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収穫

#√汎神解剖機関 #ノベル #天使化事変 #イチゴ

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 窓の外に立っていた何者か、純粋な女の子は「いらっしゃいませ」と挨拶をする。天使化とは『そういう』ものだ。未曾有が侵蝕してくる、そのような――愚かだと言われても、この思いは揺るぎません。目も背けません。
 その理想と共に、滅びてしまうといい。羅紗の魔術塔の、アマランス・フューリーの言の葉が脳裡にこびりついて、離れない。ゆるやかな時間を、ほんの僅かな時間すらも、何者かによって殺されたかのような気分に陥っている。いや、献身の時間は終わったのだ。|知識《ダアト》を相手に瀉血する、あの天使も今頃は誰かの腕の中で眠っているに違いない。ちら、と、赫夜・リツは一ノ瀬・エミに――天使のような彼女に――視線をやった。こっちを向いている。こっちに微笑みかけて、くれている。だけれども、なんだろうか。長い時を一緒に過ごしてきたのだ。エミちゃんが、こういう時、無理をしている事くらいは解っている。解ってしまう。エミちゃん、そろそろ、シュウヤさんの研究室に着くからね。心配していると悟られたら、きっと、もっとカラ元気を発揮してしまうだろう。だから、可能な限り普段通りの声色で話を続けてみた。うん、リツ君。そういえば、私のお気に入りのあの店が新作スイーツを販売するんだって。報告が終わったら、一緒に、買いに行こうね。きい、と、研究室への扉が開かれた。様々な資料やらが置かれている部屋の中心、其処に『兄』は立っていた。遅かったな。いや、そんな事よりも、リツ、アマランス・フューリーと天使に関してのアレコレを――? 一ノ瀬・シュウヤはひどく過保護な兄だった。正確には過保護『だった』なのかもしれない。だが、まさか過保護気味が薄れた所為で――最悪を招き入れる破目になるとは想定外だったのではないか。……エミ! 必死に耐えていたのだろう。必死に、貌に出さないよう、堪えていたのだろう。恐ろしい事に、残酷な事に、感染源が『血液』ではない事くらい、わかっていた筈なのだ。ふらりと、棒のように倒れそうになった『妹』を『兄』は確実に抱き留める。エミ……! エミ! 大丈夫か? エミ……! 最初に兄が思ったのは『蝸牛』の存在だ。アレとはまったく、違う事くらいは承知していたけれども、取り除けば……俺は、何に動揺している。俺は、何を考えている。今、考えるべきは『エミ』への呼び掛けだ。……えへへ。シュウ兄、ごめんね。リツ君も、ごめんね。シュウ兄は、防ごうとしてくれた。リツ君は、助けに来てくれた。それに、ギョロ君も、みんな、いっぱい頑張ってくれたけど、私……。ごめんね……。
 ぬくもりに包まれていた身体、冷えていく。
 冷えていくかのような、銀色の滂沱。
 疼いて、疼いて、仕方がない、背中。
 ――世界はきっと祝福をしてくれている。
 だが――この無情さだけは、度し難いのだ。
 ねえ、みんな。あのさ、私が天使になっても、いつもどおりでいてくれたら、嬉しいな。偶然と運命の骰子、後者の出目の方が大きかったのかもしれない。飛翔するかのように、懺悔するかのように、一ノ瀬・エミの内側から純白、脱皮をするかの如く。お前は、何も悪くない。何も、悪くないから、どうか、俺にも背負わせてくれ。ぎゅっと、ぎゅっと、兄が妹の身体を抱きしめた。その傍らで災厄は囁くように。……いつも通りに決まってるだろ。僕も、シュウヤさんも、ギョロも、エミちゃんも……。異形の腕は黙している。目の玉をしっかりと開いて、何かが染みて痛いなどと、叫んだりもせず。
 善なる無私の心――その持ち主――をベッドへと運んだ後、兄はそっと口を開いた。脳味噌に溜まっていた怒りの感情を隅へと追いやり、水には流せそうにないが、取り敢えず。……リツ、ギョロ。改めて、何が『あった』のかを教えてくれ。それを聞いてから、俺は、判断をしようと思う。瀉血を繰り返す天使――オルガノン・セラフィムを吸い尽くした男――アマランス・フューリーとの接触、戦闘――それに加えて、何者かによる|お手紙《DM》。……僕が、もっと早く気づけていたら……ごめんなさい。いや、リツもギョロも、手を尽くしてくれた。この可能性に至らなかった俺の失態でもある。それよりも、その男やアマランス・フューリーよりも……エミに対してのDMだったか? 教えてくれないか? おい、リツ、シュウヤ。その文面なら全部覚えてるからよ。紙とペンを持ってきてくれたら、写してやるぜ? 異形の腕からの提案だ。だが、まあ、なんだ。読んだら燃やしちまった方が良いかもしれねぇ。わかってるとは思うが、怒りを露にするんじゃねぇぞ。向こうが『感知』してくるタイプの奴ならバレちまうかんな。地獄の窯と謂うものは、それこそ、隣人なのかもしれない。ミルフィーユを一枚一枚、剥がして、食んでいくかのような。

 一ノ瀬・エミ君
 君はまたあの時のように守られてばかりでいる気か?
 思い出せないなら、思い出させてあげよう。

 浅間テツオ
 佐々木ナナ
 鎌田ユウジ
 梶原ツトム
 辻ヨシタカ
 今野マリナ
 山本ヨシミ
 天海ユリカ
 井上レイジ

 一ノ瀬・シュウヤの脳髄に――心に――大罪のひとつが圧し掛かったのは謂うまでもない。収容施設で起こった虐殺事件の被害者たちだ。それは、妹が生き残った証でもある。事件に関係している奴が『これ』を送ったのであれば……成程な。妹を、エミを、いたぶろうとしての行動だろうか。そもそも、不可能だったのだ。怪異単体での脱走など、警報が鳴り響いて『おしまい』だった筈なのである。つまり……怪異を逃がした犯人が他にいる。ともかく、ほうれんそうだ。考えられる事柄の全てをリツ、ギョロと共有せねばならない。……良いか? 今後は、より、強い警戒をしなくてはいけない。エミの背中を押したのはおそらく、虐殺事件の『共犯者』だ。いや、もしかしたら……その『共犯者』こそが、怪異に『教唆』をしたのかもしれない。様々な事が考えられる。だが……俺は、俺達は、いつも通りを貫き通す覚悟をした。あとは、リツ、ギョロ、わかってくれる筈だ。エミちゃんは言った。「この子を助けて」と言っていた。その、心の底からの叫びを思い出して、憤りが積もっていくばかり。でも、いつも通り。いつも通りをする為にも、今は、鎮まらなくてはならない。……シュウヤさん、僕……。言の葉を遮るように、塞ぐように、一ノ瀬・シュウヤは後ろを向いた。研究室の棚へと手を伸ばし――其処から、小さな瓶を取り出した。
 リツ、ギョロ、今の俺に『できる』のはこれくらいだ。これくらいしか礼ができないが、どうか、受け取ってくれ。中身はイチゴだった。真っ赤な、真っ赤な、|血液《イチゴ》だった。何の血液なのかは想像する必要もなく、目の前の男の『もの』であろう。お前達も体を休めろ……疲れているだろ……後は、俺がやる。俺に、やらせてくれ。
 懇願をしていた。シュウヤさんは、お願いをしていた。とぼとぼ、廊下を歩いている自分がなんともちっぽけな存在に、思えてしまうか。ころり、手の中で転がっている小瓶。ああ、もしも、何もかもが上手くいっていたなら、今頃、エミちゃんと一緒に新作のスイーツを食べていたに違いない。「リツ君。新作のスイーツ、イチゴがたくさん使われてるんだって!」チョコミントよりも真っ蒼ではないか。
 真っ白い猫のお守りが、こちらを、見ている。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​ 成功

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