お菓子の国は甘くない
●甘く儚い夢のように
そのダンジョンは、まさにお菓子の国だった。
ファンシーな三角屋根の建物は砂糖菓子で出来ていて。
チョコレートの木にはグミの果実。
あちこちの建物を彩るのは、雪のような綿菓子にシュガーパウダー。
そして宝石めいてきらめくキャンディーたち。
町の中心には文字通りのチョコレートファウンテンがあって。
チョコレートの川も、そこら中に流れている。
「なんて楽しいダンジョンなのかしら!」
今、甘い香りに誘われて、ひとりのドラゴンプロトコルがダンジョンに入り込んでいた。シュガレッタ・メルシエ。それが彼女の名前だ。真っ白なゴスロリドレスはお菓子の国に迷い込むには似合いの格好だけれど、能力はというと、余りに心もとない。
彼女はまだ駆け出しで。
でもこんなファンシーな場所だったら、少しくらいは大丈夫ではないか――そんな甘い考えは、あっさりと裏切られることになる。
「侵入者を発見」
「ただちに排除せよ」
機械的な口調で言いながらやってきたのは、カチカチなブラックチョコレートの騎士たちだった。たぶんカカオ豆がモンスター化したとかそんな成り立ちの敵だろう。その手には鋭利な(これまたチョコレートの)剣や槍があって、
「来たわね! みんな纏めて料理してあげるわ!」
魔法少女みたいなロッドを構えるシュガレッタ。
威勢はいいが、それだけではどうしようもない。
彼女は、すぐにフランボワーズソースのような血を流して倒れることになる。
●ドラゴンプロトコル襲撃事件
「ダンジョン『お菓子の国』で事件が起こる。みんなの力を貸して欲しい」
凌・麗華(不会放弃・h06251)が話し始める。
「√ドラゴンファンタジーはかつて竜が支配してたって話だが、竜を崇める『喰竜教団』ってのがあるらしい。その教祖サマの『ドラゴンストーカー』が今回の黒幕ってわけだ」
各地でドラゴンプロトコルの襲撃事件が起きている。
狙われているのは、戦う力を殆ど持たない一般の市民や学生、駆け出し冒険者たちだ。
「そのドラゴンストーカーの狙いってのがまたヒドい。人間の姿に堕とされた竜であるドラゴンプロトコルを殺して、死体を自分の肉体に移植する……で、いつか『強き竜の力と姿』を取り戻させる、とかなんとか主張してるらしいんだ。つまりこいつは肉体簒奪事件。予知しちまった以上、何とかして助けたい」
それで、その救出対象のドラゴンプロトコルというのが、
「シュガレッタ・メルシエっていう駆け出しの冒険者だ。白いゴスロリドレスを着てて、目立つし、なんか騒いでるし、すぐ見つかると思う」
お菓子の国は、本物サイズの建物などが文字通りお菓子でできている。シュガレッタはそんなファンシーなダンジョンを甘く見て、ひとりで突っ込んだらしい。
「気持ちは分からないでもないんだが……お菓子の国には、チョコレートの騎士がいて、そいつらが結構強いんだ。カッチカチで、包丁すら通らない。いや、みんなの武器なら通ると思うけど、チョコの剣も槍もフツーに凶器レベルだ。だから――シュガレッタはさくっと|殺《ヤ》られちまう」
チョコレートナイツを倒せば、事態は新たな展開を見せる。
「未来は流動的だ。はっきりとは見透せないが、黒幕がドラゴンストーカーだってのは間違いない」
強敵だが、倒さねばならない。
「ダンジョンの見た目に反してなかなかハードの戦いになりそうだ。でも皆だったらなんとか出来るはず。頼む、事件を解決してシュガレッタを救ってやってくれ」
マスターより

相馬燈がお送りします。今回の舞台は√ドラゴンファンタジーとなります。
ドラゴンプロトコルの少女『シュガレッタ・メルシエ』がダンジョン内に入り込み、喰竜教団に狙われるという事件が起ころうとしています。ドラゴンプロトコルを救け、黒幕を撃破しましょう!
第一章では、お菓子の国を探索するドラゴンプロトコル『シュガレッタ』と接触し、襲ってくるフルプレートビターチョコレートナイツ(長い)を撃破することになります。シュガレッタは駆け出し冒険者のため、ほとんど無力です。皆さんの鮮やかな戦い振りを見せてあげましょう。
第一章が成功すれば事件は新たな展開を見せますが、黒幕がドラゴンストーカーなのは間違いないようです。
基本的にはバトルメインのシナリオになるかと思われます。第一章では特に、余裕があったらその辺にあるお菓子を味見してもいいかも知れません。戦いのあとで一休みするなども可能でしょう。
それでは、皆様のご参加をお待ちしております!
13
第1章 冒険 『お菓子なダンジョンを踏破せよ!』

POW
お菓子のモンスターを力ずくで排除して突き進む。
SPD
探索で手に入れたお菓子の武具で武装し、効率良く進む。
WIZ
お菓子の罠を逆に利用して味方につけながら進む。
√ドラゴンファンタジー 普通7 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵

アドリブ大歓迎
甘ったるい香りに満ちて、突っ立ってるだけでクラっとしちまいそうだ。
……真っ白い服ってのは色鮮やかなお菓子の山でも目を惹くもんだねぇ。
愛らしい、汚しちまうのがもったいないってなもんさ。
戦おうとする嬢ちゃんとチョコ兵の間に割って入らせてもらうよ。
「料理すんのはいいけど嬢ちゃん、下準備がなっちゃいないようだねぇ?」
戦闘態勢。
割ってそのまま飾るのもいいが、料理ってんなら…
「チョコレートは叩っ切って湯煎しちまうのさぁッ!」
すなわち剣にて切り刻み、剣の持つ焼却の力を以てチョコを溶かす。
チョコならば先に溶かして防御力を下げるのもありか。
攻撃の宣言、【屠竜宣誓撃】の使用にて派手に一番槍を務める。
ダンジョンに踏み込めば、そこは甘い香りが漂うお菓子の国。
わた飴やシュガーパウダーが積もる家並みは飴細工で。
街路樹も、本物と見間違えてしまうほどに精巧なチョコレートだ。
さすがに地面は本物の石畳のようで、メロレッド・フロルソレイユ(陽光乱舞・h06661)は靴音を響かせながら、颯爽と街路を歩いていく。
すらりと均整の取れた肢体に、鮮やかなアップルジャケット。緑のゴーグルとのコントラストは、お菓子の国でもひときわ目立つ。
「甘ったるい香りに満ちて、突っ立ってるだけでクラっとしちまいそうだ」
どんなに大きなお菓子屋だって、きっとこんな景色は実現できまい。
そういう意味でも、ダンジョンらしいといえばらしい光景だ。
「さてと、どこにいるのやら」
歩きながら辺りを見回すメロレッド。
程なく、大きなチョコートファウンテンのある広場に、目に立つ少女を見出した。
「……真っ白い服ってのは、色鮮やかなお菓子の山でも目を惹くもんだねぇ」
「これもお菓子? こっちも食べられそう。なんて素敵なダンジョンなのかしら!」
もちろんそれはドラゴンプロトコルのシュガレッタ・メルシエに他ならない。白いゴスロリドレスに、小さな竜の翼と尻尾。ファンシーな世界にはいかにも似合いの格好で。
――愛らしい、汚しちまうのがもったいないってなもんさ。
思った直後、無粋極まる声が響き渡った。
「侵入者を発見」
「ただちに排除せよ」
広場に踏み入った者を、迎撃するような仕掛けにでもなっていたのだろう。
チョコレートの騎士たちが白の少女の元へと駆けてくる。
「来たわね! みんな纏めて料理してあげるわ!」
魔法杖を構えて迎え撃つシュガレッタだが――数多の戦場を潜り抜けてきたメロレッドには、勝敗の行方がひと目で分かった。
――あれじゃ話にならないねぇ。
このままでは瞬殺だ。純白の服はすぐに鮮やかな朱に染まることだろう。
「させないよ!」
疾風のようにメロレッドは駆けた。
シュガレッタの瞳に、割って入った|赤《・》が映る。ばさりと脱ぎ捨てられたアップルジャケット。その名が示す黄色の裏地。それが何であるかを少女が認識する前に、メロレッドはチョコレートの剣を受け止め――否、受けた拍子に、煙とともに溶解させていた!
「え……?」
「……!?」
驚いたのはシュガレッタだけではない。
理解が追いつかず、剣の切断面を見てたじろぐチョコレートナイト。
「料理すんのはいいけど嬢ちゃん、下準備がなっちゃいないようだねぇ?」
後ろへ言い放つと、不敵な笑みを浮かべたメロレッドが猛然と騎士たちに攻めかかる。振るうは大剣、アンブロシア。『巨龍を焼き切る陽光』の逸話を持つ巨剣は、まさにこの状況にうってつけの得物だ。
「さぁて、どこまで楽しませてくれるかねえ。割ってそのまま飾るのもいいが、|料理《・・》ってんなら……」
アンブロシアには神々の食物との意味もある。
「チョコレートは叩っ切って湯煎しちまうのさぁッ!」」
振り下ろせば切断面が溶解し、ろくに手応えもないまま騎士を両断する。返す刀で半円を描けば、横薙ぎにされた騎士たちがいとも容易く二ツに分かれた。まるで赤熱する刃でも押し当てられたかのように――いや事実、剣が持つ焼却の力が、チョコでできた騎士たちを溶断しているのだ。
斬り下げ、斬り上げ、薙ぎ払う。
圧倒的な屠竜宣誓撃。メロレッドに殺到した騎士たちは、見る間に形を維持できなくなった。ボウルの中で溶かされていくチョコさながらだ。
「凄い……」
シュガレッタは立ち尽くし、驚嘆していた。
戦場に舞う、鮮烈なる女傑。その姿に、見惚れるように。
🔵🔵🔵 大成功
「侵入者を排除せよ」
「排除せよ!」
機械的な声を響かせて、チョコレートナイツが広場に殺到してくる。
そこには√能力者に守られるシュガレッタ・メルシエの姿があった。
チョコレートの騎士は広場につながる幾つもの道を、列をなして突き進んでくる。
その数は、いまだ多い。
大軍を討ち果たすための、新たな加勢が必要とされていた。

やれやれ、お菓子のダンジョンなら可愛らしい罠でもあってくれた方がいいと思うけどな。ポップコーンのはじける音でおどかすとか。
ま、そう簡単には行かないか。
そこのお嬢さん! 良ければ手を貸すよ!
何、敵が多いならそれを利用すればいいのさ!
【愉快犯爆弾魔】発動!
チョコ兵たちを疑心暗鬼に陥らせて同士討ちの隙を作る。
あと、爆弾を使っての【爆破】もそこら中にして……くーずーれーるーぞー!
ほーら、パニック混乱状態の出来上がりだ。
やるなら今だぜ、お嬢さん♪
「侵入者を排除せよ!」
「取り囲んで斬り刻め!」
巨大なチョコレートファウンテンが目を引く広場に、チョコレートの騎士たちが殺到する。その数も恐ろしいが、叫んでいる言葉も、お菓子の国におよそ似つかわしくない。
「ど、どうしましょう……まさかこんなに来るなんて……」
先陣を切った√能力者の活躍もあってかなりの数が食い止められているが、どうやら騎士たちはそれを見て埒が明かないと判断したらしい。増援をひっきりなしに送り込んで、シュガレッタを押しつぶそうとしていた。
ファンシーなダンジョンの割に、全く以て可愛げがない。端麗な金髪碧眼に|翡翠《カワセミ》を思わせる翼を持つ青年――エリック・ガブリエラ(セレスティアルの心霊テロリスト・h06694)はそう思う。
「やれやれ、お菓子のダンジョンなら可愛らしい罠でもあってくれた方がいいと思うけどな」
たとえば、そう、
「ポップコーンのはじける音でおどかすとか」
人々を驚かせることにおいて、エリックは一家言を持っている。
それが√ドラゴンファンタジーのダンジョンのことであれば尚更だ。
「ま、言っても仕方がないか」
身構えるシュガレッタに、エリックは後ろから声をかけた。
「そこのお嬢さん! 良ければ手を貸すよ!」
ハッとして振り返るシュガレッタ。
救いを求めるようなその瞳に、エリック悪戯を思いついた少年のような笑みを返して、
「何、敵が多いならそれを利用すればいいのさ! ちょっと退がって!」
エリックはシュガレッタを囲もうとするチョコレートナイツめがけて、絶妙なタイミングで√能力を解放した。
チョコ騎士たちの眼の前で爆発の花が咲く。もちろん爆風の及ぶ範囲まで計算に入れた攻撃だ。驚いたシュガレッタは咄嗟に後ずさったためにダメージはなく――爆煙が消え去った後、そこには電池が切れた人形のように動きを止めたチョコ騎士たちの姿があった。
「排除……」
「排除、セヨ……」
否、彼らはまさに|壊れた人形《・・・・・》だ。
「さあ、踊ってみなよ」
チョコ騎士が剣を振り上げて斬りかかる。
チョコブレードはシュガレッタ――ではなく、隣りにいたチョコ騎士に振り下ろされた。加減のない一撃で、パキンッ、と小気味の良い音を立てて折れるチョコブレード。攻撃を受けた騎士も反射的に槍の刺突で応じ――同様の混乱が爆発に巻き込まれた騎士たち全てに波及した。
硬いチョコとチョコとがぶつかり合う剣戟の音。
満足気な笑みを浮かべて、エリックは視線を転じた。
そこには、広場を取り囲む建物の中でも、特に背の高いお菓子の建築物があった。
スポンジケーキを何層にも重ねたタワーである。
「くーずーれーるーぞー!」
エリックが楽しげに声を放つ。もちろん、気付いたとて、もう遅い。
スポンジケーキタワーが爆発の衝撃でぐらりと傾いで、チョコ騎士たちの上に落下してくる。ぐしゃり。とんでもない大惨事が、チョコ騎士たちの身に降り注いだ。
「人を驚かす仕掛けは、よく考えてやるもんだぜ」
先程の爆発は、塔の落下地点さえも計算したものだったのだ。シュガレッタの衣装には汚れひとつ付いてはおらず、その一方で、チョコレートナイツは面白いくらいに狂乱していた。目の前の同胞に斬りかかり、突きかかり、同士討ちが広がっていく。
「ほーら、あっという間にパニック混乱状態の出来上がりだ」
一瞬のうちに大混乱に陥った敵の大軍。
その光景に、シュガレッタは呆然としていた。
「やるなら今だぜ、お嬢さん♪」
エリックに笑いかけられて、彼女は自らが戦場に立っているという事実を思い出す。
そこへ、ふらふらになったチョコ騎士がよろめいてきた。
「はぁっ――!」
全力で振り下ろしたロッドの一撃。それは弱りきっていたチョコ騎士を見事に粉砕した。仕留めることに成功したのだ。これがRPGとかだったら、レベルアップものの快挙である。
「なかなかやるじゃん」
ぱちぱちと拍手するエリックに、シュガレッタは緊張で乱れた息を整えながら、笑みを返すのだった。
🔵🔵🔵 大成功

あらあら、無鉄砲なご令嬢も嫌いではないけれど
というか、|ペオーニア《主人格》が好きそうな子ね
此処まで聞いたら見捨てるわけにはいかないじゃない
普通にサポートすれば問題なさそうね
さてさて、どこかしら?
邪魔者は【百錬自得拳】で殴り倒していきましょう
技能攻撃が外れてもまた殴ればいいだけよ
気にせず鎧砕きの拳でぶっ飛ばす
あ、いたいた
(対人用の和やかな笑顔を浮かべつつ)
ごきげんよう、砂糖菓子のお嬢さん
馬鹿にしているわけではないのよ
だって私も甘いお菓子大好きだもの
見た目がね、ふわふわっとしているし
ほら、私と対みたいでしょう?
私が薔薇なら、アナタは砂糖菓子じゃなくて?
これも縁だし、どうかしら?
一緒に行かない?
お菓子の国の中心部は、激しい戦場と化していた。
チョコレートファウンテンが目を引く広場めがけて、あちらこちらの道からチョコレートの騎士が攻め寄せてくる。チョコレート工場でもあるんじゃないかと思えるくらいの|大量生産《マスプロダクション》っぷりだが、√能力者の奮戦で、次から次へと砕かれたり溶かされたりしていた。
「わ、私だって……!」
こうなると、ドラゴンプロトコルの少女――シュガレッタ・メルシエも戦う気力が出てくるというもの。ロッドを構え、よろめいたチョコ騎士をえいやっと殴りつける。こんな目に遭っても逃げない辺り、度胸はそれなりに据わっているのかも知れない――。
「あらあら、無鉄砲なご令嬢も嫌いではないけれど」
思いつつ、リーリエ・エーデルシュタイン(アンダー・ザ・ローズ・h05074)は石畳に靴音を響かせ、一陣の黒き風のように駆けた。
――というか、|主人格《ペオーニア》が好きそうな子ね。
リーリエはシャドウペルソナだ。主人格について思いを巡らせながらも、彼女はシュガレッタの動きをよく見ていた。戦う意志があるのは良いが、勇み足も良いところだ。このままでは、すぐに囲まれてしまうだろう。
戦場には他の√能力者もいることだし、ここはまず敵の進入路を塞ぐべき。
「排除せよ……!」
リーリエが向かったのは、全身甲冑のチョコ騎士が駆けてくる道のひとつ。
そこへ飛び込み、ニヤと口の端を歪めた刹那――騎士の胴が、まるで砲弾でも直撃したかのように砕け散った!
身を低くして懐に飛び込み、リーリエが放った拳。
それが、瞬く間に一騎を仕留めたのだ。
躍る黒髪。妖艶な顔には不敵にして凄絶な笑みがある。
チョコ騎士たちも反応しようとしたが、リーリエの方が遥かに捷い。
鎧砕きになぎ払い。技能を駆使して蹴りを放てば、別の騎士が吹き飛ばされる。舞い散るチョコの破片。突き出された槍を紙一重で躱し、放った拳打は、チョコの甲冑をまたも容易く粉砕した。残像を描いての立ち回りは、チョコ騎士たちが捉えられるものでは到底ない。
「鎧砕きも効果覿面ね」
技能攻撃さえ、一度たりとて外すことがないのだ。
となれば、もはや殴り放題、蹴り放題。
ひとしきり暴れ終えて呼吸を整えたとき、リーリエの周りには、砕かれた騎士の残骸とチョコの欠片が散乱していた。
「さて、と。あ、いたいた」
広場に足を向け、無事なシュガレッタを見つけて笑いかけるリーリエ。
その|表情《かお》は先程とは打って変わって和やかな笑顔だった。対人用である。
「ごきげんよう、|砂糖菓子のお嬢さん《・・・・・・・・・》」
リーリエの物言いは、詩的でいて、シュガレッタの在り方を端的に表していた。甘い甘い砂糖菓子。ある意味で、その考え方も――とは言えるけれど。
「……あ、あの……ええと……」
「馬鹿にしているわけではないのよ。だって私も甘いお菓子大好きだもの」
詠うように言葉を紡ぎながら、ゆっくりと歩み寄るリーリエ。
「見た目がね、ふわふわっとしているし。ほら、私と対みたいでしょう?」
言いながら、小さく首を傾げてみせる。
「私が薔薇なら、アナタは砂糖菓子じゃなくて?」
シュガレッタは、どう応えたものかと、目をぱちぱち瞬かせていた。
「これも縁だし、どうかしら? 一緒に行かない?」
シュガレッタが口を開こうとしたその時、チョコレートの騎士たちがまたも広場に攻め寄せてきた。
「こうしていても、押し切られるだけですから……!」
悪くない返事だ。
「それじゃ、行きましょうか」
リーリエがチョコレートの騎士たちを薙ぎ倒して活路を開き。
砂糖菓子の少女もロッドを構えて追随するのだった。
🔵🔵🔵 大成功

【花影】
お誘いに付き合って頂いて有り難う御座いますね、アドリアンさん
お互いを知る為にも、何処かに出かけるのは素敵なことでしょう?
少しばかり私はマイペースが過ぎて、ひとを巻き込んでしまうことがありますが……
誰かを救うひとつの旅を一緒に遂げられるなら、善き思い出になる筈です
さて、迫る敵影は白天の息吹に宿した白い炎の属性攻撃と、それで紡いだ百合の花を散らす【彩に溢れる花風】で一薙ぎに
チョコというのなら熱に弱いのは定番ですね?
溶けるチョコというのも素敵な香りです……
でも私が好きなのはミルクティー
いえ、ほらあの花畑の花びらはミルクティーの飴で出来ているようですよ?
先を導くような風のように軽やかな足取りで

【花影】
その内タイミングがあれば、一緒に出掛ける誘いを出そうかと思っていたけど、まさか先に誘われるなんて思ってもみなかったや。
折角の機会、この機会に少しでも仲良くなれるといいな。
行動力の無い僕よりマイペースでも行動力がある方が良い事だよ。
Noirgeistで複数のナイフを生み出し、ShadowFlame Blazeの炎を纏わせる。
「チョコレートの騎士なら熱に弱そうだよね!」
ナイフを投げつけながら牽制し、隙が出来たら弓槻とタイミングを合わせて√能力で止めをさす。
戦闘後、飴で出来た花畑に向かう弓槻の後に着いていく。
ミルクティー味の飴の花を1輪手折って、弓槻に渡し、自分はレモンティー味の花を手に取る
ダンジョンの中は、まるでお菓子の国の城下町だった。
巨大なケーキのお城は見上げるほどに大きく、カラフルな飴細工の家が、あちこちで三角屋根を連ねている。町を彩るのは宝石のようなキャンディで、色とりどりのその煌めきを、至るところで見ることが出来た。
「お誘いに付き合って頂いて有り難う御座いますね、アドリアンさん」
ふわふわとした声の主は、そんなお菓子の国に咲いた一輪の花のよう。
弓槻・結希(天空より咲いた花風・h00240)は、柔らかな笑みを含んだ。
心地よい風のようではあるけれど、何となく掴みどころがない気もする。
それでいて人並み以上の行動力を見せることがある……という彼女の個性を、アドリアン・ラモート(ひきこもりの吸血鬼・h02500)は何となく分かってきた。
星詠みが予知する事件は、引きも切らない。彼としても、その内タイミングがあえば、一緒に出掛ける誘いを出そうかと思っていたのだけれど。
「まさか先に誘われるなんて思ってもみなかったや」
「お互いを知る為にも、何処かに出かけるのは素敵なことでしょう?」
「そうだね」
折角だ、この機会に少しでも仲良くなれるといいな――そうアドリアンは思う。
「少しばかり私はマイペースが過ぎて、ひとを巻き込んでしまうことがありますが……誰かを救うひとつの旅を一緒に遂げられるなら、善き思い出になる筈ですから」
「行動力の無い僕より、マイペースでも行動力がある方が良い事だよ」
ひきこもりを自認するアドリアンの言葉には、実感がこもっていた。誰かを誘うなんていうのは、簡単なようでいて、意外と難しいものだ。
戦いに出るとなれば尚のこと――。
「敵の援軍はまだ途絶える様子がありませんね」
「贅沢な戦法だね。あの数を相手にするのは大変そうだ。俺たちも力を貸そう」
戦場となっているのは、チョコレートファウンテンのある広場だった。放射状に伸びる道から、チョコレートの騎士たちが押し寄せてくるのだ。
幸いにシュガレッタは、他の√能力者たちに守られているが――次から次へと出てくるチョコ騎士というのは、ある意味、初見殺しの罠である。
ろくに鍛錬も積んでいない新米冒険者であれば、なすすべもなく押しつぶされてしまうだろう。そこそこの冒険者であっても、お菓子の国の地形を利用して逃げ回ったり、敵を撒いたりしない限り、突破することは難しいに違いない。
けれど。
二人のような場数を踏んだ√能力者であれば、話は全く違ってくる。
「チョコレートの騎士なら熱に弱そうだよね!」
広場に向かって走りながら、アドリアンはナイフを投じる。刹那、黒きナイフが炎を纏った。ShadowFlame Blaze――破壊をもらたす炎を得たナイフは、空を灼いて鋭く飛ぶ。
チョコレート騎士が剣を振り被り、シュガレッタめがけて走りだしていた。そこへ燃え上がるナイフが飛来。騎士の腕根にぐさと突き立つ。
腕が溶け、ごとり。チョコの剣ごと地面に落ちた。
「挑戦する気持ちは大切ですが、無理は禁物ですよ?」
ついでふわりと戦場に降り立ったセレスティアル――そのあまりの美しさに、シュガレッタは息を呑んだ。
金のシルクを思わせる艷やかな髪に、穢れなき純白の翼。
甘やかなお菓子の匂いに混じって馥郁たる花の香気が漂い、結希は典雅なる長杖を見事の所作で構えた。それ即ち、白天の息吹。構えれば白き炎が燃え上がり、踏み込みの勢いを乗せた薙ぎ払いは、ただの一振りで数騎を両断する。
是、薙刀の如し。
結希は駆けてくるチョコ騎士を見るや、杖に手を滑らせた。放たれた刺突は、後ろに続く騎士もろともその鎧を貫く。
是、槍の如し。
「いくら硬くとも、チョコレートという性質から外れることはないはずです」
白天の息吹が騎士の篭手を弾き、溶かした。そのまま脳天を一撃すれば、手応えもなく騎士は断たれ、溶け崩れる。
是、剣の如し――。
「怯むな、数で圧倒せよ」
一騎一騎では勝てはしない。
そう察して、囲めとばかりに結希を狙った騎士たちだったが、
「させないぜ?」
アドリアンの影――その薄暗がりから、回転するように浮かび上がってきたのは、如何にも鋭そうなナイフの数々だった。
行けと心に命じれば、避けるまもなく、騎士たちにナイフが突き刺さる。炎を纏ったナイフだ。直後、灼熱がチョコレートの騎士を瞬時に溶け崩れさせた。
「やっぱり思ったとおりだ」
「チョコというのなら熱に弱いのは定番ですね?」
二人の思うところは同じだった。
チョコのフルプレートメイルである。単にナイフを突き立てたり、杖で打ち壊したりするよりも、熱を乗せて溶かしたほうが遥かに効率がいい。
「邪魔者を排除せよ!」
「排除せよ!」
チョコ騎士たちは、狙いをシュガレッタから、結希とアドリアンに変更していた。実力の高い者から狙うというのもまた一つの戦法である。
だが、
「何騎で押しかけようと無駄だ」
影から生じさせたナイフは、無数の火矢よりなお恐ろしい。
それがアドリアンの意思のもと全周に飛ぶのだから、チョコ騎士たちにとっては厄介極まりない。もはや天敵の域である。
剣や槍の間合いに入る前に、チョコのフルプレートにナイフが突き刺さり、溶かされてしまう。
そして結希の操る白天の息吹も炎熱を纏い、薙いだ途端に騎士を容易く溶断した。
「……こんな戦い方、できるものなの……」
シュガレッタは二人の立ち回りに、文字通り圧倒されていた。
いや、それは至芸を見た時のような、感動・感嘆の類であった。
あまりにも差がありすぎるために、劣等感を抱く次元でさえないのだ。
かくしてチョコレートナイツは全滅を遂げた。
堅固な騎士たちは、どうやら上質なチョコレートで出来ていたようだ。まるで湯煎されたかのように溶かされたビターチョコは、辺りに芳醇な香りを漂わせる。
すう、とその香気を味わって、結希がふふりと笑った。
「溶けるチョコというのも素敵な香りです……」
でも――私が好きなのはミルクティー。
ふと視線を転じた先に、結希は|それ《・・》を見た。
「ん? なにか見えた?」
「いえ、ほらあの花畑の花びらはミルクティーの飴で出来ているようですよ?」
シュガレッタは別の√能力者と話しているようだし、ここは任せても良さそうだ。
であればと、結希は不思議な花畑の方へ|旋律靴《リリック》を向けた。足取り軽やかに石畳の道を歩き出せば、こちらへと、風が導くかのようで。
「っと」
アドリアンがその背中を追いかける。
石畳の道が途切れると、そこには飴の花が一面に咲き誇っていた。
お茶の花。
そういうとまた意味が違ってくるようだが、咲いているのは、まさにお茶の味と色をした花々なのだった。
これもお菓子の国らしい光景だ。
ミルクティーの花もあればストレートティーの紅い花もあり、レモンティーの花もある。
わあ、と結希がその瞳に美しき光景を映せば、
「よく出来てるな」
言いながら、アドリアンはミルクティー味の飴の花を一輪手折り、弓槻に差し出した。
「ありがとうございます」
「どういたしまして」
どうやら喜んでもらえたみたいだ。
安堵しつつ、アドリアンはレモンティーの花を手に取って、
「香りも悪くないな」
お土産に、持って帰ってもいいかも知れない。
緒戦を終えた二人は、香り立つ飴の花畑にて暫し語らうのだった。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功

承知しました。……個人的にはああいう、理不尽で言葉の通じない連中っていうのは大嫌いでして。ああいう手合いに駆け出しの子が犠牲になるのは許容できないので、この依頼、頑張らせてもらいますね。
まずは素早く彼女に接触しましょう。√能力、 精霊憑依を使用し、彼女の元へ馳せ参じます。接触後は彼女に害が及ばぬよう、常にフォローしながら、強化された素早さを生かし、フォース・ブレイドをふるい、敵を素早く、鮮やかに一閃していきます。
戦闘終了後は、2人でその辺のお菓子を一つまみしながら、彼女に現在の状況を説明して、これからどうするかを相談しましょう。
※アドリブは自由です
「犠牲者を出すわけには行きません」
時は少々前後する。エレノール・ムーンレイカー(怯懦の精霊銃士・h05517)が駆けつけたとき、巨大なチョコレートファウンテンを中心とした広場は、激しい戦場と化していた。広場から放射状に伸びる幾つもの道を、チョコレートナイツが駆けてくるのだ。
エレノールはそれを琥珀色の瞳に映していた。
――承知しました。……個人的にはああいう、理不尽で言葉の通じない連中っていうのは大嫌いでして。
星詠みからの依頼を受諾した際、エレノールはそう応えた。
チョコレートの騎士もそうだが、「喰竜教団」のドラゴンストーカー……ああいう手合いに、駆け出しの子が犠牲になるのは看過できない。
広場には、√能力者に守られるようにして戦う、ドラゴンプロトコルの少女――シュガレッタ・メルシエの姿があった。
――排除せよ、切り刻め。
チョコレートナイツはまるで無尽蔵であるかのように大軍で攻め寄せてくる。シュガレッタはロッドを構えているが、多くの戦いを経てきたエレノールからすれば、かなり心もとない。
「敵は大軍ですが、一騎一騎はさほどでもないはず」
エレノールは状況を見定め、√能力を解き放った。
「大いなる精霊たちよ、今こそ力を貸して下さい!」
地水火風、4大精霊がその力をエレノールに託す。
地を蹴れば|風の精霊《シルフ》が味方し、その背を後押しして――凄まじい追い風を受け、エレノールは文字通り|飛んだ《・・・》。
シュガレッタに殺到するチョコレートの騎士たち。
それを迎え撃ったのは割って入ったエレノールのフォース・ブレイドだ。
ゴオゥッ! と炎が燃え上がり、騎士の腕ごと剣を溶かした!
「無事ですね。良かった」
「ええと、あの……」
「話は後です。落ち着いて、身を守ってください」
怯えはパニックを引き起こし、通常なら簡単にできる行動すら取れなくなる。ゆえにエレノールはシュガレッタの心が挫けてしまわぬよう声を掛け、自らはその素早さを活かしてフォース・ブレイドを縦横無尽に振るう。
振り下ろされるチョコの剣も。
突き出される槍も。
エレノールを傷つけることなどできはしない。
一閃、首を跳ね。
一閃、胴を薙ぎ。
炎熱を帯びた剣は撫でるだけで、手応えもなくチョコレートナイツを溶断してしまう。そう、如何に強固なチョコレートであっても、火の精霊が味方したフォース・ブレイドを受け止めきれるはずがないのだ。
エレノールのひと薙ぎに、騎士たちはただただ溶け崩れるのみ――。
その疾さ、鮮やかさに、シュガレッタは瞠目していた。
格が違う。踏んできた場数も。
チョコレートナイツの全滅を確認したエレノールの手から、フォース・ブレイドが消える。
「これでひとまず落ち着きましたね」
戦いを終えたあと、エレノールはシュガレッタに声をかけ、近くの丘で小休止を取ることにした。芝生はどうやら本物らしいが、木も枝もチョコレートで出来ていて、枝には色とりどりのグミがなっている。
木を削れば、それがそのまま絶品のチョコレートになる。
綿菓子やお菓子の家のビスケットも貰ってきて、エレノールはシュガレッタとともに、その甘味を味わう。
なかなかの量だったが、お腹が減ってはなんとやらだ。
この場所からは、お菓子の国の様子がよく見えた。
またどこから敵が湧いてくるのかはわからないが、ひとまず休息はできそうだ。
「あなたが狙われているのは確かなことです。ダンジョンの攻略よりも、今は身の安全を確保しないといけません」
「……私、まだまだね……」
「努力次第で能力を磨くことはできます。でも、生命を失ってしまったらどうしようもありませんから」
シュガレッタは頷いた。
今は生き残ること。
言葉には経験の重みが宿るものだ。エレノールの話には、説得力がある。
「必ず生きて出ましょうね」
シュガレッタは頷いた。
厳しい現実を見据えてこそ、成長はある。
「まずは生き延びること、ね」
言いながらシュガレッタがひとつまみしたチョコは、彼女にとって、ほろ苦いものに違いない。
敢えて慰めることはせず、エレノールは小さく首を縦に振った。
🔵🔵🔵 大成功
第2章 集団戦 『鉱石竜「オーアドラゴン」』

POW
尻尾攻撃
【竜の尻尾】を用いた通常攻撃が、2回攻撃かつ範囲攻撃(半径レベルm内の敵全てを攻撃)になる。
【竜の尻尾】を用いた通常攻撃が、2回攻撃かつ範囲攻撃(半径レベルm内の敵全てを攻撃)になる。
SPD
ローリングアタック
【ゴロゴロ転がる回転攻撃】による近接攻撃で1.5倍のダメージを与える。この攻撃が外れた場合、外れた地点から半径レベルm内は【転がる拍子に散らばる鉱石で、不安定な足場】となり、自身以外の全員の行動成功率が半減する(これは累積しない)。
【ゴロゴロ転がる回転攻撃】による近接攻撃で1.5倍のダメージを与える。この攻撃が外れた場合、外れた地点から半径レベルm内は【転がる拍子に散らばる鉱石で、不安定な足場】となり、自身以外の全員の行動成功率が半減する(これは累積しない)。
WIZ
フレイムオーア
【体内で赤熱させた鉱石による火】属性の弾丸を射出する。着弾地点から半径レベルm内の敵には【エネルギーを内包した爆発】による通常の2倍ダメージを与え、味方には【自身の鉱石を打ち出し食べさせ】による戦闘力強化を与える。
【体内で赤熱させた鉱石による火】属性の弾丸を射出する。着弾地点から半径レベルm内の敵には【エネルギーを内包した爆発】による通常の2倍ダメージを与え、味方には【自身の鉱石を打ち出し食べさせ】による戦闘力強化を与える。
「ガオォォォォォッ……!」
チョコレートナイツを撃破して小休止を取っていた√能力者たち。
その耳朶を、咆哮が震わせた。
あちこちで威嚇めいた叫びを響かせるのは、鉱石竜「オーアドラゴン」の群れだ。
鉱石素材を食べて力とする野良地竜だが、どうやら、お菓子の国の宝石めいたキャンディを取り込んでいたらしい。その体は、青だけではなく、食べたキャンディを反映した、カラフルな色合いに変化していた。
「グルルルルルル……!」
彼らは、喰竜教の教団が使役するモンスターである。
腹が減っては戦はできぬというやつだろうか。ともかく満腹になった地竜は、自らの務めを果たそうとシュガレッタに襲いかかる。
もちろん、√能力者たちが妨害すれば、それを排除しようともするだろう。
お菓子の国の戦い、その第二幕の幕開けだ!
※第二章はオーアドラゴンの群れとの戦いとなります。
引き続きお菓子の国でのバトルとなります。
今回はお菓子の国の地形を利用することでプレイングボーナスがつきます。「お菓子の国だったらこんなのがあるはず!」というものは、大抵あると思います。
もちろん、それを意識せずに戦っても、全く問題ありません。
それでは、良き戦いを!

わぁ、鉱石のドラゴンか。
見た目は綺麗だけど、石でできてる分頑丈そう。
そうだな……あ! 閃いた!
さっきと同じ【愉快犯爆弾魔】起動!
今回は凶暴化させちゃうぜ。
【空中移動】で近くを飛んだり地形の影響を回避したりしてローリングしてくる彼らを挑発して誘導しよう。誘導先は……フルーツポンチの泉さ! コロコロ転がらせてドポンと落とさせちゃおう!
溺れるしフルーツが障害物になって動きにくそうだろう?
そこに火の【属性攻撃】を放とうか。飴の影響も受けてるならちょっとは溶けるかも?
あちこちで轟く咆哮が、お菓子の国を震わせる。
今の今まで宝石を貪っていたらしい鉱石竜『オーアドラゴン』の群れが、ようやく満腹になって本来の使命を果たそうとしているのだ。
「わぁ、鉱石のドラゴンか。見た目は綺麗だけど、石でできてる分頑丈そう」
額に手をかざして彼我の距離を目算したエリック・ガブリエラ(落日の翡翠・h06694)は、まだ迎え撃つだけの猶予が残されていると判断した。
そうと判ると今度は腕組みをして、考えること数秒。
「そうだな……あ! 閃いた!」
頭の上にぴょこんと『!』を浮かべるように、エリックは妙案を思いついた。
「ガオォォォォォォッ!」
オーアドラゴンの威嚇は、覚悟のできていない冒険者の心をポキリと折ってしまうくらいの迫力がある。しかも一体ではない。数え切れないほどの鉱石竜が高速で地を這い、襲いかかってくるのだ。
宝石キャンディを食らったことで、地竜はどれもカラフルな色合いをしている。色は違えど共通しているのは――腹が満たされて意気軒昂であるということ。
「来た来た。……よし、今だ!」
半径十四メートル圏内に敵集団を捉えると、エリックはすかさず√能力を解放した。
お菓子の国に再び咲く、爆発の花。
包囲して喰らいつこうとしたオーアドラゴンたちが、纏めて巻き込まれる。爆煙が去れば、そこには。
「オォォォォォォォ――!!」
輪をかけて凶暴化し、咆哮する鉱石竜の群れがあった。
驚いたのはシュガレッタである。
「そんな、効いてない……!?」
天を衝くような叫びを響かせるオーアドラゴンたち。
そこへ、あろうことか、エリックが飛び込んでいった。
「心配ご無用だぜ、お嬢さん♪」
翡翠色の翼を広げて舞うように駆ければ、オーアドラゴンたちは赤布に興奮した牛のように彼を追いかける。
地竜が繰り出すのは、ゴロゴロと体を転がすローリングアタックだ。何体ものドラゴンが地響きをたて、お菓子でできた家やビスケットの塔を滅茶苦茶に破壊していく。
「っとと」
エリックは翼で空を衝ち、宙返りするようにしてそれを回避する。地竜が転がれば転がるほど地面はごつごつとした鉱石床になるが、空中での戦いを意識したエリックは、それをものともしなかった。
「グオォォォォォォッ!」
オーアドラゴンたちも段々と焦れてきた。
暴れ方も次第に烈しくなり、飛ぶように駆けるエリックを猛然と追いかける。
お菓子の街はそこだけ、災厄にでも見舞われたかのように滅茶苦茶になっていた。
「そうそう、そのままそのまま!」
そんな状況にも関わらず、エリックは余裕の表情だ。まるでそういうエンターテイメントであるかのように。
ゴロゴロ転がってくるオーアドラゴンたちが、遂にエリックに追いついて押し潰す――その直前である。
「残念でした!」
地を蹴ったエリックがひらりと横に跳ぶ。渾身の力でローリングアタックを仕掛けた鉱石竜たちは、もう止まることが出来なかった。
その先に広がるのは――フルーツポンチの池だ。
バッシャーン! と物凄い水飛沫を立てて池に突っ込み、甘酸っぱい汁まみれになる鉱石竜たち。まるでそういうスイーツのようにきらきら輝いている。
かなり水深の深い池らしい。
「フルーツが障害物になって動きにくいだろう?」
怒り狂うオーアドラゴンたちは暴れもがくも、なかなか這い上がることが出来ず――それを見ながら、エリックは満足げに魔導書を開く。
炎の呪文が書かれた頁を開き、手をかざせば、火焔が収束。放たれた炎がオーアドラゴンたちを溶かしていく。
「飴の影響も受けてるなら、ちょっとは溶けるかも?」
叫びを上げる地竜の群れ――。
カラフルなオーアドラゴンたちは、フルーツポンチの池で、その硬質な体を溶かされていくのだった。
🔵🔵🔵 大成功

アドリブ、連携大歓迎
こりゃ驚いたねぇ、アリじゃなくてドラゴンが寄ってくるのかぃ。
お嬢さんに近づかれるのは厄介だねぇ。群がる巨体はさながら虹色の津波だ。
大きなポッキーみたいなものがあればそれを斬りあげまき散らし、群れにはなって障害物のようにしようか。群れは先頭がグダればそれが全体に伝播するものだろう?
故に、立ち止まった群れの先頭がそのまま「障害物」となる。
ほうら、隙だらけさ。
「お嬢さん、綺麗なものを見せてあげよう。」
群れをめちゃくちゃに薙ぎ払う。灼熱の剣が竜のカラフルな結晶を斬り散らす。
「こりゃ驚いたねぇ、アリじゃなくてドラゴンが寄ってくるのかい」
咆哮とともに突き進んでくる鉱石竜の群れ。それを見たメロレッド・フロルソレイユ(陽光乱舞・h06661)は状況をウィットに富んだ言葉で表現した。まさに砂糖菓子に群がろうとするアリである。その狙いは、ドラゴンプロトコルであるシュガレッタ・メルシエに他ならないのだから――。
メロレッドはロッドを構えたシュガレッタにちらと目を向けると、吐息した。チョコレートの騎士に苦戦する冒険者が、オーアドラゴンに適うわけがない。突撃でもされたら文字通り瞬殺だろう。
――お嬢さんに近づかれるのは厄介だねぇ。群がる巨体はさながら虹色の津波だ。
巧みな比喩を紡ぐことが出来るほど、メロレッドには余裕があった。
なにしろ撃破すればいいだけのことである。彼女にとっては、ここからが力の見せ所と言ってもいい。
「さてと、まずはひと手間かけるとするかねぇ」
「ガオオオオォォォッ!」
突進してくるオーアドラゴンの群れ。
対して、それを待ち受けるメロレッドの前には、巨大な棒状のお菓子が林立していた。チョコレートがコーティングされているアレである。
「こいつはお誂え向きさね」
メロレッドはアンブロシアを構えた刹那、目にも留まらぬ斬撃でそれを斬り刻んでしまう。ガラガラと崩れた棒菓子はもはや瓦礫のようなものだ。
即座に、メロレッドは後方へと跳んだ。
群れで突撃してきたオーアドラゴンたちは、メロレッドの早業に対応できず、そのままチョコ菓子の残骸に突っ込んでしまう。
山のような残骸は簡単に吹き飛ばされたように見えたが、しかし先頭集団には乱れが生じた。混乱は当然、後続にも波及する。数秒にも満たない遅れ。だがその一瞬だけあれば充分だ!
振り返ることなく、メロレッドはシュガレッタに告げた。
「お嬢さん、綺麗なものを見せてあげよう」
駆ける。
アンブロシアが――巨龍を焼き切る陽光が、燦然と輝き渡る。
疾駆するメロレッド。
その右目が竜漿の集中で燃え上がり、炎の尾を引いた。
「ほうら、隙だらけさね!」
視界に収めた全員の『隙』を見出す竜漿魔眼が、オーアドラゴンの死を捉えていた。跳びながらアンブロシアで顎下から脳天までを斬り上げる。身を捻って着地した直後に地を蹴り、別個体の横腹を切り裂く。
斬られ、砕け散る多色の鉱石。
「グガアァァァァァァァッ!」
カラフルな鉱石竜は怒りの叫びを上げながら尻尾を振り回した。お菓子の家が粉砕され、チョコやビスケットの破片が粉々になって飛ぶ。それでもメロレッドの赤い血が残骸を彩ることはない。赤――鮮烈なる風がオーアドラゴンの群れに吹き荒れる。赤――それは大剣を彩り、鉱石をも溶かし斬る力強き色彩!
「密集しすぎたのが運の尽きさ!」
先程の混乱がまだ尾を引いていた。
急に止まれなかった地竜の後続は、態勢を崩したままで戦うことを余儀なくされていた。繰り出される竜の尻尾による範囲攻撃は圧倒的ではあるものの、メロレッドを捉えられずにただただ町並みを破壊するだけに終わる。
「威力は高いけど、喰らいはしないよ」
メロレッドとて直撃を貰えばただでは済まないが、右の竜漿魔眼に映せば、鉱石竜の動きは読み取れる。
「さっさと砕けちまいな!」
轟ッッ! 灼熱を纏った剣が唸り、カラフルな竜の体躯を斬り散らした!
光り輝きながら雨のように降ってくる、微細な宝石の欠片。
その中に、アンブロシアを手にしたメロレッドが立っている。
ああ、なんて――。
「――綺麗」
輝かしい背中を、シュガレッタは我が目に焼き付けた。
🔵🔵🔵 大成功

シュガレッタさんを護りつつ、このドラゴンの集団を相手をする……。
これは結構、骨が折れますね。
――そういえばさっきお菓子の家がありましたね?結構頑丈そうでしたし、あそこを利用させてもらいましょう。
シュガレッタさんの手を引いてダッシュでお菓子の家へ退避した後、彼女を家の中に残し、少し離れた地点でドラゴンたちを迎撃します。
エレメンタルバレット『水天破砕』で敵の群れの中心部を巻き込むように攻撃、撃ち漏らした相手は狙撃で各個撃破します。余裕があれば、他の人への援護射撃も行っておきたいところですね。
もしドラゴンがお菓子の家の近くに迫ってきたのならば、世界樹の恩寵を発動し、聖樹の鎖で敵を拘束し、こちらへ引き寄せてお菓子の家から遠ざけましょう。
頑丈そうとはいえ、お菓子の家の防御力が未知数である以上、あまり近寄らせたくはないですからね。
敵の√能力は第六感を駆使して回避した後、足場が不安定になる範囲からダッシュで退避して距離を取りたいところです。距離を取れたら再び狙撃を敢行します。
※アドリブ、連携は自由です
時ならぬ咆哮が、戦いの始まりを告げた。
今まで宝石めいたキャンディを貪り食っていたオーアドラゴンが、お菓子の国のあちこちで行動を開始したのだ。
竜の叫びが共鳴するように響き合い、地鳴りと共に町並みが崩されていく。ビスケットの家は砕け散り、キャンデイの塔は倒壊し――お菓子の国は蹂躙されつつあった。
しかし鉱石竜の狙いは町の破壊ではない。彼らの目標は、か弱きドラゴンプロトコル――シュガレッタ・メルシエの殺害である。
「り、竜が……なんて数なの……!」
シュガレッタが体を震わせる。
丘の上で一休みした後、彼女はエレノール・ムーンレイカー(怯懦の精霊銃士・h05517)と共に町の中心へと移動していた。
まだ戦いは続く――そう告げられていたからか、シュガレッタはある程度の心の準備はできていたようだ。流石に青ざめているが、恐怖で動けないほどでは決してない。
「事前に伏せていた? いえ、食事をしていたのでしょうか」
エレノールとて、どのような敵が出現するかまでは知らなかった。それでも、彼女は決して動揺せず、飽くまで冷静にシュガレッタに声をかけた。
「落ち着いて対処すれば大丈夫です。私の指示に従っていただけますか」
こくこくと頷くシュガレッタ。
震える手でロッドを構えてはいるけれど、今の彼女の実力ではオーアドラゴンの体に傷一つ付けられない。それはエレノールの目から見ても明らかだった。それどころか、一度でも攻撃を受ければそれで最後だ。
――シュガレッタさんを護りつつ、このドラゴンの集団を相手をする……。これは結構、骨が折れますね。
エレノールは思いつつ、どのように戦うべきかを考える。
オーアドラゴンの群れはその数を活かし、シュガレッタを包囲しようとしている。が、幸い、他の√能力者たちも町のあちこちで戦闘態勢に入っている。エレノールはそれさえ把握していた。
状況は決して悪くない。
ここは慎重かつ冷静に動くべきだ。
「……お菓子の家を利用すべきですね」
戦いながら戦場を把握するのも、銃士としての重要な習慣だった。
チョコ騎士との戦いの最中、エレノールはチョコやビスケットでできた、とりわけ強度の高そうな建物に目をつけていたのである。
「結構頑丈そうでしたし、あそこを利用させてもらいましょう」
戦場では僅かな躊躇が命取りになる。
「時間をかけてはいられません。行きますよ」
エレノールは、シュガレッタの手を取ると、一目散にその建物へ走り出した。
わわわわわ、と声を上げながらも必死で駆けるシュガレッタ。
短距離走だったら結構な記録が出るであろうスピードだ。
目標地点に辿り着くと、エレノールは頑丈な扉を開け、中にシュガレッタを押し込む。
「ここに隠れていてください。ドラゴンたちは必ず撃退しますから」
「わ、わかったわ……。でも、無理はしないで……」
恐怖のためか、少女の瞳は揺れていた。
けれど、先ほどと異なるのは、シュガレッタにエレノールを気遣うだけの余裕があること。それは二人の交流の賜物とも言えた。揺れる瞳の奥には、信頼と心配の光がある。彼女なりに、勇気を振り絞っているのだ。
エレノールはそれを読み取り、頷いた。
「任せてください」
お菓子の家の扉を閉めると、エレノールは駆け出した。
向かった先は――これも事前に目をつけていた――硬そうなビスケットとチョコレートで作られた塔だ。そこであれば、敵が突っ込んできても対処できる。塔の周囲にはお菓子の家が軒を連ねていて、最悪、屋根から屋根へと逃れることもできるからだ。
「散らばる鉱石の影響も、最小限に抑えられるはず……」
分厚いクッキーでできた階段を何度か踏んでみる。どうやら崩れる心配はないようだ。確認を終えると、エレノールは凛とした眼差しを屋上へ向け、素早く駆け上った。そうして瞬く間に円形の最上階に辿り着くと、狙撃支援用スマートフォン『ホークアイ』を起動。すぐさま狙撃姿勢を取る。構えるは水精の長銃――オンディーヌ。
「敵はシュガレッタさんを狙ってくるはず」
それは冷静な判断が導き出した、ある意味で冷徹とも言い得る状況判断であった。予測に違わず、オーアドラゴンの群れは、シュガレッタの隠れているお菓子の家に突撃し始めている。
シュガレッタと共に逃げながら戦うのは、困難を極めただろう。
と言って、単独行動させるなどもってのほかだ。
恐怖にかられれば、逃げるという行動さえろくに取れなくなる。
つまるところ――これがシュガレッタを護り抜くための最善手。
「集まってきましたね」
幸い、共に戦う√能力者があちこちで敵を喰い止め、撃破していた。
オーアドラゴンの群れは一点突破するように突っ込んでくる。
ダンジョンを吹き抜ける風にドッグタグが揺れ――風が止んだ。
「――今」
敵の動きを予測し、エレノールは引き金を引いた。
狙い過たず着弾。
巨大な水撃弾が弾け、怒涛を招来した。波のように押し寄せてきた地竜は、激しい波そのものに呑み込まれることとなったのだ。激流がオーアドラゴンたちを襲い、その水圧で硬質な体を砕け散らせる!
「ガアァァァァァァァァッ!」
波に踊り煌めくは、千々に砕けた鉱石の欠片。
水精の力が猛威を振るう。
その奔流から、地を這う竜が逃れることなどできはしない。
「ひとまず喰い止められましたか。後は――」
エレノールは周囲に視線を配り、戦闘を継続している√能力者たちを探した。ひとりがフルーツポンチの池に鉱石竜を引き込んだのを見つけると、エレノールはそこへも弾丸を送り込む。ヘッドショットで仕留め、的確な援護をすると、第二波に備えた。
「グルルルルォォォォォォッ!」
「今度は二手に分かれてきましたか」
流石に、同じ手段で攻撃を仕掛けてくるようなオーアドラゴンではなかった。
リーダーがいるわけでもないだろうに、効率的に群れを分散させて攻めてくる。
エレノールは狙撃で食い止めるも、それだけでなんとかなる状況ではない。
一定距離まで近づいてきた鉱石竜は、ゴロゴロと転がりながら街を破壊し、シュガレッタが隠れるお菓子の家に突っ込もうとしていた。
だが、エレノールには秘策がある。
「頑丈そうとはいえ、お菓子の家の防御力は未知数。辿り着かせはしません」
あのローリングアタックを喰らえば、恐らく、お菓子の家は保たない。
そう判断し、エレノールは詠唱した。
――母なる世界樹よ、貴方の大いなる力を我が身に満たし給え!
力を解き放つとともに、エレノールが立つ塔を、植物の根のような光が取り巻いた。
刹那。
回転攻撃を仕掛けようとしたオーアドラゴンが、大地を割って爆発的に生じた植物――聖樹の鎖によりギリギリと拘束される。先頭集団が足止めを食うと、勢いを殺しきれずに後方のオーアドラゴンがぶつかってくる。同士討ちのようになって体表の鉱石を散らし、大混乱に陥った地竜の体に、更に聖樹の鎖が絡みついて絞め上げる。
そればかりか、聖樹の鎖は鉱石竜をエレノールの方に引き寄せさえしたのだ。
鉱石竜たちの悲鳴は長くは続かなかった。
一体一体の頭蓋が、急所が、精密射撃で穿たれていったからだ。
群れが動かなくなった事を確認すると、エレノールは小さく吐息する。
「状況は優勢ですが、油断はできませんね。援護を継続しましょう」
まだ戦いは終わりではない。
そして狙撃手は時と場合に応じて位置を変えるのが鉄則。
気を取り直すように首を振って、エレノールは|水精の長銃《オンディーヌ》を手に、まだ無事なお菓子の町へと身を躍らせた。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功

【花影】
鉱石竜って食べた物で色が変わるんだね。キャンディ食べて変化するのはちょっと面白い。
空を飛ぶ弓槻は天使みたいで綺麗だね。
Umbra Dominusで機動力を上げて周囲のマシュマロの建造物を足場に鉱石竜達の周りを動き回って攪乱つつ、Noirgeistで生み出したナイフを投げつつ攻撃していく。
ローリングアタックにより不安定な足場が発生した時はなるべくその足場に乗らない様に注意して、一旦距離取り、10数本の影のナイフを呼び出して攻撃のタイミングを計る。
「ありがとう弓槻!これで決めてみせる!」
弓槻が作ってくれた隙に、先ほど生み出したナイフ達と一緒に【Umbra Regalia】で攻撃する。

【花影】
鉱石竜たちも、自分たちの生きる環境で変わるものなのですね
色鮮やかさは美しくも、キャンディめいた甘い色艶
けれど、これらがひとを脅かしてシュガレッタさんの脅威となるなら、退けるのみです
吐き出す炎の弾丸は周囲に影響する
それなら柔らかなマシュマロの床や屋根をトランポリンのように高く跳び、翼を羽ばたかせ囮となって空中ダッシュで攪乱を
空高くにいる私に攻撃が来ても周囲にはエネルギーの爆発と戦闘力強化の影響は届かない筈
その上で迫る炎の弾丸を迎え討つように水の属性攻撃を乗せた【星穹からの裁き】
多重詠唱で増した威力で弾丸を相殺し、更に鉱石竜の群れを打ち据え
「今です、アドリアンさん」
彼が動く隙を作りましょう
飛べない竜の咆哮が、新たな戦いの始まりを告げた。
キャンディの家がガラスのように砕け、チョコレートの塔が玩具のようにへし折られる。お菓子の建物を破壊しながら突き進んでくるのは、暴虐なる|鉱石竜《オーアドラゴン》の群れ。
今まで宝石めいたキャンディを貪っていた影響か、その体はなんとも色彩豊かだった。この|お菓子の国《ダンジョン》のキャンディには、何らかの魔力が宿っているのかも知れない。
「鉱石竜って食べた物で色が変わるんだね」
襲い来るオーアドラゴンを見て、アドリアン・ラモート(ひきこもりの吸血鬼・h02500)は少し興味をそそられていた。食べたもので色が変わるというと、フラミンゴなんかもそうだけれど、
「キャンディ食べて変化するのはちょっと面白い」
怪獣映画さながらに突っ込んでくる鉱石竜にも、アドリアンは気圧されなどしない。そしてそれは、弓槻・結希(天空より咲いた花風・h00240)も同様だ。アドリアンがふと視線を流すと、彼女もまた興味深げな顔をしていて、
「鉱石竜たちも、自分たちの生きる環境で変わるものなのですね」
結希は敵の進路を予測しつつ、白天の息吹を構える手に力を込めた。
飴細工の花畑で憩いのひとときを過ごしたことで、英気は充分。
「ともかく、あれを何とかしないとね」
アドリアンも、軽く戦場を見渡した。シュガレッタは他の能力者に守られているようだし、今すべきは、こちらへ突っ込んでくる一団を一掃してしまうこと。
「ええ、ひとを脅かしてシュガレッタさんの脅威となるなら、退けるのみです」
色鮮やかさは美しくも、キャンディめいた甘い色艶――結希は思う。カラフルなオーアドラゴンは見ている分には楽しいけれど、爬虫類めいた地竜の瞳に宿るのは、獲物を追う猛獣のような明確な害意。
必ずここで止めなければ。そう結希は決意を新たにする。
「地形も利用していきましょう」
ダンジョンにも色々あるが、ここは大きなお菓子で作られた国。であれは――それを利用しない手はない。
「ガオォォォォォォォッ――!」
シュガレッタを護るように布陣した√能力者の一角――即ち結希とアドリアンに、オーアドラゴンの群れが殺到する。巨大な爬虫類よろしく進撃する地竜どもが顎を開けば、そこに炎が渦巻き始めた。それは火属性の弾丸――フレイムオーアの攻撃動作に他ならない。
「吐き出す炎の弾丸は周囲に影響する……ならば」
「巻き込まれないようにしないとね」
炎弾が放たれる前に、アドリアンと結希は駆け出していた。
「闇よ、全てを飲み込む王となれ。我が影を纏い、破滅と栄光の力を示せ――Umbra Dominus!」
√能力の解放とともに影を纏い、アドリアンはお菓子の町を疾駆する。
鉱石竜の群れめがけて、一直線に。
その疾さはオーアドラゴンの進軍速度を遥かに凌ぐ。
結希も石畳の街路を駆け、そして四つ辻を左へと曲がった。
更に走ると|旋律靴《リリック》を鳴らして跳躍。落下地点は、道の突き当りに広がる、柔らかなマシュマロの床だった。弾力のある床は結希を跳ね返すようにして天高くにまで運ぶ。
金の髪をはためかせ、羽ばたくようにして、結希はお菓子の家の屋根にふわりと着地。屋根から屋根へと跳び移り、一陣の風のように駆け抜ける。
その軽やかな姿を横目に、アドリアンは思う。綺麗だと。
あちこちで爆発が起こるも、オーアドラゴンの狙いは定まっていない。
直進した彼もまた正面のマシュマロ床を足場にして跳んでいた。空中に身を躍らせつつ、周囲の状況を瞬時に把握する。
「引き付けるには好都合な場所だ」
そこは大小さまざまなマシュマロの建物が並ぶ、言わば住宅密集地だった。
「ガオオオオオオッ!」
オーアドラゴンがそこへ突っ込んでくる。
柔らかな建物が滅茶苦茶に破壊されるが、再び弾力のある足場を蹴ったアドリアンは既に空中。距離を取り、反撃の機を窺う。
「これで、っ――!」
Noirgeist――影から武器を実体化させる力でナイフを形作る。意思を以て投擲すれば、オーアドラゴンの眉間にナイフがさくりと突き刺さった。硬い頭骨さえ容易く貫通する威力は、√能力によりブーストされている。
頭部、眼孔、脇腹――次々に投擲されるナイフのことごとくが鉱石竜の急所に突き立った。炎弾を放とうとした竜の口腔にも刃は突き刺さり、暴走した魔力で大爆発を起こした。吹き飛ぶ鉱石竜の頭。
「ああ、撃たれる前に仕留めればいいのか」
今の彼の疾さなら、それができる。
瞬く間に戦闘不能に陥るオーアドラゴンたち。それはまさしくアドリアンの実力の賜物だが、群れが分散していたことも大きい。
「弓槻は……ああ、流石だね」
結希がかなりの数のオーアドラゴンを引き付けていたのである。
「――どこまで誘い込めるか、ですが」
オーアドラゴンの群れが放った火球が、今しがた結希の蹴ったお菓子の屋根に着弾。大爆発を起こした。
結希の脚は止まらない。
そのまま円筒形をしたチョコレートの塔へと跳躍。その屋上もまたマシュマロで出来ていた。トランポリンの要領で跳んだ結希は更に空中を蹴る。
背後の家が、そして塔が爆発し、結希の過去位置にも容赦なく炎弾が飛んでくる。が、これも彼女の読みの範疇だ。
――空高くに炎弾を放たれても、避けてしまえば爆発の影響は最小限にできるはず。
怖いのは、やはりシュガレッタが巻き込まれることだった。
だがアドリアンと共同して群れを迎え撃った結果、もうその憂いもなくなりつつある。
であれば、あとは纏めて討ち果たすのみ。
「如何に強力な炎を放とうとも」
空中で結希が白天の息吹を捧げ持つ。
何体もの鉱石竜を仕留めたアドリアンがそのさまを見ていた。
宙に身を躍らせ、純白の羽を広げたセレスティアルの姿。
それはまるで――。
「天使みたいだ」
数多の星が、如何なる罪咎をも照らす――共鳴するような結希の多重詠唱により、青を帯びた光が天に広がる。
「オォォォォォォォ!」
オーアドラゴンの群れは結希ひとりを狙って炎弾を放とうとするが――彼らに裁きが下る方が、ずっと速かった。
無数の光が、鉱石竜の頭上にきらめく。
刹那、天使の一軍が放った光の矢もさながらに、燦めく星光が鉱石竜の群れに降り注いだ!
半径二四メートルを攻撃圏とする星穹からの裁きは水属性を帯び、炎弾さえも瞬時に消し飛ばし無力化させてしまう。
それはまるで、厳寒を超えて春の芽吹きをもたらす催花雨の如き光。
「今です、アドリアンさん」
「ありがとう弓槻! これで決めてみせる!」
アドリアンの周囲には影から生み出したナイフの群れ。浮遊する刃が、黒髪の吸血鬼の意志に呼応して音もなく飛ぶ。そしてザクザクと突き刺さる。黒き刃は、鉱石竜の頭蓋を貫き、分厚い筋肉と骨をも断ち割った。全てが紛れもない致命傷だ。
絶叫を上げてオーアドラゴンたちが倒れていく。
光を紡ぎ上げ、放つ弓槻。
影を武器とするアドリアン。
光と影の力の前に、オーアドラゴンの群れは全滅に追い込まれた。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功
第3章 ボス戦 『喰竜教団教祖『ドラゴンストーカー』』

POW
竜骸合身の儀
自身の【身体部位一つ】を、視界内の対象1体にのみダメージ2倍+状態異常【竜化暴走】を付与する【竜化部位】に変形する。
自身の【身体部位一つ】を、視界内の対象1体にのみダメージ2倍+状態異常【竜化暴走】を付与する【竜化部位】に変形する。
SPD
竜骸蒐集
【大剣】が命中した部位を切断するか、レベル分間使用不能にする。また、切断された部位を食べた者は負傷が回復する。
【大剣】が命中した部位を切断するか、レベル分間使用不能にする。また、切断された部位を食べた者は負傷が回復する。
WIZ
真竜降臨の儀
インビジブルの群れ(どこにでもいる)に自身を喰わせ死亡すると、無敵獣【真竜(トゥルードラゴン)】が出現する。攻撃・回復問わず外部からのあらゆる干渉を完全無効化し、自身が生前に指定した敵を【灼熱のブレス】で遠距離攻撃するが、動きは鈍い。
インビジブルの群れ(どこにでもいる)に自身を喰わせ死亡すると、無敵獣【真竜(トゥルードラゴン)】が出現する。攻撃・回復問わず外部からのあらゆる干渉を完全無効化し、自身が生前に指定した敵を【灼熱のブレス】で遠距離攻撃するが、動きは鈍い。
「嗚呼、オーアドラゴンが全滅しましたか。かなりの力を蓄えていたはずでしたが」
戦いで破壊されたお菓子の国に、妖艶な女声が響き渡る。
建物の残骸と鉱石竜の欠片が混じった地面を踏み、歩を進めるのは無数の縫合痕と青き肌を持つ簒奪者。
即ち、喰竜教団教祖『ドラゴンストーカー』。
「か弱き姿に堕とされた、偉大なるドラゴンプロトコル……なんとおいたわしい! 能力者どもの魔手からこの私が救い出して差し上げましょう。然る後、貴女は真竜の一部となるのです!」
√能力者からすればドラゴンストーカーの言い分は全くの逆だ。
彼女の言う救いとは、殺すこと。
彼女の言う魔手とは、救いの手。
顛倒した観念に囚われた狂信者は、自らの言動の身勝手さを顧みない。
ドラゴンストーカーに熱い視線を注がれて、シュガレッタは顔面を蒼白にしながら後ずさった。
力は弱くとも、シュガレッタはドラゴンプロトコル。ドラゴンストーカーはその遺骸を自らに移植するつもりでいる。偉大なる|真竜《トゥルードラゴン》復活のために。
「羽虫どもを退治するなど造作もなきこと。暫しご猶予を――」
「……わからない……」
「……?」
「何を言ってるのか、全然……!」
恐怖の中に輝くは勇気。シュガレッタの眼差しに、ドラゴンストーカーは僅かに首を傾げた。
「勝手なこと言わないで……私はあなたの思い通りになんてならない……!」
全く強がりも良いところだ。
その体はガタガタ震えている。
けれどシュガレッタはここに至るまでに何度も救けられた。
自らもまた懸命に生き延びようとした。
その命を――簡単に諦めるなんてできるものか。
「仕方ありませんね。ですが結末は決まっているのですよ。貴女は偉大なる真竜の礎となり、永遠に生き続けるのです。さあ、まずは邪魔者から排除するといたしましょう!」
ドラゴンストーカーが絶大なる力を解き放ち、√能力者たちに襲いかかる!
※
いよいよドラゴンストーカーとの決戦となります。
ドラゴンストーカーは√能力者を優先的に狙います。能力者を排除すれば、シュガレッタを捕らえることなどドラゴンストーカーにとって余りに容易だからです。したがって、今回はシュガレッタを護りながら戦う必要はありません。
√能力者こそ最後の砦。
どうぞ良き戦いを――。

【花影】
こいつが噂の変態ストーカーか。
やってることも持ってる力もヤバさ満点だね。
Noirgeistで影の鎖とナイフを生み出して攻撃させていく。
鎖には敵の拘束からの妨害を狙わせていき、ナイフ達には主導権を渡さないように波状攻撃を行わせる。
僕自身は両手にÉclat Nebelgeistの霊気を纏って接近戦を行い、弓槻が攻撃しやすいようにドラゴンストーカーの注意を引き付けようとする。
弓槻も接近戦なので、呼吸を上手く合わせて連携を取る。
ドラゴンストーカーが【真竜降臨の儀】を使ってきたら、弓槻の√能力使用に合わせて、√能力を使い、インビンジブルの群れを薙ぎ払い妨害する。

【花影】
あなたの狂信は幸福を呼ぶことはありません
数多と骸を継いで、災いの花を咲かせるというのならこの翼が紡ぐ風にて止めてみせます
盲目的な執念
けれど真竜降臨は恐ろしきもの
必ずや阻んでみせます
即座に【彩に溢れる花風】を発動させ、白天の息吹に風の属性攻撃と祈りによって紡いだ光と共に白櫻を纏わせましょう
発動条件はインビシブルに喰らわせること
ならと花嵐の如く範囲攻撃と化した払撃で周囲のインビシブルを散らして喰らう事を阻止して発動条件を満たさせず、続けて敵本人を打ち据えます
敵が如何に猛撃繰り出そうとも怖れず見切り、早業の体捌きで回避
躱す勢いを殺す事なく継ぎ接ぎの身体の接合部へと貫通攻撃を
「災禍払う光風よ」
「羽虫どもが。私の前に立ちはだかろうとする勇気だけは認めましょう」
禍々しく装飾された大剣。
軽々とそれを操り、ドラゴンストーカーは√能力者たちに突きつけた。
美しい姿なれどもその体は死したように生気がない。翼もドラゴンプロトコルから奪ったものなのだろう。人間の姿に堕とされたと云われる竜の肉体が、簒奪者の体を形作っているのだ。
歪んだ信念に従い、原型を留めぬほどに自己改造した狂信者。
「こいつが噂の変態ストーカーか。やってることも持ってる力もヤバさ満点だね」
魔力。そう呼んでも良さそうな見えざる力を浴びながらも、アドリアン・ラモート(ひきこもりの吸血鬼・h02500)は簒奪者の前に立つ。|ドラゴンストーカー《・・・・・・・・・》なんて名前は言い得て妙だ。こんな危険なヤツを放って置くわけには行かない。
「どうやら力の差を測ることはできるようですね。尻尾を巻いて逃げるなら見逃しますが? ……まァ、愚問でしょうね」
アドリアンは応えない。軽く、ほんの僅かに鼻で笑っただけだ。
ドラゴンプロトコルの命を奪い、その肉体を自らに移植する。
しかして真竜降臨の時を迎える。
なんて傲慢、なんという狂気か。
不死を与えるなど、いかにも狂信者の口にしそうな空虚な|希望《ユメ》だ。殺されれば最後、ドラゴンプロトコルという個は消え失せる。
か弱いから。
取るに足らないから。
そんなものは、簒奪者の身勝手な解釈に過ぎない。
「あなたの狂信は幸福を呼ぶことはありません」
一触即発の空気の中、弓槻・結希(天空より咲いた花風・h00240)は凛と言葉を紡いだ。
「数多と骸を継いで、災いの花を咲かせるというのなら……この翼が紡ぐ風にて止めてみせます」
言うや否や、結希の構える白天の息吹に風が渦を巻いた。その余波が彼女の金髪を、服を、翼を|戦《そよ》がせる。小細工は無要だ。小手調べも要らぬ。はじめから全力を以って解き放つは、彩に溢れる花風――。
祈りが光と白櫻を呼び、光は花と共に舞い踊る。
「面白いことを言いますね。貴方たちがドラゴンプロトコルであったなら良かったのですが。まあいいでしょう。少しは楽しめそうです」
瞬間、地が爆ぜた。
そうとしか思えないような勢いでドラゴンストーカーは跳んだ。
轟! と暴風めいた疾さで接近。身の丈よりも巨大な剣をわけなく振り回し、結希に連続攻撃を繰り出す。
――流石にこれをまともに受けるわけには……!
対するは、達人が夢想の内に会得したとも伝わる杖術。
一颯、狂風を巻き起こし。
一揮、清浄なる風が抗う。
超常の攻防の中で、結希の整った眉が歪んだ。初手に白天の息吹に力を注いでいなければ……そして適切な援護がなければ、積み上げた技を費やそうとも押し負けていたかも知れない。
「羽虫の割にいい動きを見せますね」
それは結希だけに向けた言葉ではなかった。
影から生じた鎖が、そして鋭いナイフの数々が、ドラゴンストーカーめがけて飛ぶ!
「楽しむ余裕なんて消し飛ばしてやるよ」
Noirgeist――多種多様な武器を実体化できるアドリアンの影が、物音も立てぬままにその威力を発揮していた。鎖は狂信者の脚に絡みつき、そしてナイフは――、
「残念ながら、そう容易くは喰らってあげませんよ」
――ドラゴンストーカーの大剣に、その多くが弾かれていた。消し飛ぶ影の刃。だがアドリアンが生成したのは一つや二つではない。幾つもの刃がドラゴンストーカーを取り囲み、飛来する。アドリアンの意思に基き、変則的かつタイミングをずらして。
「チッ……執拗ですね」
その多くを避け、躱しきれぬものは大剣で弾き飛ばすドラゴンストーカー。全く尋常な反射神経のなせる技ではない。
その絶技を前にアドリアンは目を細める。
――これなら行けるな。
影から生じさせたナイフは一本たりともドラゴンストーカーに届いていない。だが、敵は躱すだけではなく、|大剣で打ち払って《・・・・・・・・》いた。鎖。片足がそれに縛られていることも災いし、避けきれていないのだ。
「このようなやり方で私の体に傷をつけられるとでも――」
「――思ってないさ。本命はこっちだ」
敵が防ぎに回った以上、主導権はこちらにある。
大剣が黒きナイフを消滅させた刹那、アドリアンは踏み込んでいた。
その身に纏うはÉclat Nebelgeist――黒髪の吸血鬼は今や霊的な波動に覆われ、神秘は彼の意思を反映し黒き炎めいて燃え上がる。その両手にあるのは影から紡ぎ上げたナイフだ。
駆け廻る黒き風。
一つまた一つと、継ぎ接ぎの体に新たな傷が刻まれていく。
それでも急所を避ける余裕がドラゴンストーカーにはあり――簒奪者はアドリアンを捉えて大剣を振るった。ザンッッ! 斬り裂いたのは黒き吸血鬼の体。否、攻防一体の波動だ。
身を翻し、尚も攻撃に出るアドリアン。
その見事さに、ドラゴンストーカーはニヤと口端を歪めて嗤った。
「いいでしょう」
強く地を蹴り、後方へ跳躍。
「貴方たちには、この力をお見せする価値がある――」」
刹那、ドラゴンストーカーめがけ、インビジブルの群れがまるで操られたかのように群がってきた。
「さあ我が身を喰らいなさい。この肉体こそ真竜の贄!」
まるで飢えきった肉食魚のいる水槽に、新鮮な肉でも放り込んだかのようだった。グラスフィッシュのようなインビジブルの群れが、ドラゴンストーカーに食らいつく。
その時を。
その瞬間を。
結希は待ち構えていた。
「させはしません……!」
「――!」
渾身の払撃が風を呼ぶ。
喰らえばただでは済まないその一撃を、あろうことかドラゴンストーカーは僅かに体を後ろへ流し、ガードして防いでのけた。必要にして最小限の防御。達人が見れば、その妙技に絶望さえ抱いただろう。
だが――構わない。
なぜなら結希の狙いはドラゴンストーカーではない。今にも吸収されようとしている|インビジブルの群れ《・・・・・・・・・》だ。
風。
びょうと颶風が吹き荒れたかと思うと、透明な魚めいた群れが吹き飛ばされていく。
「なっ……」
「インビジブルに喰らわれることが条件ならば、それを阻止するのみです」
無論、それはかなりの力を費やした一手に違いない。
ドラゴンストーカーは喫驚し歯噛みしながら、反射的に反撃に出ていた。ぶぉう、と鈍く風を切って襲いかかるは、胴を薙ぐ禍ツ大剣。
「小娘が……臓腑を散らして息絶えなさい!」
ドラゴンストーカーが罵りながら剣を振るう。
結希とて危険は承知の上だった。もし単身であれば、相当なダメージを覚悟しなければならなかっただろう。
けれど――彼女は一人で戦っているのではない。
――Zwillingssturm Noir!
肉を裂く音、そして血飛沫。
それはドラゴンストーカーのものだった。
「ぐぅッ……!」
ここぞと√能力を解放したアドリアンが、ナイフを投じたのだ。
全方位から、人体急所めがけて。
攻撃動作に入っていたドラゴンストーカーは流石に躱しきれなかった。銃弾めいて飛んだ刃は今度こそ青き体に突き刺さる。
「再結集してきたな。そうはさせるか」
アドリアンは両手にナイフを掴んだまま体を軽々と回転させた。まるで黒き旋風だ。薙ぎ払いで、集まってきたインビジブルの群れを吹き飛ばす!
「弓槻!」
声を放ったアドリアンに頷きを返し、結希が前へ出る。
「私達を甘く見ましたね」
「おのれ……!」
ドラゴンストーカーは、大剣を振り回して結希に襲いかかる。まるで身を切る――否、身を断つ暴風だ。一太刀喰らうだけで五体のどこかが斬り飛ばされかねない。
――ここを越えることさえできれば。
流れるような足運び・体捌きでそれを回避していく結希。
両者の攻防はまるで凄烈な舞いにも見えた。
結希が積み重ねてきた見切りの技。その粋を結集して躱せば、まさに紙一重で大剣が空を切る。態勢を崩すことなく機を窺う結希。
狙うはドラゴンストーカーの体の継ぎ目。
避けては長杖を振るい、避けては振るう。
そのたびに白き花が舞い、血の花が咲いて風に散る。
「災禍払う光風よ――!」
本手打、返し打、合撃――継ぎ接ぎの体を責め苛む長杖の連打。
そして貫くような刺突が、ドラゴンストーカーに無様な舞いを踊らせる。
これ以上の犠牲者は出させない。
二人の√能力者の意志と力が、強き簒奪者を食い止めていた。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功

アドリブ、連携大歓迎
立ち向かうのかぃ、可愛いだけじゃなく度胸もあるなんざ見上げた嬢ちゃんだよぉ。
力の差を以て言えば蛮勇だけど……それでも大した勇気だ、惚れたっ!
こんな素養を持った子をか弱き姿と片付けるかぃ。見る目がないねぇ。
つっても無粋なツギハギトカゲ姉さんにゃ分かんないかぃ?なら大馬鹿同士、力比べと行こうじゃないさ!
とまぁ、アタシはこう言う直球しか出来ないからさ。他はみんなに任せるさぁ。
幕を開けた√能力者と簒奪者の戦い。
その苛烈さに、白きドラゴンプロトコル――シュガレッタは震えていた。
当然といえば当然だ。ぶつかり合うは超常の絶技。もしまかり間違って戦いの渦中に飛び込んだなら、一呼吸の間にその命は消し飛んでいるはずだ。巻き込まれれば最後だと自分でも分かっている。
でも。
それでもシュガレッタは立ち続ける。恐怖に崩折れはしない。それこそが彼女の戦いだとでもいうかのように。
「立ち向かうのかぃ、可愛いだけじゃなく度胸もあるなんざ見上げた嬢ちゃんだよぉ」
少女を、赤が横切った。
シュガレッタの揺れる瞳に映ったのは、メロレッド・フロルソレイユ(陽光乱舞・h06661)の麗しき姿。緑のゴーグルが赤を際立たせ、浮かべる笑みはこの状況にあって、底抜けに明るい。
「力の差を以て言えば蛮勇だけど……それでも大した勇気だ、惚れたっ!」
美女は背中で語る。メロレッドはシュガレッタを護るように立つと、鍔に輝く玉が埋め込まれた剣を構えた。アンブロシア。巨龍を焼き切る陽光との逸話は、ドラゴンストーカーと相対するには余りに出来すぎている。
眼前の簒奪者は如何にも強大な人龍に違いない。
それはまさしく運命的な対峙であった。
「随分と自信がおありのようですね? か弱き娘を護る騎士にでもなったつもりですか」
嘲弄の言にもメロレッドは笑みを崩さない。
「こんな素養を持った子をか弱き姿と片付けるかぃ。見る目がないねぇ」
「人の身に堕とされた以上、才にも限界はあります。故に永遠の命を与えるのですよ。この私の中で」
メロレッドは口端を吊り上げ笑みを強くした。
醜悪。
目の前の敵は明らかに悪だ。
「無粋なツギハギトカゲ姉さんにゃ分かんないらしいねぇ。いいさ。なら大馬鹿同士、力比べと行こうじゃないさ!」
地が爆ぜるような勢いでメロレッドは疾駆した。ドラゴンストーカーめがけ、一直線に。何の搦手もない、正真正銘、全身全霊の突貫である。
小細工は苦手だ。
だからこれでいい。
これが屠竜騎士たる自身の力を、最大限に発揮する戦法なのだから。
「この私と力比べとは。傲慢も甚だしい。ですが……嫌いではありませんね」
迎え撃つドラゴンストーカーも、メロレッドの圧倒的なまでの突撃に初手から全力を解き放った。その右腕が見る見る内に膨張し、変異し、大顎を開き、そして咆哮する。それこそは人体改造の極致。竜骸合身の儀による右腕の竜化である!
相打つ両者の攻防は、まさに竜退治の英雄と魔竜の様相を呈していた。
ゴオウゥッッ――! 竜の大顎が開き、赤々とした炎が渦を巻く。
放たれるはドラゴンブレス。真竜のものとは行かぬまでも、生物の存在を否定する灼熱の業火である!
「焼き尽くせるものならやってみな!」
しかしメロレッドの脚は止まらない。いや、その速度は更に上昇していく。
嗚呼、彼女こそ太陽の申し子。剣を構えて炎に飛び込み、剣を以って炎を断ち割る。焦げたアップルジャケットが脱ぎ捨てられて宙を舞い、ガギリッッ――! アンブロシアの一閃を、ドラゴンストーカーが竜化した右腕が止めた。竜の大顎で噛みつかせることで文字通り|喰い止めた《・・・・・》のだ!
「やるねぇ。でも、まだ終わっちゃいないよ!」
「では試してみましょうか。人と竜、どちらが強いか……!」
まさに力比べ。
互いの膂力が拮抗し、五体が震える。
ドラゴンストーカーが竜の顎で受け止めたのも、そうしなければ受けきれなかったからに他ならない。このまま剣をへし折り、然る後に喰らいつくつもりだ。
対してメロレッドは押し切ろうとしていた。
少しでも競り負ければ、竜に喰われる。
――アタシはこう言う直球しか出来ないからさ。
一瞬の弛緩さえも許されない切迫の間において、しかしメロレッドは不敵に笑う。
「なっ……まだ力を!?」
「恐怖ってのは立ち向かえば小さくなるもんさ。あの嬢ちゃんが見せてくれたようにねぇ!」
メロレッドは声を放つ。ダンジョンに響く烈声を。
ギリギリギリギギギギギッ――アンブロシアが竜の歯を軋ませ、斬ッ!
その上顎から頭蓋にかけてを|弾くように《・・・・・》斬り飛ばした!
ここに機は熟せり。斬られた竜の頭が宙を舞う中、勢いそのままに体を回し、メロレッドは大剣で斜め一閃。渾身の屠竜宣誓撃でドラゴンストーカーを深々と斬り裂いた!
「ッ……! まさか、竜化した腕が斬られるなんて……」
ドラゴンストーカーは血を流し、メロレッドが流すのは汗だ。
「力比べはアタシの勝ちってことでいいよねぇ?」
息を荒く吐きながら太陽の申し子は笑う。
――あとは他はみんなに任せるさぁ。
彼女の後ろで、シュガレッタは瞠目していた。
燦然たる|屠竜騎士《ドラゴンスレイヤー》――その勇姿に。
🔵🔵🔵 大成功

※アドリブ、連携お任せ
無事切り抜けた、と
ええ、別にサボっていたわけじゃないのよ?
シュガレッタさん、貴方を信じていただけ
さてさて
シュガレッタさん、貴方は下がって?
薔薇はひとりでも咲けるけれども
自分以外を飾る時が一番映えるから
目的の為になり振り構わない姿は嫌いじゃないけれども
誰かが犠牲になる戦いはお断り
私はアナタのような『悪』を潰す為の『悪』人格
【薔薇の決闘者】――タイマン張らせてもらうわ
逃がさない、距離を取らせない、私の間合いから外れることなく
至近距離での殴り合い
殴り続けていたらいつかどうにかなるでしょ
攻撃はショートダッシュやジャストガード、拳で受け流して回避を試みる
受けても激痛耐性で凌ぐわ
無敵? 構わないわ
私が死なない限り、シュガレッタさんには辿り着けない
アナタの自身の誇りを賭けてそうなさい?
私は私の誇りにかけて倒れることはしない
【花の嵐】――さぁ、とことんまで踊って頂きましょうか?
私の【|鋼玉甲拳《コランダム》】がどこまで通じるか
楽しみだわ!!
お菓子の国に暴力の嵐が吹き荒れ、ファンシーな景観は無惨に崩れつつある。
ドラゴンストーカーと√能力者の戦いはそれ程に苛烈だった。まるで戦火に晒されたかのように壊された町の只中に、強大な簒奪者は立っている。
竜化したまま断ち切られた腕――その肘から先は既にない。断面はシュウシュウと煙めいた魔力の残滓を漂わせ、だというのにドラゴンストーカーは無事な片手で大剣を構え、妖艶にして酷薄な笑みを顔に貼り付けたまま。
ロッドを構えて遠目に見ていたシュガレッタが、その金色の双眸から放たれる視線にびくりと震えた。強大な簒奪者に睨まれて、腰を抜かさず立っていられるだけでも褒められるに値しよう。
だがその場に縫い止められてしまったかのように、シュガレッタは動かない。否、動けない。
その傍らに、ふわりと黒髪をなびかせて立った者がある。
「無事切り抜けた、と」
形の良い唇を苦笑交じりの笑みにしたのは、リーリエ・エーデルシュタイン(アンダー・ザ・ローズ・h05074)。
「ええ、別にサボっていたわけじゃないのよ? シュガレッタさん、貴方を信じていただけ」
「……来てくれたんですね」
口数が少ない方ではない。だが今のシュガレッタには、震える声でそういうのが精一杯だった。
「もちろん。綺麗な砂糖菓子のアナタを毀させるわけにはいかないもの。あんな竜もどきにはね」
リーリエとドラゴンストーカーの視線がぶつかり合う。凄烈な美貌の持ち主が、互いを敵と認めて殺気を送り合う。
「さてさて、シュガレッタさん、貴方は下がって? 薔薇はひとりでも咲けるけれども、自分以外を飾る時が一番映えるから」
声が、シュガレッタの精神的な縛鎖を緩めた。
頷き、後退する白の少女。
リーリエは笑みの様相を一変させると、まるで舞台女優のような足取りで、討つべき敵の前に歩み出る。
対するドラゴンストーカーは黄金に縁取られた禍々しい剣を突きつけ、嗤った。
「貴女も私の邪魔をするのですね。ならば斬り殺して差し上げましょう。血の色に塗れた黒。嗚呼、想像するだけでもゾクゾクしてしまいます」
「あら、想像力が逞しいのね? やれるかどうか試して御覧なさい。一対一で、私を超えられるのかを」
「言われずとも――」
大剣を手に、ドラゴンストーカーが跳ぶ。
「上等よ。タイマン、張らせてもらうわ」
リーリエもまた地を蹴って疾駆していた。彼女の闘争宣言がお菓子の国に響き渡り、それを契機として√能力が空間そのものを歪める!
天宙からドーム状に広がる変化。戦場が黒き薔薇の花々に囲まれた円形闘技場に塗り替えられる。花弁が舞い散り、その中をリーリエが風の如くに駆ける!
「嗚呼、なんと凄烈な。ですが好きにはさせませんよ」
間合いには入らせぬとドラゴンストーカーは大剣を振るい、牽制攻撃を繰り出す。その悉くを浅手にとどめ、岩をも砕く程に鍛え抜いた裏拳が巨大な剣の腹を弾いた。
連打。手応え。だがまだ浅い。隙を探りながらリーリエは思う。
――これまでにどれほどの犠牲者を生んできたのかしらね?
ドラゴンプロトコルの身体をパッチワークのように切り貼りし、簒奪者はその体のすべてを置き換えている。なんという狂信か。
「目的の為に、なり振り構わない姿は嫌いじゃないけれど。誰かが犠牲になる戦いはお断りよ」
「犠牲なくして大業は果たせないのです。貴女も贄となりなさい!」
口に端を吊り上げて、リーリエが笑いを返す。
「私はアナタのような『悪』を潰す為の『悪』人格。そう容易くはいかないわ」
ふわりと黒髪がなびく。コマ送りのような一瞬の中に、簒奪者は見た。
懐に入るリーリエ、その凄絶な笑みを。
拳を繰り出せば、みな必中。
それこそが薔薇の決闘者の力だ。
打ッ打打打打打打打打打――! 繰り出される拳は機関銃の如し。だがドラゴンストーカーもさるもの、体捌きと足運びで急所を逸らし、剣を持つ方の腕でガードしながら距離を取ろうとする。躱せない必中の打撃ならば、防ぐのみ。肉薄された以上、大剣の間合いでは捉えることはできず――故に簒奪者は飛び退き、反撃の一閃にて首を狙う。
読み通りだ。
――逃がさない、距離を取らせない。
リーリエは地を蹴って低く跳び、砲弾めいた速度で肉薄。
踏み込み、からの体重の乗った拳を繰り出す!
「が、ぐうッ!」
腹に拳がめり込み、吹き飛ばされるドラゴンストーカー。
だが口の端の血を拭うと、簒奪者にして狂信者たる女はそれこそ狂ったような哄笑を響かせた。
「ハハハハ、ハハハハハッ――素晴らしい。貴女には真の力をお見せするに足る!」
更に間合いを詰めようとするリーリエより早く、凶暴化したインビジブルの群れがドラゴンストーカーに殺到した。透明な肉食魚の群れに喰われるように、見る間に肉体を崩れさせていくドラゴンストーカー。
『嗚呼――この死こそ新たな生への飛翔……!』
構えを取るリーリエの前で、地鳴りとともに立ち上がったのは、巨大な竜。それこそは四つ足の蒼き真竜――即ちトゥルードラゴンの威容!
息を吸う動作は、全てを燃やし尽くすブレスの前触れだ。
だが、棒立ちで待ち構えるようなリーリエではない。
ドラゴンが息を吸う動作より早く、彼女は第二の√能力を解き放っていた。
纏うは花々のかぐわしき香気。地を蹴ればその速度は先程より遥かに疾い。
その身は最早、花香を放つ一陣の風。
「エーデルシュタインの百合は、華麗で陽気で、荒々しいのよ!」
灼熱のブレスが広範囲を焼くも、そこに既にリーリエの姿はなかった。
リーリエは前へ。
シュガレッタは、最前の彼女の言葉を受けて遠く距離を取っている。
真竜と化したことで鈍重となったドラゴンストーカーはシュガレッタを追えず、距離を詰めるリーリエを防ぎ止める手立てもない。
回り込むようにしてブレスから逃れ、距離を詰めるリーリエ。
『無駄なことを。どれほどの攻撃でも我が肉体に傷はつけられぬぞ!』
「無敵? 構わないわ。それに私が死なない限り、アナタはシュガレッタさんには辿り着けない。そうでしょう?」
超えられるか。戦いの直前、そうリーリエは問うた。
薔薇の悪役令嬢倒れぬ限り、鈍重なる竜の魔手はシュガレッタに届かない!
狂信の竜が苛立ちをこめて咆哮する。
『邪魔はさせぬ! 必ずドラゴンプロトコルを取り込んでくれる!』
どんな手を使ってでも、シュガレッタを手に入れる。その意思、その欲望の強さを感じ、リーリエは笑う。
「アナタ自身の誇りを賭けてそうなさい? 私は私の誇りにかけて、倒れることはしない」
徹甲弾めいた拳が立て続けに真竜を直撃! その巨体を震わせる!
「――さぁ、とことんまで踊って頂きましょうか?」
無敵。
あらゆる干渉の完全無効化。
そんな埒外の能力を前にして、リーリエの心は躍っていた。
――私の|鋼玉甲拳《コランダム》がどこまで通じるか、楽しみだわ!!
巨体である。
どこを狙おうとも、拳が外れることはない。
そう、真竜は避けられない。
灼熱のブレスが円状に放たれるが、それより先に疾くリーリエは駆け回り、炎を免れる。拳を振るえば、竜が悲鳴じみた叫びを上げた。無敵の筈の真竜が――。
「……!」
シュガレッタも竜の叫びを聞いた。
シュガレッタさん、貴方は下がって? ――リーリエの言葉通りに彼女は後退し、そのお陰でブレスの脅威を免れていた。
繰り広げられる戦場の光景は、想像を遥かに超えている。
今や彼女は戦場から距離を取り、巻き込まれぬように逃れる以外にない。
――ごきげんよう、砂糖菓子のお嬢さん。
声が耳に蘇る。
強がって、強がりすぎて、無理をした。
そんなシュガレッタの前に颯爽と現れたのがリーリエだった。
認めてくれたのだ。自らの姿を。
今、逃げることは恥ではない。
救われた命を抱きしめ、生き延びることこそが勝利。
「お願い、どうか……」
シュガレッタは祈る。
リーリエの生還を。
そして彼女に無敵の竜を討つ力をと。
「動きが鈍ってきたわね?」
真竜の体に、立て続けに拳がめりこむ。
ダメージを受けていないのか、トゥルードラゴンの両目はシュガレッタを捉えていた。いや、それも無敵ゆえの、執着の表れだ。
『逃さぬ――!』
変声機にかけたような重々しい声が竜の喉を震わせる。
狂える信念が、欲望が、竜を苛立たせ、そして特大の咆哮を放たせた。
このままでは、あのドラゴンプロトコルに逃げられる。
真竜を駆り立てているのは、紛うことなき焦りの感情だ。
動きが鈍いのが、トゥルードラゴンの最大の弱点だった。
「行かせないわよ。これはどうかしら!?」
ドッ、ゴウッッッ! 轟音を立てて渾身の直拳が竜の胸にめりこむ!
直後――巨体が震え、光に包まれ始めた。
飛び退くリーリエ。
目の眩むような輝きが爆ぜる。
「これは……ああ、私の勝ちのようね?」
真なる竜であったはずのドラゴンストーカーは、リーリエの前で元の姿に戻っていた。否、|王権執行者《レガリアグレイド》の力で、即座に自身を蘇生させたのだ。
このままでは埒が明かないと判断したのだろう。
だがそんな真似も、何度も繰り返せはしない。
無敵の真竜、ここに敗れたり。
それこそは勝敗の天秤が、大きく√能力者側に傾いた瞬間だった。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功

素晴らしい、シュガレッタさん。
その勇気を生み出せたあなたなら、きっと立派な冒険者になれるでしょう。
あなたの勇気に敬意を表し、私も全力であなたを守ります。
この「|狂信者《頭のイカレたクソ外道》」を倒し、必ず生きて帰りましょう。
さあ、離れて見ていてください。ここからは、私の仕事です。
シュガレッタさんが十分に距離を取ったのを確認し、幻影使いのスキルを発動。
相手が幻影に翻弄されている隙に素早く距離を取り、お菓子のオブジェクトや建造物に身を隠します。
さらに、ミラージュケープや潜伏者の外套の力で気配を消し、認識されにくくし、その状態を維持しながら、物陰から遠距離狙撃を続けます。
適宜、エレメンタルバレット「水天破砕」を用いて攻撃と支援も行いましょう。
見たところ、相手は接近戦を主体に戦ってくるはず。
可能な限り遠距離からの攻撃に専念するのが得策でしょう。
とはいえ、いずれ接近を許すこともあるでしょう。
その場合は、装備を錬成剣「賢者の剣」に持ち替え、第六感を駆使して回避に専念しつつ、反撃の隙を伺います。
そして、竜骸蒐集を繰り出すならば、黄金色の魔眼を発動。(発動時間は、以下の行動が終わるまで)
敵が麻痺したのを確認し、
「他者から奪ってきたあなたには、他者から奪われる気分を味わってもらいましょう。それも、あなたが普段“下等”と見下している存在に」
そう言いながら、怪異切断施術を敢行。武器を握る方の腕部の切断に取りかかります。
※アドリブ、連携OKです
「こうまで妨害されるとは……嗚呼、ですが邪魔が入れば入るほど、望みを遂げる瞬間は甘美となるものです」
√能力者の眼前に立つ簒奪者は、まさに超常の怪物と呼ぶに相応しい。
激戦の中、我が身をインビジブルに食らわせ、遂に|真竜《トゥルードラゴン》と化したドラゴンストーカー。命すら投げ出す真竜降臨の儀――それさえ√能力者に破られたが、簒奪者はあろうことか平然と蘇生して見せた。
いま、その姿は開戦当初のまま。
斬り飛ばされていた腕も、元通りになっている。
これが|王権執行者《レガリアグレイド》――簒奪者を統べる者。
だが――√能力者たちは見る。その力は、確実に削がれてきていると。
「もう少しだけお待ち下さい、偉大なるドラゴンプロトコルよ。貴女を我が一部となす工程を、この者たちの血と死で彩りたいのです」
妖しく輝く金の瞳。
放たれる視線にシュガレッタ・メルシエは青ざめ、びくりと震えた。
本当に生き延びられるのか――不安と懐疑が少女の胸を侵食する。無理もない。揺れる瞳に映っているのは正真正銘の化け物だ。
それでも。
シュガレッタは立っていた。震える脚で、今この瞬間も。
ロッドを構え、心折れずに立ち続けている……!
恐怖。
心を覆い尽くす重いタールめいたその感情は時に理性さえ吹き飛ばす。恐慌に支配されずに済んでいるのは、短い間なれど共に戦ってきた√能力者の存在があるからこそ。
即ち――、
「素晴らしい、シュガレッタさん。その勇気を生み出せたあなたなら、きっと立派な冒険者になれるでしょう」
――エレノール・ムーンレイカー(怯懦の精霊銃士・h05517)がいるからだ。
「あなたの勇気に敬意を表し、私も全力であなたを守ります」
恐れ知らずはただの蛮勇。
エレノールにとって|恐れを知る《・・・・・》からこその勇気である。
「この『狂信者』を倒し、必ず生きて帰りましょう」
その言葉が、折れそうなシュガレッタの心を支える。砂糖菓子のように甘かった少女。その瞳は、恐怖に揺れながらも、今や強き意思を宿している。生き延びたい、という意思を。
「私、は……」
震える声でシュガレッタが言葉を紡ぐ。
「貴女を信じることしかできない……だから…………お願い……!」
この状況で声を絞り出す事が出来ただけでも、見上げたものだ。
「約束しましょう」
エレノールは笑みを見せ、琥珀色の瞳をキラと輝かせた。
「さあ、離れて見ていてください。ここからは――私の仕事です」
「大きく出ましたね。貴女を殺せばドラゴンプロトコルの絶望もより深いものとなるでしょう。恐れも悲しみも、永遠の生命へと飛躍するための力となる……!」
ドラゴンストーカーは、芝居じみた口上を告げると、愉快げに嗤った。エレノールに伸ばした剣持たぬ方の手も、√能力者に斬り飛ばされたことが嘘であるかのように元通りになっている。
けれど、全てが治癒しているわけではないだろう。
確実にダメージは蓄積しているはず。
「嗚呼、エルフの貴女……貴女を八つ裂きにして喰らいましょう。光栄に思いなさい!」
大剣を手に、ドラゴンストーカーが征矢のように疾駆する。
瞬きする間もあらばこそ。ぶおぅんッッ! 唸る妖美にして苛烈な剣が、エレノールを逆袈裟に斬り裂く!
「……チッ!」
だが、その手応えのなさにドラゴンストーカーは舌打ちしていた。避けたのか? 至近距離に立つエレノールめがけて再び斬りかかるが、またも大剣は虚しく空を切る。この間、僅か数秒。
「……妙な真似を!」
愉しげな笑みを浮かべたドラゴンストーカーは、円を描くように大剣を振り回した。それだけで烈しい風が巻き起こる。エレノールは声もなく吹き飛び――そして|忽然とかき消えた《・・・・・・・・》。
「やはり、幻影……!」
怯懦の精霊銃士は真正面からの戦いを好まない。姿を晦まし、搦手から攻めるがエレノールの正攻法である。今も培ってきた幻影使いのスキルが、ドラゴンストーカーの感覚を乱していた。僅か数秒。だがそれだけあれば必要にして充分。
その時、既にエレノールは身を隠していた。未だ原型をとどめている、お菓子の町の中へ――。
「ならば炙り出すまでのこと」
ドラゴンストーカーの戦法は対象的だった。
凄まじい膂力を以って大剣を振るい、砂糖菓子の家も、チョコレートの塔も、瞬く間に吹き飛ばしてしまう。
だが、ダンジョンは広大だ。
ドラゴンストーカーも周囲の建物すべてを倒壊させるには時がかかる。
「臆病なエルフですこと。じわじわと居場所を暴いて差し上げましょう」
たがその力はまさしく災厄の具現だ。
竜が人の形を成したかのようなドラゴンストーカーは、お菓子の町を蹂躙していく。
――まだ見つかってはいないようですね。
対して、城のように大きなケーキの建物の影にエレノールは潜んでいた。|王権執行者《レガリアグレイド》であるドラゴンストーカーの探知を免れているのは、エレノールが有効そうなスキルとアイテムを総動員しているからである。
身につけたミラージュケープは目くらましの魔法で、認識と探知を阻害。潜伏者の外套にも、気配を消す魔法が織り込まれている。靴もまた物音を立てない特別製だ。培った気配遮断と忍び足のスキルも注ぎ込んでいる。
でなければ、容易く発見されていたに違いない。
ドラゴンストーカーが悠然と十字路に歩を進め、大剣を振るう。
エレノールはそれを物陰から視認していた。
吹き飛ぶお菓子の建物たち。
砂糖菓子がまるで粉雪のように舞い上がる。
「今……!」
相対距離、目測で三十メートル弱。
この距離で外すことなどありはしない。
物陰から半身を出すようにして水精の長銃「オンディーヌ」を構え、引き金を引く。放たれるはエレメンタルバレット『水天破砕』――ドラゴンストーカーは即座に察知したが、巨大な水撃弾の攻撃範囲は半径二五メートル。流石のドラゴンストーカーも不意を突かれた今、避けることは不可能!
――水精よ、激流となりて敵を衝て!
祈りに応じて、|水精《オンディーヌ》が激流を荒れ狂わせる!
「オ、オオォォォォッ……!」
五体を砕くような水圧にドラゴンストーカーは声を響かせた。
が、ここで仕留めたと安堵するようなエレノールではない。
果たして、敵は激流を|斬り裂いて《・・・・・》飛び出し、一直線に斬り掛かってきた。狙撃地点を見切り、エレノールが移動する前に飛び込んできたのだ。
「居場所が知れましたね! 喰らいなさいッッ!」
ゴオウゥゥッ! 暴風を巻き起こす大剣の一薙ぎが、砂糖菓子の建物もろともエレノールを斬り飛ばす!
否、斬られたのは水精の長銃――その銃身であった。
極度の集中でコマ送りになったエレノールの視界に、断たれた銃身が回転しながら飛んでいくのが映る。あとで修理が必要ですね――そんな思いも一刹那。外套を翻して後方へと身を流し、斬撃の余波からも逃れる。回避できたのは奇跡的。いやそれは水天破砕がもたらす激流が敵に少なからぬダメージを与えていたこと。そしてエレノールの警戒心と反射神経のなせる業であった。
けれど、
「これで小賢しい銃は使えませんね――!」
尚も迫るドラゴンストーカー。
遠距離射撃で出来るだけダメージを与えておきたかったが、事此処に至っては是非もない。
エレノールは鼓動が早まるのを感じながら素早く白兵戦用の装備に持ち替えていた。即ち詠唱錬成剣「賢者の剣」――柄に内蔵した試験管から、属性に合わせた刀身を生成する武器である。生じたのはバチバチと電光を発する雷の剣だ。
突き出されるドラゴンストーカーの大剣に刀身を当てて逸らし、電撃を通す!
「ホウ、遠くから狙うだけが能だと思っていましたが……近接戦闘もできるというのですか!」
ドラゴンストーカーの目には、弓兵が剣を持ったように映っただろう。
事実、エレノールは、ドラゴンストーカーの大剣と打ち合うだけで精一杯に見えた。大剣を弾くたびに電撃が爆ぜる。更に繰り出される横一閃。エレノールは身を翻すも、大剣の斬撃はかすめるだけで外套を裂き、血を飛沫かせた。
「……ッ」
「よく戦ったと褒めて差し上げましょう」
ドラゴンストーカーがここぞと√能力を解放する。
「気に入りました。その体、喰らって我が一部とさせていただきます――!」
それこそは王権執行者たる彼女渾身の竜骸蒐集――大剣が唸りを上げ、エレノールを切断せんと迫る!
それはおよそ避けられるような一撃ではなかった。
飛び退こうにも間に合わない。それほどの速さ、それほどのドラゴンストーカーの|全力《・・》。どのように身を躱そうとも、回避不可能な斬閃。
――だが。
「ひれ伏しなさい……っ!」
避けられないならば、別の手を講ずるまで!
斬撃がエレノールを両断する間際、少女の口から声が迸った。
そう、身躱すのは間に合わねども、声は斬撃より速く届く。
そしてそれは|視線もまた同じ《・・・・・・・》……!
「な、ッ……!」
ドラゴンストーカーが瞠目する。その体が、腕が、びくりと震える。
斬撃は一拍遅れて銀弧を描いた。そこにエレノールはいない。既に飛び退き、死地から逃れている――!
「貴女、何を……!」
継ぎ接ぎの体が不自然に痙攣していた。
麻痺――自らの肉体を襲った現象を理解できても、何をされたのかは、流石のドラゴンストーカーにも一瞬には判じかねたのだ。
エレノールの妖しく輝く瞳。
叫びを契機として、その双眸は黄金色の輝きを帯び。
ドラゴンストーカーの体を麻痺が襲った。
とすれば、
「魔眼……!?」
「今のは本当に危ないところでした――」
見開かれた瞳は如何にも魔的だ。
ドラゴンストーカーの麻痺はまだ解除されない。
そう、命を削る|彼女《エレノール》が、その目を閉じる瞬間まで――!
「他者から奪ってきたあなたには、他者から奪われる気分を味わってもらいましょう。それも、あなたが普段“下等”と見下している存在に」
ドラゴンストーカーが歯噛みし、震えながら大剣を構える。その瞳にあるのは狩られるものの恐怖。
「奪われることの意味を知りなさい」
賢者の剣、その刀身がひときわ強くスパークし――そして次の瞬間、燃え上がるような『黒』に塗り替えられた。まるで呪詛で塗り固めたかのように。
この王権執行者を討ち取るには、格別の能力が必要だ。
即ち、|戦闘錬金禁術《プロエリウム・アルケミア・フォビドゥン》。そして怪異切断施術の合わせ技である。
「莫迦な、この私が貴様のような存在に――」
傲慢なる王権執行者は、眼前の√能力者を見くびっていた。
まさかここまでの力を持っているとは。
だが恐るべきは、ドラゴンストーカーの肉体強度と、精神力であった。
√能力による麻痺に襲われてなお、王権執行者たる彼女は剣は振るう。
「負けるものか……数多のドラゴンプロトコルを取り込んだこの私が!」
「あなたの力は、どこまでいっても借り物。あなた本来の力ではありません」
交錯。
刃は閃き。
流れるような闇を引きながらエレノールが賢者の剣を振り抜く。
二閃。青の腕が――そして首が飛んだ。
驚愕の表情を顔に貼り付けたまま、ドラゴンストーカーの首が地に転がる。
大剣はお菓子の家に突き刺さり。
継ぎ接ぎだらけの身体が、一拍遅れて地に伏した。
泣き別れになった首と身体が、そして大剣が溶けるように消滅していく。
「終わっ、た、の……?」
遠目に戦いとその結末を見ていたシュガレッタが、へたり込んだ。
力なきドラゴンプロトコルは、逃げずに戦いを見届けたのだ。
ガタガタと震えても、心臓が早鐘を打っても、
「あなたは恐怖に負けなかった。それは誇るべきことです」
激戦を終えたエレノールがゆっくりと歩み寄り、そして――ふわりとした笑みとともに手を差し伸べた。恐れを知るからこそ、エルフの少女は、か弱きドラゴンプロトコルに寄り添うことが出来たのだ。シュガレッタにとって、それは奇跡的な巡り合わせだった。
「ありがとう、なんて言葉じゃ足りない……」
伏せていた視線を上げ、シュガレッタはエレノールの目を真っ直ぐに見つめた。
「だから……救けてもらったこの命、絶対に無駄にはしないわ」
理想の追求は決して甘いものではない。
望みが大きければ大きいほど、道行きは厳しいものになるだろう。
けれど――生きているのだ。
「その意気です。あなたにもきっと、出来ることはあるはずですから」
帰りましょう。
エレノールがそう言うと、シュガレッタは泣きそうな笑顔を浮かべて頷いた。
輝ける命を抱きしめて。
√能力者たちとドラゴンプロトコルは|お菓子の国《ダンジョン》からの帰還を果たす。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功