無垢なる|魔女《てんし》
●幼い魔女
小さいころから何となく、動物と会話できる気がした。
それが気のせいでないと分かったのは、動物たちが何気なく教えてくれたことが、周りの人たちの大切な秘密だって知ったとき。
いつの間にか、私は、『魔女』って呼ばれ出して。
遠い田舎で暮らしている、おばあちゃんに預けられることになった。
「おばあちゃん、私、魔女なんだって」
俯く私の頭を、おばあちゃんの手が撫でた。皺だらけで、小さくて、柔らかかった。
「そうかい、ロッティは魔女なんだね。おばあちゃんと同じだ」
村には馬車で向かった。馬には初めて会った。
家にはテディという、小さな犬もいた。テディは私を安心させるように、軽く顔を舐めて、『いらっしゃい』と尾を振った。
驚いたことに、ここは電気も殆ど通ってない。色々な理由で、人里を離れた人が集まる村なんだそうだ。
「お医者さんもなかなか呼べないからね、おばあちゃんの煎じる薬でも役に立つんだよ」
お庭でたくさんのハーブを育てて、森にある植物も全部知っているみたいな、私のおばあちゃん。
村の人から『魔女』って呼ばれてるけど、そこには尊敬と親愛が籠っている。
「私もおばあちゃんみたいな、立派な魔女になりたいな」
「なれるとも。ロッティなら、優しい魔女にね」
おばあちゃんの家は居心地が良かった。最初はよそよそしかった村の人も、だんだん優しくなった。
何より、村は自然たっぷりで、森には|動物《ともだち》もたくさんいて、私は幸せだった。
いたい。いたい……!
いつものように、犬のテディと森を散策していた時のこと。
突然、全身に激痛が走って、私はその場にうずくまる。
身体が硬く変貌してゆく。背中が割れて翼が生える。怖い。本当に人間じゃなくなるみたい。
テディが心配そうに吠えかけてくれる。答えたいけど、声が出ない。
「……天使化を確認。アマランス・フューリーさまの仰る通りです。対象を捕獲します!」
知らない女の人の声。
続けて、びゅうと、鋭く空気を割く音。
『にげて! ロッティ、にげて!』
バサバサと、聞いたこともない激しい羽音を立てて、コマドリたちが飛んできた。
女の人の小さな悲鳴が聞こえて、テディが私の袖を咥えて引っ張った。
そのまま奥へ。奥へ。森の奥へ。
訳もわからないまま、私は駆ける。
●魔女の森へ
「緊急なんだ! イギリスまで出張お願い!」
クマ耳をつけた吸血鬼の星詠み、|瑠璃《るり》・イクスピリエンス(ハニードリーム・h02128)が慌てて叫ぶ。
ヨーロッパ『天使化』事変——その発端は、星詠みではない能力者にも幻視できた。
故に、多くの者は既に知っているだろう。
√汎神解剖機関のヨーロッパ各地で、『天使化』なる病に侵された人々が急増していることを。
結果生まれる『天使』、もしくは『|その出来損ない《オルガノン・セラフィム》』を鹵獲して、奴隷化しようとする組織、『羅紗の魔術塔』の暗躍を。
「ボクが視たのもその件! イギリスの森の中で、天使化したばかりの女の子が追われてる!」
少女はロッティ。本名はシャーロットといい、歳は十一。
天使化と関係があるかは不明だが、動物と心を通わせる、不思議な能力がある。
ゆえに、飼い犬を始めとした、周囲の動物たちは彼女の味方だ。
地の利もあって、どうにかまだ森の中を逃げ続けているが……。
「シャーロットを狙っているのは『羅紗の魔術塔』だけじゃない。天使のなりそこない……オルガノン・セラフィムも、気配に気付いて集まってきてる」
オルガノン・セラフィムは、本能的に天使を求め、襲う。
このままでは、シャーロットに待つ未来は二通り。
オルガノン・セラフィムに喰われるか。羅紗の魔術士たちに捕らえられ、|有用な資源《ニューパワー》として奴隷にされるか。
「そんな運命、あんまりだよ……!」
彼女を助け出してほしい。
天使ではなく魔女を目指した、優しい小さな女の子を。
マスターより

ご覧いただきありがとうございます。内野くまです。
ヨーロッパ「天使化」事変、魔女を目指した天使の救出をお願いいたします。
緊急の案件で、未来の分岐も多岐に渡ります。
少し長いですが、良ければ以下もご参考に。
●1章
目標は『天使化した少女、シャーロット(ロッティ)の保護』
彼女は動物たちに導かれながら、森の中を逃げ回っています。
常に傍にいるのは、愛犬のテディ。犬種はジャックラッセルテリア。
追っているのは『羅紗の魔術塔』の能力者たち、そしてオルガノン・セラフィムという怪物です。
・森の中で追跡するための工夫。
・動物たちを味方につける工夫。
・追手をかく乱する工夫。
などを意識していただけると良いかもしれません。
早く保護できれば、のちの展開が有利になる可能性があります。
また、怯えるロッティにどんな声掛けをするか、何を説明するかでも展開が変わります。
彼女は心優しいため、少し落ち着けば、村の人々を心配して戻ろうとするでしょう。
しかし、敵の狙いが自分だと知れば、周囲に迷惑をかけないため森に残るかも知れません。
(参加者の方針が分かれていた場合、多数決ではなく、全体を見て判断します)
(やることが多いため、全てを網羅するより、ご自身のやりたいことに絞るのがお勧めです)
●2章以降
積極的に戦い、相手を倒すことで安全を確保するか。
ロッティの保護を最優先にして、迎撃や逃走に注力するか。
選べる道は多く、先の読めない戦いになります。
彼女の未来のために、ご尽力いただけると幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。
28
第1章 冒険 『助けを求める声』

POW
気合を入れて救助に向かう
SPD
必要な助けを素早く提供する
WIZ
魔法的な力を使って問題を取り除く
√汎神解剖機関 普通7 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵

精霊交信で精霊達に聞くよ。
精霊さん達。
天使化した女の子とわんちゃんがどっちに行ったか分かる?
その子達を助けるためにも見つけてあげたいんだ。
精霊達に聞いて、あとは足跡とかを見つけたらそっちの方向へ向かっていくよ。
見つけたら、名前を呼んでちょっと立ち止まってもらうよ。
シャーロットさん、待ってっ!
あたしは追っ手じゃないから。
っと、あたしはエアリィ。あなたを助けに来たんだ。
あなたが追われているのは、その変質したことが理由みたいなの。
狙われているのはあなた。
でも、あたしはあなたを助けたい。
だから…。
一緒に脱出しよ?
あたしが小さいからって心配しないでね。
こーみえても、いろいろ冒険とかしてきたんだからっ♪

やつではとても賢いので、きちんと英語は学習してきました!
こんにちは、黒後家蜘蛛やつでと申します
ぺこりとご挨拶
シャーロット様、あなたを知っているとある人からあなたを助けるようにお願いされました
『このままではとても危険だから守ってあげて欲しい』と
……通じたでしょうか?
他にも同じくお手伝いしてくれる方はいる筈
周囲をこの子たちに見てもらって安全な方向に移動しましょう
『ちょっと怖いかもしれませんが、怖がらないでくれると嬉しいです』
袖口から出したクモ達に周囲を探索してもらって、敵のいない方向を選択しながら移動します
他に同じく彼女のことをお願いされた方がいたら考えを説明して協力するのです
※アドリブ連携大歓迎

風の精霊を召喚してシャーロットさんの探索をするわ。
精霊たちには彼女を見つけたら戻って私たちに教えるように、それと、もし彼女の近くに私たち以外の人たちがいたらできるだけ彼女から遠ざけるように攻撃して引き付けるようにお願いするわ。
シャーロットさんを見つけたらスマホの翻訳アプリを使いつつ、なるべく怖がらせないように話しかけましょう。
下手にショックを与えたくないからオルガノン・セラフィムとかについてはなるべく伏せるけれど…。
私たちはあなたも、村の人たちも守りたい。深くは話せないけれど…、私たちのことを信じてもらえないかしら。
私は魔女でも、まして天使でもないけれど、目の前で困っている人は助けてあげたい。
●
ぱきり。足の下で、細い枝が折れる音がした。
エアリィ・ウィンディア(精霊の娘・h00277)のブーツは、精霊の加護により、見た目よりずっと軽くて頑丈だ。彼女自身も、年若いながら経験豊富で、森を歩いた程度で疲れや不安を覚えはしない。
だが、このときは明らかな懸念があった。
「動物の声が全然しないね……」
愛らしく尖ったエルフ耳に手を寄せ、エアリィは周囲の気配を探る。
「まるで、森全体が息を潜めているようなのです」
|黒後家蜘蛛《くろごけぐも》・やつで(|畏き蜘蛛の仔《スペリアー・スパイダー》・h02043)も、木々を見上げる。春の森は緑も美しく、陽の当たる場所ではちらほらと、愛らしい|釣鐘型の花《イングリッシュブルーベル》も咲き始めている。
なのに。驚くほど、生き物の気配がない。
「シャーロットさんを匿っているから……かしら」
彼女きっと、不安でしょうね……。|小明見《こあすみ》・|結《ゆい》(もう一度その手を掴むまで・h00177)は足を止め、幼い能力者二人に提案する。
「風の精霊を召喚してシャーロットさんの探索をするわ」
彼女は恐らく身を隠している。土地勘のない自分たちが、当てもなく探すのは難しい。
無論、それはエアリィとやつでも承知の上だ。ゆえに力を合わせることにした。
「結さん、あたしも一緒に、精霊さん達に聞くよ!」
エアリィは力強く頷くと、新緑の香りの中に手を差し伸べ、呼びかけた。
──精霊さん達、どうか教えて……あたしたちに力を貸して!
|精霊交信《エレメンタル・コンタクト》。
森に揺蕩う風と光の精霊が形を成して、エアリィの手元に舞い降りる。
「来てくれてありがとう……天使化した女の子と、わんちゃんがどっちに行ったか分かる?」
その子達を助けるためにも、見つけてあげたいんだ。
|翡緑《すいりょく》の大きな瞳で、真摯な眼差しを投げかける。
応えはすぐにあった。エアリィは真剣に頷き返す。
「ここの|精霊《こ》達は見てないみたい。でも、太陽が沈む方──西の方で……」
エルフの少女の白い指先が、木々の間を示した。
西の方角、ずっと先。ざわざわと、何かが群れて移動する気配がしたのだという。
敵かも知れない。だが、捨て置けない情報ではある。
「ありがとう、エアリィさん。精霊さんも。それなら、|私の術《イナホユラシ》で探ってもらうわ」
さわりと、足元の草花が風に揺れた。今度現れたのは結が召喚した風の精霊たちだ。爽やかな森の中、彼らは多く存在している。
精霊に先行させて様子を探りつつ、情報を聞いて進めばより確実だろう。
「さすがです。お二人と同行できて、やつではとても学ぶことが多いのです!」
精霊術の使い手たちを称賛しながら。しかし、ワンストラップのローファーで軽やかに森を歩き、ドレスのフリルに汚れ一つ残さない|彼女《やつで》が、ただの幼子であるはずもない。
「精霊さんより少し見た目は怖いですが。やつではこの子たちに頼みましょう」
ドレスの袖から、小さな黒蜘蛛が一匹顔を出して。そのまま指先からぴょいと地面に降りれば、いつの間に集まったのか、仲間が群れを成して待っていた。
ひゃ。と、小さな悲鳴が聞こえて。
やつでは早々に指示を出し、黒蜘蛛たちを森に散らす。
「あの子たちにも周囲を見回るようお願いしたのです」
足跡など、地面の痕跡はおまかせあれ!
にっこりと振り返れば、仲間たちも喜んでくれていた。
だが気のせいか、若干、頑張って気を取り直した感がないでもない。
怯えられたとしてもまあ、その名も『|壁の下の蜘蛛の群れ《ミエザルキョウフ》』という能力であるからして、当然ではあるのだが。
「シャーロットさんにお会いしたら、怖がらせないように説明しませんと……」
予習してきた英語の言い回しを頭の中で反芻し、やつでは仲間と共に森を行く。
●
森の景色は代わり映えなく、しかし刻々と時は過ぎてゆく。
それでも焦らずに進めたのは、手段が的確で、探索が順調だったからだ。
何者かが移動した痕跡が、少しずつ増えてゆく。
エアリィがその場の精霊に確認すると、痕跡の多くは森を行くオルガノン・セラフィムのものだった。
更に、結の招いた精霊と、やつでに仕える蜘蛛たちが持ち帰った情報を読み解くと、どうやら──。
「他の人たちが、敵の気を引いてくれているみたいだね」
エアリィの満面の笑みが、太陽のように森を照らす。
「これなら大丈夫! きっとあたしたちが先にシャーロットさんを見つけられるよ!」
姿は見えずとも、確かに感じる心強い応援に、結もほっと胸を撫でおろす。
すると、やつでが小さな背を屈めて地面を探り、二人を呼んだ。
「足跡があるのです。落ち葉をかけて隠したようですが、少々雑かと。……人の手ではありません。恐らく獣たちの仕業です」
蜘蛛の娘の言葉に、二人の精霊使いも顔を見合わせ頷いた。
動物が庇う──守っている存在。であれば、魔女の娘に相違ない。
「急いで、でも慎重に行きましょう。やつでさん、クモさんに先導を頼める?」
「もちろんりょーかいです! やつでたちは優秀ですので──!?」
言うが早いか、オルガノン・セラフィムを発見した。幸い一体だけのようだ。
「風の精霊よ──小さな竜巻を放って」
弱めの攻撃でも、気を引くには充分。精霊は結の指示で攻撃を繰り返しながら、遠くまで誘導していく。
そして、精霊の導きに耳を傾けていたエアリィが、声を殺して叫んだ。
「っ! この先すぐ、木の洞の中!」
三人は可能な限り足音を押さえつつ急ぐ。
行く先を、鳥が飛んだ。知らせに行ったのだと直感した瞬間、木々の間に小さな影が見えた。
——見つけた!
森の中で異彩を放つ金属の肌の照り返し。間違えようもない。
「シャーロットさん、待ってっ!」
エアリィが駆け出す。とたん、足元に飛び出してきたのは小さな獣。ぺたんと折れた茶色の耳に、つぶらな黒い瞳。白くふわふわの体毛が土に汚れている。
「あなたがテディだね。……大丈夫、あたしたちは追っ手じゃないから」
必死に立ちふさがる猟犬を前に、エアリィは膝を折った。穏やかな声音で、ゆっくり語り掛ける。
敵意のなさを感じてくれたのだろうか。テディは尻尾を下げて唸りながらも、襲ってはこない。
そんな愛犬の様子を見た天使──シャーロットも少しずつこちらへ歩み寄る。
『あなたたちは、誰……?』
『こんにちは、黒後家蜘蛛やつでと申します』
ぺこり。丁寧に身を折ったやつでの英語に、シャーロットの緊張が目に見えて緩んだ。
丁寧に発音しながら、やつでは続ける。
『シャーロット様、あなたを知っているとある人から、あなたを助けるようにお願いされました。このままではとても危険だから、守ってあげて欲しい、と』
「すごい……やつでさん、英語が上手なのね」
現役高校生たる結が目を見張れば、やつでは満面のドヤ顔だ。
「やつではとても賢いので、きちんと英語は学習してきました!」
……通じたでしょうか? 小首を傾げて見せれば、シャーロットはこくこく頷いた。テディもいつしか、彼女の足元で落ち着いている。
「やつでさんすごーい! ほんとにとっても賢い!」
「私も……いえ……翻訳アプリを使うわね」
日本の英語教育は、なかなかスピーキングに特化してくれないのだ。ほんのり恥じ入りつつ、結はスマホを確認。アプリが動いたので安心する。
『あたしはエアリィ。あなたを助けに来たんだ! あなたが追われているのは、その変質したことが理由みたいなの』
『やっぱりそうなんだ。だって他に、心当たりないもの』
自分はどうなってしまうのか。奇妙な光沢を帯びた我が身をかき抱き、シャーロットは震えた。
『それじゃ、あの化け物は……? 全然話が通じない、生きてる気もしないの』
『できれば怖がらせたくなかったけど、シャーロットさんはもう見てしまっているのね……』
あれもとても危険。けれど、今のままなら恐らく、森を出ることはないだろう。
何故なら──。
『狙われているのは、あなただから』
薄々察しているにしても衝撃のはずだ。
けれど。
ゆえに。
エアリィは躊躇わず、正面から真っ直ぐに告げた。
精霊と心通わす魔法使いの少女は、心優しき魔女に対しても、何処までも真摯に向かい合う。
「でも、あたしはあなたを助けたい。だから……一緒に脱出しよ?」
アプリを介さずとも、意は伝わった。
少女たちが、確かに心を交わしたのを感じて、結も包み込むように言葉を重ねる。
「私たちはあなたも、村の人たちも守りたい。今はまだ、深くは話せないけれど……、私たちのことを信じてもらえる?」
結は魔女でも、まして天使でもないけれど。
目の前で困っている人を助けてあげたいと願うのは、人の心そのものなのだから。
『あたしが小さいからって心配しないでね。こーみえても、いろいろ冒険とかしてきたんだからっ♪』
『やつでも頼りになりますとも。とても有能ですので!』
今度は英語を使って、歳の近い二人が言い募る。
とうとう、シャーロットはくすくす笑い出した。テディもやっと気が緩んだのだろう、尾を振っている。
『ではまず、敵を避けながら、他の方たちと合流しましょう』
……怖がらないでくれると嬉しいです。
少々不安げに説明してから、やつでが再び蜘蛛たちを集めれば、なんと。
『かわいい……』
魔女の名に恥じず。さわさわと森に散ってゆく彼らに、シャーロットは羨望の眼差しを送ったのだった。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功

本人のためにも、彼女を心配する動物達のためにも必ず助けたい
やるべきことは多いけど頑張ろう
レギオンスウォームでレギオンを飛ばし、センサーでシャーロットやオルガノン・セラフィム、魔術塔勢力の位置を把握
シャーロットに追い付ける最短距離を走りながら、敵勢力にはレギオンミサイルで攻撃して妨害
シャーロットに追い付いたら優しく声を掛ける
「驚かせてすまない。俺は君を助けに来たんだ」
警戒されるだろうけど、警戒を解く方法なんて思い浮かばないから
動物達に攻撃されても抵抗せず、真摯に真っ直ぐ声を掛けるよ
話を聞いてもらえるようなら、敵の狙いが彼女自身だと言うことを伝えて
どこか安全な場所まで守って連れて行きたいな

女性を大勢で追い回すなんて品がありませんねぇ
ともかく、彼女が"誰か"に助けて欲しいのでしたら、喜んで参じましょうか
√能力で必要な能力を強化し彼女の逃走痕跡を探しましょう
彼女と愛犬の足跡、そして動物の支援を受けているそうなので、
野生動物らしからぬ動きや鳴き声、明確な意志がある足跡をチェックします
子供の思考で隠れやすいと思える場所を目星にしますか
大人の視線より低い場所、逆に身軽だから登れる高い場所ですね
見つけたら膝をついて視線を合わせ微笑んで落ち着かせます
私達は貴方を助けに来ました
村の方々も貴方を心配しています
貴方は立派な|魔女《レディ》ですから、どうするべきかわかりますよね?
はい、イイコですね

天使化…わたしたちと似て非なるものような感じですね
どちらの運命も変えたい未来、全力で助けたいです!
ロッティさんほど動物と心を通わせるのは難しいかもしれませんが、本で読んだ動物の知識で【動物と話す】ことを試みて、彼女の味方だと分かってもらい居場所を教えてもらいましょう。
居場所が分かれば、ロッティさんに|動物《ともだち》から居場所を聞いて助けに来たことや、助けたいという気持ちを素直に話すことで安心してもらおうと思います。また、可能ならテディさんにも話しかけて、味方だと分かってもらおうと思います。
その後は、協力者がいて相手を倒せそうなら積極的に戦い、難しそうな場合は逃げることに集中しようと思います。
●
天使化は、ひとを侵す病だという。
罹患した者は、背から翼が生えるに留まらず、身体の内外に至るまで謎の神秘金属に変貌してしまう。
「わたしたちとは、似て非なるもののような感じですね」
呟くセリナ・ステラ(羽の色が星空のように煌めくセレスティアルの御伽使い・h03048)の背には、三対六枚の美しい翼。
セレスティアルは、かつて天上界に住んでいたという翼持つ民。
天上界を失って以降は世界難民となった彼らも、決して気楽な身の上ではない。しかし、天使化した人々の行く末はあまりにも非情に過ぎる。
「捕まって奴隷になるか、捕食されるか……」
|小型ドローン《レギオン》を操り、周囲の|安全確認《クリアリング》をしていたクラウス・イーザリー(希望を忘れた兵士・h05015)が、ぽつりと零した。
平穏な日々の先で突如、突きつけられた惨い二択。
それは恐らく、生まれながらに戦うことを定められた者たちには、理解できない衝撃なのだろう。
抗うという発想すら、浮かばなかったかも知れない。
彼女を案じる|動物《なかま》たちがいなければ。
「本人のためにも、彼女を心配する動物達のためにも、必ず助けたい」
「はい。どちらの運命も変えたい未来。全力で助けたいです!」
即座に答えるセリナを心強く見返して、クラウスはもう一人の仲間へ視線を転じた。
己に比べ長身。整った容姿に丁寧な物腰。飄々とした歩みでありながら、油断なく周囲の痕跡を確認しているのも分かる。
彼の名は、|徒々式《あだあだしき》・|橙《だいだい》(|花緑青《イミテーショングリーン》・h06500)。
「女性を大勢で追い回すなんて品がありませんよねぇ。もっと紳士的にお迎えしないと」
こちらも頼もしいが、どこか、掴みどころのない人物でもあった。
「やるべきことは多いけど、頑張ろう」
「ええ。彼女が"誰か"に助けて欲しいのでしたら、喜んで参じましょうか」
——その願いをかなえるために、私は在るのですから。
不思議な取り合わせの三人は、目的を共にして。一路、森を急ぐ。
天候は快晴で、緑を透かし木漏れ日が落ちる。
「あれは……ブルーベル、でしょうか。本で見たことがあります」
セリナが小声ながら、やや興奮したように言った。
木々の切れ間に陽光を浴びて、釣鐘型の花が群生していた。鮮やかな紫色の花弁が微風にゆれている。
「まだ季節には早かった気がしますが、咲き始めでしょうか」
興味をそそられつつも、無論、急ぐ足は止めない。叶うならじっくり観察したかったと知識欲は滲むが、シャーロットを探すために必要なのは動物の方だ。
「んー……私も先ほどから様々な方法で探しているんですが、動物たちは息を潜める方針ですかね」
橙の能力——|集合的無為式《アカシックレコードプレーヤー》は、ささやかな力。
だが、万能だ。
速度や器用さなど基礎的な能力に留まらず、狩猟や|森歩き《アウトドア》、果ては園芸なんていう趣味知識まで。誰かが求めたもので、今ここで必要な力ならば、高めることができる。
それらを駆使して周囲を探れど、魔女にはまだ繋がらない。
「随分先行されているのかもな。奥に進むほど、レギオンのセンサーにかかる数は増えてる」
ただしそれらの殆どは、人でも動物でもない。
オルガノン・セラフィム。
「この先には戦闘の痕跡を発見した。これは魔術塔勢力とセラフィムだろうね」
「ふむ。この際、潰し合ってくれるなら有難いとも言えますが」
その跡を迂回するか、追うか。彼らは選択を迫られる。
●
「オルガノン・セラフィムは、シャーロットの天使化を察知して集まってきたんだったね」
本能とは、言わば、磁石のS極とN極が惹かれ合うようなものかもしれない。
「こちらには感知できない能力で追っている可能性が高いですねぇ」
「少し危険ですが……行く価値はあると思います」
三人は頷き合って方針を決める。
元より、敵勢力の位置も合わせて把握していたのは、彼らを妨害するためでもあったのだから。
決断すれば、オルガノン・セラフィムの痕跡を追うのは容易だった。
クラウスのレギオンは数度、オルガノン・セラフィムを発見する。彼らは皆一様に同じ方角を目指していたが、ミサイルで気を引くことで無理やり進路を変えさせ追い払った。
地道に近付いている手ごたえはある。
一度でもシャーロットの痕跡を掴めれば、最短距離で駆ける準備もできている。
「見つけました」
何度目かの接敵地点で、橙が声を上げた。彼の目線を素早く追い、セリナもはっと息を漏らす。
普段ならば見逃してしまうような小さな影。
木陰からこちらを盗み見るのは、茶色い毛並みが愛らしい、数匹の栗鼠だった。
「随分と野生動物らしからぬ動き。私たちを偵察していましたね」
気づかれたと知るや否や、樹木を駆け上がる小さな背へ、セリナは必死に呼びかけた。
「待ってください! わたしたちは、ロッティさんの味方です!」
──ロッティ。
その名に。栗鼠たちは反応した。
かさり。こそり。葉の合間に隠れつつ、確かに関心を寄せている。
——本で読んだ知識だけで、ロッティさんほど動物と心を通わせるのは難しいかもしれませんが。
セリナは一度深呼吸をして。
一言一言を噛みしめるように、揺れる葉に向けて語り掛ける。
「ロッティさんは今、大変な状況に置かれています。たくさんの相手が、天使化した彼女を追っています」
決して、彼女のせいではない。けれど、このままでは、惨い運命が彼女を轢き潰してしまう。
クラウスは、必死に語り掛けるセリナに並び立ち……何を思ったか、全てのレギオンを停止させた。
「警戒するのは当然だ。……俺には警戒を解く方法なんて、思い浮かばないから」
|動物《きみ》たちが俺を攻撃するなら、抵抗はしない。牙や爪を持つ仲間を呼んでも、構わない。
宣言して、クラウスは両手を上げた。
彼を案じながら。けれど、その覚悟に準じねばと、セリナも手を広げて。
「わたしたちは、ロッティさんを助けに来たんです。どうか、信じて下さい」
僅かな風が起こす、葉擦れの音だけが、暫し流れ──。
栗鼠たちは、枝を渡って姿を消した。
きゅるる。きゅる。るるる。
「おやおや、栗鼠ってこんな声なんですね。まるで、私たちを誘っているみたいです」
項垂れかけた仲間たちに向けて、橙は愉快そうに笑った。
●
戦いの音が聞こえて、三人は走る速度を上げた。
「間に合わなかったのでしょうか……!」
セリナの緊迫した声。クラウスは即座にレギオンを先行させる。
「違う、仲間だ。別の仲間たちが戦っている──相手は恐らく『羅紗の魔術士』だ……!」
見える範囲に、シャーロットはいない。栗鼠たちも流石に混乱してしまって、探せる様子ではない。
「こういう時こそ、基本に立ち返りましょうか。お二人とも、足跡を探せますか?」
犬の足跡や、意志を持って戦場から離れている足跡。若しくは。
「子供の思考で隠れやすいと思える場所を目星にしますか。具体的には例えば……大人の視線より低い場所」
いや。橙は顎に手を当て、自らの言を打ち消して。
「彼女には翼もある。逆に身軽だから登れる高い場所ですね」
「分かった、可能性の高い場所を虱潰しに捜索しよう」
二十を超えるレギオンを操作し、その情報を集約し続ける負担は確かに蓄積していた。
だが、迷っている暇などない。
一縷の希望に賭ける心を、クラウスは持たない。
ただ愚直に、ひたすらに。出来ることを重ねた先に、至る結果があるだけだ。
果たして、天使の少女は──樹上にいた。
大切な愛犬を、その胸に抱きしめて。
「ロッティさん!」
セリナが羽ばたいて迎えに行く。天使の少女は驚き、抱かれた犬も低く唸ったものの、敵意は感じない。
「テディさんですね。良かった……|ロッティさんのお友達《どうぶつたち》に案内して貰って、ここまで来たんです」
静かに手を伸ばせば、ジャックラッセルテリアの白くふわふわの顎を撫でることができた。
そのままシャーロットの手を取って、ゆっくりと降下する。
橙は、降り立った天使の前に膝をつく。そして、緑の瞳を少女の目線に合わせて……紳士的に声をかけた。
「分かっているかも知れませんが、私達は貴方を助けに来ました」
——村の方々も貴方を心配しています。
クラウスもまた疲労の汗を拭って屈み、優しく言い含めるように語る。
「驚かせてすまない。けど、落ち着いて聞いて欲しい……敵の狙いは君なんだ」
……こくり。
天使になった魔女は、小さく頷いた。
不安ながらも、覚悟を伴った表情だった。
「ご存じでしたか。……貴方は立派な|魔女《レディ》ですから、どうするべきかわかりますよね?」
もう一度。今度は大きく、彼女は頷いて。
『私……誰も……巻き込みたくない』
ぽつり、零れた言葉は英語だが、充分に意味は伝わった。
『……でも……死にたく……ない。テディや、おばあちゃんや……みんなも悲しませたくない。だから、どうか』
たすけてください。おねがいします。
「はい、イイコですね」
橙の大きな手が、ぽふりと、シャーロットの頭を撫でた。
天使化による影響で、その肌は固く冷たい金属になっていたとしても。
彼女は確かに、柔らかく温かな心を持つ、人間の少女だった。
ところで──。
彼らが多くのオルガノン・セラフィムを攪乱した結果、別の能力者たちは安全に進むことができた。
そして、羅紗の魔術士に先んじてシャーロットを確保し、戦闘から逃がすことにも成功していたのだ。
その成果も、今の彼らには、預かり知らぬことではあったけれど。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功
第2章 ボス戦 『羅紗の聖戦士『アザレア・マーシー』』

POW
聖戦の開始を告げる歌
「【聖戦の開始を告げる歌】」を歌う。歌声をリアルタイムで聞いた全ての非√能力者の傍らに【使用者の狂信者に洗脳する美しき怪異の幻影】が出現し、成功率が1%以上ある全ての行動の成功率が100%になる。
「【聖戦の開始を告げる歌】」を歌う。歌声をリアルタイムで聞いた全ての非√能力者の傍らに【使用者の狂信者に洗脳する美しき怪異の幻影】が出現し、成功率が1%以上ある全ての行動の成功率が100%になる。
SPD
聖槍は悉く敵を穿つ
【羅紗の文字列を紡ぐ聖槍】による近接攻撃で1.5倍のダメージを与える。この攻撃が外れた場合、外れた地点から半径レベルm内は【知られざる古代の聖戦の決戦場】となり、自身以外の全員の行動成功率が半減する(これは累積しない)。
【羅紗の文字列を紡ぐ聖槍】による近接攻撃で1.5倍のダメージを与える。この攻撃が外れた場合、外れた地点から半径レベルm内は【知られざる古代の聖戦の決戦場】となり、自身以外の全員の行動成功率が半減する(これは累積しない)。
WIZ
聖句は世界へと伝播する
視界内のインビジブル(どこにでもいる)と自分の位置を入れ替える。入れ替わったインビジブルは10秒間【輝く文字列を纏った美しく神秘的な怪異】状態となり、触れた対象にダメージを与える。
視界内のインビジブル(どこにでもいる)と自分の位置を入れ替える。入れ替わったインビジブルは10秒間【輝く文字列を纏った美しく神秘的な怪異】状態となり、触れた対象にダメージを与える。
√汎神解剖機関 普通11 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
●先陣の成果
魔女の娘を救う──。
目的を一つに。イギリスの森へ集った能力者たちは、見事に|小さな魔女《シャーロット》に合流。彼女と愛犬のテディ、果ては森の動物たちの信頼を勝ち取ることにも成功した。
集った勢力の中で、最も数が多く脅威だったのは、オルガノン・セラフィムという怪異。|羅紗《らしゃ》の魔術士アマランス・フューリー曰く、『天使になれなかった出来損ない』たちだ。
だが、理性を持たぬ彼らは、能力者たちによって首尾よく追い払われ。
或いは、ついでとばかりに羅紗の魔術士に捕獲されて。
一体たりとも、魔女たる天使の元にたどり着くことは叶わなかった。
自身が狙われていることを理解したシャーロットが、真っ先に口にしたのは、
『誰も巻き込みたくない』
ということ。
村へ戻ることはできない。……けれど、生きたい。
自分を大切に想ってくれるひとを、悲しませることもしたくない。だから。
『たすけてください。おねがいします』
少女の真っ直ぐな願いは魔法のように、集った能力者たちの力となる。
●羅紗の聖戦士
ぱきり。ブーツが細枝を折る音は、自分たちが発したものではなかった。
「驚きました……オルガノン・セラフィムになっていない……まさか、本当に『天使』なのですか」
思わず足音を鳴らしてしまったのだろう。悔しげに唇を歪めた|白銀の髪《プラチナブロンド》の少女が、槍を構え、行く手を遮る。
「であればなおのこと、渡すわけには行きません……!」
能力者たちをキッと見据えた表情は、美しくもやや幼く。清浄で凛とした装いは、聖職者を思わせる。
何らかの術を行使しているらしく、翻訳を経ずとも言葉の意味は通じている。
実力者のある魔術士なのだろう。
見たところ単騎だが、恐れる様子も一切ない。
「我が名は羅紗の聖戦士、アザレア・マーシー! アマランス・フューリーさまの命により、この場に馳せ参じました」
槍の穂先が、徐々に透明な光を帯びてゆく。
「あなた方はどこの組織の者ですか。それとももしや……|楽園《エデン》からの使者でしょうか……?」
言葉の後半が、どことなく焦がれたような響きを帯びたのは気のせいだろうか。
『ああ……EDENといえば……『花よりタンゴ』の最新刊は出たのかしら! この任務が終わったら確認しないと……!』
なぜかそこだけ早口小声の純粋な英語で呟いて、コホンとマーシーは構え直す。
「とにかく。その天使は『羅紗の魔術塔』が管理下に置きます! 無関係の者たちは、我が槍に祓われる前に退きなさい!」
鮮烈に、そして一方的に言い放ち。
聖戦士を名乗る乙女は地を蹴った。
===================
以下、MSより補足
【目標】
アザレア・マーシーを撃退し、|魔女《てんし》シャーロットを守り抜くこと。
【プレイング】
①or②の立ち位置を選んで、数字をプレイング冒頭にご記入ください。
1章の大成功の結果、シャーロットは戦闘開始と共に隠れることに成功しています。
(戦闘中、彼女を守って不利になる可能性がなくなっています)
①最初からその場におり、シャーロットを庇って逃がす。
襲い掛かるアザレア・マーシーに受けて立つ。正面戦闘です。
シャーロットに声掛けする場合は、『隠れるよう指示を出してあげる』などができます。
②後から来て、シャーロットを保護してから合流する。
既にアザレア・マーシーと、①の能力者が戦っているところに合流します。
工夫があれば不意を衝くことも可能です。
シャーロットに声掛けしたい場合、『より良い隠れ場所を言い置いてあげる』などができます。
1章と少し矛盾しても構いませんので、お好きな方をお選びください。
数字がない場合はプレイングで判断します。
===================

①
助けるって約束したんだもん。
だから、目一杯がんばるっ!
シャーロットさん、どこかに隠れてね。
大丈夫、後ろは追わせないからっ!
聖戦士さん、シャーロットさんを連れて行きたいなら、あたし達をどうにかしてからにしてね。
…ところで、さっき何かしゃべってたけど、何だったんだろ?
ちょっとうれしそうな表情だったけど。
ま、いっか。
言ってから高速詠唱を開始。使うのは精霊翼展開。
変身してから魔力翼で加速し一気に接近してから、世界樹の双刃で斬りつけるよ。
問題は敵の攻撃だね。
躱した方が被害が大きそうだから、ここは受け止めるっ!
世界樹の双刃をクロスさせて敵の攻撃を受け止めるよ(武器受け)
そのまま、双刃で槍を弾き返すよ。

①
「大丈夫、俺達に任せて」
シャーロットに声を掛け、隠密用の布を被せて隠れていて貰うように促す
……助けて欲しいって素直に言ってくれて、嬉しかったんだ
応えるために全力を尽くそう
シャーロットが隠れたことを見届けながら武器を構えて応戦
ダッシュや遊撃で位置を変えながらライフルで狙撃
弾道計算を合わせて確実に命中させる
自分が攻撃対象になったら先手必勝で攻撃してから身を隠し、距離を取って狙撃を続ける
発生した決戦場の範囲からは抜け出して攻撃することを心がけよう
……きっと、戦場以外で会えば普通の子なんだろうけど(※英語がそれなりにわかる)
それを理由に手を抜いたりはしないよ
お互いの譲れない目的のために、全力で戦おう

①
途中聞き取れなかったけど…、問答無用で不意打ちをしてくるわけでもない。だったら対話もきっとできる。風の精霊を召喚して攻撃を防ぎつつ説得を試みるわ。
マーシーさん。お願い、話を聞いて。
私はあなたと戦いたくなんてない。
私はシャーロットさんを、『天使』になってしまった人を守りたいだけ。
あなたは彼女を捕まえて、一体何がしたいの?この国の人を傷つけるようなことをして、それがあなたがしたかったことなの?
説得ができないなら戦うしかないけれど、私だと彼女を退けるのは難しい…。ならせめて彼女をここに留め置く。時間が稼げれば他の仲間が来てくれるはず。
マーシーさん、あなたをシャーロットさんのところには行かせないわ。
●魔女の想い
改めて確認した追っ手は、シャーロットですら目を奪われるような美少女だった。
傍から見れば、異形と化した自分の方が、彼女を襲う化け物に見えるだろう。
——もしかして、ほんとうにそうなのかな。
クゥン。心配そうにテディが体をすり寄せてくる。愛犬が与えてくれるぬくもりも、今のシャーロットには遠く感じられて、じわり、目の端に涙がにじむ。
「大丈夫、俺達に任せて」
悲しみごと包むような、声がした。
ふわりと、小さな|魔女《シャーロット》に被せられたのは、森の景色に溶け込む迷彩柄の布。
「これを被っていれば、誰も君を傷つけられないさ。……安心して待っていて」
クラウス・イーザリー(希望を忘れた兵士・h05015)がくれた布は、きっと戦場で使う無骨なもので。触り心地だって、おばあちゃんの縫ったキルトとはまるで違う。
なのに、ひどく安心した。
ありがとう。どうにか喉を動かして、無骨な布をかき抱く。
「シャーロットさん、どこかに隠れてね。大丈夫、後ろは追わせないからっ!」
縮こまった細い肩に、エアリィ・ウィンディア(精霊の娘・h00277)が軽く触れる。
「助けるって約束したんだもん、信じて! あたしたちのことも……自分のこともね」
さぁっと、爽やかな風に洗われたような心地がした。
エアリィの言葉には、羽が生えているようだ。シャーロットの背の痛ましい翼は、木を登る補助になる程度のものだけれど。今なら、飛べるような気さえした。
「……助けて欲しいって素直に言ってくれて、嬉しかったんだ」
応えるために全力を尽くそうと思えた。間違いなくシャーロットがくれた力だと、クラウスが眦を緩ませれば、エアリィも大きく頷いて。
「うん、そうだよ! あたしたち、目一杯がんばるからねっ!」
——だから待ってて。ぜったい迎えに行くから!
力強い風に背を押され、シャーロットは走り出す。
離れぬように並走するテディが、一度だけ振り向いて、優しく鳴いた。
「逃しません!」
彼らの背を追って駆けようとするアザレア・マーシーの前に、|小明見《こあすみ》・|結《ゆい》(もう一度その手を掴むまで・h00177)が飛び出す。
「待って!」
武装は、ない。丸腰で両手を広げる結に虚を突かれ、羅紗の聖戦士は槍を引く。
「何のつもりですか? 戦う意志がないなら退きなさい!」
二度は申し上げません。くるりと回された槍の穂先が、鋭く、結の首元を指して止まる。
だが、結も怯まない。戦うつもりがなくとも、意志がないわけではないのだから。
「マーシーさん。お願い、話を聞いて。私はあなたと戦いたくなんてない。私は……私たちは、シャーロットさんを、『天使』になってしまった人を守りたいだけ」
●聖戦士の矜持
聖戦士と自ら名乗るほどなのだから、戦さには慣れているのだろう。
自身も気付けば、√能力者として場数を重ねてしまった。それでも……傷つけあうことに、決して慣れはしない。
——問答無用で不意打ちをしてくるわけでもない。だったら対話もきっとできる。
結の凛とした姿勢に決意を感じ取ったのだろうか。槍は下げぬまま、アザレア・マーシーは応じた。
「どういう意味でしょう。……そちらの組織に、保護の用意があるとでも?」
結は気付く。アザレアが目の端で、抜け目なくシャーロットたちの行先を追っていることに。短い問いに、能力者たちへの探りを交ぜていることに。
「違うよ、組織とかじゃなくて。あたしたち一人一人が、シャーロットさんを助けたくてここに来たの!」
結に呼応するように、エアリィも槍の刃先を受けて立つ。
小さくとも頼もしい援軍を得て、結は大きく息を吸い、言葉を続けた。
「マーシーさん、あなたこそ彼女を捕まえて、一体何がしたいの? この国の人を傷つけるようなことをして、それがあなたがしたかったことなの?」
知る限り、羅紗の魔術塔は汎神解剖機関や|連邦怪異収容局《FBPC》と並び立つ組織。ならば、むしろ無辜の民を守る立場のはずだ。
「……残念ながら。彼女はもう人ではありません」
問いかけが的外れでは無かった証に、アザレアは表情を歪めた。
「天使病は不治の病、その変化は不可逆です。しかし、多くの民を守るための|力《ニューパワー》とすることはできます。我々の手によって」
「彼女には理性があるんだ。オルガノン・セラフィムとは違う」
あの子の尊厳はどうなる? 問いながらさりげなく逃走経路を隠すように位置を変えたクラウスと、アザレアの悔しげな視線が交差する。
「であれば……勿論……魔術師の方々が良きように、取り計らってくださるはずです」
どうしても、あの娘が心配で。近くにいたいというのならば。
「あなた方が|羅紗の魔術塔《わたしたち》に加わり、欧州のために力を尽くすと良いでしょう」
……流れた|時間《ちんもく》は、何秒だったろう。
「なあ、二人とも。『花よりタンゴ』って知ってるかな?」
唐突なクラウスの問いに、エアリィは「へ?」と首を傾げる。結も瞬きを繰り返すが、一応脳裏に浮かんだのは、学校で話題のきらめく絵柄。
「え、ええと、少女漫画よ? 大人気の。√EDEN以外で発売してるかは知らないけれど……」
「そうか。ありがとう」
「クラウスさん、その漫画が何か大切なの?」
エルフ耳をぴょこぴょこ揺らし、無邪気かつ真剣に問いかけるエアリィに向けて。
表情に過ぎった影を一振りで払い、「すまない、何でもない」と、クラウスは微笑んだ。
奇妙なことに、アザレア・マーシーは顔を上気させて震えていた。
「きっと、君も……戦場以外で会えば普通の子なんだろうな」
「侮りますか、私を……!」
即座に返った怒声には、否と首を振る。
「いや、逆だよ。その上でこの任務をしているなら、覚悟があるんだろう」
想いは異なるとしても、自分たちと同じ覚悟だ。
己の信念を持って戦場に立つという、覚悟。
「手を抜いたりはしないよ。お互いの譲れない目的のために、全力で戦おう」
ゆえに、この場で相容れることは……できないのだ。
●自分たちの決意
「マーシーさん、ごめんなさい。私たちは、羅紗の魔術塔に入るわけにはいかないわ」
それでは守りたい人を守りたいときに、守れないかもしれないから。
心から詫びた結の負い目ごと断ち切るように、アザレア・マーシーは槍を振るう。
「謝る必要はありません。元々、戦うつもりだったのですから!」
結が招いた風の精霊が、咄嗟に槍の軌跡を逸らす。一歩遅ければ体を割かれていただろう。実力の差を思い知らされる一撃だった。それでも、
「あなたをシャーロットさんのところには行かせない……!」
お願い——|守り風《マモリカゼ》。
結は防御に特化した精霊を招いて、自分たちの周囲に展開させた。召喚できたのは二十体弱。聖戦士を倒すのは難しくとも、足止めはしてみせる。
「そうだよ聖戦士さん! シャーロットさんを連れて行きたいなら、あたし達をどうにかしてからにしてね!」
木々の合間を軽やかに抜けて。
アザレアを誘うがごとく、二人の間に躍り出たのはエアリィだった。蕾のような唇が高速で動き、詠唱を結実させる。
「六界の精霊達よ、我が身に宿りて新たなる力になれ……——|精霊翼展開《エレメンタルドライブ・ウイング》っ!」
飛び込んでくるエアリィを迎え撃った槍撃は、宙を穿った。精霊の娘が急激に加速したのだ。
「これがあたしの、新しい力だよ!」
精霊の力によって展開した翼は三対六翼。両の手に構えられたのは世界樹の威を宿す双刃。術によって変じたエアリィの姿は、まさに天使のように燦然として、けれどほとばしる力は疾風のように猛々しい。
二つの刃が、纏う羅紗ごと聖戦士を切り裂く。アザレアは素早く槍を引いて次の一撃を防ぎ、そのまま反撃に移るも、エアリィは翼で空中へ逃れる。
「それは当たらないよ! って、……え!?」
「調子に乗らないことです!」
一瞬、精霊の翼による推進力が落ちた。アザレア・マーシーの槍——聖槍の振るわれた地点を中心に、結界が発生していたのだ。結界内は聖戦士を鼓舞する決戦場となり、敵対する者の力を奪う。
木の幹を蹴り、跳躍して追ってきた相手の一撃を、エアリィは双刃を交差させて受け止めた。
「確かにっ……躱した方が被害が大きそうだね。なら、受け止めるっ!」
魔法力を注げば、背の翼が息を吹き返す。力が拮抗し、触れ合う刃がギリリと鳴って。
「……ところで、『花よりタンゴ』って本当に何だったの? さっき何か、うれしそうな表情でしゃべってたのと関係あったりする?」
「今言いますか! それを!?」
狙ったわけではないのだが、結果的に拮抗が崩れた。双刃に押され、弾き返されたアザレアは乱暴に地へ落ちる。
槍を支えにすかさず立ち上がる聖戦士に、照準を合わせたのはクラウスのレーザーライフル。
慌てて身を捻るも、『決戦場』の範囲外から放たれたレーザーは正確で。己を貫く光に、アザレアは苦しげな呻きを……あげかけて飲み込んだ。
「羅紗の魔術塔の名にかけて、負けるわけにはいかないのです!」
弾道から素早く射撃手の居所を探り、手負いとは思えぬ速度で移動中のクラウスを補足する。近接は彼女の間合いだろう。
「クラウスさん! 危ない!」
結が精霊に指示を出して聖槍を防ぐが、強烈な突きが唸りをあげて、防御を全て貫いてゆく。
だが。
「ありがとう。これだけ速度を削いでもらえば、充分だ」
短い|手斧《ハンドアックス》を手に、聖戦士の懐へ跳躍し──驚愕する彼女の耳へ、クラウスは囁いた。
遅い、と。
「別に、近接戦闘ができない訳ではないからね」
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功

①として行動を
幼気な彼女が勇気と覚悟をもって唱えた願い、必ず叶えてみせましょう
我々に任せてシャーロットさんは安全な場所から出ないこと
いいですね?
『花束』に込める属性はぴったりの物を用意しました――"軽蔑"です
彼女の攻撃は回避した方が厄介そうですから、出来れば受けつつダメージは抑えたいところですね
時間稼ぎをしつつ戦闘知識を総動員して、どの様に身体を動かせば最大限の威力軽減を出来るか、可能な限り算出して受けます
√能力で弾丸を射出して後の先を取り反撃を
敵も愛らしい方ではありますけれど、衝動的な行動はまるで子供だ
もう少し冷静に世界を見極められるほどの大人になったら、デートでもしましょうね

①やつではどこの組織のものでもありません
善意の目撃者の方のお手伝いに来たものなのです
でも、やつでは我らを恐れない、彼女に好意をもちました
ですのであなたにお渡しするのは断固お断りいたします
ここは森の中、蜘蛛の糸を張る枝や石くれ、切り株には困りません
蜘蛛たちに巡らせた糸を引いてバンバンぶつけましょう
例え転移で逃げたとしても、動けば巡らせた糸が少しづつからまって、敵の動きを鈍らせます
敵がやつでにも聞き覚えのある漫画のタイトルを口走っていたような気がしますが、もしやEDENから迷い込んだ方なのでしょうか?
いえいえ、ここは戦場、敵は√能力者。油断はしないし遠慮もしないのですけれども
※アドリブ連携大歓迎

①
ロッティさんの願い承りました!
ここはわたしたちに任せて、テディさんと隠れておいてください。
渡すわけにはいかないって、ロッティさんは物でもないし、あなたに管理されることもおかしいと思います!!
槍が危なそうなので、相手が興味をもちそうな話題(『花よりタンゴ』?読んだことない本ですね…面白いのでしょうか?)をふって、うまくいけばその隙に【空中ダッシュ】などを駆使して、距離を取りましょう。
もし、うまくいかなくて攻撃をしかけられたら【オーラ防御】で凌げるだけ凌ぎつつ、距離をとりましょうか。
距離が取れたら√能力発動です!(星さんたち力を貸してください!)
戦っている方がおられたら星の加護で強化もします!
●託された願い
『たすけてください。おねがいします』
たったこれだけの言葉に、少女が込めた勇気はどれほどのものだっただろう。
体は異形と化し、化け物どもに追われ。それでも親しい人々を巻き込めぬと悩み、見知らぬ者たちに頼るという決断をするまで。
まだ十一歳だという娘の心は、どれほどすり減っただろう。
「幼気な貴方が勇気と覚悟をもって唱えた願い、必ず叶えてみせましょう」
渡された願いの味を噛みしめて。|徒々式《あだあだしき》・|橙《だいだい》(|花緑青《イミテーショングリーン》・h06500)は深々と礼をする。
天使であろうと魔女であろうと変わらぬ、美しい心を抱いた小さなレディへ。
「ロッティさんの願い承りました! ここはわたしたちに任せて、テディさんと隠れておいてください」
セリナ・ステラ(羽の色が星空のように煌めくセレスティアルの御伽使い・h03048)も、両手をぐっと握って気合を高める。翼に宿る煌めきが星々のようにさざめいて、シャーロットは目を細めた。
自身の背にはためくのは、ボロボロの羽。
『こんな風にすてきな翼なら、私も欲しいな……』
セリナはきょとりと目を瞬き、それからしっかり微笑んで。
「ロッティさんなら、きっと似合います」
願えば叶うかもしれませんよ? だってあなたは、魔女なんですから。
少し背伸びして、シャーロットに瞳を合わせ。語るセリナの言葉に、橙も愉快そうに同意した。
「良いですね。それもまた、良い願いです。まぁ、まずは今を切り抜けるのが優先……我々に任せてシャーロットさんは安全な場所から出ないこと。いいですね?」
応えたのはむしろテディの方だった。シャーロットを先導し、ワンと一吠え。シャーロットも目尻に滲む涙をぬぐって礼の言葉を残すと、愛する猟犬と共に駆けだした。
肩越しに彼らを見送って──|黒後家蜘蛛《くろごけぐも》・やつで(|畏き蜘蛛の仔《スペリアー・スパイダ》・h02043)は聖戦士を名乗るアザレア・マーシーと対峙する。
「追うつもりですよね。行かせませんけども」
アザレアを押し留めているのは、見えずとも感じる『呪』の気配。
「……幼子とは思えぬ禍々しさですね。もう一度問いましょう、あなた方は何者です」
アザレア・マーシーが『聖槍』に集う力を増してゆく。失礼な言い方なのです、なんて可愛く口を尖らせつつも、やつでの返答は冷静だった。
「やつではどこの組織のものでもありません。『善意の目撃者』の方のお手伝いに来たものなのです」
——でも、やつでは我らを恐れない、彼女に好意をもちました。
かさり、かさり。主の意思に答えるようにあちこちで枝葉が揺れた。まるで森そのものが|彼女《やつで》に支配されたように。
「ですので、あなたにお渡しするのは断固お断りいたします」
●戦乙女たち
瞬間、森が唸った。
太い枝、尖った石くれ、放棄された鳥の巣すらも。森にある様々なものが一斉に、アザレア・マーシーへと飛来する。
|見えない蜘蛛の糸を引く《ウェブ・スイング》。
やつでが張り巡らせた蜘蛛糸が、周囲の物品を弾丸として射出した。
アザレアは聖槍を回転させ、突き、払い、襲い来る弾丸を防ぎ続ける。しかしあまりに絶え間ない、全方位からの攻撃に、丸い額に汗が浮き始める。
「この程度で、捕らえたとお思いですか!」
一喝すると無理やり息を整え、アザレアは小声で聖句を紡ぐ。何かの予備動作だと察知して、やつでは一度射出を止めた。直後、アザレアの姿が掻き消えて、やつでの背後に現れる。
「空に瞬く無数の星々よ、わたしの導きに応え降り注いで! 」
澄んだ詠唱は、翼にて空中を翔け、充分に距離を取っていたセリナのもの。
——弾丸となり悪しきを貫き、絶望を爆ぜ、加護により希望を灯す!
「星さんたち、力を貸してください。……|超新星弾丸《スーパーノヴァバレット》!」
祈りに応え現れたのは、恒星もかくやと思える光の弾丸。流星の尾を引き、アザレアの目を焼いて、真っ直ぐに降り注ぐ。
だが星の弾丸は、直撃はしなかったようだ。
背中越しに強烈な光と、槍が振るわれる気配を感じながら。やつではタタっと前へ駆けて間合いを外す。
「誰が、『悪しき』ですか! 私たちは|新物質《ニューパワー》たる天使を管理し、欧州の民のために──!」
槍は確かに避けた。だが、それで終わりではない予感がした。
恐らく、羅紗の魔術師が操る秘術。アザレアを中心に、森の空気が塗り替えられてゆく。周囲が『聖戦士を讃える決戦場』と化して、敵対者の力を削いでゆく。
「星の加護よ、皆さんに力を……!」
抗ったのは、セリナの超新星弾丸が残した光だ。爆発の跡に残ったオーロラのようなゆらめきが、能力者たちの力を高めてゆく。結果として己の結界を相殺され、アザレアが|臍《ほぞ》を噛む。
「新物質って。渡すわけにはいかないって。ロッティさんは物でもないし、あなたに管理されることもおかしいと思います!」
セリナの言に、ぐっ……と。寸の間、アザレアは言葉に詰まる。
己の使命に忠実ではあるものの、倫理観を失っているわけではないのだろう。
オルガノン・セラフィムを捕獲している間は、自らに問う必要もなかったのだろうが。
「私たちは、羅紗の魔術塔は、大局を見ています! ゆえに、犠牲を厭わず進む必要もある!」
──|目の前の相手《セリナとやつで》しか映らないようでは、大局が聞いて呆れますね。
「愛らしい方ではありますけれど、衝動的な行動はまるで子供だ」
やれやれ、と。
少女たちを狙って大きく薙がれた槍を、橙が銃剣を構えて受ける。これまで観察していたアザレアの動きと、彼に宿る戦闘知識を合わせて、限りなく威力を殺す形で受け流す。
「あなたの槍は回避しても厄介そうですから。エスコートプランはしっかり練らせていただきましたよ」
「なっ!? え、えすこーと!?」
何故かアザレアの頬に朱が走った。おや、可愛い反応と笑いつつ、橙は可能な限り高速で思考を巡らせ、最適な態勢で彼女の槍を受け止め続けた。
●花の散るとき
膠着状態を嫌ったのは、アザレア・マーシーの方だった。
協力する能力者たちに対して、彼女は単騎。このまま足止めされていては、追い詰められるばかりだと。
──聖句は世界へと伝播する──!
再び、アザレアの姿が掻き消えた。跡に残ったのは、聖句を纏い輝く怪異。
「これは触る気になりませんね」
密かに疲労の息を零し、橙も銃剣を下ろして退がる。とはいえ気は緩めず、鋭く気配を探る。
果たして──次に聖戦士が舞い降りたのは、枝の上。樹木の間を羽ばたくセリナの眼前だった。
星空を映す翼で激しく羽ばたいて、セリナは後方へ飛び退る。だが、間に合わないと察して、美しいオーラを巡らせ防御しながら、咄嗟に口を開いた。
「ところでっ……『花よりタンゴ』とは何でしょうか?」
──恐らく本の名前だとお察ししましたが、読んだことがないので。面白いのでしょうか?
アザレアが早口で零した英語。その中にあった奇妙な単語を、本を愛する御伽使いは聞き逃さなかったのだ。
興味がある話題で気を引き、一瞬でも隙を作れれば……そんな博打じみた試みだったが。
ずるっ。べきっ。どしゃ!
アザレア・マーシーは。誇り高き羅紗の聖戦士は。思いっきり足を滑らせて樹上から転がり落ちた。
やつでが張り巡らせていた蜘蛛糸が、少しずつ絡まって動きを削いでいたのもあるのだが。それにしても派手なすっころび方だった。
「あ、セリナ様も聞いてらっしゃったなら、やつでの聞き間違えではないのですね」
チャンスなので、石くれをボコボコ飛ばして追い打ちながら、やつでも得心顔。蜘蛛神の仔たる彼女は、人の世を学ぶため、多くの書物にも触れてきた。
なのでしっかり把握している。アザレアが口にした書名は──√EDENで人気を博す、某少女漫画のものであると。
「もしやEDENから迷い込んだ方なのでしょうか? もしくは、EDENの文化にご興味があるのです?」
いえいえ、ここは戦場ですし。こうして刃を交えている以上、遠慮もしないのですけれども。
なんて言いつつ、ちょっと興味をそそられて。二人の少女は怒涛の詰め寄り。
「わ、少女漫画なんですか、素敵な予感がします」
「ヒロインが二人の男性のどちらを選ぶのか、目が離せない展開が続いてます。まだ連載中なので評価は控えますが、『ときめき』というものを味わいたいならおススメの作品ですね!」
「そういえば、橙さんの言葉にも頬を赤らめていたような……戦乙女といえど乙女ですものね!」
「うううううう、うるさ──い!!」
美しい羅紗の装束を泥で汚し、投石で頭にコブを作りつつ。アザレア・マーシーは立ち上がった。全身から湧きたつオーラの成分は、怒り六割、羞恥四割といったところか。
ははは!
遠慮のない笑い声は、得物を担いだ橙のものだ。
「短絡的ではありますが……実に素直なお嬢さんだ」
そして音もなく。|花《アザレア》の少女に向けるは、『花束』の名を持つ銃剣の銃口。
「あなたにぴったりの|属性《タマ》を込めたつもりだったんですが。次は違うものを用意して差し上げてもいいかもしれませんね」
逃れようとする彼女の動きを、口まで含めて──蜘蛛の糸が絡め取る。
橙の口がゆるやかな弧を描いて持ち上がり、銃声が鳴った。
放たれた弾は、羅紗の聖戦士の体を貫き。
愛らしいフリルを束ねたような、黄色の花がいくつも咲いて、彼女を彩った。
──込めた想いは、"軽蔑"です。
「もう少し冷静に世界を見極められるほどの大人になったら、デートでもしましょうね」
最後に、倒れた細い体躯に向けて、橙は優しく微笑んだ。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功
第3章 ボス戦 『羅紗の魔術士『アマランス・フューリー』』

POW
純白の騒霊の招来
【奴隷怪異「レムレース・アルブス」】を召喚し、攻撃技「【嘆きの光ラメントゥム】」か回復技「【聖者の涙ラクリマ・サンクティ】」、あるいは「敵との融合」を指示できる。融合された敵はダメージの代わりに行動力が低下し、0になると[奴隷怪異「レムレース・アルブス」]と共に消滅死亡する。
【奴隷怪異「レムレース・アルブス」】を召喚し、攻撃技「【嘆きの光ラメントゥム】」か回復技「【聖者の涙ラクリマ・サンクティ】」、あるいは「敵との融合」を指示できる。融合された敵はダメージの代わりに行動力が低下し、0になると[奴隷怪異「レムレース・アルブス」]と共に消滅死亡する。
SPD
輝ける深淵への誘い
【羅紗】から【輝く文字列】を放ち、命中した敵に微弱ダメージを与える。ただし、命中した敵の耐久力が3割以下の場合、敵は【頭部が破裂】して死亡する。
【羅紗】から【輝く文字列】を放ち、命中した敵に微弱ダメージを与える。ただし、命中した敵の耐久力が3割以下の場合、敵は【頭部が破裂】して死亡する。
WIZ
記憶の海の撹拌
10秒瞑想して、自身の記憶世界「【羅紗の記憶海】」から【知られざる古代の怪異】を1体召喚する。[知られざる古代の怪異]はあなたと同等の強さで得意技を使って戦い、レベル秒後に消滅する。
10秒瞑想して、自身の記憶世界「【羅紗の記憶海】」から【知られざる古代の怪異】を1体召喚する。[知られざる古代の怪異]はあなたと同等の強さで得意技を使って戦い、レベル秒後に消滅する。
√汎神解剖機関 普通11 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴
●魔術師はささやく
「劣勢のようだな、アザレア」
木々の間に、澄んだ声が木霊する。
同時に白い光がいくつも舞い降りて。倒れ伏したアザレア・マーシーを取り囲み、傷を癒し始めた。
「はっ、私は一体! イ、イタタタッ!?」
意識を取り戻したアザレアは、『羅紗の聖戦士』の名に恥じぬ俊敏さで身を起こし……すぐに崩れ落ちて呻きだす。
ため息交じりに姿を見せたのは、森を行くにはあまりにも軽装の女性。
しかし見る者が見れば分かる。彼女が身に纏っているのは、精密に織られた羅紗の装束だ。
──彼女こそ、羅紗の魔術士が一人。
「ア、アマランス・フューリーさま!!」
アザレアは必死に姿勢を正し、強大な羅紗魔術士へ敬意を示そうとする。しかし、愛らしい顔は痛みに歪み、体は震えて、聖槍にも光がない。
アマランス・フューリーは、年若き聖戦士へかぶりを振って。
「もう良い。退け、アザレア。傷を癒し、次の任務に備えよ」
「!? 待って下さい、私はまだっ!」
『お前の働きは評価している──……好きな本でも読んで、暫し静養すると良い』
ぴゃ!? アザレアはとたんに、奇妙な叫びを上げて飛び退った。ご、ご厚意に感謝いたします! と、何故か泣きそうな様子で絞り出し、聖槍を支えに撤退した。
──違うんです、少女漫画はあくまで他√の人間の精神性や価値観を測るための資料であって私個人の趣向では決して云々……という叫びが尾を引いて消えたあと。
羽衣のように羅紗をたゆたわせ、アマランス・フューリーは能力者たちに向きなおる。
「アザレアをあそこまで追い込む者たちと、事を構える気はない。私も撤退しよう」
お前たちは、あの天使を守りたいのだと言った。
──であれば、天使を諦めた我らを追う必要はあるまい?
●ILLUSIONIST
果たして彼女は、いつから見ていたのだろう。
疑念は抱けど、シャーロットの安全が優先である以上、深追いすべきでないのも確か。
羅紗の聖戦士と魔術師が姿を消したのを見届けて、能力者たちはシャーロットの元へ移動した。
動物たちと森の木々に匿われていた彼女は、能力者たちの姿を認めて偽装を解き、テディと共に姿を見せる。
『お兄ちゃん、お姉ちゃんたち、みんな……大丈夫……!?』
真っ先に口にするのは、能力者たちの身を案じる言葉だ。皆が無事だと分かれば、くしゃりと顔を歪めて飛びついてゆく。
『ごめんなさい、私のために……! あのね、怪我にはおばあちゃんのハーブが効くから、良かったら村に来て。お礼をしたいの!』
自身の天使化が解決した訳ではないのに、シャーロットは能力者たちの労いで頭がいっぱいのようだ。テディと一緒に張り切って、こっちこっちと一同を先導し始める。
──見つけたぞ。天使よ……。
動物たちの索敵も、テディの嗅覚すら欺いて、潜む気配には気付かぬままに。
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◆以下、MSより補足
【目標】
アマランス・フューリーの撃退
彼女は天使を諦めておらず、羅紗魔術で周囲に潜んでいます。
隙を見てシャーロットを確保し、逃げるつもりです。
【プレイング】
・アマランス・フューリーの潜伏を察知して先制する
・姿を現したところを素早く撃退する
どちらかの形で戦闘に入るでしょう。どちらになるかはプレイング次第となります。
(犬の感覚でも察知できていないので、純粋に五感を使った探知は通じにくいようです)
最終章、どうぞよろしくお願いいたします。
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(辛い状況のはずなのになんてお優しい…)
ありがとうございます!
(でも、まだ嫌な予感(【第六感】)がします…警戒しておきましょう)
うまく言えないのですがまだ終わった気がしないのです…間違ってたら申し訳ないのですが、ロッティさん気をつけてください…
―やはり現れましたね!
どんな理由があってもロッティさんは渡しません!
(瞑想に入ろうとしてます?とても危険な感じがします…)
瞑想が完了する(を始める)前に【高速詠唱】で√能力発動です!
稲妻のような速さで敵を貫いた槍使いの英雄の物語の世界よ!わたしに力を貸して!
そして、瞑想が完了する前に貫きます!
心優しいロッティさんがこれ以上傷つかないように全力で戦います!

ん-、お姉さん帰ったのかなぁ…。
でも、なんとなーく、こういう時こそ油断大敵ってやつだよね。
…精霊さん達に索敵してもらおっと
高速詠唱からの精霊探査球を使用。
これに引っかからなければ、まぁ、ほんとなのかな?って気はするけど。
でも、最後は第六感を信じてだね。
精霊探査球に反応があったら、そちらに向けて精霊銃を乱れ撃ちっ!
そっちへ向かってダッシュをかけてから、右手に抜いた精霊剣で攻撃っ!!
お姉さん、かくれんぼは終わりだよ。
テディさんもかいくぐったのはすごかったけど、こっちだって待っているだけじゃないんだからね。
…さ、覚悟はいいかな?
絶対にシャーロットさんは連れて行かせないからっ!!
庇うようにして立つよ

退いてくれて良かった。向こうも実力者なのは間違いないし、戦えば無事に済むとも限らない。穏便に済むのならそれが一番だわ。
村に戻る間も周囲の警戒はしておかないと。オルガノン・セラフィムが残ってる可能性もあるし。シャーロットさんにもあまり私たちから離れないように言っておくわ。というか、離れないように追いかけるけれど。
もし、フューリーさんが仕掛けてくるようであれば…その時は戦うしかないわね。一度姿を消した上で来るのなら、諦めたってのは噓なんだろうし、説得は難しいわ。
あなたにも聞いておくけれど、シャーロットさんを連れて行って…彼女をどうするつもりなの?
彼女を傷つけるというのなら、力づくで止めて見せる。

(天使を目の前にあっさり退くとは思えないな……)
魔術士の行動を不審に思い、念の為レギオンを飛ばしてセンサーで周囲を警戒しつつシャーロットを庇える位置で移動
魔術士が姿を現したら冷静に対処
「諦めが悪いね」
優しいシャーロットが魔術士達の手に堕ちて実験台として扱われるのは嫌だから
全力で抗わせてもらうよ
シャーロットを背に庇いながら、レイン砲台やレーザーライフルでの射撃で戦う
敵からの攻撃は見切りや霊的防護で凌いで、記憶の海の撹拌で呼び出されたら怪異にはレギオンミサイルの集中砲火で怯ませ、動きを妨げて消滅まで凌ぐ
「大丈夫、絶対に守るよ」
連れて行かせたりなんてしないから、安心して
※アドリブ、連携歓迎です

プツン、プツン、と、糸の切れる感触
蜘蛛さんたちが騒ぎ立てる音に、ざわりと背筋を撫でられました
さっきの戦闘のおかげです
張り巡らせた蜘蛛の糸が森にはたくさん残っています
それが何の気配もないのに千切れました
他の方に視線で危険を示してから、蜘蛛さんたちに糸を切って動く“それ”に向かって一斉に飛びかかり噛みつかせます
ダメージよりも、集中を乱すのが目的です
小さな痛みや反撃の動きでも引き出せば、このとても気持ち悪い隠れ方を続けられないはず
攻撃した声を上げて危険を示して、蜘蛛たちには周囲を引き続き警戒させてシャーロット様を守らせましょう
蜘蛛たちも、好いてくれる相手のために頑張りたいでしょう
※アドリブ連携大歓迎
●乙女の勘
柔らかな春の緑が目を癒やす。さっきは各自で駆け抜けた森を、今度は皆で遡る。
迷いない足取りで先導するのは、天使化した魔女の娘、シャーロット。更に彼女の一歩先を、ジャックラッセルテリアのテディがゆく。小さくとも狩猟犬の体力は伊達でなく、折々、主や能力者たちを振り返りながら尾を振っている。
ぱたぱたと、大きく揺れる尻尾が愛おしく。|小明見《こあすみ》・|結《ゆい》(もう一度その手を掴むまで・h00177)の頬は緩んだ。
「それにしても……フューリーさん、退いてくれて良かった。穏便に済むのならそれが一番だわ」
──向こうも実力者なのは間違いないし、戦えば無事に済むとも限らないもの。
シャーロットの安全は元より、仲間が無事であったこと。加えて、相手を傷付けなくて済んだのも、結には喜ばしい成果。
「んー、お姉さん帰ったのかなぁ……」
だが、エアリィ・ウィンディア(精霊の娘・h00277)は首を傾げ、青髪を一房、指先でくるりと巻いた。結の言う通り、これで終わったのなら何よりではあるが、どこか腑に落ちないのも事実。
──なんとなーく、こういう時こそ油断大敵って気がするなあ。
悩むエアリィの隣へ、ふわり。夜空色の翼をなびかせて、セリナ・ステラ(羽の色が星空のように煌めくセレスティアルの御伽使い・h03048)が並ぶ。同じく、憂いるように藍色の瞳を揺らしていた。
「そうですね、うまく言えないのですが……わたしもまだ終わった気がしないのです」
根拠は、何というか。うーん。
本で得た知識を総動員し、セリナは相応しき言葉を探して。やがてぽんと小さな手を打つと、エアリィも同時にピンときた。
「そう、『|嫌な予感《だいろっかん》』が囁きます!」
「うん、『第六感』を信じてだね!」
両掌を合わせて|意気投合《ハイタッチ》したのち、エアリィは小声で呪文を紡ぎ始めた。高速詠唱──からの、|精霊探査球《エレメンタル・サーチ・スフィア》の発動。
「……六界の精霊達よ、力を貸して……」
エルフの少女の呼びかけに答え、異なる属性を持つ六色の精霊が集う。彼らはエアリィの前で一度頷くように揺れると、木々の間に消えてゆく。
「エアリィさん、今のは?」
精霊の動きを察知した結が、確認のために呼びかけてくる。エアリィは、セリナと並んで頷くと、声量を抑えて答える。
「……精霊さん達に索敵してもらったの。これに引っかからなければ、まぁ、お姉さんが帰ったのもほんとなのかな? って気はするけど」
「……そうね。村に戻る間も周囲の警戒はしておかないと……オルガノン・セラフィムが残ってる可能性もあるし」
少女たちが戦いなれていることに、頼もしさと一抹の寂しさを感じながら。結も気を引き締め直して微笑んだ。
すると、彼女たちの足が止まったことに気付き、テディがわふっと一吠えしてシャーロットへご注進。シャーロットも『どうかしたの?』と、慌てて引き返してくる。
『もしかして、どこかいたい? 歩くの、早かった?』
彼女が駆ければ、天使化で生えた翼もなびく。セリナのものとはまるで違う、生まれながらに朽ちた羽。
──ロッティさん……ご自身が一番辛い状況のはずなのに、なんてお優しい。
「ありがとうございます。少しお話していただけです」
「うん、あたしたちはぜーんぜん大丈夫! 心配かけてごめんね」
分かりやすく安堵するシャーロットに、セリナはきゅっと胸を抑えつつ。
「ただ……警戒しておきたいのです。間違ってたら申し訳ないのですが。ロッティさん気をつけてください……」
「ええ、何かあったら私たちが守るから、離れないでね、シャーロットさん」
というか、離れないように追いかけるけれど。結が少し身を屈めて付け足すと、小さな魔女は少し驚いたあと──こくりと、真剣な面持ちで頷いた。
──天使を目の前にあっさり退くとは思えないな……。
少女たちのやりとりを、少し離れて見守りながら、クラウス・イーザリー(希望を忘れた兵士・h05015)も警戒を緩めていなかった。一太刀も交えず、撤退を堂々と宣言したのも不審だ。
類似の事件に何度も向かった彼には、羅紗の魔術士がそれほど甘いとは思えない。
シャーロットを怯えさせないよう、密かに|小型索敵兵器《レギオン》を散らしておいた。同じく探知を始めたエアリィとは、|魔術と科学《べつぶんや》で補い合える。
相手がどの方向から来ても庇えるよう、肉眼でも広く警戒しながら、複数のレギオンを操るのは骨の折れる作業だ。テディが時折気にしてくるのは、気を張っている彼がやや不審なのかも知れないが、お前の主人を守るためだと心中で謝っておく。
「……気持ち悪いのです」
と。思ってもない方向から刺され、さすがのクラウスもちょっと動揺しつつ振り向いた。
いつしか接近していた──味方ゆえに注意を向けていなかった黒いドレスの少女、|黒後家蜘蛛《くろごけぐも》・やつで(|畏き蜘蛛の仔《スペリアー・スパイダー》・h02043)が目を上げる。
「あっ、違います。そうではなく!? そうではなくですね!」
──不自然に、糸が切れました。
やつでの足元に落ちる大きな影が、蠢く黒い蜘蛛たちだと見て取れば、言葉の意味もおのずと知れる。
クラウスは瞬時に、レギオンへ指示を走らせた。
●剥がれる覆い
プツン、プツン、と、糸の切れる感触が届く。
人の耳には聞こえず、目にも映らない。ほんの微細な振動にすぎないそれを、やつでは敏感に察知する。
「さっきの戦闘のおかげです。張り巡らせた蜘蛛の糸が森にはたくさん残っています。それが……何の気配もないのに千切れました」
──蜘蛛さんたちが騒ぎ立てています。
「その気配に、やつではざわりと背筋を撫でられました」
予感だけでは収まらない。確実に嫌な『何か』が、この周囲に|存在し《かくれ》ていると、確信を持ってやつでは告げる。
「誰が……なんて、考えるまでもないね」
羅紗の魔術士。アマランス・フューリー。
唇の動きだけで名を紡ぎ、クラウスはセンサーを確認する。一見して異常は検知できず、エアリィに目配せすれば、彼女も戸惑っているようだ。
だが、やつでの言葉を疑うつもりもない。
「……大まかな理屈は想像できる」
恐らく、クラウスの放ったレギオンも、エアリィの招いた精霊も、アマランス・フューリーには|認識できる《・・・・・》ものだった。ゆえに、潜伏に徹する魔術士は、それらへ極めて慎重に対応している。
だが、蜘蛛糸は──ある意味想定外の、原始的なトラップだったのだ。
「森には普通の蜘蛛の糸もあります。その中で、やつでたちの『見えない蜘蛛糸』に注意を払うことは、さすがの魔術士でも難しかったのではないかと」
「そうだね。そして、まだ仕掛けてこないのは」
「ええ、クラウス様やエアリィ様のおかげでしょう。警戒されていると、向こうも分かっているのです」
そこから更に、二言三言。青年と少女は、世間話のように語り合う。やがて、さりげなく二人は分かれ、やつでがエアリィに歩調を合わせる。
エアリィのとんがり耳が、ぴくりと小さく動いて。それから彼女は、数歩先にいたセリナと結へ、にこやかに話しかけた。その間にクラウスはシャーロットの傍に移動して、テディの背を軽く撫でている。
切れた蜘蛛糸の位置から、アマランス・フューリーの移動経路は大まかに推測できている。しかし、こちらが気づいたことが、伝わってはならない。精霊探査球とレギオンの動きは、あえて変えない。
次だ。
次に位置が分かったら。
──プツン。
やつでの赤い眼光が、鋭く気配の先を射抜き。
「蜘蛛さんたちっ! 噛みつくのです!」
愛らしい号令一下。蜘蛛たちも勇気を奮って、糸を切った『それ』へ飛び掛かる。ぴょいぴょいと頭上を飛び交う黒蜘蛛の群れに、シャーロットが『わ!』と驚きと歓声の中間で叫ぶ。
くっ……!
小さな動揺。黒蜘蛛ならぬ黒雲の隙間で、森の景色が揺らいだ。
「集中が乱れましたね! チャンスです!」
「おっけー! 蜘蛛さんたち、離れて!!」
小型の精霊銃を構え、エアリィが踊り出た。愛用の銃、エレメンタル・シューターから魔力の光が迸り、|蜘蛛たちが慌てて逃げてゆく《くものこをちらす》。
何もない空間に、精霊銃の乱れ撃ちが叩き込まれる。クラウスのレーザーライフルも追い打ちを担う。
放たれる弾が『何か』に触れる度、波紋のように空間が震え、白い羅紗の衣が見え隠れする。左手で銃を撃ちながら、右手に細身の剣を提げて、エアリィの足は宙を翔けた。
「お姉さん、かくれんぼは終わりだよ! テディさんたちもかいくぐったのはすごかったけど、こっちだって……待っているだけじゃないんだからね!」
精霊の力を宿した剣、エレメンティアが牙を剥く。もはや身を隠すヴェールは壊れ、半分以上姿を現していた魔術士──アマランス・フューリーは、纏う羅紗の衣を操って刃を受けるが、布先を断たれて眉根を寄せる。
「異国の術とはいえ、それなりの魔力剣のようだな」
隠蔽を暴かれても、大きな動揺は見せることなく。アマランス・フューリーはゆるりと能力者たちから距離を取る。柔らかな長髪を揺らして、首を一振り。
「小細工で出し抜けるほど、簡単な輩ではなかったか」
「やっぱり……諦めたのは噓だったのね……」
どうしても、こうなるのか。シャーロットを守るように一歩進み出ながら、結は重い息を零した。小細工とは言うものの、これ程の術を使って策を巡らせていたのだ。説得が難しいことも充分察せられた。
それでも、問わずにはいられない。
「あなたにも聞いておくけれど、シャーロットさんを連れて行って……彼女をどうするつもりなの?」
知れたこと。
アマランスは、睫毛の一本すら揺らさず言った。
「羅紗の魔術塔にて奴隷化し、有効に活用させてもらう。組織と欧州の繁栄のために」
●魔術士の戦い方
……是非もなかった。
「大丈夫、絶対に守るよ」
──連れて行かせたりなんてしないから、安心して。
クラウスが、震えるシャーロットの肩に手を置いて、自分の後ろに下がらせた。エアリィもまた、彼女を庇って左右の武器を握りなおす。
と、能力者たちの足元を潜って、テディが出てきた。姿勢を低くし、唸り声を上げ、今にも飛び掛からんばかりだ。
「テディさん、大丈夫よ。私たちに任せて」
だが、結が忠犬を優しく留めて抱き上げ、シャーロットに預ける。
そしてアマランス・フューリーへと宣言した。
「分かったわ。彼女を傷つけるというのなら、力づくで止めて見せる」
「ええ、どんな理由があってもロッティさんは渡しません! ……心優しいロッティさんがこれ以上傷つかないように、全力で戦います!」
結が風の精霊へ協力を呼びかければ、セリナも六枚の翼を羽ばたかせてその風を強めた。逆巻く風が竜巻と化し迫る中、アマランス・フューリーは、瞼を下ろし静かに佇むのみ。
やがて、ふぅと淡い色の瞳が開かれ、魔術士が紡ぐ。
「羅紗の記憶海に揺蕩う、知られざる古代の怪異どもよ」
出でよ。従え。我が敵を潰せ。
応えて影が現れた。人の姿にも似たソレは、言葉を発することもなく、ただ彼女に代わって竜巻を受けて吹き飛んでゆく。
ソレの働きを見届けると、アマランスは再び沈黙へ戻る。
「何ですか、あれは……」
とても危険な感じする。セリナの鼓動が速まり、第六感が囁いた。
「瞑想に入ろうとしてます……?」
重要なのは詠唱よりも、直前の集中だ。ここを阻害せねばならない。
わたしも、エアリィさんみたいに……!
出だしはたどたどしく、しかし一度走り始めれば翼を得たように、セリナの詠唱が速度を増す。
瞑想の時間は、ほんの数秒。その間に少女の能力も発動した。
──|物語の世界《ファブラ・ムンドゥス》。
セリナ自身がかつて触れ、焦がれ愛した物語の世界が広がってゆく。今、想起するのは、槍を掲げて駆けた英雄。その槍は稲妻のように閃き敵を貫いた。
「英雄の物語の世界よ! わたしに力を貸して!」
少女を中心に、世界が塗り替わった。
英雄が現れ、放たれた槍が、必中の鋭さをもって魔術士へ飛ぶ。
アマランスが胸を貫かれるその寸前、竜巻を払いきった怪異が戻り、神速の槍を阻んだ。体を深く貫かれ、今度こそ消滅するが、その間に新たな怪異が現れている。
「諦めが悪いね」
クラウスが呼び戻したレギオンで、魔術士たちを取り囲む。召喚される怪異も弱くない。数を揃えられては厄介だ。
だが、弱点はセリナが明かしてくれた。
「詠唱はブラフだ。瞑想を止めよう」
冷静に周知すると、確かに一瞬アマランスの眉根が寄った。明確な答えに後押しされたクラウスは、レギオンから一斉にミサイルを放つ。威力は弱いものの、集中を阻害するには充分なはず。
すると怪異が形態を変え、アマランスを覆うドーム状となった。
「防御に向いた個体を呼んだのか」
ただ、範囲が広い分薄そうな防御だ。レーザーライフルを構えて一点を撃つ。ドームが砕けて消えるまでに、招かれた怪異は二体。
彼らを差し向けながら、アマランスはふっと奇妙な笑いを零した。
「互いに、やられて嫌なことをやりあう」
──まさに、魔術士の戦い方だな。
少しだけ楽しそうな声音は、この場で彼女が初めて見せた人間らしさだったかも知れない。虚を突かれつつ、こちらも必死だと苦く笑う。
「優しいシャーロットが魔術士達の手に堕ちて、実験台として扱われるのは嫌だから。全力で抗わせてもらうよ」
「その通りです。シャーロット様を攫う隙はありませんよ」
やつでの言葉を肯定するように、森がざわりと揺れた。
もう一匹います! ──鋭い警告が飛ぶ。密かに呼び出され、シャーロットの背後に回り込もうとしていた怪異を、蜘蛛たちが糸で阻んでいる。
「蜘蛛さんたちも張り切っています。守りに死角はありません!」
誰だって、好いてくれる相手のためには頑張りたいでしょう?
ちらりとシャーロットに視線を向けて微笑めば、彼女を囲む蜘蛛たちもぴょこぴょこと飛び跳ね同意を示す。やがて怪異が姿を消したのを見て、クラウスが呟いた。
「一定時間で消滅するなら、動きを妨げて凌げばいいな」
「こうも次々と手の内を暴かれるか」
いや。魔術士はふっと首を振る。既に交戦したこともあったかな、と。
アマランスは次々怪異を呼び出し、自身の魔術攻撃も交えて巧みな牽制を試みるが、能力者たちの守りはまさに鉄壁だ。崩せない。
「シャーロットさんを守るため、私にももう迷いはないわ……!」
結の巻き起こした強烈な風が、怪異ごと魔術士を包み込む。羅紗で身を包み、一度堪えたところに第二陣が吹き荒れて、とうとうアマランスは小さな苦鳴を漏らす。
機を逃さず、|駆けた《ダッシュ》のはエアリィ。
──さ、覚悟はいいかな?
銃を素早くホルスターに収めたのは、剣を両手で握るため。この一撃に威力を込めるため。翡翠の瞳に、決意が灯っている。
「絶対にシャーロットさんは連れて行かせないからっ!!」
強烈な斬撃はとうとうアマランス・フューリーを斬り裂き、追い詰めて。
「……ここは……退くしか……」
底知れぬ魔術士に、本気の撤退を迫らせた。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴 成功

★アドリブ歓迎。正義感は皆無ですが、√能力者の迷惑になるような行為はしません。シャーロットも守ります。でも声はかけません。
なんで自分より他人の心配をするんだろうな?
|俺《・》|た《・》|ち《・》には分かんねぇよな。
なあ、碧流ぅ?
※『闇の王』で索敵してみる。
ククク…それで隠れてるつもりか?甘いな。
部下を逃がすために撤退するフリをしてたのか?優しいな!
自分だけ隠れて任務を完遂しようってわけか!
ツンデレっていうのか!上司の鏡っていうのか!
明日起きたら背中に翼が生えてんじゃねぇの!?
ハハハハハ!!
※『魂華転生』を使用し、狂華(剣)で戦う。接近戦で敵の注意を引きつける。ダメージは耐久力3割以下になるまでは気にしない。常に敵とシャーロットの間に入り彼女を守る。
とっとと帰っとけば良かったのにな。
何がそうさせるんだ?
正義感?使命感?
じゃあ天使を連れ帰ったら満たされるわけだ。
ああ、見たくなっちまった。
何をやっても満たされないアンタの顔がよ。
片付いたら即帰る。
綺麗な心の前に俺みたいなのがいたら台無しだろ?

愛らしい少女にフラれたと思ったら、ようやく彼女のお出ましですか
随分と耳障りの良い申し出ですが、そう仰るなら信用しましょう
…などと言いつつシャーロットさんの所ではきちんと索敵をしましょう
『告解』を用いてそれとなく、どこかに潜んでいるかも知れない相手にも気付かれないよう注意を払います
仕掛けるタイミングは味方が攻撃を開始したときか、
敵がこちらに仕掛けようとした瞬間がいいでしょう
時間はかかるかも知れませんが、時間稼ぎは得意ですからね
曰く最も集中して、最も無防備になる瞬間、そこを狙います
加虐趣味もないので出来ることなら手を引いていただけません?
それでもどうしてもとオネダリされたら…仕方ありませんね
『花束』に"嘲笑"を込めて『告白』しましょう
直接身体に命中せずとも、効果範囲圏内ならば充分です
貴方、とても醜いですよ
私は綺麗なものが好きなんです――例えばそう、綺麗事とか
●狂奏の前奏曲
張り切るシャーロットと愛犬テディの揺れる尾が、小さく見える森の中。
「なんで自分より他人の心配をするんだろうな?」
|呈《てい》されたのは、疑問ではなく確認だった。
「|俺たち《・・・》には分かんねぇよな」
──なあ、碧流ぅ?
くつくつと、|天霧《あまぎり》・|碧流《あおる》(忘却の狂奏者・h00550)は愉快に含み笑う。独り言の声量で、しかし確かに|応《いら》えを楽しむ間を置いて、彼の言葉は暫し続く。
仲間から離れ、独り後を追う彼の足取りは、散策めいて気負いがない。木々に紛れる黒いコートの裏地から、微かに鮮烈な赤が零れていた。
「この世には、そのような方もいるものですよ」
——誰かの為に願ってしまうような人が、ね?
ふふ、と、茶目っ気含んだ吐息を零し、碧流へ微笑んでみせたのは|徒々式《あだあだしき》・|橙《だいだい》(|花緑青《イミテーショングリーン》・h06500)。
己の内に向けていた視線を、少しだけ煩わしげに引き上げて、碧流は橙の整った顔を見やる。
「お前はあちらに戻らないのか? 愛しの|レディさま《・・・・・》がお待ちだろう?」
嘲り交じりの抑揚と共に顎で示した先には、前を行くシャーロットと他の仲間たちの姿がある。先ほどまでは橙も一行に混じり、|小さなレディ《シャーロット》に付き添っていたのだ。
橙は、「戻りたいのもやまやまなんですが」と、大げさに悲しんで。
「シャーロットさんはどちらかというと、同年代のお嬢さん方とお話ししたい様子でしたし。私はもう一人の|彼女《・・》のお相手に集中しようかと」
──|愛らしい少女《アザレア》にもフラれてしまいましたしね。
自らの手で弾丸を撃ち込んだ相手を、恭しく讃える橙に、碧流は初めて声を上げて笑った。
「ククク、言うねえ? あの女を信じるなら、待つなんて無意味な筈だが?」
「ええ、随分と耳障りの良い申し出でしたが……私は信用していますよ?」
それでも、と。
慇懃な男は、銀細工の懐中時計の蓋を開けた。待ち合わせ時刻を確認するように。
「女性との再会には、いついかなる時も、備えておくべきですから」
カチカチと針の動く小さな音が、森の葉擦れに溶けて消える。
勿論、準備がお相手に気付かれれば、台無しですけどね。
橙が口の前で指を立てると、伊達男ってやつは違うねと、碧流は呆れて笑みを消した。すると却って、彼の面立ちが端正なことが際立ったが、すぐに享楽に歪めて印象を書き換える。
「血に飢えたコウモリどもよ──」
地に落ちる碧流の影が僅かに色を濃くした。じわりと滲み出たのは、悪魔にも似た翼。やがて蝙蝠の形を成したのちも、影の静かさで森へ散ってゆく。その数は二十を越え、ようやく最後の一羽を左手から放つと、告げる。
「不運な正直者か、地獄が似合いの嘘吐きか。どちらにせよ、見つけたら存分に渇きを潤して来い……!」
●三様の不協和音
果たして──能力者たちが予感した通り、魔術士は再び現れた。
幾重にも編んだ魔術で、慎重に潜伏した彼女の姿を暴いたのは蜘蛛の糸。
短くも濃厚な交戦を経て、エルフの少女の細剣に貫かれた魔術士は、再び消えた。
だが、既に二番煎じとなった隠れ蓑など、|彼ら《・・》に通じるはずもない。
「ククク……それで隠れてるつもりか?」
甘いな。
碧流の操る蝙蝠たちが、共鳴して震え合う。交わされているのは、ひとの耳には届かぬ超音波でのやりとりか、そもそも理解できぬ何かか。とにかく、超感覚に導かれ、蝙蝠の群れが収縮を始める。一つの意志持つ巨大な生物となって、見えぬ誰かを追い詰める。
いや、この期に及んでは、『誰か』などと嘯く理由もないだろう。
羅紗の魔術士、アマランス・フューリーだ。
「部下を逃がすために撤退するフリをしてたのか? 優しいな! 自分だけ隠れて任務を完遂しようってわけか!」
ツンデレっていうのか! 上司の鏡っていうのか!
蝙蝠の羽ばたきが逸るのにつれて、碧流の舌鋒も激しさを増してゆく。
「明日起きたら背中に翼が生えてんじゃねぇの!?」
──良かったなあ、お優しい魔術士さんよ! 大好きな天使さまにいつでも会えるぞ!
狂的な哄笑が轟き渡ったとき、初めて、ゆらりとはためく衣の裾が見えた。衣に刻まれた奇妙な文字が輝いて宙を舞い、数羽の蝙蝠が撃ち落とされる。
碧流の舌打ちに、橙の声が重なった。
「横恋慕のようで無作法ですが、申し訳ありません」
逃走者を追い詰める蝙蝠に合わせ、先回りさせていたのは自律式懐中時計たち。索敵の役目を終えた彼らはじっくりと時を数えるのを止めて、てんで勝手にはしゃぎ出した。
長針が踊って、躍って、尻尾を出した魔術士へ飛び掛かる。
──マーダータイム。
「時間稼ぎは得意ですからね。仕掛けるタイミングもゆっくり待つつもりでしたが。思ったより堪え性のないお方でしたねぇ」
攻撃されて、仕方なく仕掛け返すなんて。
それこそ最も集中し、最も無防備になる瞬間でしょう?
針が空間へ突き刺さる。続けて蝙蝠たちも牙を剝く。
苦しげな吐息を漏らし、アマランス・フューリーが全身を現した。応急処置はしていたが、脇腹には剣による裂傷が色濃く残り、今また、新たな傷を全身に刻まれた。
美しい羅紗の衣のあちこちを紅に染めながら、しかし静かに長い睫毛を伏せている。
「羅紗の記憶海より再び……羅紗の魔術士アマランス・フューリーが招来する……」
ひと呼吸ののち。魔術士を守るように、闇が凝った怪異が現れて、碧流と橙の眉が同時に上がった。アマランス・フューリーほどではないが、決して油断できる相手ではないと察したのだ。
「おやおや誰だぁ? 残業する上司サマを気遣って来てくれたお優しい仲間はよぉ」
「……知られざる古代の怪異。充分、お前たちの相手が務まる個体だ」
傷が痛むのだろう。額に細かな汗を浮かべながらも、アマランスは静かに言った。
落ち着いた態度を崩さない相手に、苛立ちを滲ませて。けれど碧流もすぐに仕掛けないのは、彼女の言葉がハッタリでないと分かるからだろう。
蝙蝠たちを遠巻きに下げて警戒させながら、鋭く光るメスを取り出した。
いっそ簒奪者に見えるほどの殺意をギラつかせる彼が……その実、しっかりとシャーロットを背に庇う位置取りは保っているのに気付いて、橙は目だけで微笑み、彼に並ぶ。
●協奏のフィナーレ
「さて、せっかくお越しいただいたので、ゆっくりお話ししたいところですが」
花束を抱えるように、銃剣を両手で携えて。時計職人の男は、魔術士とその僕に語りかける。
随分と、お怪我も召されている様子。せっかくの服が台無しですよ。
「加虐趣味もないので、出来ることなら手を引いていただけません?」
まあ、彼の行動まで約束することはできませんが……と、隣を盗み見れば。碧流はつまらなそうに眉を顰めながら、一応口を挟まずに聞いている。
「有難い申し出だな」
アマランス・フューリーも、眉一つ動かさずに呟いた。そして、ゆったりとした衣の裾を翻して、一歩、動く。彼女にとっての前へ。シャーロットがいる方向へ。
「だが、そのまま受けるほどには、こちらはお前を信用していない。そして『撤退する』というこちらの言葉も、お前たちはもう信じまい」
さらに隠れる暇もないとなれば、残る選択肢はひとつ。
古代の怪異が、アマランスの目配せを受けて、滑るように走り出した。碧流と橙、二人の能力者の間に向かって。
突破させる訳にはいかない。
橙は躊躇なく、銃剣——『花束』に装填した弾丸を、敵の足元向けて発射する。
怪異はぐにゃりと形状を歪め、被弾を避けた。人間には到底不可能な回避方法に意表を突かれたが、直撃せずとも構わないのだ。何故なら、着弾地点から花開き、弾丸の影響範囲は広がるのだから。
闇の怪異の朧な顔が、ギョっと歪んで見えた。
捕らえた敵には痛みとなる『激情』を。包んだ仲間には力となる『鎮静』を施す、橙の力。
だが──。
「鎮静だって……? ハハハハハ、物足りねえなぁ! 俺にはもっとアガるのをくれよ!!」
碧流は鎮まるどころか、アドレナリンに侵され狂騒する。
そのまま怪異へ突進し、握ったメスを振り上げて。躊躇なく、無造作に、何度も何度も振り下ろす。
「この辺が顔か? 喉か? 心臓かぁ!? 答えなくてもいいぜ、全部抉りゃぁ済むことだからな!」
抗う怪異が反撃をする。アマランス・フューリーが輝く文字列に魔力を宿して発射する。だが碧流は怯まない、やめない、痛みなど感じない。血を流さぬ怪異の代わりに、いっそ自分の血の臭いで興奮を高めて滅多刺し。
だが、怪異に止めを刺したのは、橙の銃撃だった。
どこでも良かっただろうが、一応、急所らしき場所を狙ってやった。
「流石に可哀想でしたからね、介錯ってやつですよ」
そして、狂気に染まった琥珀の瞳と、憐れみを帯びた翡翠の瞳が、共に見つめるのはただ一人。
血の臭いの中で詠唱を続ける……アマランス・フューリー。
「……狂人が」
ぽつりと零された言葉を聞いて、むしろ愉快そうに。碧流は流れる血を舌で舐めとった。
メスが形を変えてゆく。血を浴びて、小さな刃が、剣へと成長してゆく。
彼の力、|魂華転生《コンカテンセイ》によって生じるのは魂を喰らう剣。呼び名も『朱華』から『狂華』へと変貌するが、教えてやる義理もないだろう。
「申し出に乗って、とっとと帰っとけば良かったのにな」
なあ。何がそうさせるんだ?
正義感? 使命感?
一歩一歩、近づく狂気に、魔術士は答えずひたすら魔術を放つ。
傷は圧倒的に碧流の方が多くなっているのに、気圧されているのはアマランスの方だ。
「じゃあ天使を連れ帰ったら満たされるわけだ」
ああ、見たくなっちまった。
——何をやっても満たされないアンタの顔がよ。
「退がれ! 下郎っ!!」
とうとう、アマランス・フューリーが叫んだ。息が荒い。精神が乱れて、抑え込んでいた痛みも噴き出したのだろう。羅紗から放つ文字の魔力弾は明らかに狙いがブレているし、先ほどのように怪異を呼ぶことも出来なさそうだ。
不浄なる瞳がアマランス・フューリーを映す。
空気を割いて、狂華が翻る。
魔術士は──とうとう、己の足で逃げ出した。
「……仕方ありませんね」
醜態を見届けて、橙はため息を吐いた。
「今日はこういう役回りに成る日ですねぇ……まあ、そういう巡りもあるでしょう」
機会は二度もあったというのに──どうしても、と、オネダリしたのは貴方です。
気を取り直してからりと笑い、橙は|銃剣《はなたば》に|弾丸《タネ》を込める。せめてものはなむけに、似合う花を咲かせてやろうと、とっておきの気持ちを込めて。
碧流を巻き込む心配はしない。これは彼女だけに向けた花だから。
──ああ、残念です。
「貴方、とても醜いですよ」
魂を半ば虚無に呑まれた女に、反撃の余裕などありはしない。
着弾によって銃撃に気づき、アマランス・フューリーは目を剝いた。
『告白』に込めた想いは……"嘲笑"。
彼女の死を、消えゆくインビジブルを彩ったのは──愛らしい白の花弁を、紫のガクが衣のように包む、オダマキの花だった。
●独奏
「おや、|彼女《シャーロット》には会って行かないんですか?」
軽く身だしなみを整えて、一行の元に戻ろうとした橙は、背を向けた碧流へ問いかける。
ご挨拶をしていかれては? 紳士的な提案に、碧流はハッと吐き捨てる。半眼で振り向いて見せたものの、今度こそ返り血と己の血の区別なく、真っ赤に濡れた顔を拭おうともしない。
「本気で言ってんのか?」
笑わせるぜ。俺みたいなのがいたら台無しだろ?
「本当に綺麗な心ってやつの前によ」
威嚇めいたテディの吼え声が聞こえてきた。血の臭いに反応しているのかもしれない。
それを合図に碧流は歩き出す。恐らく、来た時と同じく、どこか別ルートで帰るのだろう。彼は二度と振り返らず、橙も二度引き留めはしなかった。
ただ、聞こえないだろう距離まで離れてから、ぽつりと言った。
「私は綺麗なものが好きなんです──例えばそう、綺麗事とか」
ですから……奇麗なものを汚したくない、という。
貴方の立派な|綺麗事《ねがいごと》も、尊重しましょう。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功
かくして、此度の|天使《まじょ》は救われた。
しかし、彼女が……保護された数多の天使たちの運命がどのように転がるのか。
今はまだ、その道行は見えない。