シナリオ

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駄菓子に迷ひ路、ひもすがら

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⚫️小指をきってくれなんし

――これ以上は良くないと、なんとなく分かってはいる。

ぺらり、ぱらりと本を捲りながら、男はつぅ…と額に脂汗を流す。手にしているのは古い和綴の一冊で、とある太夫の一生についてが書かれていた。初めて見た時はあまりに拙い挿絵にハズレかと肩を透かしたが、暫くしてから気紛れにもう一度開いてみると――ふと、絵が動いた様な気がしたのだ。それを確かめようと何度も何度も読み込むうちに、挿絵は精緻に艶かしさを帯びていき、対照的に頁を捲る男の頬はどんどんとこけていった。

これはきっと、よくないものだ。

しかしそんな本能からの警告を無視したくなるほどに、“これ”には抗い難い魅力がある。だってほら、もう彼女は視線を合わせて、甘やかな香りすら纏い、蕩けそうな笑みを浮かべてこちらに――

私の頬に、真っ白な手が、触れて。

⚫️定めを曲げて見せんしょう
「哀れ男は書に引き摺り込まれ…なんて結末はちょっと頂けませんから。私から救助の依頼をお願いしてもイイっすかね?」
 先に見えた顛末を語りながら、真白い星詠みの少女がにこりと笑みを浮かべて概要を口にする。

 事のあらましとしては、悪妖を封じた書物をうっかり手にした男が、なんとなーくそうとは思いつつ読み進めて封印を解いてしまった…と言うなんとも間の抜けた話である。しかし相手は手練手管に長け星すら詠む、美しくも悪辣な妖『椿太夫』だと言う。耐性の無い異性とあれば命があるだけ御の字かもしれない。掛けた願いも幸い「古書の蒐集」とささやかなものだったらしく、とは言え勿論このまま放置も出来ない。幸い未だ被害者ゼロの内に星詠みに引っかかってくれたので、事態の収集と再封印が能力者たちへと課されたのだ。

「あ、私は今回の星詠み担当、エイルと言いまっす。苗字はややこしいので省略しますね。」

 ぴ、と敬礼もどきをしながら霓裳・エイル(夢騙アイロニー・h02410)が適当に挨拶を済ますと、更に細かな内容を話し出す。

 場所は星詠みに出てきた男が営む駄菓子屋。昼間はなんでことはない商店街の一角だが、椿太夫が目覚めて以降は夜な夜な店の中に迷宮が姿を現し、人を取り込もうと口を開けていると言う。このままでは店主共々、周辺の人も犠牲になりかねない。

「ですので、手始めにお昼から問題の駄菓子屋さんへ向かってください。まずは問題の店主へ協力の進言…あとは無関係の人が迷い込まないように、見張りと門番役ってことっすね。」

 奇想天外な事態に店主は相当に困りやつれ果てている。ので恐らくこちらから事件の解決を請け負う提案を耳打ちすれば、一も二もなく乗ってくる事だろう。となれば夜を待つ間は自由時間。周囲に目は光らせつつ、駄菓子屋を中心に商店街を漫ろ歩くのは問題ないはず。子供の多い場所柄なのか、レトロなゲーム屋や品揃え豊かなおもちゃ屋が名物で、ちょっとした軽食の楽しめる喫茶もあるのでここでしっかり英気を養うのもいいだろう。

「夜になれば駄菓子屋の中に魑魅魍魎、妖怪跋扈の迷い路が出現します。ただまぁ成長途中に突き止められたおかげか、中身はせいぜいちょっとリアルなお化け屋敷って風情ですね。」

 床は天井に、ドアは落とし穴に。出鱈目怪奇に歪み、時折妖怪たちが驚かしには来るが今はまだその程度。能力者なら時間をかければ難なく突破出来るだろう。そしてその先に待ち受けるのは今回の事態の元凶、椿太夫だ。

「幸い今回の書は妖本体の封印そのもの、ではなく細かな軛のひとつ…せいぜい指一本分と言ったところでして。吸い上げた力もまだ人間ひとりぶんなので、今なら余裕を持って対処出来ますよ。」

 とは言え相手は強大な古妖の一体。実体化から数日経たことで自らに優位な手も打ってる頃合いだろう。

「油断は禁物、油揚げはお狐サマに。しっかり遊んでばっちり退治の流れでよろしくお願いするっす。…一発カッコいいとこ、見せてくださいね能力者サン。」

 煽りにかこつけ叱咤一発、エイルがウインクで参加者を見送った。
 
 
これまでのお話

第2章 冒険 『奇妙建築を抜けて』


POW 体力に任せてひたすら進む
SPD 通って来た道に目印を付けながら進む
WIZ 奇妙建築に満ちる霊力を感じ取る
√妖怪百鬼夜行 普通7 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

ーーべべん、と遠くから三味線の音がする。

 昼間はおもに小さな常連客で賑わっていた店が、その途端にぐにゃりと大きく歪んで見えた。天井が壁になり、棚の並んだ床は横倒しに。柱も梁もぐるりぐるぐる、回って上がって、歪んで降りて。まるで歩けそうにはない、複雑怪奇を成して迷宮へと変貌していく。

そして奇妙な建築の物陰に潜むのは、悪妖の気に誘われた魑魅魍魎に悪霊怪奇の輩たち。それらは皆、挑みくる能力者たちを襲うべく、今か今かと待ちかねている。

――階段を登ったかと思えば、化け狸の尻尾にはたき落とされたり。
――目を回しながら廊下を突き進めば、蛇目傘の上をぐるぐる歩かされていただけだったり。
――背筋の寒さに振り向けば、雪女にふぅと息を吹きかけられて足が凍ったり。

ひとつひとつは命を取られるほどでは無いにしろ、束となれば面倒この上ないものばかり。だからこそ、走り切るには『自分にできる一工夫』が必要だろう。

体力に自信がある?――ならば、集られてもひたすら走り抜くと良い。
細かな細工が得意?――ならば、あちこちに罠を巡らすのも良いだろう。
妖怪たちの話に詳しい?――ならば、苦手なものを聴かせてやれば効くかもしれない。

 百戦錬磨の猛者だろうとも、未だ能力者たる自覚の薄いものも、今求められるのは『迷宮の突破』ただそれだけだ。先に待つ戦に力は残しつつ、創意工夫の翼にて――悪路を走り切ると良い。
酒木・安寿
アドリブ歓迎
うちの得意なことってなんやろな?
コミュケーション?それとも歌?
後者は個人的希望やけど。

ほないっちょここから出るために技能をちょちょいと上げてみよか〜。
√能力『お狐印の不思議駄菓子』!!
これを食べるんはもちろんうち!
リスクを恐れてチャレンジせえへんかったらその時点で終わりや。

ほな!!うちの歌聞いてや!
コミュケーションを上げても歌唱を上げてもOK!
どっちにしろ届けたい思いは一つ!
うちの歌を気に入ってくれたんやったらここからでるのに協力してや⭐︎

「うちの得意なことってなんやろな?」
こつり、こつりとねじくれた迷宮をあるきながら、酒木・安寿がポツリと疑問を口にする。

――親しみ易さと元気を売りにしたコミュニケーション?
――それとも、まだまだ始めたばかりではあるけど、憧れを詰め込んだ歌?

「…ま、後者は個人的希望やけど。」
 スパン!と開く床の襖をひらりと交わし、チグハグな階段を何とかよじ登り、迷宮の構造自体はなんとかやり過ごしている。然しそこかしこに潜む妖怪たちが、脅かそう怖がらせようとタイミングを見計らってるのも肌で感じていて――。

「ほないっちょここから出るために、技能をちょちょいと上げてみよか〜。」
 
 宣言と共にひょいと行使するのは、安寿が有する√能力『お狐印の不思議駄菓子』だ。何かを唱えるでもなく、何かを行うわけでもなく、ただ安寿が願うだけでポンっ――とその手には駄菓子が現れる。今回は蜂蜜味の飴玉だったのは、この後を見越しての計らいだろうか。
「これを食べるんはもちろん――うち!」
 ぱくり、と躊躇いなく能力で得た飴を口にするが、それはリスクを伴う行為だった。なんの変哲もない様でいて、能力で得た駄菓子には力を得られる可能性の反面、相応のリスクがある。確率で駄菓子自体を失い、お狐様の呪いを受けるかもしれないと言うリスクが。――然し。

――リスクを恐れてチャレンジせえへんかったらその時点で終わりや。

 そう信じて安寿がコロリ、と舌で飴を転がせば、幸い消えることなく甘やかな味と共に、喉を温かくなるような感覚が広がった。これならきっと、『届く』はず。
「ほな!!うちの歌聞いてや!」
 くるりと振り返り、妖怪たちの潜む一角に向けて安寿が手招きをする。
「うちの歌を気に入ってくれたんやったらここからでるのに協力してや⭐︎」
 にっこり笑って問い掛けて、早速安寿が歌い出す。楽しげに、軽やかに、それはもう踊りたくなる様なナンバーを。そうすれば、居ても立っても居られないとばかりに妖怪たちが誘われて来て…コミュニケーションも歌も、どちらも自らの武器にして。安寿が迷宮攻略の筋道を取り付けた。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

誉川・晴迪(サポート)
 るりゆるりとたおやかな雰囲気のふわふわ幽霊。
 性格は穏やかにして、ほんの少し粗忽者です。
 幽霊なので一般の方には見えない為、避難誘導にはメモを持たせたお人形を使います。
 実体化はしません。イタイの、キライなので。
 戦い方は勇猛果敢というよりは、敵の失敗を誘うような行動から技に繋げることが多いです。
 だって、その方がとっても、ユーレーらしいでしょう?

 √能力は指定した物をどれでも使用し、多少の怪我は厭わず積極的に行動します。他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。また、例え依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動はしません。
 あとはおまかせ。よろしくおねがいします!

暗がる奥を目印に、前へ進めど気付けば下に。窓を開ければ天井が出迎え、襖を引くにはしゃがまねばならない。こうもあべこべに捩れた迷ひ路を行くのは、人の身であればひどく苦労するものだろう。――そう、|生身の人の身《・・・・・・》だったなら、だ。
「どうやらこの辺りに、迷い込んだ人は居ないようですね」
 地に足をつけることなく、ゆるりふわふわ。空を浮いてすり抜けて行く誉川・晴迪――幽霊である彼には、狂った路だろうとなんの障害にもならなかった。そうやってあちこちの壁を抜けられる身をこれ幸いと生かして、救助の必要な人を探していた。だが駄菓子屋での√能力者たちの働きのおかげで、どうやらこの中に迷子は居ないようだった。そうと分かれば長居する必要もないと、ひたすら晴迪が奥を目指して行くと――ヒュッ、と何かが視界の隅を掠めた。振り返るそこに居たのは、3匹のイタチたち。尻尾を鎌のようにしならせていることから、恐らく|鎌鼬《カマイタチ》なのだろう。そのまま晴迪に向けて2撃、3撃と撃ち込むものの、幽霊の身体には届くわけもなくひたすらすり抜けるばかり。
「実体化はしませんよ。イタイの、キライなので。」
 にやりと笑ってくぅるり回り、傷のない姿を見せつけてやれば鎌鼬たちがギャッギャと怒りの声を上げる。だがそれすらも意に介さず、晴迪はついとそっぽを向いて、奥へ向かう道をなぞる。挑発に乗った鎌鼬はそのまま攻撃を繰り返し、他の√能力者を襲うことなくそのうち疲弊するはず。そうやって――自ら仕掛けずに相手を誘い、惑わせ、引き摺り込む。
「――だって、その方がとっても、ユーレーらしいでしょう?」
 自らのアイデンティティを余すことなく発揮して、晴迪が悠々と先へ進んでいった。
🔵​🔵​🔴​ 成功

ツェイ・ユン・ルシャーガ
*アドリブ・連携歓迎

噂を耳に覗いてみれば
おお、これはなんとも愉快な絡繰り屋敷よ
眺める傍から木目に尻尾が生えおる
おっと――ははは、一筋縄でゆかぬは面白い
老師に仕掛けられた験しを思い出すのう
よかろう、では化かし合いと参ろうかの

下から引かれば[空中浮遊]で逃れ
大事な尾を掴まれては敵わぬゆえのう
怪しき道あらば巡らせた糸のしるべに訊ね
降るものあらば……軽ければ抱きとめてやろうかの
よしよし、程々にしておくが良いぞ
しかして追うてくるものだけは
これ、しつこくすると折檻に合うと知らぬのか
踏めばちいさく爆ぜる符で、すこしばかり脅かし返して

はて、次はどちらへ参ったものかの
手の鳴る方へと歌う声は無きか、ふふふ

――今宵、さる店にて悪妖手招く迷宮がその口を開く。

そんな噂を耳にして、興味を指針に覗きに来てみれば。
「おお、これはなんとも愉快な絡繰り屋敷よ」
 ぐるりと捩れて天井は壁に、襖は踏み抜ける床罠に、階段は滑り台にと変容した迷い路に、ツェイ・ユン・ルシャーガがふふ、と笑って見せる。意匠だけで言えば檜垣模様の襖に、曼珠沙華咲き誇る硝子欄間、蝶々の影を落とし込んだ障子と随所に光るものはある。然しこうまで出鱈目な造りになってしまっては、茶を片手に愛でることも叶わない。ましてや――眺める木目に尻尾が生えていれば、なおのこと。
「おっと――ははは、一筋縄でゆかぬは面白い」
 視線に気づいた尻尾の主が、木目から鉈へと形を変えて襲いくるが、ツェイは軽く一足で避けてしまう。
「老師に仕掛けられた験しを思い出すのう」
 いつぞやを思い出すも遠い昔、あれやこれやと化されたことを脳裏に返せば、ここの妖たちの仕掛けなぞ童の悪戯に等しい。――ならば。
「よかろう、では化かし合いと参ろうかの」 
 言うや否や、床からにゅうと伸びる皺がれた手は、空中浮遊でひょいと避け。大事な尾を掴まれては敵わぬゆえのう、と呟けば悔しげに空を掴んで手が引いていく。そうやって段の消える登り口は浮遊で躱し、潜む気配の怪しい路は巡らせた糸のしるべに訊ね避け。ひょいひょいと軽やかに奥へ進むツェイに業を煮やしたスネコスリが、転かしてやろうと天からパッと飛び出たところで――しっかと抱き止められるのがオチだった。
「よしよし、程々にしておくが良いぞ」
 寸の足らない犬猫染みた体をもふもふと撫でてから戻してやれば、ヂュッ!とひと鳴きして引っ込んでしまう。これで追う手が絶えれば良いものの、妖怪たちの中にも負けず嫌いがいる様で。毛を逆立てた猫又が襲い掛かろうとすると。
「これ、しつこくすると折檻に合うと知らぬのか」
 踏めばちいさく爆ぜる符で、すこしばかり脅かし返してやれば、ようやくまいったとばかりに周囲の気配が消え失せた。
「はて、次はどちらへ参ったものかの」
 指針を求めて耳を澄ますも、四方で反響する三味線からは方角までは割り出せない。
「手の鳴る方へと歌う声は無きか、ふふふ」
 招き誘うは、ただ奥深き闇ばかり。然しそれに恐るでもなく、ツェイがまたふらりと先へ歩みを進めて行った。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

緇・カナト
レモン君(h00071)と

駄菓子屋を進むと其処は魑魅魍魎、
妖怪跋扈の迷い路だった…!
ところでレモン君はお化け屋敷って好き?
とりあえずは妖怪たちをしばき倒すつもりで
速やかに迷路攻略へと挑もうか〜

昏い月夜に御用心、と索敵用に影の群れを呼び出し
これだけの数いたら妖怪探しの
センサー代わりにもなるかなぁ、なんて
そういえば…とある地方に伝わる妖怪で
スネコスリって奴がいてねぇ
走りながらもこんな感じで足元で…
あ、コイツうちの影獣ではナイなぁ
むんずと掴んだ毛玉はネコの様なイヌの様な…?
レモン君が可愛いモノ好きなら
お持ち帰りも……あ、やめとく?
それなら誘惑みたいなのも振り切って
ひたすら走り抜くとしようかぁ
茶治・レモン
カナトさん(h02325)と
妖怪、お化け、楽しみですね
お化け屋敷、僕は好きですよ!
怖くない訳ではないのですが…怖いもの見たさでしょうか
カナトさんは平気ですか?
妖怪との出会いを楽しみにしつつ、攻略頑張りましょうね
走りますよ!

カナトさんの影獣を追いかけつつ、周囲の迷宮にも目を凝らす
不謹慎ですけど、楽しい空間です

スネコスリは名前だけ知ってました
えっ、これがそうなんですか?可愛いすぎでは…!
なるほど、脛を擦る猫…いえ犬…
お持ち帰り…連れ…帰…いえっ、置いていきましょう!!
可愛さで足止めするとは、敵もなかなかやりますね…!
他にどんな可愛い妖怪がいるのか楽しみですが…
カナトさん、誘惑に負けてはダメですよ

黄昏を見送り、ようよう暗くなり行く宵のこと。昼は童の声絶えぬ駄菓子屋の奥、密やかな闇の奧を進むと――其処は魑魅魍魎、妖怪跋扈の迷い路だった…!

「ところでレモン君はお化け屋敷って好き?」
 ――なんて、冒頭の呷りはまるっとスルーして。緇・カナトが遊園地のアトラクションの好みをリサーチする気楽さで、共に踏み入った茶治・レモンに問いかける。
「お化け屋敷、僕は好きですよ!」
 表情は薄いながら、レモンも然程恐怖はないようで、どこかワクワクとした喜色を滲ませながら答えを返した。
「怖くない訳ではないのですが…怖いもの見たさでしょうか。カナトさんは平気ですか?」
「ん、俺も似たようなものかな。」
 なんせ見かけたらしばき倒す心積りなので、カナトも恐ろしさは余り感じていない。厄介でないと良いな、との警戒はあるけれど。
「妖怪、お化け、楽しみですね。」
「じゃあそいつらに会うためにも…『昏い月夜に御用心』、と」
 手慣れた様子でカナトが唱えると、ずるりと影から狼に似た姿の獣が数体現れる。
「とりあえず、速やかに迷路へ挑もうか〜」
「はい、走りますよ!」
 索敵に長けた影らを軽く走らせて、カナトとレモンが速度を合わせて併走する。捩れて天と床が逆さになった箇所も、廊下の先が奇妙に途切れた場所も、先行する影らが知らせることで2人が難なく乗り越えて行く。落ち惑う心配が無いとなれば、現実にはあり得ない怪奇的な構造は中々に見応えもあって。
「不謹慎ですけど、楽しい空間です」
「…それ、ちょっと分かるかも」
「あとは妖怪が気になる所ですね」
「そういえば…とある地方に伝わる妖怪でスネコスリって奴がいてねぇ」
「スネコスリ…名前だけ知ってます」
「こうやって走りながらも足元に…」
 
もふっ

「そう、ちょうどこんな感じの……あ、コイツうちの影獣ではナイなぁ」
「えっ、ではこれがそうなんですか?可愛いすぎでは…!」
 走りがてら足元にまとわりつくのが邪魔で、カナトがそれとは無しにむんずと掴んだのが、まさに件のスネコスリだったようだ。ピンとした三角耳に、もふもふとした毛皮。猫とも犬とも似ているようで、足も胴も寸足らずなせいかまぁるい印象のある小動物っぽいもの。脛を擦って転ばす以外に無害なそれらは、立ち止まるカナトとレモンの脛なスリっとしてはポンポン地面を転がり、また脛目掛けて駆け寄る…と言うのを数匹でひたすら繰り返していた。
「なるほど、脛を擦る猫…いえ犬…?にしても」
 真っ黒なのからミケ模様まで、まんまるがスリスリしては転がって跳ねて……正直、妖怪と言われても全く恐怖はなく、ただただひたすらに――可愛らしい。目の輝きがまるで隠せないでいるレモンがおかしくて、カナトが気紛れに助け船を出そうとした。
「レモン君が可愛いモノ好きならお持ち帰りも……」
「お持ち帰り…連れ…帰…いえっ、置いていきましょう!!」
「あ、やめとく?」
 だいぶブレっブレに揺れてはいたものの、頭を振ってレモンが誘惑を断ち切った。
「可愛さで足止めするとは、敵もなかなかやりますね…!」
 苦渋の顔でにじりにじりとスネコスリから離れるレモンを見て、カナトがひそりと笑みを浮かべながら、影の獣にハンドサインを送りスネコスリたちを遠ざけさせる。やがて距離が開けばゆっくりと足を早めて、後ろ髪を引かれつつも迷宮踏破を再開した。
「カナトさん、誘惑に負けてはダメですよ」
「それなら誘惑を振り切るためにも、ひたすら走り抜くとしようかぁ」
「はい!あ、でも他にどんな可愛い妖怪がいるのかは楽しみですが…」
「そこは期待するんだ。」
 思わず突っ込んだものの、まだ煌めきを残したレモンの瞳を見て、他に何か可愛いのが居たかなとカナトが自らの記憶を漁り始めた。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

小沼瀬・回
彼方此方と、あべこべの奇天烈だ
これでは歩き難くて仕様がないな
やれやれと吹き戻しを懐に仕舞い
ゆうらり、揺れる身で暫しの思案

番町皿屋敷であるならば、『十』を足すものだが
お前さんたちの悪戯には仕置が足りないようだ
どれ、少し脅かしてやるとしよう

化け狸であれば茶釜に化けて貰おうか
そうして、燃え滾る火に掛けてしまおうか
――おっとお、釜の六音が聞こえたかね?
蛇の目した傘のやつは、蛇目猪口代わり
終には沸いた熱い湯を雪女殿に届けよう

恐ろしげな声音で囁き、脅かし、追い払い
そうとも、人こそが本当に恐ろしいのだ
いやいや、私は傘なの――だが――

ああ、蛇目猪口なぞ、何と恐ろしい!
己の怪談に背筋凍らせ
そそくさと先を行こう

――右に曲がれば道は無く、左を降りれば行き止まり。進むだけでも穴が待ち受け、おまけにそこかしこから視線の筵。迷ひ路とは承知で踏み入ったとて、こうまで歪みと悪意に満ちて居ては。
「これでは歩き難くて仕様がないな」
 やれやれと、先ほど買い求めた吹き戻しを懐に仕舞い込み、小沼瀬・回が小さくため息を吐く。路自体は時をかければ何れ踏破出来そうだが、それを容易く許す狐狸妖怪は居ないだろう。実際見つめるだけに飽き足らず、じわじわと距離を詰められているのも感じる。なので致し方なしとゆうらりと揺れる身で暫し、解決の為の思案にふける。――かの有名な番町皿屋敷であるならば、女の憐れに手ずから『十』を足すものだが。如何せんここの妖怪達の悪戯には、それでは少々仕置が足りないようだ。――ならば、手には手を、歯には歯を。意趣返しと言うのも薮坂ではない。
「どれ、少し脅かしてやるとしよう」
 傘帽越しの表情は伺えないが、何処か悪戯めいた弾みを乗せた声で回が告げる。方策を決めたなら先ずは相手を見つけねばだが、近類とあればそれも割に容易いことで。――柱のフリした化け狸なら、連なる茶室にポンと軽く押し出して、茶釜に化けて貰おうか。そのまま炉にかけ燃え滾る火に焚べれば、同胞を救わんとしたか蛇の目傘が回へと飛び掛かる。
「――おっとお、釜の六音が聞こえたかね?」
 然しながら相手が悪い、傘の扱いは傘自身が最もよぅく知るところ。細い柄にこつり梃子入れ逆さにし、狸茶釜の湯をたっぷり注いでやれば、憐れ傘から猪口へと早変わり。冷やしてやろうと襖破いて迫り来た雪女も、蛇目猪口から熱々の湯を塗されては、返り討ちも良いところだ。

――恐ろしげな声音で囁き、脅かし、追い払い。妖怪変化なんのその、そうとも、人こそが本当に恐ろしいのだ!なんて……いやいや、私は傘なのだが。

「ああ、蛇目猪口なぞ、何と恐ろしい!」
 憐れヒィヒィ逃げ出す妖怪らの背に、自らの怪談を|語り《騙り》聞かせ。さもありなんと背筋を這う冷たさに、身を震わせた振りをする。そのまま魍魎跋扈の迷宮に背を向けて、回がそそくさと奥へ立ち去って行った。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

紗影・咲乃
んー、迷子防止の為には目印は付けたほうがいいかな?
うさちゃんズの出番なのよ?
√能力を発動しうさぎのぬいぐるみにも索敵させながら数撃ちゃ当たる戦法が如く色んな方向へうさちゃんズを索敵に行かせては目印をつけさせるを繰り返し正解のルートを導き出す。

途中でトラップ的なものがないとも限らないので基本的に先に行くのは怪しいものレーダーを光らせたうさちゃんズ

うさちゃんズが止まったら警戒するように慎重に進むのよ

もう少しで親玉?の所に到着のはずなのよ

「んー、迷子防止の為には目印は付けたほうがいいかな?」
 てく、てく、てく、と。小さな体で迷ひ路を歩きながら、紗影・咲乃がぽつり独り言ちる。ただでさえここは天井廊下があべこべで、あちこちに穴が空いたり道自体が捩れたりと歩きにくいことこの上ない。その上迷わないようにマッピングまでとなると、咲乃ひとりだけでは難しい。――ならばここはひとつ、手札を切る時だろう。
「――うさちゃんズの出番なのよ?『探索してきてなのよ』」
 呼びかけるように唱えれば、ポコココッ!と現れるのは愛らしいうさぎの縫いぐるみたち。然し縫いぐるみながら鼻をひくつかせて自律して動くあたりは、やはり能力で生まれたものならではだろう。出せる最大限の数を引き出し、索敵に能力を振り分けてそれ!と掛け声ひとつで、皆を迷ひ路に送り出す。手探りも、探る手が多ければ必然範囲は広がるもの。文字通りの数撃ちゃ当たる戦法が如く、色んな方向へうさちゃんズを索敵に行かせては目印をつけさせて、を根気よく繰り返し、奥へと繋がる『正解』の道を導き出していく。途中でトラップ的なものがないとも限らない、との配慮もあって最も先を行くうさちゃんズには怪しいものレーダーを光らせる。そのおかげで狸の尻尾足救いにも、蛇の目傘のぐるぐるループ廊下も避けて通ることが出来た。
「もう少しで親玉?の所に到着のはずなのよ」
 よいしょと柱を潜り抜けながらも警戒は怠らず、然し気合も十分に。愛らしいうさぎぐるみを従えて、咲乃がゆっくりと迷路を踏破して行った。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

クラウディア・アルティ
なんとっ!
なんていうかこう、体のサイズが猫なので
傘の上でくるっくる回されそうなわたしです
体力というよりこういう罠の影響はまともに受けるわけですが!

目立たない(目立たない)な感じでこっそり歩いていきましょう
後は直感(第六感)で……こっち!
これって【ウィザード・フレイム】で直したりすると新しく道が出来たりしないでしょうか?
ダメもとで試してみる価値はありそうですね
ええ、楽したいだけです!
ダメなら仕方ありません
地道に目印をつけていきましょうか
それから、小さな体を利用して抜け道とかあるといいなあ

三味線って猫の皮使ってることがあるんですよねー
やだなー
このゾクゾクした感じを辿っていけば目的地につけますかね?

「なんとっ!」
 カカッ、と目を見開いて見つめるのは、捻くれ狂った迷ひ路。クラウディアがそこかしこに潜む妖怪達の影を見て、ふるりと髭を震わせる。なんていうかこう、体のサイズが猫なのでうっかり傘の上でくるっくる回されそうな危険をひしひしと感じる。
「体力というよりこういう罠の影響はまともに受けるわけですが!」
 妖怪も基本サイズは人間準拠なため、クラウディアの全長を以てしてはそもそもの対比が大きい。せめて気配を消してあまり出会わぬ様に…とそろり踏み出したところで。
「これって【ウィザード・フレイム】で直したりすると新しく道が出来たりしないでしょうか?」
 ふとした思いつきだが、口にして見ると案外悪くない気がしてきた。なにせこの迷宮、所によっては物理法則などまるっと無視している様に見える。ならば試しに別の方向の神秘をぶつけてやれば、意外な突破口になるやもしれない。
「ダメもとで試してみる価値はありそうですね
。…ええ、楽したいだけですけど!」
 建前四割本音六割、ひとまずヒョイと放って一番近い壁に修理を試みたが……残念ながら『直す』と言う概念には当てはまらないようで、変化は無かった。が、もひとつついでにえいや、と攻撃に切り替えてみた所、小さな穴は作ることが出来た。
「小さな体を利用して抜け道とかあるといいなあ……とは思いましたが、まさか作れるとは。であれば突破は難しくなさそうですね」
 開けれたのは猫窓大の大きさだが、小柄なクラウディアには寧ろ都合が良い。追ってくる妖怪変化もこのサイズでは通れるものも少なく、この先やり過ごすのが多少楽になったはずだ。
「…にしてもこの音。三味線って猫の皮使ってることがあるんですよねー。やだなー。」
 そこかしこからべべん、と鳴り響く三味線の音色に、高級な素材として重宝される|猫皮《よつかわ》のことを思い出し思わず身震いする。
「このゾクゾクした感じを辿っていけば目的地につけますかね?」
 そうして意図せず恐怖を付け加えた第六感を頼りに、クラウディアがさらに先へと進んで行った。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

月ヶ瀬・綾乃(サポート)
人間(√EDEN)の|警視庁異能捜査官《カミガリ》×ルートブレイカー、22歳の女です。
普段の口調は「女性的(私、あなた、~さん、です、ます、でしょう、ですか?)」
心を許したらテンション高め「(私、~くん、~ちゃん、よ、だもん、だよう、~かな?)」です。

√能力は指定した物をどれでも使用し、多少の怪我は厭わず積極的に行動します。他の√能力者に迷惑をかける行為はしません。また、例え依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動はしません。
あとはおまかせ。よろしくおねがいします!
神原・ミコト
アドリブ、他PCとの絡みOK
POW判定
「これが星詠みさんの仰っていたちょっとリアルなお化け屋敷ですか。指一本分の力でこのような迷宮を作り出すとは古妖というものはとんでもないですね…被害が出る前に早急にかたをつけなければなりませんね。」
⚫️小細工をする時間はありません。幸い私は体力には自信があります。邪魔する妖怪には警棒で気絶攻撃を叩き込みつつ先を進みます。

「これが星詠みさんの仰っていたちょっとリアルなお化け屋敷ですか。」
 捻くれだ迷路にどうにか着地点を見つけ、神原・ミコトがひょいと乗り込みがてら周囲を見回す。奥深くまで入り組み魑魅魍魎までもが跋扈する迷ひ路は、√能力者でも無ければ凡そ踏破は叶わないだろう。ましてや一般人が迷い込めば、その命の保障はない。
「指一本分の力でこのような迷宮を作り出すとは古妖というものはとんでもないですね…被害が出る前に早急にかたをつけなければなりませんね。」
「あ、はい!これが今回のお仕事…なんですもんね?」
 汚職警官にして|警視庁異能捜査官《カミガリ》であるミコトに、追従するのは同じく|警視庁異能捜査官《カミガリ》として勤める月ヶ瀬・綾乃だ。スカウトされ自覚的に捜査官を勤めるミコトと違い、うっかり間違いで採用された綾乃の返答はいまいち鈍い。√世界の理解もいまだ追い付かず、とりあえず仕事として迷宮に入り込んだは良いものの、途方に暮れていた所にミコトの姿を見つけ、ひとまずの協力を申し込んだのが現状の形だ。
「小細工をする時間はありません。幸い私は体力には自信があります。邪魔する妖怪には警棒で気絶攻撃を叩き込みつつ先鋒をつとめます。良いですね?」
 初めての連携とあって、自らのスタンスを開示し確認を取るミコトに、綾乃が頷きながら慣れない敬礼を返す。
「分かりました!では私は後方から援護に回らせて貰います。……ただその、不慣れですので、ゆっくり目だとありがたいんですが」
 綾乃とて一応の武器は装備しているし、√能力者ではあるものの、まだまだ経験が足りない自覚はある。その素直な申告にミコトがふむ、と頷いて自らの思う所を返す。
「誰にでも最初はあります。ただ考慮はしますが人命優先ですし、何よりこう言うのは慣れが重要です。ある程度は飛ばしますよ」
「は、はい…!学ばせていただきますっ!」
 丁寧な口調に反し意外と脳筋スパルタ学習方式で警棒を振るうミコトを見つめ、やっぱりとんでもないとこに就職したのでは……との実感を俄かに深めつつ。ただ今は諸々を横に置いといて、綾乃が拳銃を手にミコトの後ろに従った。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​ 成功

伊和・依緒
うわ、なんか面倒なことになってるね。

さすが古妖。
これで『指一本分の力』だとしたら、このままいくとたいへんなことになりそうだ。

しかもここに妖怪たちのいたずらが加わるってなったら、
迷い込んじゃった人たちにはかなりの死活問題だね。

命を取られるようないたずらはないってことだけど、
ちょっと進むごとにちょっかいかけられるのも面倒かな。

ま、仕掛けてくるってことなら、準備はしているんだと思うし、
ここは【ゴーストトーク】を使って、まわりのインビジブルに聞き込みしながらいこう。
どこで待ち伏せされてるのかわかれば、そこを避けていけばいいからね。

どうしても回避できないのは力技でいくけど、なるべく回避していきたいな。

「うわ、なんか面倒なことになってるね。」
 下は左に上は右。常識の境を飛び越えて捩れはてた迷宮を前に、伊和・依緒が思わず声を上げる。
「さすが古妖。これで『指一本分の力』だとしたら、このままいくとたいへんなことになりそうだ。」
 五指の一本でこうまで地形を歪め潜み、周囲を食い荒らす空間を成形するのだ。もしこのまま成長して別の部位まで呼ぶようになったら――その先は余り想像したくはない。ともあれ今でさえ能力者でも十分に厄介さを感じる迷宮なのだ。ここにもし一般人が迷い込んでいれば命の保障はない。が、幸いにも駄菓子屋での先行した見張りが効いて、この中に迷い込んだ非能力者はいないようだった。その事実には安心しつつ、念の為の警戒は怠らない。いつだって、イレギュラーは付きものなのだから。
「命を取られるようないたずらはないってことだけど、ちょっと進むごとにちょっかいかけられるのも面倒かな。」
 一体一体ならば倒すに易いだろうが、何体もの妨害を受けながら進むのは骨が折れそうだ。ならば、と依緒が能力の『ゴーストトーク』を発動させる。姿なきが故に、あらゆる場所に偏在するインビシブルたちに姿を与え、迷宮で見聞きしたことを話してもらう。
「こっちの道の先は雪女が、階段を降りる方は化け狸の待ち伏せか……襖を開けて進めばあんまり敵がいない?良かった、ありがとう」
 話す情報を整理して、より安全なルートを割り出す。どうしても回避できないものは力技でいくしかないが、本命は最奥に待ち受ける悪妖。なるべく温存する為にも、躱せる悪意は回避していきたい。
「…よし!だいたい分かった。あとは進むだけね。」
 脳内でざっくりと引いた地図を頼りに、依緒が気合いを入れて奥の闇へと目を向けた。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

逆月・雫
※アドリブ歓迎、他PC様との共演歓迎
…あの小さなお店がここまで広くなるのなら、ある程度暴れても本来のお店には影響ないですわね?
ならば、こちらも遠慮なく。

三味の音や霊力を探りつつ、「清めの酒」をぶち撒けて迷宮の『核』へ向かう。
我々の世界じゃ私でさえ若造のひよっこ、だからと言って年増の太夫に頭下げるつもりは更々ないですわよ?

あ、妨害する意識のない子達には攻撃する気はありませんよ。
訳もわからず連れてこられたような子や遊びの一環で迷宮にいるような子には、手を貸せるなら貸したい所。
時間がないならあっち向いてホイなんかで誤魔化して移動優先するかもしれないけど。

とりあえずは太夫の喉元まで辿り着く事が第一ね。

 気弱な店主を叱咤していた昼間は、溶けるように過ぎていった。そして夜を迎えた駄菓子屋は、ほのぼのとした空気など忘れ果てたかの様に寒々しく、広大で、歪な迷宮と化していた。その変貌を半ば感心するように眺めていた逆月・雫が、小首を傾げてふと独り言る。
「…あの小さなお店がここまで広くなるのなら、ある程度暴れても本来のお店には影響ないですわね?」
 誰に確認するでもない呟きだったが、まるでその言霊に呼応する様に畝りをあげて闇を深めて行く迷宮に、唇で緩く弧を描く。
「ならば、こちらも遠慮なく。」
 目には目を、異常事態には√能力者を。気合い十分に雫が足を踏み入れた。

 時折響く三味線の音は奇妙な造りが仇になったようで、辺りに反響して場所を探るに難しい。代わりに悪妖が腹に溜め込んだだろう霊力を指針に進めば、何と無くだが方向は掴めた。時折化け狸の尻尾やら、おとろしの落下やらが邪魔をしてきたが、景気良くざっぱーんと清めの酒をまいてやれば、やれ敵わんと皆程なく退散していった。数はいれども個々は然程でもない様で、たまに悪戯…というより構って欲しげな小さい妖怪たちも居たが、今は先に進むが優先。手遊びにひょいとあっち向いてホイ、を繰り出してはよそ見してる内にそそくさ退散させてもらった。…少々名残惜しかったのは、雫の心内に秘めておくとして。――こうして至る所に妖怪変化に神や妖が座す雫の世界では、人換算では妙齢の彼女とて若造のひよっこと言える。奥に待つ悪妖からしても、雫はほんの赤子にしか見えないのかも知れない。然し――
「だからと言って、年増の太夫に頭下げるつもりは更々ないですわ」
 重ねた年月にいくらの差があれど、営み続く世界を壊そうと言う悪意が相手なら、下剋上もなんのその。
「とりあえずは太夫の喉元まで辿り着く事が第一ね。」
 事態の収集には悪妖の排除が大前提。ならばせめて刃が届く距離に居なくては――と。心持ち足を早めて、雫が深層へと歩んでいった。
🔵​🔵​🔵​ 大成功