シナリオ

懐胎

#√汎神解剖機関 #クヴァリフの仔

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 #√汎神解剖機関
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●しにいたる、げいじゅつ
 一年前、とある有名な蒐集家が死んだ。彼が蒐集した美術品たちの多くはオークションにかけられ競り落とされ、数点は遺言により地元の美術館へと寄贈されることとなった。

 人類が黄昏を迎える前の美術品。
 行方不明とされていた、うつくしい油彩画は修繕をされ、美術館の壁を彩る。
 現在は没した作家の残した数少ない彫像も、コレクションとして華々しく直立している。
 ありとあらゆる、『蒐集家』の感性によって残された芸術。

 それらの品。今は展示されていない、とある絵画――。
 美しい女性が描かれたそれ。眠る女性の腹を、巨大な指先がそっと突こうとしている様子が描かれた一枚。無題と名付けられていたが、今現在は『処女懐胎』を描いたものとして管理されている。
 だがそれは。『その女』の姿は、我々にとって見知った姿である。

 仔産みの女神『クヴァリフ』――それによく似た女が横たわる絵画。

 本日はその絵画の公開日。
 狂ってしまったキュレーター、彼らが飾ろうとしているその一枚。
 それが怪異を呼び寄せる。キュレーターたちが、クヴァリフの仔を喚び寄せる。

「おや……私が、一足早かったようですね」
 派手な緑のスーツを着たセールスマンが、絵画の前へと立つ。側で発狂死している一般人に目もくれず。
 足元で蠢く『クヴァリフの仔』、愛らしく、うごうごと。
 男は――「死の商人」クラース・ファン・デーレンは、仔を見下ろしながら顎を揉む。

「良い価値がありそうで、何より……」

●こんばんは。
「よう、『こんばんは』。良い夜だな」
 紫煙を燻らせ、ペストマスクのような仮面の奥。赤い目が√能力者たちを見る。星詠み、六宮・フェリクス(An die Freude・h00270)は、よっ、と腕を上げて軽い挨拶をしてから、煙草の火を消し携帯灰皿に突っ込んだ。

「まーだ『クヴァリフの仔』の事件は続いてる。うにょうにょカワイイって、愛でる奴らまで出ててオレちゃんウケてるんだけど」
 ……どうでもいい雑談から始まるのは、もはや突っ込むべきところではない。

「さて、この美術館……分かるか? 小さなところなんだが、ある蒐集家の死をきっかけにして、増築やら宣伝やらをされて、最近話題になってるところでな」
 そう言ってタブレットの画面を見せてくるフェリクス。美術館の公式ウェブサイトだ。
「これ、『黄昏』以前の美術品だぜ? 今しか味わえねえかもしれねェ作品が山盛り! ってワケ!」
 |迫水《さこみず》|貞雄《さだお》コレクション……大きなバナーをタップすれば、展示物についてのお知らせと、今回初公開される『絵画』の概要が書かれていた。
 新たに収蔵した美術作品と、今まで非公開であった絵画の特別展示を行う、と。
 開館時間からしばらく置き、昼頃から公開されるようだ。絵画の内容は説明のみ。写真などは無いが、当日来る美術館の客は当然、このコレクション目当て。
 あの絵画の前は、相当賑わうことだろう……。

「明日、公開される絵。これが、『クヴァリフの仔』に関わってるようでな。召喚にあたって使われるアイテムってとこで。当然そんなもん見たら、人間ってのは衝動に駆られるもんだ。恐怖。逃走。混乱……」
 仮面でよく見えない目元。だがそれでも、その目には強い意志が宿っている。
「残念なことに……狂っちまったキュレーターは、『クヴァリフの仔』を既に召喚しちまっててなァ。だが……この絵画と、『クヴァリフの仔』を狙う奴らがいる」
 とんとん、とタブレットを操作して、美術館へのアクセス方法と地図を拡大しながらフェリクスは溜め息をついた。既に起きてしまった事件、過去については、変えられない。

「――目標。『クヴァリフの仔』の確保。次に、被害の拡大を防ぐ。このままじゃ、見に来た客が全滅しちまうからな!」
 笑い事ではないと理解しているからか、若干ぎこちない笑みを浮かべて。改めて、美術館のホームページを表示する。
「オレちゃんは……んー。確保してくれりゃいい、って言いたいけどさ、一般人を救ってほしいのも確かなんだわ。早めに入館して、どうにか人払いを済ませてほしい。ただ何をしたって『クヴァリフの仔』を狙い、簒奪者は現れる」
 真剣な声色で、√能力者たちに視線を向けるその顔。強く唇をむすんだ彼。

「頼む。手を貸してくれ」
 死に至る絵画へと、死を贈れ。あれは――存在してはいけない絵画だ。

マスターより

R-E
 おはようございます、親愛なる皆様!
 R-Eと申します。

 『クヴァリフの仔』を確保することが重要な事件・作戦です。
 今回は|連邦怪異収容局《FBPC》以外にも何やら影が……?

●1章
 美術館にて、美術品を鑑賞したり、怪しい場所に目星をつけるなどをして、『絵画』が公開されるまでの時間を過ごしましょう。
 それとなく一般人を誘導したり、キュレーター・学芸員に接触し情報を探ってみるのも良いかもしれません。

●2章
 『絵画』が公開されます。1章で行った行動により、展開が分岐します。
 1章で特に何も対策を取らなかった場合、かなり凄惨な状況となってしまいます。

●3章
 『クヴァリフの仔』を狙う者との戦闘です。
 目的はひとつ、『クヴァリフの仔』の奪取、あるいは駆逐。

 それでは、良い美術鑑賞を。
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第1章 日常 『黄昏の美術館』


POW 作品から溢れる力強さに心を奪われる。
SPD 作品に施された超絶技巧に目を見張る。
WIZ 作品が暗示するテーマに胸を打たれる。
√汎神解剖機関 普通5 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

 ――開館。
 待っていたとばかりに、数人の客が手続きを済ませ、入館していく。熱心な者は例の『絵画』の公開を待ち侘びていたようだ。

 通常展示されている品々、どれもこれも『黄昏』を迎える以前に制作された、情熱を込められた蒐集品。小さな民間工芸品はいくつかをまとめて、絵画はそれぞれに解説が書かれている。現代アートは√の性質的に殆ど無い。印象派やモダンアートなどが多く、やや偏った展示となっていた。

 特別展示室への扉は、まだ開いていない。あの奥には既に、例の絵画が飾られているのだろう。そして――『クヴァリフの仔』も、部屋のどこかで蠢いているはずだ。

 虚ろな目をしたキュレーターに、学芸員が話しかけている。
 どうしましたか。ああいや、眠れなくてね、あの絵を見てから、興奮がおさまらないんだ――。
 止まらない手の震えを見せ、彼はへらり笑う。ああ、狂ってしまっている。
 だがそれをただの不調だと見た学芸員。そうですか、無理はなさらないように。何かあれば僕に言ってくださいね。そう言って、去っていく。

 狂気の目が、見つめている。扉を。掻い潜るには、相応の手段が必要。
 時が進めば――あの扉は、静かに、開いてしまう。
東雲・グレイ
【SPD】
※アドリブ・連携歓迎
さて、変装用の服装もびしっと決めて、と。
……迫水貞雄某についてはよくは知らない。絵の良しあしもよく分からないけど、とにかく素敵な絵、なのかな?でもそれはそれだ。
――例の絵画は見たものを狂気に走らせてしまうっていうしな。学芸員の手の震えを見ればわかる。
なら、狙撃は死角からの跳弾で破壊する形になる。弾道計算を踏まえて弾丸反射用ドローンの配置場所は吟味しないとな。

さて、ここから狙撃できそうなエリアは……どのあたりか。見つけたら「狙撃用簡易結界」でも設置しておくか。
(使用技能:変装、スナイパー、弾道計算、跳弾)
雪月・らぴか
おおお、美術館もちょいちょいクヴァリフの仔絡みの出来事起こるよね!見た人が狂っちゃう絵画っていうのもホラーっぽい感じがしてテンション上がっちゃうね!
でもでも、そういうのはフィクションにだけあるのがいいのかな?ってことで何とかして仔ももらっちゃおう!

ひとまず館内を一周して地形の把握はしておきたいよね!特に特別展示室の場所とその周辺はしっかり見ておきたいね!
芸術ははっきり言って興味ないけどなんか怪しいものがあるかもしないから展示された作品も一応見ておくよ。
適当に見て回ったら【霊界通話スピリットボックス】でインビジブルに最近の美術館の様子とかを聞いてみよう!何かわかるかなー?
北條・春幸
アドリブ・絡み大歓迎。
恐怖心が欠落しているので迷惑にならない無茶はする。
有効な技能も積極的に使っていく。

仔を呼び出せる絵画かあ。欲しいなあ。
絵画も持って帰れたらいいんだけど。

折角なんで展示物も楽しみつつ、客を逃がすならどういう経路に誘導すればいいか確認もしておく。

頃合いを見計らって学芸員に聞いてみるかな。
「迫水コレクションの非公開作品はどこで、何時から公開ですか?」
話を聞きながら、その絵を当然ご覧になってるんですよね、どうでしたか?
いわくつきだと言う噂も聞いてますが、等々割と大き目な声で訪ねて、来館者の耳に入れておけば多少は気味悪がって警戒してくれないかな。

「いやあ、立派な美術館だねえ」
 にこにこ笑顔。黄昏以前の様々な美術品が集まる中、静かな――だが、歓談の声が聞こえる程度には、賑やかな展示室。北條・春幸(人間(√汎神解剖機関)の怪異解剖士・h01096)は穏やかな館内に少しばかり響く声で、「ね!」と隣に立つ二人へと声をかける。

「美術館もちょいちょいクヴァリフの仔絡みの出来事起こるよね!」
 ふんす! ちょっぴり興奮した様子で周囲を見回すは雪月・らぴか(霊雪乙女らぴか・h00312)。
 ――人類の進化が停止し、延命措置を必要とするこの√にとって、黄昏前の芸術とは「そのようなもの」になり得る。今回の絵画が『クヴァリフの仔』を喚ぶための品として使われたというのにも納得がいく。
 ……終末。その訪れを薄っすらと感じるからこそ、黄昏以前の世界、その思い出に浸りたくなってしまうのかもしれない。
「見た人が狂っちゃう絵画っていうのも、ホラーっぽい感じがしてテンション上がっちゃうね! でもでも、そういうのはフィクションにだけあるのがいいのかな?」
「仔を呼び出せる絵画……欲しいなあ。絵画も持って帰れたらいいんだけど……」
 唇に指を当て、むむ。絵画の存在、その是非を考えるらぴかと、あわよくば絵画を持って帰りたいと顎を揉む春幸。後者は大いに私情が挟まっているが、それはそれ、これはこれ。
 そんな二人に東雲・グレイ(酷薄なる灰の狙撃手・h01625)は少々「やれやれ」といった風に小さく肩をすくめた。しっかりと空間に溶け込めるよう変装したその姿は、言われなければ一般人に見えることだろう。
「――例の絵画は、見たものを狂気に走らせてしまうっていうしな」

 ちらり、館内を見回すグレイ。三人の視界に映るは学芸員、キュレーター……時折やりとりをしている様子だが、落ち着かない様子で視線を泳がせたり、手を無意味に握ったり開いたりと、反復動作を延々と。
「あれは……結構だよねえ」
「だねえ」
「うん」
 三人、同意。『クヴァリフの仔』を召喚した後のそれら。キュレーター・学芸員も、絵画も放置するわけにはいかないが、……その扱いには注意しなければならない。

 迫水貞雄。彼が何故死に至り、そしてそもそも、そんな絵画が何故この場所に収蔵されることになったのか……。詳細を調べようとも、生前の彼がオカルト等に通じているという情報は出て来ず、件の絵画もどこで手に入れたものかすら不明。まるで「湧いて出た」かのように、コレクションに加えられていた――。

「よし。分散して情報収集をしよう。私は上を」
 そう言って二階を見上げるグレイ。
「私、館内一周してくるね!」
 らぴかが手を上げて、とてとてと歩き去り。
「じゃ、折角なんで展示物も楽しんで、『彼ら』に接触してみるよ」
 春幸がちらりと視線を向ける先には学芸員。

 三人はそれぞれ、行動に移る。

 一階。
 館内をぐるっと一周することに決めたらぴか。館内の案内図を手に取り見ながら、展示品へと目を通していく。ごく普通に見える絵画だが、見るものが見れば特別なものなのだろう。美術館に入る前、ポスターとして目にした収蔵品など。ぱっと見では不審なテーマの作品は見当たらない。特別展示室の付近には、コレクションはあまり飾られていない。メインの収蔵品に集中してもらうためだろうか。
 学芸員が扉の前に立ち目を光らせている……下手に近寄るわけにはいかないか。案内図を見ながら、いざというときのために地図を頭に叩き込んでおく。
 館内は「通話はお控えください」だ。階段下のスペースに、通話可を示すサインを見つけそこへ立ち、スマホを取り出した。そして暗がりにいるインビジブルに対して、「もしもーし」と電話をかける。
「もし~? 忙しないねえ今日は、なんだこの人の数!」
 おしゃべりゴースト、ほんとにおしゃべり。聞かなくても話し始めてしまった。
「今日ね、特別な絵画の公開日なんだけど、何か知らない?」
「あ~わかったあの絵だな! 奇妙な絵だよォ近寄りたくもねえ、こういう暗ぁいところでこそっとしとかなきゃァ面倒なことになりそうな!」
「それかも! 最近、そういう感じで変なこととかあった?」
 らぴかが聞けば、おしゃべりさんは「ん~」と少々考え込むような声を出して、思い出した! とばかりに声を跳ねさせた。
「二日前、緑のスーツのうっさんくさそーな男が来たね! ありゃ超目立ってたね!」
 なるほど、緑のスーツ――星詠みが予知で見たと語った姿だろうか? 首を傾げる彼女。話はこれでだいたい終わっただろうか、と通話を切ろうとしたが。
「いや~迫水貞雄ねえ、こんな立派な美術館に集めたもん収蔵されるなんてなあ立派なもんだよ、それでも死んじまったらコッチ側! つっても姿も声も知りゃしないが――」
 ……話。なかなか、おわらない……。おどおどしはじめるらぴか。長電話だからか、ちらっと来館者の目がこちらを見た。このままだと、目立つ……!
「あ、ありがと~! また今度ねっ!」
 半ば無理やり通話を切って、ふうと息を吐いた。おしゃべりゴースト、侮れない……。

 さて一階、こちらは春幸。
 館内はすっかり賑やかだ。らぴかと同じく、展示物を楽しみながら、客のための避難経路を考えつつ歩く。しかしちょっぴり気もそぞろ――『クヴァリフの仔』に並々ならぬ情熱を感じている春幸にとって、今回の絵画、どうにも興味がある。
 仔を呼んだ実績! 絵画のテーマはどう考えても仔のそれ! いわくつきに他ならないというのに、その存在や噂が星詠みの探知に引っかかるまで、表沙汰にならなかったのは何故だろうか?
 飾られている絵画には似たテーマのものは無い。むしろ『処女懐胎』という宗教じみたタイトル、それだけが浮いているようにも見える。
 直接聞いてみるのも良いだろう!
 頃合いを見計らい、彼は大胆にも学芸員に声をかけた。
「迫水コレクションの非公開作品はどこで、何時から公開ですか?」
「あ……ああ、こちらの奥の展示室で、十二時半公開です」
「ああ、そうでしたかすみません、気が急いちゃって」
 ……視線が中々、合わない。合わせに言ってもどこか遠くを見ているようだ。ああ、これは確実に、『あの絵を見ている』。
「その絵、当然ご覧になってるんですよね、どうでしたか?」
「……ええ……とても良い絵ですよ、まるで絵から、女性と手が浮かび上がってくるかのような……!」
 興奮した様子で語りだした学芸員。筆の動きが見えて良い、丁寧に塗り重ねられた巨大な手の陰影、特に爪が。春幸も中々の声量だったが、学芸員の声も相当である。館内によく響く二人の声。同意するようにうんうん、と相槌をうつ。来館者たちの視線は自然と、二人の方へ向かっていた。
「その絵……いわくつきだと言う噂も聞いてますが」
 ――本題。切り出すや否や、笑んだまま固まる学芸員……だが。
「それがどうかしましたか?」
 否定、しない!
「いやあ、美しい絵には何かしら、噂ってつきものじゃないですか~!」
 欠落した恐怖心!
 春幸の柔らかい態度も相まって、なぜだか学芸員と意気投合。
「本当に今にも『こども』が出てきそうで、実に良い絵です。皆様にも早くご覧になって頂きたい――!」
「分かります、自分もこの目に確と焼き付けて帰りたく――!」
 ……賑やかで物騒な会話に、来館者たちは眉をひそめる――。

 ――二階。
 なぜだかやや騒がしい一階を少し気にしながら、グレイは周囲をぐるりと眺める。収蔵品はそう多くなく、人は疎ら。彼女が抱えた『|得物《スナイパーライフル》』は楽器ケースとして偽装されている。音楽を嗜んでいるのなら芸術的感性も鋭いのだろう……他者にはそのように捉えられているようだ。
 正直、飾られている作品の良し悪しは彼女には分からない。だが、人々が立ち止まり魅了されるそれには、確かな価値があるのだろう。
 ああいうのが素敵な絵、なのだろうか? 絵画に魅了される人々をちらりと見ながら、彼女はじっくりと館内の様子を窺う。
 そうして見つけるは、ガラス張りになっている廊下。下階の様子が伺い知れる。位置をみるにこの下の部屋こそが、件の絵画が展示される場所だろう。
 とびきり日当たりのよい一室。お目当ての絵画は既に壁に飾られている様子だ。分厚い布をかけられている……。
 その他にも展示されている彫像などがあるようだが、それらにも布がかけられていた。あの下には、何があるのだろう。「あれ」と同時に展示されるものだ、ろくでもないものかもしれない。
 ここならば、狙撃は容易だろう。立ち止まり下階を見る来場者たちもいるが、角度的に彼らのお目当ての絵画はここからでは見えにくい。……と、なれば。

 ――館内放送。
 ――分後、特別展示、迫水貞雄コレクション――『処女懐胎』の公開が――。
 館内放送に気を取られた人々。彼らが去った隙を見て、グレイが|狙撃用簡易結界《スナイプトーチカ》を設置する。直接狙うよりも跳弾で破壊を狙ったほうが良いか。機動を計算し、弾丸反射用ドローンの位置を前もって定める。
 ここからならば、邪魔が入らない限り、狙い撃てる。たとえ邪魔されたとしても数発を打ち込む余裕はあるだろう。

 死に至る絵画。その公開が、迫っている。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

第2章 冒険 『Restart』


POW 熱い情熱をぶつけ相手の心を動かす
SPD 遺してはいけない大切な者の存在を思い起こさせる
WIZ 魔術的な方法で相手の思考を誘導する
√汎神解剖機関 普通7 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

 果たして、扉は開いた。特別展示室へと入っていく人々――件の絵画『処女懐胎』、それはまだ、布を被ったままそこにあった。

 本日はご来館頂き、誠に――。
 ……お決まりの口上が始まる。期待感を持たせるためかやや長い。
 蒐集家、迫水貞雄。彼が生涯をかけて集めた逸品たち。
 彼はこの世界が、√が黄昏を迎える直前まで、ありとあらゆる芸術作品を蒐集し続けていた。
 だが数年前、ぱたりとその蒐集癖が止んだという。その理由は、曰く……『この絵画と出会ったから』。

 さあ。ご覧あれ。これこそが、『処女懐胎』である。

 |美しい女性《クヴァリフ》が描かれたそれ。
 眠る彼女の腹を、巨大な指先がそっと突こうとしている。そんな様子が描かれた一枚――だが。

 絵の中の手が、動いた。
 |女性《クヴァリフ》の腹を押したのだ。
 途端、周囲から上がる悲鳴。絵画の下から――壁の|裏《・》から、真っ黒な液体が溢れ出てくる――!
 そしてそのままぼたぼたと、蠢く何かが絵画の額縁を押し上げ、生まれ落ちるは『クヴァリフの仔』だ。

 現れた異形に混乱する展示室。発狂する人々。
 認められぬとばかりに頭を横へ揺さぶり続ける男、拍手喝采高笑いをする学芸員、自らの腹を執拗に掻きむしる女。狂気は伝染していく。放っておけば、どうなるか。

 ――待っているのは、発狂死。
 あの『仔』らのように|生まれなおし《Restart》を望み、人々、各々の方法で。
 視に至り死に至る。――止めなければ、惨たらしい結末が待っている。
雪月・らぴか
おおお、あれがやばいって絵だね!
タイトルの時点で大体わかってたよ!懐胎なんてついてればクヴァリフだよね!
それにしても動く絵に湧き出す怪異が見れるなんてテンション上がっちゃうね!

お楽しみはここまででこの阿鼻叫喚な状況を何とかしないとね!
このままじゃ絵から引き離すこともできないし【冬幻驚霊ウィンターワンダーレイス】でみんなに正気を取り戻すよ!
戻せたら「化け物でたから逃げてー」とか叫んで避難してもうよ!もたもたしてまた発狂されると大変だよね!
先頭になって人の誘導したいけど戻ってこられるとやばいから、後ろから声かけて出口に進んでもらうよ!

普通の人が発狂するのに平気って、√能力者の異様さを実感するよね。

「おおお、あれがやばいって絵だね! ……って、わぁーっ!?」
 もみくちゃである、混乱の中である、一般人たちが目の前の異様な光景に発狂する中、冷静を保つ√能力者。雪月・らぴか(霊雪乙女らぴか・h00312)は逃亡しようとする来館者に押しのけられつつ、絵画を見る。
 付けられたタイトル。その時点でクヴァリフが関わっている事など明らかなものだ。『懐胎』、仔産みの女神が関わっていなければ、何だというのか!
 確かに動いた後、腹を押した指はそこで止まっている。だがそれが再度動き出さぬとも限らない――が。

「動く絵に湧き出す怪異が見れるなんて、テンション上がっちゃうね!」
 なんとも心強い胆力である。らぴかは目前で起きた阿鼻叫喚な惨事にアガり気味。
 彼女たち√能力者の介入により被害予想は下回っているとはいえ、何とかしなければ。喧しくなった館内、腰を抜かして動けぬ者もいる。ひとまずは冷静さを取り戻してもらわねば!

 ならばどうする? ――この『光景』を、他のもので上書きしてやろう!
 春らしい暖かさだった室内にひゅう、と冷風が吹く。
 ……観客と絵画・クヴァリフの仔、その間を遮るように、風雪が吹き抜けた。冬はまだまだ終わらない! 現れるは美しき幽霊だ。|冬幻驚霊《とうげんきょうりょう》ウィンターワンダーレイス!

 唐突に冷たくなった空気と目に入った幽霊を見て、やや正気を取り戻したか――あるいは正気ではなく、別の狂気を上塗りされたか。尻餅をついていた観客がまた悲鳴を上げ、四つ這いになったのちにふらふらと立ち上がり、出口へ向かい逃げていく。

「わぁーっ! 化け物っ! 逃げてー!!」
 高い声で、出口に追い立てるように叫ぶらぴか。観客たちの背を押すように幽霊に風雪を送るようお願いをして、避難を促していく。

 そんならぴかの肩をちょんちょんとつつく奇跡の幽霊。
「……え? 私?」
 自分の顔を指差すらぴか。『逃がすために呼んだのだから、あなたも逃げたらよいのでは』……なんていう優しい配慮ではあるが。
「まだ、やることがあるからねっ!」
 ぶい。この困難、まだつづくみたいなので! のこります!
🔵​🔵​🔵​ 大成功

北條・春幸
アドリブ・絡み大歓迎。
恐怖心が欠落しているので迷惑にならない無茶はする。
有効な技能も積極的に使っていく。

仔が湧いてきてる!獲り放題だけどそんな場合でもないな。

絵を切り裂いて…したくないけど仕方ない。切るか。
これがあれば仔を呼び出し放題。だけどこの絵が無ければ客への影響が少しは減るかも。

その後で火災警報器を鳴らして外に向かって叫ぶ。
「助けて!!部屋で変な薬を撒いたヤツがいる!!」
これで部屋の外に居る客や職員が避難行動をしてくれると思うので、室内の客を一発殴って、はい、しっかりして、出口はあちらだよと力任せに放り出していこうか。

外に職員さんが居ると思うのでその後はそちらに任せよう。

「仔が湧いてきてる!!」
 きてますね。
 混乱を掻き分け絵画の前へ辿り着いた北條・春幸(人間(√汎神解剖機関)の怪異解剖士・h01096)。足元でぷるぷる震えて固まっている仔らに思わず言及。
 温かい腹の中から降誕した、それゆえに与えられてしまった寒さからか、それとも春幸から香る『知った匂い』からか。うぞうぞとさりげなく逃げようとしている彼らはひとまず置いておいて。ここいらに固まっているならまだ|対処は不要《獲り放題》だろうし。

 混乱の元凶となった絵画は静かに、まだそこにある。やりたくはないが、仕方がない。『実績』ある絵画だが……この絵さえ視認しなければ、多少はマシなはずだ。絵画を切り裂く春幸の刃。魔術的なものがかけられているわけではないようで、それはあっさりと引き裂かれてくれた。

 さて元凶への対処はそれなりに。残りは発狂している観客たちだ。
 狙うは火災報知器。どの部屋にもあるはずだと見回せば、展示物を邪魔しすぎない位置に、目立つ赤色の消火器と共にボタンを見つけた。ぐっと押し込んでやればけたたましい警報が館内に響く。
 そして、展示室の扉――人でやや詰まっている入り口から、外へ向けて叫ぶ。
「助けて!! 部屋で変な薬を撒いたヤツがいる!!」
 この混乱は、人の手によるものであると。

 詰まってしまった入り口から放り投げることはできないが、安全だと思われる――絵や「仔」を視認しない通路と、その先の非常口には、人々は殆ど向かっていないようだ。
 ならばと。我先にと逃げようとする客の背を掴み殴る。ぽかんと春幸を見る客。次に自分は警備員だぞと喚きながら危険なまでに客を押しのけようとしている男の背も掴み、殴ってやる。はっと冷静さを取り戻したか、入り口を見る彼。

「あっちもいけるよね?」
 春幸が指差す先は、別の非常口。フロアマップで確認しておいたルートだ。
「おっ、お、落ち着いてくださいっ! こちらへ!! 別の非常口が――」
 慌てつつも、そちらへ走る客。次に、人の詰まりを解消するため誘導しようと動く警備員を見つつ。春幸は振り返り、絵画の下で未だ蠢くクヴァリフの仔を見る。
 うぞり。もにゅ。触手を動かす仔らは、その視線に込められた熱意を知る由もなく……。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

東雲・グレイ
【SPD】
※アドリブ・連携歓迎
前章で仕掛けておいた「狙撃用簡易結界」から狙撃態勢に移り、数十機の「スナイプスポッター」をあらかじめ決めておいた位置に展開します。
その後絵を直接その目で見ないように、ドローンに「狙撃環境整備スモークグレネード」を運搬させて絵の前に投げつけます。煙を焚けば狙撃しやすくなる上、今後さらなる犠牲者が出ることはないだろうと判断してのことです。

そうして、逃げ惑ったり動けなくなっている周囲の人々の隙間を縫うように、跳弾などを用いながら狙撃を行い絵の破壊を狙います。
(使用技能:スナイパー、弾道計算、クイックドロウ、跳弾、吹き飛ばし、精神抵抗、狂気耐性)

 狂気は伝染する、伝播する。波のように高くなっていく。
 ある程度は抑えられたとて、ひとりひとりが対応出来る数はそう多くない。元凶たる絵画は傷ついたものの、未だそこにある――その裏からぼたり落ちてくる『クヴァリフの仔』を目にした東雲・グレイ(酷薄なる灰の狙撃手・h01625)は僅かに眉をひそめた。

 二階から絵画の『お披露目』を眺めていた観客も、混乱する展示室とクヴァリフの仔を目にして、悲鳴を上げながらその場から去っていく。好都合だ。
 あの絵画を放置するわけにはいかない。現に、裂かれたそれをちらりと見て歯ぎしりをし、それでも冷静さを保とうと避難を呼びかける警備員が見える。狙うは……完全なる絵画の破壊だ。

 ――グレイが先に仕掛けておいた狙撃用簡易結界から、スナイプスポッターを展開した。
 二階からの狙撃だ。ガラスを破り小型ドローンが放出されると、指定の位置で滞空する。上階を見上げるものがいたが、そもそも階下は混乱しきっているのだ、問題はないだろう。
 同時、ドローンによってスモークグレネードが運搬され。裂かれた絵の前、クヴァリフの仔たちの真上へと落とされた。
 途端立ち込める煙。これで絵を直視することなく――そして、煙の位置を狙い、撃ち抜くことが出来る。
 グレイが狙うは、自身が展開したドローン。前もって計算された完璧な位置だ。

 ――響く、一発の銃声。

 まさしく超絶技巧。その場の環境、そして混乱する観客を避けるためにアドリブでドローンを動かし、それに跳弾させるスナイプ。
 完全に破壊されたか、煙の中からがらんと音が鳴る。
 響く火災報知器の警報、絵画の前には煙。混乱する人々はようやく事態を飲み込めたらしい。『上書き』された危機。
 火災の発生、混乱、狂気、何らかのテロか――逃げ惑う観客たちが散り散り、人気がなくなっていく展示室。

 その中で。晴れていく煙の中に立つ男がいた。絵画が飾られていた、その前に立つ人影。
 グレイは確りとその姿を目に捉え……そして、銃口を向けた。

 ――ぎらり輝く丸眼鏡の男が、グレイを視ている。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

第3章 ボス戦 『「死の商人」クラース・ファン・デーレン』


POW 実演販売「災害級気象兵器「ミチザネ」」
指定地点から半径レベルm内を、威力100分の1の【100億ボルト級の落雷】で300回攻撃する。
SPD 実演販売「万能ハチェット「グラスグリーン」」
自身を攻撃しようとした対象を、装備する【万能ハチェット「グラスグリーン」】の射程まで跳躍した後先制攻撃する。その後、自身は【血の霧】を纏い隠密状態になる(この一連の動作は行動を消費しない)。
WIZ 実演販売「人造護霊「バビロンの穢れた女王」」
【人造護霊「バビロンの穢れた女王」】を召喚し、攻撃技「【虚ろなる七冠の裁き】」か回復技「【飢えたる獣の葡萄酒】」、あるいは「敵との融合」を指示できる。融合された敵はダメージの代わりに行動力が低下し、0になると[人造護霊「バビロンの穢れた女王」]と共に消滅死亡する。
√汎神解剖機関 普通11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

 よくぞまあ、民衆に溶け込んだことだ。だがその変装も必要がなくなった。

 すらりとした優男のシルエット。ようやく止んだ火災報知器のアラーム。
 もちゃつく『クヴァリフの仔』らを前にして、男は顎を揉む。
「まったく困ったもので……良い価値がありそうだというのに」

 ぴぃぴぃ。派手な『脅し』を食らったからか、のそのそ、とろくさく、鈍臭く逃げようとする仔ら。
 それらが愛らしいか否かはひとまず置いておいて。

 もはや爆散と言っていいほどに破損した、その『絵画』を持ち込んだ男はこくり首を傾げて、√能力者たちへと微笑みかけた。

「賠償して頂けますか?」
 回収、できなかったので。

 仔らをひっ捕らえ、絵画は再利用。そんな目論見は見事潰えた。
 それはそれとて、賠償金のほう。生命として、頂戴致します。
雪月・らぴか
おおお、あの絵画持ってきた人だね?賠償っていくらなのかなー?ああいうやばい物の値打ちって興味あるから教えてほしいね!よければ手に入れた場所も!?まあ教えてくれないよね!
こんな大混乱を引き起こすような奴だし、持ち主がいなければ賠償も不要、ってことでやっちゃうよ!

護霊が回復持ちだから商人より先に護霊をやっちゃいたいね!っていうのは敵もわかっていそう!ってことで【霊雪爆鎚コールドボンバー】発動!両方同時にやっちゃうよ!
護霊に融合されるとやばそうだから、しっかり動き回って近づかれたり囲まれないようにしたいね!距離とって地面殴って爆発当ててくよ!

絵からクヴァリフ本人登場、はなかったね。ちょっと残念かも。

「おおお、あの絵画持ってきた人だね?」
 見覚えがあるような、ないような。軽く変装し観衆の中に混ざってしまえばその個性も潰れるか。クラース・ファン・デーレン――人懐っこい、あるいは胡散臭い笑みを貼り付けた笑顔が雪月・らぴか(霊術闘士らぴか・h00312)に向けられる。
「察しが良く何よりです」

「賠償っていくらなのかなー?」
「一人や二人では足りぬ程度ですよ」
 お値打ち価格とはいかない様子だ。
「よければ手に入れた場所も!?」
「企業秘密です」
 人差し指を立てて、しー。当然といえば当然である。このような大混乱、果てには惨事を引き起こそうとした元凶、まさしく黒幕。
 ただ彼は、クヴァリフの仔の招来を促すために絵画を紛れ込ませた者であり……真に狂気に至ったものが。彼の絵画を求めた、それだけのことだ。

「でもでもっ、持ち主がいなければ賠償も不要!!」
 そうかなあ。そうかも。そもそも、簒奪者に容赦は不要! 魔杖を構えるらぴかに対し、先に動いたのはクラースだ。

「では、新たなる『実演販売』でも――ああ、|今日《こんにち》ばかりは押し売りと言ったほうがよろしいでしょうか!」
 開かれるトランク、ご覧あれとばかりにそこから這い出すはぬらり血にまみれた女の影。
 ……それは護霊と喚ぶには、些か|エグい《・・・》造形。
 人造護霊「バビロンの穢れた女王」――頭部に冠を抱く、罪深きけだもの。情けも容赦もありはしないその腕が、冠が、戦場へと七つの血の杭を振らせていく。

「わっ、わわっ!? 容赦ないなあっ!?」
 的確にらぴかを狙い放たれる七冠の裁きを避けながらクラースの側面へ回り込む。だが彼に覆いかぶさるように血の滴る髪を垂らす『彼女』は、らぴかから視線を離そうとはしない。
 自分自身の肉体――そう呼んで良いのかわからないほどに、ぶよぶよとした骨肉で構成されたそれは、己の身体をもってクラースを守護し、攻撃を仕掛けてきているようだった。

「これは……離れてくれなさそうだねっ……!」
 ついでに、こっちをみるのもやめてくれない気がする! 血で描かれた絵画のような不気味な顔に見つめられながら、らぴかは勇気を振り絞り――攻撃が途切れたその隙に、一気に女王とクラースの懐へと飛び込んだ!
「おやおや、元気なお嬢さんだ! そんなに近付いて良いのですか、こちらは――」
 飛び退くクラースと女王、だがらぴかが狙うは彼ら本体ではない――その床だ!

 一撃目、爆ぜる霊気。クラースから人造護霊を引き剥がす。
 二撃目、吹き荒れる氷雪。標的たる両者を氷の礫が引き裂いていく。
 凍てつく爆発が、周囲の気温をぐっと引き下げる!
「なっ……!?」
 焦るクラース――人造護霊の動きが鈍ったのだ。生の肉に近い質感であるからこそか。冷凍庫のように冷え切る館内にらぴかの声が響く。

「|霊雪爆鎚《レイセツバクツイ》コールドボンバー!!」
 ――|技《√能力》名、いまここです!
 どっかんばっかん大爆発。魔杖の先端に爆発物が? いやいやそんな、いいじゃないですか。

「なるほど……そういう武器も!」
 あなたも、曇る眼鏡の奥で興味深そうにしているんじゃあありませんよ。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

ジェイ・スオウ(サポート)
淡々と喋り語尾が片仮名になる口調が特徴の人間の職業暗殺者×不思議骨董屋店主、男です。
√能力は持ってるものを適時使用し厄災や怪異には陰陽ベースの戦法、対人なら銃火器、近接。で戦う事が多いですがケースバイケース。脅威低めの奴には『夜来香之符』でペタリとさせて叱る程度。
遊びにはバッチリ乗るタイプ。
お茶屋の営業中やご飯のとき、知り合いがいればソコソコ感情豊かになるカモ。

 天使サマ、居ないジャン。胡散臭メガネしかいないジャン。
 でも『手伝って♡』頼まれたからには仕方がナイ。
 茶箱を背負うジェイ・スオウ(半天妖・h00301)、ややげんなりとした表情で緑のスーツを着た胡散臭メガネ、クラースをじいと見る。

「商売道具。大事にしてるんダ?」
「おやおや。貴方は多少、話が通じそうですね」
 嫌味を嫌味で返すクラース。……美術館内は悲惨な有り様だった。人々が倒していった彫像、細かい装飾は床に散らばり……黄昏に至ったこの√では貴重とされる、ありとあらゆる蒐集物。それを踏みしめ逃げたものたちがいる。
 その混乱を引き起こしたのが、目前の男である。ならば、己が能力を振るわぬ理由はない。

「で? 押し売りって聞こえたケド。オレには何を売ってクレル?」
「さて? 何でしょうね……ああ、ですが、あなたに販売するものはひとつだけです」
 実に回りくどい言い回しをするが……あのトランクケースの中に詰め込まれているのはいったい何か。興味があるなら暴いてこそ。彼の商売道具とやら、早く見せて頂きたいところだが。笑顔を浮かべたまま、自分から動こうとしないそれ。
 ――ああ。対人だ。暗殺者としての本能が告げる。『似ているぞ』と。

 すっと長い袖から摺り落ちてくるは手に馴染む拳銃。
 狙いを定める必要はない、攻撃の意思を見せればいい……途端、クラースの姿が視界から消えた。
「がら空き、ですよッ!!」
 草色、緑、それはおそらくイギリスより。万能ハチェット「グラスグリーン」の刃がジェイへと迫る。
 ――確かに断ち切ったと思ったジェイの身体。だが手応えなく空を切った。

 舌打ちと共に血の霧を纏うクラース。|今の《・・》は――ああ、そうだ心当たりがある!
 だが、その結論に至るにはやや遅かった。

「詰めが甘いんじゃナイ?」
 応酬。
 ……翠と紫、交わりゃ灰色、そこへ一色赤を足そう!
 グラスグリーンを血に染めて。血の霧が何だ、『そこにいる』と示しているのであれば、狙えば良いだけじゃあないか!
 放たれる魔弾がクラースを確かに射抜く。霧に包まれているのだ、命中した箇所は定かではないが苦しげな呻きが中から聞こえた。
 生半可な「押し売り、即席」などでは対抗できない、ジェイに備わる『人殺し』の才能。

「せいぜいお祈りデモしたらイイ。マ、届かないだろうし……」
 お祈りする暇もないかもネ。鉄扇で口元を隠し笑うジェイに、晴れた赤い霧の中から睨むクラースの視線が突き刺さる。
🔵​🔵​🔴​ 成功

東雲・グレイ
【POW】
※アドリブ・連携歓迎
使い捨てステルス迷彩を利用し姿を隠しつつ、展開したスナイプスポッターで対象を確認しつつ狙撃を開始します。
相手にこちらを捕捉され、能力を使われては面倒なので動けないように脚or腹部→眼周辺(可能であれば眼球への狙撃)→心臓→頭の順番で狙撃し討伐を狙います。
(使用技能:スナイパー、弾道計算、隠密、部位破壊、クイックドロウ)

また、相手が能力を使用した場合はこちらの√能力「反射狙撃作用」による回避をしつつ上記の通りの順番で狙撃します。
「命を以て払え?こっちの方が逆に『無辜の人命を狂わせた賠償金』をそちらに請求したいくらいだよ。」

「全く……皆様、私の商売道具を次々と駄目にしてくれるじゃあないですか」
 開いたトランクケースの数は増えていく。死の押し売り、それが成功しないことについて苛立っているのだろう。小さく舌打ちをし服についた塵をはらうクラース。
 ……上階にいる東雲・グレイ(酷薄なる灰の狙撃手・h01625)の存在は、既に察しているのだろう。ちらりと上階を見るものの、彼女の姿はそこにはない。宙に展開されているドローンだけが、存在を誇示している。

「(――察されているな)」
 だが、やることは変わらない。ドローンの位置を調整し、クラースから見えぬ位置からの一撃目――!

「……ッ」
 ……唯一の、ちょっとした誤算は――相手の√能力。迷いなく、クラースは『先手を取る』ことを選んだのだ。
 二階へと跳躍し、グレイを見つけるや否や振り下ろされる「グラスグリーン」。グレイはそれを軽々と避け、そのままステルス迷彩を使用しつつ階下へ降りて、彫像の陰へと身を隠す。

 自らの使う√能力に合わせ、簒奪者は臨機応変な対応を取ってくる。だがそれに後れを取るような彼女ではない。あちらが対応してきたのだ、こちらはそれ以上を返してやればいい。

「チッ。……どちらへ? 私、そう気が長くないので……早めに姿を現して頂ければ」
 おしゃべりな男だ。男が話している間に静かにドローンを動かし、再度狙撃のできる位置へと移動させる。その動きに勘付き上方を見るも、「狙撃」に対し卓越した知識を持つグレイのそれが、『自分の、どの部位』を狙っているのかは理解できないようだ。遮蔽物となる展示物へ身を隠そうとするも遅い。

「――命を以て払えって言ったね?」
 グレイの声。彼女の位置を察するも、静かに放たれた弾丸がその頭部を――左目を撃ち抜いた。割れて落ちる眼鏡、血飛沫、それでも男は立っている。位置を変えようとするも次弾。
 ドローンは臨機応変に、グレイの放つ弾丸を受け止め、反射し、クラースへと撃ち込んでいく。血の霧に包まれ、グラスグリーンにて弾き返すにも限度がある。移動能力が落ちた今、グレイを狙うために飛び出していくのは得策ではない――!

「――こっちの方が逆に『無辜の人命を狂わせた賠償金』を、そちらに請求したいくらいだよ」
 あれだけ暴れてくれたんだ。今後、この美術館がどうなるかもわからない。
 請求書、書いてあげようか。もちろん、そっちの血で。

 血飛沫が散る。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

北條・春幸
アドリブ・絡み大歓迎。
恐怖心が欠落しているので迷惑にならない無茶はする。
有効な技能も積極的に使っていく。

「賠償金がこの命ひとつで済むなら安いもんだけどねえ」
後で生き返るし。
僕も絵を切り裂いた事はとても後悔してるから君の気持ちは分かるよ。

でもねえ、君にこの仔達を渡す訳にはいかないんでね。
命で贖うと言うのなら君の命でよろしくね。

隠密状態になるのはキツイなあ。
√能力で見えない相手にも当てられるか?

毒を込めた弾をシューターで打ち込んで攻撃していくね。
「折角の実演販売だけど全く購買意欲がそそられない。営業の才能無いんじゃない?」

それより床で蠢く仔の方がよほど魅力的だよねえ。
そっとお持ち帰り……無理か…

 やたらと命を欲しがるひとだなあ。
「賠償金がこの命ひとつで済むなら安いもんだけどねえ」
 ――北條・春幸(人間(√汎神解剖機関)の怪異解剖士・h01096)。恐怖心が欠落した彼にとって、目前の簒奪者よりも、隅に移動しようと蠢いている仔のほうが気になる。
 命をとられるくらいなら良い。普通ならばそんなこと、口にするはずもない。ぽかんと口を開けているクラース、視線が仔に向かっている春幸。

「僕も絵を切り裂いた事は、とても後悔してるから。君の気持ちは分かるよ」
 仔を呼び出す絵画――なんと素敵な響きだ! だがその絵画は今、無惨な姿で床に横たわっている。
「話が通じそうで……と言いたいところですが」
 既にクラースは察している。そうだ、この男。
「でもねえ、君にこの仔達を渡す訳にはいかないんでね」
「通じませんね」
 その通り。
 なんでもないことのようにシューターへ弾丸を詰める春幸、対して足でトランクを蹴るクラース――呼び出されるは、「バビロンの穢れた女王」――! おぞましきその姿にも、春幸は。
「わぉ! 中々刺激的!」
 爛れた血と肉がドレスのように垂れ下がるそれを『刺激的』程度に。

「バビロンかあ……そういえばバビロンってさ、最終的にはどうなったっけ……」
 はて、天より高い塔だったか、街だったか。
「ああそうだ。『疫病』だの。穢れすぎた結果、滅んだんだった」
 それは、さりげのない――『怪談』であった。

 傷ついたクラースへ血肉を分け与え治癒を試みながら、女王が腕を振るう。範囲外へと下がりながら、クラースを守る図体へと撃ち込まれる弾丸。――苦しみ始める、女王。
「ッ……これは!」
 回復を試みていたクラースが女王との『接続』を切った。己にまで弾丸に込められた|毒《・》が回ってはたまらない。その隙にも容赦なくブチ込まれる弾、手際の良いリロード――クラースの体を、魔弾が撃ち抜いた。

「折角の実演販売だけど、全く購買意欲がそそられない。営業の才能無いんじゃない?」
「ははっ……私が、何を売りたがっているか、ご存知のくせに!」
 振り下ろされる女王の腕、血の軌跡を描くそれも気にしない。
「命で贖うと言うのなら、君の命でよろしくね」
 今からやりたいことがあるので……。

「ッ……ぐ……ゥ……!」
 女王と共に毒に侵され、身動きの取れなくなった彼になす術はない。シューターにより掃射される最後の一発、それが頭部に撃ち込まれると――クラースはようやく、おしゃべりなその口を閉じたのだった。

 ――さて本命!
 うにうに集まってビビり散らかしている仔たちに小走りで駆け寄る春幸。
 腕の中におさまりそうな、小さな個体を抱え上げる。もにもに無抵抗。召喚されたばかりの「それ」は――ひたひたぺたりと春幸の手に触手を当てて、「これはなにか」と観察しているようだった。

 攫えないか? 無理か? ともあれ回収はしなければならない。ぺたぺた吸盤、ひっついてくる。ひとまず剥がそうかとする春幸の手を、名残惜しそうに触るそれは、どうにも。
「――ん゛んっ……!!」
 なかなかキュートがアグレッション。これ、機関と交渉できやしないか……。ともあれ回収、弾力ある体を袋に詰めるその腕に引っ付いているクヴァリフの仔は……。
 そっとお持ち帰り、できないだろうか……などと、考えながら。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

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