|潮騒の洸《ベルベッドブルーの黙禱》
「——此処だな」
頬打つ潮風の中、ウィズは当該事件伝えた星詠みや√ドラゴンファンタジーの冒険者ギルドを通し発見した、本来あるべき場所へと還ったダンジョン——潮騒の馨石へと辿り着いていた。
ボス撃破と同時に作り直すと言わんばかりに崩壊・再編成されるダンジョンから脱出したウィズが、星詠みへ探査し得た結果と共に自身の推察を伝えたれば、星詠みを通じ報告を受けたギルド側も事態を重くみたのか、魔術的にも希少価値的にも高い認定を受け、ダンジョン『潮騒の鉱石』は保護対象となったのだ。
「さて、行くか」
現在ダンジョンが管轄域のギルドによって整備された入り口。
事前に受け取っていた許可証を門番へ見せるため人型でやってきたウィズが、軽やかに闇を纏う。
深度を増すほど艶やかに色めく闇と共に、慣れた足取りで潮騒の鉱石へと入ったウィズは多少変化した道も難なく超えながら、今日の予定を考える。
「(……あの一対の竜胆色、実に美しいものであった。それに、)」
ダンジョンの|楔《ボス》である『 |馨洸殿の聖母《アンドロスフィンクス》』を撃滅する際、幽かに聞こえた聲——その正体、そして聖母が瞳代わりに嵌まっていた大魔馨石の収集、今は闇で眠る魂たちへ機会を与える遺品探し。
あの幼い声の主らしき遺骨は一対だけ見つけたものの、少年よりも幼い細い骨。そして出所知れぬ竜胆色の瞳も、瞬けば美しいカットが施されていたような気がする——それも、非常に高度な古式魔術的技術を以って。
「——たしか、復活の無いよう暫し結界を張ったのだったか」
星詠みの働きかけとウィズの希望から、現状保存のため施された結界の期限は今日、夜まで。
あの時は天使の遺物が奏でた聖歌とは異なる鎮魂歌を聴きながら、ウィズは馨洸殿の扉を押し開け首を巡らせ、闇を一雫滴らせた。
瞬く間に広がった闇が馨洸殿を覆った直後、ウィズの刻爪刃を左右から引く小さな手が二つ。きらきらと光る幼い双子が、ぐいぐいと爪を引っ張り“あっち”と指さすのだ。
「(……子供?)」
よく見れば揃いの採掘道具を背負い、ヘルメットを被った子らは互いに反対の方向を指している。
「……一つずつ行こう、解るのか?」
頷く子供と、先ずは右手側から。淀み無い歩みを追えば、最奥の珊瑚や藤壺塗れのランプの下に一粒。掌に余る大粒を拾った子供が無邪気に笑んだ思えば、ひょいと自分のリュックに仕舞いこむ。
「こら、まったく……」
“あとで”とクスクス笑う声は片割れへ駆け寄り手を繋ぐと、再びウィズを引っ張り反対方向へ。おそらくこの子供は遺骨の纏う残滓だろうと判断したウィズが、やれやれとその喜びへ付き合うこと暫し。
名入りのトンカチや割れたヘルメット、近い古された鑿、履き古しの靴に二人の名前が彫られた指輪、馨石の詰まった革袋など遺品と思しき品を幾つも双子に拾わされた末——くるりと、双子が振り返る。
『『これ、あげる』』
「……そうか」
竜胆色の眸をした金髪の少年達の間に、涙を流す修道女がいたのは幻か。
双子のリュックへ仕舞われていた最期の宝は甘やかな馨りと共にウィズへと齎され、三人は空へ行く。
「——還るといい、“お前達”も」
ウィズの言葉に合わせ闇から飛び立った魂は、きっと竜胆色の彼らが導くだろう。与えた機会は活かされ、手元に残った一対の爪と魔馨石を手にウィズは踵を返し坑道を抜け海水のトンネルを名残り惜しみながら。
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|楽園《√EDEN》と変わらぬ夕日が煌びやかに沈みゆく中、魔馨石を翳したウィズは祈る。優美に馨る|潮騒の鉱石《竜胆色の魔馨石》に、暮空と海の“あわい”の色を映して。
「……其の命、糧と成れ」
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴 成功