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歴戦の勇者たち
●√ドラゴンファンタジー、町を見下ろす小高い丘
『古龍のまどろみ亭』は沈みゆく夕日に赤く染まりながら、今日も町を見下ろしている。それは√ドラゴンファンタジーで数々の戦いを繰り広げてきた勇者たちが集まり、その身体を休める場所である。
例えばそのひとり、『飛竜殺しのダンカン』。彼は大剣を手に数々のダンジョンに挑み、その異名の通り竜の首を一刀のもとに両断したという。御年83歳。近頃、ときどき来てくれるお孫さんのことがちょっとわからなくなってきた。
「あー……竜? そうそう、群がる竜どもをバッタバッタとな……いや? あれはハーピーどもだったかな?」
あるいはもうひとり、『千匹切りのリシャール』。巧みな剣技は見る者を惚れ惚れさせるほどで、数多の敵に囲まれながらも舞うように、それを斬り倒したという。御年81歳。10年ほど前に脳梗塞で倒れ、その右手も少し不自由になった。足腰の衰えもあり、今はほぼ車椅子である。
「ワシの剣技をお見せ出来る機会があればよかったんじゃがの……どれ、せめて多少の手ほどきでも……あいたたたた!」
さらにもうひとり、『炎の賢者アイリーン』。あらゆる魔術に精通すると言われる賢者であり、特に炎を操る魔力の凄まじさはダンジョンひとつを焼き尽くすほどだという。御年84歳。うっかり魔法を漏らしてしまうことが増えたので、今は杖を取り上げられている。それ以来、しょんぼりと元気がない。
「えぇ、えぇ。私ももうねぇ、魔法を打てなくなっちゃってねぇ……」
いずれもいずれも後世に名を残すであろう冒険者たちであり、いずれもいずれもかなり耳が遠かった。
要するに『古龍のまどろみ亭』は、かつての勇者たちが集う介護施設である。
●作戦会議室(ブリーフィングルーム)
「新たなダンジョンが発生したようだな!」
√能力者たちの前に姿を表した綾咲・アンジェリカ(誇り高きWZ搭乗者・h02516)は作戦卓に両手を突き、一同を見渡す。
「諸君らにとっては釈迦に説法だろうが、天上界の遺産が生み出すダンジョンは、近くにいる生物をモンスターに変えてしまう。その影響を受けず対処できるのは、我々だけだ。
一刻も早くダンジョンに乗り込み、モンスター退治といこうではないか」
そう言ったアンジェリカであったが、少し困ったように眉を寄せ、苦笑を浮かべる。
「と、いきたいところなのだが。
ダンジョンが発生した辺りは、もともと鉱山であった一角でな……。目的のダンジョン以外にも入り組んだ坑道があり、たどり着くのも容易ではない。
そこで、だ」
アンジェリカが地図上に示したのは『古龍のまどろみ亭』であった。
「ここには、かつて数々の冒険で名を馳せた冒険者たちがおられる。彼らの中には、今回の目的地付近を探索したことのある方もいらっしゃるだろう。そこで話を聞き情報を得て、冒険への備えとしてくれ。
……話は長くなるだろうがな」
最後は横を向き、ボソリと呟くアンジェリカ。
「いや、なんでもない。
慰問を終えたら……もとい、情報収集が終わったらダンジョンに向かってくれ。ダンジョン内部もまた、坑道だ。すでに廃棄され明かりはなく、狭い。ところどころには崩落の危険があり、採掘用の爆薬が処理されぬまま放置されている恐れもある。十分に注意して進んでくれ。
最下層には財宝の山があるようだが……いや、騙されるな。これはミミックだ。『呪われしバイティア』という。惑わされず、撃破してくれ。
さぁ、栄光ある戦いを始めようではないか!」
これまでのお話
マスターより

こんにちは、一条です。
今回は、新たに発見されたダンジョンの探索と撃破を行なってください。
しかしながら、現地は鉱山の跡地にあるらしく、かなり道が入り組んでいます。このままで迷ってしまいそうですが……。
「第1章🏠『老害なんて呼ばないで』」
経験豊富な元冒険者たちの中には、彼の地を探索した経験を持つ者がいるでしょう。彼らに話を聞き、情報を手に入れてください。
かなり、聞き出すには手間取ると思われますが。
「第2章A⛺『危険で複雑な坑道』」
「第2章B👾『鉱石竜「オーアドラゴン」』」
第2章は選択です。第1章のプレイングで、どちらかを選んでください。
Aは聞き出した情報をもとにダンジョンを潜った結果、こちらもまた坑道に出てしまいます。廃棄された坑道には危険が多くあります。注意して進んでください。
Bの場合、ダンジョンに潜って間もなく、モンスターの襲撃を受けることになります。が、かえって好都合かもしれません。敵がやってきた道は、下層へ向かうものに違いないからです。これを撃破し、さらに下層に向かいましょう。
「第3章👿『呪われしバイティア』」
最下層の一室で、皆さんは山と積まれた財宝をめにすることでしょう。が、迂闊に近づいてはいけません。それは冒険者たちを待ち受ける罠、ミミックなのです。
これを撃破し、ダンジョンを制圧しましょう。
では、皆さんの燃えるプレイングをお待ちしています。感想なども、よろしければぜひ!
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第1章 日常 『老害なんて呼ばないで』

POW
拝聴します。
SPD
謹聴します。
WIZ
傾聴します。
√ドラゴンファンタジー 普通5 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵

「ぼーけんか! ぼーけんだな!」
かろんはお子様なので、ダンジョンとか探検とかいった単語に心を躍らせています。
とはいえ、まずは情報収集が必要です。
かろんは良く分かっていませんが、老人たちを「なんかすげーじーちゃんたち!」とだけ理解して目を輝かせています。
「なーなー、じーちゃんのすごいはなしききたい!」
と子供に無邪気にお願いされたら、きっと気前よく話してくださるでしょう。
興味津々に話を聞きますが、かろんに必要な情報の選別はできません。
根気強く話を聞き続けて、鉱山の話題が出てきたら、
「あ! それ! きになるやつ!」
などといって話を促します。
じーちゃんたちみたいに竜退治したい!
と思ったとかなんとか。

(小声で)失礼します~。
(普通の声量で)あ、こんにちは。ちょっとお話を伺いたいのですが。
(存分に息を吸って、大声で)こんにちはー!!!!
おかし!! ありがとうございます!!!! ええと、今日は鉱山のあった……こ!う!ざ!ん!
(先達のお話を聞くのは好きですが、ちょっとそれ以前の問題ですね。僕の話し方がよくないのかな。補聴器はつけていらっしゃるようですが。)
√能力を補聴器に発動。
いきなりごめんなさい! 事情はすぐ話しますから。
* 分岐はAを選択。モンスターを避けた道の方を教えてもらいます。
* アドリブ・連携おまかせ

第二章:B希望
80歳程度ならまだまだ若いだろう?
いや、人の寿命はその程度だったか。ドラゴンを基準にしてはいかんな。
耳が遠い年齢になった冒険者に根気強く話を聞こう。
うむ、そうだ。ダンジョンの話が聞きたくてな。
なに、ハーピィが……まて、それは別のダンジョンのことではないか。
違う、お前の武勇伝ではなくそのダンジョンの話を聞きたいのだ。
私は孫ではない、よく見ろ……いや、だから違うと言っているだろう!
むむむむむ……
敵を倒すのよりもダンジョンの謎解きの方が余程面倒だと思っていたが。
更に苦手なものがもう1つ増えたぞ……!
この店の者には頭が下がるな……
「ぼーけんか! ぼーけんだな!」
意気揚々と『古龍のまどろみ亭』へと至った獅猩鴉馬・かろん(大神憑き・h02154)。そこが介護施設だったことを気にもとめず、用件を告げて中へと入っていく。
件の老人たちは、他の老人たちとともにレクリエーションルームに集まっていた。
「あの方たちですね」
アルカウィケ・アーカイック(虚像の追憶・h05390)はその側まで行って、
「失礼します~」
と、声を掛ける。しかし、無視。老人たちはこちらを振り向きもしない。
「あ、違う。これ聞こえてないんですね。
こんにちは。ちょっとお話を伺いたいのですが」
今度は声を大きくして、もう一度。しかし、またしても。大きく息を吸い込んだアルカウィケは腹の底から、
「こんにちはーッ!」
「なーなー! じーちゃんのすごいはなし、ききたい!」
対して、かろんの声はそもそもデカい。もとい、元気。
「おぉ……?」
老人たちがやっと振り返った。
そのひとり、『飛竜殺しのダンカン』はふたりの顔を見るなりパッと表情を輝かせた。
「おぉ、よく来たなぁマロン! それにアブドゥル!」
「……違います」
「マロンじゃないぞー、かろんだぞー!」
「ダンカンさん。下のお孫さん、このまえ成人式だったじゃないですか」
「おぉ? そうだったか……」
職員の言葉に首を傾げる飛竜殺し。
「まったくダンカンは、迂闊でいかんのう」
『千匹切りのリシャール』がその肩をピシャリと叩く……つもりであったのだが、身を乗り出した拍子に車椅子から転がり落ちそうになる。
「おっと!」
慌ててヘリヤ・ブラックダイヤ(元・壊滅の黒竜・h02493)がその身体を支え、事なきを得る。
が、
「へくちん」
「わぁ!」
『炎の賢者アイリーン』がくしゃみをした拍子に、魔法が漏れた。
「あぁ! アイリーンさん、今度は魔法の指輪なんか持ち出して!」
炎の魔法でなかったぶんマシだが、衝撃波であたりの物が吹き飛んだ。職員たちが慌てて清掃を始める。
「だって……なにも持っていないと落ち着かなくてねぇ」
「……80歳程度なら、まだまだ若いだろう?」
騒ぎを横目に、ヘリヤがため息を付く。
「……いや、人の寿命はその程度だったか。ドラゴンを基準にしてはいかんな」
ともあれ3人は歴戦の冒険者たちを囲み、いろいろと話を聞きこんだ。
特に、かろんが目を輝かせているものだから、老人たちの口も実によく開く。
「あのときワシはな、群がる竜どもをバッタバッタとなぎ倒し、ついにダンジョンの奥深くに……ふふ、この傷はその時の勲章じゃ」
「待てダンカン、それはハーピーと戦ったときの傷じゃろう」
「そうじゃったかの……? おぉ、そうじゃ、ハーピーどもをなぎ倒したワシらはついに天空の城へと……」
「待て待て! それは別のダンジョンのことではないか!」
ヘリヤが慌てて話を止める。
「ハーピーはいい! お前の武勇伝のことではなく、鉱山のダンジョンの話が聞きたいのだ!」
「おぉ、マロン。無事に高校に合格できてよかったのぅ! 頭モヒカンにしたときは、どうしてくれようかと……」
「違う、私はお前の孫ではない! よく見ろ! ……で、なんだその孫!」
「あのときは、荒れたのうダンカン。荒れたといえば絶海の孤島で……」
「そうですねぇ。私が深淵の魔女と対決したときは……」
と、好き勝手に老人たちは話を続けている。
「へくちん」
またしても魔法が暴発し(職員が気づかぬうちに護符を懐に入れていたらしい)、ヘリヤの椅子が後ろに倒れた。身を起こしながら、ヘリヤが唸る。
「むむむ、敵よりもダンジョンの謎解きのほうが面倒だと思っていたが……苦手なものが、もうひとつ増えたぞ……!」
「はは……」
アルカウィケが苦笑する。
かろんは老人たちの話のひとつひとつを面白がって聞いているが、これでは埒が明かない。
ところがそのとき、老人たちが口にしたのは件の鉱山についてであった。
「あ、それ! きになるやつ!」
と、かろんが先を促す。
しかしリシャールの話はまたしても脱線しそうになり、それどころか杖を剣に見立てて握りしめ、
「どれ、ワシの剣技の冴えを見せてやろうぞ」
などと言って立ち上がろうとするものだから、
「鉱山の話、もっと聞かせてください!」
アルカウィケは慌ててその身体を押さえ、軌道を修正しようとした。
「ふむ。で、その坊さんがの……どれ、菓子でも食べながら聞きなさい」
「坊さんではなく! 鉱山です! あ、お菓子ありがとうございます。
えぇと、僕の話し方がよくないのかな……?」
意を決したアルカウィケは【強制進歩ビーム】を、老人たちの補聴器に向かって放った。
急激に技術革新を遂げた補聴器は、一行の声をはっきりと老人たちの耳に届ける。
「おぉッ?」
「鉱山です、こ! う! ざ! ん!」
「そんなに大声出さなくても聞こえてますよう」
「聞こえてなかっただろうが……! まったく、この施設の者には頭が下がる」
ヘリヤの渋面など知らぬ顔で、ダンカンは。
「鉱山……おぉ、この町のはずれのな。そう、あそこにダンジョンが生まれたときは……」
√能力者たちはやっとのことで、鉱山の構造を聞き出すことができたのだった。これで、ダンジョンが出現した場所まで迷わず行くことが出来る。
「あー、じーちゃんたちのはなし、おもしろかったなー!
かろんも、じーちゃんたちみたいに竜退治したい!」
かろんは満足げであったが……日はすでに、山の向こうに隠れようとしている。
探索は、明日からだ。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功
第2章 冒険 『危険で複雑な坑道』

POW
敵の排除、壁を掘り進むなど、障害を排除する
SPD
先行して偵察したり、周囲にある採掘設備や爆薬を利用する。
WIZ
進むべき道を探知したり、周囲にある鉱物資源を利用する。
√ドラゴンファンタジー 普通7 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
老人たちから話を聞いたとおりに山の中を進んでいくと、鉱山へと至った。√能力者たちは、そこでダンジョンの入り口を発見する。
潜ってみた先は疑似的な異世界。そこもまた、坑道になっていた。
モンスターを避け、さらに下層へと進んでいく
敵が現れないのはいいが、坑道は狭く、今にも崩れ落ちてきそうなところもある。管理のいい加減なことに、工事用の爆薬が放置されたままになっているところもあった。それが、地下の熱によって……。

洞窟のようなものだと思っていましたが、想像より熱いですね。湿気も高いです。ダンジョンの性質を考えても、早く最下層に向かった方がいいですね。
√能力で小鳥さんに変身して飛んでいきます。これなら狭い坑道もすいすい進めますし、僕が不用意に壁や爆薬に触れてしまうこともないはずです。状況にもよりますが、目視での偵察もできますよ。
あとは一条もえるマスターにおまかせします。心躍る冒険を楽しみにしています!
「ふう……」
アルカウィケ・アーカイック(虚像の追憶・h05390)はため息とともに、ピンク色の髪をかきあげた。髪は汗でしっとりと濡れている。
「洞窟のようなものだと思っていましたが……想像より暑いですね」
湿気もある。存在しない「空想の未来技術」で作られたスーツは汗を逃がし快適だが、そうでなければべったりと身体に貼り付いていただろう。
老人たちの情報を手がかりに鉱山へと潜って、はや1時間。順調に下層に向かってはいるが、暑い。ふと地面に触れてみると、はっきりとした熱を感じた。
「熱せられた地下水脈が近くにあるのでしょうか? それならこの暑さも湿気も納得がいきますが……なんにせよ、はやく最下層に向かったほうがいいですね。……水筒が空になる前に」
口元を拭ったアルカウィケは、足元を確かめながら進んでいった。
道は先細っていき、ついには身体を横にして通るのがやっとという狭さになったが、その先も踏み固められているあたり、崩れかかってはいるがここも通路だったのだろう。
「これほど狭いなら」
アルカウィケが念じる。するとその姿は1羽のセキレイへと変じた。崩れかかった岩肌に触れぬよう、飛んで行こうとしたとき。
ドォンッ!
どこかで爆発音が鳴り響いた。
幸い、直撃を受けるような距離ではない。しかし狭い坑道は激しく振動し、頭上の石がバラバラと落ちてきた。
「……嘘でしょう?」
崩れる!
落下してくる石を避けながら、小さな身体を活かして狭い坑道を一直線に突っ切る。その直後に、先ほどまで立っていた辺りは完全に崩れ落ちた。
「帰りは、違う道を探さないといけませんね」
人の姿に戻ったアルカウィケはもう一度髪をかきあげ、先を急いだ。
🔵🔵🔵 大成功

「じーちゃんたちがはなしてたやつだー!」
話に聞いてあれこれ想像していたようですが、実際に現地に到着するとテンションがうなぎ上りになっています。かろんにとっては聖地巡礼に近いです。
「たんけん! かろんにつづけー!」
「ははは! はしってもすすまない! すごい!」
かろんが突撃しようとするのを、あわてた大神が服の襟首を咥えて止ます。
「はー、おなかすいてきたな?」
ひとしきりはしゃいで疲れて落ち着いてきたかろんは、前回入手した情報をもとに坑道を進みます。途中で迷いそうな時は、ゴーストトークを使ってインビジブルに道案内してもらいます。
「ぼうけん~、うぉうぉ~」
即興で作った歌など口ずさんで、御機嫌です。

まったく……昨日はひどい目にあった。
だが、おかげで情報は得られた。
このボロな鉱山は道が狭く、ずさんな管理がされており、放置された爆薬で今にも崩落の可能性があると……待て、今からそんなところに潜るのか?
えぇい。全て外から吹き飛ばしたくなってきたぞ。
それもできんこの身が恨めしい……!
「龍の記憶」を使用し、坑道を崩さぬように進まなければならないときは器用さを強化し丁寧に、急いで駆け抜けねばならん時は速度を強化し、大岩などをどかす時は腕力を強化し、ダンジョンの状況に応じて地道に進んでいこう。
冒険者というのは、地道なものだな……
ヘリヤ・ブラックダイヤ(元・壊滅の黒竜・h02493)が、大きなため息をついた。
「まったく……昨日はひどい目にあった」
「そうかー? かろんは楽しかったぞー?」
隣を進む獅猩鴉馬・かろん(大神憑き・h02154)は心の底からそう思っているらしく、屈託のない笑みでヘリヤを見上げてくる。
「たんなる慰問なら、な。私だって敬老精神を発揮してありがたく拝聴したさ。
とにかく、おかげで情報は得られた。先を急ぐとしよう」
「おー!」
山道を進むと各所に地下に潜る坑道の跡が残されていて、それらは封鎖されていた。その標識を脇にどけて、ヘリヤは中へと踏み込む。
「じーちゃんがはなしてたやつだー!」
かろんの声が坑道内に響く。両手をわきわきと動かし、足をバタバタと踏みしめる……少々テンションが高すぎる。
ついに我慢しきれず、かろんは。
「たんけん! かろんにつづけー!」
と、ダンジョンの中を駆け出してしまった。
「ちょ……待て、待て!」
慌ててヘリヤが後を追う。坑道の中はろくに管理もされておらず、爆薬さえ放置されている恐れがあるとのことなのだ。
「……そんなところに潜っているのか?
えぇい、すべて外から吹き飛ばしたくなってきたぞ!」
かつてはそれほどの力を持っていたとヘリヤは言うが、残念ながら今の彼女にはそこまでの力はない。
「この身が恨めしい……!」
「それがいーんじゃんか。ぜんぶふきとばしたらたのしくないぞー!」
ヘリヤが奥歯を噛み締めている間に。憑依した大神が、その眷属たる護霊が、かろんを止める。
かろんは変わらず足をばたばたさせ、
「ははは! はしってもすすまない! すごい!」
などと言って笑っている。
嘆息したヘリヤは、
「冒険者というのは、地道なものだな……」
と、周りを窺いながら慎重に歩を進めた。
進むこと、しばし。ツルハシやシャベルが放置されたままの工区に出た。横倒しになった木箱から、円筒形の何かが数本、転がっている。
「なんだあれ?」
かろんが首をかしげ、近づいてみようとした。
そのとき偶然、落下してきた石の塊がツルハシを撥ねさせた。ツルハシとシャベルの金属部分が激しくぶつかって、火花を散らす。その火花が、円筒形のなにか……爆薬に散った。導火線に火がつく。
「伏せろッ!」
ヘリヤは叫んだが、かろんとの距離は近すぎる。
「えぇい! 以前の力には及ばないが……ッ!」
ヘリヤはかたわらの大岩を抱え上げ、投げつける。うまく爆薬とかろんとの間に岩は落下し、激しい爆発が坑道を揺らしても、かろんは無傷であった。
それは幸いだったのだが、爆発によってあちこちが崩落し、進むはずだった道は閉ざされてしまった。
「まかせとけー」
かろんの降霊の祈りが、周囲に漂うインビジブルを生前の姿に変える。工事中に亡くなったと思しき男の霊は一方を指さして、他に道があることを示してくれた。
爆発も崩落も一段落ついたらしい。再び静寂を取り戻した坑道に、
「ぼうけん~うぉうぉ~♪」
かろんの歌が響いていた。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功
第3章 ボス戦 『呪われしバイティア』

POW
マルティプライミミック
【財宝群で作った自分の複製】を召喚し、攻撃技「【抱きつき噛みつき】」か回復技「【本体との融合】」、あるいは「敵との融合」を指示できる。融合された敵はダメージの代わりに行動力が低下し、0になると[財宝群で作った自分の複製]と共に消滅死亡する。
【財宝群で作った自分の複製】を召喚し、攻撃技「【抱きつき噛みつき】」か回復技「【本体との融合】」、あるいは「敵との融合」を指示できる。融合された敵はダメージの代わりに行動力が低下し、0になると[財宝群で作った自分の複製]と共に消滅死亡する。
SPD
サプライズミミック
自身を攻撃しようとした対象を、装備する【財宝群】の射程まで跳躍した後先制攻撃する。その後、自身は【財宝の嵐】を纏い隠密状態になる(この一連の動作は行動を消費しない)。
自身を攻撃しようとした対象を、装備する【財宝群】の射程まで跳躍した後先制攻撃する。その後、自身は【財宝の嵐】を纏い隠密状態になる(この一連の動作は行動を消費しない)。
WIZ
フェイクミミック
視界内のインビジブル(どこにでもいる)と自分の位置を入れ替える。入れ替わったインビジブルは10秒間【抱きつき噛みつき融合攻撃を行うボスの偽物】状態となり、触れた対象にダメージを与える。
視界内のインビジブル(どこにでもいる)と自分の位置を入れ替える。入れ替わったインビジブルは10秒間【抱きつき噛みつき融合攻撃を行うボスの偽物】状態となり、触れた対象にダメージを与える。
√ドラゴンファンタジー 普通11 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

ダンジョンの最下層にあるお宝。ミミックと知らなければ、うかつに近づいて命を落とす者がいてもおかしくありません。ダンジョン消滅のためにも、ここに骨…財宝?を埋めていただきます。いえ、消えてしまうのでしたっけ。
|ブロッケンの怪《霧影》をこの身に。|闇《死》を、痛みを恐れることはありません。この鎌を振るうことに集中しましょう。
隠れても無駄です。(身体を軸にして円を描くように鎌を回す。渦に取り込み、その中心へと巻きこんでいくイメージ)すべてを引き寄せるこの鎌の刃に、かからぬものなどありはしないのですから。
攻守の両方に財宝を活用しているようですから、それを吸い寄せて、丸裸にできればいいですね。

「おたからだー!」
と喜んでミミックに駆け寄ろうとするかろんを、大神や眷属たちが慌てて止めます。敵の匂いがしているようです。
「えっあれてき? おたからないのか?」
絶句。
「よくもだましたなー!」
一転して怒り心頭ですが、この依頼に来る前にちゃんと説明してくれてます。大神はしっかり覚えていたので警戒していてくれたのです。あれー?
「もうだまされないぞ!」
ミミックが複製を出して攻撃してきますが、かろんも大神と眷属たちで迎え撃ちます。壱獣壱式霊撃です。
大神の咆哮で牽制し、眷属たちが噛み付いて抑え、大神が爪牙で引き裂いていきます。
かろん自身は後ろで全体の指揮を取っています。応援しているだけとも言います。
ダンジョンをさらにさらに下っていくと、辺りの様子が一変した。掘り進められた坑道であった道は、石レンガで覆われた人工的なものとなる。
「……あれは」
途中にあった分かれ道……いや、そこは室である。わずかに顔をのぞかせて室内を見たアルカウィケ・アーカイック(虚像の追憶・h05390)が、息を呑んだ。
「なんだー?」
その慎重さに気づきもせずに、獅猩鴉馬・かろん(大神憑き・h02154)が「ひょい」と顔を出して覗き込む。
そして、
「おたからだー!」
と、喜色も露わに駆け寄ろうとした。大神が止める。その眷属たる護霊も止める。
もちろんアルカウィケもその首根っこを掴んで、
「ミミックですよ、あれ!」
と、引き止めた。
「え、あれてき? おたからないのか?」
「残念ながら」
「よくもだましたなー!」
怒り心頭、ミミック……呪われしバイティアに立ち向かう、かろん。
「……アンジェリカさんの言ったとおりですけどね」
アルカウィケは苦笑交じりに嘆息した。
「あれー?」
かろんは「そうだっけ?」とばかりに首を傾げる。
しかし、長い探索の果てにあの姿を見た者が、ついつい期待してしまうのは理解できる。
「ミミックと知らなければ、迂闊に近づいて命を落とす者がいてもおかしくありません」
『ブロッケンの怪』と融合したアルカウィケの手には、大鎌が握られている。
「闇を、痛みを恐れることはありません」
ただ、この大鎌を振るうのみ。
ジャラジャラという音が室内に響き、篝火に照らされてキラキラと輝く。召喚された財宝はバイティアと寸分変わらぬ姿となって、襲いかかってきた。
しかし、かろんも。
「やっちゃえー!」
と、眷属たちをけしかけた。
大神の咆哮が響き渡り、財宝に飛びかかった眷属たちがその牙で敵を引き裂き、さらに大神はその鋭い爪で、人型を取った分身の首を飛ばした。
「これもおたからじゃないんだろー! もうだまされないぞ!」
ミミックに感情などあるのかわからないが。敵は悔しげに奥歯を噛み締めたようにも見え、一度体勢を低くすると、次の瞬間には飛びかかってきた。
金銀の硬貨や、きらびやかな首飾り、あるいは腕輪。それらが嵐のように渦を巻く。敵の本体はそれに紛れてしまうほどであったが、
「隠れても、無駄です」
アルカウィケは財宝の渦を取り込むかのように、円を描くように大鎌を振るう。そして懐へと飛び込むと、バイティアの脇腹に切っ先を食い込ませた。
「……ッ!」
のけぞるバイティアは財宝の嵐に身を包みながら、跳び下がった。
アルカウィケはそれを見据えながら、大鎌を構え直す。
「ダンジョン消滅のためにも、ここに骨……いえ、財宝? ともかく、埋めていただきます。
……いえ、消えてしまうのでしたっけ」
🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功