1
天使に愛の歌を
●決意と別れ
黒い肌。大きな翼。人間にあるまじき金属質の臓器。
変わり果てた我が子の姿を目にしても、子の無事を願う母の心は変わらなかった。
しかし、この子はもうこの村には居られない。この異形と化した姿を村人は拒絶するだろうし、小さく狭いコミュニティの中では隠し通すことも難しいだろう。
何より、今、この村は危機に陥っている。正真正銘の化け物に襲われているのだ。どことなく我が子に似た姿の、しかし理性の欠片もなく暴れ回る化け物に。
村の出口まで何とかやってきたが、このままでは化け物に追いつかれてしまう。民家の物陰に隠れて周囲を窺いながら、母は腹を括った。我が子――セレナだけでも逃げられるよう、どうにかしなければ。
「セレナ、お願い。森に住むジャックおじさんに危険を知らせてあげて」
大人用のマントと帽子を身につけさせ異形の姿を隠したセレナに向き合い、母は声を潜めて言った。
「でも、おかあさんは? みんなは?」
己に差し迫る危機より母や村人を心配する娘へ、母は柔らかく笑いかける。分かっていた。この子は優しく、思いやりに満ちた子なのだ。――だからこそ、母は嘘を吐いた。
「お母さんは村の人の避難を手伝うわ。それより、何も知らないジャックおじさんが心配よ。きっと後でお母さんも行くから、あのひとを助けてあげて」
母の言葉に、セレナは口を引き結んでしっかりと頷いた。使命感を宿した瞳の、何と頼もしいことか。
周囲に誰の姿も見えないことを確認すると、母はセレナの背を押した。
走り出した娘の後ろ姿が森の入り口へ消えていくのを見届け、母は村の出口にバリケードを築き始める。この先へは、何人たりとも通さない。――たとえこの命と引き換えになろうとも、あの子の元へは行かせない。
民家に残されていた猟銃を手にして、母はスコープを覗き込む。その照準は、村の外へ出ようとする全ての者に定められた。
●捕食者と被食者と、惑いの森
エレン・ジョーンズワート(魔法使いの犬・h01093)は、集まった√能力者たちを前に、悄然とした鳴き声を漏らした。
「やぁ、すまないね……。今回は、一般人の女の子を敵に食べられないよう助けてあげてほしいんだ」
エレンは居住まいを正すと、予知した事件について語り出した。
「√汎神解剖機関のヨーロッパ各地で、風土病が流行っているようでね。なんでも、『善なる無私の心の持ち主のみ』が感染する奇病らしい」
その病に感染した者は、ほとんどの場合オルガノン・セラフィムという怪物に変貌してしまう。しかし、中には怪物にならず真に「天使」と化した……肉体は美しく異質な存在に変貌したが、理性と善の心を失っていない人も存在するようだ。
今回の予知で言えば、セレナがその「天使」に当たる。
「ゾディアック・サインによれば、セレナは村と隣接している森へ向かったようだ。この森は『惑いの森』と呼ばれ……森の中を進む者は、恐ろしい幻覚に襲われるという」
自分にとっての一番怖いものが、すぐ後ろから追ってくる幻覚に惑わされるのだ。まっすぐ前を向いて歩き続ければいずれは振り切れるのだが、一度振り返ってしまえば恐怖に囚われ、恐慌状態に陥ったり意識を失ったりするらしい。
「……お母さんは健闘したが、防ぎきれなかったようだ……。セレナさんが森に入った後から、何体かの化け物――天使化に失敗したオルガノン・セラフィムが追いかけてくる。実は、オルガノン・セラフィムは天使を捕食する本能があるのだって」
元は善良な人間同士が食って食われる関係になるなんて悪夢だね……とエレンはまた鳴き声を漏らす。
「そんな恐ろしい相手に追われながらセレナさんは惑いの森の奥へと向かうのだが……不思議とその足取りは確かで、迷うことがないようだ」
天使には何か特別な力があるのかな、とエレンは首を傾げた。
「ともあれ、みんなにはまず、森に入ってセレナさんを追いかけてもらいたい。もし他の天使を見かけることがあれば、その人も一緒に連れて行ってほしいな。きっとみんなにも恐怖の幻覚が襲いかかるだろうけれど、惑わされないように気をつけて」
そうしてセレナに追いついたなら、味方であることを伝え彼女を安全な場所まで護送する。
「道中、敵に追いつかれて戦闘になることもあるかもしれない。それから……オルガノン・セラフィムだけではなく、ヨーロッパの魔術師組織が天使を狙っているという噂もある。万全の体制で臨んでくれれば幸いだよ」
どうか気をつけて行ってらっしゃい、とエレンは心配そうに尻尾を振った。
●歌声を追って
「ジャックおじさんに、つたえなきゃ……!」
セレナは森の中を早足で歩いていた。
「ばけものがでたって、もりのなかまでくるかもしれないって、おしえなきゃ……!」
危機感と使命感に逸る心で道を行くが、分かれ道にさしかかったところで歩みが止まった。
「……ど、どっちだったっけ……?」
何度かおじさんの家には行ったことがあるものの、両親が連れて行ってくれていたものだからセレナは正確な道順を覚えていなかった。
途方に暮れて俯いたその時、セレナの耳に馴染みのある声が届いた。
「おかあさんのうただ……!!」
いつも寝る時に、母が枕元で歌ってくれる子守歌。
セレナはぱっと顔を上げると、慌てて歌の聞こえる方へ歩き出す。
「おかあさん、まって! いっしょにいこうよ!」
母は答えず姿も見えなかったけれど、セレナは歌声を頼りに森の奥へと進んでいく。
――居ないはずの母の声に導かれるセレナ。それは天からの|贈り物《ギフト》なのかもしれない。
これまでのお話
マスターより

どうも、おりべーです。
今回は天使になってしまった女の子を助けるお話です。
第1章は、『惑いの森』を進んで天使の女の子に追いついてください。
第2章以降は分岐します。断章をお待ちください。
2章は戦闘で予定していますが、場合によっては変更になる可能性もあります。
また、天使は完全な善人のため、自分のことより他者の心配ばかりします。
天使と行動を共にする場合は、上記も考慮していただけますと行動の成功率が上がるかもしれません。
●受付状況について
第1章はオープニング公開後すぐに受付開始します。
第2章以降の受付状況はタグにてお知らせ致します。
●諸注意
3連撃以上のプレイングは他の参加者との兼ね合いや執筆状況によって、内容に問題がなくとも採用できない可能性があります。
複数名でグループ参加する場合は、プレイングの冒頭に【グループ名】を記載してください。
公序良俗に反するプレイングは採用を見送るかマスタリングする可能性があります。
●Ankerの天使のキャラクターが参加する場合
いずれの章でも、お客様が作成された「Ankerの天使」を、
「シナリオ内で追われている天使の一人」として描写することが可能です。
NPCのシンシアと同じ村から逃げてきた、
あるいは他所の地から逃れてきたという設定でご参加ください。
●
楽しんでいただければ幸いです。どうぞよろしくお願いします。
6
第1章 冒険 『不可思議な森』

POW
フィジカルなアプローチで突き進む(根性や気合、直感を含む)
SPD
テクニカルなアプローチで着実に進む(技能の使用や知識を応用する)
WIZ
ファンタジーなアプローチで劇的に進む(魔力や魔法、超常現象、超能力を含む)
√汎神解剖機関 普通7 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵

アドリブ連携◯
任務内容確認。保護と護衛を最優先事項として探索を開始します。
森に到着次第√能力発動。セレナさんの移動経路を捜索。移動の跡を発見次第フックショットを使い木から木へと移動しながら可能な限り早い合流を目指します。
…最も恐れる物が追いかけてくる幻覚。機械が対象になるかは分からないが、仮定するとすれば待ち伏せをした敵性存在の追跡だろうか。いや撃つことしか出来ない自分が人命の保護などに勤しむ事が一種のホラーか。友好AIを入れられる前の|記憶《ログ》は無い。空虚な自分が最も恐ろしいのかもしれないがそれは足を止める理由にも振り向く理由にもならない。任務遂行、それが現在の自分の存在意義だからだ。
●ベルセルクマシンとまやかし
「任務内容確認。最優先事項、対象者の保護と護衛。保護対象の探索を開始します」
フォー・フルード(理由なき友好者・h01293)は、惑いの森に到着すると√能力【|事象再現演算《バックログシミュレーション》】を発動した。
「逆行演算開始、状況再現を始めます」
視界内のインビジブルたちが集まり、保護対象――セレナが移動した様子を再現する。
「|目標《ミッション》、保護対象の進行経路確認、|完了《クリア》。次点|目標《ミッション》、保護対象との合流を開始します」
歩行での移動も可能だが、星詠みの情報によれば保護対象は捕食者に追われているということだった。フォーは可能な限り早く合流するべきと|演算《はんだん》し、周囲の樹木へフックショット「KV-55」を放つ。木から木へと飛ぶように渡りながら、素早くインビジブルたちが示す経路を辿っていく。
移動しながら、フォーは惑いの森が引き起こすという幻覚に対して警戒していた。機械であるこの身にも影響があるのか分からないが、己にとっての「一番怖いもの」を仮定してみる。
例えばそれは、待ち伏せをした敵性存在の追跡だろうか。いや、撃つことしか出来ない自分が人命の保護などに勤しむ事が一種のホラーか。はたまた、友好AIを入れられる前の|記憶《ログ》が無い空虚な自分自身が最も恐ろしいのか。
突然、パァンと背後で破裂音がした。続いて、ドサッと人が地面に倒れるような音がする。ヒュー、ヒュー、と、か細い息づかいの合間から、微かに声がする。
「……たすけて…………」
それは幼い女の子の声だった。フォーが応えぬうちに、ただでさえ細かった息づかいは途切れ途切れになり、やがて聞こえなくなった。
「保護対象者、|死亡《ロスト》。任務遂行不能」
自分の声がどこからか響く。
「繰り返す。保護対象者、|死亡《ロスト》。最優先任務、遂行不能。後方に敵性存在の潜伏の可能性あり。推奨、敵性存在の撃滅」
他人事のように、自分の声が引き返せと促す。
……促す。誰に?
「……なるほど。これが恐怖の幻覚というものか」
フォーはフックショットでの|前進を続けたまま《、、、、、、、、》納得した。
自身の身体|記録《ログ》を精査すると、外音収集マイクが破裂音や人が倒れる音、ましてや少女の声を拾った形跡はなく、代わりに電脳へノイズが混ざった記録が残っている。
正直に言えば今のまやかしが”一番怖いもの”なのか実感はないが……少なくとも足を止める理由にも振り向く理由にもなりはしない。
「全速前進。保護対象の探索を継続します」
なぜなら、任務遂行こそが現在の自分の存在意義であり――まやかしによって消滅することはないからだ。
🔵🔵🔵 大成功

……恐怖……恐怖かあ……。
誰かのために動ける優しい人が割を食らうのに比べたら、怖い思いの一つや二つ、なんてことないですよ。
……ああでも、確かにセレナさんを守れないのは怖い、ですね。
そういう方面の恐怖が来たら……そうですね。協調の思念を繋いでみて、繋げなかったら幻覚、ということで。
……それ以外……だったら、殴るか無視の方向で。
ちょっと気は引けるんですけど、彼女の善性を利用出来ないでしょうか。……例えば、助けてって言いながら探すとか。
もし見つけられたら、ひとりが怖いから、一緒に行かせて、とお願いしてみましょう。
……うう、ごめんなさい。……あなたがひとりなのは怖いので、嘘は言ってないんです……。
●助けを呼ぶ声
「……恐怖……恐怖かあ……」
|見下《みした》・|七三子《なみこ》(使い捨ての戦闘員・h00338)は惑いの森を進みながら呟いた。
この森を進む者には「自分にとって一番怖いもの」の幻覚が襲いかかるらしい。誰かのために動ける優しい人が割を食らうのに比べれば、怖い思いの一つや二つ、なんということはない。そう……自分が怖い思いをするだけなら、どうとでもなるのだ。
では、その優しい人が割を食らっている幻覚が現れたらどうだろうか。
「……確かに『セレナさんを守れない』のは怖い、ですね」
七三子が考えを口にして間もなく、背後から幼い女の子の金切り声が響く。
「たすけて! ばけものにおそわれてるの!……ねぇだれか! おねがい、たすけ……あああ、いたい――……!!」
七三子は反射的にビクッと身を竦ませたものの、振り向きはせず、√能力【|団結の力《カズノボウリョク》】を発動した。
もし声の主が幻覚でなければ、協調の思念が繋げるはずだ。そうでなければこれは、七三子の恐怖心につけ込んだ幻に過ぎない。
案の定、協調の思念は誰にも繋がらなかった。七三子は声を無視して歩き続ける。
「たすけて、いたいの、あしをたべられてうごけないの!!」
「七三子、助けて」
「助けてくれ、七三子」
悲痛な女の子の叫びに続き、親しい友人たちの声が七三子を呼ぶ。えっ、と思わず振り返りそうになったものの、七三子はすんでのところで踏みとどまった。未だに協調の思念は誰にも繋がっていない。彼らの声も七三子を惑わす幻に過ぎないのだ。
七三子は唇を噛みしめながら幻を振り切るように先へ進んだ。
しばらく歩き続けているうちに、助けを求める声はふっと収まった。七三子はほっと胸をなで下ろして先を急ぐ。
「……あ。ちょっと気は引けますけど………助けを求める作戦、アリかも」
己を惑わした幻覚の数々を思い返しながら、ふと七三子は思いついた。
保護対象の天使の女の子は、自分を差し置いて他者を気にかける善性の持ち主である。合流しなければならないのであれば、いっそこちらから呼びかけてみてはどうだろうか。それも、彼女が無視できない形で。
「た、たすけてくださーい。………誰かいませんかー?」
周囲へ呼びかけながら森の奥へ分け入っていく七三子。もしセレナが自分を見つけてくれたら、「ひとりが怖いから一緒に行かせて」とお願いしてみよう。彼女の善性につけ込むようで良心は痛むが、嘘は言っていないはずだ。だって、セレナがひとりで危険な目に遭うのは確かに怖いのだから。
🔵🔵🔵 大成功

一番こわいもの
車。ブレーキ音、衝突音
暗くなって、明るくなったら火が燃えてて、また暗くなって
パパがいなくなってママが起きなくなって、わたしがデパスになったあの日の事
こわいけど
……がんばる
インビジブルに【ゴーストトーク】
セレナさんの居場所を聞きながら森を探す
わたしにもお歌はきこえる?耳もすますね
セレナさん、何度もおじさんのおうちに行ってるなら森にはなれっこ?
追いついて、もしこわがってたらぬいぐるみを貸してあげて
後ろ見ないようにおねがいするの
こわがってなかったら、こわい助けてってセレナさんに頼れば、きっといっしょにいてくれる
「いっしょに、ジャックおじさんのとこ、行こ」
あのね……手をつないでも、いい?

まずは、「花精翁・舞納」を使い、移動速度を速める。
そうしたら、セレナが森の中を進んでいく物音や痕跡に注意しながら可能な限りの速さで後を追うとしよう。
もしもセレナと接触できたら、現地の言葉はわからんので、事前に「自分は味方だ、安全なところまで避難しよう」という内容だけ翻訳、暗記しておいてセレナに伝えよう。
他の√能力者が近くにいれば手分けして探せるよう協力したいのう。
わしの恐怖と言えば、我が身を狙うインビジブルどもか、義理の両親に何かがあるか、あたりかのう。
なに、来るとわかっているのなら、歯を食いしばって恐怖を嚙み潰して無理やりにでも進むまでよ。怖いだけなら死にはせんわい。
●旅は道連れ世は情け
|九枢《くくるる》・|千琉羽《 ちるは》(夢みる怪異解剖士 × ゴーストトーカー・h02470)は、ひとりで森へ分け入る心細さに少し躊躇った。しかしそうも言ってはいられない。自分と近い年頃の女の子が化け物に食べられてしまうかもしれないのだ。一刻も早く追いつかなければ。
「なんじゃ嬢ちゃん、ひとりで行く気か?」
一歩踏み出そうとしたところに声をかけられた千琉羽はびくっと身を竦めた。声をかけた男――|春満《はるみ》・|祐定《すけさだ》(|D.E.P.A.S.《デパス》の|載霊禍祓士《さいれいまがばらいし》・h02038)は、千琉羽に近づき、ほれ、と己の顔を指し示す。星詠みの説明を一緒に聞いた√能力者であることを思い出した千琉羽は、ほっと胸を撫で下ろした。
「こわいけど、がんばる。……おにいさんも、ひとり?」
「おう。……嬢ちゃんみたいなちびっ子がひとりなのは心配じゃのう。どれ、一緒に行くか?」
「……うん」
千琉羽は同行者を得た心強さに小さく微笑んだ。
二人は相談し、まずは千琉羽の√能力【ゴーストトーク】でセレナの居場所を突き止めることにした。千琉羽が目の前に漂うインビジブルに降霊の祈りを捧げると、中空を漂っていた透明な魚が、老婆へと姿を変えた。千琉羽がセレナの居場所を尋ねれば、老婆は道を指さしながら答えてくれる。
「ぶかぶかのマントに帽子を被った妙な姿の子なら、さっき見たよ。……ああ、ジャックの家を目指してるって? そんなら、きっとこの道をしばらく進んで……」
一通り道を教えてもらい、千琉羽は老婆にぺこりと頭を下げた。祐定はその様子を感心しながら眺めていたが、千琉羽が歩き出すのを見て呼び止める。
「待ちな、嬢ちゃん。その足じゃ相手を追っかけるだけで精一杯じゃろう」
ここはわしに任せなと少女の肩を軽く叩き、祐定は√能力【|花精翁《カセイオウ》・|舞納《マイオサメ》】を使った。〈左眼窩から四季の花が生えた翁面の精〉を纏った祐定の身に力が漲る。
失礼、と一声かけて、祐定は千琉羽の小さな体をひょいっと抱き上げた。
「ちょっと我慢してくれな」
千琉羽が目を白黒させている間に、祐定は少女を抱えたまま通常の三倍の移動速度で走り出す。あまりの速さに千琉羽は振り落とされないか心配で、思わずくまのぬいぐるみをぎゅうっと抱き締めた。
●こわいもの
高速で森の中を駆ける二人の背後から、次々と幻覚が襲いかかる。車のクラクションの音、ブレーキの音、衝突音が聞こえた瞬間、千琉羽の全身が強張った。気がつけば、足元に赤々と燃える炎が忍び寄ってきている。
(これは……パパがいなくなって、ママが起きなくなって……わたしがデパスになったあの日の、再現だ)
千琉羽はぎゅっと目をつぶり、くまのぬいぐるみを強く強く抱き締めた。
「……もう、こわくないの…………痛くないの」
やわらかくてあたたかい感触が、千琉羽を落ち着かせてくれる。……次に目を開いた時には、足元の炎も、後ろから迫る車の音もなくなっていた。
千琉羽が幻覚に襲われているのと同時に、祐定も恐怖の幻覚を背後に感じていた。背中から、冷たい感触が己の体の中に入り込もうとしている。邪悪なインビジブルが体を乗っ取りに来た……時の、再現だ。
「触るな……!!」
祐定は空いている方の手で霊剣を手に取ると、鞘ごと己の背中に叩きつけた。衝撃と痛覚、それから浄化の霊気のおかげだろうか。インビジブルの冷たい感触は消え去った。
息をつく間もなく、聞き覚えのある声が背に届く。
「祐定……すけ……さだ……」
「祐定……お逃げ……!!」
孤児だった自分を拾って育ててくれた義両親の声だ。何者かに攻撃されているのか、名を呼ぶ合間にくぐもった悲鳴が混ざっている。
「うるせえ……!!」
きっとこれも幻覚だ。分かっていながら、大事な両親の今際の声に思わず振り向きそうになる。祐定はもう一度ばしんと背中に霊剣を叩きつけ、歯を食いしばって恐怖を噛み潰した。
足は地面を蹴り続けたまま。早く幻影を振り切ってしまえと、限界まで速度を上げた。
●天使と共に
千琉羽と祐定が森の幻覚を振り切って間もなく、前方に座り込む小さな人影を見つけた。
「まって……おかあさんを、ころさないで…………おねがい……っ!!」
耐えきれず振り返ってしまったのか、その人物は目を見開いて震えながら泣いていた。黒い頬をとめどなく涙が伝う。
千琉羽は祐定の腕から降ろしてもらうと、泣いている女の子の胸に自分のぬいぐるみを押しつけて前を向かせた。
「後ろは、みないで」
千琉羽の言葉と共に、祐定の手がぶかぶかのマントを羽織った背を摩る。――恐らく、この人物がセレナで間違いないだろう。これだけの至近距離だ。星詠みの情報にあった背の羽や黒い肌など、しっかり確認できた。
セレナは過呼吸になりかけていたが、背を摩られているうちに落ち着いてきたようだ。
「……ああ。わたし、ふりかえっちゃったんだ。……ありがとう、もうだいじょうぶ」
セレナは千琉羽にぬいぐるみを返すと、ジャックおじさんにつたえなきゃ、と呟いた。
「わたしたちも、ジャックおじさんのとこに行くの。……いっしょに、行こ」
あのね……手をつないでも、いい? と控えめに差し出された千琉羽の手に、セレナはきょとんと瞬いて。
はにかみながら、いいよ、と手を取った。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功
第2章 集団戦 『オルガノン・セラフィム』

POW
捕食本能
【伸び縮みする爪】による牽制、【蠢くはらわた】による捕縛、【異様な開き方をする口】による強撃の連続攻撃を与える。
【伸び縮みする爪】による牽制、【蠢くはらわた】による捕縛、【異様な開き方をする口】による強撃の連続攻撃を与える。
SPD
生存本能
自身を攻撃しようとした対象を、装備する【黄金の生体機械】の射程まで跳躍した後先制攻撃する。その後、自身は【虹色の燐光】を纏い隠密状態になる(この一連の動作は行動を消費しない)。
自身を攻撃しようとした対象を、装備する【黄金の生体機械】の射程まで跳躍した後先制攻撃する。その後、自身は【虹色の燐光】を纏い隠密状態になる(この一連の動作は行動を消費しない)。
WIZ
聖者本能
半径レベルm内の敵以外全て(無機物含む)の【頭上に降り注がせた祝福】を増幅する。これを受けた対象は、死なない限り、外部から受けたあらゆる負傷・破壊・状態異常が、10分以内に全快する。
半径レベルm内の敵以外全て(無機物含む)の【頭上に降り注がせた祝福】を増幅する。これを受けた対象は、死なない限り、外部から受けたあらゆる負傷・破壊・状態異常が、10分以内に全快する。
√汎神解剖機関 普通11
●ジャックの家へ向かって
その後、探索中だった√能力者たちとも合流し、一行は森の奥にあるジャックの家へと向かう。その間に、セレナは村に起こった出来事を語った。
ある日突然、村に異形の化け物が複数体現れた。化け物は村人たちの家を破壊しながら、何かを探しているようだった。村人にはあまり興味がないようで積極的に襲う様子はなかったが、家を守ろうと立ちはだかった村人は容赦なく殺されてしまった。
「……おかあさんは、むらのひとたちをひなんさせるっていってた。わたしは、ばけものがでたよって、ジャックおじさんにおしえにいくところだったの」
セレナはマントの裾をぎゅうっと握りしめて√能力者たちを見上げる。
「おかあさん、だいじょうぶだよね……? だって、おかあさんのうた、きこえるもん」
セレナは森の中で迷いそうになったところを、どこからか聞こえてきた母の歌に導かれて進んだそうだ。√能力者たちは顔を見合わせたものの、誰もその歌は聞いていない。
「いまも、きこえてるのに……。わたしにしか、きこえないの……?」
セレナは不思議そうに首を傾げた。
話しながら進んでいた一行だったが、後方から何者かが草木をかき分けながら勢いよく接近してくる気配に臨戦態勢をとる。どうやら、村から追いかけてきた化け物――オルガノン・セラフィムに追いつかれたようだ。
「キィイーーヤァアア――――!!」
オルガノン・セラフィムはセレナを見つけると雄叫びを上げた。仲間を呼んでいるようだ。じきに集まってくるに違いない。
幸い、進行方向には回り込まれていない。ジャックの家に向かって逃げつつ、追ってくる敵は叩きのめそう。セレナは集中的に狙われるので守りながら戦ってほしい。