シナリオ

試練の夜とショコラパーティー

#√ドラゴンファンタジー #ノベル #バレンタイン2025

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 √ドラゴンファンタジー、とある高校近く。
 時刻は深夜。穏やかな空気が流れるこの部屋で、シンシア・ウォーカー(放浪淑女・h01919)はひとり黙々と勉強机に向かっていた。
 冒険者として日の当たらないダンジョンで活動する習慣が身に付き、夜を徹しなければならない時は体内時計を無視出来る体質が開発されてしまっているのだ。
(「3時前、ですかー……」)
 煌々と灯る卓上ライトの隣にある時計を確認し、うーん、と思いっきり伸びをする。それまでノートの上を走っていたシャーペンがシャワー上がりの金髪を軽く撫で上げてから、右手と一緒に薄闇に包まれた天井をまっすぐ指した。
 いちおう袖を通していたパジャマが、すり、と肩で衣擦れの音を立てる。瞬きをもう数度すると、シンシアはスマホに目を落とした。
 画面には友人たちがメッセージアプリで送ってくれた授業ノートが映っている。一般的な高校の授業内容。ただし量はびっしり。期末試験が近いのだ。
 本人が得意科目と豪語する通り、体育の欄には◎が並ぶ一方で、シンシアは出席日数をギリギリに保ってきた。
 その理由は説明するまでもない。『冒険者として忙しい』の一言に尽きる。
 まだあまり高校を卒業する画を描けない自覚を持ちつつも、とはいえ既に国家公認の立場でもあるのだし、周りもそこそこ理解を示してくれているから……と。
 そのあたりをふわふわとさせたまま2月も終わりを迎えたあたりで、遂にシンシア、担任から泣きを入れられた。
 期末試験を受けなければ進級させられないから、なんとか受けるだけ受けに来てくれ……との事。
 当初は休む気満々だったシンシアも、担任が思いのほか自分の将来を気にかけてくれた事に対する気持ちもあってか、しぶしぶ引き受ける。今思えば、それが運の尽きだった。
(「窮地ですねー」)
 受けるからには合格せよ──そういう話になる。なった。
 寝ぼけ眼をこすりながら席を立ち、キッチンに移動する。冷蔵庫のドアを引くと、がこり、と新しめの手応えが返って来た。
 とくとくとお茶をカップに注いで、揺れる液面を覗き込む。映り込んだ天井にシンシアの顔がフレームイン。まだ高1の可憐であどけない少女は、思った以上に疲れた表情を浮かべていた。
(「√能力でズルできないでしょうか?」)
 もしかしたら魔術の知識も使えるかもしれない。そんな昼間ふと考えた策を思い出し、ぼんやりと検討し直して……やっぱり有効ではなさそうと思い、普通に勉強する事に決める。
 またイスに座って、ほんの少し隈の出来たシルバーグリーンの双眸をスマホに落とす。
 今のシンシアにとって、このノートの写しは追い上げの原動力だ。
 友達が力を貸してくれているというだけで、なんだか気力が湧いてくる。気がする。
(「何かお礼をしたいですね……」)
 シンシアがそう思っていたタイミングで、1通のメッセージが届く。
 差出人はノートを貸してくれた友達だ。

『試験終わりに何か奢って!』

(「あの子、一夜漬けするタイプでしたっけ」)
 わざわざ起きて発破をかけに来てくれたのか。それとも。
 なんにせよシンシアの事を案じているのは間違いない。
 即座に『OK!』の絵文字を返したシンシアは、こくり、と喉を鳴らしてお茶を飲むと、ラストスパートをかける。
 そのまま本番に向けて、朝までひたすら暗記を繰り返した。

 甘やかな装いが店内を彩っていた。
 翌日の放課後。
 バレンタインからはちょっとばかり遅れた苺&チョコレートフェアを続けている駅前のファミレスは、試験終わりの解放感に羽を伸ばす生徒達で賑わっている。
 その中にシンシア達の姿もあった。
 テスト後の打ち上げだ。全員でドリンクバーの飲み物を手にまったりしているうちに、運ばれてきた苺のタルトとチョコケーキに歓声が上がる。

 ──卒業する先輩、あの子と付き合ってるんだって。
 ──フェンシング部、今度の大会はどんな感じ?
 ──来年のクラス分け、どうなるのかな。

 テーブルを囲めばどんな話題もすいすいと進む。それがファミレスの空気の良いところ。
 心地良い音楽と喧騒を背景に、気心の知れたクラスメイトがきゃあきゃあと話に花を咲かせる様子を、シンシアはにこにこと眺めていた。

 ──そういえば試験終わったね。
 ──わざと話題に出さなかったのに。
 ──あの問題、めっちゃ難しかったよね。覚えてた?

 記憶にない。
 というか、解いたかどうかすら覚えていない。
 確かなのはテスト中、異常に眠かった事ぐらい。
 シンシア、旬の苺たっぷりのチョコレートケーキを一口。自然な甘みに思わず相好を崩す。
 あと糖分でちょっと頭が冴えた。テスト中に食べれたら良かったのに、なんて、ふと思ったり。
「あっ!」
 忘れてた、とノートを貸してくれた友達が叫ぶ。
 テストどうだった? 彼女の問いに、全員の注目が一斉にシンシアに集まった。
 少し慌てながらもシンシアは。
「まあ……多分大丈夫です!」
 そして面映ゆい笑みを浮かべ、友人に両手を合わせながら。
(「ノート、しっかり役に立ちましたよ!」)
 小さな声でそう付け加えるのだった。

 数日後、シンシアは無事合格。
 主要科目は軒並み点数ギリギリ。担任の温情が働いた事は明らかだったが……ともかくも、友人達と共に進級を果たす。
 楽しい高校生活は、まだまだ続く──。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​ 成功

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