シナリオ

夢見曙光なれど、道程は霧中なり

#√マスクド・ヒーロー #シデレウスカード #3章、断章投稿しました。

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 #√マスクド・ヒーロー
 #シデレウスカード
 #3章、断章投稿しました。

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 少年は不幸であった。
 少なくとも、自分がツイてると思ったことはなく、限りなく普遍的、慢性的で、そしてひどく曖昧な、なんとなく不幸だと思っていた。
 なにせ、少年には、特別な力などない。
 悪の組織の存在が仄めかされる世の中に、安全とは言い難い夜の街のうらぶれた闇に身を隠し、孤独を紛らわせる日々。
 パパの顔は知らない。
 ママは似ていると言う。
 人より上背があるわけでもなければ、鍛えているわけでもない、ふくよかでも隆々でもない身体をごまかすようにダボっととしたハーフパンツにパーカーを着込んで、嫌われ者に目を付けられないようフードを深くかぶり、背を丸めて物陰にギリギリ居ますよという具合に街に溶け込んでいれば、一人ではないと思い込めていた。
 そこにどうしようもない空虚があるのを見ないふりをしながら、付き合いの浅い同年代の若者たちと会話とも言えぬようなやり取り。
 それすらも過ぎ去って、何をするでもなく、深夜の時間感覚もわからなくなる頃を、ぼんやりと巨大モニターの広告の明かりの前で過ごす。
 それに見入っているわけではない。
 ただ、ぎらつくモニターの目に痛いほどの明かりの落とす影が、自分の存在を認めているような気がして、暗い中でも、孤独の中でも、街の中に一人という価値観を見出していた。
 だがしかし、どうしようもなく、心の中の虚空が、己自身を問うてくるときはある。
 自分は何者なのか。何になれるというのか。
 ちかちかと目に眩しい広告を流すモニターが、悪の組織に敢然と立ち向かうヒーローを讃える。
「……いいよなぁ、力を持ってる奴らはさ」
 幼い日に憧れたその姿の幻影を、少年は不意に思い出していた。
 ぽつりと漏れた言葉は、少年の憧れと、そして暗い青春とも呼べぬ現状がどろりとした感情と共に発露したに過ぎない。
 何も知らぬ、何も成しえぬ、少年の身の上は、現状、何も背負うものがない。
 その言葉は、自分でもわかるほどの軽薄な、軽口であった。
 わかっているさ。力を持っている奴は、同じくらい、重々しいものを背負わなくちゃいけない。
 好奇という有毒の光を浴びてなお、ヒーローであり続けるのは、きっと並大抵のことではない。
 それでも、少年は、憧れに手を伸ばさずにはいられなかった。
 ふと気づけば、足元には、見慣れないカードがあった。
 いつからあったのだろう。
 拾い上げるそのカードには、星空を背景に屈強な甲冑のような甲殻。そして、その背に赤い星を背負った蠍が描かれていた。
 訝しむ少年の足元には、わざわざ目に付くよう仕組んだかのようにもう一枚カードが飛んでくる。
『拾いたまえ』
 それを手にしようと身をかがめたとき、ふと声がして見上げるような姿勢を取ると、恐ろしい怪物が目の前にいた。
「うわぁ!? か、怪人!?」
 尻もちをついた拍子に、拾いかけた二枚のカードが散らばる。
『ならば、なんとする? 拾いたまえ。そのカードを』
「な、なん、なんだって!?」
 今にも少年を食い殺さんと威圧してくる、獣のような鳥のような異形の四足獣は、その硬質なクチバシめいた口元の端をにやりとつりあげる。
 得体のしれない恐怖から思わず眼を逸らすと、転んだ手元の近くに散らばった二枚のカードが再び目に入る。
 さそり座と、そして、暗闇に溶け込むような黒装束に鋭い眼光の人物が描かれたカードは、おおよそそうは見えないにも拘らず、一目でそれを『英雄』と認識した。
「服部半蔵……」
『応とも。そのカードの名を呼ぶならば、──汝が成るのだ。地獄の君主、その一柱たる我が認めよう。さあ、汝の憧れのままに、成るのだ。拾いたまえ』
 恐ろしい怪人の促されるままに、少年はそのカードたちを拾い、手元にそろえた瞬間、それは黒い輝きを放つ。
「う、うわああっ!?」

「うーす、こんちはー。クレープ屋『STRANDED』の古郷ですー。毎度どうもー」
 どこかの世界、どこかの場所に、馴れ馴れしい声とともにやって来る。
 スイカのメットの星詠み、そしてクレープ屋台の、古郷エルが√能力者たちのよく入るような場所に訪れる時は、決まって厄介ごとが持ち込まれるのだ。
 いずれは世界の崩壊につながりかねない事件の気配を読む星詠みの話を、同じく世界の綻びを知覚できる√能力者たちは、仕方ねぇなとばかり耳を傾けるか、とにかく店員の態度が気に食わないと言わんばかり我関せずとする。
「えーと、今回はねぇ、皆さん『シデレウスカード』って知ってるかい? 12星座と英雄のセットになると、厄介な事件を引き起こすパワーを秘めてるんだけどさ。
 ヒーロー関係に詳しい人たちなら、その片鱗くらいは知ってるんじゃない?」
 どこから取り出したのか、タロットの星と戦車のカードを手に、ぱたんとそれを一まとめに、くるりとひっくり返すと、それは一枚となって皇帝を示すカードに変化するマジックを披露する。
「ま、とにかく、今回はそれを√能力者でもない一般人にばら撒いたクソ戯けの話さ。
 レオペルセウスだの、すんごい力を秘めてるのを知ってる人なら、そいつが√能力者でもなきゃ、制御できないものだってのはわかるよねぇ。
 制御できないとどうなるって? 怪人シデレウスになっちゃうのさ。完璧にそうなっちゃったら、片を付けなきゃいけなくなるよね。
 でも、今回は、あたしらが先手を取れた。まあ、ホントに先手を取れてたら、そのカードが人の手に渡る事を阻止できたんだろうけどさ。まあ、その辺はご愛敬ってことでさ」
 くるくると立てた指の上で翻るたびに死神、愚者、恋人と絵柄を変えていくタロットを掴むと、傍目には裏目で見えなくなる。
「今回、みんなにまず頼みたいのは、怪人シデレウスとなりつつある一般人少年の特定と確保。
 既にとある町の、シャッター街がさ。毒ガス騒ぎなんて起こってるのさ。
 幸いにも住んでる人は少ない場所だし、夜中で人も出歩くような時間じゃないからってんで人の被害が少なそうだけど、それでもゼロじゃない」
 さそり座の服部半蔵──、『スコピオ半蔵』の力による毒霧事件を引き起こした一般人少年は、その制御もままならず、裏町を飛び回っている。
 その動き、正にましらの如し。
 彼を追跡し、その正体を探りつつ、まずは救助活動。
 そして彼を見つけたなら、その排除を行わなければならない。
「なりかけの怪人なんて、それほど苦戦する相手じゃないでしょ?
 まあ、状況によっちゃ、助けることもできるかもね。変身ヒーローの扱いなら、得意な人も居るんじゃない?
 で、それが終わったら、本命さ。こんな事をしでかしたクソ戯けを、とっちめてやんなきゃねぇ」
 くるりと表にしたタロットの絵柄は悪魔。それをさらに指ではじくと、次の瞬間には、それは一杯のチョコレートシェイクになっていた。
 話は終わったとばかり、ストローでずるずるとチョコレートシェイクを啜りつつ、エルは√能力者を現場へと導く準備を始めるのだった。

マスターより

みろりじ
 どうもこんばんは。流浪の文章書き、みろりじと申します。
 シデレウスカードのエピソードとなっております。
 本作に於いては、分岐のないお話となっておりますが、実はシナリオフレーム的には分岐があったりするようですよ。
 ただ、このシリーズを手掛けるは、私としては初めてなので、つまりまぁ、そういうことです。
 以前の予兆にあったように、『ドロッサス・タウラス』に連なるシナリオではありますが、まだそこには辿り着けないようになっております。
 第一章は、毒ガス事件の起こっているシャッター街の救助作業及び、シデレウス化したスコピオ半蔵の追跡となっております。
 第二章は、シデレウスと化した民間人との対決です。その時に断章などで、解説が入ると思います。
 第三章は、彼をそそのかし、カードを提供した怪人との対決です。彼の者に、ドロッサス・タウラスのことを尋ねてみてもいいかもしれません。
 毎度の如くプレイング受付期間などは設けず、オープニング公開からいつでも受け付けております。
 幕間でちょっとした開設は入るかもですが、別にそれを待つ必要はないです。
 それでは、皆さんと一緒に楽しいリプレイを作ってまいりましょう。
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第1章 冒険 『危険物質の広がりを止めろ!』


POW 身をもって防いだり、市民の避難誘導をする
SPD 散布や浸透を防いだり、犯人の元へ急ぐ
WIZ 危険物質の毒性や効果を変性させる
√マスクド・ヒーロー 普通7 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

クラウス・イーザリー
(犯人を追いかけたいけど、まずは救助が優先かな……)
毒ガスの影響を受けている人を放置する訳にはいかない

レギオンスウォームでレギオンを飛ばし、センサーで要救助者の居場所を確認
場所が分かったらゴーグルとガスマスクを着用し、バイクを飛ばして要救助者のところに向かって毒ガスの範囲外に運び出す
応急処置が必要なら対応して、念のため救急に通報して病院に搬送して貰おうか

余裕があればレギオンでの捜索中に犯人も探す
犯人を発見して、近くに要救助者がもう居ない状態なら追跡
……ただの少年がこんな力をもってしまうなんて、カードの力は厄介だな
原状、少年は加害者だけど被害者でもある
彼のことも、しっかり助けたいな

 どことなく落ち着く、それは乾いた閑散であった。
 昼も夜も、人の寄り付くことのなくなったシャッター街を中心としたうらぶれた街並みは、薄暗い明かりの落ちる屋根付きのアーケードをよく見渡せる。
 間口を広げている地点には、いくつかの警察車両とトラテープ。
 そして現場の周囲にうっすらと靄がかったようなツンとくるニオイ。
 生ごみや料理店の裏道のような脂の臭いとも違う、それは喉の奥をひりひりとさせる刺激的な臭気。
 周囲に漏れるだけでこれほどのものなのだから、その毒の霧のもっと濃いであろう内部は、もっとひどいことになっているのだろう。
 咳き込む観衆と、そしてやつれた様子で警官や救急隊員に連れられる住人達。
 ガスマスクをつけている者たちはまだしも、布を顔に撒いて目を充血させる者たちは、いずれも顔色が悪い。
 いやむしろ、その程度で済んでいるのだから、救急隊も死に物狂いの様相ではないのだろう。
 どうやら毒の霧は、致死性が高いわけではないのか。
 クラウス・イーザリー(希望を忘れた兵士・h05015)は、冷静に現場の状況を分析しつつ、ほっと内心で胸をなでおろしつつも、住人はたまったものではないだろうと気を引き締める。
 使い古しのゴーグルとガスマスクを着用し、表向きの入り口を避けてアーケードのわき道からバイクで乗り付ける。
「あ、ちょっと君! ここは今、ガス漏れが……」
 封鎖状態の現場を担当していたと思われる警察官に引き留められる声が一瞬にして後ろへ去っていく。
 気の毒ではあるが、今は一刻を争う。
 侵入する前に【レギオンスウォーム】で無数に放っていた小型無人兵器レギオンにより、この辺りのアーケードの地形及び、生存者……要救助者の特定はある程度済んでいる。
 車輛があまり乗り付けないような通りを滑走していると妙な高揚感があるが、もくもくと煙の漂う中ではそんな気分も盛り上がったりはしない。
 そして屋根の切れ間、電気店の並ぶ曲がり角には、予知の中であったような大きなモニターが視界の上に見えるポイントがあった。
 その光源を思わず目で追った際に、ちらりと人影のようなものが見えた気がした。
 この深夜帯に、人ならざる身のこなし。それは、探している相手かもしれない。
 気が逸る気持ちが湧き上がるも、ここでハンドルを切ってアクセルを離し、ブレーキを踏んでしまえば、一分一秒が無駄になってしまう。
(犯人を追いかけたいけど、まずは救助が優先かな……)
 念のため、マーカーをつけて手がかりの候補としてレギオンに追わせながら、救助者のもとへとバイクを走らせる。
 古びた店舗の、二階に住居を設ける老夫婦に簡易的なマスクを作って顔を覆い、ちょっと無理をして中型バイクに乗っけて、大急ぎでアーケードの外まで運び出す。
「こちらの夫婦を、搬送して! まだ、要救助者がいる」
「え、あ、君はさっきのライダー! ううむ……わかった! 君も無理をするな」
 押し付けるようにして救急隊員や警察官に救助者を引き渡し、有無を言わせずに再び毒煙の中へとバイクを走らせていく。
 その手際と、場慣れした雰囲気から、現場の人間は判断が早い。
 どうやら、こういったヒーローに近い様な行動には、彼らにも覚えがあるのだろう。
 話が早くて助かる。
 そうして、いくらか救助を繰り返すクラウスは、その道中で雑居ビルのような建物の屋上にまで外階段から一気に駆け上がった。
 なんでこんなところに人が残っているのか疑問であったが、誰でも簡単に入り込めるような緩い鉄柵くらいしかない外階段と、雨風を凌げそうな誰もいない建物は、格好のたまり場だ。
 そこに、顔色悪くうずくまる少年の姿を見て、マスクの奥で嘆息するクラウスは、ふとレギオンの探知に気付く。
『ウ、グググ……』
 すぐ後ろ、アーケードの屋根を伝うようにして、重力などそこに無いかのようにして佇むのは、不穏な黒いオーラめいた装束を夜風に揺らす人影であった。
 黒い頭巾を固定する襟巻は異様に長く、まるで針金を入れたかのように折れ曲がり、さながらに蠍の尻尾の様に反り上がり、襟元を固定する留め金は、星座の赤い星を担っているかのように暗闇の中で十字に光っていた。
『なかなかの手際……なれど、邪魔立てはさせぬ……ウギギ、寝ておれ、小童!』
『ウ、ググ、こ、こんなはずじゃあ、こんなこと……』
 一人で誰かと会話しているかのように、ごきごきと首を鳴らす黒い忍者は、どうやら自身の制御がきかないらしい。
 今が彼を止めるチャンスではないか。
 クラウスは両足に力を込めようとするが、自身の肩にかかる重みは、今は自分だけではない。
 一瞬の迷い。それは、半蔵の名を借りる怪人の逃げ出すには十分な時間であった。
「くっ……ただの子供が、あんな力をもってしまうなんて。厄介だな、シデレウスカード……」
 歯噛みするも、レギオンはちゃんと撤退したニンジャを追跡できている。
 その追跡も、いつまで可能かわからない。
 だが、目の前の救助者を放ってまで全力で追いかける選択はできない。
 飛び降りる勢いで、クラウスは少年を運び、バイクを突っ走らせる。
 加害者であり、被害者でもあるあの少年。その気配は、到底見過ごせるものではない。
 彼の事も、助けねば。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

雪月・らぴか
おおお、まだまだシデレウスカードばら撒かれてるんだね!熱心に怪人作るよね!めっちゃ迷惑!しかも毒ガスって結構やばそうじゃん!こりゃササッと突き止めてぶっ倒さないとね!

先に救助作業するよ!
暗そうだから[霊視片鏡エクトモノクル]の暗視機能作動させて、ガスが散ること期待して[霊雪心気らぴかれいき]を飛ばしながら現場に突撃!ガス吸った被害者を見つけたら【艶女招霊スノービューティー】で呼んだお姉さんに回復技やってもらいつつ、安全そうな場所まで運ぶよ!回復してしゃべれそうになったら、被害者にガスを吸った時の状況とか聞いてみよう!誰か見たとか聞けないかなー?

 いつもは閑散としたシャッター街。
 深夜帯ともなれば、それは尚更に。
 けれども、今日は赤いランプがちらちらと、それに連動するようにサイレンが響く。
 仄暗い屋根付きアーケードには、身体に悪そうな煙が充満していて、とても尋常な事態ではないようだ。
 マスクドヒーローの世界で巻き起こる珍事の裏には、秘密の組織が関係しているという。
 怪人、それも予知を齎したあのスイカメットの女の子の情報によれば、シデレウスカードというではないか。
「おおお、まだまだシデレウスカードばら撒かれてるんだね! 熱心に怪人作るよね! めっちゃ迷惑!」
 手っ取り早く、表の喧騒をよそに、アーケードのさびれた街並みへと足を踏み入れるのは、雪月・らぴか(霊術闘士らぴか・h00312)。
 明るく元気な笑みを常に絶やさない童顔と、ちょっとアンバランスにも見える上背とグラマラスなボディが特徴の少女の姿は、ややうらぶれた街並みにはちょっと派手派手でノリが軽く、充満する死の香りも吹き飛ばさん勢いだったが、
 しかしながら、気持ちだけでは忍者の毒霧を払うまではいかない。
「げっほげほっ……しかも毒ガスって結構やばそうじゃん! こりゃササッと突き止めてぶっ倒さないとね!」
 喉がピリピリとする煙を吸い込んでしまい、思わずせき込んでしまうが、目端に涙を溜めつつ負けてたまるかと、霧を突っ切る様にアーケードを駆ける。
 タイル張りの屋根付きアーケードは、走っていると気持ちがいいが、空気が最悪である。
 おまけに夜中で最低限の明かりがちかちかと仄暗い。
 今にも怪しい怨霊の一つでも出てきそうなヤバげな雰囲気に、内心ではビビる気持ちがぬぐえぬものの、載霊禍祓士であるからには恐れたままでもいられまい。
 もともと怖いもの見たさでホラーは嫌いではないため、格安事故物件に暮らしていても割と平気だし、思えばそういう根底に図太い神経を持っているからこそ得た√能力であるかもしれないのだ。
 大丈夫、ちょっとやそっとじゃ、本気の悲鳴をあげたりなんかしない。
 でもやっぱり視界が悪いので、『霊視片鏡エクトモノクル』をでゅわっと装着。
 これで多少霧が濃くとも、視界は確保できるはずだ。
 とにかく急いで、助けられそうな人を安全圏まで運ばなくては。
「へぁあ……うぅえ……」
 そうしてアーケード内を駆けずり回るらぴかは、裏道に逃げ込む途中みたいな感じで倒れ込む男性を見つけ、抱え上げて肩を担いで、引きずるようにして運ぶ。
 毒霧はどうやら死に至るほどの凶悪なものではないようだが、急激に吸い込んでしまうと昏倒くらいはしてしまうらしい。
 それと、刺激臭であった。
 そう、これはまるで、忍者の使うような目潰しや煙玉めいたものを感じる。
 豆知識としては、忍者の使っていた目潰しは、卵の殻の中に灰やトウガラシの粉、砂利などを詰め込んで糊付けしたものを投げつけたり振りかけたりして使ったらしい。
 男性を運搬しながら、らぴかが声ならぬ情けない鳴き声をあげてしまったのは、刺激的な煙の中で活動し続けた結果、喉や鼻水がひどい有様だったからである。
 これでも、身体から湧き出る『霊雪心気らぴかれいき』による霊気と冷気で毒霧の侵入を阻み、進行ルート上を払っていたりしたのだが、うっかり吸い込んでしまうと、喉や鼻がむずむずして止まらなかった。
「おのれ、許せないな! 忍者!」
 ようやく息ができる感じの安全圏まで運び出すと、ポケットティッシュで盛大に鼻をかみ、目がしぱしぱするのをこらえつつ、男性の安否を確認する。
 昏倒していたため、ガスの吸引の心配は無いと判断して運搬を優先したが、ずっと気を失ったままというのは、それはそれで危険である。
 【艶女招霊スノービューティー】を発現させ、クールビューティー雪女さんを召喚すると、その優しく冷たい抱擁で気つけを行う。
「う、うう……きもちい……ハッ、ここは!? なんか、変な煙から逃げてた筈……!?」
 長く伸びたガサガサのプリン頭に緩い服装の男性、古い言葉いわゆるチーマーっぽい外れ者めいた男性がその厳つい目つきに理性の輝きを取り戻すと、取り乱した様子だったが、美人の雪女さんによる膝枕からの抱擁にすぐさま安堵の面持ちになる。
 だが、ずっといい気持ちでいられている時ではない。
「ねね、いい気分なとこ悪いんだけど! ちょっと、話聞けるー? 倒れる前に、誰か見かけたりとか、してないかな?」
「あー、あい? う、そ、そういえば……煙が充満する前に、アーケードの屋根に、黒いやつがいたっけな……胸に赤い星みてぇなのをつけた……ありゃ、なんだ、ニンジャかな?」
「! どっち言ったかわかる?」
「えーと、姐さん、ちょっと待ってな。アーケードがこう、あるだろぉ?」
 手掛かりになりそうな情報を聞き出せそうになって、らぴかは身を乗り出す。
 どうやらなかなか紳士らしいチーマーの兄ちゃんは、律儀にぎゅーっとしたままの雪女さんをそっと優しく引き剥がし、わかりやすくジモティーらしい説明をするのであった。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

矢筒・環
ハクくん(h02730)と

江戸城半蔵門の名の由来にもなった『服部半蔵正成』ですか。確かに、英雄に相応しい。
ですが、その力を何の覚悟もない子供が渡されて、どうにか出来るはずもないです。
蠍になってしまった子供も含め、この事件で犠牲者は出させませんよ。いいですね、ハクくん?

倒れている人、壊された店舗。そうしたものを忘れようとする力で再生させていきます。
時間が惜しい。回復するまで見届けず、人的物的被害が出ている場所を巡って、次々に忘れようとする力を使用していきます。

蠍半蔵は、ハクくんが追っていてくれますよね?
被害場所があれば呼んでください。すぐに駆けつけます。
「根性」を振り絞って、そこへ行きますから。
櫻井・ハク
矢筒・環 (h01000)お姉ちゃんと一緒に
「・・・渡されただけじゃ使いこなせないよね」
人に寄るけど変身にはいろいろ必要だよ
プリズマティック・キャット憑依合体して追跡(幻想的な光を纏った猫耳パーカーと鋭い爪が出現)
「・・・環お姉ちゃんが治してくれるならボクは追いかけるね」
上がった身体能力やダッシュで蠍半蔵を追いかけるよ
足止めに衝撃波や誘導弾、相手の毒霧はオーラ防御で対処
途中で被害場所があれば環お姉ちゃんに連絡
「・・・力に振り回されてるね、あれじゃ制御も難しいかな」
最終的には逃げられない場所に追い詰めたいね
戦闘が始まればできるだけ大きな音を立てて戦闘かな(他の√能力者に知らせる意味も込めて)

 咳き込む町。病んだ通り。騒然と閑散と、なんと忙しい夜中だろうか。
 暗い通りにはくすんだ煙が漂い、薄暗い蛍光灯がほのかに照らす人通りのないシャッター街アーケードには、屋根がかかっているためか煙がこもりやすいのだろう。
 そう、それは毒ガス、いや目に見えるそれは毒の煙……忍者の用いる毒霧だ。
「けふっ……これはひどいですね」
 見上げる景色は、まるで火事場であった。
 警察車両や救急隊員などが人払いと救助活動に出張っているお陰で被害は軽減されているようだが、それでもまだまだ救助されていない者たちもいる。
 目や喉がピリピリと痛む。
 矢筒・環(漆黒に舞う金沙・h01000)は、眼鏡の奥がしぱしぱするのを感じながら、しかし同時に、その毒ガスが致死性の低いものである事を感じ取る。
 灰と唐辛子。煙玉や目潰しに忍者が使ったとされる、基本的な配合と思われる。
 他にも何か入っている可能性はあるが、それら関係なく、長く吸い続けるとショックを起こして昏倒する場合もあるだろう。
 いずれにせよ、長引くほど巻き込まれた一般人が危険にさらされる。
「江戸城半蔵門の名の由来にもなった『服部半蔵正成』ですか。確かに、英雄に相応しい。
 ですが、その力を何の覚悟もない子供が渡されて、どうにか出来るはずもないです」
 よくいうお話。
 大いなる力には、大いなる責任が伴うという。
 忍者でありながら武将であり、忍者でありながら名の知れた不可思議な存在。英雄とはそういうものなのか。
 制約も多かったろう。不利となるものも多かったろう。
 だが、英雄足り得たのは、広まった名に恥じぬ行いがあったからであり、それを成す器があったからに他ならない。
 それを使いこなすなど、生半可な事ではない。
 本物の力は、きっとこんな中途半端なものではない筈だ。
 √EDENの者として持ち得る力、即ち【忘れようとする力】を意識して手をかざしてみると、もくもくとアーケードに立ちこめる毒煙がちりちりと掻き消えていくのがわかる。
 規模が大きいため効き目としては微妙なところだが、意識して使い続ければ少なくとも肺を病むようなことはない筈だ。
 ようは、その程度のモノ。
 まるで使いこなせてはいない。
「……渡されただけじゃ、使いこなせないよね」
 櫻井・ハク(ディメンションキャット・h02730)もまた、環と共に行動しながら、その立ちこめる力の中途半端さに目を細める。
 この霧はまるで、行き先を見失った少年の心そのもののようにも感じる。
 ハクも、カード・アクセプターであり、カードで以て変身し、その力で以て戦うことができる。
 シデレウスカードとはまた違った能力かもしれないが、変身するにはそれなりの覚悟が必要だ。
 その手元に引き寄せた護霊符が光を分解したかのように七色の光沢を含み猫のシルエットに膨らんだかとも思えば、護霊プリズマティックキャットはその身体を引き延ばし、猫耳パーカーと化してハクと重なることで【プリズマティック・キャット憑依合体】は成る。
 霊的な感覚、直感などが研ぎ澄まされるその形態でならば、逃げ遅れた被害者の捜索も、そして事件を引き起こしたかの少年を暴走させている蠍の半蔵を探し出すことも不可能ではないかもしれない。
「蠍になってしまった子供も含め、この事件で犠牲者は出させませんよ。いいですね、ハクくん。それで……何か、感じますか?」
「……こっちだ」
 感覚の引かれるまま、先導するハクは、視界の悪いアーケードの先に、薄い息遣いの数々を探り当てる。
 その度に環はその範囲に絞って忘れようとする力を行使し、毒霧による被害を抑えていく。
 運び出すのは地元の救急隊員なりがやってくれると踏んで、被害者の回復は待たず、とにかく数をこなしていく。
 そうすれば、いずれ根本にぶち当たるだろうと、二人は薄暗いアーケードを駆けまわる。
 そんな時、駆け抜けようとした環の手を引くハク。
 そのすぐ手前でアーケードの屋根の一部が崩れ落ちてきた。
「ありがとう、ハクくん。これはまさか」
「……当たりだね」
『うぐぐ……よくもよくも、拙の邪魔をしてくれる……ちがう、こんな事をやりたかったんじゃない。……誰もが、拙の所業を驚いておろう。小童の目論見通りに……ちがう、こんな事……』
 屋根の切れ目、黒く揺らめく人影を見て、ハクは即断即決とばかり、そこまで一気に跳ぶ。
「……環お姉ちゃんが治してくれるならボクは追いかけるね」
「被害場所があれば呼んでください。すぐに駆けつけます」
 一人で二人分喋っているような、奇妙で不気味な人影は、恐らく探していた怪人シデレウスに違いあるまい。
 不安を覚えるようなその様相に警戒する気持ちはあれど、環とハクは、即座に役割を分けることを選ぶ。
 輝くプラズマティッククローから衝撃波を発し、一人で口論する蠍忍者に牽制を仕掛けると、それは黒い装束の手前で掻き消える。
『ほう、それが本来あるべき姿とでもいうのか……ああなりたいか、小童。拙に身を委ねよ……いやだ、いやだ、誰かを傷つけたかったわけじゃ……ききききっ』
 不気味に笑う黒装束のその手先に握られるのは、どこから引っ張り出したのか、これもまた切っ先から石突の先まで黒い槍。
 かの服部半蔵が槍の名手であると知られているかのように、身の丈を超える槍を片腕で構える様は、奇怪ではあったが異様に様になってはいた。
 不安定そうな屋根の上の突端に爪先だけで立つようなそれは、逆さにぶら下がる蝙蝠を逆さに映したかのような不安定さだ。
 いや、不安になる気持ちは、その気配の落ち着かなさだろうか。
「……力に振り回されてるね、あれじゃ制御も難しいかな」
『おお、怖い怖い。殺されてしまうやもな』
 すぐさま飛び退る構えのスコピオ半蔵に追いすがらんとするハクは、それが誘いとわかりつつ、敢えてあたりに物音を立てながら、牽制を繰り返し、追跡を行う。
 精妙な槍捌きを見せながら、その力の使い方は大雑把で、全体的な精細さを欠く。
 器たる少年を完全に掌握しきれていないのだろう。
 それならば、いずれ追い詰めることも可能だろう。
 誘いこまれているとも考えられるが、しかし、物音を立て続ければ、他の√能力者たちも、いずれ気づく筈だ。
 それはきっと、環も。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

ラーレ・レッドフード
……こういったのはガラじゃないって!!!

アタシの治癒は直せても苦しいのは変わらんし……てことで今回はちっと頭使える奴に頼るか。
ちっとだけ考えて……考えて……誰がいいんだこん時?まぁ分かりやすい奴にすっか。
てことでシンデレラの妖精かもーん。お前さんの力なら毒ガスも正常な空気に変えるくらいできるだろ。カボチャを馬車に、ネズミを馬にするよりかは、な。その文量多いから頼んだぜ!

アタシ自身は追跡側に回る。つってもいつもどーりマッチ一本燃やしてぱっと位置を確認して移動、大まかな位置見っけたらまた一本燃やして移動って地道な感じなんだがな。
それでも大まかについていけりゃ、戦闘始まったら突撃できっからいいか!

 もうもうと、まるで火事場の様に、屋根でつながったアーケード街は、騒然と、そして閑散としている。
 そりゃあ毒ガス騒ぎときたら、深夜でもかまうこたぁない騒ぎだろう。
 人の少ないシャッター街といったって、人がまるでいない訳じゃない。
 つまりまぁ、結構な騒ぎの中を、引き留められるのも面倒とばかり、影から影にこっそり渡り歩くように、裏道を通る人影一つ。
 ラーレ・レッドフード(おとぎの暴虐者・h00223)は、赤い頭巾を目深に、今回は特に口元まで覆って、毒ガスというか毒煙というか、やけに喉にぴりぴりとくる健康に悪そうな煙い空間を渡り歩き、一息つけそうなエアポケット的な外階段に身を潜めると、ふはぁっと新鮮でちょっと埃っぽい空気を肺に送り込む。
「……こういったのはガラじゃないって!!!」
 赤い頭巾の少女は、ぶっ壊すのは得意だが、人助けとなると、実は専門ではない。
 レスキュー部隊を謳いつつミニガンを携行して邪魔な部隊を強襲して全滅させるような人たちも居るらしいが、そんなムキムキマッチョな行動力は、残念ながら彼女一人では発揮できない。
 銃で撃って、火炎瓶で焼き尽くして……というちょっと過激な戦法が主軸な少女に、おかしくなった怪人忍者の毒霧の中で救助活動なんていうのは、正直言って専門外だ。
 やろうと思えば、そりゃあやり様はそれなりにある筈だが……。
 シンプルに、怪人を炙り出す方向で行動すべきか。
 いや、モラルを捨てるのは、賞金が下りない可能性がある。
 あのスイカメットがどれほどの評定を下すかわかったものではないが、救助をしろというからには、そうすべきなのだろう。
 コンクリート塗りの階段にどっかと座り込んで、愛用の猟銃を肩に担ぎ、何かいい手はないかとラーレは考える。
 そうだ。ショットガンと言えば、マスターキーとも呼ばれるくらい、ドアをけ破る時に蝶番を撃つのに適しているじゃないか。
「待て待て、そりゃ対テロだの、用心救出とかのアレだ。スモークも要るだろ。いや、違う違う」
 どうにも物騒な方向に頭が行きがちである。
 これも日頃の行いか。
 ダメだ、自分一人では埒が明かない。
 こんな時は、御伽使いらしく、誰か有用な助っ人を頼むのがいいだろう。
「ちっとだけ考えて……考えて……誰がいいんだこん時? まぁ分かりやすい奴にすっか」
 約十秒間の瞑想を要する【童話の凱旋者】による召喚は、童話の登場人物を呼び出し、その得意技で以て手を貸してくれるはずだ。
 怪力自慢ならばその力で。知恵者ならばその知恵で。
 今回、綺麗な装丁の童話集からぱらぱらとページがめくれて登場するのは、ローブを着込んだふくよかなお婆さん。
 年老いた雰囲気をあまり感じさせないエネルギッシュな姿は、シンデレラにおける魔法使いの妖精である。
「おう、毎度。ちょっと、この惨状を、ちゃちゃーっと何とかしてほしいんだ」
 ラーレの注文は、なんというか、こう、雑であった。
 そんな感じの話し口調なものだから、魔法使いのお婆ちゃんはオウと大げさに困ったように口を覆う。
 ディ〇ニーめいた大げさなリアクションに、思わず舌打ちが洩れるが、彼女を呼び寄せられる時間は限られているため、ラーレは再び知恵を絞る。
「お前さんの力なら毒ガスも正常な空気に変えるくらいできるだろ。カボチャを馬車に、ネズミを馬にするよりかは、な。その文量多いから頼んだぜ!」
 それくらいできんだろ。という信頼と投げやりなお願いを聞き入れたのか、魔法使いの妖精はフゥ、と肩を竦めたかと思えば杖を一振り、ほい、びびでばびでぶーと唱える。
 キラキラとした金箔でも撒き散らしたかのような輝きがシャッター街に蔓延る空気を一瞬にして正常化していく。
 凄まじい効果だが、その効果は20秒足らずしかもたない。
 だが、再び蔓延するまでには猶予がある筈だ。
「っしゃ、これである程度は自由に動けるな……で、敵はどーこだ?」
 これだけ空気がまともなら、逃げられる奴は逃げられるだろという希望的観測のもと、あとは任せたとばかりにラーレは件の蠍忍者の追跡を主に行うことにしたようだ。
 取り出したる不思議なマッチを、コンクリの壁面でひと擦りすれば、リンの燃えるニオイと共に燃え上がる小さな火種の向こう側に、追いかけるべき黒い人影が浮かぶ。
 √能力なんかよりよっぽど不思議な効果じゃないのかと突っ込まれそうなものだが、御伽のアイテムなんだから、これくらいはするだろう。するはずだ。
 それを頼りに、ラーレは一つ息をついて、薄暗い商店街を練り歩くのだった。
「なんか、地味だけど……そのうち、ブチ当たんだろ」
 シンプルな喧嘩なら、話は早いのだが。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

夜久・椛
ん…毒ガスとは穏やかじゃないね。

「朝までに止めないと被害が大きくなりそうだな。
まずは毒ガスの対処をしながら、件の少年を探そうか」

ん、了解。
こういう時こそ、母さんから教わった錬金術の出番。

まずは御伽を纏って飛翔し、建物の上に移動。
毒ガスは【毒耐性】と纏った風の【オーラ防御】で遮断して対処。
そして、【空中移動】しながら【錬金術】と錬金触媒を使って、毒を中和する薬剤を生成し、霧状にして風に乗せて地上に散布するよ。

後は、空中を飛びながら、【幻影使い】の幻影を纏って【目立たない】ように行動。
【野生の勘】も活用して、怪しい人物がいないか探すよ。
発見したら、相手に気づかれないように追跡しよう。
ハスミン・スウェルティ
◆キャラ設定
非戦闘時の為、表人格のまま参戦

◆心境・スタンス
毒ガス好きで無差別攻撃…って訳じゃ無いなら、助けてあげたい、かも?
何はともあれ、救助を頑張ろうかな。余裕があれば追跡もね

◆行動
どろんチェンジ+技能:変身を活用する
大鴉に化けて助けを求める人を探し、安全な避難経路へと誘導する
毒ガスに対してはより大きな大鴉に変化して翼で起こした風でガスを追い払う
毒耐性も少しあるので、命の危険が無い範囲で頑張る

物理的に避難経路が閉ざされていて力が必要な場合は
町を破壊しない程度の大きな私に変身して障害物をどかしたり道を開けたり

避難が十分に完了したら空から半蔵さんを探そうかな
◆即興連携・アドリブ歓迎

 その様相を見て喜ぶものは少ないだろうが。
 しかし、その騒ぎに高揚する者は間違いなく居るだろう。
 喧騒とは、その良し悪しによらず、人の賑わいなのである。
 商店街の並びを屋根で覆い、通りを一つの集合体とせしめたアーケードは、かつての隆盛はもとより、深夜の賑わいなど風の流れるが如し。
 しかし今は、風の代わりに目に痛いくすんだ煙が立ちこめている。
 毒ガス、というよりかは、忍者の使うような煙玉のような色のついた靄が、視界を悪くしているばかりか、近づいただけで粘膜を刺激するようなひりつきを覚える。
 息を吸うのも憚られる。慎重に吸気を行おうにも、すぐさま喉の奥にひりついたものを感じて咳き込みそうになる。
「ん……毒ガスとは穏やかじゃないね」
 鵺の血を引くという夜久・椛(御伽の黒猫・h01049)は、商店街に近づくほどに胸のつかえるような感覚にぼんやりとした目元を僅かにひそめる。
 猫のような耳と、おしりから伸びる蛇のような尻尾は、彼女の血筋を感じさせ、その尾は飾りではなく、シュルシュルと細い舌を出し入れいつつ、縦に割れた瞳孔をぱちぱちとさせる。
『朝までに止めないと被害が大きくなりそうだな。
 まずは毒ガスの対処をしながら、件の少年を探そうか』
 既にもくもくと煙の上がる商店街に、何の策もなく入り込むのは行動が制限されそうだ。
 尻尾のオロチさんですら、いつもよりも瞬きが多い。
 よほど目に来ているらしい。
「ん、了解。
 こんな時こそ、母さんから教わった錬金術の出番」
 毒を中和する薬物を錬成すべくその触媒となる物質の詰まった小瓶を取り出す椛は、ふと、自分と同じように、煙の噴き出る商店街をぼんやり見つめる人影が、案外側にいるのに気づく。
 いつからそこに居たのだろう。
 夜闇の中にも白く目立つ、拘束衣の様なベルトの多い装いと、起伏のない表情と体つきは、人の気配とは少し違うように見える。
 が、かといって、件の蠍忍者とも違うように思う。
 ハスミン・スウェルティ(黄昏刑務所・h00354)は、人間厄災であるという。
 戦う状態にない彼女であれば、白く長い髪を柳の様に夜風に泳がせ、枯れ木のような褐色の肌に表情を乗せることもなく、ただただぼーっとしているだけかもしれない。
 無害にしか見えないそれは、しかし、ひどく目を引く。
「目が、しぱしぱする」
 うーん、と唸る様に目元をこする無造作な動きからすると、どうやら椛らと同じように人命救助と、それから事件の原因となった忍者とその黒幕の対処をすべくやってきた√能力者なのだろう。
「それ」
「これ?」
 どうやら椛に話しかけているらしい、指し示された錬金触媒の小瓶を掲げて見せると、ハスミンは小さく顎を引く。あってたらしい。
「飲み物?」
「ん、飲めるものじゃない」
『これから毒ガスを何とかしようという、これは、その仕掛けの一つだ』
 話が弾まなそうと判断したらしいオロチが、きわめて簡潔に説明して見せると、おー、と口をOの字にする少女が二人。
 そんな悠長なことをしている場合ではないのではないか?
 懸念するオロチの心情を反映してかどうかは定かではないが、何かが砕けるような音が、一同の耳に届いた。
 アーケードを一望できる建物に上っていたところから見えたのは、事件現場を覆う屋根の一部が、まるで底でも抜けるかのように崩落したところだった。
 誰かが手を加えたのか。
 しかしそれを気にするよりも、砕けた屋根の穴から吹き上がる毒煙のほうが問題だった。
「疾風怒濤──、風と共に舞え」
 それぞれの行動は、そのぼんやりとした印象とは裏腹に素早く、椛はその身に御伽から想起した鎌鼬の忍【御伽術式「鎌鼬の風花」】を宿し、風を纏って空を飛ぶ。
 ハスミンもまた、【リアルタイムどろんチェンジ】により、大鴉に変化して空を飛んで現場へ向かう。
 毒霧を突っ切り、持ち前の人ではないが故の耐性で以て無理矢理に突き進むハスミンを見送る形で、風を操る椛は、毒霧が周囲に飛散しないよう空気の渦を作り出し、同時に錬金触媒で錬成した液体を霧状に散布する。
 毒性を中和し、霧状にすることで煙を吸着して速やかに毒物を除去していく。
 幸いにして毒性は強くない。というか、致死性のものではないようだが、出所を早いところ押さえなくては、いくら対処しても後手後手だろう。
 煙の噴出が一段落したところで、そういえばハスミンは大丈夫だろうかと周囲を見やると、大鴉に変化したハスミンがその身体を幾らか巨大化させて大きな大鴉となって救助した一般人を引っ張り上げてきたところだった。
 ちょうど開いた屋根の穴は、いい目印となっているらしい。
 七色の人格を持つというハスミンの、恐らくは主人格となるであろう表の性格は、ぼんやりとしているために、戦いには向かないが、それだけに人畜無害であるのだろう。
 そんな彼女を手伝ってやりつつ、そういえば、この屋根を崩落させたのは誰なのだろうと、椛は周囲を再び注意深く見渡す。
「ん、お疲れ様。……中で、誰か見かけた?」
 誰かに該当する者を察したハスミンは、鴉の首を横に振る。
 彼の者の目的はよくわからない。いや、事故なのだろうと思うし、変身した影響で邪心が芽生えたならば、どうにかしてあげたいところだ。
 少なくとも、本気でやるつもりなら、もっと殺傷力の高い毒物を使うとも限らない。
 本調子でないのか、それとも、少年の心理的なブレーキが働いているのか……。
「毒ガス好きで無差別攻撃……って訳じゃ無いなら、助けてあげたい、かも?」
「ん……手分けしよう」
 救助された一般人が、昏倒しているだけで中毒症状も何も起こしていないのを確認すると、二人は上空から姿を目立たせないよう、蠍の忍者の足取りを探るのであった。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

第2章 冒険 『シデレウスカードの所有者を追え』


POW 戦いを挑み、シデレウス化した人物を無力化させる
SPD 他の民間人が事件に巻き込まれないよう立ち回る
WIZ シデレウス化した人物の説得を試みる
イラスト yakiNAShU
√マスクド・ヒーロー 普通7 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

 ざわざわとした騒ぎが、いくらか終息する。
 騒ぎの少ないシャッター街を騒然とさせた毒ガス騒ぎは、その毒性の低さも幸いし、そして避難誘導の協力も得たことにより被害者を出すことなく騒ぎは終わりを告げることとなる。
 しかしながら、その犯人の姿は、√能力者の手により着実に追い詰められていた。
 ぱつぱつ、と、深夜のアーケードを照らす大きなモニターが、誰も住む者のいなくなった町々に無機質な明かりを灯す。
 華々しいニュースや広告を映し出すモニターとは裏腹に、その光を受けるのは、奇妙な事に人のように浮かび上がった影であった。
 寂しい商店街のコミュニティ化に一役買っていたアーケードの屋根は頼りなく、それは足場とするには安定しない筈なのだが、佇む人影は、細く、まるで重さを感じさせぬかのように、取り囲む√能力者たちを興味深げに視線を送っていた。
 黒い炎のように揺らめくそれは、黒い装束。
 全身を覆う影のように黒い装束はいっそのこと濃い紫のように、夜空を背景にしても浮き上がって見える。
 さそり座の星座カードと、服部半蔵の英雄カードにより怪人シデレウスと化した少年のなれ果ては、長く風に泳がせる襟巻にも骨組みが入ったかのように反り返り、それはさながらに蠍の尻尾のようにも見えた。
 いや、それは実際に襟巻である以上に、いくつもの節に分かれた黒い塊。
 それを手に取り、引き抜くようにして振るえば、小気味いい可動音と共にすらりと一本の槍に変じる。
 それは蠍の尾であり、服部半蔵を語るうえで欠かせぬ要素の一つ、槍の名手であることも示しているかのようだった。
 襟元に輝く赤い留め具はアンタレスのように怪しくその存在感を示し、それ以上に怪しい光を湛える眼光は、物憂げな少年のものとは思えぬ歴戦の猛者を思わせた。
 もはや、彼の者に少年は居ないのか?
『キキキキ……この期に及んで、拙を追い詰める者たちが居ろうとは、生きてみるものよ……』
 金属音の様な笑いを漏らす人の影が、片手に印を、片手に槍を携えて、その存在を膨れ上がらせる。
 それは、到底、人の持つ存在感ではない。
 もしも戦うのならば、相応の覚悟をせねばなるまい。
 そして、もしも、少年を取り戻そうというのならば、いくらか策を講じねばなるまい。
 少年のささやかな憧れから転じた怪物を、どのようにして攻略するか。
 或はそれを打倒し、或は心から調伏せしめるかすることにより、決着はつくだろう。
 その際に、彼の者のカードを手にするか、それとも破壊してしまうのか。

 ※以下の情報は、戦闘する場合に使うかもしれない能力の一部である。
 POW:【肉弾】……命中する限り「【|蠍槍連節鞭《さそりやりれんせつべん》もしくは関節技を兼ねたモズ落とし】による攻撃→技能攻撃→[蠍槍連節鞭もしくは関節技を兼ねたモズ落とし]攻撃→技能攻撃」を何度でも繰り返せる。技能攻撃の成功率は技能レベルに依存し、同じ技能は一度しか使えない。
 SPD:【忍術投擲・|疾風破裏拳《シップウハリケーン》】……【影】属性の弾丸を射出する。着弾地点から半径レベルm内の敵には【麻痺毒】による通常の2倍ダメージを与え、味方には【影以外不可視】による戦闘力強化を与える。
 WIZ:【蠍流禁術・|反吐裏灰《ペトリファイ》】……【粘性石灰爆弾】により、視界内の敵1体を「周辺にある最も殺傷力の高い物体」で攻撃し、ダメージと状態異常【行動鈍化及び徐々に石化】(18日間回避率低下/効果累積)を与える。
クラウス・イーザリー
(今回のカードは、随分と強力みたいだね)
シデレウス化した人と戦ったことは何度かあるけど、今回の彼はその中でも一際存在感を放っているように思える
それでも、彼のことも助けたいから怯みはしないよ
これ以上人を傷つけないように無力化して、カードを奪い取ろう

レイン砲台のレーザーで怯ませながらダッシュで接近して閃華を使用し、牽制と捕縛で動きを制限しながら光刃剣で攻撃
相手の攻撃には盾受けや喧嘩殺法での体術を挟んで抵抗し、隙があればカウンターで反撃

「力に溺れて、人を傷付けてはいけないよ」
戦いながら少年に声を掛ける
シデレウス化しているから届かないかもしれないけど、少しは考えを変えてくれないだろうかと思って

 星空をすら背景に、黒く浮かび上がる人影は、アーケードの屋根の骨組みに曲芸師の如きバランス感覚で佇み、その曖昧な輪郭をまるで炎のように揺らめかせていた。
 どこからどこまでが彼で、どこからどこまでが闇なのか。
 寂しく夜を照らす巨大モニタの明かりさえ無ければ、その境目はさらに曖昧になったろう。
 しかしながら、そこに恐ろしい気配だけは確かにある。
 揺らめくそれが敵意を以て、人の形を辛うじて留めているのを。
 クラウス・イーザリーは、圧としてはっきりと感じ取っていた。
(今回のカードは、随分と強力みたいだね)
 異質であると、思った。
 シデレウスと化した人と戦った経験は、実を言えば初めてではない。
 ただ、英雄というものは、いずれも屈強さを旨とする者であることが多かったように感じる。
 いずれも存在感という意味では異なるものであったが、中でも異にするそれは、存在感という名の曖昧さであった。
 例えるならば、艶消しのされたナイフである。
 よく研がれ、鋭く尖った切っ先を、敢えて切れ味を損なってまで闇の中に隠す加工を施されて、その全容を解りづらくされて尚、凍り付くような鋭さを感じさせるそれは、その気配のみで悟らせる。
 一突きで足りるのだと。
 街を騒がせた毒ガスには、殺意が無かった。
 それは警告だったのだ。
 それより先に踏み込めば、殺意に触れるという、冷酷な。
 夜風に触れる頬が、体温を奪っていくかのような感覚があった。
 これ以上は、虎の尾を踏む。
 数々の戦線を渡り歩いたクラウスの背筋に冷たいものが流れるのを感じる。
 目の前の夜闇に潜む者は、もはやただの少年ではないのだと思い知るのだが、だからこそクラウスは後には引けなかった。
『どうした、気が引けておるのか……? しかし、感じるぞ。お主は、その力を振るいたがっておる』
 それはもはや、力に振り回される少年のものではない、老獪さを感じさせる声色だった。
 暗闇の中に、さそり座の背に浮かぶアンタレスのように、赤い飾りだけが星のように輝いて見える。
 忍が不忍とは呆れ果てるところだが、そこに視線を奪われることこそが、即ちねらい目であるとも予想できる。
 表情には出さず、誘われる気持ちとは裏腹に、距離を測りかねている事に、言い知れぬ恐怖があった。
 相手が槍を手にしているなら、その間合いに入らず、銃撃を加えれば物事はすんなり解決……などと甘い事を考えてはいけないのだろう。
 迂闊に飛び込めば、槍の間合いにて一つ貫かれ、かといって銃口を向ければたちまちに遠当てがクラウスの手元を掻っ攫うであろうことを、脳内に描くシミュレートが答えを出す。
 ならば、相手の予想を上回る牽制を考えるべきか。
「そうかもしれない。君も、君を振り回す『君』も、刃物を手にしたら、切れ味を試したくもなる」
 忍者の言葉に耳を傾けても、返答してもいけないという。
 なぜならば、その時点で術中だからだとか。
 構うものか。
 敢えて、目を伏せ、視線を外すかのように見せて、感傷に浸る様に見せかけて、話に乗る振りでクラウスは、手の内に在る端末から持ち込んだレイン砲台を起動する。
 半蔵はそれに気づいたようだが、銃でも格闘戦でもない、この世界にはおおよそ存在しない決戦気象兵器レインの微細な砲台は、普段は視認すら難しい。
 それはクラウスの周囲を光の粒子が、指向性を以て反射しているかのように見えたろう。
 前触れもなく、熱を帯びた光子が稲妻のように、人影を成す闇を貫く。
『むっ!』
 それは実際、大した威力はなく、雨粒の様なレーザー光線は、無数の光条となって彼の者をひるませる程度のものでしかなかったが、それで十分だった。
 得体が知れなければ、それを受けるわけにはいかず、その間断はクラウスにとっての絶好の隙間だ。
 距離を詰め、必殺の槍の間合いを外しながら、身体に叩きこまれた連携の適切な距離に入る。
 【閃華】と名付けられたそれは、まさに閃光のような連携技。
 迎撃するように振るわれた半蔵の撓る槍を掻い潜るかのように、身を翻しざまに胴回し蹴り。
 空気の破裂するようなぱくん、という半月を描くような蹴りの軌跡が空を掻く。
 槍を外し、躱しざまの蹴りは空を捉えた。
 お互いに身体を変形したような奇妙な体制で交錯し、しかしお互いの位置を目で追っているのを、まるで視線が繋がっているかのように感じていた。
 この期に及んで尚、節に分かれる槍は実質的に間合いの不利を持たぬ。
 そうとばかり飛び上がったクラウスを再び迎撃せんと変形するのを、クラウスはさらに見切ってフリーの腕から手繰るワイヤーで封じにかかる。
 飛び上がる身体を制動し、かつ相手との合間に絡みつけることで動きを制限する|それ《ワイヤー》に阻まれて、勢いを得られない鞭の如き槍。
 その攻撃の合間に生まれたわずかなすき間に手を差し入れるかのように、クラウスの手の内に忍ばせた柄だけの剣が、その光の刃を刀身として生やす。
 ほんの一秒とちょっとの交錯。
 傍目には、踏み込んだクラウスを半蔵が槍で迎え、それを躱しざま蹴りつけたクラウスを勢いに任せて身をかがめつつ回避して交差した。
 しかる後、飛び越えたクラウスが着地ざまに光刃剣で切りつけただけに見えたろう。
 追い詰められたのは、半蔵の方であった。
 肩口に切りつける光の刃を受け止めていたのは、腕ごとワイヤーで絡みつけられていたその腕甲であった。
 いかなる材質であるのか、レーザーの刃に拮抗するのは不可思議であったが、影の様なそれを焼き続けるそれは、いずれ両断するに足るであろう。
『凄まじきものよ。しかし……不思議なるかな。殺意を感じぬのはいかなることか』
「力に溺れて、人を傷付けてはいけないよ」
『ほ、この期に及んで、まだこやつを気にかけておるのか……』
 少年の人格が残っているのならば、とかすかな望みをかけて、クラウスはあくまでも救いたい気持ちのままに、最後の一線は越えぬよう努めていた。
 追い詰められているはずの半蔵は、頭巾の奥で嘲笑うようにその邪な眼光を歪ませる。
 目星は付いていた。
 カードを奪い取れば、まだ、少年を取り戻せるかもしれない。
 ならば、それはどこか。
 最も少年を目立たせている。その象徴たるものは、不忍の証。即ち、自己顕示欲の象徴。
 つまりは、その赤い星であろうと。
 手を伸ばすが、それはどす黒い闇に阻まれる。
『させぬ、させぬぞ……まだ、楽しませろ。キキキキ……!』
「それが、君に扱いきれないのは、わかっているはずだろう?」
『うぬ、ぬう……邪魔をするな小童。お主は寝ておれ……』
 声をかけるうちに、強い敵意が揺らぐのを感じるが、それを奪い取るには今少し遠いか。
 しかし繰り返せばいずれ……。
 クラウスは信じて、その身を投じるしかない。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

ハスミン・スウェルティ
◆キャラ設定
ハスミンから人格・青色に切り替わる
青色は武闘家で求道者、沈着冷静
但し驚きだけは人並みに感じる為、その感情を与えてくれる強者を探す
※仲間への配慮は忘れない

◆青色のスタンス
伝説の忍者・服部半蔵ならば望外の相手だが、怪人とはな
多少高揚はするが、それより少年が気がかりだな

◆戦闘
相手の近接攻撃はジャストガード・受け流し・見切り
飛び道具は世界の歪みでなるべく対処
序盤は相手の攻撃を受ける事に集中し、ある程度見たら歪みを脱ぎ√能力を叩き込む

武道も忍術も強く眩く見えるかもしれないが
|少年《キミ》は|少年《キミ》の強さが確かにある
服部半蔵に抗えるキミを、ワタシは弱いとは思わない

◆即興連携・アドリブ歓迎
雪月・らぴか
ふひい、厄介な毒ガスだったねー。
人が多いところじゃなくてよかったー!
それにしても、この怪人は元の人格ないのかな?今まで力を得て増長してるけど元の人格残ってるっぽいのは会ったことあるけど、こういうのもいるんだねー。

倒せば戻るはずだから倒すよ!
【雪風強打サイクロンストレート】を発動!動き回りながら[霊雪心気らぴかれいき]を撃って敵の様子を見たいね!槍持ってるから至近距離までいきたいけど敵もそれわかってる気がするからねー。
敵が大きい行動をしたり、爆弾使おうとするのが見えたら思い切って接近して殴りにいってみよう!一度間合いを詰めたら離れないよ!

カードは壊しちゃっていいんじゃないかな。

 星空を背景にしてすら、その人影は黒く浮き上がって見える。
 さながら揺らめく黒い炎のように、輪郭の曖昧な、しかしはっきりとした敵意が、いくつもの節に分かれた数珠の様な槍を携えて人の様な形をしていた。
 おぞましき敵。
 しかしながら、そこに居るのはもとは少しだけ不幸な少年だという。
 信じられるだろうか。
 近づくのも躊躇われるほどの卓越した武と、老獪さすら思わせる佇まいは、少年のそれとは思い難い。
 威圧的な空気が、まるで空風の吹くアーケードの屋根の上を寒天で固めたかのように質量を持ったかのように思えるほどの緊張感。
 ハスミン・スウェルティの白く長い髪は、その武に当てられたかのように急速に変質していく。
 人間災厄の少女の中には、頑丈な手錠に捉われた七色の人格が宿るというが、ルーレットの様なカラフルな髪飾りが気に当てられたかのように揺らぐと、その髪はほんのり青く染まり始め、ぼんやりとした半眼はすっと理知の輝きを静かに湛えはじめ、緩んだ口元はしっかりと引き結ばれる。
 なによりも、弛緩した全身には、筋肉を律するかのようなしなやかさが宿り、あらゆる危機に肉体が即応する自然体の構えを無意識のうちに取るようになる。
 その空気に武の筋道を見た時、ハスミンの内包する人格の一つ『青色』が、その道を求めるかのように浮上する。
 強者との戦いは、驚きである。それこそが、彼女の原動力。
 また随分と辺鄙なところで現れたものだが、なるほど伝説的な忍者、服部半蔵を騙る怪人とな。
 沈着冷静の求道者の瞳の奥に闘志の熱が浮かぶが、しかし、彼の者の中にはいたいけな一般人の少年がいるはず。
 相手にとって不足はなく、壊し過ぎてもいけない。
 なんとも難しいオーダーだ。
 ゆるり、とどうしたものかと、好奇心に駆られて一歩前に出そうになるところで、
「へぷしっ!」
 背後で、水を差すような可愛らしいくしゃみが、ハスミンの逸る心を諌めるかのようだった。
「ふひい、厄介な毒ガスだったねー。
 人が多いところじゃなくてよかったー!」
 振り向けば、可愛らしい桃色の少女が、鼻をかみながら毒気のない微笑を浮かべている。
 どうやら毒煙の影響でまだちょっとだけ鼻がむずむずしているらしかったが、自信満々に魔法少女めいた魔杖を構える姿は、妙に様になっていた。
 めいた、とするのは、少女というにはちょっとばかしグラマラスすぎるからである。
 上背も、そのスタイルも、なんたるわがままだろう。
「この怪人は元の人格ないのかな? 今まで力を得て増長してるけど元の人格残ってるっぽいのは会ったことあるけど、こういうのもいるんだねー」
 底抜けにフレンドリーな少女、雪月らぴかの言葉に、ハスミンは思い当たることがあった。
「どう対処すべきか、わかるのか?」
「うんとね、倒せば戻る筈! だから、倒すよ!」
「なるほど、わかった」
 言葉少なに、それはとてもシンプルに、迷いを捨てさせるに十分な言葉であった。
 そうして、少女たちは加速する。
「雪風、強化っ」
 らぴかは、その魔杖に吹雪を纏わせ、まるで吹き荒れる雪風のように素早く動けるようになり、
 ハスミンは動きづらそうな拘束衣めいた白い装束のままひらりと身を翻して突撃する。
『ふん、なかなかの手練れのようだが……拙の槍を掻い潜るつもりでいるのか?』
 ぐんっ、と半蔵の槍は節に分かれる蠍の尾の如き柔軟さを持っている。
 その突きの異様な伸びと撓りは、容易に受けられるものではないが──、
「ふっ……!」
 正面から打ち下ろされるように繰り出されるそれが、まるで脇の下を抉り込むかのように軌道を変えるのを、体幹をずらしつつ側面を打って受け流すのだが、体幹をずらせばそれだけ突進力は失われる。
 ぐねりと曲がる槍穂が、槍を引く際にも鎌のようにハスミンを執拗に狙うが、
「こっちこっち! 蠍は暑いところの生き物だよね!」
 びょう、と凍り付くような寒風が吹雪を伴って、らぴかの掛け声とともに半蔵の老獪な槍捌きを鈍らせる。
『むう、なんという霊気!』
「隙ありだ。|行くぞ《・・・》」
 その攻撃宣言と共に、受けに回っていたハスミンは、まんまと槍の間合いの内側に踏み込んでいく。
『嘗めるな、間合いの内側を取ったつもりか!』
「うっ!?」
 両の腕、槍の柄、それらを押し広げるように懐に入り込んだつもりだったが、ハスミンの袖に絡みつく半蔵の腕と蠍槍。
 即座に関節が極められると悟り、反射的に拘束衣の袖口を、彼女が内包する世界の歪みもろとも脱ぎ捨てる。
 褐色の細腕はフリーとなり、災厄のオーラを秘めた魔拳【驚くべき戦闘技術を求めて】の必殺の間合いに入った筈だが、その瞬間になってようやく気付く。
 半蔵の手元に白い爆弾の様な塊があるのを。
 これでは、相打ちになる。いや、打つべき。
 自身の内包する多くの人格の事をちらりを考えてしまうハスミンの青は、技が完璧に決まらぬことを未熟と冷静に痛感するところだったが、いや、しかし、誰か忘れてはいまいか?
 今まさに手放さんとしていた半蔵の手元を、魔杖が絡めとり、桃色の少女が身体をねじ込ませてくる。
「切札を使う瞬間を、待っていたんだよ!」
「奴のカードとやらは──?」
「たぶん、胸の十字!」
「応!」
 ハスミンの渾身の拳と、らぴかの左拳に纏う吹雪が、半蔵の胸に輝くアンタレスを象る赤い星を捉える。
「【雪風強打サイクロンストレート】ォ!」
『ぐおおっ!?』
 なにか、致命的な物に辿り着く感触。
 間違いなく人を殴っている感触ではなかったが、それであるだけに、迷いはなかった。
「武道も忍術も強く眩く見えるかもしれないが、
 |少年《キミ》は|少年《キミ》の強さが確かにある。
 服部半蔵に抗えるキミを、ワタシは弱いとは思わない」
『ぬぐ、ぐ……こ奴を起こすな。もう少し、拙を楽しませろ……謳歌させよ!』
 怪人ではなく、少年に語り掛けるハスミンの言葉は、権謀術数に富むであろう忍者の動揺を容易く買う。
 思ったよりも、彼の中は不安定なのかもしれない。
 それだけに、この場で逃すわけにはいかない。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

夜久・椛
他人の身体で好き勝手に振るう、その所業…迷惑だね。

「少年にとっても不本意だろう。止めなくてはな」

ん、了解。

まずは御伽からスプライトを召喚。
一曲お願い。ただし、加減してね。

「オッケー、痺れるくらいでいくよ!」

【破魔】を付与した赤雷を放って【先制攻撃とマヒ攻撃】。
破魔で半蔵の精神を攻撃し、痺れさせて動きを鈍らせるよ。

更に雷光で目眩ましして、【幻影使いの残像】を複数その場に残し、幻影に隠れて【目立たない】ように移動。
【野生の勘】で相手の動きを見切り、千変暗器のワイヤーを【念動力】で飛ばして、【不意打ち、捕縛】で無力化を狙うよ。

ヒーローに憧れるなら、悪に利用されちゃ駄目だよ。
だって、憧れたんでしょ?
ラーレ・レッドフード
さーてと。今のガワは其れ成りなんだろ。そんじゃ遠慮なくぶちかますぞ!
……それはそれとして中の人間を殺さない程度に加減はするがな。

てことで火炎瓶は封印。元に戻った時に延焼なり熱傷なりでくたばらせるのはパス。

手始めに持ち込んだランプをこすれるよう懐に準備。相手は服部半蔵、ソイツ自身が童話は知らんでも、元の奴からの記憶でたどるくらいはあるかもしれんし。
敵の弾丸は水薬飲んで回避し隙を窺う。その隙なり手裏剣喰らいそうなタイミングで召喚。

麻痺毒?あー、適当に治しておいてくれ。
ついでに相手と融合して来い。アタシにゃ見えんが、魔神サマなら見つけるこたぁ容易いだろ?ついでに相手の要だろう速度も落としてこいや。

 黒い人影。
 それが屋根の上に佇んでいるのはわかるのに、その輪郭はひどく曖昧だ。
 そこに居るのにそこに居ないかのような、奇妙な存在感。
 質量がある感覚はあるのに、重みを感じさせないかのような。
 どこか現実味の無さが、その異質さを際立たせる。
 服部半蔵を想起する怪人は、槍の名手であるというが、やはり伝え聞く伝承の上では忍者の側面が大きいのだろう。
「他人の身体で好き勝手に振るう、その所業……迷惑だね」
『少年にとっても不本意だろう。止めなくてはな』
 夜久椛は、肌身に感じるほどの敵意を受けてなお、その表情にこそ出さぬものの、うっすらを細める目元には、静かな決意がにじむ。
「ん、了解」
 鵺の血筋から生じた喋る蛇の尻尾オロチの助言を受けて、脅威たる蠍の半蔵に立ち向かう事を選ぶ。
「さーてと。今のガワは其れ成りなんだろ。そんじゃ遠慮なくぶちかますぞ!」
 屋根に乗り上げるようにして足をかける人影は、夜闇にも鮮やかに赤いフードの目立つラーレ・レッドフード。
 片手に猟銃と手提げには荷物に偽装した火炎瓶などが備えてあるが、それらをフルに使っては、商店街の毒ガス騒ぎなど可愛くなりそうなレベルになってしまう。
 それに、彼の者の中身には一般人の少年がいるはず。
 うっかりやり過ぎてしまっては、痛ましい結末になりかねない。
 だが、中途半端もよろしくはない。殺すつもりで、しかし一線は越えない感じで、どうか一つ。
 持ってきた装備をフルでぶっ放すわけにはいかないが、これはこれでブラフに用いることもできる。
 これらを使うと見せかけて、実際その手元には、ややエスニックなランプを隠し持っている。
 磨き上げれば、煙の中から青い肌の魔神が飛び出しそうなあれである。
 奇しくも、椛もラーレも、御伽を用いてその力を引き出す。
 スタイルは違うが、そのスタンスはどうやら共通している。
 うっすら視線を交わして、仕掛けんとするのだが──、
『ほう、火縄か。しかし、拙をとらえることなどできようかな?』
「うっ!?」
 ゆらりと、影の中で燃えるような半蔵の姿がわずかに霞んだような気がした。
 いや、それは、攻撃の挙動。
 と察する頃には、暗闇の中で視認困難な影の手裏剣が、ラーレのフードを掠めていた。
 相手の忍術の達人。影のように隠れられては、こちらとしては捉えようがない。
 それに、頬を僅かに掠めたその傷口を中心に、感覚が薄れていく。
 麻痺毒だ。
 思わず飛び退きつつ、ラーレは魔女の水薬をがぶりと飲みつつ、手提げをぶちまける勢いで黄金に輝くランプを掲げる。
「【来たれ魔神】! アタシの願いを叶えな!」
 決して回復薬というわけでもない水薬は、人魚に言葉を代償として足を与えたというが、今回は傷の回復や相手の手裏剣に対抗する術の代わりに何を差し出したのか。
 それはともかくとして、ランプの煙からはマッチョな魔神が出現する。
 別にウィル・ス〇スには似ていないが、力こぶを作る姿は、どちらかというとアニメチックだ。
『面妖な……しかし、相手にとって不足はない』
 ほぼ目に留まらない半蔵の目に、その魔神はどのような奇人に映ったか。
 しかし、目を奪われていた隙に、思わず口をついて出た半蔵の言葉を追うかのように、夜闇を赤い稲妻が迸った。
 鱗粉の様な光るそれを伴うそれは、ぱらりぱらりとページをめくるかのようにスワイプする御伽図鑑のスマホアプリから呼び出された【御伽術式「赤雷の妖精」】。
「一曲お願い。ただし、加減してね」
 静電気で逆立つような稲妻を迸らせる小さな赤い妖精にリクエストを飛ばせば、
「オッケー、痺れるくらいでいくよ!」
 元気な声で応じるとともに、雷雲の様な激しい歌声が戦場を照らす。
 見えざる者なれば、光を当ててやればいい。
 影をこそ濃くすれば、そこにそれは在る。
「よーし、そこだな! 魔神よ、ちょっくら捕えてこい。あと、麻痺毒もちょっくら頼むわ」
 ろれつが回らなくなり始めているのを感じつつ、ラーレは雷光に不自然に伸びた影を指し示す。
 マッチョな青いやつは、ウンジャマラミ~とばかりに不可思議な動きで、雷撃に身をすくませる半蔵は、煙と同等の魔神に取りつかれて動きを見るからに鈍くする。
「! そこ!」
 相手の姿が影以外見えなくなっては、どうしたものかと少しばかり焦っていた椛は、しかし、その姿をようやく捉えることに成功し、御伽の力により変形する千変暗器を細く長く、ワイヤーのようにして瞬く間に絡めとった。
 かの忍者を相手に、この手の拘束がどれほど持つかわからないが、しかし、抑え込んでしまえば、こちらの声も届きやすいはずだ。
 そう、彼の者の中の少年は、まだ完全に支配されていない筈だ。
「ヒーローに憧れるなら、悪に利用されちゃ駄目だよ。
 だって、憧れたんでしょ?」
『キキキ、ひいろお? 英雄など、人殺しを誤魔化すお為ごかしよ……い、いや、それでも、誰かのためと讃えれたからこそ、ヒーローなんだ……ぬううっ、黙れ黙れぃ!』
「へっ、随分と気の多い忍者みてぇだな? 忍者といや、忍耐じゃないのか? それとも、少年の夢にはかなわんってかぁ?」
『黙れィ!! 拙をたばかるなよ。この血に塗れた手を、欺瞞に染め上げようとは、なんたる、侮辱……憧れるな! 恐れよッ!!』
 どうやら、かの英雄たる忍者は、少年の影響も多分に受けているのかもしれない。
 その動揺は、思った以上に多感に、半蔵を揺さぶった。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

矢筒・環
ハクくん(h02730)と

鬼ごっこは終わりですか、『蠍』さん? ここがあなたの行き止まり。取り憑いてる男の子も返して頂きます。
行きましょう、ハクくん。カードの呪いはこの場で消します。

「インビジブル制御」で死霊『櫻霞御台所』を『蠍』にけしかけます。江戸城に縁のある同士、積もる話もあるんじゃありませんか?
『御台所』、「呪詛」で「恐怖を与え」て、『蠍』を身動き取れなくしてやってくださいな。

ハクくんをインビジブルで援護しながら、周囲に忘れようとする力での回復を撒いておきましょう。この場にいるのは、志を同じくする仲間ですからね。傷を負って帰られることのないように。

そろそろ命脈がつきませんか、『蠍』さん?
櫻井・ハク
矢筒・環 (h01000)お姉ちゃんと一緒に
「・・・やっと捕まえたよ」
引き続きプリズマティック・キャット憑依合体でいくよ
「・・・呪いはここで引き剥がすよ」
相手が強いからオーラ防御を使いつつ反撃(特に蠍の尾にあたる半蔵の槍)に注意しつつ取り押さえるよ
逃げそうな場合は誘導弾や衝撃波とかで攻撃しつつ蠍を爪で攻撃するよ
「・・・強くなりたいのは誰でも一緒だからね、でもそれで自分を失いたいわけじゃないならここが引き際だよ」
環お姉ちゃんに攻撃がいかないように気をつけつつインビジブル達と立ち回るよ

「・・・これで大丈夫かな?怪我は環お姉ちゃんのおかげで大丈夫だし」
残すは黒幕だけだね

 幾度となく、その影を追い、影ゆえにその姿を見失いそうになりながら、しかし、その存在感は忍でありながら異質な気配と共にあった。
 忍者というにはあまりにも目立つ気配を持っており、怪人というにはあまりにも黒く視認が難しいものであった。
 星空を背景になお、その姿は黒く、燃え上がる様に揺らめいて、人の姿をしているのに、その輪郭は判然としなかった。
 ただわかるのは、それがもはや、逃げる素振りを見せないということ。
 それにはもう、恐れが無かった。
 恐れを抱く少年の心が覆われてしまったのか。
 そこにはもう、恐ろしい人影があるだけであった。
「鬼ごっこは終わりですか、『蠍』さん? ここがあなたの行き止まり」
「……やっと、捕まえたよ」
 矢筒環と、そして櫻井ハクは、二人で分担してかの英雄の名を騙る怪人の追跡と、毒ガス騒ぎで逃げ遅れた一般人の救助た探索を行っていたが、追跡を続けていたハクに、環が追い付いた形であった。
 どうにも詰めの甘い忍者の気配を、同様にアクセプターとして変身するハクが追跡するのは難しい事ではなかった。
 シデレウスカードの、星座と英雄のカード。その気配は、アクセプターとしての感覚が似ているのかもしれない。
 そして、敢えて物音や痕跡を強く残して追跡していたため、ハクを追う形で環も追いつけたというわけだ。
「取り憑いてる男の子も返して頂きます。
 行きましょう、ハクくん。カードの呪いはこの場で消します」
「……うん、ここで呪いは引き剥がすよ」
『キキキ……煩わしいけだものを、振り払いたくなったまでよ。蹴散らしてくれる』
 ゆらゆらと火のように揺らめく半蔵の全貌はどうにも掴みづらい。
 【プリズマティック・キャット憑依合体】により、護霊を着込むようにして合体変身しているハクは、その両腕に輝く鉤爪を装着しているが、相手は無数の節に分かれた可変型の槍を手にしている。
 間合いの差は歴然。まして、服部半蔵といえば、槍の名手として知れている。
 正面に立つ事の難しさを直感的に感じ取るハクだったが、そこから搦め手に立つのもまた容易ではない。
 そして忍者ならば、搦め手で優位に立つのはさらに難しいだろう。
 槍を使うと見せかけて、おもむろに手裏剣の様な遠当てを使って来るとも限らない。
 だが、戦闘に於いて動物的な感覚に頼ることの多いハクにとって、難しい事を考えるのはかえってポテンシャルを活かせない。
 護霊の防御を頼りに、正面から仕掛けるしか、今は考えられなかった。
「大丈夫ですよ、フォローは任せて」
「……そうだね」
 思わず下がりたくなるところだが、その背に環の声を受けて、いよいよハクは覚悟を決めて真正面飲みに注力する。
 やがて、その視界の周囲にインビジブルの仄かに光を含む魚影の様な蛍火の様なものが群がり始める。
 それは環が呼び寄せたものであった。
 【忘れようとする力】で、周囲の環境や、万一ハクが不覚を負った場合のフォローを即座に行えるよう手配しているのと、いかなる縁か荒ぶる死霊『櫻霞御台所』を半蔵にけしかける。
『おやおや、これはこれは、奥の者か。拙には知れぬ顔だが……とうの昔に滅んだ者よ』
「あなたと同じように、江戸城に仕えた方ですよ。積もる話もあるんじゃないですか?」
 その親和性で以て、引き留め、引き剥がすのに何かと役に立たぬものかと呼び寄せたものだが、世代的に通るのかどうか。
 仮にそうでなくとも、ひと時、半蔵の注意を引ければそれで十分だ。
 雅なその姿を突き破る様にして、ハクが飛び掛かる。
『チィッ! 目くらましか!』
 反射的に跳ねあがる槍穂が、生き物のようにその峰をいくつもの節に折れ曲がり、巧みにハクを捉えんとするが、プリズムの様なオーラで守りを固めたハクは、自らそれを弾くようにして衝撃波を放つと、撓う槍穂を跳ねのけて輝くクローを振るう。
 どこかにある筈だ。
 少年を老練なる達人忍者にせしめている、二枚一組のカードが。
 恐らくは、少年の象徴たる姿へと変えて。
 ならばそう、それはきっと、彼の者に不似合いなほど目立つ、胸に輝くアンタレスこそが、それなのだろう。
 残光一閃。虹の光跡を残すプリズマティッククローが、それを砕いた感触があった。
『むおっ!? ……おのれ、おのれ、なぜ、このような形を取らねばならぬ。拙を英雄と見たか。愚かなり』
「……強くなりたいのは誰でも一緒だからね、でもそれで自分を失いたいわけじゃないならここが引き際だよ」
『莫迦な小童よ。今暫し、今世を謳歌できていたものをなぁ』
「そろそろ、命脈尽きる時ですよ、蠍さん」
『口惜しや。次は……次はきっと、望む形で……』
 膝をつく忍者の影がぼろぼろと剥がれ落ちていくのを感じ取る。
 いずれは少年の姿を取り戻すであろうことを見越しながら、しかし、戦いがまだ終わっていないことも感じる。
「……これで大丈夫かな? 怪我は環お姉ちゃんのおかげで大丈夫だし」
 きっと、彼にカードを渡した黒幕が控えている筈だ。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

黒江・竜巳
俺ん家やと、生まれる前から俺の将来はもう大体決まっとったらしい
女やったら、どこそこの家へ嫁に
男やったら八城衆に
俺も大概メンド臭がりやから、生まれが黒江のお家|とちゃうかった《じゃなかった》ら、同じ様にダラダラ生きとったかもな
……ちょっと羨ましいわ

服部半蔵正成……鬼槍半蔵かー
ただでさえ槍って間合い広いし、やりにくいんよな
槍の穂先を納刀状態の五尺刀で払って捌きながら様子を伺う
抜き身の刀やとホンマに殺してまう
抜刀は出来へん

相手の呼吸を読めたら攻撃の|起こり《始点》が分かる
起こりが分かったらカウンターを狙える
連節鞭の攻撃を弾いて、空中に浮いた穂先を引き戻される前に間合いを詰める
顎、鳩尾、脇腹、膝上……
当たったらクッソ痛い急所めがけて攻撃
当たり所が悪かったら相手を昏倒さしてまう事もあるけど、今回はそれを狙う

お|前《まん》は俺と|違《ちご》て、まだなんぼでも選べるやろが!
こんなしょーもない所で死にたぁなかったら、しっかり歯ぁ食いしばっときや!

|南無大師遍照金剛《なんとかなれーッ》──!

 この夜はいつまで続くのだろうか。
 或は、その影が敵意を持つ限り、この商店街に降りかかる夜は終わらないのか。
 ひと気のなくなった商店街を覆うアーケードの屋根の上には、街が眠る時間になってもなお広告を映し出すモニターが強い光を放っており、そこに照らされる形でその影は形を成していた。
 奇妙な話だが、何かに照らされて初めて影が形を成すならば、影はその場に立つものではなく、光に翳るものである。
 それが直立し、襟巻のようにも見えた数珠の如き節に分かれた槍を抱える姿を見れば、それはもはや影ではない。
「服部半蔵正成……鬼槍半蔵かー」
 星空を背景にしてなお、黒く立ち昇る炎の様な井出達は、人影であることはわかるのに、その輪郭を判然とさせない。
 相対してようやく、幽鬼の様なそれが質量を持っていることに気付く。
 黒江・竜巳(〝根室法師〟・h04922)は、目に見えて我が身の不利を覚える。
 少年の身の丈を越えるような五尺刀。されど、馬ごと相手を断つような大太刀をして、槍を正面から打ち破るのは至難である。
 剣道三倍段とはよくいったもので、仮に重量が揃えられたところで、切っ先の間合いが揃えられたところで、整然と据えられた槍を真正面から刀で受けるのは難しい。
 点で迫るものに対し、真正面から打ち返すは難く、側面を打つにせよ、稼働する距離を考えれば、手首を返す程度の手間に対し、全力で腕を振り抜く手間を要する。
 まして、歴史に名を遺す武将を、不可思議なシデレウスカードなるもので騙ると言えど、相対して感じる圧は、まさしく達人のそれであろう。
 だがしかし、それは斬り合いに至った場合の話。
 竜巳の心に焦りはなく、あくまでもマイペースな観察から、相手の中に揺らぎを見る。
 相手はあの服部半蔵。しかし、その中には被害者の少年も残っているやもしれない。
 マスクドヒーロー世界の怪人がいかなるものかは知れないが、彼ごと斬ってしまうのは忍びない。
 いや、今だけは、抜かぬからこそ活路がある。
 担いだ大太刀の鯉口、その封を破らず、相手の意に呑まれぬよう浅く息をつく。
「俺ん家やと、生まれる前から俺の将来はもう大体決まっとったらしい。
 女やったら、どこそこの家へ嫁に。
 男やったら八城衆に」
『……坊主の倅が、一端に説法を垂れるつもりかよ』
 打ち合うにはやや遠間。その距離を詰めるか詰めぬか、という間合いの取り合いは既に始まっているが、平坦とはとても言い難いアーケードの屋根の上で距離を取りながら移動する竜巳の言葉に、忍者は反応する。
 権謀術数を唱えるかとも警戒する気持ちはあるが、どうやらその類の忍術ではないらしい。
 構わず話し続ける。
「俺も大概メンド臭がりやから、生まれが黒江のお家|とちゃうかった《じゃなかった》ら、同じ様にダラダラ生きとったかもな」
『何が言いたい?』
「……ちょっと羨ましいわ」
 目が、言葉が、意識が、こちらを向くのが分かった。
 その呼気、頭巾越しの気の起こり、兆しを見たからか、竜巳は口の端をつりあげる。
 その直後に、黒い人影の手元にあった筈の槍穂がぐんっと伸びてきた。
 地面を向いていた穂先が跳ね上がるようにして迫る様は、柄が伸びたような錯覚を覚えるが、その兆しが見えていれば合わせることは不可能ではない。
 差し詰め、担いだ状態からでは、掬い上げるような跳ね突きは躱せぬと判断したのだろう。
 上方を取っていた半蔵からなら、打ち下ろしてくるのがセオリーと判断すべきだろう。
「ふっ……!」
 大太刀の持ち手側から押し出すようにして鞘側の弓手ごと振り下ろすことで、跳ね上げを受け、払う。
 タイミングが完璧に合わなければ成立しない弾きと共に、竜巳は前へ出る。
 激しい衝突音とは別に、こきんこきんと小気味いい音が槍を支える長柄から響く。
 蠍の様な無数の節が折れ曲がり、更にこちらを付け狙わんとする穂先は、まさに鞭の様なしなやかさである。
 だが、竜巳は鞘に納めたままの大太刀をまるで棍のようにして自身と共に振り回してさらに外側へはじき出し、間合いの内側へと踏み込んでいく。
 ただの槍であれば、引き戻すのも容易であったろうし、素早かったはずだ。
 そして竜巳も、抜き身であれば到底こなせない立ち回りであった。
 抜かぬ、斬らぬ、と決意を固めたからこそ大胆に踏み込めたのである。
 根室寺は僧兵を擁する武闘派。大太刀も担げば、あらゆる武技を嗜む。
 即ち、抜き身の刀のみならず、抜刀せずの組打ちも心得ているものである。
 まだ育ちざかりの体格を補う大太刀の柄尻が、半蔵の顎を捉える。
『ぐごっ!』
 そのまま【一気呵成】に人体の急所目掛けて、刀と言わず体術も手伝って、鳩尾、脇腹、膝上と、とにかくぶつけたら痛い場所へと打撃を叩き込んでいく。
「お|前《まん》は俺と|違《ちご》て、まだなんぼでも選べるやろが!
 こんなしょーもない所で死にたぁなかったら、しっかり歯ぁ食いしばっときや!」
『ぐ、この、拙を肉弾戦で捉えるつもりか! 嘗めるなよ!』
 続けざまの攻撃が綺麗に決まったのは四発まで。
 相手も、人体を壊すことに関しては専門家である。
 揉み合いになるかのようなそれらは、技の一つ一つが威力を発揮する前に止め、止められの応酬であった。
 両者ともに長物を手にしているせいか、それらを十分に振るえない密着距離では決めきれない。
 だが、竜巳の言葉による説得は、肉弾の応酬以上に、半蔵の動きを鈍らせていた。
 達人ならば見せる筈のない戸惑うような一瞬のスキを見て、身を引くフェイントに乗せた引き太刀が肘を支点に跳ね上がる。
「|南無大師遍照金剛《なんとかなれーッ》──!」
『ぬおっ!? しまった!』
 ぱんっ、と振り上げた五尺刀の鞘の先が、半蔵を装束を掠めた。
 浅い、と思いきや、跳ね飛ばしたのは彼の襟元をまとめるアンタレスのような赤い飾り。
 それは、忍者には不似合いなほど目立つ装飾であり──、少年が抱く自己顕示欲そのもの。
 即ち、彼が手にしていた二枚一組のカードは、それに変じていた。
 勢いよくはじき出されたそれは、空中でひび割れて砕け、効力を失っていく。
『無念なり……今暫し、今世を謳歌してみたかったのだがなぁ……この小童は、まだ、器にあらず』
 ぼろぼろとすすが落ちていくように、黒い影が風に散っていく。
 うなだれた様子で、恐ろしき英雄はその身を失い、ラフな格好な少年が意識を失った状態で倒れ伏す。
 抱き留めてやる必要があったかもしれないが、竜巳は、ようやく殺意の消えたその場に膝をつきかねないほど消耗し、同時に安堵していた。
 いや、気を抜くのはまだ早い。
 敵はまだ、この場に残っているのだ。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

第3章 ボス戦 『地獄君主イポス』


POW 黒き爪の洗礼
【爪】が命中した部位を切断するか、レベル分間使用不能にする。また、切断された部位を食べた者は負傷が回復する。
SPD P & F アナライザ
「【お前の過去or未来の姿を知っている】」と叫び、視界内の全対象を麻痺させ続ける。毎秒体力を消耗し、目を閉じると効果終了。再使用まで「前回の麻痺時間×2倍」の休息が必要。
WIZ B & W アクセラレータ
「全員がシナリオで獲得した🔵」と同数の【勇敢さと機知が強まった配下の戦闘員】を召喚する。[勇敢さと機知が強まった配下の戦闘員]は自身の半分のレベルを持つ。
イラスト 星月ちよ
√マスクド・ヒーロー 普通11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

『おお、口惜しい。これは残念だ……』
 夜空にひび割れたシデレウスカードが舞う。
 それが飛ぶ先には、いつからそこに居たのか、奇妙な獣が四つ足で佇んでいた。
 意志を持ったかのように彼の者の口元に、さそり座と服部半蔵のカードはくわえられ、色を失ったそれはガラス片のようにちらばり、消えていく。
 星空のもとにも、それは褪せた灰色の毛皮と、獣の様な鳥の様な、奇妙な姿をしていた。
 知恵あるものは、その伝承上の姿をして、地獄の君主の一柱を思い浮かべるであろう。
 地獄君主イポス。
『このような未来になろうとは、予測できなんだ。……いや、これも汝らの思う通りなのか。しかし、我が予測が外れるとは、これも面白いお話』
 その前足で自身の首を掻く動作は、油断しているようでありながら、仕掛けるタイミングを全く見いだせない凄味があった。
 まるで、数手先を読まれているかのようないやな感覚が、この場に居る誰もに去来していたろう。
『あの牛の営業に付き合わされるのは業腹であるが、いやいやしかし、鉄火場に出てみるものよな。
 我は気分がいい。さあ、見せてもらおう。
 さあさあ、拾いたまえ。汝らの運命を』
 そうして、この物語の黒幕の一柱は、凶星のような赤い瞳をぎらりと光らせるのだった。
 彼の者こそ、少年にシデレウスカードを齎した悪魔であろう。
クラウス・イーザリー
「残念だったね、思い通りにいかなくて」
予測はあくまで予測に過ぎない
運命だって変わることもあるだろう
良い方にも、悪い方にも

光刃剣を抜きながらダッシュで距離を詰めフェイントや牽制攻撃を交えて隙を作りながら居合や喧嘩殺法で攻撃していく
黒き爪の洗礼は右掌で受け止めてルートブレイカーで阻止
右掌が間に合わない時は見切りで回避して切断を避ける

「君は怪人を作ることにそこまで熱心では無いように見えるけど、何で手伝ってるの?」
戦いながら問いかける
シデレウスカードを配っている他の怪人と違って、イポスがこの事態に加担している理由があまり見えないから
どんな理由であれ、敵対は避けられないんだろうけどね
雪月・らぴか
むむむ、いつの間にかいたけど誰ー!?シデレウスカード絡みだけどドロッサス・タウラスじゃないんだねー?人手不足なのかな?カードばら撒いて怪人作るくらいだからそうだよね。
なんかやる気満々って感じだけど、私だって負けないよ!

敵の√能力は食らうとやばそう!ってことでやっぱり[霊雪心気らぴかれいき]を飛ばして動きを見るところからだね!敵の爪の攻撃は避けるんだけど、振り方によるけど前に出て潜り抜けるのがいい気がする!そして多分近接間合いだと、後ろ足があるから後ろは危なそう!できれば横をとりたいね!いい感じの位置に来れたら【変形連鎖トランスチェイン】で一気にダメージ狙いたいね!

 そろそろ忘れてはいまいか。
 星詠みは√能力者のみに許された無法ではない。
 √EDEN世界へと侵略をかけるほどの力を持つ者たち、インビジブルを手にせんとする者たちは、そのほとんどが星詠みと同等の予測を立てられるという。
 彼らの予見と、或はかち合うような行動ををとるとき、運命はひび割れ、誰にも予測の立たぬ事になるのだろう。
 運命を事前に見知り、その手に収めんとする怪物の一柱、地獄君主イポスは、或は、飽いていたのかもしれない。
 己の傾ける運命の行く末にすら。
 だからこそ、未来の見えなくなったこのひと時を、その硬質なクチバシの様な口元を歪めて笑う。
「むむむ、いつの間にかいたけど誰ー!? シデレウスカード絡みだけどドロッサス・タウラスじゃないんだねー?」
『ほう、あやつを知っているのかね。それは、目当てのものでなくて残念だったな』
「人手不足なのかな? カードばら撒いて怪人作るくらいだからそうだよね」
 雪月らぴかは、今まで意識もしなかった雑居ビルの屋上に、いつの間にかいたその獣様な影が、今になってどうして気づかなかったのかというほどの異質な気配を発していることに、うっすらを冷や汗を浮かべる。
 紳士的な応答は、或は戦いを避けることも不可能ではないのかもしれないが、何故だろうか。仮にそうした場合、真っ先に首を刈られそうな嫌な予感がするのだった。
 それと同時に、こんなやつを顎で使えるなんて、ドロッサス・タウラスって結構偉いのかなとちょっと感心するのだった。
 逸る気持ち、弾むバスト。いや、それはいい。
 浮足立とうとする魔法少女ルックの背の高い女の子を、もう一人の√能力者、クラウス・イーザリーが諌めるかのようにすっと一歩前に出る。
「そちらこそ、残念だったね、思い通りにいかなくて」
『ああ、そうだね。予測が崩れるのは、こんな残念な気持ちになるのだと、今は少し感動しているところだよ』
 あまりにも理性的。その気配の異質さと裏腹の話の通じやすさが、クラウスの次の一歩を踏みとどまらせていた。
 息が合わされているかのような、型にはまったかのような、うまく事を運んでいるからこその違和感が、背筋を冷たくしていた。
 まるで見透かされている。
 悪魔に魅入られるとは、蛇に睨まれた蛙とは、即ちこういうことなのか。
 軽々と、身を翻して同じ建物の上に着地する姿は、とても優雅な獣の様な佇まいだが、無造作であるが故に、いつ踏み込んだものか考えてしまう。
 先ほどの服部半蔵が比類なき努力の末に積み上げた技術によって近づきがたい気配を有していたとは違い、正面から見つめられているのに、後ろからも見られているかのような気分の悪さがどうにも拭えない。
「どうする。いつ仕掛けても嫌な感じ」
「星詠みみたいな能力を持っているのかもしれないね。でも、予測は予測に過ぎない。
 運命だって変わることもある」
「だね!」
 いつしか気圧されていたらぴかは、常に冷静なクラウスによって自分を取り戻す。
 相手がやる気な以上、こちらも気を落としている場合じゃない。
「私だって負けないよ!」
 クラウスとらぴか、その視線が一瞬だけ交わったのを合図としたかのように、らぴかは声を上げて、その身体から吹き上がる冷気を迸らせる。
 『霊雪心気らぴかれいき』は、ゴーストトーカーならではの霊気、あるいは冷気を操ることで、周囲の環境を変化させる。
 それがただのダジャレからくるのか、心霊現象と温度の低下は切っても切れないという理由からくるのか、ともかく、迸る冷気がいち早くイポスへと襲い掛かる。
 生身で戦う以上、二人の戦闘スタイルは踏み込んでの格闘戦。
 しかし獣のキメラのようなイポスの猛獣の姿は、安易に格闘戦を挑むには凶悪だ。
『牽制を仕掛けて、接近戦かね。安易ではないかな? こちらの脅威が、目に見えぬと見える』
 だっ、と大げさな踏み込みで冷気と共に踏み込むらぴかを前に、イポスは退屈そうに嘆息するが、そういえば、クラウスはどこだろう。
 考えてもみれば、らぴかが冷気を発する際に、必要以上に声を上げ、その時から既に視界の端の闇へと姿を投じ、姿を消していた。
『おや?』
「こっちだ!」
 何かに気付いたように身をかがめるイポスの身体の縁を、クラウスの死角からの小型拳銃の銃弾が掠める。
 ただ踏み込んだだけでは御し得ぬと判断し、拳銃による牽制をかけたのだが、これもまたわざわざ声をかける必要はなく、それすら予想通りとばかり躱されるのも双方織り込み済み。
 抜き放つ、光刃剣が、暗闇の中で輝く刀身を見せる。イポスとしては、そちらを見ずにはいられないが、別角度ではらぴかが踏み込んでくるのをもう見ている。
 霊気を纏った拳。だが、それとイポスの黒い爪を備えた前足とがかち合うのは危険。
「くっ、側面に回ろう!」
「──っ!」
 咄嗟に身を翻してローリング。しかし、後ろに回り込んでも強靭な後ろ足でバックキックされては、身体のどこかが削ぎ飛ばされてしまいかねない。
 後ろ足で立ち上がり、覆いかぶさるかのように立ち上がったイポスの威圧的な姿勢に、思わず怯んでしまいそうになるが、クラウスは抜き打ちのように光刃剣を振り抜く。
 声ならぬ息が、気勢とともにその猛獣の前足を切り……飛ばせない。
 だが、弾いたことで勢いを削いだ。
 咄嗟に振り抜いた剣の柄を手放し左手に渡しつつ、空いた右手を、はじいたイポスの前足に合わせた。
『我が爪を恐れぬのかな? それとも、右腕が要らんのか? なに?』
 【ルートブレイカー】。そのおぞましい気配を√能力と判断し、抑え込みにかかったクラウスの右手がお互いの動きをひと時だけ拮抗させる。
「君は怪人を作ることにそこまで熱心では無いように見えるけど、何で手伝ってるの?」
『なんだ、我と話がしたいのかね? お茶でも用意すればよかったかな?』
 クラウスとイポス、その目を合わせ、嘯きながらも、もう片方の前足が容赦なくクラウスを屠ろうとするのを、らぴかが抱き着くようにして、そのその腕を抑え込んだ。
 体格差と筋力差で無理矢理押し切ろうにも、彼女の手から発する冷気が、それを拒否する。
「他の怪人と違って、そんなたいそうな力があるのに、ドロッサス・タウラスをお手伝いする理由って何なのさ?」
『若者は質問が多い……かの少年のように、運命に打ちひしがれて尚、落ち込むことなく、運命に挑み続けるなど……羨ましいとは、思わないかな? なんでもうまくいくというのは、それはつまらぬお話なんだよ』
「なんだって……?」
『だから、今の事態は、残念でならない。運命とはかくも、ままならない物なのだね』
「こいつ、なにをいっているの!?」
 拮抗が崩れる。
 一瞬、その一瞬だけ、イポスが何を言っているのか、困惑したその瞬間、激しく身もだえするイポスの気味の悪い笑みを浮かべる赤い瞳が、得体のしれないものを帯びていたように感じた。
 だが、そこで怯めば相手の思うつぼ。
 聞きたいことはあったが、らぴかは温存していたパワーをここで発揮する。
 【変形連鎖トランスチェイン】。溜めに溜めた冷気のパワーが、魔杖の先端に刃を成し、それが鎌、槍、斧など、打ち据えるたびに砕けるが形状を変えて、それにふさわしい連携攻撃へと変じていく。
 とにかく、こいつを、イポスを思い通りにやらせてはならないという、漠然とした不安を振り払うかのように、らぴかは、クラウスは、連撃を加えていくしかない。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

矢筒・環
ハクくん(h02730)と

あなたが今回の諸悪の根源ですか。ソロモン七二柱というよりは、四凶『窮奇』の方が印象に近いですね。あなたの悪行はここでお仕舞いです。

数には数。湧いて出た戦闘員は「インビジブル制御」したインビジブル・パーティーで使役するインビジブル達で抑えます。
敵への道を作りますから、ハクくんはそこを突っ切ってください!

「幻影使い」でインビジブルの数を数倍に水増しし、あれから正常な判断力を奪います。ハクくんは、幻影インビジブルの群を突っ切って攻撃を。
こちらも虚実織り交ぜたインビジブルの攻撃で、あれの集中力を削ぎ落とします。
戦場で浮き足立てば、待つのは敗北。ハクくん、後は任せました!
櫻井・ハク
矢筒・環 (h01000)お姉ちゃんと一緒に
「・・・地獄の君主か、過去や未来に関係するタイプみたいだね」
黒幕の1柱らしいけど他にも同じような悪魔がいるのかな?
引き続きプリズマティック・キャット憑依合体
「・・・予測は予測だしそれに抗う人がいればこの結果も当然だよ」
オーラ防御を使いつつ環お姉ちゃんのインビシヴル達と攻め込むよ
居場所を悟られないように別方向から曲げた誘導弾で牽制しつつ接近して爪で攻撃だね(マヒもあるけどできれば回り込んだり光らせて目くらましとかできればベストかな?)
「・・・相手が強くて立ち向かうのが大事だね」
環お姉ちゃんに攻撃がいかないように気をつけつつインビジブル達と立ち回るよ

 夜闇がしみ出したかのような、冷たい殺意は消えた。
 しかしながら、その次に現れた怪物は、喉元に刃物を突き付けられるかのような冷たい殺意こそ抱いてはいなかったものの、特有の居心地の悪さを感じる相手であった。
 前に進むも、後ろに下がるも、思わず躊躇してしまいそうな、視線に憚られるかのようなそれは、一言で言うなら、読まれているかのような気味の悪さだ。
 技のみで圧倒する服部半蔵の人間的な恐ろしさとは別の存在感と言わざるを得ない。
「あなたが今回の諸悪の根源ですか。ソロモン七二柱というよりは、四凶『窮奇』の方が印象に近いですね」
『人の恐れるものとは、案外似ているものだよ。見慣れているものと、それは少しばかり変わっているだけで十分なこともある』
 矢筒環と、彼女に付き添う少年、櫻井ハクは、いくつかの獣が合わさったかのような異様な姿ながら知性を思わせる佇まいの中に、いくらか切り込める隙を見出そうとするが、話しかけ、それに応じる最中に於いても、異様な居心地の悪さは拭えることはない。
「……地獄の君主か、過去や未来に関係するタイプみたいだね」
 凶星の如きその赤い目がこちらを見ている。
 いや、視線が向いているわけではなくとも、まるで四方八方から見られているようにも感じる。
 おそらくは、その悪魔には、目で見えている以上のものが視えているのかもしれない。
 そしてそれを感じるからこそ、恐ろしいと感じるのだ。
 運命を自在とするならば、その力は星詠みなどとは比べ物にならないのではないだろうか?
 しかしながら、地獄君主イポスは、その絶対的な予測を崩されたという。
「……予測は予測だしそれに抗う人がいればこの結果も当然だよ」
『いや、実に、残念だよ。我の予測を上回る相手がいることも、この結果も残念でならない』
 悪魔とした形容の出来ぬその獣のキメラが笑う様は、背筋を寒くさせる。
 あろうことか、イポスは予想外のこの状況をこそ、戯れの中に喜んでさえいる様子だった。
 なるほど、この狂想に付き合っていたら、身を滅ぼしそうだ。
 悪魔に付き合うということは、こういう事なのかもしれない。
「とにかく……、あなたの悪行もここでお仕舞です」
「……そうだね。ここに、彼の居場所は存在しちゃいけない」
 【プリズマティック・キャット憑依合体】を持続し、虹の輝きを帯びた護霊の猫と重なったハクは、輝きを増すパーカーと、その両手に装着したクローを構える。
 すると、喜色に歪むクチバシを傾けるイポスの周囲に、影のように立ち上がる人影が多数。
 鳥の頭をしたような黒い戦闘員の姿に、ハクは思わず視線を巡らせるが、環は、即座に数に対抗して、周囲のインビジブルを呼び寄せた。
「数には数。こっちはお任せください。道を作りますから、ハクくんはそこを突っ切ってください!」
 戦闘員に匹敵する数量のインビジブルを呼び寄せ協力を要請する【インビジブル・パーティー】により、とりあえず数の面で負けることは無いだろうが、相手の戦闘力は未知数である。
「……ありがとう。やってみる」
 さらに環は、ハクの活路を見出すために、幻術を用いて、呼び寄せたインビジブルの数を割り増しして、数多く見せ、ハクの姿をも見分けづらくしてしまう。
 多種多様なインビジブルの集まり、そして多様な戦いぶりが、戦闘員を押しのけ、かき分け、君主への道を作り出していく。
 だがそこに、ハクの姿はない。
『ふむ、肝心の戦力の姿がないな。わざわざわかりやすい道を作るわけもないかな?』
 視界の通る道を作る。それは、すなわちイポスの思うつぼでもあった。
 その悪魔の瞳は、相手の過去や未来を見通す。
 全てを見透かされた相手は、心の虚を突かれて立ち尽くしてしまうところかもしれないが、光り輝くあの猫の少年は、そこにはいない。
「決められた道のみが、常に正解とは限りませんよ」
『しかし、人間は運命に従う奴隷とも言うじゃないか』
「……それでも──」
 光りの片鱗が、イポスの視界の隅から現れる。
 インビジブルに担ぎ上げられるかのように空中に躍り出たハクが、滑空するかのようにその爪を振り上げていた。
『お前の未来を知っているぞ』
「相手が強くても──」
 見つめるその眼差しに対抗して、その未来ごと光で眩ませようと、その護霊を輝かせる。
「……立ち向かうのが、大事だよ」
『むう……視える。お前の中に、眩い程の闇が』
 異形の獣の肩口に、クローの光跡と、どす黒い何かが噴き出した。
 悪魔のこぼした言葉は、果たして彼の何なのか、それともただの呪言なのか。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

夜久・椛
ん…あの獣が今回の黒幕?

「そのようだな。もう加減する必要はないが、油断はするなよ」

ん、了解。ボクはヒーローじゃないけど…迷惑だからしばくよ。

まずは御伽図鑑と【錬金術】でナハトを召喚。
今回はナハトのコックピットに乗り込んで【操縦】するよ。

敵が配下を召喚したら、ナハトに装備させた紅月に風霊兵装を付与して振るい、竜巻を起こしてまとめて【範囲攻撃】。
回避しようとしても【野生の勘】で動きを読んで二撃目の風の刃で【なぎ払い】。

敵の反撃は【野生の勘】で察知して【幻影使いの残像】を囮に使って回避。
【カウンター】でビームテイルを伸ばして敵に巻き付けて【捕縛】し、【2回攻撃】の追撃で風の刃を放って切り裂くよ。
ラーレ・レッドフード
アタシの好きな事の一つはな。こーいう策士気取りなヤツの顔面をぶっ潰すって事だ!!!

宣言通りアイツの顔面をぶっ潰す!
まずは着てた外套を外す。そして瓶なり林檎なりを入れていたバスケット放り投げる。
後は単純だ。銃を持って突っ込む!!

靴に脚を任せ、敵へ迫る。
──まだ。
相手は動かない?備える?それでも距離を詰めなきゃ話にならん。
──まだだ。
相手がわずかに動くその瞬間まで。限界まで瞼を上げ瞬きをせず。
──ここだ。
相手の爪先。私の視界外。
隠し持ったマッチが灯す突っ込むアタシ。それに隠れるように銃を構える私。
相手の爪先。ソレの本当に先端。機先を潰し逸らすように弾丸を当てる。

後は単純。
「オラ死ねええええ!!!」

 恐怖の存在、現代によみがえったかの高名たる忍者、服部半蔵を騙る怪人はその影を失い消え去った。
 しかし、その消失を見届けるかのようにやってきた黒幕は、それまでの技術で圧倒するかのような威圧感とは別の異様な存在感を持っているようだった。
 まるで、こちらの行動を先読みされているかのような、運命の手綱を握る側であるかのような。
 その異形の獣めいた姿、そして赤い瞳には、何か、物理的でないもっと別の何かが見えているのか。
「ん……あの獣が今回の黒幕?」
『そのようだな。もう加減する必要はないが、油断はするなよ』
 夜久椛は、それをただの獣とは思いはしなかったが、悪賢さを役割として課される狐の様に、御伽に於いて獣の役割は広いのである。
 決して侮っているわけではなく、彼女も、そして椛の尻尾として舌をちろちろさせるオロチもまた、その異質さに気付きながらそれを素直に敵と認識していた。
 その所業が悪であるからか。或は、
「ん、了解。ボクはヒーローじゃないけど……迷惑だからしばくよ」
『それが君の運命なのかね。それとも我の? いざ、予測の外側に出てみると、わからぬものだね』
 それでも数手先、数年先を見るかのような地獄君主イポスの佇まいには、容易に踏み込めぬ異質さを感じずにはいられない。
 何か仕掛けても、その数手先まで見切られているかのような居心地の悪さ。
 生半可な策では、それを上回ることなど不可能であろう。
 過去も未来も見るような相手に、知恵比べで競ることなどできようか。
 物語の主人公ならば、その辺りに明確な答えを持ってくるのかもしれないが。
「あー、気に食わねぇ。気に食わねぇな」
 そんな、何でもお見通しという、戦略家のようにゲーム盤を見下ろすかのような視線を、赤い頭巾の少女は煩わしげに口を挟んで黙らせる。
「アタシの好きな事の一つはな。こーいう策士気取りなヤツの顔面をぶっ潰すって事だ!!!」
 ラーレ・レッドフードは、この場に膠着が生まれそうな気配を感じ取ると、自ら打って出るかのように、大声を張り上げる。
 それは宣戦布告だ。
 具体的な策を語るわけではないが、とにかく攻撃の意志をぶつけるための、その宣言と共に、ラーレは、自らのトレードマークである頭巾を脱ぎ捨てた。
 上半身を隠すように覆うそれは、彼女自身を印象付けるかのように目に痛いほどの赤いフード。
 それを脱ぎ捨て、飴色の金髪を惜しげもなく夜風に晒す姿は、いっそのこと少女らしさを強調するものであったが、ラーレは更に手持ちの便利な武器になり得るアイテムの詰め込んだ手籠も放り投げ、ついには手にするのは愛用の散弾銃一挺となった。
 びょうと吹き抜ける風が、周囲の呆気にとられたかのような空気を物語るかのようであったが、その可憐な少女然とした姿に反して、その姿勢はあまりに男らしい。
『策を捨てるか。その手も悪くない。だが、読みを捨てて、正面から挑むには、少々、華奢ではないかな?』
「そうして、策に甘んじてりゃあいい」
 銃口を向けられてなお、見下すことを止めない君主を前に、ラーレは堂々と突っ走る。
 靴の向くまま、足の進むままに。
 まさしく真っ向勝負。
 だが相手はおとなしく待ってくれているだろうか。
 そんな王道、あり得ない。
 びょうと風が吹く。
 眩しい程の王道は輝かしくも、非現実的。
 夢に見るほど男らしい有様には感動すら覚えるが、それを見て見ぬふりはできない椛は、ラーレの無策とも言うべき姿の真意を知らぬまま、風を起こす。
 スマホ型の御伽図鑑を掲げ、ありったけの御伽物語を錬金術で以て形と成す。
 それは、量産型ウォーゾーンを参考に、現実に落とし込んだ御伽による人型機兵「ナハト・カッツェ」であった。
 忍者のように黒く二刀を携え、ビームの光沢をもつ尻尾を備えた黒い猫。それに組み込まれるように乗り込むと、神話のように一人掛ける少女に立ちはだかるかのように、イポスの周囲には無数の人影が立ち上がるのが見えた。
 銃を構えるラーレ。しかし、その一発で薙ぎ払えるのは何体までか。
『あれが本当に、ただの無茶のためのポーズだとは思えないが』
「ん、でも、何かするつもりなら、手伝った方が効果的、かも」
 パルスブレード『紅月』がその名の通り闇夜の中に赤い光沢を滲ませると、その刀身に【戦闘錬金術「風霊兵装」】を乗せて、その斬撃を竜巻と化す。
 残像を残す程の踏み込みと斬撃で、ラーレの駆ける道を作り出す。
 彼女がなんのために無防備を装って突撃しているのかは皆目見当もつかないが、狙いはイポスで間違ってはいない筈だ。
 その障害を排除しつつ、椛もまた攻撃を積み重ねれば、話は早いはずだ。
 びょう、と風切り音が黒い人影たちを薙ぎ払う。
「へっ、モーセにでもなった気分だぜ!」
 切り裂き、爆ぜていく黒い戦闘員の鳥頭たちの取り払われた道を全力で駆けるラーレが、一足飛びにイポスの眼前まで飛び上がる。
 手先に隠し持った不思議なマッチが、手を開く動作と共に摩擦で擦れて火が灯る。
『そんなものが、君の用意した最良の策なのかね?』
「夢があんだろ?」
 不可思議な光景を垣間見せるそれは、確かにイポスにとって予想外だったが、飛び上がった少女の向けるその銃口を完全に隠しきれるようなものだろうか。
 持ち上がる獣の上半身は、容易にその前足で以て、ラーレを制圧しうるであろう。
「チィ……ッ!!」
 機先を制して撃ち込んだ銃弾が、イポスの顔面を捉えたが、完全にその勢いを削ぐことは叶わない。
「もう一撃……!」
 捲きあがる風が、黒い猫の影を滑り込ませると、赤い刃から生じた風がイポスの前足を封じる。
 ついでに、ビームの尻尾がその胴に絡みつき、イポスの身動きすらも封じてしまう。
 ──ここだ。
 ラーレは空を掻く足で、その先端がわずかにナハトの頭上を乗り越えた気がした。
 気のせいか猫の悲鳴を聞いたような気もしたが、いや、それよりも、これでようやく無策なりの策は成った。
 【裸の女王様】の名を冠すその切り札の一つは、頑なに脱がなかったフードを脱ぎ捨てるというある意味で決断を要するだけはあり、そのリスクと技巧の果てにやって来るのは、正直者を断罪する巨大な斧であった。
 どこから現れたのか、飛び込むラーレの掲げた手、銃すらも手放したその手に収まるが、刃はやたらと大きなそれを、あとは振り下ろすだけというその一手の為だけに、
「オラ死ねええええ!!!」
 少女は、おおよそ、少女らしからぬ雄たけびと、そして白刃と共に落下するのであった。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

黒江・竜巳
言うたやろ
俺の|未来《将来》はもう大体決まっとる
実家の寺継いで、八城衆として戦って……
俺の変わりにやってくれる人なんか|居《お》らんしよー
ほな、俺がやらなアカンやんか……!

咄嗟に鯉口切って途中まで抜刀する
見た目には何の変哲もない刀やけど、刀身は鏡面の如く磨き上げてある
それ|使《つこ》て街灯なりモニターなりの光を反射
目を閉じさせれたら御の字
ワンチャン刀身に映った姿見て相手も麻痺ってくれんかな

再使用までの隙を突いて、半端に抜けた五尺刀の峰に手を添え、そのままフルスイング
鞘がすっぽ抜けるまでは長さの分の遠心力が乗る

天に十六、地に八方……
悪を懲らすもまた御仏の慈悲である
往生しぃや!

 唐突に現れた、それは、黒い影のようにも見えた。
 それだけで言えば、あの黒い威圧感の塊のような服部半蔵を騙る怪人のほうが脅威であったろう。
 全容の知れない黒い炎のような、あの圧倒的な技術の塊。
 こと肉弾戦に於いて、あそこまで洗練された武は、そうそうお目にかかれなかったろう。
 だからこそ、その四足獣の異質さには、黒江竜巳は身の毛もよだつ恐怖を覚えるのだった。
 無論、武を嗜む者として、それを表に出すことはないが、それは怪人と称するには歪であるように思えた。
 月の中の影、星空の中の影というには、夜闇に隠すにはあまりにも邪悪である。
 善悪の目方を知るわけではないが、全細胞が、その存在を拒否しているような気分の悪さに説明がつかなかった。
 鳥のような、獅子のようなその姿から、技巧は微塵も感じないというのに、何を打ち込んだところで、それが空を切る想定しか浮かばないのだ。
 まるで、
『そのナイフ、随分使い込んでいるね。グリップが擦り切れそうじゃないか。なんだったかな。縁起が悪いんだろう、そういうのは』
 ひどく紳士的で、安らぎすら感じる口ぶりは、おおよそ獣の姿からは想像もつかないものであったが、いざ向けられると嫌らしさがわかる。
 熟し過ぎた果実のように、それはアルコールにも似たニオイを纏って、竜巳の心にまとわりつくかのようなものであった。
 そうか、これが、悪魔という存在なのだ。
『眠そうな顔をしている。子供はもう寝る時間じゃないか。ああ、嫌味に聞こえたならすまないね。定命の者というのは、吹けば飛ぶような時間しか生きられないのだろう。
 だから、そうして、手に|肉刺《まめ》を拵え、幼子の手を老人のように様変わりさせてしまう。急がなくとも、早晩、君は老いてしまうのに』
「ふん、よぉお、喋んのー」
 心の隙間に入り込むかのように、それは的確に、言葉のみで擽りに来る。
 竜巳の決して恵まれているわけではない体格の中に押し込めて、おくびにも出さぬささくれを撫でつけられるたび、大太刀を担ぐ手元がおもわずぴくりと疼くのだが、屋上の床板を踏みしめる足元が、頑なに逸るのを許さない。
 まだ一足の間合いに遠く、その心は一刀に定まっていない。
 相手の出方を、その正確な間合いを知らぬまま踏み込むは愚策。
 すらりと首を伸ばす地獄君主イポス。その赤い凶星の如き眼がギラリと見る。
『おや、お前の行く末が見えるようだ。ふふふ、その有様で、何か成せるとでも思うのかね? ああ、いやいや、これは忠告だよ。我より大分若くはあるが、君の師には、それほど長い時間は無いのだろう? 焦らなくていいのかね?
 だがしかし、残念だ。それが、君の拾うべき運命なのだ』
「て……」
 全身が毛羽立つほどの高ぶりを感じ、思わず睨み返そうとする竜巳自身が、心中で叱咤する。
 こんな分かり切った誘いに、誰が乗る。
 売り言葉をまんまと買う勢いで、安易な啖呵を切るところだった。
 全く気付かぬうちに、全身が強張っているのに気づく。
 こんなに全身で力んで、固まり切った筋肉で、いったいどうやって最速の踏み込みが担えようか。
 技巧が無いなどと、まったくの見当違いだ。
 あの眼力と、そして巧みな言葉こそが、イポスの、悪魔の技なのだ。
 もう半分ほど、奴の術の沼にはまってしまっている。
 目を逸らそうにも、それは奇妙な輝きを持つ目線が、それをなかなか許さない。
「──ぬうう……」
 五尺刀を担ぐ手が鞘まで届かない。だから、首後ろで挟むようにして、身を捩るようにして、わずかに鯉口を切る。
 うっすらと、その広い刀身を晒す太刀の刃は、鏡面のように磨き上げられている。
「言うたやろ。
 俺の|未来《将来》はもう大体決まっとる。
 実家の寺継いで、八城衆として戦って……
 俺の変わりにやってくれる人なんか|居《お》らんしよー」
 ずるりずるりと、獣革で均したかのような美しい刀身が、広告モニターや商店街の明かりを吸って輝いているようにも見えた。
 それは、凶星のように輝くイポスの目ですらも。
 何の変哲もない、ただの金属の刀身とはいえ、丹念に磨き上げられた刃の輝きは、それゆえに、暗闇の中でも正確に彼の者の眼力を反射し得た。
『むっ!?』
 人の運命を呪うほどの威を込められた眼力を、鏡映しとはいえ、咄嗟に真に受けて、イポスはひと時、ほんの一瞬、目をしばたたかせる。
「──ほな、俺がやらなアカンやんか……!」
 その一瞬、指を爪弾く程度の時間さえあれば、一合に足る。
 そうとばかり、全身を脱力させた竜巳の筋肉は一同に発露する。
 担いだ五尺刀、その峰に手を添え、上着を脱ぐかのように鞘を払いながら刀身を加速させ、振り抜く手を撓らせる。
 鞘が抜けていく最中、その加速は長さの分だけ刀身は加速し、踏み込む力と合わさり、すっぽ抜けた長い鞘が虚空を舞う頃には、大太刀はインビジブルと化した刀身を月光の如く火照らせて、獣の肩口を捉えていた。
『グヌゥ!! やはり、気に入らぬ運命かね。壊したくなったかね?』
「天に十六、地に八方……。
 悪を懲らすもまた御仏の慈悲である。
 往生しぃや!」
 最後まで問い続けるその悪魔の言葉に、もはや耳を貸すことなく、【画竜点睛】は最後の足りずを埋める。
 剣身一体、心刀一体。剣とは、刃とは、即ち斬ることなり。
 それ以外は、蛇足。
 そこに、邪念の入り込む余地なし。
🔵​🔵​🔵​ 大成功

ハスミン・スウェルティ
◆キャラ設定
引き続き、人格・青色
青色は武闘家で求道者、沈着冷静
但し驚きだけは人並みに感じる為、その感情を与えてくれる強者を探す
※仲間への配慮は忘れない

◆青色のスタンス
予測…未来予知が得意な相手の様だ。
名のある悪魔が相手ならば、相手にとって不足は無い。
その予知能力、存分に見せてもらおう。

◆戦闘/POW
爪攻撃をジャストガード・受け流し・見切りで捌き
序盤は鉄拳で様子見をしつつ攻撃し、折を見て『驚くべき~』にて拳を叩き込みに行く
とはいえ、過去に使っている技…かつ相手が悪いだろうが…それでも構わない
今の全力を出して倒せずとも。

問答は早い方が良いか…冥途の土産感覚で教えて貰えれば楽か
営業と言ったな、キミは何か対価として受け取ったのか?

条件を満たしたら『銀に戻る~』で致命傷を回復
驚いたな。見事な技だった。もっと見せてもらおう…全ての技をワタシの糧とする為に。
予測を外れる事が発生すると、生を実感して良いだろう?

過去が見えるのなら…ワタシに殴られた相手がどうなるかも見えたよな?
◆即興連携・アドリブ歓迎

 おぞましきそれは、獣の姿をしていた。
 しかも、余人の知るところではない、その姿はおおよそ、人の世にあってはならない冒涜的な混ざりもののような、獣のキメラという他にない。
 人の噂が混じったような、伝承から無理矢理、形を成したかのような、それはきっと、人の思惑が作り出した、悪意、悪魔と呼ぶべきもの。
 どす黒い影を、星空の下に落とす姿は、先ほど拳を交えた服部半蔵を騙る怪人とは全く異なる存在感であった。
 冷たい殺意と、武の頂の一端を見たかのような、洗練された清涼さではない。
 血に染まった眼差しを受けたことがあろうか。
 情念で以て血眼になった眼差しを受けたことがあろうか。
 黒い影で出来ているかのような、獣、地獄君主イポスのその眼差しは、奇しくもアンタレスにも似た赤い星の輝きを思わせる眼光を放っていた。
 それを正面から受ける、ハスミン・スウェルティに表情はなく、武に通ずる青い人格を宿した今は、それと正対すべく構えを取っている。
 にも拘らず、そこから繰り出すおおむねすべての技に対して、自信が持てなかった。
 彼女の戦闘経験が、あらゆる想定に否を投げつけてくる。
 仕掛けるすべてが、まるで詰まされることを前提として動くかのような。
 最速の踏み込みから正拳を叩き込む、事から既に外される。
 ならば低く行くと見せかけて跳び上がって浴びせ蹴り……は、その爪先が到達する前に迎撃されてしまう。
 触りはフェイントとして、回り込んで関節を極めにかかりに行こう──とすれば後ろ足で胴を突き飛ばされる。
 まるで、未来でも見えているかのように、こちらの想定を潰してくる。
『いい未来は見えたかね? 君ほどの使い手だ。きっと、掴み取るべき未来が見えているのだろう?』
「驚いている。キミのそれは、技とは言い難いのに、何故だか届かないらしい。予測……未来予知が得意なようだ」
『それは、残念だったな』
 武に於いて、兆しを読むことは不可能ではない。
 たとえ種族は違えども、筋肉の動きないし、物事の予備動作やその在り様から相手の起こりに見立てを持つのは、武術という道を行かば必ず身につくものであるはずだ。
 地磁気を読む水棲生物がいるように、空気中の湿度で雨を読んで葉裏に隠れる虫を狙う鳥がいるように。
 予兆とは、神秘的な力を持たずとも観察眼からある程度は読み取れるものでもあるのだ。
 その本質は相対するもので異なろうとも、読み合いで拳を合わせぬまま、ハスミンは、未だ有効打を探し当ててはいない。
 それでも時間は止まってはくれない。
『それでも、止まることはできないのだろう? 君はそういう生き物だから』
「名のある悪魔が相手ならば、相手にとって不足は無い。
 その予知能力、存分に見せてもらおう。
 ワタシがより高みへ至るために」
『それが、君の選択かね?』
 迫るイポスが、上半身を持ち上げて、その前足を振り上げる。
 獣がその前傾を預けるようなその攻撃は、体格差もあってか、到底受け止めきれるものではあるまい。
 受けられぬならば──、と、ハスミンは着用している拘束衣めいた世界の歪み、彼女たちを捕えている歪みの一端を脱ぎ捨てる。
 拘束具を外しても服が脱げたりするわけではなく、それは開放的拘束衣に過ぎないのだが、それはまあ、置いておこう。
 内側に留める歪みを脱ぎ捨てたことで、その両の拳に歯止めは利かない。
 そうでもしなければ、その前足は受けきれまい。
 いや、そうであっても、受けきれはしない。
「っ!!」
 力では受けきれない。と悟った瞬間、立てた両腕を捻り体重移動と共に横に反らして、全力で受け流す。
『君にも結論が見えているのだろう。それは、ひどくつまらぬものではないかな?』
「……なら、冥途の土産に教えてほしいな。営業と言ったな、キミは何か対価として受け取ったのか?」
『ふむ……それこそ、つまらぬ話だよ。我はね、飽いているんだよ。わかり切った結末にね。空しい愉悦がもたらすものに、価値があると思うかね?』
 拳を交わす最中に、感じるのは、未来を見切った君主の失望であった。
 驚き以上の感情を、ハスミンはうまく捉えることはできないが、目の前の怪物の見ている世界が灰色であろうことは、拳を通じて感じることができた。
 どのような名作も、どのような美しい光景も、その赤い瞳には空しく見えている。
 光りなど見えてはいない。
 なぜならば、それは既に過去に見たものであるから。
 だからだろう。√能力者の介入により、彼のシナリオが壊れた事に、彼は笑みすらした。
 定められた灰色のイポスの世界に|罅《ヒビ》が奔り、血潮のような赤が噴き出たのだ。
 その予想外をこそ、彼は望んだのだ。
 後ろ向きな結果を見知りたいという望みは、方向性こそ違えど、その有様はハスミンと似ているような気がした。
「ならば、ワタシがこれから何をするか、その結末も見えているんだろう。
 目にも視よ」
『そうだ、君は此処で詰む──』
 【驚くべき戦闘技術を求めて】練り上げ、噴き出す災厄の一撃は、もはや一度使った攻撃だ。
 それゆえに、いくら攻防を重ね、巧みに備えようとも、致命打に繋がるそれが、イポスに届くことはなく、それよりも一手前に、既にイポスの前足、その鋭い漆黒の爪がハスミンの胸を貫いていた。
 どれだけ技術を積み重ねようと、この攻防の中に於いて、敢えて同じ技を放ったハスミンの拳は届かず、その肺は潰れ、肉は引き裂かれ、砕かれた胸骨に押しのけられるような形で抉り込まれた巨大な獣の前足が押し広げるままに、逆流する血液が喉奥から込み上げて吹き出る。
『空しい勝利だ』
「それは、早計、だ」
『その潰れた臓器で、拳は振れないよ』
「そうだな。しかし、ワタシはどうしようもなく、諦めが悪い」
 夏空のような青に染まっていたハスミンの中にいる青色が失せていくかのように、その髪色を本来の銀髪に戻していく。
 それは彼女の死を表しているかのようだったが、しかし、それこそが彼女の切り札の一つ。
 【銀に戻る色彩よ今再び灯れ】。
 ろうそくが消えたかのように、その戦意は完全に断たれた後、再び猛烈に燃え上がったかのように髪色を染め上げる。
「驚いたな。見事な技だった。もっと見せてもらおう……全ての技をワタシの糧とする為に」
『なんと……さすがに、君が死んだ後のことまでは、読んでいなかったな』
 自分自身を窮地に追い込むどころか、致命傷を受ける事すらも戦略に組み込んでいたハスミンの行動には、さしものイポスとて余地が間に合っていなかったらしい。
 完全に出来上がった隙を、どうにか間合いを取りなおそうとするイポスに対し、致命的に破壊された胸元を漆黒の厄災で埋めることで完全に蘇生したハスミンは、その隙を逃すことなく──、
「予測を外れる事が発生すると、生を実感して良いだろう?」
『ああ、これは……残念だ』
 拳の間合いから逃さぬとばかり、再び撃ち込まれる災厄の一撃。
 それは、確実にイポスを捉え、貫いた。
「過去が見えるのなら……ワタシに殴られた相手がどうなるかも見えたよな?」
 撃ち抜いた拳の軌跡を追い抜いていくかのように、星空へと飛び去っていく拳圧。
 それが、イポスであったものを押し流し、跡形もなく消し去っていく。
『残念だ。残念だ……よい運命であった……さらば、また会おう。悪魔の来る日に……』
 弾け飛ぶ衝撃波。
 それが風となり、閑散としてしまったアーケードを照らす広告版などをがたがたと揺らし、深夜も変わらず明滅するそれらをちかちかとさせる。
 胸を押さえ、傷みの残るあちらこちらに違和感がないかを確かめるところだが、そういえば、怪人になりかけた少年は無事だろうか。
 ハスミンのみならず、駆けつけた√能力者たちも、服部半蔵が消え失せた付近に横たわる少年の姿を見止め、その安否を心配する。
 幸いにも、彼自身に怪我は一つもないようで、改めてシデレウスカードという変身システムの頑健さに感心せざるを得ない。
 色々と、少年期に思う事はあれど、彼は所詮、巻き込まれただけの哀れな存在に過ぎず、大本を正せば、彼にカードを齎す存在が何倍も悪である。
 その一翼を担っていた悪魔を退ける事には成功したが……。
 果たして、このいたちごっこは、いつまで続くのだろうか。
 気疲れしたかのように嘆息する者もいたかもしれない。
 しかし、ハスミンはただ一人、拳を突き上げ、勝利の余韻と、戦いの感触に一抹の満足を得るのだった。
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​ 大成功

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