シナリオ

15
『あなたはわたしのおともだち』ハーメルンの笛吹き事件

#√汎神解剖機関 #天使化事変 #羅紗の魔術塔 #リプレイ執筆中

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●笛吹は歌う。
 いい子 いい子 あなたはいい子
 素直で 素敵で 世界で一番 わたしの大事な宝物
 いい子 いい子 あなたはいい子
 甘い甘い|愛情《お菓子》を あげる
 あったかい|ミルク《優しさ》も たっぷりと
 あなたが望むなら わたし なんでもあげちゃうわ

 寂しい時は 抱き締めてあげる
 悲しい時は 一緒に泣いて
 苦しい時は 一緒に悩んで
 怖いおばけは 手を繋いで 一緒に逃げましょう

 いい子 いい子 あなたはいい子
 笑顔が 素敵な 世界で一番 わたしの大事な宝物

 ———

 子どもは眠る宵の時。
 明かりも消えた街の中、響く歌声、誰の声。
 ふわふわ光り漂うは、一体全体なんなのだろう。

 目覚まし時計の鐘が鳴る。
 いつもの朝、いつものはじまり。目を覚ますよ大人達。
 しかして目覚めぬ子ども達。冷たい体に死の臭い。
 ふわふわ光り漂うは、もしや彼らの|灯《ともしび》か。

 まるで物語の一説を語るかのように、星詠みの少年、クルス・ホワイトラビットは静かに言葉を紡ぐ。ぼんやりと虚空を見上げるようなその瞳は、どこか遠くを見ているかのようで近い未来に訪れるであろう『なにか』を予見しているかのような、そんな印象を覚えるかもしれない。ふっと、息を吐くように瞳を閉じて俯くと、少年はゆっくりと顔を上げ、同時に開いた瞳を、貴方達のそれへと合わせた。
 先程までのぼんやりとしたものとは違う、静かで強い光を宿した星詠みたる|少年《かれ》の顔だ。

「さて、本題に入る前にキミ達はハーメルンの笛吹き男という伝承は知っているかな。
 知らない方は座してお耳をご拝借。知っている方は暫しのご清聴を。

 とある国のとある街は、大変な困り事を抱えていた。それは灰色の悪魔、蠢く波。街の食物や家畜を喰い荒らし、時には人すら牙に掛ける大変狂暴で大量の鼠達が、我が物顔で街を跋扈していたのだ。退治をしようにも、鼠捕りでは雀の涙。猫は怯えて知らん顔。一体全体どうしたものかと頭を抱える街の人々に、とある一人の男が声を掛けた。
 派手な井出達、手には笛。どこか奇怪な魔術師か、はたまた道行く道化師か。奇妙奇天烈な男はこう告げる。「報酬さえ支払ってくれれば、鼠を残らず退治してやる」と。半信半疑な街の人々、吹っ掛けられ宇は莫大な報酬。それでも彼らは、藁に縋るような気持ちで男の申し出を受け入れた。
 響く笛の音、ご機嫌に踊り出す鼠、鼠、鼠の群れ。彼らは男に誘われるまま、巨大な灰色の絨毯となって、やがて大きな大きな川の中、自らざぶりと飛び込んでは、あの世へ泳いでいきました。
 これにてめでたしめでたしな物語。けれどもめでたく終わらないのがこの物語。
 掴んだ藁を嫌悪するが如く、手を離しては報酬代わりに男へ石を投げ付ける。当然男は大激怒。「街を救った恩人に、この仕打ちは許せない」、その日の深夜、鳴り響く笛の音に、誘われたのは鼠、鼠、鼠ではなく子供達。大人の声など聞かん坊、止めようにも知らん顔。ご機嫌に踊りを踊って歌を歌って、男と共に居ずこの地へ。そうして二度と、男も子供達も、街には戻ってきませんでした。めでたしめでたし。

 ……とまあ、こんな感じで、とある国の実際に起こった事件から幾多の作家が書き起こして伝えられてきた伝承だよ。今は事件を伝える為というよりは『人との約束を守りましょう』とか『因果応報の意味を伝える』とか、そう言った教育的側面で子供達に伝える為に読み伝えられているね。実際の事件を元にしているだけあって、この物語がそのままの事件である説、移民の説等、いろいろな説が唱えられている伝承でもあるのだけれど、今回はその論議をする為にキミたちにこの話を教えた訳じゃないよ」

 コホンとひとつ咳払う。ここからが本題であると言わんばかりに、少年は静かに腕を組んだ。

「この伝承のように、とある街で子供達の集団失踪事件が起こった。
 場所は√汎神解剖機関、そこのヨーロッパと呼ばれる諸国にある街だ。その街で、一晩にして120人もの子供達が姿を消している。いいかい?12人じゃない、120人だ。この数から、これがただの集団失踪事件と考えるのは難しい。そして簡単な調査結果にはなるけれども、案の定、怪異と思わしき痕跡を発見したよ」

 そう言って少年は一枚の写真を貴方達に差し出す。
 そこには、あどけない表情にエメラルドの瞳と長いブロンドヘアーの少女が映されていた。年の頃は10歳前後だろうか。怪異と呼ぶにはあまりにも清廉潔白な存在がそこにある。

「彼女の名前はリナ・マリーゴールド。
 『天使病』と呼ばれる感染症によって、『真の天使』と化した存在だ」

 因みに天使化とは、「善なる無私の心の持ち主のみ」が感染するとされるヨーロッパの風土病で、人心の荒廃した現代では既に根絶したものと思われていたものだ。つい最近になって活性化したらしいそれに感染すると、殆どの場合、オルガノン・セラフィムという怪物に変貌し、理性も何もない怪異と同等の存在へと成り下がってしまうそうだ。
 しかし、「真の天使」と化したものは、肉体は美しく異質な存在に変貌したものの、理性と善の心を失っていないらしい。星詠みの言う「天使」の多くはこの「真の天使」の事を差し、それらは今のところ√能力自体は使えないものの、その存在故に怪異や超常現象を研究する機関に狙われてしまう存在でもある。

「彼女もこの失踪事件によって姿を消した一人だ。
『天使』という彼女の存在から、事件とは全く無関係と考え難い。事件の解決は勿論の事、彼女の身が心配だ。早急に見つけ出して保護をしておくれ。
 ボクの方で事件について調べた事を共有しておくよ。詳しい事は現地に赴かないとわからないが、それでも何かの足しにはなるだろう」

 差し出された書類には、このような事が書かれていた。

『事件について』
 子どもたちの年代は、下はハイハイが出来る赤ん坊から上は17歳前後。
 失踪者の共通点は世間的に子供と認知出来る年齢である事以外は不明。
 出身は様々だが貧困層、孤児院が現住居といった訳ありな者が多い。因みにリナは裕福な家の出である。
 街の殆どの子供達が姿を消しているが、姿を消していない子供もある。
 手掛かりは冒頭の歌。ハーメルンの笛吹き男の伝承。


 貴方達がそれを眺めている時だ。
 少年はポツリ、囁きのような声を贈る。

「……なんだか、とても嫌な予感がする。
 この事件、目で見えるものだけを信じちゃいけない、そんな気がするんだ。
 この事件を解決してくれるのなら、どうか、キミの信じるものを信じておくれ。鏡の中と夢の中、そこが現実よりも優しい世界だとしても、生きている場所は、生きていかなければならない場所は現実だ。決断する時は来る。その時は、どうかそれを忘れないで……」
これまでのお話

第2章 ボス戦 『羅紗の魔術士『アマランス・フューリー』』


POW 純白の騒霊の招来
【奴隷怪異「レムレース・アルブス」】を召喚し、攻撃技「【嘆きの光ラメントゥム】」か回復技「【聖者の涙ラクリマ・サンクティ】」、あるいは「敵との融合」を指示できる。融合された敵はダメージの代わりに行動力が低下し、0になると[奴隷怪異「レムレース・アルブス」]と共に消滅死亡する。
SPD 輝ける深淵への誘い
【羅紗】から【輝く文字列】を放ち、命中した敵に微弱ダメージを与える。ただし、命中した敵の耐久力が3割以下の場合、敵は【頭部が破裂】して死亡する。
WIZ 記憶の海の撹拌
10秒瞑想して、自身の記憶世界「【羅紗の記憶海】」から【知られざる古代の怪異】を1体召喚する。[知られざる古代の怪異]はあなたと同等の強さで得意技を使って戦い、レベル秒後に消滅する。
√汎神解剖機関 普通11

●秘密の日記帳

 いつからわたしはわたしだったのかしら
 気が付いたらここにいた。あなたの側、あなたの目の前、あなたのお部屋。
 怖がらないで。大丈夫。わたしはあなたを知ってるわ。

 あなたはわたしの
 ママで パパで 妹で 姉で わたし自身
 世界で一番 わたしの大事な宝物
 だからわたし、あなたの事は全部わかるの
 あなたの望みも あなたの願いも あなたの気持ちも
 全部全部わかるわ 知っているわ

 わたしはナナ 名無しのナナ
 あなたにおまじないをかけてあげる
 元気の出るおまじない 寂しさの消えるおまじない

 いい子 いい子 あなたはいい子
 素直で 素敵で 世界で一番 わたしの大事な宝物
 いい子 いい子 あなたはいい子
 甘い甘い|愛情《お菓子》を あげる
 あったかい|ミルク《優しさ》も たっぷりと
 あなたが望むなら わたし なんでもあげちゃうわ

 寂しい時は 抱き締めてあげる
 悲しい時は 一緒に泣いて
 苦しい時は 一緒に悩んで
 怖いおばけは 手を繋いで 一緒に逃げましょう

 いい子 いい子 あなたはいい子
 笑顔が 素敵な 世界で一番 わたしの大事な宝物



 その歌が書かれた頁を見終わった瞬間、それは唐突に、突然に現れた。
 静かな暗転の中からゆっくりとスクリーンの中に映像が浮かぶかのように目の前に広がるのは、見知らぬ誰かの子供部屋。夜の月明かりに照らされたその部屋で、金色の髪をした少女が泣いている。それをそっと抱き締めているのは、少女によく似た、いや、瓜二つとも言っていい銀髪の少女だ。声が聞こえる、彼女達の声が。鼓膜ではなく、頭に直接語り掛けるようなその声は、ころりころりと鈴のような軽やかさと飴玉のような甘さを孕んで響いてくる。

『ナナ、ナナ、今日もお父さんに怒られちゃった。お母さんにも叱られちゃった。
 わたしがテストで100点を取れなかったから。お兄ちゃんみたいに出来なかったから。
 悪い子悪い子、何も出来ない駄目な子って言われたの。どうしてお兄ちゃんみたいに出来ないのって、ずっとずっと言われたの。お兄ちゃんみたいに出来ないなら、もうお友達と遊んじゃいけませんって、お絵かきもしちゃいけませんって』
『まあ、それは酷いわね。リナはあんなに頑張ったのに。たくさんたくさんお勉強して、一生懸命頑張っていたのをわたしは知ってるわ。本当はもっと遊びたかったのに、ちゃんと我慢して頑張ったじゃない。偉いわリナ、偉いわ。あなたはとっても偉い子よ』
『ナナ、ナナ、でもね、ナナ。わたしの頑張りは普通なんだって、誰でもやってる事なんだって、当たり前の事だから、こんなの一生懸命でも何でもないって。ただみんながやってる事をやっただけだから、頑張ってないんだって』
『お父さんとお母さんの当たり前は、あなたの当り前じゃないわ。気にしなくていいのよ。
 きっとね、二人ともまだ、お兄ちゃんがいなくなったショックから立ち直れていないのよ。心が苦しくて堪らないから、ついついあなたにそんな事を言ってしまうだけだわ。だからね、リナ、大丈夫、大丈夫よ。あなたの頑張りはきっといつか見てくれるわ。わかってくれるわ』
『本当に?』
『ええ本当よ。わたしは嘘なんて言わないんだから』

 ———

『ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!!!!わたしが悪いの!わたしが悪いの!!だからお願い、そのクレヨンだけは捨てないで!!!お兄ちゃんからのプレゼントなの!!お願いお願いお願い!!!!』
『お願いじゃなくてお願いしますだろ!!敬語もろくに使えないのかお前は!!!!』
『あ、あ、ご、ごめんな……す、すみません!お願いします、許してください!!もう、もう、あの子達とは遊びません。家庭教師の時間を抜け出したりもしません!!お願い、お願いです!!!そのクレヨンだけは』
『うるさい!!!!』
『きゃああああああっ!!!』

 ———

『またテストで100点取れなかったの?こんな簡単な問題のどこをどうすれば間違えるの?お兄ちゃんはちゃんと満点だったじゃない。あなたとあの子は同じ血が流れているのよ、やれば出来るのよ?それなのにどうしてやらないの?こんな事、何度言わせればわかってくれるの?!』
『ご……すみません……で、でも、クラスでは一番の点数だって、先生が……』
『クラスで一番?だから何?そんなレベルが低い場所で満足してもらっていては困るのよ!ああ、そう、だったら学校を変えましょうか』
『え……?』
『来月からもっと遠くの、そうね、レベルの高い学校に通わせます。いいわね?』
『……はい』

 ———

『社交界のマナーもろくに覚えられないとはどういうことだ!!!親に恥をかかせる気か!!!』
『ち、違います、っ、ちが、違うんです……緊張しちゃって、あの、』
『言い訳をするな!!!正しいマナーが身に着くまで、食事は摂らせないからな!!!』

 ———

『まあまあどうしたの?!大丈夫?私の言う事がわかりますか?』
『あ、う、ぅ……』
『……!!急いで救急車を、』
『やめて。お父さんとお母さんに見付かったら、もっと酷い事をされるわ。お腹が空いてへろへろなの。お勉強ばかりで全然寝てないの。お願い、少しでいいの、お家に帰らなきゃいけない時間まででいい。リナを休ませてあげて』
『……あなたは?』
『わたし、わたしが、見えるの?』
『ええ、見えますよ。この子、リナさん、に、よく似たお嬢さんが私の目の前に居ます』
『!!!』
『どうしたの?』
『ううん、なんでもないわ。わたしはナナ。この子の……「おともだち」なの』

 ———

『ええ、そうですよ。孤児院で少し慈善活動についてのお勉強をしたいそうで……あら、授業料なんてそんな、結構ですよ。私共としては、活動に興味を持ってくださる事が嬉しいので、そういったものは結構です……ええ、そうです、よろしいですか?ありがとうございます。それではお嬢様は私共の方で責任をもって送り届けますので、はい、はい、それでは……』
『『……』』
『あまり遅くならない時間までに帰ってくればいいそうですよ。私達の方でお家まで送るので、時間になったら声を掛けますね。それまではここで、ゆっくりしていきなさい。まずはご飯を食べなくちゃね』
『やったぁ!ありがとうシスター!!良かったわね、リナ!!』
『う、うん……あ、ありがとう、ございます、シスター』
『いいんですよ。さあ、皆に自己紹介をしましょうか、いらっしゃい』
『『はーい!』』

 ———

『気色悪い!!!なんだお前は!!!お前なんかを子供にした覚えはないぞ!!一体どこから湧いて出た!!!』
『っ!!』
『やめて!やめてお父さん!ナナをぶたないで!蹴らないで!!!』
『うるさい!!ナナ?ナナだと?!似たような名前でよく似た人間だからと、うちの子どもになれるとでも思ったのか?!!どうせ貧民街の卑しいガキだろう!!!これ以上されたくなかったら、とっとと出て行け!!!』
『っ!!!!』
『ナナ……!!』

 ———

『ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……』
『泣かないで、どうしてあなたが謝るの?』
『だって、わたしがナナをお家に連れてきちゃったから、こんな、こんなに、酷い目に……』
『どうして?だってここは、わたしとあなたのお部屋でしょう?わたし達は帰って来ただけ、決して悪い事なんてしてないわ』
『でも、でもっ』
『落ち着いて、ゆっくり息を吸って吐くの。大丈夫よリナ、大丈夫……きっとね、今まではわたし、あなたにしか見えていなかったの。それが突然見えるようになって、お父さんもお母さんもびっくりしただけよ。リナだって怖いおばけは嫌いでしょう?突然現れたらびっくりするでしょう?』
『……うん』
『そうでしょう?きっとね、お父さんとお母さんの目にはね、わたしは今、怖いおばけみたいに見えてるだけよ。そのうちきっとわかってくれるから、きっときっと大丈夫。だからね、リナ、わたしはあなたの側にいるわ。今まで通り、ずっとずっとそばに居る』
『ナナ……でも、でもまた、また叩かれちゃうかもしれないよ?蹴られちゃうかもしれないよ?もっともっと、酷い事だってされるかもしれないよ?』
『心配性なのね、リナ。大丈夫よ、わたし、そんな事で離れたりなんかしない。リナだってずっとずっといろんな事に耐えて来たじゃない。だから平気よ。なによりね、わたしがあなたの側に居たいの。それは駄目な事?』
『……! ううん、駄目じゃない、駄目じゃないよ。嬉しいよ、いっぱいいっぱい嬉しいよ……ありがとうナナ……』
『ううん、いいのよ。それよりも、ほら、いつもの元気の出るおまじないをしてあげる』

 いい子 いい子 あなたはいい子
 素直で 素敵で 世界で一番 わたしの大事な宝物
 いい子 いい子 あなたはいい子
 甘い甘い|愛情《お菓子》を あげる
 あったかい|ミルク《優しさ》も たっぷりと
 あなたが望むなら わたし なんでもあげちゃうわ

 寂しい時は 抱き締めてあげる
 悲しい時は 一緒に泣いて
 苦しい時は 一緒に悩んで
 怖いおばけは 手を繋いで 一緒に逃げましょう

 いい子 いい子 あなたはいい子
 笑顔が 素敵な 世界で一番 わたしの大事な宝物

『ねえリナ、あなたの願い事はなあに?』
『わたしのお願い事?』
『ええ、なんでもいいの。沢山でもいいの。言ってみて?』
『……えっと、』

 お父さんとお母さんのいない場所に行きたい
 たくさんのお友達といっぱいいっぱい遊んでみたい
 悲しい事も、辛い事も、苦しい事も何もない場所に行きたい
 ライ麦パンにバターとジャムをたっぷり塗って、お腹いっぱい食べたい
 それから、それから、ナナと、ずっと一緒にいたい———



『その願い、叶えて差し上げますわ———天使様』



 刹那、目の前に広がるのは元の光景だった。
 シャボン玉が砕け散る様なほんの刹那の間に、映像は消えてしまう。
 先程の光景は一体何だったのだろうか。確かめるように手の中の日記帳を再び開く。
けれども、そこにはもう、なにも書かれてはいなかった。





●廃教会のその奥で

 ———ぐしゃり

 落っこちた首は、つい先程まであどけない少年だったものだ。
 その顔の半分は、得も言われぬ苦痛で目を見開き、もう半分は、異形の化け物———オルガノン・セラフィムと化したものだ。自らの肉体の変化にも気付いていないのだろうか。血溜まりの中に転がりながら、脳漿を、眼球を、肉片を巻き散らすそれは「アレ?」と、声無き声を零して絶命した。
 赤ん坊の声が聞こえる。泣きながら、お腹が空いたと蠢く|腸《はらわた》を伸ばす赤ん坊の声が。それをあやそうとした少女も、少年も、既にその肉体は人間のそれではなく。赤子を抱き締めようとした腕は、もう、誰かのぬくもりを感じられる形状を成していなかった。肉が、引き裂かれる。赤ん坊の声が止む。絶叫。僅か、人である部分がそうさせるのか。彼らは泣いた。鋭い爪で自らの顔を掻き毟り、蠢く腸で自らを、他者を、雁字搦めに巻き付けて、滅茶に、苦茶にと暴れ回る。絶叫、絶叫、また絶叫。流れる血と涙にも気付かぬまま、異様な形に歪みながら彼らのその口が開く。

「苦しい、苦しい、痛い、痛いよ……天使、天使、天使を喰えば、ボク、元に戻るの?」
「助けて、助けて、助けて……!!どうして?ここは楽園じゃなかったの?もう誰にも怒られない、暴力だって振るわれない、そんな場所じゃなかったの?」
「嘘吐き、嘘吐き、嘘吐き……!!おともだちになろうっていったのに!!!」
「お姉ちゃん、ごめんね、置いてきちゃってごめんね。今帰るから……天使を喰って、人間に、人間にもど、戻る?僕はもう、人間じゃ、ない……?」

 ずるり、ずるり、ずるり……。
 体を引きずるようにして、蠢く|怪物《オルガノン・セラフィム》がにじり寄る。
 彼らの視線の先に居たのは、金色の髪に緑色の瞳、その小さな体を更に小さく丸めて震える少女と、その前に立ち塞がるようにして両手を広げた銀色の髪に赤い目をした少女、そして———

「やはり天使と至れるのは限られた存在……|可哀想な子ども《なりそこない》達も連れて行ってあげたかったのですが……天使を襲うのであれば致し方ありません」

 女の薄桃色の髪が、静かに色を変える。
 元の髪の面影を残し日に透けて輝くプラチナブロンド。
 白衣姿だった女は、次の瞬間、得体の知れない魔術の羽衣を纏った天女のような姿となった。
 女が手を翳す。刹那、化物共の頭が全て吹き飛んだ。
 崩れ落ちる肉塊を呆然と見つめる少女達に、女は優し気な笑みを浮かべて、手を差し出す。

「アマナ、先生……?」
「さあ、一緒に———あなた達の望む世界へ行きましょう、|リナちゃん《天使様》」





●MSより
 羅紗の魔術士『アマランス・フューリー』との戦闘となります。
 2章ですがボス戦となりますので、ファンブルによるPCの重症・瀕死・負傷等はご覚悟の上でご参加ください。出目による公平を期す為にも、容赦はしておりません。

 また、『ボス戦直前にやりたい事』がある場合は、ひとつだけその行動が取れます。
 具体例を挙げると『何かを調べる』『誰かと話す』『その他やりたい事』等です。ただし、廃教会突入前となります為、リナ・ナナ・アマナの三人との会話は出来ません。ボス戦直前になりますが、情報に関しては共有しているものとしますので、新規で入られる方でも継続の方々と同じようにプレイングが出来ます。
 (これに関しては強制ではありません。やりたい方のみで大丈夫です)

 それではどうぞ宜しくお願いいたします。