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あの星を観よ

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 賑わう店内。√ドラゴンファンタジーの飲食店は、√EDENとは多少雰囲気が異なっている。
 飲食店としてだけではなく、情報収集の場を兼ねているギルドが併設されていたりもするわけで。
 文字通りひと仕事終えた冒険者たちは酒場へと集まり、楽しげに談笑をしていた。

「いやあ、大活躍だったって言うじゃあないか!」
「そんなに。手伝ってくれた奴らが居たんだ」
 中心ではなく端を選んだようだが。それでも絡まれるものは絡まれるらしい。飲んだくれに肩を組まれて困った様子で笑う青年、コンラッド。喰竜教団に狙われた、正確には邪魔だと排除されかけたドラゴンプロトコルだ。片角は折れ、ぼろぼろの被膜の竜翼に、傷のある尾。金髪金眼、褐色肌。目立つ竜。
 √能力者と簒奪者たちの大立ち回り、犠牲は奇跡的にほぼゼロ、強いて言うなら街が多少破壊されてしまったことくらいか。
 その渦中に居た冒険者たちと……それに紛れる√能力者。和田・辰巳(ただの人間・h02649)もまた、そのうちの一人だった。

 ソフトドリンクのグラスを持ちながら、彼に絡む人が途切れたのを見計らって、コンラッドの前、向かいの席へと座る辰巳。それを見た彼は歓迎とばかりに「乾杯」、とグラスを合わせてくる。彼もそれなりに酒が回っているようだ。戦闘中の緊張した面持ちとは違う、柔らかい表情だった。

「その、ここの料理のおすすめって何かありますか?」
「スペアリブかな。食べきれないならハンバーグか……」
 提案されるがっつりメニュー。こういうところは冒険者らしいと言うべきか。笑って、「食べきれなかったら分けましょう」なんて言って。スペアリブを追加で注文する。
「生きてて得をすることなんて、酒と飯くらいしかないなあ」
 おそらく口癖だ。そんなことはないと返しても、今は聞きやしないだろう。彼を苛む希死念慮はまだ、そこにあるのだ。寄り添っている。楽になりたがっているだけではない。ちょっとした思考にするりと入り込んできて、「死んでもよいと思う」と囁いてくる、かたちのない、なにか――。

 けれど踏み込むならばこのあたりか。当たり障りのない話から、一歩。

「君は、強かったね」
 ――ただの竜として生まれ、天涯孤独に、強さだけを追い求めた。両親を失い、友人も失ってきた。新たに友人を得たとしても、その関係性が長続きするかどうかは……冒険者である以上、わからない。その結果が、彼のぼろぼろの翼や折れた角に現れている。
 常に勝者であり続けようとしたのだ。時には敗走を余儀なくされることだってあっただろう、それでも。彼は辰巳にとって、輝いて見えたのだ。純粋な賞賛だった。寂しさはある。間違いのない谷が、ラインが、自分たちの間に存在している気がして。
 それでも辰巳には最愛の人がいる。振り回して、振り回されて、己の心の棘を取ってくれた存在が。だからこそ、明るく笑うのだ。

「強かった……そうだね。過去形が、ふさわしい」
 対するコンラッドは、少し浮かない表情で目を細めた。……自分の実力を、及ばぬ点を知ったのだ。√能力者という強大な強さを持つものの力を見た。己ではまだ、あの高みには達せないのだと、知ったのだ。
 それはまさしく、天に輝く星のようで。掴み取れない輝きのようで……。

 そうして話している最中に届いた料理を大雑把に切り分けながら、コンラッドは話を続ける。
「もっと上がいる。手を伸ばして届く場所なら手を伸ばすさ。簡単に折れてやるものか」
 これは冒険者としての意地だろうか。鼻で笑うように言いながら、切り分けたスペアリブを辰巳の皿に乗せて、自分の分はそのまま、大口を開けてかぶりつく。こういう豪快なところも、育ちゆえだろう。

「……これからどうするの?」
「どう、か。もう少し……力をつけたい。……勿論、まともな方法で」
 下手に突っ込んでいけば、また止められかねないと理解しているのだろう。笑む顔はどこか困ったような――残念がるような、そんな表情だった。

「死ねない理由を、生きる理由を、もっと見つけようと思う。今のままだと、どうしようもないと……理解は、しているんだ」
 指についたソースを舐め取り、やや乾いた笑い声を。
「死にたい。死にたいんだ。でも、今じゃない。先延ばしにして……小さな生きる理由を見つけて、それに拘って。それを達成したら、また死にたがりに戻る。今までだってそうして、生きてきた」
 希死念慮を抱え、強さに拘り、守護に拘った彼が、次に求める「死なない理由」。
 半端に探しても、いや、探そうとも見つからない可能性がある。辰巳には分かる。目標や目的を見失った人々は――ただ、怪物になるしかない。
 もっとも彼の場合、元より怪物よりもずっと恐ろしい存在な気もしなくはないが。冒険者としての実力は確かなもの。

「きみは? どうするんだ。この先」
 ふと、コンラッドがそう口にした。辰巳の心中は、すでに決まっている。
「力が無くても、弱くても僕は戦い続けるよ」
 ただの人間だと、自分を評する辰巳だからこその言葉だ。本来、もっと強力な力を振るって戦えもした。だが。
「……おれよりも、ずっと強いのに?」
 笑ってみせる。あの時辰巳が見せた戦い方は、自らの持つ√能力に頼らぬ、人間としての戦い方だったから。ただの人間。ただの、とは呼べないまでに研鑽されていた。
 コンラッドにとって彼はただの少年にしか見えない、異国の服を纏った若き冒険者。そんな彼が、自分を遥かに凌駕している事実。
 そんな彼に謙遜されてしまっては、彼も笑うしかないというものだ。
「もっと自分に自信を持つといい、おれより若いんだ」
「君も若いよ」
「だいぶ差があるだろ? たぶん、ひとまわりは」
 冷えたビールのグラス、その底でこつんと辰巳の額を小突くコンラッド。案外痛かったか、額を抑える彼を見て竜の青年は機嫌よさそうに笑う。

「若けりゃ若い方がいい、血腥く生きても、年月が洗い流してくれる。罪だけは重なるばかりだが……それでも、ね」
 ぐい、とビールを呷り、店員に「もう一杯」と声をかけるコンラッド。運ばれてくるそれの溢れそうな泡に唇をつける様は、どうにも既に酔っ払いだ。少々面白くなってしまって、辰巳は笑う。

「お互い頑張ろうね」
「ああ、きみも」
 拳をぐ、と。突き出すコンラッド。それにこつんと、握った拳で返して。

「それじゃあ、また」

 そう言って手を振って、別れる。
 星々の下、賑わう街並み。あちらの酒宴はまだまだ続きそうだが――存外早く、彼にまた会えそうな気がした。

●せわをかける。
「やあ。『世話をかける』が、手を貸してくれ」
 ――彼が『見覚えのある星詠み』を見る日も、遠くはない。

「――天に輝く星を見よ」
 ゾディアック・サインは、天に強く、未来を示す。
「あれら、すべてが敵だ」
 我らが楽園を、この世界を守護せよ。簒奪を許すな。

 欠落は埋まり、新たな欠落が生まれ、√能力者はそうして生きていく。
 けして満たされぬことのない「それ」から生まれるこの力を、誰に振るえばよいのか。誰のために、剣を抜くべきか。
 それを……おれたちは、よく理解している。
 そう思わないか? 辰巳。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​ 成功

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