袖振り合った日の話

◆シナリオの導入部
「そういえば、前に覚悟くんと会ったことあるよね?」
「ええ、ありますね。」
日南・カナタさんと初めて出会った時のお話です。
お互いの自己紹介は旅団で会った時に初めてしましたが、最初の出会いは偶然が重なったものでした。
覚悟にとって戦場が日常であり、穏やかな時間が貴重であったため、自己紹介する機会を逃してしまったのだと考えています。
◆日南さんとの邂逅
覚悟にとって怪異という存在は理解の範疇を超えたものでした。そのため、怪異についての知識を得るために秘密国家機関「汎神解剖機関」の蔵書庫を訪れていました。すると、突然の通報を受け、館内は慌ただしい空気に包まれます。状況を察した覚悟は、助力を申し出ることにしました。
そして、事件の発生現場である廃工場へと急行します。
◆廃工場での戦闘
廃工場に到着した覚悟は、まず周囲の情報を収集し、敵の戦力を把握することに努めます。
やがて、日南さんが敵に追われている音が響いてくるのを聞き、覚悟はその声や足音を頼りに合流を目指します。
日南さんは袋のネズミの状態となっており、敵の包囲網に追い詰められていました。
それを確認すると、覚悟は【守護する炎】を発動。
撃迅甲からフックショットを射出し、天井へと打ち込んで敵の包囲網を飛び越え、日南さんのすぐ傍へと降り立ちます。
「とにかく一旦その場から離れよう」
日南さんの提案を受け、覚悟は圧滅銃を構えます。
壁を撃ち抜き、脱出経路を確保するか。
あるいは床を撃ち抜き、真下へ降りるか。
状況を判断し、最適な方法で日南さんと共に脱出を試みます。
◆元凶への反撃
追ってくるマネキンが元は人間だったという情報を得た覚悟。
その事実を受け、「マネキンに変えた存在を討つ」という結論に至ります。
日南さんの√能力【全力振り】による範囲攻撃が炸裂し吹き飛ばされた敵に対し、覚悟は自身の√能力【阿頼耶識・修羅】を発動させ一気に畳み掛けることを提案します。
チャージ完了までの60秒間、覚悟は日南さんと連携しながら敵を抑え込みます。時間を正確に計り、60秒経過と同時に覚悟は日南さんと同時攻撃を仕掛けます。
◆戦いの後
無事、事件が解決した後、覚悟は初めてアイスクリームを目にし、その存在に興味を抱きます。
日南さんの優しさが感じられる、穏やかな時間。
それは、戦場を生きる覚悟にとって、とても貴重なものでした。
「ここは穏やかですね。」
覚悟はアイスクリームの味を楽しみながら、その時間を静かに噛み締めます。
やがて、日南さんへの応援として駆けつけた経緯を伝え、「アイスクリームが美味しかった」と感謝を述べ、静かにその場を去っていきます。
縁というものは、どこで繋がるのか分からないものですね。
※アドリブ歓迎
「不動院・覚悟と申します。よろしくお願いします」
「覚悟くん、よろしくね。俺は日南・カナタ」
旅団に訪ねてきた少年に、カナタはあれ、と思った。
黒髪黒目、眼鏡の少年。「真面目」と「誠実」という言葉を具現したような少年に、見覚えがあった。
「前に会ったことある?」
「ええ、ありますね」
カナタの引っ掛かりを肯定し、覚悟が頷くと、あのときの記憶が一気に鮮やかになった。
『日南、その近くの廃工場にて「誰もいないはずなのに物音がする」との通報があった。現場確認を頼む』
署からの要請に、二つ返事で応じ、カナタは工場へ向かった。
怪異が存在する√汎神解剖機関において、こういう通報は珍しいことではないし、無視もできない。そこで|警視庁異能捜査官《カミガリ》の出番だ。
工場は、町のはずれにある。大通りが近く、ある程度の外観整備はされている。
カナタは物音ねぇ、と考えながら扉を引く。中は薄暗く、少し埃っぽかった。人の気はない。
けほ、と咳をし、カナタは見回りを始める。懐中電灯の灯りはほんのりと薄明るい中で、なんだか心許ないような気がした。
真っ暗ではないのに、何故だかとても不安で不穏だ。懐中電灯の電池は入れ替えたばかりだし、スマホのライトもある。けれど、灯りがあるくらいでは拭いきれないナニカ。
(俺が怖がりなだけ?)
同行者もいないため、心の中でだけ呟く。……一人というのも、不安を煽る要員かもしれない。
が、今のところなんともないのに、応援を呼べるわけもなく。何もないに越したことはないよね、と言い聞かせながら、カナタは進んだ。
通報は物音だっけ、と思い返す。最近ちらほら行方不明者が出ているが、関係あるかなぁ、と考えた。もっと通報の内容を詳しく聞いておけばよかったか。
「わりと綺麗だから、ネズミもいなさそう」
こういう廃屋で、小動物が立てた物音にびっくりするのはお約束だが、その心配はなさそうだ。ネズミがいないのは衛生的でいい。
ネズミ「は」いないだけだったが。
ガタゴソッ!
「わ!?」
明らかに不審な物音。驚いてしまった。
ネズミよりもっと大きな何かのような気がする。もっと立体的な動き方で……
「ひっ」
懐中電灯を音の方に向け、カナタはひきつった声を出した。
うぞうぞ、とそこで蠢いていたのはマネキン。顔はのっぺらぼうで、白い人型の体で各々服を着ている。多少駆動する関節をあっちそっちに蠢かし、カナタに手を伸ばす。
(無理無理無理! こんなの聞いてないってぇ!?)
どうにか悲鳴こそ上げないものの、半ば涙目のカナタ。応援を呼ぶべく退避しようと駆け出す。
ずてん! ずこ、かさかさ。
すると、周囲にはさっきまでいなかったはずのマネキンが転がっていた。辺りを埋め尽くしている。
のっぺらぼうだけれど、男性、女性、子供くらいのサイズのばらけ具合はあって、その体格差が奇妙に噛み合い、厄介な知恵の輪みたいな絡み方をしてくる。
「もうやだぁ~!!」
マネキンを避けながら、ダッシュで逃走を図るカナタ。走りながら通信を開き、応援を呼んだ。
マネキンは結構な数がいる上、間違いなく怪異の仕業。一人じゃ無理! という判断は正しい。
正しいが、√能力の存在を忘れ、対処は身体能力と技能のみ。カナタはかなりテンパっていた。
(誰か来るまでなんとか逃げ切っておかなきゃ、なんだけど……)
我武者羅に逃げ回ったカナタだったが、正面には壁。すぐそこに階段と非常口の扉はあるが、そこまでの行く手を阻むように、マネキンがわらわらと集っている。
袋のネズミ。工場にネズミはいないが、まさか自分が「ネズミ」になるとは。
「って誰がそんなうまいこと言えと!!」
絶叫するカナタに、マネキンたちが手を伸ばす。おいで、おいで、一緒になろう、おんなじモノになろう、と。
ぼうっと、辺りが明るくなったように思った。薄明るいとは思っていたが、懐中電灯よりも確かな光が工場内を包——
(って、炎!? 火事!?)
追い討ちじゃん、と涙がちょちょ切れるカナタ。ガキン、と硬質な音がして、はっと我に返る。
数だけはいるマネキンたちを越え、一人の少年がカナタの前に降り立った。
「大丈夫ですか? 応援に駆けつけました」
「!」
マネキンたちに牽制射撃を放ち、少年は言った。応援という言葉にカナタは目を見開き、臆面もなく少年に抱きつく。
「誰かわかんないけど助かったよ~~~!!!」
「間に合ってよかったです。炎は僕の√能力ですので、火災ではありません」
「√能力者か! 頼もしいや」
その少年こそ、覚悟だった。名前を聞こうと思うより先に、カナタは重大なことに気づく。
(俺も√能力者じゃん!? |警視庁異能捜査官《カミガリ》じゃん!?)
そう、√能力を使えば、状況を打破できたのだ。
「どうしますか? このマネキン」
「話し合うにもとにかくここから離れよう。力を貸してもらえる?」
「もちろんです」
同年代と思われる少年のしっかりした受け答えに感動しながら、カナタは【|霊震《サイコクエイク》】でマネキンたちを足止め。その隙に覚悟が圧滅銃で床を撃ち抜く。
階下へ着地すると、移動しながら話し合う。
そこで、覚悟が√汎神解剖機関の人間ではないこと、たまたま|蔵書庫《ライブラリ》を訪れていて、通報を聞きつけたことなどを聞く。
そんな中、道の途中にマネキンが転がっていた。動きは他のマネキンより鈍く、関節があらぬ方向に曲がっていた。
覚悟が武器を構えるが、カナタはそれを制止。
「あれ、近くの女子校の制服だ」
「そうなんですね」
「最近出た行方不明者の中に、その学校の女子高生もいた」
「まさか」
二人がとある可能性を導き出すと同時、クケケと哄笑がした。ひときわ大きなマネキンが現れる。——怪異。
「こいつ……! こいつが人を浚ってマネキンに変えたんだ」
カナタの声に怒気がこもる。
覚悟の表情にも険が滲む。
ぞろぞろと普通のマネキンたちも現れた。手を伸ばし、追い縋ろうとしてくる。今見れば、助けを求めているのだとわかった。
——どんなにおっかない見た目をしていようと、これは許せない!
「あいつを倒せば、被害者たちは元に戻りますか?」
「うん。倒そう」
二人が頷き合うと同時、巨大なマネキンの親玉が、大きな腕で攻撃する。カナタがロングハンマーで弾き、覚悟は制圧射撃で打ち砕く。
が、怪異だからなのか、別の腕が生えてきて、また伸ばしてくる。元がマネキンなので、極端に頑丈なわけではないようだ。だが、その腕は六に増えていた。
「八面六臂って? 修羅のつもりかよ!」
顔は一つだけど、とカナタが鎧砕きでマネキンの腕を破壊しつつ吹き飛ばし、マネキンの怪異を被害者たちから引き離す。
「修羅ですか。ならば僕もそうなりましょう。僕も迎撃しますが、60秒、時間をいただけますか?」
「OK。文字通り怪異も手数が多いし、俺も手数で行くよ!」
短い打ち合わせ。カナタはハンマーを野球バットのように構える。迫り来るマネキンの腕目掛けて大きく振り被る!
「ぶっ飛べぇぇぇ!!」
【|全力振り《フルスイング》】による打撃が、怪異の腕を弾き飛ばし、範囲攻撃となって、他五本の腕も吹き飛ばす。おまけとばかりに二回攻撃。鎧砕きと吹き飛ばしが乗せられたそれに、マネキンの怪異の体が大きく傾いだ。
被害者のマネキンたちを救助しつつ、弾道計算を使い、一般人だった彼らを巻き込まないようにして、覚悟も怪異のマネキンへ攻撃する。カナタへの援護射撃が主だ。牽制射撃の合間に貫通攻撃を交え、マネキンの体の破壊を狙う。
破壊をしても再生するが、鈍い。カナタの連続攻撃に再生も追いついていないようだ。一気に畳み掛けてしまえば、再生の暇もなく討ち取れる!
被害者たちと十分な距離が取れたので、覚悟は牽制射撃から制圧射撃に切り替え、マネキンの怪異に肉薄。きっかり60秒のチャージを得、拳には蒼い炎を宿していた。
周囲に展開された【守護する炎】とは異なる炎。蒼い炎は赤い炎より熱い。その蒼炎に宿るのは理不尽をもたらす怪異への【怒り】だ。
蒼炎の拳がマネキンの腹部に食い込む。怪力、鎧無視、貫通、重量攻撃——ありったけを込めた渾身の一撃がめり込み、蒼い炎がマネキンを呑み込んでいく。巨大とはいえ、カナタのハンマーを食らい続けた体は、覚悟の【阿頼耶識・修羅】がトドメとなり、崩壊した。
「やったね」
怪異の消滅を確認したカナタが、着地した覚悟に手を挙げる。覚悟が少し首を傾げたが、「ハイターッチ」と言われると、ぱしんと手を重ねた。
「いや~ほんとありがとうね! マネキンにされた人達は無事元に戻ったし一応今は病院で診て貰ってる。後の事も署の先輩達に任せたから、ちょっと俺に付き合って!」
聴取でもされるのか、とついていく覚悟であったが、連れてこられたのは何やらカラフルな丸い物体を売っている店である。看板には「アイスクリーム」とあった。
「アイスクリーム?」
「そうそう。今日のお礼に。何味がいい?」
「食べ物なんですか?」
覚悟からの質問に、カナタは驚く。
「アイスクリーム、食べたことないの?」
こくりと頷く覚悟。なら、色々食べなよ、とカナタは気さくに肩を叩き、七段アイスを頼んだ。
カラフルな球状のアイスが積まれたコーン。覚悟はスプーンでアイスを掬い、ぱくりと食べる。
「冷たい!」
「あはは、本当にアイス知らないんだ!」
「でも、甘くて美味しいですね」
「でしょでしょ! ちょっと溶けて味が混ざるのも面白いんだよ」
アイスは冷たいけれど、カナタからの感謝の気持ちは温かく、覚悟は噛みしめた。
あのときは大変だったが、今となってはいい思い出だ。
一期一会で終わらなかったこの縁もまた、続いていくのだろう。
「改めてよろしくね、覚悟くん!」
「こちらこそ、日南さん」
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴 成功