筋肉はすべてを解決するのか
●マッスル大合宿
某県某所の樹海。
森林を円形にくり抜いたようなその空間は、威容な熱気に包まれていた。
走り込みをさせられる者たちがいれば、尋常じゃない回数の腕立てや腹筋を強いられている者たちもいる。
プレハブの建物には各種トレーニング設備が完備されていて、そこでも厳しい特訓が繰り広げられていた。超高速ランニングマシンで壁際まで吹っ飛ばされる者がいれば、スパーリングでダウンする者もいる。
ここは一般人を集めた、怪人による訓練場なのだ。
「ひい、ひい……も、もう駄目だ」
「マッチョになれたらいいと思ってたけど……これじゃ死んじまうって……!」
「甘い、甘いぞ!」
「鍛えが足りん! お前たちにはまだまだ筋肉が足りない!」
「筋肉こそ至高! 筋肉こそすべて!」
「筋肉があれば何でも出来る!」
……トレーナーはみんなムキムキで、なぜかスパルタ兵っぽい格好をしていた。
●頭まで筋肉なのか
「脳筋にもほどがあるだろ!」
凌・麗華(不会放弃・h06251)が頭を抱えていた。
「ああ、みんな集まってくれてありがとう。シデレウスカードを巡って、とんでもない事件が起こるらしいんだ」
麗華が頭痛を覚えながらも、集まった能力者たちに事件の概要を説明する。
シデレウスカード――それは「十二星座」や「英雄」が描かれたカードだ。一人の人間の元に十二星座と英雄のカードが揃ったとき、所有者の身に事件が降りかかるという。
「√能力者ならまだしも、パンピーがそんなものを持ったら、大変なことになる。星座と英雄の特徴を併せ持つ怪人『シデレウス』になっちまうんだよ」
つまり今回の事件はそのシデレウスが起こすものらしく。
「偶然カードを拾ったのは、獅志丸悟郎って男でね、もともと筋トレが好きな好青年だったんだけど、シデレウスカードの影響で怪人になっちまった」
十二星座と英雄が合わさったその名前は、
「レオレオニダスシデレウス――ああ舌噛みそうだ! このレオレオくんが樹海に訓練施設を作って、一般人を募って筋肉大合宿をしてるんだ。でもあまりにハードすぎてこのままじゃ死人が出る」
筋トレをやりすぎるとか一番駄目なパターンである。
「というわけで、みんなにはまずこの筋肉合宿に、パンピーに紛れて参加してほしいんだ。そこで、スタッフが驚くようなトレーニングを披露できれば、レオレオニダスシデデ――レオレオくんが見に来るはず。ああ、スタッフがスパルタ兵の格好をしてるのはそういうことみたいだ。スパルタ兵だけに指導方針もスパルタだ」
脳筋は優れた筋肉を持つものを認める。
「筋肉っても、ムキムキなところを見せるだけじゃないはずだ。ほら、靭やかな筋肉ってのもあるだろ。持久力もそうだ。それに認められる方法も色々あると思う。|スパルタ兵《スタッフ》に筋トレ勝負を挑んだり、腕相撲で負かしたり、スパーリングでブチのめしたり……演武なんかもいいかも。得意な方法で、目立ってくれればいい」
言うと、麗華は真剣な顔になって、
「この事件、どうやら黒幕がいるらしい。レオレオくんとも戦うことになるだろうけど、それだけじゃ終わらないと思うから気を付けて。ドロッサス・タウラスとかいう簒奪者が裏で糸を引いてるらしいんだ」
ドロッサス・タウラスを倒せば、事件解決と見ていい。
「それじゃ、頼んだ! 皆だけが頼りだ!」
マスターより

カードと言えばMTGでは緑単オンリーの相馬燈です。ムズカシイコトワカラナイ。
……今回はシデレウスカードを巡る事件となります。
第一章
まずは一般人に紛れ込む形で、怪人が主催する山奥の筋肉大合宿に参加しましょう。
トレーニングのやり方や種目は問いません。腕立て競争をしたり、腕相撲を挑んだり、スパーリングで打ち倒したり……日頃、積み重ねている訓練を見せつけてやるのもいいでしょう。
スタッフが驚くレベルのトレーニングができれば主催者であるレオレオニダスシデレウスが見に来ます。
なおスタッフであるスパルタ兵は√能力で呼び出されている模様です。
第二章
レオレオニダスシデレウスに戦いを挑み、戦闘することとなります。
どうもスパルタっぽい√能力を持っているようです。
第三章
ドロッサス・タウラスとのバトルになります。
13
第1章 冒険 『怪人マッスル大合宿』

POW
最大限体を痛めつけるハードなトレーニングを行う
SPD
科学的根拠に基づいた最新のトレーニングを行う
WIZ
怪しげな装置を使ったトレーニングを行う
√マスクド・ヒーロー 普通7 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
「筋肉、筋肉、筋肉を鍛えろ!」
スパルタ兵の格好をしたムキムキな男どもが拳を振り上げる。
森林を円形にくり抜いたような樹海の一角は、巨大な訓練施設だ。
崖があり、滝があり、鬱蒼と茂る森がある。
プレハブの大きな建物の中には、多種多様な器具を取り揃えたジムがあり、スパーリング用のリングや、演武場さえも用意されていた。
スパルタ兵たちは、訪れし者の鍛えを応援する。
挑戦にも喜んで応じるだろう。
ここでは|筋肉《マッスル》こそが正義。
よりよき鍛えを見せつけたものこそが認められる。
日頃の鍛錬を実演してもよし、この機会にトレーニングしてもよし。
√能力者たちよ、その力を見せつけるのだ――!

重要なのは器の外見ではなく、その裡に何を秘めているのか
隆々たる巌の如き筋肉は確かに素晴らしいものでしょう
が、草花のごときしなやかさを、流れる水の如き柔らかさを以てのみ示せる事が御座います
故に居合用の刀を以て流麗なる演舞と致しましょう
座りて構えるは無外流の居合
僅かな吐息を起点とする挙動より抜刀し、跳ねるように前へと出て袈裟斬りに
鋭くは光が瞬くが如く、過ぎるは影のように静かに
されど、水面に揺蕩う花のような優雅なる所作を以て
これは巌の如く積み上げただけの躰では為せません
技を磨き、心を澄み渡らせ、自らの器に何を注ぎ続けたか
……私の流派? 信条?
いいえ、定まったものはなく、あらゆるを呑む夜帳の刀が私です
「一に筋肉、二に筋肉、三四も五にも筋肉を鍛えよ!」
「とにかく筋肉!」
「筋肉があればなんでもできる!」
「休むなッ! そんなことでは強靭な肉体は作れんぞッ!」
むさ苦しいことこの上ない。
合宿場のプレハブ内では、コリント式兜を被った上半身裸のスパルタ兵たちが雄叫びを上げていた。腕立て二百回などと言われては、いくら意識の高い一般人でもそうそう出来るものではない。
「ななじゅう、きゅう……ななじゅうはち……!」
汗が地面に吸い込まれ、噛み合わされた歯の奥から苦鳴が絞り出される。
尚も発破をかけようとしたスパルタ兵だったが、
「ムゥ……?」
かすかな衣擦れの音を聞き留めて、ひとりが振り返った。
スパルタ兵の兜の奥、闇に灯る眼が見たのは、さながら月明かりの下に咲く花。艷やかな黒地の装束に身を包み、夜の色を櫛ったような射干玉の髪を持つ少女――静峰・鈴(夜帳の刃・h00040)だ。
むくつけき男たちの前に立つ彼女は、真夏の熱気を払う宵涼の風めいていた。
「なんだお前は」
「お前も体を鍛えに来たのか?」
傲然と見下ろすスパルタ兵たちであったが、鈴は眉一つ動かさずに言葉を紡ぐ。
「隆々たる巌の如き筋肉は、確かに素晴らしいものでしょう」
鍛えそのものを、鈴は否定しない。
得物を振るうにも、靭やかな身のこなしにも、最低限の筋力は必要だ。鍛え抜いた筋肉で鎧うことも、必ずしも否定されるべきものではない。
「ですが重要なのは器の外見ではなく、その裡に何を秘めているのか」
「……貴様、我々の筋肉が見せかけだけのものとでも」
「待て。話は最後まで聞け」
鍛えるだけではなく筋肉談義が好きな連中でもある。いきり立ってずいと前に出たスパルタ兵を、別のスパルタ兵が押し留め、鈴に続きを促した。
「頑健な肉体で心を鎧うだけが、達人の境地ではありません。草花の如きしなやかさを、流れる水の如き柔らかさを以てのみ示せる事が御座います」
「…………ウウム」
「……おいお前、今のわかったか?」
「つまり……その、なんだ…………わからん!」
脳筋すぎるスパルタ兵たちには、鈴の巧みな比喩が理解できなかったらしい。筋肉の鎧を纏うことを最優先にしていれば、なかなか思い至らぬ境地でもあるのだろう。
「だが、そこはかとなく自信を感じるぞ」
「ただものではなさそうだ」
「いいから。いいからお前らは黙っていろ全く。……失礼した。では見せてもらおう、その靭やかさとやらを」
リーダー格と思われるスパルタ兵が非礼を詫び、鈴を演舞場へと促した。
プレハブの訓練施設には、畳敷きの演舞場まで用意されていた。
リーダー格と思しきスパルタ兵を先頭に、兵士たちが整列し、飾りとも思えぬサリッサを捧げ持つようにして構えている。それがこれから武芸を披露しようとする鈴への、彼らなりの礼儀の示し方なのだろう。
厳しい鍛錬に汗を流していた一般人も、興味を惹かれて集まってきた。訓練は一時中断だ。疲れ果てた人々にとっては、干天の慈雨もさながらのひとときとなった。
さて鈴はと言えば――座して長い睫毛に縁取られた目を伏せている。
場内は|咳《しわぶ》 き一つない。
物音も立てられぬような張り詰めた空気が、いつしか辺りを支配していた。
呼吸。それは全身の動きを一体化させる無外流の整息術である。
技を放つまで気を発しないが故、その僅かな変化に気付いた者は――スパルタ兵たちの中にさえ居なかった。
一切の淀みなき、流れるような静と動。
鞘の内から霊刀が奔りいで、艷やかなそれが刃鳴を奏でるまでに、瞬きひとつする間もない。まさに閃光の如き一刹那。そこから跳ねるような踏み込みとともに放たれた袈裟斬りも流星光底。びゅうと風を呼び、黒髪が軽くはためいて、さらりと肩に流れた。
は、と息を吐いたのは先頭のスパルタ兵だ。彼は自らの首を、片手で撫でていた。まるで首を一閃され、即座に袈裟に斬り下げられたかのような――。
刃を鞘に納める鈴の挙措もまた無駄がなく、それでいて優雅だった。邪念を排した心は月影を映すが如く。刃を鞘に納める所作とその佇まいも水面に揺蕩う花のように楚楚としている。
見事――そう思っても、暫くのあいだ、誰ひとり言葉を発することが出来なかった。
「これは巌の如く積み上げただけの躰では為せません」
静まり返った訓練場に、鈴の声が小さくも詠うように響いた。
「技を磨き、心を澄み渡らせ、自らの器に何を注ぎ続けたか」
誰ひとりとして言葉を挟む者はいない。
筋、体幹、神経、そして心の協応――心技体が渾然となってこその至芸である。
「一体、どうすればそこまでの技を……」
声を絞り出すスパルタ兵。その問いは、流派、或いは信条を訊ねたものでもあろうか。
鈴は美しき立ち姿のまま、さらりと告げた。
「定まったものはなく、あらゆるを呑む夜帳の刀が私です」
🔵🔵🔵 大成功

ひええ、きついトレーニング合宿とかは聞いたことあるけど、死ぬまでやっちゃうのはだめだねぇ。シデレウス怪人になるとそういうのもわからなくなるのかな?いろんな意味でやばいカードばらまいてくれたよね。
ジャージ着て、その下にも運動しやすい服着てグローブつけてトレーニング開始だね!
やることはサンドバッグにひたすらパンチ!素早く連打したり重い一撃やったりバリエーションだしていくよ!
ある程度やったら、グローブ外してジャージ脱いで「ぶっ壊しちゃう」宣言してサンドバッグを押して戻ってきたところを弾いて全力のパンチ!【背水空拳フェイタルフィスト】だね!
これで壊せれば注目されるかな?
ちゃんと壊した片付けはするよ!
「走れ! 猛獣に追いかけられていると思って走るのだ!」
ランニングマシンのモーターが唸りをあげ、尋常ではない速度に耐えきれずに一人の青年が吹き飛ばされた。
「貴様の大胸筋はその程度か! 上腕三頭筋もしっかり使え!」
別のエリアでは、ベンチプレスを上げる一般人にスパルタ兵が熱血指導中だ。コリント式兜に上半身裸という、何だか映画にでも出てきそうな格好で。
「贅肉は許すな! 全てを燃やし尽くすのだ!」
そしてまた別のエリアでは、軍隊もかくやの激しいエクササイズが繰り広げられている。
どれを見ても明らかにオーバーワークだった。
スパルタらしく、潰れればそれまでだと思っているのかも知れない。
そんな光景に、「ひええ」と雪月・らぴか(えええっ!私が√能力者!?・h00312)は悲鳴めいた声を上げていた。
「きついトレーニング合宿とかは聞いたことあるけど、死ぬまでやっちゃうのはだめだねぇ」
怪人の筋肉合宿がどんなものかと多少の好奇心もあったらぴかだったが、予想通りにやばかった。明らかに常軌を逸している。
――シデレウス怪人になるとそういうのもわからなくなるのかな?
カードの膨大な力が、それを手にした人を狂わせてしまうのだろう。元々の素質が、悪い意味で強化されるのかも知れない。
いろんな意味でやばいカードばらまいてくれたよね――らぴかはそう思いつつ、決意を込めて頷いた。
「今はとにかく目立つこと。準備もできたし、トレーニング開始だね!」
らぴかはピンク色のジャージの下に、タンクトップや汗を吸い取るインナーも身につけていた。グローブを装着し手首の締りを確認し、サンドバッグの前に立てば……もうやることは決まっている。
即ち、パンチングバッグである!
「よーし、いくよー!」
くるくると腕を回すらぴか。
はち切れんばかりの胸元に、血気盛んな青年たちの視線が注がれているような気もしたが……当のスパルタ兵たちは深々と頷いていた。
「うむ! 元気があってよろしい!」
「元気があれば、いや筋肉があれば何でも出来るのだからな!」
らぴかの全身から溢れる元気にスパルタ兵たちはいたく感心しているようだった。ここまでいくと、もう元気という名の卓越した技である。
らぴかは長い睫毛を伏せて呼吸を整える。
開眼。
繰り出した拳に空が鳴り。
ダ、ダ、ダッ、ダダダダダダッ――! 叩き込まれる連撃!
一般人は目を見開き、スパルタ兵は思わず唸り声を上げることとなった。機関銃めいた連打、連打、また連打! 桃色のグローブに打たれ、サンドバックがデスダンスでも踊るように揺れた。それだけではない!
「バリエーションだしていくよ!」
呼吸。振りかぶり。そして振り抜く。――ッパアンッ!! 砲弾めいた拳が通常のパンチングバッグではまず聞けないような激しい音を奏でた。どれほどのインパクトだったかと言うと、見ていた一般人がビクッと首をすくめるくらい。
「こ、これは……」
「期待の新人現る……!」
何の新人なのかわからないが、周りのスパルタ兵たちも集まってきて、らぴかに視線を注ぐ。そんな中、彼女はと言えば――、
「暑くなってきたし、これもやっぱり邪魔だよね」
言いながら徐ろにジャージの上を脱ぎだした。おお、とどよめきが上がる。健康美溢れるトレーニング用のタンクトップ姿になったらぴかは、グローブも脱ぎ捨てて、
「ぶっ壊しちゃう」
とんでもないことを宣った。
別に脱いだのはサービスシーンとかそういうのではない。
これより放つ√能力に欠かせぬ工程なのである。
サンドバッグに右の掌を当てると、らぴかはそのまま押した。
最高級レザーの中に砂袋やウレタンが入ったそれは成人男性に匹敵するくらいの重量がある。それをいとも容易くふわりと浮かせると、サンドバッグは振り子のように戻ってきた。
「これで……っ!」
繰り出すは正真正銘の全力パンチ。
即ち――背水空拳フェイタルフィスト!
渾身の左がサンドバッグに叩き込まれた刹那、衝撃が伝わって本革の外装が、そして中身が逆方向に膨れた。まるで着弾のスローモーションだ。衝撃は頑丈な皮を破り、ウレタンが弾け飛び、揺れるサンドバッグの中から砂がざーっと溢れ出す。
一般の方々があんぐりと口を開けていた。なんというか、勢いの余りパンチングマシーンをぶっ壊した人を見た時のようだった。
で、スパルタ兵たちはと言えば、
「………素晴らしい」
「……なんという力か」
心の底から称賛していた。
ふふんと得意顔をするらぴか。
サンドバックからは、まださらさらと砂が溢れ続けている。
みんなの視線がそちらにも注がれていることに気付いて、
「ちゃんと壊した片付けはするよ!」
ちょっと慌てるらぴかだった。
🔵🔵🔵 大成功

お~。やってるねい。私もまぜて~
気楽な感じでフラッと立ち寄る
とりま、筋肉を自慢すれば良い感じ?
なら試合形式の演武に付き合って貰うのが良いかもね
そこで筋トレしてるみんなも休憩ついでに見学しなよ
見とり稽古も大事だ
(上着を脱ぐ、出てくる上腕二頭筋)
安全のためにゴム製のボーラを用意して、と。
生き物のように動くボーラを自在に操り一心同体な動きを披露
ボーラを振り回して牽制
相手の動きを流れるように足捌きでかわし錘で攻撃
隙をついて投擲し捕縛
派手さはなくとも地に足がついた堅実な筋肉、私が披露するのはそれだ
そうそう。一つ聞きたいのだけど。君達は、何のために鍛えるの?
……ああ、理由は何でも良いんだ。モテたいでも健康のためでも誰かを守るためでも。
ただ、そこをハッキリさせとかないと迷走やただの暴力、見かけ倒しの元になってしまうからね
私?そうだね……超えたい目標がある、とでも言おうかな?
「まだまだァ! そんなものでは筋肉は付かんぞッ!」
「スタミナ、持久力、瞬発力……すべては筋肉で決まる!」
「故に筋肉こそすべて! 筋肉に始まり筋肉に終わるのだ!」
先に到着した√能力者たちの活躍もあり、ジム内の熱気はいっそう高まっていた。
上半身裸で兜を被ったスパルタ兵たちも、テンションがブチアガっている。一方で訓練を受ける一般人たちの負荷は比例して高まり、誰もが汗だくになって悲鳴を上げていた。
「お~。やってるねい。私もまぜて~」
そんな中に、飄然たる声が響いた。
まるでふらっとジムに立ち寄ったというような気軽さで入ってきたのは、燃えるような赤髪に鬼人の角が目を引く美女――即ち赤峰・寿々華(人妖「鬼人」の煉鉄の格闘者・h01276)。服の上からでも判る恵まれた体格を持つ彼女は、場内の視線を一身に集めた。
スパルタ兵たちは新たな来場者に『おお』と感嘆混じりの声を上げて、
「素晴らしい! 歓迎しよう来訪者よ! さあ、存分に鍛えていくがよい!」
優れた筋肉を持つ者を称賛するのがスパルタ兵である。
……いや、少なくとも彼らはそうなのだった。
「そうさせてもらうよ」
すたすたと奥へと歩を進めながら、寿々華は考える。
――とりま、筋肉を自慢すれば良い感じ?
ここを訪れたのは、無論、体を鍛えるためではない。彼らスパルタ兵を統べているシデレウス怪人を、何とかして誘い出さねばならないのだ。
となれば――最も目立つ方法を取るまでのこと。
170cmも半ばの寿々華からみても、見上げるほどのスパルタ兵たち。
歩み出てきたガタイのいい一人の前に立つと、寿々華は言った。
「色々設備もあるようだけど、試合形式の演武ってのはどう? 付き合ってもらえるよね」
まるで道場破りのように大胆不敵な笑みを見せる寿々華。
無論、拒否するはずがない。
肉体を鍛えんとする者の求めに、力の限り応じるのが彼らスパルタ兵の使命である。
「良いだろう! だが怪我をしても恨み言は無しだぞ。我らはスパルタの戦士。鍛錬と言えど殺す気で来るがいい! 私もそうしよう!」
そんな言葉を向けられても、寿々華は恐れを抱かない。それどころか、ついでに一般人たちを休息させてやろうと考える余裕さえあった。
「いいね、そうでなくちゃ。筋トレしてるみんなも休憩ついでに見学していなよ。見とり稽古も大事だからね」
スパーリング用の特設リングに颯爽と上がった寿々華が、上着を脱いでリングの外に放る。黒のタンクトップ姿となった彼女の鍛え上げられた肉体に、改めて場内はどよめいた。腕を回せば、鍛え上げられた上腕二頭筋が強調され、拳を握れば腕橈骨筋が盛り上がる。それもいわゆる『見せ筋』ではない。野生動物のように靭やかで密度の高い筋繊維の束は、鬼人たる彼女の肉体美を体現している。
「うむ、良き筋肉だ。思わず見惚れてしまうほどに!」
リングの上で対峙するスパルタ兵は深く頷いていた。
「こいつを使いたいんだけど、構わないよね?」
寿々華は無手ではない。その手に提げているのは、ボーラである。普段使っているものとは異なり、訓練用のゴム製だ。
ボーラとは分銅型の武器や狩猟道具を意味する言葉だが、日本には微塵、分銅鎖と呼ばれる同種の武器もある。いずれも修練次第で凄まじい威力を発揮する代物だ。
「無論、構わぬとも! 筋肉を活かせるのであれば、如何なる武器を使おうとも反則にはならぬ!」
対するスパルタ兵は拳を構えた。それは古代ギリシャに発祥した闘技、パンクラチオンのもの。盾や長槍を使わずとも精強無比。拳で猛獣を打ち殺し、絞め落とすのがスパルタの戦士である。
互いに構えれば、場内に緊張が走る。
リングを囲む者たちは皆、観衆となって、戦いを見守る。
「それじゃ、行くよ――!」
先手を打ったのはリーチで勝る寿々華だ。
ボーラのゴム製錘は、三つ。それが次々に投げ放たれた。
タイミングをずらして襲いかかる錘。
だがスパルタ兵もなかなかのもの。
躱し、防ぎ、そして腕で弾き、流石に直撃は受けない。
そのまま飛び込んで拳の間合いに捉えようとする。
「やるね。それじゃ、これはどうかな?」
寿々華はじゃらりと鎖を鳴らし、すかさずボーラを振り回していた。
「……ヌゥ!」
これでは流石に近づけない。
咄嗟にバックステップし距離を取ったスパルタ兵は、回転するボーラの動きを見切ってすかさず跳んだ。
「近づいてしまえば、その錘、自由になりはすまい!」
それがリーチの長い武器に対する、彼の闘法だった。懐に飛び込んでしまえば、拳の方が疾い。パンクラチオンは眼球への攻撃や噛みつき以外はすべて認められる。拳だけでなく、蹴りさえも武器となるのだ。
「なかなか速いね。でも想定内だよ」
スパルタ兵の爪先が鼻先をかすめる。
軽やかにステップを踏むように、寿々華は拳打・蹴撃を躱していく。そして隙を見つけるや、距離を取りながらブンとボーラを投げ放った。錘がスパルタ兵の顔面に直撃! 鍛え抜かれた大男もこれにはよろめいた。
もし寿々華が操っているのが、本物のボーラであったなら――その顔面は、兜ごと砕けていただろう。
「ぬ、ぐうッ……まだ!」
スパルタ兵は前へ跳ぼうとしたが、その脚に鎖が巻き付く。
「足元がお留守だよ」
強く引けば、闘士はたまらず転倒した。咄嗟にガードしようとするも、その時点で隙だらけだ。
寿々華とスパルタ兵の戦い方は対象的だった。前者は無駄な動きを排して的確に攻め、後者は焦る余り動き回ることを選んだ。
勝敗は歴然。
地に足がついた堅実なる筋肉の躍動――それこそが寿々華の見せたかったものだった。
寿々華はボーラを投擲しようとしていたが、取りやめて力を抜いた。
「私の勝ち、ってことでいいね?」
「……参った。まさかここまでとは」
「おお!」
「何と美しき戦い振り!」
「見事! 見事な筋肉の躍動よ!」
拍手がプレハブの訓練場に響き渡る。
それが鳴り止むと、寿々華はリングから床に降り立った。
手渡されたタオルで汗を拭いつつ、彼女は観衆にさりげなく問いかける。
「そうそう。一つ聞きたいのだけど。君達は、何のために鍛えるの?」
敢えて寿々華はスパルタ兵ではなく、見ていた一般の人々に問うたのである。スパルタ兵がシデレウス怪人の手勢である以上、望ましい応えは返ってこないだろう。だからこそ、無茶な訓練を受けている一般人たちに訊きたかった。
だが、ぽつりぽつりと返ってくる返事の中に、ピンとくるものはない。
自信がないからこそ、ここに来た――きっとそんな者も多いのだろう。
寿々華は吐息して、
「……理由は何でも良いんだ。モテたいでも健康のためでも誰かを守るためでも。ただ、そこをハッキリさせとかないと迷走やただの暴力、見かけ倒しの元になってしまうからね」
確たる目的こそが日々の努力を支える。
そして何のために、との問いかけは、自らの行くべき道を照らす道標にもなるのだ。
「あの……貴女は何のために鍛えてるんですか?」
まだあどけなさの残る青年がおずおずと訊ねた。
皮肉めいたもののない、純粋そのものの問い。
寿々華はちょっと天を仰ぎ、
「私? そうだね……」
そして笑みとともに答えた。
「超えたい|目標《モノ》があるんだ」
🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功

あー…これはつまり毎日授業は体育だけ、みたいな感じか
運動会前だとしてもさすがにそれはないなぁ…(頭を抱える小学校教師)
だが話をしたところで聞いてもらえそうにないし、郷に入れば郷に従え…だな
体育授業時に着るジャージに着替え準備運動も抜かりなく
それでは誰か私と持久走で勝負をしてくれないかい?
春休みの間に体が鈍っているかもしれないからね
今のうちに慣らしておかないと
昨年度担任した2年生とそれはもう散々追いかけっこしたから持久走には自身があるが…それだけだと迫力に欠けるかな
終盤でこっそり指定√能力を使用し3倍のスピードでダッシュ
ありがとう、新年度また子供達と追いかけっこをするのが楽しみだよ(爽やかな笑顔
「このボールに当たったら死ぬと思えいッ!」
樹海をくり抜いたような訓練施設の屋外では、何故か熾烈なドッジボールが繰り広げられていた。スパルタ兵に対して一般人たちが必死にボールを投げるも、受けられ、猛烈な反撃で次々に倒されていく。
|筋骨隆々《マッチョ》なスパルタ兵に投げられれば、ボールは恐ろしいくらいに唸りを上げて飛ぶ。
まさにスパルタ式指導である。
教育的な観点から見ても、だいぶ前時代的であり――、
「あー……これはつまり毎日授業は体育だけ、みたいな感じか」
訓練施設に足を運んだ花園・樹(ペンを剣に持ち変えて・h02439)は、広がる景色に思わず頭を抱えていた。
「運動会前だとしてもさすがにそれはないなぁ……」
樹は小学校に赴任して2年目の新米教師である。
若手とて無茶な指導には物申したくなるものだ。
負荷をかけるだけが指導ではない。今や兎跳びとか水分補給禁止みたいなやり方は、全くの時代遅れだ。どうもスパルタ兵たちは、その辺りを勘違いしているようにも見受けられた。
――だが話をしたところで聞いてもらえそうにないし。
ああいう自分の方針を信じ切っている者たちの考えを覆すのは容易ではない。新米教師である樹は、頭の硬い先輩教育者たちの或る種の頑迷さもよく知っている。よって、ここは有名な箴言に従うことにした。
即ち――郷に入れば郷に従え。
「あっ……!」
一般人の外野が投げたボールが、スパルタ兵に躱されてコートの外に飛ぶ。
かなりの球速のそれを、樹が大きな掌でバシリと受け止めてみせた。
全員の視線が注がれる。体育授業時に着るジャージ姿をした樹に。
キラと反射するメガネ。
その奥の瞳は、穏やかだった。
「ム、見ない顔だな。お前も鍛えに来たのか?」
「まあそんなものかな」
樹は一般人にボールを放ってやりながら、スパルタ兵の問いに答えて、
「私と持久走で勝負をしてくれないかい? 春休みの間に体が鈍っているかもしれないからね。今のうちに慣らしておかないと」
もちろんそれは、疲労困憊している一般人たちを休ませるという意味もあった。休憩も取らせないような指導は、やはり看過できない。
「持久走! うむ、よかろうッ! 走り込みでスタミナを付けたいということだな!」
一応納得してくれたようだと、樹は苦笑して。
「ああ、その前に準備運動をさせてくれないか。急な運動は怪我の元だからね」
「我らのスパルタのスタミナは猛獣にも負けぬ!」
「然り、然り!」
準備運動の後、スパルタ兵たちが400メートルトラックのスタート地点で気勢を上げていた。
訓練施設には、そのような陸上用の設備さえ整っていたのだ。
設備は大したものだな、と樹は思いつつ、彼もまたスパルタ兵たちとともにスタート地点にいた。
5000m走である。オリンピック種目にもなっている、トラック十二周半の長距離走だ。
On your marks――係のスパルタ兵が告げ、旗を振る。
スタンディングスタートから、各者一斉に走り出した。
「おおぉぉぉぉぉっ!」
「我々について来られるかッ!」
熱気を放ちながら物凄いスピードで走っていくスパルタ兵たち。
――あんなに最初から飛ばして大丈夫なのか?
樹は思いながらも、しっかりとその後についていく。
見学する一般人たちからすれば、それだけでも注目に値する走りだ。
一周、二周、三周――順位はほとんど変わらない。ただスパルタ兵たちの中で僅かな変動があり、樹は最後尾であった。
だが汗を散らしながら走るその顔に焦りはなく、むしろ涼しげだ。
六周を超えた辺りから、樹が順位を上げ、先頭集団にまで食い込み始めた。
――休憩は、できているな。
ちら、と一般人たちを見る。彼らは、スパルタ兵ではなく、樹に声援を送ってくれていた。まるで教え子に背中を押されるようだなと樹は感じ、彼らを楽しませてやろうと考える。
なにしろ周回走は、どうしても変わり映えしない光景が続くものだ。
――そろそろだな。
残り一周あたりで、樹はここぞと√能力を解放した。
即ち、悉平――纏うは霊犬『早太郎』の霊気である。
一般人たちにその霊気は恐らく見えてはいないだろう。ただ、彼らは、爆発的にスピードを上げる樹の姿に目を見張り、どよめいた。
先頭集団に食い込むくらいの順位だった樹が、まるで早送りでもするように一気に先頭へと躍り出るッ!
「おぉぉぉぉっ!」
「すげぇ! どうなってんだ!?」
本来はその捷さを活かして、霊気による衝撃波と神速の斬撃を繰り出す√能力だが、このような平和的な使い方もあるのだ。
沸き立つ歓声。
完走した樹の後ろから、だいぶ遅れてスパルタ兵たちがやってくる。
「み、見事……!」
「よもや我らが敗れるとは……!」
悔しさはあれど、彼らは見事な筋肉の躍動を見せた樹に心からの賞賛を送った。
「ありがとう、新年度また子供達と追いかけっこをするのが楽しみだよ」
いい汗を流した樹も、晴れ渡る空のような爽やかな笑顔を返したのだった。
🔵🔵🔵 大成功
第2章 冒険 『シデレウスカードの所有者を追え』

POW
戦いを挑み、シデレウス化した人物を無力化させる
SPD
他の民間人が事件に巻き込まれないよう立ち回る
WIZ
シデレウス化した人物の説得を試みる
「選ばれし者たちよ、さあ我が主の下へと向かうがいい!」
目覚ましき活躍を見せた√能力者たちに、スパルタ兵が示したのは、樹海の更に奥であった。森林を歩いていくと、水の落ちる音が聞こえ始め、またしてもぽっかりと拓けた空間に行き当たる。
滝。
瀑布を背にして√能力者たちを待ち受けていたのは、片手に盾、片手に長槍を手にした筋骨隆々たる漢だった。
「うむ、良き面構えだ! 我が前に立つに足る!」
コリント式兜からは獅子を思わせる金髪が流れ、纏う闘気も黄金色に燃え上がるかのようだ。半裸に赤いマントをなびかせて立つその様は確かに英雄然としている。
獅志丸悟郎。
それが本来の彼の名だが、今は違う。
「我こそはレオレオニダス・シデレウス! 鍛え上げし肉体を持つ者たちよ! この俺が手ずから稽古をつけてやろうッ!」
なんだかワケのわからないことを言っているが、恐らくは一般人に強化トレーニングを施し、戦闘員にでもする計画だったのだろう。元は筋トレ好きな好青年であったはずだが、『レオ』と『レオニダス』のシデレウスカードが揃ってしまった今、その精神は歪められてしまっている。
事件解決のためには、戦わねばならない。
怪人と化した漢を救うためにも、今ここで打ち倒すのだ!
●
……というわけで第二章は色々な意味でマッチョな怪人シデレウスとのバトルです。
レオレオニダス・シデレウスの能力は以下のとおりです。
【POW】これがスパルタだ!
自身の【筋肉】を【真紅】に輝く【決戦モード】に変形させ、攻撃回数と移動速度を4倍、受けるダメージを2倍にする。この効果は最低でも60秒続く。
【SPD】来たりて取れ!
【英雄レオニダス】と完全融合し、【長槍と盾】による攻撃+空間引き寄せ能力を得る。
【WIZ】ファランクスを組め!
半径50m内に36体の【マッチョなスパルタ兵】を放ち、【脳筋ゴリ押し】による索敵か、【ファランクス】による弱い攻撃を行う。
第二章からの途中参加も大歓迎です。
どうぞ良き戦いを!

おおお、滝にすごいマッチョはなんか映えるね!ここで修行でもしてたのかな?
スパルタ兵達はオーバーワークさえなければ結構いい人達だったよね!そこんとこどうにかできないかなー?できないから怪人なんだろうね?ってことでササッと倒して体を壊すだけのトレーニングは終わらせないとね!
フィジカルでくると思ったらめっちゃ召喚してきてる!トレーニング場のスパルタ達これだったのかな?
流石に一体ずつ相手とかしてられないし、【霊雪爆鎚コールドボンバー】でまとめてやっちゃうよ!陣形なんか爆発でぶっ飛ばしちゃえばいいんだよ!一応横に回り込むように移動しながら爆殺しよっと。
レオレオくんは槍の間合いの外から爆殺するよ!
「見よ、この鍛え抜かれし体を! お前たちも鍛えに鍛え、鋼の肉体を得るのだッ!」
瀑布が水飛沫をあげ、陽に照らされて輝いていた。
自然の偉観を背にした|筋骨隆々たる漢《マッチョマン》も、汗をキラキラさせながら暑苦――いや燃え上がるような気を放っている。
地面に長槍を突き立て、盾を構えた立ち姿は、確かに英雄然としていた。
「おおお、滝にすごいマッチョはなんか映えるね! ここで修行でもしてたのかな?」
他所では(色々な意味で)お目にかかれなさそうな光景に、雪月・らぴか(えええっ!私が√能力者!?・h00312)は驚いたような顔をして、それから小首を傾げた。
レオレオニダスシデレウス――その肉体はトレーニングでパンプアップし、さながらボディビルダーのようでもある。
「おう! お前の活躍は聞き及んでおるぞ!」
長槍の穂をらぴかに突きつけて、レオレオニダスが何を言うかと思えば、
「黄金の左でサンドバッグを爆砕したらしいなッ!」
「あ、後片付けはしておいたからっ!」
慌てて言い繕うらぴか。
なんで知ってるんだろうと思ったが、そういえばレオレオニダスの√能力にはスパルタ兵たちに索敵させるなんてモノもあった。らぴかを始めとする√能力者たちの活躍は、概ね把握しているのだろう。
「構わぬ! 強きことがスパルタの正義である! そしてお前はここで更に強くなるのだ。その体、まだまだ鍛える余地がある!」
長槍と円盾を構えたまま、レオレオニダスは闘気を更に燃え上がらせた。
有無を言わさぬ戦いの構えだ。
――スパルタ兵達もオーバーワークさえなければ結構いい人達だったよね! そこんとこどうにかできないかな、と思ったけど。
思い返し、らぴかはふるふると首を振った。
コリント式兜の奥から放たれる眼光は、ある種の狂気を湛えている。
――できないから、怪人なんだろうね?
そう、眼前の漢は今や怪人シデレウス。
どんな言葉をかけようとも、聞く耳を持ってはくれないだろう。
ならば、やることは一つ。
力で語り合うまで。
らぴかは頷くと、雪月魔杖スノームーンをバトントワリングの要領でぐるんと回し、構えた。魔杖の先端を彩る満月のような|球体《オーブ》が陽を浴びてキラリと煌めき、
「おお、なんという闘気!」
「闘気っていうより|霊気《冷気》なんだけどねー」
体から湧き出るのは、霊と氷雪の力が一体となった霊雪心気らぴかれいき。
「それじゃ、全力で行くよー?」
「来いッ! スパルタの闘士がお前の相手だッ!」
レオレオニダスが長槍の石突で地面を強く叩いた。直後、周囲にスパルタ兵たちが出現して隊列を組み、一斉に槍と盾を構える! それこそはスパルタが誇る最強陣形――即ちファランクスだ!
「って、フィジカルでくると思ったらめっちゃ召喚してきてる!」
あんなに一対一で正々堂々みたいな雰囲気出してたのに!
きっとトレーニング場にいたスパルタ兵たちもこんな風に呼び出されたものなのだろう。
「流石に一体ずつ相手とかしてられないし、まとめてやっちゃうよ!」
ツッコミを入れる代わりに、らぴかは文字通り突っ込んだ。
スパルタのファランクスには、十二人一列×三列縦隊の三十六名で構成されるエノーモティアというものがある。今、レオレオニダスが組んでいるのがそれだ。
「者ども、迎え撃て! 我らの鉄壁の陣形を見せてやれ!」
「オオォォォォォォォッ!」
精強なるスパルタ兵達が気勢を上げ、盾を並べて槍を構える!
らぴかは怯まず、桃色のポニーテールを靡かせながら疾駆し――そして俊足を活かして斜め右へと駆けた。
「しまった、フェイントか!」
「足が遅いのがその陣形の欠点だよねー?」
そして――らぴかは知っている。
ファランクスのもう一つの弱点が、側面であるということを!
駆けながら、雪月魔杖を魔杖爆鎚形態へ。
素早く側面に回り込むと、地を蹴ってふわりと跳躍。
振り下ろしの一撃は、まるでミサイルの着弾だ!
kaboom!!!! 霊気と氷雪が瞬時に荒れ狂い、盾を構えたスパルタ兵たちを漫画のように吹き飛ばす!
「怯むなッ! 集中攻撃を加えるのだ!」
陣形を立て直すべく怒号するレオレオニダス。スパルタ兵たちもよくそれに応じた。最小単位であることを活かして位置を変え、らぴかを正面に捉えると長槍のリーチを活かして突きかけてくる。
「っとと! 思ったより素早い、けど!」
紙一重で槍を躱していくらぴか。反撃の雪月魔杖を振るうたび爆発が氷雪とともに荒れ狂い――スパルタ兵たちが成すすべもなく薙ぎ倒される。
「ヌウゥ……見事だ! 来るがいい! 俺一人でも止めてやる!」
寡兵でよく大軍を喰い止めたと云われるレオニダス――その名を冠するシデレウス怪人は、決して怯まない。単身、らぴかを迎え撃つが、
「だったらこれでー!」
「甘いわッ!」
再び跳躍して放ったらぴかの一撃を、レオニダスはバックステップで躱した。否、躱されたのではない。全てはらぴかの狙い通りだ。
雪月魔杖で大地を叩けば、霊気と氷雪が大爆発を起こし、突撃しようとしていたレオレオニダスを巻き込んで荒れ狂う!
「霊雪爆鎚コールドボンバー!」
雪月魔杖スノームーンを構えてキメ顔で叫ぶらぴか。
槍が脅威であるならば、間合いの外から攻めるまでのこと!
「おおおおおおおおっっ! まだまだァァァァァッ!」
レオレオニダスは盾を構え、吹き飛ばされぬように踏みとどまる。
霊気と冷気をやり過ごした後。
「ふンッッ!!」
盾に、そして体表に付着した霜を、怪人は闘気で吹き飛ばした。
「流石に耐えるねー」
「派手さ、威力ともに申し分ない! 益々気に入ったッ!!」
少なくないダメージを負いながらも。
「お前には筋肉の才能、筋才があるッ!」
「どんな才能それー!?」
レオレオニダスは(彼なりの)最大の賛辞をらぴかに送るのだった。
🔵🔵🔵 大成功

…………遅れて来たけど帰ろうかしら?
いえ、殿方の鍛えられた体は別に良いのだけれども
あのノリがムリね
令嬢と見た目が絶対に合わないタイプというか
ちょっと横に並ばないでくださる??
ええい、今日ほど自分の戦闘スタイルを恨んだ日は無いわ!!
攻撃回数と移動速度が厄介だけど
最初はオーラ防御やエネルギーバリアを使ってダメージを軽減
突き抜けてきた攻撃の痛みは耐えつつ
カウンター気味に【百錬自得拳】で仕掛けるわ!
というか多少強引にでも殴りに行くわよ!脚も出るけれども!
相手の手数は増えても威力は増えていない
こちらからのダメージは増えるのだから
凌げば勝機も見えるはず!
その性格、嫌いではないけれども
もう少し控えなさいな!
「やるではないか! やはり、この俺の目に狂いはないな!」
大音声が滝の音を掻き消すように木霊した。
上半身裸でムッキムキなレオレオニダスシデレウスは、長槍と盾を構えて上腕二頭筋に力を込める。全身を覆う筋肉の鎧は並みではない。
「さあ、俺はまだまだ行けるぞ! 全力でかかってくるがいいッ!」
ついでに暑苦しさも並大抵ではなかった。
あと声の大きさも。
「…………遅れて来たけど帰ろうかしら?」
その余りに余りな姿を見て、リーリエ・エーデルシュタイン(アンダー・ザ・ローズ・h05074)はぽつりと呟いていた。
槍と盾を手に、マッスルポーズをキメるレオレオニダス。
どうしてこうマッチョは筋肉を見せびらかそうとするのだろう。
――いえ、殿方の鍛えられた体は別に良いのだけれども。
鋼のような肉体もそれはそれでひとつの美の在り方ではある。英雄の鍛え抜かれた筋肉美は、絵画にも描かれるほどだ。
それはそれとして、
「この鍛え抜かれた筋肉に勝てると思う者はかかってこい! どうした! 誰もいないのかッ!」
「あのノリはムリね。令嬢と見た目が絶対に合わないタイプというか」
「む、新手か! そのオーラ、只者ではないな! さあ尋常に勝負!」
漂う熱気!
飛び散る汗!
リーリエは思わず口の端をひくひく痙攣させていた。
「見るがいいッ!」
そんな彼女の反応をよそにレオレオニダスは槍を中天に突き上げる。
雲間から差し込んだ陽光がその切っ先を、兜を、そして汗にきらめく肉体を照らし……そして怪人は絶叫した。
「これが――スパルタだァッ!」
声を放つや否や、全身の筋肉が膨張し、深紅の輝きを帯び始める。肉体が一回り、いや二回りほど大きくなり、漫画のように肥大化する。
これぞレオレオニダスの|決戦モード《マッスルフォーム》!
逃げるわけにはいかない。もう色々な意味で帰りたいが。
「この俺に並び立てるものならやってみるがいい!」
「……並びたくはないわね」
リーリエはさらりと言うと、突撃してくるレオレオニダスに、自身もまた突っ込んだ。
出来ることなら近づきたくはないけれど、行かなければならない。
何故ならリーリエが得手とするのは肉弾戦!
「ええい、今日ほど自分の戦闘スタイルを恨んだ日は無いわ!!」
「スピードもパワーも筋肉から生じるのだ! 見よ、我が力を!」
言ってることはだいぶアレだが、レオレオニダスの突撃は、さながら赤熱する流星のようだった。その速度、通常時の四倍!
――これは案外厄介ね? まともに食らいたくはないわ。
ヒュオと風巻く高速の刺突。移動速度が高まれば、突撃もそれだけ疾く鋭くなる。繰り出される槍の勢いを読んだリーリエは、早々に躱すという選択肢を捨て去った。判断を下し防御の構えを取るまでに一秒もかかりはしない。リーリエは拳から腕にかけてをオーラで覆い、繰り出される槍の切っ先を逸らした。エネルギーバリアを削って血が飛沫くも、浅手だ。
「まだまだまだまだまだァッ!」
――本当に暑苦しいわね!
繰り出される連撃をいなすリーリエ。
レオレオニダスの戦闘能力は爆発的に向上しているが、これがいつまでも続くわけではない。最低、60秒――負荷を考えれば保って数分だろう。しかしその時間は戦いの中では余りに長い。効果がなくなるまで待ってはいられない。
「どうした、手も出せないか!」
「あら、出せるわよ? ついでに脚も、ね!」
ひときわ鋭い刺突を冴えわたる視力で捉えると、リーリエは身を低くし、槍に沿わせるように拳を打ち出した。盾と槍の隙間、入りたくはないが懐に飛び込んでのレバーブロー! ぶあつい筋肉の奥に確かな衝撃を与える!
「ぐおっ! やるなっ!」
だが足も出るのはレオレオニダスも同じであった。繰り出される前蹴り。それをリーリエは、オーラを纏わせた手の甲で弾くようにして凌ぐ。これぞ彼女流の武器受け。姿勢を乱さず反撃の直突きを見舞い、相手がよろめいたところに薙ぎ払うような蹴りを繰り出す! ガゴンッと盾に防がれるも、レオレオニダスは余りの威力に、更に体勢を崩した。
「ようやく隙らしい隙を見せたわね?」
鎧砕きの拳が、筋肉の鎧を穿つようにクリーンヒット!
「ぐうッ……良い攻撃だ! だが!」
決戦フォームに突入した時点で、受けるダメージも飛躍的に増大している。だというのにこの筋肉怪人、決して足を止めはしない。
「これはどうだッ!」
レオレオニダスは脚力を活かしてバックステップ。そして地を蹴り跳び、槍の連撃を放つ。だがリーリエは肉を切らせて骨を断つとばかりにオーラガードしながら接近、肉弾戦の間合いに持ち込むッ!
放つは乱れ打ち、リーリエによる目にも留まらぬラッシュである。
熾烈な攻防はある種の芸術めいて、
「そろそろ時間ではないかしら?」
「ぬぅッ!?」
リーリエの見立て通り、レオレオニダスから立ち昇る深紅のオーラが燃え尽きるように弱まりつつあった。だが、漢の闘志は弱まるどころではない。逆境に、寧ろ燃え上がったのだ!
「フハハハハッ! 面白い! 俺はまだ倒れはせぬ! この五体、この筋肉、まだ限界に達してはおらんッ!!」
ぶぉんと音を立てる槍の横薙ぎ。
「その性格、嫌いではないけれども」
決戦モードは既に解け、ボディブローも効いている。
華麗なスウェーで薙ぎ払いを躱すリーリエ。
「もう少し控えなさいな!」
そして反撃の拳が、レオレオニダスの鳩尾にめりこんだ!
🔵🔵🔵 大成功

ぬおおおおおおおお!!!!!!
我の肉体の前には等しく脆弱!!!!
ひれ伏せえい!!!!!
■方針
筋肉による真っ向勝負です。回避しません。
両の拳で突き進むのみ。前進!前進!
腕がちぎれたら生えてきます。もしくはくっつけます。
(デッドマンなので)
無駄に咆哮をあげます(音響弾、衝撃波、吹き飛ばし)
「どうしたァッ! 俺はまだまだ戦えるぞ!!」
レオレオニダス・シデレウスが槍と盾を構え、全身の筋肉を隆起させる。
追い詰められれば追い詰められるほどに力を増すその戦い振りは、元となった|英雄《レオニダス一世》を彷彿とさせるものがある。
「さあ! 我こそはと思うものは掛かってくるがいいッ!!
獅子のように猛々しい怪人の咆哮。
だが、恐れも怯みもせず、それを上回る烈声で応える者がいた!
「ぬおおおおおお!!!!!! どう鍛えようが我の肉体の前には等しく脆弱!!!!」
堂々たる体躯を誇るデッドマン、即ち甲斐・力雄(世紀末死者?・h06785)である!
武術の達人の体を繋ぎ合わせてひとつの体を形作った狂戦士は、百雷が一度に落ちたかのような咆哮を轟かせてひた駆ける。
そう、力雄の狙いは一つ。
前進、前進、また前進――力の限りの猛突進である!
小細工は無用、ただ力を持って眼前の敵を薙ぎ倒すのみ!
「フッ――フハハハハハハハッ! 素晴らしい! お前のような漢と力比べをしてみたかったのだ!!」
レオレオニダスは心底愉快そうな笑い声を響かせた。燃え上がる闘志が真紅のオーラとなって怪人の逞しい体を包み、全身の筋肉が膨張してたちどころに|決戦モード《マッスルフォーム》が完成する!
「さあ来るがいい! スパルタの真の力を見せてやるッ!」
「おおおおおっ!!!! ひれ伏せえい!!!!!」
だが力雄も負けてはいない。
両者はオーラを滾らせ、そして激突した。
インパクトと共に凄まじい衝撃波が発生、破裂音にも似た音が轟き――次いで肉と骨が断たれる音が響く。飛んだのは腕。力雄の腕だ。レオレオニダスが長槍のリーチを活かして腕の付け根を刺突し、吹き飛ばしたのである。
すれ違う両者。
赤いマントを翻して振り向き、構えを取るレオレオニダス。
「ほう、なんというパワー! それにタフさ! 益々気に入ったッ!」
対して力雄は獣のように荒く息を吐いていた。その手には、吹き飛ばされた自らの腕が握られている。
それを――その切断面を、力雄は傷口に押し当てた。
「おおおおおおおっ!」
全身を震わせる力雄。赤褐色のオーラが揺らめき、千切れた腕をも包みこむ。骨が、腱が繋がり、血管めいたモノが切断面から無数に這い出て強引に組織を吻合。神経さえも意思があるかのように蠢いて繋がり合う。
全てが一瞬のことだった。
「お前の攻撃など、私には何の影響もない……!」
繋ぎ合わせた腕を握り込み、力の入り加減を確認した力雄は、すぐさま突進した。その勢い、先程の比ではない。斬られようが殴られようが、構いはしない。彼はただ眼前の敵を打ち倒すことに全力を注ぐ、狂戦士なれば――!
「ぬぉぉぉぉぉおおおおおおっ!」
「良いだろう! 受け止めてやるッ!」
それは怪人レオレオニダスが力雄というデッドマンを心から認めた証であった。
レオレオニダスは敢えて突っ込み、そして激突した。盾で受け止め全力を込めて抗う。脚がざりざりと地を抉り、轍めいた跡を残す。
「ぅぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおお!!」
音さえも、叫びさえも力として放つ力雄。その威力、常人が受け止めようとすれば血霧と化す程だ。
最低60秒の肉体変化。
それは両者ともに同じであった。
雌雄を決するのに、それだけの時があれば充分だ。
限界まで酷使された骨が、筋組織が悲鳴を上げる。
だが!
それこそが両者の望む戦い!
「これがスパルタの底力だ! 負けるものかあぁぁぁぁぁッ!!」
「ぬあああああああああああああああ!!!!!」
衝撃波が爆ぜ、両者を隔てた。
吹き飛ばされたのは――レオレオニダスの方だ!
筋骨隆々たる怪人は背中から滝に激突し、滝裏の断崖をひび割れさせる。
「力こそすべて! 技を超えた純粋な強さ、それがパワーだ!!!!」
両腕を広げて咆哮する力雄。
|筋肉《ちから》はすべてを解決する。ある意味、力雄はレオレオニダスの理想の体現者であった。
「ぐっ、ぬうっ……!」
怪人は水深の浅い滝壺に着水したかと思うと、滝に打たれながらも立ち上がり、毅然として前へ進む。
少なからぬダメージを負いながらも、レオレオニダスは力雄に長槍の切っ先を突きつけ――そして心からの称賛の言葉を口にするのだった。
「……見事……ッ! 力強き戦士よ、お前のような漢と戦えて光栄に思う!!」
🔵🔵🔵 大成功

私は特に意識的に鍛えている訳ではないのだが…(再び頭を抱え
戦わなければ救えないのなら…彼をほおっておく訳にはいかないな
多少距離をおいても真っ正面に立っていれば索敵も何もないだろう
脳き…ごほん、少々短絡的なようだし
ファランクスを組んで突撃してきたら陣の右側面側にダッシュで移動、指定√能力でチョークを投げつける
ロクセ・ファランクス…という戦法を知っているかい?
いくら堅牢な陣にも弱点は存在する…盾を持たない右手側のようにね
実践だけでなく理論も大切…懸命にトレーニングに励んでいた君なら分かるはずだ
戻っておいで、かつての君に
陣を破りそのままの勢いで怪人にも攻撃
チョークにしては固い?…気のせいじゃないかな
「おう、お前は我がスパルタ兵たちと走り、勝利した漢だな! 称賛に値する!!」
先行した√能力者と激闘を繰り広げたレオレオニダス・シデレウスだったが、どうやらまだ余裕があるようだった。そのスタミナ、流石にスパルタ兵を統べる者だけのことはある。
レオレオニダスのコリント式兜、その奥の闇に浮かぶような瞳がギラリと輝いて一人の男を見据えた。視線の先に立っているのは――、
「私は特に意識的に鍛えている訳ではないのだが……」
思わず頭を抱える、花園・樹(ペンを剣に持ち変えて・h02439)。
どうやら訓練施設での√能力者たちの活躍は、このレオレオニダスにしっかりと報告されているようだった。指導を担う者にとって、教え子の状態や成績を把握するのは極めて重要ではあるが――もちろん樹は生徒でもなんでもない。寧ろ教える側である。
「鍛えずとも、だと……!? ヌウ、まさしく天賦の才……! 活かさねば罪であろう! 俺が実戦にてトレーニングを施してやる!」
どこまでも自分にいいように解釈するレオレオニダス。
熱血教師というのも場合によっては悪くないが、無理な指導で人々を壊してしまうとすれば指導者失格だ。自らの方針に盲信する者もまた危うい。
「仕方がない、そうまで言うなら相手をしようか」
樹は目を細めると、眼鏡のブリッジを指で押し上げた。
――戦わなければ救えないのなら……彼を放っておく訳にはいかないな。
「いでよスパルタの|兵《つわもの》どもよ!」
威風堂々と立ち、赤いマントを風に靡かせるレオレオニダス。その手の長槍を勇ましく突き上げると、周囲に幾つもの気配が生じた。転瞬、彼を中心として筋骨隆々たるスパルタ兵たちが現れる。
整然と隊伍を組み、十二人一列×三列縦隊を構成する三十六名。
「ファランクスというやつか」
「然りッ! 我が鉄壁の陣形、崩せるものならば崩してみよ!」
教育者として世界史も修めている樹である。古代ギリシアで隆盛を極めたその堅固な密集陣形については知っていた。
――が、普通のファランクスとは違うんだろうな。
同時に、これが万能の√能力により形作られたという事実も、樹は忘れていない。仮に逃れようとした場合、スパルタ兵たちは索敵し追跡してくるだろう。ならばまずは正面から迎え撃つ構えを見せるまで。
「脳き……ごほん、少々短絡的なようだし」
「ぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
「ぬぉぉぉぉぉぉっ!!」
「ふんぬあぁぁぁぁ!!」
ぼそりと呟いた樹の声は、屈強なスパルタ兵たちのうるさすぎる大声にかき消されていた。密集し、威圧しながら近づいてくるマッチョマンたち。色々な意味で恐ろしいファランクスである。
「なんというか……気合いは充分すぎるくらいだな……」
樹はちょっと口の端をひくつかせると、すぐ冷静な顔に戻って地を蹴った。
「ロクセ・ファランクス……という戦法を知っているかい?」
まるで生徒たちに教えるかのような口調で問いを発する樹。
その指には、√能力で生じさせたチョークが何本も挟まれていた。
「なに!?」
「ぬうッ……!」
「ロク……なんだって!?」
流石は脳筋の兵士たち。
戦史とか学んでいるはずもなかった。
「……ならその一端を示そうか」
駆けながら樹は思う。レオレオニダスがテルモピュライの戦いで散った英雄レオニダス1世を元にしているならば、手下のスパルタ兵たちが知らないのも無理もないかも知れない。
なぜなら樹が口にした|斜線陣《ロクセ・ファランクス》は、テルモピュライの戦いから更に時代が下った紀元前371年、レウクトラの戦いでテーバイの将軍エパメイノンダスが採用したとされる陣形なのである。
もちろん樹は身一つ。その陣形をそのまま真似することは出来ない。が、重要なのはエパメイノンダスが精強なスパルタのファランクスを破った着眼点――その革新的な戦法である!
「いくら堅牢な陣にも弱点は存在する……|盾を持たない右手側《・・・・・・・・・》のようにね」
勇壮な狼そのもののように樹は戦場を駆け、ファランクスの最右翼――最も無防備な兵士めがけてチョークを投擲!
――こんな姿、さすがに生徒には見せられないな。
心の内で苦笑しつつも、ここで加減は出来ないとも思う。大きな両手の指に挟まれたチョークは散弾のように飛び、周囲のスパルタ兵たちに直撃。纏めて昏倒させる。
まるで最も弱い右翼に無数の矢でも射掛けられたかのようだった。
スパルタ兵たちは、貴重な教訓を得たが、それを活かす間もなく消えていく。
三六人で構成される陣形は、瞬く間に崩されていった。
「ムウウ……まさかここまでやるとは……!」
呻くレオレオニダス。
「実践だけでなく理論も大切……懸命にトレーニングに励んでいた君なら分かるはずだ」
「幾ら理屈を捏ねようが無益! 生半可なやり方では力は付かん! 故に限界を超える鍛錬! それ以外にないのだ!!」
「ああ……それが君の」
樹はレオレオニダスの叫びの中に、どうしようもない遣る瀬無さを感じていた。共感力・洞察力を求められる教師だからこそ、その思いに気づけたのかも知れない。
――なんらかの挫折を味わったということか?
だとすれば、やはり救いの手を差し伸べるべきだ。
「今まで努力を積み重ねてきたのだろう? その志を歪めてはいけない」
少々手荒くなったとしても、今ここで。
闇から引っ張り上げよう。
「戻っておいで、かつての君に」
願いと力を込めて投じたチョークが、ジャイロ回転するように飛んだ。白墨の雨がレオレオニダスの肉体、そして兜にも直撃する。
直後、顔を覆っていた防具に罅が入り、爆ぜるように割れた。
金髪の青年が、額から血を流しながら樹を見据える。
未だ狂気を宿した瞳は、しかし怪人となる前の穏やかさを宿しているようにも見えた。
怪人が砕けたチョークを見下ろして笑う。
「素晴らしい攻撃だった。が…………チョークにしては硬いな?」
「……気のせいじゃないかな?」
樹は反射する眼鏡の位置を直しつつ、真顔で応えた。
🔵🔵🔵 大成功

獅子の如き威容、まさしく勇猛なる者かと存じあげます
が、稽古と言いながら振るうモノが暴力ではなりません
ええ、刀を持つ武士も昔は東の夷と誹られた者
されど、風雅と共に佇み、高潔を以て鳴るようなったのは――力ある者が奪う乱世を鎮めるが為に
スパルタという文化を否定は致しません
筋肉、力と姿で畏怖をと敷くのであれば、私がひとの心と情を知る刃で打倒してみせましょう
深紅へと輝く、速度を激増させる
ですが、手数が増えればそれは私が隙を見切る手がかりが増えるというもの
故に苛烈なる攻めというのなら、長槍を持つ側への側面へと移動し続けて攻め辛く
まずは【叢雲】による右側面への牽制強襲、重ねての流水の如き捕縛を以て敵の動きを制しましょう
下段に構え、迅くも静かな歩法で長槍を躱しつつ、その挙動、癖、或いは眼では見えない気の流れまでをも見切り得ていきましょう
刺突も伏線と牽制として
相手の動きを見切りきったのであれば、真っ向より【竜胆の剣刃】
「獅子というならば、この剣刃に臆すことなく切り結べますか?」
指先にて夜天の紗衣を払い落とし、緩やかに長槍の間合いに
先までで見切っていた穂先の動きを見切り、しなやかなる身からの早業で下段から跳ね上げる一刀で弾く――のみならずケラ首を斬り飛ばし、カウンターで迫らせるは破魔の霊気を帯びた一閃
「――勝負ありです。勇とは、信の中にあり」
肉体という己の器だけを信じていては、境地には辿り着けませんよ
雄大な自然を背景に、熾烈な戦いが繰り広げられていた。
幾度も手勢を召寄せては陣形を組み、崩されるほどに怪人は闘士を高めていく。戦いの中で兜は割れ、素顔が露わになっているが、その瞳に宿っているのは昏き狂気。
雄叫びを上げ、鋼の肉体を躍動させ、力の限りに戦う様は、金色の髪も相まって百獣の王を彷彿とさせた。
「おおおおおッ!」
長槍を大きく振るい、√能力者たちを飛び退かせた後、怪人――レオレオニダスシデレウスはその眼光を炯々と輝かせ、楚々として立つ少女を見据える。
「お前か! 聞いておるぞ! あの流麗なる剣の腕前を見せた者だな!」
争闘が漂わせる棲気の中、少しも怖じることなく前へ出たのは静峰・鈴(夜帳の刃・h00040)だ。樹海を渡る風が射干玉の黒髪を撫でる。英雄然とした怪人の前に立てば、両者は実に対照的だ。
片や筋肉の鎧を纏い、熱き闘気を燃え上がらせる漢。
片や美しき装束を纏い、夜空のように奥深い瞳をした涼やかな少女。
「獅子の如き威容、まさしく勇猛なる者かと存じあげます」
澄み渡る玉声は、熱気に満ちた空気の中に確と響いた。樹海の滝。絹の如き黒髪を背に流した和装の少女。その取り合わせは、ある種の美を醸し出しているが、怪人はそうした風情を解さない。
「うむ、お前にも見どころがある! その才、その靭やかな肉体、俺が存分に鍛え上げてやろうぞ!」
熱き言葉に目を伏せた鈴は、静かに首を一往復させた。
「稽古と言いながら振るうモノが|暴力《・・》ではなりません」
眼前の怪人は、如何にも武人といった風情だ。
レオニダス一世――シデレウスカードに描かれた英雄もまた、その勇武であらゆる障壁を乗り越えんとした者に違いない。護るべきもののために。
だが、眼前の怪人はその姿を借りたものに過ぎない。
力というものへの理解と探求が、未だ至っていないのだ。
或いはそれが、獅志丸悟郎の心に生じた弱さなのだろうか。
いずれにせよ稽古とは身を修め、肉体だけではなく心をも鍛えるもの。
力のみを求める鍛錬は、いつか精神をも歪め、壊してしまうだろう。
「暴力だと! だが弱者には何も出来ん! 如何に理想を掲げたところで、弱い者には何も成し遂げられぬ!」
「身に過ぎた力は自らも、他者も滅ぼします」
滔滔と淀みなく言葉を紡ぐ鈴。
「刀を持つ武士も昔は東の夷と誹られた者。されど、風雅と共に佇み、高潔を以て鳴るようなったのは――力ある者が奪う乱世を鎮めるが為に」
恥を知り名誉を重んずるようになったのもまた、精神的支柱を確固たるものとし、以て力を制御せんとした証と言えるだろう。暴力は更なる暴力を呼び起こす。力持つがゆえに、理想と現実の狭間で武士は克己し、肉体のみならず心をも磨いてきたのだ。
「スパルタという文化を否定は致しません」
古代ギリシアの闘士たちも力とは何かを探求したに違いない。強き者こそが生き残るという価値観。それもまた、民草の生存を揺るぎなきものとするための一つの方策であったのだろう。
だが、眼前の怪人が語る力は、そのようなものでさえない。
故なき力。目的なき力である。
だからこそ、その妄執をここで断つ。
「言葉より、剣にて証を示した方が良いのでしょう」
鯉口を切り鞘を払えば、神霊の涙を以て紡いだという謂れのある霊刀――即ち顕明剣『夜帳』の刀身が露になる。夜露に濡れたかのような刃は霊気を漂わせ、木漏れ日にきらと輝いた。
「筋肉、力と姿で畏怖をと敷くのであれば、私がひとの心と情を知る刃で打倒してみせましょう」
「良し! どちらが強き者であるか、闘いを以って明らかにしよう!」
レオニダスの名を冠する怪人シデレウスは、配下のスパルタ兵たちと比べれば、遥かに物の道理を考えられる漢ではあった。だがそれと物わかりが良いのとはまた別である。寧ろ深く考えるが故に、力というものの持つ陥穽に陥ってしまった――そう鈴の夜色の双眸は見透す。さながら暗き湖面の如き心に潜む、人の弱さを捉えるかのように。
「おおおおおおおおおッ――!」
烈声とともに怪人の五体の筋肉が膨張し、ボウと燃え上がる。その闘気、火焔の如し。真紅の輝きを体したレオレオニダスは槍を構え、そして瞬時に鈴へと刺突を放つ!
「行くぞッ!」
風。
黒髪が靡き。
いままさに鈴の体があった位置を槍の穂先が貫く。
よほどの達人でも、今の初撃で膝を屈していただろう刺突。二の太刀要らずならぬ二の槍要らずの一撃だ。それをさらりと躱してのけた鈴は、そこから迅駛の踏み込みを見せた。怪人が槍持つ方へ。
――間近で長槍を振るうのは難しいもの。
槍の主要な攻撃法と言えば突くか、薙ぐか、或いは叩くか――中には投擲という方法もあるが、いずれにせよ槍持つ手の側に近付かれれば、自由自在には遣えない。
「甘いぞッ!」
ならばと怪人は反応する。強化された脚力を活かして槍の間合いに持ち込もうというのだ。駆け引きなど碌に考えぬだけに、レオレオニダスの決断は獣じみて速い。
だが、鈴の『読み』はそのような速度さえ問題としなかった。
一息にと瞬け。
怪人が次の一手に出る前に、既に霊刀の柄を握り込み、弦月めいた斬撃の弧を描いている――!
「ヌウッ!?」
胸板を薄く裂かれるだけで済んだのは怪人がその俊足を活かして飛び退いたからだ。そう、凡庸なる者は見ただろう。否である。今の斬込みさえ牽制。飛び退いた怪人は次の動きに移るまでに僅かな間を要する。流々たる歩法で幻惑しながら鈴が霊刀を振るえば、怪人は身動きが取れず、もはや彼女の術中に|捕えられている《・・・・・・・》のも同義だ。
「舐めるなよ!」
レオレオニダスにとって、槍だけではなく盾さえも立派な武器であった。長槍を横薙ぎにし、ついで盾を突き出し、小癪な対手を弾き飛ばそうと試みる。
だが鈴は霊刀を下段に構え、足音さえ響かせぬような歩法を以って躱し、怪人の攻撃は流れる水を相手しているかの如く手応えなきまま終わる。
その膂力を持って滅多矢鱈に槍と盾を振るうレオレオニダス。
「ぬうぉぉぉぉぉッ!」
それは鈴に手の内を曝しているのも同じであった。
――手数が増えればそれは私が隙を見切る手がかりが増えるというもの。
足運び、体捌き、筋肉の遣い方、そして槍と盾の術技。如何なる遣い手でも特有の癖があり、それを消すことは出来ぬ。鈴は黒髪を虚空に流すように駆け回り、怪人の槍撃を避け、頃合いを見て攻勢に出た。
「躱せますか?」
瞬きの間に繰り出されるは、刺突三連――!
三条の輝線がそれぞれ人体急所を狙うも、レオレオニダスは円盾でそれを防いでいた。壱、弐、参――奏でられる三撃。音が重なり、防ぎきれなかった怪人の筋肉で鎧われた体から血が飛沫く。
「ヌウッ!」
ダダッと後ろに下がり、腰を前へと屈めそうになりながらもレオレオニダスは辛くも体勢を整える。狂気がその精神を、そして肉体を支えていた。傷を負うば負うほど、その闘志は高まっていく。
「まだまだあッ!」
戦っているのだ。
胸の内の何かと。
であるならば、この戦いを以て、力の本質――その一端を示すまで。
「獅子というならば、この剣刃に臆すことなく切り結べますか?」
「無論ッ! 俺は何ものをも恐れぬ! 来るがいいッ!」
鈴の瞳が僅かに輝きを帯びた。白き繊手が美しき夜色を灯した羽織を――夜天の紗衣をしゅると払い落とす。再び両の手で顕明剣の柄を握り込み、ひたりひたりと長槍の間合いに踏み入る。
その剣気の凛冽さは、怪人がついぞ触れたことのないものであった。
「ぐ、ぬうっ……おぉぉぉぉぉぉっ!」
まるで罅割れた巌に清らかな水が染み入ってくるかのようだ。
気圧されてはならぬと槍の柄に力を込め、レオレオニダスは渾身の刺突を放つ。
狂気と執着が渾然となった一撃は、荒ぶる心を乗せて空を貫き裂き鈴を狙う。直撃すれば鮮やかな血花を咲かせるそれに、鈴は敢然と飛び込み、身を低くした。地を踏み、そして跳ね上げるような早業の一刀! 斬、と槍の螻蛄首が切断され、回転しながら宙を舞う。
驚く間もあらばこそ。
その時すでに鈴は顕明剣を振り被っている!
「――勝負ありです。勇とは、信の中にあり」
破魔の霊気を帯びた袈裟懸けは、さながら如法暗夜に煌めく鮮やかな銀弧。それは余りにも美しく、そして余りにも決定的な一閃であった。
苦鳴をあげる暇さえない。
「…………!!」
切り裂かれたレオレオニダスがよろめき、歯を噛み、遂に膝をついた。
実に両者は対象的であったのだ。
片や肉体の強さのみを希求し盲信した男。
片や武技を磨き、心の在り様を探求し、自らの道を歩み続ける剣士――。
「肉体という己の器だけを信じていては、境地には辿り着けませんよ」
妄念のみを注いだ心で、凌駕できる道理などなし。
顕明剣を構えて残身する鈴の傍らで、カランと槍が地に落ちた。
怪人の身体から瘴気めいた闇が発散し、見る間に放散していく。
後に残るのは、金髪の、体格の良い青年の姿。
「俺は…………間違っていた、のか……」
呟く青年が、立ち上がろうとする。
だが、出来ずに蹲る。
しかし、心まで折れているわけではない。
敗北した一人の男が自らの足で立とうとする――その姿に、鈴は微かに頷いた。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功
第3章 ボス戦 『『ドロッサス・タウラス』』

POW
タウラスクラッシャー
【星界の力に満ちた堅固な肉体】による近接攻撃で1.5倍のダメージを与える。この攻撃が外れた場合、外れた地点から半径レベルm内は【一等星の如き光に満ちた世界】となり、自身以外の全員の行動成功率が半減する(これは累積しない)。
【星界の力に満ちた堅固な肉体】による近接攻撃で1.5倍のダメージを与える。この攻撃が外れた場合、外れた地点から半径レベルm内は【一等星の如き光に満ちた世界】となり、自身以外の全員の行動成功率が半減する(これは累積しない)。
SPD
ドロッサス・スマッシュ
【星界金棒】で近接攻撃し、4倍のダメージを与える。ただし命中すると自身の【腕】が骨折し、2回骨折すると近接攻撃不能。
【星界金棒】で近接攻撃し、4倍のダメージを与える。ただし命中すると自身の【腕】が骨折し、2回骨折すると近接攻撃不能。
WIZ
アクチュアル・タウラス
【星炎】のブレスを放つ無敵の【金属の牡牛】に変身する。攻撃・回復問わず外部からのあらゆる干渉を完全無効化するが、その度に体内の【星界の力】を大量消費し、枯渇すると気絶。
【星炎】のブレスを放つ無敵の【金属の牡牛】に変身する。攻撃・回復問わず外部からのあらゆる干渉を完全無効化するが、その度に体内の【星界の力】を大量消費し、枯渇すると気絶。
「どうやら大変な迷惑をかけたようだ……。ありがとう、そして、申し訳なかった。謝っても済まされないだろうが……」
シデレウス化が解かれ、獅志丸悟郎は本来の姿に戻った。彼は√能力者たちに心からの謝意を告げると、事の成り行きを語り始める。
元は病弱だった彼は体を鍛えることで自らの弱さを克服しようとした。当初は自分の成長が実感できて楽しく、見違えるように筋肉もついたが、ある時、壁にぶつかった。
思うように重量が上げられず、見た目の変化が止まり、周りからの言葉も耳に入らなくなった。焦りからオーバートレーニングを自身に課す日々。
ジムの帰りにカードを拾ったのはそんな時だ。
『レオ』と『レオニダス』のシデレウスカード――二枚が揃った時、獅志丸悟郎は力を追い求める怪人と化した。
「すべては俺の弱さが招いたこと……」
悄然として再び罪を謝そうとする悟郎。
その言葉を。
不意の叫びが掻き消した。
「そうだ! すべては貴様が弱かったからに他ならぬ! 単純な筋肉馬鹿も少しは物の役には立つと思ったが、まさかこのような敗北を喫するとは。使えぬ奴めが!!」
地響きを立てて現れたのは、大棍棒を引ッ提げた巨牛の如き怪人。
ゾーク12神が一柱、ドロッサス・タウラスである!
「成ったばかりの怪人を倒したくらいで調子に乗るなよ! 我と遭ったが運の尽き! 力の差を思い知らせてやる!」
その身は神聖を持ち、傷つけることは極めて困難であるという。
だからこそ他者を見下しているのだ。
確かに、その実力はレオレオニダスを大きく凌駕する。
だが、相まみえた以上、敗北するわけにはいかない。
神を名乗る|王権執行者《レガリアグレイド》と、いま此処で雌雄を決するのだ――!
※第三章はゾーク12神の一柱、ドロッサス・タウラスとのバトルです。
シデレウス化を解かれた獅志丸悟郎はまだ動けるため、安全な場所に退避します。プレイングで保護する必要はありませんので、存分にドロッサスと戦っていただければと思います。(悟郎への声掛けは可能です)。
それでは良き決闘を!

そう… 全ては弱いのが原因…
己の肉体を信じきれぬ弱き心が敗北をもたらす…!!
みよ!我の完璧なる肉体を!!うおおおお!!!(無駄に大地を揺るがす咆哮を上げる)
(筋肉を強調するポージングをした後、突進する!!)
■方針
両の拳でまたもや真っ向勝負!
隙がある場合、空高く飛び上がって背中に飛び乗ります。(ジャンプ、空中ダッシュ、騎乗、怪力、踏みつけ)
あとは怪力と威圧と咆哮で前進!前進!
「そう……全ては弱いのが原因……!」
響く重厚な声に、立ち上がろうとしていた獅志丸悟郎が、ハッと顔を上げた。
瞳に映るのは、大きな――決して超えられぬであろう、巌のような背中だ。
「己の肉体を信じきれぬ弱き心が、敗北をもたらす……!!」
ザッと大地を踏みしめて前へ出る漢、その名は甲斐・力雄(世紀末死者?・h06785)。武人の体を繋ぎ合わせた|狂戦士《デッドマン》は敢然、巨体の|王権執行者《レガリアグレイド》と対峙する。
戦場で傷ついた者に、力雄は厳しい。冷徹でさえある。
そう、戦士に弱さは要らぬ。
戦場で弱みを見せた者は、無惨に叩き潰されるだけだ。
戦いの場に慈悲はない。
強きものこそが勝ち残る。それが闘争である。
だが力雄の厳しき言葉は、期せずして、悟郎に現実を知らしめる叱咤にもなっていた。
「フム、骨のありそうなヤツが出てきたではないか。しかし! 我が力と比べれば塵芥も同然である! 一息に捻り潰してくれようぞ!」
「御託はいい! 我がお前を上回る!! それだけだ!!!」
上半身をかがめるようにして拳を腹の前で突き合わせる力雄。
そのポーズこそは、モストマスキュラー。|最も発達した筋肉《・・・・・・・・》を意味するポージングに、僧帽筋や三角筋をはじめとした上半身の筋肉が爆発的に膨張する!
「見よ! 我が完璧なる肉体を!! うおおおおおおおおおおおお!!!」
咆哮が大地を鳴動させる。
大気を、木々を、そして身構えたドロッサス・タウラスをビリビリと振動させる狂戦士の雄叫び。大音声による衝撃波が収まるより速く、力雄はドロッサスに突進した!
大柄な体が、消えた――獅志丸悟郎には、そう見えたに違いない。そして次の瞬間、力雄はドロッサスとぶつかり合っている!
肉体そのものを兵器とする力雄の突撃は、それだけで重戦車の衝突にも匹敵する。赤褐色に輝く巨体が激突した瞬間、耳を聾する轟音が響き渡り、流石のドロッサスもザリザリと両足で地を抉った。
「前進、前進、前進ッ!! 突撃あるのみ!!!」
そして、打撃、打撃、打撃、打撃、打撃、打撃――!
一撃一撃が余りに重い拳を、力雄はドロッサスの聖性に護られた体に叩き込む!
たまらず弾かれるドロッサス。
「なるほど、怪人を圧倒するだけのことはある! だが!」
否、吹き飛ばされたのではない。敢えて距離を取ったのだ。
ブオゥンッッ! 振り抜かれた大棍棒が尚も突撃しようとしていた力雄に直撃! 強かに吹き飛ばす!
「ぐッ、おおぉぉぉぉぉッ!」
本能的に腕でガードしていた力雄が地面を転がりながらも衝撃を殺し――そして痛みを感じていないかのように立ち上がる。いや、彼は真実、痛みを覚えない。苦痛に顔を歪ませない。苦鳴もあげはしない。
痛みは戦意を挫くもの。
だが、力雄にそのような状況は発生し得ないのだ。
「無益!! 今のような攻撃で我を倒すことはできぬ!!!」
「フム、意気は褒めてやる。が、その体ではもう戦えまい?」
力雄の半身は、見事なまでに拉げていた。
大棍棒に打たれた腕は確実に折れている。肋骨も数本いかれていた。
が、今の一撃を受けて原型をとどめているだけでも驚嘆に値する。常人ならば肉片となって吹き飛んでいたに違いない。
そして――力雄はまだ本当の力を開放してはいない!
「これが我の本当の力だ!!」
メキメキと骨が蠢き、筋肉が蠕動し、折れた腕が大きく震える。
「我の力はお前のパワーを越える! おおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!」
完全回復を待たずに力雄は再び突貫! 肉体に|常時回復《リジェネ》をかける『究極の肉体』の効果は継続中だ。受けるダメージが増幅しようが、関係ない。痛みを感じぬ力雄にとって、この能力は極めて合理的である。
「甘いわッ!」
激突しては棍棒に弾かれ、更に激突しては弾かれる力雄。
砲弾そのものを弾き返すような離れ業をドロッサスは繰り返していた。
そのたびにボロボロになっていく力雄だが、構いはしない!
「がああぁぁぁぁぁぁぁああああああああっ!!!!」
ひときわ大きな咆哮。そして突撃!!
それに合わせてドロッサスは大棍棒を振るうが、渾身の一撃は、虚しく空を薙いだ。ドロッサスの体に影が落ちる。
「上だと!?」
そう、跳んだのだ!
ジャンプ、そして虚空を蹴り、その勢いと体重を最大限に利用して。
ドロッサスの背中に強烈なストンプキックを見舞う!
「ぐ、がッ!?」
大地にクレーターができるような衝撃。
ドロッサスの脚が地面にめり込む。
反動を活かして素早く着地した力雄がその隙を逃さず突撃を仕掛けた!
「我の勝ちだ! おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
地を震わせる咆哮。
渾身の突撃が、遂にドロッサスを吹き飛ばした!
直後、√能力の効果時間が切れて片膝を突く力雄。
息は荒く、体はひどく打ちのめされていたが、強大な敵を力で上回ったのだ。
その顔には、狂戦士の不敵な笑みが刻まれていた。
🔵🔵🔵 大成功

おおお、黒幕でてきたね!
犯人は自分の成果を確かめたくて現場に来ちゃうって言うけど、神でもその誘惑には勝てないのかなー?
出てきたからにはここで倒しちゃうよ!
傷つけにくいってことだから、チャンスに一気にぶち込むような感じでいきたいね。
殴り合い強いっぽい見た目だから、間合いを離して[霊雪心気らぴかれいき]をいろんな部位狙って撃ち込んで様子を見て、弱点部位を探して、見つかったらそこばかり狙うよ!これで√能力を使わせられないかな?
敵が√能力を使ったら【霊雪叫襲ホーンテッドスコール】やっちゃうよ!
キミの能力は干渉を無効化するたびに何かを大量消費するんだよね?300回も大量消費したらどうなるのかなー?
「なるほど、やはり怪人を打倒できるだけの力はあるようだ」
√能力者の痛烈な一撃で大きく吹き飛ばされたドロッサス・タウラスは、しかし平然と立ち上がった。重々しく歩を進める|王権執行者《レガリアグレイド》は強烈な威圧感を放っている。
「おおお、流石は黒幕って感じだね!」
ちょっと慌てた素振りを見せながらも、雪月・らぴか(霊雪乙女らぴか・h00312)は雪月魔杖スノームーンを構える。
此処まで来たのだ。あとは決着をつけるのみ。
――でも、流石に物凄く頑丈みたいだね。
ドロッサス・タウラス――神聖の加護を受けたその体は、全くの無傷にさえ見える。だが√能力者による全力の猛攻を受けて、ノーダメージである筈はない。
「それにしても、わざわざ怪人の働きを見にくるなんて案外マメだよね」
「……なんだと?」
「犯人は自分の成果を確かめたくて現場に来ちゃうって言うけど、神でもその誘惑には勝てないのかなー?」
らぴか、煽る煽る。
いや彼女自身にその自覚はないのかも知れない。それくらい自然にさらっと口をついて出た言葉であり疑問なのだろう。
ドロッサスは怒り狂う――かと思えば、さにあらず。
その度量を示すように豪快に笑ってみせた。
「ふははははは! 口の回る奴よ! さあ力を解き放つがいい。我がそれを叩き潰してやろう。完膚なきまでにな!」
「もちろん! 手加減はしないよ!」
らぴかとしては、目の前の|王権執行者《レガリアグレイド》が、どの程度の力を持つのかに少々興味がある。恐ろしくはあるけれど、どこまで力が通用するかも。
「出てきたからにはここで倒しちゃうよ!」
「良い! どこまでやれるか試してやろうぞ!」
地を踏み鳴らしてドロッサスが突っ込んでくる。
巨牛に似た外見に相応しい、超重量を活かした猛突撃である。√能力ではない――にも関わらず、そこらの木々を容易く薙ぎ倒せるほどの威力は間違いなくある。
「わわわ、いきなり突進してきた!?」
慌てた素振りを見せながらも、らぴかはパニックに陥ることなく地を蹴って後退した。|相手《てき》は見るからに重量級だ。棍棒を手にしているのを見ても、肉弾戦に秀でているのは一目瞭然。
――まずは間合いを離さないと!
桃色の髪を翻して後退。
同時、雪月魔杖スノームーンが、霊と氷雪の力を帯びて輝いた。
らぴかの内から湧き出る、霊雪心気らぴかれいき――その力を雪月魔杖に纏わせたのだ! きらきらした輝きを帯びたスノームーンを振るえば、霊気と冷気が渾然一体となって形をなす。それ即ち、鋭利な氷柱。鋭い|霊気《冷気》が、尖頭弾もかくやとドロッサスに襲いかかる!
だが、ゾーク12神の一柱――堅牢なり!
「フハハハハハハハッ! 効かぬ、効かぬぞっ!!」
「うわわ、止まらない……!?」
あろうことか、ドロッサスは殆どガードもせずにその氷柱すべてを受け切りながら突進してきた。大棍棒で打ち払ったものもあったが、その堅固さは、流石に神聖の護りに包まれているだけのことはある。
「はわわっ!?」
らぴかは咄嗟に横っ跳びに跳び退いた。
ドロッサスが勢いを殺して方向転換するが、その間にも巻き添えを食って薙ぎ倒された木々が倒れていく。反応がもう少し遅れていれば、痛烈な一撃を食らっていたかも知れない。
「あ、危なかったー!」
「思いのほか素早いな! だがその身のこなしもいつまで保つか!」
再び突進するドロッサス。
らぴかはあわあわと後退しつつ、氷柱を飛ばして攻撃を続ける。幸いにも、ドロッサスはそこまで素早い方ではない。
が、一撃でも喰らえば相当のダメージを覚悟せねばならない。
――これ普通に戦ったら無理ゲーじゃないかな……?
冷や汗をかきながら思うらぴか。
何だかスーパーアーマー状態の敵に延々攻撃を繰り返しているようだ。
だが、ゲーマーでもあるらぴかはこういう一見不可能っぽい状況を打破することに長けている。必ず活路がある。そう信じて、らぴかは攻撃を繰り返しながら敵の挙動をよく観察する。
――弱点は……あれかな?
狙うは、ドロッサスの脇腹。鎧めいた体の中で、最も薄いと思われる箇所だ。初手から、ドロッサスはそこを庇うように氷柱を剣で打ち払っていたのである。
――試してみる価値はありそうだね!
雪月魔杖を振るう。
氷柱が幾つも生成され、飛んだ。
防がれるのは承知の上だ。
本命は、弱手を狙った一撃のみ!
「……がっ!?」
果たして――装甲の薄い箇所を氷柱に貫かれて、ドロッサスは僅かによろめいた。
「この俺に痛みを感じさせるとはな……褒めてやろう! 褒美に我が力の一端を示さん!」
雄叫びを上げると、ドロッサスの体が金色のオーラに包まれた。その装甲が煌めき、両腕を大地に突き立てると、巨体が見る見る内に変形していく。
こうなれば最早、弱点など突きようもない。
だが――、
「変身中のところ悪いけど、させないよっ!」
むざむざ敵の好き勝手になどさせるものか。
雪月魔杖スノームーンに力を込めて、天高く突き上げる。
そして、すぅぅと息を吸い込み、
「本日の天気はーっ、霊と雪が降ってぇ、風が強いでしょー!!」
大声を放った刹那、叫喚する死霊と硬い雪が混じった暴風がドロッサスを中心に吹き荒れ始めた!
無数の機銃弾が着弾したかのような音が、嵐の中に響き渡る。√能力により生じた硬い雪玉がドロッサスに衝突しているのだ! 死霊はその悲鳴を以ってドロッサスの精神を苛み、徐々に体力を削っていく。
霊雪叫襲ホーンテッドスコール――霊雪も、叫喚も、いつ止むとも知れずに吹き荒れ続ける!
「無駄だ! いかなる攻撃も我が無敵の体には通らぬ!」
「でも、キミの能力は干渉を無効化するたびに何かを大量消費するんだよね?」
それもある意味、ゲーム的な考え方ではあった。
攻撃・回復問わず、外部からのあらゆる干渉を完全無効化する――そんな芸当が、|リスクなしにできる筈がない《・・・・・・・・・・・・・》。
「300回も大量消費したらどうなるのかなー?」
ホーンテッドスコールにより生ずる霊雪と死霊の叫びは、一つ一つを見れば決して強い攻撃ではない。だが、そのたびにドロッサスの星界の力は大量に費やされる。実に300回の攻撃。その果てに待つのは――エネルギーの枯渇のみ。
「馬鹿、な――」
「もうちょっと考えて力を使うべきだよ――ねっ!」
気を失ったドロッサスめがけ、らぴかは渾身の力で雪月魔杖スノームーンを振るった。生じた|霊気《冷気》の氷柱が、無防備なドロッサスの装甲の隙間に突き刺さる。
そして直後に吹いた氷混じりの飄風が、巨体を強かに吹き飛ばした!
🔵🔵🔵 大成功

元々病弱だった体を君は自分の力で鍛え上げた
それだけでも君は十分に頑張った
今回の件も焦りから冷静さを失っていただけだ
君は決して弱くなんてないよ
そして…彼は使えない筋肉馬鹿でもない
厳しい視線を敵に向けて
相手は王権執行者…一筋縄ではいかないな
攻撃、回復問わずか…ならば
万が一自身の√能力まで無効化されないよう可能な限り先制攻撃を狙いつつ指定√能力使用
こっそり獅志丸にも使用
回復能力を敵に使う…愚かだと思うかい?
だが…回復ですら無効化する度に君は星界の力を大量消費する
その先に待つのは…
いくら固くても動かない相手に攻撃を与えるのは容易い事だ
卑怯だと思うかい?
私はどんな手だって使うよ…純粋な思いを護る為ならね
瀑布の前で激闘が繰り広げられていた。
ドロッサス・タウラスと√能力者たちがぶつかり合い、この世のものとも思えない轟音が響く。身一つでぶつかり合う狂戦士がいれば、魔杖を手に、氷霜を放つ者がいた。そのすべてを受けきって、強大な|王権執行者《レガリアグレイド》は暴れまわる。
やや離れた林の中で、花園・樹(ペンを剣に持ち変えて・h02439)は戦いの様相を見ていた。眼鏡の奥の澄んだ瞳は戦場の光景を曇りなく映している。
まだ僅かながら時間がありそうだ。
戦うより先に、彼にはやっておかねばならぬことがあった。
一つは、シデレウス化が解かれた獅志丸悟郎を、ドロッサスの攻撃圏から逃がすこと。
そして、もう一つは――少しの間だけでも悟郎と話をしておきたかった。
「元々病弱だった体を君は自分の力で鍛え上げた。それだけでも君は十分に頑張った」
戦況に注意を払いながら、樹は悟郎に語りかける。
言葉――その力を信じているがゆえに。
「今回の件も焦りから冷静さを失っていただけだ。君は決して弱くなんてないよ」
小さく、後ろを振り返る。
悟郎と目が合った。苦笑するように笑っている。
「何だか学校の先生を思い出すよ。ハハハ……苦手だったな、体育」
樹は優しく微笑んだ。
「でも今は違うだろう? それも成長の証さ」
頷きが返ってくる。
それだけで――伝わったのだと確信できた。
「フン、弱き者に手を貸している余裕などあるのか? どのみち貴様らが死んだあとはソイツの番だ!」
圧倒的な膂力で√能力者たちを弾き飛ばしたドロッサスが、樹の背後にいる悟郎を指差す。
「力だけの筋肉馬鹿などもう要らぬ! その力さえ失ったゴミは始末するのみよ!」
「……違うな」
背中で庇いながらも、樹は前に進み出た。
眼鏡を通した視線は先程までとは打って変わって、鋭い。
「彼はゴミでもなければ、使えない筋肉馬鹿でもない」
努力は必ず報われる――そうであったら、どんなにいいか。
如何に日々の学習やトレーニングを積み重ねても、目標に達しない者だっている。
だからと言って、そうした人の頑張りを無価値と断ずるなど。
一人の教育者として、そんな非道を許すわけには行かない。
「ならばいずれが正しいか、戦いを以って証明してみせよ!」
「やれやれ、人をどうこうするよりまず自分の考え方を見直して欲しいな」
敢えて火に油を注ぎ、ドロッサスの注意を引く樹。
――相手は王権執行者……一筋縄ではいかない。
腕を振る動きで、手にしていた指示棒が伸びた。
「悪いが、君の思惑に乗ってやるわけにはいかない」
ドロッサスに歩みだした時には、既に樹は力を解放しつつあったのだ。
指示棒を振るうと共に、不可思議なモノが流れるように溢れ出した。数え切れないほどの漢字、そして数式だ。漢字は悪しき巨獣を縛る呪言めいて連なり、数式は勝利を導き出すように輝いてドロッサスを包み、縛り付ける。
「フッ、フハハハハハ! この程度の攻撃で我を束縛しようというのか! 笑止千万ッ!!」
闘志満々たるドロッサスは、即座に自身の√能力を以ってそれらを打ち破ろうとした。悪くない手だ。通常攻撃であったなら、樹の√能力に封殺されていただろう。
文字と数式が渦を巻き、取り巻かれたドロッサスが雄叫びを放つ。
びりびりと震える空気。
気圧されもせず、樹は冷静な状況判断に務める。
――ここまでは想定通りだ。どこまで上手くいくか。
金色に輝き始めた王権執行者が、燦爛たる金色の雄牛へと変貌を遂げた。
「喰らえい、√能力者! 弱者もろとも燃え尽きるがいいッ!!」
黄金の雄牛が星炎のブレスを放つ。
猛然たる火焔はただの炎ではない。
水素を核融合させて燃え上がる太陽、その|紅炎《プロミネンス》を思わせる圧倒的な焔だ。
灼熱の波が、樹を、そして背後の悟郎を焼き尽くさんと襲いかかる!
「……っ!」
思わず腕で顔を覆う悟郎。
彼に出来たのはそれだけだ。
不思議と痛みはない。
恐る恐る腕を下ろした彼は、瞠目して辺りを見回した。
「これは……」
自らの周囲にも数式や漢字――どこか懐かしい羅列が、輝きを放って巡っていたのだ。
「どうやら……一歩先んずることが出来たようだね」
響く声に悟郎は見る。
敢然と立ち続ける樹。その背中を。
凄まじい星炎のブレスは、ドロッサスを包む漢字と数式に阻まれていた。炎により生ずる風は、樹の髪や服を撫で去っていくのみ。何も成せぬまま、炎の勢いが急速に弱まっていく。
「馬鹿な……! なぜ通用せんのだ!!」
「通用しない、か。半分正解で半分不正解だ。君の攻撃は途中から|無かったことになっていた《・・・・・・・・・・・・》。もう一歩遅れていればこちらが焼かれていただろう」
ドロッサスの√能力は、星炎のブレスを放つだけのものではない。自らを金属の牡牛に変身させ、攻撃・回復問わず外部からのあらゆる干渉を完全無効化する。
対して樹の√能力は対象に行動不能と防御力強化、毎秒負傷回復状態を与える。
両者がぶつかり合った結果、星炎は虚しく消え失せた。
金属の牡牛への変身までは止められなかったが、それは織り込み済みだ。
「まさか……!」
「回復能力を敵に使う……愚かだと思うかい? だが……回復ですら無効化する度に、君は星界の力を大量消費する。その先に待つのは……」
ドロッサスがアクチュアル・タウラスを使用するのは、これで二度目。先行した√能力者の戦い振りを、樹は注意深く見ていた。一度目も破られ、既にドロッサスの体内にある星界の力は、大きく削がれていたのだ。
枯渇するのに時はかからない。
「傍若無人に振る舞って、すべてを拒絶する。だから、他者からの癒しさえも受け入れられない。――それが君の弱さだ」
自己の力に慢心し、他者を見下す驕慢の簒奪者。
何もかもを力で捻り潰せると驕るドロッサスは、|シデレウス怪人《レオレオニダス》が目指そうとした理想の、果ての果てだ。
それは決して最強などではなく――、
「そして、いくら固くても動かない相手に攻撃を与えるのは容易い事だ」
「卑怯な……! このような小細工で我を封殺しようとは……!」
眼鏡のブリッジを指で押し上げながら、樹は告げた。
「私はどんな手だって使うよ……純粋な思いを護る為ならね」
星界の力を使い果たして、一時的に気を失うドロッサス。
神鈴が涼やかに鳴る。
樹は呼び出した太刀を抜き、そして駆けた。火難を除けるとされている大口真神の霊気を宿した刀は、星炎を吹く邪悪な神を討つのにうってつけだ。
名を狼牙。神々しき一振りが、閃く。
斬ッッ!!
冴えわたる一閃が、ドロッサスを逆袈裟に斬り裂き、片方の角を斬り飛ばした!
🔵🔵🔵 大成功

夜天にて輝く雄牛の星神
御身が纏う星の神聖さは、その名に相応しいものでしょう
が、力と闘争を司るというのならば高潔なる矜恃を以て周囲に鳴らすもの
相対する他者、敵手を見下すようであれば
「ひとの身と心、そして技に遅れを取る事もなると……この刃を以て示しましょう」
覚悟定めたひとの心、その刃
いざご覧あれ、十二の星の神の一柱よ
夜帳の刀身を構えて発動するは【無明刃】
霊気を纏って距離を取りつつ、早業での加速と減速、更には左右や前に跳ぶフェイントを交えた疾走で相手を攪乱して参りましょう
夜風に舞う花びらの如く
掴む事の出来ない蝶の戯れの如く
幻惑の歩法で的を絞らせず、星炎のブレスを発動する前兆は見切りて避け、むしろ吐息の前後を隙と捉えて側面へと踏み込みましょう
星界の神聖なる力を持つ限り、その身は不朽
だからこそ守りの意識は薄くなるでしょう
ならばそこを突くのだと第六感を用いてタウラスの隙と急所を見出し、一閃の元に繰り出すは破魔の力を乗せた【夜の息吹】
干渉を無効化する度に消耗するでのあれば、瞬間に300の斬風に晒されれば星の神とて如何のものかと手数で攻め
「ひとに仇為す神は……妖異、そして祟り神と呼ぶのです」
故に斬ると、翻す切っ先で更に重ねて【夜の息吹】
都合600もの回数を無効化し、消耗すれば神をも討つ間隙を紡げる筈
「人の営みと心に仇為すそれらを斬ることこそ、夜帳の巫女が務め」
首を刎ねるべく、無明閃を繰り出します
神なる牡牛が咆哮する。
神聖に護られし巨躯は、如何なる攻撃でも傷一つ付かぬ――筈だった。
だが今や、その自負は崩れ去りつつある。
絶大な力を誇るドロッサス・タウラスの鎧めいた体には、既に幾つもの傷が刻まれ、右の角さえも断ち斬られて失われている。
然れども、ゾーク12神が一柱――その威勢、未だ健在なり。
√能力者たちを侮っていた|王権執行者《レガリアグレイド》は、事此処に至って、ようやく慢心の鉄鎖を解いた。ここまでの能力者たちの奮闘が、それをさせたのだ。
「我を相手によくぞここまで戦った。それは褒めてやってもいい。だがもう仕舞いだ。すべてを捻り潰し、焼き尽くしてくれようぞ!」
気勢、炎の如し。
声そのものが衝撃波めいて、大気を、木々をビリビリと揺らす。
その中で。
いま一人の√能力者が、強大なる王権執行者と雌雄を決しようとしていた。
名を静峰・鈴(夜帳の刃・h00040)――清淑なる立ち居の内に、研ぎ澄まされた武芸を秘めし夜帳の霊剣士である。
「夜天にて輝く雄牛の星神。御身が纏う星の神聖さは、その名に相応しいものでしょう」
まさに鈴のように澄んで響き渡る美しき言の葉。
敵手を軽んずることのない、畏敬さえ窺わせる態度である。
だが、ドロッサス・タウラスはフンと鼻で笑ったのみ。さながら贄に供された娘を見下ろすような傲然たる態度を崩さぬ。
「清冽なる娘よ、お前も無惨に焼かれたいか? 戦場の死とは等しく惨めなもの。踏みし抱かれる花のように、すべてが醜く崩れ果てる!」
神を名乗る簒奪者は、居丈高に威喝の言辞を弄する。
それで腰を抜かすなどとは思っていないだろう。
が、その有り様、まさに慢業重畳。
夜に咲く花のような身に、磨き抜かれた武技を修める鈴を――まるで一息に捻り潰してやるというような言い草である。
高慢の簒奪者に、鈴は眉一つ動かさずに告げた。
「力と闘争を司るというのならば、高潔なる矜恃を以て周囲に鳴らすもの」
「……なんだと」
僅かに伏せていた長い睫毛を上げて、|凛《リン》と討つべき敵を見据える。
粗暴なる力を以ってすべてを捻じ伏せんとする簒奪者。
確かにこの者こそ、力の本質を見誤ったシデレウス怪人の頭目たるに相応しい。金城湯池の城を思わせる堅固なるその身の奥に、何を抱いているのか。何を注いだのか。ドロッサスもまた、手駒として操ろうとしていたシデレウス怪人と同じ過ちを犯しているに違いない。
ならば。
「ひとの身と心、そして技に遅れを取る事もなると……この刃を以て示しましょう」
「ほざいたな小娘! よかろう! その屍、虚しく野辺に晒すがいい!」
大喝一声、巨大な棍棒を構えるドロッサス。
鈴は流れるような所作で顕明剣『夜帳』を構え、美しきその刀身に霊気を湛えた。
「覚悟定めたひとの心、その刃。いざご覧あれ、十二の星の神の一柱よ」
夜の色を瞳に宿した少女が飛ぶように地を駆ける。
夜帳の切っ先も夜を纏い、一陣の涼風が暗夜を吹き抜ける様を思わせる。
黒髪を、そして着物を翻して跳ぶ清らな剣士。
その麗姿は顕現した邪なる神を調伏せんとするかのようだ。
「如何に素早く走り回ろうが無駄なことだ! 我が力の前ではすべてが潰え去るのみ!」
傲慢な言葉とは裏腹、もはやドロッサスに油断はない。大棍棒は尋常ではない速度で振り回され、唸りをあげて大地を抉り、木の幹を吹き飛ばす。
「派手ではありますが、見切りさえすれば躱せない攻撃ではありません」
影の如くに駆ける鈴はその暴威から逃れ、ドロッサスを幻惑する。
加速と減速を織り交ぜた変幻自在の足運び。
右へ左へ。時に前にさえ出てみせる虚々実々。
力自慢のドロッサスは大地に爪痕を残し、また木々を容易く薙ぎ倒すも、縦横無尽に駆け巡る鈴の疾さに追随することはできない。
「動きには自信があるようだな! だが、いずれ息も切れよう! その時がお前の最期だ!」
「武を力のみと解釈すれば、そのような考えに至るのかも知れません。ですが――」
靭やかに、嫋やかに、そして涼やかに。
カコンッ――|黒い履き物《夜の足音》がドロッサスの心を射抜くように鋭く響き、鈴の疾駆は俊敏さを増していく。研ぎ澄まされた心気は淀みなく五体に伝わり、無駄なき身のこなしとなる。
其れ、夜帳の霊気を纏いし、無明刃の技の冴え。
「舞いの如くに足を運べば、身はどこまでも軽く、どこまでも駆けられるものです」
夜風に舞う花びらの如く。
揺蕩う水面に移る月影の如く。
掴む事の出来ない蝶の戯れの如く。
舞い飛ぶ人影は美しき幻もさながらに。
如何に棍棒打ち振るおうと、手応えなし――。
「ヌウゥッ! だが逃れるだけでは我を斬ることなどできぬぞ! 遊びは此処までだ! もはや逃げ場など与えぬ!」
振るえど振るえど、大棍棒はかすりもしない。その状況に容易く苛立ってしまうのは、彼の一つの弱点だ。
咆哮。
力の解放とともに巨体が燦爛と煌めいた。
足先から塗り替えられるように、見る間に金属の雄牛へと変貌を遂げるドロッサス。あらゆる干渉を拒絶し、自らは星炎の吐息で敵を焼き尽くすアクチュアル・タウラス――それは傍若無人なる王権執行者に相応しい、強力極まる√能力である。
「やはりそのような手に出てきましたか。ならば――」
対手の呼吸を見定めるのもまた、武道の基礎であり極意である。
夜の色を宿した玲瓏たる鈴の双眸は、簒奪者が攻撃に出る瞬間を確と見切ッていた。
――如何に常識の埒外にある√能力といえど、吐く息を星炎と化させるのであれば。
呼吸は必須。
鈴はタッと軽やかに地を蹴り、死域から逃れ出ていた。
轟ッッ――!!
唸りをあげる火焔は、まるで地獄の業火を顕現させたかのようだった。傲慢なる瞋恚の焔。その奔流に呑まれれば、力なきものは瞬時に消し炭と化す。だが幸い救い出された青年は危地を逃れており、鈴も後顧の憂いなくドロッサスに全力を発揮させることができた。
星炎の息吹は想像を絶する程の威力で広範囲を焼く。
|燃え盛る恒星《アルデバラン》の力を借り受けたかのような超常の猛威だ。
だが、炎を吐くという行為ゆえ、永続的なものとはなり得ない。
何もかもを燃やし尽くすかのような奔流。
それも遂には弱まり、終熄した。
煙たつその不毛地帯には――誰の亡骸も無し。
「避けた、だと……!? ならば……!」
ドロッサスの瞳が妖しく輝き、再び息を吸った。
ぐるりと首を巡らせてブレスを放とうというのだ。
円を描くような焔は、今度こそ夜帳の霊剣士を焼き尽くし、周囲の森もろとも消し炭へと変えてしまうだろう。
だが、二度目の攻撃を許す鈴ではない。
「星界の神聖なる力を持つ限り、その身は不朽。だからこそ守りの意識は薄くなるでしょう」
王権執行者ドロッサス・タウラス――今、その巨体はまさしく金剛不壊。
しかし、真実、そうであるのか?
不壊なる体というのは迷悟に惑いし人の目と心が映す虚像。
捉え方しだいで活路は開ける。
涓滴は岩を穿ち、一念は巌をも通すのだ。
無敵の体を崩せぬと誰が決めた――!
「夜が秘めたる刃風よ」
鈴は心眼を以って見透していた。
ドロッサスの金剛不壊の体。
その隙を。その急所を。
畢竟、それは鎧めいた体の、僅かな継ぎ目であった。金属の牡牛へと変じてもその総てが覆われたわけではない。大棍棒を振り回していた初手から、ドロッサスは無意識に急所を守るように立ち回っていた。その僅かな隙を鈴が看破できたのは、卓越した見切りの技の賜物だろう。
「横からだと! だが近づいてきたがお前の不明! 燃やし尽くしてくれる」
炎を吐こうとするドロッサス。
しかし、鈴からすれば余りに遅い。
「そうはさせません」
実に刮目すべき、美しい太刀振る舞い。
短く告げた鈴は既に夜帳の剣柄に力を込めて、冴えわたる一閃を描いている。
刀身から放たれるは夜色の斬風。墨痕淋漓たる墨染めの弧には星辰を思わせる煌めきが宿り、三百の斬撃となって襲いかかった。ドロッサスの金色の巨躯を、その弱点を斬って斬って斬り刻む――!
瞬間に300の斬風に晒されれば、星の神とて如何のものか――その斬撃の一刃一刃を鎌鼬と呼ぶのは些か不似合いかも知れぬ。何故なら容赦なく吹きすさび、刀痕刻む斬風は、他ならぬ|破魔の力《・・・・》を乗せたもの。
邪なる神を相手にするのであれば、それは覿面に威力を発揮しよう。
「無駄だ! 如何に斬ろうがこの体は傷つかん!」
「本当にそうでしょうか?」
さらりと言ってのける鈴。
手首を返し、袈裟に振るった夜帳で此度描くは横一文字。
破魔を宿せし夜の息吹が二閃目――流石のドロッサスも、この流れるような連撃には目を剥いた。霊刀が儀式のように厳かに、鋭く空を斬ったと見えた瞬間、斬風に更なる斬風が重なっていく。
「ひとに仇為す神は……妖異、そして祟り神と呼ぶのです」
剣風は、剣嵐と化した。
「人の営みと心に仇為すそれらを斬ることこそ、夜帳の巫女が務め」
斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬ッ!!
斬撃が織りなす夜の帳。夜の輝きに包まれたかのようなドロッサスが、剣嵐の中で遂に悲鳴を上げる。まるで狩りたてられ、絶命寸前の凶獣もさながらに。
「ガアァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!」
その悲鳴も長くは続かなかった。
星界の力を消費し尽くしたドロッサスはゆらりその巨体を傾がせ、膝をつく。
それを逃さず、夜帳の霊気を纏った鈴が、簒奪者にひたと歩み寄った。
この王権執行者を討たんとすれば、最後の瞬間まで気が抜けぬ。
呼吸を整え心気を澄ませ、鈴は夜帳を振り上げる。
そして静かなる気合いと共に振り下ろした。
まさに達人の技芸――切っ先に夜を纏わせし無明閃。
一刀の下にドロッサスの首が刎ねられ、地に転がった。
同時に、辺りで燃え盛っていた星炎も夢のように消え果てる。
すう、と息を吸い、整える鈴。
牡牛座を冠するゾーク12神の一柱は、此処に討ち取られた。
ひとの心、その刃によりて、神は倒されたのである。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功