シナリオ

好奇心はぼくらを殺す

#√EDEN #√汎神解剖機関

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 #√EDEN
 #√汎神解剖機関

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「ねーねー、ほんとなの?」
「ほんとほんと! ぜったいだって!」
「うっさんくさーい」
「じゃあなんでついてきたんだよ!」
「アンタたちだけじゃ心配だからに決まってるでしょ!」
 まよなか。よるの九時すぎ。
 ぼくら|雲津《くもつ》小……『クモ小オカルトたんけんたい』は、町はずれのふるーい学校にやってきた。
 もちろん、オトナたちにはないしょだ。ゼッタイ反対されるもんね。
「でもさ、みんなホントにこんなとこ入るの?」
 ものすっごくイヤそうな顔をして、マイカが言った。
「ったりめーじゃん! ヤバい事故がメチャクチャいっぱいおきてダメになっちゃった学校なんだろ? ぜったいスッゲー動画撮れるって!」
 タイスケがカメラとでっかい懐中電灯をふりまわしながらわめく。
 そう。ぼくらはメッチャバズるすっごい動画をとるためにここにやってきたんだ。ハイキョのふるーい学校で、オバケのすがたをとらえたホンモノのしんれい動画をね!
「だからそれがホントなのかって……」
「でも『センセー』が言ってたんだよ? 大人が嘘なんかつかないって」
 トモヤはメガネをくいっと押し上げながら、ヤミの中に浮かぶぼろぼろの校舎を見つめる。
「マイちゃん、こわがってる?」
 だいじょぶだよー。きんちょう感なくエリコはマイカに抱きついてにこにこわらった。
「だからこわがってなんかないってば!!」
「じゃあ行こう。作戦どおりで並ぶからね。タイスケはぼくといっしょにいちばん前。エリコとマイカはぼくらについてきて。“しんがり”はトモヤとエイジ、たのんだよ」
「まかせて」
「おー……いいぜ」
 リーダーのぼくと、野球をやってて運動が得意なタイスケ、オバケにくわしいトモヤと空手をならってるエイジ。男子2人ずつでバディを組んで,女子二人を前と後ろの両方からまもりながら行くへんせいだ。おばけやわるい大人がワッて出てきても、これなら安心してはんげきできる。ぼくらはかんぺきなチームだった。
「よーし、クモ小オカルトたんけんたい、しゅつどー!」
「おう!」
「はいはい……」
「はーい」
「はいっ!」
「おー」
「はぁい……」
 こうしてぼくらクモ小オカルトたんけんたいはヤミのりょういきへと向かってゆうかんにとびこんでゆくのであった!

「うむ。死ぬぞ」
  秘密結社ディスアーク総統、シン・ディスアーク(h00027)はこともなげに告げた。
「√EDENでな。|小学生《ガキども》がおばけの動画を撮りに夜の廃校に乗り込むのだ。……フツーであれば怖い思いをして翌日おうちのひとにしこたま怒られて終わるちょっとした冒険の話にしかならぬが……|侵略者《てき》の思惑が絡んでおる」
 シン・ディスアークは手元の端末を操作し、モニターに画像を映し出した。
「現場となるのはK県Y市北部の外れにある廃校の校舎だ。
 廃校となってしばらく経ち、老朽化などでだいぶボロボロだが行政の都合で解体工事がまだ入っておらぬ。そのテの趣味の連中にはたまらぬスポットとなっている」
  Y市立|幌比田《ほろびた》小学校。全盛期は200人ほどの全校生徒を抱えながらも、近隣に新しい学校が建てられた影響などで廃校になった――|なんのいわくもない《・・・・・・・・・》学校である。
「……だが、今は危険な状態だ。√汎神解剖機関であったか。そこの侵略的√能力者がここに怪異を呼び込んでおるのだ。
 うむ。本来であればなんにもいないはずの場所なのだがな。今やこの廃校は『怪異』どもが押し込められた無節操な化け物動物園と化しておる」
 『花子さん』『人体模型』『人食いモナ・リザ』『亡霊放送室』『鏡に映る悪魔』『首吊り教室』『保健室のせんせい』『たまくらののろいばこ』『こっくりさんの×××××』『××××××××』『××××××××』『××××××××』『××××××××』。
 ――そうした『怪異』の数々が、いまの旧幌比田小学校校舎の中には蔓延っている。
 いずれも子供たちの想念から生まれ、恐怖を喰らうものたちだ。
 √能力者であれば対処できぬものではないが、それらの巣窟と化した校舎に足を踏み入れたのが√能力をもたない子供たちであれば瞬く間に『餌』として食い尽くされてしまうことであろう。
「おそらく|子供ら《ガキども》は何者かに唆されて廃校に来ておるのであろう。怪異だらけにしたハコに、弱い生き物を差し入れる……余が推察するに、敵の目的は『給餌』だ」
 シン・ディスアークは不快げに目を細めた。
「この√EDENを『養殖場』にして、たっぷり餌を喰わせてやったあとで回収して元の√に持ち帰ろう、と……そういう算段に違いあるまい。……腹の立つハナシであろう?」
 そうしてから、シン・ディスアークは√能力者たちを睨む。
「故に、汝らの為すべきことはこの廃校舎に入り込んだ|餌《ガキ》どもの救出と、内部に蔓延った怪異の掃討、あるいは回収による校舎内の制圧だ。……しかし」
 シン・ディスアークが眉間の皺を深める。
「汝らが校舎内をどうにかしたら、状況に気付いて敵も動き出すであろ。ほぼ間違いなく汝らに襲い掛かってくるはずゆえ、これを迎え撃ち、返り討ちにせよ」
 そうしてこの侵略を退けることができれば、この任務は完了となる。
「では一度おさらいするぞ。
 まずひとつ。とんでもない数の怪異が蔓延る廃校舎に|餌《ガキ》どもが入り込んでいるため、救出作業と蔓延った怪異の無力化を行って内部を制圧する。
 ふたつ。救出と制圧が成功すれば、作戦を妨げたと敵が怒って襲ってくるに違いないので、それを撃退する。これができれば任務は完了となるぞ」
 まとめてみれば話は存外にシンプルであったな、とシン・ディスアークは笑った。
「……そういうわけだ。我々の暮らすこの√EDENの世界を薄汚い侵略者どもなどに穢させておくわけにはゆかぬ。往くがよい。この世界に手を出したことを奴らに後悔させてやるのだ!」
 そうしてシン・ディスアークは号令とともに√能力者たちを現地へと送り出す。
 ここにまたひとつ、√EDENを護るための戦いが始まるのであった。

マスターより

無限宇宙人 カノー星人
 ごきげんよう、√能力者たち。カノ―星人です。
 学校の怪談が嫌いな人はいないと思います。
 よろしくお願いいたします。
51

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第1章 冒険 『何者かに追われる一般人』


POW 敵の足止めをする
SPD 囮になる
WIZ 一般人に退路を誘導する
√EDEN 普通7 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

 さく。さく。
 ぼうぼうにしげったくさむらをかき分けて、ぼくらクモ小オカルトたんけんたいは進む。
「ここ、校庭だったのかな」
「たぶんそうだとおもうよ」
 雑草の間をライトで照らしながら、ぼくらは話した。
「い、っ!」
「どうした?」
「サイアク……葉っぱで足切っちゃった」
「ぼくばんそうこう持ってるよ!」
「ありがと」
 マイカが足をケガしたみたいだ。スカートでくるからだよ、と思いながら、ばんそうこうを貼るのを待ってぼくらは進むのを再開した。
 そうして。
「……センセーの言ってたとおりだ。『立入禁止』のロープがかかってるだけだね」
 ぼくらは、げんかんの前にたどりつく。
 いかにも、なおどろおどろしいふんいきだ。いつもぼくらがかよってるクモ小とはやっぱりぜんぜんちがう。夜の学校ってだけでもこわいのに、しかもハイキョなんて。そこらじゅうのかべはヒビだらけで、ぼうぼうにのびたながーい草がはいまわってる。あちこちわれてる窓ガラスも見えるし、げんかんからのぞきこんで見えた校舎の中はまっくらで先がぜんぜん見えない。
 正直、ぼくもちょっとビビっていた。
「……ほんとに入るの?」
 ちょっとふるえた声で、マイカが言った。
「こわいんならここで待っててもいいんだぜ。おいてくけどな」
 鼻で笑いながらタイスケが言う。
「い、行くわよ!」
 こんなところにたった一人置いてけぼりだなんて、ぼくでもぞっとする話だ。マイカも想像してこわくなったのだろう。一人よりはみんなと行くほうがマシ、とばかりにマイカはとなりのエリコの手を取った。
「んじゃさっさと行こうぜ」
 あくびまじりで言ったエイジにせかされて、ぼくらはすすみだす。
 『立入禁止』のロープの前でほんのちょっとだけ足を止めて……でも、カクゴを決める。メチャバズ動画のためだ。ぼくらは一度顔を見合わせてうなずきあうと、勇気をだして校舎の中へと足をふみいれた。

 そのときだった。
 ガシャン!! とおっきな音がして、開いていたはずのげんかんの扉がいきなり閉じたんだ!
「うわっ!?」
「わ……!」
「きゃーっ!!」
「わあ」
「うお……」
「さっそくシンレイ現象!?」
 おどろくぼくら。トモヤだけは抜け目なくカメラを回して動画をとろうとしていた。
「……おい、これマジで閉まってるぞ! 開かねえ!」
「マジ? オレもやる!」
 エイジとタイスケがあわててげんかんを開けようと、押したり引いたりする……でも、とびらはビクともしない!
「おいおい……! どうなってんだよこれ!!」
「ほ、ほんとだ……ホンモノのシンレイ現象だ!!」
「いやーっ!!」
 エイジがとまどい、マイカが悲鳴をあげる。だいじょぶだいじょぶとエリコがマイカをなだめて、一方でタイスケがひきつった笑顔をしていた。トモヤだけがたのしそうにしている。
「じゃあさ すすむしかないよね」
 ×××がそっとささやく。
「は? え、なに言っ……」
「だって このままここにいても どうにもならないよ」
 暗がりの中で、×××はくくくとわらった。
「きっとね がっこうのなかをさがしたら そとにでる方法がみつかるとおもうんだ」
「それは、そうかもだけど……」
 たのしそうに言う×××にぼくはとまどった。
 ぼくはちらっとうしろを見て、中の様子をかくにんする。
 いまぼくらがいるげんかん口からは、行き先が三つに分かれていた。
 まっすぐ奥にのびた正面のろうかと、左に向かうろうか。それから、正面のろうかの脇に二階にのぼる階段がある。
 ……ぼくらはオカルトたんけんたいは6人。ふたりチームをみっつに分けてそれぞれのルートでさがすのが一番こうりつ的かな、とぼくは思った。
「ね すすもうよ」
 ×××がささやきかける。
「おい、ショウマ……!」
「でないとさ ほら」
 そのとき。なにか言いかけたタイスケをさえぎって、くらいろうかの先を、×××が指さした。
「きちゃうよ」
 ぺたん、ぺたん、ぺたん。
 あしおと。
 はだしの足が、ろうかをぺたぺたと歩き回るおとだ。
 それが、くらがりの中から近づいてきている。
 あああああそぼおおおおおおおおおお。
 あああそおおおおおぼおおおおおおおおお。
「なんだよ、あれ……!」
 きこえたきみの悪い声にぞっとしながら、タイスケがろうかの先をライトでてらす。
 あそぼおおおおおおおおおお。
「うわあああああああっ!!!」
「ぎゃあああああっ!!!!」
 細い灯りの中に照らし出されたのは――たいそう着を着た、一年生くらいの男の子だった。
 ……ちがう。男の子じゃない!
 灯りに照らされたいっしゅん、ぼくらは見たのだ。その顔は、くしゃくしゃのシワだらけのおじさんだった!
 あそぼおおおおおおおお。
 その『一年生おじさん』が……女の子みたいな声でわめきながら、ぼくらに近づいてきている!
「わああああああああっ!!!」
「やだあああっ!!」
「なんなんだよぉっ!?」
 あんまりの恐怖に、ぼくらは一も二もなくかけだしていた。
 『おじさん』が来る奥へのろうかだけはさけて、階段と左に進むろうかとで、みんなてんでばらばらに悲鳴をあげながら散り散りになって逃げていく。
「あっははは あっはははは」
 逃げまどうぼくらのうしろで、×××のおもしろがって笑い転げ声だけが校舎にこだましていた。
--------------------
|登場人物《えさたち》の紹介

・ショウマ
|雲津《くもつ》小学校5年生。かしこくて勇気があるチームのリーダー。
ケンカは弱いけど根性がある。

・タイスケ
同じく5年生。少年野球チームに入っていて、クラスでいちばん体格がいい。

・マイカ
同じく5年生。家がお金持ちで甘やかされて育っている。
ワガママでいじっぱり。長所は自分から謝れること。

・エリコ
同じく5年生。マイカの親友。おっとりした怖いもの知らず。笑いのツボが人とずれている。

・トモヤ
同じく5年生。両親ともにオタクのサラブレッド。
オカルトオタクでオバケにくわしい。

・エイジ
同じく5年生。小さい頃に観た仮面カイザーに憧れて空手をやっている。
飄々としているのがかっこいいと思っていて、いつもわざとだるそうな顔をしている。

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 こどもだ。
 廃墟の暗がりの中で、なまぬるい空気がざわめいた。
 こどもだ。
 |子供《えさ》たちの恐怖の感情が、鉢に注がれる水のように闇の中へと染み渡ってゆく。
 きょうふだ。
 その感情を喰らって、闇はうごめき渦巻きかたちをとってゆく。
 おいしそう。
 音楽室に捨て置かれた古いピアノが、がちがちと鍵盤を鳴らす。
 理科室のホルマリン標本がごぼごぼと泡を吐く中、骸骨模型ががたがた震え出す。
 空き教室の天井から縄が垂れ下がり、そこに吊られた縊死体が血を吐きながら嗤った。
 おいでおいで。おいでおいでおいでおいでおいでおいでおいでおいで。
 誰もいない教室の中、ほこりをかぶった机の上でこっくりさんの10円玉が激しく動き出す。
 きょうはたのしいパーティーだ。たのしもうよ。たのしもうよ。足のない女の子がけたけた笑いながら校舎の壁を這い回り、図工室の石膏像が廊下に並び始める。

 その中を逃げ惑う|子供《えさ》たち。

 君たちが現場にたどり着くのは、そんな状況である。
クラウス・イーザリー
(……嫌な話だな)
子供の未来が奪われるのはすごく辛い
何としてでも助けないといけないな

事態は急を要するみたいだね
現場に辿り着いたらすぐにレギオンスウォームを使用
レギオンを飛ばし、センサーで子供たちを探して合流を目指す
怪異に遭遇したらレギオンミサイルで攻撃させて撃退しよう

子供を発見したらダッシュや遊撃ですぐに向かい、話しかけて落ち着かせる
「怖かったよね、もう大丈夫だよ」
宥めることができたら守りながら行動
引き続きレギオンを操って他の子を探そう

……√ウォーゾーンなら、この子達くらいの年齢だともう戦場に出ていてもおかしくない
改めて√EDENの平穏を実感すると共に、この子達の世界と心を守りたいと思うよ
玖珂津・胡々乃香
【アドリブ、絡み大歓迎】
<WIZ>
あらあら、みんな散り散りになってしまったのね?
『符術《式神招来》』で管狐を呼び出して探すわ。
見つけたら、管狐でも怖いかもしれないから直接声を掛けましょうか。
コホンッ。
コチラは警備のおねーさんです!立ち入り禁止の校舎に入った悪い子はどこですかー!怒らないから出てきなさい!お友達と一緒に帰りますよー!
と、アピールしつつ声を掛けます。
さてさて残りのお友達は?場所は分からない?……先に外にでる?一緒に探す?
どちらにせよ……手を繋いでいきましょうか。
大丈夫、他の警備の人も居るからちゃんとみんな見つけてくれるわ。

怪異に出会ったら子供を抱えて逃げちゃいましょう。

 嫌な話だな、と。クラウス・イーザリー(h05015)は思った。
「子供を|怪異《ばけもの》の餌にする……か」
 なんと悪辣なことか。
 幼子とは、その世界の未来を担うきわめて重要な存在だ。どこの√であっても、それは変わらない。
「……そんなことのために子供たちの未来が奪われるなんて」
 クラウスの呟く声に、微かに険が入る。それはひどくシンプルな不快感の表出だ。
 |彼の出身世界《√ウォーゾーン》であれば、年端も行かぬ子供たちが戦場に駆り出され、過酷な戦場の中でその命を犠牲にすることも決して珍しいことではない。
 だが――そうした残酷な運命とは無縁に生きる|√EDEN《この世界》の子供たちは、そうではない。
 であればせめて、この世界の子供たちには死の匂いとは無縁に、幸福に生きていてほしい、と。クラウスは願っていた。
「そうね。そんなことさせるわけにはいかないわ」
 クラウスの背後で足音と気配。それから、女の声。
「何としてでも助け出しましょう。全員、ね」
 ざ、っ。草を踏みしめる足音とともにクラウスの横へと立ったのは、玖珂津・胡々乃香(h02098)である。
 胡々乃香は√百鬼夜行世界に生きる|妖怪《狐変化》の一人であり、多くの妖怪たちがそうである例に漏れず人間という生き物を愛している。
 無論、人間の子供たちを犠牲にしようという邪悪な悪巧みなど、彼女にとっても決して許せるものではなかった。
「それで、中の状況は……」
 胡々乃香は聳え立つ廃校舎を仰ぎ見て、微かに目を細めた。
「うわっ」
 次の瞬間、胡々乃香はとんでもなく嫌な顔をした。
「どうしました?」
 年上に気を使い、つとめて敬語のかたちを作りながらクラウスは胡々乃香に問いかけた。
「いやー…………だいぶヤバいかも」
 胡々乃香は眉間にしわを寄せながらクラウスに答える。
 ――学校の怪談において語られる怪異の者たちは、その多くが『妖怪』として扱われる。
 故に、ある意味では√百鬼夜行の妖怪たちと√汎神解剖機関の怪異たちは近縁の存在であるとも言えるのだ。
 だからこそ、胡々乃香は校舎内にひしめく怪異の群れが放散するネガティヴなエネルギー――陰の氣の濃密さと、その悪質さを肌で感じ取っていた。それなりの規模の古妖が現れた時にも匹敵する状況だ。
「事態は急を要するみたいですね」
 胡々乃香の表情から状況の深刻さを読み取り、クラウスは戦闘装備の起動を開始した。
「ええ、間違いないわ。もうここで喋ってる時間も惜しい。すぐに動き出しましょう!」
「はい、勿論」
 頷き合う二人は、そこから素早く駆けだして廃校舎の中へと突入する!

「レギオン、全機行動開始!」
《行動目的:要救助者の捜索・及び・敵性存在の撃滅。レギオン1番より28番まで、全機行動を開始します》
「さぁさぁ管ちゃんたち、あなたたちも出番よ!」
《きゅきゅっ!》
 二人は突入とほとんど同時にそれぞれ持つ『目』を解き放った。
 クラウスは半自律型の小型ドローン群であるレギオンを展開。胡々乃香はきゅぽんと開けた竹筒から彼女の遣いである管狐たちを校舎内へと放った。
 レギオンたちはセンサーで捉えた情報をクラウスの端末へと絶えず転送し、管狐たちは共有した感覚によって胡々乃香へと探索状況を伝えるのだ。合わせて40近い『目』が一斉に校舎内へと散ってゆく。
「俺たちも進みましょう」
「そうね。歩きながら探していった方が出会う確率も上がるでしょうし」
 二人は展開した『目』たちからの情報を受け取りながら、校舎内を進み始めた。
 ――しかしてそれも束の間。
『なあにこれ なあにこれ?』
『だめだよおおおおおがっこうをよごしちゃあああああああああ』
 二人は『目』たちが捉えた校舎内の状況の中に、異形の者たちを見る。
 一体は――足のない女生徒の姿をした怪異。テケテケと呼ばれることの多い有名な学校妖怪だ。『テケテケ』は鋭く尖った爪を器用に使い、両腕だけで壁や天井を這いまわっている。――『テケテケ』は、見慣れぬドローン機器を異物と見て攻撃を仕掛けに来ていた。
 もう一体は、何の変哲もないツナギ姿の成人男性であった。――『用務員さん』だ。学校の中にいる『先生ではない大人』として子供たちの注目を集めやすく、怪異のモチーフとしても多く用いられる。
『ねずみがあああああはいってきているねえええええええ』
 うつろな目をした『用務員さん』の怪異は、両腕と両足を素人操演の操り人形めいてばたつかせるように振り回しながら、手にしたモップ――の先端に錆びた包丁を括り付けた粗雑な槍もどきを振り回して管狐たちに襲い掛かっていた。
「あー……出てきたわね」
「撃退しましょう」
「そうね」
 敵との遭遇はもとから想定済みだ。クラウスは端末を操作し、遠隔でレギオンたちに攻撃指令を送る。胡々乃香もまた管狐たちへと念波によって攻撃の意志を伝えた。――たちまちはじける炎。燃える狐火、爆ぜるレギオンミサイル!
『ギャッ! なによこれ!』
『がああああっこぉおおおうのなかでええええええひあそびはあああああああいけないよおおおおおおお』
 爆発の勢いに驚いて退きながらも迎撃態勢に移る『テケテケ』。燃える皮膚の下から粘液を垂らすした緑色の触手塊の正体をあらわす『用務員さん』。怪異たちは完全に戦闘状態へと入り、二人の『目』たちとの戦いを始めた。
「……けっこうしぶといわねこいつら」
「なら、レギオンたちが奴らを惹きつけてるうちに子供たちを探しましょう。撃退できるのを待つよりいいと思います」
「うん、それがよさそう」
 二人は頷き合いながら怪異たちから離れる方向へと駆けてゆく。
「とはいえ闇雲に探し回っても……」
「そしたら、こっちから呼んであげましょ」
 そうして。
「コホンッ。……雲津小学校5年生のみなさーん! コチラは警備のおねーさんでーす!!」
 胡々乃香は、おおきな声を廊下に響かせた。
「みんなのおとーさんおかーさんと、学校の先生からお願いされてー! あなたたちを探しにきましたー!」
 お願いされた、というのは嘘だが、|真夜中の廃校舎《こんな場所》で自分たちを探している『警備の人』というのに信憑性をもたせるために必要な理由だ。
 胡々乃香は一旦言葉を切り、肘でちょいちょいとクラウスの脇腹をつついた。
 俺もやれってことですか、とすぐにその意図をくみ取って、クラウスも大きく息を吸い込む。
「えー……俺たちはー、オバケ退治もできる、とくべつな訓練も受けた警備のひとでーす!」
「立ち入り禁止の校舎に入ったことはあとでおうちのひとからお説教ですがー! 怒らないから出てきなさい! お友達と一緒に帰りますよー!」
 そのときである。
「……」
 からり、と微かな音がして――二人が歩く廊下の端で、教室の引き戸が僅かに開いた。
「……」
 そこから顔を出したのは――子供たちのうちの一人。女子のエリコであった。
 半信半疑、といった表情で、ちらちらと二人の様子を伺っている。
「あ」
「……見つけた!」
 エリコの存在に気付き、二人は素早く駆け寄った。エリコはびくっと身体を震わせながら、すこし後退る。
「よかった、無事みたいね……」
「怖かったよね、もう大丈夫だよ」
 二人は屈みこんで目線を合わせながらエリコの無事を確認し、話しかける。
 エリコもまた話しかけてきた二人の『警備のひと』がおそろしい『オバケ』たちとは明らかに違う様子を感じ取った様子であった。エリコは二人へとちいさく頷いて口を開く。
「ごめんなさい」
「安心して。無事でいてくれただけでじゅうぶんだよ」
「ともかく、これで一人目ね」
 胡々乃香は手を差し出して、エリコの手を握った。
「それで、残りのお友達は? ……場所はわからない?」
「……」
 胡々乃香の問いかけに、わからない、とエリコは首を振った。
「そう……。先に外にでる? 一緒に探す?」
「あの……マイちゃんは」
 エリコは不安げに呟く。
「マイちゃん……マイカちゃんのことだね」
「大丈夫、他の警備の人も居るからちゃんとみんな見つけてくれるわ」
「……おねえさんたちは、これからどうするの?」
「もちろん、私たちも探すわよ」
「あと5人、みんな助けるまでね」
「じゃあ……わたしも一緒に行く」
 エリコは強い決意とともに頷き、胡々乃香の手をぎゅっと握り返した。
「決まりね」
「わかったよ。それじゃあ、俺たちのそばから離れないで」
「うん」
 ――かくして、√能力者たちは一人目の子供の確保に成功する。
 二人はレギオンと管狐たちが遭遇した怪異たちを追い払っていたのを確認すると、残る子供たちを探すために校舎内をふたたび進み始めるのであった。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​ 成功

白神・真綾
絡みアドリブ歓迎
SPD
ヒャッハー!真綾ちゃんデース!今日は学校の怪談狩りデース!ちょうど餌に群がってるみたいなので選り取り見取りで乱獲するデース!
怪異と子供らの間に割って入って狂ったように笑いながら怪異に斬りかかっていく
「今から真綾ちゃんのお楽しみタイムの開始デース!子供には刺激が強すぎるからお前らはさっさと帰れデース!」
ラーレ・レッドフード
おいでおいでと言われたから来てやったぞ喜べ。
アタシを食えりゃ旨いかもしれんが、それ以上にきっちり暴れるが我慢しろよな!

つーわけで即エントリー。
やる事ぁ単純。手にしたショットガンでぶっぱなしながら校舎ごと心霊共をぶっ潰すだけ。火炎瓶はーガキどもと他の味方が逃げる道潰すから今はパス、銃一本とアタシだけで行く。
そーして暴れてガキ共の眼ぇ逸らすにゃちょうどいいだろ?

散弾の雨を降らせながら彫刻を壊せ。
爆発する雷を背に縊り屍を燃やせ。
雄叫び上げながら蠢く机を踵で潰せ。
空を舞う粘液を燃やせ。

なぁんだああ!!足んねぇぞカス共が!喰らいたいならもっと来やがれってんだ!
……何かアタシが怪談みてぇだな。
アリス・グラブズ
※アドリブ・連携歓迎

おいしそう!
ピアノに標本に模型に縊死体にテケテケ!
色々あって目移りしちゃうわ!
どーれーにーしーよーかーなー!
と思ったけど、騒いでいる子供たちが邪魔ね!
モノを食べる時は静かにしてほしいわ!
とりあえず子供達を|ちょっと脅かして《技能:異形化》味方の方に追い立てておこうかな!
口とか指とか触腕を適当に増やして『|縺後♀繝シ�√◆縺ケ縺。繧�≧縺槭���《がおー!たべちゃうぞー!》』と脅しつつ護衛しながら味方の方向へ追いして保護して貰うわよ!
ついでに道すがら目についた怪異を|触腕で掴んで《技能:グラップル》|適当に叩きつけて《技能:怪力》弱らせたら|食べちゃいましょう!《技能:捕食》

 おおおおお。おおおおおお。
 おいでおいでおいでおいでおいでおいでおいでおいでおいで。
 あそぼあそぼあそぼあそぼあそぼあそぼあそぼあそぼあそぼ。
 地の底から響くような低く唸る声が。
 あるいは、壊れた楽器が奏でるようなひどく甲高い声が。闇の中に満ちていた。
 おいしそう おいしそう
 ごちそうね ごちそうね
 けらけら笑い合う亡霊たちが、逃げ惑う子供を追いつめてゆく。
「ハァ、ハァ……!」
 タイスケは廊下を走っていた。
 クラブ活動の練習でも、学校の長距離走でも、こんなに死に物狂いで走ったことはない。既に何分も全力で走り続けていて、息も絶え絶えで恐怖の表情を浮かべた汗だくのその顔には激しい疲労の色が見える。
 だけど、止まるわけにはいかない。タイスケは怯えながら一瞬だけちらりと振り返る。

 まってまって。

 ごはん。

 もっとこわがれ。

 にげるな。

 しね。

 囁く怪異の声がタイスケにまとわりついた。
 ――獲物を狩る狼の群れのように、怪異たちは塊となって|タイスケ《餌》を追いかける。
 死にたくない。死にたくない。死にたくない!
 必死の思いで逃げ惑うタイスケであったが――
「うわ、っ!!」
 “なにか”に脚を掴まれて、タイスケは転倒する。
 廊下の側面――教室の引き戸の中から、枯れ枝のような老人の腕が出ていた。タイスケはそれに捕まってしまったのだ。
 もおにげられないよお
 しわがれた声が教室の中から響く。
 追い回していた怪異の群れもタイスケに追いついていた。異形の怪物たちがタイスケを囲んで見下ろし、捕食者めいてその顎を開く。
 どこからたべようか
 わけっこしよう わけっこしよう
 ばらばらにしようね
 みんなでわけっこしようね
 めだま めだまがいい めだまたべたい
 かいたいしよう そうしよう
 ざわめく怪異たちが、手にした凶器や爪を振り上げた。そして、恐怖に震えるタイスケへとその牙を――
「おらぁッ!!」
 BLAM! ――しかしてそのとき、闇を裂くような|閃光《マズルフラッシュ》!
「あっ! 見て真綾さん、あれだよ! おいしそう!」
「ヒャッハー! 怪談狩りデース!」
 それから――銃声とほとんど同時に、床板を鳴らす足音と気配がふたつ。この場へと迫った。
 なあに なあに。突然の闖入者に困惑する怪異の群れ。人体模型がきりきりと首を回して迫る者たちを見た。
「“おいでおいで”っつう声が聞こえたから来てやったぞ、喜べ!」
 BLAM! 爆ぜる弾頭。|猟師の銃《ショットガン》の銃口から疾った弾丸が人体模型の頭を粉々に吹き飛ばす。
「ええ……今度はなんだよぉ…………」
 突如として変わり始めた周囲の状況に、タイスケは半泣きで呻いた。
「なんでオバケといっしょに|赤ずきんちゃん《・・・・・・・》が出てくるんだよぉ……」
「うるせぇな。お陰で命拾いできんだから文句言うんじゃねえよ」
 怪異群へと対峙しながら、|ラーレ・レッドフード《赤ずきんちゃん》(h00223)は不機嫌そうに吐き捨てた。
 うわああああああああああああ
 ころしたあああああ ころしたああああああああ
 なかまをおおおおおおころしたああああああああ
 ――一方、怪異の群れはざわめきながらいきり立つ。『メリーさん』のぬいぐるみが包丁を掲げ、『首吊り教室の幽霊』が縄を構える隣で『ブキミちゃん』が爪を掲げる――ラーレが向ける銃口からの鋭い殺気と敵意を感じ取り、怪異たちは迎撃態勢に移ろうとしていた。
 そのときである。
「抜け駆けはずるいデース!!」
 閃く光刃、フォトンシザース! 白神・真綾(h00844)が怪異たちの中へと飛び込みながら刃を薙ぐ!
「そうよ! ワタシたちもおなか空かせてきたんだから!」
 続けて飛び込んだアリス・グラブズ(h03259)は長い金髪に擬態した触腕をしゅるりと伸ばして手近な位置にいた怪異を掴んで引き寄せ、そのままがじりと齧り取った。
「あ!? なんだオメーラ!?」
 乱入をかけてきた二人に、ラーレはぎょっとしながら視線を向ける。
「真綾ちゃんデース! 怪談狩りに来ましたデース!」
「アリスちゃんでーす! |怪異《ごはん》食べにきたわ!」
「なんだ、|アタシと同じ手合い《・・・・・・・・・》かよ!」
 底抜けに明るい調子のお返事。この二人、『ガキどもを助けに来た』っていうよりも『暴れに来た』のタイプの奴らだ。ラーレはそう判じた。
「そうデス! とゆーわけで、今から真綾ちゃんのお楽しみタイムの開始デース!」
「真綾さん! ワタシもワタシも!」
「そうデスね! 真綾ちゃんのお楽しみタイムあらため、真綾ちゃんとアリスちゃんのお楽しみタイムデース!」
 ああああああ。わああああああ。暗い闇に満ちたこの場に似つかわしくない明るさで軽妙にやり取りしながらも、真綾とアリスは怪異の群れを襲い続けていた。切り裂かれた『ブキミちゃん』の首をアリスががぱりと開けた大きな口でキャッチしてごくんと一飲み。一転被捕食者の立場に追い込まれた怪異たちが悲鳴をあげる。
「ナめんなよ! アタシのお楽しみタイムだろうがッ!!」
 BLAMBLAMBLAM!! 獲物を横取りするんじゃねえ! ラーレは激昂に叫びながら引き金を引いた。ばららっ! 弾ける散弾が『夜動く彫刻』を粉砕する!
「フフン! これはもう早い者勝ちデース!」
「弱肉強食ね!」
「なんだとォ……! 後から来といて生意気言ってんじゃねえぞッ!!」
 苛立ちをぶつけるように、ラーレは廊下側面の教室の戸をぶん殴る――ばたん! 衝撃で外れた扉が倒れて室内の様子が見えた。
 おおおおお。教室内の空気がざわめき、中に潜んでいた怪異が姿を現す。ぎしぃ。天井から吊り下がる縊死体。がたがたと蠢く生きた机。天井を這う粘性の怪物。教室内もまた怪異の巣窟だ。
「……なんだ、こっちにもいるじゃねえか!」
 ラーレは口の端をにぃと吊り上げながら教室内へと飛び込んだ。靴底を叩き込んで生きた机を蹴り潰しながら吊り首死体を銃底で殴りつける。そこからめくら撃ちで教室内の怪異たちに向けて次々に散弾をぶちまけた。
「あ、ずるい! ワタシもそっちの食べるわ!」
「ヒャッハー! 真綾ちゃんも暴れるデース!」
 廊下側に集まっていた怪異群をあらかた駆逐し終えて、二人も教室内に参戦した。なだれ込んだ二人は素早く室内の怪異たちへと牙を向ける! たちまち室内で乱闘が始まる!
「なんだよぉ……なんなんだよこれぇ……」
 その様子を廊下の隅から見つめて、タイスケは震えながら呟いた。
「うるせえぞガキ! 黙って静かに震えてろ!」
「そうね! モノを食べる時は静かにしてほしいわ!」
「デース! 真綾ちゃんたちは子供には刺激が強すぎるからお前らはさっさと帰れデース!」
 三人は三者三様にタイスケをなじりながら教室内の怪異群を相手に大暴れした。
 ラーレは引き続きそこらじゅうに弾丸をブチ撒き、真綾もゴキゲンで楽しく大笑しながらフォトンシザースをぶんぶん回して怪異の類を好き放題に斬り散らす。アリスは人化けの姿を部分的に解いて|本来《異形》の姿をすこし解放しながら手当たり次第に怪異たちを貪り喰らった。
『|縺後♀繝シ�√◆縺ケ縺。繧�≧縺槭���《がおー! たべちゃうぞー!》』
「ヒャッハー!」
「なぁんだああ!? どいつもこいつもカンタンにやっつけられやがってッ!! 足んねぇぞカス共が!」
 おおおおお。おおおお。たすけてえ たすけてえ
 あまりにも力の差があり過ぎる。炸裂する√能力者たちの暴威の前に、学校怪異の群れはもはや抵抗する気力もなく悲鳴をあげて逃げ惑った。
「逃げてんじゃねぇえっ!! 喰らいたいならもっと来やがれってんだ!」
 ――時間にしておよそ数分。そうして、周囲一帯の怪異たちは退けられた。
「およ。もうおしまいデース?」
 教室の中にはもはや一片たりとも怪異の気配は残されていない。全滅デス? 満足していない様子を表情に浮かべながら真綾は首をひねった。
『|繧ゅ≧縺翫@縺セ縺�シ溘€€繝ッ繧ソ繧キ縺セ縺�縺翫↑縺九>縺」縺ア縺�↓縺ェ縺」縺ヲ縺ェ縺�o��《もうおしまい? ワタシまだおなかいっぱいになってないわ!》』
「……そうだな。アタシもまだ暴れ足りねえ」
「足りないデース!」
 そう。3人はまだ満足しきっていない。顔を見合わせながら3人は物足りなさを吐き出しあい、それから廊下へと進み出た。
「おいガキ。向こうの方にアタシらの味方がいる。そっち行って守ってもらえ」
「真綾ちゃんたちと来たら命の保証はないデース!」
『|縺阪r縺、縺代※縺ュ繝シ��《きをつけてねー!》』
 申し訳程度の救助。子供たちを保護するために仲間が尽くたセーフティエリアがあったはずだ。ラーレはその方向を指し示してタイスケを立たせ、そこまで行くように促した。
「う、うわ…………は、はい」
 そして3人は頷いたタイスケを歩かせ、その背中を見送ってから――廃校の廊下を歩き出した。
「……しかしあのガキ、アタシらのことすげえ目で見てたな」
「ンー。きっと真綾ちゃんたちもオバケみたいなものに見えたからデース!」
『|縺昴≧縺ュ�√€€繝ッ繧ソ繧キ繧ょヲ匁€ェ縺�縺九i縺阪▲縺ィ縺昴≧諤昴o繧後◆縺ョ繧茨シ�《そうね! ワタシも妖怪だからそー思われたのよ!》』
「そうか……。……まぁ、たしかに傍から見りゃあアタシらも怪談みてぇなモンかもしれねぇな」
 ラーレは眉間にほんのりしわを寄せると、猟銃を担ぎなおしながら歩を進める。
「いや、まあ関係ねえ。とにかくこのまま暴れ散らかして鬱憤晴らしといこうぜ」
「行くデース!」
『|縺ッ繝シ縺�《はーい》』
 かくして3人は次なる|怪異《えもの》たちを探して廃校舎内を進んでゆくのであった。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​ 成功

アーシャ・ヴァリアント
アドリブ・絡みは自由に。

怪談のバーゲンセールかしら、それとも物産展ならぬお化け展。
驚かして十分ビビった所をバクッって食べちゃう気
みたいだからその前には助けてあげればいいわね。
怖い目見たほうが今後危ないところには近寄らなくていい気がしなくもないけど。

有象無象のよく見る量産型幽霊共を蹴散らして子供を探してたら
大鎌を持ってシルクハットと怪しい仮面をつけたお化けと遭遇。
少しは手応えありそうじゃないと√能力を使って戦闘開始。
ぶっ飛ばした後子供を見つけたら外まで連れてって
あげるから大人しくついてきなさいガキンチョって
言っとくわ、ついてこないなら置いてくわよって。

(赤マントもしくは怪人Aがモチーフなお化け)
夢野・きらら
妖怪ならまだかわいげがあったのになぁ。怪異ならそれはもう、お帰りいただくしかないね。
それとあの子たちの撮ってるメチャバズ動画とやらも呼び水になるかもしれない。
”ハッキング”でちょちょいのちょいで消しちゃって、と。

どう接触しよう。
背も近いことだしフレンドリーに、かつ自然に溶け込んだ方がいいかな。
一方的に知っている名前を呼んで、いつのまにか隣にいる。これだね。

えー、オバケじゃないよ。魔法少女だよ。
その証拠にトモヤくん、ぼくみたいなオバケはいないだろ?

まぁ落ち着きなよ。
√能力……魔法でいたいのいたいの飛んでけしてあげるからさ。
これで死にはしないから後は頑張ってね。
”情報収集”した出口はあっちだよ。
ケヴィン・ランツ・アブレイズ
いやァ、子供の好奇心と想像力ってのは侮れないねェ。まさしく子供だからこそ許される代物だ。
……とは言え、そいつを利用して餌に仕立てるってのは騎士として放ってはおけねェ。
「つまみ食い」で終わらせるつもりが無ェってんなら……どういう目に遭うか教育してやらねェとなァ?(悪い笑い)

「暴竜殺しの黒鉄斧」「意気揚がる竜人の戦羽織」で身を固めて、廃校内に潜入。
怪異どもが襲い掛かってくるなら《竜漿魔眼》で隙を見出して返り討ち。無視できるものは無視して子供の保護に向かう。

「安心しな。気が済むまで付き合ってやる。危ないことがあったら守ってやるぜ」
齢18の身分で保護者を気取るのはちょいと気が引けるが、そこはそれだ。

「……『トイレの花子さん』。『動く人体模型』。『夜に鳴る無人ピアノ』…………数え上げてきゃキリがねえ。いやァ、子供の好奇心と想像力ってのは侮れないねェ」
 ケヴィン・ランツ・アブレイズ(h00283)は、資料として渡された『図解! カラー版・学校の妖怪図鑑』のページをめくりながら呟いた。
「そんなのが今ここにすっごいいっぱいいるってことなのよね。怪談のバーゲンセールかしら。それとも物産展ならぬお化け展?」
 アーシャ・ヴァリアント(h02334)は眉根に皺を寄せながら廃校舎を仰ぎ見る。
「“おばけ”とか“妖怪”で済む子たちならまだかわいげがあったのになぁ」
 子供の口伝で語られて生まれ、『ちょっとおどろかす』くらいを目的にするような――それこそ√百鬼夜行の妖怪たちのようなものたちであればそんな危なくもなかった話なのだけど。
「“怪異”なら。それはもう、お帰りいただくしかないね」
 人間を引き裂いて血肉を啜り生命を喰らうような存在ともなってしまえば、それは排除しなくてはなるまい。夢野・きらら(h00004)は頷いた。
「しっかし、|√EDEN《この世界》はこういう妖怪だのゴーストだのの噂が尽きないねェ」
「そうだね。こんなにオバケや怪異のウワサがあるのはこの世界特有だとおもうよ」
 √ドラゴンファンタジー世界であればダンジョンやモンスター。マスクドヒーロー世界やウォーゾーン世界には悪の怪人や戦闘機械群といった現実の恐怖がそこにある。
 わざわざ架空の恐怖存在を作り出して面白がる文化があるのは、√EDENくらいのものなのだ。
「オバケってのが|面白がれるもの《・・・・・・・》で済んでるから、子供たちを誘い込む釣り餌にできるってことかい」
 それはきっとこの世界が平和であることの何よりの証左なのであろう。
「……しかし、それを利用して子供らをバケモンの餌に仕立てるなんてな」
 平和な世界に生きる幼子たちを食い物にしようなどとは。なんとも悪辣な発想の策謀だ。――許すわけにはいかねェ。騎士として胸に宿した正義の心が、ケヴィンの中で燃え上がる。
「驚かすだけでおしまいにしてくれるようなオバケならよかったんだけどね。ビビらせた上にバクッって食べちゃうような悪いのばっかりいるって話だし、その前には子供たちも助けてあげればいいわね」
 一方、アーシャは冷静な表情をしていた。
「ここに来た子たちの将来のことを考えると、それなりに怖い目見といたほうが今後危ないところには近寄らなくなっていい気がしなくもないけど」
「そりゃあそうかもしれねェが、手遅れになったらヤバいだろ」
「わかってるわよ」
「んー……もうじゅうぶん怖がってるとおもうよ。はやく助けてあげよう」
「そうだな。行こうぜ、二人とも!」
「ええ」
 手にした妖怪図鑑をぱたんと閉じて、ケヴィンが話をまとめた。アーシャときららが頷いて、準備万端の意を示す。
 ――かくして、行動開始。3人の√能力者は、素早く廃校舎へと突入した。

 おおおおおおおお。おおおおおおお。おおおおおおお。
 あしいるか? あしいるか? あしいるか?
 ああああぎょうさああああああんんんん さあああああぎょうごおおおおおおお
 とん とん とんからとん とん とん とんからとん
「足は今あるのでじゅうぶんです!! 足は今あるのでじゅうぶんです!! 『あぎょうさん・さぎょうご』は『ウソ』です! 『あぎょうさん』は存在しません!!」
 とんからとんといえええええ
「とんからとん!! マイカちゃんも言って!!」
「と、とんからとん!!」
 廃校舎の廊下をばたばたと駆け回る足音がする。
 怪異の群れに追われるトモヤとマイカであった。
「や、やるわねトモヤ……!」
「ふんだ……! 『ルールのあるおばけ』ならぜんぜん大丈夫だもんね……!」
 オカルトマニアのトモヤは、他の男子ほどの体力はないがそのかわりオバケ知識がとても豊富である。
 トモヤにとって幸運なことに、今しがた彼を追いかけていたのはいわゆる『謎かけ』系の怪異たちが多かった。謎かけに対して特定の回答を示せれば襲われずに済む、という規則を持つゆえに、知識をもつトモヤであればやり過ごせる相手だ。オカマニもかっこいいトコあるじゃないの。マイカはちょっと感心していた。
 とんからとんといええええええ
「とんからとん!」
「とんからとん!」
 規則に沿った回答でまたもトモヤとマイカはオバケの脅威をやり過ごし、怪異たちに追われながらもはぐれてしまった他の友達やここから脱出するための出口を探す。
 ――しかし。いくつめかの階段を駆け上がり、何階かの廊下に辿り着いたそのときであった。
 あかがすき? あおがすき?
「……!!」
 廊下をふさぐように二人の前に立ちはだかる長身男性の姿をした怪異――それは真っ赤な外套を纏う仮面の怪人・赤マント!
「なにあれ……トモヤ、あれなんて答えたらいいの!?」
 人間にも見えなくはないがあまりにも異様なその姿。どうするのあれ、とマイカはトモヤに尋ねる。
「……『赤が好き』って答えたら、血まみれにされて殺される。『青が好き』ってこたえたら、血を抜かれて殺される……!!」
 トモヤは震えながら、小さな声でマイカに教える。
 ――以前読んだ妖怪図鑑で見たことがある。『怪人赤マント』だ。謎かけ妖怪のように見えるが、どちらを答えても殺されるデストラップ!
「……どっちでもダメじゃないのよ!?」
 マイカは悲鳴を上げた。
 とん とん とんからとん……
 しかし状況はそれだけでは終わらない。赤マントを前に二人が身動き取れなくなる一方、先の階から二人を追い続けている怪異たちが階段を上ってくる音がする。
 まずい。もうどうしようもない。絶体絶命だ。
「や、やだぁ……」
 マイカはその場にぺたんとへたり込んで泣き出してしまった。トモヤはどうすることもできずに苦々しい顔で赤マントを睨む。
 ああああああかがああああすきいいいいいいい? あああおおおおおおおおがああすううきいいいいい?
 赤マントは二人を見下ろしながらじりじりとにじり寄った。瞬間、その手の中に大きな鎌が握られ――
「どらっしゃあッ!!」
「でええええええいっ!!」
 ――――しかしてその瞬間、突如として乱入した力強い声に打っ飛ばされる!
 おおおおおおおお。おおおおおおお。悲鳴じみた声をあげながら廊下の床上を転げる赤マント。
「な、なに……? こんどはなんのオバケ……?」
「わ、わかんない……知らない、こんなの……」
 マイカとトモヤは困惑しながらその光景を見ていた。
「だいじょうぶだいじょうぶ。安心してね」
「わっ!?」
「なに!?」
 そのとき二人は突如聞こえた少女の声に困惑を深める。
 思わず声の主へと視線を向けた二人が見たのは――いつのまにか二人のすぐそばに立っていた、きららの姿であった。
「な、なんのオバケぇ!?」
「えー、オバケじゃないよ。魔法少女だよ」
 泣きじゃくるマイカの頭をきららはぽすっと叩いて微笑んだ。
「オバケじゃないの……?」
「そ。オバケじゃない。その証拠にトモヤくん、オバケにくわしいきみなら知ってるよね。ぼくみたいなオバケはいないだろ?」
「えっ、あ、うん、そうだけど……」
「まぁ落ち着きなよ。ぼくはね、みんなを助けに来たんだ。ほら見て、オバケより強いドラゴンのひともいるよ。ふたりで下の階にいたオバケたちもやっつけて来たんだ」
「えっ トンカラトンとかも!?」
「もちろん」
 ほらご覧よ、ときららは廊下の先を指し示す。
『あかがすきぃ? あおがすきぃ?』
「うっさいわね! アタシが好きなのは|金色《義妹の髪色》よッ!!!」
「色がどうとか知ったことかよ、子供に手ェ出す変態妖怪野郎!」
 打撃打撃打撃ッ! そして、薙ぎ払う戦斧! 二人の|竜《ドラゴンプロトコル》がその身に激しい熱を纏いながら、赤マントへと向かって激しく攻め寄せる。
「子供相手に『つまみ食い』で終わらせるつもりが無ェってんなら……どういう目に遭うか教育してやらねェとなァ?」
「そうよ。二度と悪さできないように徹底的にやっつけてやるわ!」
 おおおおお。おおおおお! 応戦する赤マント。赤マントは一旦後退して態勢を整えた。大鎌を構えなおし、素早くステップを刻む。アーシャの打撃を巧みに躱しながら、振りかざした大鎌でケヴィンの斧撃を受け流した。
「なに……こいつ、けっこうやるみてェだな! さっきのザコオバケの奴らとはちょっと違うぞ!」
「へえ。少しは手応えありそうじゃない!」
 思いがけぬ武技の巧みさに、二人はすこし熱くなる。握る拳に力が籠もり、攻防が更に激しさを増してゆく! 拳が、黒斧が、大鎌が激しく飛び交い、ぶつかり合う音を高らかに響かせながら交錯する!
「ね。あの二人がいれば安心でしょ」
 ドラゴンプロトコルたちの戦いの様子をマイカとトモヤに見せて、きららは微笑んだ。
「う、うん……」
「そ、そうだね……」
「あとはぼくが『いたいのいたいのとんでけ』ってしてあげるからさ。出口はあっちに見つけてあるから、頑張ってね」
 本来であればここから脱出するためには校舎内のオバケを躱しながら8つの部屋に隠された魔封じの像の部品を見つけて完成させた後その像を屋上に作られた祠に収めるという工程が必要となっていたが、きららは霊的介入技術によってそのあたりの工程をすっ飛ばして最初の玄関からふつうに脱出できるように細工をしていた。
「ああ、ちょっと待ってろよお前たち! こいつ片づけたら出口まで送ってやるからな!」
「ええ。外まで連れてってあげるから……大人しくついてきなさいよガキンチョ!」
 おおおおおお! アーシャの鋭い拳が赤マントの腹に突き刺さる。衝撃に後退した瞬間、その隙を逃さず鉄槌めいて振り下ろされる必殺の鉄斧! ケヴィンが赤マントへととどめを刺す! 受けた強烈な一撃に耐え切れず、怪人がとうとう爆発四散しその存在を消失させた。
「……じゃ、行くわよ。ついてこないなら置いてくから」
「安心しな。危ないことがあったら守ってやるぜ」
 脅威の排除を終えて、二人はきららと子供たちへと笑いかけた。
「ね。だいじょうぶそうでしょ」
「……うん」
「あ、はい……ありがとございます。よろしくお願いします」
 トモヤとマイカは√能力者たちへと礼儀正しく頭を下げ、廃校舎からの退去を承諾する。
 そうして√能力者たちは子供たちのうち二人との合流を果たし、安全を確保すべくともに出口を目指して進み出すのであった。

 ――余談であるが、トモヤが持っていたカメラの中の『メチャバズ動画』になるはずだった記録映像は怪異を呼び込む“縁”になるのを避けるため、きららの手によって消去されていた。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

柳檀峰・祇雅乃
わんぱくでもいい、たくましく育って欲しい、なんて言葉もあったけれど。
まあ正直言えば、子供たちにはあんまり危ないことしてほしくないのが本音よね。
でも、そんな子供たちを守るのも大人の責任だわ。

とりあえず、まずは子供たちのところへ向かわないとね。
どうもバラバラに逃げちゃってるみたいだけど、大声上げて逃げてるみたいだし、まずは声の聞こえた方に向かいましょ。
もちろん道中の怪異は全部殴り倒していくわ。
でまあ、首尾よく子供を見つけられたら、まずは私が敵じゃないと説明しましょ。
自己変化で最近のヒーローとかに変身したら受けが良いかしら?
後は迫る怪異をぶっ倒しつつ、他の子供と合流できるように守りながら移動するわ。
比良坂・緋
好奇心は子供の原動力ですものね、それを餌に喰いものにするなんて
悪い奴には報いを喰らわさねばならないわね

他の能力者の救護を把握できれば憶えてそこへ誘導するわ
あたくしはエイジくんに接触よ
怪異の前に現れまずは「比良坂の双御子様」使用
生憎√EDENの世界には疎いので百鬼のレトロなヒーローに変身よ
即「インビジブル・ダイブ(以後I)」を使用しエイジくんの傍のインビジブルと入れ替わる
霊障で怪異を退け「助けに来たわ」と声をかけ、変身を解いて手を引き撤退
可能なら他の子と合流目指すわね
追加の怪異は、エイジくんに動かぬよう言ってから怪異傍へ駆け込み変身とIで対処

移動中は変身を解く
あたくしは「椿仮面」よ、こういう事が起きたら駆けつける正義の味方
仮面カイザー?ヒーローの話を教えてとと話を引き出し楽し気に相槌打って恐怖心を下げる
そう
あなたもヒーローなのね!
だったら皆の「恐い」を減らしてあげましょうよ
直接戦うだけがヒーローじゃないわ
こうしてお話を聞いて励ますのもヒーローの仕事よ
ふふ、今だってあなたは元気がでたでしょ?
星宮・レオナ
何ともまぁ、学校の怪談のオンパレードって感じだね。
殺された妹と然程変わらない年齢の子供達が犠牲になると聞いたら、内心穏やかじゃいられない訳で、ロックビースト達を召喚しての人海戦術。
子供達の|探索《情報収集》と|護衛《救助活動・かばう》を指示。
ボク自身も目に付く怪異は片っ端からマグナドライバーの射撃と|改造人間《肉体改造》の【怪力】も用いた|格闘《グラップル》で撃退しながら、変身しないで子供達を探すよ。
変身したらフルフェイスのマスクで顔隠れちゃうからね、不審者扱いされても困るし。
子供達を見つけたら、安心出来る様に優しく笑って助けに来た事を伝えるよ。

「わんぱくでもいい、たくましく育って欲しい、なんて言葉もあったけれど……」
 柳檀峰・祇雅乃(h00217)は、聳える廃校舎を見上げて呟いた。
「まあ正直言えば、子供たちにはあんまり危ないことしてほしくないのが本音よね」
「とはいえ、好奇心は子供の原動力……。止めても行ってしまうのが子供、というものよね」
  比良坂・緋(h05512)が苦笑する。
「それはそうなんだけどねえ」
 祇雅乃もつられて苦笑いした。
 玩具店を営む祇雅乃は、店に来る子供たちの笑顔と、そんな子供たちに振り回されて困った顔をする保護者たちの顔を思い返す。
「でも、そんな子供たちを守るのも大人の責任だわ」
 ――必ず、守り抜かなくてはならない。祇雅乃の瞳の中に鋭く光が宿った。
「うん。……守らなきゃだと思う」
 星宮・レオナ(h01547)が呟く。
「子供達をバケモノの餌にしようだなんてさ……。そんなの、絶対に許せないよ」
 マスクドヒーロー世界出身のレオナは、悪の組織の手によって家族を奪われている。
 その中には、当時まだ幼かった妹もいた。
 今はなき家族の面影が、子供たちに重なる――そう。狙われているのは幼い子供たちだ。家を抜け出したことに気付いて心配している家族もいるだろう。こんな夜更けまで帰ってこないことに不安がっている者たちもいるだろう。
 子供を狙うということは、彼らを愛する家族の絆を踏みにじることであり、幸福を壊すきわめて悪質な行為だ。
(ボクの家族みたいな悲劇は……絶対に、繰り返させない)
 レオナの表情が僅かに強張った。
「そうね。……わかるわ」
 緋のかんばせに緩やかな微笑みが浮かんだ。
 思い起こすのは愛する家族の姿。それを奪おうとする者がいるならば、緋は決してそれを許さないだろう。
「……だからこそ、こんなこと考えた悪い奴には報いを喰らわさねばならないわね」
「それは同感。……それじゃ行きましょ。子供たちが待ってるわ」
「ええ」
 三人は力強く頷き合った。
「あ、でもね」
「ええ」
「……?」
 不意に、祇雅乃と緋のまなざしがレオナへと向く。
「あなたも、無理しないようにね」
「そうね。あなただってまだ子供なんだから」
 気負い過ぎちゃダメよ、と。二人はレオナの背を叩いた。
「えっ……ええ、はい」
 レオナはちょっと釈然としない顔をしてから――しかしてすぐに表情を引き締めなおし、二人とともに廃校舎へと向けて進み出した。

 おおおおおお。おおおおおお。おおおおお。
 ろおおおおおおおかをおおおおおおおはあああしぃいいるううなあああああ
「はあっ、はあっ、はあっ……ッ、なんだよ……なんなんだよ、ッ!!」
 怪異たちに追われながら、エイジは走っていた。
「くそ、くそ、くそっ……!! なんだよ、なんだよ! 空手なんかぜんぜん役に立たないじゃねーかよっ!!」
 涙声でエイジは叫ぶ。
 テレビの中のヒーローが好きだった。あんなふうになりたいと思っていた。強くなりたいとあこがれていた。
 それで始めた空手の練習は厳しかったけど、いつか、本物の正義の味方みたいに悪い奴をやっつけて、ともだちを護ったりできるようになりたいと思って、がんばって続けてきた。
 しかし。
「うわあああっ!!」
 エイジはちらと後ろを振り返る。――『用務員さん』はまだエイジを追いかけてきていた。
 はああああしいいらあああなああいいいいいい
 『用務員さん』はかぶった皮膚を破いて人間の姿への擬態を解き、その本性であるクモみたいな怪物の顔を出しながらエイジを追いかけまわしている。
 エイジは先ほどこの『用務員さん』をやっつけられないかと思って『戦い』を挑んでいた。
 自信はあった。大会で褒められた経験だって何度もあるし、組手で同世代の子に負けたこともない。自分ならきっとオバケだって撃退できると思っていた。
 そう。思い込んでいた。
「くっそ……ッ!!」
 ――まるで手ごたえがなかった。
 あんなにがんばって練習したのに。エイジの空手はオバケにはなんにも効かなかったのだ。
 その事実は――お前はヒーローになんかなれない、と嘲笑われたようで。彼にとってはひどくショックであった。
「うわっ!!」
 逃げ出した足ももつれて転ぶ。エイジは床に倒れ込み、床板へとしたたかに顔をぶつけた。
 つううううかああまああえたあああああああ。
 追いかけてきた『用務員さん』がすかさずエイジへと追いつき、その身体を捕らえる――――!
「……見つけた! あれだよ!」
 そのときであった。
「オッケー……あれはたしか、エイジくんだったわね」
「|怪異《ばけもの》に捕まってるみたいよ。すぐ助けないとね!」
 颯爽! ――現場へと、√能力者たちが到着する!
「マグナドライバー!」
《Magna-Driver!》
 レオナは走りながら左腕のデバイスに触れた。
《Shooting-Mode!》
 瞬間、休眠状態だったマグナドライバ―はその形態を銃のモードへと変え、レオナの手の中に顕現する。
「どいてっ!」
 BLAMBLAMBLAM! マグナドライバ―の銃口が火を噴いた。飛び出した弾丸が『用務員さん』の背中に着弾して爆ぜ、その動きを止めさせる。
 おおおおおおおん。おおおおおおん。痛みに悲鳴を上げる『用務員さん』がゆっくりと√能力者たちに振り返った。
「はいそこ、動かないでね!」
 続けざま、『用務員さん』が凍り付くように固まる――霊障である。
 その存在が幽霊である緋がその力の一旦として霊力を放ち、怪異の動きを押し止めたのだ。
「せーえのっ!」
 そうしたところに、とどめの一撃! 身長200cmにも達する祇雅乃のフィジカルが、飛び込む勢いを乗せて全力の飛び蹴りを『用務員さん』にぶちかましたのだ。
 おおおおお。おおおおお。畳みかけられた√能力者たちの力に耐え切れず、『用務員さん』は悲鳴を上げて爆散した。
「あ……え、なに……?」
 突然のことにエイジは困惑した。
「大丈夫? 怪我してない?」
「もう安心よ。私たちに任せて」
「よしよし。怖かったね」
 三人はエイジへと駆け寄り、手を引いて立ち上がらせた。
「あの……あんたたち、何?」
 エイジは仄かに警戒の色を見せる。
「えーっとね、ボクたちは……」
 君を助けに来たんだよ、と。レオナが言おうとする。
「ヒーローよ」
 そこへちょっと食い気味に、祇雅乃が言葉をかぶせた。
「「ヒーロー!?」」
 思いがけぬ言葉にエイジとレオナがぎょっとする。
「そうよ。ホラ、証拠見せてあげるわ!」
 祇雅乃は密かに持ち込んでいたアタッシェケースをひとつエイジの前にどすんと置くと、おもむろにケースを開いた。
「これ……ヴァークドライバー!?」
「ヴァークドライバー?」
 それはヴァークドライバー! 現在√EDENでも放送中の特撮ヒーロードラマ・仮面カイザーヴァークの変身ベルトである。祇雅乃が自分の玩具店から持ち出してきたものだ。
「ええ! ほら御覧なさい!」
 祇雅乃はヴァークドライバーをさっと自分の腰に巻き付けた。それからスイッチを入れてドライバーを起動させる。
 続けて祇雅乃はアタッシェケースから一枚のカードを取り出す。スタンダード・サイズの大きさか。カードにはオムレツのイラストと『|Egg meal《卵料理》』の文字が刻まれていた。
「変身!」
 祇雅乃はカードをドライバーのスロットにセットして、ギミックを作動させる。
《Cracking the Egg! Let's Cocking-time!》
 そして――それと同時に、祇雅乃は√能力を励起した。
 それは変化の力。祇雅乃は自己変化の能力によって自らの姿を変じる――そう、この玩具のベルトで変身できる、仮面カイザーヴァーク・グロウイングエッグの姿へと。
 余談であるが仮面カイザーヴァークは『料理』をモチーフにした仮面カイザーである。基本の姿となる卵料理モチーフの『グロウイングエッグ』。肉料理モチーフの『マッシヴミート』。野菜モチーフの『ドレッシングリーフ』などの|姿《フォーム》に変身できる。仮面カイザーヴァークは人間を食材にしようと目論む闇の種族ガストロンから人々を護るために戦うのだ。
「か……仮面カイザー……ほ、本物!?」
 エイジは明らかに興奮していた。
「うんうん。そうなのよ。実は私も、ね?」
 続けて緋もその姿を変じる――くるりと回れば散る赤い花弁。赤い仮面で貌を隠した、レトロなたたずまいの『正義の味方』の姿。
「こっちは……なに?」
「『椿仮面』よ。その……仮面かいざー? ってほど有名じゃないのだけど」
「へえ……」
「椿仮面はね。こういう事件が起きたら駆けつける正義の味方なの」
 さっきも危なかったでしょ、と緋は仮面越しにウインクした。
「えっと……じゃあ、そっちのお姉さんは」
 おそるおそるエイジがレオナに尋ねる。
「あー……。ううん」
 マグナドライバ―を握るレオナの手がすこし震えた。握る手に僅か力が籠もり――それからレオナはほんのちょっとだけ言いよどんでから。
「ボクはヒーローなんかじゃない、けど……君を助けに来たのは本当」
 なんとか笑顔の形をつくって、エイジに答えた。
「そっか。……あの、ごめんなさい」
「こんなところに子供だけで来て?」
「うん」
「反省してるかしら?」
「……してる。こんなこと二度としない」
「それならよし。じゃ、みんなのところに行きましょ。そろそろ集まってると思うわ」
 それから、エイジは素直に頷いて√能力者たちとともに校舎内を移動し始める。
 ぎしぎしと鳴る床板の音を響かせながら、4人は校舎内を進んだ。
「……ところでエイジくん。あなた、ヒーローは好き?」
 その最中。不意に、緋がエイジへと問いかけた。
「えっ」
「だって。仮面カイザーに会えて嬉しそうだったでしょう」
 つい先ほど、祇雅乃が仮面カイザーの姿になったときのエイジの様子を思い出して緋が微笑む。
「……うん。好きだよ。昔から」
「そうなのね」
「だからさ。……あんな風になりたいって思ってた。……けど、今日で自信なくしちゃった」
「……そうなの? どうして」
「オレ、ぜんぜんダメだったんだ。……さっきのオバケのおっさんさ、オレ、やっつけてやろうと思ったんだ。もう大丈夫だぜ、って。みんなに言ってやってさ。それで、みんなのこと助けて、ありがとうって、かっこいい、って言われたかったのに」
 ヒーローになんかなれなかったよ、と。エイジがうつむく。
「……」
 その声を横で聞きながら、レオナは神妙な顔をしていた。
「そんなことないわ。あなたもヒーローだったじゃない」
「……何もできてないのに?」
「でも、|何かしようと思った《・・・・・・・・・》でしょう?」
「……」
「たしかにうまくいかなかったかもしれないけど、そう思って行動できただけでもきっとヒーローなのよ」
「でも、オレ。おねえさんたちみたいにオバケやっつけられないし……」
「だったら……そうだ。皆の『こわい』を減らしてあげましょうよ」
「『こわい』を、減らす?」
「そう」
 緋が笑みを深める。
「直接戦うだけがヒーローじゃないわ。こうしてお話を聞いて、安心させてあげたり、励ますのだってヒーローの仕事よ。だから、お友達に会ったら『仮面カイザーに会ったんだ!』ってお話して面白がらせてあげなさい。きっとみんな楽しくなってくれるわ」
「……そう、なんだ」
「ふふ、今だってあなたは元気がでたでしょ?」
「うん。ちょっとだけ」
「ちょっとだけなの!?」
「……あっははは!」
 そうして、緋はエイジと笑い合った。
「それから、あなたも。もっと自信もって、ね?」
「むぬっ」
 レオナは急に話を振られてぎょっとした。……余計なお世話だよ、とばかりにレオナはちょっとむくれて視線を外す。
「大丈夫。できることをやっていけばいいのよ。きっとなれるわ、ヒーローにだって」
「……|適材適所《できること》、はいいんだけど、そろそろ疲れてきたわ!」
 緋が微笑む一方で、前から|仮面カイザー《祇雅乃》の悲鳴じみた声が響いた。
 メンバーの中でいちばんフィジカルに優れる祇雅乃が前衛を引き受け、ここまで移動中に遭遇した怪異をだいたい殴り倒す担当をしていたのだ。
「あら、ごめんなさいね。そろそろ交代しようかしら?」
「まあいいわよ、そろそろ出口のはずだし!」
 ――とはいえ、目的地であった廃校舎の出口まではもうすぐだ。乗り掛かった舟よと苦笑する祇雅乃はそのまま前を行く。
「とりあえず、無事にここまで連れてこられてよかった。他の子たちも集まってきてるはずだよ」
 |サポートメカ《ロックビースト》たちが集めてきた情報では、だいたいのメンバーが廃校舎の出口に集まっているようだ。もうすぐ合流できるよ、とレオナはエイジの背中を叩く。
「うん。ありがとう、おねえさんたち」
 すこし晴れやかになった表情でエイジは頷いた。
 ――そうして、これで5人目。校舎内で逃げ惑う子供達の多くがこれで救出されたことになる。

 残すところはあと一人。目標達成まで、あと一息だ。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

米満・満代
【WIZ→POW】で勝負!
心情
いたずらっ子達への罰としては、いささかやり過ぎですね。
小賢しい罠など踏み潰してしまいましょう。

行動
【ゴーストトーク】を使用。幌比田小で長年教鞭を執っていた教師のインビジブルを生前の姿に変え、怪異たちの情報を収集して探検隊たちの退路を誘導します。
「子供たちを助けるため、どうかご助力願います」

連撃
【強制改心砲一斉射撃】を使用。怪異たちの邪心を祓った上で、自分達が何をしようとしていたか突きつけ【恐怖を与え】ます。
ショックを与え混乱させて、でもここから子供たちを守る側に立ったらカッコ良くない?と舌先三寸で誘導します。
「強制改心ビーム!」
「落ち着かれましたか?随分と酷い事をなさろうとされていましたね?」
「挽回のチャンスはあります。善い事をするのです。」
「ここで彼らを守りきって見せたら、超カッコ良くありませんか?」
(人の想念から産まれた存在であれば、想念によって変質もするはず。あるいは人を害する存在から脱却する事も……)

アドリブ・連携などお任せします。
品問・吟
◆連携・アドリブ歓迎

今頃きっと子ども達は震えているはず、絶対に助けないと!
って意気込んだはいいんですけど…広すぎじゃないですか!?
闇雲に探索しても…あ、そっか
脅威を全部取り除けば、子ども達が見つからなくても安全は確保できますよね

というわけで、目についた怪異を《金剛破砕撃》で片っ端からぶちのめしましょう!
うん、隠れてる子より怪異のほうがお手軽に見つかりますね!かんぺきな作戦!

とはいえ、万が一子ども達に見られた時に怖がらせたらマズイですし、二口女としての特徴や能力は使わず隠していきましょう
これでどこからどーみても、頼れるお寺のおねーさんってわけです
…誰か、おっかない暴力女って言いませんでした???

「廃校舎の中に人食いの|怪異《オバケ》の群れ……。捕まったら殺される、命がけのおにごっこ、といったところですか」
 半開きの玄関扉に挟まりかけたお尻をぽんと抜きながら、米満・満代(h00060)は旧幌比田小学校校舎へと入り込んだ。
「よいしょ、っと……」
 ぎぃ、と軋んだ床板の上に踏み出して、満代は闇に閉ざされた校舎の中を見渡す。
 ――濃密な陰の気配。自分たちのようにいくつもの修羅場を越えてきた√能力者であればどうとでもなろうが、無力な幼子たちとあればたちまち闇へと引きずり込まれ食い尽くされる末路を辿るだろう。
「命を奪うまでともなると、いたずらっ子達への罰としてはいささかやり過ぎですね」
「そうですね。私もそう思います!」
 満代に続いて校舎内へと足を踏み入れた品問・吟(h06868)が、力強く頷いた。
「こんなに暗くて怖いところ……今頃きっと子ども達は震えているはず! 最後の一人まで、絶対に助けましょうね!」
 吟は満代の手をぎゅっと掴んでぶんぶん振った。満代は落ち着き払った態度でそうねと頷くと、校舎の奥の暗がりへと目を向ける。
「……おそらくですが、この先はちょっとした|怪異《オバケ》では済まない話にもなってくると思います。この事件を企てた敵が、きっと何か仕掛けてくると思いますが――」
「だいじょーぶです! そのときはどーんとやってばーんですよ!」
 闇に対峙しながら満代が口にした警戒心を、吟が明るく笑い飛ばした。
「ふふっ。……そうですね。小賢しい罠など踏み潰してしまいましょう」
「そーです! そのとーり!」
 どんな敵が待ち構えていたってだいじょうぶです 吟はぐっと拳を握りながら意気込んだ。
「では、さっそく進みましょう! 一刻も早く子供たちを助けないとですからね!」
「そうですね。行きましょう!」
 満代と吟が頷き合う。
 ――そうして、二人は行動を開始した。

「……って、進み始めたのはいいんですけど!」
 その数分後である。
「広すぎじゃないですか!?」
 素っ頓狂な声で吟が叫んでいた。
 ――そう。小学校の校舎は意外に広い。
 各学年・学級の教室に加えて音楽室図工室理科室家庭科室といった特別教室、職員室に更衣室に放送室に宿直室にとかなりの数の部屋が必要となり、最終的にはそのすべてを擁するだけの大きさの建造物となる。
 ましてやここ旧幌比田小学校は比較的地価の安い郊外につくられた学校だ。余裕をもって広くつくられた校舎は、かなりの面積を有していた。
「そうですねぇ……闇雲に探してもなかなか見つからないかもしれません」
「困りましたね。あまり時間をかけるとその間に子供たちが……」
 広い廊下を進みながら、二人はううんと首を傾ぐ。
 そうして、十数秒。二人はそれぞれ唸った末に――ほとんど同時、閃いた、とばかりに顔を上げた。
「案が出ました!」
「奇遇ですね。私も思いついたところです」
 満代と吟が顔を見合わせる。
「はい! じゃあ私から発表しますね!」
 吟が胸を張った。
「まず考えてみてください。脅威を全部取り除けば、子ども達が見つからなくても安全は確保できますよね?」
「はい。そうですね」
「つまり、目に付いた|怪異《オバケ》を片っ端からぶちのめしていって全滅させちゃえば、危険はなくなるってことなんですよ!!」
 ――吟が辿り着いたのは、実にシンプルな答えであった。
 そう。シンプルイズベスト。何事も暴力で解決するのが一番だ。これ以上に明快でわかりやすくしかも効果的なプランはないだろう。吟は名案でしょうと更に胸を張った。
「なるほど……一理ありますね」
「でしょう!」
「わかりました、私の方にも考えがありますから……両立する作戦でいきましょう!」
「むむっ、そちらにも妙案が!」
「はい。同時進行でいけばきっと効果的なはずです」
「わかりました。では力を合わせていきましょう!」
 よろしくお願いしますと吟が頭を下げた。満代はその様子がちょっと面白くて、すこし吹き出すように笑ってみせる。
 そうしてから、二人は頷き合って――それぞれの作戦へと移る!

(動画を撮りに行こう、なんて……言うんじゃなかった)
 一方。
 雲津小学校オカルトたんけんたいリーダー・ショウマは、この冒険をおおきく後悔していた。
 ちょっとしたオバケの映像が撮れたらいいなって思っただけだったんだ。
 ――なんなら撮れなくたっていいと思ってた。この6人で冒険に出かけたこと自体がワクワクでいっぱいで、心の底から楽しい時間だった。
 それが、こんなことになるなんて。
 ショウマは逃げ惑う中でオバケに襲われ、足にケガをしていた。
 足を齧ったオバケはバケツで殴りつけてなんとか撃退したけど、痛む足では逃げ回ることももう難しい。ショウマはそう判断して、近くの教室の掃除用具入れのロッカーに身を隠して息をひそめていた。
(ほかのみんなはどうなったんだろう……。……ケガしてたらどうしよう。謝ったらゆるしてくれるかな)
 ショウマは震えながら、押し殺した息を吐く。
 おおおおおん。おおおおおおん。
 わるいこどこ わるいこどこ わるいこどこ わるいこどこ
 あああああそおおおおぼおおおおおおおおおお
 あそぼおおおおおおおおおおお
 ――ロッカーの外。教室の外の廊下から、時折ぞっとするようなおぞましい声が聞こえてくる。
 ずるり、べしゃり。湿った足音。人間のものとは思えない気配。
 顔を出したらすぐにみつかって、ばらばらに喰い殺されてしまうんだろうか。
 頭のてっぺんから齧り尽くされて殺される自分の姿を幻視して、ショウマはぶるりと身震いした。
 ――そのときである。
「どこにいますかー! どこですかー!」
 たたた、と軽快な足音。女性の声が廊下から響く。
「わたしはー、あなたたちを助けにきたんですよー!」
 ばけものたちのものとは到底思えない、明るい声の色だった。
「パパやママが心配してますよー! でてきてくださーい!」
 ……ああ。夜中に抜け出したことがバレたんだ。それで警察か何かのひとたちがぼくらを探しに来たのかな。
 ショウマはそう思って安堵するように息を吐いた。それから、ゆっくりとロッカーを抜け出してそっと廊下に向かう。
「あの……ここです!」
 ショウマは廊下から顔を出し、自分たちを探しに来たであろう女性の姿を見つけると手を振った。
 あは。
 瞬間、女性が笑みを浮かべながらゆっくりと振り返る。
 そして。

 みつけたああああああああああ みつけたああああああああああ

 女性の顔がぐにゃりと歪み、異形のそれへと変じた。
「うわああああああああああああああああああああ!!!」
 ――罠だった。ぼくのように隠れた獲物を誘い出すための演技をしていた!! ショウマは悲鳴をあげながら後退る。
 よかったああああああああ よかったああああああ たすけええにいいいいいいい きたんだよおおおおおおおお
 裂けた口と吊り上がった双眸が異様な歪み方をしながらかろうじて笑顔に見える表情をかたちづくっていた。
 『たすけにきたおねえさん』はぎぃぎぃと床板を鳴らしながらショウマへとにじり寄り、そして――
「だあああああああっ!!!」
 ――突如横から乱入した蹴り足にブッ飛ばされた!
「よっし! 間に合いましたね!」
 その蹴り足の持ち主は、むろん吟である!
 吟は迷い込んだ子供たちを探すべく廃校舎を片っ端から探し回り、そしてその中で遭遇してきた怪異たちを一人残らずぶん殴ってきたのだ。
「君、大丈夫ですか!」
 飛び蹴りをぶち当てた反動から態勢を立て直し、吟はへたり込んだショウマへと手を伸ばす。
「こ、こんどはオバケじゃ……ない……?」
「はい! オバケじゃありません!」
 吟は胸を張って答えた。
 たああああすけえええにいいいいい きいいたああああよおおおおおおお
 その後ろで、蹴飛ばされた『たすけにきたおねえさん』が身体をぐにゃぐにゃと蠢かせながら立ち上がる。
「なるほど助けに来たと謀って襲ってきたオバケがいたんですね! でも心配ご無用です。この頼れるお寺のおねーさん、つまりこのわたし・吟さんに任せればもう安心ですよ!」
 とうっ! 吟は体術の構えをとりながら『たすけにきたおねえさん』に対峙する。
「どんなオバケが出てきても、へいき、へっちゃらです!」
「……でもおねえさん、あれ」
 そのときであった。
 ショウマが、『たすけにきたおねえさん』――の、その向こうの空間を指し示す。
「おや」
 おおおおおおおおおん おおおおおおおおおおん
 さむいよおおおお さむいよおおおおおお
 おおおおなあああああかあああああがああああああすううういいいたああああああ
 ――うめき声。唸り声。うごめく気配。
 濃密な闇の色。暗がりの中に、いくつもの怪異がひしめきあうのが見えた。――塊のようなそれは、ゆっくりと吟たちのもとへと向かってきている。
「なるほど数できましたか! ですが私は負けません! あなたのことも守ってみせますからね!」
 対し、吟はやる気満々の顔を見せる。そうして拳を構えなおし――怪異の群れめがけて飛び込んでいった。

 一方そのころ。
「……ということなんです」
『なるほど……いけませんね。我々の学び舎をそんな風に使おうとは……』
 満代は幌比田小の職員室だった部屋を訪れていた。
「そうなんです。このまま放っておいては、子供たちが殺されてしまう……。それはあなたがたとしても不本意ではないかと思います」
『まったくですよ、教頭! 我々の学園で子供を殺すだなんて!』
『許せませんわ!』
 満代の周囲に浮かび上がる、何人もの人影――満代のゴーストトーク能力によって呼び覚まされた元幌比田小学校の教師陣だ。満代は教務室に残る残留思念と空間に満ちるインビジブルたちから、彼らをここに招き入れたのである。
「子供たちを助けるため、どうかご助力願います」
『もちろんだ!』
『行きましょう、先生がた! 子供たちを助けるのは我々の使命です!』
『ええ!』
 教師たちは力強く頷き、満代への協力を快諾する。
「わかりました。それでは皆さん、これを」
 満代は教師たちを集め――それぞれに、ガジェットを手渡した。
『これは?』
「はい。強制改心砲です。これに当たると悪い心をやっつけられるんですよ」
『ほお……』
「子供たちを傷つけようっていう悪い気持ちをもったオバケたちを、これで落ち着かせるんです」
 強制改心砲――邪心を祓う光線砲を放つ魔導兵器である。満代は用意したこれを教師たちに持たせたのだ。
「これでオバケたちを片っ端から改心させていきましょう」
『わかりました。では参りましょう!』
『はい!』
『いきますよ!』
『おおーっ!!』
 そうして、教師たちのあげる鬨の声とともに満代は廊下へと飛び出していった。
「エネルギーは私から供給しますから、気にせずばしばし撃っちゃってください!」
『はいっ!』
「出ましたよ、あそこです!」
『よし、くらえっ!』
 進撃! 行軍する分隊めいて進む教師たちと満代が、廊下を駆け回りながら改心ビームをどかどかと撃って回った。迸る閃光! 廃校舎を染め上げる光が闇を貫き、怪異たちを制圧してゆく!
 おおおおん おおおおおん 強制改心ビームを浴びて怪異の群れが続々とその存在を変質! 無秩序に人間を襲う怪物から、理性ある魂へと変えられてゆく!
『わ……私はいったい、何を』
 強制改心ビームを浴びてその存在を変質されながら、怪異であったものたちが正気と人格を得て立ちあがる。
「落ち着かれましたか?」
 そうして自我を得たものたちへと、満代は声をかけていた。
「覚えていますか? ……あなたがたは、子供たちを手にかけようとしていたのです。随分と酷い事をなさろうとされていましたね」
『なんと……!』
『我々が!?』
 怪異であった者たちは、自らの行いに対して恐怖した。――自分たちはなんと恐ろしいものに成り果ててしまっていたのだろうか、と。
「だいじょうぶです。挽回のチャンスはあります」
 そこへ、満代は語り掛ける。
「善い事をするのです」
『よ……善い事!?』
 呆気にとられたように、怪異だった者たちは思いがけぬ言葉に驚いた。
「はい。まだ暴走しているほかの怪異たちを鎮めて、子供たちを助け出す……。それができたら、すごく善いと思いませんか?」
『なるほど……』
「立派な行いをすれば善いものになれますよ」
『わかった。我々も協力しましょう』
 ――そのようにして、満代は協力者を増やした。
 そうして、校舎内の闇と澱みを祓い、教師たちや元・怪異たちを引き連れて、片っ端から光を浴びせて回る――
「あ」
「おや、さっきの!」
 そうこうしているうちに、満代は吟とショウマにばったりと出会った。
 彼女たちが出会ったそのとき、周囲に危険な怪異の気配はもはや一片たりとも存在していない――手当たり次第に怪異存在をぶん殴ってぶっ潰してきた吟と強制改心ビームで怪異を怪異でなくしてきた満代の作戦によって、もはや幌比田小の校舎に残っていた怪異のほとんどはきれいさっぱり祓われてしまっていたのだ。
「おおー、なるほど。折伏してきたわけですね!」
 吟は満代の作戦に感心した。
「そういうことです。……そちらも最後の一人を保護できたようですね」
 満代は吟の後ろに隠れたショウマの姿を見て、安堵したように微笑んだ。
「ではこれで私たちの任務は完了ですね!」
 二人は廃校舎の出口の外で待機していた他の子供達や√能力者たちと合流し、全員の無事を確認し合う。
 これで、√能力者たちが喫緊で対処すべきであった問題――子供たちの救助と、廃校舎内の怪異の処理については解決したことになる。
「んー……いえ、まだこの状況を作り出した黒幕がいるはずです。それをやっつけたら、ですね」
「なるほどー! じゃあその人をぶちのめしたら解決ってことですね!」
「そうです」
 ――だが、まだすべてが終わったわけではない。
 この状況を仕組んだ黒幕――おそらくは、別の√からの侵略者の存在がここに現れるはずだ。
 必ずやそれを斃し、そしてこのような事件を二度と起こさせないようにしてみせる。
 満代と吟は頷き合い、次なる状況を待ち受けるように新たに決意と覚悟を固めた。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

第2章 集団戦 『ポルターガイスト現象』


POW ヘビークラッシュ
【ポルターガイスト現象】により、視界内の敵1体を「周辺にある最も殺傷力の高い物体」で攻撃し、ダメージと状態異常【霊障】(18日間回避率低下/効果累積)を与える。
SPD ガイストスラスト
移動せず3秒詠唱する毎に、1回攻撃or反射or目潰しor物品修理して消える【飛来する物体】をひとつ創造する。移動すると、現在召喚中の[飛来する物体]は全て消える。
WIZ デストロイバイブレーション
「【もっともっと破壊したい】」と叫び、視界内の全対象を麻痺させ続ける。毎秒体力を消耗し、目を閉じると効果終了。再使用まで「前回の麻痺時間×2倍」の休息が必要。
イラスト ももんにょ
√EDEN 普通11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

「おや」
 喧騒をきいて、夜の闇の中に一人ぶんの人影が浮かんだ。
「……なんと。これは困ったな。せっかく集めた怪異たちが」
 人影――男の声で唸ったそれは、不快げに呟きながら指先を掲げる。
「EDENの√能力者たちか……。まったく、よくもまあ飽きずに我々の邪魔をしにくるものだ。せっかくお膳立てをして良質な餌を用意したというのに」
 ぱちりと男が指を鳴らす。
 ――瞬間、強烈な力が周囲一帯へと広げられた。

 負の想念。マイナスエネルギー。わるい氣。邪気。瘴気。悪意。
 ひとによっていくつもの呼び方を持つ、邪悪な力だ。それは旧幌比田小学校の中と外と周囲に漂うあらゆる邪悪なインビジブルたちを刺激し、暴走を促した。
『おおおおおおお! おおおおおお! おおおおお!!』
『ああああああああああああああああああああ!』
『ねたましいいいいいいいいい』
『うらめしいいいいいいいいいいいい』
『いきてるものがにくいいいいいいいいい』
『かああらああだああをおおおおおおおお ちょおおだああああいいいいい』
 空気をかき乱す絶叫とともに、悪霊どもが暴れ回る。
 ――悪霊たちのエネルギーはたちまち物質への干渉を始め、そしてポルターガイスト現象と呼ばれる霊障を引き起こした。

 そうして、学校中のありとあらゆる物体が√能力者たちに襲い掛かる。
アリス・グラブズ
(アイテム:『ワタシ』による増援で敵の移動阻害)
ほらほらっ♪ 床も壁も“ワタシ”でびっしりっ!
──ねぇ、もう逃げられないよっ?

|ワタシ《アリス》は天井からにゅるん♪と落ちてきて、ぺたり着地っ!
「つかまえて──いただきますっ!」

触腕でビュン!|引き寄せて《技能:怪力》、繊毛でギュルギュル巻いて、咀嚼腺で|ガブガブがぶっ♪《技能:捕食》
いっぱい食べて、おなかぽんぽこ~♪

──ぶぉん!? なにあれ、鉄骨!?
わっ! 別のワタシが横にすっ飛んでった!
……ピクピクしてるけど……まぁ、潰れたね♪
「いーのいーのっ♪ そんなの、いーっぱい補充できるし!」
しゅるしゅるしゅるっ♪ 空いたとこ、すぐ“埋めとくねっ!”
白神・真綾
ヒャッハー!救助活動の次は幽霊退治デスカァ。非実体系はただ素振りしてるのと変わんねぇから真綾ちゃん正直苦手デース。やっぱり手応え無いとつまんねぇデスネェ。
√能力で味方がいる場所を除いた周囲一帯をレーザーの雨で焼き払う
「本体がどこかよくわからねぇのは周囲一帯焼き払うのが一番デース!ヒャッヒャッヒャーッ!」
ポルターガイスト現象が収まるまで繰り返す

 がたん! がたん、がたん! ばたん!
「ヒャッハー!! 霊現象デース!!」
「わー……急ににぎやかになったわね!」
 白神・真綾(h00844)とアリス・グラブズ(h03259)は、廊下からその光景を見た後二人で顔を見合わせた。
 二人の目の前では、幌比田小学校校舎の教室の中から机や椅子やロッカーや黒板がひとりでに暴れ回り、ガラスや床をブチ破りながら荒ぶる異常な状況が繰り広げられていた。
「ハデに動いてるみたいだけど……動かしてるひとは見えないのね!」
「|心霊現象《ポルターガイスト》デスからねー」
 わあ、と興味深そうに状況を眺めるアリス。対して真綾はちょっと面白くなさそうな顔をしていた。
「あれ? 真綾さん、ちょっと元気ない?」
「ウーン……。救助活動の次は幽霊退治とキたわけデスがぁ……。あーいう|カラダがない《非実体系》のは殴っても素振りしてるのと変わんねぇから真綾ちゃん正直苦手デース」
「あー……なるほどねっ。たしかにあれだともぐもぐしても木と鉄の味しかしなさそう」
 この現象を引き起こしているのは明らかに悪霊なのだが、実際に起きているのは物体がひとりでに動いて暴れ回っているというだけに過ぎないのだ。
「さっきの|ヤツラ《怪異》は殴れたからよかったデス」
「でもほら、叩いたら壊せそうよ!」
「まぁ、壊すくらいはできるデスが……そうデスネ。いちおー真綾ちゃんもお仕事で来てるデスから、やる気出していくデスか」
「うんうん。その調子ねっ! それじゃ、はりきっていこー!」
 えいえいおー、と拳を突き上げて気分を盛り上げようとしながら、アリスは真綾に前進を促す。
 その一方で、アリスは|身体《擬態》を解こうとしていた。

 そうして。
「ヒャッハーーーーー!!!」
 ――廊下に飛び込む真綾! その両手には輝く|光刃《フォトンシザース》!
 おおおおん おおおおおおん
 風の音に交じってささやきかける悪霊たちの恨みの声! 窓や扉を突き破って廊下に飛び出す椅子と机の群れが、真綾めがけて飛来し襲い掛かる!
「鬱陶しいデース!!」
 真綾は素早く刃を振るって、飛び込んできた椅子をばらばらに解体し打ち捨てる。破片が頬に引っかかり僅かに血を流させたが、真綾はつまらなそうな顔をした。
「……はー…………ぜんぜんダメデース。やっぱり手応え無いとつまんねぇデスネェ」
 テンション駄々下がりで深々ため息を吐きながら、真綾は心底嫌そうな顔で飛来する学校道具の迎撃を続けた。
「そっち準備できてるデース?」
 その最中、真綾はいちど背後を振り返って闇の中へと問いかける。
『|縺翫▲縺代�笘�《おっけー!》』
『|縺�¢繧九o繧医▲《いけるわよっ》』
『|縺倥e繧薙�縺ー繧薙◆繝シ繧薙▲笙ェ《じゅんびばんたーんっ♪》
 ――ごぼごぼと、泡立つような音がした。
 明らかに人間の声帯から発されたものではないが、明らかに『言語』の形式で発された音である。
 それに次いで、ずるりずるりと重たいものを引きずるような音――それがいくつもいくつも重なり合い、暗がりの奥から近づいてきていた。
 そうして現れたのは、未だ人間の知らぬ異界の領域の生命――あくまで本人は妖怪と称する、アリス・グラブズという√能力者の『本来の姿』である。
「わお。随分そろえたデスネ!」
 それも――複数。一体や二体ではない。少なくとも、二進法の数え方を使っても片手では数え切れぬ程度には『アリス』がひしめいていた。
 現在の状況へと対応するため、アリスが呼び寄せた『アリスたち』だ。
『|縺�▲縺ア縺�≠縺、繧√◆縺ョ繧医▲笙ェ《いっぱいあつめたのよっ♪》』
「ウーン、こうして並んでるのを見るとちょっと壮観ですらあるデスね」
『|縺ァ縺励g縺ァ縺励g縺」�√€€縺サ繧峨⊇繧峨▲笙ェ縲€蠎翫b螢√b窶懊Ρ繧ソ繧キ窶昴〒縺ウ縺」縺励j縺」��《でしょでしょ! ほらほらっ♪ 床も壁も“ワタシ”でびっしりっ!》』
 湿った泥が泡立つような音で人類のそれとは異なる形式の声帯から、アリスは陽気におしゃべりしつつ廊下をゆっくりと進む。
「えーっと、さっき話した作戦デスが」
『|窶懊Ρ繧ソ繧キ窶昴◆縺。縺後♀縺�▽繧√※繝シ《“ワタシ”たちがおいつめてー》』
「真綾ちゃんが"雨"を降らせて一網打尽デス」
『|縺翫▲縺代�笘�《おっけー!》 |菴懈姶騾壹j繧�k繧上�縺」��《作戦通りやるわねっ!》』
 何十体かいる『アリス』たちが|縺医>縺医>縺翫�《えいえいおー》、と“声”を鳴らし、そうしてから廊下の中を駆けだした。
 これらは、群体生物でもあるアリス・グラブズという生命を構成する末端のアリス――アリスという存在を構成する個体群。例えて言うなら、彼女の細胞たちである。
 おおおおん おおおおおおん おおおお …………お お?
 近寄る|ものたち《アリスの群れ》に敵意を見せようとした悪霊たちであったが――――明らかに人間ではなく、獣にも見えぬ|未知の生命《アリスたち》の群れとの遭遇に思わず|霊現象《ポルターガイスト》が止まる。
 なんだあれは。
 人間でも動物でもない。学校妖怪でもあんなのはいなかった。『いんへるの』という妖怪がすこし近かった気がするが――それともだいぶ違っている。
 霊現象を操る悪霊たちは押し寄せる|正体不明の生物《アリスたち》の群れに明らかに困惑していた。ポルターガイスト現象は敵意を持って向かい来る動きから、動揺を現すように小刻みな震えや無意味な回転運動などへと移っている。
 ――そのときであった。
『|縺、縺」縺九∪繝シ縺医◆縺」笙ェ《つっかまーえたっ♪》』
 天井から、にゅるんと一体の|怪物《アリス》が降りて机の一台にとりつく。
『|縺�◆縺�縺阪∪縺吶▲笙ェ《いただきますっ!》』
 アリスはそのまま取りついた机を触腕で絡め取ると、そのままばりばりと噛み砕いて喰らい付いた。
『|繧薙�窶ヲ窶ヲ縺。繧�▲縺ィ蝗コ縺�¢縺ゥ縲∝・ス縺榊ォ後>縺ッ繧医¥縺ェ縺�b縺ョ縺ュ縺」笙ェ《んー……ちょっと固いけど、好き嫌いはよくないものねっ♪》』
 |木材部分《おやさい》と|金属部品《てつぶん》のどちらも躊躇なく齧り取り、アリスは机を摂食した。
「ふえー。よく食べられるデスね」
『|縺ェ繧薙〒繧ゅh縺城」溘∋繧九�縺悟�豌励�遘倩ィ」繧茨シ�《なんでもよく食べるのが元気の秘訣よ!》』
 感心した様子で眺める真綾に、アリスは発声器官をごぼごぼと鳴らして答えた。
 おおおおお、おおおおお おおおおお!
 しかしてそれも束の間――アリスの存在をあらためて受け止めた悪霊たちが、あらためて攻撃性を発露する!
 おおおおお! 風の音に交じり聞こえる呻き声。廊下の奥から飛来したポルターガイスト現象が二人へと襲い掛かったのだ!
「おっと!」
『|繧上≠縺」《わあっ》』
 光刃で迎え撃つ真綾と、しゅるりと身体をずらして躱すアリス――
『|縺弱c縺カ縺シ縺」《ぎゃぶぼっ》』
「あ 潰れたデス」
『|縺ゅ€√⊇繧薙→縺�縲よスー繧後◆縺ュ縺」《あ、ほんとだ。潰れたねっ》』
 ――しかし、二人の背後で廊下に蠢いていたアリスの個体群のうち一体が直撃を受けて潰死していた。
「いーんデスカ?」
『|縺��縺ョ縺��縺ョ縺」笙ェ縲€縺昴s縺ェ縺ョ縲√>繝シ縺」縺ア縺�」懷�縺ァ縺阪k縺暦シ√€�《いーのいーのっ♪ そんなの、いーっぱい補充できるし!》』
 だが、一個体の生き死にくらいでアリス・グラブズという群体は僅かたりとも揺るがない。本体であるアリスは気にする素振りすら見せず、|霊現象《ポルターガイスト》へとあらためて向き直った。
『|縺昴l縺倥c豌励r蜿悶j逶エ縺励※繝シ窶ヲ窶ヲ縺励e縺」縺ア縺、縺励s縺薙�縺」笙ェ《それじゃ気を取り直してー……しゅっぱつしんこーっ♪》』
「おっけーデース!」
 そうして、アリス“たち”と真綾はポルターガイスト群――心霊現象の真っ只中をめがけて進撃を開始した。
 アリスたち個体群に押し込まれ、付近一帯の霊現象は校舎の隅の一か所へと向かって集められてゆく。
『|縺薙l縺ァ縺�縺��髮�∪縺」縺溘°縺ェ繝シ��《これでだいぶ集まったかなー?》』
「まア多分こんなモンだと思うデース!」
 追いつめた校舎の隅で、真綾は兵装を展開していた。
 マルチプルビット。レーザー砲台。真綾は繰る火器のすべてに火を入れながら精神を昂らせ、攻撃性を尖らせる。
「霊現象ってゆーのは本体がどこかよくわからねぇから……とにかくぜんぶ焼き払うのが一番デース! ヒャッヒャッヒャーッ!」
 そうしながら、真綾は集められたポルターガイスト現象の媒介――悪霊によって動かされていた学校の備品へと向かってレーザー光を雨霰と浴びせかけ、焼き払う。
 ――ある宗教においては、焼き尽くす火とは浄化の権能をもつ神の力の顕現とされているのだという。
 真綾自身がそれを知っていたかどうかは定かではないが、彼女の降らせた光の雨は炎を呼び、業火に灼かれる悪霊たちをこの場から追い払う科学的除霊としての効果を発揮していた。
『|縺�#縺九↑縺上↑縺」縺溘�《うごかなくなったね》』
 レーザー光と炎がおさまった頃、焼け付いて動かなくなった椅子や机を見下ろしてアリスが呟いた。
「まーこんなもんデス。……とはいえ、まだ向こうが騒がしいデスからね。もーちょっとお仕事しなくちゃデース」
 真綾は心底面倒臭そうにため息交じりしながら、廊下の奥へと視線を遣った。――まだ、|霊現象《ポルターガイスト》は続いている。向こう側から聞こえてくるのは机や椅子が暴れ回る音だ。
「とりあえず全部止まるまでやるデスヨ」
『|縺翫▲縺代�《おっけー》』
 かくして真綾はアリスと頷き合い、アリスの群体を引き連れながら――とりあえず発生中の霊現象を止めるべくして更なる戦いへと向かったのであった。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​ 成功

玖珂津・胡々乃香
【アドリブ絡み歓迎】
あら、子供たちが全員保護されたのか、より校内が騒がしくなって来たみたいね。
……エリコちゃんの手を放すわけにもいかないし、戦闘は他の能力者達に基本は任せて、私は子供の保護を優先に行動させてもらうわ。
降り掛かる火の粉は払い、合流を目指す。
なるべく子供たちは一つ所にまとまってもらった方がいいでしょうしね。
皆と離れすぎるのも良くなさそう、私一人でかばえる範囲も広くはないしね。
とにかく、流れ弾や他の怪異にちょっかい出されないように気を付けないとね。
アーシャ・ヴァリアント
アドリブ・絡みはご自由に。

とりあえず子供を保護したし後は外に出るだけ……と思ったらまた邪魔物なのね。
たかだか机やら椅子やら黒板、ロッカーごときでアタシを倒せると思ってるとしたら舐められたもんね。
√能力で丸ごと木っ端みじんにしてやるわっ。

「エリコ!」
「マイカちゃん!」
「お前ら、無事だったか!」
「よかったぁ……!」
 ――旧幌比田小学校、玄関口付近。
 √能力者たちによって保護された『クモ小オカルトたんけんたい』の6人はようやくの合流を果たし、お互いの無事を喜びあっていた。
「ふーっ……なんとかなったわね」
  玖珂津・胡々乃香(h02098)は子供たちの様子を見守りながら、安堵のため息を吐いた。
「ええ。全員無事みたいだし、犠牲が出る前に助けられてよかったわ」
 アーシャ・ヴァリアント(h02334)が頷いた。
「ごめんなさい、おねえさんたち」
「でもありがとうございます」
「おかげで命拾いしたぜ!」
 ちょっと疲れた顔をした二人に、子供たちが感謝の言葉をかわるがわる伝える。二人は顔を見合わせて、ほんのちょっと照れたように笑った。
「今回だけは許してあげるわ。けど、こんな危ない冒険は二度としないこと!」
 とはいえ、お叱りは必要だ。胡々乃香は子供たちにしっかりと指導する。
「ほんとにそうよ。なんでこんなトコ来ちゃったワケ?」
 アーシャは若干呆れた顔になりながら子供たちへと問うた。
「あの……それは……」
「す、すっげーオバケの動画が撮れて再生数バクアゲになったらみんなで人気者になれると思って……」
「あっきれた!!」
 バカじゃないの! アーシャが子供たちを叱る。
「まあまあ。おっきなケガもなかったんだし、許してあげましょ」
 胡々乃香がアーシャを宥めた。
「はーい、すみませんでした」
「……でもやっぱりすごいな、センセーは。言ってた通り、ほんとに本物のオバケがいっぱいたし……」
「『センセー』?」
 ふとしたトモヤの呟きを耳聡くキャッチして、胡々乃香が訝しんだ。
「あ、うん。ぼくらの学校にさ、すっごくオバケにくわしい『センセー』がいるんだ!」
「ここの学校のコト教えてくれたのも『センセー』なんだぜ」
「……」
「……」
 胡々乃香とアーシャは一度絶句して顔を見合わせた。
(……どう考えても怪しいわよね。その『センセー』っていうの)
(怪しいっていうか……どう考えても黒幕じゃない?)
 二人は小声で言い交わした。……ならば、この後はきっとその『センセー』とかいう奴がおでましになるのだろう。黒幕の意図した本来の流れ――怪異たちへの“餌やり”という目的は果たされず、それどころかその『センセー』とやらが集めてきた怪異どもは√能力者たちの八面六臂の活躍でその殆どがぶちのめされている。向こうが相当に怒っているであろうことは想像に難くなかった。
「ってことはさ……少なくとも子供らはさっさと外に逃がしてやらないとまずくない?」
「あー……うん。私も同じこと思ってたわ」
 目論見を邪魔されて相手は相当におかんむりなはずだ。逆上した敵が子供たちを相手にどんな手を出してくるのかなど想像もしたくない。恐らく会敵の際には、敵は子供たちを真っ先に狙ってくることだろう。
 であればここで話している時間も惜しい。子供たちをはやく安全なところまで逃がしてやらないと――――二人が、そう思ったそのときであった。
 がたっ、ごとっ。――がりがりがりがりがりがりがり! がしゃん! ばりん、っ!
「うわっ……!?」
「なに!? 何の音!?」
「やだっ! 怖い!!」
 廃校舎内に響き渡ったのは、そこらじゅうで重たいものが動かされるような音――。
「あ、これヤバいわね」
 胡々乃香の頭上で、遠く音を察知する狐耳がぴこぴこと震えた。
 ――音だけではない。再びこの校舎の中を強烈な陰の氣が満たそうとしている。邪悪なインビジブル、と呼ばれるタイプの浮遊霊たちがなにかに刺激されて|危険霊現象《ポルターガイスト》を引き起こす悪霊と化しているのだ。いまの物音は、そうした悪霊たちの起こした霊現象によって学校中のありとあらゆるものがポルターガイスト現象によって動かされる音であった。
「あっちゃー……また邪魔者なのね」
 アーシャが眉根を顰めた。
 次の瞬間――ずおん、と。重たい音がした。それも、玄関口から。
「なに!?」
「うわ、あれ黒板じゃない!」
 玄関口へと視線を向けた二人が見たのは、重く大きい黒板が何枚も重なって玄関を塞ぐように飛び込んできた状況だ。――強烈なポルターガイスト現象によって、各教室から強引に動かされてきたものである!
「私たちを逃がさないつもりみたいね……!」
 胡々乃香は鋭く表情を引き締めながら、その身の内に霊力を練り上げて高めた。いつの間にかその手には剣の柄を握っている。
「たしか向こう側に裏口があったわ。そっちから逃がすわよ!」
 その一方で、アーシャは既に戦闘状態だ。その四肢には既に竜の力を宿し、その指先には鋭く竜爪を光らせている。
「わかったわ。……道はそっちで開いてくれる? 私はこの子たちを護りながら行くわ」
「……」
 胡々乃香は子供たちのそばへと寄り添いながら、周囲の状況へと視線を巡らせた。
「大丈夫。帰れるわ」
 胡々乃香は子供たちへと笑いかけて、剣を握る手に力を込めた。
「私たちが、必ず。あなたたちを安全に家まで送り届ける。……だいじょうぶ。信じて」
「……うん」
 縋るように胡々乃香の袖を掴み、震える声でエリコが頷いた。
 ――瞬間、廊下の先から飛来する学習机。時速換算100km以上の速度で飛んでくる質量は、激突すればただでは済まない強力な凶器だ。
 それもひとつやふたつでは済まない。ごうごうと恐ろしい風切りの音を鳴らしながら、霊現象が打ち出す危険な罠が子供たちと√能力者たちに迫る!
「は、ッ!」
 しかして――アーシャは、笑う。
「たかだか机やら椅子なんかの雑な置物ごときでアタシを倒せると思ってるとしたら……舐められたもんね」
 繰り出す一撃。竜爪が赤く軌跡を描いて、飛び込んできた机を真っ二つに両断する。
 続けざまにもう一撃。続いて飛んできた椅子と椅子と椅子を三脚まとめて粉砕し排除。|竜の者《ドラゴンプロトコル》を舐めるな、と言わんばかりにその力でもって襲撃を迎え撃つ。
「ウワーッスゴイ!! スゴイ光景だっ!! 来てよかったーーー!!」
 オカルトオタクのトモヤが現実離れした光景に思わずはしゃぐ声を漏らした。
「うっさいわね! 黙ってないとお仕置きするわよ!!」
「アッ ごめんなさーい!」
「……まあ、逆にこのくらいの調子でちょうどいいかもしれないけどね?」
 砕けた机や椅子の破片が子供たちにぶつからぬよう抜き放った刃で切り散らしながら、胡々乃香はトモヤとアーシャのやり取りに思わずちょっと吹き出していた。
 |霊現象《ポルターガイスト》の襲撃がまだまだ続くその真っ只中であったが、胡々乃香の笑いにつられるようにして子供たちがほんのすこし表情を緩め、空気を和らげる。
「まあ、アタシだって後ろでびーびーうるさく泣かれるよりは安心して大人しくしてくれてる方がマシだけど……」
「それじゃ、もうちょっと楽しくいきましょうか。歌でも歌う?」
「さすがに無理だよ!」
「じゃあコイバナはどうかしら? マイカちゃんだっけ、この中に好きな男の子いたりする?」
「いないわよっ!!」
「あーもーホントうっさいっ!! 頼むから静かについてきなさいよ!?」
 いきなり|スラップスティック《ドタバタ》の空気にするんじゃないわよ! アーシャは半ギレで胡々乃香と子供たちを怒鳴りつけた。
 そこから続けざま、憂さ晴らしのようにアーシャは咆哮し、通路の先で待ち受ける霊現象物体群めがけて“声”を叩きつける――|竜姫絶唱撃《ドラゴニック・クラッシャー》! √能力の領域にまで至った彼女の声が、霊現象物体群をまとめて粉砕してゆく!
「……道、開いたわよ!」
「おっけー! 今がチャンスね。皆、私についてきなさい!」
「はいっ、おねえさん!」
「いきます!」
 そうして開かれた通路へと向かって、胡々乃香と子供たちが駆け込んでいった。
 目指すその先は廃校舎の裏口。|霊現象《ポルターガイスト》を迎え撃ちそして打ち砕きながら、√能力者たちは子供たちを護って出口へと進む!
🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​ 成功

ラーレ・レッドフード
あーようやっと反撃くらいはしてくるよーな奴が出てきやがったか。
ま、そいつもきっちり仕留めてやらぁ!

……ってポルターガイストかよ。闇雲に撃ち続けてもいいんだが、本体みてーなの見つけないといけないんだったか?こーいう怪談系はよく分からん。
んでまぁこーいう類のがやる事としちゃ物動かす、高速でぶつけるとかじゃないなら刃物や鈍器みてーなのが最適だよな。ほら、こういう風みたいに。
ったく水薬飲んで咄嗟に動けなきゃ流石に止められんからな、その分きっちり右手は離してやんねぇぞ?
オラァ!お返しの鉛玉だ!ちゃんと味わえや!
それに、これだけで終わるわけねぇよなぁ?まだまだ行くぞ!とっととくたばれやぁ!
クラウス・イーザリー
【血反吐】

(急に何だ……?誰かの干渉かな)
唐突に発生したように思えるインビジブルの暴走とポルターガイスト現象に、黒幕の干渉だろうかと推測
……でも、黒幕に辿り着くためにはまずこの状況を切り抜けないといけないみたいだね

できれば現象そのものを止めたいけど、それが叶わなくても飛ばせる物が無くなれば現象も止まるかな……?
そう考えながら、飛来する物品を片っ端から銃で撃ち落としたり斧で粉砕して破壊していく
捌き切れない物は見切りで回避、或いは先手必勝で割り込んで身を隠して凌ぐ

もし暴走している悪いインビジブルを倒して現象が止まりそうなら探しに行く
……凌ぐにせよ止めるにせよ、かなりキツい状況だとは思うけど
頑張ろう
品問・吟
◆連携・アドリブ歓迎
さて、子ども達も無事避難しましたし…これで躊躇なく本来の力を発揮できるというものですっ

とはいえ、この手の実体を持たない霊の相手は実は苦手で
先生みたいにバシッと結界術とかで祓えればよかったんですが…

ないものねだりをしてもしかたないですね、私は私の持ち味を活かしていきますっ
考えるよりもまず行動、下手な鉄砲数打ちゃ当たる!
《怒髪乱蛇》で伸ばした髪で、周囲の備品や凶器になりそうなものを手当たり次第掴んで、迫りくる物品とぶつけ合いつつ振り回して、うまいこと本体?的なヤツにぶち当たることを期待しましょう!

…わ、我ながらちょっと効率悪すぎる気がする
うーん、返ったら術式のお勉強しないとなぁ

 がたん! ばたん! がりがりがりがりがりがり、ッ!
「お……なんだ。いきなり随分やかましくなってきやがったな?」
 肩に掲げた猟銃を構えなおしながら、ラーレ・レッドフード(h00223)は周囲の気配を探った。
「急に何だ……?」
 ――何者かの干渉であろうか。クラウス・イーザリー(h05015)は僅かに眉を顰める。
「うーん…………|悪霊《インビジブル》が騒ぎ出してるみたいですね」
 生まれ育った寺での修行で、品問・吟(h06868)は霊現象を知覚する力を高めている。吟は邪悪な|霊《インビジブル》たちが動き出している状況を正確に感知していた。
「悪霊ぉ? オバケが何してくるってんだよ」
「この感じだと……多分襲ってきますね! あんなふうに!」
「あんな?」
 吟が指さした方向をラーレが睨んだ。――瞬間、まっくらな廊下の向こうから暴走自動車めいたスピードでもって飛来する学習机!
「机!?」
 クラウスはぎょっとした――そうしながらも、戦場に馴染んだ身体は素早く襲撃に反応しジャケット裏のホルスターから銃を抜き放っている。
「ハ! なるほどな、ようやっと反撃くらいはしてくるよーな奴がでてきやがったか!!」
 敵意。悪意。害意。机に纏わった邪悪なインビジブルが放つ闇の気配に、ラーレは口の端を吊り上げて攻撃的に嗤った。
「いいぜ、きっちり仕留めてやらぁ!」
 BLAM! 引き絞る引き金! 撃ち出されたショット・シェルが弾けて机を迎撃! クラウスの撃ち込んだ弾丸と合わせて飛来物の勢いを殺ぐ!
「そいやっ!!」
 そこをめがけて吟はひと棹の卒塔婆を引き抜き――力任せにブン殴った、ばぎゃごっ! 金属部品が悲鳴を上げて砕け散り木製の天板が粉砕! 机だったものは木っ端みじんの欠片となって廊下に転がる!
「……おし。まず一体…………いや一体とかじゃねえな。なんだこりゃ、モノ自体はタダの机か……」
 ブッ壊した机の残骸を靴底で踏みながら、ラーレが怪訝な顔をした。
「はい。悪霊のしわざですね!」
「……そうか、悪いインビジブルが暴走してそこらじゅうのものを投げたりぶつけたりして暴れ回る現象……」
「ポルターガイストかよ!! つっまんねぇなあ!!」
 何発ブチ込んでやったところで反応がない相手――どころか“現象”じゃねえかよ。ラーレは心底つまんなさそうな顔をしてみせた。
「まあまあ、落ち着いてください。ほら、シンプルにぶっ壊すだけでもけっこう楽しいかもしれませんよ!」
「そういう問題かな……?」
 ラーレを宥める吟に、クラウスが胡乱な顔をした。
「……とはいえ、対処しないといけないのは間違いないよ。黒幕に辿り着くためにはまずこの状況を切り抜けないといけないみたいだし」
「そりゃあそうだけどよ、せっかく暴れられる機会じゃねえか。どうせならもっとホネのある奴と――」
「それでしたら、それこそこの状況を突破するのが先決ですよ! たぶんこの|霊現象《ポルターガイスト》をどうにかしないと、その向こうにいる黒幕のところまではたどり着けなさそうですからね」
「……まあ、そうだな。仕方ねえ」
 ラーレはため息を吐いた。
「っつか、そうだよ。お前……あーっと、知ってるぞ。そのカッコ、『オボーサン』とか『ニソーサン』ってヤツだろ。オテラのさ。破ァー! ってやって一発でオバケ退治できたりしねえの?」
「すみません、この手の実体を持たない霊の相手は実は苦手で……。私の先生みたいにバシッと結界術とかで祓えればよかったんですが」
 ラーレから水を向けられて、吟は苦笑いしながら頭を下げた。
「あっ、でも|物理的除霊《ぼうりょく》はけっこう得意ですよ!」
「そうかぁ」
「ってことは……この場にいるのは全員フィジカル寄りのメンバーなんだね」
 クラウスもまた苦笑いする。
「そうしたら……」
 霊的事象への対応力に欠けたこのメンバーで、|殺人的霊現象《ポルターガイスト》に対応するにはどのようにすればよいか――クラウスは僅かに思案した。
 そして。
「……|悪霊《インビジブル》たちが動かして武器にできるようなものが無くなれば、この|霊現象《ポルターガイスト》も止まるかな……」
「ぜんぶブッ壊しゃいいってことか?」
 つまり、すべて暴力で解決すればよいということか。ラーレが神妙な顔をする。
「んー……そうですね! いいと思います! 話が単純でとってもわかりやすくて!」
「まあ、そりゃあそうだが」
「ほら、ないものねだりをしてもしかたないじゃないですか! 私たちは私たちの持ち味を活かしていけばいいんだとおもいますっ!」
 そして、吟は力強く頷き、両手をぎゅっと握った。
「とゆーわけで行動に移りましょう! 殴ってるうちに霊現象の核とか中心とか……本体? 的なやつとか、そーいうのにぶち当たればきっと止めれますしね!」
「やっつけて|霊現象《ポルターガイスト》を止められるような奴がいたら優先的にやっつける、でいいかな……」
「そうだな……ま、アタシらにできることなんざそんくらいか。こーいう怪談系ってヤツはよく分からんしな。それでいい」
 これで三人の行動方針は固まった。
 それぞれが互いの死角をカバーし合いながら校舎内を動き回り、襲い来る|霊現象《ポルターガイスト》を――正確に言えば、ポルターガイスト現象によって凶器にされた椅子や机などの学校備品を――片っ端からブッ壊していく。凶器にできるものがなくなるまで破壊し尽くせば脅威もなくなるであろう。そういう算段だ。
「よし……そんなら行くぞ!」
「はいっ!」
「うん、行こう」
 ラーレが先頭に立って号令をかける形となって、かくして三人は校舎内の廊下へと向かって走り出した。
 ――途端、襲撃! ごう、と風を切る音が鳴って三人のもとへと飛来する学校机! 椅子! 教壇! ロッカー!
「来たね!」
 襲撃に反応して、クラウスが即座に|手斧《バトルアクス》を抜いた。
「ハッ! ナめやがって! 使い古しの椅子なんぞ投げつけたくらいでアタシが死ぬかよ!」
 それとほとんど同時にラーレは手にした猟銃の銃身を握り込み、|銃底部分《ストック》を高く掲げるように持った。
「おらっ!」
「はっ!」
 飛び込んできた学習机を、クラウスは振り下ろした斧で迎撃した。ラーレは棍棒めいて振りかざした猟銃の銃底で学習机を突き飛ばし、更にフルスイングして叩き伏せる――
 ――だが、間髪に入れずに襲い掛かる新手の学校備品! 教壇や掃除用具入れのロッカーが三人をめがけて飛び込んでくる!
「ちっ!」
「俺がっ!」
 ここでクラウスが前へと飛び出した。腕に携えたセラミックシールドで防御姿勢をとりながら、襲撃する学校備品の前に立ちはだかる――激突! 衝撃に軋む身体を強引に踏みとどまらせて、クラウスは根性で耐え抜いた。
「けっこう、キツいな……!」
「悪いな! 代わりにアタシがお礼してやるよ!」
 ラーレが猟銃を構えなおし、その筒先を教壇に向ける――BLAM! 弾けるショット・シェル! ばらけた散弾が霊現象操作物を叩き、その構造を破壊して爆散させる!
「よーっし……子供たちも無事避難できているようですし、私も本気でいきますよ!」
 一方、二人の背後で吟は尼僧の頭巾を解きながらその髪へと自らの霊力を行き渡らせていた。――吟は自らの身の内に秘めた本来の力を解放するため、二口女という妖としての姿を晒したのだ。
「背中は任せてくださいっ! ……よいしょっと!」
 霊力を通された吟の長い髪は、巨大な蛸の触腕かあるいは腕そのもののようにうねりながら、廊下に放置されていた掃除用具入れロッカーを掴んでぶんと振り回す。――三人を挟み撃ちにするように反対側の廊下から飛来した机や椅子を吟は迎撃! 質量差で叩き落とす!
「えいっ! えいっ! ええいっ!」
 吟は|霊力《ちから》任せに髪を振り乱し、髪で掴んだ掃除用具ロッカーで暴れ回った。振り回す度に椅子を砕き、振り回す度に机を破壊。襲い来る霊現象の数々を物理的除霊で打ち払ってゆく!
「……うーん、でもやっぱりちょっと効率悪すぎる気がしますね」
「それこそないものねだりだろうが! バカ言ってねーでどんどんぶん殴れ!」
「とにかくここを切り抜けよう!」
「はーい!」
 思わず漏れた吟のぼやきはラーレとクラウスが一蹴した。悩む間もなく襲い来る霊現象霊現象霊現象! 吟はとにかく全力を尽くして学校備品の襲撃に対抗してゆく!
(こーいう状況のためにも……帰ったら術式のお勉強しないとなぁ)
 その最中、吟はこれからの展望のためにやるべきことをあらためて思案し、密かに決意を固めるのであった。

 ――そうして、三人は廃校舎を暴れ回る。
「けっこうキツいな……!」
 学校の校舎まるごとひとつの中にあるありとあらゆる学校備品が悪霊たちの武器となって襲ってきているのだ。無尽蔵にも思えるその襲撃の物量はウォーゾーンでの戦いの経験を持つクラウスにとっても少々辛いものだった。
「こんなんで音ぇ上げてんじゃねえ! 向こうだってこれだけで終わるわけねぇんだ。まだまだ行くぞ!」
「そうです! はやくいちばん悪いひとをつかまえて、きっちり成敗してやりましょう!」
 その一方で、ラーレと吟の二人の女性陣はまだだいぶ元気だ。――周りがこれじゃあ、弱音を吐いてるわけにもいかないか。クラウスはのどもとまで出かかっていたため息を呑み込んで、手斧を握る指先にぐっと力を入れなおした。

 かくして、√能力者たちは廃校舎内の|霊現象《ポルターガイスト》に立ち向かってゆく!
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

柳檀峰・祇雅乃
うーん、子供のことを餌とか呼ぶ人とは分かり合えそうにも無いわね。
それとね、自分の世界が蹂躙されそうになってるのに、邪魔しないわけ無いじゃない?
まああれよ、あなたも邪魔されるのに飽きたら二度と来なくても良いのよ?

ポルターガイストとは、また古典的な心霊現象ねぇ。
とはいえ一斉に襲い来る数多くの物品ってのは単純に面倒だわ。
だからまとめて光の雨で薙ぎ払っちゃいましょ!
何か麻痺効果のある攻撃も有るみたいだけど、光の雨の中で視界は利くかしらね?まあ利いちゃったら耐えるだけだけど。
あとはそれでも近づいてくるのを物理的に破壊するわ!
なーに、向こうが力尽きるか心が折れるまで繰り返すだけよ!シンプルな話だわ!
米満・満代
【WIZ】で勝負!
心情
インビジブルたちのこのざわめき様……
5月だから、だけではありませんね。

戦闘
【御伽語り】を使用。
元・怪異たちを指揮し、装備アイテム【布】を持って広げてもらい、敵の視界を塞ぎます。
敵の視界外から【インビジブルを制御】し、死霊や攻性インビジブルで殴ります。
「れい〜わ令和、ある小学校に、生み出された存在理由を超えて戦う超★かっけぇ元・怪異たちがおりました……」
「探検隊の子供達はもう逃げ出せましたが、もう少しお力添え願います」

連携・アドリブなどお任せします。
ケヴィン・ランツ・アブレイズ
へェ、魔術や念動力でもねェのに物がガタガタ動くわけかい。面白ェ。
まァ理屈のわからない奴にとっちゃ確かにおっかねェ現象だろうし、それだけなら肝試しなんぞにはうってつけかもしれねェが……。
まさかそれで俺たちに対抗できるとは思っちゃいないだろうなァ……?
(にやりと、悪い笑みを浮かべ)

おっと、今の俺は保護者なんだった。こういう笑い方は自重しねェとな。

とは言え、ヘタに喰らうと霊障が残るってのはちょいと厄介だな。
盾を収納して右手を飛来する物体に向けて突き出し《ルートブレイカー》を起動、能力を打ち消す。
これだけで動きが止まるとは思えねェから、後は〈重量攻撃〉〈属性攻撃〉を乗せた一撃で〈なぎ払う〉。

 轟音。
 重たいものが飛び回り、ぶつかり合い、壊れて砕け散る音がそこかしこから響いてくる。
 それと――|悪霊《インビジブル》たちの咆哮も。
「|霊《インビジブル》たちのこのざわめきよう……これは一体」
 先までとは明らかに変わった空気の剣呑さに、米満・満代(h00060)が深刻そうな顔を浮かべて呟いた。
「なに……? 悪霊の仕業だって?」
「ええ。古典的な心霊現象ね」
 悪霊たちの影響によって物体が動き回るこの|現象《ポルターガイスト》を、柳檀峰・祇雅乃(h00217)はケヴィン・ランツ・アブレイズ(h00283)へと手短に説明していた。
「|そっちの√《ドラゴンファンタジー世界》じゃこういうのなかった?」
「ないわけじゃねぇが……|幽霊《ゴースト》なんてのはモンスターの一種みたいな扱いだし、っつうかそんだけ強い念持ってる死者なんかはゾンビだとかスケルトンだとかリッチだとか……そーいう|不死者《アンデッドモンスター》になって襲ってくるからな」
 なぁ、とケヴィンは|同郷《√ドラゴンファンタジー》出身の満代に同意を求める。
「そうですね。その方が怖いですし」
「あー……襲ってくるほど強い気持ちがあるなら直接殴りに来るって?」
 なるほどそういう世界観かぁ。祇雅乃はカルチャーショックに苦笑いした。
「まァ、魔術や念動力でもねェのに物がガタガタ動く……なんつう面白現象はちょいと興味を惹かれるけどな」
 ケヴィンは這いまわる机の音を耳にしながら、にぃ、と口の端を歪める。
「理屈のわからない奴にとっちゃ確かにおっかねェ現象だろうし、それだけなら肝試しなんぞにはうってつけかもしれねェが……」
 ――そんなモンでビビるほど、俺たちは|初心者《ウブ》じゃねえ。
「そうですね。アンデッドモンスターの巣窟とか、割とけっこうどこにでもありましたし」
 今更怖いなんて思いませんよねぇ。満代もまた呑気に微笑む。
「へえー……そっちの√はそんな感じなのね」
 なるほど√EDENの死生観と異なりドラゴンファンタジー世界では悪霊に相当するものはモンスター扱いになってしまうわけだ。モンスターならやっつければいいだけであり、恐怖の対象にはなりにくいのであろう。
「ま、どれにせよだ」
 ケヴィンは斧を構えて廊下の向こう側の暗がりを睨んだ。
「全部ブッ潰してやりゃあいいさ」
「はい。やっつければいいだけのお話ですから」
「そうね。とりあえず全部薙ぎ払っちゃいましょ」
 満代と祇雅乃が頷いた。
 そして――暗闇の向こうから、襲い来る気配。物言わぬ学習机や椅子が群れを成して√能力者たちのもとへと飛来する!
 それも一方からではない。廊下の前後から挟み撃ちにするように、ふたつの霊現象群が同時に3人に迫っていた!
「来たな! 向こうは俺に任せろ!」
「では私たちはあちらを!」
「ええ!」
 3人は素早く状況判断。大型の武具を用いるケヴィンは単独の方が暴れやすいだろう。ケヴィンを片方へと送り出し、満代と祇雅乃は反対側から迫る霊現象群へと向かって身構えた。
「どぉらッ!!」
 鈍い殴打の音! 同時にめぎゃり、と木材がへし折れる悲鳴をあげた。ケヴィンが振り下ろした黒鉄斧の一撃が学習机を叩き折ったのだ。動かなくなった机を踏みつけてケヴィンは前進。さらに迫って来ていた椅子や机の群れの真っ只中へと飛び込み、同時に斧を薙ぎ払う!
「ヘッ、こんなモンかよ!」
 ――獅子奮迅! ケヴィンは周囲に集まって来ていた霊現象飛行物体をまとめで打ち砕くと、そのまま更に廊下の中を飛んで黒鉄斧での追撃を見舞った。木や鉄の砕ける音とともに、霊現象飛行物の群れが次々と破壊されてゆく!
「まさかこんな程度の攻め手で……俺たちに対抗できるとは思っちゃいないだろうなァ!」
 炸裂、ッ! 振り抜いた黒鉄斧がまたも椅子や学習机を粉砕して薙ぎ払った。
「あちらは奮戦しているようですね……私たちも負けてはいられません!」
「そうね。こっちも一気に片付けちゃいましょう」
 その一方で、満代と祇雅乃もまた霊現象を迎え撃ちに入っていた。
「ではまず……霊現象には霊現象! こちらも|霊《インビジブル》を呼びますよ!」
 満代が拡声器を構え、その身の内で力を高める。――ひと呼吸置いてから、満代は拡声器を通してその声を響かせた。
「れい~わ令和、ある小学校に……」
 むかーしむかし、のリズムで語る満代の声が周囲一帯の空間へと広がってゆく。
「生み出された存在理由を超えて戦う超★かっけぇ元・怪異たちがおりました……」
『お、おおおおおお』
『おおおおお!』
『おおおおおおおおおッ』
 満代の声に応じるように、大気中に漂うインビジブルたちの力がかたちを成してゆく――それらは、先の立ち回りの中で√能力者たちに打倒された怪異たちの残滓だ。満代の言霊が、それらの残存エネルギーをかきあつめて新たな霊的存在へと再構築させている。
「さあ皆さん! ここが見せ場ですよ。あの|霊現象《ポルターガイスト》を放っておいたら子供たちも危険です!」
『おおおおおおッ!』
 インビジブルたちは満代の呼びかけに奮い立った。空気をびりびりと震わすほどに咆哮し、廃校舎内の空間に飛び出してゆく!
 ――霊的視野をもつ者であれば見えていたかもしれない。満代に呼ばれたインビジブルたちが悪霊どもへと飛び掛かり、魂魄で殴り合うような霊的格闘戦に持ち込んだ光景が。
 ばちっ ばちっ ぱちっ! 飛び散る電光! 弾ける火花! 霊的エネルギー同士の接触と衝突で生じたエネルギーが爆ぜる光となってそこらじゅうで光り輝いた!
「今です! わるい|悪霊《インビジブル》たちはこっちで抑え込みました!」
 周囲一帯の|霊現象《ポルターガイスト》を引き起こしていた|悪霊《インビジブル》たちは、満代の呼び込んだ霊体群からの攻撃を受けたことでその活動を鈍化させていた。これによって、霊現象の勢いは大きく削がれる!
「オッケーよ! いい仕事じゃない!」
 その最中――祇雅乃は、手にした|魔導書《グリモワール》を開いてその身に宿す魔法の力を励起させていた。
 溜め込んだ魔法力を、魔具でもある魔導書を通して練り上げ、紡ぎ出す術式で魔法の形と成す。
「それじゃ……まとめて薙ぎ払っちゃいましょ!」
 次の瞬間、魔法力は弾けて光の雨と化した。
 爆ぜ散った魔力が雨粒めいて拡散し、破壊的なエネルギーを伴いながら廃校舎の中を駆け巡る。破壊の光と化した魔法の力は、|霊現象《ポルターガイスト》に動かされる学校備品の群れを次々に撃ち抜き破壊してゆき――

「……こんなモンかねぇ?」
「そうですね、もう動くものもなさそうですし」
「そうねぇ。心が折れちゃったのかも?」
 やがて、√能力者たちの前から動くものの気配は消えた。
 √能力の余波が霊現象を引き起こしていた|悪霊《インビジブル》たちを退けたのだろう。廃校舎の中は静まり返っている。
「これで一件落着、だといいんですけど……」
「そうはいかないんでしょうね」
「ああ。この事件を企てた黒幕ってヤツがいるはずだからな」
 だが、√能力者たちは油断なく周囲に気配を探った。
 彼らはまだ、今回の事件――怪異たちへの“餌やり”を企てた者に遭遇していない。
 必ず見つけ出して叩かなくては。――彼らがそう思った、そのときである。
「困ったものだ。実に困った」
 足音。
 それと、男の声が廃校舎の中で響いた。
「私はね。ただ、自分の|√《世界》をよりよく、より豊かにしていきたいだけなのだよ」
 コツ、コツ、コツ。革靴の底が木板の床を叩く音。――それと、声が、気配が、√能力者たちに近づいてくる。
「誰しも、自分の世界の存続と幸福を願うのは当然のことだろう。これはあまねく√に生きるすべての者たちがもつ切なる願いだ。……諸君らはそれを阻もうというのかね?」
 暗がりの中から、一人の男が√能力者たちの前にその姿を晒した。
「人類同士で争うなど、愚かなことではないか。――お互いのためにも、君たちがここで退き下がる方が賢明と考えるがね」
 リンドー・スミス。√汎神解剖機関の侵略的√能力者のひとりである。
「リンドー・スミス! またテメェか!」
 ケヴィンは別の事件でこの男とまみえたことがあった。以前の邂逅を思い返し、ケヴィンはリンドーを睨みつける。
「奇遇だな、竜の騎士。――諸君らがここから退き、この|檻《ケージ》にもう手を出さないと約束してくれるならば、我々が集めた怪異群を君たちが散らした件については不問としよう」
「|檻《ケージ》……!? やはりこの学校はあなたが作り出した怪異の“養殖場”だったんですね」
 満代はリンドーの物言いに表情を険しめ、睨め付ける眼差しでリンドーへと相対する。
「うーん……これで交渉のつもりなのかしら? やっぱり子供のことを餌とか呼ぶ人とは分かり合えそうにも無いわね」
 その一方、祇雅乃は呆れかえっていた。
「納得がいかないと?」
「当たり前でしょ。それとね、自分の世界が蹂躙されそうになってるのに、邪魔しないわけ無いじゃない?」
「√EDENを蹂躙……? そんな大それたことはしていない。ただ怪異たちのために“餌”を少し調達しただけだ。10人にも満たない小規模な贄だ」
「ずいぶん冷静に言うのね。……だから決裂するのよ、この話し合い!」
 祇雅乃は好戦的な笑みを口の端に乗せ、ふたたび魔導書を開いた。
「やれやれ、この√の能力者たちは皆野蛮で困る。……人間同士で争うなど、愚か極まりないことだというのに」
 対し。リンドー・スミスは、道理を解せぬ幼児の我儘に呆れかえる父母のように。心底からの失望を隠しもせず√能力者たちの前でため息を吐いた。
「であれば、もはや実力行使しかないということだ。……ならば、諸君らにはすこし痛い目を見てもらう。二度とここに手出しできぬようにな」
「ハッ! やってみろよ。そう簡単には痛がらないぜ。俺たちはな!」
「そうですよ! お帰りになるのはあなたの方です!」
「ええ。何度来たって徹底的に邪魔して、そっちの計画だっていくらでも潰してあげるわ。邪魔されるのに飽きたら二度と来なくても良いのよ?」
「フ」
 リンドー・スミスが嗤う。
 そうしてから――相対。戦場にて静かに殺気が広がり、そして満ちる。

 かくして、ここ旧幌比田小学校廃校舎で√能力者たちは対峙した。
 そうして――――戦いは、ここから幕を開ける!
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

第3章 ボス戦 『連邦怪異収容局員『リンドー・スミス』』


POW 武装化攻性怪異
【肉体融合武装と化した怪異】を用いた通常攻撃が、2回攻撃かつ範囲攻撃(半径レベルm内の敵全てを攻撃)になる。
SPD トランパー・オブ・モンスターズ
騎乗する【怪異の群れ】から跳躍し、着地点の敵1体に【荒れ狂う怪異の群れ】による威力3倍攻撃を放つ。また、跳躍中に【さらなる怪異を解放】すると命中率半減/着地点から半径レベルm内の敵全員を威力3倍攻撃。
WIZ 怪異制御術式解放
自身の【蟲翅】がA、【刃腕】がB、【液状変異脚】がC増加し、それぞれ捕食力、貫通力、蹂躙力が増加する。ABCの合計は自分のレベルに等しい。
イラスト 黒丹
√汎神解剖機関 普通11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

白神・真綾
ヒャッハー!やっと親玉登場デース!って、黒幕お前だったデスカ。お前のくだらない計画を潰すのもそろそろ面倒になってきたデスネェ。もうここでお前潰して二度と下らねぇ計画を起こせないようにしてやるデスヨ!
√能力で強化し圧倒的な手数で磨り潰しにかかる
「ヒャッハー!その首貰い受けるデース!」
アリス・グラブズ
「刃の腕の"きみ"……すごくよくできてるね。──じゃあ、いっしょに、なろっか♪」
にゅるりと溶けだすように、セカイからワタシたちがにじみでる。異界の唄とともに、足元の影から、壁の裏から、空気の粒から──音と視線と触覚で、敵の“武装の腕”と“背中の中心”に、そっと、重ねて
「すこしは弾けても、だいじょうぶっ。ここも、ぜんぶ“わたし”だから♪」
“わたし”が震える。“きみ”が共鳴する。触れあったら順番に、きみたちの構造が“こっち”の波形に染まりはじめる
「あげるよっ、わたしの形。きっと、きみにも似合うからっ」
情報同期──侵食開始。“あなた”はもう“敵”じゃない
“わたし”は”きみ”、あなたの中に、すでにいる

「ヒャッハー! やっと親玉登場デース!!」
 白神・真綾(h00844)は快哉を叫んだ。
「なるほどー……。あの『おじさま』がこの事件のいちばん『わるいひと』なんだね?」
 真綾に並ぶアリス・グラブズ(h03259)は、現れた事件の黒幕――連邦怪異収容局員、リンドー・スミスに対峙して、首を傾いだ。
「……おや。君は」
 リンドーは並んだふたりのうち片方――真綾の姿に目を止めて、ちいさく呟く。
「んんっ……?」
 真綾はリンドーと目が合った。
 それからほんの一瞬の空白を置いて――真綾は、眉根に皺を寄せながら声を絞り出す。
「黒幕お前だったデスカ」
「あれっ 真綾さん、しってるひと?」
「デス。前にもぶん殴りましたデース」
 いくつもの事件に関わり、多くの侵略的√能力者と戦ってきた真綾であるが――リンドー・スミスは√汎神解剖機関世界に属する√能力者たちの中でも多くの事件に関わっており、真綾が手を出した案件の中にもリンドー・スミスが企てた計画が存在していた。
 直接戦闘に発展したこともあり、リンドー・スミスは真綾の印象に残っている相手でもあったのだ。
「また会うことになるとはね。お嬢さん」
「そーデスネェ……。お前のくだらない計画を潰すのもそろそろ面倒になってきたデスネェ」
「飽いたならばどうぞお帰りを。そうしていただいた方が私も仕事をやりやすい」
「ごじょーだん、デース!」
 くは、と喉を鳴らして真綾が嗤った。
「こー見えて真綾ちゃんけっこーお仕事には真面目なのデース!」
 本人に直接言ったところで否定するであろうが――好き放題暴れ回って生きているように見えて、意外なことに真綾は勤勉な√能力者である。
 好きに暴れていいから、という利己的な理由もないわけではなかったが、こう見えて真綾は√EDEN防衛条項に則った√能力者としての活動に積極的で、かつ意外なほど真摯に取り組んでいた。
「お前の顔に飽き飽きしてるのはそのとーりデスが、それで帰るほど真綾ちゃん無責任じゃないデス。……ってワケで! もうここでお前潰して二度と下らねぇ計画を起こせないようにしてやるデスヨ!」
「ふーん、なるほどー……。真綾さんが戦ったことあるってことは……この事件のほかにもたくさん悪いことをしてきてるおじさまなんだね!」
 そのとき、人化けしている筈のアリスの双眸に、ひどく危険な色の光が宿った。
 ――|わるいやつ《たべてもいいひと》を見つけたときの、獰猛な肉食獣めいた狩猟者の目だった。
「……ほう、ほう、ほう」
 真綾とアリスのふたりに対峙しながら、リンドー・スミスはふたりを値踏みするようにじろじろと見た。
「なるほど。|怪異《神性》の力を降ろした者と……“外”からの来訪者か」
 これは、これは――|上玉《・・》だ。リンドーの口の端が仄かに吊り上がる。
「君たちを接収できれば上役も喜ぶことだろう。失った|怪異《家畜》どもの補填にもなりそうだ」
 リンドー・スミスは、真綾とアリスのふたりを収容すべき怪異として見定めていた。
「真綾ちゃんたちをお持ち帰りしたいってことデスカ? お断りデース!」
「ワタシもいやでーす!」
「ノープロブレム。それを決めるのは君たちではないからね」
 ぎ、っ。腐りかけた床板を踏みしめる足音が鈍く鳴る。一歩、一歩。じりじりと、リンドー・スミスは二人との間合いをゆっくりと詰めにきた。
「拒否権は行使できない。これより君たちを収容させてもらう」
 そうして距離を詰めながら――リンドー・スミスは、周囲空間のインビジブルたちを喰らい、その身に強烈なエネルギーを宿した。
 かくして、ここに戦端が開く。

「はッ!」
 ばぎゃん、ッ! 床板の砕ける音が響き渡る! 踏み切った靴底がその衝撃で床材を粉砕したのだ。爆発的な加速。その身に融かした怪異の身体を用いて常識外の肉体強化を果たしたリンドー・スミスが二人へと仕掛けたのである。
「ヒャッハー! 力比べなら負けないデース!!」
 対し、真綾は正面から迎え撃った。
「真綾ちゃん、|本気《マジ》殺すデース!!」
「フム――生体活力の高さ。降ろした神性との同調レベル。そしてそこから生み出される戦闘出力……なるほど一級品だ。芸術的ですらある」
 |光刃《フォトンシザース》の軌跡を幾重にも描いて真綾はリンドーに刃を叩きつけた。しかして、リンドーはその両腕を超常の刃を備えた怪異のそれへと変じて真綾の刃と打ち合ったのである。
「ヒャアッ!!」
「ハァッ!」
 交錯。交錯。交錯。交錯。交錯交錯交錯交錯交錯交錯交錯交錯。刃と刃がダンスのステップを刻むように、激しく交差し合い混じり合い互いの生命に突き立てるべく殺し合う。
(本気でやってるハズ、デスガ……!)
 真綾は僅かに焦れた。
 ――|殲滅する白光蛇の牙《エリミネート・バイパーズファング》。そう名付けた必殺の高速戦闘機動。常人であれば到底ついてこれぬ加速領域での攻撃であった。
 だが、リンドー・スミスはその速度に対応している――拮抗されている!
(磨り潰してやるつもりデシたが……ッ!)
 真綾は笑顔のままであったが、しかしてリンドー・スミスの戦闘技術に焦りつつあった。
(コイツ……前よりも強くなってるデス!)
「場数を踏んで強くなるのは、君たちの専売特許ではないのだよ」
「チ、ッ!」
 ガァン、ッ!! 刃と刃が、ひときわ強く打ち合った。真綾とリンドーは衝撃を受けて互いに後退。間合いを開いて睨み合いの体勢となる。
「わァ……すごいすごい!」
 そんな最中。
「おじさま、とってもすてきな“おともだち”がたくさんいるのねっ♪」
 二人の戦いを一歩引いた位置から見守っていたアリスが、不意に声をあげた。
「なに……?」
 突然の呑気な言葉に、リンドーは一瞬虚を突かれる。
「んっふ。ふふふ……。ワタシも、“きみ”と“おともだち”になりたいなっ♪」
 そのときであった。
「ね。ね。いいよね? いいでしょ。ねっ。おじさまのおててのなかの“きみ”……」
 きゅ、と細まった瞳孔。粘つくような眼差し。捕食者の視線。
 アリス・グラブスという怪物の瞳が、リンドー・スミスの身の内に融けた怪異のひとつを見定める。
「すっごくよくできてるね」
 微笑むアリス。――向ける笑顔とは裏腹に、周囲空間の波動の揺らぎは“それ”が牙を剥き始めたことを示していた。
「む……これは!」
 異常な状況を感じ取り、リンドー・スミスは警戒しながら素早く背後へと飛び退った。――何か仕掛けてくる! アリスの様子から、その危険性を予見し、繰り出される攻め手を躱すために逃れようとしたのである。
「――じゃあ、いっしょに、なろっか♪」
 瞬間。
 にゅるり、と。影の中から溶け出すように。開いたふたからこぼれるように。壁の向こうから染み出すように。
 |異界《せかい》から、|アリス《わたし》たちが滲み出る。
 おおおおお。おおおおお。おおおおお。音ならざる音。声ならざる声。決して人間の声帯が奏でたものではあり得ぬ夢幻の狂詩が。人智を超えた場所より響く異界の唄が。水底で歌い合う鯨たちの合奏めいて廃校舎の中を満たす。
「だいじょうぶ、だいじょうぶ――ね。ゆだねて」
「ム、ゥ……ッ!! これは、ッ!!」
 包み込むように広がったアリスの見えざる腕がリンドー・スミスの身体へと届き、そして掴んだ。
 震える。
 震える。音を鳴らして歌を奏でて、“|わたし《アリス》”が、“|きみ《怪異》”に触れる。
「あげるよっ。わたしの形」
「侵蝕同化現象……ッ!!」
 アリス・グラブズという異形は、単なる|怪物《エイリアン》ではない。
 個ではなく群という形態で生きる生命体――のようであって、それが本質ではない。
 |それ《・・》の本質は、結びついた生体の神経と思考を繋げて構築したネットワークの中に存在する集合的自我である。
 浸蝕によって自らを構成する生体を増やし、自己の拡張を目的としながら捕食と同化を繰り返す異形の生命だ。
「きっと、きみにも似合うから」
「づ、ッ……!」
 そして今、アリスは侵蝕同化能力をリンドー・スミスの体内に融かされた怪異たちへと向けて伸ばしていた。
『“わたし”は』
『“わたし”?』
「ぐお……ッ!!」
 リンドー・スミスの腕の中に融けていた『刃の腕』をもつ異形存在が、|わたし《アリス》に喰われた。
 自我の上書きが生じてリンドー・スミスの意に沿う体の一部ではなくなり、その腕はまたたく間に刃の形を失って蠢く異形のものへと変じる。
「なんと……なんという侵蝕速度、ッ! フ、フフッ、ははははッ! 素晴らしい!」
 その瞬間にリンドーはアリスによって侵蝕同化されたその腕を、力任せに引きちぎって床上へと放り捨てた――アリスによる侵蝕同化が自身へと及ぶのを防ぐために切り捨てたのだ。
「むっ。捨てちゃうの? もったいなーい!」
「状況判断だよ、君」
 |自分《わたし》の入った身体を捨てちゃうなんて。リンドーのその判断にアリスはむくれた。
 しかして、つづく刹那!
「……ではこちらの状況は予測してたデスか!」
「ッ……!」
 白刃、ッ!! 閃く刃がリンドー・スミスの躯体に傷を刻み込む! 血液――のかわりに、異形のものの黒い体液が噴き出して、廃校舎の窓ガラスを汚した。
「いくらお前が強いと言っても、武器もない片手もないでこの本気出してる真綾ちゃんにかなうわけがないデース!」
 仕掛けたのは真綾である。アリスの介入によってリンドーが弱体化したその瞬間を逃すことなく、致命傷を狙って飛び込んだのだ。
「フフ……たしかに、それは道理! どうやら私にも油断があったようだ!」
 追撃とばかりに襲い来る真綾のフォトンシザースから逃れるように飛び退り、間一髪で致命傷を避けながらリンドー・スミスは嗤った。
「ヒャッハー! 逃がさないデスよ! その首貰い受けるデース!!」
「ワタシもワタシも! つぎはせなかの“きみ”と“おともだち”になりたいなっ♪」
「フ、フ……なるほど、やはり素晴らしい。ますますもって君たちが欲しくなった!」
 リンドー・スミスは傷口を抑えながらもにやりと笑みを浮かべ、二人に対峙した。
 ――かくして。旧幌比田小学校校舎の中で、事件の黒幕であった侵略的√能力者リンドー・スミスとEDENの√能力者たちの戦いは始まっていたのである。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​ 成功

ラーレ・レッドフード
んでテメェが今回の首魁か何かか?ま、そいつら引き連れてたらあからさまなんだがな。
んじゃ、全力で行かせてもらうぞ!

持ち込んでた火炎瓶を解禁。怪異共に遠慮なく火の味を堪能させてやらぁ!
ついでに水薬はー、まだ残ってるな。んじゃ遠慮なく飲み干す。どーなるかは知らんがお前をぶっ殺せりゃなんだっていいんだよ!

相手からの攻撃は赤い靴頼りの回避と水薬で生じる異形化した肉体で耐えながら銃で反撃。
つっても範囲全てってなるとキチィわ。
だからよぅ、ソレ、解かせてもらうぜ。
怪異?恐怖?知った事か!そいつは偽りであり、既に語られるものとなった。今更概念如きが現れるんじゃねぇ!|偽り解き《ココニナニモナカッタ》!

【血反吐】
アーシャ・ヴァリアント
先日もぶっ飛ばしたような気がするけどしつこいわねぇ、爺さん。
あとまぁ人類同士で争うのが愚か者って言うけど争って負けた方を踏み台にして発展してきた生き物でしょうに何をいまさら。
そもそも争うの嫌なら大人しく斜陽を迎えた世界でひっこんでろっての。

跳躍して怪異の群れを放とうとするのに合わせて√能力で巨大化。
竜斬斧で向かってくる荒れ狂う怪異の群れを【怪力】でもって【なぎ払い】【切断】し
そのまま勢いを殺さず回転して【二回攻撃】で空中のリンドーを叩き落として
巨体で【踏みつけ】て【重量攻撃】、止めに強化された|灼熱の吐息《サラマンドラ・バーン》で【焼却】してやるわ。
ケヴィン・ランツ・アブレイズ
やれやれ。懲りねェなアンタも。
理想に燃えて仕事熱心なのは結構なことだが、それも時と場合によりにけりだぜ。
ともあれだ。この騒動がアンタの仕業だってんなら……責任を取ってもらわなきゃなァ! 覚悟しやがれ!

前に出て、味方を〈かばう〉位置に。攻撃が飛んで来たら〈盾受け〉〈ジャストガード〉〈エネルギーバリア〉を組み合わせて〈受け流し〉て守る。防ぎきれねェ分は〈激痛耐性〉で我慢だ。

奴さんが奥の手を持ち出してきたら、こっちも《ルートブレイカー》で対抗。相殺する。
「見えてんだよ……ッ!」

守りに徹しつつ隙を見せたらすかさず反撃に転じる。
〈重量攻撃〉〈属性攻撃〉を合わせた渾身の一撃をお見舞いしてやるぜ。

「リンドー・スミス! 懲りねェな、アンタも!」
「こちらの台詞だ、竜の者」
 ケヴィン・ランツ・アブレイズ(h00283)が全霊の力を込めて大剣の一撃を薙ぎ払い、幅広の刃を叩きつける。
 しかしてリンドー・スミスは冷静に防御態勢をとり、ケヴィンの剣撃を受けた。――衝撃を後ろへと受け流すように後方に飛び退り、ガラス窓を打ち破りながら旧幌比田小学校の中庭へと飛び降りてゆく。
「野郎、逃げたつもりか!」
「逃がすもんですかっ!」
 アーシャ・ヴァリアント(h02334)がリンドー・スミスを追って割れた窓から飛び出した。広げた翼で宙を舞い、手入れのされていない中庭の区画へと降り立つ。ケヴィンもそれを追いかけるように窓枠から飛び出し、同じく敵を追って中庭のぼうぼうに伸びた草叢の中へと飛び込んだ。
「……逃げた? ふふ、ハハ! 逃げるように思うかね。この私が!」
 ぼうぼうに伸びた丈長の雑草の合間から、リンドー・スミスの声が響く。
「すこし広い場所が欲しかっただけなのだよ――こうするためにね!」
 瞬間。
 おおおおおお! おおおお! おおおおおおおお!
 おおおおあああああああああああああ!
 よこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせ
 血を肉を骨を皮を歯を目を髄を臓腑を魂を魂を魂を魂を魂を魂を魂を魂を魂を魂を魂を魂を魂を魂を魂を魂を魂を魂を
 ああああああああ
 おおおおなあああかああああがあああああああすうううきいいいいまあああしいいいいたあああああああ
 ――絶叫。咆哮。雑音。囁き。雑音。雑音。雑音。雑音。雑音雑音雑音雑音雑音雑音雑音雑音雑音雑音雑音雑音雑音雑音雑音雑音雑音雑音雑音雑音雑音雑音雑音雑音雑音雑音雑音雑音雑音雑音雑音雑音雑音雑音雑音雑音雑音雑音雑音雑音雑音雑音雑音雑音雑音雑音雑音雑音雑音雑音雑音雑音雑音雑音雑音雑音
 脳髄に染み入り精神へと齧り付く異形の声が、たちまち周囲一帯の空間を満たした。
「ははははははは」
 そして、リンドー・スミスが嗤う。
「諸君らが如何に“竜”とて、ヒトの姿をしている以上は精神構造もニンゲンのそれをそう変わるまい。――であれば、食い尽くされずにいられるかね」
「うわ気持ち悪っ! なにこれ!?」
「奴の集めた怪異ってヤツだろ……! 喰われるなよ!」
 リンドー・スミスはその身の内へと融かしていた怪異の群れの何割かを彼の身体から“解放”したのだ。
 リンドーの身体から放たれた贄を求める堕神が。こどものにくを好む怪物が。すききらいなくたべるばけものが。その渇きを癒すために血肉を欲していた。
「なめんじゃねえッ!」
 しかして、ケヴィンは臆することなく前を向く。振り抜いた大剣が、蝙蝠に似た姿の奇獣を真っ二つに両断した。
「面倒なことしてんじゃないわよッ!」
 アーシャも続けて前進しながら、その両腕に竜爪を携えて向かい来る異形の群れへと襲い掛かる。斬閃! 爪撃がクマに似た異形を打ち倒す!
「なるほど恐れぬか。流石に竜の魂をもつだけのことはある。私の収容物たちを相手にたった二人で立ち向かおうとは」
 ――その光景を草葉の合間から見通して、しかしリンドーは嗤った。
「だが、私にも私のやるべきことがあるのだよ、EDENの能力者諸君。……私は祖国と私の帰りを待つ者たちのために、全力を尽くす所存だ」
「理想に燃えて仕事熱心なのは結構なことだが、それも時と場合によりにけりだぜ!」
「そーよ!! そっちが祖国とやらを大事にしてるのはわかってるけどね……どんな理由で取り繕ったって、アタシたちの|世界《√EDEN》に|侵略《ワルさ》カマそうってのは変わんないでしょ!」
 リンドーの物言いに二人は反発しながら叫んだ。
「ならば譲り合いの精神は持ってはいないのかね? ――この|世界《√EDEN》はあまりにも豊かなのだ。争うよりも世界に満ちる富や資源を分け合い、共に手を取り合いながら相互的な発展を目指すことこそが我々にとってもより良い未来とは思わないかね?」
 リンドーはくぐもった声で笑い声を漏らしながら、虚空より新たな怪異をこの場へと呼び込む。おおおおん おおおおん。ずるりと這い出る音がして、草叢の中に大型の異形が姿を見せた。
「なにが『分け合う』だバカヤロウ! テメェがやってんのは『奪い取る』だろうが! ものを知らねェ子供らをバケモンの餌にしようなんて発想する奴がなに言ったって信用ねえんだよ!」
「やれやれ――あくまで争いを望むのだね。君たちは」
「なによ。『人類同士で争うのは愚か』だなんてまだ言うつもり……? バッカじゃないの! 人間なんてそもそも負けた方を踏み台にして発展してきた生き物でしょうに、何をいまさら!」
「開き直りかね?」
「うっさいわね! そもそも争うのが嫌だなんて言うなら、大人しく斜陽を迎えた世界でひっこんでろっての!」
「同感だ! っつーか、どう言い繕ったところでアンタがやってることは子供を殺そうって悪行でしかねえだろうが!」
「違うな。必要だからやっていることなのだ。私は決して悪事を働いたなどとは思っていない」
「ンなら……この場で責任取らせて自分が何やらかしたのか、その重さを身体に覚えさせてやるよ!」
 激闘。
 リンドー・スミスの呼び込んだ怪異群と、アーシャ・ケヴィンのコンビは激しい戦いを繰り広げていた。
 個の強さで言えば無論勝るのはケヴィン・アーシャのチームだ。だが、リンドー・スミスの呼び込んだ怪異たちは二人が対処できる以上の物量でもって攻め寄せてきていたのだ。
「どうした。威勢がいいのは口先ばかりか?」
「ちッ……! どんだけ出てきやがるんだよ、このバケモンどもは!」
「っていうか、これ全部自分の体の中に飼ってるわけ!?」
 倒しても倒しても倒しても、リンドーの呼び込んだ怪異群は数を減らすどころかむしろ時間が立つにつれてその物量を増しているように感じる。
 このままではいずれ押し返される。何か手を打たなくては――ケヴィンとアーシャが考えた、そのときであった。
「おらァッ!! 燃えちまいやがれェッ!」
 突如として、炎が中庭区画へと投げ込まれたのである。
 ――――火炎瓶であった。
 可燃性の油をたっぷりと詰められた瓶は、着弾と同時に割れ砕け、爆ぜる勢いとともに炎を拡散させて炸裂する。
「ム……!」
 中庭区画に茂っていた草木は広がった炎を受けてたちまち燃え上がり、その区画一体を炎に飲み込まれた地獄の様相へと作り変えた。
 ――炎とは、いくつかの宗教において神聖視される現象のひとつである。
 おおおおお。おおおお。おおおおおん。炎に宿る“浄め”の概念がよこしまなものであるとされる怪異たちの肌を舐める。覿面だ。異形どもが悲鳴を上げてのたうった。
「ハハハハハーッ!! オラッ! どうだよ、お婆様特製の火焔瓶の味はよォ!!」
 哄笑――けたたましい笑い声とともに、赤色の影が戦場に舞い降りる!
「ハッ!」
 ばさ――ッ。トレードマークともいえる赤い頭巾を翻し、燃ゆる戦場に降り立ったのはラーレ・レッドフード(h00223)!
「んで……テメェが今回の首魁か何かか? オッサンよォ!」
 ラーレは着地と同時に手にした猟銃を掲げ引き金を引いた。BLAM! 銃声が夜を引き裂き、散弾がリンドー・スミスに襲い掛かる!
「フフ、ごきげんよう。どうも、元気なお嬢さん」
 リンドーは手近な場所に立っていた怪異存在をむんずと掴むとそれを盾にするように自分の前に動かした。ばらり広がった散弾を肉壁で止める。
「その通り。私が|そう《・・》だとも」
「おーおー。言わなくたってわかるぜ。そのバケモノども引き連れてたらあからさまだからな!」
 BLAM! 続けて撃ち込むショット・シェル。リンドーは肉壁を放り捨てながら素早く側面に飛び退いて躱す。
「オラッ! ボサッとしてんじゃねえ! テメェらもこのオッサンぶっ殺しに来たんだろ!」
「そうだけどさあ!? 乱入するならやり方ってもんがあるでしょ!?」
 煤を払いながらアーシャが文句をつけた。
「落ち着け! たしかに手荒な飛び入りだったが、実際だいぶ楽にはなった!」
 その一方で、ケヴィンがアーシャを抑えながら協調を促す。
「――ふむ、ふむ。なるほど。たしかに邪であるといわれる我が怪異たちは“浄め”の概念を持つ火を恐れることもあるだろう」
 しかして。
「だが、私は違う」
 リンドー・スミスは、加速した。
 その腕を融かした異形の力で刃へと変貌させる。その足を融かした異形の力で獣のそれへと作り変える。その背から、鋭く光る鉤爪をそなえた異形の腕を展開する。
「ぬぅんッ!」
 炎を切り払い、異形の戦闘形態へと変じたリンドー・スミスが襲い掛かった。
「チッ! バケモノオヤジがよ!」
「はははっ! 誉め言葉と受け取ろう!」
 BLAM! ラーレが真正面から散弾をぶちまけた。鉛の粒がリンドー・スミスの全身に浴びせかけられる――しかして、異形のリンドーは止まることなく前進! 両腕にそなえた刃でもって襲い掛かる!
「危ねぇッ!」
 狙われたラーレを庇うように、盾を構えたケヴィンが前に出た。がご、ッ!! 凄まじい衝撃! 人外の膂力でもって叩きつけられた一撃がケヴィンを揺るがし、その盾に傷を刻みつける!
「ははは!」
「く、ッ……!」
 襲う追撃にケヴィンは苦悶した。怪異化した躯体から繰り出される攻撃の威力は絶大だ。ケヴィンほどの実力者をもってしても完全に抑え込むことはきわめて難しい。
「こいつッ!」
 ケヴィンは態勢を立て直しながら手にした斧を振り上げてリンドーへと反撃する。――しかしてリンドーは素早く身を翻し、既にケヴィンとの間合いを開いていた。
「いかがかなお嬢さん!」
 続けてリンドーはアーシャめがけて牙を剥く。リンドーの両腕の刃がアーシャを襲った。
「ナめんじゃないわよッ!」
 アーシャは即応し両腕の竜爪を振るった。硬質な爪が刃を弾き、リンドーの殺意を止める――
「侮ってなどいないさ!」
 だが、続けざまに仕掛ける多腕の追撃! 背中から伸びた鉤爪を備える獣の腕がアーシャを狙う!
「痛、ッ……!」
「ハアッ!」
「くあ……っ!」
 リンドーはアーシャを蹴りつけて間合いを開きなおすように後方へと飛び退った。
(このバケモノオヤジ、タダモンじゃねえな……)
 √能力者三人を同時に相手取りながら一歩も退かぬその戦闘技術と出力にラーレは焦れた。じわり滲んだ汗をラーレは手の甲で拭う。
(なら……こっちもちょいと無茶するしかねえ!)
 ラーレは懐から一本のガラス瓶を引き抜いた。キャップを外し、その中身――魔女の水薬を一気に呷る!
 ――瞬間。どくん、と跳ねる心臓の拍動。流れ出す力を全身で感じながら、ラーレは口の端を歪める。
「ほう」
「るうううおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!!」
 ラーレの身体が爆発的に膨れ上がり、かと思いきやすぐさまに収縮してそこに新たな姿を描き出した。
 遠吠えとともに起ちあがったその異容は、身の丈十尺にも届く巨大な体躯をもつ狼そのものであった。
「“赤頭巾”。“狼”。なるほど――|童話《フェアリーテイル》の降ろし手!」
 リンドーもまた歓喜した。
「その力、その異形、その存在――実に興味深い! ぜひ君を我が祖国へと招かせていただきたい!」
「お断りだぜ、バケモノオヤジ!」
 飛び出したリンドーが、狼と化したラーレへと襲い掛かった。迎え撃つ爪牙。攻め寄せる異形の刃。交錯する殺気と殺気が激しくぶつかり合って弾け、打ち合うたびに火花を散らす!
「おらぁッ!!」
「ぬ……ッ!」
 打ち合いを制したのは――ラーレだ! 獣の膂力で強引に押し切ってリンドーの体勢を崩し、そこへすかさず散弾を叩き込む!
「く、フフ、はは……! では、こちらも奥の手と行こう!」
 傷を負いながらもリンドー・スミスは嗤った。
「おおおおおおおお、おおおおおおッ!!」
 リンドー・スミスは励起する。その身に融かした怪異たちの力を。降ろせし神性の権能を。狂える異形のものたちの歪んだ存在核を。
 その瞬間、リンドー・スミスの肉体が歪みながら膨れ上がった。混沌とした異形の怪物と化しながら、嘲笑う声を響かせる。
「ははははは! ははははははは!」
「ッ……!」
 巨大な異形態と化したリンドー・スミスはいくつも増えたその腕でラーレを掴んで振り回すと、まだ燃え続けている中庭の草叢へと叩きつけた。ぐるおう。衝撃にラーレの喉奥から音が漏れる。
「では、大人しくなっていただこうか」
 そして、リンドー・スミスはラーレへとその無数の腕を伸ばし――
「ふざッけんじゃないわよッ!!」
「む……ッ!!」
 振り下ろされた刃の一撃に、遮られる!
「ふんッ!」
 それはアーシャの掲げた竜斬斧! その巨大な刃が異形化リンドーの腕の内いくつかを断ち切ったのだ。
「アンタねぇ……でっかくなってこっちより強くなったつもりなのかもしれないけどっ!」
 アーシャは斧を引き抜きながら、その勢いを利用して素早く一回転。ぶおんと風を切りながら、薙ぎ払う斧の一撃を異形化リンドーへと叩き込む!
「|そんなこと《・・・・・》くらいアタシにだってできんのよッ!!」
「ム、ゥ……!」
 そう――吼えるアーシャの姿は、先ほどまでよりも明らかに大きくなっていた。
 |竜姫巨大化《ドラゴニック・ギガント》。アーシャは周囲空間のインビジブルたちから得たエネルギーから√能力を励起し、その身体を巨大化させていたのだ。
「ほら、怯ませてやったわよ! 起きて加勢しなさいよ!」
「ハ、ッ……言われなくてもだ、ッ!」
 発破をかけるアーシャの声に応じて、伏していた狼化ラーレがその身を起こす。ぐろろと喉をひと鳴らししてから、ラーレは鋭く閃く爪牙でもって異形化リンドーに襲い掛かった。
「そちらの竜の者も力を解放した、というわけか……だが、それでもこの姿となった私には!」
 リンドー・スミスは二人をまとめて迎え撃つべく、全身の異形に活力を注いだ。
「……ああ。たしかにな。お前さんのその姿は、強いんだろうさ」
 だが、そのときである。
「ム……?」
 不意に、リンドーの身体に何者かが触れた。
「ならよ……もとの姿に戻してやりゃあ、弱体化するっつうことだよな!」
「……貴様!」
 その手の主は――むろん、ケヴィンである。
 狼化ラーレと巨大化アーシャが怪異化リンドーに対峙している間に、ケヴィンは密かにリンドーへと接触していたのだ。――|右の掌で《・・・・》。
「見えたぜ、力の流れ……断たせてもらうっ!」
 ぎゅっ、と。――すり潰すように、ケヴィンはその掌を強く握り込んだ。
 瞬間、なにかが砕けるような音がして――リンドーの身体が、空気の抜けた風船のように急に萎み始める。
 ケヴィンの用いた√能力――右の掌で触れることによって√能力を断つ√能力、ルートブレイカーの力がリンドーの身体に宿っていた怪異群とリンドーとのつながりを断ち、異形化の状態を維持できなくさせたのだ。
「ム、ゥ……! √能力を断ち切る√能力……ッ!」
 力を削り取られ、リンドーはここにきて焦れるように強く息を吐き出した。
「だが……私の力はまだ尽きたわけではない。そうだ、私の怪異たちを用いればまだ!」
 ここにきてリンドー・スミスは未だ闘争心の火を保ち、√能力者たちとの戦いを続けようとしていた。中庭区画にふたたび異形どもの咆哮が満ち、怪異たちが立ちあがろうとする――
 しかし。
「出てこねえよ、そんな連中」
 吐き捨てるようにラーレが言った。
「なに……!?」
「『怪異』も『恐怖』も知った事かよ――ンなもんひとつのこらず全部偽りだ。何もかもすべては既に『語られるもの』となった!」
 狼の双眸で、ラーレはリンドーを睨めつける。
「テメェの『怪異』とかいうのはもう概念でしかねえ。……そして、今更概念如きが現れるんじゃねぇ!」
 ラーレもまた右の掌を構えた。飛び掛かるラーレ。その手でもってラーレは中庭に立ちあがった怪異たちを引き裂きにかかる!
「そうだ。|偽り解き《ここにはなにもない》ッ!」
 ――存在否定の言葉が、言霊めいて力をもちながら響き渡る。
 その存在そのものを『ない』と断じた声に屈して、リンドーが呼ぼうとしていた怪異の群れは虚無へと溶けて消えてゆく。
「はは、は――!」
「これでアンタの力はぜんぶ差し押さえ! もう抵抗なんかできないでしょ。とどめを刺させてもらうわよっ!」
 そして――アーシャが、深く息を吸う。
「|灼熱の《サラマンドラ》……|吐息《バーン》、ッ!!」
 咆哮とともにアーシャはその喉奥から激しく炎を吐き出した。ごう、ッ! 激しく燃える竜炎が、赤く光りながら広がってリンドー・スミスを包み込む!
「っ……ッ、ふ、はははッ!」
 そうして、リンドー・スミスは――
「流石だ、EDENの√能力者たち。私をこうも追いつめるとはね」
 ――多くの傷を負った姿でこそあったが、しかして未だ立っていた。アーシャに吹き付けられた竜炎を払いのけ、√能力者たちへもういちど対峙する。
「だが、こちらにも意地というものがあってね。もうすこし悪あがきをさせてもらおう!」
 引きつるような顔で、リンドー・スミスは凄惨に嗤った。
「まだやる気ってか!」
「それなら諦めるまで叩きのめしてやるわよ!」
「ああ、やってやろうじゃねえかよ!」
 対し――三人はここからまた闘志を燃え上がらせる!
 それからふたたび始まる交錯――戦いは次のラウンドへと移ってゆく!
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​ 成功

品問・吟
【血反吐】
◆連携・アドリブ歓迎

リンドー・スミス!?報告書で何度も見た名前です、まさか実際に対峙することになるなんて
っ、気圧されている場合ではないですね
これ以上、貴方の好き勝手にはさせませんよ!

相手は格上、本来なら何かしら策を講じるべきなのでしょう
でも、私はそんなに難しいことは考えられない性格なので!覚悟を決めて、突っ込みます!

痛い、痛い、苦しい、血と涙でよくわからなくなりそう
でも、懐になんとか飛び込めば、怪異の群れではなく怪異と融合した肉体での攻撃に切り替わるはず
そうすれば《大悪喰》、第二の口を使って、肉を抉られようとも――肉を、喰い千切り返してやる!!

これが、|二口女《わたし》の戦い方だ!
クラウス・イーザリー
【血反吐】

「子供達はお前の道具じゃない」
言ったところで意味がないのはわかっているし、こいつなりに自分の世界のことを考えているのも知っているけど
それでも、人を餌扱いする奴とはわかり合えない 交渉には応じない
痛い目を見るのはお前だ

決戦気象兵器「レイン」を起動
レーザーを集中させて増えた翅や腕を撃ち機能停止を狙う
自分はレーザーに隠れるようにダッシュで接近し、スタンロッドの鎧無視攻撃をぶち込む

敵の攻撃は見切りで回避し、躱し切れない時は霊的防護や武器受けで凌ぐ
直撃しても激痛耐性で耐えて戦い続ける

邪魔をしてしまって悪いけど、俺は子供達の命を大事の前の小事と割り切ることができる程大人じゃないんだよ

「くく、く」
 リンドー・スミスの身体は、√能力者たちとの戦いの中で既に深く傷ついていた。
 満身創痍、と言っておおむね差し支えない。――そうした状態である。
「ははははは」
 だが――数多の戦場に於いて√能力者たちと対峙してきた彼からしてみれば、まだ斃れていないだけ|マシ《・・》だ。
「『死なねば安い』という慣用句は極東地域のスラングだったかな?」
 赤黒い血を拭って、リンドー・スミスは廃校舎の中で嗤った。
「あれは……リンドー・スミス!?」
 品問・吟(h06868)は悲鳴のような声をあげた。
「どうもごきげんよう、お嬢さん。ははは。そちらでは私は有名人のようだね?」
「ええ、はい……。貴方の名前はいろいろな方の報告書で何度も見ました」
 ――リンドー・スミスと√能力者たちとの交戦記録は、昨年末から数えて既に40件にも及ぶのだという。単純計算で、4日にいちどは誰かしらの√能力者がリンドー・スミスと戦っていることになる。なんて働き者、と吟は思った。
「まさか実際に対峙することになるなんて……!」
「おや……緊張しているのかな? ははは。楽にするといい」
 リンドー・スミスは口の端を歪めながら吟を見た。――目は笑っていない。その双眸の奥に光るのは凄まじく鋭い敵意と悪意の色だ。
「っ……」
 視線を向けられただけで、かなりのプレッシャー。吟は必死に声を抑えながらも息を呑んだ。
 しかして、それも束の間である。
「……いえ、気圧されている場合ではないですね」
 吟はぱしんと頬を張って自らに喝を入れ、押忍と気合を入れながらリンドー・スミスを睨み返した。
「戦いを厭うならそれでも構わないのだよ? 私とて無駄な争いは好まない。先も言ったように、こちらの|餌やり《・・・》に少し目を瞑ってくれればそれだけで争う理由がひとつなくなるのだ」
「……その『餌』っていうのは、|この世界《√EDEN》の人間のことだろ」
 殺気。
 銃を手にしたクラウス・イーザリー(h05015)が、闇の中から現れてリンドー・スミスを睨めつける。
「そうだが――60億もいるのだろう? 一回あたりがそのうちの10人足らずだ。何ならこれからは|死んでもいい命《・・・・・・・》を探してきてやってもいい」
「ふ、ッ……ざけないでくださいよっ!!」
 リンドーの物言いに、吟が激昂しながら叫んだ。
「何の罪もない子供たちを、|怪異《あんなもの》たちの|餌《・》だなんて……!」
「到底、応じられる話じゃない。……そもそも、人を餌扱いするような相手とは分かり合えない」
「ははは。そう言うだろうとは思っていたよ。――では、力ずくで押し通すとしよう」
 リンドー・スミスの身体が膨れ上がった。――その身に宿した怪異たちより力を奪い、自らの肉体を変質させているのだ。
 ――それだけではない。暗がりの中に、気配。おおおおお。おおおおお。おおおおおお! 地の底から響くような唸り声。体内に収容していた異形たちのいくつかを、リンドーは解放していた。
「力ずくならこっちだって大の得意ですっ! これ以上、貴方の好き勝手にはさせませんよ!」
「『痛い目を見せる』と言ってたな……その言葉、お前にそっくりそのまま返す」
 しかして、吟とクラウスは真正面からそれに対峙し、その身の内へと力を励起する。
 ――そうして、開戦。戦いの幕が開く。

 おおおお。おおおお。おおおおお!
 異形が吠え猛り、叫ぶ。首のない巨漢が床板を軋ませながら迫った。蝙蝠めいた体格の空飛ぶ爬虫類が血を狙って顎を開く。暗がりに潜む男が闇の中からその腕を伸ばす。
「数で押してきたか……!」
 クラウスは素早いステップで後方に下がりながら、備えていたレーザーライフルを構えた。短く小刻みにトリガーを引いて3点射撃。ぱぱぱ、と光が三度迸って、闇の底の異形どもを灼く。
 おおおおおん おおおおん おおおおおん。 弾ける光に怪異の群れが呻いた。――しかし、撃滅するには至らない。向けられた敵意と浴びせられた痛痒に異形たちは敵意を強める!
「その程度の光ではね!」
 くはははは。リンドー・スミスが嘲るように嗤う。応じるように異形の群れがその腕を伸ばした。
「くっ……!」
 クラウスは身を翻し、間合いを離すように後退しながら再びトリガーを引いた。閃光。閃光! レーザー光が怪異たちを撃つ!
「足りないと言っているだろう?」
「ならば、私が行きます!」
 哄笑するリンドーを前に、吟が力強く拳を握った。
「できるのかね? ――震えているようだが」
「ええ、そうですね。怖いですとも!」
 吟は引きつった笑みを浮かべながら叫んだ。
 眼前。対峙したその先には無数の魑魅魍魎。見たこともない異形の怪異が群れをなし、更には戦闘経験豊富で強力な敵性の侵略的√能力者――リンドー・スミスが待ち構えている。
 単独で挑めば勝てるはずもなく、二人がかりで仕掛けたとて届くかどうかわからない――そんな相手を目の前にした状況だ。
 しかし。
「ですが、あの子たちは貴方の企てでもっと怖い目に遭ったんです! 私が泣き言を言うわけにはいきません!」
「なんだね、その理屈は。私からすれば意味が分からないが――」
「ええ、ええ。そうでしょうね! 貴方にわかってもらう必要なんかありません!」
 吟はひと振りの刃を抜き放った。――卒塔刃。大剣めいて握り締めたそれを上段に掲げながら、吟は進み出す。
「なにより――問答無用ですっ!!」
 吟は一度だけ後ろを振り返ると、クラウスに向けて笑いかけた。援護おねがいしますね、と言外に伝えてから、異形ひしめく木造廊下の先へと向けて駆けてゆく!
「うん。同感だ。……リンドー・スミス。お前とわかりあえるとは思ってない。すぐにでも帰ってもらうぞ!」
 吟が走り出すのと同時にクラウスはふたたびライフルの引き金を引いた。疾る閃光! レーザー光が闇を裂き、手を伸ばそうとしていた異形の牙を挫く!
「でぇええいっ!!」
 レーザー射撃が敵群の勢いを殺いだその瞬間を逃さずに、吟は掲げた卒塔刃を大上段から力強く振り下ろしながら飛び込んだ。気合の籠もった重く鋭い一撃が、首のない巨人を叩き伏せて消滅させる!
「だああっ!」
 続けざま、薙ぎ払う一刀! 飛び掛かってきた爬虫類状の異形の生命を打ち倒して壁面に叩きつけ、吟が攻め上る!
「なるほど実に勇猛果敢。君たちのその武勇、部下たちにも見習わせたいところだよ」
 しかして。
「だがね」
 リンドー・スミスが、嗤った。
「勢いだけでは勝てないのだよ」
 瞬間、闇の気配が色濃くなり、膨れ上がる――リンドー・スミスが更なる怪異を呼び込んだのだ。異形の気配がたちまち膨れ上がり、進んでいたはずの吟の足を竦ませる。
「なんです……!?」
「おや。足を止めたね」
「!」
 そのときであった。
 吟は足に鋭い激痛を感じて短く悲鳴を上げる。――その足には、頭足類のそれによく似た触手が絡みついていた。
 イカやタコのそれと同様に触手の備わった吸盤は、しかして彼女の知る頭足類のそれとは異なり吸盤の一つ一つに鋭く尖った牙がそなわっていた。その牙が、吟の足を絡め取ると同時にその筋組織へと喰らい付き、その肉を抉ろうとしていたのだ。
「ぐあ……っ!!」
 痛い。痛い。痛い。痛い。苦しい。傷口に焼けるような痛みが走り、それと同時に血液の溢れ出し失われてゆく感覚が彼女の脳髄へと死を想起させ、ぞわりと冷たい感覚をその背筋に走らせた。思わず涙までもがその目に滲む。
「ははは。そのまま斃れてしまうといい。君たちのお陰で減らされた|贄《えさ》をあらためて確保しなくてはならなくなってしまったからね。せめてその役目を果たしてもらうとしよう」
 リンドー・スミスが嘲笑った。
「ッ、ン、の……!」
 ――対し。
「負ッ、け……ません、ッ!!」
 歯を食いしばりながら、吟が叫んだ。
「こんなものぉッ!!」
 吟は力強く声を張り上げながら、両手にふたたび力を込めて卒塔刃を握りなおす。力任せにそれを足に絡みついた触手へと突き立て、それを強引に叩き切る。ぶづぶづと鈍い音をさせてちぎれた触手の断面から、暗緑色の体液が噴き出した。
「無駄だ。私の呼び込んだ怪異たちはまだまだたくさんいるのだよ? たかだか腕一本切り落としたくらいで――」
「なら、全部焼き切ってやるさ」
「……なに?」
 そのとき、リンドー・スミスは異様な光景を見た。
 ――燐光。
 廃校舎の廊下の中で、無数の光がふわりと浮かび上がりながら宙を舞っているのだ。
「これは……!?」
「|砲撃機《レイン》、全機展開済み……および、エネルギー充填も完了……。お前が“遊んで”るうちに、こっちの準備は整った!」
 決戦気象兵器レイン。――√ウォーゾーンの人類が生み出した兵器の中でも屈指の強力な武器であり、クラウスがもつ隠し玉のひとつである。
 粒子型――超小型のレーザー放射砲台。それこそ無数の端末が複雑なネットワークを形成し、操手の思念を受けながら半自律的に敵性へと攻撃を仕掛けるきわめて強力な遠隔操作型の兵器であった。
「リンドー・スミス。……さっきは、『その程度の光では』なんて言ってたな」
 強力な思念波――! クラウスは攻性の意志を拡大し、『レイン』の端末へと通した。
「これなら、どうだ」
 途端――周囲に浮かぶ小型レイン端末群から放たれる、無数の|閃光《レーザー光》!
 閃光。閃光。閃光! 数百台を超える小型レイン端末が、クラウスの戦意に応じるように激しく光を放った。
 おおおお! おおおお! おおおおおおおお! 叩きつけられ、弾ける光。飛び交うレーザー光! 撃ち貫く光は闇の底を棲み処とする怪異の群れには覿面の効果を見せていた。光に射抜かれた怪異群が悲鳴と共に退いてゆく。
「なに……!」
「今だ……ッ!!」
 リンドー・スミスが戸惑いを見せた――その瞬間、その隙を逃すことなくクラウスは飛び込んでゆく。その手には|電磁警棒《スタンロッド》! 高電圧を纏った打撃を、クラウスはリンドーめがけて振り下ろす!
「ムゥ……ッ!」
 しかしてリンドーは異形化した硬質な腕でその一撃を受け止めた。爆ぜる電光に苦悶の声を漏らすが、しかしてそれも刹那!
「……よくもやってくれる!」
「ぐぶ、っ……!」
 く、は、は。喉奥で嗤う声を鳴らしながら、リンドーは腹に生やした“腕”でもって不意打ち気味にクラウスの胸郭へとカウンター気味に突きの一撃を叩き込んだ。衝撃に襲われた肋骨が軋み、肺腑の奥から空気が搾り出される。
「ふふ、ははは。残念だったな、少年。私の方が一枚上手だったようだ」
 よいところまできていたとも。リンドーはにこやかな笑顔で告げた。
「だがここまでだ」
 リンドーの腹の“隠し腕”が、クラウスの首根っこを掴んで持ち上げた。
「そちらのお嬢さんもその傷ではもはや戦えまい。この勝負、私の――」
「……『戦えまい』?」
 しかして、そのとき。
「そんなワケ……ないじゃ、ないですか、ッ!!」
 吟が、立ち上がった。
 尼僧頭巾を破いてつくった雑な包帯もどきで傷口を強引に縛って止血し、吟は自らの身体に応急処置を施していたのだ。
「ほう……まだ立てるのかね。その傷で」
「こーいうのは、立てるかどうかじゃなくて……『立つ』んですよっ!!」
 克己! 咆哮と共に吟は走り出す!
「ああああああああっ!!」
 身を低くした姿勢! 吟はリンドーめがけてまっすぐに突進した。
「立とうという気概は良いが……愚かなことだ」
 リンドーは嘲りながらその手を前に伸ばした。ぶつかろうと飛び込んできた吟の頭を、がっし、と掴む。
「こんな破れかぶれの体当たりで、私を斃せるとでも――」
「やりますよ。やってみせますとも、っ!!」
「……なに!?」
 しかしてその瞬間、リンドーは激痛と共に吟の頭を掴んだはずの自らの|手首の先が消えている《・・・・・・・・・・》ことに気づいた。
「なん、ッ……だ、これは!?」
「気づきましたか?」
 状況に困惑するリンドーが思わず飛び退いた。
 そのとき、リンドーは聞く。ばり、っ。ごり、っ。――吟の|後頭部《・・・》で鳴る、硬いものを歯で噛み砕く音を。
「貴様……まさか!」
「ええ、はい。お察しの通り……私も、妖ですよ!」
 二口女。
 頭の後ろ側に、『ふたつめの口をもつ』とされる妖怪の一種である。
 吟はわざと相手が自分の頭に触れるように仕向け、そこに隠していた第二の口でリンドーの手を齧り取ったのだ。――悪食であるとされる第二の口であれば、敵の腕を食うなどと言う行いも造作もないことであった。
「敵の身体を、喰う、だと……!」
「そうですよ――これが、|二口女《わたし》の……わたしの戦い方だ!」
 ――ここで、リンドー・スミスがとうとう焦りの色を見せる。
 怪異群は払われた。手首の先を食いちぎられた。追い詰めたとばかり思っていたが、√能力者たちはまたしても体勢を立て直そうとしている。
 端的に言えば、彼は追い込まれていた。EDENの√能力者たちを侮っていたか、とリンドー・スミスは心中で自らを戒めた。ここから形勢を逆転させて任務を果たし祖国へ凱旋するなどという望みはもはや叶うべくもないだろう。
 ならばいま彼がすべきなのは、犠牲を最小限に抑えて戦いを終わらせ、もとの√へと敗走することであった。
「邪魔をしてしまって悪いけど」
「ぬ……ぅ、ッ!!」
 しかして、痛みによってリンドー・スミスの思考は遮られる。
 気づけばその脇腹に、光の刃が突き入れられていたのだ。――クラウスの光刃剣!
「ここまでの事件を起こした以上、無事で帰らせるわけにはいかない」
「く、はは……やはりそうくるか!」
 ――√EDENとは、ほかのあらゆる√よりも豊かで、そして弱い世界である。ゆえに、敵対する侵略的√能力者たちからの攻撃を避けるためにどのような手段でも使わざるを得ないのだ。たとえば――『EDENを襲った者は、必ず返り討ちに遭って死す』という|評判《ウワサ》も、そうした手のひとつである。
 だが、その評判を広げるためにはここで襲撃者を取り逃すわけにはいかない。クラウスと吟はリンドーを睨んだ。
 リンドーは強引に傷口から刃を抜くと、二人との間合いを図りなおすようにいくらか離れた位置へと逃れ、そして身構えた。
「それならば……諸君らの思惑にわざわざ乗ってやるのも少々癪でね。強引にでもこの場からは逃れさせていただくとしよう!」
 そうして、リンドーは二人から逃れるべく暗い廊下の奥をめがけて走り出していった。
「あ、待ちなさい!」
「追うよ!」
 二人は一度顔を見合わせて頷きあうと、痛む身体を引きずりながらもリンドーを追って進んでゆく。

 ――ここから先は追撃戦だ。リンドー・スミスを逃さぬため、√能力者たちは闇の中を駆ける!
🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​ 成功

米満・満代
【WIZ】で勝負!
心情
ご自身や連邦怪異収容局の他のエージェントを餌にすればリサイクルできるでしょうに。
というか殺した所で蘇生するんですよね……やる気が無くなるぐらい、嫌がらせに徹してみましょうか。

戦闘
【必殺技モード】を使用。
処刑用BGMを|語り《歌い》、結界空間を形成します。

連撃
【都市伝説『フライングビキニアーマー』】を使用。
「敵との融合」(必中)を指示し、リンドー・スミスのスーツを破ってビキニアーマーを融合装着させ、行動力の低下を図りつつあることないこと語って脅迫し、【恐怖を与え】ます。
「胴体は変異しない……つまり、ビキニアーマーを着ることができますね」
「ビキニアーマーを着せてくる相手と戦うのは初めてですか?ふふ、お可愛らしい」
「とりあえず写真を撮りますね。(スマホでパシャパシャ)」
「計画を中止して頂けない様でしたら、√汎神解剖機関のネットにバラ撒きます」
「イケオジのあられもない姿です。きっと人気者になりますよ」
「MAD動画なども作られるかもしれません」

連携・アドリブなどお任せします。
柳檀峰・祇雅乃
【血反吐】
問答の時間はさっき過ぎ去ったので、ここからは野蛮な手段に訴えましょ。
ええ、子供をターゲットにするような品性下劣な人は、どうにも想像力や理解力ってものに欠けるようだから。
そんな気が起きなくなるよう納得してもらうには、原始的な方法しか有効じゃないみたいだわ。

最初に雷霆付与を使って全身に雷を纏うわ!
これで普段よりずっと素早く動けるし、電気属性を帯びた格闘は防御を貫通するわ!
そういう訳なので、あとはささっと近づいて、色んなやり方でボコボコにしましょ!
そちらの怪異も相当に痛そうだけど、痛いことに耐えるのは結構得意なのよ、私。
そちらはどうかしら?どれくらいで堪えきれなくなってくれるかしら?

「――ふふ、ふ」
「……」
「リンドー・スミス……。……√汎神解剖機関の、√能力者」
 月も隠れる昏い夜の下。
 米満・満代(h00060)と柳檀峰・祇雅乃(h00217)は、リンドー・スミスに対峙した。
「やれやれ、EDENの√能力者は皆|こう《・・》なのかね? 随分痛めつけられてしまったよ」
 リンドー・スミスは、薄っすらと笑みを浮かべながら二人の前で肩を竦める。
 その姿は既に満身創痍と言っていい。幾度となく√能力者たちとの交錯を繰り返した末に、その身体には無数の傷が刻まれていた。
 ――だが、死んでいない。
「さて――諸君。私は君たちの力に実に感服した。|この件《・・・》からは手を引くと約束しよう」
 リンドー・スミスは、困ったように笑いながら『だからここから帰らせてくれるかね』と、二人に問いかけた。
「ここでお帰り頂いたとして、また別の場所で別の企てをされるんでしょう?」
 満代はむっとして眉根に皺を寄せながらリンドー・スミスを睨んだ。
「ははは」
「……わざわざ|この世界《√EDEN》に出向かずとも、ご自身や連邦怪異収容局の他のエージェントを餌にすればリサイクルできるでしょうに」
 ――Ankerが相手でさえなければ、√能力者に死が訪れることはない。たとえ死しても超常の力によってどこかしらに復帰するのだ。
 ならば、怪異どもの餌になど自分たちがなればいいのに。満代は不快感を隠しもせず告げる。
「それがねぇ、ダメなのだよ。――我々は|どうせ生き返る《・・・・・・・・》などと考えてしまうから、奴らの喰いたい味にならないのだ」
「……味?」
「恐怖という情動だよ」
「……!」
 満代の眉間に、皺が深まる。
「ゆえに、我々は常に必要としているのだ。|贄《えさ》となる生命を――」
「ああ、うん。もういいわ」
 ――ここで、祇雅乃がリンドー・スミスの言葉を遮った。
「ほう?」
「問答はもう結構。オハナシの時間はもうとっくに終わってるわ」
 言いながら、祇雅乃はゆっくりとリンドー・スミスに向かって歩き出した。
「ええ、ええ。子供をターゲットにするような品性下劣な人は、どうにも想像力や理解力ってものに欠けるようだから……|野蛮な手段《・・・・・》でわかってもらうしかないわよね」
 リンドー・スミスへと歩み寄る祇雅乃の双眸には――激しい怒りの色が燃え上がっている。
「……ほう?」
 面白がるように、リンドー・スミスが嗤った。
「では、どうするというのかな?」
「ええ」
 ぎゅ、っ。
 祇雅乃の拳に、力が籠もる。
 そして。
「あなたに納得してもらうために――|原始的な方法《・・・・・・》で|説得《・・》するわ」
 祇雅乃は、笑んだ。

 瞬間。
「雷霆」
 閃光。――光が、祇雅乃の身体を包んだ。
 ――雷霆付与。稲妻をその身に纏う、祇雅乃の魔術のひとつである。
 ばぢ、っ。――爆ぜる雷。明滅する光! 纏った電光の力が祇雅乃の背を押した。稲妻めいた加速から、瞬き一つにも満たぬ時間で祇雅乃はリンドーとの間合いを詰める! 疾る光! 撃ち出す電光拳!
「ほう……!」
 対しリンドー・スミスはその身体を異形のかたちへと既に作り変えていた。身の内に宿し隷属させた怪異の力を引き出し、甲殻類のそれに似た装甲をリンドーは纏ったのだ。防御態勢! 祇雅乃の拳をリンドーは受け止める!
「なるほど、実に猛々しい!」
 しかしてリンドーは笑いながら身体を押し込んだ。前進する勢いでもって祇雅乃を押しのけ、それと同時に身体に生やした胴からの“隠し腕”を祇雅乃の腹めがけて突き出す。打突! 衝撃を真正面から叩きつけられ、祇雅乃の臓腑が激しくかき回された。
「が、っ、フ……!」
「フム――だが、戦闘経験はこちらの方が上のようだな!」
 追撃! 鋭い蹴り足が祇雅乃に叩きつけられた。昆虫類のそれに似て棘を備えた強靭なその脚が祇雅乃の身体へと打ち込まれ、衝撃とともに吹き飛ばされる。木造校舎の壁に背中から突っ込まされて、祇雅乃は肺腑の奥から空気を絞り出した。
「強い……!」
 その始終を見て、満代は息を呑む。
(ですが、負けるわけにはいきません……!)
 満代は考えた。
 ――拳や剣を交える直接戦闘の場において、満代は半ば足手まといとすら言える。彼女の得手とする分野は、術による絡め手の類がそのおおよそを占めるからだ。戦闘巧者であるリンドー・スミスに真正面から挑みかかれば、彼女に勝算はないだろう。
(ならば……!)
 ここで満代は考えた。
(……わかりました!)
 そして、閃きに至る。
(ここで斃したとて、私たちとおなじ√能力者である以上は必ずどこかで蘇生し、またこの世界に侵略を仕掛けてくる……なら、むしろ攻めるべきは肉体よりも精神の方!!)
 慧眼、と満代は自分の発想を自賛した。
(ならば……二度とここに来る気が起きなくなるくらい、嫌がらせをしてみるというのは!)
 そうして、満代はすぐさま行動へと移る。
「……おや。なにか策でも?」
 リンドー・スミスは、笑顔とともに満代を睨んだ。
「ええ、はい……! ここは、この手を使わせていただきます!!」
 その瞬間である。
「おいでませっ!! フライングビキニアーマー!!」
「……なに?」
 満代は、扉を開いた。
 虚空より現れるのはビキニアーマー――胸元と局部のみを隠す、防具としての体裁を成さぬ奇怪な装備品。√ドラゴンファンタジーでは一般的な装備とされているが――人によっては、それを辱めであると感じる者もいるという。
「では召していただきましょう! このフライングビキニアーマーを!」
 呼び込んだフライングビキニアーマーへ満代は行きなさいと指示を飛ばす。――指令を受けたフライングビキニアーマーは、その指示の通りにリンドー・スミスの身体へとまとわった。
「……なんだね、これは?」
 リンドー・スミスが眉を顰める。
「ふふ……ビキニアーマーを着せてくる相手と戦うのは初めてですか?」
 その様相を見て、満代は微笑んだ。さあ写真にして記録に残しましょう、と素早くカメラを瓶にかかる。
 対し。
「――それで?」
 リンドー・スミスは、冷ややかに返した。
「よもや、こんなことで私が辱めを受けたと生娘のように恥じらい泣き叫ぶとでも思っていたのか?」
「む……!」
 カメラを構えながら、リンドー・スミスの塩対応に満代は一歩下がる。
「……これ以上、EDENに侵略をつづけるつもりでしたら……この写真を√汎神解剖機関のネットにバラ撒きます」
「そんな安い脅しで私が揺らぐとでも?」
 ――リンドー・スミスは、対峙しただけで精神を喰らいつくしてしまうような、いわゆる“邪神”などと呼ばれる類の怪異とも数多く遭遇し、その多くをその身に|収容《おさ》めた汎神解剖機関世界でも屈指のエージェントだ。
 その精神を打ち崩すのは、容易なことではない。
「……いいんですか、本当に。イケオジのあられもない姿です。きっと人気者になりますよ」
「ふざけているのか?」
 リンドー・スミスが満代を睨む。
「MAD動画なども作られるかもしれません」
「ひとつ言っておこう、お嬢さん」
 ぎ、っ。――軋む床板を踏みしめ、リンドー・スミスが満代へと一歩近寄る。
「いくら敵であろうとも、他人を嘲弄して面白がろうなどという心持ちで、安易な“おあそび”をしに来るのは止したまえ。君の品性が疑われる」
「む……!」
 満代のこめかみに、じわ、と汗が浮かんだ。
 ――想定していたよりも、敵の精神は強固だ。|こっちの方向性《・・・・・・・》でへし折りにいくのは容易ではなかったらしい。
「でしたら……っ!」
 ここで満代は一瞬だけちらとどこかに視線を遣って――そうしながら、一台の拡声器を掲げた。同時に胸元から引っ張り出したスマートフォンに小型のスピーカーを接続しながら端末操作。激しく疾走感あるメロディの音源がイントロを奏で出す!
「今度はどうするつもりかね?」
「どうって、それは…………!」
 冷ややかな眼差しで見下ろすリンドー・スミスの顔を睨み返し、満代は力強く叫ぶ。
「勝ちに行くんですよ、本気でっ!!」
 そして、満代はメロディに乗せて|咆哮《シャウト》した。
 |咆哮《シャウト》。|咆哮《シャウト》! |咆哮《シャウト》|咆哮《シャウト》|咆哮《シャウト》! 満代が唄いはじめたのは、週末の朝に子供たちが齧り付いて観るテレビの中のヒーローの歌――それも、邪悪を打ち倒すそのときに奏でられる、必殺の歌だ!
「なるほど。歌で気分を盛り上げて私に対抗しようと――くく、は! 涙ぐましい努力じゃないか。ははは。けなげが過ぎて泣けてくるね」
 リンドー・スミスは、嘲るように嗤った。
「では、その身に教え込むとしよう。君と私の、格の違いというものを――」
 そのときである。
「ねえ、ちょっと。――盛り上がってるとこ、悪いんだけどね?」
「……なに?」
「いい加減にしなさい」
 ごギ、っ――骨格にひびが入る音が鈍く鳴った。
「ぬ、ゥ……!?」
 リンドー・スミスが頬骨を抑えて後退する。――|ブン殴られた《・・・・・・》のだ。その顔面を。拳骨で!
「さっきのあなたの言葉、そっくりそのまま返させてもらうわね――『人をナめてると痛い目見るわよ』っ!!」
「が、ゴ、ッ……!!」
 もう一発! 迸る電光とともに、祇雅乃がリンドー・スミスの顔面をめがけて拳を撃ち出した。脳天を打ち抜かれて、リンドー・スミスは苦悶の呻き声を漏らす。
「品性、疑われちゃうものね!」
「がアアッ!!」
 叩き込む追撃の拳! もっとも原始的でかつもっとも野蛮な対話の手段――シンプルな暴力が、リンドーへと向けられたのだ。
「……んっ。なんだかいつもより私の動きに切れがあるわね……あ、ひょっとして何かしてくれてる?」
「あっ、はい。歌を……」
 祇雅乃は満代の奏でた|勇壮な楽曲《ヒーローのテーマソング》に、その背中を強く押されていたのだ。全身にみなぎる力が、祇雅乃の戦闘出力を超常的な領域まで届くほどに膨れ上がらせている。
 更に――満代の奏でるその曲は、間もなくもっとも印象深く残る|番組内の戦闘中でBGMとして多用される《俗に言う『処刑用BGM』などと言われることもある》パートに差し掛かろうとしていた。
「いいわね、いいわね! うんうん、ヒーローソングは血が沸き立ってくるわ!」
 サビに入ったメロディに歓喜の声をあげながら、祇雅乃は構えた。
「そういうわけで……ええ、ええ! 処刑用BGMつきとは至れり尽くせりね! それじゃ、ここはバシッと決めさせてもらうわよ!」
「ヌ、ゥ……!」
 つい先ほど脳天と顔面に叩き込まれた衝撃で苦悶したままリンドー・スミスへと祇雅乃はもう一度歩み寄り――そして、握った拳を掲げ上げた。
「リンドー・スミス! 今日のところはおうちに帰って頭を冷やしておいでなさいっ!!」
 閃光。――電光を纏う拳が、リンドー・スミスと彼のもたらした闇を薙ぎ払うように激しく輝く。
「はあああああああああっ!!」
「ム、ゥ……オオオオオオオオオオ、ッ!!!」
 光が、爆ぜた。
 満代の奏でた歌の√能力によってその力を増幅された祇雅乃の拳は、その見事な一撃でもって此度の戦いの根源であった黒幕・リンドー・スミスを打倒することとなる。
 かくして。
「……やった?」
「はい……やったみたいですね!」
 その中で、敵の姿と気配を警戒しながら満代と祇雅乃が頷き合った。
「それじゃ……最後のお説教、しに行くとしましょうか?」
「お説教ですか……わかりました。私もいっしょに行きます」
 そうしてから、祇雅乃と満代はこの事件の発端の一つであるところの『雲津小学校オカルトたんけんたい』の子供たちとの面会と――ついでに、あらめて夜間外出の件に関してのお説教をするために、校舎の外で待つ子供たちのもとへと向かって歩き出してゆく。

 こうして、√能力者たちはリンドー・スミスの企てた作戦を完膚なきまでに打ち砕き、リンドー本人にも大きなダメージを与えたのである。
 邪悪な企みを為した侵略的√能力者はここでの侵略活動を諦めてか舞台を去り、一方、残る√能力者事件の収束と同時に√能力者たちもまた√EDENを護る次なる戦いのため新た
な戦いの場へと向かって飛び立ってゆく。

 廃校舎には、ただ静寂だけが残ったのであった。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​ 成功

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