シナリオ

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秩 序 隷 羊

#√マスクド・ヒーロー #シデレウスカード

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 #√マスクド・ヒーロー
 #シデレウスカード

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●狂 気 引 金
「どうして分かってくれないんだい?」
 ここは√マスクドヒーローのとあるハイスクール。
 陽光が差し込まない校舎と体育館の間には数人の生徒が屯していた。
 いや、屯していると表現するには、その状況は些か治安が悪い。
 壁際に追い詰められた気弱そうな少年と、それを取り囲む複数人の制服を着崩した男子生徒たち。いわゆる典型的なイジメの現場。
 そんな光景を目の当たりにし、風紀委員長――有栖川は深く溜息をもらした。
 有栖川は銀色に縁取られた眼鏡を押し上げ、少年を取り囲む男子生徒たちを冷ややかに睨めつける。七三に撫で付けられた前髪と、ぴっちりと閉じられた詰め襟。誰が見ても一目で優等生と分かる有栖川の出で立ちは、いじめっ子である不良生徒にとって癪に障る要素の塊であった。
「前に注意したはずだよ。僕はいじめを止めてほしいだけなんだ」
「ちっ、うっせえなぁ! おめーには関係ねーだろーが!」
「ブガイシャが出しゃばんじゃねーよ。空気読めねーな!」
 向けられる剣呑な視線に臆すること無く問いかけを繰り返す有栖川であったが、不良生徒たちから返ってくるのは返答とも言えないような罵声ばかり。
 有栖川はそんな彼等の態度に、自身の脳内がみるみる冷え切っていくのを感じていた。
(ああ、こいつら、もう駄目だ。僕の学校にはいらない存在なんだ)
 冷たくなっていく思考と反比例するように彼の胸は熱を帯び始める。
 そして胸ポケットから淡く光る2枚のカードを取り出すと、有栖川は斧を振り下ろす断罪者のような冷酷な眼差しを不良生徒達に向けるのだった。
「……最後通告のつもりだったんだけどね。ああ、もう喋らなくていいよ。これ以上、僕の秩序を乱さないでくれ」

 『ARIES×ARISTOTELES!!』

 校舎裏に響き渡る奇妙な笛の音。
 そして一瞬の静寂の後、不良生徒たちは一斉にその場に崩れ落ちた。
 状況が読み込めないまま、ピクリとも動かなくなった不良たちを呆然と眺めるイジメられっ子。しかしなんらかの方法で風紀委員長が自分を救ってくれたのだという事だけはなんとか理解すると、彼は有栖川に感謝を述べようとおずおずと歩み寄る。
 しかし有栖川はそんなイジメられっ子を手で静止した。
「何を被害者面しているのかな? 彼等ほど直接的ではないにしろ、君にも非はあったろう」
 未だ冷たい影を孕んだ瞳を覗かせる有栖川。そして手に握った2枚のカードを再び掲げると、その体は見る見る変化していった。
「クラスメイトと調和しようとせず、それでいて、そこで寝ている彼のガールフレンドにストーカー紛いの事をした。それが今回のイジメの発端らしいじゃないか。僕の学校の秩序を乱す者という意味では、君も同罪だ」
 厚く盛り上がったくすんだ金色の装束。頭上に鎮座するねじ曲がった角はさながら王冠。
 アリエスアリストテレス・シデレウスへと変貌した有栖川は、その凶手をイジメられっ子に伸ばした。
「法は社会の秩序であり、良い法は良い秩序である。故に僕は秩序のためにこの学校に法を敷こう。法に隷属しない者には罰を」

●楽 園 食 堂
「皆さん事件です!」
 所変わって、ここは宿屋『七つの楽園亭』の食堂。
 テーブルについた√能力者達に麦茶を配り終えた太曜・なのか(彼女は太陽なのか・h02984)は、彼等に向けて自身の|予報《予知》を告げる。
「事件が起こっているのは√マスクドヒーローの高校。そこで一人の生徒がシデレウスカードを使って悪さをしてるみたいなんです!」
 シデレウスカードとは、怪人ドロッサス・タウラスが市井にばらまいた変身の力を宿すカードのことだ。多くのカードアクセプターが持つ『レオペルセウス』がその代表例と言えよう。
 一人の人間のもとに『黄道十二星座』と『英雄』が描かれた2枚のカードが揃いし時、その所有者に絶大な力をもたらすと言われているが、力を正しく使いこなせるのは√能力者のみ。
 一般人が所持してしまうと、多くの場合その凄まじさ故に精神に異常をきたしてしまうという人の手には過ぎた代物である。
「ただ、偏に悪さといっても色々あるみたいで……今回の事件を起こした有栖川君っていう男子生徒は、シデレウスカードを高校の規律を守る事に使っているみたいなんです」
 説明をしながら、なんとも歯切れの悪い表情を浮かべるなのか。
 規律を守る。ソレだけを聞けば、なにも悪いことは無いではないかと思うかもしれないが、事はそう単純ではなかった。
「有栖川君がやっているのは、ぶっちゃけ恐怖政治そのものです。学校のルールを細かく取り決めて、破った者にはシデレウスの力で罰を与える。そしてルールは日増しに厳しく、多くなっていく……今の彼は秩序を守る事に躍起になって、暴走してしまっているんです」
 なのかが予知で見たもの。
 それは生徒が誰一人として廊下を走ること無く、大声で挨拶を交わしあい、授業では皆が必死に手を挙げる、一見すると理想的な学校の風景。
 しかしその体育館には、死んだように眠った多くの生徒や教師が無造作に打ち捨てられていた。恐らく些細なルール違反を咎められ、罰せられてしまった者達の末路なのだろう。
「有栖川君が持っているシデレウスカードは恐らく眠りの呪力を持つ牡羊座のカード。彼を倒しカードを取り上げることが出来れば、呪いをかけられてしまった人たちを開放できるはずです」
 そのためにも有栖川と接触しなくてならない。
 まずは彼の高校に潜入したり、生徒たちの動向を探ったりするのが得策だろう。
 もしくは高校の周辺で敢えてルールに違反するような行動をしておびき寄せるのも手かもしれないが、彼の敷くルールは厳密には解明できていない上、有栖川の逆鱗に触れた場合は奇襲を受ける可能性も高い。十分に注意し、もしもの時は一旦逃げる事も考慮して動いたほうが得策だろう。
「あっ、有栖川君はあくまで一般人ですので、酷い目に合わせるのは出来れば勘弁してあげてください。そして私の予報が正しければ、彼の背後にはカードを渡して唆した怪人がいる筈です。有栖川君からカードを奪い取れば現れると思いますので、そいつは容赦なくケチョンケチョンにとっちめちゃってください!」
 皆に明るく発破を掛けつつも、予知の中にうっすらと見えた邪悪な影に密かに身震いするなのか。
 しかし√能力者達ならばきっとそいつも打ち倒すことが出来ると信じ、彼女は明るく彼等を送り出すのだった。
「穏やかさと調和を重んじる筈の牡羊座が迷走し、人を縛る暴君に成り果ててしまった……今の有栖川君は謂わば迷える子羊そのものです。どうか皆さんの力で彼を止めてあげてください! 無事帰ってきたらまた夕食をごちそうしますからね! 今日のメニューはジンギスカンですよー!!」
これまでのお話

第2章 冒険 『シデレウスカードの所有者を追え』


POW 戦いを挑み、シデレウス化した人物を無力化させる
SPD 他の民間人が事件に巻き込まれないよう立ち回る
WIZ シデレウス化した人物の説得を試みる
√マスクド・ヒーロー 普通7 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

●王 様 気 取

 校舎に6限の終わりを告げるチャイムが鳴り響く。
 その後、各クラスでは風紀委員立ち会いの元で、儀式然としたホームルームが執り行われる。
 そこで風紀委員に名を呼ばれた者は放課後にどこかへと連行され、有栖川による判決と裁きを受ける事となるのだ。
 しかしこの日のホームルームは普段と少し様子が違っていた。
「本日、とあるクラスで重大な集団規律違反が発生した。そしてありがたいことに有栖川様は直々にそのクラスに出向き粛清を行われると仰られた。よって我々風紀委員はお忙しい有栖川様にこれ以上の御負担をお掛けするわけにはいかないと判断し、本日中に我々に指導を受けた規律違反者は特別に不問とする。有栖川様の寛大な御心に感謝し、明日以降は心を入れ替えて学校生活に励むよう。以上!」
 それを聞き、緊張と恐怖で身を強張らせていた生徒たちは逃げるように帰路に着いていった。その中には√能力者と知り合い、ぎりぎりの所で規律違反を免れることができた者もいたことだろう。
 校内に潜みホームルームの様子を観察していた√能力者たちは、彼等の無事を安堵しつつ、急ぎ事件があったというクラスに向かう。
 その場所に今回の事件の発端、有栖川がいるはずだ。

「今日はなんとも騒がしい1日でしたね。また明日から規律を引き締め直さなくては……」
 一方、有栖川は憮然とした表情を浮かべながら、件の教室へと歩を進めていた。
 昼休みから校内が妙にざわついているのは感じていた。
 |この学校《自身の王国》の秩序に何かが侵食してきている。そんな漠然とした不安を抱いていた所に舞い込んできたのが、とあるクラスで発生した集団ボイコットの知らせだ。
 自身の不安が的中してしまった事を悔やみつつ、かといって風紀の要たる自分が授業を抜け出して他のクラスを確認しに行くわけはいかなかった、仕方のないことだったのだと心中で自己弁護をする有栖川。
 そんな妙に律儀で神経質で、それでいて誰よりも自身の非を許せない自罰的な性格の持ち主。それが有栖川の本性だった。
「まあいいでしょう……。今日のところは愚かなクラスを粛清し、明日登校してきた生徒たちの見せしめにすればいい」
 苛立たしげに銀縁眼鏡を押し上げ、懐から怪しげな力を滲ませるカードを取り出す有栖川。

『ARIES×ARISTOTELES!!』

 瞬間カードから星辰の力が湧き上がり、有栖川の体を包みこんでいく。
 ねじれた角の冠を戴き、黄金の毛皮を纏った、皇帝のような堂々たる立ち姿。
「革命は、些細なことではない。しかし、些細なことから起こる。だが僕の帝国は些細な異物すら許さない。絶対的な規律を持って平和と正義を成してみせよう!」
 アリエスアリストテレス・シデレウスへと変貌した有栖川は、その手に歪な角笛を抱き、裁きを待つ生徒たちの元へと向かうのだった。

※攻略情報
 有栖川に接触できるのは教室に向かう廊下の道中、もしくは教室内となります。
 接触後は戦闘による鎮圧か、説得による有栖川の戦意喪失によって無力化することができます。
 また戦闘を行いたい場合はPOW以外の選択肢でもかまいません。プレイング内で戦闘を行いたい意思を明記し、そのための√能力が選択されていた場合、シデレウス怪人は下記のPOW、SPD、WIZに対応した反撃を行います。
 また既存のSPD行動を選択したい場合は、廊下には風紀委員が、教室内には断罪を待つ生徒たちが残っているため、彼等の安全を確保するプレイングを記入してください。

※敵ユニット情報
『アリエスアリストテレス・シデレウス』
 十二星座の1つ牡羊座と、古代ギリシャの哲学者アリストテレスの力を持つシデレウス怪人。
 戦闘を仕掛けた場合、√能力者の選択した能力に応じて、√能力に似た異能力で反撃を行います。

POW:ヘレズレクイエム
【黄金の角笛ラリホーンサックスの音波攻撃】を放ち、半径レベルm内の自分含む全員の【反逆心を削ぎ、睡魔】に対する抵抗力を10分の1にする。

SPD:プリクソス・サクリファイス
自身の【角と毛皮】を【黄金】に輝く【捨て身の高速形態サクリファイスポイント】に変形させ、攻撃回数と移動速度を4倍、受けるダメージを2倍にする。この効果は最低でも60秒続く。

WIZ:法は社会の秩序であり、良い法は良い秩序である
【アリストテレスの格言を言いながら、角や蹄】による近接攻撃で1.5倍のダメージを与える。この攻撃が外れた場合、外れた地点から半径レベルm内は【校則絶対準拠空間】となり、自身以外の全員の行動成功率が半減する(これは累積しない)。
夜風・イナミ
あなたはきっと、いい人なんでしょう……でも、今のあなたは危険です!止めさせてもらいます!
絶対止めます!!(生徒巻き込んだ罪悪感はとってもあるので焦り気味牛)
教室を守るように立ち塞がり
私は寝るの大好きなので抵抗できる気がしません。なので最初から対策をします!
眠ってられないような刺激が強い温泉に入りたいです!
痺れたり興奮したり、なにか特殊な呪いの温泉を廊下に湧かせます!

温泉湧かせちゃダメなんて校則はないでしょう!難しいことを言ってないで温泉で癒やされてください!
角や蹄は私も同じ部位で応戦。私のほうが多分扱いに慣れてます……。
石化……は可哀想なので捕縛の呪詛を込めた角蹄でじわじわ縛っていきますよぉ。
ウィズ・ザー
WIZ/アド連携◯人型はステ欄参照
説得(聞き入れない場合は戦闘)
「…生指担当は何やってンだよ使えねェな…」
ったく、学生に自分がやらなきゃいけないと思い詰めさせてる時点で無能なンだよ。話にならねェわ
「その通りだな。良い法は良い秩序に成り得る。…では、悪法は何になるンだ?…その暴力が、まさか良い法だとでも言うンじゃねェよな?」
「お前のやってる事は反社と同じだ。法律を傘に着てお前の利益の為に悪用しているに過ぎない。お前が本当にやりたかった事は利益の為に他人を蹂躙する事なのか?本当は、何をしたかった?」
「他人には心がある。道具じゃねェ。お前がやるべき事は、何だ?」
説得を聞き入れなければ気絶させるかね

  ノシノシと苛立たしげに廊下を進む有栖川こと、アリエスアリストテレス・シデレウス。
 その進む先、廊下の曲がり角に差し掛かったところで彼は足を止めた。
 その先に何者かの気配を感じたからだ。
「生徒はもう帰ったはず……。先生ですか? なぜ隠れているのです?」
 問いかけに答えはない。
 代わりに曲がり角の影から現れたのは、彼に負けずとも劣らない巨影の姿。
「あなたはきっと、いい人なんでしょう……でも、今のあなたは危険です! 止めさせてもらいます! 絶対止めます!!」
 巨影の正体、夜風・イナミ(呪われ温泉カトブレパス・h00003)が有栖川に対し決意と焦りをはらんだ声を投げかける。
 元はと言えば、彼をおびき寄せるためとはいえイナミが堕落の呪いをクラスに振りまいたことが事の発端。
 クラスの生徒たちを囮として利用してしまった罪悪感もあり、イナミはここで始末を付けるといち早く攻勢に打って出た。
「眠ってられないような刺激が強い温泉に入りたいです!」
 |発動条件《オーダー》を口にしながら鉄の楔を廊下に打ち込み、√能力の領域を展開させていくイナミ。すると廊下に刻まれた亀裂からはこんこんと湯が湧き出し、その場を不思議温泉【牛の湯】の銭湯空間に変じさせていく。
「この力、あなたもシデレウス怪人ですか。僕の国に挨拶もなく現れてこの狼藉……罰を受ける覚悟があると見てよろしいですね?」
「んもぅ! 私は怪人じゃありません! それに温泉湧かせちゃダメなんて校則はないでしょう。難しいことを言ってないで温泉で癒やされてください!」
「廊下を砕くのは窓ガラスを割るのと同じ、立派な器物破損でしょう!」
 怒りを顕に襲いかかってくるアリエスアリストテレス。
 対するイナミは自身を|怪人《モンスター》側だと思われたことに憤慨しつつ、その蹄で廊下を踏みしめ迎え撃った。
 そして振り上げられたアリエスアリストテレスの羊角がイナミの角とがっぷりと組み合い、一進一退の激しい攻防が繰り広げられる。
「『法は社会の秩序であり、良い法は良い秩序である』……アリストテレスの言葉です。この国に足を踏み入れた以上、あなたも僕の法の下にひれ伏してもらいます!」
 しかし怒り狂うシデレウス怪人の力は、イナミの想像をわずかに上回っていた。
 能力の発動条件を満たし、強化された膂力でイナミをじわじわと押し返し始めるアリエスアリストテレス。
 
「……その通りだな。良い法は良い秩序に成り得る。……では、悪法は何になるンだ? その暴力が、まさか良い法だとでも言うンじゃ、ねェよな?」
 だが不意に飛び込んできた聞き覚えのない男の声がアリエスアリストテレスの注意を反らし、イナミは寸での所でその場を飛び退き窮地を脱する事ができた。
「新手ですか……。次から次に侵入を許すとは、教師たちは何をやっているんだ」
 一方のアリエスアリストテレスは銭湯空間に包まれた廊下に目を凝らし、なおも言葉を投げかけてくる新手の姿を探る。
 そして、それはあっさりと見つけることができた。
 真っ白な湯気の向こうに、漆黒のシルエットくっきりと浮かび上がっていたからだ。
「教師は何をやっているのか、か。それも、その通りだな」
 闇色のスーツを纏った男――ウィズ・ザー(闇蜥蜴・h01379)はゴーグルグラスについた結露を拭うこともなく、怒りが滲む淡々と紡ぐ。
 しかしその怒りの矛先は有栖川ではなく、この学校そのものに向いていた。
(ったく、ガキにあんな顔させて。学生に自分がやらなきゃいけないと思い詰めさせてる時点で無能なンだよ。話にならねェわ)
 有栖川は風紀委員長とは言え、まだまだ大人の手で守られるべき子ども。
 それなのに彼へのメンタルケアも学校の治安回復も、なにもかもを放置していた大人たちに対してウィズは強い怒りを感じていたのだ。
 しかし思うことは多々あれど、今は有栖川を止めることが先決だ。
「お前のやってる事は反社と同じだ。法律を傘に着てお前の利益の為に悪用しているに過ぎない。お前が本当にやりたかった事は利益の為に他人を蹂躙する事なのか? 本当は、何をしたかった?」
 相手の非を正面から指摘し、その上で相手の目線に立って本心を聞き出す。
 本来ならば生徒指導教諭が投げかけてやるべきだったその言葉に、アリエスアリストテレスの瞳が揺れる。
 しかし……。
「僕がやりたかったこと……。くっ、決まっている! この学校に秩序をもたらし正義を為すことだ! 乱れた秩序の元に平和はない。それを正す事が悪だとでも?」
 1つだけ誤算があったとすれば、相手はただの学生ではなく、カードの力により暴走したシデレウス怪人だったということだ。
「僕の正義を否定する者は悪だ。『幸福は暇にこそあると思われる』。さあ、さっさと倒れて僕を暇にしてください!」
「ちっ! 思った以上に根が深いな、こりゃ」
 ウィズを次の獲物に定め、蹄を振り上げて突進してくるアリエスアリストテレス・シデレウス。
 それに対しウィズはすかさず防御の姿勢をとるが、しかし彼の眼の前で振り上げられた蹄の動きは鈍重。
 結果、ウィズは防ぐまでもなくその攻撃を難なく避けきった。
「ぐぅっ、なんだ? 体が、重い……」
「ふう、ようやく温泉の効能が効いてきたみたいですね」
 混乱するアリエスアリストテレス。
 それに対し体勢を立て直していたイナミは今も湧き続ける温泉を指差し、してやったりと昏く笑みを浮かべていた。
「今日の温泉は生薬たっぷりの薬湯。薬効は体温上昇、発汗、つらい肩こりの緩和、そして皮膚から浸透する麻痺効果です! 更にさっき取っ組み合った時に角から捕縛の呪詛も流し込ませてもらいました」
 そう、イナミは何も伊達や酔狂で校内に温泉を沸かせたわけではない。
 全ては|牡羊座《アリエス》のもたらす睡魔を打破し、且つ相手の動きを縛るための作戦だったのだ。
 その結果、麻痺と捕縛を二重に受けたアリエスアリストテレスの命中率と攻撃力は大幅に低下していた。
「くっ、この場で戦うのは分が悪いか。だが最後に支配するのは僕だ」
 自身が攻撃を受けていたことを理解し、たまらず身を翻すアリエスアリストテレス。
 当然、逃がすものかと駆け出そうとするウィズとイナミだったが、しかし……。
「はァ!? どうなってンだ!」
「追いかけたくても、走れないですぅ……」
 ズンズンと歩いてく彼の背を追おうにも、その意思に反して体が前に進まない。
 そうこうしている間にも、彼との距離はどんどん離れていく。
「|牡羊座《アリエス》の属性が眠りなら、|偉人《アリストテレス》の属性は言葉。既にこの空間は僕が敷いた校則に支配されているんだよ! 君たちは後でゆっくりと相手をしてやる!」
 勝ち誇った声を上げるアリエスアリストテレス。
「ちっ!? そういうことかよ!」
 そして彼の言葉にヒントを得たウィズが、思考を走ることから歩くことへと切り替える。するとさっきまでの体の強張りが嘘のように消え去り、脚は廊下の上をスイスイと進むようになった。
 しかし法則が掴めたからといって後の祭り。
「廊下を走っちゃいけませんってか。どこまで良い子ちゃんなんだよ」
 既にアリエスアリストテレスとの距離は、徒歩では到底追いつけない程に離されてしまっている。
 だが手は届かなくても……。
「おい、有栖川! 俺の話しはまだ終わってねえぞ!」
 先ほどの言葉に一瞬だけ垣間見えた有栖川の目の揺らぎ。その中に彼の善性の残滓を確かに感じとっていたウィズは、去っていく有栖川の背に向けて声を張り上げる。
「他人には心がある。道具じゃねェ。お前がやるべき事は、何だ?」
「……王に同じことを言わせるな」
 一瞬だけ踵を止め、振り返ること無く吐き捨てる有栖川。
 その姿が廊下の角に消えていくのを苦々しげに見つめつつ、しかしウィズは確かな手応えを感じていた。
「奴の心に楔を打つことはできた、か? この廊下みたく、直ぐに温けぇもんが湧いてきてくれりゃァ楽だったんだが。ったく、やっぱ生徒指導は専門外だ」
「他にも有栖川さんを助けようと来てる人はたくさんいます。後のことは任せるしかない、ですね。…………えーっと、吉報を待ってる間、温泉にでも入ります?」
「……麻痺すんだろ。普通に嫌だわ」

 斯くして√能力者と有栖川とのファーストコンタクトは決裂に終わった。
 しかし彼を想う真っ直ぐな言葉は、確かに有栖川の耳に届いたのだ。
 その言葉に彼は何を思うのだろうか。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

リディア・ポートフラグ
さて、有栖川君を止めてやろうか!
教室で待ち構えて横暴阻止だ
王様気取りとは楽しそうだな
平和も正義も誰のためにするのか、というのが大事だということをわかってないのは残念だ
まぁ、説教臭いことや小難しい話は苦手なので、私は実力行使で行くとしよう
悪いことをしたなら殴られる覚悟も必要だぞ

煌炎天眼を起動、二回攻撃などで手数を稼いで削りつつ、相手の隙をしっかり狙って殴りこんでいこう
敵の攻撃は気合で耐えて、ガンガン攻めるぞ
眠気は痛みで押し殺し、反逆心は……これはお仕置きであって反逆ではないからな、残念だったな!!
周囲の仲間と連携しつつ、キッチリお仕置きをしてやろう
屋島・かむろ
ああ、こらあかん
生徒やなくて規律…どころか完全に個人の|自己満足《ジコマン》の為の学生生活になっとる、手段と目的完全にわやくちゃやん
とは言え聞く耳も持たんやろし…一回ギャン言わさな収まらんやろなぁ

粛清対象クラスの生徒に化け風紀委員長が粛清に来た所で√能力による奇襲
生徒に紛れれば(可能なら他の生徒も本物やなく幻術で騙せたら尚良し)相手も油断するし元々先制攻撃用√能力や、奇襲二段構えでご自慢の機動力を生かす前に出鼻挫いて向う脛に一撃、|痛み《ダメージ》二倍で泣かしたる
奇襲と痛みで怯ませ更に縦横無尽に教室…いやさ五条大橋を飛び廻る牛若丸の幻影で幻惑(この時生徒がいれば逃がす)しつつ何度も奇襲を重ねる

 √能力者の追跡を振り切り、早足で廊下を進む有栖川ことアリエスアリストテレス・シデレウス。
 王の法に背いた不埒な生徒たちが待つ教室はもう目と鼻の先。
 しかし目当ての教室の前に仁王立ちする影が有栖川の足を止めた。
「王様気取りとは楽しそうだな」
 腕組みして待っていったリディア・ポートフラグ(竜のお巡りさん・h01707)が、彼に対し不遜な眼差しを向ける。
「警察官? ……さっきの奴らの仲間か。我が国に無能なヒーローも警察も必要ない。正義を守るのはこの僕だ」
「それが誰のため、なんのための正義か。大事なことに気づいてないんだな……残念だ」
 目的のために手段を選ばないという彼の評判には少なからず共感するところもあった。しかし目的よりも更に大切な、根幹の部分が破綻しているとリディアは彼の様子を見て瞬時に見切る。
 情を失い、|箍《たが》が外れた正義は最早正義ではないのだ。
「まぁ、私は小難しい話は苦手だからな。私ができることはただ一つ。君を止めるため実力を行使する!」
 全身を巡る決意と竜漿を炎に変えて、右目を燃え上がらせるリディア。
 そして素早く踏みこむと、まだ身構える前のアリエスに向けて自慢の怪力を叩き込んだ。
「ぐおっ! 先制攻撃、だと……貴様それでも警察官か!」
「悪いことをしたなら殴られる覚悟も必要だぞ」
 驚愕しつつ反撃の拳を突き出そうとするアリエス。しかしリディアはそれが繰り出されるよりも速く、更にスピードを増した拳で相手の攻撃の予備動作を上から封じていく。
 怪人化しているとは言え、有栖川は戦闘訓練を受けた事のない男子生徒。
 『煌炎天眼』を発動させたリディアの瞳には、その一挙手一投足が手に取るように見えていたのだ。
「な、舐めるなああ! 僕が、僕がこの国の王なんだ!」
 しかし相手もただ一方的にやられるばかりではなかった。
 アリエスは拳撃を咎められつつも全身を前のめりに突進させ、渾身の体当たりでリディアを突き飛ばす。
 そして勢いのまま、ドアを突き破り諸共教室内になだれ込む両者。
 突然の出来事に生徒たちが悲鳴を挙げるが。
「喚くな愚民共!」
 しかし即座に起き上がったアリエスが、反逆者達をまとめて眠らせようと角笛を吹き鳴らした。
 高音と低温が不気味に入り交じる不協和音が教室内に響き渡り、1人、また1人と意識を失い倒れていく生徒たち。
 リディアもまた咄嗟に耳を抑えた姿勢のままうずくまり、そのままピクリとも動かなくなってしまった。
「ふん、僕に逆らうからこうなるんだ。これでまた平和が保たれ……ぐぅっ!?」
 肩で息をしながら勝ち誇るアリエス。
 しかし、突如として向う脛に走った鈍い痛みが彼の体勢を崩した。
「ああ、こらあかん。黙って聞いとれば|自己満足《ジコマン》ばっか! 呆れて言葉も出て|来ない《こおひん》わ」
 そこに立っていたのは、折り重なった生徒たちに紛れこちらを睨みつける女子生徒の姿。
「君は……僕の学校の生徒じゃないな?」
 その言葉にも女子生徒は憮然とした態度を崩すことなく、その場でクルンと一回転。元の姿に戻った屋島・かむろ(半人半妖の御伽使い・h05842)は、狸耳に突っ込んでいた耳栓を引き抜いて。
「はぁ!? なに言うたか聞こえんかったわー。まあええ、うちの花の青春ドリームにいらん不安抱かせよってからに! 一回ギャン言わしたるわ!」
 怒りの声と共に跳躍するかむろ。
 そして投げ扇による先制攻撃を加えた向う脛に素早く飛びつくと、拾い上げた扇で再びアリエスの脛を強かに打ち付けた。
「があっ! くっ、ちょこまかと!」
 対するアリエスは鈍い痛みに苦悶しつつ、眼下のかむろに拳を振り下ろす。しかしその拳は空を切り、虚しく床にヒビを作るのみ。
「前や後ろや右左、ここと思えばまた彼方。|弁慶《でかぶつ》の攻撃が牛若丸に当たるかいな!」
 机を橋の欄干に見立て、教室中を身軽に飛び回るかむろ。
 『五条大橋・飛燕乱舞』。伝説のジャイアントキリングを再現した√能力が、的確かつ執拗に敵の急所に叩き込まれていく。
「くっ、この王を殴ったな。机の上に立っただけでなく……!」
 ならばお前も眠らせるまで、と角笛を構えるアリエス。しかし突如として背後から襲った衝撃がアリエスの姿勢を大きく崩した。
「悪いことをしたなら殴られる覚悟も必要だぞ」
 その衝撃の正体はリディア。うずくまっていた低い姿勢のまま駆け出したリディアが猛烈なタックルを仕掛けたのだ。
「お前は、僕の旋律で意識も反逆心も刈り取ったはず」
「私を誰だと思っている。徹夜慣れしたお巡りさんだぞ! そんなもの気合で耐えきったさ!」
 そしてリディアは必死に眠気に抗っている間も、戦いの様子をしっかりと目に焼き付けていた。
(何度も脛に攻撃を食らっている。つまり今の彼は踏ん張りが効かないというわけだ!)
 『煌炎天眼』で素早く相手の隙を見きったリディアは、組み付いた腕に力を込め大きく揺さぶる。
「反逆心は……これはお仕置きであって反逆ではないから。残念だったな!!」
 たまらず足をふらつかせるアリエス。そしてリディアは今がチャンスと全身の筋肉を躍動させると、その巨体を高々と持ち上げ上半身を仰け反らせながら教室の床に倒れ込む――渾身のバックドロップをアリエスに叩き込んだ。
「げはぁっ! そ、そんな無茶苦茶な言い分、まかり通って、たまるか!」
「お・ま・え・が……それを言うなや!」
 そこへ更に追撃を仕掛けようと、かむろが牛若丸の如き身軽な体捌きで教室の天井まで飛び上がる。
 そして天井を蹴って加速すると、床にめり込んだアリエスの顔面に向けて、おしおきとばかりに渾身のゲンコツを叩き込むのであった。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功