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フィクションとミソロジー

#√汎神解剖機関 #ノベル #バレンタイン2025

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透き通るような新芽の緑髪に濃紺の瞳の少年こと「和田・辰巳」は、決意を秘めた力強さを讃えて振りかざした霊剣を、

「歯食いしばってください!
『|顕現せよ神話の槍《アストラミソロジア》』」

長ぐ伸びる漆黒の黒髪ストレートに石榴石のような赤い瞳の女性こと「長峰・モカ」に、容赦なく振り下ろした。

「あら、私は敵、だったのかしら……」


―――時は少し、遡る。
モカさんに案内された部屋で、僕は絶望と死の恐怖に襲われた。
そうとしか表現が出来ない室内が視界一杯に広がったのだ。
……何もない、部屋。
僕の大切な人、モカさんが、嬉しそうに案内した部屋には、自分の知らないもう一つの、彼女の、一面を映す部屋は、何もない、伽藍堂、だった。
僕は、この部屋で死ぬ。そう思ってしまった。
「まぁ、座って座って。いつも通り過ごそうよ、”バイト君”?」
彼女が呼びかけると其処は伽藍堂ではなく、日常の延長……そう、何時ものバイト先のバーカウンターがあり、その向こうには彼女が佇んでいるのだ。
「そうですね。いつも通りが良いかもしれませんね。“店長”。」
「あら、モカさん、って呼んでくれないのね。まぁ、私が呼んでないからか、和田君?」
僕は愚かにも影業呪でモカさんの存在を確かめた。
空しさが募るだけ。息苦しさが、恐怖が、声も姿も|貴女《モカさん》のはずなのに。


和田くんが|此処《・・》に来た。
自分の店に入ったバイト君。
珈琲の美味しいお店を教える時、このカフェーの『unknown』を入れるかは、すごい悩んだ。
このお店で奥に入った時、全てを”思い出した”から。私が、”人間じゃない”ってこと。正確には、”人間を演じていた”ことを……。
人間災厄が、人間に恋をすること、愛すること。彼のことを不幸にしてしまうのではないか……?
それなら、全てを曝け出してしまえばいいのでは?
――そう考えた。
「……幻滅したかしら。
あなたの愛した|私《長峰モカ》は、”何者でもない”の。
誰これ引っ掛けるのも、インテリメガネも、ヤンキーも、全部、”演技”……」
それなら、彼は”諦めてくれるのでは”……?
「あら、怖い怖い」
和田君が私の存在を確認しているのが分かる。なんか可哀想で、可愛くって「くすくす」と笑みが零れてしまう。
「言っておくけど、私は長峰モカ……。
それが、”あなたの想像する”長峰モカかは、別だけど」
それなら、彼は不幸にならないのでは……?
「幻滅なんて、してませんよ。」
|彼《和田君》の虚勢を張った声が部屋に響くのだ。
「へぇ…… 大丈夫? そんな簡単に答えちゃって。
私は人間災厄「フィクショナル」……。その言動、存在、全て「フィクション」なのよ……?」
全てを曝け出した。人間ではない、ということ。
「あなたも、薄々気づいていたんじゃないですか?
時々、|私《モカ》と|彼女《モカ》、入れ替わっていたんですよ?」
姿が揺らぐ。普段の長峰モカと、眼鏡を付けた長峰モカが二重に重なるのだ。
その全てが虚構であること。
「和田君、好き、大好き……!」
彼が愛した私も、演技だということ……。
「――なんてのも、全部、演技なんだぜ。
おお。やるか? 喧嘩は好きだからな
ま、それも演技なんだが……」
ゲラゲラと笑いながら、幾つもの側面が浮かんでは消えて行った。


ここでは全ての行動に死の恐怖が纏わりついていた。
そして何より、目の前にいるのはモカさんなのか分かりません。
「帰りましょう。
一緒に!」
変異に対して対抗出来る札が今の僕にはなかった。
「……言われなくても帰るよ?
ここ”も”私の部屋、ってだけ……
ただ、知られてしまった以上は、もう、離さない……
人間災厄に魅入られてしまったその運命を呪うことね。
あなたは「フィクション」に囚われた登場人物の一人……」
手持ちの札で誤魔化しながら生存の説得力を持たせる他なく、
「いっつも負けっぱなしでした。肝心な戦いでは、いつも、いつも。多くを失ってここにきました。
でも次はもう失いたくないんです。
もう引き返せないんですか。帰っては来れないんですか?」
呼びかけに応えてくれなかった以上、今は間違いなく敗北していた。
「私という「フィクション」に縛られ続けるの……
全ては演技、空白の私に、縛られ続ける……
あぁ、なんて|かわいそう《幸せ》なんでしょう!」
僕は覚悟のないまま、踏み込んだのだ。
「勘違いしてない?
私は、最初から、こう謂う人間災厄なのよ。
あなたの愛した”私”も、全て……」
それはとても彼女に対して失礼な事だったと思う。
僕は、事前に仕込んでいたAnkerポイントである|あの部屋《バイト先の一室》に|帰還《逃走》した。
「”選んだのは君だからね”?」
去り際に聴こえたその言葉は、何故か淋しそうだった。

逃走後、神に嘆願しました、この敗北を、この絶望を覆す力を寄越せ、と。
僕に大切な人を、愛する人を、僕の力で護れるように。
強い願いは、誰の為か。
直向きなただの純粋な想いの力ではないのか。

今度は真っ直ぐ見つめて離さないように。
今度こそ覚悟を持って受け入れるように。


私は何故か焦っていた。
自分の部屋を飛び出し、淡い光に包まれた店内に飛び込んだ。
「……和田君見てない?」
若干肩で息をしながら、思わず出た言葉はそれだった。
カウンターの奥に見慣れた幸薄男装執事の少女が、此方を見ていた。
「……通りませんでしたよ。」
淡々と、それが此処の日常であると謂わんばかりに。
「そうか……」
私はよく分からない小さな失望を繰り返している。
「……此の領域には…留まらないの、では?」
小首を傾げながら少女は呟いた。
そんな時にドアベルの音が響き扉が開いたのだ。
「いや、いますよ。
間に合ったみたいなので……」
和田君は帰ってきた。あの場から逃走したのに。
「あー、和田君ごめんねー。ちょっとショッキングだったかな?」
|嬉しい!戻って来てくれた!!《嘘!?なんで帰ってきたの!!》
「所で、僕と喧嘩する覚悟はおありですか。」
「喧嘩? うーん、ほら博愛主義というか、撹乱担当なの知ってるじゃん?
怖いよー」
何時もの長峰モカのようにケラケラと笑うが、|彼《和田君》の目は本気だった。
「いいですよ。もう一度行きましょう」
「奥に? いいけど……」
……まだ、災厄の箱の中身に|絶望《希望》は残っているのだろうか。


―――時は現在に。
神話からの観測。事象固定。
他神話体系を穿つための日本神話のアンカーバレット。
光速の六倍の速度で打ち出されるそれは世界の法則を超越し、ただ速度のみで全てを食いちぎる。

そして、モカさんをもう一度観測する。
極東の星の神話から優しくて、おどけて、時々ミステリアスな女の人を。バーを運営する僕の大切な人を。
『編纂せよ星の神話』僕の望みを手繰り寄せて!!

「どんなモカさんでも僕は好きですよ」

行動に似合わない笑顔を見せて僕が彼女を|攻撃した《存在を固定した》。


「ふ、ここでこんなセリフ言えるなんてね。さすが私が魅入った男、いや和田君……」
彼は、|現実《それ》を受け止めた。そのために作った、√能力でね?
「あなたも、もう”登場人物”の一人…… 他の名も無い人々モブとは、違ってね?」
告白。もう、離さない。
「話してあげるわ。一生かけて、私の|全て《空想》を、|人生《フィクション》を、ね? 寝かせないわよ?」
告白。彼に、私の全てを見せよう。
「ええ、きっと楽しい夜になりますね」
彼は笑う。
彼は、もう私の|もの《・・》。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​ 成功

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