女たちの|戦場《キッチン》

【435分隊A班・総員4名】で「リズさん(h00646)」「エルヴァさん(h00439)」「シズクさん(h00589)」と参加します。
◎経緯説明
シズクさんのリクエスト文章に準じます。
◎傾向
コメディ
◎内容
リズさんのリクエスト文章に準じます。
◎【よくないもの】について
いわゆる混沌(カオス)的なナニカです。
材料の中に知らない人が見れば全く気が付かないように擬態して紛れ込んでいます。
近くにいる人の精神を高揚させたり、考えないようなことを暗示的に思わせてきます。
例:普段真面目な人が作業中に飲酒。大雑把な人が台ごと破壊してしまう。など。
混乱したところに合わせて擬態を解いて襲ってきます。なお、戦闘力自体は雑魚。
◎スミカの設定
・元√EDENの人間だった。
・過去になんやかんやあって少女人形(レプリノイド)になって様々な戦場を渡り歩いている。
・クール、冷静沈着ぶっていますが、好きな物(美味しい物)の前ではいろいろと崩れます。
・特に甘味・お酒好き。
・口調(~です・ます)
◎スミカの台詞や心情イメージ(改変や不採用OK)
チョコ料理を作っていきましょうレシピもばっちりです。出来立てを早く食べたいです。
ん、このお酒はハチミツ酒ですかね?なぜか視界に留まりました。
ちょっと一口くらいいいでしょうか…、うん、美味しい…。
ああ、なぜか、心がフワフワするような…?
「これで、材料は全部ですね」
√ウォーゾーン。山のように積み上げられたチョコ・小麦粉・乳製品……その他諸々、バレンタインに使われうるありとあらゆる材料を前に、スミカ・スカーフはぽんと手を叩いた。
「レシピもばっちり。出来立てを早く食べたいですし、早速調理に取りかかりましょう」
「そうです……! なにせバレンタイン! 事態は一刻を争いますよ!」
リズ・ダブルエックスは両手に道具を握りしめ、迫真の表情で言った。
「すぐにでも取りかかってください。料理は速さが命です」
「……いや待てリズ、言ってることはもっともなんだけどよ」
エルヴァ・デサフィアンテはやや怪訝な様子で尋ねた。
「オマエが持ってんの、カトラリーじゃね??」
そう、リズが両手に握りしめているのはナイフとフォークだった。普通に考えて、調理のためには使わない。いやフォークでほぐす工程も料理の中にはあろうが、少なくともバレンタインのチョコ料理で使うことはあまりないはずだ。だいたいその場合でもナイフの説明がつかない!
「もうすっかり食べるモードに入ってるみたいですね。私は構いませんよ」
と、水垣・シズクが口を挟んだ。
「今日のために様々な材料を調達してきた責任者として、調理も私が大半行うつもりです。なんならお二人も休んでいていただいても……」
「本当ですか! ありがとうございます!!」
「シズクさんの申し出はありがたいのですが、せっかくのバレンタインですしみんなで協力して励みましょう」
ノリノリのリズを遮り、スミカが即答した。
「そーそー! そもそも今回の目的は、ただアタシらで食うことじゃねーだろ?
チョコ菓子を片っ端から作りまくって、片っ端から|団員《みんな》に配る、だしよ!」
エルヴァは鷹揚に笑った。
「つーわけだ、リズ! 少しは働けよな!」
「仕方ありませんね……ですが、味見という最重要任務は絶対に譲りませんので。ガチで」
リズの目は据わっていた。迂闊なことを言うと何をしでかすかわからない、そういう迫力に満ち溢れていた。ただの食い気とも言う。
●
|嗜好品《チョコレート》を楽しめない√ウォーゾーンで戦う戦友たちのため、楽しみながらチョコ料理を用意する。
レクリエーションを兼ねた大規模な催しは、この『第435分隊』の中でもさらに複数のグループに別れ、思い思いの材料調達に励んでいたばかりだ。
「そういえばヨシマサさん達は、なぜか√ドラゴンファンタジーでダンジョンを攻略する羽目になったらしいですね」
チョコレートをコンバットナイフでサクサク刻みながら、スミカが世間話を切り出した。
「なんで料理してんのにダンジョンに飛び込んでんだよ。幻のカカオでも求めてたのか??」
呆れながらも、エルヴァの手際は存外に的確だ。
「そうですね、ただチョコ料理を作るだけなのに……」
シズクは明らかにフラグっぽいことを言いながら、別のチョコレートの湯煎を行っている。
「それにしてもエルヴァさん、お料理得意だったのですね?」
「おう! まーアタシの場合、補給が足りなくて現地調達することも多かったからなー」
意外だろ? と、エルヴァは屈託なく笑った。
「これでもそこそこ料理は得意なんだよ。それに大切だろ、|食べること《こういうの》ってさ」
「わかります。いえ、むしろ人間の営みの中で一番重要とさえ言えますね!」
体力勝負の泡立て作業を任せられたリズは、迫真の表情でこくこく頷いた。
「……まさか、こうやって|戦友《なかま》と肩並べて甘いもん作れるなんてさ。昔は思ってなかったよ」
エルヴァは少しくすぐったそうに、照れたような笑みを見せた。
「なーんて、いよいよアタシらしくねーな! まだ酒も飲んでねーのにさ!」
「まだも何も、材料は沢山あるんですからお酒は……」
と、窘めかけたスミカの視線が、まるで吸い寄せられるように動いた。
「……ん?」
何気なく――少なくともスミカは今のところそう思っている――視線を向けた先には、細長い瓶が突き出していた。
「これは……|蜂蜜酒《ミード》でしょうか」
スミカはやはり何気なく手を伸ばし、瓶を取った。はて、こんなものを買い込んできただろうか? シズクを始め、分隊員で協力して方方から集めてきた食材なので、自分が知らない材料があること自体は不思議ではないのだが……。
「スミカさん? どうしました?」
気配りの出来るシズクが、妙な雰囲気に気付く。
「いえ、なんとなく目につきまして……せっかくですし一口飲んじゃいましょうか」
「えっ!? 打ち上げで開けようって言うつもりだったんだけど、今飲んじまうのか!?」
これにはエルヴァも驚いた。なにせ、あのクールで分隊を取りまとめるスミカが、つまみ食いのようなことを言い出したのだ。
「私は反対します。飲めませんので!!」
リズはあくまでも食い気に支配されていた。ブレない。
「まあレクリエーションみたいなものですし……」
スミカはどこからともなくグラスを3つ用意し、蜂蜜酒を注いでいく。
「って、なんだか綺麗ですね。黄金みたいに輝いてますよ!」
「……なんでしょうか、これはよくない気配がするような……」
シズクの脳裏で何かが警鐘を鳴らしていた。だが、スミカがグラスを差し出すと、自然と受け取ってしまう。
「おいおい呑みすぎんなよー? まーアタシも軽く飲んどくか」
エルヴァが珍しく呆れながらも、差し出された手前ということで軽く飲み干す。蜂蜜酒は口当たりの割に意外とアルコール度数が高い。といっても義体化したエルヴァにとって、アルコールはその気になれば排除可能な毒素だ。
「うん、美味しいですね……」
スミカは少しふわふわした声で言った。
「くっ、私も何か食べたいです。でも今は我慢……!」
ぐっと堪え、泡立て作業を続けるリズ。いくつものボウルを次から次へと泡立てていくのだ。
「ふんふんふ~……っておい! リズ、つまみ食いしたろ!?」
「はい!?」
その矢先、あらぬ疑いをかけられてしまった。エルヴァは空っぽのボウルを見せつける。
「生クリーム全部飲み干すとか、何やってんだよ!」
「そんなことするわけないじゃないですか、私は……」
「てけり・り」
「「ん?」」
二人は妙な声に振り向いた。すると、今しがた泡立て終えたばかりのボウルが、またしても空っぽに!
「オイオイ、なんだ一体。リズじゃねえなら誰が……」
「疑いは晴れましたね? では私は作業に戻りますので!」
「今の見といてかよ!?」
「手を動かさないと味見が出来ないじゃないですか!!」
リズは完全に食い気に支配されていた。
「うーん、なんだか星星の下に佇む石造りの図書館が見えてきたような……」
ズダーン! ズダーン! スミカはチョコどころかまな板すら細切れにしているのも気付かずナイフを振り下ろし続けていた。
「スミカさん、どうしました!?」
シズクが再び彼女を訝しんだ。
「え? ああ……湯煎ですよね? 大丈夫です、酔ってませんから。|少女人形《レプリノイド》が酔うわけないじゃないですか」
スミカはほわほわ言いながらチョコ(とまな板の残骸)を鍋に流し込み、着火した。ゴワー! 凄まじい火柱が上がる!
「火力が強いですから、すぐに湯煎できますね」
「そういうレベルではないのですが……!? 何かが……何かがおかしいです!」
「シズクも気付いたか!」
そこへ、エルヴァが合流した。
「何か妙なのが潜んでやがるぜ。もしかしたらモンスターの類……」
「チョコよこせぇえええ!!」
その時である! 片目がこぼれ落ち、指が三本しかない茶色の怪物が突然襲いかかってきた!
「うわっ!? なんだこいつ!?」
「俺様の名はチョコ|食《た》坊! チョコよこせぇえええ!!」
「私のチョコをかっさらうつもりですか!? 許しません!!」
横からリズがLXMでチョコ食坊を突き刺し、ビーム発射!
「死ねーっ!!」
「アバーッ!?」
哀れ、チョコ食坊は消し炭となった。
「まったく、妖怪が酔ってくるなんて……事態を放置してたのは誰ですか!?」
「さっき異常見つけておいて無視してたのオメーだろ!?」
エルヴァは呆れた。そして、奇妙建築が連なる周囲を見渡す。
「っつーか、そもそもここ√妖怪百鬼夜行じゃねーか! どうなってんだ!?」
言いつつ湯煎済のチョコが入った鍋を取り上げた。すると、鍋の中のチョコがうねうねとひとりでに立ち上がったのである!
「てけり・り」
「ウワーッ!? もしかしてボウルの中身食べててたのこいつ!?」
「てけり・り」
チョコのスライムじみた生命体はそのままエルヴァを飲み込んでしまった!
「あっつ!! あっつい!! っていうか呼吸できなゴボボボ」
「これは、ショゴス……いえ、チョゴス!? 一体何故……!?」
怪異専門家たるシズクの目が光った!
「唐突にキッチンごと√を転移してしまったのも、怪異の影響のはずです。
これ以上影響が出ないうちに、私がこの事態を制圧してみせます!」
「シズクさん、チョコそろそろ溶けますよー」
ほわほわしているスミカは炉のように燃えている鍋を手に歩き回る。危険!
「なんだか皆さんおかしいですよ!? シズクさん、どうするんです!?」
「怪異には怪異です。邪神を召喚します!」
シズクは奇怪な粉末を振りまき、儀式的な手振りをしながら邪悪な呪文の詠唱を始めた。名状しがたき角度からこの世ならざる神格をイアイアと称える声が!
「あれ!? もしかして想像以上にヤバい事態なのでは!?」
リズは武器を構えた。
「ガボボボゴボボボ」
「フルーツも切り分けていきますねー」
チョゴスに飲まれたエルヴァ! キッチンまで裁断し始めるスミカ! 完全なカオス!
結局召喚された邪神をなんとか返り討ちにした後、食材に潜んでいた|混沌《カオス》的なナニカをついでに異界に放り込んだ四人は、無事にお茶会を開くことが出来たという。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴 成功