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天使がいた村
●天使と犬
「どうしてこんなことに……」
ピンクを基調とした、かわいらしい|私室《へや》。窓際に置かれたベッドの上で、10歳ほどの少女―――ゲルダは布団を被ってうずくまっていた。
今日は朝から熱を出してしまい、珍しく学校を休んでいる。女手一つで育ててくれている|母《ママ》は「誰だって風邪くらいひくものよ。おとなしく寝てなさい」と、薬を買いに行ってくれたが……。
「コレが、私のカラダなの?」
ゲルダはギュッと己の身体を|抱《いだ》いた。
髪は白金、涙に潤む瞳は|黄金《こがね》、そして、細く小さな手足は白磁……。
ひと眠りして目覚めたら、身体が「|出来の悪い人間の偽物《未知の神秘金属》」に変わってしまっていた。
「こんな姿じゃ、みんな、|私《ゲルダ》だって気づいてくれないよ!」
ゲルダがそう叫んだ瞬間、クゥンとベッドサイドで鳴き声が上がった。
布団の隙間から、少女は声のした方へと視線を向ける。すると、そこには雄犬が座っていた。
「……サミー?」
それは、サミーと名付けられた、黒いジャーマン・シェパード・ドッグ。ゲルダが幼い頃からずっと一緒に暮らしてきた犬だった。
「だ、ダメよ、サミー。こっちに来ないで! 私を見ないで!」
もし、家族である|サミー《イヌ》に拒絶されたら、「お前なんて|ゲルダ《かぞく》じゃない」という態度を取られたら、きっと絶望してしまう。
「私、どうすればいいの? 誰か、助けて……」
一体何が起こったのか、そして、どうすればいいのか。
何も知らない少女は、ただ震えることしかできないのであった。
●星詠みが得たゾディアック・サイン
「誰が言ったかは忘れたが……人生ってモンは、まさに地獄よりも地獄的だよな」
五百住・遊悟(沈黙の掟・h03324)は、箱から煙草を1本引き抜いた。
「予兆を見たなら知ってると思うが……√汎神解剖機関のヨーロッパ各地で、善良な人々が『天使化』するっていう事件が発生してる」
指に挟んだ煙草を揺らしつつ、遊悟は星詠みの力で予知した内容を語り出す。
―――『天使化』とは、「善なる無私の心の持ち主のみ」が感染するとされるヨーロッパの風土病。
感染者の|殆《ほとん》どは、理性や善の心を失った『オルガノン・セラフィム』という怪物に変貌してしまい、本能的に天使を襲撃・捕食しようとする。
だが、理性も善の心も失わず、肉体だけが異質な存在に変貌し『天使』となる者がまれに現れる。
「|『羅紗の魔術塔』《敵対組織》の魔術士が、その天使たちを奴隷化して連れ去ろうとしている。
だから、その「天使になっちまったヤツ」を救出して欲しいんだ」
遊悟は一瞬遠い目をしたが、すぐに√能力者たちの方へと視線を戻した。
「今回、みんなに向かってもらいたいのは、ヨーロッパの田舎にある山村―――住人の大半が『天使化』しちまった村だ」
オルガノン・セラフィムがうろつく山村に、天使が取り残されている。遊悟はそう語った。
「まずは、村の中にいる|オルガノン・セラフィム《コイツら》を……その、排除、してほしい。
コイツらは、天使を喰おうと探し回ってるから……」
|オルガノン・セラフィム《身も心も怪物》になってしまった元住人たちも、元を正せば善良な人々。
だから、倒すしかない。彼らが望みもしなかった|殺人《つみ》を犯し、「人間としての尊厳」まで失ってしまう前に。
「次に、村の中央付近に建ってる一軒家に向かってくれ。そこに、天使が飼い犬と共にいるはずだ。
見つけたら、速やかに村の外まで連れ出してやってくれ」
他にも取り残された天使がいるかまでは|詠めなかった《予知できなかった》から、臨機応変に対応してくれ、と遊悟はすまなそうに肩をすくめる。
「ここに留まる危険を説けば、ある程度は自発的に|行動《脱出》してくれるはずだ。
ああ、敵の横やりが入らないよう、逃げ道に罠を張っておくのもいいかもしれないな。
場合によっては、天使を抱えて|突破《ダッシュ》するのもアリか。
……どんな手段を取るかは、みんなに任せる」
外で待っているのは、天使にとっては残酷な現実。
それでも、|村の外《げんじつ》へと連れ出さなくてはならない。
もはや|家の中《かこ》に留まることはできないのだから。
「ただ、天使を村外へと連れ出しても、それで終わりじゃない。
すぐに|『羅紗の魔術塔』の魔術士《天使を狙うもの》が追ってくるだろう」
―――ヨーロッパの秘密組織『羅紗の魔術塔』に属する、強大な羅紗魔術士『アマランス・フューリー』。
彼女は貴重な天使を奴隷化すべく、|√能力者《われわれ》からの強奪を試みるだろう。
「もしスムーズに|脱出《コト》が進んでいれば、『アマランス・フューリー』が直々にお出ましになるはずだ。
彼女は|天使《ターゲット》を奪われてなるものかと焦ってる。だから、まずはみんなの排除をもくろむだろう」
交戦する際は|彼女《アマランス》の撃破だけを考えればいい、と遊悟は説明した。
「もし時間がかかった場合は、彼女ではなく、彼女の仲間―――赤羅紗の魔術師『レッド・ウーレン』が出てくるだろう。
ソイツは、みんなと戦うことよりも、天使を奪取することを優先してくる」
少々難しい戦いになるかもしれないが、みんななら問題なく対処できるさ、と遊悟は言う。
「事情も分からないまま|肉体《じぶん》が変わっちまった。それだけで、相当な|精神的負荷《ストレス》のはず。
その上、|怪物《バケモノ》になっちまった|村の仲間《しりあい》から命を狙われるなんて……」
現実ってのはとても残酷で地獄的だな、と遊悟はつぶやいた。
「だから、天使を|苦境《じごく》から救い出してほしい。どうか、よろしく頼む」
遊悟は姿勢を正すと、√能力者たちに向かって奇麗に頭を下げたのだった。
これまでのお話
マスターより

この依頼は「(羅紗の魔術塔やオルガノン・セラフィムに狙われている)天使を、村から脱出させる」ことが目的となっております。
・第一章は集団戦です。オルガノン・セラフィムを倒してください。
彼らが|人間のままならば犯さなかったであろう罪を犯す《同じ村の仲間を殺す》前に、撃破してあげてください。
・第二章は冒険です。天使を村から脱出させてください。
事情を説明して自発的な行動を促したり、敵の妨害が入らぬよう手を打ったり、天使を抱えて駆け抜けたり、自分らしい手段で挑んでください。
ただし、天使は善良であるために、皆さんが危険な目に遭うのではないかと心配してきますので、安心させるような言葉があると良いかもしれません。
・第三章はボス戦です。村境にてボスと戦闘になります。
羅紗魔術士『アマランス・フューリー』か、赤羅紗の魔術師『レッド・ウーレン』、どちらかと戦うことになります。
第一章・第二章をスムーズにクリアしていた場合、『アマランス・フューリー』が直接やってきて、√能力者を排除しようとしてきます。
もし第一章・第二章で時間を取られた場合、『レッド・ウーレン』がやってきて、強引に天使を連れ去ろうとしてきます。
登場したのがどちらであっても、ボスを撃破することができれば、天使の救出は成功になります。
※もし、Ankerジョブ「天使」のキャラクターでの参加を希望される場合は、
「仕事や観光でこの村を訪れていた」あるいは「この村の住人だった」という風にすると、
シナリオに合流しやすいかもしれません。
(勿論、自然に合流できそうでしたら他の設定でも問題ありません)
それでは、皆様のご参加をお待ちしております。
3
第1章 集団戦 『オルガノン・セラフィム』

POW
捕食本能
【伸び縮みする爪】による牽制、【蠢くはらわた】による捕縛、【異様な開き方をする口】による強撃の連続攻撃を与える。
【伸び縮みする爪】による牽制、【蠢くはらわた】による捕縛、【異様な開き方をする口】による強撃の連続攻撃を与える。
SPD
生存本能
自身を攻撃しようとした対象を、装備する【黄金の生体機械】の射程まで跳躍した後先制攻撃する。その後、自身は【虹色の燐光】を纏い隠密状態になる(この一連の動作は行動を消費しない)。
自身を攻撃しようとした対象を、装備する【黄金の生体機械】の射程まで跳躍した後先制攻撃する。その後、自身は【虹色の燐光】を纏い隠密状態になる(この一連の動作は行動を消費しない)。
WIZ
聖者本能
半径レベルm内の敵以外全て(無機物含む)の【頭上に降り注がせた祝福】を増幅する。これを受けた対象は、死なない限り、外部から受けたあらゆる負傷・破壊・状態異常が、10分以内に全快する。
半径レベルm内の敵以外全て(無機物含む)の【頭上に降り注がせた祝福】を増幅する。これを受けた対象は、死なない限り、外部から受けたあらゆる負傷・破壊・状態異常が、10分以内に全快する。
√汎神解剖機関 普通11 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ヨーロッパの山岳地帯にある、小さな山村。
慎ましくも美しかったであろう村は、オルガノン・セラフィムと化した村人たちの手によって、今や地獄と化していた。
|建物《いえ》が破壊され、家畜も無残に殺され、|道路《みち》は泥か|体液《ち》か判別のつかない不明瞭な液体によって汚れていた。
「ギァァ……」
質の悪い|音声合成《AI音声》のような声をあげ、彼らは村の生き残りを探している。
それは、本能的な行為だった。|哀れな怪物《オルガノン・セラフィム》にはならず、真に『天使化』した―――肉体こそ変貌しているが、理性と善の心を失っていない―――者を捕食したいという。
本来持っていたはずの理性や善なる心は、彼らの中からとうに失われていた。
そうでなければ、昨日までの|隣人《同胞》を襲い、食らおうとなどしないだろう。
彼らが人間に戻ることはない。ゆえに、この場で葬るしかない。
元々は善良であった彼らの「人間としての尊厳」を守るためにも……。

美しかったであろう村が壊され無惨な状態になっていることも、それを為したのが元々善良だった人々であることも
その人々を、今から倒さないといけないことも
……やり切れないな
射線が通りやすい位置に移動して決戦気象兵器「レイン」を起動
射程内の相手を全て攻撃して、天使の捜索から意識を逸らさせる
敵がこっちに気を取られたら、数体にレーザーを集中させて撃破を試みる
聖者本能での回復を上回れるくらい集中攻撃しよう
囲まれないように距離を取りながら戦い、接近されたらスタンロッドで対処する
もう苦しむだけの理性も残されていないのかな……
少しでも苦しまないように、安らかに眠れるようにと願いながら止めを刺すよ
※アドリブ、連携歓迎

ほんっとに嫌な事件ですね! 昨日までの良き隣人に追われるとか。
襲われるほうも襲う方も善人!
……何より、彼女のお母さんも……。
やめです。感傷に浸っても、状況は待ってくれません。今できることをやる!!
早くゲルダさんを安心させてあげたいですけど、こんなに敵が多くては逆に怖がらせてしまうかもしれませんし。
逃走経路確保を優先しましょう。
少しでも【敵】の数を減らしておかないと。
ごめんなさい。
私はゲルダさんを助けたいので。私のために、あなたたちを攻撃しますね。
一撃の重さよりも手数重視の格闘スタイルです。 金属の体にどれだけ効くかはわかりませんが、精一杯お相手します!
赤黒く染まった村の石畳を踏みしめ、クラウス・イーザリー(希望を忘れた兵士・h05015)は状況を素早く確認する。
「ここが|件《くだん》の……」
今や見る影もないほど破壊された家屋の数々。散らばったレンガや石の年季の入りようから、先祖代々継がれてきた|家屋《もの》だったことがうかがえる。
無残に切り裂かれて絶命した家畜たち。その体格や毛並みから、これまで大切に育てられてきたことが手に取るように分かった。
だからこそ、余計に悲しく見える。これらの惨状が、その|主《あるじ》たる村人たちの手によって引き起こされてしまったことが。
「ほんっとに嫌な事件ですね! 昨日までの良き隣人に追われるとか」
クラウスの隣に立ち、見下・七三子(使い捨ての戦闘員・h00338)はため息をこぼす。
「しかも、襲われるほうも襲う方も善人だなんて」
善き人々だけが感染するという、『天使化』という名の風土病。
同じ|土地《むら》に住むがゆえに、村人たちは同じ風土病に罹患した。
けれど、その大半は『オルガノン・セラフィム』という名の|捕食者《かいぶつ》に、そして、たったひと握りの者だけが『天使』という名の|被食者《ひと》に変容した。
昨日まで笑顔を交わしあっていたであろう者たちが、今や喰う者と喰われる者に変わってしまった。
「……何より、彼女のお母さんも……」
それはきっと、自分たちが救出を頼まれた少女と、その母親にも当てはまるのだろう。
七三子の|呟《つぶや》きに、クラウスも同調した。
「ああ。……やり切れないな」
「そうですね」
|村人たち《かれら》はただ|風土病《やまい》に罹患してしまっただけ。
誰が悪いわけでもない。だからこそ、余計に空しく、悲しい。
「……でも、感傷に浸っても、状況は待ってくれませんよね。
今できることをやりましょう!!」
七三子は愛用の仮面を被って気合いを入れ直す。
クラウスも|粒子状のレーザー発生装置《レイン砲台》を起動させた。
「そうだね。
―――オルガノン・セラフィムは俺が引きつける」
クラウスは√能力の【決戦気象兵器「レイン」】を発動させる。
|彼ら《クラウスたち》の近くにいたオルガノン・セラフィムたちが、|頭上《そら》から降り注ぐレーザーの雨に貫かれ、その体勢を崩していく。
「了解です。では、私は各個撃破のお手伝いを!」
|オルガノン・セラフィム《てき》に生まれた隙を見逃さず、七三子は利き足で地を蹴って身体を捻った。
「私ただの下っ端戦闘員なので!」
七三子の√能力、【ヒット&アウェイ】が発動した。
敵が七三子の姿を視認するよりも先に、鉄板入の革靴による後ろ回し蹴りが金属の|胴体《ボディ》に炸裂する。
「ごめんなさい」
レーザーを喰らい弱っていた|部位《ところ》に、殴打による強烈な負荷をかけられたことで、敵のボディはふたつに分かたれた。
「……私はゲルダさんを助けたいので。
私のために、あなたたちを攻撃しますね」
動かなくなった敵を一瞥し、七三子はそう呟いた。
―――|決戦気象兵器「レイン」《レーザー光線》による|大規模《範囲》攻撃によって、近場にいる|オルガノン・セラフィムたち《敵》の|体力《タフネス》を削りつつ、遠方にいる敵の意識をクラウスに向かせて。
敵の意識が|こちら《クラウス》に向いている間に、七三子が闇に紛れて敵の背後に忍び寄り、鋭い一撃を叩き込み、確実に撃破していく。
「―――七三子」
何度目かの|砲撃《レーザー攻撃》の後、クラウスは眉をわずかに|顰《ひそ》めた。
「5時に、|生存者《ひと》」
「!」
|簡素な言葉《クロックポジション》。その意図を正確にくみ取り、七三子は|クラウスが示した《5時の》方向へと走り出す。
「ギ……!」
「君たちの相手は俺」
七三子の後を追おうとしたオルガノン・セラフィムの前に立ち塞がり、クラウスはスタンロッドを振るった。
「ギィャアア!」
|レーザー《レイン》による熱傷、|打撃《ロッド》による挫滅、そして、|過電流《スタン》による|生体機械の故障《システムダウン》。
積み重なったダメージに耐えきれず、オルガノン・セラフィムはその場に崩れ落ちる。
(「もう苦しむだけの理性も残されてないのかな……」)
合成音にも似たオルガノン・セラフィムの声から、つぎはぎだらけの顔から、意志や感情を読み取ることはできなかった。
だから、クラウスは自分で判断するしかなかった。何が一番、彼らのためになるのかを。
(「せめて、少しでも苦しまないように、安らかに眠れるように……」)
苦痛を感じる間もなく逝けるよう、速攻で|決着《カタ》をつける。
スタンロッドを構え直すクラウスの後ろで、レイン砲台がオルガノン・セラフィムへと砲口を向ける。
「ゲルダを手にかけるなんて、きっと嫌だろう?
だから―――もう、|休んだ方がいい《おやすみ》」
クラウスは決意と共に、再び|決戦気象兵器「レイン」《レーザー光線》を|使用した《放った》のであった。
「だ、大丈夫ですか!?」
崩壊した|建物《薬局》の前。七三子は膝をつき、瓦礫の下から伸びている「もの」を掴んでいた。
それは、白い腕だった。手の大きさや腕の感じから推測するに、成人女性のものだろう。
きっと、オルガノン・セラフィムから逃げている際に、建物の崩落に巻き込まれてしまったのだ。
「だ……れ?」
「名乗るほどの者では……って、それよりも、いま、助け……っ」
瓦礫の中から聞こえてきたのは、くぐもった女性の声。
反射的に答えようとして、しかし七三子はそのまま言葉を飲み込んだ。
(「これ、は」)
七三子が掴んだ腕。|人間《ヒト》特有の柔らかくあたたかいその手は、しかし、徐々に金属的な物質へと変化しはじめていた。
(「天使化……」)
この瓦礫の下にいる人は、『天使化』しはじめている。
病が全身を支配して、|怪物《オルガノン・セラフィム》となるのが先か。
それとも、瓦礫の下敷きになったことで、人間として圧死してしまうのが先だろうか?
「親切な方、お願い……どう、か、私の娘、ゲルダ、を!」
白い手が、万力のように強い力で、七三子の手を握り返してきた。
「ですが、それではあなたが!」
「私はもう……。だから、ゲルダを、助けて……っ!」
こんな怪物たちに襲撃されたら、幼い娘はひとたまりもない。私のことはいい、代わりに娘を助けてあげて。
お願いしますお願いします、と壊れたレコーダーのように、瓦礫の下にいる|女性《ひと》―――きっとゲルダの母親であろう―――は繰り返す。
「……大丈夫、です」
ギュッと一瞬だけ強く唇を噛みしめて。
相手を安心させるように、七三子はできるだけ落ち着いた声で語りかけた。
「ゲルダさんは、無事です」
「ほ、んとう、に?」
七三子を掴む手の力がさらに強くなる。
「本当だ。俺が保障する」
ふいに頭上からクラウスの声が振ってきた。
「終わったんですか?」
「残りは、そんなに多くなかったから」
驚きの声をあげる七三子の隣に、クラウスはしゃがみこんだ。
そして、七三子を掴む女性の手を、ゆっくりと外していく。ぬくもりが失せはじめ、固くなりはじめているその手を……。
「私たちは、ゲルダさんを助けるため、ここへやってきました。だから」
―――あなたは十分に頑張りました。だからもう、|休んで《眠って》いいのですよ。
そう口にする代わりに、七三子は優しく女性の手を撫でた。
「ああ、ゲルダ、よかっ……」
安堵したような吐息が聞こえ―――そして、彼女の手から力が抜けた。人としての形を、辛うじて残したまま。
「……行こう」
|俯《うつむ》いてしまった七三子の肩を、クラウスは軽く叩いた。
人のまま逝けただけ、看取る誰かがいただけ、この女性は幸福だったはずだ、と。
「頼まれごとを叶えるためにも」
「そう、ですね」
七三子は立ち上がった。|彼女《はは》に|ゲルダ《むすめ》のことを託された以上、ここで立ち止まっているわけにはいかない。
「ゲルダさんを早く保護しないと、ですよね」
「ああ、急ごう」
そうして、ふたりは再び走り出した。|ゲルダ《天使》のいる家に向かって……。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功

アドリブ&連携はご随意に
流血・ダメージ演出などもご自由に
・心情
汝らも被害者だ、救えなかったことは詫びねばなるまい
せめて、これ以上の罪を犯す前に終わらせてやろう
・行動
速やかに排除するため、反応速度が下がり被弾することも恐れず、
√能力の人形へのセレナーデを使用し分身体を自分の影から召喚
本体+12の分身体の計13人によるEdelweissによる一斉射撃
天使を襲おうとしている者、近い位置にいる者がいれば優先的に排除していく
「我が救ってみせよう。天使も、そしてお前たちも」
・倒した後
魂が救われること、次の人生が良きものとなるよう祈ろう
「安らかに眠るといい。そして次こそ幸せになってくれ」

天使化とか不思議なことが起こってるらしいね。
大丈夫、カレーが食べられれば大体なんとかなるし。(根拠不明)
まずはオルガノン・セラフィムをどうにかしよう。
「荒れ狂うカレーの舞」を見せてあげよう。
カレーに塗れて死ぬがよい!
反撃に使えるようにいっぱいカレーは用意しておきます。
一刻も早くこの事態を収めるために、過ちを犯させる前に、
華麗にサクッとカツカレーのカツのように解決するよ!
あと隙を見てカツカレーを食べます。
プロムの人がいたらご一緒します。
他の√能力者に迷惑をかける行為はしません。
また、例え依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動はしません。
あとはおまかせ。よろしくおねがいします!
「善なる無私の心の持ち主のみ」が感染するとされる、『天使化』という名のヨーロッパの風土病。
感染者の殆ほとんどは、理性や善の心を失った『オルガノン・セラフィム』という怪物に変貌してしまい、本能の赴くままに『天使』を襲撃し、捕食しようとする。
その症例が今、マリエ・エーデルワイス(終末時計・h02051)の眼前に広がっていた。
「……ひどい有様だ」
マリエは|村と山の境《村の出入り口》に立ち、住人の大半が『天使化』した村の様子を|確認《観察》している。
どの家に天使が隠れているのか、オルガノン・セラフィムたちは分からないらしい。ご丁寧に一軒一軒破壊して、家の中を確認していっているようだった。
(「自らが暮らしていた地を、こうも荒らすとは」)
瓦礫の山と化した村を見て、マリエは眉を顰める。
理性や良心というものが残っているのならば、きっとこのようなことはしないだろう。
つまりこの惨状は、この村に暮らしていた人々が既に身も心も怪物になってしまったということの証明に他ならない。
「善なる|存在《にんげん》が、ひとつの病でこうも変わってしまうとはな」
「天使化とか、不思議なことが起こってるらしいね」
小さくため息を漏らすマリエの横で、藤丸・標(カレーの人・h00546)はカツカレーを食べている。
いつ食べてもカレーは美味しい。サクサク揚げたてのトンカツが乗っていればなおのこと。
「こんな時でも食欲は減らないとは。……戦の前の腹ごしらえというやつか?」
「そうよ。ほら、カレーが食べられれば、大体なんとかなるのよ」
トンカツは脂がのっているが、カレーのスパイシーさがしつこさを払拭し、あっさりと食べさせてくれる。
標は味に満足したように頷いた後、マリエに向かってニコリと笑いかける。
「華麗にサクッと、カツカレーのカツのように事件を解決……ってね!」
「そうか」
そのくらい|逞しい《タフな》ほうがよいかもな、とマリエは苦笑気味に|呟《つぶや》く。
「さて……どう|陣取る《動く》?」
「私が|前に出る《囮になる》わ。|背中《死角》は任せてもいい?」
カレーの最後の一口を飲み込むと、標は不敵な笑みを浮かべた。
「引き受けよう。お前は目の前の敵に集中してかまわぬよ」
「ありがとう。じゃあ、私は先に行くね」
マリエの言葉に標は片手を振って応え、そのまま散歩にでも行くかのように軽やかな足取りで村の中へと入っていった。
「ギィ?」
|侵入者《こづえ》の気配を察知したのか、それとも、カレーの|残香《かおり》を嗅ぎ取ったのか……オルガノン・セラフィムたちが、一斉に標の方を向いた。
「その口じゃあ、きっとカレーを堪能することはできないね」
かわいそうにと標は眉尻を下げる。
こんなに素晴らしい|食べ物《もの》を食べれない身体になってしまうなんて、と。
「でも、だからって|天使《ひと》を食べようとしてはダメ。
そもそも、彼女は君たちの|仲間《隣人》だったはず」
「……」
念のためと語りかけてみても、|オルガノン・セラフィム《村人》たちはこれといった反応を返さない。
ただ、標との間合いを計り、いつ踏み込むかと機会をうかがっているだけだった。
(「やっぱり、もう意思疎通は無理なのね。ならば」)
標の真正面にいたオルガノン・セラフィムが金属質な腕を伸ばし、鋭い鉤爪で標に襲いかかった。
喉元目がけて繰り出された|爪《それ》を、標は|不思議な不思議なグレイビーボート《不思議道具》で受け止める。
「私の中に滾る熱いカレーが迸る!」
標がそう唱えた瞬間、√能力の【荒れ狂うカレーの舞】が発動する。
「カレーに塗れて死ぬがよい!」
寸前まで空っぽだったグレイビーボートから、ビッとカレーが―――否、カレービームが発射された。
「!?」
熱くて|辛い《痛い》カレービームに貫かれ、オルガノン・セラフィムはドッとその場に倒れ伏した。
「……始まったな」
標が戦いの火蓋を切ったのを確認し、マリエは|精霊銃《Edelweiss》を抜いた。
「汝らも被害者だ、救えなかったことは詫びねばなるまい」
誰に聞かせるでもなくそう呟きながら、ブーツの先で足下をトントンと叩く。
「踊り明かそう、|哀れな子羊《オルガノン・セラフィム》の命が尽きるまで」
√能力の【人形へのセレナーデ】が発動する。
マリエの足下に広がる影がグニャリと歪み、そこから|彼女と同じ姿の少女《分身体》が12体ほど出現した。
「さあ、|もう戻れない《怪物と化した》彼らに、葬送曲と鎮魂の踊りを贈ろうではないか」
マリエが|精霊銃《Edelweiss》を構えると、分身体も同じように照準を絞る。
「せめて、これ以上の罪を犯す前に終わらせてやろう」
時間を司る精霊の加護を受けた|弾丸《魔弾》が放たれる。
13発の魔弾が向かう先は、背後から標に飛びかかろうとしているオルガノン・セラフィム。
頭、腕、腹、脚……全身に弾を受けたオルガノン・セラフィムの体内に流れる|時間《とき》が、急速に加速しだした。
「ギ、ガ……」
奇妙な光沢感のある|神秘金属《からだ》が、急速に錆びていき、ボロリボロリと崩壊していく。
「我が救ってみせよう。天使も、そしてお前たちも」
やがてオルガノン・セラフィムは金属の砂山と化し、風に吹かれて消えていく。
「|人の子《村人》よ、安らかに眠るといい。そして次こそ幸せになってくれ」
村人たちは、|風土病《『天使化』》のことなど知るすべもなく。
訳も分からぬまま|理性と良心を失った怪物《オルガノン・セラフィム》に|なって《されて》しまった。
その悲しい魂が救われること、次の人生が良きものとなるように祈りながら、マリエは次の弾を装填したのであった。
「……終わったか」
オルガノン・セラフィムが新たに姿を現すことがなくなり、マリエは|精霊銃《Edelweiss》を下ろした。
「少なくとも、この辺はね」
同意するように、標も頷いてみせた。
村境付近にいたオルガノン・セラフィムは倒した。ならば、あとは前進あるのみ。
「じゃあ、|迎え《助け》にいこうか」
「ああ。きっと怖い思いをしているだろうからな」
標とマリエは肩を並べて走り出した。天使がいるという、村中央付近にある家に向かって。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功
第2章 冒険 『強行突破せよ』

POW
物理でゴリ押し、強行突破だ!
SPD
こんな時こそ工夫のしどころ技巧を凝らして強行突破を為す!
WIZ
知恵をしぼってなんとかここを突破する。
√汎神解剖機関 普通7
天使を探し出すために村を破壊していた『オルガノン・セラフィム』を排除しながら、√能力者たちは村の中央付近にある一軒家へと辿り着いた。
「嫌だってば!」
玄関先には、ひとりの少女と、一頭の犬がいた。
少女は頭から布団をかぶって顔を隠し、その場に踏みとどまろうとしている。
しかし、彼女がどれほど己が身を隠そうとしても、布団を押さえる手や、|服《ズボン》の裾から覗く脚から、その身体が白磁にも似た|神秘《謎の》金属で構成されていることは明白だった。
『オルガノン・セラフィム』が探していた天使―――ゲルダとは、彼女のことなのだろう。
「こら、サミー! やめて!」
一方、彼女の|飼い犬《かぞく》である犬は、彼女の服を噛み、必死に引っ張っている。本能的に危険を察知したのか、|彼女《ゲルダ》を外へと連れ出そうとしているようだ。
「ダメよ、サミー。ママが帰ってくるまでおとなしくしてなきゃ……」
玄関先からチラリと外を見ただけでも、|オルガノン・セラフィム《なにものか》が村を荒らしているのは分かる。だから、ゲルダとて、「村で何かが起きている」「自宅に留まっては危険だ」と感じ取っているはずだ。
それでも家から一歩踏み出せずにいるのは、「自身の身体に起きた|異変《天使化》のせい」でもあるだろう。
しかし、それ以上に、「自分のために外出した母親の身を案じている」に違いない。|自分《ゲルダ》がここに留まらねば、母はきっと危険地帯と化した村の中を探し回ってしまう、と。
捕食しようとしてくる『オルガノン・セラフィム』から、そして、奴隷にしようと考えている『羅紗の魔術塔』から、天使を守り抜く。
そのためにも、この天使を村から連れ出さなくてはなくては……。