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Gimelの特別な一日

#√EDEN #ノベル #バレンタイン2025

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 √EDENにおいて、バレンタインは大きなイベントのひとつだ。
 買い物客で賑わう百貨店。お洒落なスイーツショップ。果ては、街中のコンビニまで。年に一度のかき入れ時である一大商戦に備え、客商売に従事する者たちは“本番”の支度に余念がない。
 それは、この世界の一角にある一軒の店も同じであった。
 名を『Gimel』。
 渡瀬・香月(ギメル・h01183)が経営する、カフェ&ダイニングバーである――。

 完成したスイーツを厨房から運ぶ。煌びやかな品々が、カウンターに続々と並ぶ。
 営業時間の終了した店内。来たるバレンタインフェアに向けて新メニュー開発を進める香月の表情は、いつになく真剣だ。
「ん~……迷うなー。どれを選んだもんか」
 呟きつつ、香月は新作の品々に目を向ける。
 ブランデーが馥郁と香るガトーショコラ。ナッツを贅沢に散りばめたブラウニー。金色のオレンジピールが鮮やかなチョコレートムースケーキ、等々……どれもが会心の出来であり、彼の自信作である。
「やっぱ綺麗な盛付けは外せないよなー。ウチの店は、女性が予約して恋人さんを連れて来る流れがメインだろうし……」
 不思議なもので、実物のスイーツを前にすると、イメージする客の様子も一層鮮明だ。店を訪れてくれた人たちに、最高のひと時を過ごして欲しい――そんな彼の信念に、妥協は一切ない。
 設備や人手の事情から、お披露目の品は一つに絞ると決めていた。それだけに、自慢の品々を見つめる香月の表情は真剣そのものだ。
 それから、暫しの時を経て。
 ひとつひとつを丹念に選び抜き、最後に残った一皿を前に香月は得たりと頷いた。
「……よし。コイツでいこう」
 一度決断すれば、香月に迷いは無い。
 店で出す一品は決まった。後は、バレンタインの日を待つのみだ。

 そうして迎えた当日、『Gimel』の店内はいつにも増して大入りとなった。
 美味しい料理に舌鼓を打つ若いカップルがいる。一人静かに美酒を嗜む常連客がいる。談笑と酒、美味しい食事。そして恋人たちの甘い空気――シックな内装の店を、華やかなムードが包む。
 その只中、香月はスタッフと共に休むことなく働き続けていた。
「2名様ですね、こちらの席へどうぞ」
「A1卓様、追加オーダー入りました」
 客で賑わう店は、スタッフにとって戦場と同義だ。
 新たな客に、飛び交う注文。キッチンとホールを行き来しながら、それらを香月は滞りなく捌いていく。金刺繍が映える黒色の制服で店員を指揮する彼の姿は、戦場の指揮官のように頼もしい。
 その忙しさに目も回らんばかりだが、嫌な気分は全く無い。
 客の笑顔から受け取る喜びは、何者にも代え難い。ましてそれが、バレンタインフェアのスイーツに関わるものなら猶更だ。キッチンから出て来た“それ”を受け取ると、香月はカップルのテーブルに送り届ける。

「お待たせしました。Gimel特製、チョコレートのミニパフェです」
 そうして供されたのは、小さなパフェだった。
 チョコプリンに立派なチョコアイスを乗せて、ガナッシュを添えた一品だ。天辺を飾る純白のクリームは鮮やかな赤いベリーソースに彩られ、鮮烈な酸味がカカオの風味を一層際立たせてくれる。
 硝子の器に盛られたパフェの佇まいに、カップルの目も輝いた。
「わあ、綺麗……!」
「美味しそうだね。早速、頂こうか」
「それでは、どうぞごゆっくり」
 店長として、お客様からの賞賛に勝る喜びは無い。
 恋人たちが良き時間を過ごせることを願い、香月はホールに戻っていく。

 それからも、店長の仕事は終わることなく続いた。
 カウンターに立てば常連一人客の相手をし、ホールの接客が一段すれば調理場に移り、一秒たりとも休まず働き続ける。
 忙しくも充実した時間は瞬く間に過ぎ、気づけば既にラストオーダーの時間だ。
 どうやらトラブルも無く営業を終えられそうだ――安堵の吐息を洩らしつつ最後の料理を運んでいくと、軽い驚きに香月の足が止まった。常連客と、バイトのスタッフたちが、プレゼントを手に彼を待っていたからだ。
「店長さん、素敵な時間をありがとう。良かったらこれ」
「私たちからも。店長、どうぞ……!」
 盛大な拍手が店内を包む。香月は、思わず頬を綻ばせた。
「……えっ、プレゼント? ありがとうございます! めっちゃ嬉しいなー!」
 思いがけないサプライズに、感謝の言葉が溢れる。
 沢山の贈り物を両手に抱え、温かな想いが胸を満たす。
 客にもスタッフにも、そして自分にも。今日という一日の幸せを分かち合えたことに、香月は大きな喜びを覚えずにはいられない。
 素敵な時間は、どうやらまだまだ続きそうだ。

 幸福なる楽園、√EDEN。
 その一角で営む店の日常は、きっとこれからも続いていくだろう。
 祝福の拍手が響く中、談笑の賑わいは一層明るい。
 『Gimel』の特別な一日は、こうして静かに過ぎていくのだった。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​ 成功

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