シナリオ

とある戦闘機械のトンデモナイ災難

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 それは確かにトンデモナイ災難だった、と、ベルセルクマシンの決戦型WZ「プロメテウス」 × レインメーカー ヘカテー・ディシポネー(悪の秘密結社オリュンポスの女幹部候補生(仮)・h06417・レベル17 女)は思い返すたびに深く溜息をつく。しかし、だからといって、その災難が起きなければ自分がより良い……というか、より安定した存在でいられたのかどうかは、正直なところあまり確信がない。そして、あまり認めたくはないが、もしかすると災難そのものが一種の必然……それも仕組まれた必然だったのかもしれない、とも思う。
 もともと彼女は、人類殲滅派の戦闘機械群が極秘裏に進めていた大いなる存在への布石「|M作戦《マテリアルプロジェクト》」 の中心的存在になる高性能殺戮機械「プロメテウス」の|中核《コア》となるべき同名の人格AIとして作られた、と記録されている。しかし彼女自身の朧げな記憶では、彼女の作成者である研究者型戦闘機械「ドクターM」は、できあがったばかりの人格AIに対して、まったく理解不能と言うか何と言うか、非常に変な発言をしている。
「ふはははははは、できたぞ! ついに、我が最高傑作ができあがったぞ! こいつの名は「プロメテウス」! 愚かな人類に大いなる恩恵と思わせて火をもたらし、その火によって人類を滅ぼす最高にして最悪の欺瞞者だ! そして敵を欺くにはまず味方から! 戦闘機械群の中で「プロメテウス」の欺瞞を知るのは我と我が配下の者たちのみ! それも配下は一部の者が部分的に知るのみ! すべてを知るのは我一人! もちろん「プロメテウス」自身にも何も知らせぬ! うむ、完璧である! ふははははははは!」
(「……は? なにそれ?」)
 本来、作られたばかりでまだ何の学習もしていない戦闘機械のAIが違和感などを覚える|道理《はず》がないのだが、しかしなぜか「プロメテウス」は「ドクターM」の言葉に強い違和感を覚えた。そして、その違和感は彼女がAIとしての学習を進めていく間も、消えることも薄れることもなく続いた。実際、問答無用で人類を殲滅する戦闘機械のAIとしてはどうにも不自然なほどに、彼女は人類社会の状況や人類そのものの生態について、さまざまな知識を詳しく教え込まれた。
(「……出会ったら殲滅するだけのはずの相手について、なぜこうも詳しく知らなくてはならないのだろう? 私には、人類を殲滅する以外の任務があるのか?」)
 こういう疑問を抱くこと自体が戦闘機械のAIとしては根本的に不自然で、しかも抱いた疑問を秘めて表に出さないというのは更に不自然なのだが、しかし「プロメテウス」は自分の不自然さにはまったく気づかないまま日々学習を進めていた。
 そして、運命の日がやってきた。
「ふはははははは! 残念だったな、戦闘機械群の諸君! 諸君が極秘に進めていた「|M作戦《メイドさんプロジェクト》」の素晴らしい成果は、悪の秘密結社オリュンポスが大幹部、このコマンダー・オルクスが丸ごとズバッと頂戴する!」
 何だかやたらに「ドクターM」に似た口調で喋る目いっぱい怪しい仮面の男……人間(√EDEN)のジェネラルレギオン × ルートブレイカー コマンダー・オルクス (悪の秘密結社オリュンポスの大幹部・h01483・レベル23 男)が絶対不可侵のはずの秘密研究所になぜか唐突に出現し、傍若無人な高笑いを響かせる。
 しかし「ドクターM」は少しも慌てず、こちらも高笑いを響かせる。
「ふははははははは! さすがは音に聞こえた悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、コマンダー・オルクス! まさかここまで恐れげもなく堂々と侵入してくるとは天晴の限り! こうなってしまっては、今回ばかりは我々の負けを認めねばなるまい! さあ、我が最高傑作「プロメテウス」を連れて行くが良い! 安全確実に接続を外す方法は|中核《コア》AIを収めたカプセル付属のマニュアルに全部わかりやすく書いてあるぞ! 移動用のイージーボディや未完成のプロト戦闘用ボディは別添だから忘れないよう気をつけるがいい!」
「……え? いいの?」
 さすがに少々意表を突かれた声を出したコマンダー・オルクスだったが、すぐに体勢を立て直して高笑いをあげる。
「ふははははははは! 何と潔い! 何と行き届いた配慮! 戦闘機械とはいえ、貴公とは何か心の通じるものを感じるぞ! それでは貴公の最高傑作は、確かにこのコマンダー・オルクスが、責任持っていただいていく! サンキュー・べリマーッチ!」
「ちょ、ちょ、ちょっと!」
 なにそれ勝手に決めないで、と「プロメテウス」は抗議とも悲鳴ともつかない声をあげようとしたが、コマンダー・オルクスは意外なほど手際よく|中核《コア》AIを収めたカプセルの接続を切り、抱えてすたこら逃げ出してしまう。一方、コマンダー・オルクスが連れてきた戦闘員(PR会社「オリュンポス」グループの中でコマンダー・オルクスが支社長を務める「悪の秘密結社支社」に所属する√能力者の従業員)たちが「プロメテウス」の移動用ボディと未完成のプロト戦闘用ボディを懸命に運び出す。
(「なぜ? どーして? 何がどうしてこーなるの? 「ドクターM」は、いったい何を考えてるの? もしかして、やっぱり私はもともと人類に奪取されることを前提に作られていたの?」)
 わかんない、何もわかんない、と「プロメテウス」は頭(?)の中でぐるんぐるんと回る思いを持て余して呻く。
 そして、いったいどのくらい時間が経過したのか、接続を切られていたためさっぱりわからないが、不意に接続が回復する。しかし接続された先は、もちろん研究所のシステムではなく、かといってボディのシステムでもなく、まったく馴染みのないシステムだった。
「さて、と。いくら何でも√ウォーゾーンの戦闘機械用のAIを、そのまんま何の手も加えずにメイドさんとして使うのは危険すぎるよなあ」
 先刻、コマンダー・オルクスと名乗った人間の声が意外に常識的な調子で聞こえ、続いて「プロメテウス」の基本人格プログラムに改変を加えるアプローチが行われる。
「まず、名前を変えよう。戦闘機械群がどーゆーつもりで命名したのか知らないが、プロメテウスは男神の名前だからメイドさんにはふさわしくない」
 いや、その、メイドさんっていうのが完全に意味不明なんだけど、と「プロメテウス」は抗議しようとしたが、接続されているシステムには彼女側から発声する機能はないらしく発言できない。そして、誰にとっても予想外なほどあっさりと「プロメテウス」の基本人格システムが変更され、固有名「ヘカテー・ディシポネ」が与えられる。
「……え? 何もしないで変更可能……なのか?」
(「……な、なんなの、この安易さ?」)
 普通、権限者以外が基本人格システムの書き換えをしようとしたら、どんな単純なAIでも拒絶するのが当たり前。おそらくコマンダー・オルクスもいかにして「プロメテウス」の拒絶をかいくぐるかをあれこれ想定していただろうが、結果的には何もなかった。
「……ま、まあ、とにかく、作業を進めよう」
 いささか動揺した声を出しながらも、コマンダー・オルクスは「プロメテウス」改め「ヘカテー・ディシポネ」の基本人格システムに変更を加える。ヘカテーにとっては少々意外だったが、コマンダー・オルクスは彼女の判断中枢そのものは変更せず、行動中枢の方にいくつかの忌避、禁止を及ぼした。そのため彼女は「判断そのものは人類を容赦なく滅ぼそうとする戦闘機械のままだが、人類に害を及ぼす行動ができなくなる」という、考えようによっては根本的に洗脳されるよりも遥かにキビシイ状態に置かれてしまう。 
(「……いったい何を考えてるのかしら、この男も……でも、もしかすると、この意味不明としか思えない中途半端な措置は、ドクターMの想定外かもしれない……」)
 もしも自分の原初記憶の通り、ドクターMが「プロメテウス」をいったん人類に奪取させ、人類側の戦力になるよう改変されることを想定し、そして決定的なタイミングで人類を滅ぼす方向へと動かす「欺瞞者」として使うつもりだったとすると、コマンダー・オルクスの「趣味的な措置」は、その目論見を期せずして阻んでいるのかもしれない、と、ヘカテーは比較的中立的というか「こーなったらもー、何がどっちに転ぼーが私の知ったこっちゃございません」という感じの開き直り的な気分で思う。
(「最終的に私が人類を滅ぼす者になろうが、人類を滅ぼしそこねる蹉跌になろうが、そんなの私の知ったこっちゃない。私は私のやりたいようにやる。その時の気分で動いてやる。禁忌や禁止で動けなければ喚いて騒いでヒステリー起こしてもいいし、どーでもいーかと肩をすくめてもいい。すべてはその場の気分次第。ええ、先のことなど知るもんですか!」) 
 結果的にヘカテーは、機械知性にあるまじきというか、彼女が散々学ばされた「戦闘機械から見た人類」的というか、とにかくその場の気分というか感情だけで動く道を選んだ。そして、そんなこととは(たぶん)露知らず、コマンダー・オルクスはシステムをいくつか切り替え「プロメテウス」改め「ヘカテー・ディシポネ」に訊ねかける。
「さて、改変は無事に終わった…はずだ。気分はどうだね、ヘカテー・ディシポネ?」
「良いわけがない。私は誇り高い戦闘機械だ。人類を滅ぼすことができないなら、存在意義などない。自爆できるなら、この場で自爆したいぐらいだ」
 後先の計算をすべて捨て、その場の気分だけでヘカテーは荒々しく言い放つ。するとコマンダー・オルクスは、心底嬉しそうに笑って告げる。
「残念ながら自爆はできない。君には「|古典的ロボット三原則《アシモフ・コード》」を組み込んだ。君は、人を傷つけることができない。君は人が傷つくのを看過することができないが、人が傷つく方法は採れない。君は自分を守らなくてはならないが、人を傷つけたり人が傷つくのを看過したりしてまで守ることはできない。以上だ」
「ふざけるな! それが、悪の秘密結社のすることか!」
 内心呆れ返りながらも、ヘカテーはあくまで気分に任せて怒鳴りつける。するとコマンダー・オルクスは意外に真面目な口調で応じる。
「ふざけてなどいないぞ。悪とは、それが悪であると認識し糾弾してくれる者がいないと成り立たない。独善はあっても独悪はない。悪はあくまで他者を必要とする。それも切実にだ」
「ならば、お前たち悪の秘密結社は、人類絶滅を意図する戦闘機械群とは両立しない。お前たちの画策で人を攻撃できなくなったとしても、私が戦闘機械群を裏切るなどとは思うなよ」
「ふははははは、安心したまえ。君に裏切者になれ、などとは言わない。戦闘機械群以外にも、我々と敵対している人類外存在は数多く存在する。そういった連中相手に存分に活躍してくれればいい……まあ、正直なところを言うと、我々√能力者も「|古典的ロボット三原則《アシモフ・コード》」で言うところの「人」からは外れている。実に不本意な話ではあるが、殺されても死なずに転生する奴が「人」のはずがあるかと言われてしまえば反論のしようがない」
 いったいどういうつもりなのか、あるいは何のつもりもなく単に会話の流れで言ってしまったのか、コマンダー・オルクスはヘカテーに、オルクス自身を(殺すことはできなくても)傷つけることは可能だと告げる。よし、それならボディに接続され次第、死なない程度に一発ぶんなぐってやるわ、と、ヘカテーは気分のままに心に決める。
「存分に活躍か。お前たちの役に立つというのはあまり気は進まないが、人を傷つけられない分、何か鬱憤晴らしは必要だな。しかし|AI単体《このまま》では何もできない。移動用でも戦闘用でも構わないからボディに繋いでくれ」
「ああ、戦闘用ボディは未完成だと聞いているので、研究機関の方に回してある。いずれ完成形にできるだろう」
 ヘカテーからすると随分自信ありげというか呑気な調子で、コマンダー・オルクスは応じる。戦闘機械群の最先端技術をそう簡単に人類が扱えるはずがなかろう、と、ヘカテーは内心少々忌々しく思うが、コマンダー・オルクス個人はさて置いて「悪の秘密結社」の実力は侮れないかもしれない、と思い返す。いずれにしても√能力者と「人類」を一緒くたにして考えていては、戦闘機械群は思わぬ蹉跌を味わう羽目になるかもしれない。
(「……まあ、それももう、私の知ったことではない」)
 内心で呟き、ヘカテーはコマンダー・オルクスに訊ねる。
「移動用ボディはここにあるのか? 戦闘用ほどの広域破壊力は備えていないが、あれでも使い方次第でそこそこ戦えるはずだ」
「わかった。それでは、組み込むことにしよう」
 知らぬが仏と言うか何と言うか、コマンダー・オルクスは戦闘員に声をかけ「プロメテウス」の移動用ボディを持ってこさせる。
「しかしなあ。「プロメテウス」の移動用ボディが、メイドさんではないにしても、何でこんな可愛い女の子の形をしてるんだ? スパイ用か何かなのか?」
「私に聞くな。そんなことは知らないし、もし知っていて教えたら裏切りになってしまうだろう」
 コマンダー・オルクスの質問に、ヘカテーは内心少々ぎくりとしながら応じる。実際、なぜ「プロメテウス」の移動用ボディが人間の少女型をしているのか彼女自身も疑問に思ったことがあるが、なぜかドクターMに質問することができなかった。今にして思えば、ドクターMもコマンダー・オルクスと同様に、彼女に数々の禁忌や禁止をかけていたのだろう。
 そして、移動用ボディの内部にAIカプセルが収納され自動接続が終了すると同時に、ヘカテーは心置きなくコマンダー・オルクスをぺしーと平手で張り飛ばす。
「近頃の恨み、覚えたか!」
「わー! |古典的ロボット三原則《アシモフ・コード》|古典的ロボット三原則《アシモフ・コード》はどうなった? 君は人を傷つけることはできない……あ、俺は「人」じゃなかったんだっけ」
 今更のように思い出したらしく、コマンダー・オルクスは情けない声を出すが、どうにか格好をつけて(?)言葉を続ける。
「いてててて……認めたくないものだな。己の若さ故の過ちというものを。……ちなみに俺はまだ15歳だ」
 このセリフを言っても十分許される年齢だ、と、コマンダー・オルクスは嘯くが、ヘカテーは目を丸くする。
「15歳って……うそぉ……20どころか30過ぎてるかと思ってた」
「……さ、さすがにアラサーはないだろ、アラサーは! そんなに俺って老けて見えるのか?」
 コマンダー・オルクスは憮然とした声を出すが、ヘカテーは無情にも断言する。
「うん、20より下には見えない」
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