驚愕が浮かび、それは僅かな間を置いて苦悶へと変わる。
柔肌を抉る拳の感触。殺意を込めた万夫不当の一撃。
けれども、それだけで決着がついたとは思い難い。
魔術士が反撃へと転じる前に、空悟は即座に闇を纏って影に沈む。
「……やってくれるな」
乱れた呼吸を押し殺しながら、アマランス・フューリーは呟いた。
彷徨う視線は仇を見出すに至らないが、しかし。
(「影を暴くくらい、俺にだって出来るからな」)
羅紗の魔術士などと大層な肩書きを持つ敵にだって、それだけの力があってもおかしくはないだろう。
なればこそ、空悟は闇の中で構えて隙を窺う。
狙うは魔術士が次の一手を打つ刹那、攻勢へと意識を傾ける一瞬。
その前兆が現れるまで、さほど時間はかからない。
アマランス・フューリーが呪を紡ぎ、純白の騒霊レムレース・アルプスを喚ぶ。
幽冥の底より浮かび上がるそれが放つ輝きは、消えゆく者の悲歌。
世界を遍く照らす嘆き。影すらも焼き焦がす滅びの光。
その眩さの前では闇など一欠片たりとも存在を許されない。
――故に、先んじて昏き帳から飛び出す。
光よりも速い殺意の奔流。低く沈んだ体勢から一気に距離を詰めて、空悟の拳が再び魔術士を打つ。
今度は一撃では済まさない。肘が胸を潰し、踵が顎を打ち上げる。
そして、最後に振り下ろすのは鋭く研ぎ澄まされた手刀の一閃。
真剣すらも凌駕するその一振りは、騒霊に動く暇さえ与えぬまま、アマランス・フューリーを弥終へと導く。
「お祈りも結構だが、ちったぁ自分のことも気にしやがれってんだ」
おかげで子守紛いをするハメになっちまった。
呆れたように言う空悟だが、その声音に言葉ほどの棘はなかった。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功

命を蔑ろにする輩に
サリィくんをむざむざ渡すものか
羅紗の魔術士を倒し
サリィくんを守り抜く
この忍務、必ず成し遂げる
サリィくんの献身には頭が下がる
だからこそ発症して天使になったのだろう
けれど俺たちはサリィくんを守るためにいる
有り難いけれど
可能な限り使わせないように立ち回る
倶利伽羅剣を床に突き立てれば
刀身から溢れ出た光が曼荼羅を描く
そこから顕現するのは倶利伽羅龍王
俺も龍王も回避するように立ち回る
回避することで
背後のサリィくんに当たってしまうのなら
攻撃を敢えて受ける
その際は
ダメージを肩代わりしてくれたサリィくんを
慈光で回復
アマランスくんの力量は俺より上だ
だから召喚された怪異も
龍王を上回る強さを秘めるだろう
だが
呪を唱えれば
倶利伽羅剣の刀身が焔を纏う
見出した隙をすかさず轟炎が襲う
弱点をつけば怪異を葬るのは容易い
怪異とは言え
奴隷としてただ使役されるとは哀れ
倒すことでその支配のくびきから解放する
同時に俺も瞬時に間合を詰めて
炎に包まれる奴隷怪異を目眩しに死角に回り込み
倶利伽羅剣を一閃
魔術防御も貫通する一撃で仕留める
召喚したモノを
単に己の傀儡とするか
背中を預ける相棒とするか
それが勝敗を分けたな
戦闘後
アマランスくんのインビジブルを
静かに見つめながら片合掌
例え何度甦ろうとも
命を蔑ろにする限り勝ち目はないと知れ
サリィくんに感謝の意を伝えて脱出
「……渡すものか」
欧州。古都の郊外。廃れた礼拝堂の傍に響く絶対の意志。
揺るぎない決意のもと、影丸は剣を逆手に構えて立つ。
視線の先に在るのは羅紗の魔術師、アマランス・フューリー。
天使の身柄を要求するそれは、一見して理性的であるようにも映る。
だが、影丸は惑わされない。それは命を命と思わぬ非道の輩。
非業の死を遂げた哀れな魂すらも現世に縛り付け、己が意のままに使役する悪鬼羅刹。
その魔手が天使に及ばぬようにと、この戦場に踏み込んだのならば。
「必ず、成し遂げる」
忍務と定めた誓いを果たすべく、影丸は剣を足元に突き立てた。
次の瞬間、刀身から溢れ出た光が曼荼羅を描く。
魔術士の眉が興味深そうにぴくりと動いた。
それを睨めつけるようにしながら、影丸が喚ぶのは明王の化身。
邪悪や罪障の一切を焼き滅ぼす――倶利伽羅龍王。
「成程。東洋に伝わる秘術か」
アマランス・フューリーは呟き、自らも羅紗を翻して“駒”を喚び出す。
現れたのは純白の騒霊、羅紗の奴隷たる怪異“レムレース・アルブス”。
遥けき冥府の底より引き摺り出されたそれは、嘆きの光で以て戦場を遍く照らす。
「――!」
竜王と共に駆け出した矢先、襲い来る目も眩むほどの絶望を前に影丸は足を止めた。
一瞬の静寂。逡巡。
視界が色を取り戻した後、己の身体には何一つ異変など起こらない。
けれども、振り返れば――天使の少女の頬を流れる一滴の赤。
彼女の無私の心が、また全てを引き受けてくれたのだ。
(「……すまない!」)
影丸はすぐさま“龍王の慈光”でサリィを癒す。
無垢の眼差しと視線を交えれば、少女は頬に赤い筋を残したまま微笑む。
対して、影丸は平静を装った表情のまま、強く歯噛みした。
サリィ・ラヴィリス。善なる無私の心を持つが故に天使と化した少女。
その在り方には頭が下がる。彼女の力がなければ、√能力者たちは魔術士の先制攻撃を受けて、看過できない傷を負っていたに違いない。
しかし、彼女に血の涙を流させるのは本意ではない。
影丸たちは守られるのでなく、守るために来たのだ。
それでも今一時、足を止めたのは、サリィへの直撃攻撃を防ごうとしたがゆえ。
甘んじて庇われるのと、どちらがより少女を苦しめずに済むのかと逡巡したからこそ。
(「……だが、二度はない」)
これ以上、少女を穢すことなどあってはならない。
影丸は地を蹴り、龍王と共に奴隷怪異へと肉薄する。
戦場を狭め、その内に少女の祈りが入らぬようにしてしまえば、無用な血を流させる心配もなくなる。
後は影丸と魔術士の勝負だ。
(「……無論、向こうの力は俺よりも上だろうが」)
心で劣るとは思わない。
天使の守護、忍務の遂行を成し遂げようとする覚悟。
それを露わにすべく、影丸は呪を唱える。
「ノーマクサーマンド! バーサラ! ダンカン!」
刹那、剣に宿るのは不浄を焼き清める迦楼羅炎。
煌々と輝くそれに全てを集中させれば、より一層激しく燃え盛る炎は睥睨する明王の眼となって、邪悪なるものの“弱さ”を炙り出す。
「――そこか!」
目を見開く影丸。
すかさず龍王が轟炎を振るえば、羅紗の奴隷怪異レムレース・アルブスが呻く。
灼滅の苦しみ――否、怪異のそれは正しく“嘆き”。
(「……哀れな」)
先の“被害者”たちと同じく、レムレース・アルブスもまた羅紗の魔術士に利用されるだけの道具。
そこに純粋な自由意志などは無いように見受けられる。
怪異は所詮、怪異。√汎神解剖機関に仇なすものとはいえ、憐憫を抱いても罰は当たるまい。
そして、敵でありながらも不憫な存在に影丸がしてやれることは、ただ一つ。
不浄祓う炎を纏った刃で、支配の軛を断ち切る。それだけだ。
「――――!」
龍王の轟炎を目晦ましに背後へと回り込み、無言のまま、祈りと共に振るわれる剣。
鋭い太刀筋と苛烈な迦楼羅炎は、怪異のあらゆる守りを貫く。
一閃。一撃。
現世に存在するための云わば“核”を砕かれた奴隷怪異は、仄かな光と化して消える。
「ほう……やるではないか」
手駒を一つ失っても、アマランス・フューリーは感心するように唸るばかり。
その傍らには深淵から這い出た古の怪異が一つ。
姿形を形容する言葉すら見当たらない、影丸の知識の及ばぬ“知られざる怪異”もまた、魔術士の奴隷として牙を剥く――が、しかし。
「無駄だ」
轟き猛る竜の炎。閃き断つ忍びの刃。
二つの力が何をさせる間もなく怪異を葬り去る。
決して脆弱とは呼べない敵を容易く退ける、その力の源を測りかねる魔術士。
俄かに焦燥が浮かぶ彼女の視線に、影丸は刃の切っ先を向け、言葉少なに示す。
「己以外を傀儡とするか。背を預ける相棒とするか」
「……それが明暗を分けたとでも?」
「見れば分かるはずだ。君を守るものは、もう何もない」
影丸はちらりと視線を動かす。
己の傍には龍王。遥か背の向こうには祈る天使。
そして跪く彼女を守るため、ここに集った数多の√能力者たち。
その中に糸で手繰られるような奴隷は一つとして存在しない。
「だとしても、だ」
羅紗の魔術塔に連なる者として、在り方を変えるつもりはない。
アマランス・フューリーは纏う厚手の布地を広げた。
そこに刻まれた不可思議な文字が輝き――そして、すぐに光を失う。
代わりに魔術士を照らすのは破邪の炎。
「――天魔覆滅」
影丸が剣を引き抜く。
背から心の蔵を貫く一撃を受けた魔術士の身体は、焼け落ちても灰にはならず、|見えない怪物《インビジブル》と化して宙に舞い上がる。
揺蕩うそれを静かに見つめながら、影丸は片合掌を捧げた。
アマランス・フューリーには凡そ理解の及ばぬ行為であろう。
だが――。
(「命の尊さを知らず、蔑ろにする限り……君に勝ち目はない」)
それでも蛮行を繰り返すと言うのなら、何度でも阻んでみせよう。
悼み、祈り、誓い、願い。
影丸は全てを静寂の中へと託して、天使のもとへと帰る。
「……ありがとう、サリィくん」
身を挺して皆を守ってくれたこと。
――否、この黄昏の世界で、人の清き心を持ち続けていてくれることに。
短く感謝を告げれば、少女もまた小さく頷き返して言う。
「わたしからも……」
無念を抱いたまま死んだものたち。
無私ゆえに殺戮の獣と化したものたち。
彼らを踏み躙ることなく、安寧を授けてくれた√能力者すべてに。
「ありがとう」
サリィの言葉に、影丸もまた頷いて踵を返した。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功